塗装材の耐候性試験方法
【課題】自然環境下での塗膜の劣化により近い劣化形態を短期間でかつ簡便に再現することができる塗装材の耐候性試験方法を提供する。
【解決手段】基材の表面に塗膜を有する塗装材の耐候性を試験する方法であって、塗装材の表面に0.001〜10w/v%の濃度の硝酸イオンを含む試験水溶液を付着させるA工程と、波長300〜400nmの範囲における照度が20〜120W/m2である試験光を1〜500時間照射するB工程とを有し、A工程及びB工程からなるサイクルを2回以上繰り返すことを特徴とする塗装材の耐候性試験方法である。
【解決手段】基材の表面に塗膜を有する塗装材の耐候性を試験する方法であって、塗装材の表面に0.001〜10w/v%の濃度の硝酸イオンを含む試験水溶液を付着させるA工程と、波長300〜400nmの範囲における照度が20〜120W/m2である試験光を1〜500時間照射するB工程とを有し、A工程及びB工程からなるサイクルを2回以上繰り返すことを特徴とする塗装材の耐候性試験方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材の表面に塗膜を有した塗装材の耐候性試験方法に関し、詳しくは、自然環境下での塗膜の劣化に近い劣化形態を、短期間でかつ簡便に再現することができる塗装材の耐候性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材は、その表面の美しさに加えて、軽量であって加工性や成形性に優れており、しかも、その表面に酸化皮膜や塗膜等を形成せしめると耐蝕性が付与されることから、各種建材や車両用部材をはじめ、航空機やスポーツ用品等に至るまで幅広く利用されている。
【0003】
ところが、アルミニウム材の表面に塗膜を形成したような塗装材が屋外で使用されると、太陽光からの熱や紫外線、大気中の汚染物質等により、塗膜成分が分解して塗膜の膜厚が減少したり、塗膜にひび割れや亀裂が生じることがある。このような塗膜の劣化は、塗装材の光沢度や耐蝕性を低下させることになるため、塗装材を得る上で、自然環境に曝されたときの耐久性、すなわち塗装材の耐候性を予め評価しておくことが必要になる。
【0004】
これまで主に耐候性を試験する方法として、キセノンウエザーメーターやサンシャインウエザーメーター等の各種促進耐候性試験機を用いた方法が採用されている。しかしながら、これらの試験機を用いた方法は、光の照射、乾燥、湿潤等の組み合わせからなるものの、自然環境に存在する腐食性物質の影響が排除されているため、塗装材を屋外で使用する実際の環境下での塗膜の劣化を完全に再現することができない。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、プラスチック等の有機材を表面に備えた試験片の耐候性試験方法が記載されている。すなわち、紫外線を含む光線を試験片に照射する工程と、試験片の表面を洗浄する工程と、NaCl、MgCl2、H2SO4、NaOH等の水溶液に試験片を浸漬する工程と、試験片の表面に結露を形成させる工程と、試験片を高温高湿雰囲気に曝す工程とからなり、これらの工程を適宜繰り返して行う耐候性試験方法である。しかしながら、この試験方法は、手順が煩雑であり、また、蒸し工程(試験片の表面に結露を生じさせる工程)が高温高湿であって、更には紫外線強度が数100W/m2とエネルギーが大きいことから、実際の使用環境下での劣化に近い形態を再現できるとは言い難い。特に、高温高湿雰囲気中に曝す工程は実際の使用環境にない劣化のさせ方であることから、陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材を基材とし、その表面に電着塗装によって塗膜を形成したような塗装材の耐候性試験には不向きである。一方、特許文献2には、プラスチックの表面に生じる塵埃付着等による汚れ易さを短時間で測定するために、光源を照射しながら、実際の使用地域で回収した汚染物質を付着させて試験する方法が開示されている。しかしながら、この試験方法は、やはり手順が煩雑であり、また、汚染物質を自然界から採取するため試験結果の再現性が得にくい点で問題があり、やはり陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材の表面に電着塗装で塗膜を形成した塗装材の耐候性試験には向かない。
【特許文献1】特開平3−17533号公報
【特許文献2】特開平8−304264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者等は、自然環境下での塗膜の劣化により近い劣化形態を再現することができる塗装材の耐候性試験方法について鋭意検討した結果、特定濃度の硝酸イオンを含んだ試験水溶液を付着させる工程と、紫外域における特定照度の試験光を照射する工程とを行うことで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、自然環境下での塗膜の劣化により近い劣化形態を短期間でかつ簡便に再現することができる塗装材の耐候性試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、基材の表面に塗膜を有する塗装材の耐候性を試験する方法であって、塗装材の表面に0.001〜10w/v%の濃度の硝酸イオンを含む試験水溶液を付着させるA工程と、波長300〜400nmの範囲における照度が20〜120W/m2である試験光を1〜500時間照射するB工程とを有し、A工程及びB工程からなるサイクルを2回以上繰り返すことを特徴とする塗装材の耐候性試験方法である。
【0009】
本発明における耐候性試験方法では、塗装材の表面に0.001〜10w/v%、好ましくは0.1〜2w/v%の濃度の硝酸イオンを含む試験水溶液を付着させるA工程を含む。硝酸イオン濃度が上記範囲内であれば、酸性雨の原因物質であるNOxの値に極めて近い環境を再現することができる。すなわち、硝酸イオン濃度が0.001w/v%より低いと、大気汚染物質として検出されるNOxの最小値(通常5〜10ppm)より少なくなってしまう。反対に10w/v%を超えると、ごく短時間で塗膜が剥離してしまうおそれがあり、実際の使用環境からかけ離れてしまう。硝酸イオンとして試験水溶液に含めることができるものとしては、例えば硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸鉄、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸カルシウム等を挙げることができる。
