説明

塗装ブースの空調システムとその運転方法

【課題】
塗装ブース内のVOC濃度を適正値に維持すると同時に、ランニングコストを軽減し、且つ、塗装ブース立ち上げ時に安定的にいち早く適正値で運転できるようにする。
【解決手段】
塗装ブース(1)の空気給排気系(S)として、新鮮空気を所定の温度・湿度に調整して供給する新鮮空気供給系(2)と、塗装ブース(1)内の空気を所定の温度・湿度に調整して再び領域内に循環供給する循環空気供給系(3)と、新鮮空気供給系(1)で供給される空気と同量の空気を排出する排ガス排出系(4)とを備え、塗装ブース運転開始時に測定された初期VOC濃度に基づき空気給排気系(S)の送風量を設定して定風量で運転する定量制御手段(15)を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブース内に空調された新鮮空気を供給すると共に、塗装ブース内空気の一部を再度空調してリサイクル利用する塗装ブースの空調システムとその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディなどの被塗装物をコンベアで搬送しながら塗装を行う塗装ブースとして、新鮮な空調空気を供給する新鮮空気供給系と、当該領域内から抜き取った空気を再び領域内に循環供給する循環空気供給系と、前記新鮮空気供給系で供給される空気と同量の空気を当該領域外に排出させる排ガス排出系とを備えたものが知られている(特許文献1)。
【0003】
これによれば、センサにより測定された塗装ブース内の揮発性有機溶剤(VOC)濃度が予め設定された濃度(低爆発限界の25%)に維持され、例えば、VOC濃度が設定濃度より高くなった場合には排ガス排出系による排気量が増え、その結果、循環空気供給系により循環される空気量が減少してVOC濃度は抑えられることになる(特許文献1[0031]参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、VOC濃度は「十分に」低い方がよいとされているため、通常は必要以上にVOC濃度を低下させて運転する傾向にあり、この場合、新鮮空気の送風量が相対的に増えるため塗装ブース内雰囲気を一定に維持するためのランニングコストが嵩むという問題を生ずる。
特に、新鮮空気供給系に空調装置を介装した場合は、循環風量を低減させることにより空調装置のランニングコストが嵩む。
【0005】
また、センサにより測定されたブース内のVOC濃度に基づいて、各空気給排気系の送風量をコントロールすることとしているが、塗装ブースの立上時はVOC濃度は実質的に0であり当然設定濃度より低いので、新鮮空気送風量を最小に、循環風量を最大に設定して運転され、その結果VOC濃度の上昇速度が速く、短時間でVOC濃度が設定値に達する。
【0006】
この場合に、新鮮空気の送風量を増大させ、循環風量を低減させる制御が行われるが、送風量の変化とVOC濃度の変化にはタイムラグがあるため、VOC濃度が適正値となるまで送風量を変化させた時点では、新鮮空気の送風量過大、循環風量が過小となることが多く、安定するまでに時間がかかるという問題があった。
なお、サンプリングインターバルを長くすれば制御を安定化させることができるが、もともとVOC濃度の上昇速度が速いため、サンプリングインターバルを長くすると、VOC濃度が適正値を大幅に上回って危険度が増すという問題を生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−154676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、塗装ブース内のVOC濃度を適正値に維持すると同時に、ランニングコストを軽減し、且つ、塗装ブース立ち上げ時に安定的にいち早く適正値で運転できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、塗装ブースの予め設定された領域内に空気を給排気する空気給排気系として、新鮮空気を所定の温度・湿度に調整して供給する新鮮空気供給系と、当該領域内から抜き取った空気を所定の温度・湿度に調整して再び領域内に循環供給する循環空気供給系と、前記新鮮空気供給系で供給される空気と同量の空気を当該領域外に排出させる排ガス排出系とを備え、新鮮空気供給系及び循環空気供給系の送風量の総和が予め設定されると共に、塗装ブース内のVOC濃度に基づいて前記各空気給排気系の送風量をコントロールする制御装置を備えた塗装ブースの空調システムにおいて、
リサイクル率Rを、
R=Q2/(Q1+Q2)*100(%)
Q1:新鮮空気供給系の送風量
Q2:循環空気供給系で循環される送風量
で定義したときに、
