説明

塗装方法

【課題】 洗浄又は脱脂(ワイピング)工程を省略しても上記のような問題が生じることなく、オレフィン樹脂系バンパーの表面に成膜性に優れた塗膜を形成せしめることができる塗装方法を提供すること。
【解決手段】 帯電防止剤を少なくとも0.4質量%含有するオレフィン樹脂系バンパーであって、その表面の25℃・65%RH環境下での水に対する接触角(θ)が少なくとも20°であり且つウエット環境下で放置後とドライ環境下で放置後との水接触角の差(Δθ)が少なくとも5°であるオレフィン樹脂系バンパーの表面に、洗浄又は脱脂(ワイピング)処理をすることなく、水性ポリオレフィン系樹脂(A)、水性アクリル系樹脂(B)、顔料(C)、粘性調整剤(D)及び疎水性溶剤(E)を含有し且つペンダントドロップ法による25℃における表面張力が26〜29mN/mの範囲内になるように制御してなる水性プライマーを塗装する方法であって、該水性プライマーを塗装した直後のウエット塗膜(乾燥膜厚で10μm)について、20℃においてズリ速度0.01秒−1の定常流で測定したときの粘度が10,000〜100,000mPa・sの範囲内になるように制御することを特徴とする塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン樹脂系バンパーの表面を洗浄又は脱脂(ワイピング)することなく水性プライマーを塗装しても、ハジキ等の成膜不良を生じることなく塗膜を形成せしめることができる塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン樹脂などのオレフィン樹脂は、軽量でありかつ機械的強度等に優れ、バンパーなどの自動車部品として多く使用されている。所定の工程を経て成形されたオレフィン樹脂系バンパーには、通常、離型剤や帯電防止剤等が混入、付着しており、これらが表面に付着したままプライマーなどの塗料を塗装すると、オレフィン樹脂系バンパーの表面で塗料ハジキが生じたり、塗装後に塗膜が剥離しやすくなってしまうなどの問題が生じる。
【0003】
そこで、塗装の前処理として、通常、アルコール系の有機溶剤等を用いて上記付着物を脱脂除去することが行われている。また、特許文献1では、特定のアルカリ水溶液を用いて、50〜70℃の温度で脱脂洗浄することが提案されている。
【0004】
近年、実際の塗装ラインでは、省スペース、省エネルギー化の観点から、このような脱脂洗浄工程を排除することが求められている。そこで、特許文献2や特許文献3のように、塗料塗装時の塗膜ハジキを改良する手法の適用を試みられている。しかしながら、脱脂洗浄工程を省略すると、特に水性のプライマーなどを塗装した場合に、塗料ハジキが著しく発生し、成膜性が確保できないという問題がある。また、特に射出成型によって得られるオレフィン樹脂系バンパーにウェルド部(溶融樹脂の流動接合部)がある場合には、この問題は顕著である。さらに、射出成型後のオレフィン樹脂系バンパーの保管環境や状態により、バンパー表面に帯電防止剤がブリードアウト、局所集中し、そのような表面では塗料ハジキが特にひどくなる場合があり、その点からも完全に脱脂洗浄工程を省略することは非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−18100号公報
【特許文献2】特開2003−129001号公報
【特許文献3】特開2008−221128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、洗浄又は脱脂(ワイピング)工程を省略しても上記のような問題が生じることなく、オレフィン樹脂系バンパーの表面に成膜性に優れた塗膜を形成せしめることができる塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、帯電防止剤を少なくとも0.4質量%含有するオレフィン樹脂系バンパーであって、その表面の25℃・65%RH環境下での水に対する接触角(θ)が少なくとも20°であり且つウエット環境下で放置後とドライ環境下で放置後との水接触角の差(Δθ)が少なくとも5°であるオレフィン樹脂系バンパーの表面に、洗浄又は脱脂処理をすることなく、水性ポリオレフィン系樹脂(A)、水性アクリル系樹脂(B)、顔料(C)、粘性調整剤(D)及び疎水性溶剤(E)を含有し且つペンダントドロップ法による25℃における表面張力が26〜29mN/mの範囲内になるように制御してなる水性プライ
マーを塗装する方法であって、
該水性プライマーを塗装した直後のウエット塗膜(乾燥膜厚で10μm)について、20℃においてズリ速度0.01秒−1の定常流で測定したときの粘度が10,000〜100,000mPa・sの範囲内になるように制御することを特徴とする塗装方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、洗浄又は脱脂(ワイピング)工程を省略して水性プライマーを塗装しても、ハジキ等の成膜不良を生じることなくオレフィン樹脂系バンパーの表面に成膜性に優れた塗膜を形成せしめることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の方法において、オレフィン樹脂系バンパーは、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセンなどの炭素数2〜10のオレフィン類の1種もしくは2種以上を(共)重合せしめることにより得られる、特にプロピレンを主体とするポリマーを主成分としたホモポリマー又はコポリマーに、必要に応じてその他のポリオレフィン、熱可塑性エラストマー、各種充填材及び/又は帯電防止剤を含む添加剤等を配合してなる組成物を、ブロー成形あるいは射出成形等によって成形することにより得られるものである。
