説明

塗型剤及び鋳造法

【課題】 超硬合金を鋳鉄と拡散接合するには鋳造湯の流動性や清浄性を向上するために塗型剤にフラックスの機能を持たせる必要がある。また、塗型剤に酸化・還元機能を持たせないと鋳型自体から発生する水素や酸素が鋳物中に侵入し鋳物の気泡欠陥となり鋳物強度が低下し外観が悪くなる問題がある。しかし従来の塗型剤は鋳型を造形する機能が優先され鋳造湯に対してフラックス機能は発揮できなかった。
【解決手段】 メタノールもしくはエタノールもしくはグリセリンもしくはエチレングリコールもしくはこれらを適宜混合した溶媒に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、AL、S、Zn、Seの内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質を複数種類溶解し、最大35wt%濃度の液体フラックスを生成し、該液体フラックスを30〜40wt%と塗型剤原料を60〜70wt%とを混合した塗型剤を具現化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般にダクタイル鋳鉄、ステンレス鋳鋼、ハイクロム鋳鉄、ハイマンガン鋳鉄のような鋳鉄、鋳鋼は1450〜1650℃の溶解温度範囲で鋳造される。本発明はこのような高温における鋳物の鋳造において鋳型の形状を保持したり鋳造金属の表面品質や内部品質を向上したりするために使用される塗型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
注湯の際鋳型の表面は1450〜1650℃の高温の溶湯熱にさらされることから、種々の物理的、化学的作用により型崩れしやすい状態になる。この状態を防ぐため、鋳型の表面に種々の塗型剤の塗装を行なう。この塗装することを塗型という。塗型剤は、耐熱性、附着性、被覆性、通気性、反応性、粘性、さらに鋳肌を美しくするために使用される。一般的に塗型剤には黒鉛、コークス粉、石炭粉、木炭粉、雲母粉、ベンガラ(Fe2O3)、シリコン、ジルコンフラワー等ある。
【0003】
鋳型を造形するときに生砂中に2〜3%の水が入り、高温の鋳造湯温度により熱分解されて水素と酸素に分離する。生砂中にコークス粉や石炭粉や木炭粉を入れることで、水素や酸素を炭素と化合させて脱水素や脱酸素を図る。水素は炭素と化合することでアセチレンガスとして、酸素は炭酸ガスとして生砂中から逃がす。さらに生砂表面を鋳造熱で硬化させるため固形分(AL2O3.SiO2などの粘土やグラファイト(C)やベンガラ(Fe2O3)の粉末など)と溶剤(メタノールやアルコールなど)を約6:4の配合比で混合し塗型剤として刷毛塗りしていた。
【0004】
従来から塗型剤の主流は鋳物表面の鋳肌にできる微細なピンホール、皺などを防止し砂落ちを防止することが主であるため耐熱粘土(AL2O3.SiO2など)、脱酸剤(Fe2O3など)、還元剤(炭酸塩や炭素化合物など)を混合したものであった。鋳造湯は鋳型内の生砂中に含有される水分と反応し水素や酸素を発生させる。水素は鋳造湯に侵入するとピンホール欠陥となる。この反応式は次のように表される。鋳造湯(M)+H2O→MO+2H↑。還元剤や脱酸剤は鋳型中の水分が分解してできる水素や酸素を除去する目的で使用され、反応式は次のようになる。(1)3Fe2O3+H2O→6Fe+2H↑+10O↑、(2)2H+2C→C2H2(アセチレン)↑、(3)6Fe+10O→6FeO+2O2↑。しかし従来の還元剤や脱酸剤では還元元素や脱酸元素が不足しており十分な還元や脱酸ができないためある程度の欠陥は避けられないものとなっていた。
【0005】
塗型剤中に粘土(AL2O3.SiO2)として混合するALやSiも還元元素であり、多成分系ガラスになる元素であるが、極めて安定的な酸化物であり、解離するためのエネルギーが大きく、分解して還元機能を発揮したり、他の元素と結びついて多成分系ガラスになったりすることは非常に少なかった。従って、粘土(AL2O3.SiO2)の塗型剤としての機能は生砂壁を硬化させて保持するだけであり接着剤として使用されていた。
【0006】
塗型剤の役目は鋳造湯の脱水素や脱酸素、鋳型の耐熱機能や接合機能をバランスさせることである。しかしながら、鋳造湯流れをよくするためには鋳造湯の温度を高くする必要があり、鋳造湯の温度を高くすると鋳型強度も強くする必要があり、鋳型強度を強くするには塗型剤強度も高める必要がある。また、塗型剤強度が高くなると還元温度も高くなるため鋳型中に含まれる水分(H2O)の分解量も大きくなるため、すべての機能をバランスよく発揮する塗型剤の製造は困難であった。このため、すべての機能をバランス良く発揮する万能の塗型剤は少ないため、目的とする機能を発揮するように化学成分を組み合わせて専門メーカーに特注して生成しているのが現状である。
【0007】
鋳型は鋳物砂中に粘結剤としてフラン樹脂(C4H4O)、フェノール樹脂(C6H5OH)などの有機成分を加えて鋳物砂を硬化させて造形しているためこれら有機成分が熱分解してホルムアルデヒド(HCHO)に分解し、さらに水素と酸素に分解するため鋳型内に発散するとともに鋳造工場内に放出することになり作業環境を阻害する。多量生産する場合は造型を含めて自動化されているためこれら造型粘結剤専門メーカーにて砂込のオーダーされるのが主であるため塗型剤の微量な配合割合も客先ごとに異なっている。
【0008】