前記制御装置は、リサイクル率R=0%で一定時間運転したときに測定される初期VOC濃度に対して、目標VOC濃度まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めた初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブルを備え、
塗装ブース運転開始時に測定された初期VOC濃度に基づき前記変換テーブルを参照してリサイクル率の最大設定値を設定し、このリサイクル率に基づいて前記空気給排気系の送風量を設定して定風量で運転する定量制御手段を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗装ブースの空気給排気システムによれば、運転開始時にリサイクル率0、すなわち循環風量0にて一定時間運転し、初期VOC濃度を測定する。なお、この間は、循環風量が0であるので、塗装ブース内のVOC濃度は低く維持される。
そして、初期VOC濃度が測定された時点で、初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブルを参照してリサイクル率が設定される。
【0011】
このリサイクル率は、塗装ブースを目標VOC濃度に維持し得る最大設定値であるから、このリサイクル率で運転していれば、循環風量0のときに比してリサイクル率が高いのでVOC濃度は徐々に上昇するが目標VOC濃度近傍で頭打ちになり、原則的には、目標VOC濃度を超えることなく、その濃度以下に維持される。
この間、リサイクル率は一定であるから制御が安定し、しかも、ブース内のVOC濃度が設定値を超えることもないので、VOC濃度上昇に伴う弊害がなく、ランニングコストが軽減される。
【0012】
また、定量制御手段により所定時間運転した後、塗装ブース内のVOC濃度が目標VOC濃度に維持されるようにリサイクル率を可変制御して、このリサイクル率に基づき前記空気給排気系の送風量を調整しながら運転するフィードバック制御を行うことにより、塗装ライン稼働中の単位時間当たり搬入量の増加などの運転条件の変化に伴い、塗装ブース内のVOC濃度が設定値を超えた場合は、その時点からフィードバック制御が行われる。
この場合、もともと塗装ブース内を目標VOC濃度に維持しうるリサイクル率の最大設定値で運転されているので、VOC濃度の変化は急激なものではなく、したがって、制御の安定化を図るために、サンプリングインターバルを長く設定しても、VOC濃度が低爆発限界値まで上昇することがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる塗装ブースの説明図。
【図2】制御手段の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本例では、塗装ブース内のVOC濃度を適正値に維持すると同時に、ランニングコストを軽減し、且つ、塗装ブース立ち上げ時に安定的にいち早く適正値で運転できるようにするという目的を達成するために、塗装ブースの予め設定された領域内に空気を給排気する空気給排気系として、新鮮空気を所定の温度・湿度に調整して供給する新鮮空気供給系と、当該領域内から抜き取った空気を所定の温度・湿度に調整して再び領域内に循環供給する循環空気供給系と、前記新鮮空気供給系で供給される空気と同量の空気を当該領域外に排出させる排ガス排出系とを備え、新鮮空気供給系及び循環空気供給系の送風量の総和が予め設定されると共に、塗装ブース内のVOC濃度に基づいて前記各空気給排気系の送風量をコントロールする制御装置を備えた塗装ブースの空調システムにおいて、
リサイクル率Rを、
R=Q2/(Q1+Q2)*100(%)
Q1:新鮮空気供給系の送風量
Q2:循環空気供給系で循環される送風量
で定義したときに、
前記制御装置は、リサイクル率R=0%で一定時間運転したときに測定される初期VOC濃度に対して、目標VOC濃度まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めた初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブルを備え、
塗装ブース運転開始時に測定された初期VOC濃度に基づき前記変換テーブルを参照してリサイクル率の最大設定値を設定し、このリサイクル率に基づいて前記空気給排気系の送風量を設定して定風量で運転する定量制御手段を備えた。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明に係る塗装ブースの空気給排気システムの一例を示す。
塗装ブース1は、予め設定された領域A内に空気を給排気する空気給排気系Sとして、新鮮な空調空気を供給する新鮮空気供給系2と、領域A内から抜き取った空気を再び領域A内に循環供給する循環空気供給系3と、新鮮空気供給系2で供給される空気と同量の空気を当該領域A外に排出させるブース内空気排出系4とを備えている。
