説明

塩化ビニリデン系樹脂組成物及びそれからなるフィルム

【課題】本発明の目的は、押出加工性及び熱安定性に優れたガスバリア性フィルムを与える塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物及びそれから得られるフィルムを提供することにある。
【解決手段】還元粘度が0.035超過〜0.075である塩化ビニリデン共重合体100重量部と、下記構造式(I)で表される少なくとも一つの化合物である可塑剤0.1〜10重量部とからなる塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物。
【化1】


(但し、R1、R2及びR3のうちの少なくとも一つの基は、12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基はアセチル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニリデン共重合体と可塑剤からなる樹脂組成物及びそれからなるフィルムに関する。本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物は、フィルム製造時の押出加工性に優れ、それからなるフィルムは熱安定性、ガスバリア性に優れたものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塩化ビニリデン系共重合体は水蒸気や酸素等の気体の遮蔽性に優れた特性を持つので、食品包装用フィルム等に使用されていた。しかしながら、通常の塩化ビニリデン系共重合体自体は熱安定性が悪く、熱分解し易いので押出加工が不安定となり、その特性を生かした包装用フィルムが得難かった。そのため従来より様々な改良方法が提案されており、溶融押出の安定化のために安定剤としてのエポキシ化植物油と可塑剤としてジブチルセバケート(DBS)、ジオクチルアジペート(DOA)及びアセチルトリブチルサイトレート(ATBC)等を含む組成物が知られていた。しかしながら、DBS、DOAはフィルムの透明性の点から、またATBCはフィルムの密着性の点からさらなる検討がなされ、改善された添加剤の組み合わせが提案されている。例えば、特公昭59−46984号公報(特許文献1)には、塩化ビニリデン共重合体にエポキシ化植物油と可塑剤として炭素数2〜6の低級脂肪酸から形成されたアシル基と炭素数8〜22の高級脂肪酸から形成されたアシル基を有するグリセリンエステルから選ばれた1種又は2種以上を混合してなるグリセリドを該塩化ビニリデン共重合体100重量部に対して1〜15重量部配合してなる塩化ビニリデン共重合体組成物に関する発明が開示されている。該文献には、可塑剤として種々のグリセリドの具体例の一つとして、他のグリセリドと共にジアセチルステアリルグリセリド等1種又は1種以上の混合物を用いることを記載している。
【0003】
また、国際公開第01/14466号パンフレット(特許文献2)には、熱可塑性樹脂と下記構造式(A)の化合物との組成物の発明が記載されており、熱可塑性樹脂が塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体である組成物が開示されている。
【0004】
【化1】

【0005】
【特許文献1】特公昭59−46984号公報
【特許文献2】国際公開第01/14466号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、押出加工性及び熱安定性に優れたガスバリア性フィルムを与える塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物及びそれから得られるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、還元粘度が特定範囲の塩化ビニリデン共重合体と下記構造式(I)で表される少なくとも一つの化合物である可塑剤からなる塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物が押出加工性及び熱安定性に優れたガスバリア性フィルムを与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物は、還元粘度が0.035超過〜0.075である塩化ビニリデン共重合体100重量部と下記構造式(I):
【0009】
【化2】

【0010】
(但し、R1、R2及びR3のうちの少なくとも一つの基は、12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基はアセチル基である。)
で表される少なくとも一つの化合物である可塑剤0.1〜10重量部からなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物においては、前記可塑剤が、前記構造式(I)におけるR1及びR2のうちの少なくとも一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物の混合物であることが好ましい。さらに、本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物においては、前記可塑剤が、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか二つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物とからなる混合物であることが好ましい。