説明

塗料およびこれからなる塗膜を有する物品

【課題】 透明性の高い着色された塗膜を形成することにより、物品に幅広い意匠性を付与する塗料およびこれからなる塗膜を有する物品を提供する。
【解決手段】 着色顔料と当該着色顔料を分散させる分散用バインダー樹脂とを含んでいる塗料において、着色顔料の平均粒子径を0.3μm以下として配合することにより、着色顔料を含んだ透明性の高い塗膜を形成することができるから、例えば、金属薄膜表面に塗布することにより金属薄膜の金属感を維持したまま、多様な意匠を物品に付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は意匠性に優れた塗料およびこれからなる塗膜を有する物品に関し、さらに詳しくは、着色顔料が配合されているにも関わらず透明性が高いことから、金属薄膜表面に塗膜を形成するために好適に用いられる塗料およびこれからなる塗膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電化製品、化粧品容器、雑貨、アクセサリー等の意匠性向上を目的として、プラスチック表面に金属薄膜を形成して金属光沢を付与することが行われている。金属薄膜は、スパッタリング、湿式メッキ、蒸着等により形成されるが、水により劣化しやすく、また傷に対しても弱い。このため、十分な耐傷付き性や密着性等を付与して保護する目的で、金属薄膜表面に塗膜を形成して被覆することがなされている。
例えば、特許文献1には、蒸着により形成された金属蒸着膜との密着性が良好で、耐傷付き性、耐湿性のバランスに優れた紫外線硬化性上塗り被覆組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−248084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電化製品、化粧品容器、雑貨、アクセサリー等においてはデザインの重要性が増しており、差別化においてデザインの占める役割が更に大きくなっている。このような意匠性の更なる向上の需要増大に応じた多様な意匠を実現するために、金属薄膜表面を透明性の高い着色された塗膜により被覆することが必要とされている。
しかし、特許文献1に記載の紫外線硬化性上塗り被覆組成物は、金属蒸着膜の金属色をそのまま保持することを目的として、金属蒸着膜の密着性、耐傷付き性を向上させたものである。このため、この被覆組成物に従来の汎用的な顔料をそのまま分散すると、金属薄膜表面を被覆する塗膜の透明性が損なわれる結果、金属薄膜の金属感が損なわれるという問題がある。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、金属薄膜表面を被覆する着色顔料を含有する塗膜を透明性の高いものとすることにより、物品に幅広い意匠を付与することができる塗料およびこれからなる塗膜を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、検討の結果として、分散用バインダー樹脂を用いて平均粒子径を0.3μm以下に分散した着色顔料を塗料中に含ませることにより、透明性の高い着色顔料を含有する塗膜を形成できることを見いだした。
請求項1に記載の本発明の塗料は、着色顔料と当該着色顔料を分散させる分散用バインダー樹脂とを含んでいる塗料であって、前記着色顔料の平均粒子径が0.3μm以下であることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の塗料において、前記着色顔料が、前記分散用バインダー樹脂中において分散された後に、前記塗料に添加されたものであることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2に記載の塗料において、前記塗料が、金属薄膜表面に塗布されるものであることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明は、請求項1〜3の何れかに記載の塗料において、前記分散用バインダー樹脂がアクリル酸エステル重合体であることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載の塗料において、前記アクリル酸エステル重合体は、質量平均分子量が5000以上15000以下であり、ガラス転移点温度が40℃以上75℃以下であることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明は、請求項4又は5に記載の塗料において、前記アクリル酸エステル重合体の水酸基価が20(mgKOH/g)以下であることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明は、請求項1〜6の何れかに記載の塗料において、前記塗料が紫外線硬化型塗料であることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明の物品は、請求項1〜7の何れかに記載の塗料により形成された塗膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の塗料は、分散用バインダー樹脂を用いて平均粒子径が0.3μm以下に分散した着色顔料を含有していることから、透明性の高い塗膜を形成することができる。このため、透明性の高い着色された塗膜により、物品に幅広い意匠性を付与することが可能となる。特に、塗料が金属薄膜表面に塗布される場合でも、金属薄膜の金属感を損なうことがないから、金属薄膜とその表面に形成された着色された塗膜とにより、物品に高い意匠性を付与することができる。
