説明

塗布方法およびインクジェット記録材料の製造方法

【課題】 簡便かつ安価な設備を用いて、回収液を続けて再利用することにより、安価に安定した品質の製品を提供することである。
【解決手段】水溶性高分子化合物を含む塗布液を基材に塗布する工程、塗布された塗布液の一部を回収液として回収する工程、回収液を基材に塗布する工程を有する塗布方法において、回収液に該水溶性高分子化合物と同一繰り返し単位からなりかつ該水溶性高分子化合物よりも質量平均分子量が小さい水溶性高分子化合物を混合する工程を有することを特徴とする塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液を基材に塗布後、塗布液の一部を回収して再塗布する塗布方法およびその塗布方法を用いたインクジェット記録材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報産業の急速な発展に伴い、種々の情報処理システムが開発され、その情報システムに適した記録方法及び装置も開発されている。記録方法の中でインクジェット記録方法は、多種の記録材料に記録可能なこと、ハード(装置)が比較的安価であること、コンパクトであること、静粛性に優れること等から、オフィスは勿論、いわゆるホームユースでも広く採用されている。このインクジェット記録方法に使用される記録用シートは、基材に水溶性高分子等の様々な成分を含有する塗布液を塗布する塗布工程を経て製造される。
【0003】
ところで、塗布工程で使用される塗布装置には各種の塗布方式があり、基材に塗布液を塗り付ける部分(以下「アプリケーション系」という)と、基材に塗り付けた塗布液を所望の塗布量に計量する部分(以下「計量系」という)とに分けられる。更に、アプリケーション系の中でもその相違によってロッド塗布、ディップ塗布、ファウンテン塗布等に分類され、計量系の中でもその相違によってエアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロッド塗布等に分類される。また、アプリケーション系と計量系とを同一の部分で担当する塗布装置もあり、エクストルージョン塗布、ビード塗布、カーテン塗布、スライドビード塗布等が知られている。
【0004】
このように各種の塗布方式があるが、アプリケーション系と計量系とが同一の部分で行わない別体型の塗布装置の場合、塗布した塗布液の一部を回収手段で回収してする場合がある。このときに回収した液は、塗布から回収までの間に、塗布液の成分が基材や下層に移行したり、塗布液の溶媒が揮発したりするので、回収した液(本発明では、回収液と呼ぶ)の成分比率は元の塗布液の成分比率とは異なってしまう。
【0005】
従って、特許文献1に見られるように、元の塗布液と成分比率が異なる回収液をそのまま再利用したのでは、安定した品質の記録用シートを製造することができない。特に、インクジェットの記録用シートの製造方法のうち、吸収性基材の上、特に支持体上に塗布形成した色材受容層の上に、塗布液を塗布し、その塗布液の一部を掻き落として回収する場合には、塗布液の一部の成分が色材受容層に移行し易くなる。これにより、回収液の成分比率が元の塗布液の成分比率に対して大きく変化し易い。この為、回収液を元の塗布液に混合すると、塗布液の成分比率が変化して記録用シートの品質に与える影響が大きいので、回収液を廃棄する場合が多かった。
【0006】
しかし、回収液を廃棄すると、液ロスによるコストアップになるだけでなく、回収液を放流するための廃水処理等のコストもかかるという問題がある。この場合、回収液の成分比率を化学的に分析して、それに見合った「補充液」を調製し、回収液に補充して再利用することは理屈上では可能であり、特許文献2に、詳細な手段が示されている。しかしながら、特許文献2に示されているように化学的分析に基づき、「塗布液に含有する水溶性高分子と同一繰り返し単位でありかつ質量平均分子量の小さい水溶性高分子化合物を含むことのない補充液」を調製し、回収液と混合して再利用したとき、得られた液(以下、再生液と呼ぶことがある)の組成が元の塗布液と同じ成分比率になっているにも関わらず、1〜2回程度の再利用までは記録用シートの品質を維持できるが、それ以降も続けて再利用すると記録用シートの品質が規格外になってしまい多量の不合格品が発生する場合があった。特に、塗布液にカチオン性有機ポリマー化合物を含有する場合には、多数回再利用したときの品質変動が大きく、改善が求められていた。特許文献2においては、この問題の解決手段として、オンラインで液物性を測定し、補充液の添加量を自動的に調整することが開示されている。しかしながら、オンラインで物性を測定し、その結果をフィードバックして添加系を制御する必要があり、複雑かつ高価な設備を用いる必要があった。
【特許文献1】特開平5−106198号公報
【特許文献2】特開2004−283648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
すなわち、本発明の目的は、簡便かつ安価な設備を用いて、回収液を塗布することにより、安価に安定した品質の製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、塗布液の再利用方法について鋭意検討した結果、水溶性高分子化合物を含む塗布液を基材に塗布した後、塗布液の一部を回収する塗布方式において、その回収液に、該水溶性高分子化合物と同一繰り返し単位でありかつ該水溶性高分子化合物よりも質量平均分子量が小さい水溶性高分子化合物を添加することにより、回収液を再塗布することで、簡便かつ安価な設備を用いて、回収液を続けて再塗布することが可能となり、その塗布方法により、安価に安定した品質の製品を提供することができることを見出し、本発明に至った。
