説明

塗料用水性樹脂

【課題】塗膜に優れた耐汚染性と耐水性を付与できる塗料用水性樹脂の提供。
【解決手段】アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)と、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(c)を含有するモノマー混合物を共重合して得られる塗料用水性樹脂であって、前記アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)の含有量が、前記モノマー混合物100質量%中、5.00〜95.00質量%であることを特徴とする塗料用水性樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用水性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁など長時間屋外に曝されるものには、雨、光、熱、湿気などの外的要因から建築物などを保護することを目的として、耐水性や耐候性に優れた塗膜を形成できる疎水性の塗料が塗布される場合が多い。
しかし、疎水性の塗料が塗布された外壁などは、車の排気ガス等による油性の汚れや土埃などの汚染物が付着したり、付着した汚染物が雨で流され、その跡が雨筋汚れとして目立ったりしやすかった。特に、建築物の形状により雨筋汚れが付きやすいと、建築物の外観や価値を低下させることとなる。そのため、定期的な洗浄や塗料の塗り替えなどの作業が欠かせなかった。
【0003】
近年、省資源の観点から、油性の汚れや土埃などの汚染物、雨筋汚れなどが付着しにくい性能、すなわち耐汚染性を備えた塗膜を形成できる、いわゆるメンテナンスフリー塗料の需要が高まっている。
塗膜に耐汚染性を付与する方法としては、塗膜の表面を親水化する方法が知られている。塗膜の表面が親水性を帯びることで、親和性の異なる油性の汚れが付着しにくくなる。しかも雨が降った際には雨滴が親水性の塗膜表面を洗い流し、油性の汚れや土埃などの汚染物を容易に除去でき、雨筋汚れの付着をも防止できる。
【0004】
しかし、親水性を帯びた塗膜は、疎水性を帯びた塗膜に比べて耐水性や耐候性に劣るため、保護機能の面で問題があった。
このように、疎水性を帯びた塗膜は耐水性や耐候性に優れるものの耐汚染性に劣り、一方、親水性を帯びた塗膜は耐汚染性に優れるものの耐水性や耐候性に劣り、これら相反する性能を両立するための検討がなされてきた。
【0005】
塗膜の表面を親水化して耐汚染性を付与する方法としては、コロイダルシリカを用いる方法が知られている。例えば特許文献1には、水系ポリシロキサンおよび水分散コロイダルシリカを含有する組成物と、加水分解性シリル基含有ビニル系エマルション樹脂を含有する組成物と、水系ポリシロキサンを含有する組成物を順次塗布する方法が開示されている。該方法によれば、耐候性、耐汚染性、耐温水性等に優れた塗膜を形成できる。
また、特許文献2には、親水基を含有する化合物で表面処理されたコロイダルシリカを含有する水性塗料組成物が開示されている。該水性塗料組成物によれば、耐汚染性、耐水性、耐候性等に優れた塗膜を形成できる。
【0006】
また、耐汚染性に優れた塗料の原料として、例えば特許文献3には、α−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステルを共重合してなる共重合体が開示されている。
さらに、耐汚染性、耐候性等に優れた塗膜を形成できる塗料として、特許文献4には、フッ素系樹脂に、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有する単量体を共重合してなる低汚染化剤を配合した塗料用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−263559号公報
【特許文献2】特開2003−55611号公報
【特許文献3】特開2007−197644号公報
【特許文献4】特開2003−246961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載のように、コロイダルシリカを含有する塗料組成物では、耐汚染性と耐水性のバランスが必ずしも十分ではなく、特に耐水性を満足することは容易ではなかった。耐水性が低いと、塗膜が水を吸収して白化しやすくなるため、白化が目立ちやすい濃色系塗料の場合には特に重大な問題となる。
また、コロイダルシリカは顔料結合力を有さないため、塗料の臨界顔料容積濃度(臨界PVC)が低下してチョーキングが発生したり、塗料の流動安定性が低下したりしやすかった。
【0009】
特許文献3に記載の共重合体を原料とする塗料より形成される塗膜は、耐水性が十分ではなく、塗膜が水を吸収して白化しやすかった。
特許文献4に記載の塗料用組成物では、耐汚染性に優れる塗膜を形成することはできるものの、塗膜の耐水性を満足することはできなかった。