特開昭54−41226号広報では、5〜30重量%の酸化第二鉄(ベンガラ)を含有している鋳造用鋳型塗料が提案されている。特開平11−309544号広報では、鋳型表面に塗布されて鋳物の鋳造欠陥を防止する塗型剤であって、1300℃より低い温度で溶融して鋳型表面に低融点被膜を形成する低融点ガラスを含有する塗型剤が提案され、CuO、KMnO4 、Ag2 O、NiO、ZnOは、鋳型内に含まれるSiO2 と反応して低融点の反応生成物被膜を鋳型表面に形成するとしている。特開2010−94714号広報では、耐火骨材、粘結剤、焼結剤及びアルコール系溶媒を含有するアルコール系塗型剤を、鋳型に塗布する工程、並びに塗布後の鋳型のアルコール系溶媒に着火する工程を有する鋳型の製造方法が提案されている。
【0009】
特願2010−232201号広報では、鋳型の表面に液体フラックスを混合した塗型剤が塗布してあり、前記鋳型の空隙部には液体フラックスを気化せしめた気化フラックスを注入している鋳造方法が提案されている。本液体フラックスは特開2009−090368号広報「ガス切断用気化フラックス」、特開2009−297782号広報「液体フラックスの製造方法及びその装置」、特開2010−100441号広報「液体フラックスの製造方法と製造装置及び液体フラックス」、特開2009−233741号広報「液体フラックス気化装置」を応用して生成し鋳型に塗布または注入する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭54−41226号広報「鋳造用鋳型塗料」
【特許文献2】特開平11−309544号広報「塗型剤」
【特許文献3】特開2010−94714号広報「鋳型の製造方法」
【特許文献4】特願2010−232201号広報「超硬合金の鋳ぐるみ方法」
【特許文献5】特開2009−090368号広報「ガス切断用気化フラックス」
【特許文献6】特開2009−297782号広報「液体フラックスの製造方法及びその装置」
【特許文献7】特開2010−100441号広報「液体フラックスの製造方法と製造装置及び液体フラックス」
【特許文献8】特開2009−233741号広報「液体フラックス気化装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の方法においては、有機粘結剤が分解して生じた炭素を結合する酸素の供給源として酸化第二鉄が働き浸炭を防止する機能を持たせているが、脱酸素や脱水素の機能はなかった。また酸化第二鉄は融点が低く1650℃の鋳造湯に耐えることができない問題がある。
【0012】
特許文献2の方法においては、1300℃以下の温度で機能を発揮するものであり、SiO2と反応して反応生成物を形成するための含有物(CuO、KMnO4 、Ag2 O、NiO、ZnO)も個体であり生成物の形成が十分でない問題がある。SiO2は塗型剤中に粘土(AL2O3.SiO2)として混合されているが、解離するためのエネルギーが大きく、分解して還元機能を発揮したり、他の元素と結びついて多成分系ガラスになったりすること極めて少ない問題がある。
【0013】
特許文献3の方法においては、アルコールと固形材料を混合しているが分散剤として利用されており、主としてアルコール類、分散補助溶剤として芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が使用されるが、アルコールに電解質の化合物を溶解させて還元・酸化機能を付加してはいない。また、鋳型に塗布後アルコールに着火するが乾燥が主な目的であり、溶解物質の析出効果は無かった。
【0014】
特許文献4の方法においては、液体フラックスが単独に用いられており、液体フラックスと固形材料を混合した塗型剤の脱水素、脱酸素機能は十分ではなく鋳造欠陥の大幅な改善はできなかった。
【0015】
本発明の塗型剤は、(1)最大1650℃の鋳造湯に耐えるとともに常温に冷却されるまでの間の温度範囲で作用するフラックスとしての機能を有している、(2)脱水素や脱酸素作用によりピンホールを低減し鋳物内部欠陥を抑制し鋳造品表面の皺を防止する、(3)フラックス機能で鋳造湯を清浄化するとともに表面張力を除去して鋳物と異種金属のロウ付けを同時に行える高品質の鋳造品を得るための塗型剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の解決手段は、鋳型用の塗型剤であって、アセトンやアルコールもしくはアセトンとアルコールを混合した溶媒に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、AL、S、Zn、Seの内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質を複数種類溶解し、最大35wt%濃度の液体フラックスを生成し、該液体フラックスを30〜40wt%と塗型剤原料を60〜70wt%とを混合したことを特徴とする塗型剤である。
【0017】
第2の解決手段は、前記溶媒は少なくともグリセリン(C3H8O3)もしくはエチレングリコール(C2H6O2)もしくはグリセリンとエチレングリコールを適宜混合したものと前記アセトンやアルコールを混合したものである塗型剤である。
【0018】
第3の解決手段は、前記塗型剤原料は製鉄転炉から発生するグラファイトを回収したものであり、該回収グラファイト60〜70wt%に対し前記液体フラックス30〜40wt%を配合したものであるである。
【0019】
第4の解決手段は、前記鋳型に前記液体フラックスを気化せしめた気化フラックスを注入した後に、前記鋳型に前記塗型剤を塗布する鋳造法である。
【発明の効果】