【0011】
本発明の方法において使用するオレフィン樹脂系バンパーは帯電防止剤を少なくとも0.4質量%含有するものである。帯電防止剤としては、通常、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド等の多価アルコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸アミド化合物及びこれらの混合物、ポリオキシエチレンアルキルアミン・高級アルコール混合物等が使用される。かかる帯電防止剤は、オレフィン樹脂系バンパー表面にブリードアウトすることにより帯電防止性を発揮するものであり、オレフィン樹脂系バンパー表面は、通常、帯電防止剤等が不均一に付着した状態にある。
【0012】
本発明が塗装の対象とするオレフィン樹脂系バンパーは、その表面の25℃・65%RH環境下での水に対する接触角(θ)が少なくとも20°であり且つウエット環境下で放置後とドライ環境下で放置後との水接触角の差(Δθ)が少なくとも5°、特に少なくとも8°であって、塗料塗装時に塗膜ハジキが発生しやすいものである。
【0013】
オレフィン樹脂系バンパーの表面は、湿度が23℃・80%RH以上であるウエット環境下に放置されると、表面に付着した帯電防止剤が保水/保湿されている状態、或いは帯電防止剤が未付着で結露している状態になり、他方、湿度が23℃・60%RH以下であるドライ環境下に放置されると、オレフィン樹脂系バンパーの表面は、特にウエルド部等に見られる、付着帯電防止剤濃度が高く乾燥している状態、或いは帯電防止剤が未付着で乾燥している状態になる。
【0014】
本明細書において、水に対する接触角は、25℃・65%RH雰囲気にて、塗膜面に脱イオン水をマイクロシリンジを用いて1滴(約15μl)滴下し、60秒後の水滴の接触角を「コンタクトアングルメータCA−X150型」(商品名、協和化学(株)製)にて測定したものである。
【0015】
本発明では、上記のオレフィン樹脂系バンパー表面に、洗浄又は脱脂(ワイピング)処理をすることなく、後述する水性プライマーが塗装される。
【0016】
本発明において使用される水性プライマーは、水性ポリオレフィン系樹脂(A)及び水
性アクリル系樹脂(B)を皮膜形成成分として含んでなる水性塗料であり、両樹脂の合計固形分量を基準にして、樹脂(A)を通常10〜90重量%、好ましくは40〜80重量%、さらに好ましくは40〜60重量%、そして樹脂(B)を通常10〜90重量%、好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは40〜60重量%となるような割合で含有するのが形成塗膜の付着性、耐水性等の点から適当である。該水性プライマーは、これら両樹脂を水性媒体中に溶解又は分散せしめることにより調製することができる。
【0017】
上記水性ポリオレフィン系樹脂(A)としては、オレフィン系重合体を主骨格とし、その分子中にカルボキシル基などの親水性基を導入してなる樹脂を使用することができる。具体的には、重合性不飽和ジカルボン酸又はその無水物で変性されたオレフィン系重合体が包含され、例えば、オレフィン系重合体に重合性不飽和ジカルボン酸又はその無水物を既知の方法によりグラフト重合することにより得られたものが挙げられる。
【0018】
変性前のオレフィン系重合体としては、例えば、エチレン及びプロピレンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン系単量体を(共)重合してなる重合体、又はこれらのオレフィン系単量体とその他の単量体(例えば、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリルなど)とを共重合してなる共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体などが挙げられる。これらのオレフィン系重合体は、一般に30000〜150000、特に50000〜120000、さらに特に60000〜110000範囲内の重量平均分子量を有していることが好ましい。
【0019】
オレフィン系重合体の変性に使用される重合性不飽和ジカルボン酸又はその無水物は、1分子中に1個の重合性不飽和結合と少なくとも2個のカルボキシル基又はその酸無水基を有する化合物であり、例えば、マレイン酸又はその無水物、イタコン酸又はその無水物、シトラコン酸又はその無水物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0020】
