説明

基礎構造体の修復方法

【課題】 沈下、窪み、段差等を生じたり、その下方の地盤との間に空隙を生じたりした建物の床やスラブ等の基礎構造体を、その上に構築されている建築構造物や土木構造物を再構築や移動や移設等したりすることなく、短時間で所定の高さにまで上昇させて平らにしたり、補強したりすることができる、地球環境に優しい基礎構造体の修復方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の基礎構造体の修復方法は、沈下、窪み、段差等を生じた建物の床やスラブ等の基礎構造体の修復方法であって、所定の高さにまで上昇させたい修復必要箇所の下方の地盤の内部に、フロンガスを発生しない膨張性樹脂を注入し、これを膨張させて、修復必要箇所の基礎構造体を所定の高さにまで上昇させることを特徴とする。また、その下方の地盤との間に空隙を生じた建物の床やスラブ等の基礎構造体の修復方法であって、前記空隙にフロンガスを発生しない膨張性樹脂を注入し、これを膨張させて、前記空隙を充填して基礎構造体を補強することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈下、窪み、段差等を生じたり、その下方の地盤との間に空隙を生じたりした建物の床やスラブ等の基礎構造体を、その上に構築されている建築構造物や土木構造物を再構築や移動や移設等したりすることなく、短時間で所定の高さにまで上昇させて平らにしたり、補強したりすることができる、地球環境に優しい基礎構造体の修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の経済成長に伴い、工場、倉庫、店舗、住宅等の建築構造物や、道路、公園、橋、空港等の土木構造物が日本の至る所に構築されているが、近年、様々な原因に基づく地盤沈下により、これらの構造物の基礎構造体が影響を受けて生じる被害が問題になっている。例えば、軟弱な地盤帯からの工場用水としての地下水の大量の汲み上げ、地下トンネルの開発による大量の湧水、海域埋立地や大規模造成地における土壌の締め固め不足等により、広範囲な地盤沈下が多くの地域で発生している。構造物が構築されている一帯で地盤沈下が発生した場合、例えば、住宅等が傾いたり、段差により車両の走行に悪影響を与えたりするといった問題がある。その他、構造物や基礎構造体が地盤沈下により傾くと、構造物内に設置した機械動作に影響を与えたり、構造物内の棚が傾くことにより荷役作業に悪影響を与えたりするといった問題がある。また、基礎構造体が傾いたりしない場合であっても、基礎構造体と地盤との間に空隙を生じた場合には、無視できない振動を発生したりするといった問題がある。
このような問題に対処するためのこれまでに知られている方法としては、例えば、地盤沈下による構造物の傾きを修復するために、構造物を取り壊して再構築する方法や、沈下、窪み、段差等を生じた基礎構造体の表面に樹脂モルタル等を注入して表面処理する方法や、傾いた構造物の下方の地盤を掘り起こして構造物と地中の支持層との間に支持杭を圧入し、支持杭によって構造物をジャッキアップした後、基礎構造体と地盤との間に生じた空隙にコンクリートや樹脂モルタル等を注入してこれを埋める方法(例えば特許文献1を参照)等が挙げられる。
【特許文献1】特開平10−183661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば、構造物を取り壊して再構築する方法にあっては、大量の産業廃棄物が発生し、構造物の破壊・構築のために大量の機械、資材が必要となり、また、取り壊しから再構築するまでの長期間、構造物を使用できないという問題がある。沈下、窪み、段差等を基礎構造体の表面処理によって修復する方法にあっては、修復箇所に重量物を載荷したり衝撃等を与えたりすると、再び修復箇所が沈下したり、注入した樹脂モルタル等が剥がれたりするという問題がある。支持杭によって構造物をジャッキアップする方法にあっては、構造物の下方の地盤を支持層まで掘り起こさなければならず、作業が困難であり、手間とコストがかかるという問題がある。
そこで本発明は、沈下、窪み、段差等を生じたり、その下方の地盤との間に空隙を生じたりした建物の床やスラブ等の基礎構造体を、その上に構築されている建築構造物や土木構造物を再構築や移動や移設等したりすることなく、短時間で所定の高さにまで上昇させて平らにしたり、補強したりすることができる、地球環境に優しい基礎構造体の修復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の点に鑑みてなされた本発明の基礎構造体の修復方法は、請求項1に記載の通り、沈下、窪み、段差等を生じた建物の床やスラブ等の基礎構造体の修復方法であって、所定の高さにまで上昇させたい修復必要箇所の下方の地盤の内部に、フロンガスを発生しない膨張性樹脂を注入し、これを膨張させて、修復必要箇所の基礎構造体を所定の高さにまで上昇させることを特徴とする。
また、請求項2に記載の通り、その下方の地盤との間に空隙を生じた建物の床やスラブ等の基礎構造体の修復方法であって、前記空隙にフロンガスを発生しない膨張性樹脂を注入し、これを膨張させて、前記空隙を充填して基礎構造体を補強することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、沈下、窪み、段差等を生じたり、その下方の地盤との間に空隙を生じたりした建物の床やスラブ等の基礎構造体を、その上に構築されている建築構造物や土木構造物を再構築や移動や移設等したりすることなく、短時間で所定の高さにまで上昇させて平らにしたり、補強したりすることができる、地球環境に優しい基礎構造体の修復方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の基礎構造体の修復方法を、その代表的な方法を例にとり、図面を参酌しながら順を追って説明するが、本発明の基礎構造体の修復方法は、以下の説明によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0007】