【0020】
第1の手段による効果は、(1)SiO2、B2O3、P2O5などのM−O(金属―酸素)結合の多成分ガラスがイオン結合にて生成しかつ電気陰性度が1.8〜2.1オングストロームの間にあり酸素の電気陰性度3.5オングストロームとの差が小さいことから生砂で形成された鋳型内面に張り付き鋳型を強く保持し鋳型中のガス抜きも果たすことができる、(2)最大1650℃の鋳造湯に耐えて、脱水素や脱酸素作用によりピンホール防止効果の増大を図り、鋳造湯を清浄化するとともに表面張力を除去し鋳造品表面の皺を防止し高品質の鋳造品を得るための塗型剤を提供するものである、(3)鋳込みと同時に鋳物品に異種金属をロウ付けすることができる、(4)鋳型砂を分解・回収の際は水洗にてガラス質を溶解させることが可能のため砂の再生使用が可能なことである。
【0021】
第2の手段による効果は、炭化水素系の溶媒であるグリセリン(沸点290℃)やエチレングリコール(沸点197.8)は200〜300℃にて完全分解し炭化水素ガスを大量に発生させることができる。グリセリンやエチレングリコールを溶媒としてホウ酸(H3BO3)やホウ砂(Na2B4O7)を最大35%濃度に溶解して生成し多成分ガラスができる塗型剤を具現化することができる。
【0022】
第3の手段による効果は、安価な塗型剤原料を活用できることである。
【0023】
第4の解決手段による効果は、(1)液体フラックスを気化せしめた気化フラックスを前もって鋳型中に圧入することによりポーラス空間の水分や水素を除去できる、(2)気化フラックス及び塗布した塗型剤は溶媒中の炭化水素により急熱されることで鋳型内の水分を還元して分子ガスに変えかつ生砂中にホウ酸ガラスを生成させるため溶湯接触部のピンホール、鋳巣、引けなどを防止できる、(3)塗型剤中のFe2O3、KMnO2などの添加物は低融点反応剤としては弱いのでこれをカバーするために塩基性の液体フラックスを入れることで、鋳型表面に乾燥して張り付いた液体フラックス(溶媒は蒸発して個体部分だけが残存している状態)と鋳型に圧入した気化フラックスにより激しい酸化還元作用が生じ鋳造材のピンホールや皺などの欠陥を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の解決手段は、鋳型用の塗型剤であって、アセトンやアルコールもしくはアセトンとアルコールを混合した溶媒に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、AL、S、Zn、Seの内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質を複数種類溶解し、最大35wt%濃度の液体フラックスを生成し、該液体フラックスを30〜40wt%と塗型剤原料を60〜70wt%とを混合したことを特徴とする塗型剤である。
【0025】
本発明による液体フラックス及び気化フラックスは、本発明者が発明した特開2009−090368号広報「ガス切断用気化フラックス」、特開2009−297782号広報「液体フラックスの製造方法及びその装置」、特開2010−100441号広報「液体フラックスの製造方法と製造装置及び液体フラックス」、特開2009−255105号広報「気化装置」よって製造することができる。また、特願2010−232201号広報「超硬合金の鋳ぐるみ方法」により鋳物と超硬合金をロウ付けすることが可能となった。
【0026】
特願2010−232201号広報「超硬の鋳ぐるみ方法」により回収超硬ビットをハイクロム鋳鉄中に一体型に鋳ぐるみすることが可能になり、たとえば、パドルミキサーの羽根に回収超硬ビットとハイクロムを鋳込んだ複合構造とすることで4か月の寿命を12か月以上に向上させることができた。パドルミキサーは低速・高荷重のため回収超硬ビットにニッケル電気めっきをした後、Ni−Pのカニゼンメッキをしてハイクロムと鋳ぐるみすることで超硬回収ビットとハイクロムの拡散接合を実現した。
【0027】
アルコールにはメタノール、エタノール、グリセリン(C3H8O3)、エチレングリコール(C2H6O2)、リン酸エタノール(P(CH3O))、トリメトキシボランメタノール(B(CH3O)3)などがある。
【0028】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、AL、S、Zn、Seを含有する電解質には、ホウ化物、フッ化物(フロライド)、塩化物(クロライド)、臭化物(ブロマイド)、酸化物(オキサイド)、無機類、有機酸類、アミン・アミド類、有機ハロゲン類などがある。
【0029】
ホウ化物はホウ素とそれより電気陰性度が小さい元素との間の化合物の総称である。ホウ化物には例えば、ホウ酸(H3BO3)、ホウ砂(Na2B4O7、酸化ホウ素(B2OB)、ホウ酸トリメチール((CH3O)3B)、ホウ酸カリウム(K2B4O7)、ホウフッ化水素酸(HBF4)、ホウフッ化アンモニウム(NH4BF4)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF4)などがありハイクロム鋳鉄の成分、鋳込み温度になどの条件に応じて選択することができる。
【0030】
