説明

塗膜剥離用被覆剤及びそれを用いた塗膜剥離方法

【課題】 所定の物体の表面に形成された塗膜、特に、従来では剥離が困難とされている熱硬化型塗膜に対しても、容易に剥離可能と為すと共に、廃棄物の発生量が少なく、その取り扱いも容易である塗膜剥離用被覆剤、及びそれを用いた塗膜剥離方法を提供すること。
【解決手段】 少なくとも1種の被膜形成物質と共に、加熱により分解してガスを発生する少なくとも1種の発泡剤が添加、含有せしめられてなる、塗膜剥離用被覆剤を調製し、所定の物体の表面に、予め塗布せしめた。そして、その塗布により、物体の表面に塗膜剥離層を形成して、その塗膜剥離層上に、除去されるべき塗膜が形成されるように為し、塗膜の形成の後に、塗膜が形成された物体を発泡剤の分解温度以上に加熱することによって、塗膜剥離層中に存在する発泡剤を分解せしめ、生じた分解ガスにて塗膜を浮き上がらせて、塗膜を剥離・除去せしめるようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は、塗膜剥離用被覆剤及びそれを用いた塗膜剥離方法に係り、特に、塗装工程で用いられる治具等の物体の表面に付着する塗膜の剥離を容易に行ない得る被覆剤と、そのような被覆剤を用いて、塗装治具等の物体の表面に付着する塗膜を効果的に剥離・除去せしめ得る方法に関するものである。
【0002】
【背景技術】従来から、金属製品やプラスチック成形品等を塗装する際に、それら被塗装物を支持する支台や支持具として、またそれを釣り下げるフックとして、更には非塗装部分を覆うカバー等として、各種の塗装治具が用いられてきている。ところで、塗装操作は、塗料を噴霧、ハケ塗り、浸漬等の手法によって被塗装物表面に被着せしめることにより実施され、特に、噴霧や浸漬にて塗装を行なう場合にあっては、塗装治具に、塗料が付着するのは避けられない。而して、そのような治具に付着した塗料は、乾燥工程において乾燥されたり、更には焼き付け工程を経ることにより、強靱な塗膜を形成するようになるのであり、また、塗装治具が繰り返し使用されると、治具表面に塗膜が幾重にも堆積することとなるのであって、そのために、塗装治具としての使用が困難となったり、或いは何らかの理由にて塗膜が剥がれ落ちたり等すると、それが塗膜欠陥の発生の原因ともなったりするところから、そのような塗装治具表面に堆積した塗膜を定期的に剥離・除去せしめる必要が生じる。
【0003】このため、そのような塗装治具に付着した塗膜を剥離する方法として各種の手法が提案され、例えば、ハロゲン化炭化水素、シンナー、高沸点有機溶剤等の溶剤中に浸漬して、塗膜を膨潤、溶解せしめる方法;高温の濃厚なアルカリ水溶液中に浸漬することにより、塗膜を分解して、剥離する方法;高圧のウォータージェットで塗膜を剥離する方法;液体窒素中に浸漬して、脆くなった状態で、機械的な力を加えて、剥離する方法等が知られているが、それら何れの方法にも、各種の問題が内在しているのである。
【0004】因みに、治具表面に堆積した塗膜を、有機溶剤中に浸漬することによって、塗膜を膨潤、溶解する方法にあっては、熱硬化型塗膜の如き架橋した塗膜に対しては、膨潤が困難であって、剥離し難く、また膨潤した塗膜片や溶解した塗料が治具へ再付着する問題を内在しているのである。また、高温の濃厚なアルカリ水溶液中への浸漬による塗膜の分解・剥離方法では、泥状化した塗料が浮上して、前記と同様な再付着の問題があることに加えて、多量の廃液を発生するという問題も内在しているのである。更に、高圧ウォータージェットを用いる方法は、未硬化の塗膜や生乾き状態の塗料(膜)の剥離・除去には有効であるものの、堆積して強靱な塗膜となったものの剥離は困難であって、単に、上記の有機溶剤を用いる方法や濃厚なアルカリ水溶液を用いる方法の補完的な手段として用いられ得るのみであり、しかも形状の複雑な治具には適用し難い問題があったのであり、更にまた、液体窒素を用いる方法にあっては、廃棄物の発生量が少なく、その取り扱いも容易ではあるが、大型の治具には適用し難く、また処理コストが高くつくという問題も内在している。
