説明

塗工紙

【課題】本発明は、坪量が30g/m以上50g/m未満と軽量でありながら、印刷を行った後も局所的に印刷インキが裏抜けすることなく、印刷見栄えに優れた塗工紙を得ることを課題とする。
【解決手段】基紙および基紙上に顔料と接着剤を主成分とする塗工層を設けた、坪量が30g/m以上50g/m未満の塗工紙であり、前記基紙中に、製紙スラッジを主原料とする被処理物を脱水および熱処理して得られた再生粒子を含有し、前記熱処理が、脱水後の被処理物を乾燥する乾燥工程と、第1の熱処理工程と、第1の熱処理温度を超える温度で熱処理する第2の熱処理工程と、第2の熱処理温度を超える温度で熱処理する第3の熱処理工程と、を含む少なくとも4工程であり、前記塗工層の表面の顔料粒子を、電子顕微鏡で撮影して測定した粒子径において、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の顔料粒子が、全体の3%以上40%未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坪量が30g/m以上50g/m未満と軽量でありながら、印刷を行った後も局所的に印刷インキが裏抜けすることなく、印刷見栄えに優れた塗工紙に関する。さらには、不透明度、白色度および印刷光沢度(特に白紙光沢からの上昇幅)に優れた塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源化による環境負荷の低減、二酸化炭素排出量の削減の取り組みから、紙分野においては、従来と同程度の品質でありながら、より軽量である紙が求められている。塗工紙分野においては、軽量化を行っても印刷時に断紙しない程度の引張強度や、高精細な印刷物を得るための白色度、不透明度、白紙光沢度が重要であり、印刷後の印刷物においては印刷不透明度、印刷光沢度、裏抜け、印字濃度(着肉性)などの品質を満足する必要がある。加えて、印刷時にパイリング(紙紛)が発生しない程度の表面強度が求められている。
【0003】
塗工紙は、塗工液の塗工量や塗工層表面の平坦化処理の度合い、要求品質に応じて、アート紙(A1グレード)、塗工紙(A2グレード)、軽量塗工紙(A3グレード)、微塗工紙に分類され、A1グレードの塗工紙は、高級美術書や、雑誌の表紙、口絵、カレンダー、ポスター、ラベル、煙草包装用などの、高精細な印刷を要求されるものに使用され、A2グレードの塗工紙はカタログ、パンフレット等の見栄えが必要とされる商業印刷等に使用され、A3グレードの塗工紙および微塗工紙は、チラシ等の商業印刷等に利用されている。
【0004】
近年の不況下において、より安価な塗工紙に対する要求が高くなっている。より安価な紙とは、単位面積あたりの重量(坪量)が少ない紙である。A3グレードおよび微塗工紙においては、現在51.2g/m〜79.1g/mの坪量が一般的であり、チラシやダイレクトメール用途においては、更に軽量な48g/m〜51.2g/m程度の微塗工紙が使用されている。しかしながらこれら坪量が50g/m未満の微塗工紙は、紙厚が薄いことに加え、塗工量を低減しているため被覆性が低く、印刷インキが塗工層を通過して基紙内部にまで浸透しやすい問題がある。このため、塗工層の一部に印刷インキが浸透しやすい部分が発生しやすくなり、この部分において印刷インキが基紙を透過し裏面塗工層にまで浸透して、局所的なインキの裏抜けが発生する問題がある。この局所的な裏抜けが発生すると、裏面の印刷品質が低下して見栄えが悪い印刷物となる。
【0005】
基紙の坪量を増加させることで、上述した局所的な裏抜けを改善することも可能だが、坪量を例えば50g/m未満に抑えるためには、その分塗工量を低減しなくてはならず、印刷インキの着肉ムラが発生しやすくなり、印刷物の見栄えが逆に悪化する問題がある。着肉ムラが発生しないようにするためには、塗工量は片面あたり5g/m以上必要であり、そうすると基紙の坪量は20g/m以上40g/m未満となる。この範囲にまで低い基紙坪量を有する塗工紙において、充分に局所的な裏抜けを防止する技術は見出されていない。
【0006】
坪量が30g/m以上50g/m未満、基紙坪量が20g/m以上40g/m未満の塗工紙において裏抜けを防止するために、基紙に使用するパルプとして、不透明度が高い機械パルプを含有させる方法が開示されている(特許文献1を参照)が、ピッチ分が多い機械パルプを配合すると、ピッチ部分において強度低下が発生し、このピッチ周辺の強度低下部分において破れが生じて印刷時に断紙する場合がある。加えて、塗工層表面に機械パルプの硬い繊維に起因する毛羽立ちやラフニング(印刷後に繊維が浮き出る)などが発生し、印刷後の見栄えが悪い塗工紙となる。
【0007】
また、填料として高不透明度を有する酸化チタンを基紙に含有させる方法があるが、二酸化チタンを含有させるとコストが上昇し採算性が悪化する問題がある。高不透明度かつ高吸油度を有する、製紙スラッジ由来の再生粒子を基紙に含有させる方法(特許文献2〜15を参照)があるが、製紙スラッジ由来の再生粒子は製紙スラッジ中の無機成分(カルシウム、アルミニウム、マグネシウム等)の割合が変動するため、製紙スラッジ中の有機物質を除去するための焼成工程や炭化工程などの熱処理工程において、局所的に加熱されやすい部分ができ、ゲーレナイトやアノーサイト等の硬質物質が発生する問題がある。この硬質物質は上記の無機成分が溶融して固着しているためインキ吸収性が低い。硬質物質が基紙に含有された場合、インキ吸収性が高い再生粒子の中に、インキ吸収性が低い硬質物質部分が点在することになり、不透明性や印刷インキ吸収性に局所的なムラが発生する問題があった。この硬質物質部分が存在するムラ部分で、特に印刷インキが基紙を透過して裏面塗工層にまで印刷インキが浸透し、裏抜けが発生する問題が発生する。
つまり、坪量50g/m未満の塗工紙では、基紙に製紙スラッジ由来の再生粒子を含有させた場合、上述の塗工層の低下による被覆性の低下とあいまって、特に印刷インキの浸透による、裏抜けが発生しやすい問題があった。
【0008】
また、填料として不透明度が高い紡錘凝集型軽質炭酸カルシウムまたは針状凝集型軽質炭酸カルシウムを含有させる方法(特許文献16を参照)が開示されているが、これら複雑な形状を有する高不透明度填料は、パルプ繊維同士の水素結合を阻害しやすいため引張強度が低下しやすく、印刷時に断紙が発生しやすくなる。特に本発明のごとく坪量が30g/m以上50g/m未満、特に基紙坪量が20g/m以上40g/m未満と軽量な塗工紙においては、充分に断紙を防止できなかった。
【0009】
顔料として、脱墨フロスを主原料に製造し、カルシウム、ケイ素およびアルミニウムを主成分とする、高不透明度を有する再生粒子を塗工層に含有させる技術が開示されているが(特許文献17を参照)、これら再生粒子を塗工層に含有させると、上述の基紙に含有させる場合と同様に、局所的に印刷インキの透過性が低くなる部分が発生し、局所的な裏抜けや不透明度向上効果および断紙防止効果を得ることはできなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2005−154951号公報
【特許文献2】特開2007−146354号公報
【特許文献3】特許第4153411号公報
【特許文献4】特許第3563707号公報
【特許文献5】特開2001‐262002号公報
【特許文献6】特開2002‐308619号公報
【特許文献7】特許第4105564号公報
【特許文献8】特開2004‐176209号公報
【特許文献9】特開平10‐029818号公報
【特許文献10】特許第3831719号公報
【特許文献11】特開平11‐310732号公報
【特許文献12】特開2001‐026727号公報
【特許文献13】特開2008‐207173号公報
【特許文献14】特開2008‐127704号公報
【特許文献15】特開2008‐190049号公報
【特許文献16】特開2008−274523号公報
【特許文献17】特開2007−197888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、坪量が30g/m以上50g/m未満と軽量でありながら、印刷を行った後も局所的に印刷インキが裏抜けすることなく、印刷見栄えに優れた塗工紙を得ることを課題とする。さらには、不透明度、白色度および印刷光沢度(特に白紙光沢からの上昇幅)に優れた塗工紙を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
基紙および基紙上に顔料と接着剤を主成分とする塗工層を設けた、坪量が30g/m以上50g/m未満の塗工紙であり、
前記基紙中に、製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理して得られた再生粒子を含有し、
前記熱処理は、前記脱水後の被処理物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥工程で乾燥された被処理物を熱処理する第1の熱処理工程と、この第1の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第1の熱処理温度を超える温度で熱処理する第2の熱処理工程と、この第2の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第2の熱処理温度を超える温度で熱処理する第3の熱処理工程と、を含む少なくとも4工程に分けて行っており、
前記塗工層の表面の顔料粒子を、電子顕微鏡で撮影して測定した粒子径において、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の顔料粒子が、全体の3%以上40%未満とする。
【0013】
好ましくは、前記顔料としてさらに、前記塗工層の表面の顔料粒子を、電子顕微鏡で撮影して測定した粒子径において、粒子径0.9μm以上1.5μm未満の有機顔料を含有し、
前記粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子に対する前記有機顔料の割合を1〜4とする。
【0014】
好ましくは、前記基紙の灰分が8〜15質量%であり、前記塗工層が両面あたり8g/m以上14g/m未満とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、坪量が30g/m以上50g/m未満と軽量でありながら、印刷を行った後も局所的に印刷インキが裏抜けすることなく、印刷見栄えに優れた塗工紙を得ることができる。さらには、不透明度、白色度および印刷光沢度(特に白紙光沢からの上昇幅)に優れた塗工紙を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】再生粒子の製造設備フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(パルプ)
本発明では、一般に製紙用途で使用される化学パルプや機械パルプ、脱墨古紙パルプを用いることができる。このなかでも機械パルプを用いると、不透明度を向上させつつ白色度の低下を最小限に抑えることができるため好ましい。
【0018】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等が挙げられる。この中でもサーモメカニカルパルプを用いると、異物が少なく繊維同士の強度低下が少ないため、本発明のごとく坪量が30g/m以上50g/m未満の塗工紙においては、断紙を防止しやすいため好ましい。
【0019】
機械パルプを含有させ、高い不透明度向上効果および白色度低下効果を得るためには、機械パルプを全パルプのうち質量換算で5〜40質量%含有させることが好ましく、さらには15〜25質量%含有させることが好ましい。機械パルプ含有量が5質量%を下回ると、白紙不透明度や印刷不透明度が低下しやすいだけでなく、印刷後に裏抜けが発生しやすくなる。40質量%を超過すると不透明度は向上しやすいが、白色度、着肉ムラ、印刷光沢度が低下しやすいため好ましくない。
なお、本発明で言う機械パルプの含有量とは、JIS P 8120(1998)紙、板紙及びパルプ−繊維組成試験方法に準拠してC染色液を用いた判別法により判別した機械パルプの繊維配合率を指す。この場合、脱墨古紙パルプ由来の機械パルプも含有されるが、本発明で言う機械パルプ含有量とは、この古紙由来の機械パルプも含むものである。
【0020】
機械パルプ以外には、従来一般に製紙用途で使用される化学パルプを使用することが好ましい。
【0021】
化学パルプとしては、例えば、未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等を原料パルプとして使用することができる。より白色度の高い塗工紙を得るためには、晒パルプであるNBKP、LBKPを用いることが好ましい。
【0022】
但し、NBKPは機械パルプに比べて不透明度が低いため、塗工紙の不透明度を向上させるために含有量は40質量%を上限とすることが好ましく、NBKPを含有させ引張強度を向上させるために下限は15質量%であることが好ましい。含有量が15質量%を下回ると、本発明のごとく坪量が30g/m以上50g/m未満と低い塗工紙においては、引張強度が低下しやすく印刷時に断紙する可能性がある。40質量%を超過すると白紙不透明度および印刷不透明度が低下しやすく、裏面の印刷が透けて見えるため、印刷後の見栄えに劣る塗工紙となりやすい。
【0023】
また、化学パルプや機械パルプを使用した古紙から再生される古紙パルプも使用することができ、例えば、雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙等から製造される離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等が挙げられる。但し、一般に古紙パルプは白色度が低く不透明性も機械パルプに劣るため、多量に含有させることは好ましくない。
【0024】
さらに、本発明に用いるパルプは、塗工紙をJIS P 8220:1998「パルプ−離解方法」で離解して得られたパルプ繊維について、FiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した中心線繊維長を繊維長とし、このパルプ繊維について、重さ加重の繊維長分布を求め、繊維長0.05mmごとに集計し、繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲に最大値を有するパルプであることが好ましい。特に好ましくは0.20mm以上0.55mm未満の範囲に最大値を有することが好ましい。パルプ繊維の繊維長分布における最大値をこの範囲内とすることで、パルプ繊維同士の絡み合いが良好となり、坪量が30g/m以上50g/m未満と基紙のパルプ量が少ない塗工紙であっても充分なインキ吸収性が得られるため、局所的なインキの裏抜けを防止しやすくなる。後述するが、本発明のごとく基紙に再生粒子を含有すると、硬質物質が混入する可能性があるが、その場合でも繊維長分布の最大値を上記範囲内とすることで、繊維同士の充分な絡み合いが得られ、基紙そのものの印刷インキ吸収性が高くなり、印刷インキが基紙を通過しにくくなるため、より局所的なインキの裏抜けを防止しやすいため好ましい。