【0010】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、塗膜に優れた耐汚染性と耐水性を付与できる塗料用水性樹脂の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、アミノ基、アルコキシシリル基、およびカルボキシル基をそれぞれ有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させてなる樹脂を添加剤として塗料に用いることで、塗膜に優れた耐汚染性と耐水性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の塗料用水性樹脂は、アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)と、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(c)を含有するモノマー混合物を共重合して得られる塗料用水性樹脂であって、前記アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)の含有量が、前記モノマー混合物100質量%中、5.00〜95.00質量%であることを特徴とする。
また、前記アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)の含有量が、前記モノマー混合物100質量%中、0.01〜5.00質量%であることが好ましい。
さらに、前記カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(c)の含有量が、前記モノマー混合物100質量%中、0.50〜20.00質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗膜に優れた耐汚染性と耐水性を付与できる塗料用水性樹脂が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の塗料用水性樹脂(以下、「水性樹脂」という。)は、アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)と、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(c)を含有するモノマー混合物を共重合して得られる樹脂である。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の両方を示し、「(メタ)アクリロキシ」とは、メタクリロキシとアクリロキシの両方を示すものとする。
【0015】
<アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)>
アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)(以下、「(a)成分」という。)は、得られる水性樹脂を塗料に用いることで、形成される塗膜を親水化して耐汚染性を付与すると共に、塗膜の耐水性をも向上させることを目的として用いる。
【0016】
上述したように、塗膜の耐水性が低いと塗膜が水を吸収して白化しやすくなる。これは、塗膜に吸収された水が塗膜中に不均一に分布することで、水を吸収した部分と吸収していない部分とで屈折率に差が生じ、その結果、塗膜が白く変色することが原因である。よって、塗膜の白化、すなわち耐吸水白化性は耐水性の指標となる。
【0017】
(a)成分を含むモノマー混合物を共重合してなる本発明の水性樹脂は、添加剤として塗料に用いられるが、該水性樹脂を添加剤として用いた塗料より形成される塗膜は、水を吸収するものの、吸収された水が塗膜中に均一に分布するため、塗膜の白化を抑制でき、耐吸水白化性に優れる。
【0018】
(a)成分としては、親水性を示すアミノ基を有するモノマーが好ましく、例えば三級アミノ基を有するアクリル系モノマーが挙げられる。具体的には(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノブチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノブチルなどが挙げられる。これらの中でも親水性に優れるという観点から、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルが好ましい。
これら(a)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(a)成分の含有量は、モノマー混合物100質量%中、5.00〜95.00質量%である。(a)成分の含有量が5.00質量%以上であれば、塗膜に優れた耐汚染性と耐水性を付与できる水性樹脂が得られる。一方、(a)成分の含有量が95.00質量%以下であれば、水性樹脂を安定して容易に製造できる。(a)成分の含有量の下限値は30.00質量%以上が好ましい。一方、(a)成分の含有量の上限値は90.00質量%以下が好ましい。
【0020】
<アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)>
アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)(以下、「(b)成分」という。)は、水性樹脂を架橋することを目的として用いる。架橋した水性樹脂を塗料に用いることで、塗膜に耐水性、耐候性、耐汚染性を付与できる。
水性樹脂が架橋すると、光、熱、水、酸、アルカリなどの外的要因に起因したポリマー鎖の切断が緩和される。従って、架橋した水性樹脂を添加剤として用いた塗料より形成される塗膜は耐候性が向上する。
