説明

塗布装置

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、レジスト材等の塗布、特に、半導体ウエハあるいはマスク基板等におけるレジスト材の塗布厚を均一にするために有効な技術に関する。
〔従来の技術〕
この種のレジスト塗布技術について記載されている例としては、実公昭62−23581号公報がある。
半導体装置の製造工程において、半導体ウエハの表面に所定の回路を形成する、いわゆる前工程では、フォトレジスト工程によって配線パターンを形成する作業が行われるが、上記半導体ウエハに対してレジスト材を塗布する技術として、回転状態の半導体ウエハ上に対してノズルよりレジスト液を滴下し、回転遠心力によってこれをウエハの全面に広げる、いわゆる回転塗布法が知られている。
このような回転塗布を行うレジスト塗布装置において、精密な配線パターンを実現するためには、半導体ウエハ上へのレジスト材の均一な塗布技術が必須である。かかる均一塗布は、さらにノズルより滴下されるレジスト液が常に一定の粘度を維持していることにより実現される。
〔発明が解決しようとする課題〕
ところが、小量多品種製品等において、半導体ウエハのレジスト工程への供給サイクルが区々となると、ノズルが大気に曝されている時間も区々となるため、レジスト液の粘度が半導体ウエハ毎に異なり、レジスト膜の厚さを均一にすることが困難となることが見い出されていた。
この点について上記公報においては、実際の塗布作業を行わない間はノズルを溶剤の貯留されたキャップ上に配置し、キャップ内に貯留された溶剤の蒸気雰囲気によってノズル内のレジスト液の硬化を防止していた。
しかし、上記公報に記載された技術においては、確かにレジスト液の硬化防止は可能であるものの、以下の点に関する配慮が十分でないことが本発明者によって見い出された。
まず、上記公報記載の技術においては揮発により貯留溶剤量が徐々に少量化すると、これとともにノズル内のレジスト液の粘度も変化するといった問題が見い出された。また、品種交換等によりノズルの待機時間が長時間となった場合、ノズル内の特性が変化したレジスト液を除去するために、ノズルと連通されている送り出しポンプを作動させ、ノズル内のレジスト液の一部を強制的に滴下させる、いわゆる「空出し」と呼ばれる作業が必要となる。しかし、この空出しによって滴下されたレジスト液は下方に位置される貯留溶剤中に落下され、貯留溶剤の汚染、あるいは液量の変化に起因するレジスト液の粘度変化といった問題のあることも続けて見い出された。
さらに、上記技術では溶剤を貯留するキャップを水平方向に移動可能とすることにより装置構造が複雑化するとともに、半導体ウエハ等の被塗布物体上に上記溶剤が誤って滴下されてしまうおそれもあった。
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、その目的は、溶剤量の変化に起因するノズル内のレジスト液の粘度変化を抑制して、被塗布物体に対して均一な塗布厚を実現することのできる技術を提供することにある。
本発明の上記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
〔課題を解決するための手段〕
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば、概ね次の通りである。
すなわち、待機時のノズルを収容可能であるとともに内部に貯留される溶剤の液面位を一定に維持する溶剤貯留槽を備え、概溶剤貯留槽における上記ノズルの待機位置には上記ノズルより滴下されるレジスト液の排出口を備えたレジスト塗布装置構造とするものである。
〔作用〕
上記した手段によれば、液面位が一定に保たれていることにより溶剤の貯留量が一定となり、さらにノズルの待機位置においてノズルより滴下されるレジスト液の排出口を備えているため、ノズルの待機中に空出しを行った場合にも、レジスト液が上記溶剤液中に混入することなく、このため溶剤による濃度雰囲気を常に一定に維持できるため、ノズル内のレジスト液の粘度を一定とすることができ、常に均一な膜厚を持つレジスト材の塗布が実現される。
〔実施例〕
第1図は本発明の一実施例であるレジスト塗布装置におけるノズル収容機構を示す断面図、第2図は本発明のレジスト塗布装置の全体構成を示す説明図、第3図は各部の配置状態を示す説明図である。
本実施例のレジスト塗布装置1は、第2図に示されるようにスピンヘッド2の内設されたチャンバ3と、該スピンヘッド2の上方に延設されたノズルアーム4とを有している。
上記チャンバ3は上面が開口された偏平円筒形状を有しており、内部には真空吸着口5をその上面に備えたスピンヘッド2を有している。該スピンヘッド2はチャンバ3外に配置されたモータ6等の回転駆動源により所定の高速状態で回転可能とされている。
一方、ノズルアーム4は軸支部7を中心に所定角度範囲での回動が可能であるとともに、数十mm程度の上下動が可能なエレベータ構造となっており、その先端には上記スピンヘッド面方向に向かって垂設されたノズル8が装備されている。