また、分散用バインダー樹脂としてアクリル酸エステル重合体を用いれば、環境に対する負荷物質発生の原因となるハロゲンを含まず、塗料の連続相として用いられるバインダー樹脂の種類に関わらず付着性が良好な塗膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の塗料の製造プロセスを模式的に示す模式図
【図2】本発明の塗料により形成された塗膜を有する物品の構成例の断面図
【図3】本発明の塗料により形成された塗膜を有する物品の他の構成例の断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の着色顔料と当該着色顔料を分散させる分散用バインダー樹脂とを含む塗料について、以下に説明する。
〔着色顔料〕
本発明の塗料に含まれる着色顔料は、有機系および無機系のいずれの着色顔料であってもよい。有機系のものとしては、キナクリドンレッド、フタロシアニンブルー、ポリアゾイエロー、キナクリドンマゼンタなどが挙げられ、無機系のものとしては、カーボンブラック、酸化チタン、弁柄などが挙げられる。
【0009】
〔分散用バインダー樹脂〕
本発明の塗料に含まれる着色顔料を分散させる分散用バインダー樹脂としては、アクリル酸エステル重合体、セルロース・アセテート・ブチレート(以下、適宜「CAB」という)、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体(以下、適宜「塩酢ビ」という)などが挙げられる。これらのうちでは、環境に対する負荷物質発生の原因となるハロゲンを含有していないことから、アクリル酸エステル重合体およびセルロース・アセテート・ブチレート(CAB)が好ましく用いられる。また、熱硬化性の塗料および紫外線硬化性の塗料の何れに対しても好適であることから、アクリル酸エステル重合体がより好ましく用いられる。
【0010】
〔アクリル酸エステル重合体〕
分散用バインダー樹脂として最も好ましいアクリル酸エステル重合体は、透明性の高い樹脂である。このアクリル酸エステル重合体は、重合開始剤を用いて下記のアクリル系単量体からなる群から選ばれる単量体を単独で、または2種類以上で重合することにより得られる重合体である。
アクリル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレートおよびシクロヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。
また、上記アクリル系単量体とともに、他のビニル系単量体および水酸基含有単量体のうち少なくともいずれか一方を併用しても構わない。
ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびp−クロルスチレン等のビニル芳香族化合物などが挙げられる。
水酸基含有単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどが挙げられる。
また、上記単量体の重合に用いられる重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物およびアゾビスイソブチロニトリル(以下、適宜「AIBN」という)、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
【0011】
アクリル酸エステル重合体としては、質量平均分子量が5000以上15000以下の範囲内のものを用いることが好ましい。この範囲よりも質量平均分子量が低いアクリル酸エステル重合体を用いた場合、高温高湿条件下にて塗膜の膨潤により外観不具合が発生しやすくなるという問題がある。また、この範囲よりも質量平均分子量が高いアクリル酸エステル重合体を用いた場合、紫外線硬化型塗料との相溶性が低下することから、透明感のある外観の塗膜が得られないおそれがある。
なお、上記質量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるスチレン換算の値をいう。
【0012】
アクリル酸エステル重合体としては、ガラス転移点温度が40℃以上75℃以下の範囲内のものを用いることが好ましい。この範囲よりもガラス転移点温度が低いアクリル酸エステル重合体を用いた場合、塗料主成分への配合により塗膜が軟化して、得られる塗膜の硬度が低下するおそれがある。また、この範囲よりもガラス転移点温度が高いアクリル酸エステル重合体を用いた場合、得られる塗膜の脆性が増し、上塗り性が低下するおそれがある。
