説明

堆肥製造装置及び堆肥製造方法

【課題】高水分堆肥原料に対して、堆肥原料内部に形成される通気経路の固定化を防ぎ、通気ムラ・発酵ムラを解消すると共に、発酵槽底部からの通気に対して空気孔の目詰まりを解消する。
【解決手段】堆肥製造装置1は、発酵槽10、発酵槽10の底部に多数形成される空気吐出口11、空気突出口11に空気を供給する空気供給路12、一時的に高圧空気を空気供給路12に供給する高圧空気送出手段20を備え、空気供給路12,高圧空気送出手段20,計時手段30によって堆肥原料膨軟化手段が構成される。高圧空気送出手段20を供給経路切換手段21と圧縮空気供給手段22によって形成し、計時手段30の作動によって供給経路切換手段21を切り換えて、空気供給路12へ供給される空気が送風機40からの低圧空気から圧縮空気供給手段22からの圧縮空気に切り換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆肥原料を堆積する発酵槽を備え、該発酵槽内に堆積された堆肥原料を通気しながら堆肥化する堆肥製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜ふん尿、食物残渣、汚泥等の有機性廃棄物の処理は、堆肥化して再利用することが環境保全と公衆衛生の両面で適切な処理であり、これらの有機性廃棄物を原料として堆肥化する堆肥製造装置或いは製造方法が各種提案されている。有機性廃棄物から良質な堆肥を生産するには、好気発酵の維持・促進が肝要であり、堆肥製造装置としては、堆肥原料を堆積する発酵槽内で堆肥原料内部の通気性を確保するために送風機を装備するものが多い。
【0003】
しかしながら、堆肥原料となる有機性廃棄物の中には家畜ふん尿のように高水分のものがあり、これをそのまま発酵槽内に堆積させると空隙率が低く低圧の送風機では通気性を十分に確保することができない。したがって、高水分の堆肥原料に対しては、オガコ等の空隙率が高く水分を吸収し易い副資材の混合や、固液分離機での搾汁・水分低減処理或いはビニルハウス等での予備乾燥といった前処理が必要になるが、手間と時間を要する前処理は実用的ではなく、副資材の利用が一般に普及している。
【0004】
また、高水分の堆肥原料を対象とする堆肥製造装置としては、前述した副資材の混合とともに、発酵槽内にロータリ,スクープ,オーガ等の機械的攪拌装置を装備したものが知られている。しかしながら、このような機械的攪拌装置を装備した堆肥製造装置は、導入コストが高く、複雑な機械構造を有することで保守管理に経費を要し、また、既設の施設への追加施工が困難であるという問題がある。
【0005】
これに対して、既設の発酵槽の上部に追加的な切り返し搬送装置を装備させるものが提案されている。下記特許文献1に記載されたものはその一例であって、発酵槽内に堆積された堆肥原料に対して、発酵槽の底部に吹き出し口を有する通気管を配置し、この吹き出し口から圧縮して温度を上昇させた空気を吹き出させることで堆肥原料に対する通気を行い、発酵槽の上部に切り返し搬送装置を配備して、この切り返し装置を発酵槽に沿って走行させ、加温された空気を切り換えされた堆肥原料内に通気させるものである。
【0006】
【特許文献1】特開平7−133177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来技術のように発酵槽の上部に追加的に切り返し搬送装置を装備させる堆肥製造装置では、発酵槽の底部からの送気又は吸引による通気が前提になっており、家畜ふん尿等の高水分堆肥原料を対象にする場合には、十分な通気を確保するためにオガコ等の副資材を大量に投入する必要がある。しかしながら、各種の堆肥製造装置の普及によって副資材の需要が高まり価格が上昇しており、堆肥製造コストを低減させるためには、副資材の混合量を削減しても好気発酵が持続・促進される技術の開発が求められている。
【0008】
特に、発酵槽上部に装備される切り返し搬送装置は導入コストの低減や保守管理の軽減を考えるとできるだけ簡素な装置が望ましいが、そうした場合には頻繁な切り返し搬送ができなくなるので、通気性を確保するために副資材の大量混合が不可欠になり、資材購入コストの高騰が大きな問題になる。また、副資材の大量混合によって処理量が増大するので、それに応じて発酵槽を含む処理施設の容積を大きくする必要があり、施設の建設コストが高くなる問題も生じる。