【0009】
前記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
<1>
水溶性高分子化合物を含む塗布液を基材に塗布する工程、塗布された塗布液の一部を回収液として回収する工程、回収液を基材に塗布する工程を有する塗布方法において、回収液に該水溶性高分子化合物と同一繰り返し単位からなりかつ該水溶性高分子化合物よりも質量平均分子量が小さい水溶性高分子化合物を混合する工程を有することを特徴とする塗布方法。
<2>
前記基材が、吸収性基材であることを特徴とする<1>に記載の塗布方法。
<3>
前記基材が、支持体上に色材受容層を有する吸収性基材であることを特徴とする<1>〜<2>のいずれかに記載の塗布方法。
<4>
前記水溶性高分子化合物が、カチオン性有機ポリマー化合物であることを特徴とする、<1>〜<3>のいずれかに記載の塗布方法。
<5>
前記塗布液が塩基性塗布液であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載の塗布方法。
<6>
前記塗布液中に前記水溶性高分子化合物を0.1〜10質量%含有していることを特徴とする、<1>〜<5>のいずれかに記載の塗布方法。
<7>
<1>〜<6>のいずれかに記載の塗布方法を用いたことを特徴とする、インクジェット記録材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便かつ安価な設備を用いて、回収液を続けて再塗布することにより、安価に安定した品質の製品を提供することができる。なお、簡便かつ安価な設備とは、具体的には、特開2003-283648の図面における「コントローラー72」が不要であること等を指す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る塗布方法及びインクジェット記録材料の製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0012】
本発明の塗布液再利用方法は、水溶性高分子化合物を含む塗布液を基材に塗布した後、塗布液の一部を回収する塗布方式において、その回収液に、該水溶性高分子化合物と同一繰り返し単位でありかつ該水溶性高分子化合物よりも質量平均分子量が小さい水溶性高分子化合物を添加することにより、回収液を再利用することを特徴とする。
【0013】
塗布液とは、例えばインクジェット記録材料における色材受容層を形成するために用いる液のことをいい、その場合、単独塗布液である場合と、二種類以上の塗布液を用いる場合がある。 二種類以上の塗布液を用いる場合とは、例えば、架橋剤、微粒子、バインダー等を含有する塗布液(以下、「塗布液A」ということがある)および、(1)前記塗布液Aを塗布して塗布層を形成すると同時、(2)前記塗布液Aを塗布して形成される塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前のいずれかのときに、塩基性塗布液(以下、「塗布液B」ということがある)を塗布する場合のこと等をいう。 この場合、塗布液とは、塗布液A、塗布液Bのいずれかのことを示す。ここで、前記「塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前」とは、通常、色材受容層用塗布液の塗布直後から数分間の過程を指し、この間においては、塗布された塗布層中の溶剤(分散媒体)の含有量が時間に比例して減少する「恒率乾燥速度」の現象を示す。この「恒率乾燥速度」を示す時間については、例えば、化学工学便覧(頁707〜712、丸善(株)発行、昭和55年10月25日)に記載されている。本発明の塗布方法による効果は、(1)前記塗布液Aを塗布して塗布層を形成すると同時、(2)前記塗布液Aを塗布して形成される塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前のいずれかのときに、塗布液Bを塗布する場合に、安定した品質の製品を得るために特に著しい。
【0014】
以下、塗布液について詳細に説明する。
【0015】
(水溶性高分子化合物)
本発明の効果は、塗布液に分子量分布をもつ物質を含有する場合に発現し、分子量分布をもつ物質が水溶性高分子化合物である場合に特に顕著に発現する。「分子量分布をもつ」とは、化学構造中に同一の繰り返し単位を持ちかつ分子量が異なる化合物の混合物からなる物質であることを意味する。
本発明の塗布液に用いる水溶性高分子化合物としては、いわゆる記録材料のバインダーとして用いられるPVAやでんぷん(各種変性PVAや変性でんぷんを含む)、セルロース誘導体(ヒドロキシプロピルセルロース)のようなアニオン系およびノニオン系有機ポリマー化合物や、いわゆるインクジェット記録材料の媒染剤として用いられる各種カチオン性ポリマー化合物が知られている。
【0016】
(カチオン性ポリマー化合物)
上記カチオン性ポリマー化合物には、カチオン性有機ポリマー化合物と、ポリ塩化アルミニウム等のカチオン性無機ポリマー化合物が挙げられる。
【0017】
(カチオン性有機ポリマー化合物)
