説明

塗膜下金属腐食診断装置の測定セル

【課題】 被測定金属部材の表面形状によらず電解質含浸部材を塗膜に対して一定の面積で密着させることができ測定精度の低下が少なく、測定後の電解質溶液洗い落とし除去作業が容易で、コンパクトで測定に対する各種のノイズの影響が少ない塗膜下金属腐食診断装置の測定セルを提供する。
【解決手段】 保持具8と、電磁シールド板9と、絶縁シート11と、環状の容器13と、電解質溶液含浸部材14と、電極部材3と、電極部材および電磁シールド板にそれぞれ接続された内導体端部2および外導体端部1を持つ同軸ケーブル4と、同軸ケーブル外導体に接続された接地用コード6と、保持具に下側へと突出するように取り付けられた吸着用マグネット12とを備える。容器13および電解質溶液含浸部材14は可撓性を持ち、電解質溶液含浸部材14は低粘度の電解質溶液を含浸させ得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜下金属腐食診断装置の測定セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
腐食防止のために金属部材の表面に形成された塗膜の腐食防止機能は、経時的に劣化する。そこで、随時または定期的に塗膜の腐食防止機能の程度すなわち塗膜の健全度を測定したり塗膜下金属の腐食度を測定することで塗膜下金属腐食の診断がなされる。
【0003】
このような塗膜下金属腐食診断に関しては、例えば、特開平3−188364号公報(特許文献1)および特開平5−281173号公報(特許文献2)に記載されているような測定プローブが使用される。この測定プローブでは、電解質をスポンジ等の電解質含浸部材に含浸させ、該電解質含浸部材に電極部材を接触させている。測定時には、電解質含浸部材を塗膜に当接し、電極部材と塗膜下の金属部材との間に電圧を印加して電気的導通状態を測定する。
【0004】
しかるに、特許文献1および特許文献2に記載されている測定プローブは、プローブ容器本体内に電解質含浸部材を収容している。このような容器本体では、金属部材の表面形状が平面の場合には電解質含浸部材を所要の状態にて塗膜に当接させることができる。しかし、金属部材の表面形状がそれ以外の形状たとえば配管の内外面等の曲面形状であるような場合には電解質含浸部材を良好な状態にて当接させることが困難である。即ち、電解質含浸部材を塗膜に対して当接させることができたとしても、塗膜に対する密着面積が一定とならず測定精度が低下するおそれがあった。また、特許文献1に記載されている測定プローブは、電磁的シールドがなされていないので、外来の電磁的ノイズの影響を受けて測定精度が低下しやすいという問題点があった。
【0005】
他方、特開2003−344332号公報(特許文献3)に記載されているように、塗膜下金属腐食診断装置の測定セルの本体として、可撓性のマグネットシートからなるものを使用することで、金属部材の表面形状が平面以外のものであっても良好な測定を可能にすることができる。
【特許文献1】特開平3−188364号公報
【特許文献2】特開平5−281173号公報
【特許文献3】特開2003−344332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載の測定セルは、電解質溶液としてカルボキシメチルセルロースなどを含有させることでペースト状としたものが使用されている。このため、測定後に、測定セルおよび被測定部分にペースト状の電解質溶液が付着し、これを洗い落としにより除去する作業が面倒であるという難点があった。
【0007】
また、以上のような測定セルまたは測定プローブを用いた塗膜下金属腐食診断が実施される現場では、通常、コンプレッサ、送風機またはモータなどの機器が動作していることが多く、これらの機器で発生する機械的振動が被測定金属部材や測定セルまたは測定プローブに伝達されることがある。また、その他の振動発生源から地盤を介して機械的振動が被測定金属部材や測定セルまたは測定プローブに伝達されることがある。また、風の影響で測定セルまたは測定プローブが機械的に振動することがある。被測定金属部材や測定セルまたは測定プローブに以上のような機械的振動が発生すると、特許文献3に記載の測定セルでは、導電性遮蔽材と測定セルとを空間的に分離して配置するので、測定の度に導電性遮蔽材と測定セルとの位置関係が変化し、また測定の度にこれら各々の振動の形態が異なるので、測定電流にノイズがのって測定精度が低下することがある。