【0025】
繊維長0.15mm未満の繊維が多く、繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲に最大値を有していない場合は、微細繊維が多いため表面強度が低下しやすく、パイリングが発生しやすいため好ましくない。繊維長0.60mm以上の繊維が多く、繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲に最大値を有していない場合は、長繊維が多いため不透明度が低下しやすいだけでなく、裏抜けも防止しにくくなる。
【0026】
繊維長0.10mm以上0.65mm未満の範囲に最大値を有するパルプ繊維を好適に得るには、従来一般に使用されている叩解方法を用いてフリーネスを調整すれば良く、例えばビーター、コニカルリファイナー、円筒型リファイナー、ディスクリファイナー(SDR、DDR)を用いることができる。例えばTMPの場合、DDRを用いてフリーネスを約30〜300mlにまで叩解すれば良い。叩解して得られたパルプ繊維は、異なる繊維長を有する他のパルプと混合して用いることもでき、その場合は混合後のパルプ繊維が、離解後の繊維長で0.15mm以上0.60mm未満の範囲に最大値を有するよう、繊維長の異なる他のパルプとの配合割合を調整すれば良い。
【0027】
(填料)
本発明においては、填料として、製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理して得られた再生粒子を含有する。この熱処理は、前記脱水後の被処理物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥工程で乾燥された被処理物を熱処理する第1の熱処理工程と、この第1の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第1の熱処理温度を超える温度で熱処理する第2の熱処理工程と、この第2の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第2の熱処理温度を超える温度で熱処理する第3の熱処理工程と、を含む少なくとも4工程に分けて行う。この少なくとも4工程の熱処理を行うことで、再生粒子に含まれるゲーレナイトやアノーサイト等の、インキ吸収性に劣る硬質物質を低減することができるため、得られる塗工紙においても、印刷インキが基紙を透過して裏面塗工層にまで浸透することを防止でき、より局所的な裏抜けを防止した塗工紙が得られる。本発明においては、この硬質物質を好ましくは再生粒子100質量部に対して1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下とすることで、より局所的なインキ裏抜けを防止した塗工紙が得られやすいため好ましい。特に、インキ吸収性が高い凝集体状炭酸カルシウムを上記再生粒子と併用すると、基紙におけるインキ吸収性を均一に高めることができ、局所的なインキ透過性を抑制でき、局所的なインキ裏抜けを防止しやすいため好ましい。
【0028】
(再生粒子)
例えば、製紙用スラッジを燃焼する場合、当該製紙用スラッジに含有される有機物は、出所の違いや製紙工場内での抄造品種、定期修理や生産変動などにより多様に変化し、その品質変動が製紙スラッジの熱量変動を招き、燃焼温度の変動、燃焼時間の変動を来たし、最終的に得られる燃焼物(再生粒子)の品質、特に性状が一定でなく、燃焼物の白色度が不均一となる。
【0029】
そこで、本発明者らは、製紙スラッジの熱量変動を所定の範囲に調整し、燃焼温度の変動、燃焼時間の変動を生じさせないで、品質の安定した再生粒子を得る手段について検討を重ね、製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理、適宜粉砕して再生粒子を製造するにあたり、「前記熱処理を、前記脱水後の被処理物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥工程で乾燥された被処理物を熱処理する第1の熱処理工程と、この第1の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第1の熱処理温度を超える温度で熱処理する第2の熱処理工程と、この第2の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第2の熱処理温度を超える温度で熱処理する第3の熱処理工程と、を含む少なくとも4工程に分けて行う」ことで、品質が均一化した再生粒子を安定的に製造できることを見出し、この再生粒子を基紙中に含有させることで、インキ吸収性の低い硬質物質に起因する、局所的な裏抜けを防止できることを見出したものである。
【0030】
このように乾燥の方式を、「脱水後の被処理物を熱気流に同伴させて乾燥する方式(以下、単に「気流乾燥方式」ともいう。)」とすると、乾燥に伴って被処理物が解れやすく、後段で行う熱処理が均一かつ確実に行われやすくなり、品質が均一化した再生粒子を安定的に製造できるようになるため好ましい。
【0031】
この点、乾燥に先立って後段の熱処理に好適な状態となるまで被処理物を均一に解すのは、現実的には困難である。また、乾燥に先立って被処理物を解すのであれば、脱水率を高めておく必要があるが、脱水率を高めると被処理物が高圧縮化され、被処理物の乾燥効率が部分的に低下するおそれがあり、乾燥処理の不均一化、ひいては製品の不均一化をまねくおそれがある。他方、乾燥後に被処理物を解すのでは、不均一な状態にある被処理物を乾燥することになるため、乾燥が均一に行われなくなり、熱処理も均一に行われなくなる。結果、品質が均一化した再生粒子を安定的に製造できなくなる。
【0032】
一方、本発明において、後段の熱処理を複数の工程に分ける利点は、以下のとおりである。
製紙スラッジは、各種有機物(有機成分)を含有し、この有機物のなかには、紙由来の220℃近傍で発熱量のピークをもつアクリル系有機物、320℃近傍で発熱量のピークをもつセルロース、420℃近傍で発熱量のピークをもつスチレン系有機分が含まれ、古紙等の出発原料の種類や量により変動幅が大きいものの、例えば、1000〜2000cal/gの発熱量を有する。従来の再生粒子の製造方法においては、これらの有機分を、燃焼工程(酸化工程)において、他の有機分と一緒に燃焼(酸化)させて除去する方策が取られていた。しかしながら、本発明者等は、以上の各有機物が上記温度の近傍で発熱量のピークをもつ発熱量が高い物質であること、200〜300℃で熱分解される有機分を燃焼させる際に発火・過燃焼が生じ、燃焼制御が困難となり、白色度の低下のみならず、ゲーレナイトやアノーサイトからなる硬質物質の生成をまねくことを見出し、まず、第1の熱処理工程において、所定の高発熱量成分(アクリル系有機物及びセルロース)を被処理物中から、熱処理除去することで、過燃焼を抑え、硬質物質の生成を抑制できることを見出した。
【0033】
また、第1の熱処理工程と第2に熱処理工程とを別々に設ける利点は、従来の再生粒子の製造方法においては、被処理物中の微細繊維や有機高分子であるラテックス、印刷により付与されたインキ成分等を効率よく燃焼させるために、水分率を40%未満に脱水及び乾燥させ、高温で熱処理する方法を採用していた。しかしながら、本発明の製造方法においては、上記したように第1の熱処理工程において被処理物中の200〜300℃で熱分解・揮発蒸散する有機物をガス化してしまうため、第2の熱処理工程においては、安定的に熱処理を進行させることができ、被処理物の過燃焼や微粉化が抑制される。また、第1の熱処理工程と第2の熱処理工程とを分け、第1の熱処理工程において被処理物に含まれるアクリル系有機物及びセルロースを熱分解ガス化し、第2の熱処理工程において被処理物に含まれるスチレン系有機物を熱分解ガス化することで、得られる再生粒子の品質安定化、白色度向上に対する寄与が大きく、均一かつ安定的に再生粒子を得ることができる。このようにして、第3の熱処理工程においては、被処理物中の残カーボン等を含む有機物を、効率良く熱処理除去することができ、また、過燃焼によって生じる硬質物質の生成を抑えることができる。さらに、セルロースの熱分解ガスの発火温度はスチレンの熱分解温度を下回るため、第1の熱処理工程においてセルロースを熱分解除去してしまい、スチレンは第2の熱処理工程において熱分解するのが好適であり、ここにも第1の熱処理工程と第2に熱処理工程とを別々に設ける利点が存在する。
【0034】
ところで、本発明においては、乾燥工程を除く各熱処理工程において、キルン炉を用いるのが好適である。この理由は、次のとおりである。
従来から慣用的に用いられてきた熱処理炉は、ストーカー炉(固定床)、流動床炉、サイクロン炉、キルン炉の4種に大別でき、本発明者等は、それぞれの熱処理炉で再生粒子の製造の検討を重ねたところ、次記の事項が明らかとなった。
【0035】
ストーカー炉(固定床)は、脱墨フロス等の製紙スラッジの燃焼度合い調整が困難であり、再生粒子が不均一となるうえに、灰分の多い脱墨フロスの熱処理では、火格子間のクリアランスから落塵を生じる。火格子を通し被処理物の下から空気を吹き上げ、燃焼させるため、炭酸カルシウムなどが飛灰となり排ガスとともに排ガス設備へ送られ、歩留りの低下が問題となる。ストーカ(階段状)を、所定幅で被処理物を通過させながら熱処理するため、撹拌が不十分で幅方向で熱処理にバラツキが発生する。
【0036】
流動床炉は、炉内において珪砂等の粒子状の流動媒体を使用するため、珪砂等が被処理物中に混入し、品質の低下をまねく問題や、均一な撹拌ができないとの問題を有する。硅砂等を流動層に混合して熱処理させた後、硅砂等と被処理物とを分離し、硅砂等は炉内へ戻し被処理物のみを取り出すが、被処理物も硅砂等と同程度の粒子径であるため分離が困難である。被処理物を硅砂等と浮遊した状態で熱処理させるため、熱処理の度合い調整が困難であり、品質のばらつきが発生する。硬度の高い珪砂等との摩擦、衝突により被処理物が微粉化され飛灰となって系外へ排出され歩留りが低下する。
【0037】
サイクロン炉は、被処理物が炉内を一瞬で通過するため、被処理物中の有機物を十分に熱処理することができず、白色度の低下に繋がる。また、風送によるため、細かい粒子がサイクロンで分離されず、排ガスと一緒に排ガス処理工程に回るため歩留りが低下する。
【0038】
以上の諸問題について鋭意検討を重ねた結果、本発明の乾燥工程を除く熱処理工程においては、内熱又は外熱キルン炉が好適な熱処理手段として選択された。
【0039】
〔本発明の形態例〕
次に、本発明の実施の形態を、再生粒子の製造設備フローの一部構成例を示した図1を主に参照しながら説明する。なお、本製造設備には、各種センサーが備わっており、被処理物10や設備状態の確認、処理速度の制御等を行うことができる。
【0040】
(被処理物)
本形態の被処理物10は、製紙スラッジを主成分(50質量%以上)とする。当該製紙スラッジは、例えば、パルプ等の繊維成分、澱粉や合成樹脂接着剤等の有機物、添料や塗工用顔料等の無機物などが利用されずに廃水中へ移行したもの、パルプ化工程等で発生するリグニンや微細繊維、古紙由来の填料や印刷インキ、生物廃水処理工程から生じる余剰汚泥などからなる。また、例えば、古紙パルプ製造工程において印刷インキ等を除去する脱墨工程や製紙用原料を回収して洗浄する洗浄工程に由来する固形成分等を含有していてもよい。
【0041】
ただし、古紙パルプ製造工程においては、安定した品質の古紙パルプを連続的に生産するために、選定、選別を行った一定品質の古紙を使用する。そのため、古紙パルプ製造工程に持ち込まれる無機物の種類や比率、量等は、基本的に一定になる。しかも、本形態の再生粒子の製造方法において未燃率の変動要因となるビニールやフィルム等のプラスチック類が、古紙中に含まれていても、これらは脱墨フロスが生成される脱墨工程に至る前段階の例えば、パルパーやスクリーン、クリーナー等で除去される。したがって、工場排水工程や製紙原料調成工程等の他の工程で発生する製紙スラッジと比べて、脱墨フロスは、極めて安定した品質の再生粒子を製造するための被処理物10の好適な原料となる。
【0042】
また、被処理物10中に鉄分が含まれていると、当該鉄分の酸化により得られる再生粒子の白色度が低下するおそれがあるため、当該鉄分はあらかじめ選択的に取り除くのが好ましい。さらに、各工程に用いる装置は、鉄以外の素材で設計、ライニングし、摩滅等によって鉄分が系内に混入するのを防止するとともに、各装置内等に磁石等の高磁性体を設置しておき、選択的に鉄分を除去するのが好ましい。
【0043】
(脱水工程)
被処理物10は、例えば、公知の脱水装置を用いて、脱水する。本形態においては、被処理物10を、例えば、スクリーンによって水分率65〜90%まで脱水し、次いで、スクリュープレスによって水分率30〜60%まで、好ましくは30〜50%まで、より好ましくは35〜45%まで脱水する。
ここで水分率は、定温乾燥機を用い、乾燥機内に試料(被処理物)を静置し、約105℃で6時間以上保持することで重量変動を認めなくなった時点を乾燥後重量とし、下記式にて乾燥前後の重量測定結果より算出した値である。
水分率(%)=(乾燥前重量−乾燥後重量)÷乾燥前重量×100
【0044】
脱水後の被処理物10の水分率が60%を超えると、乾燥装置60における乾燥のためのエネルギーロスが大きくなる。しかも、乾燥装置60における乾燥温度の変動が大きくなるため、乾燥ムラが生じるおそれがある。さらに、乾燥が十分に進む前に被処理物10が乾燥装置60から排出されてしまうため、被処理物10が十分に解れないおそれや、第1の熱処理炉42におけるエネルギーロスの原因、熱処理変動の原因などとなるおそれがある。
他方、脱水後の被処理物10の水分率が30%未満となるまで脱水をすると、被処理物10が高圧縮により、いわば固まった状態となるため、乾燥装置60において被処理物10が解れないおそれがある。
また、本形態のように被処理物10の脱水を多段で行い、急激な脱水を避けると、無機物の流出を抑制することができ、しかも、被処理物10のフロックが硬くなり過ぎるのを抑制することができる。
【0045】
本脱水工程においては、被処理物10を凝集させる凝集剤等の助剤を添加し、脱水効率の向上を図ることもできる。ただし、助剤としては、鉄分を含まないものを使用するのが好ましい。鉄分を含むと、当該鉄分の酸化により、得られる再生粒子の白色度が低下するおそれがある。
【0046】
本脱水工程の装置は、他の工程の装置に隣接して設けると生産効率の面で好ましいが、古紙パルプ製造工程の装置等に隣接して設け、脱水した被処理物10をトラックやベルトコンベア等の搬送手段によって搬送し、貯槽12や乾燥装置60に供給することもできる。
【0047】
(解し工程)
脱水後の被処理物10は、貯槽12から切り出し、乾燥工程に送り、乾燥することができる。ただし、この乾燥をするに先立って、例えば、撹拌機や機械式ロール等によって、粒子径50mm以上の割合が、30〜70質量%となるように、好ましくは40〜70質量%となるように、より好ましくは50〜70質量%となるように解して(ほぐして)おくと好適である。