また、本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物においては、前記可塑剤が、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか二つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3の全ての基が12−アセトキシオクタデカノイル基である化合物とからなる混合物であることが好ましい。さらに、本発明のフィルムは、前記塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる可塑剤は、従来の塩化ビニリデン系共重合体に用いられていた可塑剤に比較し優位な熱安定性を示し、ガスバリア性に優れ、特に食品包装用フィルムとしての用途に適するフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にかかる塩化ビニリデン系共重合体は、還元粘度0.035超過〜0.075、好ましくは0.038〜0.070、更に好ましくは、0.040〜0.065の範囲の公知の塩化ビニリデン共重合体が用いられる。このような塩化ビニリデン系共重合体としては、懸濁重合により得られたものを用いることが好ましく、例えば、塩化ビニリデン60〜98重量%と約40〜約2重量%の塩化ビニリデンと共重合可能な少なくとも1種のエチレン系不飽和単量体との共重合体であることが好ましい。このようなエチレン系不飽和単量体としては塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸及びこれらの酸のアルキルエステル、アクリルニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルアルキルエーテル、ビニルアルキルケトン、アクロレイン、アリルエステル、アリルエーテル、スチレン等のモノエチレン系不飽和単量体;ブタジエン、クロロプレン等のジエン系不飽和単量体及びこれらエチレン系不飽和単量体を二種以上共重合させた共重合体を例示することができる。
【0014】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体系樹脂組成物を構成する可塑剤は、下記構造式(I)で表される少なくとも一つの化合物である。
【0015】
【化3】

【0016】
構造式(I)において、R1、R2及びR3のうちの少なくとも一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がある場合はアセチル基である。また、本発明においては、R1及びR2のうちの少なくとも一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基であることが好ましい。
【0017】
このような可塑剤としては、前記構造式(I)におけるR1基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物を単独で用いることもできるが、可塑剤のブリードを抑制するという観点から、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物(ジアセチルモノ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライド)30〜99%(好ましくは30〜95%)と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか二つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物(モノアセチルジ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライド)1〜70%(好ましくは5〜70%)とからなる混合物;前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物1〜80%と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか二つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物5〜70%と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3の全ての基が12−アセトキシオクタデカノイル基である化合物(トリ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライド)1〜50%とからなる混合物を用いることが好ましい。なお、このような可塑剤における前記化合物の比率は、後述する実施例で説明する通りの方法で液体クロマトブラフィー分析を行うことにより測定することができる。即ち、このような可塑剤における前記化合物の比率は、液体クロマトブラフィーのチャートを分析して算出された各化合物に対応するピークの面積比率を意味する。
【0018】
このような可塑剤の添加量は、押出成形性及びフィルムの透明性の観点から塩化ビニリデン共重合体100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜8.0重量部、更に好ましくは1.0〜6.0重量部である。
【0019】
