説明

塗布液の脱泡方法および脱泡装置並びにディスプレイ用部材の製造方法

【課題】硬質材より構成された耐圧容器内部に塗布液が充填された可撓性の内袋容器を有する塗布液容器について、該塗布液容器内の塗布液を他の容器に移し替えることなく、そのまま直接脱泡処理が可能な塗布液の脱泡方法および脱泡装置を提供し、さらにはこの脱泡方法で脱泡した塗布液を使用してディスプレイ用部材を製造するディスプレイ用部材の製造方法を提供する。
【解決手段】空気流入路を備え硬質材より構成された耐圧容器と、該耐圧容器の内部に配置され、かつ可撓性を有した袋状に構成されるとともに内部に塗布液を貯蔵する内袋容器と、該内袋容器内の塗布液を耐圧容器外部まで排出案内する排出案内配管とから構成される塗布液容器内に充填された塗布液の脱泡方法であって、前記内袋容器内で塗布液の上部にある第1空間と、前記耐圧容器と前記内袋容器の間にある第2空間の両方を減圧することを特徴とする塗布液の脱泡方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばプラズマディスプレイ用前面板、カラー液晶ディスプレイ用カラーフィルターやTFT用アレイ基板、光学フィルタ、プリント基板、集積回路、半導体等の製造分野に使用されるものであり、詳しくは塗布液の脱泡方法および脱泡装置、並びにこの脱泡方法で脱泡した塗布液を使用したディスプレイ用部材の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スリットダイ等の塗布器を有してディスプレイ用部材等の被塗布基材に塗布をする塗布装置では、塗布液を内蔵したタンク等のバッチ式塗布液容器を塗布液供給装置に接続し、塗布液容器内の塗布液を塗布液供給装置から塗布器に供給して塗布生産を行う。この塗布液容器を運搬可能な形態とし、塗布液に対して専用化すれば、塗布液製造者で塗布液が充填されてから出荷される塗布液容器を、そのまま塗布装置の塗布液供給装置の上流側に接続することができる。その結果、外部からの異物混入や品質劣化の恐れなしに、塗布液容器内部の塗布液をすぐに使用できる。また、塗布液を使い切って空となった塗布液容器は、そのまま塗布液製造者に返却されて再利用されるが、塗布液容器の使用者側には塗布液容器の洗浄等のメンテナンスを行う必要がないので、コスト削減ができるという有益性が生じる。
【0003】
この様な運搬可能な塗布液容器として、樹脂製の内袋入り容器が近年使用されるようになっている(例えば特許文献1)。
【0004】
この塗布液容器は、金属などの硬質性の耐圧容器の内部に、樹脂製などの可撓性の内袋容器を収容し、この内袋容器内に塗布液を充填するものである。内袋容器は密閉構造となっているので、製造者側で充填されてから送られてくる塗布液は、使用者側で使用されるまで一切大気や異物に曝されることが無く、塗布液をクリーンな状態に保持できる。また内袋容器は使い捨てとなっていることから、塗布液を使い切れば、塗布液製造者側で、残留している塗布液を内袋容器ごと廃棄し、新たな内袋容器に交換して塗布液を充填することができるので、耐圧容器内を洗浄する手間が省け、さらには残留物によるクリーン度の低下、異物の混入等を回避することができる。
【0005】
内袋容器の内部には、底部より耐圧容器外まで伸びる排出案内配管が備えられており、この塗布液容器から塗布液を取り出す場合は、蓋部に付属している継手と排出案内配管が通じると共に、耐圧容器内に空気が導かれる空気流入路も設けられているので、空気流入路から空気で加圧することにより内袋容器が押し潰されて収縮し、内袋容器内の塗布液を、排出案内配管を介して送出できる。またこの内袋容器は、加圧空気が塗布液に直接接触することなく塗布液を送出するので、加圧空気の塗布液への溶存や加圧空気からの異物の混入が発生しないと言う利点もある。
【0006】
さて、塗布液容器に充填された塗布液中には、通常、塗布液充填時に混入する微細な気泡が存在していたり、あるいは塗布液そのものに気体が溶存していたりする。特に後者は、時間の経過に伴って気泡となる場合があることの他、塗布液が流れる流路中にオリフィス等の狭い隙間があったり、塗布器に塗布液を供給する定容量ポンプの急激な吸引動作によって負圧状態になったりすると、溶存している気体が気泡となることがある。塗布液中に気泡のある状態でスリットダイコーター等の塗布装置で被塗布基材に塗布をすると、気泡のある部分が塗布されない、いわゆる抜け等の塗布欠点を生じ、品質を著しく損なってしまう。この様な塗布欠点を未然に防止するために、塗布液中に存在している微細な気泡や、溶存している気体を、塗布液の脱泡装置で排除することが行われる。塗布液の脱泡処理は、製造者側で予め出荷前に行うこともあるが、その処理が不十分であったり、出荷後運搬中の振動等で気泡が塗布液中に再発生したりすることもあるので、使用者側が使用直前に塗布液の脱泡を行うことが塗布欠陥を無くす上で確実かつより効果的である。
【0007】
一般的な塗布液の脱泡装置としては、真空源を脱泡用容器に接続するものがある(例えば特許文献2)。これは塗布液容器内の塗布液を専用の脱泡用容器内に入れ、容器内部を真空源で減圧すると、塗布液の脱泡処理が行われる。
【0008】
また、塗布液を充填した塗布液容器の一部を開放し、真空源と接続された脱泡室内にこの塗布液容器を設置後、この脱泡室を密閉し、脱泡室内を減圧して、塗布液容器内の塗布液の脱泡を行うものもある(例えば特許文献3)。
【0009】
さらに、塗布液の粘度が高い場合などは、上述の脱泡用容器や脱泡室内の減圧に加えて塗布液を攪拌したり、あるいは超音波振動を与えたりして、効率よく脱泡するものもある(例えば特許文献4)。
【0010】
一方、上述の脱泡手段に加えて、塗布液容器とスリットダイ等の塗布器を接続する配管途中に設けられて、溶存している気泡を、透過膜を介して減圧することで塗布液外に排出する脱泡装置もある(例えば特許文献5)。
