説明

塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法

【課題】不溶解物を生成させることなく、また塩化アルミニウム濃度を保ちつつ塩化アルミニウム溶液の塩酸臭を低減することができる塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔のエッチング処理工程廃液の濃縮液など、塩酸を含む塩化アルミニウム溶液の塩酸臭を低減する方法において、該溶液にポリ塩化アルミニウムを添加することにより、該塩化アルミニウム溶液の臭気を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩酸を含む塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法に係り、特にポリ塩化アルミニウム(PAC)を該溶液に添加するようにした塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサー用等のアルミ箔の塩酸処理工程からは、塩酸を含んだ塩化アルミニウム溶液が発生する(例えば、下記特許文献1〜3)。
【0003】
この塩酸含有塩化アルミニウム溶液を濃縮し、液体塩化アルミニウムとして排水処理用凝集剤として用いることがある。
【0004】
この液体塩化アルミニウムは、含有アルミニウムに対して塩酸を余剰に含有するため、塩酸揮散が起こり、特にローリー車で薬剤貯留槽に移送、投入する際に、ブロー空気に刺激性の塩酸ガスが多く含まれ、環境支障を生ずる。
【0005】
余剰塩酸を少なくするため、減圧、加温等の濃縮に十分時間をかけたり、空気パージを行う等の物理的方策があるが、効果は不十分であった。
【0006】
また、化学的方法として、アルカリ中和が考えられるが、分離処理が難しい沈殿物が生じる。また、沈殿物生成量を低減するために中和剤を希釈して添加すると、塩化アルミニウム溶液のアルミニウム濃度が低下する。
【0007】
即ち、中和用アルカリとしては、消石灰や水酸化ナトリウムが用いられるが、消石灰を用いると、著しく多量の中和スラッジが生じる。
【0008】
水酸化ナトリウムを用いた場合、水酸化ナトリウム濃度が低いときには、難溶性スラッジの生成は防止されるが、希薄水酸化ナトリウム水溶液によって塩化アルミニウム溶液が希釈され、塩化アルミニウム溶液の濃度が低下する。濃度の高い水酸化ナトリウムを用いた場合には、塩化アルミニウム溶液の希釈は抑制されるが、難溶性の酸化物(Al)を含んだスラッジが生成する。この酸化物系スラッジの生成理由は次の通りであると推察される。
【0009】
濃度の高い水酸化ナトリウム水溶液を添加した場合、塩化アルミニウム液中に局所的にpHが非常に高い高pH領域が生じる。この高pH領域ではアルミニウムイオン(Al3+)が水酸化物(Al(OH))を経由して、比較的、酸に溶け難い酸化物(Al)を形成する。一方、水酸化ナトリウムの中和作用で、余剰塩酸は減少しており、生成した酸化物(Al)を溶かすための推進力が減少しており、この結果、不溶解分が残留する。
【0010】
なお、濃度の高い水酸化ナトリウム水溶液を添加する場合であっても、塩化アルミニウム溶液を強力に撹拌すれば酸化物生成が防止されるであろうが、そのような強撹拌は実験室規模では可能であっても、工業的規模では採用に不適である。
【特許文献1】特開2001−291646
【特許文献2】特開2001−189238
【特許文献3】特開2001−338843
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、不溶解物を生成させることなく、また塩化アルミニウム濃度を保ちつつ塩化アルミニウム溶液の塩酸臭を低減することができる塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法は、塩酸を含む塩化アルミニウム溶液の塩酸臭を低減する方法において、該溶液にポリ塩化アルミニウムを添加することを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法は、請求項1において、塩化アルミニウム溶液中の塩酸1モルに対しポリ塩化アルミニウムをAlとして0.5〜5gの割合で添加することを特徴とするものである。
【0014】
請求項3の塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法は、請求項1又は2において、前記塩化アルミニウム溶液はアルミニウム箔のエッチング工程からの排出液の濃縮液であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
ポリ塩化アルミニウム(PAC)は、[Al(OH)Cl6−n(1≦n≦5,m≦10)の一般式で表わされるものであり、水酸基を有している。従って、このPACを塩酸含有塩化アルミニウム溶液に添加することにより、塩酸が中和され、塩酸臭が低減される。
【0016】
ポリ塩化アルミニウムは、液体塩化アルミニウムと任意に混合することができ、塩酸1モルに対しAlとして0.5〜5g程度の割合で添加することにより塩酸臭気を十分に低下させることができる。また、塩化アルミニウム液とほぼ同一のアルミニウム濃度を有するPAC溶液を用いることにより、塩化アルミニウム溶液の濃度も高い値に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明で処理対象とする、塩酸を含む塩化アルミニウム溶液としてはアルミニウム箔のエッチング工程からの排出液を濃縮した濃縮液が好適である。
【0019】
図1は、このエッチング工程のフローシートであり、アルミニウム原箔がエッチング機1に供給され、塩酸を含むエッチング液によってエッチング処理され、エッチング箔とされる。排出液は酸回収装置(蒸発装置)2に送られ、塩酸が揮発回収され、液側には塩化アルミニウムが濃縮される。