第3図に示されるように、上記チャンバ3の側方にはノズル収容機構10が配置されており、このノズル収容機構10は本体10aと、蓋部10bとからなる。上記ノズル8はノズルアーム4の回動によりスピンヘッド2上方とノズル収容機構10との間を移動可能とされている。なお、通常の状態においてはノズル8は該ノズル収容機構10に収容されており、レジスト液11の塗布時にのみ、ノズルアーム4の所定角度の回動によりノズル8がチャンバ3上に配置される。
ノズル8内には供給路12が設けられており、この供給路12には外部に設置されたベローズポンプ等の送出しポンプ13を通じて必要に応じてレジスト液11を供給される構造となっている。
ノズル収容機構10の内部構成は、第1図に示される通りであり、その本体部10aにおけるノズル8の待機位置の直下には滴下槽14が形成され、また該滴下槽14の槽底部は逆テーパ状に形成され、該逆テーパ底面の略中央には排出路19と連通された排出口15が開設されている。上記滴下槽14の周囲には該滴下槽14を囲むようにして形成された仕切部16を介して溶剤液18の貯留槽17が配設されている。貯留槽17に対しては溶剤液18の供給管20と連通された供給口21が開設されており、該供給口21よりEC(エテル・セルソルブ)あるいはMEK(メネル・エチル・ケトン)等の有機系の溶剤液18が随時外部の供給槽22よりポンプ等の溶剤送出機構23を経て貯留槽17内に供給される構造となっている。この貯留槽17内の溶剤液18の液面位は、上記滴下槽14との仕切部16の上端位置によって常に一定に保たれた状態となっており、該溶剤液18が過供給状態の場合には、上記仕切部16から溢れた溶剤液18は滴下槽14側に落下し、貯留槽17内の溶剤液量は常に一定に制御される。
次に、本実施例の作用について説明する。
まず、チャンバ3内のスピンヘッド2上に回転中心を位置決めされた半導体ウエハ24が回路形成面を上面側にして載置されると、スピンヘッド2の上面の真空吸着口5より真空吸引が開始され、スピンヘッド面に対して上記半導体ウエハ24を密着状態とする。この状態でモータ6の回転が開始され、これと連動されたスピンヘッド2も所定の高速回転状態となる。
安定した高速回転状態となった段階で、上記ノズルアーム4が軸動され、ノズル8が回転状態の半導体ウエハ24の回転中心直上に配置されると、送出しポンプ13が作動されてノズル8よりレジスト液11が所定滴数だけ高速回転状態の半導体ウエハ24に滴下される。滴下されたレジスト液11は、回転遠心力によって渦巻状に周辺部に広がり、半導体ウエハ24の表面全面にわたって均一なレジスト膜を形成する。
このようにして、半導体ウエハ24の表面全面にレジスト膜が形成された後、上記ノズルアーム4が軸支部7を中心に軸動され、ノズル8は半導体ウエハ24の直上から移動される。これにともなってモータ6の駆動も停止され、これと連動されるスピンヘッド2も回転を停止される。完全に回転が停止された状態で真空吸着口5への真空吸引が停止され、半導体ウエハ24も密着状態を解放され、スピンヘッド2上から取り出される。
一方、半導体ウエハ24の上方から移動されたノズル8は、一旦ノズル収容機構10の上方に位置される。この状態で、上記ノズルアーム4の全体が所定量だけ下降されると、ノズル8の先端はノズル収容機構10内に入り込み、これによってノズル収容機構10の内部がほぼ密閉された状態となる(第1図)。
このようなノズル8の収容状態において、ノズル収容機構10の内部では、揮発性の溶剤液18がその貯留槽17および滴下槽14の上方で溶剤液18の蒸気雰囲気18aを形成し、該雰囲気18a中に浸漬されたノズル8の内部では、該溶剤蒸気によてレジスト液11の硬化が抑制される。
本実施例によれば、このとき特に、前述したように、貯留槽17に対して供給口21より随時溶剤液18が供給されるとともに、過供給の溶剤液18は仕切部16を越えて滴下槽14側に落下される構造となっている。そのため、貯留槽17内の溶剤液18の量は常に一定に維持されているため、これによって形成される蒸気雰囲気18aの濃度も一定となる。このため、濃度の変化にともなうノズル8内のレジスト液11の粘度変化も有効に防止される。
また、半導体ウエハ24の品種交換などによって上記のようなノズル8の待機時間が長時間にわたると、上記のような粘性以外にもレジスト液11中に特性変化を生じる場合があるが、このような場合には所定時間間隔でノズル8内の先端近傍のレジスト液11を外部に排除するいわゆる空出しを実施する。この空出しは、送出しポンプ13を作動させて、供給路12内に新規なレジスト液11を送り出すことにより行われ、この送出圧力によって古いレジスト液11がノズル8内から滴下される。
