説明

塩化ビニル系ペーストゾル組成物、及びそれより得られる塩化ビニル系壁紙。

【課題】 本発明は、近年注目されている室内環境汚染問題に対して、室内環境汚染を低減させる事を目的とした、ペースト加工塩化ビニル系樹脂組成物、およびそれにより得られたビニル壁紙に関するものである。詳しくは、壁紙から室内への揮発性有機化合物の放散が抑制されたことを特徴とする。
【解決手段】 塩化ビニル系ペーストゾル中に含まれる、150℃×30分の加熱減量が20%以上の揮発性有機化合物の含有量の総和が、プラスチゾル全重量に対して1重量%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年注目されている室内環境汚染問題に対して、室内環境汚染を低減させる事を目的とした、塩化ビニル系樹脂組成物、及びそれより得られる塩化ビニル系壁紙に関するものである。詳しくは、壁紙から室内への揮発性有機化合物の放散が抑制されたことを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
壁紙とは、JIS A6921:2003に規定されている、主に建築物の内壁、天井などの内装仕上げとして張りつけるものであり、その意匠性を高めるために、種々の印刷や表面に凹凸模様を施しているのが、一般的である。
【0003】
この壁紙には、塩化ビニル系樹脂やアクリル樹脂などのプラスチック素材を組み合わせたプラスチック壁紙や、麻、シルク等の自然素材を用いた自然素材壁紙、紙素材のみを用いた紙壁紙等の種類があるが、壁紙使用用途に応じて適宜選択される。価格面や、易施工性や、易張替性などの観点を基に選定される場合には塩化ビニル系樹脂を用いたビニル壁紙が一般的に使用される。
【0004】
近年、気密性の高い住居が増加しており、ビニル壁紙製造工程で使用する有機化合物が最終壁紙製品中に残留し、その有機化合物が室内で揮発することは好ましくないとされている。例えばJIS A6921:2003で定義されている揮発性有機化合物量(以下、VOC)を上昇させ、いわゆるシックハウスの原因物質になる可能性があると言われている。厚生労働省の指針値において、このVOCの気中総濃度(以下、TVOC)に関して、400マイクログラム/立方メートル以下の値が示されている。
【0005】
この問題を解決するために、近年VOC放散を抑えることが求められてきており、例えば、炭酸カルシウム等の充填剤を用いた配合での減粘効果を示す添加剤が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この方法だけでは、壁紙としての諸特性を満足させながら、厚生労働省指針値を満たす程度に、TVOCを十分に低下することが困難であった。
【特許文献1】特開2001−335696
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、近年注目されている室内環境汚染問題に対して、室内環境汚染を低減させる事を目的とした、塩化ビニル系樹脂組成物、およびそれより得られる塩化ビニル系壁紙に関するものである。詳しくは、壁紙から室内への揮発性有機化合物の放散速度を抑制されたことを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこのような背景に鑑み鋭意検討した結果、プラスチゾル組成物中の特定の揮発性有機化合物の含有量を低下させることにより、室内環境汚染を防止できるビニル壁紙が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物を、塩化ビニル系ペーストゾル組成物全重量に対して1重量%以下含有することを特徴とする、塩化ビニル系ペーストゾル組成物(請求項1)に関する、
本発明は、請求項1記載の塩化ビニル系ペーストゾル組成物より得られる,塩化ビニル壁紙(請求項2)に関する、
本発明は、JIS A6921:2003に規定されているTVOC放散量の1日目の気中濃度が、400マイクログラム/立方メートル以下であることを特徴とする、請求項2記載の塩化ビニル壁紙(請求項3)に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塩化ビニル壁紙を使用する室内のVOC放散を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の塩化ビニル系ペーストゾル組成物は、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物を、塩化ビニル系ペーストゾル組成物全重量に対して1重量%以下含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の揮発性有機化合物を塩化ビニル系樹脂組成物に対して1重量%以下含有するとは、ペーストゾル組成物の配合における、揮発性有機化合物の配合部剤の部数の総和を、全配合部剤の部数の総和で除することによる値が、1%以下となるように配合設計を行なうことであり、本特許の効果を最も効果的に発揮する為に最も好ましくはゼロとなるように配合設計を行なうことが最も良い。
【0012】
