説明

塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法

【課題】塗装焼付け硬化性に優れた成形加工用6000系アルミニウム合金板およびその生産性に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、質量%で、Mg:0.2〜1.0%、Si:0.5〜1.5%を含有する6000系アルミニウム合金において、製品に対して180℃で9時間の熱処理を施した後に観察されるβ”相析出物密度が3000〜7000個/μm2であり、製品中に存在する溶質原子クラスターを復元させた後の耐力が90〜140MPaであることを特徴とし、所定のアルミニウム板を480〜580℃の温度で5分以下保持した後5℃/s以上の冷却速度で冷却する溶体化焼入れ処理を行い、次いで150〜250℃の温度範囲で30秒〜10分間保持する高温予備時効処理を施すことを特徴とする。また低温予備時効処理をpH4〜7の温水中で行うことによって、優れた接着性を兼備させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法に関し、特に、自動車ボディパネル等、成形加工ならびに塗装焼付け処理を施して用いられる、塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上を目的とした車体軽量化の要望が高まっており、軽量化手段の一つとして自動車ボディパネル等へのアルミニウム合金板が使用されている。熱処理型のAl−Mg−Si系合金(6000系アルミニウム合金といい、単に、6000系合金ともいう。)は、塗装焼付け工程の熱処理により降伏強度が上昇する性質(塗装焼付け硬化性という。)を有するため、板厚の薄肉化ひいては車体の軽量化に有利であり、ボディパネル材として使われることが多くなってきている。
【0003】
従来、6000系合金の塗装焼付け硬化性については、溶体化・焼入れ後に熱処理を加えることによって降伏強度を上昇させる方法が種々開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、溶体化焼入れ処理後、72時間以内に40〜120℃の温度で8〜36時間の最終熱処理を行う発明が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、溶体化処理後室温以上の50〜130℃に温度に焼き入れて、その温度に1〜48時間の長時間熱処理を行った後、さらに140〜180℃の温度範囲で3〜10分間の低温加熱処理を行う発明が開示されている。
【0006】
また、特許文献3でも、溶体化焼き入れ後60分以内に40〜120℃の温度で50時間以上の熱処理を行う発明が開示されている。
【0007】
また、本系合金は製造工程中の溶体化処理をはじめとする高温下での処理によって、板表面にMgOの濃化層が形成されることが知られている。自動車ボディの組み立てにおける接着工程において、板表面にMgO濃化層が存在すると、MgO濃化層と下地のアルミとの結合が弱いために接着性が劣ってしまうという問題があった。また脱脂工程においても水濡れ性が悪くなるために均一な化成処理が行われず、その結果塗装後耐食性が劣化してしまうという問題もある。接着性や塗装後耐食性を向上させる必要が生じた場合は、この合金表面に形成されるMgO濃化層を除去することが行われる。その方法としては、酸に浸漬する方法(特許文献4)、アルカリ溶液に浸漬する方法(特許文献5)、pHが5〜8の水溶液に浸漬する方法(特許文献6)が開示されている。しかし、いずれの方法も材質を造り込む工程とは別に表面調整のための上記処理を行うものであり、コスト増という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−007460号公報
【特許文献2】特開平04−210456号公報
【特許文献3】特開2003―105471号公報
【特許文献4】特公平7−116629号公報
【特許文献5】特開平4−214835号公報
【特許文献6】特開平10−195683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の発明は、自動車ボディパネル用材料として塗装焼付け時に大きな強度上昇を図り、かつ板製造後から成形加工までの室温放置中の自然時効による強度上昇を抑えるためには、いずれの場合も溶体化処理以降に長時間の熱処理を行う必要があり、生産性を犠牲にして製造しなければならないという問題がある。自動車ボディパネル向けの6000系アルミニウム合金の需要は近年増加しつつあり、今後のさらなる需要増加に対応していくためには生産性に優れた製造方法が必要とされるようになってきた。
【0010】
また、上記特許文献4〜6に記載の発明のいずれも、材質を造り込む工程とは別に表面調整のための上記処理を行うものであり、生産性が悪化したり生産コストが嵩むという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記従来技術の生産性の問題を有利に解決できる、特に自動車ボディパネルの外板等に好適な、塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
また、板表面に存在するMgO濃化層をも製造工程内で除去し、良好な接着性をも併せ持たせることが可能な6000系アルミニウム合金板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
6000系合金における時効硬化性は、微細な析出物が高密度に形成されることによって生じる。そこで、本発明者らは、塗装焼き付けという170〜180℃程度で20〜30分の短時間の熱処理によって大きな強度上昇量を得るためには、塗装焼き付け処理前の材料はどのような状態にあるべきかについて鋭意検討を行った。
【0014】