フッ化物には例えば、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、三フッ化ホウ素(BF3)、四フッ化珪素(SiF4)、酸性フッ化ナトリウム(NaHF2)、ホウフッ化カリウム(KBF4)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF4)、ホウフッ化アンモニウム(NH4BF4)、テトラフルオロホウ酸(HBF4)、ケイフッ化カリウム(K2SiF6)、フッ化アルミナトリウム(液晶石、Na3ALF6)、フッ化アルミカリウム(カリ永晶石、K3ALF6)、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)、酸性フッ化カリウム(KHF2)、ケイフッ化ナトリウム(NaHF6)、ケイフッ化ナトリウム(NaHF6)などがありハイクロム鋳鉄の成分、鋳込み温度になどの条件に応じて選択することができる。フッ化物とホウ化物の共通の化合物であるホウフッ化カリウム(KBF4)やホウフッ化ナトリウム(NaBF4)はそれぞれのフッ化物とホウ化物の両方で例示した。
【0031】
塩化物としては塩化水素酸(HCl)、塩化カリウム(KCl)などがある。
【0032】
臭化物としては臭化水素酸(HBr)、臭化カリウム(KBr)などがある。
【0033】
酸化物としては酸化カリウム(K2O)、酸化ホウ素(B2O3)などがある。
【0034】
無機類としてはリン酸(H3PO4)、炭酸カリウム(K2CO3)などがある。
【0035】
有機酸類としてはシュウ酸((COOH)2)、クエン酸((OH)C3H4(COOH)3)などがある。
【0036】
アミン・アミド類としてはメチルアミン((CH3)・NH2)、ジメチルアミン((CH3)2・NH2)などがある。有機ハロゲン類としてはアニリン塩酸塩(C6H5NH2・HCl)、ジメチルアミン塩酸塩((C2H5)NH・HCL)などがある。
【0037】
また、融点で分類すると、180〜450℃までの融点化合物として塩化亜鉛(ZnCl)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、4フッ化カリウム(KBF4)、4塩化珪素(SiCl4)、5酸化リン(P2O5)、リン酸ナトリウム(Na5P3O10)、臭化リン(PBr)、酸性フッ化カリウム(KHF2)、2リン酸カリウム(KH2PO3)、硫酸ナトリウム(NA2S2O4)、ジエチルアミン塩酸塩((C2H5)NH・HCl)、ブチルアミン塩酸塩(CH3(CH2)2NH3・HCl)、尿素(CO(NH2)2))などがある。450〜900℃までの融点化合物としてホウ酸(H3BO3、溶融温度169〜800℃)、フッ化カリウム(KF)、ホウ砂(Na2B4O7、溶融温度800〜1000℃)、ケイフッ化カリウム(K2SiF6)、酸化ホウ素(B2O3)などがある。900℃以上の融点化合物として炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸セシウム(CsCO3)、3リン酸ナトリウム(Na3PO4)、フッ化ナトリウム(NaF)などがある。ケイ酸ナトリウム(Na2SiO2)は溶融温度1088〜1400℃である。1450℃までの融点化合物ではベンガラ(Fe2O3)、1700℃までの融点化合物では過マンガン酸カリウム(KMnO2)、クリオライト(3NaF・ALF3、沸点1650〜1750℃)がある。
【0038】
塗型剤原料は耐火骨材、焼結剤、粘結剤、脱酸剤、還元剤などから構成されておりこれらの原料を使用目的に応じて適宜混合して用いている。耐火骨材は塗型基材であり、鋳物の焼着防止を主目的としており、ジルコン、シリカ、マグネシア、クロマイト、黒鉛等の粉末などが用いられる。焼結剤は鋳込み時における塗膜の熱間強度の向上を主目的としており、有機ベントナイトが最も汎用的に用いられている。粘結剤は塗膜強度の向上を主目的としており、松木抽出物誘導体、ロジン、石油樹脂、耐熱粘土(AL2O3.SiO2など)、炭化水素系のフラン(C4H4O)やフェノール(C6H5OH)樹脂などが用いられている。脱酸剤にはベンガラ(Fe2O3)などがある。還元剤には炭酸塩や炭素化合物(木炭、石炭、コークス、アスファルトなど)などがある。
【0039】
例えば、生砂造型剤の粘結剤として使われる炭化水素系のフラン(C4H4O)やフェノール(C6H5OH)樹脂などは鋳造湯により熱分解して炭化水素系ガスを発生することが知られている。生砂中のピンホールの原因となる2〜3%の水分も鋳造湯にて熱分解し、炭化水素ガスは水分が分解して分離した水素や酸素を還元・酸化し安定した分子状の水素や酸素に変化させることができる。炭化水素ガスを利用して水分が分解して発生する水素や酸素を無害化する方法はまさに毒をもって毒を制する考えかたであり合理的なピンホール防止対策である。
【0040】
液体フラックスと従来の塗型剤原料をそれぞれ30〜40wt%、60〜70wt%混合することにより、強力な還元・脱酸機能を有する複合塗型剤が生まれた。即ち、本発明による塗型剤は鋳造鋳型を強く保持するとともに、液体フラックスの無機化合物内に含まれているハロゲン元素は単体ハロゲンガスとなりフッ素や塩素ガスとして分離生成することで鋳造湯の流れる鋳型内の空間や隙間に充満して、鋳型中の水分が分解して発生する水素や酸素の侵入を防止する。
【0041】
本塗型剤を鋳造鋳型表面に塗布することで、鋳造湯が最大1650℃から常温まで冷却する途中において鋳造物表面に多成分系の低融点ガラスを発生させる。低融点ガラスとして例えばシリカガラス、ホウ酸ガラス、リン酸ガラスなどが生成可能である。シリカガラスの成分例として、SiO2(70〜73%)、Na2O(10〜15%)、B2O3(2〜5%)、AL2O3(1〜3%)、K2O(1〜3%)がある。ホウ酸ガラスの成分例として、B2O3(50〜60%)、SiO2(20〜30%)、P2O5(10〜15%)、Na2O(5〜10%)がある。リン酸ガラスの例として、P2O5(50〜60%)、SiO2(5〜10%)、NaF(3〜5%)、K2O(5〜10%)、Na2O(5〜10%)、AL2O3(2〜5%)がある。
