説明

塗装用塗料温度調節装置

【課題】塗装用塗料における、最適塗料粘度への塗料温度の調整方法。
【解決手段】熱交換器本体を液−液・型の簡便型の熱交換器とし、当該熱交換器における熱交換コイルを被加熱側とする発想の転換を図り、熱交換コイル内の塗装用塗料を直接加熱し粘度調整する方式を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便な機構にて塗装用塗料の粘度を一定に保持する様機能する塗装用塗料の温度調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、塗装の世界にあって、近年VOCの抑制と言う社会的ニーズを背景にその増勢が期待されている水系塗料を筆頭とする無溶剤型塗料および溶剤型塗料等々、塗料の形態に関わりなく塗装の仕上がり状態の善し悪しは、塗料の温度管理で決定されると言っても過言ではない。一般的に塗料の材質・反応機構の形態に関わりなく、塗装の仕上がり状態は塗料を塗装する雰囲気温度に大きく左右される傾向がある。即ち、夏場には塗装環境温度が上がりすぎて塗料粘度が著しく低下し、塗装ダレが発生する等、塗膜管理が困難となる傾向がある。一方、冬場には、塗装環境の温度低下を招き塗料粘度が上昇することによって、塗料のレベリング性が極端に悪化することとなり、やはり、塗膜厚みを始めとする塗膜の諸条件、即ち塗膜の状態を管理することが非常に難しい状況にあった。
【0003】
前記塗料の季節ごとに生じる温度変化をコントロールする手法として一般的に行われている方法は、溶剤型塗料にあっては、塗料粘度を調整する手段としては溶剤を添加することによって粘度を微調整する方法が一般的な方法ではああるが、溶剤を添加することにより塗膜物性の劣化を招く危険性があり、また一方、無用剤型塗料にあっては、一般的には溶剤添加はまま成らず、塗料の固形分を微調整した上で塗料温度を如何に一定温度に保つかを算段するしか方法が無く塗装時の塗膜管理が極めて難しい状況にあった。
【0004】
ところで、塗装時における塗料の温度をコントロールする一つの手法として下記に示す特許文献が既に開示されている。
【特許文献1】特開平6−210232
【0005】
前記特許文献1には、塗装時における塗料温度を一定に保つ塗料供給装置に関する事例が開示されている。
【0006】
当該公知の塗料供給装置を、図1に示す装置の概略図を基に、当該塗料供給装置の概略を次に説明する。
【0007】
当該公知の塗料供給装置は、図1にその概略を示す通りであって、被加熱用塗料11が充填された塗料缶12内に配設されていて、且つ、前記被加熱用塗料11を塗装装置13にポンプ14にて送出させるための塗料送り配管15と、当該塗装装置13にて余剰(オーバーフロー分)となった塗料を再度塗料缶12内に戻す塗料戻り配管16とにより塗料循環系が構成され、更に被加熱用塗料11の液温を常時測定するための温度計17と、さらに、同上温度計17により測定された被加熱用塗料11の実温度と予め設定された被加熱用塗料11の温度との温度差を比較して当該被加熱用塗料11の温度をコントロールするための温度調整水蛇管18とにより構成されている。なお、19は被加熱用塗料11を塗料缶12内において常に均一な温度となるよう働く塗料攪拌装置である。
【0008】
以上のように当該塗料供給装置を構成することにより、塗料缶12から塗装装置13を経て更に塗料缶12への塗料循環において、塗装装置および塗料配管等の熱影響を受けることなく塗料を一定の塗料温度つまり一定の塗料粘度に保つことが可能となり、塗装中に塗料温度の変化による塗装不良(塗膜厚の経時変化等)を招くことがなくなり、安定した塗装を可能とすることができる、と当該塗料供給装置の有効性を記述している。
【0009】
ところで、前記公知の塗料供給装置においては、塗料缶12内に充填された被加熱用塗料11を、同塗料缶12内に充填されている被加熱用塗料11内に内在させた温度調整水蛇管18内を循環する水の持つ熱エネルギーにより熱交換させ、被加熱用塗料11の温度を所望する所定塗料温度となるよう温度コントロールされるシステムに構成されているが、塗料缶12内に充填されている被加熱用塗料11の持つ全熱容量に比較して、温度コントロールしようとする温度調整水蛇管18内を循環する水の持つ熱容量は、温度コントロールシステム構成上、そのボリューム(容積)および比熱を単純比較しても相対的に小さくならざるを得ず、ために、温度調整水蛇管18の熱効率を上げようとすれば同温度調整水蛇管18の伝熱面積を大幅に大きくするとか、または温度調整水蛇管18内を循環する水の流速を高め且つ当該水の温度を被加熱用塗料11の温度に比して温度落差を大幅に大きく取るなどの方策を講じる等しか良好な策を打てないのが実情であった。