【0016】
新鮮空気供給系2は、新鮮空気空調装置5と塗装ブース1を接続する新鮮空気供給ダクトD1と、これに介装されたブロアB1からなり、新鮮空気空調装置5で所定の温度・湿度に設定された新鮮な空調空気がブロアB1により塗装ブース1内へ供給されるようになっている。
循環空気供給系3は、塗装ブース1内の空気を再び塗装ブース1に循環させる循環ダクトD2にはリサイクル用空調装置6及びブロアB2が介装されてなる。
ブース内空気排出系4は、塗装ブース1内の空気を外部に排出する排気ダクトD3にブロアB3が介装されてなる。
なお、本明細書において循環風量と言うときは、循環空気供給系3の空調装置6を通過して戻される空気の送風量をいう。
【0017】
また、本例では、上記各ダクトD1〜D3の他に、塗装ブース1内の初期VOC濃度を測定する際に塗装ブース1内の空気を外部に排出する排気ダクトD4と、当該排気ダクトD4から分岐されて塗装ブース1に接続された分岐ダクトD5と、ブース内空気排出系4の排気ダクトD3から分岐されて前記分岐ダクトD5に接続された分岐ダクトD6が設けられている。
排気ダクトD4にはブロアB4が介装されると共に、分岐ダクトD5との分岐点の下流側に排気量−循環風量調整ダンパP4、P5が配されている。
また、排気ダクトD3には、分岐ダクトD6との分岐点の下流側に排気量−循環風量調整ダンパP3、P6が介装されている。
【0018】
各ブロアB1〜B4及び各ダンパP3〜P6は、空気給排気系Sの送風量をコントロールする制御装置11に接続されている。
この制御装置11は入力側に、VOC濃度を測定する二つの濃度センサ12,13が接続されており、各センサ12及び13は、排気ダクトD3及びD4の流入口近傍に配され、塗装ブース1から排出された空気に含まれるVOC濃度を測定する。
また、制御装置11は、リサイクル率Rを、
R=Q2/(Q1+Q2)*100(%)
Q1:新鮮空気供給系の送風量
Q2:循環空気供給系で循環される送風量
で定義したときに、リサイクル率R=0%で一定時間運転したときに測定される初期VOC濃度に対して、目標VOC濃度(例えば、炭素換算濃度で400ppmC)まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めた初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブル14と、塗装ブース運転開始時に測定された初期VOC濃度に基づき前記変換テーブル14を参照してリサイクル率の最大設定値を設定し、このリサイクル率に基づいて空気給排気系Sの送風量を設定して定風量で運転する定量制御手段15と、塗装ブース内のVOC濃度が目標VOC濃度に達した後に、塗装ブース内のVOC濃度が目標VOC濃度に維持されるようにリサイクル率を可変制御して、このリサイクル率に基づき空気給排気系Sの送風量を調整しながら運転するフィードバック制御手段16を備えている。
【0019】
図2は、制御装置11による処理手順を示すフローチャートである。
塗装ブース1が起動されると、制御装置11の処理が実行開始され、ステップSTP1で新鮮空気供給比率、リサイクル率、新鮮空気の送風量と循環風量の総和(総送風量)の初期値が設定される。
初期値は、新鮮空気供給比率100%、リサイクル率0%であり、新鮮空気の送風量と循環風量の総和が例えば1000m/分と設定される。
【0020】
次いで、ステップSTP2にて、これらの値に基づき、各ブロアB1〜B4の送風量、ダンパP3〜P6の開度を、例えば、ブロアB1及びB4の送風量=1000m/分、ブロアB2及びB3の送風量=0m/分と設定し、ダンパP4全開、ダンパP3、P5、P6全閉で運転する。
なお、運転開始時に初期VOC濃度を測定している間のみ、排気ダクトD4が排ガス排出系として機能する。
【0021】
そして、ステップSTP3で排気ダクトD4に配されたVOC濃度センサ12により塗装ブース1内のVOC濃度を測定して所定時間間隔で記録し、ステップSTP4で予め設定した初期VOC濃度測定時間(例えば1時間)を経過したか否か判断し、経過していないときはステップSTP3に戻り、経過したときはステップSTP5に移行する。
【0022】
ステップSTP5では、ステップSTP3で測定されたVOC濃度に基づいて初期VOC濃度を決定する。
この初期VOC濃度は、本例では、初期VOC濃度測定時間内に測定されたVOC濃度の最大値としているが、その他、平均値など統計的に求め得る値を使用してもよい。
【0023】
ステップSTP6では、初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブル14を参照し、ステップSTP5で決定された初期VOC濃度に対応するリサイクル率を決定する。