カチオン性有機ポリマー化合物とは、カチオン性基として、第1級〜第3級アミノ基、又は第4級アンモニウム塩基を有する高分子化合物のことである。具体的には、第1級〜第3級アミノ基およびその塩、又は第4級アンモニウム塩基を有する単量体(媒染モノマー)の単独重合体や、該媒染モノマーと他のモノマー(以下、「非媒染モノマー」という。)との共重合体又は縮重合体として得られるものが挙げられる。
【0018】
上記単量体(媒染モノマー)としては、例えば、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−プロピル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−オクチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−(4−メチル)ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−フェニル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド;
【0019】
トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、N,N,N−トリエチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリエチル−N−2−(3−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムアセテート;
【0020】
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドのメチルクロライド、エチルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、メチルアイオダイド若しくはエチルアイオダイドによる4級化物、又はそれらのアニオンを置換したスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、酢酸塩若しくはアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0021】
具体的には、例えば、モノメチルジアリルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(
メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド;
【0022】
N,N−ジメチル−N−エチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムブロマイド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムブロマイド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムスルホネート、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムアセテート等を挙げることができる。
その他、共重合可能なモノマーとして、N―ビニルイミダゾール、N―ビニル−2−メチルイミダゾール等も挙げられる。
【0023】
前記非媒染モノマーとは、第1級〜第3級アミノ基およびその塩、又は第4級アンモニウム塩基等の塩基性あるいはカチオン性部分を含まず、インクジェットインク中の染料と相互作用を示さない、あるいは相互作用が実質的に小さいモノマーをいう。
上 記非媒染モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等のアラルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;酢酸アリル等のアリルエステル類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン含有単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;エチレン、プロピレン等のオレフィン類、等が挙げられる。
【0024】
上記非媒染モノマーも、一種単独で又は二種以上を組合せて使用できる。
【0025】
更に、カチオン性ポリマー化合物として、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリメタクリロイルオキシエチル−β−ヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロライド、
ポリエチレニミン、ポリアリルアミンおよびその変性体、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアミド−ポリアミン樹脂、カチオン化でんぷん、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、ジメチル−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム塩重合物、ポリアミジン、ポリビニルアミンも挙げられる。
【0026】
(繰り返し単位)
水溶性高分子化合物の繰り返し単位については、「高分子化学入門〜高分子の面白さはどこからくるか〜(初版)」(蒲池幹治著 株式会社エヌ・ティー・エス発行 2003年9月1日発行 ISBN4-86043-027-1)のp11表2-1に記載されている。「同一繰り返し単位からなる」とは、例えば、単一モノマーを重合して得られた高分子化合物等が挙げられるが、繰り返し単位が複数ある場合には、すべての繰り返し単位が同一であることが好ましい。