本発明の150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物とは、沸点が比較的低く、室温で大気中に蒸発、気化しやすい有機化合物を意味し、従来のペーストゾル組成物において、例えば組成物の粘度を低減させる為に10〜20重量部程度用いる、沸点が150℃程度の度脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素や、ペーストゾル組成物を過熱加工する際に引き起こされる脱塩酸による黄変を防止する為に用いるの液状安定剤が持ち込む3〜5重量部程度の溶剤等が、その有機化合物に相当する。これらが最終壁紙製品中にそのものが残留したときに、この加熱減量値が高いものほど室内大気中に放散されやすく、VOC濃度を高くする傾向にある。
【0013】
ここでいう、150℃×30分の加熱減量とは、以下のように求めることができる。すなわち、原料を内径5センチメートル、高さ3センチメートルのガラス製秤量瓶に約5グラム精秤し(aグラム)、ついでそれを150℃の熱風循環式のオーブンに入れ、オーブンのダンパを空けた状態で30分間放置した後に取り出し、デシケーター内で室温まで冷却した後に重量を測定し、予め測定していたガラス製秤量瓶の空重量との差から過熱後の原料重量を算出し(bグラム)、(b−a)÷a×100(%)により算出する。
【0014】
本発明の塩化ビニル系ペーストゾル組成物は、ペースト加工法で壁紙を作製する時に用いる流動体で、塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤、充填剤、脱塩酸防止安定剤、減粘剤を必須成分とし、必要に応じて、発泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、密着付与剤、チキソトロープ剤、防カビ剤、などを適宜使用することができる。
【0015】
本発明に用いられる塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単量体、または塩化ビニル単量体とこれと共重合可能な単量体の混合物を水性媒体中で、乳化剤、必要に応じて、高級アルコール、高級脂肪酸などの分散助剤、更に油溶性重合開始剤を加えて均質化した後微細懸濁重合するか、水溶性開始剤を加えて乳化重合、播種乳化重合する等により得られた、直径1〜2μm程度の微粒子の水性均質分散液(ラテックス)を、を噴霧乾燥することにより製品とされる。微細懸濁重合時の均質化においては、一段または二段加圧式高圧ポンプ、コロイドミル、遠心ポンプ、ホモミキサー、振動式攪拌器、ノズルまたはオリフィスからの高圧噴出および超音波などの公知の方法を、単独あるいは組み合わせて用いる事ができる。
【0016】
本発明の樹脂を得るための乾燥方法は制限は無く、スプレー乾燥など種々の公知の方法により粉体とすることができる。
【0017】
本発明の重合方法において使用できる単量体は、塩化ビニル単独または塩化ビニルおよびこれと共重合し得る単量体との混合物である。本発明では、これらを「塩化ビニル系単量体」と総称する。共重合し得る単量体は特に限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニリデン等のビニリデン類、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその酸無水物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジル等の不飽和カルボン酸エステル類、スチレン、αーメチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、更にはジアリルフタレート等の架橋性モノマー等の、塩化ビニルと共重合可能な全ての公知の単量体が使用できる。これらの単量体の使用量は、塩化ビニルとの混合物中50重量%未満であるのが好ましい。
【0018】
微細懸濁重合に用いられる界面活性剤は特に限定されるものではないが、アニオン性界面活性剤が通常単量体100重量部当たり0.1〜3重量部程度用いられる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルエーテルリン酸エステル等のカリウム、ナトリウム、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0019】
分散助剤として、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸類を用いることができる。その他の重合助剤としては、芳香族炭化水素、ポリビニルアルコール、ゼラチン、粒子径調整剤(硫酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムなど)、連鎖移動剤、抗酸化剤などが挙げられる。これらは単独または二種類以上を組み合わせて用いる事ができる。
【0020】