ここで「粒子径50mm以上の割合」は、被処理物全体の重量を100とした場合に、目穴50mmの篩を通過しなかった試料の重量割合である。この測定に際しては、JIS Z 8801‐2:2000に基づき、金属製の板ふるいを用いる。
【0048】
乾燥する際の被処理物10には、大きな粒子径の被処理物が存在しない方が好ましく、具体的には粒子径50mm以上の割合が70質量%以下であるのが好ましい。もっとも、乾燥工程においてロータリーキルン等を用いず、乾燥装置60を用いた場合、被処理物10を過度に解す必要はなくなり、粒子径50mm以上の割合が30質量%未満となるまで解さなくとも、十分に均質な製品を得ることができるため好ましい。
なお、被処理物10が、脱水後において既に「粒子径50mm以上の割合が70質量%以下」となっている場合は、解し工程を省略することもできる。この場合は、脱水後の被処理物10を、そのままの状態で「粒子径50mm以上の割合が70%以下」の被処理物10として、乾燥工程に送ることができる。
【0049】
(乾燥工程)
脱水後の被処理物10は、適宜解し等した後、乾燥工程に備わる乾燥装置60に供給する。本形態においては、この乾燥装置60として、被処理物10を熱気流に同伴させて乾燥する「気流乾燥装置」を用いることが好ましい。気流乾燥装置を用いると、被処理物10が、乾燥されるのと同時に、圧縮力が加えられることなく大きな分散力(被処理物10を分散させる力)のもとで均一に解されるため、後段で行う熱処理(特に第1の熱処理)が均一かつ確実に行われやすくなり、品質が均一化した再生粒子を安定的に製造しやすくなる。
【0050】
乾燥装置60としては公知の乾燥装置を用いることができるが、この中でも被処理物10を熱気流に同伴させて乾燥することができる気流乾燥装置を用いることが好ましく、例えば、新日本海重工業社製の商品名:クダケラ等の公知の装置のほか、これらを改良した気流乾燥装置等を用いることが好ましい。
乾燥装置60として気流乾燥装置を用いた場合について説明する。乾燥装置60は、貯槽12から脱水後の被処理物10が供給されるととともに、バーナー47Aが備わる熱風発生炉47から熱風が吹き込まれ、この吹き込まれた熱風によって生じる熱気流に供給された被処理物10が同伴するように構成されている。したがって、例えば、熱風の温度や流量、流速等を調節して熱気流を制御することにより、被処理物10の乾燥状態や解れ状態を調節することができる。
この熱気流の制御は、乾燥工程において粒子径50mm以上の被処理物10が存在しなくなるように、かつ被処理物10の平均粒子径が1〜7mmとなるように、好ましくは1〜5mmとなるように、より好ましくは1〜3mmとなるように行うと好適である。
【0051】
ここで、被処理物10の「平均粒子径」は、目穴の異なる篩で篩い分けを行い、各篩い分けを行った被処理物の質量を測定し、この測定値の合計値が全体の50質量%に相当する段階における篩の目穴の大きさであり、JIS Z 8801‐2:2000に基づき、金属製の板ふるいを用いて測定した値である。なお、被処理物10の「粒子径50mm以上の割合」は、前述したとおりである。
被処理物10の平均粒子径が1mm未満であると、第1の熱処理において過剰な熱処理が生じ易くなる。他方、被処理物10の平均粒子径が7mmを超え、あるいは粒子径50mm以上の被処理物10が存在すると、被処理物10を表面部から芯部まで均一に熱処理するのが困難になる。
【0052】
本形態において、熱気流の温度は、特に限定されるものではないが、熱風発生炉47からの熱風の温度を200〜600℃とし、かつ乾燥装置60からの排ガスの温度が500℃以下となるように制御するのが好ましく、熱風発生炉47からの熱風の温度を300〜500℃とし、かつ乾燥装置60からの排ガスの温度が400℃以下となるように制御するのがより好ましく、熱風発生炉47からの熱風の温度を300〜400℃とし、かつ乾燥装置60からの排ガスの温度が300℃以下となるように制御するのが特に好ましい。
この形態によると、わずか1〜3秒で被処理物10の水分率が、好ましくは0〜5%になるまで、より好ましくは0〜3%になるまで、特に好ましくは0〜1%になるまで乾燥することができる。しかも、この乾燥は、熱気流によって被処理物10が解されながら行われるため、被処理物10全体にわたって均一な水分率である。加えて、被処理物10は、水分が蒸発した次の瞬間には乾燥装置60から排出されているため、意図しない有機物の熱分解・燃焼等の熱処理が生じるおそれもない。
【0053】
(第1の熱処理工程)
乾燥後の被処理物10は、第1の熱処理工程に送られ、乾燥や熱分解等の熱処理をされる。
第1の熱処理工程においては、被処理物10が装入機41によって第1の熱処理炉42に装入される。この第1の熱処理炉42としては、公知の熱処理炉を使用することができ、例えば、流動床炉、ストーカー炉、サイクロン炉、半乾留・負圧燃焼式炉等を用いることができる。
【0054】
しかしながら、本形態の第1の熱処理炉42は、炉本体が横置きで中心軸周りに回転する外熱キルン炉である。この第1の熱処理炉42としては、外熱キルン炉に変えて内熱キルン炉や、内熱及び外熱の併用キルン炉を用いることも可能であるが、本形態のように外熱キルン炉を用いるのが好ましい。第1の熱処理工程において、脱水後の被処理物10を直ちに熱処理する場合は、被処理物10の乾燥(水分の蒸発)という観点から、熱効率のよい内熱キルン炉にも大きな利点がある。しかしながら、本形態においては、第1の熱処理に先立って被処理物10を乾燥するため、熱処理温度を確実に制御することができる外熱キルン炉の方が好適である。
【0055】
また、第1の熱処理工程において、脱水後の被処理物10を直ちに熱処理する場合は、第1の熱処理工程において、被処理物10の乾燥と有機物の熱分解という異質な熱処理を連続的に行うことになるため、温度制御が複雑になる。しかしながら、本形態のように、第1の熱処理に先立って被処理物10が乾燥されていると、第1の熱処理工程においては、有機物の熱分解のみを行えば足りるため、複雑な温度制御が必要とならない。
【0056】
本形態において、第1の熱処理炉42は、例えば、搬送方向に向かって非常に緩やかな下り勾配を有し、この下り勾配と炉本体の回転とにより、炉本体内の被処理物10が重力作用で搬送方向へ徐々に移送されるようになっている。
炉本体の材質は、特に限定されず、例えば、ステンレス、チタン等の耐熱性及び耐腐食性を有する金属製とすることができる。
【0057】
本形態の第1の熱処理炉42においては、炉本体の外表面上に、例えば、電気ヒーター等からなる外熱ジャケット44が設けられている。この外熱ジャケット44による加熱により、炉本体の内表面上に堆積した被処理物10が間接的に加熱される(外熱方式)。また、外熱ジャケット44は、炉本体の軸方向に関して適宜の数に分割し、分割された外熱ジャケットを各別に加熱することができるようにするとより好適なものとなる。
このように外熱ジャケット44を適宜の数に分割し、各別に加熱することができる外熱方式とすると、炉本体内において変化する被処理物10の性状等に応じて熱処理温度を確実に制御することができ、被処理物10の好適な熱処理を行うことができる。
【0058】
本形態においては、前述したように熱処理工程を少なくとも4工程に分けることとの関係において、炉本体外表面の温度が、260〜450℃となるように加熱するのが好ましく、280〜400℃となるように加熱するのがより好ましく、300〜400℃となるように加熱するのが特に好ましい。炉本体外表面の温度が260℃を下回ると、被処理物10中のアクリル系有機物及びセルロースを十分に熱処理(熱分解等)することができなくなるおそれがある。他方、炉本体外表面の温度が450℃を上回ると、被処理物10の過剰な熱処理が行われてしまうおそれがある。
【0059】
なお、炉本体内表面の温度は、炉本体外表面の温度と連動しており、炉本体外表面の温度と実質的に同一の温度になる。他方、炉本体内の温度は、上記炉本体外表面の温度制御を行うことにより、多くの領域において好ましくは240〜350℃、より好ましくは270〜350℃、特に好ましくは280〜350℃に調節される。なお、被処理物10の温度も炉本体内の温度と実質的に同一になるものと推定される。
【0060】
ところで、以上のように第1の熱処理炉42は、外熱方式とするのが好ましいが、内熱方式とすることも可能であり、内熱方式とする場合は、図1中に二点鎖線で示すように、バーナー43Aが備わる熱風発生炉43から酸素含有ガスたる熱風を、供給口42Aを通して炉本体内に吹き込む(供給する)のが好ましい。当該熱風によって、供給口42Aから供給され、炉本体の回転に伴って排出口42B側に順次移送される被処理物10の熱処理が行われる(並流方式)。この際、第1の熱処理炉42内のガス(排ガス)は、排出口42Bを通して排出される。
【0061】
このように熱風の供給方式を並流方式にすると、相対的に低温の状態にある被処理物10を直ちにアクリル系有機物やセルロース等の熱分解に好適な温度まで昇温することができる。しかも、他端(排出口側)に向けて低温化する温度勾配が生じるため、被処理物10の過剰な熱処理が防止される。ただし、この温度勾配の制御は、前述外熱方式による方が好ましい。
【0062】
なお、第1の熱処理炉42を前述外熱方式とする場合においても、炉本体内に酸素含有ガスを吹き込むことができる。この酸素含有ガスの吹き込みは、例えば、バーナー43Aを作動させずに、熱風発生炉43を利用して行うことができ、加熱しない点を除いて熱風を吹き込む場合と同様とすることができる。そこで、以下の炉本体内の酸素濃度制御については、内熱方式の場合(熱風を吹き込む場合)を例に説明する。
【0063】
第1の熱処理炉42においては、熱風の酸素濃度を5.0〜20.0%、好ましくは6.0〜18.0%、より好ましくは7.0〜18.0%に調節しつつ、排ガスの酸素濃度が0.1〜20.0%、好ましくは1.0〜17.0%、より好ましくは3.0〜15.0%となるように管理すると好適である。この酸素濃度の調節・管理は、第1の熱処理炉42を外熱方式とする場合も同様である。
ここで、酸素濃度は、自動酸素濃度測定装置(型番:ENDA‐5250、堀場製作所製)にて各測定域からサンプリングした測定試料の酸素濃度を測定した値である。
【0064】
被処理物10の過剰な熱処理の防止という観点から、低酸素濃度であるのが好ましく、熱風の酸素濃度を20.0%以下に調節し、かつ排ガスの酸素濃度も20.0%以下となるように管理するのがより好ましい。他方、熱風の酸素濃度が5.0%未満、あるいは排ガスの酸素濃度が0.1%未満であると、アクリル系有機物やセルロース等の熱処理が充分に進まず、発熱量の減少率を所定の範囲に調整することが困難となるおそれや、熱分解ガスの発火(燃焼)が生じているおそれがある。
【0065】
炉本体内の酸素濃度は、アクリル系有機物やセルロース等の熱処理に際して酸素消費され、変動を生じるため、本形態のように、熱風の酸素濃度の調節及び排ガスの酸素濃度の管理によるのが好適である。ただし、このような調節及び管理を行うことにより、炉本体内の多くの領域において酸素濃度が、内熱方式及び外熱方式のいずれにおいても、通常0.1〜20.0%、好ましくは1.0〜17.0%、より好ましくは4.0〜15.0%に調節される。
【0066】
内熱方式とする場合、第1の熱処理炉42においては、熱風の温度を300〜420℃、好ましくは350〜410℃、より好ましくは360〜400℃に調節しつつ、排ガスの温度が250〜370℃、好ましくは300〜360℃、より好ましくは310〜350℃となるように管理すると好適である。
ここで、排ガスの温度は、排ガスの煙道に設置した熱電対にて温度を実測した値である。また、熱風の温度は、熱風発生炉43において熱電対にて温度を実測した値である。
【0067】
熱風の温度が300℃以上で、かつ排ガスの温度が250℃以上であると、被処理物10中のアクリル系有機物及びセルロースの熱分解・揮発が確実に行われる。また、アクリル系有機物及びセルロースの熱分解・揮発が確実に行われることで、第2の熱処理炉14及び第3の熱処理炉32における熱処理制御が容易となり、白色度低下の原因となる炭化物の生成や、過燃焼による硬質物質の生成を抑制することができる。さらに、アクリル系有機物及びセルロースの熱分解・揮発が確実に行われることで、第2の熱処理炉14や第3の熱処理炉32において、スチレン系有機物や残カーボン等の有機物を緩やかに熱処理することができ、残カーボンの生成を抑制することができる。
もっとも、熱風の温度が420℃を超え、あるいは排ガスの温度が370℃を超えると、熱分解ガスが発火するおそれがあり、また、第2の熱処理炉14における熱処理エネルギーが増加し、さらに、難燃性カーボンが生成し易くなり、製紙用の添料や顔料等として必要な特性を備えた再生粒子を安定して得ることができなくなるおそれがある。なお、第1の熱処理工程の前段に乾燥工程を設けない場合においては、本熱処理工程において被処理物10を乾燥させるために、熱処理温度をより高く設定する必要があり、以上のようなリスクを伴うことになる。
【0068】
炉本体内の温度は、温度勾配を有し、一様ではないため、本形態のように、熱風の温度の調節及び排ガスの温度の管理によるのが好適である。ただし、このような調節及び管理を行うことにより、炉本体内の多くの領域において温度が、通常250〜370℃、好ましくは300〜360℃、より好ましくは310〜350℃に調節される。なお、炉本体内の温度は、炉本体内に設置した熱電対にて実測した値である。また、被処理物10の温度も炉本体内の温度と実質的に同一になるものと推定される。
【0069】
第1の熱処理炉42においては、第1の熱処理炉42が外熱方式である内熱方式であるかにかかわらず、被処理物10の発熱量が20〜90%減少するように、好ましくは50〜80%減少するように、より好ましくは50〜70%減少するように熱処理するのが好ましい。
発熱量の減少率が90%以下であると、過剰な熱処理が抑えられ、硬質物質の生成が好ましくは1.5質量%以下に抑制される。この点、90%を超える発熱量の減少は、被処理物10中のスチレン系有機物までもが熱分解していることを意味し、したがって炉本体内がセルロース等の熱分解ガスが発火しうる状態(つまり、高温状態)になっていることを意味する。他方、発熱量の減少率が20%未満であると、被処理物10中の高発熱量成分であるアクリル系有機物が残留し、第2の熱処理炉14における熱処理温度の変動が大きなものとなるおそれがある。
ここで、発熱量の減少率は、第1の熱処理炉42に供給される被処理物10の発熱量と、第1の熱処理炉42から排出される被処理物10の発熱量とを比較した値である。この発熱量は、熱量計(燃研式デジタル熱量計、吉田製作所製)を用いて測定した値である。
【0070】