【0008】
シールドケースと容器とを一体化した特許文献2に記載の装置では、以上のような機械的振動に基づくノイズによる測定精度低下は少ないが、測定対象の素地金属から被測定塗膜及び容器を介してシールドケースへと電流(漏れ電流)が流れることがあり、これにより測定が不安定になったり測定精度が低下したりすることがある。特に、被測定塗膜が高抵抗塗膜の場合には、このような問題が生じやすい。
【0009】
また、特許文献1及び2に記載の装置では、マグネットと容器とを一体化させているので、上記の機械的振動に基づくノイズによる測定精度低下は少ないが、マグネット周辺にまで電解液が滲み出して測定面積が変動することで測定精度が低下することがある。
【0010】
本発明の目的は、被測定金属部材の表面形状によらず電解質含浸部材を塗膜に対して一定の面積で密着させることができ測定精度の低下が少なく、更に測定後の電解質溶液洗い落とし除去作業が容易な塗膜下金属腐食診断装置の測定セルを提供することにある。
【0011】
更に、本発明の目的としては、コンパクトで測定に対する各種のノイズの影響が少ない測定セルを提供することが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、上記いずれかの目的を達成するものとして、
保持具と、該保持具の下面に付された電磁シールド板と、該電磁シールド板の下面に付された絶縁シートと、該絶縁シートの下面に付された環状の容器と、該容器内に収容された電解質溶液含浸部材と、該電解質溶液含浸部材に接触するように配置された電極部材と、該電極部材および前記電磁シールド板にそれぞれ接続された内導体端部および外導体端部を持つ同軸ケーブルと、該同軸ケーブルの外導体に接続された接地用コードと、前記保持具に下側へと突出するように取り付けられた吸着用マグネットとを備えており、前記容器および前記電解質溶液含浸部材は可撓性を持ち、該電解質溶液含浸部材は低粘度の電解質溶液を含浸させ得るものであることを特徴とする、塗膜下金属腐食診断装置の測定セル、
が提供される。
【0013】
本発明の一態様においては、前記保持具、前記電磁シールド板および前記絶縁シートは可撓性を持つ。本発明の一態様においては、前記保持具は合成樹脂からなり、前記電磁シールド板は導電性ゴムからなり、前記絶縁シートは合成樹脂からなり、前記容器はゴムからなり、前記電解質溶液含浸部材はスポンジからなる。本発明の一態様においては、前記電解質溶液の粘度は5センチポイズ以下である。本発明の一態様においては、前記電解質溶液は濃度0.05〜5%の塩化ナトリウム水溶液または濃度0.05〜5%の硫酸ナトリウム水溶液である。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明の塗膜下金属腐食診断装置の測定セルによれば、被測定金属部材の表面形状によらず電解質含浸部材を塗膜に対して一定の面積で密着させることができるので測定精度の低下が少なく、更に測定後の電解質溶液洗い落とし除去作業が容易である。また、本発明の塗膜下金属腐食診断装置の測定セルは、コンパクトで測定に対する各種のノイズの影響が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は本発明による塗膜下金属腐食診断装置の測定セルの一実施形態の構成の概略を示す模式的断面図であり、図2はその模式的斜視図である。
【0017】
本実施形態の測定セルは、大略矩形状の保持具8と、該保持具の下面に付された電磁シールド板9と、該電磁シールド板の下面に付された絶縁シート11と、該絶縁シートの下面に付された環状の容器13と、該容器内に収容された電解質溶液含浸部材14と、該電解質溶液含浸部材に接触するように配置された電極部材3と、該電極部材および前記電磁シールド板にそれぞれ接続された内導体端部2および外導体端部1を持つ同軸ケーブル4と、該同軸ケーブルの外導体端部に接続された接地用コード6と、前記保持具に下側へと突出するように取り付けられた複数の吸着用マグネット12とを備えている。
【0018】
