説明

塗り床材組成物、塗り床材組成物を利用した塗り床材、及び塗り床材の施工方法

【課題】施工現場で作業者が混合等の塗り床材組成物の調製作業をする必要がなく、かつ濡れた下地に対してそのまま塗工することの可能なハンドリング性に優れたプレミックスタイプの塗り床材組成物の提供を課題とする。
【解決手段】塗り床材組成物1は、珪砂4と、珪砂4と混合され、有機ポリマー5、ポリビニルアルコール成分6、及び水を含む一液乾燥硬化型の水性エマルジョン7とを具備し、珪砂4及び水性エマルジョン7は、所定の混合比率で予め混練りされ、粘度を調製した混合物の状態で供給される。さらに、珪砂4は0.3mm以上、1.2mm以下の粒径のものが使用され、水性エマルジョン7のポリビニルアルコール成分6は鹸化度が95%以上のものが使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗り床材組成物、塗り床材組成物を利用した塗り床材(以下、単に、「塗り床材」と称す)、及び塗り床材の施工方法(以下、単に「施工方法」と称す)に関するものであり、特に、珪砂を含有し、かつ有機溶剤を使用しない水性の塗り床材組成物、塗り床材、及び施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種製品の製造工場、大学・研究所等の研究施設、及び病院等の医療機関など、あらゆる場所において、コンクリート等の下地面の上に塗り床材による舗装面を形成することが行われている。この塗り床材によって、下地面を保護するとともに、塗り床材に含まれる細粒状の骨材によって防滑性(防スリップ性)を付与することができる。これにより、工場等での作業時に床面にこぼれた水や油等で作業員が滑って転倒する危険性を抑制することができる。なお、塗り床材は、上記の防滑性及び耐久性とともに、水、油、及び各種薬品等に対する耐水性、耐油性、及び耐薬品性等の機能を発揮することもできる。ここで、塗り床材は、一般にウレタン樹脂やエポキシ樹脂等の合成樹脂を含んだ素材が用いられ、有機溶剤を含む主剤及び硬化剤の二液からなる塗り床材組成物を使用し、主剤及び硬化剤の硬化反応によって強固な塗り床材を形成している。
【0003】
一方、本願出願人は、ポリプロピレン等の有機ポリマーと、ポリビニルアルコールなどの分散剤と、水とを混合することで形成される高分子系の水性エマルジョンを開発している。これにより、有機溶剤を全く使用することがなく、製造時や塗工時の安全性を確保した組成物の開発を行っている。さらに、水性エマルジョンは、基材に対する高い接着性能を有し、塗装における下地調製材としての使用(特許文献1参照)、或いはポリビニルアルコール使用の耐水性を改良したものを開発している(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した塗り床材組成物、及びこれによって形成される塗り床材は、下記に掲げるような問題点を生ずることがあった。すなわち、二液硬化型の塗り床材組成物の場合、主剤及び硬化剤はトルエンやキシレン等の有機溶剤を利用して所定の粘度に調製したものが多く利用されていた。そのため、火気の取扱に十分に留意する必要があった。加えて、トルエン等の有機溶剤は、人体及び環境に対して有害な物質であるため、作業時の作業者の健康や周囲への影響を考慮する必要があり、十分な換気対策が必要であった。そのため、室内等の特定の場所での塗り床材の形成が制限されることがあった。
【0005】
さらに、二液硬化型の場合、硬化反応は主剤及び硬化剤を混合した直後から進行するため、塗り床材の施工現場で行う必要があった。また、施工可能な時間(可使時間)が限られることもあった。具体的に説明すると、主剤及び硬化剤を利用することから、それぞれを個別に管理し、かつ施工現場でそれぞれの配合量を計測し、混合作業を行う必要があった。また、主剤に対する硬化剤の添加量は、厳密に行う必要があり、施工現場で正確な計量が行えないことがあった。そのため、添加量を誤ることにより、可使時間が短くなったり、或いは十分な硬化反応が進行せず、硬化完了までに時間がかかる不具合を生じることもあった。
【0006】
加えて、正確な計量を行うための計量器具(はかり等)、主剤及び硬化剤を混合するための混合用容器(いわゆる「トロ舟」等)、及び撹拌、混合に使用するためのクワや撹拌棒、若しくは撹拌機(ミキサー)等の各種器具及び設備を施工現場まで持ち込む必要があり、作業者に負担となることがあった。上記のように、施工現場での撹拌混合作業、塗工作業、乾燥作業、及び撹拌設備等の洗浄作業など複数の工程が必要となり、作業者にとって負担となることがあった。
【0007】