【0020】
回収塩酸は、エッチング機1に戻される。一方、液側は、余剰塩酸を含む塩化アルミニウム溶液として系外に取り出される。
【0021】
アルミニウム原箔としては、アルミニウムを主成分とし、鉄、銅又はシリコンを含む組成のものが用いられる。
【0022】
エッチング処理機1では、塩酸を含むエッチング処理液中にアルミニウム箔を浸漬し、アルミニウム箔に交流電流を印加し、エッチング処理を行う。
【0023】
このようなエッチング処理工程から排出される塩酸含有塩化アルミニウム溶液に対して添加するポリ塩化アルミニウム(PAC)は、前記の通り一般式[Al(OH)Cl6−nただし、1≦n≦5,m≦10にて表わされるものである。このnの好ましい範囲は2〜4である。このポリ塩化アルミニウムとしては、JIS K 1475−1996の規格に合格するものであれば用いることができる。
【0024】
塩酸含有塩化アルミニウム溶液に対しPACを添加する場合、PACは水溶液であってもよく、粉体であってもよいが、溶液の方が反応が早く好適である。PAC溶液としては、Alとしての濃度が8〜12wt%特に10〜11wt%となるように調製されたものが好適である。
【0025】
塩酸含有塩化アルミニウム溶液に対するPACの添加量は、塩酸1モルに対しPACをAlとして0.5〜5g特に1〜3gの割合となる量が好適である。
【0026】
この添加に際しては、塩酸含有塩化アルミニウム溶液を撹拌することが好ましい。添加時の温度は、低い方が、塩酸の揮散が少なく、好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0028】
A社のアルミ箔のエッチング処理工程からの排出液を濃縮しアルミニウム濃度をAlとして10〜10.5%に調整した、塩酸含有塩化アルミニウム溶液(分析値を表1に示す。)に対し、中和剤としてPAC(実施例1〜3)、NaOH(比較例1)、Ca(OH)(比較例2)、Mg(OH)(比較例3)又はアルミン酸ナトリウム(比較例4,5)の水溶液又は懸濁液(乳濁液)を添加し、塩酸臭の低減について測定した。
【0029】
用いたPACは、多木化学株式会社製PAC250A(塩基度55%、Al含有率10.5wt%)であり、分析値によると化学式は[Al(OH)Cl6−nにおいて、n=3.3であった。
【0030】
NaOHは48wt%水溶液として用いた。Ca(OH)及びMg(OH)は、それぞれ30wt%懸濁液として用いた。アルミン酸ナトリウムは、NaO/Alモル比が1.9の市販品(濃度19wt%の水溶液)であり、比較例5ではこれをそのまま用い、比較例4では濃度10wt%に希釈して用いた。
【0031】
<添加方法>
直径560mmの円筒形タンクに20〜25℃の上記塩酸含有塩化アルミニウム溶液200kgを投入し、直径250mmの2段パドル羽根の撹拌機で100rpmの撹拌を行い、そこに、実施例1〜3、比較例1〜5の各中和剤を、表2に示す添加量にて添加し、60分間撹拌した。
【0032】
得られた中和液について、不溶解分および振盪法塩酸臭気濃度の測定を行った。
【0033】
<臭気測定方法>
塩酸臭気は、20〜25℃条件にて、500mlポリ瓶(全容積630cc)に上記中和液10ml(約13g)を封入し、振盪器で200往復/分の振盪撹拌で塩酸を揮酸せしめ、ガステック製HCl検知管(14M)にて測定した。
【0034】
なお、振盪法塩化水素濃度は、限られた空間で塩化水素を徹底的に揮酸させた数値であり、50ppm以下であれば、現実場面では排出基準値を超えることがないものと考えられる。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
<考察>
実施例1〜3
塩酸臭気を十分に低下させることができた。ポリ塩化アルミニウムは塩化アルミ液と任意に混合できるため、中和作業としては最も簡単であった。また、Al濃度もほとんど変化しない。
【0038】
比較例1,2
苛性ソーダ、水酸化カルシウムでは、未溶解分生成があるため、後処理工程が必要となる。また不溶解分に対応して振盪法HCl濃度が高くなる。
【0039】
比較例3
余剰塩酸比100%を超えると水酸化マグネシウムでは未溶解分が残る。
【0040】
比較例4,5
アルミン酸ソーダ濃度が高い比較例5では未溶解分が残る。また余剰塩酸比100%を超えると未溶解分が残る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】アルミニウム箔のエッチング工程のフローシートである。
【符号の説明】
【0042】
1 エッチング機
2 酸回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸を含む塩化アルミニウム溶液の塩酸臭を低減する方法において、該溶液にポリ塩化アルミニウムを添加することを特徴とする塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法。
【請求項2】
請求項1において、塩化アルミニウム溶液中の塩酸1モルに対しポリ塩化アルミニウムをAlとして0.5〜5.0gの割合で添加することを特徴とする塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記塩化アルミニウム溶液はアルミニウム箔のエッチング工程からの排出液の濃縮液であることを特徴とする塩化アルミニウム溶液の臭気低減方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−23863(P2009−23863A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187173(P2007−187173)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【Fターム(参考)】