説明

塗膜保護部材

【課題】取付及び取外しが簡易にできる塗膜保護部材を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明に係る塗膜保護部材1は、鋼構造物の桁材に取り付けられた部材に設けられて足場吊りチェーンが挿入される開口部に着脱可能に装着されて、開口部周縁の塗膜を保護するものであって、前記開口部の内周部に沿うと共に前記開口部周縁の板厚以上の幅を有する円弧部3と、円弧部3の幅方向両端側から延出するように連続して形成され、開口部の周縁部の両面を覆う2枚の円弧板状部5とを有し、2枚の円弧板状部5の少なくとも一方の円弧板状部5は、その一端側が前記開口部の半径方向に延びる直線辺部5aとなり、他端側が前記半径方向に対して円弧板状部5を切欠する方向に傾斜する傾斜辺部5bとなっていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁を含む鋼構造物の製作、架設またはメンテナンス等において前記鋼構造物の桁材に吊り足場を仮設するための足場吊りチェーンが挿入される前記桁材の開口部に装着されて、前記開口部周囲の塗膜を保護する塗膜保護部材に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物、例えば橋梁の建設工事において、橋脚上に架設される桁材は、安全性、作業効率化の観点から予め塗装を完了してから架設される場合が多い。図17は架設された桁材100の断面図、図18は図17の一部を拡大して示す拡大図である。
架設された桁材100には、図17、図18に示すように、そのフランジ101の下方に設置された補剛板103に形成された1/4円状の1/4円開口部105や、ウェブ107の側面に突設した足場吊り下げ金具109に設けた円形の円開口部111に足場吊りチェーン113を吊り下げ、該足場吊りチェーン113に足場115が吊り下げ支持される。そのため、1/4円開口部105や円開口部111の周縁と足場吊りチェーン113とが接触し、その部分の塗装面が剥離等するという問題がある。
【0003】
そこで、このような問題を解決するものとして、円開口部111を保護するための保護材が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1に提案された保護材は、開口部の孔内周縁板厚に嵌合される円弧状の接続部と、この接続部の両側縁から前記金具の両面方向へ平行に延びて該金具の両面に挟着される、一対の円弧状接続部を基端とする扇形の保持板とから構成されるものである(特許文献1の請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3445574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された保護材には種々の課題が残されている。その一つが、特許文献1の保護材は取付け、取外しが円滑にできないという点が挙げられる。
特許文献1には、保護材の材質について、ウレタン樹脂などの強靭で弾力性のある合成樹脂からなっていると記載されている(特許文献1の段落[0018]参照)が、その取付け、取外し方法については何らの開示もない。
発明者は、塗膜保護材を開発する過程で、特許文献1に示された保護材を入手し、その取付け、取外し方法について検討した。図19は、特許文献1に示された保護材117を足場吊下げ金具109に設けた円開口部111に装着する手順を示したものである。
【0006】
図19に示すように、保護材117の中央に形成された接続部119の端部を摘んで、端部を近づけるように絞り、全体を縮径させた状態で、扇形の保持板121の縁を斜めにして円開口部111に挿入し、全体が挿入し終わると摘んでいた指を離すようにする。このように、強靭で弾力性のある合成樹脂からなるものを装着するにはそれ相当の技が必要となり、装着作業が煩雑である。
また、上記のようにして装着したとしても、これを取り外すにも同様の操作が必要となる。この場合、例えば装着された箇所が高所の場合には、遠隔で棒のようなもので取外したいと思うが、図19に示したような操作は棒のようなもので遠隔操作できるものではなく、その取外しが困難である。
【0007】
なお、図19では、扇形の保持板121の延出長さを短めに描いているが、特許文献1ではこの扇形の保持板の延出長さがさらに長くなっており、取付、取外しがより困難である。
【0008】
また、特許文献1に開示された保護材117では、1/4円開口部105のように開口面積が小さい箇所に装着しようとすると扇形の保持板121が邪魔になって装着できない。仮に、保持板121の延出長さを短くすると足場吊りチェーン113が1/4円開口部105の周縁に当たってしまう。