塗装焼き付け処理のような温度で形成される析出物は、6000系合金の場合MgとSiから構成される金属間化合物(β”相と呼ばれる)である。このβ”相を板の製造段階で微細かつ高密度に形成させておくことができれば、塗装焼付け処理段階でこのβ”相を成長させて大きな強度上昇を得ることができるだけでなく、板製造後の室温放置中の経時変化をも抑制することができる。
【0015】
本発明者らは、この微細高密度β”組織を短時間で形成させる方法についてさらに詳細に検討した。その結果、β”相の形成はMgおよびSiの拡散で律速される反応であり、β”相形成温度を高めればMgおよびSiの拡散が容易となり、β”相の形成を短時間で達成し得ること(以下、この高温でのβ”相析出熱処理を高温予備時効処理という。)、そして成分を適切に選択すれば、従来技術のように低温で長時間の熱処理を行うのとほぼ同等の塗装焼付け硬化性と室温放置中の経時変化抑制効果が得られることを見出した。
【0016】
さらに、高温予備時効処理中のβ”相の析出を一層促進し、より短い処理時間で大きな塗装焼き付け硬化性を得るためには、高温予備時効処理を行う前に焼き入れ凍結空孔量を増やした状態にしておくこと、またβ”相析出の駆動力であるMgおよびSiの過飽和度が大きく確保される低温で短時間保持してさらに微細な析出物を形成させておくと、高温予備時効処理でのβ”相析出促進に対して非常に効果的であることを見出した。本発明者らは、これらの知見をもとに従来に比べて大幅な生産性向上を可能とする本発明を成すに至った。
【0017】
上述のような高温において短時間で形成されたβ”析出物密度は、低温長時間で形成された場合よりも低い傾向にある。しかしながら低密度ではあるが比較的大きい針状の析出物であるため、塗装焼付け処理によって耐力上昇が得られやすい状態にあるというのが高温予備時効処理によって得られるβ”析出状態の特徴である。この析出状態を定量的に表現する方法について本発明者は鋭意検討を行った。本発明によって得られたβ”析出組織は非常に微細な針状析出物から構成されており、この微細析出物の観察を行うには、通常の透過電子顕微鏡法では観察は困難である。そこで、このβ”析出物を成長させて観察を容易にすることを考え、熱処理中にβ”析出物が新たに形成されるよりも、熱処理前に存在した微細なβ”析出物が成長する現象が支配的であるような、適切な熱処理条件を実験的に見出した。すなわち、塗装焼付け温度に相当する温度である180℃で9時間の熱処理を施すと、β”析出物は数十nm程度の針状となり、明視野像観察による通常の透過電子顕微鏡法により20万倍程度の比較的低倍率でも十分に観察が行えるようになることがわかった。また、β”針状析出物はアルミ母相の{100}面に対して平行に析出するという特徴を考慮して、β”析出物の存在状況をより的確に観察するために透過電子顕微鏡観察の際に薄膜試料に対する電子線の入射方向を<001>と平行とする。本発明の合金に対して上記の熱処理を施した板より薄膜試料を作製して、[001]方向に電子線を入射して透過電子顕微鏡観察を行った例を図1に示す。写真は、透過電子線を用いて結像した明視野像である。写真中には[100]と[010]方向に平行に針状の析出物が明瞭に観察される。また黒い点状のコントラストを示すものは、紙面に対して垂直、すなわち[001]方向に平行に存在する針状析出物に相当する。この透過電子顕微鏡観察結果をもとに析出物の密度を簡便に調査する方法についても種々検討を行った。その結果、[001]方向に平行に存在する針状析出物に相当する黒い点状コントラストの数を測定し、[100]と[010]方向に平行な針状析出物はほぼ同等の確率で存在することを利用して、黒い点の数を3倍して3方向の析出物数を比較的間単に見積る方法を考案した。そして、この方法を用いて20万倍の倍率で16視野測定すれば、諸性能を規定するに足る析出物密度を求めることができることを実験的に明らかにした。
【0018】
また、このβ”析出物密度が同じであっても、析出物の平均サイズが異なれば耐力を変化する。すなわち機械的性質を規定し得るようなβ”析出状態を記述するために、耐力を用いる方法を検討した。しかし、本系合金は製造後に常温で保管された場合、溶質原子のクラスターが形成され耐力が製造直後から上昇してしまうという問題がある。そこで、クラスターは適切な熱処理を施すことによって再固溶させることできる(この熱処理は復元処理と呼ばれる)特徴を活用し、適切な復元処理によってクラスターの影響を排除した後の耐力を測定すれば、板のβ”析出状態を規定し得る、製造直後に相当する耐力を求めることができることを見出した。
【0019】
すなわち、透過電子顕微鏡観察写真から上述の方法によって求めたβ”析出物密度と適切な復元処理後の耐力を用いれば、塗装焼付け硬化性を決定するβ”析出状態を規定することができる。
【0020】
また、本発明の製造方法のうち、高温予備時効前に低温予備時効を施す場合、温水を用いて低温予備時効処理を行うのが有効な方法の一つである。この場合に処理温度は60〜100℃に限定されるが、この温水のpHを4〜7に調整することによって、材質造りこみと同時に板表面のMgO濃化層を除去することができ、接着性や塗装後耐食性を同時に改善することができるようになる。この際、板を温水中に浸漬してもよいし、板に対して温水をスプレー等により噴霧しても構わない。
【0021】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)質量%で、Mg:0.2〜1.0%、Si:0.5〜1.5%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金であって、製品に対して180℃で9時間の熱処理を施した後に観察されるβ”相析出物密度が3000〜7000個/μm2であり、製品中に存在する溶質原子クラスターを復元させた後の耐力が90〜140MPaであることを特徴とする塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