微細懸濁重合に用いる油溶性開始剤としては、ジラウロイルパーオキサイド、ジ−3,5,5,トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート等のパーオキシエステル類等の有機過酸化物開始剤及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤を用いることができる。乳化重合に用いる水溶性開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素水等を用い、必要に応じて、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート2水塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等の還元剤を併用する事ができる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いられる。
【0021】
また、プラスチゾルの流動性改良のため、基本粒子径が10〜70μmのブレンディング樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて併用することもできる。
【0022】
本発明に用いる可塑剤は、ペースト樹脂を可塑化し、流動体を与える液状物質であり、
塩化ビニル系樹脂に用いられるものであれば特に制限されるものでは無いが、1次可塑剤としては、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート等のフタル酸エステル、トリクレジルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート等のリン酸エステル、ジ−2−エチルヘキシルアジペート等のアジピン酸エステル、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバシン酸エステル、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート等のアゼライン酸エステル、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル、ポリエステル系可塑剤等を用いることができる。これらは、単独で使用しても、2種以上併用してもよく、またクエン酸エステル、グリコール酸エステル、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル、エポキシ系可塑剤等の2次可塑剤を併用してもよい。その使用量は、ペースト樹脂100重量部あたり、通常は45〜200重量部用いられ、コーティング性の向上とビニル壁紙品質を共に更に向上させる為には、好ましくは50〜100重量部、更に好ましくは55〜80重量部用いられる。
【0023】
本発明に用いる充填剤は、炭酸カルシウム、酸化チタンなどを挙げる事ができる。充填剤の形態としては、特に制約は無いが、粉体、或いは可塑剤に予め微分散した揮発性有機化合物の溶剤を含んでいないトナーを用いることが好ましい。充填剤には溶剤を用いていないものを用いる事が更に望ましい。
【0024】
炭酸カルシウムは、その使用目的に制約は無いが、例えば、増量によるコストダウン目的、防火認定基準を満足する目的で用いる。使用量は、ペースト樹脂100重量部あたり、通常は30〜200重量部用いられ、コーティング性の向上とビニル壁紙品質を共に更に向上させる為には、好ましくは50〜150重量部、更に好ましくは60〜100重量部用いられる。
【0025】
酸化チタンは、その使用目的に制約は無いが、例えば、壁紙などの最終製品に隠蔽性を付与させるために用いる。その使用量は、ペースト樹脂100重量部あたり、通常は5〜50重量部用いられ、ビニル壁紙品質を更に向上させる為には、好ましくは5〜30重量部、更に好ましくは10〜20重量部用いられる。
【0026】
本発明に用いる安定剤は、本発明の目的を達成するものであれば特に制約はないが、バリウム系安定剤、マグネシウム系安定剤、カルシウム系安定剤、亜鉛系、錫系安定剤などを挙げる事ができ、それらは単独,もしくは二種類以上を混合して用いることができる。その使用目的に制約はないが、例えば、塩素系樹脂の脱塩酸防止目的で使用される。使用形態としては特に制約は無く、例えば、溶液系、或いはトナーなどを用いる事ができるが、いずれの形態においても、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物を、塩化ビニル系ペーストゾル組成物全重量に対して1重量%以下となることが必要で、本特許の効果を最も効果的に発揮する為には、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%未満の溶剤や可塑剤に溶解したもの、あるいは可塑剤に予め微分散したトナー状の、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物を含んでいないものを用いることが更に好ましい。その使用量は、ペースト樹脂100重量部あたり、通常は1〜10重量部用いられ、ビニル壁紙品質を共に更に向上させる為には、好ましくは3〜5重量部用いられる。
【0027】