また、使用する硬化剤の中には、ジイソシアネート基等を含むものがあり、これらの硬化剤の場合には、湿気(水分)によって硬化反応が進行するものもある。そのため、施工対象面となるコンクリート等の下地面が十分に乾燥していない状態で主剤及び硬化剤の混合物を塗工した場合、下地面に残存する水分によって白化現象を生じることがあった。そのため、下地面が十分に乾燥するまでの時間が必要となった。さらに、二液硬化型の熱硬化型樹脂の場合、広い面積に薄く塗工すると、水性よりもかえって乾燥時間が必要になることもあった。
【0008】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、施工現場で作業者が混合等の塗り床材組成物の調製作業をする必要がなく、かつ濡れた下地に対してそのまま塗工することの可能なハンドリング性に優れたプレミックスタイプの塗り床材組成物、塗り床材、及び施工方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の舗装材組成物は、「珪砂と、前記珪砂と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンとを具備し、前記珪砂及び前記水性エマルジョンは、所定の混合比率で予め混練りされ、粘度を調製した混合物の状態で供給される」ものから主に構成されている。
【0010】
ここで、珪砂とは、花崗岩や珪岩が自然変化によって細粒状に変化したものであり、建材の一部として使用される無機系物質であり、ここでは骨材として使用されるものである。さらに、水性エマルジョンとは、従来の二液硬化型のように、有機溶剤を用いるものではなく、主剤を分散剤を利用して水中に分散させ、乳化状としたものであり、例えば、アクリル酸エステル等の周知の素材を利用することが可能である。ここで、水性エマルジョンは、大気中に放置することにより、含有する水分が徐々に蒸散し、乾燥によって粘着性を有することになり、接着機能を奏する性質を有している。そして、最終的に乾燥が完了すると固化(硬化)し、混合された骨材としての珪砂同士を互いに接着させ、強固な舗装面(床面)を有する塗り床材を構成することが可能となる。すなわち、従来のように、主剤及び硬化剤を混合し、硬化反応を生じさせる必要がなる。
【0011】
したがって、本発明の塗り床材組成物によれば、一液乾燥硬化型の水性エマルジョンが利用され、さらに珪砂及び水性エマルジョンが予め混練りされ、粘度の調製された混合物として塗り床材組成物が供給される。そのため、製造工場でプレミックスされた状態の塗り床材組成物が施工現場まで運搬され、そのまま使用することができる。すなわち、施工現場で改めて混合及び調製作業を行う必要がない。また、一液乾燥硬化型の水性エマルジョンを使用しているため、乾燥及び硬化反応が急激に進行するものではなく、施工時における良好なハンドリング性及び十分な可使時間を確保することができる。そのため、少ない作業工程で塗り床材を構築することが可能となる。
【0012】
さらに、有機溶剤で溶解した主剤等を用いる従来型の塗り床材に比べ、乾燥時間を短縮することが可能となる。ここで、従来の主剤に用いられるエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の場合、下地面に所定厚さで塗工するような広い面積に薄く塗り広げた場合、硬化反応によって生じる生成熱が逃げるため、乾燥が遅くなる傾向が知られている。すなわち、主剤及び硬化剤をトロ舟等で混合し、調製した状態では硬化熱の逃げが少ないため、水性エマルジョンよりも早く乾燥が進行し、可使時間が短くなるものの、薄く塗り広げた場合にはかえって乾燥が遅くなることがあった。これに対し、水性エマルジョンを含む本発明の塗り床材組成物は、薄く塗り広げることによって水分の蒸発が促進され、速やかな乾燥が進行することになる。その結果、有機溶剤を含む従来型の塗り床材に比べ、乾燥が早く完了し、かつ作業員や周囲環境への安全性を配慮することができる。
【0013】
なお、プレミックスされた塗り床材組成物を施工現場まで搬送する際には、硬化反応が進行しないように、大気に触れることのない密閉容器内に収容することで、調製された状態の粘度を維持することができる。そのため、施工現場では密閉容器を開封し、そのまま若しくは若干の撹拌を行うだけですぐに施工を開始することができる。ここで、密閉容器の一例としては、20kg容量の樹脂製のペール缶を想定することができる。この場合、収容された塗り床材組成物の上に空気非透過性のポリエチレン製のシートを被せ、容器蓋で密閉することにより、大気との接触を確実に遮断するものであっても構わない。さらに、密閉容器の内部に窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを封入し、乾燥及び硬化反応の進行をさらに抑えるものであってもよい。また、長期保管を可能とするために、周知の殺菌剤や防腐剤等の添加剤を必要に応じて加えるものであっても構わない。