また、1/4円開口部105の端部には、補剛板103とウェブ107とを接合する溶接ビードが存在するが、特許文献1に開示された保護材117では、この溶接ビードとその近傍のウェブ107を覆うことができず、溶接ビードとその近傍のウェブ107の塗膜を保護することはできない。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、取付及び取外しが簡易にできる塗膜保護部材を提供することを目的としている。
また、1/4円開口部にも装着ができ、取付及び取外しが簡易にできる塗膜保護部材を提供することを目的としている。
さらに、1/4円開口部の端部に形成される溶接ビードとその近傍のウェブの塗膜も保護できる塗膜保護部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来例の問題点を分析した。開口部の周縁の塗膜を保護するためには、開口部に挿入されるチェーンが当接すると考えられる部位まで、保護材を延出させる必要がある。そのため、従来の保護材117では、扇形の保持板121の径方向に延びる部分を長く設定している。ところが、この扇形の保持板部分を長く設定すると、保護材を開口部に挿入する際にこの部分が邪魔になり挿入しづらく、それ故に取付、取外しが難しくなる。
この点、特許文献1では、保護材を弾力性のある部材で形成することで変形させて挿入するようにしていると考えられるが、保持板が大きいために図19に示したように装着時には特殊な変形をさせる必要があり、技が必要とされる。
【0011】
他方、保護材を弾力性のある部材にすることが、取り外しの際には取り外しが困難になるという結果となっている。なぜなら、例えば取外しを例えば棒などによって遠隔で取り外そうとしても、弾力性があり変形自在であれば、変形した状態を保持しながら取り外さなければならず、そのような操作は作業者の手によって行うしかできないのである。
【0012】
発明者はこのような従来例の有する問題点を分析し、塗膜保護部材の取付け、取外しを容易にするにはどのような形状にすればよいか鋭意検討し、本願発明に係る塗膜保護部材の形状を開発したものである。
また、開口部の周縁を覆う部分の面積を小さくし、かつ塗膜を確実に保護できるようにするにはどうすればよいか等についても鋭意検討し、開口部に挿入されたチェーンが開口部から浮き上がるようにすることが効果的であるとの知見を得た。このようにすることで、保護部材の穴周縁に延出する面積を小さくでき、それ故に取付、取外しが容易にできるとも考えた。
【0013】
さらに、開口部が円形の場合には、図17に示すように、朝顔116をチェーンで保持する場合があり、チェーンの開き角度が大きくなるため、開口部の周縁を約180°程度保護することが必要となる。この点、従来例では、一つの穴には単一の保護部材という考え方であるため、開口部の周縁を約180°程度保護しようとすると周長が長くなり、やはり取付、取外しを難しくする原因であることも分かった。
この点に関しては、一つのピースの周長に制限を設けるようにすることで、一つの開口部に一つの部材という考えではなく、一つの開口部に複数の部材という考えを導入した。これは、一つの部材の取付及び取外しを容易にできることを前提にした発想である。つまり、一つの部材の取付、取外しに手間取るようでは、一つの穴に複数の部材を挿入するという発想すらできないからである。
【0014】
本発明は上述したような種々の知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下のような構成からなるものである。
【0015】
(1)本発明に係る塗膜保護部材は鋼構造物の桁材に取り付けられた部材に設けられて足場吊りチェーンが挿入される開口部に着脱可能に装着されて、前記開口部周縁の塗膜を保護する塗膜保護部材であって、
前記開口部の内周部に沿うと共に前記開口部周縁の板厚以上の幅を有する円弧部と、該円弧部の幅方向両端側から延出するように連続して形成され、前記開口部の周縁部の両面を覆う2枚の円弧板状部とを有し、2枚の円弧板状部の少なくとも一方の円弧板状部は、その一端側が前記開口部の半径方向に延びる直線辺部となり、他端側が前記半径方向に対して前記円弧板状部を切欠する方向に傾斜する傾斜辺部となっていることを特徴とするものである。
【0016】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記円弧板状部と前記円弧部の接続部に、前記開口部周縁の板厚方向へ突出する膨出部を備えてなることを特徴とするものである。
膨出部を設けることにより、開口部に挿通された足場吊りチェーンを開口部周縁部から離すことができ、これによって円弧板状部の幅を小さくしても足場吊りチェーンが開口部周縁部に当接するのを防止できる。