本発明に用いる減粘剤は、脂肪族炭化水素類や芳香族炭化水素類の溶剤を挙げる事ができる。その使用目的に制約は無いが、例えば、ペーストゾルの粘度低下のために用いられる。本目的で用いる溶剤の種類に特に制約はないが、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物の割合が、塩化ビニル系ペーストゾル組成物全重量に対して1重量%以下となることが必要で、例えば沸点が250℃以上の比較的高沸点の溶剤を本目的に用いる全溶剤の50重量%以上、更に好ましくは80%以上とすることが好ましく、本特許の効果を最も効果的に発揮する為には100%とすることが最も望ましい。使用量は、ペースト樹脂100重量部あたり、通常は3〜20重量部用いられ、コーティング性の向上とビニル壁紙品質を共に更に向上させる為には、好ましくは4〜15重量部、更に好ましくは5〜10重量部用いられる。
【0028】
本発明に用いる発泡剤は、本発明の目的を達成するものであれば特に制約はないが、アゾ化合物系、ニトロソ化合物系、ヒドラジン誘導体系、重炭酸塩類などの挙げる事ができる。発泡剤は、壁紙などの最終製品において、発泡体とする必要がある場合に用いられる。使用形態としては、特に制約はないが、粉体、或いはトナー状で用いる事ができるが、いずれの形態においても、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物を含んでいないことが好ましく、溶剤を含んでいないものを用いることが更に好ましい。
【0029】
また、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、密着付与剤、チキソトロープ剤、防カビ剤等を配合してもよい。使用形態には特に制約はないく、粉体、トナー、溶液の形態で用いられるが、いずれの形態においても、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物を、塩化ビニル系ペーストゾル組成物全重量に対して1重量%以下となることが必要で、本特許の効果を最も効果的に発揮する為には、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%未満である有機溶剤や可塑剤に溶解したもの、あるいは可塑剤に予め微分散したトナー状の、150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物を含まないものを用いることが更に好ましい。
【0030】
壁紙の製造方法としては通常のペースト加工法であれば特に制約は無く、例えば次の用にして製造することが出来る。すなわち、A)ペースト加工用ポリ塩化ビニル系樹脂を、可塑剤を必須成分とし、炭酸カルシウムなどの充填剤、発泡剤、安定剤、減粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、表面処理剤、チキソトロープ剤、接着性付与剤等の部剤を必要に応じて適当量用い、これらを混合、混練して、プラスチゾルと称するペースト加工用ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を一旦得、そのプラスチゾルを難燃紙などの基材上に、その基材表面との隙間を50〜200μmに調整したコーティング刃(以下、コーター)を通してコーティングする、あるいはスクリーンと称する転写装置からプラスチゾルを基材上に転写する工程と、B)このコーティング物を表面温度が130〜180℃になるように加熱してゲル化させる、あるいは必要に応じてスクリーンと称する転写装置から再度プラスチゾルを転写し表面温度が130〜180℃になるように加熱してゲル化させることにより、原反と称する通常50〜200μmの薄い塗膜(以下、原反)を得、次いでこの原反に必要に応じて印刷を施し、更に必要に応じてその原反を表面温度が180〜350℃になるように加熱して発泡させる工程からなる工程から、壁紙製品を得ることができる。
【0031】
また、必要に応じて最終製品の意匠性を高めるために、原反の印刷工程において発泡剤の分解を抑制する無水トリメリット酸系やベンゾトリアゾール系の発泡抑制剤を所望の柄に印刷したり、発泡直後に所望の凹凸模様を有するロールを押しつけることにより、最終製品の表面に凹凸模様を施すことができる。
【0032】
このような加工工程では、プラスチゾルをミキサーからタンク,あるいはタンクからコーター部までポンプ等で移送するためプラスチゾルの移送のし易さが要求されると共に,コーターの隙間を抵抗無く通過し、基材上に平滑、均一に塗布できること、すなわちコーティング適性が要求される。そしてこのような移送のし易さやコーティング適性には、低剪断ならびに高剪断領域での粘度が影響する。また作製した原反はそのまま製品になることもあるし、原反に印刷を施して発泡加工する際には良好な印刷を施すために、原反の表面平滑性が要求される。さらに、発泡加工を施す場合は発泡後の表面平滑性、白度、セル強度が高いこと、すなわち発泡性が要求される。
【0033】
例えばプラスチゾルの粘度が高すぎると取り扱いが困難なばかりか、コーティング時に刃汚れとよばれる、コーターの裏側にゾルが回り込んで堆積し、その堆積物が発生して筋引きやカスレが生じたりすることによって、壁紙の商品価値を損なう。このような問題を回避するために、一般的には、沸点が150℃から200℃の脂肪族炭化水素または/および芳香族炭化水素からなる減粘剤(以下、希釈剤)を配合して樹脂組成物のゾル粘度を下げてコーティングや加工を行うことができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、記載の部数とは、重量部数の意味である。