【0011】
しかし、上記特許文献2〜4に示される各脱泡手段は、上述した内袋容器内に塗布液を貯蔵する塗布液容器に対してはそのまま実施できない。すなわち、内袋容器内の塗布液を専用の脱泡用容器に移し替えれば脱泡処理することができるが、内袋容器内にある塗布液を排出案内配管を通して直接減圧すると、塗布液が吸引されるだけで脱泡はできない。また、空気流入路から耐圧容器と内袋容器の間の空間を減圧しても、内袋容器内の塗布液は脱泡できない。だからと言って、脱泡処理のために内袋容器を有する塗布液容器から脱泡用容器に塗布液の移し替えを行うと、塗布液のクリーン度、品質の維持と言うこの内袋容器を有する塗布液容器の優れた特長を生かすことができない。また脱泡用容器で脱泡された塗布液をさらに塗布液供給装置に送出する時は、この塗布液が加圧空気等に接触することになり、せっかく脱泡された塗布液に再び空気が溶存することになる。以上のように内袋を有する塗布液容器においては、特許文献2〜4の脱泡手段は好ましくない。
【0012】
一方特許文献5の脱泡装置は、特許文献2〜4に示される脱泡手段による問題は発生しないが、塗布器への塗布液供給速度に脱泡性能が依存し、多くの場合、十分な脱泡処理が行えない。
【特許文献1】特開2005−298024号公報(第4欄1行目〜第6欄5行目、図2、図8)
【特許文献2】特開平9−206657号公報(第25欄1行目〜第31欄19行目、図3、図4)
【特許文献3】特開2000−210929(第3欄1行目〜第4欄4行目、図4)
【特許文献4】特開2002−66431(第4欄1行目〜第7欄4行目、図1)
【特許文献5】特開2002−126403(第15欄1行目〜第17欄6行目、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、硬質材より構成された耐圧容器内部に塗布液が充填された可撓性の内袋容器を有する塗布液容器について、該塗布液容器内の塗布液を他の容器に移し替えることなく、そのまま直接脱泡処理が可能な塗布液の脱泡方法および脱泡装置を提供することにある。さらにはこの脱泡方法で脱泡した塗布液を使用してディスプレイ用部材を製造するディスプレイ用部材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、以下に述べる手段によって達成される。
【0015】
本発明になる塗布液の脱泡方法は、空気流入路を備え硬質材より構成された耐圧容器と、該耐圧容器の内部に配置され、かつ可撓性を有した袋状に構成されるとともに内部に塗布液を貯蔵する内袋容器と、該内袋容器内の塗布液を耐圧容器外部まで排出案内する排出案内配管とから構成される塗布液容器内に充填された塗布液の脱泡方法であって、前記内袋容器内で塗布液の上部にある第1空間と、前記耐圧容器と前記内袋容器の間にある第2空間の両方を減圧することを特徴とする。
【0016】
ここで、前記第2空間から減圧を開始してから、前記第1空間からの減圧を開始すること、前記第2空間の圧力を、前記第1空間の圧力以下にすること、前記第1空間からの減圧を、第1空間に塗布液導入口がある排出案内配管を介して行い、前記第2空間からの減圧を前記空気流入路を介して行うこと、前記塗布液容器の上下を反転させた後に前記第1空間からの減圧を前記排出案内配管を介して行うこと、前記排出案内配管の塗布液導入口が前記塗布液容器の上下を反転させる前には前記塗布液中にあり、前記塗布液容器の上下を反転させた後は前記第1空間にあること、が好ましい。
【0017】
本発明になる塗布液の脱泡装置は、空気流入路を備え硬質材より構成された耐圧容器と、該耐圧容器の内部に配置され、かつ可撓性を有した袋状に構成されるとともに内部に塗布液を貯蔵する内袋容器と、該内袋容器内の塗布液を耐圧容器外部まで排出案内する排出案内配管とから構成される塗布液容器内に充填された塗布液の脱泡装置であって、前記内袋容器内で塗布液の上部にある第1空間から減圧可能とする第1減圧手段と、前記耐圧容器と内袋容器の間にある第2空間から減圧可能とする第2減圧手段と、第1減圧手段と第2減圧手段による減圧と減圧開始タイミングをそれぞれ制御する制御ユニットと、を備えることを特徴とする。
【0018】
ここで、前記第1減圧手段は、第1空間からの減圧経路となる第1空間に塗布液導入口がある排出案内配管を含み、前記第2減圧手段は、第2空間からの減圧経路となる前記空気流入路を含むこと、前記第1減圧手段は、塗布液容器の上下を反転させて内袋容器内の塗布液上部に第1空間を形成する回転機構と、第1空間からの減圧経路となる前記排出案内配管を含み、前記第2減圧手段は、第2空間からの減圧経路となる前記空気流入路を含むこと、前記排出案内配管はその塗布液導入口が、前記塗布液容器の上下を反転させる前には前記塗布液中にあり、前記塗布液容器の上下を反転させた後は前記第1空間にあるものであること、が好ましい。
【0019】
本発明になるディスプレイ用部材の製造方法は、上述の塗布液の脱泡方法で脱泡した塗布液を使用してディスプレイ用部材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明になる塗布液の脱泡方法および脱泡装置を用いれば、内袋容器内部の塗布液上部にある第1空間と、塗布液容器の耐圧容器と可撓性の内袋容器の間にある第2空間の両方を減圧するのであるから、減圧によって内袋容器が押し潰されて収縮することなく、内袋容器内の塗布液をそのまま脱泡処理することができる。特に排出案内配管が短く、その塗布液導入口が第1空間にある時は、容易に脱泡処理できる。また内袋容器内部の底部まで排出案内配管が連通している場合も、塗布液容器を上下反転させることで、内袋容器内の上部に形成される第1空間と排出案内配管が連通するので、空気流入路と排出案内配管出口の両方から、第1空間と第2空間を減圧することで内袋容器内の塗布液をそのまま脱泡処理できる。いずれの場合も、塗布液容器に充填された塗布液を脱泡用の別容器に移す必要がないので、塗布液が塗布液容器外の空気に曝されることなく、塗布液のクリーン度、品質の状態を維持したまま、塗布液を確実かつ効果的に脱泡することができる。さらに上記構造の塗布液容器内の塗布液を直接脱泡処理したことで、塗布液の送出は内袋容器の外側から空気で加圧して行われて、脱泡処理した塗布液に再度空気が溶存しないと言うこの塗布液容器の特長を十分に発揮させることができる。