(2)質量%で、さらに、Mn:0.01〜0.3%、Cr:0.001〜0.1%の1種または2種を含有することを特徴とする、(1)記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
(3)質量%で、さらに、Ti:0.005〜0.15%、B :0.0001〜0.05%、Fe:0.03〜0.4%、Zn:0.03〜2.5%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)または(2)記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
(4)質量%で、さらに、Cu:0.1〜1.0%を含有することを特徴とする、請求項(1)〜(3)いずれかの塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
(5)質量%で、さらに、Sn:0.01〜0.3%を含有することを特徴とする、(1)〜(4)いずれかの塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の成分組成を有し、熱間圧延および冷間圧延によって所望の板厚とした圧延板を、480〜580℃の温度で5分以下保持した後5℃/s以上の冷却速度で冷却する溶体化焼入れ処理を行い、次いで、140〜150℃の温度域で5分〜30分間保持、150〜240℃の温度域で30秒〜30分間保持、240〜250℃の温度域で30秒〜10分間保持のうちいずれか一つの高温予備時効処理を施すことを特徴とする、製品に対して180℃で9時間の熱処理を施した後に観察されるβ”相析出物密度が3000〜7000個/μm2であり、製品中に溶質原子クラスターを復元させた後の耐力が90〜140MPaである塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
(7) 前記溶体化焼入れ処理の工程と前記高温予備時効処理の工程との間で、60〜120℃の温度域で5秒〜120分または120〜140℃の温度域で5秒〜5分保持する低温予備時効処理を行うことを特徴とする、上記(6)に記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
(8) 前記溶体化焼入れ処理の焼入れ温度を50℃以下とすることを特徴とする、上記(6)または(7)に記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
(9) 前記溶体化焼入れ処理の工程と前記高温予備時効処理の工程との間で、不純物元素の総含有量が1000ppm以下であり、pHを4〜7に調整した60〜100℃の温水を用いて5秒〜5分の低温予備時効処理を行うことを特徴とする、(6)に記載の塗装焼付け硬化性ならびに接着性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
(10)成形加工及び塗装をして用いられるアルミニウム合金板の製造法において、質量%で、Mg:0.5〜0.7%、 Si:0.9〜1.1%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、熱間圧延及び/または冷間圧延で成形後、480〜580℃で溶体化処理を施し、該溶体化後に25℃以下まで5℃/秒以上の冷速で急冷し、該急冷後保持を5分以内とし、60〜120℃の温度域により120分以内で保持する低温予備時効処理を施し、140〜150℃の温度域で5分〜30分間、150〜240℃の温度域で30秒〜30分間、240〜250℃の温度域で30秒〜10分間保持のうちいずれか一つの高温予備時効処理を施すことを特徴とする塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、自動車のエンジンフード、トランクリッド等のパネル材として好適な、高い塗装焼付け硬化性を有する6000系アルミニウム合金板およびその生産性に優れた製造方法を提供することが可能になるとともに、良好な接着性をも兼備することができるため、産業上の貢献が極めて顕著である。特に(6)〜(9)で製造された合金板は180MPa以上,(10)で製造された合金板は190MPa以上の,それぞれ塗装焼付け硬化後の強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の合金に対して180℃で9時間の熱処理を施した板より薄膜試料を作製して、[001]方向に電子線を入射して透過電子顕微鏡観察を行って得られた明視野像の写真の一例である。
【図2】本発明のクラスターを再固溶させる熱処理(復元処理)後の耐力を決定するための予備検討の際に使用した測定であって、復元処理前のクラスター析出状態とこの復元処理直後のクラスター析出状態を、示差走査熱量計を用いて測定した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、6000系アルミニウム合金板の塗装焼付け硬化性を支配するβ”相形成挙動について鋭意検討を行った結果見出した知見に基づき、溶体化処理後の熱処理パターンおよび合金成分を適切に規定することによって、溶体化処理後の短時間の熱処理で良好な塗装焼付け硬化性を得ることが可能な本発明を成すに至った。
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、合金成分の限定理由を以下に示す。
【0026】
Mg、Siは、本発明の必須の基本成分であり、優れた塗装焼付け硬化性を得るために含有させる。本発明の熱処理においてはMgが0.2%未満、Siが0.5%未満では、塗装焼付け時に形成されるβ”相(Mg、Siからなる金属間化合物)の量が少なく、十分な強度上昇が得られない。また、Mgが1.0%超、Siが1.5%超では、板製造過程で粒界及び粒内に粗大なMg2Si相が形成され、加工性が大きく低下する。そのため、Mg量を0.2〜1.0%、Si量を0.5〜1.5%の範囲とした。