このような可塑剤の合成方法としては、例えば、水素添加したひまし油と無水酢酸とを135〜145℃で30〜360分間反応させて、真空蒸留し酢酸を留去した後、アセチル化された水素化ひまし油をナトリウムメトキシド及びステアリン酸アルミニウムの存在下において、250〜270℃で30〜360分間、トリアセチンと反応させ、その後、未反応トリアセチンを135℃、10Paで減圧蒸留して留去して、生成物を得ることによって可塑剤を合成する方法が挙げられる。また、このような合成方法においては、反応条件を調節することによって、前記生成物(可塑剤)における前記化合物の比率を調整することができる。さらに、本発明にかかる可塑剤としては、上記反応条件の範囲内の異なる反応条件にそれぞれ調節して得られた2種以上の生成物を混合したものを用いることもできる。
【0020】
本発明の塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物には、前記構造式(I)で表される化合物の混合物である可塑剤の他に公知の可塑剤、熱安定剤、加工助剤、光安定剤、顔料、滑剤、抗酸化剤、フィラー、界面活性剤等の添加剤を配合することができる。具体的には、本発明にかかる構造式(I)で表される化合物の混合物である可塑剤と他の可塑剤を混合して用いることができる。混合して用いることのできる液状の他の可塑剤としては、ジオクチルフタレート、アセチルトリブチルサイトレート、ジアセチル化モノグリセライド、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジイソブチルアジペート、アセチル化ジグリセライド、トリグリセライド等が挙げられる。これらの他の可塑剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。このような他の可塑剤と混合して用いる場合は、本発明にかかる前記構造式(I)で表される化合物の混合物を主成分とし、好ましくは本発明にかかる可塑剤に対して50重量%を越える量の他の可塑剤を用いる。このような他の可塑剤の使用量は、塩化ビニリデン共重合体100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜8.0重量部、更に好ましくは1.0〜6.0重量部である。
【0021】
本発明の塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物に配合することができる添加剤としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ化油、エポキシ化ステアリン酸オクチル、エポキシ化アマニ油脂肪酸ブチル等の液状の安定剤;アルキルエステルのアミド誘導体、水酸化マグネシウム、ピロリン酸四ナトリウム、酸化マグネシウム、カルシウムヒドロキシホスフェート、酸化ポリエチレン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンエステルワックス等のワックス類等の熱安定剤、加工助剤、滑剤として作用のあるもの;酸化ケイ素、炭酸カルシウム等のフィラー;ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等の界面活性剤が挙げられる。酸化チタン系顔料はソーセージ等の食品内容物の紫外線による変色防止に効果があるが、ダイ流出口の樹脂分解物の付着を起こし易い。しかし、この樹脂分解物は真空ホッパー付の押出機により押出すと効果的に低減されるので、これらの添加剤は可塑剤とは別に塩化ビニリデン共重合体100重量部に対して、0.10〜10重量部迄、更には、1.0〜5.0重量部添加することが可能である。
【0022】
これらの可塑剤及び添加剤は、その一部を塩化ビニリデン共重合体の重合中に加えてもよい。添加剤は押出時には塩化ビニリデン共重合体に吸着または吸収され、押出加工性に寄与する。液状の可塑剤や熱安定剤以外の添加剤は必要に応じて使用される。
【0023】
塩化ビニリデン共重合体、可塑剤及び添加剤の混合方法は特に制限されるものではなく、従来の方法が適用できる。これらの混合方法としては、例えば、羽根ブレンダーやリボンブレンダー等のブレンダーによる混合方法、ヘンシェル高速ミキサーによる混合方法が挙げられる。また、これらの混合方式としては、60℃を超える加熱混合方式又は60℃以下の低温混合方式の何れの方式でも適用することができる。混合により得られた塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物は、粉体のままあるいはペレットの形状で押出加工され、フィルムの成形に使用される。
【0024】
本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物は、溶融押出して延伸あるいは未延伸フィルム、シート、ホームラップ等に成形される。成形方法としては当業者に公知のような、例えばサーキュラーダイによるインフレーション押出成形法が挙げられる。延伸、特に好ましくは二軸延伸により配向して得られるフィルムは熱収縮性を有するので、シュリンクフィルムとして、またはレトルト可能な耐熱性フィルムとして好適に用いられる。二軸延伸倍率としては縦方向に2.0〜4.5倍、横方向に3.0〜5.0倍が好ましい。このようなフィルムのフィルム厚さはシングルフィルムとして5〜30μm、好ましくは10〜25μmである。また、このようなフィルムは用途によりダブルフィルムとしても使用される。通常、熱収縮率は縦、横ともに約30〜約60%(120℃グリセリン浴,3分)である。さらに、このようなフィルムの食品包装用としての主な使用方法としては、インフレーション後、チューブ状フィルムを平らにして2枚に重ねてダブルフィルムとしてフィルム両側の耳の部分をスリットして平板状フィルムとし、包装機械で円筒状にしながらシールし、内容物を充填し、両端をグリップした包装体を得る方法が挙げられる。またレトルト殺菌条件は種々あるが、一般にソーセージの場合、包装体の直径によるが、およそ120℃で10〜20分間である。また、このようなフィルムを同種の樹脂または塩化ビニリデン共重合体と共押出加工が可能な他の樹脂や樹脂組成物からなるフィルムと積層しても差し支えない。