【0021】
本発明になるディスプレイ用部材の製造方法によれば、上記の優れた脱泡方法で脱泡した塗布液を用いてディスプレイ用部材を製造するのであるから、低コストで、塗布膜の均一性や再現性に優れ、かつ気泡等の塗布欠点の無い高品質のディスプレイ用部材を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の好ましい一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る脱泡装置1を備えた塗布装置100の概略正面断面図、図2は塗布液容器2の通常時の状態と反転させたときの状態を示した概略正面断面図である。さらに、図3は本発明に係る別の脱泡装置201を備えた塗布装置200の概略正面断面図である。
【0024】
図1に示される本発明の脱泡装置1は、塗布液5が充填された塗布液容器2に対して配管21A、21Bを介して減圧や加圧を行う加減圧ユニット20と、塗布液容器2を回転によって上下反転させる回転機構50と、加減圧ユニット20と回転機構50の各動作を制御する制御ユニット60と、からなる。
【0025】
また図1に示される塗布装置100は、脱泡装置1と、脱泡装置1により脱泡処理される塗布液5が充填された塗布液容器2と、脱泡処理された塗布液5をスリットダイ63に供給するための塗布液供給装置40と、塗布液供給装置40によって供給された塗布液5を被塗布基材である基板Aに塗布するためのスリットダイ63と、基板Aを吸着保持して水平方向に移動させるステージ73と、からなる。
【0026】
塗布液容器2は、硬質材からなる耐圧容器3と、耐圧容器3の内部に配置され、かつ可撓性を有した内袋容器4と、内袋容器4の底部13を最下方部として充填された塗布液5を塗布液導入口である取液口14で取り込んで塗布液容器2の外部まで排出案内する排出案内配管6と、耐圧容器3と内袋容器4の間にある第2空間8に連通する空気流入路7と、蓋部10と、蓋部10の内側にあるシール材11と、からなる。塗布液容器2の蓋部10には、排出案内配管6と脱泡装置1の加減圧ユニット20の配管21Aを接続するための継手12Aと、空気流入路7と加減圧ユニット20の配管21Bを接続するための継手12Bとが取り付けられている。排出案内配管6と継手12A、空気流入路7と継手12Bは、十分にシールされて連結されている。また内袋容器4内に充填された塗布液5の上部には第1空間9が存在している。第1空間9および第2空間8は、空気等の気体で占められている。
【0027】
次に、脱泡装置1の加減圧ユニット20は、2つの切り替えバルブ22A、22Bと、真空源61と、加圧源62と、を備えている。さらに加減圧ユニット20には、切り替えバルブ22Aから配管29を介して真空源61に至る経路に、配管23Aと、トラップ容器24と、配管25と、開閉バルブ26Aと、配管27Aと、調整弁28Aと、が備えられ、切り替えバルブ22Bから配管29を介して真空源61に至る経路に、配管23Bと、開閉バルブ26Bと、配管27Bと、調整弁28Bと、が備えられ、さらにまた切り替えバルブ22Bから加圧源62に至る経路には、配管30と、開閉バルブ31と、配管32と、調整弁33と、配管34と、が備えられている。
【0028】
加減圧ユニット20の切り替えバルブ22A、22Bは三方ボールバルブになっている。したがって切り替えバルブ22Aは、配管21Aを介して塗布液容器2に至る側からスリットダイ63に連通する配管35側へと、真空源61に連通する配管23A側へと、に経路を切り替えることができる。切り替えバルブ22Aから真空源61へ通じる経路では、塗布液容器2に充填された塗布液5の減圧脱泡処理を行う際に、トラップ容器24によって、配管21Aと切り替えバルブ22Aに残存する塗布液5が真空源61に侵入することを防止せしめられる。また同じ経路にある開閉バルブ26Aによって、これより下流(真空源61とは反対側)にあるものへの減圧の作用/停止を制御し、調整弁28Aによって塗布液容器2の内袋容器4内の塗布液5の上部にある第1空間9の圧力を調整する。
【0029】
一方、切り替えバルブ22Bは、配管21Bを介して塗布液容器2に至る側から真空源61に連通する配管23B側へと、加圧源62に連通する配管30側へと、に経路を切り替えることができる。切り替えバルブ22Bから真空源61へ通じる経路では、開閉バルブ26Bによって、これより下流にあるものの減圧の作用/停止を制御し、調整弁28Bによって、塗布液容器2の耐圧容器3と内袋容器4の間にある第2空間8の圧力が調整される。
【0030】
以上で調整弁28A、28Bには、好ましくは真空用のレギュレーターを用い、内袋容器4内の塗布液5の上部にある第1空間9の圧力、および耐圧容器3と内袋容器4との間にある第2空間8を、好ましくは絶対圧で50〜1000Pa、より好ましくは100〜500Paに減圧する。真空源61は、好ましくはドライポンプを用いるが、油回転真空ポンプ等その他の形式のポンプを使用しても良く、その到達真空度は、好ましくは1〜400Paである。
【0031】
また、切り替えバルブ22Bから加圧源62へ至る経路では、開閉バルブ31によって塗布液容器2内の耐圧容器3と内袋容器4の間にある第2空間8への加圧の作用/停止を制御し、調整弁33によって第2空間8の圧力が調整される。以上で調整弁33は、好ましくは加圧用の精密レギュレーターを用い、前記第2空間8の圧力を、好ましくは0.01〜1MPa、より好ましくは0.05〜0.5MPaに調整する。加圧源62としては、一定圧力のエアーや、N等の気体であることが好ましい。
