説明

塗工用前処理物および塗工方法

【課題】塗膜終端部の液だれを抑制できる塗工用前処理物および方法を提供すること。
【解決手段】基材への間欠塗工において、基材に、基材の搬送方向下流側に純水に対する表面接触角が異なる値をとる表面処理域A5、B6、C7を順に設け、それら以外の表面処理域(それらの両端側域を含め)を表面処理域D8として設け、かつ表面処理域A〜Dの純水に対する接触角a、b、c、dをa<c、b<c、c≒dとし、さらに純水に対する表面接触角が異なる表面処理域A5、B6、C7のそれぞれの面積を、A>C>Bとして設けることで、塗膜終端部の液だれを抑制、低減させることを特徴とする塗工用前処理物及び塗工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布膜終端部の液だれを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に塗布膜になる液体状の材料、例えば印刷インキを各種の塗布方法、例えばスクリーン印刷法、マイクログラビア印刷法、グラビア印刷法、ブレード法、スロットダイ法、ロールコーティング法などによって基材上に印刷あるいは塗布して塗布膜を形成する。これらの塗工方法では、連続塗工を行うがどうしても基材と基材のつなぎ目が存在し、一時塗工を中断しなければならない場合がある。この時、塗工端部は塗液がたれる非定常部が発生するため、その非定常部が製品とならないため、歩留まりの悪化の一因となっている。
【0003】
特に間欠塗工と呼ばれる塗布方法では、塗布終端部が連続塗工に比べ、増加するためこの歩留まりの悪化が顕著に現れる。
【0004】
特許文献1は、機械的な手法によってこの問題を解決する方法が開示されている。しかしながら、機械的な手法では、塗工端部の非定常部の塗液挙動は制御できないという問題があった。
【0005】
特許文献2では撥水剤等を用いて液だれを抑制することが挙げられているが、この方法では撥水領域に塗液が付着した場合、液がそこに液滴として安定化していまい、別の問題を発生させるため、液だれと同じように生産性を低下させる危険性がある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−340338
【特許文献2】特開2009−283270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、塗工物の塗工端部に発生する液だれの抑制できる塗工用前処理物および塗工方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため本発明の特徴を以下に示す。
【0009】
第一の発明は、基材への間欠塗工において、基材に、基材の搬送方向下流側に純水に対する表面接触角が異なる値をとる表面処理域A、B、Cを順に設け、それら以外の表面処理域(それらの両端側域を含め)を表面処理域Dとして設けてなることを特徴とする塗工用前処理物である。
【0010】
第二の発明は、基材には、純水に対する表面接触角が異なる表面処理域A、B、Cのそれぞれの面積を、A>C>Bとして設けてなることを特徴とする塗工用前処理物であり、特に表面処理域Bが基材搬送方向下流側の表面処理域Aの終端より処理域Aの処理幅(基材搬送方向と直交方向への処理幅)と同幅で基材搬送方向下流方向に処理域Aの終端より0.1mm〜1mmの処理域)として設けてなることを特徴とする塗工用前処理物である。
【0011】
第三の発明は、その基材の表面接触角の異なる表面処理域A〜Dの純水に対する接触角a、b、c、dがa<c、b<c、c≒dであることを特徴とする塗工用前処理物である。
【0012】
第四の発明は、その基材の表面処理域Cの純水に対する接触角cが表面処理域Aの純水に対する接触角aの110%〜250%であることを特徴とする塗工用前処理物である。
【0013】
第五の発明は、その基材へ塗布膜を塗布するために使用する塗布液の粘度が、せん断速度1(1/秒)の時、5、000(ポイズ)以下であることを特徴とする本発明の塗工用前処理物への塗工方法である。
【発明の効果】
【0014】
第一の発明は、基材への間欠塗工において、基材に、基材の搬送方向下流側に純水に対する表面接触角が異なる値をとる表面処理域A、B、Cを順に設け、それら以外の表面処理域(それらの両端側域を含め)を表面処理域Dとして設けてなるものであり、表面処理域A上に塗膜を形成する際、表面処理域Aの搬送方向下流側の終端において、表面処理域BおよびCへの塗液の液だれを抑制することができる長所を有するものである。