アクリル酸エステル重合体のガラス転移点温度(Tg[K])は、アクリル酸エステル重合体に含まれている各単量体について、その質量分率にその単量体から得られる単独重合体のガラス転移点温度[K]を乗じたものの総和として求められるものである。
アクリル酸エステル重合体が、例えば、a、b、cの3種類の単量体からなるものである場合、
ma:単量体aの質量分率、 Tga:単量体aから得られる単独重合体のTg[K]
mb:単量体bの質量分率、 Tgb:単量体bから得られる単独重合体のTg[K]
mc:単量体cの質量分率、 Tgc:単量体cから得られる単独重合体のTg[K]
とすると、アクリル酸エステル重合体のガラス転移点温度(Tg[K])は、下記の式により表される。
1/Tg=ma/Tga+mb/Tgb+mc/Tgc
【0013】
また、アクリル酸エステル重合体としては、水酸基価が20(mgKOH/g)以下のものを用いることが好ましい。水酸基価が20(mgKOH/g)よりも高いものを用いた場合、得られる塗膜の吸湿性が高くなり金属薄膜層の酸化が起こり易くなることから、外観異常が発生するおそれがあるからである。
ここで、水酸基価とは、試料中の水酸基をアセチル化して、アセチル化に要した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量を、試料1.0gに対するmg数で表したものであり、試料中の水酸基の含有量を示す尺度となるものである。
【0014】
本発明の塗料に含まれる着色顔料としては、少なくとも1次粒子径の平均が0.3μm以下であるもの、より好ましくは0.25μm以下であるものを用いる。このように高分散された着色顔料を配合することにより、透明性の高い塗膜を形成することができる。これにより、着色顔料により着色された塗膜により、物品に幅広い意匠性を付与することができる。なお、本発明において着色顔料の平均粒子径は光散乱法による球相当径で表したものをいう。より具体的には、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて評価した値をいい、具体的な測定装置としては、例えば、株式会社堀場製作所製LA−920が挙げられる。
【0015】
上記のような平均粒子径が0.3μm以下である高分散された着色顔料を含む塗料は、着色顔料を分散用バインダー樹脂中において分散した後に、塗料中に添加することにより得ることができる。
図1は本発明の塗料の製造プロセスを模式的に示す図である。同図に示すように、着色顔料1を分散用バインダー樹脂2中において分散させ(A)、この分散用バインダー樹脂中で分散されている状態の着色顔料(加工着色顔料)として、他の塗料成分3と混合することにより(B)、高分散された着色顔料1を含む塗料を得ることができる。
【0016】
〔金属薄膜〕
本発明の塗料は、金属薄膜表面に塗布されるものとして好適である。なぜなら、本発明の塗料により形成される塗膜は、着色顔料を含有する透明性が高いものであるから、金属薄膜表面を被覆しても金属薄膜の金属感を損なうことがない。このため、金属薄膜と塗膜の色との相乗作用により、物品の表面に幅広い意匠性を付与することができるからである。
金属薄膜としては、蒸着膜、スパッタリング膜や湿式メッキ膜などが挙げられ、金属薄膜を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、スズ、インジウムなどが挙げられる。
なお、アンテナを内蔵した携帯電話の筐体のように電磁遮蔽しないことが要求される筐体に金属薄膜を形成する場合、スズおよび/またはインジウムをターゲット金属として使用して、蒸着法により金属の蒸着膜を形成することが好ましい。
これらをターゲット金属として使用することにより不連続膜を形成することができるから、鏡のような金属光沢を有するにも関わらず、電磁遮蔽が起らない。このため、携帯電話の筐体に要求される電磁遮蔽しないという特性と高い意匠性とを両立することが可能となる。
【0017】
〔塗料に含まれる他の成分〕
本発明は紫外線硬化型塗料および熱硬化型塗料の何れとしても実施することができる。
本発明を紫外線硬化型塗料として実施する場合、紫外線硬化型塗料は、バインダー樹脂(連続相)として、特定の波長の光によって重合、硬化する光硬化性樹脂を含んでいる。このような光硬化性樹脂としては、光エネルギーが加えられることによる反応の結果として架橋構造を形成するものであればよく、特に限定されない。光硬化性樹脂は一種類のみを用いても、二種類以上のものを併用することとしてもよい。
また、本発明を熱硬化型塗料として実施する場合、熱硬化型塗料は、バインダー樹脂として、熱によって重合、硬化する熱硬化性樹脂を含んでいる。このような熱硬化性樹脂としては、熱エネルギーが加えられることによる反応の結果として架橋構造を形成するものであればよく、特に限定されない。熱硬化性樹脂は一種類のみを用いても、二種類以上のものを併用することとしてもよい。
【0018】
〔塗料により形成された塗膜を有する物品〕
本発明の塗料により形成された塗膜を有する物品の構成例の断面図を図2および図3に示す。
図2に示すように、上記塗膜を有する物品は、物品10の表面に、アンダーコート層20、金属薄膜層30および塗膜層40が形成されたものとして構成することができる。