【0010】
また、A工程で使用する試験水溶液には、好ましくは硝酸イオンのほかに、0.001〜10w/v%の濃度の硫酸イオン、又は0.01〜20w/v%の濃度の塩素イオンを含めるようにするのがよく、或いはこれらの両方を含めるようにするのがよい。硫酸イオンは、SOxとして酸性雨の原因物質に考えられるものであり、上記濃度で含有させることでより実際の使用環境により近づけることができる。0.001w/v%より低いと、大気汚染物質として検出されるSOxの最小値(通常5〜10ppm)より少なくなってしまい、反対に10w/v%を超えるとごく短時間で塗膜が剥離してしまうおそれがある。硫酸イオンとして試験水溶液に含めることができるものとしては、例えば硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸銅等を挙げることができる。また、海岸隣接地等により近い環境を再現するためには、上記濃度範囲で塩素イオンを加えるようにしてもよい。塩素イオンとして試験水溶液に含めることができるものとしては、例えば塩酸、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化バリウム、塩化第二銅、塩化鉄等を挙げることができる。
【0011】
塗装材の表面に試験水溶液を付着させる方法については特に制限はなく、通常行われる方法、例えば噴霧処理、塗布処理、浸漬処理、滴下処理等の方法を採用することができる。
【0012】
試験水溶液を付着させた塗装材は、次いで、B工程において波長300〜400nmの範囲における照度が20〜120W/m2である試験光を1〜500時間照射する。B工程で使用する試験光の波長300〜400nmの範囲における照度が上記範囲内であれば、実際の使用環境での光の影響に近い劣化の形態を再現することができる。上記波長での照度が20W/m2よりも少ないと、劣化の再現に時間がかかりすぎて好ましくない。反対に120W/m2を超えると、劣化の速度が速すぎて自然環境下での塗膜の劣化に近い劣化形態が再現できなくなる。なお、波長400〜800nmの範囲における照度については特に制限はないが、実際の屋外での使用環境により近づけることができる観点から、好ましくは25〜80W/m2であるのがよい。
【0013】
B工程の塗装材に試験光を照射する時間については、1時間より短いと光(特に紫外線)による劣化の影響が十分に発現しないおそれがあり、反対に一度に照射する時間が500時間より長くなると、試験光による劣化の影響が大きくなり望ましくない。
【0014】
B工程で用いる試験光について、上述した条件の照度を備えたものであれば特に制限はないが、例えばサンシャインカーボンアーク、紫外線カーボンアーク、メタルハライドアークランプ、キセノンアークランプ等から得られる光のほか、殺菌灯、ブラックライト、紫外線蛍光灯、水銀灯等の各種蛍光灯から得られる光を具体例として挙げることができる。
【0015】
そして、上記B工程終了後の塗装材からその耐候性を判断してもよいが、本発明の耐候性試験方法では引き続きA工程及びB工程を繰り返して行う。すなわち、上記A工程及びB工程からなる試験を1サイクルとして、このサイクルを2回以上、好ましくは3サイクル以上繰り返すことで、実際の使用環境により近づけた劣化の形態を再現することができる。試験終了後の耐候性の評価については、例えば塗装材の表面に現れたひび割れ、クラック、光沢度の変化、塗膜の変色、塗膜厚の減耗等に基づいて判断すればよい。
【0016】
また、本発明において、A工程及びB工程のそれぞれの終了後、純水等で塗装材の表面を洗浄したり、純水を染み込ませたガーゼ等で拭くようにしてもよい。そして、洗浄等を行った後は、塗装材を10〜35℃の恒温槽に入れて乾燥させたり、あるいは室温放置により乾燥させるようにしてもよい。
【0017】
本発明の耐候性試験方法は、金属、樹脂等(アルマイト処理や化成処理等の各種表面処理されたものを含む)からなる基材の表面に塗膜を形成した塗装材であれば、その用途や材質等に特に制限されることなく適用することができ、例えば、家屋やビル等で用いられる窓枠、アルミニウムサッシ、外壁材、カーテンウォール、カーポート、門扉等の各種建材をはじめ、自動車、自転車、電車等で用いられる車両用部材や航空機用部材のほか、ゴール枠やバット等のスポーツ関連品等に用いられる種々の塗装材が、自然環境に曝されたときの耐久性を評価することができる。また、塗膜についても特に制限はなく、例えば電着塗装、静電塗装、浸漬塗装、ロールコート、吹付塗装等の手段によって形成されたものを例示することができる。なかでも、本発明の耐候性試験方法は、試験光の照射強度が20〜120W/m2と比較的穏やかであることから、基材が陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材であって、電着塗装によって形成されたアクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等を主成分に含む塗膜を有した塗装材の耐候性を評価する場合に好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸性雨の原因物質であるNOx等の塗膜劣化を引き起こす因子を含んだ過酷な実使用環境に近似した劣化形態を再現することができ、実際に屋外等で使用して評価する場合と比べてはるかに短時間でかつ簡便に塗装材の耐候性を評価することができる。また、本発明の試験方法によれば、試験水溶液を使用する試験と、試験光を照射する試験とを別工程に分離しているため、それぞれの工程の影響を受けずに各工程に適した試験環境を準備することができて効率良く試験を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0020】
以下に説明するようにして2種類の塗装材A、Bを用意した。