保持具8は、一例として合成樹脂たとえば塩化ビニル樹脂からなる。この保持具8をゴムなどからなる可撓性を持つものとしても良い。電磁シールド板9は、一例として導電性ゴムたとえば導電性粒子をバインダー材料のブタジエンゴム、スチレンゴム及びニトリルゴム等の合成ゴムや天然ゴムと混練して得られるものからなり、可撓性を持つ。絶縁シート11は、一例として合成樹脂たとえばポリテトラフルオロエチレン等のように電気抵抗値が1012Ω・cm以上のものからなり、可撓性を持つ。容器13は、一例としてゴムたとえばシリコーンゴムからなり、可撓性を持つ。電解質溶液含浸部材14は、たとえばスポンジからなり、可撓性を持つ。電極部材3は、たとえば銀、塩化銀/銀または白金からなる。
【0019】
同軸ケーブル4の一方の端部は保持具8に形成された空洞内に挿入されている。内導体端部2は電磁シールド板9および絶縁シート11にそれぞれ形成された開口を通って延びて電極部材3に接続されている。外導体端部1は電磁シールド板9に接続されている。同軸ケーブル4の他方の端部にはコネクタ5が付設されている。コネクタ5は、測定に際して不図示の塗膜下金属腐食診断装置本体部に接続される。また、一方端が同軸ケーブルの外導体端部1に接続された接地用コード6の他端にはクリップ7が付設されている。クリップ7は、測定に際して被測定塗膜下金属に接続される。ここで、接地とは、塗膜15の下の被測定金属部材16と同電位にすることをいうものとする。
【0020】
吸着用マグネット12は絶縁ブッシュ10を介して保持具8に取り付けられており、かくして吸着用マグネット12と電磁シールド板9とは十分な電気的絶縁がなされている。絶縁ブッシュ10は、一例として合成樹脂たとえばポリテトラフルオロエチレン等のように電気抵抗値が1012Ω・cm以上のものからなる。
【0021】
図3は以上のような塗膜下金属腐食診断装置の測定セルの実施形態を更に具体的に示す平面図であり、図4はその断面図である。図4の右半部は図3のA−A線に沿った断面に対応しており、図4の左半部は図3のB−B線に沿った断面に対応している。これらの図において、部材に対する付番は、図1および図2と同様になされている。
【0022】
保持具8の寸法は、たとえば平面寸法が50mmx80mmで厚さが10mmである。電磁シールド板9の厚さは、たとえば3mmである。絶縁シート11の厚さは、たとえば1mmである。容器13は、たとえば外径が40mmで内径が34mmで高さが3mmの円環形状をなしている。
【0023】
この具体的実施形態では、電極部材3は絶縁シート11の端面を通って該絶縁シート11の上面側から下面側へと延びている。絶縁シート11の上面側において電極部材3と同軸ケーブル内導体端部2との接続がなされており、絶縁シート11の下面側において電極部材3が電解質溶液含浸部材14と接触している。電極部材3の厚さは、たとえば0.2mmである。また、吸着用マグネット12はビス12aを用いて保持具8に取り付けられており、このビス12aと保持具8との間には絶縁ワッシャ10’が介在している。該絶縁ワッシャ10’は、絶縁ブッシュ10と同様に、一例として合成樹脂たとえばポリテトラフルオロエチレン等のように電気抵抗値が1012Ω・cm以上のものからなる。
【0024】
以上のように、絶縁ブッシュ10および絶縁ワッシャ10’が介在することにより、測定に際して電極部材3と被測定金属部材16との間に印加される電圧に基づき生ぜしめられる電流は、吸着用マグネット12、ビス12aおよび保持具8を介して流れることがなく、塗膜15が高抵抗塗膜である場合にも測定が不安定になったり測定精度が低下したりすることがなく、十分な測定精度が得られる。また、電解質溶液含浸部材14の上方に電磁シールド板9を配置しているので、コンパクトであるが測定に対する外来の電磁的ノイズの影響が少なく、このノイズの影響による測定精度低下は少ない。
【0025】
また、本実施形態によれば、電磁シールド板9と容器13との位置関係を固定しているので、各種の原因により被測定金属部材16や測定セルに機械的振動が発生しても、測定に際して電磁シールド板9と容器13との位置関係が変化せず各々の振動の形態も一定であるので、測定電流にノイズがのることは少なく、従ってこの原因による測定精度の低下は少ない。
【0026】