【0042】
本発明の塗型剤は、塗型剤であると同時に鋳ぐるみフラックスも兼用するため清浄作用、表面張力除去作用、酸化防止作用の機能を発揮できるようにしている。これが従来の塗型剤では実現不可能であった機能である。液体フラックスを含有する塗型剤を生砂鋳型に塗布した後に、塗型剤に含有しているアルコールなどの溶媒を燃焼させることにより、鋳型の表面を乾燥させ生砂鋳型を固めることができるので砂の脱落を防止することができる。アルコール飛ばしによる発熱量は小さく砂型温度の上昇は最大50℃程度であり、低温帯で反応する液体フラックスの成分にも全く影響しないので1650℃の鋳造湯が冷却するまでの全温度領域を100%カバーできる塗型剤である。
【0043】
本発明の塗型剤は従来の塗型剤と同様に固形分と液体分の割合はほぼ同等である。従来の液体部分は固形分を分散させて鋳型表面に均等に塗布できるようにすることと炭化水素を発生させて鋳型中の水分から発生する水素や酸素を脱水素、脱酸素するのが主な目的であった。そのため液体には炭化水素系が多用されているが液体単独で用いられることが多く液体中に他の化合物を溶解させて用いることはなかった。ハイクロム鋳鉄と超硬を鋳ぐるみする場合は、鋳造湯は1650℃の高温のため塗型剤としての機能とロウ付けフラックスの機能を同時に果たす必要がある。ロウ付けフラックスにはフッ素(F)や塩素(CL)や臭素(Br)などのハロゲンガスの出る無機化合物の酸化や還元機能が必要であり、溶媒となる炭化水素(例えばメタノールなどのアルコール類)にこれらの元素を溶解しておく必要がある。ハロゲンガスなどを発生する元素を含む化合物をあらかじめ炭化水素系の液体に溶解して液体フラックスとすることで酸化・還元の機能が生まれロウ付けの際のフラックスの役割を果たす。塗型剤中には塗型剤原料としてベンガラ(Fe2O3)、石炭粉、コークス粉、木炭粉などを含有しているので、生砂中の水分(2〜3%)から発生する酸素や水素を吸収し脱酸素や脱水素機能を果たし、液体フラックスもハロゲンガスなどを発生させ強い酸化・還元機能を発揮してロウ付けフラックスとしての機能を果たす。
【0044】
塗型剤中に含まれるFe2O3は熱分解してFeO+Fe2O3の形に分離したりFe2O3+Fe3O4の形に分離したりする。この現象は発生期の分解酸素による酸化反応である。酸化膜の違いにてFeO(1400℃)、Fe2O3(1450℃)、Fe3O4(1550℃)の膜を形成する。鋳造金属表面に接するところがFeOで次いでFe2O3、次がFe3O4である。塗型剤中のフラックスの役目にて3層コーティング膜塗型剤となるため鋳造後の鋳型分解が簡単となる特長が生まれた。従来の焼き付きがなくホウ酸ガラス状のフラックスは簡単に水にも溶解するため鋳造砂の再生が何回も可能である。
【0045】
塗型剤として鋳型表面の砂粒を結合している主成分はベンガラ(Fe2O)であるが、ベンガラは触媒としての働きがあり、Na2OやK2OやAL2O3とホウ酸を反応させてホウ酸ガラス(H3BO3)を生成する。6Fe2O3+8B→12Fe+4B2O3+3O2、3O2+12H→6H2O↑(水蒸気)、3Fe2O3+2P→6Fe+P2O5+2O2↑、2O2↑+8H↑→4H2O(水蒸気)、2Fe2O3+2AL→4Fe+AL2O3+(1+1/2)O2↑、(1+1/2)O2↑+6H↑→3H2O↑(水蒸気)、Fe2O3+2Na→2Fe+Na2O+O2↑、O2+2H2↑→2H2O↑(水蒸気)、FeO3+2K→2Fe+K2O+O2、O2↑+2H2↑→2H2O。B、P、AL、K、Naなどの元素はFe2O3を触媒として鋳型中の水が鋳造熱にて分解して発生する水素や酸素を脱水素、脱酸素するが、塗型剤中のベンガラの最大の働きは結合剤でありかつ還元後にホウ酸ガラスとなることで砂粒一つ一つを結合する。
【0046】
ハイクロム鋳鉄溶湯の場合は、CrO+H2O→CrO2+2H↑となり、酸化クロムが生砂中の水分と反応し水素ガスが発生しやすく、ハイクロム鋳鉄の溶湯が凝固時に水素を吸収してピンホールとなっていた。このような欠陥を防止するために、塗型剤としてFe2O3(ベンガラ)を入れると、3Fe2O3+2H2O→2Fe3O+2H2↑+4O2↑、2Fe3O+2H2+4O2+C2→2Fe3O+2CO2+2H2+2O2、2Fe3O+2CO2+2H2+2O2+4C→2C2H2↑(アセチレンガス)+2CO2↑(炭酸ガス)+2Fe3Oとなりアセチレンガスや炭酸ガスが発生する。生砂中に石炭粉やコークス粉を入れることで炭酸ガスやアセチレンガスとして生砂中の水分を除去できるのでピンホールが低減される効果がある。
【0047】
Fe2O3(ベンガラ)、KMnO2(過マンガン酸カリウム)は1450〜1700℃のように高い温度範囲の鋳造湯の場合は水分除去効果を発揮する。しかし、1400〜1450℃のように低い温度範囲の鋳造湯の場合は、Fe2O3(ベンガラ)、KMnO2(過マンガン酸カリウム)などの酸化物は熱分解反応が弱くピンホール、鋳巣、引巣の原因となる欠陥率を抑えることが困難であり高品質の鋳ぐるみを提供できなかった。
【0048】