【0005】その他、塗装治具の表面に塗膜が付着するのを回避する方法として、予め治具表面をフィルム状のテープで被覆する一方、塗装作業が終了した後、かかるテープを剥離することによって、形成された塗膜を除去せしめる方法も、検討されてはいるが、そのようなテープによる治具表面の被覆には、手間がかかり、またその剥離も容易ではなく、作業性に問題があり、満足し得るものではなかったのである。
【0006】
【解決課題】ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決しようとする課題とするところは、治具表面に堆積した塗膜の如き、所定の物体の表面に形成された塗膜を、廃棄物の発生量が少なく、その取り扱いも容易であり、且つ従来では剥離が困難とされている熱硬化型塗膜に対しても容易に剥離可能と為す塗膜剥離用被覆剤を提供することにあり、また、そのような塗膜を効果的に剥離・除去せしめて、物体の表面を容易に清浄化し得る方法を提供することにある。
【0007】
【解決手段】そこで、本発明者等は、上述せる如き課題を解決するために、鋭意検討した結果、所定の塗装操作に先立って、塗膜が形成される物体の表面に、予め、被膜形成物質と所定の発泡剤とを含有する被覆剤を塗布して、かかる物体表面に塗膜剥離層を設けておき、そして所定の塗装操作で形成される塗膜の付着した物体を、前記発泡剤の分解温度以上に加熱することにより、分解ガスを発生せしめて、塗膜を浮き上がらせ、以て物体表面より剥離せしめて、容易に除去し得ることを見い出し、本発明に到達したのである。
【0008】すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、所定の物体の表面に形成される塗膜を剥離・除去するために、該物体の表面に予め塗布せしめられる被覆剤にして、少なくとも1種の被膜形成物質と共に、加熱により分解してガスを発生する発泡剤の少なくとも1種を添加、含有せしめてなることを特徴とする塗膜剥離用被覆剤にある。
【0009】このように、本発明に従う塗膜剥離用被覆剤にあっては、加熱により分解してガスを発生する発泡剤を含有するものであるところから、そのような被覆剤の塗布によって、所定の物体表面に形成される塗膜剥離層中には、かかる発泡剤が存在しており、そして除去されるべき塗膜は、そのような塗膜剥離層の上に形成されることとなるために、かかる塗膜剥離層中の発泡剤を加熱により分解せしめて、ガスを発生させることによって、かかる塗膜剥離層上に形成された塗膜が容易に浮き上がることとなり、以てその剥離・除去が、効果的に行なわれ得るようになるのである。
【0010】なお、かかる本発明に従う塗膜剥離用被覆剤の好ましい態様の一つによれば、前記発泡剤は、前記被膜形成物質の1重量部に対して、0.01〜1重量部の割合において含有せしめられている。
【0011】また、本発明の望ましい態様の他の一つによれば、前記被膜形成物質は、水溶性若しくはアルカリ可溶性の有機高分子化合物であって、該有機高分子化合物を溶解せしめてなる液体媒体中に、前記発泡剤が更に添加、配合されてなるものであり、これによって、所定の物体表面上に形成される塗膜剥離層の除去も効果的に行なわれ得ることとなるのである。
【0012】さらに、本発明にあっては、前記発泡剤として、アゾ系化合物、ヒドラジン誘導体、N,N′−ジニトロソ化合物、及びテトラゾール誘導体からなる群より選ばれた有機発泡剤が、有利に用いられることとなる。