先ず、150mm×70mm×厚さ2mmのアルミニウム板(A1100P-H24)の表面に、15%硫酸溶液中を用いて陽極で直流電解して、膜厚9μmの陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材(アルマイト処理済みアルミニウム材)を2枚準備した。次いで、アクリル−メラミン樹脂系の電着塗料液(ハニー化成(株)社製:ハニーヒル(登録商標)SX−200)を用いて、液温20℃、直流電源170Vで120秒の条件により、膜厚7μmの電着塗膜を有した塗装材Aを得た。また、上記の電着塗料液に比べてアクリル樹脂の架橋密度が上昇していると共に光安定剤及び紫外線吸収剤が添加された電着塗料液電着塗料液(ハニー化成(株)社製:ハニーヒル(登録商標)LS−100)を用いた以外は塗装材Aの場合と同様にして、膜厚7μmの電着塗膜を有した塗装材Bを得た。
【0021】
次に、上記で準備した塗装材A及び塗装材Bについて、以下の方法により耐候性試験を行った。先ず、A工程として、塩化ナトリウム50g及び60%硝酸33.3gを純水1000Lに溶かした20±1℃の試験水溶液(塩化ナトリウム5w/v%、硝酸2w/v%)に塗装材A及び塗装材Bを2時間浸漬させた。次いで、試験水溶液から塗装材A、Bを取り出し、純水で濡らした布で表面に付着した試験水溶液を拭き取り、これらをスガ試験機株式会社製キセノンロングライフウエザーメーターWEL−75XS−HC.B.Ec(水冷7.5kWキセノンアーク灯式耐候性試験機)に取り付けて、150時間光を照射するB工程を行った。この試験機から発せられる光は、波長300〜400nmの照度が60W/m2(塗装材表面への放射露光量)であり、塗装材表面の積算放射露光量は1400kJ/m2/hrであった。また、B工程では、60分間の光の照射中に塗装材A及び塗装材Bの表面に水を9分間噴霧するようにした。なお、試験機内の温度は63±3℃(ブラックパネル温度)であり、試験機内の湿度は50±5%RHであった。
【0022】
B工程終了後、再び上記と同じ内容でA工程及びB工程を行い、A工程及びB工程を1サイクルとして、このサイクルを繰り返した。この際、1サイクル終了ごとに、B工程後の塗装材の表面を光学顕微鏡にて観察し、塗膜表面状態(クラック、あれ、しみ等)に差異が認められるまで上記サイクルを繰り返すようにした。また、B工程が終了したごとに、塗装材の表面の光沢保持率及び塗膜の膜厚減耗量を次のようにして測定した。光沢保持率は、耐候性試験前の塗装材の60°鏡面反射率(r0)とB工程後の60°鏡面反射率(r1)との比から求め、r1/r0×100(%)で表した。膜厚減耗量は、耐候性試験前の塗装材の塗膜の膜厚を基準にして、B工程終了後の膜厚から減少量を求めた。ここで、塗膜の膜厚は、渦電流式膜厚計(Fisher製ISOSCOPE)を用いて測定した。
【0023】
その結果、17サイクル終了後の塗装材Aの表面が白っぽくなり、光沢度が著しく低下した状態であることが確認された。そこで、走査電子顕微鏡(日本電子(株)社製JSM-5800LVC:倍率1000倍)を用いて塗膜の表面を撮影した。図1にそのSEM写真を示す。また、図12は、実際に一般住宅で7年間使用されたアルミサッシの一部を採取して、その塗膜の表面の顕微鏡写真である。両者を比較して、塗膜表面に発生した割れの状況が極めて近いことが分かり、実施例1に係る耐候性試験方法が実際の使用環境に極めて近い劣化形態を短時間に再現できたことが確認された。また、塗装材Bについては、19サイクル終了後に塗装材Aと同様の塗膜表面変化が現れ、図12に示したようなアルミサッシの割れに近い劣化が再現された。
【0024】
また、図2と図3に、本実施例1に係る耐候性試験での光沢保持率の変化を表すグラフ(図2)と膜厚減耗量を示すグラフ(図3)を示す。横軸の照射時間はB工程での光の照射時間の積算値を表す。これらのグラフからも明らかなように、本実施例1の耐候性試験は、短時間でかつ簡便に実際の使用状況に近い塗装材の劣化を再現できたことが分かる。
【実施例2】
【0025】
B工程を次のようにして行った以外は実施例1と同様にして、A工程及びB工程からなる耐候性試験を行った。JIS H 8602に規定されるサンシャインカーボン耐候性試験条件に従い、サンシャインウエザーメーター試験機(スガ試験機製)を用いて、波長300nm〜400nmの照度が80W/m2であるカーボンアークを150時間照射した。この際、60分間の光の照射中に塗装材A及び塗装材Bの表面に水を12分間噴霧するようにした。なお、試験機内の温度は63℃(ブラックパネル温度)であり、試験機内の湿度は60%RHであった。
【0026】
本実施例2では、20サイクル終了後に塗装材Aの表面が白っぽくなり、光沢度が著しく低下した状態であることが確認された。図4に20サイクル終了後の塗装材Aの顕微鏡写真を示す。図12に示した実使用環境下での塗装材の塗膜の割れに極めて近いことが分かり、実施例2に係る耐候性試験方法が実際の使用環境に極めて近い劣化形態を短時間に再現できたことが確認された。また、塗装材Bについては、20サイクル終了後に塗装材Aと同様の塗膜表面変化が現れ、図12に示したようなアルミサッシの割れに近い劣化が再現された。
【0027】
また、図5と図6に、本実施例2に係る耐候性試験での光沢保持率の変化を表すグラフ(図5)と膜厚減耗量を示すグラフ(図6)を示す。これらのグラフから明らかなように、本実施例2の耐候性試験は、短時間でかつ簡便に実際の使用状況に近い塗装材の劣化を再現できたことが分かる。
【実施例3】
【0028】
A工程で使用した試験用水溶液を、60%硝酸33.3gを純水1000Lに溶かした20±1℃の試験水溶液(硝酸2w/v%)にして、また、B工程を次のようにして行った以外は実施例1と同様にして、耐候性試験を行った。すなわち、B工程は、JIS H 8602に規定されるサンシャインカーボン耐候性試験条件に従い、サンシャインウエザーメーター試験機(スガ試験機製)を用いて、波長300nm〜400nmの照度が75W/m2であるカーボンアークを150時間照射した。この際、60分間の光の照射中に塗装材A及び塗装材Bの表面に水を12分間噴霧するようにした。なお、試験機内の温度は63℃(ブラックパネル温度)であり、試験機内の湿度は60%RHであった。