塗型剤中の成分が熱反応して生まれるホウ酸ガラスの主成分はB2O3であるが、アルカリ酸化物であるNa2OやK2Oが入るためガラス転移点が窓ガラスなどのSiO2ガラスと比較すると300〜400℃低くなり非常に衝撃に弱い。このため鋳型分解が容易となる。中ぐらいの耐熱性ありながら急激に膨らむ鋳型の耐熱衝撃性の要求を満たし冷却後の衝撃荷重にて簡単に破壊できることで砂の再生も容易である。耐熱性と容易な破壊性という両方の性質を満足する塗型剤である。
【0049】
塗型剤用個体フラックスとして、従来一般に使用されているケイ酸ソーダ(Na2SiO3)の耐熱は最大1200〜1400℃、ホウ砂(Na2B4O7)は800〜1000℃、クリオライト(3NaFALF3)は1400〜1800℃である。従来の塗型剤はこれら個体フラックスを粉末状態で液体と混合して金属母材や鋳型表面に塗布するが、ある程度の塗布厚みが必要であることから塗布厚みが厚くなったり不均一になったりする問題があり、ピンホールや鋳巣の原因となっている。この改善タイプとして濃度5〜10%程度の水ガラス(Na2SiO3)とフッ化物を混合して噴射する方法などもあるが、水ガラスが溶湯の急熱により膨らみ気泡となり湯回りの悪い所に集積して空間として残ってしまう問題がありハイクロム鋳鉄の品質としては甚だ好ましくなかった。
【0050】
1450〜1700℃の高温溶解となると鋳型40の主成分はジルコニア(ZnO2)となるため非常に高価となる。コスト低減のためには1400〜1450℃の温度範囲で黒鉛坩堝を使用しての溶解で鋳込みできるようにする必要がある。溶解温度の高い溶湯ほど保有熱エネルギーが大きいため湯流れはよいが、生砂中の水分が急熱・急膨張するため鋳型内圧が高くなる。鋳型内圧に対応して生砂も強く固くする必要があるためガス抜きが悪くなり欠陥率のアップにつながる。鋳造欠陥を少なくするには湯の温度管理、湯道設計、ガス抜き、肉厚差、冷やし金使用方法などの工夫が必要であり経験が大きく作用する。塗型剤用の液体フラックスを塗型剤と混合して鋳型に塗布したり、液体フラックスを含有した塗型剤を鋳型に塗布したり、気化フラックスを生砂中に注入したりすることにより鋳造湯の表面張力を低減できるので1400〜1450℃の低温鋳造でも湯流れがよくなり可品質の良い鋳造が可能となった。
【0051】
第2の解決手段は、前記溶媒は少なくともグリセリン(C3H8O3)もしくはエチレングリコール(C2H6O2)もしくはグリセリンとエチレングリコールを適宜混合したものと前記アセトンやアルコールを混合したものである塗型剤である。
【0052】
特開平11−309544号広報のように、鋳型温度が最大400℃になるまでの炭化水素補給対策として、塗型剤に天然アスアファルトを入れて大量の炭化水素を発生させ対流によって脱ガスを図っている例がある。液体フラックスを含有した塗型剤においては、液体フラックス中に含有する高分子のグリセリン(C3H8O3、分子量92.09)やエチレングリコール(C2H6O2、分子量62.07)はメタノール(CH3OH、分子量32)と比較すると2〜3倍の高分子量であることから、天然アスファルトと同等の炭化水素発生量を確保でき脱ガス効果がある。グリセリンの沸点は290℃、エチレングリコールの沸点は197.3℃と高いため炭化水素の十分な発生量を確保できる。
【0053】
炭化水素化合物であるグリセリン(C3H8O3)やエチレングリコール(C2H6O2)は熱分解にて多量の水素、酸素、炭酸ガスとなる。塗型剤中のグリセリンやエチレングリコールは、最大1650℃の鋳造湯による昇温過程において、200〜300℃で蒸発しながら沸点に達して単体ガスや炭化水素ガスとなる。その反応式は次のようになる。(1)3H+P+4O→H3PO4+3NH3、(2)3NH3+3H2O+H3PO4、(3)2H3BO3+3NH3+H2O→B2O3+6H2O+4H↑+O↑+3NH3、(4)3HCHO(ホルムアルデヒド)+H3BO3→B2O3+H2O+4H↑。(1)〜(4)の式のように多量の単体ガスや炭化水素ガスが発生することで対流を発生する。かつ炭化水素が分解してできた水素が生砂中の炭素と化合することで2H+2C→C2H2↑(アセチレンガス)として燃焼することでさらに対流が強くなり脱水素を図る。かつハロゲンガス中のフッ素(F)と化合しフッ化水素ガスも生まれるため鋳造湯の表面張力を除去し、清浄作用として働くために鋳造冷却表面のピンホールや皺を減少させる。
【0054】
第3の解決手段は、前記塗型剤原料は製鉄転炉から発生するグラファイトを回収したものであり、該回収グラファイト60〜70wt%に対し前記液体フラックス30〜40wt%を配合したものであるである。
【0055】
製鉄転炉の排滓物である回収グラファイトの主成分はグラファイト:68.7%、Fe2O3:20.93%他は脱酸剤である。これは従来の市販塗型剤固形分とほぼ同じである。主成分はグラファイト(炭素)であるがFe2Oの他にSiO2や脱酸剤として使うCaO、AL2O3、MgO、MnOも微量であるが入っているため塗型剤の固形分のコストは従来の1/3〜1/4である。従来、回収グラファイトは、塗型剤としての機能が不足しており塗型剤原料として単独で使用することはできなかった。しかし液体フラックスと混合して使用することで、回収グラファイトの不足している機能を液体フラックスが補うことができるので安価な塗型剤材料として活用できるようになった。この固形分65%に対し液体フラックス35%を重量比配合したものである。
【0056】
第4の解決手段は、前記鋳型に前記液体フラックスを気化せしめた気化フラックスを注入した後に、前記鋳型に前記塗型剤を塗布する鋳造法である。
【0057】
