説明

塗膜剥離剤

【課題】水溶性であるにも拘わらず、溶剤系塗料ばかりか水系塗料や無溶剤系塗料の塗膜剥離にも適用でき、保湿性を配慮することもない、新規な塗膜剥離剤を提供すること。
【解決手段】酸化ジルコニウムのエマルジョン40重量%〜90重量%と、液状パラフィン7重量%〜20重量%と、ポリ酢酸ビニル樹脂のエマルジョン2.5重量%〜8重量%と、水2重量%〜7.5重量%とを配合してなる塗膜剥離剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装作業の際、塗装用ブースの壁面、床、塗装冶工具等に付着し、硬化した不要な塗膜を容易に剥離することのできる新規な塗膜剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装用ブースの壁面、床、塗装台等不要な塗膜の付着する箇所には、この塗膜の除去を容易にするため、従来、グリースを塗布したり、新聞紙を張る、ビニールシートを張る等の方法が取られている。
【0003】
しかし、グリースは、塗膜とともにこれを産業廃棄物として焼却処分した場合、塗料と化学反応を起こして有毒ガスを発生させ、環境保護上問題視されている。また、新聞紙やビニールシートでは、これに付着する塗膜の重さに耐えられないことからこまめに取りかえる必要性が生じ、これが大量の産業廃棄物を産む原因ともなっている。
【0004】
他方、大規模な塗装用ブースでは、塗料の飛沫を流水で受けるウォーターカーテン方式を採用しているところもある。しかし、ウォーターカーテン方式にしても、ブース内での塗料付着を完全に防げるものではなく、また、塗料と水の混合した廃液の処理にも苦慮しているのが現状である。
【0005】
そこで、不要な塗膜の付着する箇所に、水溶性で離型性のある組成物を予め塗布する技術が開示されている(特許文献1)。ここに開示されている組成物は、硫黄原子を含有する有機酸(例えば、ラウリルチオプロピオン酸)と粘度付与剤(例えばカルボキシメチルセルロース)、保湿剤(例えば、グリセリン)及び水との混合液で、これを当該箇所に予め塗布しておくことで、塗膜剥離を容易にするというものである。
【0006】
【特許文献1】特開平9−249833号
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、「特許文献1」の塗膜剥離剤は、水溶性化合物であるため、水分を失うとその離型性を失うことから保湿剤の配合が必要不可欠であった。また、水溶性という性質から、溶剤系塗料には対応できるものの、水のかかる場所での使用はできず、エマルジョンペイント等の水系塗料には適さないという致命的な問題があった。
【0008】
本発明は、水溶性であるにも拘わらず、溶剤系塗料ばかりか水系塗料や無溶剤系塗料の塗膜剥離にも滴用でき、保湿性を配慮することもない、新規な塗膜剥離剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、酸化ジルコニウムのエマルジョン40重量%〜90重量%と、液状パラフィン7重量%〜20重量%と、ポリ酢酸ビニル樹脂のエマルジョン2.5重量%〜8重量%と、水2重量%〜7.5重量%とを配合してなることを特徴とする塗膜剥離剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗膜剥離剤によると、水溶性であるにも拘わらず、溶剤系塗料ばかりか水系塗料や無溶剤系塗料の塗膜剥離にも適用でき、保湿性を配慮する必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の塗膜剥離剤を構成する各組成物の配合割合は、酸化ジルコニウムのエマルジョンが40重量%〜90重量%、液状パラフィンが7重量%〜20重量%、ポリ酢酸ビニル樹脂のエマルジョンが2.5重量%〜8重量%、水が2重量%〜7.5重量%の範囲内にあればよいが、剥離性をさらに高めるには、酸化ジルコニウムのエマルジョンは70重量%〜80重量%、液状パラフィンは12重量%〜14.5重量%、ポリ酢酸ビニル樹脂はエマルジョン4.5重量%〜6.0重量%、水は4重量%〜5.5重量%の範囲内であることが好ましい。
【0012】
また、本発明による塗膜剥離剤を、105℃にて5時間乾燥し、さらに700℃で2時間強熱し灰化した状態で蛍光X線分析した結果では、本塗膜剥離剤は、0.01〜0.05%のナトリウム(Na)と、0.03〜0.1%のアルミニウム(Al)と、0.008〜0.04%のリン(P)と、0.005〜0.03%の硫黄(S)と、0.4〜1.2%のカリウム(K)とを少なくとも含んでいる。これらの元素含有率において、本塗膜剥離剤では、Naは0.015〜0.035%が好ましく、Alは0.04〜0.08%が好ましく、Pは0.01〜0.03%が好ましい。また、Sは0.008〜0.02%が好ましく、Kは0.50から0.90%が好ましい。
【0013】
更に、本塗膜剥離剤は、上記元素に加え、珪素(Si)、塩素(Cl)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)及び鉄(F)を微量含んでいる。ここで微量とは、検出限界に極めて近い値であり、0.001%〜0.01%までの値をいう。
【0014】
なお、これらの数値は、ファンダメンタルパラメータ(FP)法を用いて、原子番号6(炭素)以上の元素を定性分析して得られたものである。「FP」法とは、質量吸収係数、X線源のスペクトル分布などの物理定数を用いて、蛍光X線強度との対比及び収束を行って含有率を算出する方法である。表1に、最適な配合割合で本塗膜剥離剤を製造した場合の代表的な数値を例示した。この場合、蛍光X線分析では水素の分析はできないため、水素含有率を0%として計算し、炭素及び酸素の定量分析値は、液体試料の灰化処理を行っている関係上、未表示とした。図1は、その蛍光X線スペクトルである。
【0015】

