説明

塩基性媒体中で安定な過プロピオン酸組成物

本発明は、塩基性媒体中で安定な過プロピオン酸組成物、過プロピオン酸を安定化する方法、およびさらに塩基性媒体中の過プロピオン酸を安定化するための化合物の特定の組み合わせの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性媒体中で安定な過プロピオン酸組成物、過プロピオン酸を安定化する方法、およびさらに塩基性媒体中の過プロピオン酸を安定化するための化合物の特定の組み合わせの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素およびプロピオン酸から調製される過プロピオン酸溶液は、平衡法則に従うことが知られており、この式は次のように概略的に表すことができる:
CH−CH−COH+H<−>CH−CH−COH+H
この系の動的進展は比較的遅い;これらは、強酸、例えば硫酸、またはリン酸によって加速され、この場合これらは触媒として作用する。これらの強酸の存在により、系はこの平衡状態までより迅速に進展できる。しかし、系が平衡状態に到達したら、この系は、そこに含有される活性酸素を除々に失い、この損失により過酸および過酸化水素の含有量が除々に減少することになることが知られている。この現象を克服するために、安定化剤、例えばジピコリン酸が使用されている。
【0003】
過プロピオン酸の特定の使用では、塩基性媒体中で過プロピオン酸溶液を使用することが必要とされる。これは、例えば有機リンまたは有機硫黄毒性製品、例えば軍事分野において使用される毒物または農業分野において使用される植物保護製品の除染のための過プロピオン酸系組成物の使用を含む。
【0004】
国際出願WO01/30452には、過プロピオン酸、および安定化剤として使用されるジピコリン酸を含む塩基性組成物が記載されている。毒性製品を除染するためのこうした組成物の使用がこの文献に記載されている。しかし、こうした組成物は、満足のいく安定性を示さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/30452号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
故に、塩基性媒体中でより安定な新規な過プロピオン酸組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
故に、本発明者らは、新規な過プロピオン酸系組成物を開発した。本発明によれば、この組成物は、過プロピオン酸、ジピコリン酸およびヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)を含む。
【0008】
驚くべきことに、上記で定義される組成物は非常に安定であり、特に過プロピオン酸およびHEDP以外の有機捕捉剤、例えば従来からH安定化剤として使用されているナトリウムDETPMP(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)の塩)またはナトリウムEDTMP(エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)の塩)を含む組成物より安定であることは注目に値する。これは、これらの有機捕捉剤が、HEDP(実施例2)とは異なり除染組成物の安定化に関して利点を有していないからである。
【0009】
有利なことには、使用される過プロピオン酸は、水溶液の形態であり、特に触媒、例えば硫酸またはホウ酸の存在下、過酸化水素水溶液とプロピオン酸との反応によって得られるようなものである。こうした調製プロセスは、例えばフランス特許出願FR2462425に記載されている。フランス特許出願番号FR2464947およびFR2519634に記載される過プロピオン酸の無水溶液とは異なり、この水溶液は、毒性または引火性有機溶媒、例えば1,2−ジクロロエタンまたはシクロヘキサンとの共沸蒸留工程を実施せずに簡便な方法で得られる。
【0010】
故に、使用される過プロピオン酸は、生成物としての過プロピオン酸、反応しなかった反応体としてのプロピオン酸、反応しなかった反応体としての過酸化水素水溶液、および触媒としての硫酸またはホウ酸を含む水溶液の形態である。
【0011】
故に本発明の主題である組成物は:
過プロピオン酸
ジピコリン酸、
ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、
プロピオン酸
過酸化水素水溶液、ならびに
硫酸および/またはホウ酸
を含むことができる。
【0012】
上記で定義された組成物は、水中にただ1つの相のみを形成する溶液であり、それにより本発明の主題である組成物の水溶液中での使用を容易にする。
【0013】
例として、本発明の主題である組成物のヒドロキシエチリデンジホスホン酸は、商標名Dequest2010(登録商標)としてSolutia社によって販売される製品からなることができる。
【0014】
1つの好ましい実施形態において、本発明の主題である組成物は、組成物の総重量に対して:
30重量%から40重量%の過プロピオン酸、
0.05重量%から2重量%のジピコリン酸、および
0.5重量%から5重量%のヒドロキシエチリデンジホスホン酸
を含む。
【0015】