【0027】
本発明は、必要に応じて以下に示す元素を含有させてもよい。
【0028】
Mn、Crは、最終板の結晶粒を微細化して肌荒れを防止し、成形性を向上させる元素である。Mn量が0.3%、Cr量が0.1%を超えると、粗大な金属間化合物が形成され、かえって成形性が損なわれてしまう。一方、Mnが0.01%未満、Crが0.001%未満では、結晶粒が粗大化して肌荒れを生じてしまう場合がある。したがってMn量を0.01〜0.15%、Cr量を0.001〜0.1%の範囲とした。
【0029】
また、本発明では、Ti、B、Fe、Znの1種又は2種以上を必要に応じて含有させても良い。
【0030】
Ti、Bは、微量添加により鋳塊の結晶粒を微細化し、成形性、肌荒れ等を改善する効果を有する。Tiが0.005%未満、Bが0.0001%未満では鋳塊の結晶粒を微細化する効果がやや不十分である。また、Tiが0.15%、Bが0.05%を超えると粗大な晶出物を形成し、成形性が劣化することがある。そのため、Ti量を0.005〜0.15%、B量を0.0001〜0.05%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
Feは、強度向上と結晶粒の微細化によって成形性を向上させる元素であるが、その効果は、Fe量が0.03%未満ではやや不十分である。一方、Fe量が0.4%を超えると粗大晶出物が生成し、成形性を低下させることがある。したがって、Fe量を0.03〜0.4%の範囲とすることが好ましい。
【0032】
Znは、強度向上により成形性を向上させる効果を有する。Zn量が0.03%未満では、効果がやや不十分であり、2.5%を超えると強度上昇が大きく、成形性を損なうことがある。そのため、Zn量を0.03〜2.5%の範囲とすることが好ましい。
【0033】
Cuは、成形性、特に張出し性、深絞り性の向上に寄与する元素である。Cu量が0.1%未満では、十分な成形性向上効果が得られず、1.0%超では、耐食性がやや低下し、ヘム曲げ性を損なうことがある。そのため、Cu量を0.1〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
【0034】
Snは、室温放置中の自然時効による強度上昇を抑制し、製造直後の成形加工性を長期間にわたって保持する効果を有する。Snが0.01%未満ではその効果が小さく、また0.3%を超えるとその効果が飽和して増大しない。そのため、Snの添加量を0.01〜0.3%とした。またSnの効果を有効に活用するためにはAl母相中にSnを均一に固溶させることが重要であり、そのためには溶解鋳造時にSnを、Al―Sn母合金として添加することが望ましい。なお、Al―Sn母合金中のSn含有量については特に規定する必要はない。
【0035】
上記元素の他、不可避的不純物が含有されるが、本発明の効果を損なわない範囲の量であれば許容される。
【0036】
製造直後の製品に対して180℃×9hの熱処理を施した後のβ”析出物密度の規定理由について説明する。なお、析出物密度の測定は上述の[課題を解決するための手段]の欄で詳細に説明した方法で行う。
【0037】
β”析出物密度が3000個/μm2未満では、良好な塗装焼付け効果性が得られない。また7000個/μm2超の析出物密度では優れた塗装焼付け効果性を示すが、低温長時間の予備時効処理では得られるものの、高温短時間予備時効処理では得られ難い。そこで、β”析出物密度は3000〜7000個/μm2とした。なお、塗装焼付け硬化性と生産性の観点から、4000〜6000個/μm2が好ましい。
【0038】
また、復元処理後の耐力の規定理由について説明する。先ず適切な復元処理条件を以下の方法により見出さなければならない。復元処理の目安としては、オイルバスを用いて180〜280℃の温度に急熱して数秒から数分保持した後水冷する。クラスターが復元されたかどうかは次ぎの方法によって確認できる。復元処理前の析出状態と復元処理直後の析出状態を示差走査熱量計を用いて測定する。図2に測定結果例を示す。クラスターの存在を示す150〜270℃程度の範囲に認められる吸熱ピーク面積が0.3cal/g以下となり、270〜300℃あたりに認められるβ”の析出に対応したピーク面積が復元処理前の状態と0.1cal/g以下の範囲で変わっていなければ、β”析出状態をほぼ変えずにクラスターを再固溶させることができたと考えられる。この条件によって復元処理を施した後の耐力が90MPa未満では良好な塗装焼付け硬化性が得られず、140MPa超では塗装焼付け硬化性は十分に得られるが、室温保管中のクラスター形成による耐力上昇を考慮するとこの値では高すぎ、室温経時変化後は形状凍結性やヘム曲げ性が劣る恐れがある。そこで、90〜140MPaの範囲とした。
【0039】
次ぎに、本発明の製造方法に関して詳細に説明する。
【0040】
本発明のアルミニウム合金板は、従来の一般的な方法にしたがって溶解、鋳造、熱間圧延、冷間圧延によって製造された板に対して、本発明で規定した溶体化処理および高温予備時効処理、必要に応じて、さらに、その前処理としての低温予備時効処理を施すことによって製造される。ただし、鋳片に均質化焼鈍を施しても良く、また冷間圧延の途中に中間焼鈍を行ってもかまわない。
【0041】
先ず、溶体化処理について説明を行う。従来の一般的な方法にしたがって得られた冷間圧延板に対して溶体化処理を施すが、溶体化処理温度は480℃未満ではMg2SiやSi相の固溶が不十分であり、塗装焼付け硬化性が低下するだけでなく、ヘム曲げ性、成形性も劣化する。一方、溶体化処理温度が580℃超では、共晶融解が起きる場合がありヘム曲げ性及び成形性の低下を招く恐れがあり、また、結晶粒の粗大化による肌荒れが生じやすくなり好ましくない。溶体化処理温度に到達後、保持せずに直ちに冷却しても良いが、5分以内の所定時間保持することによりMg2SiやSi相の固溶が促進され、塗装焼付け硬化性、ヘム曲げ性、成形性が向上するため、5分以内の所定時間の保持が好ましい。しかし、溶体化処理温度での保持時間が5分を超えると、溶質の固溶は飽和し、結晶粒が粗大化する恐れがあり好ましくない。