このように、金属薄膜層30上に着色顔料を含有する透明性の高い塗膜層40を形成することにより、金属薄膜層30の金属感を維持したまま塗膜層40の着色顔料により変化を加えることができるから、物品10にバリエーションの豊富な意匠を付与することができる。また、物品10表面にアンダーコート層20を形成しておくことにより、金属薄膜層30上に形成される塗膜層40を良好な密着性、耐傷付き性、耐湿性を備えたものとすることができる。ただし、アンダーコート層20を設けることなく、物品10表面に直接金属薄膜層30を形成することとしても良い。
また、図3に示すように、上記塗膜を有する物品は、塗膜層40表面にさらにトップコート層50を備えたものとしてもよい。これにより、塗膜層40を保護することができるから、塗膜層40の耐久性を向上させることができる。なお、トップコート層50としては、塗膜層40表面との密着性が良好なものを用いることができるが、このようなものとしては、例えば、紫外線硬化性ビニル化合物が挙げられる。また、トップコート層50は、着色顔料を含有するもの、着色顔料を含有しないものの何れであっても良いが、塗膜層40の表面保護のみを目的とする場合、着色顔料を含有させる必要はない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明する。なお、実施例および比較例において、部はいずれも重量部を示しており、%はいずれも重量百分率(重量%)を示している。
【0020】
〔実施例1〕
(アクリル酸エステル重合体の作製)
撹拌装置、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた反応器に、トルエン40部、酢酸イソブチル50部を仕込み、窒素雰囲気中で100℃に昇温し、スチレン50部、メチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート10部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート30部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7部からなる混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後も同温度で2時間熟成してから、さらにAIBN1部、トルエン10部からなる混合物を滴下した。その後も、同温度に4時間保持して不揮発分が50%であり、かつ質量平均分子量が12000であり、ガラス転移点温度が63℃であり、水酸基価が20(mgKOH/g)であるアクリル酸エステル重合体を得た。
(塗料の作製)
上記のようにして作製したアクリル酸エステル重合体9部と、着色顔料としてのキナクリドンレッド8部とメチルイソブチルケトン83部とを混合し、これを分散機を用いて分散して平均粒子径を0.15μmとした後に、バインダー樹脂(連続相)としての紫外線硬化性樹脂UVコート VP−M(オリジン電気株式会社製)中に配合した。このようにして、塗料中の着色顔料の平均粒子径が0.15μmである塗料を作製した。
(アンダーコート塗装品とその蒸着品の作製)
イソプロピルアルコールで脱脂したポリカーボネート板(LEXAN LS−II−111;GEプラスチック製)を物品10(図3参照)として、その表面に紫外線硬化性塗料UVコート VP−U(オリジン電気株式会社製)を、乾燥膜厚が5〜10μmになるようにエアスプレー塗装した。その後、70℃、5分の条件で溶剤を除去し、高圧水銀灯を使用し紫外線照射(最大強度75mW/cm、積算光量700mJ/cm)することにより、アンダーコート層20を形成した。次にアンダーコート層20の上にアルミニウムを真空蒸着して金属薄膜層30を形成し、蒸着成型品を得た。
(上塗り塗装をした試験片の作製)
上記蒸着品の蒸着面に、上記アクリル酸エステル重合体とキナクリドンレッドとメチルイソブチルケトンを混合して分散したものをUVコート VP−M(オリジン電気株式会社製)に配合した塗料を、乾燥膜厚が7〜10μmになるように直接スプレー塗装した。その後、70℃、5分の条件で溶剤を除去し、高圧水銀灯を使用し紫外線照射(最大強度75mW/cm、積算光量700mJ/cm)することにより、金属薄膜層30上に塗膜層40を形成した(図3参照)。
さらに、トップコートである紫外線硬化性塗料UVコート VP−T(オリジン電気株式会社製)を塗膜層40と同様の上記紫外線硬化条件で硬化させ、塗膜層40上にトップコート50を形成して塗膜を有する物品を得た(図3参照)。
【0021】
〔実施例2〕
バインダー樹脂として、紫外線硬化性樹脂であるUVコート VP−M(オリジン電気株式会社製)の代わりに、熱硬化性樹脂であるプラバック VP−M(オリジン電気株式会社製)を用い、塗料膜に紫外線を照射する代わりに60℃の条件下で5分間加熱することにより塗料膜を硬化させて金属薄膜層30上に塗膜層40を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
〔実施例3〕
