説明

塗装表面のコーティング剤およびその製造方法

【課題】自動車の塗装表面に撥水性や光沢、防汚性等を付与する美麗で良質な被膜が、簡易迅速に得られるようにすること。
【解決手段】液状の石油系溶剤と、シリコーンオイルに界面活性剤を添加してシリコーンオイルを分散させた活性剤と、水と、塗装表面に対して研磨や被膜形成の作用を行う作用粒子を含有し、上記石油系溶剤20aと、上記活性剤および水が混ざり合ってシリコーンオイルが水に分散された状態の混合液20bとが分離した不安定な状態にしてエアゾール缶21に封入された塗装表面のコーティング剤20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車などの塗装表面に、撥水性や光沢をもつ被膜を形成するようなコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなコーティング剤として、たとえば下記特許文献1に開示されたようなものがある。これは、フッ素樹脂と、天然ロウ又は合成ロウと、これらを溶解又は分離する有機溶剤と、クリーナー用又は均一な被膜づくりのための拭き取り作業用としての無機あるいは有機の微粉体(たとえばカオリン、タルク、四弗化エチレン樹脂パウダーなど)とを混合して、O/W型エマルジョン、あるいはW/O型エマルジョンの乳化状態にしたものである。
【0003】
このコーティング剤によれば、ウレタンスポンジにとって塗り拡げ、約15分間自然乾燥させた後に、きれいな綿タオルで磨き上げ作業を行うと、ワックス被膜が形成される。
【0004】
しかし、上記のコーティング剤は、乳化した安定状態のもの(安定したエマルジョン)であるので、ぬれたタオルや湿ったタオルでは拭き上げができず、乾いたタオルで磨き上げなければならない。しかも、上記のように自然乾燥させる時間も必要であり、コーティング剤が安定したエマルジョンである故に、塗装表面では油分と汚れが絡み合った状態であって、べた付き感があり、磨き上げには時間が掛かる。また、磨き上げには乾いたタオルを用いるので、力を入れすぎると被膜に傷がつくおそれがある。
【0005】
このように、乳化したコーティング剤では作業性が悪いなどの難点があった。また、コーティング剤が残った状態のまま洗車機にかけたりして洗車した場合には、コーティング剤や汚れがブラシに付着してしまい、ブラシをひどく汚してしまう問題もある。
【特許文献1】特開平11−193376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、油性と水性の双方の作用を十分に生かして、美麗で良質な仕上げを簡易迅速にできるようにすることを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段は、塗装表面に対して研磨や被膜形成の作用を行う作用粒子を含有した塗装表面のコーティング剤であって、液状の石油系溶剤と、シリコーンオイルに界面活性剤を添加してシリコーンオイルを分散させた活性剤と、水と、作用粒子を含有し、上記石油系溶剤と、上記活性剤および水が混ざり合ってシリコーンオイルが水に分散された状態の混合液とが分離した不安定な状態にしてエアゾール缶に封入された塗装表面のコーティング剤である。
【0008】
使用に当たっては、塗装表面を洗浄した後、まず、コーティング剤を塗装表面に噴射して塗布する。コーティング剤はエアゾール缶に封入されているので、各成分が均一に満遍なく塗布される。
【0009】
次に、スポンジ等を用いて、コーティング剤が塗布された塗装表面を磨く。磨くことにより、石油系溶剤が汚れを落とすとともに、その揮発性により塗装表面を乾かす。また、作用粒子が、研磨やレベリング、潤滑性付与、防汚性付与、被膜形成などの作用を行う。このとき、石油系溶剤と混合液とは実質的に分離した不安定な状態であり、安定したエマルジョンのように油と水とが結合した状態ではなく、油と水とは基本的に離れた状態となっている。このため、塗装表面の磨きが完了するころには、塗装表面に作用粒子や汚れが浮いた状態となる。
【0010】
この状態で水をかけると、油分が容易に流れ落ちて、油によるべた付きのない塗装表面が得られる。塗装表面には一部の作用粒子や汚れが残るが、続いて、タオル等で拭き上げることによって、美麗な塗装表面が現れる。塗装表面には油分がないので、拭き上げに用いるタオルは、乾いたものでなくともよく、しかも、短時間で拭き上げられる。
【0011】