【0013】そして、本発明は、かくの如き塗膜被覆剤を用いた塗膜剥離方法をも、その要旨とするものであって、それは、少なくとも1種の被膜形成物質と共に、加熱により分解してガスを発生する発泡剤の少なくも1種を添加、含有せしめてなる被覆剤を用いて、その塗布により、所定の物体の表面に塗膜剥離層を形成して、かかる物体の表面の塗膜剥離層上に、除去されるべき塗膜が形成されるように為し、そして該塗膜の形成の後に、該塗膜が形成された物体を前記発泡剤の分解温度以上に加熱することによって、前記塗膜剥離層中に存在する該発泡剤を分解せしめ、生じた分解ガスにて前記塗膜を浮き上がらせて、剥離・除去せしめることを特徴としている。
【0014】なお、このような本発明に従う塗膜剥離方法にあっても、前記被覆剤における発泡剤は、前記被膜形成物質の1重量部に対して、0.01〜1重量部の割合において含有せしめられていることが望ましく、また、被膜形成物質は、水溶性若しくはアルカリ可溶性の有機高分子化合物であって、該有機高分子化合物を溶解せしめてなる液体媒体中に、前記発泡剤が更に添加、配合されていることが、望ましい。
【0015】また、本発明に従う塗膜剥離方法の好ましい態様の一つによれば、前記被覆剤における発泡剤は、前記塗膜の形成工程における熱履歴温度よりも10℃以上高い分解温度を有しており、これによって、塗膜の形成工程の後に、物体表面から塗膜の剥離を有効に行なうことが出来るのである。
【0016】さらに、本発明に従う塗膜剥離方法の他の望ましい態様によれば、前記塗膜剥離層は、10〜300μmの厚さの被覆として形成され、或いはまた、前記塗膜の形成された物体の加熱温度が、前記発泡剤の分解温度よりも10℃以上高い温度とされ、これらによって、また、除去されるべき塗膜の剥離が、有効に行なわれることとなる。
【0017】なお、かかる本発明に従う塗膜剥離方法においては、また、前記塗膜の剥離操作が実施された後、前記物体が更に温水中若しくは希アルカリ水中に浸漬せしめられて、該物体表面の清浄化が有利に実施されることとなるのである。
【0018】そして、このような本発明に従う塗膜剥離方法は、特に、前記物体として塗装治具が対象とされる場合において、有利に適用され得るものであり、そのような塗装治具上に、塗装作業の進行に伴って堆積する塗膜が、本発明に従って、有利に剥離・除去せしめられるのである。
【0019】
【発明の実施の形態】ところで、かくの如き本発明に従う塗膜剥離用被覆剤、及びそれを用いた塗膜剥離方法にあっては、所定の物体の表面に形成される塗膜を剥離・除去するために、かかる物体の表面に予め塗布されて、所定の発泡剤を含む塗膜剥離層を形成せしめる必要があるところから、そこで用いられる被覆剤には、少なくとも1種の天然若しくは合成の被膜形成物質が含有せしめられている必要があり、そのような被膜形成物質の含有によって、初めて、所定厚さの塗膜剥離層の形成が可能となるのである。そして、そのような被膜形成物質としては、水、或いは他の溶媒に可溶性である、従来から公知の各種の天然若しくは合成のものが、単独で、或いは組み合わせて、適宜に用いられることとなるが、物体表面に形成される塗膜剥離層も、また、塗膜と同様に最終的に除去せしめる必要があるところから、被膜形成物質としては、水洗により、或いは低濃度のアルカリ水溶液にての洗浄により除去のしやすい、水溶性またはアルカリ可溶性の天然若しくは合成の有機高分子化合物であることが望ましい。
【0020】なお、そのような水溶性またはアルカリ可溶性の有機高分子化合物としては、部分鹸化若しくは完全鹸化したポリビニルアルコールの他、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、スチレンスルホン酸等の水溶性単量体群から選ばれた1種以上の単量体と、アクリル酸若しくはメタクリル酸のアルキル(炭素数1〜18)エステル、スチレン等の非水溶性単量体群から選ばれた1種以上の単量体との共重合によって得られる高分子化合物や、無水マレイン酸とビニル系単量体との共重合物等を挙げることが出来、また、それら高分子化合物は、1価のカチオンで部分中和若しくは完全中和されたものであっても、何ら差し支えない。更に、天然の被膜形成物質としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース誘導体を挙げることが出来る。