【0025】
本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物を押出加工するに際し、該樹脂組成物が真空ホッパー付の押出機により押出されることが好ましく、これにより押出加工性が向上する。即ち、該樹脂組成物が真空ホッパー付の押出機により押出されることによりダイ流出口での樹脂分解物の付着、樹脂の着色及び分解物の流出等の低減、インフレーション成形時のバブルの破裂の減少等に効果がある。真空ホッパーの真空圧は、水銀柱−500mm以下、好ましくは−600mmから−755mmの範囲である。このような条件に設定された真空ホッパーを取り付けた押出機で該樹脂組成物を押出すことにより、押出加工性を向上できる。
【0026】
なお、前記のように酸化チタン系顔料を使用するとダイ流出口の樹脂分解物の付着が増えるが、真空ホッパーを使用すると、それが低減される。従って真空ホッパーを取り付けた押出方法は酸化チタン系顔料を使用する際に、有効な押出加工方法となる。
【0027】
本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物からなるフィルムをガスバリア層として配置して、共押出法、ラミネート法により多層フィルム、シートにすることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、塩化ビニリデン共重合体の還元粘度及びフィルムの酸素透過性は以下の方法で測定した。
(測定方法)
還元粘度:塩化ビニリデン共重合体の1gを50mlのテトラヒドロフランに加え、40℃で溶解し、濾過後メタノールによりポリマーを析出させ洗浄乾燥する。この乾燥ポリマー80mgを精秤し、溶媒として30℃のシクロヘキサノン20mlを加え、70℃で60分間加熱溶解させ、室温で冷却後濾紙で濾過し、溶液粘度測定用試料溶液とする。試料溶液5mlをウベローデ粘度計に入れ、30℃の恒温槽に5分間放置後、通常の操作法で流下秒数を測定し、次式(1)により還元粘度を求めた。
【0029】
還元粘度=(1/4)×{(T/T)−1} ・・・(1)
:30℃のシクロヘキサノン(溶媒)の流下秒数
:30℃の試料溶液の流下秒数
酸素透過性:フィルム厚みが40μmの延伸フィルムを試料として、酸素ガス透過度測定装置(Modern Control社製 Ox−tran2/20)を用いて温度23℃、0%相対湿度の条件下、及び温度40℃、90%相対湿度の条件下にて延伸フィルムの酸素ガス透過度を測定した。単位はcm/m・day・atmである。
【0030】
(合成例1)
先ず、5000gの硬化ひまし油を1600gの無水酢酸と140℃で60分間反応させ、副生した酢酸を減圧蒸留によって留去してアセチル化された硬化ひまし油を得た。次に、5000gのアセチル化された硬化ひまし油を1000gのトリアセチンと0.225gのナトリウムメトキシド及び41gのステアリン酸アルミニウムとともに、250℃で240分間反応させた。未反応のトリアセチンを、135℃及び10Paでの減圧蒸留によって除去し、残液(混合物A)3500gを得た。そして、得られた混合物Aについて液体クロマトグラフィーによる分析を行った。即ち、液体クロマトグラフィー分析装置日立7100(カラム:KF−801×2本、検出器:示差屈折計(日立製作所社製)、溶離液:THF(HPLC/GR=7/3))を用いて、温度40℃、流量1.0ml/min、注入量300μlの条件下にて液体クロマトグラフィー分析を行い、得られたチャートからピーク面積比率を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0031】
(実施例1)
塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物(コンパウンド)の調製:メチルセルロースを懸濁剤として懸濁重合法による塩化ビニリデン88重量部、塩化ビニル12重量部からなる塩化ビニリデン共重合体(PVDC1、還元粘度:0.059)100重量部に安定剤としてエポキシ化大豆油(O−130P、旭電化工業社製)1.5重量部、及び混合物A5.0重量部を添加し、容量50リットルの羽根ブレンダーにより70℃まで加熱昇温し、その温度で60分保持し、50℃まで冷却して取り出し、目開き0.69mmの金網で篩別した。そして、得られたコンパウンドを用いて溶融粘度の評価を行った。即ち、島津フローテスターCFT−500C(ノズル1mmφ×10mm)を用いて、予熱240秒、温度180℃、荷重9.8MPaの条件下にて得られたコンパウンドの溶融粘度を測定した。得られた結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。
【0032】