【0032】
次に、脱泡装置1の回転機構50は、ベース台51と、ベース台51に立てられた一対の支柱52A、52Bと、一対の支柱52A、52Bに回転自在に取り付けられた軸53A、53Bと、軸53A、53Bに連結された塗布液容器2の把持部54A、54Bと、台座56を介して支柱52Aに固定され、片方の軸53Aを駆動するモータ55、からなる。なお、軸53A、53Bとモータ55の回転軸は同一軸線上に配置されている。軸53Aとモータ55については、図示しないカップリングで接続されているが、減速機を介して接続されていても良い。塗布液容器2と把持部54A、54Bとは図示しない締結手段により締結されている。回転機構50は塗布液容器2を軸53A、53Bの回転によって上下反転させて、蓋部10側を上下方向の下側、内袋容器4の底部13を上側に持ってくることで、塗布液容器2の内袋容器4内に充填された塗布液5の上部に形成される第1空間9に排出案内配管6の取液口14が通じるようになる。なお、塗布液容器2の回転時に配管21A、21Bが折損しないように、配管21A、21Bには十分に長く、屈曲可能な材質のものが使用される。
【0033】
なお、内袋容器4内の塗布液5上部にある第1空間9の減圧を行う第1減圧手段は、回転機構50と、加減圧ユニット20と、塗布液容器2の排出案内配管6と、で構成される。また塗布液容器2の耐圧容器3と内袋容器4の間にある第2空間8の減圧を行う第2減圧手段は、加減圧ユニット20と、塗布液容器2の空気流入路7と、で構成される。
【0034】
脱泡装置1の制御ユニット60は、切り替えバルブ22A、22Bと、開閉バルブ26A、26B、31と、調整弁28A、28B、33、の各部アクチュエーターと電気的に接続されており、予め入力された制御パラメータやプログラムに応じた制御信号が各部に送られることによって、配管経路の切り替え、減圧時あるいは加圧時の圧力の調整、減圧/加圧の作用/停止、および作用開始/終了タイミングの調整等の制御を行う。また制御ユニット60には、回転機構50のモータ55も電気的に接続されており、モータ55を任意のタイミングで駆動/停止させることができる。
【0035】
さらにまた、切り替えバルブ22Aには配管35、開閉バルブ36、配管41を介して塗布液供給装置40が接続されている。塗布液供給装置40は、配管41に接続される吸引用バルブ42と、配管43を介して吸引用バルブ42と連通した定容量ポンプ44と、配管45を介して前記定容量ポンプ44と連通した吐出用バルブ46と、スリットダイ63と前記吐出用バルブ46とを接続する配管47と、からなる。定容量ポンプ44は、間欠的に動作して定容量性を保証する液体供給手段であるならばいかなるものを用いてもよく、例えば、シリンジポンプ、ギアポンプ、スクリューポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベロフラムポンプ等が好ましく適用される。また定容量ポンプ44の代わりに、塗布液容器2の耐圧容器3と内袋容器4の間にある第2空間8に一定圧力をエアーや窒素ガス等で付加して、内袋容器を介した間接的な圧送供給により塗布液5をスリットダイ63に供給してもよい。なお吸引用バルブ42、吐出用バルブ46は、それぞれ脱泡処理された塗布液5の送出/遮断を任意に実施することができる。
【0036】
スリットダイ63は、互いに間隔をおいて対向する一対のリップ間に形成されるスリットに塗布液5を通過させることによって、スリットの出口である塗布液吐出口64から塗布液5を均一に吐出できるものである。スリットダイ63では、特に材質は限定されないが、ステンレス、超硬合金等の金属材料の他、セラミックスや、あるいはこれらの材料に表面処理を施工したものを用いてもよい。特にステンレスは、耐薬品性を有し、安価なため、好適に用いることができる。スリットダイ63は図示されていない昇降機構によって上下方向に自在に往復動できる。スリットダイ63から吐出される塗布液5は、これもまた図示されていない駆動源により水平方向に移動自在なステージ73に吸着保持された基板Aに塗布される。
【0037】
図1に示した塗布装置100では、加圧源62により耐圧容器3と内袋容器4の間にある第2空間8が加圧されることによって内袋容器4が押し潰され収縮して、内袋容器4内に充填された塗布液5が排出案内配管6、配管21A、切り替えバルブ22A、配管35、開閉バルブ36、配管41、吸引用バルブ42および配管43を経て、定容量ポンプ44に供給される。この時、脱泡された塗布液5は内袋容器4を介して空気等の気体で加圧され、直接には加圧されないので、空気等の気体が塗布液5に再び溶存することはない。そして、定容量ポンプ44から一定供給速度で塗布液5がスリットダイ63へ送られ、塗布が行われる。なお、各構成部品間を接続する配管は、例えば、フッ素系樹脂製ホース、シリコン製ブレードホース、ポリエチレン製ホース、ポリプロピレン製ホース等の屈曲可能な可撓性ホースの他、金属製の配管を使用してもよい。
【0038】
次に、以上の構成を説明した本発明の脱泡装置1を用いての塗布液容器2内の塗布液5の脱泡方法について詳しく説明する。
【0039】