【0029】
本実施例3では、20サイクル終了後の塗装材Aの表面が白っぽくなり、光沢度が著しく低下した状態であることが確認された。この塗装材Aの塗膜表面の顕微鏡写真を撮影したところ、図12に示した実使用環境下での塗装材の塗膜の割れに極めて近いことが分かり、実施例3に係る耐候性試験方法が実際の使用環境に極めて近い劣化形態を短時間に再現できたことが確認された。また、塗装材Bについては、20サイクル終了後に塗装材Aと同様の塗膜表面変化が現れ、図12に示したようなアルミサッシの割れに近い劣化が再現された。
【0030】
また、図7と図8に、本実施例3に係る耐候性試験での光沢保持率の変化を表すグラフ(図7)と膜厚減耗量を示すグラフ(図8)を示す。これらのグラフから明らかなように、本実施例3の耐候性試験は、短時間でかつ簡便に実際の使用状況に近い塗装材の劣化を再現できたことが分かる。
【0031】
[比較例1]
サンシャインカーボン耐候性試験機(JIS B7753)を用いて、実施例1で用意したものと同じ塗装材A及び塗装材Bを次のようにしてB工程のみからなる耐候性試験を行った。JIS H 8602に規定されるサンシャインカーボン耐候性試験条件に従い、波長300nm〜400nmの照度が80W/m2であるカーボンアークを150時間照射した。この際、60分間の光の照射中に塗装材A、Bの表面に水を12分間噴霧するようにした。なお、試験機内の温度は63℃(ブラックパネル温度)であり、試験機内の湿度は60%RHであった。
【0032】
B工程が終了した後、再度塗装材A、Bをサンシャインカーボン耐候性試験機にセットして、上記B工程を繰り返すようにした。B工程を合計30回実施したところで、塗装材Aの表面を光学顕微鏡にて確認したところ、塗膜表面に割れが無い状態であった。図9に、この塗装材Aの塗膜表面の顕微鏡写真を示す。図9からは塗膜の表面にひび割れ等が生じている様子は確認されなかった。図10及び図11は、本比較例の耐候性試験での光沢保持率の変化を表すグラフ(図10)と膜厚減耗量を示すグラフ(図11)である。図9の顕微鏡写真からも分るように塗装材Aの塗膜表面にはひび割れ等が確認されなかったが、光沢保持率は試験前に比べて明らかに減少し、塗膜も減耗していることが確認された。これらの結果について、本比較例では、紫外線と水により塗膜が加水分解されたことにより、塗膜表面に荒れが生じて光沢保持率が低下したり、塗膜厚が減耗したものと考えられる。ところが、図12に示すように、実際の使用環境下での劣化は塗膜表面に割れ(クラック)を生じさせるが、本比較例ではこの割れは再現されなかった。一方、上記実施例1〜3では塗膜表面の割れについても再現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の塗装材の耐候性試験方法によれば、家屋やビル等で用いられる窓枠、アルミニウムサッシ、外壁材、カーテンウォール、カーポート、門扉等の各種建材をはじめ、自動車、自転車、電車等で用いられる車両用部材や航空機用部材のほか、ゴール枠やバット等のスポーツ関連品等に至るまで幅広く用いられている各種塗装材が自然環境に曝されたときの耐久性を、予め短時間にかつ簡便に評価することができる。なかでも、陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材の表面に電着塗装によって塗膜を形成した塗装材の耐候性を評価するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施例1の耐候性試験における17サイクル終了後の塗装材AのSEM写真である。
【図2】図2は、実施例1に係る耐候性試験における光沢保持率の変化を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1に係る耐候性試験における膜厚減耗量を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例2の耐候性試験における20サイクル終了後の塗装材Aの顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例2に係る耐候性試験における光沢保持率の変化を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例1に係る耐候性試験における膜厚減耗量を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例3に係る耐候性試験における光沢保持率の変化を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例3に係る耐候性試験における膜厚減耗量を示すグラフである。
【図9】図9は、比較例の耐候性試験におけるB工程30回実施後の塗装材Aの顕微鏡写真である。
【図10】図10は、比較例の耐候性試験における光沢保持率の変化を示すグラフである。
【図11】図11は、比較例の耐候性試験における膜厚減耗量を示すグラフである。
【図12】図12は、一般住宅で使用されたアルミサッシの塗膜表面の顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材の表面に塗膜を有した塗装材の耐候性試験方法に関し、詳しくは、自然環境下での塗膜の劣化に近い劣化形態を、短期間でかつ簡便に再現することができる塗装材の耐候性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材は、その表面の美しさに加えて、軽量であって加工性や成形性に優れており、しかも、その表面に酸化皮膜や塗膜等を形成せしめると耐蝕性が付与されることから、各種建材や車両用部材をはじめ、航空機やスポーツ用品等に至るまで幅広く利用されている。
【0003】
ところが、アルミニウム材の表面に塗膜を形成したような塗装材が屋外で使用されると、太陽光からの熱や紫外線、大気中の汚染物質等により、塗膜成分が分解して塗膜の膜厚が減少したり、塗膜にひび割れや亀裂が生じることがある。このような塗膜の劣化は、塗装材の光沢度や耐蝕性を低下させることになるため、塗装材を得る上で、自然環境に曝されたときの耐久性、すなわち塗装材の耐候性を予め評価しておくことが必要になる。