【0010】
しかしながら、温度調整水蛇管18の伝熱面積を大幅に増やすとか、または、温度調整水蛇管18内を循環する水の流速並びに温度落差を大幅に上げようとすれば、温度調整水蛇管18内を循環する水をコントロールする制御系が複雑となりコストをアップさせる要因となる等、前記公知の塗料供給装置にはシステム設計上に問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、従来公知の塗料供給装置の問題点を総合的に検討し、コストを余り掛けることなく、しかも塗料温度を四季を通じて一定温度となるよう簡便な装置にして、しかも高効率に熱交換ができるようシステム全般を見直しコストパホーマンスが良好な塗装用塗料温度調節装置を発明するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記従来技術の課題を解決することを目的とするものであって、当課題解決の目的を達成するために本発明者は発想の転換を試みることとした。先ず上述した公知例において、被加熱用塗料と温度調整水蛇管18内を循環する水、則ち、熱交換用熱媒体(当事例にあって熱媒体は水)とを置き換える逆転の発想を試みることとした。則ち、当公知例に即して説明すれば、塗料缶12に充填されている被加熱用塗料の役割を、温度調整水蛇管18内を循環する水の役割とし、他方、温度調整水蛇管18内を循環する水の役割を被加熱用塗料の役割に置き換えると言う、まさしく発想の転換である。
【0013】
上述のように、被加熱側、則ち被加熱塗料側をボリューム(容積)が小さく且つ熱容量の少ない温度調整水蛇管の役割に、また、加熱側、則ち温度調整水蛇管の役割をボリューム(容積)が大きくて且つ熱容量が大きい被加熱用塗料の役割に置き換える、と言う発想の転換を行うことにより、熱交換時における熱交換効率を大幅に上げ得ることが可能となることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0014】
図2は、本発明に係る塗装用塗料温度調節装置の概念を示す概略図を示すものであり、以下その詳細を説明する。
【0015】
図2において、一点鎖線にて囲まれているブロック20は本発明に係る塗装用塗料温度調節装置全体の概略を示すもので、当該塗装用塗料温度調節装置20は、熱交換機本体21(図3にその詳細を示す。)と当該熱交換機本体21に連結する温度調節器22とにより構成されていている。そして、上記熱交換機本体21は熱交換機本体を構成するハウジング21aと当該ハウジング内に設けられた充填スペース21bと、当該充填スペース21b内にあって同充填スペース内を隙間無く満たすよう充填されている液体状熱交換媒体21cと、更には、当該液体状熱交換媒体21cの持つ熱エネルギー介在の基に熱交換を行う被加熱用熱交換コイル21dが配設されている。
【0016】
更に、前記熱交換器本体21に連結されている温度調節器22は、図示の通り、熱交換器本体21に連結し且つ連通して液体状熱交換媒体21cを循環させる往路配管22aと熱交換器本体21側より温度調節器22側に液体状熱交換媒体21cを循環させる復路配管22bとで構成されている。また、温度調節器22本体には、熱交換器本体21内を常に設定された流速で液体状熱交換媒体21cを循環させる循環用ポンプ(図示せず)と同液体状熱交換媒体21cを常に設定された所定温度となるよう液温を温度調節する自動温度調節装置(図示せず)が内在されている。
【0017】
一方、熱交換機本体21内の液体状熱交換媒体21cが充填されている充填スペース21b内に配置された被加熱用熱交換コイル21dの一方の配管は、塗装用塗料温度調節装置20の系外に配設されている塗料供給装置23に連結され、他方の配管はやはり塗装用塗料温度調節装置20の系外に配設されている塗装装置(塗装GAN)24に連結されている。なお、25は熱交換器本体21に内に配置された被加熱用熱交換コイル21dの出口側に設置されている温度センサーであって、塗装装置(塗装GAN)24における塗料26の塗装状況、則ち塗料26の粘度の状況を判断して、塗装用塗料の温度、則ち塗料粘度が常に一定な温度・粘度となるよう常に塗料温度をモニタリングし、前記温度調節器22にその電気信号(二点鎖線)をフィードバックさせて、熱交換器本体21内に充填され循環させている液体状熱交換媒体21cの液温を所定の温度となるよう温度を自動調節する役割を担っている。