まず、初期状態として、加減圧ユニット20の切り替えバルブ22Aは配管21Aと配管35とが連通し、切り替えバルブ22Bは配管21Bと配管30とが連通し、また開閉バルブ26A、26B、31は全て閉じた状態になっている。次に、塗布液容器2を図示しない締結部品により回転機構50の把持部54A、54Bに締結固定する。なお、脱泡時に塗布液容器2内の内袋容器4に充填されている塗布液5の量は、内袋容器4の容積に対して、好ましくは50〜95%、より好ましくは80〜90%である。この範囲より小さいと使用中の内袋容器4内の塗布液5が使い切られて空になるまでの消費サイクルが短くなるので、塗布液容器2の交換、脱泡回数が増え、生産効率が落ちてしまう。またこの範囲より大きいと、内袋容器4内で塗布液5を脱泡処理するための塗布液5の上部にある第1空間9を十分に確保できないので、脱泡処理効率が低下し、甚だしい場合には脱泡処理が不可能となる。続いて、塗布液容器2の継手12A、12Bのそれぞれに、加減圧ユニット20の配管21A、21Bを各々接続する。次に制御ユニット60により、回転機構50のモータ55を起動して、図2(a)から図2(b)に示す状態となるように、塗布液容器2を上下逆さまに反転させて、排出案内配管6の取液口14が内袋容器4内の塗布液5の上部にある第1空間9に通じるようにする。この時、塗布液容器2を反転させる回転速度は、内袋容器4に充填された塗布液5に対する回転時の衝撃によって発泡することが無いように低速で行うことが好ましい。
【0040】
次に、制御ユニット60により、切り替えバルブ22Aは配管21Aと配管23Aが連通するように、切り替えバルブ22Bは配管21Bと配管23Bが連通するように、動作させる。そして真空源61を起動させた後、内袋容器4内の塗布液5の上部にある第1空間9と、塗布液容器2の耐圧容器3と内袋容器4の間にある第2空間8の圧力が所定の値になるように、調整弁28A、28Bを制御ユニット60により各々調整する。ここで塗布液容器2の内袋容器4内部で塗布液5の上部にある第1空間9の圧力をPa、塗布液容器2の耐圧容器3と内袋容器4の間にある第2空間8の圧力をPbとすると、常にPa≧Pbとなるようにする。このような圧力の関係に設定することで、内袋容器4の内外の圧力差により、脱泡中に内袋容器4が押し潰され収縮することを防止できる。以上の調整が完了した後、制御ユニット60により、開閉バルブ26A、26Bを開状態とする。開閉バルブ26A、26Bは同時に開状態としてもよいが、まず先に開閉バルブ26Bを開状態として、その後開閉バルブ26Aを開状態とするように制御することが好ましい。開閉バルブ26B、26Aの順序で開状態とすることで、必ず第2空間8の方から先に減圧されるので、内袋容器4は耐圧容器3側に膨張し、内袋容器4が押し潰されて塗布液5が塗布液容器2の外部に送出されること無く、排出案内配管6の取液口14を介して第1空間9が減圧されることにより塗布液5を減圧脱泡することができる。
【0041】
第1空間9の圧力Pa、第2空間8の圧力Pbは、塗布液5の蒸気圧の値にもよるが、好ましくは50〜1000Pa、より好ましくは、100〜500Paである。これより小さいと塗布液5の溶剤が蒸発して固形分濃度が変化(増加)してしまい、これより大きいと脱泡処理が十分に行えないので好ましくない。
【0042】
開閉バルブ26Aを開状態としてから脱泡処理終了後に、制御ユニット60により、まず開閉バルブ26Aを閉状態とし、続いて開閉バルブ26Bを閉状態とすることが好ましいが、開閉バルブ26A、26Bを同時に閉状態としてもよい。開閉バルブ26A、26Bの順序で閉状態とすることで、第2空間8には減圧の作用が残り、内袋容器4は耐圧容器3側に膨張した状態を維持しているので、内袋容器4が押し潰されて収縮し、内袋容器4に充填された塗布液5が塗布液容器2の外部に送出されることを確実に防ぐことができる。以上のように開閉バルブ26A、26Bを閉状態として塗布液5の脱泡処理が完了した後、真空源61を停止させる。脱泡処理時間は、好ましくは1〜120秒、より好ましくは2〜60秒である。これより短いと脱泡処理が十分に行えず、これより長いと塗布液5の溶剤が蒸発して固形分濃度が変化(増加)してしまうので好ましくない。続いて制御ユニット60により回転機構50のモータ55を起動して、図2(b)から図2(a)に示す状態となるように、塗布液容器2を上下逆さまに反転させ、元の状態に戻す。このときも、脱泡開始前と同様、塗布液容器2を反転させる回転速度は、内袋容器4に充填された脱泡済みの塗布液5に対する回転時の衝撃により再発泡することを防ぐため低速で行うことが好ましい。最後に真空源61に備えられた図示されていないリーク弁によって、減圧していた配管経路を大気開放する。
【0043】
次に、図3を参照すると、本発明の別の実施態様である脱泡装置201を備えた塗布装置200が示されている。塗布装置200は、前述の塗布装置100で脱泡装置1を脱泡装置201に、塗布液容器2を塗布液容器202に置き換えた以外は塗布装置100と全く同じ構成である。また脱泡装置201は、脱泡装置1から回転機構50を取り除いた以外は、脱泡装置1と全く同じ構成である。すなわち、脱泡装置201と加減圧ユニット20は同じものとなる。塗布液容器202は、塗布液容器2の排出案内配管6を、短い排出案内配管206に置き換えた以外は塗布液容器2と全く同じである。塗布液容器202を設置して、最初に脱泡装置201(加減圧ユニット20)と接続した初期接続状態では、排出案内配管206の塗布液導入口である取液口214は、塗布液5の液面より上方にあって、塗布液5とは接触せず、第1空間9の空気と接している。第2空間8に加圧エアーを供給して加圧し、内袋容器4を外側から押し潰して変形させると、塗布液5が上方に移動し、排出案内配管206の取液口214に達する。さらに第2空間8に加圧エアーを供給し続けると、内袋容器4がさらに変形するので、押し出される塗布液5は取液口214から排出案内配管206の内部を上昇して配管21A内を流れ、最終的に定容量ポンプ44のところまで達することになる。
【0044】