【0016】
本塗膜剥離剤は、その製造の一例として、常温の室内において、反応槽内に、液状の酸化ジルコニウム(互応化学工業社製、商品名「ダイジェストT90」)2kg、液状パラフィン(東邦化学社製、商品名「パラックス40K3」)360g、液状のポリ酢酸ビニル樹脂(昭和高分子ポリゾール社製、商品名「AP50」)140g及び水120gを入れ、プロペラ撹拌機で30分〜60分ほど撹拌することで容易に得られる。
【0017】
本塗膜剥離剤は、水溶性であるので、塗布器具の手入れは水洗いだけでよく、皮膚や衣服に付着しても乾燥前であれば簡単に水で洗い流すことができる。また、上記組成物で配合されているので、無害であり、塗布の際、作業者に特別な保護服等を着用させる必要はない。塗装ブースにウォーターカーテン方式を採用している場合は、廃水が腐らず異臭も発生しないため、廃液の処理が容易となる。
【0018】
本塗膜剥離剤の塗布は、刷毛塗り、ガン吹き、スプレー塗装,ローラー塗装等の常法により行なうことができる。塗布後の乾燥時間は、20℃の環境下で15分〜30分で、塗装作業は乾燥後に行なう。乾燥後は無色透明になるので、塗布箇所の視認のため、液剤中に着色料を混入することも可能である。
【実施例1】
【0019】
「溶剤系樹脂塗膜の剥離(1)」
450mm×450mm、厚さ1.2mmの鉄板の一面に、本塗膜剥離剤5g塗布し、常温で乾燥させてサンプルとした。このサンプルを塗装ブース内に設置し、30日間放置して塗膜の付着を待った。塗装ブースは、アルキド樹脂系、アミノアルキド樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系及びウレタン樹脂系のものを利用した。各塗装ブースの仕事量にもよるが、各サンプルには、膜厚約1mmから7mmの塗膜が形成されていた。これを最初、スクレーパー(金ゴテ)で切れ目を作って剥がし口とし、塗膜厚が2mm以下ののものは、手で引き剥がすようにすると、化粧品の顔パックが剥がれるように塗膜を容易に剥がすことができた。また、2mm以上の塗膜では、スクレーパーで鉄板面をこするようにすると、塗膜が簡単に剥離した。
【実施例2】
【0020】
「溶剤系樹脂塗膜の剥離(2)」
450mm×450mm、厚さ1.2mmの鉄板の一面に、本塗膜剥離剤5g塗布し、常温で乾燥させた後、0℃、20℃、40℃、80℃、120℃及び180℃の温度条件下にそれぞれ48時間設置したものをサンプルとした。この温度条件の異なる各サンプルをそれぞれ一組として塗装ブース内に設置し、30日間放置して塗膜の付着を待った。塗装ブースの種類は、実施例1と同様である。各塗装ブースの仕事量にもよるが、各組のサンプルには、ブース毎に膜厚約1mmから7mmの塗膜が形成されていた。塗膜の剥がし方は実施例1と同様であり、剥がれ方も実施例1と同様になった。特筆すべきは、塗装ブース内設置の前段階で上記温度条件下に置いた各サンプルに、塗膜の剥がれ方で差異は認められず、180℃の温度条件下のものでも塗膜を容易に剥がすことができた。このことは、鉄板に塗布した本塗膜剥離剤が高温下でも変化、劣化がなく、有効な剥離効果を維持していることを示している。
【実施例3】
【0021】
「水系樹脂塗膜の剥離」
450mm×450mm、厚さ1.2mmの鉄板の一面に、本塗膜剥離剤5g塗布し、乾燥させてサンプルとした。このサンプルを塗装ブース内に設置し、30日間放置して塗膜の付着を待った。塗装ブースは、エマルジョンペイント系、厚膜型エマルジョン系及び水性樹脂系のものを利用した。各塗装ブースの仕事量にもよるが、各サンプルには、膜厚約2mmから5mmの塗膜が形成されていた。この塗膜をスクレーパーを用いて剥がしたところ、溶剤樹脂系の塗膜の剥がれ方とは異なり、シート状にはならないが、黒砂糖を包丁で切るようにバラバラと割れるようにして剥がれ落ちた。
【実施例4】
【0022】
「無溶剤系塗膜の剥離」
450mm×450mm、厚さ1.2mmの鉄板の一面に、本塗膜剥離剤5g塗布し、乾燥させてサンプルとした。このサンプルを塗装ブース内に設置し、30日間放置して塗膜の付着を待った。塗装ブースは、静電吹付用のものを利用した。サンプルには、約5mmの塗膜が形成されていた。この塗膜をスクレーパーにより剥がしたところ、剥がれ方が実施例3の水系樹脂塗膜と同様となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による塗膜剥離剤の定性分析結果の蛍光X線スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウムのエマルジョン40重量%〜90重量%と、液状パラフィン7重量%〜20重量%と、ポリ酢酸ビニル樹脂のエマルジョン2.5重量%〜8重量%と、水2重量%〜7.5重量%とを配合してなることを特徴とする塗膜剥離剤。
【請求項2】
乾燥後灰化した状態を蛍光X線分析した結果、0.01〜0.05%のナトリウムと、0.03〜0.1%のアルミニウムと、0.008〜0.04%のリンと、0.005〜0.03%の硫黄と、0.40〜1.2%のカリウムとを少なくとも含む請求項1に記載の塗膜剥離剤。
【請求項3】
上記元素に加え、珪素、塩素、カルシウム、マンガン及び鉄を微量含む請求項2に記載の塗膜剥離剤。

【図1】
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