【0018】
ところで、上記説明に於いて、本発明に係る塗装用塗料温度調節装置における液体状熱交換媒体21cは、不凍液等の水を使用するのが一般的であり経済的であるが、本発明に於いては、当該液体状熱交換媒体21cは水に限定されるものではない。則ち、水以外の例として有機系熱媒体、例えば、アルキルベンゼン系、アルキルナフタリン系、アルキルビフェニール系、ベンジル系、ジベンジル系、鉱油系、フッ素系、アリールアルキル系、等々を選択することができ、また、無機系熱媒体として、溶融塩系を選択することができる。要は塗装対象の塗料の種類を勘案し、当該塗料の最適粘度と塗料温度との相関並びに経済性との兼ね合いにおいて、適宜選択すればよい。
【0019】
次に、以上のように構成された本発明に係る塗装用塗料温度調節装置20におけるシステムの作動状況を図2および図3にて説明する。
【0020】
図2および図3において、塗料供給装置23より送出された塗装用塗料26は、先ず熱交換機本体21に送られ、当該熱交換機本体21内に充填され一定温度にて循環されている液体状熱交換媒体21c内に浸漬するよう設置された被加熱用熱交換コイル21dへと送出される。そして、更に塗装用塗料26は、当被加熱用熱交換コイル21dにおいて液体状熱交換媒体21cの持つ熱エネルギーを得て熱交換され、設定された塗料温度に昇温された後、塗料塗装装置24へと送出される。ところで、当該塗装用塗料温度調節装置20における塗装用塗料26の粘度(温度)調整は、塗料塗装装置24側の塗装状況を把握した上で、被加熱用熱交換コイル21dの出口側に設置されている温度センサー25における塗料温度を把握し、更に粘度を上げるか下げるかの必要性を判断した上で、やはり塗装用塗料温度調節装置20の系内に配設されている塗装用塗料温度調節装置22内に設けられている温度設定装置(図示せず)の温度設定が所定の温度となるよう調整し温度設定すればよい。
【0021】
なお、本発明に係る塗装用塗料温度調節装置20においては、各種塗装用塗料において塗料粘度を比較的高めに調整されたものを使用することにより、春夏秋冬等の季節による気温の温度変化並びに1日の気温変化に伴う粘度変化に対し、各種塗装用塗料の粘度が最適粘度となるように、各種塗装用塗料を加熱する方向で調節する必要がある。従って、本発明に係る塗装用塗料温度調節装置20においては、各種塗装用塗料を冷却し塗料粘度を上げる方向での調整は本発明に係る塗装用塗料温度調節装置設計上コストアップとなり有効ではない。
【発明の効果】
【0022】
以上に説明した通り、本発明に係る塗装用塗料温度調節装置においては、熱交換器本体を液−液・型の熱交換器とし、当該熱交換器における熱交換コイルを非加熱側とする発想の転換を図り、塗装用塗料を直接加熱し粘度調整する方式を採用したことによって、図1に示す従来装置に比較して熱交換効率を飛躍的に高めることができた。従って、四季における気温の変化並びに一日における気温の変動に対しても、塗料粘度をレスポンスよく微調整することが可能となった。一方、各種塗料おける初期の粘度設定を高めにしておけば、塗料粘度の調整を塗料温度の昇温のみにて粘度調整が可能とる為に、その機器構成がシンプルとなり製造コストを従来高知の装置に比較して低く押せることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0023】
本件発明に係る塗装用塗料温度調節装置において、図2および図3にて示す熱交換機本体21を下記仕様とし、当該熱交換機本体21内を循環する液体状#熱交換媒体21cを不凍液とした。さらに、塗装状態評価用の塗料を、湿気硬化型ウレタン系塗料:IMS−101(イシマット・ジャパン製)を用いて、本件発明に係る塗装用塗料温度調節装置の性能を評価した。その性能並びに評価を下記に示す。
【熱交換器本体仕様】
・充填スペース21b内の液体状熱交換媒体21c容量:1785cc
・被加熱用熱交換コイル21dの材質:アルミニウム製(パイプ外形:6φmm、パイプ内径:5φmm)
・被加熱用熱交換コイル21dの伝熱面積:0.019m
・被加熱用熱交換コイル21d内塗料流量:30g/min
【塗装用塗料温度調節装置の性能】
・液体状熱交換媒体21(不凍液)の設定温度:40℃