【0027】
(質量平均分子量)
本発明における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)等を用いて、通常の方法にて測定可能である。具体的には、塗布液を溶離液で希釈し、カチオンポリマーの一般的なGPC溶出条件に則して測定する。カラムや溶離液はいくつか選択肢がありいずれでもかまわない。例えば、ポリアリルアミンの質量平均分子量を求める場合には、カラムとしてShodex KW802.5、溶離液として0.3M NaNO3、酢酸緩衝液pH3.5を用い、流量0.8ml/min、注入量200μl、検出RIの条件で測定し、その測定データと、質量平均分子量既知でかつ同一繰り返し単位の水溶性高分子化合物(この場合は、ポリアリルアミン)を評品として得た分子量較正曲線を比較することにより、質量平均分子量を求めることができる。
【0028】
(塗布液のその他の成分)
本発明における塗布液には、水溶性高分子化合物以外の成分を含有しても良い。
ただし、塗布液中の水溶性高分子化合物の組成比率は、0.1質量%〜10質量%程度である場合に本発明の塗布方法の効果が発現し、1質量%〜5質量%程度である場合に、特に効果が顕著に現れる。
なお、本発明による塗布液再利用方法を用いて製造可能であるインクジェット記録材料の場合については、具体的に後述する。
【0029】
(基材)
本発明における基材とは、塗布液を塗りつけられるいわゆる「被塗布材」を指す。本発明の効果が有効に現れるのは、塗布液の溶媒もしくは分散媒を吸収することが可能な基材を用いた場合であり、本発明においてはこのような基材を吸収性基材と呼ぶ。吸収性基材としては、セルロースパルプを主成分とする紙や板紙に加えて、紙やフィルム、熱可塑性樹脂ラミネート紙等の支持体上に塗工層のように溶媒もしくは分散媒を吸収可能な層を設けたもの等が挙げられる。特に、紙やフィルム、熱可塑性樹脂ラミネート紙等の支持体上に塗工層等溶媒もしくは分散媒を吸収可能な層を設けたものが基材である場合に、本発明の効果が顕著に現れる。
【0030】
以下、塗布方法、回収液を再利用するための補充液および塗布液の再生方法について述べる。
(塗布方法)
本発明は、水溶性高分子化合物を含む塗布液を基材に塗布した後、塗布液の一部を掻き落として回収する塗布方式に最適である。
具体的には、エアナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター等が挙げられる。
また、塗布品のひび割れなどのない、高品質な製品(インクジェット記録材料等)を得るためには、(1)前記塗布液Aを塗布して塗布層を形成すると同時、(2)前記塗布液Aを塗布して形成される塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前のいずれかのときに、塗布液Bを前記塗布層に塗布することが好ましい。尚、この場合には、塗布液Aはエクストリュージョンダイコーターのような、過剰分を掻き落とす必要がない塗布方式(事前計量型塗布方法)を用いることも可能であり、塗布工程の簡略化の観点で、より好ましい。
この場合、塗布液Bを塗りつける方法としては、塗布層と接触しない塗布装置を用いることが好ましく、具体的には、非接触バーコーター等が挙げられる。 非接触ファウンテンコーターが、塗布液Bを塗りつける塗布量の制御が容易であることからより好ましい。また、塗布液Bを掻き落とす方法としては、エアーナイフやバー等を用いることができ、より高速度の塗布に対応可能であり、生産効率上有利であることから、エアーナイフコーターが好ましい。
【0031】
(補充液)
発明者らは、鋭意検討を行い、水溶性高分子化合物(以下、水溶性高分子化合物Aと呼ぶことがある)を含む塗布液を塗りつけた後で塗布液の一部を回収する塗布方式を用いる場合、回収液を再利用(再塗布)することに起因する品質の変動を抑制するためには、回収液に、該水溶性高分子化合物Aと同一繰り返し単位でありかつ該水溶性高分子化合物Aよりも質量平均分子量が小さい水溶性高分子化合物(以下、水溶性高分子化合物Bと呼ぶことがある)を添加することが有効であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
なお、本発明では、水溶性高分子化合物Bまたは水溶性化合物Bを含む液を、補充液と呼ぶ。
水溶性高分子化合物Bの質量平均分子量は、水溶性高分子化合物Aの質量平均分子量の2/10〜9/10が好ましく、3/10〜8/10がより好ましく、4/10〜7/10が一定品質保持の観点でより好ましい。
例えば、インクジェット記録材料の製造に適用した場合、水溶性高分子化合物Bの質量平均分子量が、水溶性高分子化合物Aの質量平均分子量の2/10未満の場合には、回収液を繰り返し利用すると、印画濃度や光沢度の低下が生じてしまい、水溶性高分子化合物Bの質量平均分子量が水溶性高分子化合物Aの質量平均分子量の9/10を越える場合には、回収液を繰り返し利用した場合に、印画濃度や光沢度の上昇および粒状性の悪化が生じてしまい、いずれも一定品質保持の観点から好ましくない。
また、一定品質保持の観点から、補充液に水溶性高分子化合物Aと水溶性高分子化合物Bを併用することがより好ましい。
【0032】