【0009】
また、発酵槽底部からの送風又は吸引による通気を行うもので、高水分の堆肥原料に対して切り返し搬送の頻度を減らした場合には、堆肥原料内部に形成される通気経路が固定されてしまい、通気ムラ・発酵ムラが生じ易くなる問題が生じる。更には、発酵槽の底部から通気を行う場合には、送風又は吸引のための空気孔が堆肥原料によって目詰まりし易く、良好な通気が確保できない問題がある。特に、高水分の堆肥原料を扱う場合にはこの問題が顕著であり、空気孔を塞ぐ堆肥原料を頻繁に取り除く必要がある。この空気孔の目詰まりを解消するためには、コンプレッサ等による高圧空気を空気孔から噴出させることが考えられているが、単に目詰まりを解消しただけでは前述した通気ムラ・発酵ムラを解消することはできない。
【0010】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、頻繁な攪拌や切り返し搬送を行わない装備であっても、副資材の混合量を最小限に抑えた高水分の堆肥原料に対して良好な通気を確保でき、好気発酵の維持・促進を可能にすること、特に、高水分堆肥原料に対して、堆肥原料内部に形成される通気経路の固定化を防ぎ、通気ムラ・発酵ムラを解消すると共に、発酵槽底部からの通気に対して空気孔の目詰まりを解消すること、そして、設備投資の初期コストと堆肥製造のランニングコストの低減を図り、且つ好気発酵の均一化による良質な堆肥製造を可能にすること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明は以下の特徴を具備するものである。
【0012】
一つには、堆肥原料を堆積する発酵槽を備え、該発酵槽内に堆積された堆肥原料を通気しながら堆肥化する堆肥製造装置であって、前記発酵槽内の底部に多数の空気吐出口を形成し、該空気突出口から一時的に高圧空気を噴出させて、堆積した前記堆肥原料を浮上させた後沈下させることで前記堆肥原料を膨軟化させる堆肥原料膨軟化手段を備えることを特徴とする。
【0013】
また一つには、前述した特徴に併せて、前記堆肥原料膨軟化手段は、前記空気吐出口に高圧空気を供給する空気供給路と、一時的に高圧空気を前記空気供給路に送出する高圧空気送出手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
また一つには、前述した特徴に併せて、前記高圧空気送出手段は、前記空気供給路に送風機を接続する供給経路を別の供給経路に一時的に切り換える供給経路切換手段と、前記別の供給経路に接続される圧縮空気供給手段とからなることを特徴とする。
【0015】
また一つには、前述した特徴に併せて、前記供給経路切換手段は、前記送風機の送風圧の上昇を検出して前記別の供給経路への切り換えを行うことを特徴とする。
【0016】
また一つには、前述した特徴に併せて、前記供給経路切換手段は、前記発酵槽内における堆肥原料温度の低下を検出して前記別の供給経路への切り換えを行うことを特徴とする。
【0017】
また一つには、前述した特徴に併せて、前記空気吐出口は前記発酵槽の底部に配置された空気供給配管に形成され、前記空気供給配管を管軸周りに回動又は管軸方向に摺動することで前記空気吐出口の位置変更を行う空気吐出位置変更手段を設けたことを特徴とする。
【0018】
また、堆肥原料を堆積する発酵槽を備え、該発酵槽内に堆積された堆肥原料を通気しながら堆肥化する堆肥製造方法であって、前記発酵槽内に堆積された堆肥原料を攪拌することなく通気する常時通気工程と、前記発酵槽内の底部に形成された多数の空気吐出口から一時的に高圧空気を噴出させて、堆積した前記堆肥原料を浮上させた後沈下させることで前記堆肥原料を膨軟化させる堆肥原料膨軟化工程とを有することを特徴とする。
【0019】
更に、前述した特徴に併せて、前記常時通気工程は、前記空気吐出口に送風機からの低圧空気を供給することによって行われ、前記堆肥原料膨軟化工程は、前記送風機からの低圧空気を圧縮空気供給手段からの高圧空気に切り換えることによって行われることを特徴とする。
【0020】
このような特徴を有する本発明は、以下の作用を有する。
【0021】