本発明は本発明者が特願2010−232201号広報「超硬合金の鋳ぐるみ方法」、特開2009−090368号広報「ガス切断用気化フラックス」、特開2009−297782号広報「液体フラックスの製造方法及びその装置」、特開2010−100441号広報「液体フラックスの製造方法と製造装置及び液体フラックス」、特開2009−233741号広報に開示した発明を応用することにより実現可能となった。
【0058】
液体フラックスを本発明者は特開2009−233741号広報に開示した気化装置で気化ガスとしてアルゴンを使用し、アルゴンガス中に最大5%程度の気化したフラックスを鋳型を形成する砂型中に0.1〜0.3MPaの圧力にて注入することで塗型剤と生砂鋳型中の脱水素を図る。気化フラックスと塗型剤を同一成分とすることで従来と比較すると5分の1程度の不良率となる。このように複雑な塗型剤を必要とするのはすでに本発明者は特願2010−232201号広報にて回収超硬ビットの鋳ぐるみ方法を出願しているが鋳造湯熱にて回収超硬ビットをロウ付け鋳ぐるみするため超硬の無酸化や清浄化が必要である。超硬中のタングステンは400℃を超えると急激に酸化しバインダーとなっているコバルトやニオブも酸化するため酸化物体積が膨張する。そのために塗型剤中からガス状に噴出する清浄化ガスと低融点ガラスがフラックスの役目をする。
【0059】
本発明の目的は1400〜1450℃のように比較的低温範囲の鋳造湯でも、超硬合金をハイクロム鋳鉄に精密に鋳ぐるみロウ付けすることにある。それには液体フラックスに空気、窒素、アルゴンなどを吹き込んで気化せしめた気化フラックスを生砂型に圧入する。生砂型には約20%の空間(気孔率20%)があり気化フラックスはこの空間に充満する。気化フラックスに含まれている成分同士が鋳造熱にて結合し、生砂型中にホウ酸ガラスを生成する。ホウ酸ガラスによるシールド作用で生砂中から溶湯に水素が入り込むのを防止する。従来は生砂中にアルゴンガスを封入して水素ガスが溶湯に侵入するのを防いでいたが、生砂をホウ酸ガラスでシールドするので略完全に溶湯への水素ガス侵入をシャットアウトできるようになった。
【0060】
鋳型にガスを吹き込む方法としてはCO2プロセスがある。この造型方法は水ガラスを主成分とする結合剤をあらかじめ砂あるいは砂の耐火物に配合し、通常の砂型と同様に突き固め炭酸ガスを吹き込んで鋳型を硬化させる方法でり、あくまでも鋳型を造形するのが目的であり、鋳型に吹き込んだガスで鋳造湯の清浄化や表面張力の低減効果を狙ったものではない。
【0061】
本塗型剤は塗型剤機能と鋳ぐるみフラックスとしての機能を有している。鋳ぐるみフラックスのメカニズムは次のようになる。鋳型内に注入した気化フラックスや塗型剤中の液体フラックスがハロゲンガスを発生させ鋳型内の空気を追い出し、鋳型内の水分を還元し2H↑とO↑の単体ガスにする。塗型剤中のフッ化物中のフッ素の分解により析出したフッ素ガス(F)は水分が分解して発生した水素と反応しフッ化水素ガス(FH)を作る。フッ化水素ガスは強い還元作用があり、鋳造湯を清浄化し表面張力除去をとして働くことで狭い隙間にも流れ込むため回収超硬ビットを鋳造湯のハイクロム鋳鉄にてロウ付けする超硬ビットと保持ピースの隙間は±1mm以内と非常に小さいが生まれるハロゲンガスがHFとなるため十分な清浄効果と表面張力除去によるロウ付けギャップとなりかつ湯流れをよくするため穴や凹凸のギャップ内に十分に入り込むため完全なる鋳ぐるみが可能であり、鋳型砂回収分解の際は水洗にてガラス質を溶解させることが可能のため砂の再生可能である。
【0062】
(実施例1)本発明者は特開2010−100441号広報にて開示している強磁場とバルス電流にて無機化合物を溶解する技術を応用して液体フラックスを生成する方法を発明した。本発明による塗型剤はこの液体フラックスと従来の塗型剤原料を混合して生成する。液体フラックスの化合物の種類と重量または容量は、ホウ酸(H3BO3):200g、グリセリン(C3H8O2):200cc、四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7):475g、エチレングリコール(C2H6O2):200cc、ホウフッ化カリウム(KBF4):100g、メタノール(CH3OH):500cc、ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6):50g、リン酸(H3PO4):100cc、メタノール(CH3OH):600cc、ケイフッ化水素(HSiF6):200cc、メタノール(CH3OH):1000ccである。固形物825g、液体2800ccであり濃度は29.46%(825/2800×100=29.46)である。元素割合は、Na:9.79%、K:3.76%、B13.09%、Si:3.05%、P:3.26%、H:1.57%、O:45.81%、F19.68%である。この液体フラックスを35%と従来の塗型剤原料(炭素(グラファイト)、ベンガラ(Fe2O3)、粘土(AL2O3.SiO2)などを任意に選択して混合したもの)65%を混合して塗型剤とした。この塗型剤を生砂鋳型に塗布して鋳造したところ従来の塗型剤を使用した場合と比較して鋳造物の欠陥率は5分の1程度であった。
【0063】