【0004】
これまで主に耐候性を試験する方法として、キセノンウエザーメーターやサンシャインウエザーメーター等の各種促進耐候性試験機を用いた方法が採用されている。しかしながら、これらの試験機を用いた方法は、光の照射、乾燥、湿潤等の組み合わせからなるものの、自然環境に存在する腐食性物質の影響が排除されているため、塗装材を屋外で使用する実際の環境下での塗膜の劣化を完全に再現することができない。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、プラスチック等の有機材を表面に備えた試験片の耐候性試験方法が記載されている。すなわち、紫外線を含む光線を試験片に照射する工程と、試験片の表面を洗浄する工程と、NaCl、MgCl2、H2SO4、NaOH等の水溶液に試験片を浸漬する工程と、試験片の表面に結露を形成させる工程と、試験片を高温高湿雰囲気に曝す工程とからなり、これらの工程を適宜繰り返して行う耐候性試験方法である。しかしながら、この試験方法は、手順が煩雑であり、また、蒸し工程(試験片の表面に結露を生じさせる工程)が高温高湿であって、更には紫外線強度が数100W/m2とエネルギーが大きいことから、実際の使用環境下での劣化に近い形態を再現できるとは言い難い。特に、高温高湿雰囲気中に曝す工程は実際の使用環境にない劣化のさせ方であることから、陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材を基材とし、その表面に電着塗装によって塗膜を形成したような塗装材の耐候性試験には不向きである。一方、特許文献2には、プラスチックの表面に生じる塵埃付着等による汚れ易さを短時間で測定するために、光源を照射しながら、実際の使用地域で回収した汚染物質を付着させて試験する方法が開示されている。しかしながら、この試験方法は、やはり手順が煩雑であり、また、汚染物質を自然界から採取するため試験結果の再現性が得にくい点で問題があり、やはり陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材の表面に電着塗装で塗膜を形成した塗装材の耐候性試験には向かない。
【特許文献1】特開平3−17533号公報
【特許文献2】特開平8−304264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者等は、自然環境下での塗膜の劣化により近い劣化形態を再現することができる塗装材の耐候性試験方法について鋭意検討した結果、特定濃度の硝酸イオンを含んだ試験水溶液を付着させる工程と、紫外域における特定照度の試験光を照射する工程とを行うことで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、自然環境下での塗膜の劣化により近い劣化形態を短期間でかつ簡便に再現することができる塗装材の耐候性試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、基材の表面に塗膜を有する塗装材の耐候性を試験する方法であって、塗装材の表面に0.001〜10w/v%の濃度の硝酸イオンを含む試験水溶液を付着させるA工程と、波長300〜400nmの範囲における照度が20〜120W/m2である試験光を1〜500時間照射するB工程とを有し、A工程及びB工程からなるサイクルを2回以上繰り返すことを特徴とする塗装材の耐候性試験方法である。
【0009】
本発明における耐候性試験方法では、塗装材の表面に0.001〜10w/v%、好ましくは0.1〜2w/v%の濃度の硝酸イオンを含む試験水溶液を付着させるA工程を含む。硝酸イオン濃度が上記範囲内であれば、酸性雨の原因物質であるNOxの値に極めて近い環境を再現することができる。すなわち、硝酸イオン濃度が0.001w/v%より低いと、大気汚染物質として検出されるNOxの最小値(通常5〜10ppm)より少なくなってしまう。反対に10w/v%を超えると、ごく短時間で塗膜が剥離してしまうおそれがあり、実際の使用環境からかけ離れてしまう。硝酸イオンとして試験水溶液に含めることができるものとしては、例えば硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸鉄、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸カルシウム等を挙げることができる。
【0010】
また、A工程で使用する試験水溶液には、好ましくは硝酸イオンのほかに、0.001〜10w/v%の濃度の硫酸イオン、又は0.01〜20w/v%の濃度の塩素イオンを含めるようにするのがよく、或いはこれらの両方を含めるようにするのがよい。硫酸イオンは、SOxとして酸性雨の原因物質に考えられるものであり、上記濃度で含有させることでより実際の使用環境により近づけることができる。0.001w/v%より低いと、大気汚染物質として検出されるSOxの最小値(通常5〜10ppm)より少なくなってしまい、反対に10w/v%を超えるとごく短時間で塗膜が剥離してしまうおそれがある。硫酸イオンとして試験水溶液に含めることができるものとしては、例えば硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸銅等を挙げることができる。また、海岸隣接地等により近い環境を再現するためには、上記濃度範囲で塩素イオンを加えるようにしてもよい。塩素イオンとして試験水溶液に含めることができるものとしては、例えば塩酸、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化バリウム、塩化第二銅、塩化鉄等を挙げることができる。
【0011】
塗装材の表面に試験水溶液を付着させる方法については特に制限はなく、通常行われる方法、例えば噴霧処理、塗布処理、浸漬処理、滴下処理等の方法を採用することができる。
【0012】