補充液中の水溶性高分子化合物B(ただし、補充液に水溶性高分子化合物Aと水溶性高分子化合物Bを併用する場合は、水溶性高分子化合物Aと水溶性高分子化合物Bの合計)の処方比率は、特許文献2の記載やプロトンNMR等の化学的定量分析を用いて決定する。具体的には、補充液と回収液を混合した液のポリマー化合物の質量比率が、塗布液中のポリマー化合物Aの質量比率の0.9〜1.1倍、好ましくは0.95〜1.05倍、より好ましくは0.99〜1.01倍となるように決定する。なお、そのときの前提条件は、次段落に述べる回収液に対する補充液の混合比率(x:y)とする。化学的定量分析の具体的な方法は、例えば、ポリアリルアミンの定量分析をプロトンNMRを用いて行う場合、塗布液成分のプロトンNMRスペクトルを取得し、ポリアリルアミン由来のシグナル強度を用いて定量する。具体的には、塗布液を一定量計量し、水分を蒸発させた後、再度、内部標準を含んだ一定量のNMR溶媒に溶解しプロトンNMRを測定する。内部標準は、NMRシグナル強度規格化のために用いる物質である。例えば、塗布液1mlを凍結乾燥し、NMR溶媒としては重メタノール、内部標準はジフェニルが挙げられるが、分析対象の水溶性高分子化合物が溶解する溶媒を用いればよく、これに限らない。試料量、内部標準の濃度は実際の水溶性高分子化合物濃度により適宜決定する。
【0033】
プロトンNMRスペクトルを取得した後、ポリアリルアミン由来のシグナル強度を内部標準のシグナル強度で規格化し定量する。例えば、2.6ppm付近に分布するシグナルを用いれば良いが、他の添加成分種によって積分値の取り方は適宜選択しても良い。なお、定量にはポリアリルアミン水溶液を調製し、塗布液と同様の試料処理を行って作製した検量線を用いれば良い。
【0034】
(塗布液の再生方法)
前記補充液を、回収液に添加し、混合することにより、塗布液として繰り返し再利用することが可能となる。なお、回収液と補充液を混合する方法については、公知の攪拌機等公知の手段を用いることができる。回収液に対する補充液の混合比率は、塗布液の塗りつけ量と回収量に応じて決定する。具体的には、塗りつけ量と回収量の比率がx+y:xである場合(すなわち、回収量と実際に塗布された量の比率がx:yである場合)には、回収液:補充液=0.9×x:(y+0.1×x)ないし1.1×x:(y−0.1×x)の割合で混合することが、一定品質の製品を作り続ける観点で好ましい。また、回収液:補充液=0.95×x:(y+0.05×x)ないし1.05×x:(y−0.05×x)の割合で混合することが同じ理由でより好ましく、回収液:補充液=0.99×x:(y+0.01×x)ないし1.01×x:(y−0.01×x)の割合で混合することが、更に好ましい。
【0035】
(塗布液の再利用回数)
本発明における塗布液の再利用回数とは、回収液と補充液を混合して作成した液を塗布液の代わりに用いたときに1回とし、その液を用いた塗布にて生じた回収液と補充液を混合して作成した液を塗布液の代わりに用いたときを2回とする、という要領で数えたものである。また、製造設備の簡略化の観点で、回収液と補充液を混合したものを元の塗布液に加えていくことが好ましく、元の塗布液に回収液と補充液を各々加えて混合することがより好ましい。その場合には、液の実質的な消費量(=補充液の消費量)を基にして、計算上の再利用回数を求めることが可能である。本発明の液再利用方法は、再利用回数もしくは計算上の再利用回数が3回以上である場合に一定品質の製品を製造する効果が発現し、10回以上のときにより著しい効果が得られる。
【0036】
以下、本発明の塗布方法を適用して製造可能なインクジェット記録材料について述べる。
(無機微粒子)
本発明の製造方法は、無機微粒子を含有するインクジェット記録材料を製造する場合に、効果が顕著に発現する。無機微粒子については、特開2005-1199の[0014]〜[0023]等に詳細に記載されている。
【0037】
(高分子化合物)
本発明で製造するインクジェット記録材料には、高分子化合物を含有する。高分子化合物としては、本願で述べている水溶性高分子化合物や、特開2005-1199の[0024]〜[0029]、[0031]、[0033]〜[0035]等に詳細に記載されている高分子化合物が挙げられる。
【0038】
(架橋剤)
本発明は、インクジェット記録媒体の色材受容層として、微粒子およびバインダーを含む塗布層が、更に該バインダーを架橋し得る架橋剤を含み、該架橋剤とバインダーとの架橋反応によって硬化された多孔質層である態様のものを製造する場合に、効果が顕著に発現する。架橋剤については、特開2005-1199の[0040]〜[0043]にて、詳細に記載されている。
【0039】
(架橋化)
本発明の製造方法は、架橋化(架橋硬化)を、架橋剤、微粒子、バインダー等を含有する塗布液(塗布液A)を調製し、かつ、(1)前記塗布液Aを塗布して塗布層を形成すると同時、(2)前記塗布液Aを塗布して形成される塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前のいずれかのときに、塩基性塗布液(塗布液B)を前記塗布層に付与することにより行う場合に、効果が顕著に発現する。
この場合、架橋剤の使用量は、塗布液Aのバインダーに対して、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。塩基性塗布液(塗布液B)のpHは7以上がヒビ割れ防止の観点で好ましい。
【0040】
(分散剤)