(実施例2)液体フラックスの化合物の種類と重量または容量は、ホウ酸(H3BO3):200g、グリセリン(C3H8O2):200cc、四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7):475g、エチレングリコール(C2H6O2):200cc、ホウフッ化カリウム(KBF4):100g、メタノール(CH3OH):500cc、ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6):50g、リン酸(H3PO4):100cc、メタノール(CH3OH):600cc、ケイフッ化水素(HSiF6):200cc、メタノール(CH3OH):1000ccである。固形物825g、液体2800ccであり濃度は29.46%(825/2800×100=29.46)である。元素割合は、Na:9.79%、K:3.76%、B13.09%、Si:3.05%、P:3.26%、H:1.57%、O:45.81%、F19.68%である。この液体フラックスを35%と従来の塗型剤原料(炭素(グラファイト)、ベンガラ(Fe2O3)、粘土(AL2O3.SiO2)などを任意に選択して混合したもの)65%を混合して塗型剤とした。まず、砂型鋳型に液体フラックスを気化して0.1MPaで吹き込んだ。次に砂型鋳型に塗型剤を塗布した。銅メッキの上にカニゼンメッキを施した超硬合金を砂型鋳型においてハイクロムを鋳込んだところハイクロムと超硬合金を拡散接合できた。しかも、従来の塗型剤を使用した場合と比較して鋳造物の欠陥率は5分の1程度であった。
【0064】
(実施例3)特開2010−100441号広報に開示した方法で第1の液体フラックス第2の液体フラックスを生成し、第1の液体フラックスと第2の液体フラックスを混合し第3の液体フラックスを生成する。本発明の塗型剤は第3の液体フラックスと従来の塗型剤原料を混合して生成した。第1の液体フラックスの化合物の種類と重量または容量は、塩化アルミニウム6水和物(AlCL・6H2O):30g、エチレングリコール(C2H6O2):100cc、クリオライト(3NaF・ALF3):30g、塩化リチウム(LiCL):11.2g、アセトン(C3H6O2):100ccである。第1の液体フラックスの元素割合は、Na:16.43%、AL:12.02%、H2.49%、O19.89%、F:27.15%、CL:22.03%である。第2の液体フラックスの化合物の種類と重量または容量は、(ホウ酸(H3BO3)+四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)):800cc(200g)、メタノール(CH3OH):200cc、ホウフッ化水(HBF):50cc(21g)、リン酸エタノール(P(CH3O)):200cc(44g)、トリメトキシボランメタノール(B(CH3O)3):200cc(144g)、メタノール(CH3OH):150ccである。上記のように生成した第2の液体フラックスに第1の液体フラックスを100cc(35.6g)とケイフッ化水素(H2SiF6):100cc(45g)、メタノール(CH3OH):100ccを加えて第3の液体フラックスを生成した。第3の液体フラックスに含有される元素と含有率は、Na:7.15%、Li:0.19%、Si:2.07%、AL:0.59%、B:11.84%、P:2.82%、CL:2.10%、F:12.37%、C:13.16%、H:4.15%、O:43.54%である。本発明の塗型剤は第3の液体フラックス35%と従来の塗型剤65%を混合したものであり、本発明の塗型剤を生砂鋳型に塗布して鋳造したところ従来の塗型剤を使用した場合と比較して鋳造物の欠陥率はやはり5分の1程度であった。本発明の塗型剤の機能は鋳型表面に多成分系ガラスを形成することである。本実施例による塗型剤ではB2O3、SiO2、P2O5の3種類のガラスを生成した。これらのガラス成分の単結合強度は、B2O3:119kcal/mol、SiO2:106kcal/mol、P2O5:88〜111kcal/mol、AL2O3:79〜101kcal/mol、ZrO2:81kcal/molである。ガラス強度は80kcal/mol以上の酸化物でないと鋳型強度を保持するための網目形酸化物とならないが、本発明の塗型剤の形成する多成分ガラスは強固な網目形酸化物を形成することができた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型用の塗型剤であって、アセトンやアルコールもしくはアセトンとアルコールを混合した溶媒に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、AL、S、Zn、Seの内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質を複数種類溶解し、最大35wt%濃度の液体フラックスを生成し、該液体フラックスを30〜40wt%と塗型剤原料を60〜70wt%とを混合したことを特徴とする塗型剤。
【請求項2】
前記溶媒は少なくともグリセリン(C3H8O3)もしくはエチレングリコール(C2H6O2)もしくはグリセリンとエチレングリコールを適宜混合したものと前記アセトンやアルコールを混合したものであることを特徴とする請求項1記載の塗型剤。
【請求項3】
前記塗型剤原料は製鉄転炉から発生するグラファイトを回収したものであり、該回収グラファイト60〜70wt%に対し前記液体フラックス30〜40wt%を配合したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗型剤。
【請求項4】
前記鋳型に前記液体フラックスを気化せしめた気化フラックスを注入した後に、前記鋳型に前記塗型剤を塗布することを特徴とする鋳造法。