また、本実施形態によれば、吸着用マグネット12と容器13とを空間的に分離しているので、吸着用マグネット周辺にまで電解液が滲み出して測定面積が変動するようなこととがなく、従ってこの原因による測定精度の低下は少ない。
【0027】
図5は、以上のような測定セルの使用状態を示す模式図である。
【0028】
被測定塗膜下金属部材16は、一般に鋼板または鋼管等の磁性体である。金属部材16の表面に形成された塗膜15の表面上に測定セルが配置される。吸着用マグネット12と金属部材16との磁気的吸着力により、吸着用マグネット12が塗膜15と接触した状態で、測定セルが金属部材16に対して強固に固着される。その際、容器13および電解質溶液の含浸された電解質溶液含浸部材14の下端部は、塗膜15に当接する。容器13および電解質溶液含浸部材14は可撓性を持つので、図5に示されているように金属部材16が鋼管でありその表面が曲面状であっても、容器13および電解質溶液含浸部材14の下端部は塗膜15に対して良好に当接する。これにより、被測定金属部材16の表面形状によらず電解質含浸部材14を塗膜に対して一定の面積で密着させることができ、測定精度の低下を少なくすることができる。ここで、保持具8、電磁シールド板9および絶縁シート11も可撓性を持つものとすることで、電解質含浸部材14を塗膜に対して一定の面積で密着させる効果を更に高めることができ、測定精度を更に向上させることができる。
【0029】
この当接部分とは異なる位置において、金属部材16に接地用接続端子を取り付け、これに接地用コード6のクリップ7が接続される。また、同軸ケーブル4のコネクタ5は、腐食診断装置本体20に接続される。
【0030】
腐食診断装置本体20による測定および診断の方法としては、上記特許文献3に記載されているようなカレントインタラプター法を使用することができる。カレントインタラプター法により、塗膜抵抗、塗膜容量、分極抵抗及び分極容量を測定することができる。上記特許文献3に記載されているように、これらの効果は下記の通りである:
・塗膜抵抗(R):塗装鋼材の塗膜抵抗はその塗膜の健全度を知るうえで有効である。
・塗膜容量(C):塗膜中の水分の割合に関係する数値である。これにより吸水のし易さ、膜を介しての腐食のし易さに関係する。膜の特性を知るのに重要である。
・分極抵抗(R):分極抵抗は電極反応である腐食反応に対する抵抗であり、分極抵抗が小さくなることは塗膜下金属界面に水分の層ができるか、腐食の開始により、塗膜と金属の密着が損なわれてきたことを反映するものであり、塗膜下における腐食の開始を判断するのに有効である。
・分極容量(Cdt):電極と電解質との接触界面に存在する10−8m厚程度の層で、その両側で電極電位に相当する電位差がある。そしてその層は電極と電荷質特有の電気容量を持つ。従って、分極容量が分かると塗膜下電極界面の特性がわかる。
これらの結果から、金属上に塗布された塗膜の健全度及び/又は塗膜下金属の腐食度を知ることができ、特に塗膜抵抗及び分極抵抗が5.5x10cm以上あればさびが発生しないことが知られている(佐藤、星野、田辺:防食技術,28,524−531(1979))。
【0031】
電解質溶液としては、電解質として通常電気化学的測定に使用される電解質である塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウム等を含む水溶液が例示される。電解質の含有量は、電解質溶液の抵抗が1kΩ・cm以下、好ましくは100Ω・cm以下となるようなものが適当である。特に、塩化ナトリウム水溶液が安価であることから好ましい。塩化ナトリウム水溶液及び硫酸ナトリウム水溶液の場合には、それぞれ塩化ナトリウム濃度または硫酸ナトリウム濃度が0.05〜5%のものが適当である。電解質溶液の粘度は5センチポイズ以下であることが好ましい。このような電解質溶液を用いることにより、測定後の電解質溶液洗い落とし除去作業が容易になる。
【0032】
