説明

塗装膜厚制御方法

【課題】ロールコーターを用いて帯状体の両面に塗料を塗布する際に、塗装膜の厚さを均一に制御する方法を提供する。
【解決手段】1対のアプリケーターロールを用いて帯状体の両面に塗料を同時に塗布して塗装膜を形成しつつ塗装膜の厚さを制御する塗装膜厚制御方法において、帯状体の形状および/または位置を測定し、得られた測定値に基づいて1対のアプリケーターロールの押圧力を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の長尺物(以下、帯状体という)を長手方向に搬送しながら、ロールコーターを用いて連続的に塗装膜を形成するにあたって、帯状体の両面に形成される塗装膜の厚さを制御する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は、ロールコーターの一例を模式的に示す縦断面図である。図中の矢印aは帯状体1の搬送方向,矢印bはアプリケーターロール2の回転方向,矢印cはピックアップロール3の回転方向を示す。
ロールコーターは、必ずしも図3に示すようなアプリケーターロール2とピックアップロール3とを有するものではない。つまりピックアップロール3を配設せず、アプリケーターロール2が本来の機能に加えてピックアップロール3の役割を果たすロールコーターも実用化されている。
【0003】
ただし、以下では図3を参照してアプリケーターロール2とピックアップロール3とを有するロールコーターの例について説明する。
長手方向に搬送される帯状体1の両面に当接して1対のアプリケーターロール2が配設され、各々のアプリケーターロール2に当接するように1対のピックアップロール3が配設される。ピックアップロール3はその一部が塗料槽6内の塗料4に浸漬されており、ピックアップロール3が矢印cの方向に回転することによって、表面に付着した塗料4が塗料槽6から引き上げられる。次いで、ピックアップロール3とアプリケーターロール2が当接する部位で塗料4がアプリケーターロール2表面へ移動し、さらにアプリケーターロール2と帯状体1が当接する部位で塗料4が帯状体1表面へ移動する。こうして帯状体1の両表面に塗装膜5が連続的に形成される。
【0004】
この塗装膜5の厚さが不均一であれば、塗装膜5の外観を損なうばかりでなく、帯状体1の表面が露出する惧れがある。特に帯状体1が冷間圧延あるいは熱間圧延を施した鋼帯である場合には、鋼帯の表面が露出すると耐食性の向上を達成できない。ここでは、塗装膜5を形成した鋼帯を、素材の鋼帯と区別するために塗装鋼帯と記す。
また、鋼帯の表面に金属めっき(たとえば溶融亜鉛めっき等)を施しさらにクロメート皮膜を形成して耐食性を向上させたクロメート鋼帯についても、環境保護の観点から、有害元素であるCrを含有するクロメート皮膜に替わる技術が求められている。特に、クロメート皮膜に替えて、有機塗料や無機塗料の塗装膜を形成した鋼帯(いわゆるクロメートフリー鋼帯)が注目されている。
【0005】
このようなクロメートフリー鋼帯の製造工程では、鋼帯に施した金属めっきの表面に塗料を塗布するために、ロールコーターが広く採用されている。その際、塗装膜5の厚さが不均一になると、クロメート鋼帯に匹敵するような耐食性は得られない。
塗装鋼帯やクロメートフリー鋼帯の耐食性を向上するためには、塗装膜5の厚さを増大すれば良い。しかし塗装膜厚の増加は、導電性の低下を招く。塗装鋼帯やクロメートフリー鋼帯の用途は自動車部品や電機部品であり、所定の形状を有する部品に加工する工程で溶接が採用される。したがって塗装膜厚を増加すれば、導電性の低下によって溶接が困難になり、各種部品の生産性および歩留りが低下する原因になる。
【0006】
そこでロールコーターを用いて塗料を塗布する際に、塗装膜の厚さを制御する技術が種々検討されている。
たとえば特許文献1,2には、塗料の付着量を測定し、その測定値に応じてアプリケーターロールとピックアップロールの押圧力を調整する技術が開示されている。これらの技術は帯状体(すなわち鋼帯)の片面に塗料を塗布するものである。帯状体の両面に塗料を塗布する場合には塗料付着量の測定精度が低下し、その結果、塗装膜の厚さが不均一になるのは避けられない。
【0007】
また特許文献1,2の技術を軟質の帯状体(たとえば薄鋼帯等)に適用する場合には、アプリケーターロールとバックアップロールによって帯状体が矯正されて平坦になり、均一な塗装膜を形成することは可能である。しかし、硬質の帯状体(たとえば厚鋼帯等)に適用する場合には、帯状体の反りが矯正されず、アプリケーターロールと帯状体との距離を一定に維持できないので、塗装膜の厚さが不均一になるのは避けられない。
【特許文献1】特開平5-185019号公報