・熱交換機本体21への塗料投入温度:10℃〜12℃
・熱交換機本体21への塗料投入粘度:20Sec(フォードカップ:#4)
・熱交換機本体21出口の塗料吐出温度:35℃〜38℃
・熱交換機本体21出口の塗料吐出粘度:9Sec(フォードカップ:#)
【塗装用塗料温度調節装置の評価】
・外気温の影響を受け高粘度化していた湿気硬化型ウレタン系塗料は、本発明に係る塗装用塗料温度調節装置を介することで、瞬間的に塗料温度が上昇して、塗装作業に最適な塗装温度、即ち粘度に調整されることとなった。
【実施例2】
【0024】
本件発明に係る塗装用塗料温度調節装置において、図2および図3にて示す熱交換機本体21を下記仕様とし、当該熱交換機本体21内を循環する液体状熱交換媒体21cを不凍液とした。さらに、塗装状態評価用の塗料を、ポリウレタンアクリレートをプレポリマーとするポリウレタンアクリレート系UV硬化型塗料:IMS−010(イシマット・ジャパン製)を用いて、本件発明に係る塗装用塗料温度調節装置の性能を評価した。その性能を下記に示す。
【熱交換器本体仕様】
・充填スペース21b内の液体状熱交換媒体21c容量:1785cc
・被加熱用熱交換コイル21dの材質:チタン製(パイプ外形:6φmm、パイプ内径:5φmm)
・被加熱用熱交換コイル21dの伝熱面積:0.019m
・被加熱用熱交換コイル21d内塗料流量:30g/min
【塗装用塗料温度調節装置の性能】
・液体状熱交換媒体21(不凍液)の設定温度:60℃
・熱交換機本体21への塗料投入温度:10℃〜12℃
・熱交換機本体21への塗料投入粘度:24Sec(フォードカップ:#4)
・熱交換機本体21出口の塗料吐出温度:40℃〜48℃
・熱交換機本体21出口の塗料吐出粘度:11Sec(フォードカップ:#4)
【塗装用塗料温度調節装置の評価】
・外気温の影響を受け高粘度化していた湿気硬化型ウレタン系塗料は、本発明に係る塗装用塗料温度調節装置を介することで、瞬間的に塗料温度が上昇して、塗装作業に最適な塗装温度、即ち粘度に調整されることとなった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】公知の塗料供給装置の概略図を示す図。
【図2】本発明に係る塗装用塗料温度調節装置の概念を示す概略図。
【図3】本発明における熱交換機本体の詳細を示す図。
【符号の説明】
【0026】
11:被加熱用塗料
12:塗料缶
13:塗装装置
14:ポンプ
15:塗料送り配管
16:塗料戻り配管
17:温度計
18:温度調整水蛇管
19:塗料攪拌装置
20:本発明に係る塗装用塗料温度調節装置全体の概略図
21:熱交換機本体
21a:ハウジング
21b:充填スペース
21c:液体状熱交換媒体
21d:被加熱用熱交換コイル
22:温度調節器
23:塗料供給装置
24:塗装装置(塗装GAN)
25:温度センサー
26:塗装用塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器本体を構成するハウジング内に、液体状加熱用熱媒体を充填する充填スペースと当該充填スペース内に充填された液体状加熱用熱媒体と、さらに、前記液体状加熱用熱媒体の持つ熱エネルギーの存在下にて熱交換を行う被加熱用熱交換コイルとにより構成される熱交換器本体と、当該熱交換器本体の系外に別途用意され、前記熱交換器内に充填され且つ強制循環される前記液体状加熱用熱媒体自体を温度調節する温度調節器とにより構成され、前記被加熱用熱交換コイル内に被加熱用塗料を内在・移送させることを特徴とする塗装用塗料温度調節装置。
【請求項2】
請求項1の塗装用塗料温度調節装置において、液体状加熱用熱媒体が水(不凍水)にて構成されたことを特徴とする塗装用塗料温度調節装置。
【請求項3】
請求項1の塗装用塗料温度調節装置において、液体状加熱用熱媒体が水(不凍水)以外の蓄熱容量の大きい熱媒体にて構成されたことを特徴とする塗装用塗料温度調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−61801(P2007−61801A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278675(P2005−278675)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(501163657)
【Fターム(参考)】