この、変換テーブル14は、リサイクル率R=0%で一定時間運転したときに測定される初期VOC濃度に対して、目標VOC濃度まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めたもので、初期VOC濃度に対応するリサイクル率で運転した場合、塗装ブース1内の環境が著しく変化しなければ目標VOC濃度に維持することができる。
【0024】
そして、ステップSTP6で決定されたリサイクル率に基づき、ステップSTP7で、ブロアB1〜B4の送風量、ダンパP3〜P6の開度を設定する。
リサイクル率が80%に設定された場合、総送風量は1000m/分であるから、ブロアB1の送風量=200m/分、ブロアB2の送風量=800m/分となる。
その他のブロアB3及びB4と各ダンパP3〜P6は、例えば、塗装ブース1内の空気の流れを乱さないように適宜設定される。
例えば、ブロアB3の送風量=800m/分で運転され、ダンパ開度P3:P6=1:3と設定すれば、新鮮空気の供給量に等しい200m/分が外部に排出される。
また、ブロアB4の送風量=200m/分で運転され、ダンパP4全閉、ダンパP5全開に設定すれば、分岐ダクトD5及びD6を介して塗装ブース1内に戻される空気の送風量は循環風量に等しい800m/分であるので、塗装ブース1に入る空気と出る空気は全てバランスする。
【0025】
そして、ステップSTP3で排気ダクトD3に配されたVOC濃度センサ13により塗装ブース1内のVOC濃度を測定し、ステップSTP9でVOC濃度が目標値に達するまでこの状態で運転を続け、目標VOC濃度未満のときは、ステップSTP10で停止命令が出されていないことを確認して、ステップSTP8に戻り、目標VOC濃度に達した時点でステップSTP11に移行してフィードバック制御を行う。
なお、ステップSTP9は、VOC濃度が目標値に達するか否かを判断する場合に限らず、予め設定された時間(例えば2〜3時間)が経過したか否かを判断するようにしてもよい。また、VOC濃度が目標濃度に達したか否かと、予め設定された時間が経過したか否かの双方を判断し、いずれか一方が該当した場合にフィードバック制御に移行するようにしてもよい。
【0026】
フィードバック制御は、ステップSTP11でVOC濃度センサ13によりVOC濃度を測定し、ステップSTP12では測定されたVOC濃度が、目標VOC濃度を上限値とする許容範囲(例えば、目標VOC濃度の90%以上100%未満)にあるか、許容範囲を超えているか(目標VOC濃度の100%以上)、許容範囲未満であるか(目標VOC濃度の90%未満)について判断する。
許容範囲内と判断されたときは、現状を維持して運転を続け、ステップSTP13に移行して装置停止命令が出されていないことを確認してステップSTP11に戻る。
許容範囲を超えていると判断された場合は、塗装ブース1内のVOC濃度が高過ぎ、放置すると危険であるので、これを低減するために、ステップSTP14に移行してリサイクル率を現状−5%とし、ステップSTP15で各ブロアB1〜B4の送風量、ダンパP3〜P6の開度を設定し、ステップSTP13からステップSTP11に戻る。
また、許容範囲未満であれば、危険性はないが、新鮮空気空調装置のランニングコストが嵩むので、ステップSTP16に移行しリサイクル率を現状+5%と設定し直し、ステップSTP15で各ブロアB1〜B4の送風量、ダンパP3〜P6の開度を設定し、ステップSTP13からステップSTP11に戻る。
【0027】
なお、ステップSTP1〜10までの処理が定量制御手段の具体例、ステップSTP11〜16の処理がフィードバック制御手段の具体例である。
【0028】
以上が、本発明の一構成例であって、次にその作用について説明する。
まず、塗装ブース1内の初期VOC濃度に基づいてリサイクル率を設定し、このリサイクル率に基づき送風量を設定して定量制御を行う(ステップSTP1〜10)。
定量制御では、制御装置11による制御が開始されると、リサイクル率R=0%、総送風量=1000m/分)が設定され、ブロアB1及びB4の送風量=1000m/分、ブロアB2及びB3の送風量=0m/分と設定し、ダンパP4全開、ダンパP3、P5、P6全閉で一定時間(例えば1時間)運転し、その間、VOC濃度センサ12により塗装ブース1内のVOC濃度を測定して所定時間間隔で記録し、VOC濃度の最大値を初期VOC濃度として設定する(ステップSTP1〜5)。
次いで、初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブル14を参照して、初期VOC濃度に対応するリサイクル率を決定し、これに応じてそれぞれの送風量を設定する(ステップSTP6〜7)。
【0029】