分散用バインダー樹脂として、アクリル酸エステル重合体の代わりに、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB、イーストマンケミカル社製のCAB−551−0.2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
〔実施例4〕
分散用バインダー樹脂として、アクリル酸エステル重合体の代わりに、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB、イーストマンケミカル社製のCAB−551−0.2)を用い、バインダー樹脂として、紫外線硬化性樹脂であるUVコート VP−M(オリジン電気株式会社製)の代わりに、熱硬化性樹脂であるプラバック VP−M(オリジン電気株式会社製)を用い、塗料膜に紫外線を照射する代わりに60℃の条件下で5分間加熱することにより塗料膜を硬化させて金属薄膜層30上に塗膜層40を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
〔実施例5〕
分散用バインダー樹脂として、アクリル酸エステル重合体の代わりに、塩酢ビ(塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、電気化学工業社製のデンカビニール♯1000GK)を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
〔実施例6〕
分散用バインダー樹脂として、アクリル酸エステル重合体の代わりに、塩酢ビ(塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、電気化学工業社製のデンカビニール♯1000GK)を用い、バインダー樹脂として、紫外線硬化性樹脂であるUVコート VP−M(オリジン電気株式会社製)の代わりに、熱硬化性樹脂であるプラバック VP−M(オリジン電気株式会社製)を用い、塗料膜に紫外線を照射する代わりに60℃の条件下で5分間加熱することにより塗料膜を硬化させて金属薄膜層30上に塗膜層40を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
【0022】
〔比較例1〕
分散用バインダー樹脂を用いることなく、着色顔料としてキナクリドンレッドを直接、紫外線硬化性樹脂であるUVコート VP−M(オリジン電気株式会社製)中に分散した以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
〔比較例2〕
バインダー樹脂として、紫外線硬化性樹脂であるUVコート VP−M(オリジン電気株式会社製)の代わりに、熱硬化性樹脂であるプラバック VP−M(オリジン電気株式会社製)を用い、塗料膜に紫外線を照射する代わりに60℃の条件下で5分間加熱することにより塗料膜を硬化させて金属薄膜層30上に塗膜層40を形成したこと以外は、比較例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
【0023】
上記の実施例1〜6および比較例1〜2の塗料により形成された塗膜を有する物品について、高意匠性(透明性)、付着性(密着性)、環境負荷を評価した結果を表1に示す。
【表1】

上記の表中、性能評価項目と条件を下記に示す。
[性能評価項目と条件]
(1)高意匠性(透明性):目視により塗膜を有する物品の塗膜の透明性を評価し、透明性のあるものを○、透明性のないものを×とした。
(2)付着性 :塗膜を有する物品の塗膜表面に1mm間隔に碁盤目状の切り傷をつける。碁盤目上にセロハンテープ(ニチバン(株)セロテープ(登録商標)エルパックLP−24)を貼り付け、指でこすって塗膜に密着させ、塗膜面に直角に瞬間的に剥がす。この時塗膜の剥離が発生しないものを○、剥離が発生するものを×とした。
(3)環境負荷:負荷物質発生の原因となるハロゲン物質を含有しないものを○、含有するものを×とした。
【0024】
表1に示すように、分散用バインダー樹脂を配合することにより着色顔料の平均粒子径が0.3μm以下である塗料を作製することができる。また、平均粒子径0.3μm以下の着色顔料を含んでいる実施例1〜6の塗料は何れも、透明な塗膜を形成することができ、意匠性の高い塗膜を有する物品が得られることが分かる。
また、分散用バインダー樹脂として用いられる、実施例1、2に示したアクリル酸エステル重合体は、環境に対する負荷物質発生の原因となるハロゲン物質を含んでいないことから、実施例5、6のハロゲン物質である塩素原子を含んでいる塩酢ビを分散用バインダー樹脂として用いた場合のように、環境に対する負荷の問題が生じることがない。
この環境に対する有害物質を含んでいないという点においては、実施例1、2のアクリル酸エステル重合体と実施例3、4のセルロース・アセテート・ブチレート(CAB)とは同じであるが、分散用バインダー樹脂としてアクリル酸エステル重合体を用いることにより、CABを用いた場合とは異なり、紫外線硬化型および熱硬化型の塗料の何れであっても付着性の良好な塗膜を形成することができる。