本発明の主題である組成物が塩基性水溶液で希釈される場合、得られた溶液は実施例3に例示されるように安定である。
【0016】
本発明の1つの特定実施形態において、上記で定義された組成物は、塩基性水溶液の形態である。故に、本発明の主題はまた、上記で定義された組成物を含む塩基性水溶液である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の趣旨上、「塩基性水溶液」という用語は、水を含み、このpHが7を超えるいずれかの溶液を意味することを目的とする。
【0018】
有利なことには、本発明に従う塩基性水溶液は、8から12、さらにより好ましくは8.5から9.5のpHを有する。必要により、pHは、塩基性化剤を用いて調節できる。故に、本発明の1つの実施形態において、塩基性水溶液は、塩基性化剤を含む。この塩基性化剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸アンモニウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムおよびホウ酸アンモニウム、ならびにこれらの混合物から選択できる。
【0019】
本発明の主題である組成物が塩基性水溶液で希釈される場合、ジピコリン酸、過プロピオン酸およびHEDPは、これらの対応する塩の形態であることができる。
【0020】
組成物の安定性は、酸性媒体中にて周囲温度で12カ月保管した後過プロピオン酸濃度の損失が有意でないことによって規定される、即ち過プロピオン酸濃度が初期濃度の90%を下回らない。本発明に従う組成物はまた、塩基性媒体中で1時間後に過プロピオン酸濃度の損失が、本発明に従わない組成物に関して測定された過プロピオン酸濃度の損失よりも小さいことを示す(実施例3)。通常、除染における配合物の有効性は、初期活性の80%を下回らない。
【0021】
本発明に従う組成物は、溶液の総重量に対して過プロピオン酸が0.5重量%から40重量%、好ましくは3重量%から10重量%の濃度にて水溶液中で使用されるのが好ましい。この組成物はまた、例えば場合により塩素化されている脂肪族または芳香族炭化水素、例えばトルエン、キシレン、塩化メチレン、およびテトラクロロエチレンのような水不混和性有機溶媒中に分散後にエマルションまたはマイクロエマルションの形態で使用されることができる。
【0022】
本発明に従う水溶液は、本発明の主題である組成物に加えて、アルカリ性緩衝剤および界面活性剤から選択される化合物、およびこれらの混合物を含んでいてもよい。
【0023】
こうした水溶液は、有機リンまたは有機硫黄化合物を破壊することを目的とする除染剤として使用するのに特に好適である。
【0024】
本発明の趣旨上、「アルカリ性緩衝剤」という用語は、単一種類のアルカリ性緩衝剤およびアルカリ性緩衝剤の混合物の両方を意味することを目的とする。本発明に従う組成物は、アルカリ性緩衝剤、例えばアルカリ性炭酸塩またはアルカリ性ケイ酸塩、特に炭酸カリウムまたは炭酸ナトリウムを含む。
【0025】
本発明の趣旨上、「界面活性剤」という用語は、組成物の総重量に対して、0重量%から25重量%、好ましくは5重量%から20重量%の割合で使用される陰イオン性、陽イオン性、非イオン性または両性イオン性界面活性剤を意味することを目的とする。
【0026】
陽イオン性界面活性剤としては、四級アンモニウムタイプのものを挙げることができ、例えば:
セチルトリメチルアンモニウムブロミド、
セチルトリメチルアンモニウムクロリド、
セチルジメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド、
セチルメチルビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド、
ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、および
セチルジアザ−1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチルアンモニウムブロミド
を挙げることができる。
【0027】
これらの界面活性剤は既知であり、これらの大部分は市販されている。これらは、C.A.Bunton et al.,J.Am.Chem.Soc,95,2912(1973)およびL.Horner et al.,Phosphorus and Sulfur,11,339(1981)によって記載される方法によって調製できる。
【0028】
場合により使用できる非イオン性界面活性剤としては、例えば:
式R−[(CHO]−[CHCH(CH)O]−Hのアルコキシル化脂肪族アルコール
式中、Rは8から22個の炭素原子、好ましくは12から14個の炭素原子を含有するアルキルまたはアルケニルであり;nおよびmは独立に、0から50の整数を表し、n+mの合計は>1である;
式R’’’−[グルコース]−のアルキルポリグルコシド
式中、R’’’は、C−C16アルキルであり、nは1から3の整数である;
還元糖のエステル、ポリオールエステルおよびこれらのエトキシル化誘導体、例えばソルビタンモノステアラート、グリセロールモノステアラートまたはエチレングリコールモノステアラート、または20個のエチレンオキシドを含むエトキシル化ソルビタンモノステアラート;

