説明

塗装装置

【目的】 電着工程において被塗物に付着した電着液を乾燥するためのオーブンにおける電着液の二次タレを防止して塗装品質を向上させることである。
【構成】 被塗物に対して電着塗膜を形成する電着工程11と、この電着工程で被塗物に形成された電着膜を乾燥硬化させるオーブン51との間に、タレ切れゾーン52が設置されている。このタレ切れゾーンにおける被塗物の搬送時間は7分以上に設定したり、タレ切れゾーンに設けられた洗浄工程において使用する洗浄液として界面活性剤が含まれた洗浄液を使用したり、その洗浄液ないし被塗物を30℃以上の温度にすることにより、電着液のタレ切れ性を向上させて、塗装品質の向上が達成される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電着工程と電着塗膜を乾燥硬化させるオーブンとを有する塗装装置に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車車体の塗装工程は、通常、電着塗装による下塗り塗装工程と、それぞれ主として静電塗装による中塗り及び上塗り塗装工程とを有している。自動車車体は、予め前処理工程により車体に付着している油類を除去すると共に鋼板面に化学的に安定な無機質膜を形成された後に、下塗り塗装工程としての電着工程に搬送される。この電着塗装工程を通過した後の車体は、電着塗膜を乾燥硬化するためにオーブンつまり乾燥炉内に搬送され、次いで、中塗り塗装工程と上塗り塗装工程に順次搬送される。このことは例えば自動車工学全書第19巻「自動車の製造方法」昭和55年4月20日;株式会社山海堂発行の第202頁〜第208頁「塗装設備」の項目の中で紹介されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】電着塗装工程において下塗り塗装が完了した後の自動車車体は、上述したように、オーブンにまで搬送されてここで下塗り塗膜が乾燥硬化されることになる。この下塗り塗膜の上には中塗り塗膜と上塗り塗膜が形成されるために、もしもこの下塗り塗膜の塗膜厚さが所定の膜厚とならないと、最終的な上塗り塗膜面の仕上りが良好とならない。
【0004】最終的な塗膜面の仕上りが良好とならない場合における塗装欠陥の発生原因を追及したところ、下塗り塗膜を形成するための電着塗装の塗膜面が良好の膜厚となっていないためであると判明した。つまり、塗装作業の迅速化を達成するために、従来では、電着塗装工程を終了した自動車車体をなるべく早くオーブンに搬入するようにしているが、電着工程を通過した車体から余分な電着液が除去されない状態で車体をオーブンに搬入すると、余分な電着液が車体に沿って流れている状態で車体がオーブンに搬入されることになり、車体には一部に他の部分よりも膜厚が厚くなった部位が発生し、均一な塗膜面が最終的に形成されなくなる部分が発生することがある。特に、被塗物である自動車車体には、ドアの内部等のように袋状となった部位が存在しており、この部分から電着液がタレて自動車車体の表面に沿って徐々に流れることがあり、これが良好な塗膜面の形成に影響を与えていることが判明した。
【0005】本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、電着工程を通過した後の自動車車体から充分に電着液が除去された後にオーブンに搬入されるようにして、塗装品質を向上させるようにすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明は、被塗物に電着塗膜を形成する電着工程と、この電着工程で前記被塗物に形成された電着膜を乾燥硬化させるオーブンとの間に、前記電着工程で前記被塗物に付着した余分な電着液を電着工程が終了し前記オーブンに搬入されるまでに前記被塗物から除去するタレ切れゾーンを設置したことを特徴とする塗装装置である。前記タレ切れゾーンにおいては、ここにおける前記被塗物の搬送時間を7分以上に設定したり、界面活性剤が含まれた洗浄液を被塗物に吹き付けるようにしたり、前記被塗物に吹き付けられる洗浄液の温度、または前記被塗物の温度を30℃以上にされる。
【0007】
【作用】上記構成の本発明にあっては、電着工程とオーブンとの間にタレ切れゾーンが設けられており、このタレ切れゾーンにおいては、被塗物の搬送時間、洗浄液の温度ないし被塗物の温度を所定の温度に設定することにより、タレ切れ性が大幅に向上し、オーブン通過後の被塗物に対して中塗り塗装や上塗り塗装を終了した後における塗装品質が向上した。
【0008】
【実施例】図1及び図2は本発明の塗装装置の一実施例を示す図であり、図においては、塗装工程のうち、前処理や化成処理工程が終了した後の車体に対して電着塗装する工程からその後に電着塗膜面を乾燥硬化させるオーブンまでの部分のうち、前半の部分が図1に示され、後半の部分が図2に示されている。