別の手段は、塗装表面に対して研磨や被膜形成の作用を行う作用粒子を含有した塗装表面のコーティング剤の製造方法であって、液状の石油系溶剤に対して、シリコーンオイルに界面活性剤を添加してシリコーンオイルを分散させた活性剤を混合した後、水および作用粒子の混合物を加えて攪拌し、エアゾール缶に封入する塗装表面のコーティング剤の製造方法である。
【0012】
石油系溶剤に対して活性剤を混合した後に、水と作用粒子の混合物を加えるので、作用粒子が固まることなく、均一に分散した状態とすることができ、石油系溶剤と水と作用粒子の作用を確保できる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、この発明によれば、コーティング剤は、油性と水性の双方の特性を兼ね備えたものである。この結果、塗布して磨いた後に水で流すという新規な処理方法を採用することができ、美麗で良質な仕上げ状態を簡易迅速に得られるという効果を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明を実施するための一形態を、以下説明する。
コーティング剤は、液状の石油系溶剤と、シリコーンオイルに界面活性剤を添加してシリコーンオイルを分散させた活性剤と、水と、塗装表面に対して研磨等の作用を行う作用粒子とからなる。
【0015】
上記の石油系溶剤は、塗装表面の油性成分(汚れ)を除去したりするためのもので、適宜のものが使用できるが、たとえばイソパラフィン系などの脂肪族炭化水素や灯油を用いるとよい。
【0016】
好ましくは、これらを混合するとよく、この場合、特に灯油が塗装表面の汚れ落としに奏効する。また、脂肪族炭化水素も汚れを落とすとともに、塗装表面を乾燥させる。
【0017】
さらに好ましくは、脂肪族炭化水素には、揮発性の異なるもの、換言すれば、揮発性の高いものとそれよりも低いも、あるいは揮発性の低いものとそれよりも高いものを混合するとよい。灯油と混合する場合には、少なくとも灯油の揮発性よりも高いものを、揮発性の高いほうの脂肪族炭化水素として混合する。このような脂肪族炭化水素として、市販のものでは、揮発性が高いほうのものとして、たとえば出光興産株式会社製「IPクリーン LX」が使用でき、揮発性の低いほうのものとしては、たとえば出光興産株式会社製「IPクリーン HX」が使用できる。
【0018】
上記の活性剤は、上記組成中の油分と水分を分離させてバランスの崩れた不安定な状態を作り出すためのもので、たとえばアミノ変性シリコーンオイルにノニオン系または両性界面活性剤を添加して得られる。望ましくはノニオン系界面活性剤を使用するとよく、ノニオン系界面活性剤を添加することにより、アミノ変性シリコーンオイルが分散される。
【0019】
上記の水には、通常の水道水が使用できるが、適宜に処理して所望の正常にしたものを用いてもよい。
【0020】
上記の作用粒子には、一般に用いられる、カオリン、タルク、珪藻土、酸化アルミ、炭化カルシウム、ゼオライト、アルミナ、四弗化エチレン樹脂パウダーなど、各種の粒子を適宜使用できる。
【0021】
好ましくは、塗装表面の汚れを落とすとともに、細かな傷を除去するため、主として研磨をする研磨材と、主としてすべりを良くするためのタルクと、主として被膜を形成するための四弗化エチレン樹脂パウダーの3種類を含有するのがよい。研磨材としては、上記例のように様々なものを採用できるが、カオリン、特に焼成してモース硬度を3としたカオリンを用いるのが望ましい。カオリンは、珪藻土や酸化アルミのように高度が高くないので、塗装表面を傷つけるおそれがないのでよいが、モース硬度が0であって柔らかすぎるので、焼成することによって、モース硬度を3に上げると、塗装表面を良好に研磨できる。粒径は1μm以下のものがよい。上記の四弗化エチレン樹脂パウダーには、たとえば5μmほどの粒子を用いる。
【0022】
製造にあたっては、まず、石油系溶剤に、活性剤を混合する。この混合液に、作用粒子を水で溶いたものを加えて攪拌する。その後、適宜の噴射剤とともにエアゾール缶に封入する。
【0023】
最も好ましい具体例を、次に説明する。
石油系溶剤として、灯油と、灯油と同程度またはそれよりも若干低い揮発性を有するイソパラフィン系脂肪族炭化水素である、出光興産株式会社製「IPクリーン HX」と、これよりも揮発性の高いイソパラフィン系脂肪族炭化水素である、出光興産株式会社製「IPクリーン LX」とを用いる。これらの割合は、揮発性の程度にもよるが、およそ1:1:1でよい。
【0024】
作用粒子としては、上述の如く、焼成してモース硬度を3とした粒径1μm以下のカオリンと、タルクと、粒径5μmほどの四弗化エチレン樹脂パウダーとを用いる。