【0014】
さらに、本発明の塗り床材組成物は、上記構成に加え、「前記混合物は、着色料をさらに含有する」ものであっても構わない。
【0015】
したがって、本発明の塗り床材組成物によれば、混合物に緑色や茶色等の各種色の着色料を含有させることができる。これにより、乾燥硬化後の塗り床材に色を付けることができる。その結果、施工対象面の周囲の状況に合わせた塗り床材を形成することができる。
【0016】
さらに、本発明の塗り床材組成物は、上記構成に加え、「前記珪砂は、0.3mm以上、1.2mm以下の粒径である」ものであっても構わない。
【0017】
したがって、本発明の塗り床材組成物によれば、珪砂の粒径が0.3mm以上、1.2mm以下のもの、換言すれば、4号から5号の粒径の珪砂が用いられる。ここで、水性エマルジョンと珪砂とを混合した場合、その比重の違いから珪砂が下方に沈んで溜まることになる。そのため、3号以下の大きな粒径の珪砂の場合、水性エマルジョンに対する沈降が大きくなり、珪砂及び水性エマルジョンの混合状態に大きな偏りが生じることがある。一方、6号以上の粒径の珪砂を用いた場合、舗装面が密となり防滑性等の所望の性能を発揮することができなくなるおそれがある。そのため、4号及び5号の粒径のものが好適と思われる。
【0018】
さらに、本発明の塗り床材組成物は、上記構成に加え、「前記水性エマルジョンは、少なくとも一種類の有機ポリマーと、前記有機ポリマーと混合される鹸化度が95%以上のポリビニルアルコール成分と、水とを有する」ものであっても構わない。
【0019】
ここで水性エマルジョンに使用される有機ポリマーとは、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂や、スチレン重合体、塩化ビニル重合体、酢酸ビニル重合体等のポリマー若しくはコポリマー、及びブチラール樹脂等のその他各種の周知の熱可塑性を有する合成樹脂を使用することが可能であり、係る合成樹脂が少なくとも一種類以上選択されて使用される。さらに、水性エマルジョンの改質のためにアクリル酸アルキル・スチレン共重合体等の共重合体成分を必要に応じて加えるものであっても構わない。
【0020】
一方、ポリビニルアルコール成分は、一般に水溶性状を呈するものであり、周知の合成樹脂として知られている。ポリビニルアルコール成分は、有機ポリマーを分散し、乳化状態に維持することにより水性エマルジョンの状態を保つための分散剤として作用している。ここで、上記塗り床材組成物による塗り床材の施工が行われる場所は、雨水等に晒される可能性がある。そのため、本発明の塗り床材組成物は、雨水やその他薬品に対する耐水性を有している必要がある。上述したように、ポリビニルアルコール成分は一般に水溶性を呈するため、上記の塗り床材組成物にポリビニルアルコール成分を分散剤として使用することは、乾燥硬化後の舗装材の耐水性が低くなる可能性がある。
【0021】
しかしながら、本発明の塗り床材組成物は、鹸化度が95%以上のポリビニルアルコール成分が採用されている。ここで、鹸化度の値が小さい場合には、上述のように水に対する溶解性が高いことを意味するものであり、一方、95%以上の鹸化度であれば、水に対する不溶性が高いことを意味している。そのため、本発明に使用される水性エマルジョンは、鹸化度の高いポリビニルアルコール成分を使用することにより、水性エマルジョンとして構成されることができ、かつ乾燥硬化後であっても雨水等により溶解することのない強い耐水性を発揮することが可能となる。その結果、屋外等に対する塗り床材の施工が可能となる。
【0022】
したがって、本発明の塗り床材組成物によれば、有機ポリマー及び鹸化度の調整されたポリビニルアルコール成分によって耐水性の高い水性エマルジョンを形成することが可能となり、屋外等における使用が制限されることがない。ここで、水性エマルジョンに使用される有機ポリマーは、例えば、平均分子量が3000以上、100000以下のものが使用され、ポリビニルアルコール成分は、平均分子量が500以上、3000以下のものを使用するものを例示することができる。
【0023】
一方、本発明の塗り床材は、「上記の塗り床材組成物を使用した塗り床材であって、珪砂及び前記珪砂と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンを所定の混合比率で混練りし、粘度を調製した混合物の状態で供給される塗り床材組成物を塗工し、乾燥硬化して形成される」ものから主に構成されている。