例えば、リサイクル率R=80%に設定された場合、総送風量は1000m/分であるから、循環風量を決定するブロアB2の送風量=800m/分、残りが新鮮空気の送風量であるからブロアB1の送風量=200m/分に設定され、その他のブロアB3の送風量=800m/分、ブロアB4の送風量=200m/分とし、ダンパ開度P3:P6=1:3、ダンパP4全閉、ダンパP5全開に設定し、塗装ブース1内のVOC濃度が目標VOC濃度に達するまでこの送風量に維持して定量制御する(ステップSTP8〜10)。
このときのリサイクル率は、目標VOC濃度まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めたものであるから、初期VOC濃度に対応するリサイクル率で運転した場合、塗装ブース1内の環境が著しく変化しなければ目標VOC濃度に維持することができる。
【0030】
また、定量制御において、塗装ブース1内のVOC濃度が目標VOC濃度に達した時点で、フィードバック制御(ステップSTP11〜16)を行う。
フィードバック制御では、測定されたVOC濃度と目標VOC濃度を比較して、許容範囲内と判断されたときは現状維持し、許容範囲を超えていると判断された場合はリサイクル率を減少させ、許容範囲未満であればリサイクル率を増加させる。
これにより、塗装ライン稼働中に運転条件などの変化に起因して、塗装ブース内のVOC濃度が上昇したときはこれを低減させて危険を回避することができ、VOC濃度が十分に低くなったときは危険性がない範囲まで上昇させてランニングコストを低減することができる。
【0031】
なお、上述の説明では、定量制御運転した後に、フィードバック制御に移行する場合について説明したが、本発明では、フィードバック制御を行わずに定量制御運転のみを行う場合であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、コンベアで連続的に搬送されてくる自動車ボディなどの被塗物を塗装する塗装ブースの空調システムの用途に適用し得る。
【符号の説明】
【0033】
1 塗装ブース
S 空気給排気系
2 新鮮空気供給系
3 循環空気供給系
4 排ガス排出系
5 新鮮空気空調装置
6 リサイクル用空調装置
D1 新鮮空気供給ダクト
D2 循環ダクト
D3 排気ダクト
11 制御装置
12,13 濃度センサ
14 初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブル
15 定量制御手段
16 フィードバック制御手段




【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブースの予め設定された領域内に空気を給排気する空気給排気系として、新鮮空気を所定の温度・湿度に調整して供給する新鮮空気供給系と、当該領域内から抜き取った空気を所定の温度・湿度に調整して再び領域内に循環供給する循環空気供給系と、前記新鮮空気供給系で供給される空気と同量の空気を当該領域外に排出させる排ガス排出系とを備え、新鮮空気供給系及び循環空気供給系の送風量の総和が予め設定されると共に、塗装ブース内のVOC濃度に基づいて前記各空気給排気系の送風量をコントロールする制御装置を備えた塗装ブースの空調システムにおいて、
リサイクル率Rを、
R=Q2/(Q1+Q2)*100(%)
Q1:新鮮空気供給系の送風量
Q2:循環空気供給系で循環される送風量
で定義したときに、
前記制御装置は、リサイクル率R=0%で一定時間運転したときに測定される初期VOC濃度に対して、目標VOC濃度まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めた初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブルを備え、
塗装ブース運転開始時に測定された初期VOC濃度に基づき前記変換テーブルを参照してリサイクル率の最大設定値を設定し、このリサイクル率に基づいて前記空気給排気系の送風量を設定して定風量で運転する定量制御手段を備えたことを特徴とする塗装ブースの空調システム。
【請求項2】
塗装ブースの予め設定された領域内に空気を給排気する空気給排気系として、新鮮空気を所定の温度・湿度に調整して供給する新鮮空気供給系と、当該領域内から抜き取った空気を所定の温度・湿度に調整して再び領域内に循環供給する循環空気供給系と、前記新鮮空気供給系で供給される空気と同量の空気を当該領域外に排出させる排ガス排出系とを備え、新鮮空気供給系及び循環空気供給系の送風量の総和が予め設定されると共に、塗装ブース内のVOC濃度に基づいて前記各空気給排気系の送風量をコントロールする制御装置を備えた塗装ブースの空調システムにおいて、
リサイクル率Rを、