【0035】
(加熱減量測定方法)
プラスチゾルの原料のうち液状原料を、個別に内径5センチメートル、高さ3センチメートルのガラス製秤量瓶に約5グラム精秤した(aグラム)。ついでそれを150℃に加温した熱風循環式のオーブン(TABAI社製、HIGHTEMPOOVEN PHH−100型、風量:1.5m/秒(槽中央部縦断面での平均風速)、ダンパ:50%開度)に入れ、30分間放置した。取り出した秤量瓶をデシケーター内で室温まで冷却した後に重量を測定し、予め測定していたガラス製秤量瓶の空重量との差から過熱後の原料重量を算出し(bグラム)、(b−a)÷a×100(%)により算出した。
【0036】
(実施例1)
塩化ビニルペースト樹脂(株式会社カネカ製、商品名PSL−675)100部、加熱減量が0.2%のジ−2−エチルヘキシルフタレート(以下、DINP)50部、炭酸カルシウム(備北粉化製、商品名BF−200S)70重量部、発泡剤(永和化成製、商品名AL−L30)4部、酸化チタン(テイカ製、商品名JR600A)15部、加熱減量が3.1%の減粘剤(ビッグケミー製、商品名BYK20386)7部、および加熱減量は4.8%のバリウム−亜鉛系の安定剤Aを4部配合し、樹脂量を100グラムとして500cc用ステンレスビーカーに計量し、4枚ペラで1000rpmにて3分間混練することにより、プラスチゾルを得た。
【0037】
得られたプラスチゾル組成物を難燃紙上にコーティングし、140℃で30秒間加熱することにより、難燃紙上にゲル化フィルムを得た。この時のゲル化フィルム厚みは150μmであった。次にこのゲル化フィルムを難燃紙とともに適度な大きさに切断し、遠赤外線加熱炉(パネル温度:410℃、発泡体との距離:10cm、滞留時間:20秒)で発泡を行った。
【0038】
得られた発泡体を、JIS A1901:2003に定義されているチャンバー法で、測定開始1日後のTVOC、すなわちトルエン換算で炭素数が6から16の化合物の放散量の総和を測定した。すなわち、容積が20リットルのチャンバー容器を用い、温度:28±1℃、相対湿度:50±5℃、換気回数:0.5±0.05回/時間、試験片表面積:440平方センチメートル、試料負荷率2.2平方センチメートル/立法センチメートルの試験条件で、Supelco製TENAX−TAで測定開始1日後の空気を捕集し、捕集した気体を質量分析計付きガスクロマトグラフで分析し、予めヘキサンおよびヘキサデカンで求めたリテンションタイム間のピークの面積の総和と内標準物質のトルエンとトラベルブランクの値ピーク面積から、TVOC値を求めた。
【0039】
本例での150℃×30分の加熱減量が20%以上の揮発性有機化合物の含有量の総和(%)とTVOC測定結果は、表1に示した。
【0040】
(実施例2)
実施例1において、安定剤として、加熱減量が2.1%のバリウム−亜鉛系の安定剤Bを用いた以外は、実施例1と同様とした。
【0041】
本例での150℃×30分の加熱減量が20%以上の揮発性有機化合物の含有量の総和(%)とTVOC測定結果は、表1に示した。
【0042】
(実施例3)
実施例1において、加熱減量が100%の希釈剤(シェル製、商品名シェルゾールS)(以下、SS)を2部併用した以外は、実施例1と同様とした。
【0043】
本例での150℃×30分の加熱減量が20%以上の揮発性有機化合物の含有量の総和(%)とTVOC測定結果は、表1に示した。
【0044】
(比較例1)
実施例1において、減粘剤を用いずに、その代わりにSSを15部併用した以外は、実施例1と同様とした。
【0045】
本例での150℃×30分の加熱減量が20%以上の揮発性有機化合物の含有量の総和(%)とTVOC測定結果は、表2に示した。
【0046】
(比較例2)
実施例3において、SSを7部併用した以外は、実施例3と同様とした。
【0047】
本例での150℃×30分の加熱減量が20%以上の揮発性有機化合物の含有量の総和(%)とTVOC測定結果は、表2に示した。
【0048】
(比較例3)
実施例1において、安定剤Aの代わりに、加熱減量が21.6%の安定剤Cを用いた以外は、実施例1と同様とした。
【0049】
本例での150℃×30分の加熱減量が20%以上の揮発性有機化合物の含有量の総和(%)とTVOC測定結果は、表2に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
150℃×30分の条件における加熱減量が20重量%以上である揮発性有機化合物を、塩化ビニル系ペーストゾル組成物全重量に対して1重量%以下含有することを特徴とする、塩化ビニル系ペーストゾル組成物。
【請求項2】
請求項1記載の塩化ビニル系ペーストゾル組成物より得られる,塩化ビニル壁紙。
【請求項3】
JIS A6921:2003に規定されているTVOC放散量の1日目の気中濃度が、400マイクログラム/立方メートル以下であることを特徴とする、請求項2記載の塩化ビニル壁紙。

【公開番号】特開2006−111660(P2006−111660A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297870(P2004−297870)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】