【0015】
第二の発明は、基材には、純水に対する表面接触角が異なる表面処理域A、B、Cのそれぞれの面積を、A>C>Bとして設けてなるものであり、表面処理域A上に塗膜を形成する際、表面処理域Aの搬送方向下流側の終端において、表面処理域BおよびCへの塗液の液だれを抑制することができる長所を有するものである。
特に表面処理域Bの処理域を基材搬送方向下流側の表面処理域Aの終端より処理域Aの処理幅(基材搬送方向と直交方向への処理幅)と同幅で基材搬送方向下流方向に処理域Aの終端より0.1mm〜1mmの処理域)として設けることによって、表面処理域BとCの面積バランスにより、塗液の液だれが表面処理域BとCに残留するのを抑制することができる長所を有するものである。
【0016】
第三の発明は、その基材の表面接触角の異なる表面処理域A〜Dの純水に対する接触角a、b、c、dがa<c、b<c、c≒dであることを特徴とするものであり、特に表面処理域A〜Dの純水に対する接触角a、b、cのバランスにより、表面処理域A上に塗膜を形成する際、表面処理域Aの搬送方向下流側の終端において、表面処理域BおよびC上への塗液の球状または半球上の液だれ、残留を抑制することができる長所を有するものである。
【0017】
第四の発明は、その基材の表面処理域Cの純水に対する接触角cが表面処理域Aの純水に対する接触角aの110%〜250%であることを特徴とするものであり、さらに表面処理域BおよびC上への塗液の球状または半球上の液だれ、残留を抑制することができる長所を有するものである。
【0018】
第五の発明は、その基材へ塗布膜を塗布するために使用する塗布液の粘度を、せん断速度1(1/秒)の時、5、000(ポイズ)以下であることすることにより、さらに表面処理域BおよびC上への塗液の球状または半球上の液だれ、残留を抑制することができる長所を有するものである。
【0019】
本発明は、間欠塗工において塗工終端部に発生する液だれおよび非塗工部に残留する液滴を抑制することが可能であり、結果として歩留まりが良化することで生産性の向上が期待できる長所を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の塗布膜の定常部と液だれのイメージの一例を示す平面図
【図2】基材の純水との接触角の違う表面処理域のパターン例を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、従来の塗布膜2の定常部域3と液だれ4の一例を示す平面図である。基材表面の処理を行っていない場合、通常は図1のように、基材表面に塗布された塗布膜2の終端部(全面に塗工が行われている部分とそうでない部分の境界を呼んでいる。)から基材搬送方向下流側に液だれ4が存在し、このようになるのが通常である。
【0022】
図2は、本発明になる基材の純水との接触角の違う領域パターン例を示す平面図である。
基材上の5は表面処理域Aを示しており塗布膜が設けられる域である。6、7、8はそれぞれ表面処理域B、表面処理域C、表面処理域Dを示しており、液だれを防止するために設けられてある。
【0023】
また、せん断速度が1(1/秒)の時の塗布液の粘度が5、000(ポイズ)を超えると塗布液の流動性が低くなり過ぎて、表面処理を施したことによる効果が減滅してしまうため、5、000(ポイズ)以下の粘度が適している。
【0024】
表面処理の方法としては、前記のコロナ放電や大気圧プラズマを用いる方法以外
に、湿式の方法として鹸化処理を使用することができる。その他の表面改質が行われることに基づいている。従って、コロナ放電、大気圧プラズマ、鹸化に限定せず、同等の効果を持つ表面処理技術を適用できることは言うまでもない。
【0025】
同様に撥水処理に関しても、表面粗さ等の物理的な処理や撥水剤等を用いた化学的な表面処理技術を使っても差し支えない。
【0026】
さらに、純水に対する表面接触角の違う表面を同一基材上に3つ以上持っても問題ない。
【実施例】
【0027】
次に本発明の実施例について記するが、ここに記載した内容に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
基材 :ポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)
塗布液組成:シリカ粒子(トスパール1110、モメンティブ・パフォーマンス・マテ
リアルズ社製) 50重量部
増粘剤(サンローズ、日本製紙ケミカル社製) 1重量部
バインダー(SBR、日本ゼオン社製) 9重量部