発酵槽の底部に形成された多数の空気吐出口から一時的に高圧空気を噴出させる堆肥原料膨軟化手段によると、堆肥原料の堆積重量に応じて設定された圧力で高圧空気を一時的に噴出させることで、発酵槽内に堆積された堆肥原料を浮上させた後沈下させ、堆肥原料内部に形成された固定化された通気経路を壊すと共に通気経路が形成されていない固化した部分に多様な通気経路を形成して、堆積された堆肥原料全体を膨軟化する。
【0022】
この膨軟化後には、発酵槽内の高水分堆肥原料に多様な通気経路が形成されて、通気ムラが解消されることになり、副資材を大量に混合していない高水分の堆肥原料に対して、頻繁な攪拌や切り返し搬送を行うことなく、好気発酵の均一化を図ることができる。
【0023】
また、この堆肥原料膨軟化手段は、発酵槽底部に形成された空気吐出口に高圧空気を供給する空気供給路と、一時的に高圧空気をこの空気供給経路に送出する高圧空気送出手段とを備えるもので、発酵槽を有する既設の施設に対して簡易に配備することが可能である。
【0024】
更には、前述した高圧空気送出手段を、前述の空気供給路に送風機を接続する供給経路を別の供給経路に一時的に切り換える供給経路切換手段と、この別の供給経路に接続される圧縮空気供給手段とによって構成することで、高圧空気を噴出させる空気吐出口を送風機による通気口と共用することができ、送風機からの供給経路を圧縮空気供給手段からの高圧空気供給経路に切り換えることで、一時的な高圧空気の供給を行うことができる。これによると、通気用の空気吐出口を発酵槽の底部に形成した既存の施設に対して、簡易に堆肥原料膨軟化手段を装備することが可能になると共に、通気のための空気吐出口から高圧空気を一時的に噴出することで、空気吐出口の目詰まりを防止することができる。
【0025】
また、前述の供給経路切換手段は、発酵槽内の堆肥原料内部における通気経路の固定化状態を検出し、固定化による兆候がみられたところで一時的な高圧空気を空気吐出口から噴出させることで、効果的な堆肥原料の膨軟化が可能になる。
【0026】
堆肥原料内部における通気経路の固定化状態を検出するには、一例として、常時通気を行う送風機における送風圧の上昇を検出することが有効である。堆肥原料の内部全体に通気が行き渡っている状態では適度な通気抵抗が得られ、所定の送風圧で送風機が稼働するが、堆肥原料内部で通気経路が固定されてしまうと通気抵抗が大きくなって送風圧が上昇するので、これを検出して通気経路固定化の兆候を把握することができる。
【0027】
また、堆肥原料内部における通気経路の固定化状態を検出するには、発酵槽内における堆肥原料温度の低下を検出することも有効である。堆肥原料の内部全体に通気が行き渡っている状態では好気発酵の適正な進行によって堆肥原料の温度が上昇する。しかしながら、堆肥原料内部において通気経路が固定されてしまうと固化した堆肥原料の発酵が促進されないので堆肥原料の温度が低下することになる。この温度低下を検出して通気経路固定化の兆候を把握することができる。
【0028】
更には、空気吐出口を発酵槽の底部に配置された空気供給配管に形成し、この空気供給配管を管軸周りに回動又は管軸方向に摺動させることで空気吐出口の位置変更を行う空気吐出位置変更手段を設けることで、空気吐出口の位置変更を適宜行いながら高圧空気を噴出させて、固化した堆肥原料の部位を効果的に膨軟化させることができる。
【0029】
本発明の堆肥製造方法としては、発酵槽内に堆積された堆肥原料を攪拌することなく通気する常時通気工程と、発酵槽内の底部に形成された多数の空気吐出口から一時的に高圧空気を噴出させて、堆積した堆肥原料を浮上させた後沈下させることで堆肥原料を膨軟化させる堆肥原料膨軟化工程とを有するので、高水分の堆肥原料に対して副資材の混合を少なくした場合にも、堆肥原料の膨軟化を繰り返しながら堆肥原料内部に効率的な通気を行うことができ、頻繁な攪拌等を行うこと無しに、堆肥原料全体に好気発酵を促すことができる。
【0030】