つづいて脱泡装置201を用いての塗布液容器202内の塗布液5の脱泡方法について説明する。まず初期接続状態、すなわち新しい塗布液容器202の継手12A、12Bのそれぞれに脱泡装置201(加減圧ユニット20)の配管21A、21Bを接続した状態で、塗布液容器202内の内袋容器4内にある排出案内配管206の取液口214は、既に塗布液5の上部にある第1空間9内にあるので、排出案内配管206に加減圧ユニット20の真空源61からの吸引力を付加して減圧しても、塗布液5は吸引されず第1空間9の空気のみが吸引される。したがって初期状態で、すぐに塗布液容器202内の塗布液5の脱泡を開始することができる。すなわち、前述の脱泡装置1を用いての塗布液容器2内の塗布液5の脱泡方法において、回転機構50による塗布液容器2の上下反転動作を省略すること以外は全く同じ脱泡方法を実施する。この脱泡方法では、第2空間8の減圧を圧力Pbで開始してから第1空間9の減圧を圧力Paで行うので、内袋容器4が押し潰されることなく安定して内袋容器4内の塗布液5の脱泡が可能となる。塗布装置200では、塗布液容器202を上下反転させる作業を実施しないでも脱泡装置201で塗布液5の脱泡を行えることになるので、塗布液5の脱泡に要する時間を短縮することができる。また内袋容器4に充填された塗布液5が、塗布液容器202の回転時の衝撃によって発泡するという懸念も全く無くなるという効果もある。
【0045】
次に、本発明の脱泡装置1で脱泡処理された塗布液5を塗布装置100により塗布する塗布方法について説明する。なお、定容量ポンプ44には、シリンジポンプが使用されているとする。
【0046】
まず、上述の一連の脱泡処理のための作業を終了させた後、制御ユニット60により、開閉バルブ36を閉状態にしてから、切り替えバルブ22Aを配管21Aと配管35が連通するように、そして切り替えバルブ22Bを配管21Bと配管30が連通するように動作させる。次に、配管34を介して加圧源62に接続された調整弁33により、第2空間8を加圧する圧力を適当に調整する。第2空間8の圧力は、好ましくは0.01〜1MPa、より好ましくは0.05〜0.5MPaである。そして制御ユニット60により、開閉バルブ31を開状態とすると、第2空間8が加圧され、さらに開閉バルブ36を開状態とすることによって内袋容器4が収縮し、内袋容器4内の脱泡済みの塗布液5が塗布液供給装置40の方に送出される。そして、吸引用バルブ42と吐出用バルブ46を開状態として、塗布液5を定容量ポンプ44、スリットダイ63まで送り込み、塗布液容器2からスリットダイ63までを塗布液5で充填して、経路内のエアーを排出したら、吸引用バルブ42を閉状態とする。この時、シリンジポンプである定容量ポンプ44の状態はシリンジ内部にも塗布液5が充填済みの状態で、吐出用バルブ46は開状態なので、いつでも所定量の塗布液5をスリットダイ63に供給できるようになっている。
【0047】
次に、ステージ73の上面に図示しないリフトピンを上昇させ、図示しないローダから基板Aがリフトピン上部に載置される。続いて該リフトピンを下降させて基板Aをステージ73の表面に載置し、同時に吸着保持する。そしてステージ73を所定の塗布速度にて移動開始し、基板Aの塗布開始部がスリットダイ63の塗布液吐出口64の直下に来たら停止させる。続いて図示していない昇降装置を駆動して、スリットダイ63の塗布液吐出口64を基板Aから予め与えたクリアランスだけ離れた位置まで近接させる。そして定容量ポンプ44(シリンジポンプ)を駆動させ、スリットダイ63から塗布液5を基板Aに向かって吐出し、基板Aとの間にビードBを形成してからステージ73を所定の速度で駆動開始して基板A上に塗布膜Cを形成する。基板Aの塗布終了部がスリットダイ63の塗布液吐出口64の位置に来たら定容量ポンプ44(シリンジポンプ)を停止させて塗布液5の供給を停止し、続いてスリットダイ63を上昇させる。これによって基板Aとスリットダイ63の間に形成されたビードBが断ち切られ、塗布が終了する。
【0048】
これらの動作中ステージ73は動き続け、終点位置にきたときに停止し、基板Aの吸着保持を解除してから図示されないリフトピンを上昇させて基板Aを持ち上げる。このとき、図示されないアンローダによって基板Aの下面が保持され、次の工程に基板Aを搬送する。基板Aをアンローダに受け渡したら、ステージ73はリフトピンを下降させ原点位置に復帰する。
【0049】
続いて、吐出用バルブ46を閉状態にしてから、吸引用バルブ42を開状態として、塗布液容器2から塗布液5を定容量ポンプ44であるシリンジポンプのシリンジ内に供給して充填する。充填完了後、吸引用バルブ42を閉状態にしてから、吐出用バルブ46を開状態として、次の基板Aが来るのを待ち、同じ動作を繰り返す。なお、スリットダイ63を基板Aの塗布開始部に近接する前に、スリットダイ63の塗布液吐出口64周辺を清掃あるいは初期化することが好ましい。
【0050】
上述のような構成の脱泡装置1によって塗布液容器2内の塗布液5を脱泡処理し、その脱泡処理された塗布液5が、再び気体が溶存することなく塗布液供給装置40に供給されてからスリットダイ63で基板Aに塗布されるのであるから、気泡起因によるピンホール等の塗布欠陥が塗布膜面上に発生することを皆無にでき、かつ、塗布液容器2の特長である異物の混入、および塗布液5の品質の変化や劣化が無いので、高品位の塗布膜面を得ることができる。
【0051】
次に別の本発明である塗布装置200で、脱泡装置201で脱泡処理された塗布液5を塗布する塗布方法であるが、塗布液容器2を塗布液容器202に置き換える以外は塗布装置100により塗布する塗布方法と全く同じとなる。脱泡装置201で脱泡処理した塗布液5も、塗布装置200で気体が溶存することなく、基板Aに塗布されるのであるから、同じく、気泡起因による塗布欠陥が無い塗布膜面が得られるとともに、異物の混入や塗布液5の品質劣化のない高品位の塗布膜面が得られる。
【0052】