このとき、本実施例では、ノズル8より空出しによって滴下されるレジスト液11は、滴下槽14に対して滴下され、該レジスト液11はさらに排出口15より排出される構造となっており、上記貯留槽17内の溶剤液18中には落下混入されない。このため、レジスト液11の混入に起因する溶剤液18の濃度変化を有効に防止できる。したがって、このような観点からも溶剤蒸気の濃度変化が抑制され、レジスト液11の粘度変化が防止される。
次の半導体ウエハ24がスピンヘッド2上に固定され、上記ノズル8が待機状態を解除されると、ノズルアーム4が所定量上昇され、ノズル8がノズル収容機構10の上方に移動した後、ノズルアーム4の軸動によりノズル8は高速回転状態の半導体ウエハ24上に移動されて、上記と同様にレジスト液11の滴下が実施される。
以上本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
たとえば、本実施例では、高速回転状態とした半導体ウエハ24に対してレジスト液11を滴下してレジスト膜の形成を行う場合について説明したが、静止状態の半導体ウエハ24に対してレジスト液11の滴下を行った後、該半導体ウエハ24を高速回転状態としてレジスト膜の被着を行うものであってもよい。
以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をその利用分野である、いわゆる半導体ウエハにおけるレジスト膜の形成に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、たとえば石英ガラス等のマスク基板あるいはレチクル基板上へのレジスト膜の形成等に適用可能である。
〔発明の効果〕
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記の通りである。
すなわち本発明によれば、貯留槽内の溶剤の液面位が一定に保たれていることにより該溶剤の貯留量が一定となる。さらにノズルの待機位置にノズルより滴下されるレジスト液の排出口を備えているため、レジスト液が上記溶剤液中に混入することなく、このため溶剤による濃度雰囲気を常に一定に維持できる。したがって、ノズル内のレジスト液の粘度を常に一定とすることができ、ノズルの待機時間の長短にかかわらず均一な膜厚を持つレジスト材の塗布を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例であるレジスト塗布装置におけるノズル収容機構を示す断面図、
第2図は実施例のレジスト塗布装置の全体構成を示す説明図、
第3図は各部の配置状態を示す説明図である。
1……レジスト塗布装置、2……スピンヘッド、3……チャンバ、4……ノズルアーム、5……真空吸着口、6……モータ(回転駆動源)、7……軸支部、8……ノズル、10……ノズル収容機構、10a……本体部、10b……蓋部、11……レジスト液、12……供給路、13……送出しポンプ、14……滴下槽、15……排出口、16……仕切部、17……貯留槽、18……溶剤液、18a……蒸気雰囲気、19……排出路、20……供給管、21……供給口、22……供給槽、23……溶剤送出機構、24……半導体ウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】被塗布物体を回転保持するスピンヘッドと、該スピンヘッドの上方を移動可能であるとともに塗布液を滴下するノズルと、該スピンヘッド近傍に固定され待機時の上記ノズルを収容可能なノズル収容機構とを有し、該ノズル収容機構には内部に貯留される溶剤の液面位を一定に維持する溶剤貯留槽を備えるとともに、上記ノズルの待機位置の直下には上記ノズルより滴下される塗布液の排出口を備えていることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】上記溶剤貯留槽の液面より上側には、該溶剤貯留槽に溶剤を供給する供給路が接続され、上記ノズル収容機構内には溶剤液の蒸気雰囲気が形成されることを特徴とする請求項1記載の塗布装置。

【第2図】
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【第3図】
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【第1図】
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【特許番号】第2604010号
【登録日】平成9年(1997)1月29日
【発行日】平成9年(1997)4月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−176077
【出願日】昭和63年(1988)7月13日
【公開番号】特開平2−26668
【公開日】平成2年(1990)1月29日
【出願人】(999999999)株式会社日立製作所
【参考文献】
【文献】特開 昭57−43422(JP,A)
【文献】特開 昭60−92618(JP,A)
【文献】特開 昭57−135066(JP,A)
【文献】実開 昭60−116235(JP,U)