尚、特に高耐久性塗膜の場合のように、塗膜15の劣化の程度が低い時(即ち塗膜性能が良好な時)には、電解質溶液の塗膜15への浸透に時間がかかり、測定セルを設置してもすぐには測定することができない場合がある。そこで、予め、容器13と類似の容器内に電解質溶液含浸部材14と同様な電解質溶液含浸部材を配置してなる予備パックを作成しておき、実際の測定に先立ち、数時間乃至数日間、この予備パックの電解質溶液含浸部材に測定時と同様な電解質溶液を含浸させたものを、測定部分に当接させておくのが好ましい。これに使用する容器としては、強磁性粒子をゴムと混練して得られるものからなり、可撓性を有するものを使用するのが好ましい。このような予備パックを用いた予備的な電解質溶液接触を行うことにより、測定直前に予備パックを除去した上で測定セルを固着して、直ちに測定を行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例により説明する。
【0034】
[実施例1及び比較例1〜3]
実施例1では本発明のセルを用いた。比較例1では上記特許文献3(特開2003−344332号公報)に記載のセルを用い、比較例2では上記特許文献2(特開平5−281173号公報)に記載のセルを用い、比較例3では上記特許文献1(特開平3−188364号公報)に記載のセルを用いた。
【0035】
これらの実施例1及び比較例1〜3では、同等の条件を実現すべく、図6に示されるようなモデル化された電気回路からなるテスト用塗膜を使用した。即ち、このテスト用塗膜では、絶縁基板の上面にて、抵抗(抵抗体)及びコンデンサの並列接続(ここで、コンデンサは1nFのものであるが、抵抗は1GΩのものと100GΩのものとを交換して使用できるようにした)を形成し、更に導電性ピンを配置し、着脱可能に乾電池を配置した。絶縁基板の下面には金属ポストを取り付けた。金属ポストから、絶縁基板を貫通し、乾電池を経、更に抵抗及びコンデンサの並列接続を経て、ピンへと至る導電経路を銅箔からなる導電線を用いて形成した。ピンには傘状の電極の棒状部分の下部を取り付けた。
【0036】
一方、被測定金属部材に相当する鋼材の上面に凹部を形成して、該凹部内に上記テスト用塗膜を配置した。ここで、凹部底面にて金属ポストを鋼材に固定し、電極の平坦部分により鋼材凹部が塞がれるようにした。但し、電極の平坦部分と鋼材とを電気的に絶縁するために、電極平坦部分の下面及び鋼材の上面には高絶縁膜を形成した。
【0037】
その上に測定セルを配置し、該セルをマグネットにより鋼材に吸着させ、スポンジ等に含浸した電解質溶液等が電極上面と接触するようにした。
【0038】
測定項目は、外来電磁的ノイズ、機械的振動に基づくノイズ、漏れ電流に基づくノイズ及び測定面積変動に基づくノイズである。
【0039】
外来電磁的ノイズの測定に際しては、図7に示されるような測定系を用いた(測定法1)。ここでは、テスト用塗膜において、乾電池を取り外して通電経路を直結し、抵抗として1GΩのものを使用した(テスト用塗膜No.1)。金属製台の上面上に交流変圧器を配置し、エレクトロメータ及び交流電圧計をセットした。交流変圧器を周波数50Hzに設定し動作させた。これによりセルに干渉した交流電圧Vacを交流電圧計で測定した。測定結果の評価は、
Vacが2mV以下:測定精度への影響は殆どない[○]
Vacが2mVを超え5mV以下:測定精度への影響は少しある[△]
Vacが5mVを超える:測定精度への影響は大きい[×]
とした。
【0040】
機械的振動に基づくノイズの測定に際しては、図8に示されるような測定系を用いた(測定法2)。ここでは、テスト用塗膜において、乾電池を取り外して通電経路を直結し、抵抗として1GΩのものを使用した(テスト用塗膜No.1)。金属製台の上面上に電磁開閉器を配置し、エレクトロメータ及びオシロスコープをセットした。電磁開閉器を動作させ、金属製台を振動させた。これによりセルに干渉したパルスノイズ電圧Vppをオシロスコープで測定した。測定結果の評価は、
Vppが2mV以下:測定精度への影響は殆どない[○]
Vppが2mVを超え5mV以下:測定精度への影響は少しある[△]
Vppが5mVを超える:測定精度への影響は大きい[×]
とした。
【0041】
漏れ電流に基づくノイズの測定に際しては、図9に示されるような測定系を用いた(測定法3)。ここでは、テスト用塗膜において、乾電池を使用し、抵抗として100GΩのものを使用した(テスト用塗膜No.2)。エレクトロメータをセットした。乾電池の極性を±に変化させ、エレクトロメータで乾電池電圧Vbatとセル出力電圧Vdispを測定し、セル内部の漏れ電流により発生せしめられる絶縁抵抗値を算出した。測定結果の評価は、
絶縁抵抗値が300GΩ以上:測定精度への影響は殆どない[○]