したがって、分散用バインダー樹脂としては、アクリル酸エステル重合体が最も好ましいといえる。
【0025】
〔実施例7〕
実施例1のAIBNの配合量を12部に変更し、質量平均分子量が3000であるアクリル酸エステル重合体を得た。このアクリル酸エステル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
〔実施例8〕
実施例1のAIBNの配合量を3部に変更し、質量平均分子量が17000であるアクリル酸エステル重合体を得た。このアクリル酸エステル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
【0026】
上記の実施例1、7および8の塗料により形成された塗膜を有する物品について、塗膜硬度、上塗り性、耐湿性および相溶性を評価した結果を表2に示す。
【表2】

上記の表中、性能評価項目と条件を下記に示す。なお、下記の性能評価項目と条件は、他の実施例についても同様である。
[性能評価項目と条件]
(1)塗膜硬度:三菱鉛筆ユニ(「日本塗料検査協会」認定品)Hの芯を円柱状に削り、1Kg荷重を加え、塗膜を有する物品の塗膜表面を10mm移動させ、塗膜表面に傷が入らないものを○、塗膜表面に傷が入るものを×とした。
(2)上塗り性:トップコートである紫外線硬化性塗料UVコート VP−Tを塗布した後、実施例1に記載の紫外線硬化条件で硬化させて、塗膜を有する物品の塗膜表面に1mm間隔に碁盤目状の切り傷をつける。碁盤目上にセロハンテープ(ニチバン(株)セロテープ(登録商標)エルパックLP−24)を貼り付け、指でこすって塗膜に密着させ、塗膜面に直角に瞬間的に剥がす。この時UVコート VP−Tの剥離が発生しないものを○、剥離が発生するものを×とした。
(3)耐湿性 :塗膜を有する物品を温度65℃および湿度95%の雰囲気にそれぞれ48時間放置する。その後塗膜表面に1mm間隔に碁盤目状の切り傷をつける。碁盤目上にセロハンテープ(ニチバン(株)セロテープ(登録商標)エルパックLP−24)を貼り付け、指でこすって塗膜に密着させ、塗膜面に直角に瞬間的に剥がす。この時、UVコート VP−Tの剥離が発生せずかつ金属薄膜層の外観変化(変色)がないものを○、UVコート VP−Tの剥離の発生および/または金属薄膜層の外観変化(変色)が生じたものを×とした。
(4)相溶性 :目視により判定し、着色顔料を添加せずに分散用バインダー樹脂を塗料バインダー樹脂中に配合した際、バインダー樹脂同士が均一に相溶し無色透明な塗料、塗膜が得られるものを○、樹脂同士が均一に相溶せず無色透明な塗料、塗膜が得られないものを×とした。
【0027】
表2に示すように、分散用バインダー樹脂として用いられるアクリル酸エステル重合体の質量平均分子量は、塗膜の耐湿性および塗料の相溶性と関係している。
質量平均分子量が5000以上15000以下であるアクリル酸エステル重合体を用いることにより、高温高湿条件下において塗膜の膨潤により外観不具合が発生しやすくなるという問題、紫外線硬化型塗料との相溶性が低下することにより透明感のある外観の塗膜が得られないという問題の発生を防止することができる。
【0028】
〔実施例9〕
実施例1のスチレン50部、メチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート10部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート30部を、スチレン33部、メチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート27部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート30部に変更し、ガラス転移点温度が30℃であるアクリル酸エステル重合体を得た。このアクリル酸エステル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
〔実施例10〕
実施例1のスチレン50部、メチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート10部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート30部を、スチレン65部、メチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート0部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート25部に変更し、ガラス転移点温度が90℃であるアクリル酸エステル重合体を得た。このアクリル酸エステル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
【0029】
上記の実施例1、9および10の塗料により形成された塗膜を有する物品について、塗膜硬度、上塗り性、耐湿性および相溶性を評価した結果を表3に示す。
【表3】

表3に示すように、分散用バインダー樹脂として用いられるアクリル酸エステル重合体のガラス転移点温度は、塗膜の塗膜硬度および上塗り性と関係している。