また、塗膜において造膜界面(すなわち、塗膜形成時の粒子融着部分)は、親水基が局在化するため最も水を吸収しやすい部分であるが、架橋により補強された水性樹脂を添加剤として塗料に用いると、それより形成される塗膜に水が浸水しても塗膜中の水分局在化が抑制されるため、塗膜の白化を抑制できる。さらに、架橋により水性樹脂が補強されることで、油性の汚れや土埃などの汚染物の水性樹脂への付着を防止でき、その結果、塗膜の耐汚染性が向上する。
【0021】
(b)成分としては、架橋可能なシラノール基を有するモノマーが好ましく、例えば三官能または二官能のアクリル系シランモノマーが挙げられる。具体的には3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシランなどが挙げられる。これらの中でも架橋反応速度が比較的早いという観点から、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
これら(b)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(b)成分の含有量は、モノマー混合物100質量%中、0.01〜5.00質量%が好ましい。(b)成分の含有量が0.01質量%以上であれば、塗膜により優れた耐水性、耐候性、耐汚染性を付与できる水性樹脂が得られる。一方、(b)成分の含有量が5.00質量%以下であれば、架橋が過度に進行するのを抑制でき、塗料中での水性樹脂の流動性が阻害されにくくなるので、造膜時にクラックが発生しにくくなる。(b)成分の含有量の下限値は0.10質量%以上がより好ましい。一方、(b)成分の含有量の上限値は2.00質量%以下がより好ましい。
【0023】
<カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(c)>
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(c)(以下、「(c)成分」という。)は、水性樹脂の安定性を維持することを目的として用いる。
【0024】
ところで、水性樹脂を塗料に用いる際には、水性樹脂が水に分散または溶解した状態で用いる場合が多いが、(a)成分のみ、または(a)成分を多量に含む混合物を重合して得られる重合体(樹脂)は、水に分散または溶解させるとゲル化などを生じて安定性が低下しやすかった。
しかし、本発明では(c)成分を併用することで、得られる水性樹脂に適度な電荷が付与されるので、水性樹脂が水に分散または溶解した際に、樹脂同士の電荷の反発により水中で安定した状態を維持できる。
【0025】
(c)成分としては、共重合によりカルボキシル基がポリマー骨格に組み込まれ、水媒体に対する安定性を付与できるモノマーが好ましい。具体的には(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。これらの中でも(a)成分および(b)成分との反応がより円滑に進むという観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0026】
(c)成分の含有量は、モノマー混合物100質量%中、0.50〜20.00質量%が好ましい。(c)成分の含有量が0.50質量%以上であれば、水性樹脂の凝集やゲル化の発生を抑制できる。一方、(c)成分の含有量が20.00質量%以下であれば、塗膜により優れた耐水性、耐候性を付与できる水性樹脂が得られる。(c)成分の含有量の下限値は2.00質量%以上がより好ましい。一方、(c)成分の含有量の上限値は15.00質量%以下がより好ましい。
【0027】
<その他>
モノマー混合物には、上述した(a)成分、(b)成分、および(c)成分以外のその他のモノマーが含まれていてもよい。
その他のモノマーとしては、(a)成分、(b)成分、および(c)成分と共重合可能なエチレン性不飽和モノマーが挙げられ、具体的には以下に示す化合物が挙げられる。
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチル−n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類。
【0028】
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン等の芳香族ビニル化合物。
(メタ)アクロレイン、クロトンアルデヒド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ジアセトンアクリルアミド、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基を有するモノマー。
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエトキシ(メタ)アクリレート等のスルホ基を有するモノマー。
ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル、アリル(メタ)アクリレート、フタル酸ジアリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能重合性モノマー。
(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド等のビニル化合物。
【0029】
<水性樹脂の調製>
本発明の水性樹脂は、例えば以下のようにして調製できる。