【0042】
溶体化処理後の冷却速度は、5℃/s未満では冷却過程で結晶粒界にMg2Si相やSi相等が析出し、ヘム曲げ性、成形性、塗装焼付け硬化性が劣化するため、下限を5℃/sとした。粒界析出を抑制し、溶質原子の過飽和度を十分に確保する点で好ましい下限は10℃/s以上である。冷却速度の上限は特に規定はしないが、冷却速度が速すぎると板の形状を損なうため、(6)〜(9)の発明においては板が変形しやすい400℃までは30℃/s以下、400℃以下は300℃/s以下で冷却することが好ましく、(10)の発明においては200℃/s以下で冷却することが望ましい。
【0043】
溶体化処理、焼入れ処理後に行う高温予備時効処理温度は140℃未満では十分な塗装焼付け硬化性が確保できるようなβ”相を短時間に形成させることができない。また、250℃超では初期強度が高くなり過ぎて、成形性、ヘム曲げ性等の加工性が劣化してしまう。また、保持時間については140℃から150℃で5分未満、150℃〜250℃で30秒未満では十分な塗装焼付け硬化性が確保できない。一方、140℃から240℃では30分,240℃から250℃では10分超の保持を行うと初期強度が高くなり過ぎて、成形性やヘム曲げ性等の加工性が劣化してしまうばかりでなく、本発明が目的とする生産性を損なう。上記の理由により、高温予備時効処理条件は、140〜150℃では5〜30分保持,150℃から240℃では30秒〜30分,240〜250℃の温度範囲において30秒〜10分間保持することを条件とした。
【0044】
次ぎに、溶体化焼入れ処理の工程と高温予備時効処理の工程との間に差し挟む、高温予備時効処理におけるβ”相析出を促進するための低温予備時効処理条件の限定理由について説明する。
【0045】
この低温予備時効処理温度が60℃未満では、クラスター(6000系アルミニウム合金において常温近傍で形成される溶質原子の集合体で、この相が形成されると塗装焼付け硬化性が阻害される。)が形成されてしまい、引き続き行う高温予備時効処理でのβ”相の析出促進ならびに析出組織の微細化効果が不十分となってしまう。また、140℃超で5分超、120℃超で120分超、の保持をしても高温予備時効処理でのβ”相の析出促進効果が十分に得られない。保持時間については5秒未満では上述の効果が確保できず、一方、60〜120℃で120分超、120〜140℃で5分超、の保持を行うと高温予備時効処理後の初期強度が高くなり過ぎて、成形性やヘム曲げ性等の加工性が劣化してしまうばかりでなく、本発明が目的とする生産性を損なう。上記の理由により、低温予備時効処理条件は60〜120℃において5秒〜120分間、120〜140℃において5秒〜5分間保持することとした。この低温予備時効処理後に再加熱して前述の高温予備時効処理を施す。低温予備時効温度から高温予備時効温度までの加熱速度は特に規定しないが、生産性の点からは速い方が望ましい。
【0046】
また、この低温予備時効処理を施す場合に、温水を用いて行うのが有効な方法の一つであり、板を温水中に浸漬してもよいし、また温水を板に対して噴霧してもよい。温水での低温予備時効を行う際、処理温度は60〜100℃に限定されるが、この温水のpHや不純物濃度を調整することによって、上述のような材質造りこみと同時に板表面のMgO濃化層を除去して接着性をも向上させることができる。pHが4未満ではMgO濃化層だけではなく、下地のAlも溶出してしまい、pHが7超ではMgO濃化層の除去が不十分である。そこで、pHの範囲を4〜7と規定した。また、不純物元素の総含有量が1000ppm超であると、MgO濃化層の溶解力が不足してしまうとともに板表面が汚染されてしまう。そこで、1000ppm以下と規定した。
【0047】
次ぎに、溶体化焼入れ処理の焼入れ温度条件について説明する。
【0048】
溶体化焼入れ処理後の焼入れ温度は、次工程となる高温予備時効処理または低温予備時効処理の処理温度域とすれば、追加の加熱、冷却処理を省略できるため好ましい。
【0049】
また、溶体化焼入れ処理の焼入れ温度を50℃以下とすれば、焼入れ凍結空孔量を増やして引き続き行う高温予備時効処理におけるβ”相析出促進効果が十分に得られ好ましい。一旦25℃以下に5分以内の保持すれば更に良い。溶体化焼入れ処理の焼入れ温度が50℃超では、前記のような効果は十分に得られない。溶体化焼入れ処理の焼入れ温度の下限は特に限定しないが、工業的に可能な範囲で低温ほど望ましい。なお、この50℃以下の温度域では前記のクラスターが形成されてしまうので、この温度域に保持しないことが望ましい。そして,25℃以下にすると更に高温予備時効処理におけるβ”相析出促進効果が十分に得られ、その時間が5分程度ならばクラスター形成は少なく塗装焼付け硬化性を大きく阻害する恐れは少ない。この溶体化焼入れ処理後50℃以下まで冷却した後に再加熱して高温予備時効処理または低温予備時効処理を施すが、この際の加熱速度も上述のように特に規定しないが、クラスターの形成や生産性の点から速い方が望ましい。
【実施例1】
【0050】
表1に示す成分組成を有する6000系アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法により鋳造した。得られた鋳塊に530℃で10時間の均質化焼鈍を施した後、510℃で熱間圧延を開始し、250℃で板厚を5mmとして熱間圧延を終了した。その後1mmまで冷間圧延を行い、表2に示す条件で溶体化処理および予備時効処理を施した。これらのアルミニウム合金板を、室温で1ヶ月間自然時効させた後、引張特性、塗装焼付け硬化性を評価した。また、本合金の主用途である自動車ボディパネル用材料として必要なヘム曲げ性および成形性についても評価を行った。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