本発明が適用できる塗布液5の粘度としては、好ましくは1〜100mPaS、より好ましくは2〜50mPaSであり、その性質はニュートニアンであることが好ましいが、チキソ性を有する塗布液5にも適用できる。とりわけ溶剤に揮発性の高いもの、たとえばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、乳酸エチル等を使用している塗布液5を塗布するときに有効である。具体的に適用できる塗布液5の例としては、プラズマディスプレイ用の前面板ITO透明電極パターン形成用や液晶ディスプレイのTFT形成用のポジレジスト液、カラーフィルター用のブラックマトリックス、RGB色画素形成用塗布液の他、オーバーコート材、柱形成材料等がある。基板Aとしてはガラスの他にアルミ等の金属板、セラミック板、樹脂板、シリコンウェハー等を用いてもよい。また、使用する塗布条件としては、基板Aとスリットダイ63の塗布液吐出口64間の間隔であるクリアランスが10〜200μm、より好ましくは50〜100μm、塗布速度が0.1〜30m/分、より好ましくは1〜20m/分、スリットダイ63のスリット部の間隙は50〜1000μm、より好ましくは80〜200μm 、塗布膜Cの厚さがウェット状態で1〜50μm 、より好ましくは2〜20μmである。
【0053】
さらには、フィルム、金属シートや金属箔、紙等の長尺のウエブ(長尺の被塗布基材)へ塗布する塗布液5にも、本発明の脱泡装置1、および脱泡装置201による脱泡処理を適用してもよい。
【実施例】
【0054】
次に、本発明を、具体的実施例を用いて、さらに説明する。
【0055】
実施例1:
図1に示した塗布装置100を用いた。粘度が7.5mPa・s、固形分濃度が16%で、プラズマディスプレイの前面板用ITO透明電極のパターン形成用のポジレジスト液である塗布液5を、ステンレス製の耐圧容器3内にある厚さ1mmのポリエチレンフィルムで袋状に形成された内袋容器4に16L充填した。なお内袋容器4は、最大19Lの塗布液5を充填できるものであった。内袋容器4内にある排出案内配管6は、内径φ5mm、外径φ8mm、長さが650mmのフッ素系樹脂製チューブで、取液口14の形状は、直径φ4mmの略円形状であった。内袋容器4内の塗布液5上部にある第1空間9と排出案内配管6の取液口14を連通させるために、脱泡装置1の回転機構50によって回転速度2rpmで塗布液容器2を反転させた。真空源61には到達圧力が260Paで、排気速度が120L/分のダイヤフラム型ドライ真空ポンプを用いた。制御ユニット60により、内袋容器4内の塗布液5の上部にある第1空間9の圧力が290Paとなるように調整弁28Aを調整し、同様に塗布液容器2の耐圧容器3と内袋容器4との間にある第2空間8の圧力が270Paとなるように調整弁28Bを調整した。次に、制御ユニット60によって第2空間8に連通する開閉バルブ26Bを開状態とした2秒後に、第1空間9に連通する開閉バルブ26Aを開状態として塗布液5の減圧脱泡処理を開始した。開閉バルブ26Aを開状態としてから60秒後に、制御ユニット60によりまず開閉バルブ26Aを閉状態とし、その2秒後に開閉バルブ26Bを閉状態として、減圧脱泡処理を終えた。
【0056】
次に、上記脱泡処理を終えた塗布液5を用いて塗布装置100により塗布を行った。スリットダイ63には、スリット部の間隙が100μm、長手方向長さが554mmのものを用いた。なお、塗布液容器2から塗布液5を、排出案内配管6を介して塗布液供給装置40に送出させるため、加圧源62から第1空間9に供給される空気の圧力が0.05MPaとなるように、調整弁33を制御ユニット60により調整した。そして、洗浄された590mm(幅)×964mm(長)×2.8mm(厚)のガラス基板上に、ウェット時の塗布厚さ12μm、塗布速度2m/分、スリットダイ63の塗布液吐出口64とガラス基板間のクリアランス150μmにて、塗布液5を塗布して、塗布幅554mmで塗布長さが964mmの塗布膜を形成した。そして、塗布後のガラス基板Aを、ステージ73から移載機で取り出して、60秒の常温減圧乾燥後にホットプレートを用いた乾燥炉に投入し、100℃で10分間乾燥した。乾燥後、塗布品位、膜面の状態について検査した。その結果、塗布膜面全面に渡って気泡起因のピンホールや異物欠点が全く無く、塗布品位、膜面の状態は申し分のないものであった。続いて連続して100枚のガラス基板に同じく脱泡処理した塗布液5を用いて同様の塗布を行ったが、ピンホール等の欠点は無く、塗布品位、膜面の状態は良好であった。
【0057】
実施例2:
実施例1で脱泡装置1を脱泡装置201に、塗布液容器2を塗布液容器202に、排出案内配管6を排出案内配管206に、塗布装置100を塗布装置200に置き換え、回転機構50による反転動作を省略した以外は全く同じようにして、塗布液5の脱泡処理と、ガラス基板への塗布と乾燥を行った。なお、塗布液容器202の中にある排出案内配管206は、内径φ5mm、外径φ8mm、長さ70mmのフッ素系樹脂製チューブで、取液口214の形状は、直径φ4mmの略円形状であった。また取液口214は、塗布液容器202を脱泡装置201(加減圧ユニット20)に接続した初期接続状態では、塗布液5の上方にあって、第1空間9と接していた。乾燥後に、塗布品位、膜面の状態について検査したところ、塗布膜面全面に渡って気泡起因のピンホールや異物欠点が全く無く、塗布品位、膜面の状態は申し分のないものであった。続いて連続して200枚のガラス基板に同じく脱泡処理した塗布液5を用いて同様の塗布を行ったが、ピンホール等の欠点は無く、塗布品位、膜面の状態は良好であった。
【0058】
比較例:
脱泡装置1で塗布液5を脱泡処理しなかった以外は、実施例1と全く同様にしてガラス基板上に塗布膜を形成して乾燥し、塗布品位、膜面の状態について検査した。その結果、塗布膜面上の100mm角四方の領域当たりに、略円形で直径が1mm以下の気泡起因と考えられるピンホールが2〜3個確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