【0009】図示される塗装工程は、被塗物である自動車車体を吊り下げた状態で搬送するコンベア10に沿って配置されている。これの上流側には、自動車車体に対して下塗り塗装としての電着塗装を行なう電着槽11が配置されており、この電着槽11により電着工程が形成されている。電着槽11の搬出側にはサブタンク12が配置され、電着槽11から搬出される車体によって排出された電着液Lはこのサブタンク12内に収容される。サブタンク12内の電着液Lを電着槽11に戻すために、サブタンク12と電着槽11との間には循環路13が接続され、この循環路13にはポンプPとフィルターFが設けられている。
【0010】サブタンク12の下流側には、第1〜第3水洗工程21a〜21cが配置されており、それぞれの水洗工程21a〜21cの下方には、車体に吹き付けられた洗浄液を回収するための回収タンク22a〜22cが配置されている。回収タンク21a〜21c内の洗浄液を、車体に対して吹き付けるスプレイノズル23a〜23cを有する循環路24a〜24cが回収タンク21a〜21cに接続されており、それぞれの循環路24a〜24cにはポンプPとフィルターFとが設けられている。
【0011】第3水洗工程21cの下流側には、第4水洗工程としてディップ水洗槽31が配置され、この搬出側にはディップ水洗槽31からオーバーフローした洗浄液を収容するためのサブタンク32が配置されている。このディップ水洗槽31には、車体に洗浄液を吹き付けるスプレイノズル33を有する循環路34が接続され、この循環路34にはポンプPとフィルターFが設けられている。更に、ディップ水洗槽31には、この中に搬入される前の車体に対して洗浄液を吹き付けるスプレイノズル35を有する循環路36が接続されている。
【0012】サブタンク32の下流側には、最終の洗浄工程41が設置されており、この洗浄工程で車体に吹き付けられた洗浄液を回収する回収タンク42内の洗浄液は、スプレイノズル43を有する循環路44により車体に供給される。更に、このスプレイノズル43の下流側には、スプレイノズル45を有する洗浄液供給路46が設けられており、タンク47内に供給された工業用水が供給路46により車体に吹き付けられる。
【0013】このような水洗工程を終了した被塗物である車体は、コンベア10によりオーブンつまり乾燥炉51に搬入される。前述した電着槽11からオーブン51までの領域がタレ切れゾーン52となっている。このタレ切れゾーン52を搬送される間の時間を長くすることにより、電着液Lのタレを減少させることが可能となった。
【0014】図3はタレ切れゾーン52におけるコンベア10の搬送速度を従来と同様の速度とした場合(実験例1)と、搬送速度を低速にした場合(実験例2)とについて、自動車のサイドシルの部分から落下する電着液Lのタレの数を測定した結果を示す。尚、図3において縦軸は、二次タレの数を示す。実験例2におけるコンベア10の搬送速度は、実験例1の搬送速度よりも約6.3 %減少させている。このように、タレ切れゾーン52における被塗物の滞留時間を長くすると、オーブン51における電着液Lの二次タレを減少させることが判明した。特にAランクの二次タレ量が大幅に減少した。
【0015】図4はタレ切れゾーン52における被塗物を滞留させる時間と二次タレの数を測定した結果を示すグラフであり、この実験結果から実用上問題とならない滞留時間は7分以上であることが判明した。
【0016】図5は前記第1〜第3水洗工程21a〜21cにおいて被塗物に吹き付けられる洗浄液として界面活性剤が0.02%含まれた洗浄液Aと、界面活性剤が含まれていない工業用水Bとについて、温度25℃から5℃置きに40℃までについて、二次タレ性を測定した結果を示すグラフである。この実験では、「×」は二次タレ性が良くないこと、「△」は普通であること、「○」は良いこと、そして「◎」はかなり良いことを示す。
【0017】この実験結果から明確なように、界面活性剤を含ませた洗浄液Aの方が、界面活性剤を含まない洗浄液よりも二次タレ性が良好となることが判明し、タレ切れゾーン52に設けられた洗浄工程において、洗浄液として界面活性剤を含む洗浄液を被塗物に吹付けることにより、二次タレが良好となった。
【0018】また、この実験例結果から明らかなように、洗浄液の温度を高くすればする程、二次タレ性が良好となることが判明し、工業用水を用いた場合であっても、洗浄液の温度を30℃以上に設定すれば、実用上特に問題がない二次タレ性が得られることが判明した。