【0024】
ここで、塗り床材、上述の塗り床材組成物を使用し、所定の塗工厚さとなるように鏝塗り等によって塗工(塗布)され、係る状態で長時間放置することにより、自然乾燥によって水性エマルジョンを硬化することによって形成されるものである。これにより、工場や研究施設等の床面を、種々の着色を施した合成樹脂からなる塗り床材を形成することが可能となる。
【0025】
一方、本発明の施工方法は、「上記床材組成物を使用した塗り床材の施工方法であって、珪砂及び前記珪砂と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンを所定の混合比率で予め混練りされ、粘度を調製した混合物の状態で供給される塗り床材組成物を施工対象面に塗工する塗工工程と、塗工された前記塗り床材組成物を乾燥させ、塗り床材を形成する乾燥養生工程と」を具備するものから構成されている。
【0026】
したがって、本発明の施工方法によれば、施工現場で有機溶剤を含む主剤及び硬化剤を混合する作業が必要なく、プレミックスされた混合物の状態の塗り床材組成物を密閉容器から取り出してそのまま使用し、塗り床材を形成するための施工作業を行うことが可能となる。これにより、施工作業者の作業負担を大幅に軽減し、施工現場における効率化を図ることが可能となる。加えて、有機溶剤を一切使用していないため、火気や換気に対する規制がなく、建築物の室内等の床面に対する施工が制限されることがない。そのため、安全かつ容易に塗り床材の施工をすることができる。さらに、有機溶剤を含む塗り床材組成物を薄く広く塗工した場合と比べ、水性エマルジョンに含まれる水分の蒸散が良好となり、乾燥工程が早く進行することができる。さらに、下地面がぬれている場合であっても、そのまま塗り床材組成物を塗工することが可能となり、従来のように、下地面が十分に乾燥するまで待機する必要がない。そのため、全体の作業時間の大幅な短縮を図ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の塗り床材組成物等の効果によれば、有機溶剤を一切使用することなく、プレミックスされた状態で施工現場まで搬送し、そのまま施工作業に取りかかることができる。そのため、施工現場における作業者の調製作業等を省略し、作業者の負担及び作業ミスの発生を抑え、有機溶剤に対する火気や換気等の対策や使用制限が緩和される。そのため、ハンドリング性に優れた良好な施工作業が行え、良好な仕上がりの舗装面を有する塗り床材を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態の塗り床材の構成を示す説明図である。
【図2】塗り床材組成物を使用した塗り床剤の施工方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態である塗り床材組成物1、塗り床材2、及び施工方法3について、図1及び図2に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の塗り床材2の構成を示す説明図であり、図2は塗り床材組成物1を使用した塗り床材2の施工方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【0030】
本実施形態の塗り床材組成物1は、4号または5号の粒径(0.3mm以上、1.2mm以下)を有する細粒状の珪砂4と、珪砂4と混合され、ポリプロピレンからなる有機ポリマー5をポリビニルアルコール成分6を分散剤として使用し、水中に分散させて乳化状にした水性エマルジョン7とを具備して主に構成されている。ここで、珪砂4及び水性エマルジョン7は、予め規定された混合比率で混練りされ、所定の粘度に調製した混合物として形成されている。そして、製造工場でプレミックスされて調製された塗り床材組成物1が、樹脂製のポリペール缶等の密閉容器の中に収容され、大気との接触を遮断した状態で充填される。これにより、保管及び施工現場の搬送時において、塗り床材組成物1が大気と接することが規制されるため、乾燥及び硬化することがなく、調製された粘度を保持することができる。なお、本実施形態の塗り床材組成物1は、上記構成に加え、緑色の着色料9が添加されている。そのため、乾燥硬化後の塗り床材2は、緑色を呈することになる。係る着色料9は、種々の染料を採用することができ、周囲の雰囲気等に応じて選択することができる。
【0031】