この発明は、例えばプラズマディスプレイの前面板やカラー液晶ディスプレイ用カラーフィルター、TFT用アレイ基板、光学フィルタ、プリント基板、集積回路、半導体等の製造分野で、ガラス基板などの被塗布基材表面に塗布液を吐出しながら塗布膜を形成する際に、異物や気泡起因の塗布欠点や膜厚不良を発生させない高品質の製品を製造するのに利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る脱泡装置1を備えた塗布装置100の概略正面断面図である。
【図2】塗布液容器2の通常時の状態と反転させたときの状態を示した概略正面断面図である。
【図3】本発明に係る別の脱泡装置201を備えた塗布装置200の概略正面断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1:脱泡装置
2:塗布液容器
3:耐圧容器
4:内袋容器
5:塗布液
6:排出案内配管
7:空気流入路
8:第2空間
9:第1空間
10:蓋部
11:シール材
12A、12B:継手
13:内袋容器4の底部
14:取液口
20:加減圧ユニット
21A、21B:配管
22A、22B:切り替えバルブ
23A、23B:配管
24:トラップ容器
25:配管
26A、26B:開閉バルブ
27A、27B:配管
28A、28B:調整弁
29:配管
30:配管
31:開閉バルブ
32:配管
33:調整弁
34:配管
35:配管
36:開閉バルブ
40:塗布液供給装置
41:配管
42:吸引用バルブ
43:配管
44:定容量ポンプ
45:配管
46:吐出用バルブ
47:配管
50:回転機構
51:ベース台
52A、52B:支柱
53A、53B:軸
54A、54B:把持部
55:モータ
56:台座
60:制御ユニット
61:真空源
62:加圧源
63:スリットダイ
64:塗布液吐出口
73:ステージ
100:塗布装置
200:塗布装置
201:脱泡装置
202:塗布液容器
206:排出案内配管
214:取液口
A:基板(被塗布基材)
B:ビード
C:塗布膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気流入路を備え硬質材より構成された耐圧容器と、該耐圧容器の内部に配置され、かつ可撓性を有した袋状に構成されるとともに内部に塗布液を貯蔵する内袋容器と、該内袋容器内の塗布液を耐圧容器外部まで排出案内する排出案内配管とから構成される塗布液容器内に充填された塗布液の脱泡方法であって、前記内袋容器内で塗布液の上部にある第1空間と、前記耐圧容器と前記内袋容器の間にある第2空間の両方を減圧することを特徴とする塗布液の脱泡方法。
【請求項2】
前記第2空間から減圧を開始してから、前記第1空間からの減圧を開始することを特徴とする請求項1に記載の塗布液の脱泡方法。
【請求項3】
前記第2空間の圧力を、前記第1空間の圧力以下にすることを特徴とする請求項1または2に記載の塗布液の脱泡方法。
【請求項4】
前記第1空間からの減圧を、第1空間に塗布液導入口がある排出案内配管を介して行い、前記第2空間からの減圧を前記空気流入路を介して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布液の脱泡方法。
【請求項5】
前記塗布液容器の上下を反転させた後に、前記第1空間からの減圧を前記排出案内配管を介して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布液の脱泡方法。
【請求項6】
前記排出案内配管の塗布液導入口が前記塗布液容器の上下を反転させる前には前記塗布液中にあり、前記塗布液容器の上下を反転させた後は前記第1空間にあることを特徴とする請求項5に記載の塗布液の脱泡方法。
【請求項7】
空気流入路を備え硬質材より構成された耐圧容器と、該耐圧容器の内部に配置され、かつ可撓性を有した袋状に構成されるとともに内部に塗布液を貯蔵する内袋容器と、該内袋容器内の塗布液を耐圧容器外部まで排出案内する排出案内配管とから構成される塗布液容器内に充填された塗布液の脱泡装置であって、前記内袋容器内で塗布液の上部にある第1空間から減圧可能とする第1減圧手段と、前記耐圧容器と内袋容器の間にある第2空間から減圧可能とする第2減圧手段と、第1減圧手段と第2減圧手段による減圧と減圧開始タイミングをそれぞれ制御する制御ユニットと、を備えることを特徴とする塗布液の脱泡装置。
【請求項8】
前記第1減圧手段は、第1空間からの減圧経路となる第1空間に塗布液導入口がある排出案内配管を含み、前記第2減圧手段は、第2空間からの減圧経路となる前記空気流入路を含むことを特徴とする請求項7に記載の塗布液の脱泡装置。
【請求項9】
前記第1減圧手段は、塗布液容器の上下を反転させて内袋容器内の塗布液上部に第1空間を形成する回転機構と、第1空間からの減圧経路となる前記排出案内配管を含み、前記第2減圧手段は、第2空間からの減圧経路となる前記空気流入路を含むことを特徴とする請求項7に記載の塗布液の脱泡装置。
【請求項10】
前記排出案内配管はその塗布液導入口が、前記塗布液容器の上下を反転させる前には前記塗布液中にあり、前記塗布液容器の上下を反転させた後は前記第1空間にあるものであることを特徴とする請求項9に記載の塗布液の脱泡装置。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の塗布液の脱泡方法で脱泡した塗布液を使用してディスプレイ用部材を製造することを特徴とするディスプレイ用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−241056(P2009−241056A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289528(P2008−289528)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】