次に、ホッパーを備えた口径40mmφの押出機を用いて上記コンパウンドの押出加工性を評価した。押出機ホッパーにコンパウンドを投入し、スクリュウ回転数を徐々に高め所定の25(回転/分)とし、環状ノズルより溶融樹脂を押出した。環状に押し出された筒状樹脂(パリソン)を10℃の第1ピンチローラーが設置された冷却バスに導入し、急冷した。パリソンの内側には開口剤としてプロピレングリコールを注入した。次いで、パリソンを第2ピンチローラーに導き、第2ピンチローラーから出たパリソンに圧縮空気を封入しインフレーションした。空気を封入されたフィルムは第2ピンチローラーより大きい速度(3.18倍)で第3ピンチローラー導き、第3ピンチローラーにより折り畳まれた延伸フィルムは第4ローラーに相当する巻き取りローラーにより紙管に巻き取り、シングルフィルムの厚さ35μm、幅110mmの延伸フィルムを作製した。約60分間運転し、押出性(コンパウンド食い込み性、モーター負荷、押出量)、延伸性と製膜性を観察した。押出性、延伸性と製膜性が特別な操作を必要とすることなく、モーターの負荷変動、押出し斑、破裂等がなく製造が可能であるとき押出加工性が良好と評価した。さらに得られた延伸フィルムの酸素透過性を評価した。得られた結果を表3に示す。
【0033】
なお、押出条件を以下に示す。
スクリュウ形状 :フルフライトタイプ
ダイス :30mmφ×31.5mmφ
スクリュウ回転数 :25r.p.m
押出温度 :吐出部165℃
冷却バス温度 :10℃
室温 :30℃
巻き取り条件:
第2ピンチローラ速度 3.76m/分
第3ピンチローラ速度 11.95m/分
巻き取りローラー速度 10.95m/分
(実施例2)
混合物Aに代えて化合物B(SOFT−N−SAFE、ダニスコ社製)を使用したこと以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを作製した。化合物Bの液体クロマトグラフィー分析の結果を表1に示す。また、コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。さらに、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0034】
(実施例3)
混合物A5.0重量部に代えて混合物A1.5重量部、化合物B3.5重量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを作製した。コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。また、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0035】
(実施例4)
混合物A5.0重量部に代えて混合物A8.0重量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを作製した。コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。また、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0036】
(実施例5)
混合物A5.0重量部に代えて化合物B8.0重量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを作製した。コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。また、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0037】
(実施例6)
混合物A5.0重量部に代えて混合物A2.4重量部、化合物B5.6重量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを作製した。コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。また、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0038】
(実施例7)
混合物A5.0重量部に代えて化合物B3.0重量部、ジブチルセバケート(DBS)1.0重量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを作製した。コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。また、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0039】
(比較例1)
混合物Aに代えてアセチルトリブチルサイトレート(ATBC)を使用したこと以外は実施例1と同様にして比較用の延伸フィルムを作製した。コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。また、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0040】
(比較例2)
混合物A5.0重量部に代えてATBC8.0重量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして比較用の延伸フィルムを作製した。コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。また、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0041】
(比較例3)
