説明

塩味改善法及び改善された食用塩組成物

【課題】塩本来の塩味を損なうことなく塩辛さを和らげた塩味の改善方法及び食用塩組成物を提供する。
【解決手段】酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムから選ばれる1つもしくは2つ以上の組合せからなる無機化合物を、食用塩に0.005重量%以上0.7重量%以下添加することで、本来の塩味を損なうことがなく、塩かどを取り塩味をまろやかにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の無機化合物を食用塩に添加することによって、塩味をまろやかにする食用塩の改善方法及びこれを用いた食用塩組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
5つの基本風味の1つである塩味は、単なる嗜好としてではなく、飲食品の美味しさを引き立て食欲増進効果もあることから、飲食品の風味として極めて重要である。飲食物へ塩味を付与するには、イオン交換膜製塩法で製造された塩、岩塩または岩塩を溶解再結晶させた塩、天日塩または天日塩を溶解再結晶させた塩、海水またはかん水から水分を蒸発させて晶析させた塩などを用いるが、特に純度の高い食用塩を用いた場合、ストレートに強い塩味を感じ、飲食品の美味しさが損なわれてしまう。
【0003】
その為、種々の化合物を添加するなどして塩辛さを改善する検討が多数行われてきた。
【0004】
一般的に、海水から塩を晶析した残りである苦汁(にがり)を残す、もしくはあとから添加することで、塩味がまろやかになることは知られている。これは苦汁の苦味による塩味のマスキング効果によるものといわれている。しかし苦汁が液体であること、さらに苦汁の主成分である塩化マグネシウムは非常に吸湿性が高いことから、この方法では出来上がりの食用塩は水分を含んだ湿塩状態であり、べたつくため取り扱いに利便性を欠くものであった。塩味をまろやかにする添加物としては、上記のような苦汁あるいは苦汁中の主成分(塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム)を添加するといった公知の方法のほかには、ヨウ素分を含む地下かん水を添加する方法(特許文献1)が提案されている。そのほかの添加物としては、香辛料を添加したもの(特許文献2)、植物や海産物のエキスを添加したもの(特許文献3,4)、アミノ酸や有機酸といった有機化合物を添加したもの(特許文献5)などが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開H08−38100号公報
【特許文献2】特開H05−103628号公報
【特許文献3】特開H09−266765号公報
【特許文献4】特開2005−224201号公報
【特許文献3】特開2002−345430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、地下かん水を添加する場合においては、苦汁添加と同様水分が高いものとなっているうえ、添加量も、元となる食用塩に対し数%〜数十%と極めて多量の添加を必要としている。また、香辛料やエキス類、有機化合物といった添加物の場合、それ自体に独特な味、風味を有しており、塩味自体はまろやかになるものの、これら添加物の味の影響を受け、苦汁添加に見られるような塩味本来の味を損なわずにまろやかにするものは得られていない。
【0007】
本発明の目的は、無機化合物を極少量添加することによって、本来の塩味を損なうことなく塩味のまろやかな食用塩組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムから選ばれる1つもしくは2つ以上の組合せからなる無機化合物を少量食用塩に添加することで、食用塩の味が改善されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(3)である。
(1)酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムから選ばれる1つもしくは2つ以上の組合せからなる無機化合物を食用塩に添加することによる塩味の改善方法。
(2)上記(1)の無機化合物を食用塩に0.005重量%以上0.7重量%以下添加することを特徴とする塩味の改善方法。
(3)上記(1)または(2)の方法で得られた塩味が改善された食用塩組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により得られた方法により、本来の塩味を損なうことなく塩辛さを和らげた食用塩組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
食用塩としては、岩塩、あるいは岩塩を一度水に溶かして塩水にしてから水分を蒸発させて製造したもの、海水を原料にした天日塩、あるいは天日塩を一度水に溶かして塩水にしてから水分を蒸発させて製造したもの、海水をイオン交換膜あるいは逆浸透膜で海水中の塩分を濃縮してから水分を蒸発させて製造したもの、など、種種の原料、製法があるが、特に限定するものではない。
【0012】
添加する無機化合物は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムから選ばれる1つもしくは2つ以上の組合せからなるものである。また、たとえば酸化カルシウムが主成分である貝殻焼成カルシウム、卵殻焼成カルシウムなどの焼成カルシウム類、酸化マグネシウムと酸化カルシウムが主成分である軽焼ドロマイトといったような、これらの無機化合物を主成分とする混合物でもかまわない。
【0013】
食用塩と混合する際、粉体同士で混合、もしくは添加物を水に懸濁させて混合する場合は、できるだけ均一に分散させるために、用いる食用塩に比べて粒径は細かい方が良く、望ましくは平均粒径が該食用塩の1/10以下、さらに望ましくは1/100以下の微粒であることが望ましい。水に溶ける添加物の場合で、一旦、水に溶解して該食用塩と混合する場合は、特に粒径にこだわる必要は無い。
【0014】