引張特性は、板圧延方向(L方向)、圧延方向から45°の方向(D方向)、圧延方向に直角な方向(C方向)を長手とする、JIS Z 2201に準拠した5号試験片を採取して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、3方向の面内異方性を考慮した平均値で評価した。
【0054】
塗装焼付け硬化性は、C方向を長手として、引張試験機で2%の塑性歪を与えた後、170℃で20分の熱処理を行い、再び引張試験を行い、0.2%耐力を測定し、熱処理後の耐力が180MPa以上のものを良好として評価した。
【0055】
ヘム曲げ性は、L方向、D方向、C方向を長手とするJIS Z 2201に準拠した5号試験片に、引張試験機により各試験片に5%の予歪を与え、その後JIS Z 2248に準拠して、曲げ半径Rを板厚の0.5倍として180°まで曲げた後、更に1mm厚の板を挟んで密着させるように曲げて、曲げ部の頂点近傍における割れ発生の有無で評価した。曲げ表面にカラーチェックを施して、ルーペを用いて割れを目視観察した。なお、カラーチェックは、JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験である。3方向で割れ発生の認められない場合をヘム曲げ性良好として○印を付し、1方向でも割れが認められた場合は不良とし、×印を付した。
【0056】
成形性は、塩化ビニルフィルムとワックスを組み合わせた潤滑条件において、φ100mmの球頭張出試験を行い、破断限界高さにより評価した。この破断限界高さが34mm以上を良好とした。
【0057】
表3に評価結果を示す。
【0058】
【表3】

【0059】
合金No.1〜11は、合金成分および製造条件が本発明の範囲内であり、塗装焼付け硬化性に優れ、良好なヘム曲げ性と成形性を示した。一方、合金No.12はMg、Si量が本発明の範囲よりも少ないため、塗装焼付け硬化性が低く、成形性にも劣る。合金No.13は、Si量およびCr量が本発明の範囲よりも多く、第2相粒子が多くなりヘム曲げ性が低下した。合金No.14は、Si量が本発明の範囲よりも少ないため、塗装焼付け硬化性が低く、成形性にも劣る。合金No.15は、Mg添加量が本発明の範囲よりも多く、Si量が少ないために、塗装焼付け硬化性およびヘム曲げ性が低い。合金No.16は、Mgの添加量が本発明の範囲よりも少ないため、塗装焼付け硬化性が低く、成形性も低い。合金No.17は、Mg、Si、Cu、Mn量が本発明範囲よりも多く、第2相粒子数が多くなり、ヘム曲げ性が低下した。合金No.18はFe、Sn添加量が本発明範囲よりも多く、第2相粒子数が増えたために、ヘム曲げ性が低下した。
【実施例2】
【0060】
表1の本発明合金6および8をDC鋳造法により鋳造し、実施例1と同様の製造方法により1mmの冷間圧延板とした。この冷間圧延板に対して、表4に示す条件で溶体化処理および予備時効処理を施した。このようにして作製したアルミニウム合金板を、室温で1ヶ月間自然時効させた後、実施例1と同様な方法で引張特性、塗装焼付け硬化性、ヘム曲げ性、成形性を評価して、その結果を表5に示した。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
製造番号ア〜ウ、カ〜シは、製造条件が本発明の範囲内であり、塗装焼付け硬化性に優れ、良好なヘム曲げ性と成形性を示した。
【0064】
一方、製造番号エは予備時効温度が本発明範囲よりも低く、また製造番号オは予備時効温度が本発明範囲よりも高いために塗装焼付け硬化性が劣った。製造番号オはヘム曲げ性も低下した。製造番号スは予備時効時間が本発明範囲よりも長いために初期強度が高くなりすぎ、ヘム曲げ性、成形性が低かった。製造番号セは、溶体化温度が本発明範囲よりも低いために、また製造番号ソは溶体化処理後の冷却速度が本発明範囲よりも小さいために、塗装焼付け硬化性、ヘム曲げ性、成形性が低下した。
【実施例3】
【0065】
表1の本発明合金1〜11をDC鋳造法により鋳造し、実施例1と同様の製造方法により1mmの冷間圧延板とした。この冷間圧延板に対して、表6に示す条件で溶体化処理および予備時効処理を施した。このようにして作製した、製造直後のアルミニウム合金板の引張試験を行い、また180℃×9hの熱処理を施し、透過電子顕微鏡観察を行って析出物密度を評価した。一方、室温で1ヶ月間自然時効させた後、実施例1と同様な方法で引張特性、塗装焼付け硬化性、ヘム曲げ性、成形性を評価した。また、各試料に対して適切な条件で復元処理を施してクラスターの影響を排除した後に引張試験を行って耐力を求めた。この耐力値は製造直後に引張試験を行って得た値とほぼ一致した。以上の結果を表7に示した。表7における合金1〜4、6、8、9は、製造条件が本発明の範囲内であり、塗装焼付け硬化性に優れ、良好なヘム曲げ性と成形性を示した。一方、合金5、10、11は高温予備時効温度が本発明範囲よりも高く、保持時間も短いために析出物密度が本発明範囲よりも低くなってしまい、塗装焼付け硬化性が劣った。また合金7は予備時効温度が本発明範囲よりも低いために復元処理後耐力が低く、塗装焼付け硬化性が劣ってしまった。
【実施例4】
【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