R=Q2/(Q1+Q2)*100(%)
Q1:新鮮空気供給系の送風量
Q2:循環空気供給系で循環される送風量
で定義したときに、
前記制御装置は、リサイクル率R=0%で一定時間運転したときに測定される初期VOC濃度に対して、目標VOC濃度まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めた初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブルを備え、
塗装ブース運転開始時に測定された初期VOC濃度に基づき前記変換テーブルを参照してリサイクル率の最大設定値を設定し、このリサイクル率に基づいて前記空気給排気系の送風量を設定して定風量で運転する定量制御手段と、
前記定量制御手段により所定時間運転した後、塗装ブース内のVOC濃度が目標VOC濃度に維持されるようにリサイクル率を可変制御して、このリサイクル率に基づき前記空気給排気系の送風量を調整しながら運転するフィードバック制御手段を備えたことを特徴とする塗装ブースの空調システム。
【請求項3】
前記定量制御手段は、塗装ブース内のVOC濃度が目標VOC濃度に達するまで定風量で運転し、塗装ブース内のVOC濃度が目標VOC濃度に達した時点で、前記フィードバック制御手段による運転が行われる請求項2記載の塗装ブースの空調システム。
【請求項4】
塗装ブースの予め設定された領域内に空気を給排気する空気給排気系として、新鮮空気を所定の温度・湿度に調整して供給する新鮮空気供給系と、当該領域内から抜き取った空気を所定の温度・湿度に調整して再び領域内に循環供給する循環空気供給系と、前記新鮮空気供給系で供給される空気と同量の空気を当該領域外に排出させる排ガス排出系とを備え、新鮮空気供給系及び循環空気供給系の送風量の総和が予め設定されると共に、塗装ブース内のVOC濃度に基づいて前記各空気給排気系の送風量をコントロールする塗装ブースの空調システム運転方法において、
リサイクル率Rを、
R=Q2/(Q1+Q2)*100(%)
Q1:新鮮空気供給系の送風量
Q2:循環空気供給系で循環される送風量
で定義したときに、
リサイクル率R=0%で一定時間運転したときに測定される初期VOC濃度に対して、目標VOC濃度まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めた初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブルを備え、
塗装ブース運転開始時に測定された初期VOC濃度に基づき前記変換テーブルを参照してリサイクル率の最大設定値を設定し、このリサイクル率に基づいて前記空気給排気系の送風量を設定して定風量で運転する定量制御を行うことを特徴とする塗装ブースの空調システム運転方法。
【請求項5】
塗装ブースの予め設定された領域内に空気を給排気する空気給排気系として、新鮮空気を所定の温度・湿度に調整して供給する新鮮空気供給系と、当該領域内から抜き取った空気を所定の温度・湿度に調整して再び領域内に循環供給する循環空気供給系と、前記新鮮空気供給系で供給される空気と同量の空気を当該領域外に排出させる排ガス排出系とを備え、新鮮空気供給系及び循環空気供給系の送風量の総和が予め設定されると共に、塗装ブース内のVOC濃度に基づいて前記各空気給排気系の送風量をコントロールする塗装ブースの空調システム運転方法において、
リサイクル率Rを、
R=Q2/(Q1+Q2)*100(%)
Q1:新鮮空気供給系の送風量
Q2:循環空気供給系で循環される送風量
で定義したときに、
リサイクル率R=0%で一定時間運転したときに測定される初期VOC濃度に対して、目標VOC濃度まで低減可能なリサイクル率の最大設定値を予め実験で求めた初期VOC濃度−リサイクル率変換テーブルを備え、
塗装ブース運転開始時に測定された初期VOC濃度に基づき前記変換テーブルを参照してリサイクル率の最大設定値を設定し、このリサイクル率に基づいて前記空気給排気系の送風量を設定して定風量で運転する定量制御を行い、
前記定量制御により所定時間運転した後、塗装ブース内のVOC濃度が目標VOC濃度に維持されるようにリサイクル率を可変制御して、このリサイクル率に基づき前記空気給排気系の送風量を調整するフィードバック制御を行うことを特徴とする塗装ブースの空調システム運転方法。
【請求項6】
前記定量制御において、塗装ブース内のVOC濃度が目標VOC濃度に達した時点で、前記フィードバック制御に移行する請求項5記載の塗装ブースの空調システム運転方法。


【図1】
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【図2】
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