さらに、水性エマルジョン7に使用されるポリビニルアルコール成分6は、鹸化度が95%以上のものが使用され、乾燥硬化後の雨水等に対する耐水性を有している。ここで、ポリビニルアルコール成分6の鹸化度は、約98%が理論的な上限値であることが知られ、本実施形態では、95%以上、98%以下の範囲の鹸化度のものが使用されている。
【0032】
したがって、プレミックスされた塗り床材組成物1を使用することにより、施工現場では作業者が何ら特別な作業及び器具を用いる必要がなく、密閉容器を開封するだけで、すぐに塗り床材組成物1の塗工作業を行うことができる。また、開封後であっても、密閉容器内に収容された状態ではそれほど早く乾燥及び硬化が進行することはなく、施工現場での可使時間を長くすることができる。そのため、余裕をもって作業を行うことができ、塗工後の修正等も比較的容易にできる。
【0033】
次に、本実施形態の塗り床材組成物1を使用した塗り床材2、及びその施工方法の一例について、主に図2のフローチャートに基づいて説明する。まず、従来の塗り床材における施工と同様に、施工対象面となるコンクリート等の下地8から、ゴミや埃等の夾雑物を除去するとともに、下地面8aを平滑にする(ステップS1)。そして、周知のプライマー10を下地面8aの上にローラや刷毛等によって塗布する(ステップS2)。上記二つの処理により、下地8と塗り床材2との密着性を高めることができる。
【0034】
プライマー10が乾燥した後、密閉容器から塗り床材組成物1を取り出す。ここで、塗り床材組成物1は、ビニール袋に充填された状態で密閉容器内に収容されている。そのため、ビニール袋とともに取り出し、袋外から力を加え、内部に充填された珪砂4、水性エマルジョン7、及び着色料9がよく混じり合うように混合する(ステップS3)。ここで、塗り床材組成物1は、製造工場で所定の配合比率で混練りされ、調製された後、上述の密閉容器内に収容される。ここで、水性エマルジョン7に対し、珪砂4は比重が大きいため、収容後の保管時や施工現場までの搬送時に、珪砂4は重力に従って下方に沈降しやすい。そのため、密閉容器を開封し、取り出した直後は珪砂4がビニール袋の下方に溜まっていることがある。そこで、上述したように袋外から力を加え、ビニール袋を揉むようにして混合することで、珪砂4の偏りを解消することができる。係る作業は、簡易なものであり、作業者にとって負担となることはなく、さらに特に器具を必要とするものではないため、従来の撹拌及び混合作業のようなその後の洗浄作業を必要とするものではない。なお、混合した後は再び、ビニール袋毎、密閉容器の中に収容する。これにより、塗工作業が容易となる。
【0035】
そして、密閉容器に収容した状態でビニール袋の袋口を開口し、袋内の塗り床材組成物1を取り出し、鏝等を利用して下地8に対して所定の厚さとなるように塗工する(ステップS4)。なお、塗工する厚さは、使用用途等によって適宜変更することができる。
【0036】
これにより、コンクリート等の下地8の上に、1〜2mm程度の厚さで形成された塗り床材組成物1の層が形成される(図1参照)。この状態で乾燥及び養生を行う(ステップS5)。ここで、本実施形態の塗り床材組成物1は、鹸化度95%以上のポリビニルアルコール成分6を含む水性エマルジョン7を含有し、従来の二液硬化型の塗り床材のように硬化剤を必要とするものではない。そのため、硬化剤を使用する場合には、下地8が十分に乾燥し、水分を含んでいない状態にする必要があった。したがって、上記塗工では、下地8が水分を含む湿った状態であってもよい。そのため、下地8の形成からその上に塗り床材2を構築する作業を行うまでの時間を短縮することができる。
【0037】
加えて、一液乾燥硬化型の水性エマルジョン7を使用する場合、下地8の下地面8aに薄く伸ばすように塗工をしている。そのため、大気との接触面積が増えることにより、水性エマルジョン7に含まれる水の蒸散が早くなる。その結果、塗り床材組成物1の乾燥及び硬化が速やかに進行する。一方、従来型の二液硬化型の塗り床材の場合、広い面積に薄く伸ばすように塗工されると、硬化剤との硬化反応によって生じる反応熱(硬化熱)が大気に放散される。その結果、硬化反応を促進する要因となる熱が逃げることにより、乾燥及び硬化が遅れることがあった。これにより、二液硬化型の従来型よりも本実施形態の水性エマルジョン7を使用する塗り床材組成物1の方が、乾燥が速やかに行われる利点を有している。
【0038】