【0017】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記円弧板状部の外周端部が拡開していることを特徴とするものである。
円弧板状部の外周端部を拡開することで、塗膜保護部材の開口部周縁部への装着を容易にできる。
【0018】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記膨出部近傍に、少なくとも前記円弧板状部の片側を貫通する貫通孔が設けられていることを特徴とするものである。
貫通孔を設けることにより、該貫通孔に棒状の部材等を挿入して操作することで、塗膜保護部材を遠隔操作で取り外すことができる。
【0019】
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記円弧部の内角が125°以下になるように設定されていることを特徴とするものである。
円弧部の内角を125°以下になるように設定することで、塗膜保護部材の取付け、取外しが容易になると共に、一つの開口部に2個の塗膜保護部材を装着することができる。
【0020】
(6)また、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、前記円弧部は、その幅方向中央部が突出して断面形状が円弧状になっていることを特徴とするものである。
円弧部の断面を円弧状にすることで、挿入された足場吊りチェーンの滑りをよくして、足場吊りチェーンと円弧部との摩擦を小さくし、足場吊りチェーンが動いたときに、該足場吊りチェーンとの摩擦によって塗膜保護部材が外れるのを防止することができる。
【0021】
(7)また、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のものにおいて、前記円弧部における周方向の一箇所又は複数箇所に変形可能な部位を有し、円弧部の曲率を変化させることができるようにしたことを特徴とするものである。
円弧部に変位可能な部位を設けることで、異なる径の開口部に対して対応可能となる。
【0022】
(8)また、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載のものにおいて、円弧部の一端側に前記開口部の半径方向に立ち上がる縦片部を有すると共に、前記2枚の円弧板状部のうちの一方に傾斜辺部を設け、該傾斜辺部を設けた円弧板状部を他方の円弧板状部よりも幅狭に形成したことを特徴とするものである。
上記の構成を備えることで、1/4円開口部に対して取付け、取外しを容易にすることができ、また、縦片部を有することで1/4円開口部の端部に形成される溶接ビードやウェブの塗膜を保護することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の塗膜保護部材は、足場吊りチェーンが挿通される開口部の内周部に沿うと共に開口部周縁の板厚以上の幅を有する円弧部と、該円弧部の幅方向両端側から延出するように連続して形成され、前記開口部の周縁部の両面を覆う2枚の円弧板状部とを有し、2枚の円弧板状部の少なくとも一方の円弧板状部は、その一端側が前記開口部の半径方向に延びる直線辺部となり、他端側が前記半径方向に対して前記円弧板状部を切欠する方向に傾斜する傾斜辺部となっているので、開口部に取付け、取外しを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る塗膜保護部材の説明図である。
【図2】図1の矢視A−A断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る塗膜保護部材を2個装着する場合の配置の説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る塗膜保護部材の装着方法の説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る塗膜保護部材の使用状態を説明する説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る塗膜保護部材の使用状態を説明する説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る塗膜保護部材の使用状態を説明する説明図であって、図5の矢印A方向から見た状態の一部断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2の塗膜保護部材の説明図である。
【図9】本発明の実施の形態2の塗膜保護部材の動きを説明する説明図である。