反応容器に、(a)成分、(b)成分、(c)成分と、必要に応じてその他のモノマーを含むモノマー混合物と、重合開始剤と、有機溶媒とを投入し、攪拌しながら70〜80℃に加熱して3〜4時間保持し、重合反応を行う。反応が終了した後、冷却し、中和剤を添加して中和する。その後、水を加え、さらに有機溶媒をエバポレーター等で除去し、水性樹脂を得る。なお、このようにして得られる水性樹脂の状態は、微細なポリマー粒子(水性樹脂)が水に分散したエマルジョンの状態である。
【0030】
有機溶媒としては、水溶性の溶媒が好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールなどが挙げられる。これらの中でも、重合安定性、溶媒の水置換性、溶媒除去性の観点から、1−プロパノール、2−プロパノールが好ましい。
これら有機溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、tert−ブチル−α−クミルパーオキシド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物などが挙げられる。
これら重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、還元剤と組み合わせることで、重合反応の速度を速める場合もある。
【0032】
さらに、得られる水性樹脂の分子量を調整することを目的として、連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤としては、例えばn−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンなどが挙げられる。
これら連鎖移動剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
中和剤としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどが挙げられる。これらの中でも塗膜に優れた耐水性および耐汚染性を付与する観点から、アンモニアが好ましい。
【0034】
このようにして得られた水性樹脂は、水に分散したエマルジョンの状態で用いることができる。エマルジョン中の固形分は15〜30質量%が好ましい。
【0035】
本発明の水性樹脂は、添加剤として塗料に用いられる。塗料には、バインダー樹脂が含まれる。バインダー樹脂としては、アクリル樹脂、アクリル−シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等のエマルジョン樹脂などが挙げられる。
本発明の水性樹脂は、バインダー樹脂との質量比(固形分比)がバインダー樹脂:水性樹脂=100:5〜100:15となるように用いるのが好ましい。
【0036】
また、本発明の水性樹脂を含む塗料には、体質顔料、着色顔料、光輝性顔料、シリカ等の無機充填剤;アクリル樹脂ビーズ、ウレタン樹脂ビーズ等の樹脂粒子;疎水性造膜助剤や、親水性造膜助剤等の造膜助剤;有機顔料や無機顔料等の着色のための着色剤;消泡剤;増粘剤などの、その他の添加剤が必要に応じて適宜含まれてもよい。
【0037】
本発明の水性樹脂は、上述したバインダー樹脂に配合して塗料とすることができるが、市販の塗料に添加して用いることもできる。
市販の塗料に添加する場合、その添加量は、塗料に含まれるバインダー樹脂との質量比(固形分比)が、上述した範囲内となるように適宜決定すればよい。
【0038】
以上説明した本発明の水性樹脂は、特定量の(a)成分と、(b)成分と、(c)成分とを共重合して得られるので、塗料に用いたときに、形成される塗膜に優れた耐汚染性と耐水性を付与することができる。よって、本発明の水性樹脂は、建築物の外壁など長時間屋外に曝されるものへの塗装用の塗料の添加剤として好適である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例中「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示す。
【0040】
[水性樹脂(A)の調製]
攪拌機を備えた内容量2Lのセパラブルフラスコに、(a)成分としてメタクリル酸ジメチルアミノエチルを140部、(b)成分として3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを2部、(c)成分としてメタクリル酸を16部、およびその他のモノマーとしてメチルメタクリレートを42部と、有機溶媒として2−プロパノールを600部と、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン2部を仕込み、攪拌しながら70℃まで昇温した。その後70℃にて、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを2部添加し、内温75℃にて4時間保持し、重合反応を行った。その後、40℃まで冷却し、25%アンモニア水20部および水780部を加え、均一になるまで攪拌を続け、固形分12.5%の液体を得た。ついで、ロータリーエバポレーターで2−プロパノールを留去し、固形分20%の水性樹脂(A)を得た。
【0041】
[水性樹脂(B〜R)の調製]
各成分の種類および量を表1、2に示す値に変更した以外は、水性樹脂(A)と同様にして固形分20%の水性樹脂(B〜R)を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
[白ベース塗料Aの調製]