なお、施工対象面が屋外等に設定された場合には、外気温が低く、通常よりも乾燥及び硬化に時間を要することがある。さらに、乾燥及び養生時の降雨、結露、及び強風等に晒される可能性があり、塗り床材2の仕上り状態に影響を及ぼす可能性がある。そのため、温度変化や気候変化の小さな時期を選んで施工したり、或いは降雨や防塵用のシートを養生時に上方から被せ、保護するものであっても構わない。このとき、上述した水分によって白化現象を生じる硬化剤を含まないものであるため、従来よりも湿気等に対する対策を緩和することもできる。
【0039】
そして、所定の乾燥時間(例えば、24時間以上)が経過すると、塗り床材組成物1は完全に硬化し、下地8に強固に密着した塗り床材2が形成される(ステップ6)。これにより、細粒状の珪砂4によって防滑性を有し、さらに水性エマルジョン7が硬化したことによる耐久性、耐水性等の各種機能を備える塗り床材2が構築される。
【0040】
以上、説明したように、本実施形態の塗り床材組成物1によれば、95%以上の鹸化度のポリビニルアルコール成分6を含む水性エマルジョン7を使用し、従来のようにトルエン等の有機溶剤を全く使用することなく、防滑性及び耐水性等の要求される優れた性能を発揮する塗り床材2を構築することができる。その結果、作業時の火気等に対する取扱に留意する必要がなく、作業者の人体や自然環境への影響を抑えたものとすることができる。さらに、施工現場での作業工程を省力化することができ、作業者の負担を軽減することができる。
【0041】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0042】
すなわち、本実施形態の塗り床材組成物1において、緑色の着色料9を含むものを示したがこれに限定されるものではなく、用途に応じて着色料を含まないものであっても構わない。
【符号の説明】
【0043】
1 塗り床材組成物
2 塗り床材組成物を利用した塗り床材
3 塗り床材の施工方法
4 珪砂
5 有機ポリマー
6 ポリビニルアルコール成分
7 水性エマルジョン
8 下地
8a 下地面
9 着色料
10 プライマー
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】特公昭53−002652号公報
【特許文献2】特開2009−149767号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪砂と、
前記珪砂と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンと
を具備し、
前記珪砂及び前記水性エマルジョンは、
所定の混合比率で予め混練りされ、粘度を調製した混合物の状態で供給されることを特徴とする塗り床材組成物。
【請求項2】
前記混合物は、
着色料をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の塗り床材組成物。
【請求項3】
前記珪砂は、
0.3mm以上、1.2mm以下の粒径であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗り床材組成物。
【請求項4】
前記水性エマルジョンは、
少なくとも一種類の有機ポリマーと、
前記有機ポリマーと混合される鹸化度が95%以上のポリビニルアルコール成分と、
水と
を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の塗り床材組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の塗り床材組成物を使用した塗り床材であって、
珪砂及び前記珪砂と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンを所定の混合比率で混練りし、粘度を調製した混合物の状態で供給される塗り床材組成物を塗工し、乾燥硬化して形成されることを特徴とする塗り床材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の塗り床材組成物を使用した塗り床材の施工方法であって、
珪砂及び前記珪砂と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンを所定の混合比率で予め混練りされ、粘度を調製した混合物の状態で供給される塗り床材組成物を施工対象面に塗工する塗工工程と、
塗工された前記塗り床材組成物を乾燥させ、塗り床材を形成する乾燥養生工程と
を具備することを特徴とする塗り床材組成物を利用した塗り床材の施工方法。

【図1】
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【図2】
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