表1の本発明合金1をDC鋳造法により鋳造し、実施例1と同様の製造方法により1mmの冷間圧延板とした。この冷間圧延板に対して、520℃×20sの溶体化処理を施した後、表8に示す条件で焼入れ処理および低温予備時効処理を施し、200℃×100sの高温予備時効処理を行った。このようにして作製した各アルミニウム合金板を室温で1ヶ月間自然時効させた後、引張特性、塗装焼付け硬化性を評価、ならびに接着性の評価を行った。評価に用いた接着剤は自動車の構造接着に一般的に使用されている一液硬化型エポキシ系の接着剤とした。接着性試験としてはJISK6854に従った剥離試験とJISK6850に従った引張せん断試験を行った。接着性の評価は、剥離形態の観察に基づいて行った。アルミニウム合金板表面と接着剤間の密着力が十分に確保されおり、接着剤層の内部で凝集破壊が生じて破壊しているものを良◎、アルミニウム合金板と接着剤との界面剥離が部分的に生じているが、界面剥離面積率が50%未満のものを可○、50%以上界面剥離が生じているものを不可△とする3段階の評価を行った。評価結果を表9に示す。本発明例の(1)〜(3)は、良好な塗装焼付け硬化性を有するとともに、良好な接着性を示した。また、比較例(4)は、温水中で低温予備時効処理を行ったが、pHが本発明範囲を超えて高かったために、塗装焼付け硬化性は良好であったが、十分な接着性が得られなかった。比較例(5)は、不純物濃度が本発明範囲を超えて高かったために、接着性が不十分であった。比較例(6)は大気中で低温予備時効処理を行ったために、十分な接着性を得ることができなかった。
【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【実施例5】
【0071】
Al−0.6Mg−1.0Si成分組成を有する6000系アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法により鋳造した。得られた鋳塊に530℃で10時間の均質化焼鈍を施した後、510℃で熱間圧延を開始し、250℃で板厚を5mmとして熱間圧延を終了した。その後1mmまで冷間圧延を行い、表10に示す溶体化処理条件を変化させた条件で溶体化処理および予備時効処理を施した。これらのアルミニウム合金板を、室温で1ヶ月間自然時効させた後、引張特性、塗装焼付け硬化性を評価した。
【0072】
【表10】

【0073】
引張特性は、板圧延方向(L方向)、圧延方向から45°の方向(D方向)、圧延方向に直角な方向(C方向)を長手とする、JIS Z 2201に準拠した5号試験片を採取して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、3方向の面内異方性を考慮した平均値で評価した。尚、耐力は成形性の観点より140MPa以下のものを良好として評価した。塗装焼付け硬化性は、C方向を長手として、引張試験機で2%の塑性歪を与えた後、170℃で20分の熱処理を行い、再び引張試験を行い、2%耐力を測定し、熱処理後の耐力が190MPa以上のものを良好として評価した。この実施例を表11に示す。
【0074】
【表11】

【実施例6】
【0075】
Al−0.6Mg−1.0Si成分組成を有する6000系アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法により鋳造した。得られた鋳塊に530℃で10時間の均質化焼鈍を施した後、510℃で熱間圧延を開始し、250℃で板厚を5mmとして熱間圧延を終了した。その後1mmまで冷間圧延を行い、表12に示す溶体化処理後の焼入れ条件を変化させた条件で溶体化処理および予備時効処理を施した。これらのアルミニウム合金板を、室温で1ヶ月間自然時効させた後、引張特性、塗装焼付け硬化性を評価した。
【0076】
【表12】

【0077】
引張特性は、板圧延方向(L方向)、圧延方向から45°の方向(D方向)、圧延方向に直角な方向(C方向)を長手とする、JIS Z 2201に準拠した5号試験片を採取して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、3方向の面内異方性を考慮した平均値で評価した。尚、耐力は成形性の観点より140MPa以下のものを良好として評価した。塗装焼付け硬化性は、C方向を長手として、引張試験機で2%の塑性歪を与えた後、170℃で20分の熱処理を行い、再び引張試験を行い、2%耐力を測定し、熱処理後の耐力が190MPa以上のものを良好として評価した。この実施例を表13に示す。
【0078】
【表13】

【実施例7】
【0079】
Al−0.6Mg−1.0Si成分組成を有する6000系アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法により鋳造した。得られた鋳塊に530℃で10時間の均質化焼鈍を施した後、510℃で熱間圧延を開始し、250℃で板厚を5mmとして熱間圧延を終了した。その後1mmまで冷間圧延を行い、表14に示す低温予備時効条件を変化させた条件で溶体化処理および予備時効処理を施した。これらのアルミニウム合金板を、室温で1ヶ月間自然時効させた後、引張特性、塗装焼付け硬化性を評価した。
【0080】
【表14】

【0081】
引張特性は、板圧延方向(L方向)、圧延方向から45°の方向(D方向)、圧延方向に直角な方向(C方向)を長手とする、JIS Z 2201に準拠した5号試験片を採取して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、3方向の面内異方性を考慮した平均値で評価した。尚、耐力は成形性の観点より140MPaのものを良好として評価した。塗装焼付け硬化性は、C方向を長手として、引張試験機で2%の塑性歪を与えた後、170℃で20分の熱処理を行い、再び引張試験を行い、2%耐力を測定し、熱処理後の耐力が190MPa以上のものを良好として評価した。この実施例を表15に示す。
【0082】
【表15】

【実施例8】
【0083】
Al−0.6Mg−1.0Si成分組成を有する6000系アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法により鋳造した。得られた鋳塊に530℃で10時間の均質化焼鈍を施した後、510℃で熱間圧延を開始し、250℃で板厚を5mmとして熱間圧延を終了した。その後1mmまで冷間圧延を行い、表16に示す高温予備時効条件を変化させた条件で溶体化処理および予備時効処理を施した。これらのアルミニウム合金板を、室温で1ヶ月間自然時効させた後、引張特性、塗装焼付け硬化性を評価した。