また、常時通気工程を、発酵槽底部の空気吐出口に送風機からの低圧空気を供給することによって行い、堆肥原料膨軟化工程を、送風機からの低圧空気を圧縮空気供給手段からの高圧空気に切り換えることによって行うことで、既存の施設を用いた方法に対して、簡易に堆肥原料膨軟化工程を追加することができると共に、通気時の空気吐出口の目詰まりを高圧空気で開通するので、通気の効率を高めることもできる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明した本発明の特徴によると、頻繁な攪拌や切り返し搬送を行わない装備であっても、副資材の混合量を最小限に抑えた高水分の堆肥原料に対して良好な通気を確保でき、好気発酵の維持・促進を可能にすることができる。また、高水分堆肥原料に対して、堆肥原料内部に形成される通気経路の固定化を防ぎ、通気ムラ・発酵ムラを解消すると共に、発酵槽底部からの通気に対して空気孔の目詰まりを解消することができる。そして、設備投資の初期コストと堆肥製造のランニングコストの低減を図り、且つ好気発酵の均一化による良質な堆肥製造を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面の記載に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る堆肥製造装置を平面的に示した説明図である。堆肥製造装置1は、発酵槽10、発酵槽10の底部に多数形成される空気吐出口11、空気突出口11に空気を供給する空気供給路12、一時的に高圧空気を空気供給路12に供給する高圧空気送出手段20を備える。発酵槽10は堆肥原料となる有機廃棄物等が堆積される上部開口の容器状設備であり、この発酵槽10の底部に複数の空気供給配管12Aを並列配置して、その空気供給配管12Aに開口孔を形成することで空気吐出口11を形成している。空気供給配管12Aは発酵槽10内の底部に配置しても、発酵槽10の底面下に内蔵してもよい。また、空気吐出口11を発酵槽10の底面に直接形成して、発酵槽10の構成部材に内蔵して空気供給路12を形成したものでもよい。
【0033】
そして、空気供給路12,高圧空気送出手段20,計時手段30によって堆肥原料膨軟化手段が構成される。この実施形態では、高圧空気送出手段20を供給経路切換手段21と圧縮空気供給手段22によって形成し、計時手段30の作動によって供給経路切換手段21を切り換えて、空気供給路12へ供給される空気が送風機40からの低圧空気から圧縮空気供給手段22からの圧縮空気に一時的に切り換えられる構成にしている。他の形態としては、低圧空気の供給経路と空気吐出口11を別に設けて、空気吐出口11からは高圧空気のみが吐出されるようにして、計時手段30の作動によって一時的に圧縮空気供給手段22からの高圧空気が空気供給路12に供給されるようにすることもできる。
【0034】
前述した供給経路切換手段21は、一例として、三方弁21A及び弁制御部21Bによって構成することができ、圧縮空気供給手段22は、一例として、高圧タンク22A及び圧縮機22Bによって構成することができる。
【0035】
図2は、本発明における堆肥原料膨軟化手段の作用を説明する説明図である。ここでは、発酵槽10の上部にクレーン式の自動堆肥切り返し装置100を配備したものを図示しているが、本発明は特にこれに限定されるものではない。本発明の実施形態としては、攪拌装置を装備しておらず発酵槽10の上部に追加的に切り返し搬送装置を配備するもの、或いは、車両式ローダで堆肥原料を移動しながら切り返しを行う堆積式のもの、等が対象となり、特に、頻繁に切り返し搬送を行わない、簡易な切り返し搬送装置を装備したものに適する。
【0036】
同図(a)に示すように、送風機40を空気供給路12に連通して、発酵槽10内に堆積された堆肥原料Mに対して、発酵槽10の底部に形成された空気吐出口11から低圧空気を吐出して通気を継続した場合、副資材を大量に混合しない高水分の堆肥原料Mでは、図示のような固定された通気経路aが堆肥原料M内部に形成されてしまう。また、堆肥原料Mの内部で通気経路aが形成されていない固化した部分では、十分な通気が行われない状態になる。
【0037】
そこで、低圧空気による通気を行い始めてから所定時間が経過した後に、計時手段30からの計時信号によって供給経路切換手段21の弁制御部21Bを作動させて三方弁21Aを切り換え、空気供給路12に圧縮空気供給手段22からの高圧空気を供給し、一時的に発酵槽10の底部に形成された空気吐出口11から高圧空気を噴出させる。高圧空気が一時的に噴出されると、その圧力によって図示のように堆積された堆肥原料Mが一旦浮上しその後沈下することになるので、その際の堆肥原料Mの上下動及び落下衝撃によって、固定化した通気経路aが壊れ、堆肥原料M内部の固化した部分が崩れて、そこに多様な通気経路が形成されることになる。