混合物A5.0重量部に代えてDBS1.0重量部、ATBC3.0重量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして比較用の延伸フィルムを作製した。コンパウンドの溶融粘度の測定結果及びコンパウンド中の各成分の添加量割合を表2に示す。また、押出加工性及び延伸フィルムの酸素透過性の評価結果を表3に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
表1に記載した結果からも明らかなように、化合物Bはジアセチルモノ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライドの純度が高いものであるのに対し、混合物Aはジアセチルモノ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライド、モノアセチルジ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライド及びトリ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライドの混合物であることが確認された。また、表2及び表3に記載した結果からも明らかなように、本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物は十分な押出加工性を達成することができ、しかもそれを用いて得られたフィルムは十分なガスバリア性を有することが確認された。
【0046】
<熱安定性の評価>
塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物の熱安定性は、実施例1〜7、比較例1〜3で用いたコンパウンド及び押出機で押し出したパリソンについて、ギヤーオーブンによる熱劣化試験を行うことにより評価した。
【0047】
(i)評価用試料の作製
(a)ロール練りシート:コンパウンドを155℃に加熱した二軸の金属ローラー(関西ロール(株)製、直径8インチ)を用い、最初の2分間は間隙2mm、その後ロールから引き剥がし2枚の金属板で挟んで冷却し原シートを作製した。その原シートから大きさ40mm×60mmに12枚を切り出し評価用試料とした。
【0048】
(b)押出しパリソン:40mmφの押出機により押出しし、急冷され第2ピンチローラーを出た2層状偏平パリソンを一枚にし、表面をエチルアルコールを含んだガーゼで開口剤を抜き取り大きさ25mm×60mmに12枚切り出し評価用試料とした。
【0049】
(ii)熱劣化試験
得られた評価用試料についてギヤーオーブンによる熱劣化試験を行った。即ち、1分間に60回回転する試料つり下げ治具を有するギヤ式老化試験器(清水理化学機器製作所製 GPS60H型)を用い、試料吊り下げ治具に試料11枚を吊り下げ、温度160℃に加熱し、試料吊り下げ治具を回転させながらサンプルを15分間隔で一枚ずつ取り出し各サンプルを色差計(コニカミノルタ製)によりL値(明度)を測定し、L値の変化率%((L値/初期値)×100)を算出した。なお、L値の変化率の小さい方が着色が少ないことを表す。ロール練りシートに関するこれらの評価結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4に記載した結果からも明らかなように、実施例1〜7で用いた本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物から得られたロール練りシートにおいては、比較例1〜3で用いた塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物から得られたロール練りシートと比較して、L値の変化率が小さかった。したがって、本発明の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物は優れた熱安定性を示すことが確認された。
【0052】
<ブリード性の評価>
塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物中の可塑剤のブリード性は、以下説明する実施例8、9及び参考例1、2で得られたコンパウンドを用いて糸を作製し、得られた糸を特定の条件下に放置した後のブリード物の量を洗浄減量法によって測定することにより評価した。
【0053】
(i)評価用糸の作製
(実施例8)
メチルセルロースを懸濁剤として懸濁重合法による塩化ビニリデン88重量部、塩化ビニル12重量部からなる塩化ビニリデン共重合体(PVDC1、還元粘度:0.059)100重量部に安定剤としてエポキシ化大豆油(O−130P、旭電化工業社製)2.0重量部、混合物A8.0重量部、押出加工助剤としてステアリン酸カルシウム0.1重量部を添加し、容量50リットルの羽根ブレンダーにより70℃まで加熱昇温し、その温度で60分保持し、50℃まで冷却して取り出し、目開き50メッシュの篩で篩別して、コンパウンドを得た。コンパウンド中の各成分の添加量割合を表5に示す。
【0054】
次に、口径40mmφの単軸押出機のホッパーに得られたコンパウンドを投入し、スクリュウの圧縮比を2.97とし、0.8mmφの8孔のノズルより溶融樹脂を押出した。押し出された糸状樹脂を第1ローラーが設置された冷却バスに導入し、急冷した。次いで、糸状樹脂を第2ローラーで41〜45m/分の速度で導き、第2ローラーから出た糸状樹脂を第2ローラーより大きい速度(165〜180m/分)で第3ローラー導き、延伸された糸状樹脂は第4ローラーに相当する巻き取りローラーによりボビンに巻き取り、糸径750デニール(0.25mm)の評価用糸を作製した。