特に第1の熱処理炉42において、アクリル系有機物、セルロースを除去し、発熱量を20〜90%減少するとともに、発熱量が1000cal/g未満、好ましくは300〜400cal/gとなるように熱処理することにより、第2の熱処理炉14における炉本体内温度の変動幅を10〜40℃の範囲に抑制し易くなり、得られる再生粒子を均質化するに有用である。この点、当該炉本体内温度の変動幅が40℃を超えると、得られる再生粒子が硬い・柔らかい等のばらつきや白色度のばらつきを有するものとなるおそれがある。他方、当該炉本体内温度の変動幅を10℃未満にまで抑制するのは、現実的ではない。
第1の熱処理炉42においては、被処理物10の未燃率が13〜30質量%となるように、好ましくは14〜26質量%となるように、より好ましくは15〜23質量%となるように熱処理を行うと好適である。
ここで、未燃率は、約600℃に温度調整した電気炉で,2時間燃焼した際の減量割合を測定した値である。
未燃率が30質量%以下となるように熱処理を行うことにより、第2の熱処理炉14における熱処理を緩慢に行うことができるようになる。もっとも、未燃率が13質量%未満となるまで熱処理を行うと、第1の熱処理炉42におけるエネルギーコストが高くなる。
【0071】
第1の熱処理炉42においては、被処理物10の滞留時間を30〜120分、好ましくは45〜105分、より好ましくは60〜90分とすると好適である。滞留時間を30分以上とすることにより、被処理物10に含まれるアクリル系有機物、セルロースが緩慢に熱分解され、残カーボンの生成が抑制される。この点、滞留時間を30分未満とすると、十分な熱処理が行われず、残カーボンの割合が多くなる。他方、滞留時間が120分を超えると、過剰な熱処理によって難燃性カーボンが生成され、得られる再生粒子の白色度が低下し、あるいは硬質物質が増加するおそれがある。
ここで、滞留時間は、色で識別できる金属片を供給口42Aから炉本体内に投入し、排出口42Bから排出されるまでの実測時間である。
【0072】
(第2の熱処理工程)
第1の熱処理炉42において熱処理した被処理物10は、第2の熱処理工程に送られ、熱分解や燃焼等の熱処理をされる。
被処理物10は、この第2の熱処理工程に送るに先立って、平均粒子径を1〜7mm、好ましくは1〜5mm、より好ましくは1〜3mmに調節しておくと好適である。ただし、本形態においては、第1の熱処理工程に先立って乾燥工程を設けており、この乾燥工程において被処理物10が解れるように構成されている。したがって、被処理物10の平均粒子径は、通常上記の範囲内にあり、本粒子径の調節を省略することができる。
【0073】
第2の熱処理工程においては、被処理物10が第2の熱処理炉14に装入される。この第2の熱処理炉14としては、公知の熱処理炉を使用することができ、例えば、流動床炉、ストーカー炉、サイクロン炉、半乾留・負圧燃焼式炉等を用いることができる。しかしながら、本形態の第2の熱処理炉14は、炉本体が横置きで中心軸周りに回転する外熱キルン炉である。この第2の熱処理炉14としては、外熱キルン炉に変えて内熱キルン炉を用いることや、内熱及び外熱の併用キルン炉を用いることも可能であるが、本形態では、外熱キルン炉を用いるのが好ましい。
【0074】
この第2の熱処理炉14も、例えば、搬送方向に向かって非常に緩やかな下り勾配を有し、この下り勾配と炉本体の回転とにより、炉本体内の被処理物10が重力作用で搬送方向へ徐々に移送されるようになっている。
【0075】
炉本体の材質は、特に限定されず、例えば、ステンレス、チタン等の耐熱性及び耐腐食性を有する金属製とすることができる。
また、本工程において用いる第2の熱処理炉14は、本形態のように第1の熱処理炉42と同形状のものを用いることもできるが、例えば、軸方向の長さが異なるキルン炉を用いて、被処理物10の滞留時間を異なるものとすることなどもできる。
本形態の第2の熱処理炉14においては、炉本体の外表面上に、例えば、電気ヒーター等からなる外熱ジャケット15が設けられている。この外熱ジャケット15による加熱により、炉本体の内表面上に堆積した被処理物10が間接的に加熱される(外熱方式)。また、外熱ジャケット15は、炉本体の軸方向に関して適宜の数に分割し、分割された外熱ジャケットを各別に加熱することができるようにするとより好適なものとなる。
このように外熱ジャケット15を適宜の数に分割し、各別に加熱することができる外熱方式とすると、炉本体内において変化する被処理物10の性状等に応じて熱処理温度を確実に制御することができ、被処理物10の好適な熱処理を行うことができる。
【0076】
本形態においては、前述したように熱処理工程を少なくとも4工程に分けることとの関係において、炉本体外表面の温度が、360〜550℃となるように加熱するのが好ましく、360〜500℃となるように加熱するのがより好ましく、400〜500℃となるように加熱するのが特に好ましい。炉本体外表面の温度が360℃を下回ると、被処理物10中のスチレン系有機物を十分に熱処理(熱分解等)することができなくなるおそれがある。他方、炉本体外表面の温度が550℃を上回ると、被処理物10の過剰な熱処理が行われてしまうおそれがある。
なお、炉本体内表面の温度は、炉本体外表面の温度と連動しており、炉本体外表面の温度と実質的に同一の温度になる。他方、炉本体内の温度は、上記炉本体外表面の温度制御を行うことにより、多くの領域において好ましくは360〜400℃に調節される。なお、被処理物10の温度も炉本体内の温度と実質的に同一になるものと推定される。
【0077】
ところで、以上のように第2の熱処理炉14は、外熱方式とするのが好ましいが、内熱方式とすることも可能であり、内熱方式とする場合は、図1中に二点鎖線で示すように、バーナー46Aが備わる熱風発生炉46から酸素含有ガスたる熱風を、供給口14Aを通して炉本体内に吹き込む(供給する)のが好ましい。当該熱風によって、供給口14Aから供給され、炉本体の回転に伴って排出口14B側に順次移送される被処理物10の熱処理が行われる(並流方式)。この際、第2の熱処理炉14内のガス(排ガス)は、排出口14Bを通して排出される。
このように熱風の供給方式を並流方式にすると、相対的に低温の状態にある被処理物10を直ちにスチレン系有機物等の熱分解に好適な温度まで昇温することができる。しかも、他端(排出口側)に向けて低温化する温度勾配が生じるため、被処理物10の過剰な熱処理が防止される。ただし、この温度勾配の制御は、前述外熱方式による方が好ましい。
【0078】
また、第1の熱処理炉42が並流方式とされている場合等においては、第2の熱処理炉14を、排出口14Bを通して炉本体内に熱風を吹き込み、炉本体内の排ガスは供給口14Aを通して排出する向流方式とするのも好ましい形態である。この形態によると、第1の熱処理炉42からの排ガスを通す配管と、第2の熱処理炉14からの排ガスを通す配管とを、例えば1つにまとめることなどができ、配管処理が容易となる。
【0079】
さらに、第1の熱処理炉42と第2の熱処理炉14とを連接し、熱風発生炉43からの熱風が第1の熱処理炉42を介し、供給口14Aを通して炉本体内に吹き込まれる(供給される)とともに、バーナー46Aが備わる熱風発生炉46からの酸素含有ガスたる熱風を、供給口14Aを通して炉本体内に吹き込む(供給する)こともできる。これらの熱風によって、供給口14Aから供給され、炉本体の回転に伴って排出口14B側に順次移送される被処理物10の熱処理が行われる(並流方式)。
【0080】
なお、第2の熱処理炉14を前述外熱方式とする場合においても、炉本体内に酸素含有ガスを吹き込むことができる。この酸素含有ガスの吹き込みは、例えば、バーナー46Aを作動させずに、熱風発生炉46を利用して行うことができ、加熱しない点を除いて熱風を吹き込む場合と同様とすることができる。そこで、以下の炉本体内の酸素濃度制御については、内熱方式の場合(熱風を吹き込む場合)を例に説明する。
【0081】
第2の熱処理炉14においては、熱風の酸素濃度を5.0〜20.0%、好ましくは6.0〜18.0%、より好ましくは7.0〜18.0%に調節しつつ、排ガスの酸素濃度が0.1〜20.0%、好ましくは1.0〜17.0%、より好ましくは3.0〜15.0%となるように管理すると好適である。この酸素濃度の調節・管理は、第2の熱処理炉14を外熱方式とする場合も同様である。
ここで、酸素濃度は、自動酸素濃度測定装置(型番:ENDA‐5250、堀場製作所製)にて各測定域からサンプリングした測定試料の酸素濃度を測定した値である。
【0082】
被処理物10の過剰な熱処理の防止という観点から、低酸素濃度であるのが好ましく、熱風の酸素濃度を20.0%以下に調節し、かつ排ガスの酸素濃度も20.0%以下となるように管理するのがより好ましい。もっとも、熱風の酸素濃度が5.0%未満、あるいは排ガスの酸素濃度が0.1%未満であると、スチレン系有機物等の熱処理が充分に進まず、発熱量の減少率を所定の範囲に調整するのが困難で白色化が進まないおそれがあり、また、熱分解ガスの発火(燃焼)が生じているおそれがある。他方、熱風(酸素含有ガス)や排ガスの酸素濃度が高すぎると、圧縮空気及びその付加設備が必要になると共に、エネルギーコストが上昇し、また、被処理物10の燃焼や硬質化が進むおそれがある。
第1の熱処理炉42を経て供給される熱風(酸素含有ガス)の酸素濃度は、被処理物10の熱処理状態等に応じて変化し、また、炉本体内の酸素濃度自体も、スチレン系有機物等の熱処理に際して酸素消費され、変動を生じる。したがって、本形態のように、熱風の酸素濃度の調節及び排ガスの酸素濃度の管理によるのが好適である。ただし、このような調節及び管理を行うことにより、炉本体内の多くの領域において酸素濃度が、内熱方式及び外熱方式のいずれにおいても、通常0.1〜20.0%、好ましくは1.0〜17.0%、より好ましくは4.0〜15.0%に調節される。
【0083】
内熱方式とする場合、第2の熱処理炉14においては、熱風の温度を350〜550℃、好ましくは380〜550℃、より好ましくは400〜500℃に調節しつつ、排ガスの温度が300〜500℃、好ましくは330〜500℃、より好ましくは350〜450℃となるように管理すると好適である。
ここで、排ガスの温度は、排ガスの煙道に設置した熱電対にて温度を実測した値である。また、熱風の温度は、熱風発生炉46において熱電対にて温度を実測した値である。
熱風の温度が350℃以上で、かつ排ガスの温度が300℃以上であると、被処理物10中のスチレン系有機物の熱分解・揮発が確実に行われる。また、スチレン系有機物の熱分解・揮発が確実に行われることで、第3の熱処理炉32における熱処理制御が容易となり、白色度低下の原因となる炭化物の生成や、過燃焼による硬質物質の生成を抑制することができる。さらに、スチレン系有機物の熱分解・揮発が確実に行われることで、第3の熱処理炉32において、残カーボン等の有機物を緩やかに燃焼することができ、残カーボンの生成を抑制することができる。他方、熱風の温度が550℃以下で、かつ排ガスの温度が500℃以下であると、本工程における残カーボンの生成を抑制することができるほか、有機物の熱処理が緩慢に行われ、被処理物10の微粉化が抑制され、また、凝集体を形成し、あるいは硬い・柔らかい等のさまざまな性質を有する被処理物10の熱処理度合いや粒揃えを容易に、かつ安定的に制御することができる。この点、熱風の温度が550℃を超え、あるいは排ガスの温度が500℃を超えると、被処理物10の粒揃えが進行するよりも早くに燃焼が局部的に進むため、粒子表面と芯部との未燃率の差を少なく均一にすることが困難になる。
【0084】
第1の熱処理炉42を経て供給される熱風の温度は、被処理物10の熱処理状態等に応じて変化し、また、炉本体内の温度自体も、温度勾配を有し、一様ではないため、本形態のように、熱風の温度の調節及び排ガスの温度の管理によるのが好適である。ただし、このような調節及び管理を行うことにより、炉本体内の多くの領域において温度が、通常300〜500℃に、好ましくは330〜500℃に、より好ましくは350〜450℃に調節される。なお、炉本体内の温度は、炉本体内に設置した熱電対にて実測した値である。また、被処理物10の温度も炉本体内の温度と実質的に同一になるものと推定される。
第2の熱処理炉14から排出された排ガスは、図1中に二点鎖線で示すように、再燃焼室22においてバーナー等により再燃焼し、予冷器24において予冷した後、熱交換器26を通し、誘引ファン28によって煙突30から排出することができる。ここで、熱交換器26は、外気を昇温し、この昇温した外気を、例えば、第1の熱処理炉42に吹き込まれる熱風の用に供し、排ガスの熱回収を図ることもできる。このような排ガスの処理は、排ガス中に含まれる有害物質の除去にも有効である。
【0085】
第2の熱処理炉14においては、被処理物10の滞留時間を30〜120分、好ましくは40〜100分、より好ましくは40〜80分とすると好適である。滞留時間を30分以上とすることにより、被処理物10に含まれるスチレン等由来の有機物が緩慢に熱処理され、残カーボンの生成が抑制される。この点、滞留時間を30分未満とすると、十分な熱処理が行われず、残カーボンの割合が多くなる。他方、滞留時間が120分を超えると、過剰な熱処理によって難燃性カーボンが生成され、得られる再生粒子の白色度が低下し、あるいは硬質物質が増加するおそれがある。
【0086】
第2の熱処理炉14においては、第2の熱処理炉14が外熱方式である内熱方式であるかにかかわらず、被処理物10の未燃率が2〜20質量%となるように、好ましくは5〜17質量%となるように、より好ましくは7〜12質量%となるように熱処理を行うと好適である。
ここで、未燃率は、約600℃に温度調整した電気炉で,2時間燃焼した際の減量割合を測定した値である。
未燃率が20質量%以下となるように熱処理を行うことにより、第3の熱処理炉32における熱処理(燃焼)を短時間で効率よく行うことができるようになり、得られる再生粒子の白色度を70%以上、好ましくは80%以上の高白色度とすることができる。もっとも、未燃率が2質量%未満となるまで熱処理を行うと、第2の熱処理炉14におけるエネルギーコストが高くなり、また、得られる再生粒子の白色度が低下し、あるいは硬度が高くなるなど、再生粒子の品質低下につながるおそれがある。
【0087】
(第3の熱処理工程)
第2の熱処理炉14において熱処理した被処理物10は、第3の熱処理工程に送られ、熱分解や燃焼等の熱処理をされる。
被処理物10は、この第3の熱処理工程に送るに先立って、平均粒子径を5mm以下、好ましくは1〜4mm、より好ましくは1〜3mmに調節しておくと好適である。平均粒子径が1mm未満であると、第3の熱処理炉32において被処理物10が過燃焼するおそれがある。他方、平均粒子径が5mmを超えると、残カーボンの熱処理(燃焼)が困難となり、芯部まで燃焼が進まず、得られる再生粒子の白色度が低下するおそれがある。
また、この被処理物10の粒揃えは、粒子径1〜5mmの割合が、70質量%以上となるように、好ましくは75〜95質量%となるように、より好ましくは80〜95質量%となるように行うと好適である。
ただし、本形態においては、第1の熱処理工程に先立って乾燥工程を設けており、この乾燥工程において被処理物10が解れるように構成されている。したがって、被処理物10の平均粒子径や粒揃えは、各熱処理工程を経ることにより、通常上記の範囲内となり、本平均粒子径や粒揃えの調節を省略することができる。