【0038】
このような堆肥原料Mの膨軟化処理を施した後には、同図(b)に示すように、再度供給経路切換手段21の切り換えを行って、送風機40を空気供給路12に連通させ、空気吐出口11から低圧空気を吐出させる。膨軟化処理後には、図示のように多様な通気経路bが形成されるので、通気抵抗が減少し、堆肥原料Mの内部に効果的な通気を行うことが可能になる。膨軟化処理を行う頻度、高圧空気の設定圧力及び処理時間は、発酵槽10内に堆積された堆肥原料Mの堆積量及び堆肥原料の含水量に応じて適宜設定される。
【0039】
また、この実施形態では、通気用の空気吐出口11と高圧空気噴出用の空気吐出口11を共用しているので、通気時に高水分の堆肥原料Mによって空気吐出口11の目詰まりが生じた場合にも、高圧空気の噴出で空気吐出口11を開通させることができ、目詰まりによる通気効率劣化を防止することができる。
【0040】
なお、図示の自動堆肥切り返し装置100について説明すると、発酵槽10の上部に装備されたレール部101に沿って移動可能な機体102が装備されており、機体102には上下昇降及び把持動作が可能な一対の櫛状グラブ103A(103B)が装備され、制御部104の作動によって図示の状態から下降して発酵槽10内に堆積された堆肥原料を把持して発酵槽10内の異なる位置又は他の発酵槽に搬送しながら切り返しを行うものである。
【0041】
図3〜図5は、本発明の他の実施形態を説明する説明図である。前述の実施形態と同一の箇所は同一符号を付して重複説明を一部省略する。
【0042】
図3に示した実施形態は、供給経路切換手段21が、送風機40の送風圧の上昇を検出して供給経路の切り換えを行うものである。すなわち、送風機40の内部又は空気供給路12の内部に圧力検出手段50を装備させ、この圧力検出手段50の検出圧力を切り換え制御手段51に出力する。そして、切り換え制御手段51では、例えば検出値を設定値と比較するなどして圧力上昇の状況を判定し、堆肥原料M内部での通気経路固定化の予兆が検知された場合に、弁制御部21Bを作動させて供給経路の切り換えを行い、高圧空気による膨軟化処理を行う。
【0043】
図4に示した実施形態は、供給経路切換手段12が、発酵槽10内における堆肥原料温度の低下を検出して供給経路の切り換えを行うものである。すなわち、発酵槽10の内部に温度検出手段60を装備させ、この温度検出手段60の検出温度を切り換え制御手段61に出力する。そして、切り換え制御手段61では、例えば検出値を設定値と比較するなどして温度低下の状況を判定し、堆肥原料M内部での通気経路固定化の予兆が検知された場合に、弁制御部21Bを作動させて供給経路の切り換えを行い、高圧空気による膨軟化処理を行う。
【0044】
このような実施形態によると、膨軟化処理の必要な状況を検知して処理を実行するので、効率的な膨軟化処理が可能になると共に、送風機40の送風圧又は発酵槽10内の堆肥原料温度によって良好な通気状態を常時把握することができるので、良好な通気状態を継続させて好気発酵の促進・維持を図ることができる。
【0045】
図5に示した実施形態は、空気吐出口11を発酵槽10の底部に配置された空気供給配管12Aに形成し、空気供給配管12Aを管軸周りに回動又は管軸方向に摺動させることで空気吐出口11の位置変更を行う空気吐出位置変更手段70を設けたものである。この実施形態では、空気供給配管12Aを軸回動可能及び軸方向に摺動可能に支持し、この支持部分に空気供給配管12Aを回動(70a),摺動(70b)させる駆動手段を備えた空気吐出位置変更手段70を配備している。
【0046】
これによると、膨軟化処理の工程を複数回行う場合に、その都度高圧空気が噴出される空気吐出位置を変更することができるので、より効果的に堆肥原料Mの膨軟化を行うことができ、堆肥原料M全体を均一に通気することが可能になる。
【0047】