【0025】
石油系溶剤と、活性剤と、水と、各作用粒子の配合は、それぞれ重量%で、35〜38%程度、7〜9%程度、25〜30%程度、25〜30%程度である。換言すれば、石油系溶剤と水との割合は、100:75程度、水と活性剤との割合は100:30程度であるのがよい。
【0026】
含有する作用粒子の量にも左右されると思われるが、石油系溶剤に対する水の割合が少ないと、作用粒子がエアゾール缶内で固まってしまい、使用できないことが起こる。作用粒子の量を上記例と同じとし、石油系溶剤と水の割合を100:42として製造したエアゾール缶封入のコーティング剤では、製造後1週間で、使用不可能な状態となってしまった。
【0027】
より詳しくは、石油系溶剤36.6%、活性剤8.1%、水27.74%、カオリン5%、タルク16.2%、四弗化エチレン樹脂パウダー6.36%である。
【0028】
図1は、上記の各成分からなるコーティング剤の製造方法を示す説明図である。
この図に示すように、まず、2種類のイソパラフィン系脂肪族炭化水素11,12と灯油13を混合し、この溶剤14に活性剤15を添加する。これに、カオリン16とタルク17を水18で溶いたものを混合して攪拌する。先に活性剤15を添加しているため、カオリン16とタルク17を水18で溶いたものが均一に分散する。つづいて、作用粒子の一つである四弗化エチレン樹脂パウダー19を加えて攪拌して、コーティング剤20を得る。四弗化エチレン樹脂パウダー19はカオリン16等と一緒に水18に混ぜて加えるようにするもよい。最後に、図示は省略するが適宜の噴射剤とともに、図2に示したようにエアゾール缶21に封入すれば、エアゾール缶入りのコーティング剤は完成する。
【0029】
図2中、22は耐圧容器、23はデップチューブ、24はバルブ、25はボタン、26はキャップであり、耐圧容器内の内容物(液相)が噴射剤とコーティング剤20であり、内容物の上方空間には噴射剤蒸気(気相)が存在する。
【0030】
この図2に示すように、コーティング剤20は、上に石油系溶剤20a、その下に、水を主とし、活性剤によってわずかに乳化した混合液20bとを有し、この混合液20b中に作用粒子が分散している。つまり、石油系溶剤20aと水を主とする混合液20bとが分離した不安定な状態である。
【0031】
このようにして製造されたエアゾール缶入りのコーティング剤(以下、「本コーティング剤」という。)を用いて、図3に示したような工程で、自動車の塗装表面の処理を行った。
【0032】
比較例として、石油系溶剤や水、作用粒子の成分割合が同等で、アニオン系界面活性剤3%を用いて安定したエマルジョンとしたコーティング剤(以下、「安定エマルジョン型コーティング剤」という。)を製造し、これを用いて、同一の工程で、自動車の塗装表面の処理を行った。
【0033】
図3に示す工程は、まず、洗車機で自動車を洗浄n1した後、コーティング剤を均一に満遍なく塗布n2する。次にスポンジバフを用いて均一に磨きn3を行う。続いて水をかけるだけの水洗いn4を行い、その後、拭き上げn5を行う、というものである。上記の水洗いn4は、洗車機でも行える。
【0034】
塗装表面の処理は、同一の自動車のボティーにマスキングテープを貼り付けて、本コーティング剤の試験区(試験区1)と、安定したエマルジョン型コーティング剤の試験区(試験区2)とを設け、それぞれの試験区に対して同様に行った。その結果は、図4に示す写真の通りとなった。
【0035】
すなわち、コーティング剤を塗布してから磨くと、試験区1では、1〜2分でコーティング剤の成分を主とする白くものが塗装表面にあらわれた。この白いものは、コーティング剤中の、作用粒子が研磨カスや汚れとともに浮き上がってあらわれるものである。試験区1においては白いものからなる線が細く、線の数も試験区2におけるものよりも少なくあっさりした印象を受ける。実際、さらさらの粉が付着したような状態なる。一方、試験区2の場合には、全体的にべたっとしており、白い線が太く、その数も多い。油分と汚れが絡み合った状態である。
【0036】
このように白い線があらわれた状態で水をかけて水洗いをすると、試験区1では、塗装表面のものが水とともに流れ落ちる。写真にはっきりとあらわれているように、白い線の一部も水によって流れ落ちている。一方、試験区2では、水滴がたくさん付着した状態となっているだけで、白い線は水洗い前と同じ状態である。水滴の付着により、べとべと感が高まった。
【0037】