【0021】また、上記の被膜形成物質と共に、本発明に従う被覆剤の構成成分の他の一つである発泡剤は、加熱によりガスを発生するものであって、一般にプラスチックの発泡剤として知られているものが適宜に用いられ、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;p−トルエンスルホニルヒドラジン、p,p′−オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)等のヒドラジン誘導体;N,N′−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のN,N′−ジニトロソ化合物;1−H−テトラゾール、5−フェニルテトラゾール、1−メチル−5−メルカプトテトラゾール、1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール、1,5′−ビステトラゾール・グアニジン塩、5,5′−ビステトラゾール・2アンモニウム塩、5,5′−ビステトラゾール・2アミノグアニジン塩、5,5′−ビステトラゾール・ピペラジン塩、5,5′−アゾビステトラゾール・ジアミノグアニジン塩、5,5′−アゾビステトラゾール・2グアニジン塩、5,5′−アゾビステトラゾール・2アミノグアニジン塩等のテトラゾール誘導体の如き有機性発泡剤が、単独にて、または組み合わせて、用いられることとなる。
【0022】特に、本発明にあっては、発泡剤として、塗膜の形成される塗装工程における乾燥操作或いは焼き付け操作での熱履歴(加熱温度)を考慮して、そのような熱履歴の温度(最高温度)よりも高い温度、望ましくは10℃以上、更に望ましくは20℃以上高い温度の分解温度を有するものが有利に用いられることとなる。即ち、塗装工程では、発泡させず、塗装操作に悪影響をもたらさないようにする一方、塗装作業が終了した後において、物体の表面から塗膜を剥離・除去すべき時において、そのような塗装工程における熱履歴温度よりも高い温度に加熱せしめることによって、発泡剤を急激に分解せしめ、多量の分解ガスを発生させることによって、塗膜の剥離・除去を有利に行ない得るのである。
【0023】さらに、かかる発泡剤の被膜形成物質に対する割合について、それは、目的に応じて任意に選択されるものであるが、通常、被膜形成物質の1重量部に対して、発泡剤は0.01〜1重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部の割合において用いられることとなる。けだし、発泡剤の使用割合が少なくなり過ぎると、分解ガスの発生が充分でなく、従って、物体表面に被着した塗膜の持ち上げ(浮き上がり)を充分に行ない難くなるからであり、また、過剰の発泡剤の使用は、その使用量に見合う効果を充分に期待し得ず、経済的にコストアップを招くおそれを生じるからである。
【0024】そして、本発明に従う被覆剤は、通常、前記した被膜形成物質及び発泡剤を適当な液体媒体中に添加、含有せしめて調製され、所定の物体表面に塗布せしめられることとなるのである。中でも、被膜形成物質は、そのような液体媒体に溶解せしめられると共に、その溶液中に、発泡剤が更に添加、配合されるものであって、一般に、水溶液乃至は水懸濁液の形態において、或いは適当な有機溶剤を用いた溶剤溶液乃至は溶剤系懸濁液の形態において調製されるものであるが、そのような被覆剤(溶液乃至は分散液)には、更に必要に応じて、物体の被覆部分を識別するための着色剤や粘度調整剤等の公知の各種の添加剤を加えることも可能である。