本発明においては、無機微粒子を良好に分散するため色材受容層塗布液に分散剤を添加することが無機微粒子を良好に分散するため好ましい。分散剤は、媒染剤としての機能を有し、形成画像の耐水性及び耐経時ニジミの向上も図ることができる。このような分散剤としては、有機分散剤としてカチオン性有機ポリマー化合物(カチオン性分散剤)が好ましく、該分散剤を色材受容層中に存在させることにより、アニオン性染料を色材として有する液状インクとの間で相互作用し色材を安定化し、耐水性や耐経時ニジミを向上させることもできる。有機分散剤それぞれ単独種で使用しても良いし、有機分散剤および無機分散剤を併用してもよい。
【0041】
(媒染剤)
媒染剤としては前述したカチオン性有機ポリマー化合物の他に、無機媒染剤を用いることも可能で、無機媒染剤としては多価の水溶性金属塩や疎水性金属塩化合物が挙げられる。
無機媒染剤の具体例は、特開2005-1199の[0058]〜[0060]に詳細に記載されている。
本発明の効果は、無機媒染剤としてポリ塩化アルミニウムを用いる場合に顕著に発現する。
【0042】
(その他の成分)
本発明のインクジェット記録媒体は、必要に応じて、更に各種の公知の添加剤、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、蛍光増白剤、モノマー、重合開始剤、重合禁止剤、滲み防止剤、防腐剤、粘度安定剤、消泡剤、界面活性剤、帯電防止剤、マット剤、カール防止剤、耐水化剤等を含有することができる。それらの詳細は、2005-1199の[0062]〜[0076]に記載されている。
【0043】
(基材)
インクジェット記録材料の製造に本発明を適用する効果を発現する基材としては、セルロースパルプを主成分とする上質紙や板紙が挙げられる。 また、以下に述べる支持体上にインク受容層等の塗工層を設けたものでは、より本発明の効果が発現しやすい。また、特に、支持体上に架橋剤、微粒子、バインダー等を含有する塗布液Aおよび、(1)前記塗布液Aを塗布して塗布層を形成すると同時、(2)前記塗布液Aを塗布して形成される塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前のいずれかのときに、塩基性塗布液塗布液Bを塗布する場合に、本発明の効果が顕著に現れる。
【0044】
(支持体)
本発明に用いる支持体としては、プラスチック等の透明材料よりなる透明支持体、紙等の不透明材料からなる不透明支持体のいずれをも使用できる。またCD−ROM、DVD−ROM等の読み出し専用光ディスク、CD−R、DVD−R等の追記型光ディスク、更には書き換え型光ディスクを支持体として用い、レーベル面側に色材受容層を付与することもできる。
【0045】
不透明支持体としては、セルロースパルプを主成分とする上質紙や板紙を用いることが可能である。また、例えば、アート紙、コート紙、キャストコート紙、銀塩写真用支持体等に使用されるバライタ紙等の高光沢性の紙支持体;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル類、ニトロセルロース,セルロースアセテート,セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル類、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド等のプラスチックフィルムに白色顔料等を含有させて不透明にした(表面カレンダー処理が施されていてもよい。)高光沢性のフィルム;或いは、上記各種紙支持体、上記透明支持体若しくは白色顔料等を含有する高光沢性のフィルムの表面に、白色顔料を含有若しくは含有しないポリオレフィンの被覆層が設けられた支持体等も使用可能である。
白色顔料含有発泡ポリエステルフィルム(例えば、ポリオレフィン微粒子を含有させ、延伸により空隙を形成した発泡PET)や銀塩写真用印画紙に用いられるレジンコート紙も好適に適用可能である。
【0046】
また、上記支持体の表面には、濡れ特性及び接着性を改善するために、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理等を施したものを使用してもよい。その場合、コロナ放電処理等をオンラインで処理することが工程簡略化の観点で好ましい。
【0047】
支持体にはバックコート層を設けることもでき、バックコート層については特開2005-1199の[0092]〜[0093]に詳細に記載されている。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」を表し、「平均分子量」及び「重合度」は、「質量平均分子量」及び「重量平均重合度」を示す。
【0049】
[実施例1]
<インクジェット記録媒体の作製>
(支持体の作製)
LBKP100部からなる木材パルプをダブルディスクリファイナーによりカナディアンフリーネス300mlまで叩解し、エポキシ化ベヘン酸アミド0.5部、アニオンポリアクリルアミド1.0部、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン0.1部、カチオンポリアクリルアミド0.5部を、いずれもパルプに対する絶乾質量比で添加し、長網抄紙機により秤量し170g/m2の原紙を抄造した。
【0050】
上記原紙の表面サイズを調整するため、ポリビニルアルコール4%水溶液に蛍光増白剤(住友化学工業(株)製の「Whitex BB」)を0.04%添加し、これを絶乾重量換算で0.5g/m2となる様に上記原紙に含浸させ、乾燥した後、更にキャレンダー処理を施して密度1.05に調整した基紙を得た。
【0051】