試験水溶液を付着させた塗装材は、次いで、B工程において波長300〜400nmの範囲における照度が20〜120W/m2である試験光を1〜500時間照射する。B工程で使用する試験光の波長300〜400nmの範囲における照度が上記範囲内であれば、実際の使用環境での光の影響に近い劣化の形態を再現することができる。上記波長での照度が20W/m2よりも少ないと、劣化の再現に時間がかかりすぎて好ましくない。反対に120W/m2を超えると、劣化の速度が速すぎて自然環境下での塗膜の劣化に近い劣化形態が再現できなくなる。なお、波長400〜800nmの範囲における照度については特に制限はないが、実際の屋外での使用環境により近づけることができる観点から、好ましくは25〜80W/m2であるのがよい。
【0013】
B工程の塗装材に試験光を照射する時間については、1時間より短いと光(特に紫外線)による劣化の影響が十分に発現しないおそれがあり、反対に一度に照射する時間が500時間より長くなると、試験光による劣化の影響が大きくなり望ましくない。
【0014】
B工程で用いる試験光について、上述した条件の照度を備えたものであれば特に制限はないが、例えばサンシャインカーボンアーク、紫外線カーボンアーク、メタルハライドアークランプ、キセノンアークランプ等から得られる光のほか、殺菌灯、ブラックライト、紫外線蛍光灯、水銀灯等の各種蛍光灯から得られる光を具体例として挙げることができる。
【0015】
そして、上記B工程終了後の塗装材からその耐候性を判断してもよいが、本発明の耐候性試験方法では引き続きA工程及びB工程を繰り返して行う。すなわち、上記A工程及びB工程からなる試験を1サイクルとして、このサイクルを2回以上、好ましくは3サイクル以上繰り返すことで、実際の使用環境により近づけた劣化の形態を再現することができる。試験終了後の耐候性の評価については、例えば塗装材の表面に現れたひび割れ、クラック、光沢度の変化、塗膜の変色、塗膜厚の減耗等に基づいて判断すればよい。
【0016】
また、本発明において、A工程及びB工程のそれぞれの終了後、純水等で塗装材の表面を洗浄したり、純水を染み込ませたガーゼ等で拭くようにしてもよい。そして、洗浄等を行った後は、塗装材を10〜35℃の恒温槽に入れて乾燥させたり、あるいは室温放置により乾燥させるようにしてもよい。
【0017】
本発明の耐候性試験方法は、金属、樹脂等(アルマイト処理や化成処理等の各種表面処理されたものを含む)からなる基材の表面に塗膜を形成した塗装材であれば、その用途や材質等に特に制限されることなく適用することができ、例えば、家屋やビル等で用いられる窓枠、アルミニウムサッシ、外壁材、カーテンウォール、カーポート、門扉等の各種建材をはじめ、自動車、自転車、電車等で用いられる車両用部材や航空機用部材のほか、ゴール枠やバット等のスポーツ関連品等に用いられる種々の塗装材が、自然環境に曝されたときの耐久性を評価することができる。また、塗膜についても特に制限はなく、例えば電着塗装、静電塗装、浸漬塗装、ロールコート、吹付塗装等の手段によって形成されたものを例示することができる。なかでも、本発明の耐候性試験方法は、試験光の照射強度が20〜120W/m2と比較的穏やかであることから、基材が陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材であって、電着塗装によって形成されたアクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等を主成分に含む塗膜を有した塗装材の耐候性を評価する場合に好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸性雨の原因物質であるNOx等の塗膜劣化を引き起こす因子を含んだ過酷な実使用環境に近似した劣化形態を再現することができ、実際に屋外等で使用して評価する場合と比べてはるかに短時間でかつ簡便に塗装材の耐候性を評価することができる。また、本発明の試験方法によれば、試験水溶液を使用する試験と、試験光を照射する試験とを別工程に分離しているため、それぞれの工程の影響を受けずに各工程に適した試験環境を準備することができて効率良く試験を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0020】
以下に説明するようにして2種類の塗装材A、Bを用意した。
先ず、150mm×70mm×厚さ2mmのアルミニウム板(A1100P-H24)の表面に、15%硫酸溶液中を用いて陽極で直流電解して、膜厚9μmの陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材(アルマイト処理済みアルミニウム材)を2枚準備した。次いで、アクリル−メラミン樹脂系の電着塗料液(ハニー化成(株)社製:ハニーヒル(登録商標)SX−200)を用いて、液温20℃、直流電源170Vで120秒の条件により、膜厚7μmの電着塗膜を有した塗装材Aを得た。また、上記の電着塗料液に比べてアクリル樹脂の架橋密度が上昇していると共に光安定剤及び紫外線吸収剤が添加された電着塗料液電着塗料液(ハニー化成(株)社製:ハニーヒル(登録商標)LS−100)を用いた以外は塗装材Aの場合と同様にして、膜厚7μmの電着塗膜を有した塗装材Bを得た。
【0021】
次に、上記で準備した塗装材A及び塗装材Bについて、以下の方法により耐候性試験を行った。先ず、A工程として、塩化ナトリウム50g及び60%硝酸33.3gを純水1000Lに溶かした20±1℃の試験水溶液(塩化ナトリウム5w/v%、硝酸2w/v%)に塗装材A及び塗装材Bを2時間浸漬させた。次いで、試験水溶液から塗装材A、Bを取り出し、純水で濡らした布で表面に付着した試験水溶液を拭き取り、これらをスガ試験機株式会社製キセノンロングライフウエザーメーターWEL−75XS−HC.B.Ec(水冷7.5kWキセノンアーク灯式耐候性試験機)に取り付けて、150時間光を照射するB工程を行った。この試験機から発せられる光は、波長300〜400nmの照度が60W/m2(塗装材表面への放射露光量)であり、塗装材表面の積算放射露光量は1400kJ/m2/hrであった。また、B工程では、60分間の光の照射中に塗装材A及び塗装材Bの表面に水を9分間噴霧するようにした。なお、試験機内の温度は63±3℃(ブラックパネル温度)であり、試験機内の湿度は50±5%RHであった。
【0022】