水12部、ノプコスパース44Cを1部、プロピレングリコールを2部、SNデフォーマー1320を0.1部、ヒドロキシエチルセルロースSP400を0.2部混合し、さらに25%アンモニア水を0.1部と、ベンゾチアゾール系防腐剤を0.1部加えて混合した後、ガラスビーズと共に高速ディスパーで攪拌しつつ、酸化チタン30部を徐々に添加して、白ペーストを得た。
得られた白ペーストを45.5部、アクリルシリコーン系エマルジョン(固形分45%、最低造膜温度0℃、粒子径0.1μm、pH8.5)を150部、テキサノールを4部、SNシックナー641を1部混合し、白ベース塗料Aを調製した。
【0045】
[クリアベース塗料Aの調製]
アクリルシリコーン系エマルジョン(固形分45%、最低造膜温度0℃、粒子径0.1μm、pH8.5)を100部と、テキサノールを2部混合し、クリアベース塗料Aを調製した。
【0046】
[白ベース塗料Bの調製]
白ベース塗料Aの調製で得た白ペーストを45.5部、フッ素系エマルジョン(固形分50%、最低造膜温度30℃、粒子径0.2μm、pH8.0)を67.5部、アクリルエマルジョン(固形分50%、最低造膜温度0℃、粒子径0.2μm、pH8.0)を67.5部、テキサノールを6部、SNシックナー641を1部混合し、白ベース塗料Bを調製した。
【0047】
[クリアベース塗料Bの調製]
フッ素系エマルジョン(固形分50%、最低造膜温度30℃、粒子径0.2μm、pH8.0)を50部と、アクリルエマルジョン(固形分50%、最低造膜温度0℃、粒子径0.2μm、pH8.0)を50部混合し、これにテキサノールを4部添加して、クリアベース塗料Bを調製した。
【0048】
[実施例1−1]
<白塗料Aの調製>
白ベース塗料A100部(樹脂固形分:34部)に、水性樹脂(A)17部(樹脂固形分:3.4部)を添加し、白塗料Aを調製した。
【0049】
<クリア塗料Aの調製>
クリアベース塗料A100部(樹脂固形分:44部)に、水性樹脂(A)22部(樹脂固形分:4.4部)を添加し、クリア塗料Aを調製した。
【0050】
<評価>
(造膜性の評価)
ポリエチレン製の板(100×100×5mm)に、乾燥膜厚が0.5mmになるように白塗料Aを塗布した。その後、温度23℃、湿度65%RHの条件下で1日間乾燥させて塗膜を形成した。塗膜の状態を目視にて観察し、以下に示す評価基準にて評価した。結果を表3に示す。
○:連続膜が形成された。
△:塗膜表面に僅かにクラックが発生した。
×:塗膜表面に深いクラックが発生した。
【0051】
(光沢の評価)
ガラス板に、アプリケータを用いて乾燥膜厚が0.25mmになるように白塗料Aを塗布した。その後、温度23℃、湿度65%RHの条件下で1日間乾燥させて塗膜を形成した。
形成した塗膜について、60度の鏡面光沢度をJIS Z8741に準拠して、鏡面光沢計(BYK−Gardner社製)を用いて測定した。結果を表3に示す。なお、鏡面光沢度は数値が大きいほど光沢が高いことを示す。
【0052】
(促進耐汚染性の評価)
スレート板(70×150×3mm)に、溶剤ウレタン系下塗り塗料(2液)を塗布した。室温下で1日間乾燥させた後、水系下塗り塗料(1液)をさらに塗布し、室温下で4時間乾燥させた。その後、乾燥膜厚が0.5mmになるように白塗料Aを塗布し、室温下で1週間乾燥させて試験片を作製した。得られた試験片について、Lab値をJIS Z8741に準拠して、測色計(コニカミノルタセンシング株式会社製)を用いて測定した。
ついで、70℃で石油を燃焼させたススが舞う煤煙試験機内に試験片を1時間放置し、煤煙処理を施した。その後、エアブローでススを払い、スポンジで水洗した。煤煙処理後の試験片について、先と同様にしてLab値を測定し、下記式(1)よりΔEを求めた。結果を表3に示す。なお、ΔEは数値が小さいほど耐汚染性に優れることを意味する。
ΔE=煤煙処理前の試験片のLab値−煤煙処理後の試験片のLab値 ・・・(1)
【0053】
(耐水性の評価)
ポリエチレン製の板(100×100×5mm)に、乾燥膜厚が0.5mmになるようにクリア塗料Aを塗布した。その後、温度23℃、湿度65%RHの条件下で1日間乾燥させ、ついで50℃で1日間乾燥させて塗膜を形成した。
得られた塗膜を25mm角に切断し、これを純水に1日間浸漬させた。浸漬後の塗膜の色調を目視にて観察し、以下に示す評価基準にて評価した。結果を表3に示す。
○:塗膜は透明である。
△:塗膜にやや青みがある。
×:塗膜が白化し、不透明である。
【0054】
[実施例1−2〜1−13、比較例1−1〜1−6]
水性樹脂として表3〜5に示す種類の水性樹脂を用いた以外は、実施例1−1と同様にして白塗料Aおよびクリア塗料Aを調製し、各評価を行った。結果を表3〜5に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
表3、4から明らかなように、各実施例で得られた白塗料Aおよびクリア塗料Aは、造膜性が良好で、鏡面光沢度が高く、優れた耐汚染性と耐水性を兼ね備えた塗膜を形成できた。
従って、本発明の水性樹脂であれば、塗膜に優れた耐汚染性と耐水性を付与できる。
【0059】
一方、表5から明らかなように、水性樹脂を用いずに調製した比較例1−1の白塗料Aは、塗膜の耐汚染性が低かった。
(a)成分を含有しないモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(N)を用いて調製した比較例1−2の白塗料Aは、塗膜の耐汚染性が低かった。