食用塩と無機化合物との混合方法については、粉体同士の混合の場合であれば、リボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、コーンブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサーといった混合装置を使用することができる。また、添加物を水溶液もしくはスラリーの状態で混合する場合も、各種混合装置から適宜選択することができる。ただ、無機化合物を、水溶液もしくはスラリーで添加混合した場合、用途によっては乾燥する工程が必要になる。
【0015】
食用塩に対する無機化合物の添加量については、食用塩100に対して、0.005重量%以上、0.7重量%以下であるが、化合物ごとに、より望ましい添加量がある。酸化マグネシウムの場合は、0.008重量%以上、0.2重量%以下。水酸化マグネシウムの場合は、0.008重量%以上、0.1重量%以下。塩基性炭酸マグネシウムの場合は、0.008重量%以上、0.5重量%以下。酸化カルシウムの場合は、0.008重量%以上、0.08重量%以下。水酸化カルシウムの場合は、0.008重量%以上、0.05重量%以下。炭酸ナトリウムの場合は、0.008重量%以上、0.15重量%以下。組成上、酸化カルシウムと酸化マグネシウムの混合物である軽焼ドロマイトの場合は、0.008重量%以上、0.1重量%以下である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例はこの発明の理解を容易とするためのものであり、この発明を限定するものではない。なお、ここで使用した食用塩は、財団法人塩事業センターのイオン交換膜製塩法で製造された食塩を使用した。篩を用いて測定した平均粒径は、400ミクロンであった。各種、添加物の平均粒径については、HORIBA製LA-300レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した。
【0017】
実施例1
食塩100gに対して、平均粒径が5.1ミクロンの酸化マグネシウムを0.001重量%から1.0重量%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った。
【0018】
実施例2
食塩100gに対して、平均粒径が15.8ミクロンの水酸化カルシウムを0.001重量%から1.0重量%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った。
【0019】
実施例3
食塩100gに対して、平均粒径が3.2ミクロンの水酸化マグネシウムを0.001重量%から1.0重量%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った。
【0020】
実施例4
食塩100gに対して、平均粒径が10.3ミクロンの塩基性炭酸マグネシウムを0.001重量%から1.0重量%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った。
【0021】
実施例5
食塩100gに対して、平均粒径が18.6ミクロンの炭酸ナトリウム(無水)を0.001重量%から1.0重量%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った。
【0022】
実施例6
食塩100gに対して、平均粒径が5.1ミクロンの酸化マグネシウムと平均粒径が15.8ミクロンの水酸化カルシウムを50%:50%の比率で0.001重量%から1.0重量%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った。
【0023】
実施例7
食塩100gに対して、平均粒径が8.7ミクロンの酸化カルシウムを0.001重量%から1.0重量%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った。
【0024】
実施例8
食塩100gに対して、平均粒径が2.4ミクロンの軽焼ドロマイトを0.001重量%から1.0重量%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った。
【0025】
比較例1
比較対照として食塩100gに対して、平均粒径が6.8ミクロンの炭酸カルシウムを0.001重量%から1.0重量%%を量りとって、卓上ミキサーを使用して粉体同士で混合をし、食用塩組成物を作った
【0026】
10人のパネラーに対し、上記実施例1から8で得た食塩組成物と上記比較例1で得た食塩組成物と対照として用意した食塩を舐めさせ、その塩味強度について、下記パネラー評価基準により4段階評価させ、その合計点数について下記<評価基準>で4段階評価を行い、その結果を表1に記載した。
【0027】
<パネラーの塩味強度評価基準>
対照に比べあきらかに弱い塩味を感じる・・・2点
対照に比べ若干弱い塩味を感じる・・・・・・1点
対照とほぼ同じ程度の塩味を感じる・・・・・0点
対照に比べ塩味以外の違和感がある・・・・−1点
【0028】
<評価基準>
〇 : 10人のパネラーの合計点数が 14 〜 20点
△ : 10人のパネラーの合計点数が 7 〜 13点
× : 10人のパネラーの合計点数が 0 〜 6点
××: 10人のパネラーの合計点数が 0点未満
【0029】

【表1】

【0030】
上記結果より、塩基性無機化合物の酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムから選ばれる1つもしくは2つ以上組み合わせて食用塩に0.005重量%〜0.7重量%添加することによって食用塩の塩味を改善する効果が見られる。また、添加量が多くなると塩味はまろやかになるが、塩味以外の違和感が顕れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、特定の無機化合物を食用塩に添加することによって、塩味をまろやかにした食用塩組成物であり、塩味調味料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムから選ばれる1つもしくは2つ以上の組合せからなる無機化合物を食用塩に添加することによる塩味の改善方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無機化合物を食用塩に0.005重量%以上0.7重量%以下添加することを特徴とする塩味の改善方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で得られた塩味が改善された食用塩組成物。