B工程終了後、再び上記と同じ内容でA工程及びB工程を行い、A工程及びB工程を1サイクルとして、このサイクルを繰り返した。この際、1サイクル終了ごとに、B工程後の塗装材の表面を光学顕微鏡にて観察し、塗膜表面状態(クラック、あれ、しみ等)に差異が認められるまで上記サイクルを繰り返すようにした。また、B工程が終了したごとに、塗装材の表面の光沢保持率及び塗膜の膜厚減耗量を次のようにして測定した。光沢保持率は、耐候性試験前の塗装材の60°鏡面反射率(r0)とB工程後の60°鏡面反射率(r1)との比から求め、r1/r0×100(%)で表した。膜厚減耗量は、耐候性試験前の塗装材の塗膜の膜厚を基準にして、B工程終了後の膜厚から減少量を求めた。ここで、塗膜の膜厚は、渦電流式膜厚計(Fisher製ISOSCOPE)を用いて測定した。
【0023】
その結果、17サイクル終了後の塗装材Aの表面が白っぽくなり、光沢度が著しく低下した状態であることが確認された。そこで、走査電子顕微鏡(日本電子(株)社製JSM-5800LVC:倍率1000倍)を用いて塗膜の表面を撮影した。図1にそのSEM写真を示す。また、図12は、実際に一般住宅で7年間使用されたアルミサッシの一部を採取して、その塗膜の表面の顕微鏡写真である。両者を比較して、塗膜表面に発生した割れの状況が極めて近いことが分かり、実施例1に係る耐候性試験方法が実際の使用環境に極めて近い劣化形態を短時間に再現できたことが確認された。また、塗装材Bについては、19サイクル終了後に塗装材Aと同様の塗膜表面変化が現れ、図12に示したようなアルミサッシの割れに近い劣化が再現された。
【0024】
また、図2と図3に、本実施例1に係る耐候性試験での光沢保持率の変化を表すグラフ(図2)と膜厚減耗量を示すグラフ(図3)を示す。横軸の照射時間はB工程での光の照射時間の積算値を表す。これらのグラフからも明らかなように、本実施例1の耐候性試験は、短時間でかつ簡便に実際の使用状況に近い塗装材の劣化を再現できたことが分かる。
【実施例2】
【0025】
B工程を次のようにして行った以外は実施例1と同様にして、A工程及びB工程からなる耐候性試験を行った。JIS H 8602に規定されるサンシャインカーボン耐候性試験条件に従い、サンシャインウエザーメーター試験機(スガ試験機製)を用いて、波長300nm〜400nmの照度が80W/m2であるカーボンアークを150時間照射した。この際、60分間の光の照射中に塗装材A及び塗装材Bの表面に水を12分間噴霧するようにした。なお、試験機内の温度は63℃(ブラックパネル温度)であり、試験機内の湿度は60%RHであった。
【0026】
本実施例2では、20サイクル終了後に塗装材Aの表面が白っぽくなり、光沢度が著しく低下した状態であることが確認された。図4に20サイクル終了後の塗装材Aの顕微鏡写真を示す。図12に示した実使用環境下での塗装材の塗膜の割れに極めて近いことが分かり、実施例2に係る耐候性試験方法が実際の使用環境に極めて近い劣化形態を短時間に再現できたことが確認された。また、塗装材Bについては、20サイクル終了後に塗装材Aと同様の塗膜表面変化が現れ、図12に示したようなアルミサッシの割れに近い劣化が再現された。
【0027】
また、図5と図6に、本実施例2に係る耐候性試験での光沢保持率の変化を表すグラフ(図5)と膜厚減耗量を示すグラフ(図6)を示す。これらのグラフから明らかなように、本実施例2の耐候性試験は、短時間でかつ簡便に実際の使用状況に近い塗装材の劣化を再現できたことが分かる。
【実施例3】
【0028】
A工程で使用した試験用水溶液を、60%硝酸33.3gを純水1000Lに溶かした20±1℃の試験水溶液(硝酸2w/v%)にして、また、B工程を次のようにして行った以外は実施例1と同様にして、耐候性試験を行った。すなわち、B工程は、JIS H 8602に規定されるサンシャインカーボン耐候性試験条件に従い、サンシャインウエザーメーター試験機(スガ試験機製)を用いて、波長300nm〜400nmの照度が75W/m2であるカーボンアークを150時間照射した。この際、60分間の光の照射中に塗装材A及び塗装材Bの表面に水を12分間噴霧するようにした。なお、試験機内の温度は63℃(ブラックパネル温度)であり、試験機内の湿度は60%RHであった。
【0029】
本実施例3では、20サイクル終了後の塗装材Aの表面が白っぽくなり、光沢度が著しく低下した状態であることが確認された。この塗装材Aの塗膜表面の顕微鏡写真を撮影したところ、図12に示した実使用環境下での塗装材の塗膜の割れに極めて近いことが分かり、実施例3に係る耐候性試験方法が実際の使用環境に極めて近い劣化形態を短時間に再現できたことが確認された。また、塗装材Bについては、20サイクル終了後に塗装材Aと同様の塗膜表面変化が現れ、図12に示したようなアルミサッシの割れに近い劣化が再現された。
【0030】
また、図7と図8に、本実施例3に係る耐候性試験での光沢保持率の変化を表すグラフ(図7)と膜厚減耗量を示すグラフ(図8)を示す。これらのグラフから明らかなように、本実施例3の耐候性試験は、短時間でかつ簡便に実際の使用状況に近い塗装材の劣化を再現できたことが分かる。
【0031】
[比較例1]
サンシャインカーボン耐候性試験機(JIS B7753)を用いて、実施例1で用意したものと同じ塗装材A及び塗装材Bを次のようにしてB工程のみからなる耐候性試験を行った。JIS H 8602に規定されるサンシャインカーボン耐候性試験条件に従い、波長300nm〜400nmの照度が80W/m2であるカーボンアークを150時間照射した。この際、60分間の光の照射中に塗装材A、Bの表面に水を12分間噴霧するようにした。なお、試験機内の温度は63℃(ブラックパネル温度)であり、試験機内の湿度は60%RHであった。
【0032】