【特許文献2】特開2001-29874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような問題を解消し、ロールコーターを用いて帯状体の両面に塗料を塗布する際に、塗装膜の厚さ(以下、塗装膜厚という)を均一に制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、1対のアプリケーターロールを用いて帯状体の両面に塗料を同時に塗布して塗装膜を形成しつつ塗装膜の厚さを制御する塗装膜厚制御方法において、帯状体の形状および/または位置を測定し、得られた測定値に基づいて1対のアプリケーターロールの押圧力を調整する塗装膜厚制御方法である。
本発明の塗装膜厚制御方法においては、1対のアプリケーターロールの入側および/または出側にて帯状体の形状および/または位置を測定することが好ましい。また1対のアプリケーターロールに配設される合計4ケ所のチョックの位置を調整することによって押圧力を調整することが好ましい。
【0010】
本発明の塗装膜厚制御方法は、厚さ2mm超えの鋼帯に適用することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロールコーターを用いて帯状体の両面に塗料を塗布する際に、塗装膜の厚さを均一に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明を適用するロールコーターの一例を模式的に示す縦断面図である。長手方向に搬送される帯状体1の両面に当接して1対のアプリケーターロール2が配設され、各々のアプリケーターロール2に当接するように1対のピックアップロール3が配設される。ピックアップロール3はその一部が塗料槽6内の塗料4に浸漬されており、ピックアップロール3が矢印cの方向に回転することによって、表面に付着した塗料4が塗料槽6から引き上げられる。次いで、ピックアップロール3とアプリケーターロール2が当接する部位で塗料4がアプリケーターロール2表面へ移動し、さらにアプリケーターロール2と帯状体1が当接する部位で塗料4が帯状体1表面へ移動する。こうして帯状体1の両表面に塗装膜5が連続的に形成される。
【0013】
さらに本発明では、帯状体1の両面に対向して距離計7を配設し、帯状体1と距離計7との間隔を計測する。距離計7を配設する位置は、アプリケーターロール2が帯状体1に当接する前(以下、入側という)でも良いし、アプリケーターロール2が帯状体1に当接した後(以下、出側という)でも良い。ただしアプリケーターロール2の出側に距離計7を配設すると、塗装膜5が形成された後で帯状体1との間隔を計測することになるので、計測精度が低下する。したがって、距離計7はアプリケーターロール2の入側に配設するのが好ましい。なお、アプリケーターロール2の入側および出側に距離計7を配設すれば、計測精度が一層向上する。
【0014】
ここでは図1を参照して、アプリケーターロール2の入側に距離計7を配設する例について説明する。図2は、図1中のA−A矢視の断面図であり、帯状体1の幅方向に3対の距離計7a,7b,7cを配設する例を示す。
帯状体1の幅方向に1対または2対の距離計を配設するのみでは、帯状体1の形状や位置の測定精度が低下する。したがって、帯状体1の幅方向に3対(合計6個)以上の距離計を配設するのが好ましい。
【0015】
帯状体1の幅方向に多数の距離計を配設すると、帯状体1の形状や位置の測定精度が向上することは言うまでもない。したがって、配設される距離計の数は帯状体1の幅方向に3対以上が好ましく、その上限値は特に規定しない。ただし距離計の数が増加すれば、メンテナンスに要する労力が増大し、かつ距離計によって計測されたデータ(すなわち帯状体1と距離計7との間隔)を演算する負荷が増大する。この点を考慮し、ロールコーターの寸法や要求される塗装膜厚の許容範囲等に応じて、距離計の数(好ましくは3対以上)を設定する。
【0016】
ここでは図2を参照して、帯状体1の幅方向に3対の距離計7を配設する例について説明する。
帯状体1の両面に対向して配設される距離計7a,7b,7cを用いて、各距離計7a,7b,7cと帯状体1との間隔を計測する。得られたデータを演算することによって、帯状体1の形状(たとえば反り,波うち等)や位置(たとえばパスラインからのズレ等)を測定する。得られた測定値に基づいてアプリケーターロール2の押圧力を調整する。ここでアプリケーターロール2の押圧力とは、1対のアプリケーターロール2が帯状体1を押し付ける圧力を指す。
【0017】
アプリケーターロール2の押圧力を調整する際には、1対のアプリケーターロール2をそれぞれ支持する合計4個のチョック(図示せず)の位置を調整する。つまり1対のアプリケーターロール2の間に設けられる隙間を狭くすれば押圧力は増加し、隙間を広げると押圧力が減少する。帯状体1の形状および/または位置に応じてチョックの位置を調整することによって、帯状体1を矯正しつつ塗料4を塗布する。
【0018】
アプリケーターロール2の押圧力が2940N/cm2(=300kgf/cm2)未満では、帯状体1の反りや波うちを矯正する効果が得られず、塗装膜厚を一定に維持できない。一方、押圧力が3920N/cm2(=400kgf/cm2)を超えると、過大な負荷が作用するのでアプリケーターロール2の耐用性が低下するばかりでなく、帯状体1の厚さが減少する。したがって、アプリケーターロール2の押圧力は2940〜3920N/cm2の範囲内が好ましい。この範囲内で押圧力を調整すれば、厚さが2mmを超える鋼帯に均一な塗装膜を形成することが可能である。