【0025】このように、溶液形態において、或いは分散液形態において調製された被覆剤は、剥離・除去されるべき塗膜が形成される所定の物体の表面に対して、噴霧、ハケ塗り、浸漬等の通常の手法により塗布され、その表面に、所定厚さで塗膜剥離層(被膜)が形成されるのである。
【0026】なお、ここで、塗膜剥離層の形成される物体としては、剥離・除去する必要のある塗膜が形成される、部材や部品等の各種形状の物体の何れもが、その対象とされるものであるが、特に本発明にあっては、繰り返しの使用によって剥離・除去の困難な堆積塗膜が形成される塗装治具に対して、有利に適用されるものであって、そのような塗装治具の表面に、本発明に従う被覆剤を予め塗布して、塗膜剥離層を形成しておくことにより、塗装作業の終了後において、そのような塗装治具から堆積塗膜を有利に剥離・除去せしめ得るのである。
【0027】また、かくの如き被覆剤の塗布の後、常温乾燥乃至は加熱乾燥が行なわれて、目的とする塗膜剥離層(被膜)が物体表面に形成されるのであるが、その際の加熱温度は、発泡剤の分解温度よりも低い温度に設定される必要があることは言うまでもないところである。そして、そのような乾燥操作を経て形成される塗膜剥離層(被膜)の厚さとしては、特に限定されるものではないが、一般に、10〜300μm、好ましくは30〜200μm程度の厚さにおいて、そのような塗膜剥離層の形成が行なわれるのである。この塗膜剥離層の厚さが薄くなり過ぎると、分解ガスによる塗膜の持ち上げ作用乃至は浮き上げ作用が弱くなり、塗膜の剥離・除去効果が充分でなくなるからであり、また厚くなり過ぎると、塗膜剥離層自体が脆くなる等の問題を惹起する。
【0028】その後、かかる塗膜剥離層の形成された塗装治具等の物体は、所定の塗装工程に供され、所定の塗装操作が実施されるのであり、そして、そのような塗装操作の終了の後に、かかる物体表面に形成された塗膜を剥離・除去するために、そのような物体を発泡剤の分解温度以上に加熱せしめる加熱操作が実施され、これによって、塗膜と物体表面との間に存在せしめられる塗膜剥離層中の発泡剤を分解せしめて、ガスを発生せしめ、以てその生じた分解ガスにて塗膜を下から持ち上げ、物体表面から浮き上がらせるようにするのである。
【0029】なお、このように物体表面に形成された塗膜の剥離のための加熱操作は、通常、熱風、赤外線ヒーター、火炎等の加熱手段を備えた炉乃至は装置を用いて行なわれ、一般に、塗膜剥離層中の発泡剤の分解温度以上、好ましくは、そのような分解温度よりも10℃以上高い温度に加熱せしめることによって、かかる発泡剤の分解による分解ガスの発生を有効に行ない、以て塗膜の浮き上がり、更には剥離を有効に行なわしめ得るのである。具体的には、発泡剤として、例えば、アゾビスイソブチロニトリルやp−トルエンスルホニルヒトラジンを用いた場合にあっては、それらの分解温度が約100〜110℃の範囲内にあるところから、上記の剥離のための加熱温度としては、120〜150℃程度に設定するのが望ましいのであり、また、5,5′−アゾビステトラゾール・2アミノグアニジン塩を用いた場合にあっては、その分解温度が約195〜215℃の範囲内にあるところから、剥離のための加熱温度としては、225〜250℃程度に設定することが望ましいのである。
【0030】そして、かくの如き加熱操作にて発泡剤が分解せしめられ、その分解ガスにより浮き上がった物体表面の塗膜は、軽く叩き落とす等の機械的な操作にて、極めて容易に除去せしめられ得るのであり、またそのような脱落した塗膜剥離物は、従来とは異なり、溶剤や水分を含んでいないために、その嵩が極めて少なく、従って、廃棄量も少なくなるのでり、また取り扱いも容易である等の特徴を有しているのである。