得られた基紙のワイヤー面(裏面)側にコロナ放電処理を行なった後、溶融押出機を用いて高密度ポリエチレンを厚さ19μmとなる様にコーティングし、マット面からなる樹脂層を形成した(以下、この樹脂層面を「ウラ面」と称する。)。このウラ側の樹脂層に更にコロナ放電処理を施した後、帯電防止剤として酸化アルミニウム(日産化学工業(株)製の「アルミナゾル100」)と二酸化ケイ素(日産化学工業(株)製の「スノーテックスO」)を質量比1:2で水に分散した分散液を、乾燥重量が0.2g/m2となる様に塗布した。
【0052】
更に、樹脂層の設けられていない側のフェルト面(表面)側にコロナ放電処理を施した後、アナターゼ型二酸化チタン10%、微量の群青、及び蛍光増白剤0.01%(対ポリエチレン)を含有する、MFR(メルトフローレート)3.8の低密度ポリエチレンを、溶
融押出機を用いて、厚み29μmとなる様に溶融押し出しし、高光沢の熱可塑性樹脂層を基紙の表面側に形成し(以下、この高光沢面を「オモテ面」と称する。)、本実施例に用いる支持体とした。
【0053】
(色材受容層用塗布液の調製)
下記組成中の(1)蒸留水、(2)架橋剤及び(3)分散剤を混合したものをディゾルバーで攪拌しながら(4)シリカ微粒子を添加する。 添加終了後、ディゾルバーを用いて、回転数2000rpmで120分間かけて分散させた後、ジルコニアビーズを充填したサンドグラインダー(KD−20)を用いて微粒化処理を行い、シリカ微粒子分散液を得た。
【0054】
(1)蒸留水 1800kg
(2)架橋剤 (硼酸)12kg
(3)分散剤 60kg
(アクリル系カチオンポリマー 三洋化成工業(株)製の「ケミスタット 7005」、40%水溶液)
(4)シリカ微粒子(無機微粒子) 300kg
((株)トクヤマ製の「レオロシールQS−30」、平均一次粒子径:7nm)
【0055】
上記シリカ微粒子分散液を30℃にて24時間保管後、下記(5)バインダー水溶液、(6)界面活性剤及び(7)界面活性剤を混合し、色材受容層塗布液Aを得た。
【0056】
(5)バインダー水溶液
蒸留水 800kg
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 10kg
ポリビニルアルコール 60kg
((株)クラレ製の「PVA124」)
ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達製HPC−SSL) 4kg
これらを混合後、95℃180分間加熱し、30℃まで冷却し、バインダー水溶液を得た。
【0057】
(6)界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテル 10%溶液) 30kg
(花王(株)製の「エマルゲン109P」)
(7)界面活性剤(フッ素界面活性剤 10%溶液) 15kg
(大日本インキ化学(株)製「メガファックF−1405」)
【0058】
(インクジェット記録用シートの作製)
前記の支持体のオモテ面にオンラインでコロナ放電処理を行なった後、上記で得られた色材受容層用塗布液Aを、支持体のオモテ面にエクストルージョンダイコーターを用いて170ml/m2の塗布量で塗布し(塗布工程)、熱風乾燥機にて温度40℃(風速5m/sec)で塗布層の固形分濃度が18%になるまで乾燥させた。この間、上記塗布層は恒率乾燥速度を示した。その直後、下記組成からなる塩基性塗布液B(pH=9.6)を非接触バーコーターにて、上記塗布層上に40g/m2付着させた後、エアーナイフにて30g/m2を掻き落とし、更に温度80℃の熱風を用いて乾燥させ、塗布面を表側としてロール状に巻き取った。これにより、乾燥膜厚35μmの色材受容層が設けられた、本発明の製造方法によるインクジェット記録用シート(1)を得た。
【0059】
<塩基性塗布液Bの組成>
(1)硼酸(架橋剤、100%) 7kg
(2)イオン交換水 720kg
(3)分子量5000のポリアリルアミン20%水溶液 150kg
(日東紡績(株)製の「PAA−05」)
(4)表面pH調整剤(塩化アンモニウム、100%) 1kg
(5)表面pH調整剤(p−トルエンスルホン酸、100%) 18kg
(6)界面活性剤 100kg
(花王(株)製の「エマルゲン109P」、2%)
(7)界面活性剤(フッ素界面活性剤) 2kg
(大日本インキ化学(株)製の「メガファックF−1405」、100%)
【0060】
上記インクジェット記録材料(1)の製造過程にて、エアーナイフコーターにて掻き落とした回収液をB1とし、B1と下記組成の補充液BHをB1:BH=3:1の割合で混合し、再生液B1Sを得た。
B1Sを塗布液Bの代わりに用いて同様の工程でインクジェット記録材料を製造し、そのときに得られた掻き落とし液をB2とし、B2:BH=3:1の割合で混合し、再生液B2Sを得た。更に、塗布液Bの代わりにB2Sを使用して同様の工程でインクジェット塗布液を製造する という具合に、回収液と補充液を3:1の割合で混合して回収液の再利用を繰り返し、10回めの再利用にあたるB10Sを用いて、インクジェット記録材料(1)‘を得た。
尚、補充液BH中のポリアリルアミン比率は、塗布液Bおよび安定塗布状態における回収液B1中のポリアリルアミンをH-NMRを用いて定量し、「B1:BH=3:1で混合することで再生液B1S中のポリアリルアミン量が塗布液Bと同じ質量比率となるようにする」との考え方にて、決定した。
【0061】
補充液BH
(1)硼酸(架橋剤、100%) 6.5kg
(2)イオン交換水 537.0kg
(3)分子量3000のポリアリルアミン 20%水溶液 330kg
(日東紡績(株)製の「PAA−03」)