【図10】本発明の実施の形態2の塗膜保護部材の効果を説明する説明図である。
【図11】本発明の実施の形態3の説明図である。
【図12】図11の矢視A−A断面図である。
【図13】図11の矢視B−B断面図である。
【図14】本発明の実施の形態3の使用状態の説明図である。
【図15】本発明の実施の形態1〜3の塗膜保護部材を取り外す方法の説明図である。
【図16】本発明の実施の形態3の塗膜保護部材の取外し手順の説明図である。
【図17】橋梁の桁材に足場を仮設した状態の断面図である。
【図18】図17の一部を拡大して示す拡大図である。
【図19】従来例の課題を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る塗膜保護部材を、図1〜図5に基づいて説明する。なお、本実施の形態では鋼構造物の中で特に橋梁を例に挙げて説明するが、本発明が対象としている鋼構造物は橋梁に限られるものではなく、その製作、メンテナンス等に足場仮設する必要のあるものを広く含む。
本実施の形態に係る塗膜保護部材1は、吊り足場を仮設するための足場吊りチェーン113が挿入される橋梁の桁材100に取り付けられた足場吊り下げ金具109に設けられた円開口部111に着脱可能に装着されて、前記円開口部111周囲の塗膜を保護する塗膜保護部材1であって、
前記円開口部111の内周部に沿うと共に足場吊り下げ金具109の板厚以上の幅を有する円弧部3と、該円弧部3の幅方向両端側から径方向に延出するように連続して形成され、前記円開口部111の周縁部の両面を覆う円弧板状部5とを有し、2枚の円弧板状部5の少なくとも一方の円弧板状部5は、その一端側が半径方向に延びる直線辺部5aとなり、他端側が半径方向に対して傾斜する傾斜辺部5bとなっていることを特徴とするものである。
以下、各部をさらに詳細に説明する。
【0026】
<材質>
塗膜保護部材1は、硬度が100度の硬質の樹脂によって形成するのが好ましい。樹脂材の種類は特に限定されるものではなく、例えばポリプロピレン材、塩化ビニールなどを使用できる。
硬質の樹脂によって形成することで、例えば塗膜保護部材1を取り外す際に、特許文献1に示された従来例のように変形しないので、取外しが容易になる。
【0027】
<全体形状>
塗膜保護部材1の全体形状は、図1に示すように、平面視で略円弧状をしている。そして、一端側は半径方向に延びる直線辺部5aとなり、他端側が半径方向に対して円弧板状部5を切欠く方向に傾斜する傾斜辺部5bとなっている。そして、この例では、傾斜辺部5bは、円弧状に曲る円弧状の傾斜辺部5bとなっている。他端側を円弧状の傾斜辺部5bにしたのは、塗膜保護部材1を円開口部111に装着する際に、挿入しやすくするためである。
また、一端側を半径方向の直線片部としたのは、塗膜を保護する面積を確保することに加え、図3に示すように、一つの円開口部111に2個の塗膜保護部材1を装着したときに、両者間に隙間が生じないようにするためである。
【0028】
<円弧部>
円弧部3は、図2に示されるように、その内面側、すなわち円開口部111に当接する側が平坦面3aとなり、外面側は中央部が突出して断面が円弧状になっている。外面側を円弧状にすることで、挿入された足場吊りチェーン113の滑りをよくすることができる。滑りがよくなることで、足場吊りチェーン113を、例えば足場吊り下げ金具109の円開口部111に挿入して円弧部3に当接させて移動させたときに、摩擦を低減でき、摩擦によって塗膜保護部材1が外れるのを防止できる。
【0029】
本実施の形態の塗膜保護部材1の円弧部3は、図1に示すように、その円弧部3の両辺を円開口部111の半径方向に延長して形成される内角(本明細書で単に「円弧部3の内角」と言う。)が125°以下になるように設定されている。これは、塗膜保護部材1を円開口部111に装着する際の装着を容易にできるようするためである。また、円弧部3の内角を125°以下にすることで、一つの円開口部111に2個の塗膜保護部材1を装着することも可能となるからである。
【0030】
<円弧板状部>
円弧板状部5は、円弧部3の幅方向両端から延出して設けられ、円開口部111の周縁を覆う部材である。
円弧板状部5は、円開口部111の周縁を挟むように2枚設けられており、これら2枚の円弧板状部5は、その一端側が半径方向に延びる直線辺部5aとなり、他端側が半径方向に対して円弧板状部5を切欠く方向に傾斜する傾斜辺部5bとなっている。本実施の形態では、傾斜辺部5bは湾曲して傾斜する形状になっている。
一つの円開口部111に2個の塗膜保護部材1を装着する際には、図3に示すように、直線辺部5a同士が当接するように円開口部111に装着すればよい。
【0031】