(c)成分を含有しないモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(O)を用いて調製した比較例1−3の白塗料Aおよびクリア塗料Aは、水性樹脂の合成中に凝集が生じたため、評価の対象とならなかった。
(b)成分を含有しないモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(P)を用いて調製した比較例1−4のクリア塗料Aは、塗膜の耐水性が低かった。また、比較例1−4で得られた白塗料Aは、実施例に比べて塗膜の耐汚染性が低かった。
(a)成分の含有量が3.0質量%と少ないモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(Q)を用いて調製した比較例1−5の白塗料Aは、塗膜の耐汚染性が低かった。
(a)成分の含有量が98.0質量%と多いモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(R)を用いて調製した比較例1−6の白塗料Aおよびクリア塗料Aは、水性樹脂の合成中に凝集が生じたため、評価の対象とならなかった。
【0060】
[実施例2−1]
<白塗料Bの調製>
白ベース塗料B100部(樹脂固形分:36部)に、水性樹脂(A)18部(樹脂固形分:3.6部)を添加し、白塗料Bを調製した。
【0061】
<クリア塗料Bの調製>
クリアベース塗料B100部(樹脂固形分:48部)に、水性樹脂(A)24部(樹脂固形分:4.8部)を添加し、クリア塗料Bを調製した。
【0062】
得られた白塗料Bおよびクリア塗料Bについて、実施例1−1と同様にして各評価を行った。結果を表6に示す。
【0063】
[実施例2−2〜2−13、比較例2−1〜2−6]
水性樹脂として表6〜8に示す種類の水性樹脂を用いた以外は、実施例2−1と同様にして白塗料Bおよびクリア塗料Bを調製し、各評価を行った。結果を表6〜8に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
表6、7から明らかなように、各実施例で得られた白塗料Bおよびクリア塗料Bは、造膜性が良好で、鏡面光沢度が高く、優れた耐汚染性と耐水性を兼ね備えた塗膜を形成できた。
従って、本発明の水性樹脂であれば、塗膜に優れた耐汚染性と耐水性を付与できる。
【0068】
一方、表8から明らかなように、水性樹脂を用いずに調製した比較例2−1の白塗料Bは、塗膜の耐汚染性が低かった。
(a)成分を含有しないモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(N)を用いて調製した比較例2−2の白塗料Bは、塗膜の耐汚染性が低かった。
(c)成分を含有しないモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(O)を用いて調製した比較例2−3の白塗料Bおよびクリア塗料Bは、水性樹脂の合成中に凝集が生じたため、評価の対象とならなかった。
(b)成分を含有しないモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(P)を用いて調製した比較例2−4のクリア塗料Bは、塗膜の耐水性が低かった。また、比較例2−4で得られた白塗料Bは、実施例に比べて塗膜の耐汚染性が低かった。
(a)成分の含有量が3.0質量%と少ないモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(Q)を用いて調製した比較例2−5の白塗料Bは、塗膜の耐汚染性が低かった。
(a)成分の含有量が98.0質量%と多いモノマー混合物を共重合して得た水性樹脂(R)を用いて調製した比較例2−6の白塗料Bおよびクリア塗料Bは、水性樹脂の合成中に凝集が生じたため、評価の対象とならなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)と、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(c)を含有するモノマー混合物を共重合して得られる塗料用水性樹脂であって、
前記アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)の含有量が、前記モノマー混合物100質量%中、5.00〜95.00質量%であることを特徴とする塗料用水性樹脂。
【請求項2】
前記アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)の含有量が、前記モノマー混合物100質量%中、0.01〜5.00質量%であることを特徴とする請求項1に記載の塗料用水性樹脂。
【請求項3】
前記カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(c)の含有量が、前記モノマー混合物100質量%中、0.50〜20.00質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗料用水性樹脂。

【公開番号】特開2011−26560(P2011−26560A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138421(P2010−138421)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】