【0055】
なお、紡糸条件を以下に示す。
スクリュウ :L/D=22、圧縮比=2.97
紡糸温度 :投入部77℃、吐出部167℃
押出量 :110〜120g/min
巻き取り条件:
第2ローラ速度 41〜45m/分
第3ローラ速度 165〜180m/分
巻き取りローラー速度 157〜171m/分
延伸倍率 :4倍
(実施例9、比較例4、5)
混合物Aに代えて化合物B(実施例9)、グリセリンモノ脂肪酸エステル(K004、理研ビタミン社製)(参考例1)又はATBC(参考例2)を用いた以外は実施例8と同様にして、コンパウンド及び評価用糸を得た。コンパウンド中の各成分の添加量割合を表5に示す。
【0056】
(ii)ブリード物の量の測定
得られた評価用糸を特定の条件下に放置した後のブリード物の量を洗浄減量法によって測定した。即ち、先ず、評価用糸を約15cmに切断し、40℃で24時間乾燥した。その後、切断された評価用糸を約5g計量し、デシケーター中で4日間放置して十分に乾燥させた後に、評価用糸の初期重量を正確に秤量した。次に、乾燥後の糸を温度40℃、相対湿度18%、圧力1atmの条件下に放置した。そして、所定の時間(7日、14日、21日)が経過した後に、放置後の糸を超音波洗浄機(洗浄液:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート0.5%水溶液)を用いて、40℃で30分間洗浄し、その後40℃の温水で糸のヌメリがなくなるまで十分に洗浄した。次いで、洗浄後の糸を40℃で24時間乾燥し、デシケーター中で4日間放置して十分に乾燥させた後に、評価用糸の洗浄後重量を正確に秤量した。得られた初期重量と洗浄後重量から次式(2):
洗浄減量率(%)={(W−W)/W}×100 ・・・(2)
:評価用糸の初期重量
:評価用糸の洗浄後重量
を用いて洗浄減量率を算出した。なお、糸の重量減量率の小さい方がブリード性が優れることを表す。得られた結果を表6に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
表6に記載した結果からも明らかなように、混合物Aを含有する実施例8で得られた糸においては、化合物Bを含有する実施例9で得られた糸と比較して、糸の重量減量率が小さかった。したがって、本発明にかかる可塑剤の中でも、混合物Aのようにジアセチルモノ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライド、モノアセチルジ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライド、及びトリ(12−アセトキシオクタデカノイル)グリセライドからなる混合物を用いると、優れたブリード性を示す塩化ビニリデン系樹脂組成物が得られることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元粘度が0.035超過〜0.075である塩化ビニリデン共重合体100重量部と、下記構造式(I)で表される少なくとも一つの化合物である可塑剤0.1〜10重量部とからなる塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物。
【化1】

(但し、R1、R2及びR3のうちの少なくとも一つの基は、12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基はアセチル基である。)
【請求項2】
前記可塑剤が、前記構造式(I)におけるR1及びR2のうちの少なくとも一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物の混合物である請求項1に記載の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物。
【請求項3】
前記可塑剤が、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか二つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物とからなる混合物である請求項1に記載の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物。
【請求項4】
前記可塑剤が、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか一つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3のうちのいずれか二つの基が12−アセトキシオクタデカノイル基であり、残りの基がアセチル基である化合物と、前記構造式(I)におけるR1、R2及びR3の全ての基が12−アセトキシオクタデカノイル基である化合物とからなる混合物である請求項1に記載の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の塩化ビニリデン共重合体系樹脂組成物からなるフィルム。

【公開番号】特開2006−282999(P2006−282999A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39425(P2006−39425)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】