この後、ぬれたタオルを固く絞って、拭き上げを行った。試験区1では、塗装表面には、水洗いによって油分が洗い流されたためか、油々したべたつき感じがなく、短時間でさっと拭き上げることができた。しかも、拭き上げた後の状態は、写真にはっきりとあらわれているように、カメラを持つ人の手までも明確に映る、鏡面となる。しかも、拭き上げに使用したタオルの汚れもひどくはなかった。一方、試験区2では油々しており、湿ったタオルでは拭き上げができなかった。乾いたタオルを用いて改めて拭き上げた結果が、写真にみられる状態である。拭き上げには試験区1のときよりも長い時間が必要であった。仕上がりは、試験区1の場合に比して光沢がなく、カメラを持つ人の手はほとんど見えない状態である。
【0038】
このように、試験区1と試験区2では、処理にかかる時間と、仕上がり状態に大きな違いがあった。
【0039】
なお、上述のコーティング剤の塗布と磨きの工程について説明すると、コーティング剤の塗布により、コーティング剤中の石油系溶剤が塗装表面の汚れを除去する。また、磨きにより、石油系溶剤による汚れ除去とともにカオリンによる研磨で、汚れと細かな傷の除去がなされ、塗装表面は平滑化される。このとき、タルクは磨き作業における滑りを良くし、塗装表面の平滑化を行い、同時に、四弗化エチレン樹脂パウダーを主とする被膜の形成に資する。この工程において、石油系溶剤中の揮発性の高い成分は、その揮発性により塗装表面を乾かす一方、揮発性の低い成分は塗装表面に残って汚れの除去を行う。揮発性の高い成分を有することによって、磨きに要する作業時間を短縮することができる。このようにして磨かれた後は、上述のように、研磨カスや作用粒子からなる上述の白い線があらわれる。このような状態であるので、水洗いによって、塗装表面に残った石油系溶剤と研磨カスなど、特に油分は水と結合していないので、かけた水とともにさっと流れ落ちる。この結果、上述のような、ぬれたタオルによる簡単な拭き上げで、塗装表面に美麗な鏡面を形成できる。
【0040】
上述のように水洗いで油分がさっと流れ落ちるので、洗車機を用いて水洗いを行っても、洗車機のブラシを汚してしまうようなことはない。
【0041】
この発明の構成と、上記一形態の構成との対応において、
この発明の作用粒子は、上記のカオリン15、タルク16、四弗化エチレン樹脂パウダー19に対応するも、
この発明は上記の構成のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】コーティング剤の製造工程を示す説明図。
【図2】エアゾール缶に封入されたコーティング剤の断面図。
【図3】塗装表面の処理工程を示す説明図。
【図4】実験結果を示す写真。
【符号の説明】
【0043】
11,12…イソパラフィン系脂肪族炭化水素
13…灯油
15…活性剤
16…カオリン
17…タルク
18…水
19…四弗化エチレン樹脂パウダー
20…コーティング剤
20a…石油系溶剤
20b…混合液
21…エアゾール缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装表面に対して研磨や被膜形成の作用を行う作用粒子を含有した塗装表面のコーティング剤であって、
液状の石油系溶剤と、シリコーンオイルに界面活性剤を添加してシリコーンオイルを分散させた活性剤と、水と、作用粒子を含有し、
上記石油系溶剤と、上記活性剤および水が混ざり合ってシリコーンオイルが水に分散された状態の混合液とが分離した不安定な状態にしてエアゾール缶に封入された
塗装表面のコーティング剤。
【請求項2】
前記石油系溶剤に、揮発性の異なるものが混合された
請求項1に記載の塗装表面のコーティング剤。
【請求項3】
塗装表面に対して研磨や被膜形成の作用を行う作用粒子を含有した塗装表面のコーティング剤の製造方法であって、
液状の石油系溶剤に対して、シリコーンオイルに界面活性剤を添加してシリコーンオイルを分散させた活性剤を混合した後、水および作用粒子の混合物を加えて攪拌し、エアゾール缶に封入する
塗装表面のコーティング剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−280426(P2008−280426A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125318(P2007−125318)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(507124782)株式会社アピカ (1)
【Fターム(参考)】