【0019】
帯状体1として厚さが2mmを超える鋼帯に本発明を適用する場合は、厚さが4.5mmを超えると、アプリケーターロール2の押圧力を上記の範囲で調整しても矯正効果は得られない。したがって本発明は、厚さが2mm超え4.5mm以下の鋼帯に適用するのが好ましい。
【実施例】
【0020】
図1に示すロールコーターを使用して、帯状体1の両面に塗料4を塗布して塗装膜5を形成した。帯状体1は、熱間圧延を施し、さらに溶融亜鉛めっきを施した鋼帯(以下、溶融亜鉛めっき鋼帯という)を用いた。なお、溶融亜鉛めっき鋼帯の寸法は厚さ3.0mm,幅1219mm、亜鉛付着量はZ18(120/120g/m2相当)、搬送速度は30m/分である。塗料4はフェノール−ウレタン樹脂塗料を使用した。また、図2に示すように、アプリケーターロール2の入側に3対(合計6個)の距離計7a,7b,7cを、溶融亜鉛めっき鋼帯の幅方向の両端部(最端部から100mm内側部)と中央部に配設した。
【0021】
これらの距離計7a,7b,7cを用いて溶融亜鉛めっき鋼帯との距離を計測し、そのデータを演算することによって溶融亜鉛めっき鋼帯の形状と位置を測定した。得られた溶融亜鉛めっき鋼帯の形状と位置に応じて、アプリケーターロール2のチョック(合計4個)の位置を調整することによって、塗装膜5の厚さ(すなわち塗装膜厚)を一定に制御した。塗装膜厚の目標値は、塗料4が乾燥した後の付着量を片面あたり1.5g/m2とし、塗装膜厚が目標値を維持するように1対のアプリケーターロール2の押圧力を2940〜3920N/cm2の範囲内で調整した。これを発明例とする。
【0022】
一方、比較例として、図3に示すロールコーターを使用して、溶融亜鉛めっき鋼帯の両面に塗料4を塗布して塗装膜5を形成した。つまり、距離計7a,7b,7cを使用せず、アプリケーターロール2のチョック(合計4個)の位置を固定した他は、発明例と同じ条件である。
発明例と比較例について、溶融亜鉛めっき鋼帯の両面に形成された塗装膜5が乾燥した後、それぞれ直径60mmの試料を溶融亜鉛めっき鋼帯の先端部,後端部それぞれ幅方向の両端部(最端部から100mm内側部)と中央部の両表面、合計12ケ所から切り出し、塗装膜5の付着量を測定した。得られた測定値を片面単位面積(=1m2)の付着量に換算し、その最大値と最小値の差(以下、付着量差という)を算出した。その結果、発明例は付着量差0.1g/m2であったのに対して、比較例は付着量差0.3g/m2であった。
【0023】
つまりロールコーターを用いて帯状体の両面に塗料を塗布する際に本発明を適用すれば、塗装膜の厚さを精度良く制御できることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用するロールコーターの一例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1中のA−A矢視の断面図である。
【図3】従来のロールコーターの一例を模式的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 帯状体
2 アプリケーターロール
3 ピックアップロール
4 塗料
5 塗装膜
6 塗料槽
7 距離計
7a 帯状体端部の距離計
7b 帯状体中央部の距離計
7c 帯状体端部の距離計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のアプリケーターロールを用いて帯状体の両面に塗料を同時に塗布して塗装膜を形成しつつ前記塗装膜の厚さを制御する塗装膜厚制御方法において、前記帯状体の形状および/または位置を測定し、得られた測定値に基づいて前記1対のアプリケーターロールの押圧力を調整することを特徴とする塗装膜厚制御方法。
【請求項2】
前記1対のアプリケーターロールの入側および/または出側にて前記帯状体の形状および/または位置を測定することを特徴とする請求項1に記載の塗装膜厚制御方法。
【請求項3】
前記1対のアプリケーターロールに配設される合計4ケ所のチョックの位置を調整することによって前記押圧力を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の塗装膜厚制御方法。
【請求項4】
前記帯状体が厚さ2mm超えの鋼帯であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装膜厚制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−313482(P2007−313482A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148358(P2006−148358)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】