オレフィン系重合体への重合性不飽和ジカルボン酸又はその無水物のグラフト重合反応はそれ自体既知の方法により行なうことができる。その際の重合性不飽和ジカルボン酸又はその無水物の使用割合は、得られる変性されたポリオレフィン系樹脂の酸価が通常10〜60mgKOH/g、特に20〜50mgKOH/g、さらに特に20〜40mgKOH/gの範囲内となるようなものであることが好ましい。
【0021】
また、オレフィン系重合体は塩素化されていてもよく、この塩素化はグラフト重合の前又は後に行なうことができる。その塩素化度(塩素含有率)は、グラフト重合前のオレフィン系重合体を基準にして、一般に0〜30重量%、特に15〜25重量%、さらに特に15〜22重量%の範囲内が好ましい。
【0022】
また、上記オレフィン系重合体は、必要に応じて、さらにアクリル変性されていてもよく、該アクリル変性に供し得る重合性不飽和モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステル;(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリル系モノマー;さらにスチレンなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリル又はメタクリルを、そして「(メタ)アクリレート」はアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0024】
上記アクリル変性は、例えば、まずオレフィン系重合体中のカルボキシル基に対して反応性を有する、例えば(メタ)アクリル酸グリシジルなどを反応させてオレフィン系重合体に重合性不飽和基を導入し、次いで該重合性不飽和基に1種もしくはそれ以上の他の重合性不飽和モノマーを共重合させることによりおこなうことができる。アクリル変性する場合の上記重合性不飽和モノマーの使用量は、他成分との相溶性や形成塗膜の付着性などの観点から、得られるポリオレフィン系樹脂の固形分重量を基準にして30重量%以下、好ましくは0.05〜25重量%、さらに好ましくは0.1〜20重量%の範囲内とすることが望ましい。
【0025】
また、得られる水性ポリオレフィン系樹脂は、その水溶化又は水分散化を容易にするために、導入されたカルボキシル基の一部又は全部をアミン化合物で中和することが好ましい。中和に使用しうるアミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの3級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、モルホリンなどの2級アミン;プロピルアミン、エタノールアミンなどの1級アミンなどが挙げられる。水溶化又は水分散化のために、これらのアミン化合物による中和と共に、界面活性剤を併用することも可能である。
【0026】
水性アクリル系樹脂(B)としては、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー等の親水性基含有重合性不飽和モノマー及びその少なくとも一部がアクリル系モノマーである他の重合性不飽和モノマーからなるモノマー混合物を共重合してなる、重量平均分子量が一般に5000〜100000、好ましくは10000〜90000、さらに好ましくは20000〜80000の範囲内にある水溶性アクリル樹脂、特にカルボキシル基含有アクリル樹脂、重量平均分子量が50000以上、好ましくは75000以上、さらに好ましくは100000以上のアクリル樹脂エマルション、特にカルボキシル基含有アクリル樹脂エマルションなどが挙げられる。
【0027】
該カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びこのうちのジカルボン酸のハーフモノアルキルエステル化物などが挙げられ、また、これら以外の親水性基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリアルキレン鎖含有重合性不飽和モノマーなどが挙げられる。
【0028】
上記その他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−、i−、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の炭素数1〜24のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−もしくは3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
上記モノマー混合物の共重合は、それ自体既知の方法で行うことができ、例えば、水溶性アクリル樹脂を望む場合には溶液重合法などによって、また、アクリル樹脂エマルショ
ンを望む場合には乳化重合法などによって行なうことができる。
【0030】
水性アクリル系樹脂(B)が乳化重合によって得られるアクリル樹脂エマルションである場合には、水及び乳化剤の存在下にモノマー混合物を多段階で乳化重合して得られる多層構造粒子状のエマルションであってもよい。
【0031】