B工程が終了した後、再度塗装材A、Bをサンシャインカーボン耐候性試験機にセットして、上記B工程を繰り返すようにした。B工程を合計30回実施したところで、塗装材Aの表面を光学顕微鏡にて確認したところ、塗膜表面に割れが無い状態であった。図9に、この塗装材Aの塗膜表面の顕微鏡写真を示す。図9からは塗膜の表面にひび割れ等が生じている様子は確認されなかった。図10及び図11は、本比較例の耐候性試験での光沢保持率の変化を表すグラフ(図10)と膜厚減耗量を示すグラフ(図11)である。図9の顕微鏡写真からも分るように塗装材Aの塗膜表面にはひび割れ等が確認されなかったが、光沢保持率は試験前に比べて明らかに減少し、塗膜も減耗していることが確認された。これらの結果について、本比較例では、紫外線と水により塗膜が加水分解されたことにより、塗膜表面に荒れが生じて光沢保持率が低下したり、塗膜厚が減耗したものと考えられる。ところが、図12に示すように、実際の使用環境下での劣化は塗膜表面に割れ(クラック)を生じさせるが、本比較例ではこの割れは再現されなかった。一方、上記実施例1〜3では塗膜表面の割れについても再現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の塗装材の耐候性試験方法によれば、家屋やビル等で用いられる窓枠、アルミニウムサッシ、外壁材、カーテンウォール、カーポート、門扉等の各種建材をはじめ、自動車、自転車、電車等で用いられる車両用部材や航空機用部材のほか、ゴール枠やバット等のスポーツ関連品等に至るまで幅広く用いられている各種塗装材が自然環境に曝されたときの耐久性を、予め短時間にかつ簡便に評価することができる。なかでも、陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材の表面に電着塗装によって塗膜を形成した塗装材の耐候性を評価するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施例1の耐候性試験における17サイクル終了後の塗装材AのSEM写真である。
【図2】図2は、実施例1に係る耐候性試験における光沢保持率の変化を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1に係る耐候性試験における膜厚減耗量を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例2の耐候性試験における20サイクル終了後の塗装材Aの顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例2に係る耐候性試験における光沢保持率の変化を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例1に係る耐候性試験における膜厚減耗量を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例3に係る耐候性試験における光沢保持率の変化を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例3に係る耐候性試験における膜厚減耗量を示すグラフである。
【図9】図9は、比較例の耐候性試験におけるB工程30回実施後の塗装材Aの顕微鏡写真である。
【図10】図10は、比較例の耐候性試験における光沢保持率の変化を示すグラフである。
【図11】図11は、比較例の耐候性試験における膜厚減耗量を示すグラフである。
【図12】図12は、一般住宅で使用されたアルミサッシの塗膜表面の顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に塗膜を有する塗装材の耐候性を試験する方法であって、塗装材の表面に0.001〜10w/v%の濃度の硝酸イオンを含む試験水溶液を付着させるA工程と、波長300〜400nmの範囲における照度が20〜120W/m2である試験光を1〜500時間照射するB工程とを有し、A工程及びB工程からなるサイクルを2回以上繰り返すことを特徴とする塗装材の耐候性試験方法。
【請求項2】
試験水溶液が、0.001〜10w/v%の濃度の硫酸イオン及び/又は0.01〜20w/v%の濃度の塩素イオンを含む請求項1に記載の塗装材の耐候性試験方法。
【請求項3】
試験光が、サンシャインカーボンアーク、紫外線カーボンアーク、メタルハライドアークランプ、キセノンアークランプ又は紫外線蛍光灯から得られる光である請求項1又は2に記載の塗装材の耐候性試験方法。
【請求項4】
基材が陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材であり、塗膜が電着塗装により形成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の塗装材の耐候性試験方法。
【請求項1】
基材の表面に塗膜を有する塗装材の耐候性を試験する方法であって、塗装材の表面に0.001〜10w/v%の濃度の硝酸イオンを含む試験水溶液を付着させるA工程と、波長300〜400nmの範囲における照度が20〜120W/m2である試験光を1〜500時間照射するB工程とを有し、A工程及びB工程からなるサイクルを2回以上繰り返すことを特徴とする塗装材の耐候性試験方法。
【請求項2】
試験水溶液が、0.001〜10w/v%の濃度の硫酸イオン及び/又は0.01〜20w/v%の濃度の塩素イオンを含む請求項1に記載の塗装材の耐候性試験方法。
【請求項3】
試験光が、サンシャインカーボンアーク、紫外線カーボンアーク、メタルハライドアークランプ、キセノンアークランプ又は紫外線蛍光灯から得られる光である請求項1又は2に記載の塗装材の耐候性試験方法。
【請求項4】
基材が陽極酸化皮膜を有したアルミニウム材であり、塗膜が電着塗装により形成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の塗装材の耐候性試験方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−168550(P2009−168550A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5423(P2008−5423)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000191065)新日軽株式会社 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000191065)新日軽株式会社 (545)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]