【0031】また、かかる塗膜の物理的な除去操作にて、物体表面の塗膜は殆ど取り除かれることとなるが、そのような物体表面に未だ塗膜が残存していたり、塗膜剥離層が部分的に付着していたりする場合には、必要に応じて、水乃至は適当な溶媒中において、物体表面の洗浄操作が実施され、特に、温水中若しくは希アルカリ水中に浸漬することにより、表面の清浄化が実施されることとなる。なお、かかる温水中乃至は希アルカリ水中への浸漬による表面清浄化効果を有利に実現せしめ得る上において、前記被覆剤中の被膜形成物質として、水溶性若しくはアルカリ可溶性の有機高分子化合物を用いることが望ましく、そのような有機高分子化合物からなる被膜形成物質にて形成された塗膜剥離層は、温水乃至は希アルカリ水にて容易に溶解、除去せしめられ得るところから、そのような塗膜剥離層が存在していても、更にはその上に塗膜が付着していても、それらを物体表面から効果的に除去せしめ得るのである。
【0032】
【実施例】以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。なお、以下の実施例中、部及び百分率は、何れも、重量基準にて示されている。
【0033】実施例 1アルカリ可溶性のアクリル樹脂を50%濃度において含むメチルエチルケトン溶液(東亜合成株式会社、商品名:S−444)の100部と、発泡剤:5−フェニルテトラゾール(東洋化成工業株式会社、分解温度:217〜265℃)の5部と、希釈溶剤:メチルイソブチルケトンの30部とを、常温下において均一に混合して、135部の白濁分散液からなる被覆剤Aを調製した。
【0034】また、比較のために、上記発泡剤(5−フェニルテトラゾール)を添加、配合せしめない、アクリル樹脂のメチルエチルケトン溶液と希釈溶剤(メチルイソブチルケトン)のみからなる透明な溶液を、被覆剤Dとして調製した。
【0035】実施例 2実施例1における発泡剤を、5−アミノ−1H−テトラゾール(東洋化成工業株式会社、分解温度:200〜204℃)に置き換えて、実施例1と同様にして、135部の白濁分散液からなる被覆剤Bを調製した。
【0036】実施例 320%ポリビニルアルコール水溶液(クラレ株式会社、商品名:クラレポバールPVA−105)の100部と、発泡剤:アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学株式会社、商品名:AIBN、分解温度:100〜102℃)の10部と、着色剤:炭酸カルシウム粉末の5部とを、均一に混合せしめて、115部の白濁分散液からなる被覆剤Cを調製した。
【0037】また、比較のために、発泡剤(アゾビスイソブチロニトリル)を含まないポリビニルアルコール水溶液と着色剤とからなる白濁分散液を、被覆剤Eとして調製した。
【0038】実施例 4上記の実施例で調製された被覆剤A〜Eを用い、各被覆剤を、それぞれ、一辺が10cmの正方形状の鉄板上に、ハケにて塗布した後、常温下で4時間乾燥させることにより、下記の表1に示される如き、平均膜厚を有する塗膜剥離層を形成させてなる各種の試験片を作製した。
【0039】次いで、各々の試験片の表面に形成してなる塗膜剥離層の効果を比較するために、各々の試験片に、アルキッド樹脂系合成樹脂塗料(関西ペイント株式会社)を常法に従って塗り重ね、下記表1に示される如き膜厚の塗膜を有する試験片とした後、それぞれの試験片を下記表1に示す加熱温度にて10分間保持した後、それぞれの試験片に塗り重ねた塗膜の剥離効果を評価し、その結果を下記表1に併せ示した。なお、下記表1における剥離効果において、◎:塗膜層が剥離し、脱落した、○:塗膜層が剥離し、軽く叩くことにより脱落した、×:塗膜層が剥離せず、の状態をそれぞれ表わしている。
【0040】
【表1】


【0041】かかる表1の結果から明らかなように、本発明に従う発泡剤を含有する被覆剤A〜Cにあっては、それによって鉄板上に形成された塗膜剥離層が、かかる発泡剤の分解温度以上に加熱せしめられることによって、そのような塗膜剥離層の上に形成された樹脂塗膜を浮き上がらせて剥離せしめ、以て軽く叩く等することにより、塗膜層を容易に剥離・除去せしめ得たのに対して、比較例の被覆剤D及びEを用いて形成された塗膜剥離層にあっては、発泡剤が存在せしめられていないところから、加熱処理されても、樹脂塗膜は全く剥離せず、そのために塗膜の除去は不可能であった。