【0019】図6は電着液Lの温度と粘性との関係を示すグラフであり、電着液Lの粘性は、その温度が50℃を越えると、大幅に粘性が低下することが実験により求められた。この実験結果と、図5に示された実験結果から、より好ましくは、洗浄液の温度を50℃以上に設定することが良いことが理解できる。
【0020】図5に示される実験例では、タレ切れゾーン52における滞留時間は1分であり、この時間をより長くすれば、最終的な塗装品質を向上させるに十分なタレ切れ性が得られることが判明した。
【0021】前述のように、洗浄液の温度を30℃以上に設定すると、タレ切れ性が良好となることが判明したが、洗浄液を加熱することなく、被塗物を加熱するようにしても良い。図7は被塗物を予備加熱して80℃に設定した場合Cと、被塗物を予備加熱することなく、常温のままとした場合Dとについて、タレ切れゾーン52における滞留時間毎に二次タレ切れ性を測定した実験結果を示す。このときの洗浄液の温度は30℃に設定されている。この実験から分かるように、被塗物を予備加熱することにより、かなり良好な二次タレ切れ性が得られた。
【0022】このように、本発明にあっては、電着工程11とオーブン51との間に、電着工程で被塗物に付着した電着液を除去するタレ切れゾーン52が設けられている。このタレ切れゾーン52においては、被塗物の搬送時間を7分以上に設定したり、タレ切れゾーン52に設けられた洗浄工程において界面活性剤が含まれた洗浄液を被塗物に吹き付けるようにしたり、洗浄液の温度ないし被塗物の温度を30℃以上に設定することにより、タレ切れゾーン52におけるタレ切れを充分に行なうことが可能となり、オーブン51を通過した後に中塗り塗装と上塗り塗装を行なった後における塗装品質の向上が達成された。洗浄液ないし被塗物を加熱する場合には、被塗物または洗浄液の一方を前述した30℃以上の温度に設定しても良く、両方の温度をその温度以上に設定するようにしても良い。
【0023】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、電着工程とオーブンとの間に、タレ切れゾーンを設置するようにしたので、電着工程において被塗物に付着した電着液は、タレ切れゾーンにおいて確実に除去されることになり、塗装品質が向上することになった。このタレ切れゾーンにおいては、被塗物の搬送時間を7分以上に設定したり、タレ切れゾーンにおいて界面活性剤を被塗物に吹き付けるようにしたり、或いは被塗物ないし洗浄液の温度を30℃以上に設定することにより、充分にタレ切れ性を確保することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】は本発明の一実施例に係る塗装装置の前半部分を示す概略断面図、
【図2】は本発明の一実施例に係る塗装装置の後半部分を示す概略断面図、
【図3】はタレ切れゾーンにおける被塗物の搬送時間を遅くした場合におけるタレ切れ性の実験結果を示すグラフ、
【図4】はタレ切れゾーンにおける被塗物の搬送時間とタレ切れ性との関係を示すグラフ、
【図5】ははタレ切れゾーンに設けられた洗浄工程に使用する洗浄液として界面活性剤を含む洗浄液と含まない洗浄液とについて、種々の温度条件でタレ切れ性を測定した結果を示すグラフ、
【図6】は電着液の粘度と温度との関係を示すグラフ、
【図7】は被塗物に予備加熱を行なった場合と行なわなかった場合とについて、タレ切れゾーンにおける被塗物の搬送時間とタレ切れ性との関係を測定した実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
10…コンベア、11…電着槽、21a〜21c…洗浄工程、51…オーブン、52…タレ切れゾーン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 被塗物に電着塗膜を形成する電着工程と、この電着工程で前記被塗物に形成された電着膜を乾燥硬化させるオーブンとの間に、前記電着工程で前記被塗物に付着した余分な電着液を電着工程が終了し前記オーブンに搬入されるまでに前記被塗物から除去するタレ切れゾーンを設置したことを特徴とする塗装装置。
【請求項2】 前記タレ切れゾーンにおける前記被塗物の搬送時間を7分以上に設定したことを特徴とする塗装装置。
【請求項3】 前記タレ切れゾーンに、界面活性剤が含まれた洗浄液を被塗物に吹き付けるようにしたことを特徴とする塗装装置。
【請求項4】 前記タレ切れゾーンに、前記被塗物に吹き付けられる洗浄液の温度、または前記被塗物の温度を30℃以上に設定するようにしたことを特徴とする塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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