純水 40重量部
表面処理域A作成
表面処理装置:コロナ放電処理装置(AGI−043、春日電機社製)
表面処理条件:標準条件として2×104J/m
表面処理域Bの作成
表面処理装置:コロナ放電処理装置(AGI−043、春日電機社製)
表面処理条件:標準条件として2×50J/m
表面処理域Cの作成
撥水剤の塗布:撥水剤(ディフェンサTR−330 DIC製)。
【0029】
上記の基材の表面は上記の表面処理を利用して、表面処理域Aの純水に対する接触角を100%とすると表面処理域Bは150%とし、塗膜の定常部終端部より0.5mmに形成し、表面Cは250%となるように予め調整し、処理を行った。その後、表面処理から60分以内に、上記の塗布液を、150mm×150mmのサイズの正方形のパターンを図2に示す位置関係で、10mmのパターン間距離を置いて形成した。その後、120℃、60分間、クリーンオーブンにて乾燥しサンプルを得た。
【0030】
このサンプルの終端部をマイクロスコープで観察し、基材終端部の全面塗布された位置を基準点と基材上流方向に液だれの長さを測定する。
【0031】
<実施例2>
基材の表面処理域Aを上記のコロナ放電処理装置を使用して2×104J/mを標準条件として、表面処理域Aの純水に対する接触角に対して表面処理域Bの接触角120%、表面処理域Cの接触角の170%になるように予め調整し処理した。それ以外の条件は実施例1と同じである。
【0032】
<実施例3>
基材の表面処理域Bを上記のコロナ放電処理装置を使用して2×104J/m標準条件として、それより弱い条件にて、表面処理域Aの純水に対する接触角100%とし、表面処理域Bの純水に対する接触角の110%、表面処理域Cの純水に対する接触角が120%になるように予め調整し処理した。それ以外の条件は実施例1と同じである。
【0033】
<比較例1>
次に、比較例について説明する。
基材前面を表面処理域Aの純水に対する接触角と同等になるように予め調整し処理した。それ以外の条件は実施例1と同じである。
【0034】
<比較例2>
基材の表面処理域Aの純水に対する接触角を100%としたときに、表面処理域B及びCが250%となるように予め調整し処理した。それ以外の条件は実施例1と同じである。
【0035】
実施例1〜3、比較例1〜2の測定結果を表1にまとめて示した。液だれ部の長さについて評価し、液だれが0.5mm以下◎、1mm以下を○、1mm以上のものを×とした。
また備考は液だれ以外の問題点について記載する。
【0036】
【表1】

【符号の説明】
【0037】
1・・・基材
2・・・塗布膜
3・・・定常部
4・・・液だれ部
5・・・基材表面処理域A
6・・・基材表面処理域B
7・・・基材表面処理域C
8・・・基材表面処理域D

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材への間欠塗工に用いられ、基材に、基材の搬送方向下流側に純水に対する表面接触角が異なる値をとる表面処理域A、B、Cを順に設け、それら以外の表面処理域(それらの両端側域を含め)を表面処理域Dとして設けてなることを特徴とする塗工用前処理物。
【請求項2】
基材には、純水に対する表面接触角が異なる表面処理域A、B、Cのそれぞれの面積を、A>C>Bとして設けてなることを特徴とする請求項1に記載の塗工用前処理物。
【請求項3】
基材の表面接触角の異なる表面処理域A〜Dの純水に対する接触角a、b、c、dがa<c、b<c、c≒dであることを特徴とする請求項1または2に記載の塗工用前処理物。
【請求項4】
表面処理域Cの純水に対する接触角が表面処理域Aの純水に対する接触角の110%〜250%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗工用前処理物。
【請求項5】
基材の表面処理域A上に塗布膜を塗布するために使用する塗布液の粘度が、せん断速度1(1/秒)の時、5、000(ポイズ)以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塗工用前処理物を用いた塗工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−55866(P2012−55866A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204010(P2010−204010)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】