本発明で用いる水性アクリル系樹脂(B)としては、形成塗膜の耐ハジキ性や水性ポリオレフィン系樹脂(A)との相溶性等の点から、特にガラス転移温度(Tg)が10℃以下であるアクリル樹脂エマルションが好適に使用できる。
【0032】
水性アクリル系樹脂(B)のカルボキシル基は、必要に応じて、塩基性物質を用いて中和することができる。該塩基性物質としては、水溶性のものが好ましく、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モルホリン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノールなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
本発明において使用される水性プライマーは顔料(C)を含有する。顔料(C)としては、着色顔料、体質顔料、導電性顔料などを使用することができる。着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、ベンガラ、アルミペースト、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料などが挙げられ、体質顔料としては、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、亜鉛華(酸化亜鉛)などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0034】
上記導電性顔料としては、形成される塗膜に導電性を付与することができるものであれば特に制限はなく使用することができ、粒子状、フレーク状、ファイバー(ウィスカー含む)状などのいずれの形状のものであってもよく、例えば、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンマイクロコイルなどの導電性カーボン;銀、ニッケル、銅、グラファイト、アルミニウムなどの金属粉が挙げられる。さらに、アンチモンがドープされた酸化錫、リンがドープされた酸化錫、酸化錫/アンチモンで表面被覆された針状酸化チタン、酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛、インジウム錫オキシド、カーボンやグラファイトのウィスカー表面に酸化錫などを被覆した顔料;フレーク状のマイカ表面に酸化錫やアンチモンドープ酸化錫、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、リンドープ酸化錫及び酸化ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性金属酸化物を被覆した顔料;二酸化チタン粒子表面に酸化錫及びリンを含む導電性を有する顔料などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0035】
これらのうち導電性カーボンが用いることが好適であり、特に、BET比表面積が400m/g以上、好ましくは500m/g以上、さらに好ましくは600m/g以上である導電性カーボンを好適に使用することができる。
【0036】
本発明において使用される水性プライマーは、さらに、粘性調整剤(D)及び疎水性溶剤(E)を含有する。粘性調整剤(D)としては、例えば、シリカ系微粉末、ベントナイト系調整剤、硫酸バリウム微粒化粉末、ポリアミド系粘性調整剤、有機樹脂微粒子粘性調整剤、ジウレア系粘性調整剤、ウレタン会合型粘性調整剤、アクリル膨潤型であるポリアクリル酸系粘性調整剤等を挙げることができ、これらのそれぞれ単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、疎水性溶剤(E)としては、例えば、キシレン、ヘプタン、メチルイソブチルケトン、2−エチルヘキシルアルコール、オクタノール、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これら疎水性溶剤には必要に応じて親水性の有機溶剤を適宜併用することができる。該親水性の有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等を挙げることができる。
【0038】
本発明において使用される水性プライマーには、必要に応じて、上記水性ポリオレフィン系樹脂(A)及び水性アクリル系樹脂(B)以外の水性樹脂、さらには架橋剤、硬化触媒、消泡剤などの通常の塗料添加剤を適宜選択して配合することができる。
【0039】
水性プライマーは、塗装時における固形分含有率を通常30重量%以上、好ましくは35〜45重量%とし、且つさらに、好ましくはその粘度を20〜40秒/フォードカップ#4/20℃の範囲内に調整してから、オレフィン樹脂系バンパーに、例えば、スプレー塗装、エアレススプレー塗装、刷毛塗装、浸漬塗装などの方法により塗装することができる。水性プライマーの塗装膜厚は、硬化塗膜に基づいて、通常5〜30μm、特に7〜25μm、さらに特に7〜20μmの範囲内であることが好ましい。水性プライマーの塗膜は、例えば、室温で1〜60分間セッティングし又は40〜80℃程度の温度で1〜60分間予備加熱することができ、あるいは約60〜約140℃、好ましくは約70〜約120℃の温度で20〜40分間程度加熱して硬化させることができる。