【0088】
第3の熱処理工程においては、被処理物10が装入機31から第3の熱処理炉32に装入される。この第3の熱処理炉32としては、公知の熱処理炉を使用することができ、例えば、流動床炉、ストーカー炉、サイクロン炉、半乾留・負圧燃焼式炉等を用いることができる。しかしながら、本形態の第3の熱処理炉32は、炉本体が横置きで中心軸周りに回転する内熱キルン炉である。
【0089】
ただし、この第3の熱処理炉32としては、第1の熱処理炉42や第2の熱処理炉14と同様に、外熱ジャケットを有する外熱キルン炉を使用することもできる。外熱ジャケットは、長手方向(搬送方向、炉本体の軸方向)の温度制御が容易な電気ヒーター形式とすると好適である。
長手方向の温度制御が容易であると、任意に温度勾配を設けることができ、被処理物10を所定の時間、所定の温度に保持することができるため、被処理物10中の残留有機分や、残カーボンを限りなくゼロに近づけることができる。また、外熱キルン炉による場合は、被処理物10を所定の滞留時間をもって燃焼(熱処理)することができ、しかも外熱により被処理物10に間接的に均一な熱が加わるので、燃焼が均一なものとなり、燃焼のバラツキが生じない。さらに、炉内表面の回転による摩擦によって被処理物10が緩やかに撹拌されるため、微粉化を生じにくい。結果、最終的な再生粒子の品質及び性状が安定したものとなる。
【0090】
もっとも、外熱キルン炉は、被処理物10を間接的に熱処理するものであり、熱処理効率は内熱キルン炉に及ばない。したがって、熱処理温度を相対的に高温とする第3の熱処理工程においては、熱処理効率や生産性の観点から、本形態のように、内熱キルン炉を用いる方が好ましい。
【0091】
第3の燃焼炉32においては、炉本体の内壁に設けたリフターによって被処理物10の搬送を制御し、もって被処理物10を緩慢に熱処理(燃焼)することにより、得られる再生粒子の均質化を図ることもできる。この炉本体の内壁に設けるリフターは特に限定されるものではないが、被処理物10の供給口32A側から排出口32B側に向けて、軸心に対して例えば45〜70°の傾斜角を有する複数の螺旋状リフター及び軸心と平行な複数の平行リフターをこの順で設けるのが好ましい。
この形態によると、被処理物10が、まず、螺旋状リフターにて適切な速度で搬送されつつ、持ち上げられて落下し、この落下する間に熱分解ガス(可燃焼ガス)と効率的に接触する。また、被処理物10は、続いて平行リフターにて持ち上げられて落下する動作を繰り返し、この落下を繰り返す間に可燃焼ガスと効率的に接触する。したがって、熱交換効率が極めてよい。特に、螺旋状リフターにて平行リフターに送り込まれる被処理物10の量が制御されるため、平行リフターにおける被処理物10の持ち上げ及び落下が適切に行われ、被処理物10の熱処理(燃焼)が均一かつ効率的に行われる。螺旋状リフターや平行リフターは、例えば、耐熱性を有し、伝熱効率が高いステンレス鋼板等の金属製とすると好適である。
【0092】
第3の熱処理炉32の炉本体内には、例えば、被処理物10の供給口32Aを通して、バーナー45Aが備わる熱風発生炉45から酸素含有ガスたる熱風を吹き込む(供給する)。当該熱風によって、供給口32Aから供給され、炉本体の回転に伴って排出口32B側に順次移送される被処理物10の熱処理が行われる(並流方式)。また、第3の熱処理炉32内のガス(排ガス)は、例えば、排出口32Bを通して(通り抜けて)排出される。
【0093】
ただし、当該熱風は被処理物10の排出口32Bを通して吹き込み、第3の熱処理炉32内のガス(排ガス)は供給口32Aを通して(通り抜けて)排出する向流方式とするのも好ましい形態である。
向流方式とすると、排ガス中の煤塵が被処理物10中に混入し、得られる再生粒子の品質が低下するのを確実に防止することができる。すなわち、供給された被処理物10中の残カーボンは直ちに燃焼されるため、向流方式とすると、残カーボンの燃焼に伴って発生する煤塵は、被処理物10の供給口32A側から排ガスとともに速やかに炉本体外に排出されることになり、被処理物10に混入するのが防止される。
【0094】
なお、第3の熱処理炉32を外熱方式とする場合においても、炉本体内に酸素含有ガスを吹き込むことができる。この酸素含有ガスの吹き込みは、例えば、バーナー45Aを作動させずに、熱風発生炉45を利用して行うことができ、加熱しない点を除いて熱風を吹き込む場合と同様とすることができる。そこで、以下の炉本体内の酸素濃度制御については、内熱方式の場合(熱風を吹き込む場合)を例に説明する。
【0095】
第3の熱処理炉32においては、熱風の酸素濃度を5.0〜20.0%、好ましくは6.0〜18.0%、より好ましくは7.0〜18.0%に調節しつつ、排ガスの酸素濃度が0.1〜20.0%、好ましくは1.0〜17.0%、より好ましくは3.0〜15.0%となるように管理すると好適である。この酸素濃度の調節・管理は、第3の熱処理炉32を外熱方式とする場合も同様である。
ここで、酸素濃度は、自動酸素濃度測定装置(型番:ENDA‐5250、堀場製作所製)にて各測定域からサンプリングした測定試料の酸素濃度を測定した値である。
【0096】
被処理物10の過剰な熱処理の防止という観点から、低酸素濃度であるのが好ましく、熱風(酸素含有ガス)及び排ガスの酸素濃度が低くなるように管理するのがより好ましい。もっとも、熱風(酸素含有ガス)や排ガスの酸素濃度が低すぎると、残カーボンや残留有機物の熱処理が充分に進まず、また、白色化が進まないおそれがある。他方、熱風(酸素含有ガス)や排ガスの酸素濃度が高すぎると、圧縮空気及びその付加設備が必要になると共に、エネルギーコストが上昇し、また、被処理物10の燃焼や硬質化が進むおそれがある。また、排ガスの酸素濃度を高くするためには、過剰の空気を炉本体内に吹き込む必要があり、炉内温度の低下や炉内温度制御が困難になる等の問題を生じるおそれがある。
炉本体内の酸素濃度は、残カーボンや残留有機物の熱処理に際して酸素消費され変動を生じるため、本形態のように、熱風(酸素含有ガス)の酸素濃度の調節及び排ガスの酸素濃度の管理によるのが好適である。ただし、このような調節及び管理を行うことにより、炉本体内の多くの領域において酸素濃度が、内熱方式及び外熱方式のいずれにおいても、通常0.1〜20.0%、好ましくは1.0〜17.0%、より好ましくは4.0〜15.0%に調節される。
【0097】
第3の熱処理炉32を内熱方式とする場合は、熱風の温度を550〜780℃、好ましくは600〜750℃、より好ましくは650〜720℃に調節しつつ、排ガスの温度が550〜780℃、好ましくは600〜750℃、より好ましくは650〜720℃となるように管理すると好適である。
ここで、排ガスの温度は、排ガスの煙道に設置した熱電対にて温度を実測した値である。また、熱風の温度は、熱風発生炉45において熱電対にて温度を実測した値である。
熱風の温度が550℃以上で、かつ排ガスの温度も550℃以上であると、被処理物10中の残カーボンや残留有機物の熱処理が確実に行われる。他方、熱風の温度が780℃以下で、かつ排ガスの温度も780℃以下であると、残カーボンの生成を抑制することができるほか、有機物の熱処理が緩慢に行われ、被処理物10の微粉化が抑制され、また、凝集体を形成し、あるいは硬い・柔らかい等のさまざまな性質を有する被処理物10の熱処理度合いや粒揃えを容易に、かつ安定的に制御することができる。この点、熱風の温度が780℃を超え、あるいは排ガスの温度が780℃を超えると、被処理物10の粒揃えが進行するよりも早くに燃焼が局部的に進むため、粒子表面と芯部との未燃率の差を少なく均一にすることが困難になる。しかも、得られた再生粒子をスラリー化したときに、固まるおそれがある。
【0098】
炉本体内の温度は、温度勾配を有し、一様ではないため、本形態のように、熱風の温度の調節及び排ガスの温度の管理によるのが好適である。ただし、このような調節及び管理を行うことにより、炉本体内の多くの領域において温度が、上記調節・管理と同様、つまり、通常550〜780℃、好ましくは600〜750℃、より好ましくは650〜720℃に調節される。なお、炉本体内の温度は、炉本体内に設置した熱電対にて実測した値である。
一方、第3の熱処理炉32を外熱方式とする場合は、炉本体外表面の温度が550〜780℃、好ましくは600〜750℃、より好ましくは650〜720℃となるように外熱ジャケット等の温度を制御すると好適である。炉本体外表面の温度が550℃以上であると、残カーボンや、第2の熱処理炉14で燃焼しきれなかったスチレン‐アクリルやスチレン等の残留有機物を確実に燃焼することができる。
なお、炉本体内表面の温度は、炉本体外表面の温度と連動しており、炉本体外表面の温度と実質的に同一の温度になる。他方、炉本体内の温度や被処理物10の温度は、上記炉本体外表面の温度制御を行うことにより、炉本体外表面や内表面の温度と実質的に同一の温度になると推定される。
【0099】
第3の熱処理炉32においては、被処理物10の滞留時間を60〜240分、好ましくは90〜150分、より好ましくは120〜150分とすると好適である。滞留時間を60分以上とすることにより、被処理物10に含まれる残留有機物や残カーボンが確実に燃焼され、また、再生粒子を安定して生産することができるようになる。他方、滞留時間が240分を超えると、過燃焼によって難燃性カーボンが生成され、得られる再生粒子の白色度が低下し、あるいは硬質物質が増加するおそれがある。
この点、第1の熱処理炉42において被処理物10の発熱量が20〜90%減少し、アクリル系有機物及びセルロースが熱分解するように熱処理され、また、第2の熱処理炉14において被処理物10のスチレン系有機物が熱分解するように熱処理されていると、第3の熱処理炉32における被処理物10の滞留時間を短くすることができ、過燃焼、白色度の低下、硬質物質の増加等のリスクを低減することができる。
【0100】
(硬質物質)
被処理物10の主成分となる製紙スラッジは、製紙用に供される填料や顔料としての炭酸カルシウム、カオリン、タルク、抄紙助剤としての硫酸アルミニウム等の無機物を多く含み、示差熱熱重量分析(TG/DTA6200)とX線回折(RAD2X)とによる燃焼物の分析から、被処理物10を熱処理するに際しては、例えば、炭酸カルシウム(CaCO)は600〜750℃にて質量減少し、硬質かつ水溶性の酸化カルシウム(CaO)に変化し、クレー(AlSi(OH))は500℃前後で脱水により質量減少し、メタカオリンとなり、1000℃前後の高温では硬質なムライト(AlSi13)に変化することが知見された。また、タルク(MgSi10(OH))は900℃前後で質量減少し、エンスタタイト(MgSiO)に変化することも知見された。一方、X線回折(RAD2X)による燃焼物の分析から、燃焼物中にCaAlSiO(ゲーレナイト)、CaAlSi(アノーサイト)の存在が確認された。
【0101】
また、製紙用に供される填料や顔料と比べ、ゲーレナイトやアノーサイトは極めて硬質(硬質物質)であり、微量の存在で、製紙用具の摩耗・毀損や抄紙系内の汚れが生じ、塗工用顔料として使用した場合には、ドクター等の塗工設備の摩耗・毀損、ストリークの発生要因となることも知見された。
この点、従来、ゲーレナイトやアノーサイトは、900℃を超える高温での熱処理において生成されるものと予想されていたが、本発明者等の検討において、ゲーレナイトやアノーサイトの生成は熱処理温度が500℃前後でも生じ、熱処理温度の上昇に応じて生成量が増大することが見出された。
また、製紙スラッジ中の酸化物換算によるカルシウムの含有量が増えると、アノーサイトは減少し、ゲーレナイトは増える傾向を示すことも知見された。アノーサイトは、炭酸カルシウムの過燃焼により生じる酸化カルシウムとカオリンとの混合燃焼により生成され易く、したがって、上記各種熱処理工程においては、25〜800℃における示差熱熱重量分析において、重量減量割合が5%(TG)以上となるように熱処理を行い、酸化カルシウムの生成自体を可及的に抑制するのが好ましい。
【0102】
また、水酸化カルシウムは、酸化カルシウムよりも一段とアノーサイトを生成し易いため、上記被処理物10の脱水率(水分率)や、各種熱処理における酸素濃度は、厳格に調節するのが好ましい。
また、本発明者等は、シリカがゲーレナイトやアノーサイトの生成を助長することを知見した。したがって、被処理物10は、可及的にシリカ分含有量を低減しておくのが好ましく、例えば、新聞古紙や新聞抄紙系白水の使用を抑え、比較的低融点のゲーレナイトやアノーサイトの生成を抑制するのが好ましく、得られた再生粒子をシリカ被覆するのがより好ましい。
【0103】
(付帯工程)
第3の熱処理炉32から排出された被処理物10は、平均粒子径15.0μm以下、好ましくは0.1〜10.0μm、より好ましくは1.0〜5.0μmとなるように粉砕等して調節すると好適である。
ここで粉砕後の平均粒子径は、粉砕後の被処理物スラリーをレーザー回折方式の粒度分布径(型番:SA−LD−2200、島津製作所製)を用いて測定した体積平均粒子径(D50)である。
【0104】
この被処理物10の粉砕方法は特に限定されるものではなく、例えば、ジェットミルや高速回転式ミル等の乾式粉砕機、アトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機などを用いることができる。
この粉砕を行った被処理物10は、好適には凝集体であり、冷却機34において冷却した後、振動篩機等の粒子径選別機36により選別をし、再生粒子としてサイロ38に一時貯留し、適宜添料や顔料等の用途先に仕向ける。
【0105】
(その他)
以上の第1から第3の熱処理工程において、好適な熱処理炉として用いられる内熱又は外熱キルン炉は、内壁を構成する耐火物を円周状(円筒状)ではなく、六角形状や八角形状とすることもでき、これらの形状によると被処理物10を滑らすことなく持ち上げて撹拌することができる。ただし、簡便に被処理物10の撹拌を実現するためには、耐火物等を円筒状とし、前述したようなリフターを設けるのが好ましい。
【0106】
〔再生粒子〕
本形態の再生粒子の製造方法によって得られる再生粒子は、X線マイクロアナライザーによる微細粒子の元素分析において、カルシウム、シリカ及びアルミニウムの比率が酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合、好ましくは40〜82:9〜30:9〜30の質量割合、より好ましくは60〜82:9〜20:9〜20の割合とされていると好適である。カルシウム、シリカ及びアルミニウムの比率が酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合とされていると、比重が軽く、過度の水溶液吸収が抑制されるため、脱水性が良好である。
【0107】