【0042】
【発明の効果】以上の説明から明らかな如く、本発明によれば、被膜形成物質と共に、所定の発泡剤を含有せしめてなる被覆剤にて、塗膜剥離層が形成されて、その上に、剥離・除去されるべき塗膜が形成されるものであるところから、加熱によって、かかる塗膜剥離層中の発泡剤を分解せしめて、分解ガスを発生させることにより、物体表面より塗膜を効果的に浮き上がらせて、剥離せしめることが出来るのであり、そして、そのような浮き上がらせた塗膜は、単に、軽く叩く等の物理的な除去操作にて容易に除去せしめられ得るところから、従来の方法に比べて廃棄物の発生量が少なく、またその取り扱いも容易であり、更には剥離が困難な熱硬化型の塗膜に対しても容易に剥離・除去せしめ得る等の優れた効果を奏し得るのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定の物体の表面に形成される塗膜を剥離・除去するために、該物体の表面に予め塗布せしめられる被覆剤にして、少なくとも1種の被膜形成物質と共に、加熱により分解してガスを発生する発泡剤の少なくとも1種を添加、含有せしめてなることを特徴とする塗膜剥離用被覆剤。
【請求項2】 前記被膜形成物質の1重量部に対して、前記発泡剤が、0.01〜1重量部の割合において含有せしめられている請求項1記載の塗膜剥離用被覆剤。
【請求項3】 前記被膜形成物質が、水溶性若しくはアルカリ可溶性の有機高分子化合物であって、該有機高分子化合物を溶解せしめてなる液体媒体中に、前記発泡剤が更に添加、配合されている請求項1又は請求項2記載の塗膜剥離用被覆剤。
【請求項4】 前記発泡剤が、アゾ系化合物、ヒドラジン誘導体、N,N′−ジニトロソ化合物、及びテトラゾール誘導体からなる群より選ばれた有機発泡剤である請求項1乃至請求項3の何れかに記載の塗膜剥離用被覆剤。
【請求項5】 少なくとも1種の被膜形成物質と共に、加熱により分解してガスを発生する発泡剤の少なくも1種を添加、含有せしめてなる被覆剤を用いて、その塗布により、所定の物体の表面に塗膜剥離層を形成して、かかる物体の表面の塗膜剥離層上に、除去されるべき塗膜が形成されるように為し、そして該塗膜の形成の後に、該塗膜が形成された物体を前記発泡剤の分解温度以上に加熱することによって、前記塗膜剥離層中に存在する該発泡剤を分解せしめ、生じた分解ガスにて前記塗膜を浮き上がらせて、剥離・除去せしめることを特徴とする塗膜剥離方法。
【請求項6】 前記被膜形成物質の1重量部に対して、前記発泡剤が、0.01〜1重量部の割合において含有せしめられている請求項5記載の塗膜剥離方法。
【請求項7】 前記被膜形成物質が、水溶性若しくはアルカリ可溶性の有機高分子化合物であって、該有機高分子化合物を溶解せしめてなる液体媒体中に、前記発泡剤が更に添加、配合されている請求項5又は請求項6記載の塗膜剥離方法。
【請求項8】 前記発泡剤が、前記塗膜の形成工程における熱履歴温度よりも10℃以上高い分解温度を有している請求項5乃至請求項7の何れかに記載の塗膜剥離方法。
【請求項9】 前記塗膜剥離層が、10〜300μmの厚さの被覆として形成されている請求項5乃至請求項8の何れかに記載の塗膜剥離方法。
【請求項10】 前記塗膜の形成された物体の加熱温度が、前記発泡剤の分解温度よりも10℃以上高い温度である請求項5乃至請求項9の何れかに記載の塗膜剥離方法。
【請求項11】 前記塗膜の剥離操作が実施された後、前記物体が更に温水中若しくは希アルカリ水中に浸漬されて、該物体表面の清浄化が行なわれる請求項5乃至請求項10の何れかに記載の塗膜剥離方法。
【請求項12】 前記物体が、塗装治具である請求項5乃至請求項11の何れかに記載の塗膜剥離方法。