【0040】
本発明では、水性プライマーを塗装した直後のウエット塗膜(乾燥膜厚で10μm)について、20℃においてズリ速度0.01秒−1の定常流で測定したときの粘度が10,000〜100,000mPa・s、好ましくは10,000〜80,000mPa・sの範囲内になるように制御する。この範囲を外れると、塗液とハジキ核との間に発生する拡張力による塗液の流動を抑制することが困難となったり、上塗り塗装後の塗面の平滑性が低下し易くなるので好ましくない。
【0041】
上記のズリ速度0.01秒−1の定常流で測定したときの粘度の値は、公知の各種測定機器を用いて測定することができる。該機器としては、例えばHAAKE社製の粘弾性測定器「レオメータRS150」を挙げることができる。
【0042】
上記粘度の制御は、塗装する水性プライマーの組成変更及び/又は塗装条件の変更により行うことができる。例えば、塗装する水性プライマーの組成変更は、粘性調整剤種及び/又は量の選択、有機溶剤種及び/又は量の選択ならびに塗料の顔料濃度の調整から選ばれる少なくとも一つの手段により行うことができる。
【0043】
また、本発明では、塗装する水性プライマーのペンダントドロップ法による25℃における表面張力が29mN/m以下、特に26〜29mN/mの範囲内であることが望ましい。該表面張力が29mN/mを超えると、塗液とハジキ核との間で生じる拡張力が大きくなるためハジキが発生しやすくなり、一方、該表面張力が26mN/mより小さくなると、さらに小さくなるに伴い、得られる硬化塗膜の耐水性やノンサンドリコート付着性が低下する恐れがあるので好ましくない。
【0044】
ペンダントドロップ法による表面張力は、公知の各種測定機を用いて測定することができる。本発明においては、協和界面化学社製の「界面張力計PD−X型」を用いて、25℃の室内で、塗装する水性塗料の液滴を作製し、作製20秒後の形状を測定して表面張力
を求める。
【0045】
塗装する水性プライマーの表面張力を前記の範囲内に制御する方法としては、水性プライマーの組成を調整する方法、例えば、水の添加や有機溶剤の添加による水性媒体の組成変更、表面調整剤の添加などによって行うことができる。表面張力は、一般に水を添加することによって上昇し、そして有機溶剤の種類によって影響の程度は異なるが、有機溶剤を添加することによって低下する。表面張力に対する表面調整剤の種類、量の影響は大きく、表面調整剤を選定し、添加することにより効果的に表面張力を調整することができる。
【0046】
本発明の方法により水性プライマーが塗装された塗面には、上塗り塗料を静電塗装することができる。上塗り塗料としては、着色塗料を単独で用いて塗装してもよいし、或いは該着色塗料をベース塗料として用いてベース塗料及びクリヤー塗料を順次塗装してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、「部」及び「%」は特に断りのない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0048】
水性プライマー塗料の製造
製造例1〜10
表1及び表2に示す配合組成で各成分を常法に従って配合して混合分散し、固形分が35%となるように脱イオン水で希釈して、各水性プライマー(1)〜(10)を得た。
【0049】
表1及び表2における各成分の配合量は、固形分質量部による表示である。各水性プライマーのペンダントドロップ法による表面張力の測定結果も表1及び表2に記載する。
【0050】
表1及び表2における(注1)〜(注11)は下記の意味を有する。
(注1)水性ポリオレフィン系樹脂(A−1): 「スーパークロンF723」、日本製紙ケミカル社製、商品名、塩素化ポリオレフィンの水性分散体、固形分30%。
(注2)水性ポリオレフィン系樹脂(A−2): 「ハードレンEH−801」、東洋化成工業社製、商品名、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィンの水性分散体、固形分30%。
(注3)水性アクリル系樹脂(B−1): 「ボンコートAC−501」、DIC社製、商品名、アクリル樹脂エマルション、固形分60%、ガラス転移温度:0℃。
(注4)導電性顔料(C−1): 「バルカンXC72」、キャボットスペシャルティーケミカルズ株式会社製、商品名、導電性カーボンブラック顔料。
(注5)導電性顔料(C−2): 「ケッチェンブラックEC600J」、ライオンアクゾ株式会社製、商品名、導電性カーボンブラック顔料。
(注6)「JR−806」:テイカ社製、商品名、チタン白。
(注7)粘性調整剤(D−1): 「ASE−60」、ロームアンドハース社製、商品名、アルカリ膨潤型粘性調整剤。
(注8)粘性調整剤(D−2):v「SN−661」、サンノプコ社製、商品名、ウレタン会合型粘性調整剤。
(注9)粘性調整剤(D−3): 「DSX3290」、コグニス社製、商品名、ウレタン会合型粘性調整剤。
(注10)「BYK307」: BYK CHEMIE INTERNATIONAL GMBH社製、商品名、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン、表面調整剤。