(4)表面pH調整剤(塩化アンモニウム、100%) 1.5kg
(5)表面pH調整剤(p−トルエンスルホン酸、100%) 24.0kg
(6)界面活性剤 100.0kg
(花王(株)製の「エマルゲン109P」、2%)
(7)界面活性剤(フッ素界面活性剤) 2.0kg
(大日本インキ化学(株)製の「メガファックF−1405」、100%)
【0062】
[実施例2]
補充液BHの(3)「PAA−03 330kg」の代わりに、「PAA−05 80kgおよび PAA−03 250kg」を用いた以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録材料(1)および(2)’を得た。
【0063】
[実施例3]
塗布液Bの(3)「PAA−05 150kg」の代わりに、「PAA−03 200kg」を用い、補充液BHの(2)イオン交換水を427.0kgに変更し、かつ(3)「PAA−03 330kg」の代わりに「PAA−01(分子量1000のポリアリルアミンの15%溶液)440kgを用いたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録材料(3)および(3)‘を得た。
【0064】
[比較例1]
補充液BHの「PAA−03 330kg」の代わりに、「PAA−05 330kg」を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録材料(1)および(4)‘を得た。
【0065】
[比較例2]
補充液BHの(2)イオン交換水を207.0kgに変更し、かつ(3)「PAA−03 330kg」の代わりに、「PAA−10C(分子量10000のポリアリルアミン 10%水溶液) 660kg」を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録材料(1)および(5)‘を得た。
【0066】
(評価試験)
上記より得たインクジェット記録材料について、下記の評価試験を行なった。その結果を下記の表1に示す。
【0067】
(1)印画濃度
セイコーエプソン(株)製のインクジェットプリンター「PM-G700」を用いて、各インクジェット記録にブラックのベタ画像を印画し、3時間放置後の該印画部分の反射濃度を、X−rite社製の反射濃度計「X−rite938」で測定した。
塗布開始時の塗布液Bを用いて得られたインクジェット記録材料(例えば(1))と、塗布液Bを繰り返し再生使用して得られたインクジェット記録材料(例えば(1)‘)の印画濃度差が小さいほど好ましく、0.1以内の差であれば実用的に許容可能である。
【0068】
(2)光沢度
JIS Z 8741の60度光沢度を測定した。塗布開始時の塗布液Bを用いて得られたインクジェット記録材料(例えば(1))と、塗布液Bを繰り返し再生使用して得られたインクジェット記録材料(例えば(1)‘)の光沢度差が小さいほど好ましく、10%以内であれば実用的に許容可能である。
【0069】
(3)粒状性
セイコーエプソン(株)製のインクジェットプリンター「PM-G800」を用いて、30℃85%RHの環境下にて、各インクジェット記録材料にブルーのベタ画像を印画し、印画部を観察した。
○:異常感なし
△:粒状性がやや悪い
×:粒状性が非常に悪い
【0070】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、回収液を繰り返し再利用することにより、安価にかつ廃棄物発生を少なく、品質バラツキの小さい製品を、簡便かつ安価な設備を用いて製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子化合物を含む塗布液を基材に塗布する工程、塗布された塗布液の一部を回収液として回収する工程、回収液を基材に塗布する工程を有する塗布方法において、回収液に該水溶性高分子化合物と同一繰り返し単位からなりかつ該水溶性高分子化合物よりも質量平均分子量が小さい水溶性高分子化合物を混合する工程を有することを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記基材が、吸収性基材であることを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記基材が、支持体上に色材受容層を有する吸収性基材であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項4】
前記水溶性高分子化合物が、カチオン性有機ポリマー化合物であることを特徴とする、請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項5】
前記塗布液が塩基性塗布液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項6】
前記塗布液中に前記水溶性高分子化合物を0.1〜10質量%含有していることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗布方法を用いたことを特徴とする、インクジェット記録材料の製造方法。

【公開番号】特開2006−247628(P2006−247628A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71980(P2005−71980)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】