図6は、前述した本発明の各実施形態に係る堆肥製造装置を用いた堆肥製造方法を説明する説明図(工程フロー)である。この堆肥製造方法によると、発酵槽10内に堆肥原料Mを搬入した(S1)後、発酵槽10内に堆積された堆肥原料Mを攪拌することなく通気する常時通気工程(Sa)の間に、発酵槽10内の底部に形成された多数の空気吐出口11から一時的に高圧空気を噴出させて、堆積した堆肥原料Mを浮上させた後沈下させることで堆肥原料Mを膨軟化させる堆肥原料膨軟化工程(Sb)が挿入されることになり、その後必要に応じて、自動堆肥切り返し装置100等を作動させる切り返し搬送工程(Sn)が行われ、好気発酵の維持によって良質な堆肥製造がなされた(Se;堆肥化完了)ことを確認して、製造物の搬出が行われることになる。
【0048】
前述したように、常時通気工程(Sa)は、空気供給口11に送風機40からの低圧空気を供給することによって行い、堆肥原料膨軟化工程(Sb)は、送風機40からの低圧空気を圧縮空気供給手段22からの高圧空気に切り換えることによって行うことができる。また、高圧空気の供給経路を送風機40の通気経路とは別に設けた場合には、常時通気工程(Sa)を継続しながら、所望の期間毎に堆肥原料膨軟化工程Sbを実行することもできる。
【0049】
堆肥原料膨軟化工程(Sb)は、前述したように、堆肥原料M内部の通気経路固定化の状況を把握しながら、1日に1,2回或いは数日に1回の割合で行うことが好ましく、これによって堆肥原料M内で良好且つ均一な通気が確保できる場合には、切り返し搬送工程(Sn)の頻度を減らすことが可能になる。
【0050】
また、堆肥原料膨軟化工程(Sb)は、製造開始初期の比較的水分が高く通気が困難な堆肥原料に対してのみ行い、堆肥化の進行によって発酵槽を移行するものでは、発酵初期段階(開始1〜2週間目程度)の発酵槽にのみ堆肥原料膨軟化手段を装備するようにしてもよい。これによると、導入コストを抑えることができ投資効率の高いシステムを構築することができる。
【0051】
なお、以上の説明では、頻繁な攪拌を行わない発酵槽を対象にして説明したが、本発明の実施形態に係る堆肥原料膨軟化手段は、攪拌装置を装備した発酵槽に併設することもできる。これによると、高水分状態で攪拌装置が円滑に作動できない初期段階に堆肥原料膨軟化工程(Sb)を導入することで、副資材の混合量の削減が可能になり、その後の攪拌による処理への移行を早める効果が得られる。
【0052】
以上説明したように、本発明の実施形態によると、副資材の混合量を最小限に抑えた高水分の堆肥原料に対して良好な通気を確保でき、好気発酵の維持・促進を可能にすることができる。特に、高水分堆肥原料に対して、堆肥原料内部に形成される通気経路の固定化を防ぎ、通気ムラ・発酵ムラを解消すると共に、発酵槽底部からの通気に対して空気孔の目詰まりを解消することができる。そして、これによって、設備投資の初期コストと堆肥製造のランニングコストの低減を図り、好気発酵の均一化による良質な堆肥製造を実現することができる。
【実施例】
【0053】
図1に示した実施形態に係る堆肥製造装置により、含水率72%の牛ふんを堆肥原料として、見かけ密度939kg/m3,堆積高さ1.6mの状態で堆肥製造を行った実施例を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
上記の表は、膨軟化処理の前後での送風機による通気量及び通気抵抗の変化を示したものである。膨軟化処理の直前では堆肥原料内部の通気抵抗が大きく、ほとんど通気できない状態であったが、膨軟化処理の直後には、通気抵抗が減少して、適正な通気量での通気が可能になった。また、通気2日目には堆肥原料内部の温度が30〜70℃に上昇し、好気発酵の促進が確認できた。この実施例からも明らかなように、本発明の実施形態に係る堆肥製造装置及び堆肥製造方法は、高水分の堆肥原料に対して、通気性改善の効果が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る堆肥製造装置を平面的に示した説明図である。
【図2】図2は、本発明における堆肥原料膨軟化手段の作用を説明する説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る堆肥製造装置を示す説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る堆肥製造装置を示す説明図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る堆肥製造装置を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る堆肥製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 堆肥製造装置