(注11)「BYK333」: BYK CHEMIE INTERNATIONAL GMBH社製、商品名、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン、表面調整剤。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
塗装
実施例1〜9及び比較例1〜7
被塗物1〜3に上記のとおり製造した各水性プライマーを、表3に示す組み合わせ及び塗装条件で、乾燥膜厚で約10μmになるようにスプレー塗装した。塗装した直後のウエット塗膜について、20℃においてズリ速度0.01秒−1の定常流で測定したときの粘度をHAAKE社製の粘弾性測定器「レオメータRS150」を用いて測定した。
【0054】
上記のとおり、各水性プライマーを塗装し、次いで60℃で3分間プレヒートした後、その上に着色ベースコート塗料として「WBC#713T」(関西ペイント社製、商品名、水性着色ベースコート塗料)を乾燥膜厚で約15μmとなるように静電塗装し、60℃で3分間プレヒートした後、クリヤー塗料として「ソフレックス#520クリヤー」(関西ペイント社製、商品名、アクリルウレタン系溶剤型クリヤー塗料)を乾燥膜厚で約30μmとなるように静電塗装して、120℃で30分間加熱乾燥させて各試験塗装物を作製
した。
【0055】
上記のとおり作製した各試験塗装物を下記の性能試験に供した。その結果を表3に併せて示す。
【0056】
なお、被塗物1〜3は下記のとおりである。
(1)被塗物1: バンパーに成型加工したポリプロピレン(表面に長鎖脂肪酸モノグリセリドと長鎖脂肪酸アミドが存在、25℃・65%RH環境下でのθが22°、23℃・60%RH環境下で3日間放置後のθが38°で、23℃・80%RH環境下で3日間放置後のθが33°であり、Δθが5°)。
(2)被塗物2: バンパーに成型加工したポリプロピレン(表面に3級アルカノールアミドと脂肪酸モノグリセリドが存在、25℃・65%RH環境下でのθが40°、23℃・60%RH環境下で3日間放置後のθが42°で、23℃・80%RH環境下で3日間放置後のθが32°であり、Δθが10°)。
(3)被塗物3: バンパーに成型加工したポリプロピレン(イソプロパノールで脱脂処理済、25℃・65%RH環境下でのθが96°、23℃・60%RH環境下で3日間放置後のθが96°で、23℃・92%RH環境下で3日間放置後のθが92°であり、Δθが4°)。
【0057】
【表3】

【0058】
評価試験
(*1)耐ハジキ性: 前記のとおり各被塗物面に水性プライマーを塗装し、60℃で3分間乾燥させた後の塗面状態を評価した。
○:ハジキなし。
×:ハジキあり。
(*2)初期付着性: 上塗り塗装後の各試験塗装物の塗膜面に素地に達するようにカッターで切り込み線を入れ、大きさ2mm×2mmのマス目を100個作り、その表面に粘着セロハンテープを貼着し、20℃においてそれを急激に剥離した後のマス目の残存塗膜数を調べ、次の基準で評価した。
○は100個(剥離なし)。
△は99〜51個。
×は50個以下。
(*3)耐水性: 上塗り塗装後の各試験塗装物の一部を切り取り、40℃の温水に10日間浸漬し、引き上げて乾燥してから、上記の初期付着性試験と同様にして付着性試験を行ない、残存塗膜数を調べ、上記の基準で評価した。また、引き上げ後の塗装面を目視で観察し、次の基準で評価した。
○はブリスター発生なし。
△はブリスター発生は殆どないがツヤビケしている。
×はブリスター発生を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電防止剤を少なくとも0.4質量%含有するオレフィン樹脂系バンパーであって、その表面の25℃・65%RH環境下での水に対する接触角(θ)が少なくとも20°であり且つウエット環境下で放置後とドライ環境下で放置後との水接触角の差(Δθ)が少なくとも5°であるオレフィン樹脂系バンパーの表面に、洗浄又は脱脂(ワイピング)処理をすることなく、水性ポリオレフィン系樹脂(A)、水性アクリル系樹脂(B)、顔料(C)、粘性調整剤(D)及び疎水性溶剤(E)を含有し且つペンダントドロップ法による25℃における表面張力が26〜29mN/mの範囲内になるように制御してなる水性プライマーを塗装する方法であって、
該水性プライマーを塗装した直後のウエット塗膜(乾燥膜厚で10μm)について、20℃においてズリ速度0.01秒−1の定常流で測定したときの粘度が10,000〜100,000mPa・sの範囲内になるように制御することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
該粘度及び表面張力の制御を、塗装する水性プライマーの組成変更及び/又は塗装条件の変更により行なう請求項1記載の塗装方法。

【公開番号】特開2010−234281(P2010−234281A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85603(P2009−85603)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】