このカルシウム、シリカ及びアルミニウムの質量割合を調節する方法としては、被処理物10の原料構成を調節することが本筋ではあるが、第1の熱処理工程や、第2の熱処理工程、第3の熱処理工程において、出所が明確な塗工フロスや調成工程フロスをスプレー等で添加し、あるいは焼却炉スクラバー石灰を添加して、調節することもできる。例えば、カルシウムの調節には、中性抄紙系の排水スラッジや塗工紙製造工程の排水スラッジを用い、シリカの調節には、不透明度向上剤としてホワイトカーボンが多量に添加されている新聞用紙製造系の排水スラッジを用い、アルミニウムの調節には酸性抄紙系の硫酸バンドの使用がある抄紙系の排水スラッジや、クレーの使用量が多い上質紙抄造工程における排水スラッジを用いることができる。
【0108】
ところで、被処理物10の原材料ともいえる古紙は、近年の中性抄紙化、ビジュアル化の進展にともなう印刷見栄えの良い塗工紙使用量の増加にともない、填料・顔料としての炭酸カルシウムの使用量増加により、製紙スラッジ中の炭酸カルシウムの含有量増加につながり、結果としてゲーレナイトやアノーサイトの生成量増加に繋がるため、再生粒子に含有されるゲーレナイトやアノーサイト、いわゆる硬質物質の含有量をできる限り減少させる必要が大きくなっている。したがって、硬質物質の含有量を減らすことができる上記再生粒子の製造方法は、極めて有用であり、この製造方法によって製造された本形態の再生粒子は、ゲーレナイト及びアノーサイトの合計含有量が1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下とされている。
ここで、ゲーレナイト及びアノーサイトの合計含有量は、下記の方法によって測定した値である。
【0109】
(測定方法)
X線回析法(理学電気製、RAD2X)によって測定する。測定条件は、Cu‐Kα‐湾曲モノクロメーター:40KV‐40mA、発散スリット:1mm、SS:1mm、RS:0.3mm、走査速度:0.8度/分、走査範囲:2シータ=7〜85度、サンプリング:0.02度とする。
【0110】
(凝集体状炭酸カルシウム)
製紙用途において一般に填料として使用される炭酸カルシウムは、一次粒子のみで形成されており二次粒子を形成していない。本発明においては、これら炭酸カルシウムが凝集して二次粒子を形成した凝集体状炭酸カルシウムを使用することができる。例えば一般的に填料として使用される紡錘状の一次粒子では、一次粒子の粒子径が0.05〜0.5μm程度であるが、一次粒子が凝集して形成した凝集体状炭酸カルシウム(二次粒子)の粒子径は2.0〜6.0μm程度となる。このような凝集体状炭酸カルシウムとしては、特開平07−197398号または特開2008−156204号に記載のものを用いることができる。
【0111】
凝集体状炭酸カルシウムには、一次粒子を有機系凝集剤または無機系凝集剤で凝集させ、凝集状二次粒子を形成させたもの(例えば特開2007−239150号広報、特開2007−023428号広報等を参照)や、一次粒子同士を炭酸化工程にて反応させて結合させ、凝集体状二次粒子を形成させたもの(特開2008−156204号を参照)が挙げられるが、本発明においては、一次粒子同士を炭酸化工程にて反応させて結合させて得られた凝集体状炭酸カルシウムを用いると、よりインキ吸収性に優れ、例えば坪量が30g/m以上50g/m未満と軽量な塗工紙、特に基紙坪量が20g/m以上40g/m未満と低坪量の基紙であっても充分にインキを吸収することができるため、局所的なインキの裏抜けが防止できるため好ましい。
【0112】
上述のとおり、好ましくは脱水後の被処理物を熱気流に同伴させ、少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子を用いると、再生粒子中の硬質物質が少ないため、再生粒子そのものの高い不透明性と高いインキ吸収性を塗工紙に付与でき、かつ、インキ吸収性に劣る硬質物質が少ないため印刷インキが裏面塗工層にまで透過する、局所的な裏抜けを抑制しやすいため好ましい。このため坪量が30g/m以上50g/m未満と軽量な塗工紙であっても、坪量が50g/m以上の塗工紙と同程度にまで、インキ透過による局所的な裏抜けを防止した塗工紙が得られる。
【0113】
上述の再生粒子や凝集体状炭酸カルシウムを填料として使用する場合、基紙に対する含有量は特に限定されないが、基紙100質量%に対して灰分が8〜15質量%となるよう添加することが好ましく、さらには10〜13質量%がより好ましい。灰分が8質量%未満では、印刷不透明度が低下しやすく裏抜けが発生しやすいため好ましくない。灰分が15質量%を超過すると、本発明のごとく坪量が30g/m以上50g/m未満と低い塗工紙においては、引張強度が低下しやすく印刷時に断紙する可能性がある。
尚、上記填料の含有量は、JISP8251「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼法」に準じて測定した灰分含有量である。
【0114】
上述のごとく、本発明においては、好ましくは脱水後の被処理物を熱気流に同伴させ、少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子を基紙中に含有させることで、印刷インキ吸収性が低い硬質物質を低減できるため、印刷インキが裏面塗工層にまでの透過することを防止しやすく、局所的な印刷インキの裏抜けを防止しやすいが、好ましくは基紙中に凝集体状炭酸カルシウムを含有させることで、特に不透明度の低下や局所的な裏抜けを防止しやすいため好ましい。加えて、後述するが、塗工顔料として粒子径3.0μm以上の粒子の割合を顔料全体の3%以上40%未満とすることで、印刷インキを均一に吸収でき、かつ不透明度をより高くすることができ、例えば坪量が30g/m以上50g/m未満の塗工紙においても、充分に局所的な裏抜けを防止した塗工紙を得やすいため好ましい。
【0115】
(下塗り塗工)
以上のようにして製造された基紙は、基紙表面のサイズ性や平滑性、白色度を向上させる目的で、従来一般に製紙用途で用いる、水溶性高分子を主成分とするクリア塗工層や、顔料と接着剤を主成分とする顔料塗工層を下塗り塗工した基紙であっても良い。下塗り塗工層は単層でも良く、複数層であっても良い。
【0116】
(上塗り塗工)
本発明においては、基紙上に顔料および接着剤を主成分とする塗工層を設ける。
【0117】
(顔料)
本発明では、塗工層の表面の顔料粒子を電子顕微鏡で撮影して測定した粒子径において、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子の割合が顔料全体の3%以上40%未満となるよう、比較的粒子径の大きい顔料を多く含有させる。顔料の種類は特に限定されず、上記粒子径の範囲内であれば、一般に塗工顔料として用いるものを使用することができる。
【0118】
粒子径が1.5μm以上3.0μm未満の粒子が、顔料粒子のうち3%以上40%未満とするには、例えば市販されている二級クレーやHCクレーなどを、顔料100質量部のうち50〜90質量部、好ましくは60〜80質量部と多く含有させることで達成できる。このようなクレーとしては、例えば、HYDRASPERSE(HUBER社製、平均粒子径1.8μm、アスペクト比6)、UW−90(エンゲルハード社製、平均粒子径1.6μm、アスペクト比5)、CAPIM NP(リオカピム社製、平均粒子径2.2μm、アスペクト比20)、KCS(イメリス社製、平均粒子径2.7μm、アスペクト比14)などが挙げられる。
【0119】
粒子径が1.5μm以上3.0μm未満の粒子が、顔料全体の3%を下回ると、基紙表面が顔料で充分被覆されないため、白色度や光沢度にムラが発生して、見栄えに劣る塗工紙となる。40%を超過すると、塗工層中に顔料の重なり合いに起因する空隙が多くなり、印刷インキが沈み込みやすいため基紙にまで浸透するインキが多くなり印刷不透明度に劣るだけでなく、塗工層表面の平坦性が低く、充分な白紙光沢度や見栄えが得られない。
【0120】
粒子径1.5μm未満の顔料粒子が多く、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子が3%を下回ると、白色度や光沢度にムラが発生して、見栄えに劣る塗工紙となる。3.0μm以上の粒子が多く、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子が40%を超過すると、塗工層中に顔料の重なりに起因する空隙が多くなりすぎて、印刷インキが沈み込みやすいため基紙にまで浸透するインキが多くなり印刷不透明度に劣るだけでなく、塗工層表面の平坦性が低く、充分な白紙光沢度や見栄えが得られない。
【0121】
粒子径3μm以上の粒子を多く含む顔料としては、一般に顔料として用いられている平板状の無機粒子を使用でき、例えばクロライトやタルクなどが挙げられる。但し特開2005−133226号広報のごとく、平均粒子径が3〜9μmのクロライトを顔料として含有させると、粒子径3.0μm以上の粒子が多くなりすぎて、印刷不透明度が低下しやすいため好ましくない。このため、粒子径3.0μm以上の粒子の割合は、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の顔料よりも少なくなることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは1%以下である。なお、塗工層に含まれる顔料の粒子径とは、塗工層表面の顔料粒子を電子顕微鏡で撮影し、撮影した粒子の直径を測定して得られた粒子径を指す。
【0122】
粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子としては、従来一般に塗工顔料として使用している顔料を使用することができる。例えば炭酸カルシウム、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、ホワイトカーボン、焼成カオリン、構造化カオリン、珪藻土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト等の無機顔料や、ポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子、微小中空粒子、多孔質微粒子等の有機顔料等、または前述した再生粒子の中から、一種又は二種以上を適宜選択して配合しても良い。上記顔料の中には粒子径3.0μmを超過するものが含まれるが、この場合は湿式粉砕機(例えばプラネタリーミル、セイシン企業製)を用いて粉砕することで、粒子径を1.5μm以上3.0μm未満に調整可能である。
【0123】
上述のごとく、基紙中に少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子を含有し、塗工層中に顔料として、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子を顔料全体の3%以上40%未満含有させることで、平坦性の高い塗工層が得られるため、塗工層のインキ吸収性を緩やかにでき、基紙内部への急激なインキの吸収に起因する局所的な裏抜けを防止できる。特に好ましくは、脱水後の被処理物を熱気流に同伴させてから上述の熱処理工程を行い、かつ基紙中に凝集体状炭酸カルシウムを含有させることで、インキが多少基紙に吸収されてもインキが基紙を通り抜けて塗工紙の反対側の面にまで浸透することが少なくなり、特に局所的な裏抜けを防止することかできる。この構成とすることにより、例えば坪量が30g/m以上50g/m未満、特に基紙坪量が20g/m以上40g/m未満と軽量な塗工紙であっても、十分に局所的な裏抜けを防止でき、かつ高い不透明性および印刷不透明性を有する塗工紙を得やすいため好ましい。
【0124】
塗工層中の再生粒子の含有量は顔料100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、3〜8質量部がより好ましい。1質量部を下回ると顔料同士の隙間が少なく塗工層表面の印刷インキ吸収性が低下しやすくなり、塗工層が薄い部分において、多くのインキが吸収されてしまうため、この部分において局所的に裏抜けが発生しやすくなるため好ましくない。10質量部を超過すると、顔料同士の隙間が多くなりすぎて、逆にインキの透過性が高くなり印刷不透明性の低下や裏抜けが発生しやすいだけでなく、パイリングの発生や白色度の低下が起こりやすいため好ましくない。
【0125】
上述のごとく、基紙中に少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子を用い、かつ塗工層中に顔料として粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子を顔料全体の3%以上40%未満含有させることに加えて、脱水後の被処理物を熱気流に同伴させて熱処理を行い、かつ基紙中に凝集体状炭酸カルシウムを併用すること、塗工層中に顔料として不定形な形状を有する再生粒子を顔料全体の1〜10質量部、好ましくは3〜8質量部併用することが好ましく、さらには再生粒子の粒子径が1.5μm以上3.0μm未満であると、塗工層のインキ吸収性が良好であるため、塗工層の薄い部分に集中してインキが吸収されることなく、仮に多くのインキが吸収されたとしても、印刷インキが基紙を透過して裏面塗工層にまで浸透しないため、局所的な裏抜けが発生しにくく、かつ印刷不透明性が高い塗工紙が得られやすいため好ましい。
【0126】
(有機顔料)
また、上記粒子径が1.5μm以上3.0μm未満の粒子以外にも、不透明性に優れた顔料である、有機顔料を含有させることが好ましい。有機顔料のなかでも、よりクッション性が高く不透明度を向上させやすい、中空の有機顔料を含有させることが好ましい。上述した1.5μm以上3.0μm未満の粒子と中空の有機顔料とを混合させることで、1.5μm以上3.0μm未満の粒子の間に有機顔料が入り込みやすく、1.5μm以上3.0μm未満の粒子の間に隙間ができ、印刷インキの吸収性を向上させやすい。
【0127】
有機顔料はクレーなどの無機顔料に比べて変形しやすいため、一般的には光沢度を向上させるために使用される。特に有機顔料の内部が空洞である中空有機顔料は、内部が密に詰った密実有機顔料に比べて変形しやすいため、特に光沢度を向上できる利点がある。本発明では、この有機顔料を、光沢度を向上させる目的ではなく、インキ吸収性を調整するために用いている。すなわち、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子の間にクッション性を有する粒子を含有させることで、この粒子同士の隙間を一定間隔にできるためインキ吸収性を良好にでき、印刷インキが集中して吸収されることがなくなり、局所的な印刷インキの浸透による裏抜けを防止できる。
【0128】
有機顔料は上述のとおり変形しやすいため、クッション性を有したまま塗工層に留めるためには、一般的に塗工後に実施される平坦化処理(カレンダー処理)を行わないことが好ましく、行ったとしても緩やかな条件に留めることが好ましい。平坦化条件は塗工層の顔料構成や接着剤の種類および含有量により異なり、一律に条件を決めることはできないが、得られた塗工紙において75度白紙光沢度が30%以下となるよう、軽度な平坦化処理に留めることが好ましい。光沢度が30%以上にまで平坦化を進めると、有機顔料が潰れ、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の顔料同士に隙間が生じにくくなり、印刷インキの浸透性にムラが発生しやすくなるため好ましくない。