円弧板状部5は、図2に示すように、円弧部3に接続される側から先端に向って若干だけ内向きに傾斜して設けられている。このような傾斜を設けたのは、円弧板状部5が円開口部111の周縁を挟持して装着を確実にできるようにするためである。
また、円弧板状部5の先端側には、図2に示すように、外周端部が足場吊り下げ金具109の面から離れる方向に屈曲する屈曲部5cを有し、円弧板状部5の端部5dが拡開している。端部5dを拡開させることで、塗膜保護部材1を装着する際に円開口部縁部に対して、2枚の円弧板状部5で形成される隙間を挿入し易くして、塗膜保護部材1の装着を容易にするためである。
【0032】
円弧板状部5は、図1に示すように、径方向の切込み7を2箇所有している。切込み7を設けることで、円弧板上部5を精度よく作ることができ、またチェーンの加圧によって塗膜保護部材1が円周方向に変形しやすくなり、チェーンの加圧による破損を防止できる。
円弧板状部5と円弧部3の境界部には、図1に示すように、貫通孔9が設けられている。この貫通孔9は、塗膜保護部材1を円開口部111に装着した後、取外す際に機能するものである。塗膜保護部材1の取外し方法の詳細は後述する。
【0033】
なお、円弧板状部5の幅、すなわち開口部111の周面から延出する長さ(図5におけるWで示す長さ)は、装着した塗膜保護材がチェーンの取り付け・取外し時に脱落しない程度の幅が必要である。この幅について検討したところ、10mm以上必要であることが分かった。
他方、上記幅が大きすぎると取付け、取外しが難しくなる。そこで、許容できる幅の最大値について検討したところ、開口部111の径φの1/3以下であることが好ましいことが分かった。例えば、開口部111の径がφ=60mmの場合には、W=20mm以下、φ=50mmの場合は、W=16.7以下が好ましい。
【0034】
<膨出部>
円弧板状部5と円弧部3の接続部には、足場吊り下げ金具109の板厚方向(外方向)に突出する膨出部11が形成されている。この膨出部11は、円弧部3の一方の端部から他方の端部まで連続して設けられている。膨出部11を設けることによって、円開口部111に挿入された足場吊りチェーン113を円開口部111の縁から離れる方向に浮かせることができ、足場吊りチェーン113が塗膜に接触し難くすることができる。この点の詳細は後述する。
【0035】
次に上記のように構成された塗膜保護部材1を円開口部111に装着する装着方法を、図4に基づいて説明する。図4は、塗膜保護部材1を円開口部111に装着する手順を図4(a)から図4(g)までの時系列の流れで示したものであり、一つの円開口部111に2個の塗膜保護部材1を装着する場合を示している。
図4(a)に示すように、円弧辺部側を摘むようにして保持し、直線辺部5a側の円弧板状部5間の隙間を円開口部111の縁部に対向配置し、図4(b)に示すように、直線辺部5a側を円開口部111の縁部に挿入する。
円弧板状部5間の隙間全体が円開口部111の縁部に挿入されるようにし(図4(c)参照)、全体が挿入されると、図4(d)に示すように、円弧部3を指で押圧して全体をしっかりと挿入する。これで、一つ目の塗膜保護部材1の装着が完了である。
【0036】
次に、図4(e)に示すように、二つ目の塗膜保護部材1の直線辺部5aを既に装着している塗膜保護部材1の直線辺部5a側に配置して、一つ目の塗膜保護材を挿入したのと同様にして装着する(図4(f)、図4(g)参照)。
【0037】
図5は、塗膜保護部材1を足場吊り下げ金具109の円開口部111に装着した状態を示す。図5に示すものは、円開口部111に塗膜保護部材1を一つ装着した状態であり、この場合は足場吊りチェーン113が真下に向う場合である。
また、図6に示す状態は、塗膜保護部材1を円開口部111に2個装着した場合を示している。円開口部111に2個の塗膜保護部材1を装着した場合には、図6に示すように、2本のチェーンを挿入して、一方を真下に垂らし、他方を斜め下方に張設することもできる。
【0038】
図7は、図5における矢印A方向から見た状態を示している。塗膜保護部材1には膨出部11を有しているので、挿入された足場吊りチェーン113が円開口部111の周縁部から浮き上がるように支持され、それ故に足場吊りチェーン113が円開口部111の周縁部に当接するのを防止でき、塗膜を保護することができる。
【0039】
以上のように、本実施の形態の塗膜保護部材1は、円開口部111への装着が容易であり、また取外しも容易である。さらに、円弧部3と円弧板状部5との接続部に膨出部11を設けたことにより、足場吊りチェーン113が円開口部111の周縁部に当接するのを防止でき、塗膜を保護することができる。
【0040】
[実施の形態2]