【0084】
【表16】

【0085】
引張特性は、板圧延方向(L方向)、圧延方向から45°の方向(D方向)、圧延方向に直角な方向(C方向)を長手とする、JIS Z 2201に準拠した5号試験片を採取して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、3方向の面内異方性を考慮した平均値で評価した。尚、耐力は成形性の観点より140MPaのものを良好として評価した。塗装焼付け硬化性は、C方向を長手として、引張試験機で2%の塑性歪を与えた後、170℃で20分の熱処理を行い、再び引張試験を行い、2%耐力を測定し、熱処理後の耐力が190MPa以上のものを良好として評価した。この実施例を表17に示す。
【0086】
【表17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Mg:0.2〜1.0%、
Si:0.5〜1.5%
を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金であって、製品に対して180℃で9時間の熱処理を施した後に観察されるβ”相析出物密度が3000〜7000個/μm2であり、製品中に存在する溶質原子クラスターを復元させた後の耐力が90〜140MPaであることを特徴とする塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
【請求項2】
質量%で、さらに、
Mn:0.01〜0.3%、
Cr:0.001〜0.1%
の1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
【請求項3】
質量%で、さらに、
Ti:0.005〜0.15%、
B :0.0001〜0.05%、
Fe:0.03〜0.4%、
Zn:0.03〜2.5%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
【請求項4】
質量%で、さらに、
Cu:0.1〜1.0%
を含有することを特徴とする、請求項1〜3いずれかの一項記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
【請求項5】
質量%で、さらに、
Sn:0.01〜0.3%
を含有することを特徴とする、請求項1〜4いずれかの一項記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の成分組成を有し、熱間圧延および冷間圧延によって所望の板厚とした圧延板を、480〜580℃の温度で5分以下保持した後5℃/s以上の冷却速度で冷却する溶体化焼入れ処理を行い、次いで、140〜150℃の温度域で5分〜30分間保持、150〜240℃の温度域で30秒〜30分間保持、240〜250℃の温度域で30秒〜10分間保持のうちいずれか一つの高温予備時効処理を施すことを特徴とする、製品に対して180℃で9時間の熱処理を施した後に観察されるβ”相析出物密度が3000〜7000個/μm2であり、製品中に溶質原子クラスターを復元させた後の耐力が90〜140MPaである塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項7】
前記溶体化焼入れ処理の工程と前記高温予備時効処理の工程との間で、60〜120℃の温度域で5秒〜120分または120〜140℃の温度域で5秒〜5分保持する低温予備時効処理を行うことを特徴とする、請求項6に記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項8】
前記溶体化焼入れ処理の焼入れ温度を50℃以下とすることを特徴とする、請求項6または7に記載の塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項9】
前記溶体化焼入れ処理の工程と前記高温予備時効処理の工程との間で、不純物元素の総含有量が1000ppm以下であり、pHを4〜7に調整した60〜100℃の温水を用いて5秒〜5分の低温予備時効処理を行うことを特徴とする、請求項6に記載の塗装焼付け硬化性ならびに接着性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項10】
成形加工及び塗装をして用いられるアルミニウム合金板の製造法において、質量%で、Mg:0.5〜0.7%、 Si:0.9〜1.1%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、熱間圧延及び/または冷間圧延で成形後、480〜580℃で溶体化処理を施し、該溶体化後に25℃以下まで5℃/秒以上の冷速で急冷し、該急冷後保持を5分以内とし、60〜120℃の温度域で5秒〜120分または120〜140℃の温度域で5秒〜5分保持する低温予備時効処理を施し、140〜150℃の温度域で5分〜30分間、150〜240℃の温度域で30秒〜30分間、240〜250℃の温度域で30秒〜10分間保持のうちいずれか一つの高温予備時効処理を施すことを特徴とする塗装焼付け硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−202284(P2011−202284A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120444(P2011−120444)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【分割の表示】特願2005−2134(P2005−2134)の分割
【原出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)