絶縁抵抗値が10GΩ以上300GΩ未満:測定精度への影響は少しある[△]
絶縁抵抗値が10GΩ未満:測定精度への影響は大きい[×]
とした。
【0042】
測定面積変動に基づくノイズの測定に際しては、上記の測定法2による測定で、セル外への電解液の漏れ出し面積を目視により測定し、該漏れ出し面積の容器面積に対する比率を算出した。測定結果の評価は、
漏れ出し面積比率が3%以下:測定精度への影響は殆どない[○]
漏れ出し面積比率が3%を超え10%以下:測定精度への影響は少しある[△]
漏れ出し面積比率が10%を超える:測定精度への影響は大きい[×]
とした。
【0043】
以上の評価結果を、以下の表1に示す。
【0044】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による塗膜下金属腐食診断装置の測定セルの一実施形態の構成の概略を示す模式的断面図である。
【図2】図1の測定セルの一実施形態の構成の概略を示す模式的断面図である。
【図3】本発明による塗膜下金属腐食診断装置の測定セルの実施形態を示す平面図である。
【図4】図3の測定セルの断面図である。
【図5】本発明による塗膜下金属腐食診断装置の測定セルの使用状態を示す模式図である。
【図6】テスト用塗膜を示す模式図である。
【図7】外来電磁的ノイズの測定系を示す模式図である。
【図8】機械的振動に基づくノイズの測定系を示す模式図である。
【図9】漏れ電流に基づくノイズの測定系を示す模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1 外導体端部
2 内導体端部
3 電極部材
4 同軸ケーブル
5 コネクタ
6 接地用コード
7 クリップ
8 保持具
9 電磁シールド板
10 絶縁ブッシュ
10’ 絶縁ワッシャ
11 絶縁シート
12 吸着用マグネット
12a ビス
13 容器
14 電解質溶液含浸部材
15 塗膜
16 被測定金属部材
20 腐食診断装置本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持具と、該保持具の下面に付された電磁シールド板と、該電磁シールド板の下面に付された絶縁シートと、該絶縁シートの下面に付された環状の容器と、該容器内に収容された電解質溶液含浸部材と、該電解質溶液含浸部材に接触するように配置された電極部材と、該電極部材および前記電磁シールド板にそれぞれ接続された内導体端部および外導体端部を持つ同軸ケーブルと、該同軸ケーブルの外導体に接続された接地用コードと、前記保持具に下側へと突出するように取り付けられた吸着用マグネットとを備えており、前記容器および前記電解質溶液含浸部材は可撓性を持ち、該電解質溶液含浸部材は低粘度の電解質溶液を含浸させ得るものであることを特徴とする、塗膜下金属腐食診断装置の測定セル。
【請求項2】
前記保持具、前記電磁シールド板および前記絶縁シートは可撓性を持つことを特徴とする、請求項1に記載の塗膜下金属腐食診断装置の測定セル。
【請求項3】
前記保持具は合成樹脂からなり、前記電磁シールド板は導電性ゴムからなり、前記絶縁シートは合成樹脂からなり、前記容器はゴムからなり、前記電解質溶液含浸部材はスポンジからなることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の塗膜下金属腐食診断装置の測定セル。
【請求項4】
前記電解質溶液の粘度は5センチポイズ以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塗膜下金属腐食診断装置の測定セル。
【請求項5】
前記電解質溶液は濃度0.05〜5%の塩化ナトリウム水溶液または濃度0.05〜5%の硫酸ナトリウム水溶液であることを特徴とする、請求項4に記載の塗膜下金属腐食診断装置の測定セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−225508(P2007−225508A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48652(P2006−48652)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(591031212)北斗電工株式会社 (20)
【Fターム(参考)】