建設された橋梁には多種多様の円開口部111が存在する。その中でも特に多いものが直径60mmと50mmのものである。このように多種多様の円開口部111に対応できるようにしたのが本実施の形態の塗膜保護部材13である。
【0041】
図8〜図10は実施の形態2の説明図である。本実施の形態の塗膜保護部材13は、円弧部3の2箇所を半硬質の樹脂材で形成した半硬質部15を有し、該半硬質部15で変形可能にしたものである。
半硬質部15とは、樹脂の硬度が硬質部よりも柔らかい材質でできており、樹脂の硬度が50度から80度の範囲のものが好ましく、60度から70度の硬度のものがより好ましい。
【0042】
変形可能にすることで、図9の矢印で示す方向に変形させ、円弧部3の曲率を変えることができ、円開口部111の口径の違いに対応可能になる。例えば、図10に示すように、変形前はφ60の円開口部111に合うような形状だったのが、変形させることでφ50の円開口部111に合うようにすることができる。
半硬質部15を設ける箇所は、図8に示すように、円弧板状部5の切込み7を設けた箇所にする。
切込み7を設けると共に半硬質部15を設ける箇所は、1箇所でもよいが、複数箇所にした方が円弧部3を円開口部111に沿わせやすいので、より好ましい。
【0043】
なお、上記の説明では変形可能にする一つの手段として半硬質部15を設ける例を示したが、本発明はこれに限られず、例えば円弧部3における変形可能にする部位の肉厚を他の部位の肉厚よりも薄く設定して当該部位を変形可能するようにしてもよい。
【0044】
[実施の形態3]
図11〜図14は本発明の実施の形態3の説明図である。以下、図11〜図14に基づいて実施の形態3を説明する。図12は図11の矢視A−A断面図、図13は図11の矢視B−B断面図、図14は取付状態を示す図である。
【0045】
本実施の形態の塗膜保護部材17は、桁材100のフランジ101下方に設置した補剛板103における角部を切欠いて形成された1/4円開口部105に装着するためのものである。このような1/4円開口部105の場合には、図14に示すように、1/4円開口部105の周縁部の円弧部3の他、補剛板103をウェブ107に溶接している溶接ビード及び鉛直方向に延びる桁材100のウェブ107の一部も保護する必要がある。
そこで、本実施の形態の塗膜保護部材17は、実施の形態1に示した塗膜保護部材17の構成に加えて円弧部3の一端側に、溶接ビードを覆うように配置される傾斜片部19と、傾斜片部19に連続してウェブ方向に立ち上がる縦片部21を有している。
【0046】
また、本実施の形態の塗膜保護部材17における円弧板状部5は、図13に示すように、片側の円弧板状部5の幅を幅狭に設定している。また、図11に示すように、幅狭にした方の円弧板状部5の一端に傾斜辺部5bを形成している。
このように一方の円弧板状部5を幅狭に形成し、さらに幅狭にした円弧板状部5の一端側に傾斜辺部5bを形成した理由は、本実施形態の塗膜保護部材17が対象としている1/4円開口部105は、開口面積が狭いため、装着が難しいところ、上記のような形状にすることで、装着及び取り外しを容易することができるからである。
【0047】
図15は、上段の足場115を撤去した後で、装着状態の塗膜保護部材17を下段の足場115にいる作業者が撤去する方法の説明図である。図15に示すように、実施の形態1〜3の塗膜保護部材17は、棒状の取外し工具23を用いて遠隔操作で取外しができる。取外しの具体的方法を、実施の形態3の塗膜保護部材17を例に挙げ、図16に基づいて説明する。
【0048】
まず、取外し工具23について概説すると、図16(a)に示すように、棒部材25の先端に金属製の先端部27が取り付けられている。先端部27は、棒部材25に接続された接続棒27aと、該接続棒27aの先が二股状になっており、二股の一方が接続棒27aから略直角に屈曲して延出する水平棒27bとなっており、他方が水平棒27bの上方に湾曲して短く延出する湾曲棒27cとなっている。
【0049】
取外しに際しては、水平棒27bの先端を塗膜保護部材17における幅広の円弧板状部5が形成された側にある貫通孔9に向けて配置し(図16(a)参照)、水平棒27bの先端を貫通孔9に挿入する(図16(b)参照)。水平棒27bの先端を貫通孔9に挿入した状態で塗膜保護部材17を押し上げるようにして、円弧部3を1/4円開口部105内周面から浮き上がらせる(図16(c)参照)。円弧部3が浮き上がり、円弧部3の平面部と1/4円開口部105内周面との間に隙間ができると、水平棒27bをこの隙間に差し込み、奥側の貫通孔9に水平棒27bの先端を挿入する(図16(d)参照)。水平棒27bを奥側の貫通孔9に挿入した状態では、図16(d)に示すように、円弧部3が水平棒27bと湾曲棒に挟持された状態になる。