【0129】
密実型の有機顔料を用いると、中空型と比べて潰れにくいメリットがあるものの、クッション性に劣るため1.5μm以上3.0μm未満の粒子の間に留まりにくく十分な空隙が得られにくくなり、インキ吸収性が低下するため、塗工ムラにより発生した塗工層の薄い部分において集中的にインキが吸収され、印刷インキが基紙を透過しやすくなり、局所的な裏抜けの発生を防止しにくいため好ましくない。
【0130】
クッション性を付与することで印刷インキの浸透性を均一に調整できるとの効果は、化学的に合成され粒子径をほぼ均一に調整できる、有機顔料のような合成顔料を用いることで得られやすい。天然の顔料を磨砕して得られた、粒子径分布がブロードな天然顔料では、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子径を有する顔料の間に入り込んだとしても、均一な空隙が得られにくく、印刷インキの浸透性を均一に調整できない。この場合、印刷インキが浸透しやすい部分と浸透しにくい部分が発生し、浸透しやすい部分において、局所的に多くのインキが浸透することで、局所的な裏抜けが発生しやすくなるため好ましくない。粒子径分布がシャープでクッション性がある、例えば中空有機顔料を混合させることで、塗工層中に粒子径が1.5μm以上3.0μm未満の粒子が多く存在しても、印刷インキを適度に浸透させることができるため、印刷インキの吸収性に局所的なムラが発生せず、局所的な印刷インキの裏抜けを防止しやすくなる。
【0131】
有機顔料としては、従来一般に製紙用途で使用されているものを使用することができる。例えば芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体等を共重合させた、粒子径0.1μm〜5.0μm程度のものが挙げられる。
【0132】
有機顔料の粒子径としては、特に限定されるものではなく一般に塗工顔料として使用できるものであれば制限はないが、好ましくは粒子径が0.9μm以上1.5μm未満、より好ましくは1.0μm以上1.4μm未満のものを用いることが好ましい。粒子径が0.9μmを下回ると顔料間に適度な空隙が得られないため、塗工層表面における印刷インキ浸透性が全体的に低下し、一部の印刷インキが浸透しやすい部分にインキが集中して浸透する場合があり、局所的な裏抜けが発生しやすい。加えて、粒子径が小さいため白紙光沢度および印刷光沢度が低下しやすくなるため好ましくない。有機顔料の粒子径が1.5μmを超過すると隙間が大きくなりすぎて、印刷インキを基紙に吸収させやすくなり、かえって局所的な印刷インキの浸透性を抑制しにくく、また印刷不透明度も低下しやすくなるため好ましくない。
【0133】
有機顔料の含有量は、顔料100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、2〜8質量部がより好ましい。1質量部下回ると裏抜けが発生しやすいだけでなく、印刷不透明度および印刷光沢度が低下しやすいため好ましくない。10質量部を超過すると、塗料濃度が低下しやすく、塗工ムラが発生して着肉ムラが起こりやすいため好ましくない。
【0134】
上述のごとく、少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子を含有させ、塗工層中に顔料として粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子を顔料全体の3%以上40%未満含有させることに加えて、好ましくは脱水後の被処理物を熱気流に同伴させ、かつ顔料として有機顔料を用いること、好ましくは粒子径が0.9μm以上1.5μm未満、より好ましくは1.0μm以上1.4μm未満の有機顔料を、顔料100質量部に対して1〜10質量部、好ましくは2〜8質量部用いることで、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子の間に粒子径が均一な顔料を存在させることができ、塗工紙全体に適度なインキ吸収性を付与できる。このため、インキの吸収が塗工層の薄い部分に集中せずに済み、インキが基紙を透過して裏面塗工層にまで浸透することで発生する、局所的な裏抜けを防止しやすいため好ましい。加えて、基紙中に凝集体状炭酸カルシウムを含有させると、塗工層に適度なインキ吸収性を持たせたとしても、基紙に高い吸液性を付与できるため、得られる塗工紙は充分に印刷インキの裏抜けを防止できるため好ましい。
【0135】
特に基紙中に、脱水後の被処理物を熱気流に同伴させ、少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子と凝集体状炭酸カルシウムとを含有させ、かつ塗工層中に顔料として粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子を顔料全体の3%以上40%未満含有させることに加えて、塗工層中に顔料として粒子径が1.0μm以上5.0μm未満、好ましくは2.0μm以上3.0μm未満、特に好ましくは1.5μm以上3.0μm未満であり、不定形な形状を有する再生粒子を、顔料100質量部に対して1〜10質量部、好ましくは3〜8質量部用い、かつ有機顔料として、粒子径が0.9μm以上1.5μm未満、好ましくは1.0μm以上1.4μm未満のものを、顔料100質量部に対して1〜10質量部、好ましくは2〜8質量部用いることで、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子の間に、不定形な形状を有する再生粒子および、粒子径が0.9μm以上1.5μm未満の有機顔料が入り込み、これにより、塗工層のインキ吸収性をさらに向上できるため、塗工層の薄い部分において印刷インキが集中的に吸収されることを防止しやすくなり、集中的に吸収した部分において印刷インキが基紙を透過して裏面塗工層にまで達することが少なくなり、印刷インキの局所的な裏抜けが発生しにくくなり、また高い印刷不透明度を有する塗工紙が得られやすいため好ましい。
【0136】
顔料としては上述した、粒子径が1.5μm以上3.0μm未満の粒子や再生粒子、有機顔料以外にも、一般に製紙用途で用いる塗工顔料を併用することができる。例えば軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト、シリカ等の無機填料や、ポリスチレンラテックス、尿素ホルマリン樹脂等を用いることができる。これら顔料は1種類、または2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0137】
(接着剤)
接着剤としては従来一般に製紙用途で用いるものを使用することができる。すなわち、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、生澱粉などの澱粉またはその誘導体;カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス;アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等の、通常製紙用途に用いられる接着剤が挙げられ、これらの中から一種又は二種以上を適宜選択して併用することができる。
【0138】
(塗工量)
上述の顔料および接着剤を主成分とした塗料を基紙上に塗布し、顔料塗工層を設ける。
塗工量(固形分量)は、両面合計で、好ましくは8.0〜14.0g/m、より好ましくは10.0〜13.0g/mである。塗工量が8.0g/m未満では、塗工ムラにより発生する、塗工層が薄い部分において印刷インキが吸収されやすくなり、印刷インキが基紙を透過して裏面塗工層に達しやすく、局所的な裏抜けが発生しやすいだけでなく、印刷不透明度や印刷光沢が低下しやすく着肉ムラも発生しやすいため好ましくない。14.0g/mを超えると、基紙の坪量が少なくなるため引張強さが低下して印刷時に断紙しやすくなるだけでなく、紙にコシがなくなるため印刷作業性(印刷後の印刷物を結束してまとめる際に不揃いとなる)が悪化しやすいため好ましくない。
【0139】
上述のごとく、本発明においては、基紙中に、好ましくは脱水後の被処理物を熱気流に同伴させ、少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子を含有させ、好ましくは凝集体状炭酸カルシウムをさらに含有させ、これら再生粒子や凝集体状炭酸カルシウム等を、基紙に対する灰分で8〜15質量%含有させること、および、塗工層中の顔料として粒子径が1.5μm以上3.0μm未満の粒子が顔料全体の3%以上40%未満であること、顔料として粒子径が0.9μm以上1.5μm未満の中空有機顔料を、顔料のうち1〜10質量%、好ましくは2〜8質量部用いることにより塗工層表面のインキ吸収性を均一に向上できるため、塗工量が両面合計で、8.0〜14.0g/mと低く、塗工ムラに起因する塗工層が薄い部分が発生したとしても、印刷インキが集中して基紙内部にまで浸透する、局所的な裏抜けが発生しにくいだけでなく、インキが浸透しやすいことで発生する印刷不透明度低下についても、高不透明度を有する再生粒子を含有させることによる印刷不透明度向上効果で補えるため、印刷不透明度に優れる塗工紙が得られやすいため好ましい。
【実施例】
【0140】
次に、本発明の塗工紙を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0141】
まず原料パルプとして、NBKPを20質量%、BTMPを表6に記載の割合(質量比)およびLBKPを混合して100質量%とし、このパルプ100質量%(絶乾量)に対して、各々固形分で、表6に記載の種類と量の填料および内添サイズ剤(品番:AK−720H、ハリマ化成(株)製)0.02質量%、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT−2600、アベベジャパン(株)製)1.0質量%、及び歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)0.02質量%を添加してパルプスラリーを得た。尚、NBKPのフリーネスは500ml、LBKPのフリーネスは400ml、BTMPのフリーネスは160mlに調整した。
【0142】
次に、ギャップフォーマからなるワイヤーパート、オープンドローのないストレートスルー型のプレスパート、シングルデッキドライヤーからなるプレドライヤーパートを経て基紙を製造した。基紙の灰分は表6に記載のとおりであった。なお、灰分はJISP8251:2003「紙,板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼法」に記載の方法に準じて測定した。
【0143】
表6に填料として記載した無機粒子は次を用いた。
・凝集炭カル
凝集体状炭酸カルシウム、品番:TP−NPF、奥多摩工業社製。
・紡錘炭カル
紡錘型軽質炭酸カルシウム、品番:TP−121―6S、奥多摩工業社製。
・再生粒子
表6に記載した「再生粒子」は、次の製造方法で得られた再生粒子を使用した。
【0144】
[再生粒子の製造]
製紙スラッジ一般、脱墨フロス又は排水汚泥からなる被処理物を、脱水、熱処理及び湿式粉砕して再生粒子を製造した。各工程における処理条件は、表1〜4に示した。なお、装置形式の「気流乾燥」とは、試料(脱水後の被処理物)を熱気流に同伴させて乾燥することができる装置を用いた場合を意味し、具体的には気流乾燥装置(型番:クダケラ、新日本海重工業社製)を使用した。また、炉形式の「回転乾燥」及び「キルン」とは、本体が横置きで中心軸周りに回転する横型回転キルン炉(ロータリーキルン炉)を用いた場合を意味する。さらに、湿式粉砕工程においては、セラミックボールミルを用いた。
【0145】
【表1】

【0146】
【表2】

【0147】
【表3】

【0148】
【表4】

【0149】
以上のようにして得られた再生粒子について、その品質を調べ、結果を表5に示した。
【0150】
【表5】

【0151】
ここで、本実施例における測定手段、各評価方法は、次の通りである。
【0152】
(水分率)
定温乾燥機内に試料を静置し、約105℃で6時間以上保持することで重量変動を認めなくなった時点を乾燥後重量とし、下記式により水分率を算出した。
水分率(%)=(乾燥前重量−乾燥後重量)÷乾燥前重量×100
【0153】
(平均粒子径)
目穴の異なる篩で篩い分けを行い、各篩い分けを行った被処理物の質量を測定し、この測定値の合計値が全体の50質量%に相当する段階における篩の目穴の大きさであり、JIS Z 8801‐2:2000に基づき、金属製の板ふるいを用いて測定した値である。
【0154】
(粒子径50mm以上の割合)
試料全体の重量を100とした場合に、目穴50mmの篩を通過しなかった試料の重量割合である。この測定に際しては、JIS Z 8801‐2:2000に基づき、金属製の板ふるいを用いた。
【0155】
(酸素濃度)
自動酸素濃度測定装置(型番:ENDA‐5250、堀場製作所製)にて各測定域からサンプリングした試料の酸素濃度の測定値である。
【0156】
(温度)
各領域(炉本体の外表面、熱風(バーナー)、排ガス(煙道)、炉本体内等)の温度を、熱電対にて実測した値である。
【0157】
(滞留時間)
色で識別できる金属片を炉本体内に投入し、当該金属片が被処理物の排出口から排出されるまでの時間を実測した値である。
【0158】
(発熱量減少率)
熱量計(燃研式デジタル熱量計、吉田製作所製)を用いて、熱処理前の試料と熱処理後の試料との発熱量を測定し、減少割合から算出した値である。
【0159】
(未燃率)
電気マッフル炉をあらかじめ600℃に昇温後、ルツボに試料を入れ、約2時間で完全燃焼させ、燃焼前後の質量変化から算出した値である。
【0160】
(硬質物質)
得られた各再生粒子に含まれるゲーレナイト及びアノーサイトの合計質量を、X線回析法(理学電気製:RAD2X)によって測定した値である。測定条件は、Cu‐Kα‐湾曲モノクロメーター:40KV‐40mA、発散スリット:1mm、SS:1mm、RS:0.3mm、走査速度:0.8度/分、走査範囲:2シータ=7〜85度、サンプリング:0.02度とした。
【0161】
((ワイヤー)摩耗度)
得られた各再生粒子について、プラスチックワイヤー摩耗度計(日本フィルコン製、3時間)を用い、スラリー濃度2重量%で測定した値である。
【0162】
(分散性)
粉砕後の再生粒子スラリー(60%濃度)について、B型粘度計を用いてローター回転数6rpmでの粘度を測定した値である。なお、粘度(mPa・s)が低いほど分散性が良好であると判定した。
【0163】
(安定性)
得られた各再生粒子の白色度及び平均粒子径について変動割合を測定し、変動が少ない順にランクを付け、上位8位までを◎、9〜17位を〇、18〜30位を△、それ以下を×とした。