ガラス転移点温度が40℃以上75℃以下の範囲内のアクリル酸エステル重合体を用いることにより、得られる塗膜の硬度が低下するという問題、および上塗り性が低下するという問題の発生を防止することができる。
【0030】
〔実施例11〕
実施例1のスチレン50部、メチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート10部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート30部を、スチレン50部、メチルメタクリレート20部、n−ブチルアクリレート23部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート7部に変更し、水酸基価が5(mgKOH/g)であるアクリル酸エステル重合体を得た。このアクリル酸エステル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
〔実施例12〕
実施例1のスチレン50部、メチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート10部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート30部を、スチレン40部、メチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート5部、2‐ヒドロキシエチルアクリレート45部に変更し、水酸基価が30(mgKOH/g)であるアクリル酸エステル重合体を得た。このアクリル酸エステル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料および塗膜を有する物品を得た。
【0031】
上記の実施例1、11および12の塗料により形成された塗膜を有する物品について、塗膜硬度、上塗り性、耐湿性および相溶性を評価した結果を表4に示す。
【表4】

表4に示すように、分散用バインダー樹脂として用いられるアクリル酸エステル重合体の水酸基価は、塗膜の耐湿性と関係している。
水酸基価が20(mgKOH/g)以下のアクリル酸エステル重合体を用いることにより、得られる塗膜の耐湿性が低下するという問題の発生を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の塗料は、透明性が高い着色顔料が配合されている塗膜を形成することができるから、物品の意匠に変化を付与してデザイン上のバリエーションを与えるための塗料、例えば、金属薄膜表面に塗布される塗料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 着色顔料
2 分散用バインダー樹脂
3 他の塗料成分
10 物品
20 アンダーコート層
30 金属薄膜層
40 塗膜層
50 トップコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料と当該着色顔料を分散させる分散用バインダー樹脂とを含んでいる塗料であって、前記着色顔料の平均粒子径が0.3μm以下であることを特徴とする塗料。
【請求項2】
前記着色顔料が、前記分散用バインダー樹脂中において分散された後に、前記塗料に添加されたものであることを特徴とする請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
前記塗料が、金属薄膜表面に塗布されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の塗料。
【請求項4】
前記分散用バインダー樹脂がアクリル酸エステル重合体であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の塗料。
【請求項5】
前記アクリル酸エステル重合体は、質量平均分子量が5000以上15000以下であり、ガラス転移点温度が40℃以上75℃以下であることを特徴とする請求項4に記載の塗料。
【請求項6】
前記アクリル酸エステル重合体の水酸基価が20(mgKOH/g)以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載の塗料。
【請求項7】
前記塗料が紫外線硬化型塗料であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の塗料。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の塗料により形成された塗膜を有することを特徴とする物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−92154(P2012−92154A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230607(P2010−230607)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】