最初に、図1に示すように、沈下、窪み、段差等を生じた基礎構造体1(以下「基礎構造体修復必要箇所」と称する)に、その範囲に合わせて必要であれば500mm〜3000mmの間隔で、フロンガスを発生しない膨張性樹脂(以下「ノンフロン系膨張性樹脂」と称する)を、その下方の地盤の内部に注入するための、直径10mm〜50mmの注入孔2を、ドリル3によって削孔する(図中、1’は基礎構造体正常箇所を意味する)。
【0008】
次に、図2と図3に示すように、図略のノンフロン系膨張性樹脂の貯留タンクと空気圧縮機とに連結されたガン4に備わるノズル5を注入孔2に挿入し、基礎構造体修復必要箇所1の下方の地盤6の内部に、ノンフロン系膨張性樹脂8を、基礎構造体修復必要箇所1と地盤6との間に存在する空隙7を介して注入する。この操作により、基礎構造体修復必要箇所1と地盤6との間に存在する空隙7は、ノンフロン系膨張性樹脂8で充填され、ノンフロン系膨張性樹脂8は、地盤6の内部にひび等を介して割裂注入される。その後、ノンフロン系膨張性樹脂8は、空隙7や地盤6の内部で膨張し、膨張に対する反力が、基礎構造体修復必要箇所1に加わる荷重よりも上回ることで、基礎構造体修復必要箇所1を所定の高さにまで上昇させるとともにこれを補強し、その修復を実現する(図4参照)。地盤6の内部で膨張したノンフロン系膨張性樹脂8は、膨張後の凝固によって地盤6と強固に結合して地盤6を圧密強化するので、その効果は長期に亘る。最後に、削孔した注入孔2を、例えば、無収縮性モルタルで閉塞し、全ての作業を短時間で完了させる。基礎構造体修復必要箇所1の修復の程度の確認は、例えば、図4に示すように、基礎構造体修復必要箇所1の上にレーザー発振部9を設置するとともに、基礎構造体正常箇所1’の上にレーザー受光部10を設置し、レーザーレベル器を用いて行えばよい。
【0009】
なお、上記に示す例においては、基礎構造体修復必要箇所1と地盤6との間に空隙7が存在しており、この空隙7にノンフロン系膨張性樹脂8を注入することで、段階的にこれを地盤6の内部に注入しているが、ノンフロン系膨張性樹脂の注入孔を地盤の内部にまで到達するように削孔し、ノンフロン系膨張性樹脂を地盤の内部に直接的に注入することができるに足る長さのノズルを備えるガンを用い、ノンフロン系膨張性樹脂を地盤の内部に直接的に注入するようにしてもよい。
【0010】
本発明の基礎構造体の修復方法は、膨張性樹脂としてノンフロン系膨張性樹脂を用いるので、地球温暖化を引き起こすことがないといった点において、地球環境に優しいものである。ノンフロン系膨張性樹脂としては、例えば、フロンガスを発生することなく反応して発泡性樹脂となる、ポリオールとイソシアネートからなる市販のものが挙げられる(具体的には日本パフテム株式会社のノンフロンポリオールFF5020−UCと同社のイソシアネートNP−90の組み合わせが例示される)。このようなノンフロン系膨張性樹脂を用いる場合、施工現場において、ポリオールとイソシアネートを1:0.8〜1.5の重量割合で20℃〜70℃にて要時混合し、用いることが好ましい。ノンフロン系膨張性樹脂は、ポリオールとイソシアネートからなるものの他、水とイソシアネートとの反応で炭酸ガス発泡するもの、液化炭酸ガスを利用して発泡させるもの、発泡特性を有する炭化水素系のものであってもよい。また、膨張した後に地盤よりも熱伝導率が低い特性を有するノンフロン系膨張性樹脂を用いることで、地盤の熱伝導率を低下せしめて断熱効果を獲得することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明は、沈下、窪み、段差等を生じたり、その下方の地盤との間に空隙を生じたりした建物の床やスラブ等の基礎構造体を、その上に構築されている建築構造物や土木構造物を再構築や移動や移設等したりすることなく、短時間で所定の高さにまで上昇させて平らにしたり、補強したりすることができる、地球環境に優しい基礎構造体の修復方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の基礎構造体の修復方法における一例の第1工程の概略を説明する図である。
【図2】同、第2工程の概略を説明する図である。
【図3】同、第2工程においてノンフロン系膨張性樹脂を注入している図である。
【図4】同、ノンフロン系膨張性樹脂の作用と、修復の程度の確認を行うための方法の一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0013】
1 沈下、窪み、段差等を生じた基礎構造体(基礎構造体修復必要箇所)
1’ 基礎構造体正常箇所
2 注入孔
3 ドリル
4 ガン
5 ノズル
6 地盤
7 空隙
8 フロンガスを発生しない膨張性樹脂(ノンフロン系膨張性樹脂)
9 レーザー発振部
10 レーザー受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈下、窪み、段差等を生じた建物の床やスラブ等の基礎構造体の修復方法であって、所定の高さにまで上昇させたい修復必要箇所の下方の地盤の内部に、フロンガスを発生しない膨張性樹脂を注入し、これを膨張させて、修復必要箇所の基礎構造体を所定の高さにまで上昇させることを特徴とする方法。
【請求項2】
その下方の地盤との間に空隙を生じた建物の床やスラブ等の基礎構造体の修復方法であって、前記空隙にフロンガスを発生しない膨張性樹脂を注入し、これを膨張させて、前記空隙を充填して基礎構造体を補強することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−144269(P2006−144269A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332232(P2004−332232)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(503315517)
【出願人】(504424454)アップコン株式会社 (4)
【出願人】(592158866)日本パフテム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】