【0164】
表6で填料として用いた再生粒子は、表1〜5に記載した製造例のものである。
【0165】
【表6】

【0166】
基紙の両面に、澱粉(酸化澱粉、SK−20、日本コーンスターチ社製)を、両面合計で、0.4g/mとなるようフィルム転写型ロールコーターで下塗り塗工した。この下塗り塗工後、アフタードライヤーパートで乾燥し、プレカレンダーパートで、ニップ圧20kN/mで平坦化処理を行った。
【0167】
表6に記載の種類および粒子径を有する顔料を、表6に記載の割合と炭酸カルシウムとを混合して100質量部とし、顔料100質量部に対して接着剤(スチレン−ブタジエンラテックス、品番:XY4、日本A&L社製)7質量部、澱粉(品番:コートマスターK96F、三晶社製)5質量部を混合した上塗り塗工液を、両面合計で、表6に記載の塗工量(固形分量)となるようフィルム転写型ロールコーターを用いて塗工した。乾燥後にソフトカレンダーを用い、ニップ圧30kN/m、ロール温度80℃で2ニップの平坦化処理を行い、塗工紙を得た。実施例29のみ、プレカレンダー処理を行わなかった。なお、顔料および接着剤の詳細は次の通りである。
【0168】
(顔料)
・炭酸カルシウム
重質炭酸カルシウム、品番:ハイドロカーブ90、備北粉化工業(株)製、平均粒子径1.3μm。
・デラミクレー
品番:カピムCC、イメリス社製、平均粒子径3.2μm。
・HCクレー
品番:HYDRASPERSE、HUBER社製、平均粒子径1.8μm。
・微粒クレー
品番:アマゾンプラス、カダム社製、平均粒子径0.3μm。
・PP
有機顔料、品番:AE852、JSR社製、粒子径1.1μm。
・再生粒子
表1〜表5記載の製造例1−1を用いた。平均粒子径が2.5μmとなるよう湿式粉砕して用いた。
【0169】
なお、ここでいう顔料の平均粒子径は、レーザー粒度分布測定装置(レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製)にて粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒子径(d50)として求めた。表6〜表8に記載の実施例14〜17は、有機顔料の粒子径を表6に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同じ有機顔料を用いた。
【0170】
表7に記載した、離解パルプの繊維長分布における最大値の範囲は、次のとおり求めた。塗工紙をJIS P 8220:1998「パルプ−離解方法」で離解して得られたパルプ繊維について、FiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した中心線繊維長を繊維長とし、このパルプ繊維について、重さ加重の繊維長分布を求め、繊維長0.05mmごとに集計した。最も繊維が多い範囲を最大値の範囲とした。
【0171】
表7に記載した、粒子径0.9μm以上1.5μm未満のPPの割合、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子の割合、粒子径3.0μm以上の粒子の割合は、次のとおり測定した。塗工紙をA4サイズに切り出し、用紙短辺を上辺として、上辺から下にAcm、左辺からAcmの地点で、縦横5mm角のサンプルを切り出した。ここでAは1〜20の整数であり、合計20サンプルを採取した。切り出したサンプルの表面を、走査電子顕微鏡(型番:S−2150、(株)日立製作所製)を用いて倍率12000倍で写真撮影した。写真の上辺から下にBcm、左辺からBcmの地点に最も近く、かつ粒子全体が判る程度に撮影されている顔料粒子について、粒子径を測定した。ここでBは1〜5の整数であり、1サンプルから5個の顔料粒子の粒子径を求め、合計100点の顔料粒子について粒子径を求めた。この100点の粒子のうち、粒子径が1.5μm以上3.0μm未満の範囲にある粒子数の割合を算出した。再生粒子、炭酸カルシウム、カオリンクレー等、複数種類の顔料を併用した場合には、どの粒子がいずれの顔料であるかを、粒子形状で判断することができる。再生粒子は脱墨フロス由来のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムからなる、凝集塊状の粒子であり、炭酸カルシウムは不定形の略球状粒子であり、クレーは多角形状を主に有し、有機顔料は球状である。上記形状は、倍率12000倍で充分判別可能である。また、電子顕微鏡を用いて測定した粒子径は、顔料単体をスラリー化してからレーザー法を用いて粒度分布測定器で測定した粒子径よりも多少、小さい値となっている。
【0172】
得られた塗工紙について、各物性を以下の方法にて調べた。結果は表8に示す。
(a)坪量
JIS P 8124:1998「紙及び板紙−坪量測定方法」に記載の方法に準拠して測定した。
【0173】
(b)引張強度
JIS P 8113:2006「紙及び板紙−引張特性の試験方法−第2部:定速伸張法」に記載の方法に準拠して、塗工紙の流れ方向(縦方向)について測定した。引張強度が2.6kN/m以上であれば引張強度に優れ、2.4kN/m以上であれば引張強度が良く実使用可能であり、2.4kN/mを下回ると引張強度が弱く、実使用不可能となる。
【0174】
(c)白色度
JIS P 8148:2001「紙,板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」に記載の方法に準拠して測定した。白色度が79%以上であれば白色度が高いため見栄えに優れ、77%以上であれば白色度が高いため見栄えが良く、77%未満であれば白色度に劣り見栄えが悪くなり実使用不可能となる。
【0175】
(d)不透明度
JIS P 8149:2000「紙及び板紙−不透明度試験方法(紙の裏当て)−拡散照明法」に記載の方法に準拠して測定した。なお、80%以上であれば不透明性に特に優れ、79%以上であれば不透明性が良く使用可能であり、79%未満であれば不透明性に劣るため見栄えが悪い塗工紙となり、実使用不可能となる。
【0176】
(e)パイリング
オフセット輪転印刷機(型番:LR−435/546SII、小森コーポレーション社製)を使用し、カラーインキ(品番:WEB ACTUS MAJOR、東京インキ社製)にて、印刷速度1000rpmでカラー4色オフセット印刷を1万7千メートル行った。得られた印刷物について、次のとおりパイリングの発生状況を評価した。
◎:パイリングがほとんどなく、表面強度に優れる。
○:パイリングが若干発生したが、表面強度が良く実使用可能。
×:パイリングが多く発生し、表面強度が弱く実使用不可能。
【0177】
(f)着肉ムラ
上記パイリング評価で用いた印刷物の印刷面について、目視及びルーペ(10倍)にて着肉ムラの程度を観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:着肉ムラがほとんどなく、図柄の美粧性に優れる。
○:着肉ムラが若干発生したが、図柄の美粧性が良い。
△:着肉ムラが多少発生したが、図柄に美粧性があると言え、実使用可能。
×:着肉ムラが多く発生し、図柄の見栄えが悪く実使用不可能。
【0178】
(g)局所的な裏抜け
上記パイリング評価で用いた印刷物について、目視にて局所的な裏抜けの程度を観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:局所的な裏抜けが発生していない。
○:局所的な裏抜けが若干発生したものの、実使用可能。
△:局所的な裏抜けが発生したものの、市販品よりは少なく、実使用可能な最低レベル。
×:局所的な裏抜けが、市販品と同程度に発生し、実使用不可能。
【0179】
(h)印刷不透明度
次の条件で塗工紙に印刷を行って印刷試験体を作製した。
・印刷機:RI‐3型、(株)明製作所製
・インキ:WebRexNouverHIMARKプロセス(藍)、大日精化社製
・インキ量:上段ロールに0.3ml、下段ロールに0.2ml
・試験方法:上段、下段ロールでそれぞれインキを各3分間練り(2分間練った後、ロールを反転させてさらに1分間練る)、回転速度30rpmで2色同時印刷を行った。
前記印刷試験体について、JIS P 8149:2000「紙及び板紙−不透明度試験方法(紙の裏当て)−拡散照明法」に記載の方法に準拠して測定した。
印刷不透明度が77%以上であれば印刷不透明度が高く美粧性に優れ、印刷不透明度が75%以上であれば印刷不透明度が高く美粧性が良く実使用可能であり、印刷不透明度が75%未満であれば印刷不透明度が低く美粧性に劣る。
【0180】
(i)印刷光沢度およびΔG
前記印刷不透明度にて調製した印刷試験体および調整前の試験体について、JIS P 8142:2005「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」の方法に準じて光沢度を測定した。印刷前後の光沢度差(印刷光沢度−白紙光沢度)を測定し、ΔGとした。印刷光沢度のΔEが12%以上であれば白紙光沢度と印刷光沢度の差が大きく見栄えに優れ、ΔEが10%以上であれば白紙光沢度と印刷光沢度の差が大きく見栄えが良く、ΔEが10%未満であれば白紙光沢度と印刷光沢度の差が小さく見栄えに劣る。
【0181】
【表7】

【0182】
【表8】

【0183】
実施例の塗工紙はいずれも、少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子を含有し、熱処理が、前記脱水後の被処理物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥工程で乾燥された被処理物を熱処理する第1の熱処理工程と、この第1の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第1の熱処理温度を超える温度で熱処理する第2の熱処理工程と、この第2の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第2の熱処理温度を超える温度で熱処理する第3の熱処理工程と、を含む少なくとも4工程であり、塗工層の表面の顔料粒子を、電子顕微鏡で撮影して測定した粒子径において、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の顔料粒子が、全体の3%以上で40%未満であるため、坪量が30g/m以上50g/m未満でありながら、印刷インキの局所的な裏抜けが発生せず、引張強度、白色度、不透明度が高く、パイリング、着肉ムラが少なく、印刷不透明度および印刷光沢度、印刷光沢度差が大きい塗工紙である。
【0184】
これに対して、比較例の塗工紙は、少なくとも4工程の熱処理工程を行って得られた再生粒子を含有していないか、熱処理が、前記脱水後の被処理物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥工程で乾燥された被処理物を熱処理する第1の熱処理工程と、この第1の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第1の熱処理温度を超える温度で熱処理する第2の熱処理工程と、この第2の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第2の熱処理温度を超える温度で熱処理する第3の熱処理工程と、を含む少なくとも4工程でないか、塗工層の表面の顔料粒子を、電子顕微鏡で撮影して測定した粒子径において、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の顔料粒子が、全体の3%以上で40%未満でないため、印刷インキの局所的な裏抜けが発生し、引張強度、白色度、不透明度、パイリング、着肉ムラ、印刷不透明度、印刷光沢度、印刷光沢度差のいずれかまたは複数の項目に劣る塗工紙である。
【0185】
なお、表6〜表8に記載の市販品1は、坪量が50g/m以上の一般に使用されている塗工紙である。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明によれば、坪量が30g/m以上50g/m未満と軽量でありながら、印刷を行った後も局所的に印刷インキが裏抜けすることなく、印刷見栄えに優れた塗工紙を提供することができる。さらには、不透明度、白色度および印刷光沢度(特に白紙光沢からの上昇幅)に優れた塗工紙を提供することができる。
【符号の説明】
【0187】
10…原料、12…貯槽、14…第2の熱処理炉、15,44…外熱ジャケット、22…再燃焼室、24…予冷器、26…熱交換器、28…誘引ファン、30…煙突、32…第3の燃焼炉、34…冷却機、36…粒子径選別機、38…サイロ、42…第1の熱処理炉、43,45,46,47…熱風発生炉、60…乾燥装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙および基紙上に顔料と接着剤を主成分とする塗工層を設けた、坪量が30g/m以上50g/m未満の塗工紙であり、
前記基紙中に、製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理して得られた再生粒子を含有し、
前記熱処理は、前記脱水後の被処理物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥工程で乾燥された被処理物を熱処理する第1の熱処理工程と、この第1の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第1の熱処理温度を超える温度で熱処理する第2の熱処理工程と、この第2の熱処理工程で熱処理された被処理物を前記第2の熱処理温度を超える温度で熱処理する第3の熱処理工程と、を含む少なくとも4工程に分けて行っており、
前記塗工層の表面の顔料粒子を、電子顕微鏡で撮影して測定した粒子径において、粒子径1.5μm以上3.0μm未満の顔料粒子が、全体の3%以上40%未満であることを特徴とする、塗工紙。
【請求項2】
前記顔料としてさらに、前記塗工層の表面の顔料粒子を、電子顕微鏡で撮影して測定した粒子径において、粒子径0.9μm以上1.5μm未満の有機顔料を含有し、
前記粒子径1.5μm以上3.0μm未満の粒子に対する、前記有機顔料の割合が1〜4であることを特徴とする、請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記基紙の灰分が8〜15質量%であり、前記塗工層が両面あたり8g/m以上14g/m未満であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の塗工紙。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−157659(P2011−157659A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20884(P2010−20884)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】