10 発酵槽
11 空気吐出口
12 空気供給路
12A 空気供給配管
20 高圧空気送出手段
21 供給経路切換手段
21A 三方弁
21B 弁制御部
22 圧縮空気供給手段
22A 高圧タンク
22B 圧縮機
30 計時手段
40 送風機
50 圧力検出手段
60 温度検出手段
51,61 切り換え制御手段
70 空気吐出位置変更手段
100 自動堆肥切り返し装置
M 堆肥原料
a,b 通気経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆肥原料を堆積する発酵槽を備え、該発酵槽内に堆積された堆肥原料を通気しながら堆肥化する堆肥製造装置であって、
前記発酵槽内の底部に多数の空気吐出口を形成し、該空気突出口から一時的に高圧空気を噴出させて、堆積した前記堆肥原料を浮上させた後沈下させることで前記堆肥原料を膨軟化させる堆肥原料膨軟化手段を備えることを特徴とする堆肥製造装置。
【請求項2】
前記堆肥原料膨軟化手段は、前記空気吐出口に高圧空気を供給する空気供給路と、一時的に高圧空気を前記空気供給路に送出する高圧空気送出手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載された堆肥製造装置。
【請求項3】
前記高圧空気送出手段は、前記空気供給路に送風機を接続する供給経路を別の供給経路に一時的に切り換える供給経路切換手段と、前記別の供給経路に接続される圧縮空気供給手段とからなることを特徴とする請求項2に記載された堆肥製造装置。
【請求項4】
前記供給経路切換手段は、前記送風機の送風圧の上昇を検出して前記別の供給経路への切り換えを行うことを特徴とする請求項3に記載された堆肥製造装置。
【請求項5】
前記供給経路切換手段は、前記発酵槽内における堆肥原料温度の低下を検出して前記別の供給経路への切り換えを行うことを特徴とする請求項3に記載された堆肥製造装置。
【請求項6】
前記空気吐出口は前記発酵槽の底部に配置された空気供給配管に形成され、前記空気供給配管を管軸周りに回動又は管軸方向に摺動することで前記空気吐出口の位置変更を行う空気吐出位置変更手段を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載された堆肥製造装置。
【請求項7】
堆肥原料を堆積する発酵槽を備え、該発酵槽内に堆積された堆肥原料を通気しながら堆肥化する堆肥製造方法であって、
前記発酵槽内に堆積された堆肥原料を攪拌することなく通気する常時通気工程と、
前記発酵槽内の底部に形成された多数の空気吐出口から一時的に高圧空気を噴出させて、堆積した前記堆肥原料を浮上させた後沈下させることで前記堆肥原料を膨軟化させる堆肥原料膨軟化工程とを有することを特徴とする堆肥製造方法。
【請求項8】
前記常時通気工程は、前記空気吐出口に送風機からの低圧空気を供給することによって行われ、
前記堆肥原料膨軟化工程は、前記送風機からの低圧空気を圧縮空気供給手段からの高圧空気に切り換えることによって行われることを特徴とする請求項7に記載された堆肥製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−176756(P2007−176756A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378135(P2005−378135)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月17日 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所 畜産環境部発行の「平成17年度家畜ふん尿処理利用研究会資料」に発表
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(503255936)有限会社 岡本製作所 (2)
【Fターム(参考)】