この状態で、塗膜保護部材17をさらに押し上げる(図16(e)参照)。塗膜保護部材17の幅狭側の円弧板状部5の先端が1/4円開口部105内周端の位置に来ると、図16(f)の矢印で示すように、取外し工具23の先端を回動させることにより、塗膜保護部材17を取り外す。
【0050】
図16は、実施の形態3に示した塗膜保護部材17を、取外し工具23を用いて遠隔で取り外す方法であるが、実施の形態1に示した塗膜保護部材1もほぼ同様の工具を使用して取外しを行うことができる。その場合、実施の形態1の塗膜保護部材1における円弧状の傾斜辺部5b側の貫通孔9に工具の水平棒27bを挿入して、円弧辺部側から取り外すようにする。具体的な取外し方法は、図4の図4(c)→図4(b)→図4(a)のようになる。より具体的に説明すると、水平棒27bを円弧状の傾斜辺部5b側の貫通孔9に挿入し、円弧部3を円開口部111の内周縁から浮かすようにして(図4(c)参照)、その状態で取外し工具23の先端部27を回動させて円弧板状部5における傾斜辺部5b側を円開口部111から引き出すようにする(図4(b)(a)参照)。
【0051】
なお、図16に示した取外し工具23は一例を示したにすぎず、本発明の塗膜保護部材は取外し工具23でなくても、もっと簡易な構造のもの、例えば取外し工具23における湾曲棒27cがないようなものであっても取外しを行うことができる。
【符号の説明】
【0052】
1 塗膜保護部材
3 円弧部
3a 平坦面
5 円弧板状部
5a 直線辺部
5b 傾斜辺部
5c 屈曲部
5d 端部
7 切込み
9 貫通孔
11 膨出部
13 塗膜保護部材
15 半硬質部
17 塗膜保護部材
19 傾斜片部
21 縦片部
23 取外し工具
25 棒部材
27 先端部
27a 接続棒
27b 水平棒
27c 湾曲棒
100 桁材
101 フランジ
103 補剛板
105 1/4円開口部
107 ウェブ
109 足場吊り下げ金具
111 円開口部
113 足場吊りチェーン
115 足場
117 保護材
119 接続部
121 保持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の桁材に取り付けられた部材に設けられて足場吊りチェーンが挿入される開口部に着脱可能に装着されて、前記開口部周縁の塗膜を保護する塗膜保護部材であって、
前記開口部の内周部に沿うと共に前記開口部周縁の板厚以上の幅を有する円弧部と、該円弧部の幅方向両端側から延出するように連続して形成され、前記開口部の周縁部の両面を覆う2枚の円弧板状部とを有し、2枚の円弧板状部の少なくとも一方の円弧板状部は、その一端側が前記開口部の半径方向に延びる直線辺部となり、他端側が前記半径方向に対して前記円弧板状部を切欠する方向に傾斜する傾斜辺部となっていることを特徴とする塗膜保護部材。
【請求項2】
前記円弧板状部と前記円弧部の接続部に、前記開口部周縁の板厚方向へ突出する膨出部を備えてなることを特徴とする請求項1記載の塗膜保護部材。
【請求項3】
前記円弧板状部の外周端部が拡開していることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜保護部材。
【請求項4】
前記膨出部近傍に、少なくとも前記円弧板状部の片側を貫通する貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の塗膜保護部材。
【請求項5】
前記円弧部の内角が125°以下になるように設定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の塗膜保護部材。
【請求項6】
前記円弧部は、その幅方向中央部が突出して断面形状が円弧状になっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の塗膜保護部材。
【請求項7】
前記円弧部における周方向の一箇所又は複数箇所に変形可能な部位を有し、円弧部の曲率を変化させることができるようにしたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の塗膜保護部材。
【請求項8】
円弧部の一端側に前記開口部の半径方向に立ち上がる縦片部を有すると共に、前記2枚の円弧板状部のうちの一方に傾斜辺部を設け、該傾斜辺部を設けた円弧板状部を他方の円弧板状部よりも幅狭に形成したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の塗膜保護部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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