【0029】
【化1】

のエトキシル化アルキルアミド、
式中、Rは上記で定義された通りであり、rおよびsは0から15の整数であり、r+sの合計は>1である;
アルキルピロリドンであって、このアルキル基がC−C20アルキルであるアルキルピロリドン;
およびこれらの混合物
を挙げることができる。
【0030】
好ましくは、過プロピオン酸は、例えば0.05から4.5モル/lの濃度で前記水溶液中に存在する。
【0031】
本発明の主題である溶液はまた、屈水性剤、例えば尿素またはクメンスルホン酸ナトリウム、粘性付与剤、例えばキサンタンガム、変性コーンスターチまたはヒドロキシエチルセルロース、またはその他は消泡剤から選択される少なくとも1つの構成要素を含むことができる。
【0032】
本発明の主題はまた、過プロピオン酸を含む塩基性水溶液を安定化するための方法であり、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸またはこれらの塩を、前記過プロピオン酸溶液に溶解する工程を含むことを特徴とする方法である。
【0033】
上記で定義された方法において、塩基性水溶液はまたジピコリン酸を含んでいてもよい。
【0034】
上述の方法において、使用される過プロピオン酸は、触媒、例えば硫酸またはホウ酸の存在下、過酸化水素水溶液と過プロピオン酸との反応により得られたものであってもよい。
【0035】
本発明はまた、過プロピオン酸および場合によりジピコリン酸を含む塩基性水溶液を安定化するためのヒドロキシエチリデンジホスホン酸、および/またはこれらの塩の使用に関する。
【0036】
例として、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸塩は、ナトリウムまたはカリウム塩であってもよい。ヒドロキシエチリデンジホスホン酸ナトリウムが使用される場合、商標名Dequest2016(登録商標)の下でSolutia社から販売されている製品からなってもよい。
【0037】
次の実施例は、本発明の範囲を限定するものではないが、本発明を例示する。これらの実施例において、パーセンテージは指示しない限り重量による。
【実施例1】
【0038】
プロピオン酸1000g、硫酸15g、ジピコリン酸7.5gおよび60%ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(Dequest2010、Solutia)25gを3リットル反応器に充填する。70%過酸化水素水溶液500gを、周囲温度にて、撹拌しながら10分間にわたって添加する。混合物を12時間撹拌し続ける。
【0039】
活性酸素の量を、ヨード滴定(KIとの反応およびチオ硫酸ナトリウムによる滴定)によって滴定する。過酸化水素水溶液は、硫酸セリウム(IV)で滴定する。過プロピオン酸濃度は、総活性酸素と過酸化水素水溶液との差から演繹する。チオ硫酸塩による活性酸素の滴定方法は、ハンドブック:Organic Peroxides by D.Swern Volume 1(Wiley SBN 471839604),Chapter 1に記述されている。
【0040】
得られた組成物は以下である:
【0041】
【表1】

【実施例2】
【0042】
(本発明に従わない。)
本発明に従わない3つの組成物を実施例1に従って調製した:
ヒドロキシエチリデンジホスホン酸を削除することによる(組成物C2)
ヒドロキシエチリデンジホスホン酸を等量のジエチレントリアミンペンタ(メチルホスホン酸)のナトリウム塩(Dequest2066)と交換することによる(組成物C3)、
ヒドロキシエチリデンジホスホン酸を等量のエチレンジアミンテトラ(メチルホスホン酸)のナトリウム塩(Dequest2046)と交換することによる(組成物C4)。
【実施例3】
【0043】
実施例1および2で調製された組成物を、20%での水酸化カリウムおよび炭酸カリウムの水溶液(KCO/KOH重量比=2/1)を添加することによって塩基性pHにする。
【0044】
過プロピオン酸濃度は、実施例1に記載される方法によって測定される。
【0045】
【表2】

【0046】
これらの実施例は、ジピコリン酸単独または他のホスホン酸と合わせた場合と比較して、ジピコリン酸およびヒドロキシエチリデンジホスホン酸の組み合わせを用いる利点を例示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)過プロピオン酸、
(ii)ジピコリン酸、および
(iii)ヒドロキシエチリデンジホスホン酸
を含む組成物。
【請求項2】
組成物の総重量に対して:
30重量%から40重量%の過プロピオン酸、
0.05重量%から2重量%のジピコリン酸、
0.5重量%から5重量%のヒドロキシエチリデンホスホン酸
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物を含む水溶液。
【請求項4】
塩基性化剤を含むことを特徴とする、請求項3に記載の水溶液。
【請求項5】
7を超える、好ましくは8から12、さらにより好ましくは8.5から9.5のpHを有することを特徴とする、請求項3に記載の水溶液。
【請求項6】
過プロピオン酸が0.05から4.5モル/lの濃度で存在することを特徴とする、請求項3から5のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項7】
過プロピオン酸およびジピコリン酸を含む塩基性水溶液を安定化する方法であって、過前記プロピオン酸溶液に、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸またはこれらの塩を溶解させる工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
ヒドロキシエチリデンジホスホン酸またはこれらの塩の、過プロピオン酸およびジピコリン酸を含む塩基性水溶液を安定化するための使用。

【公表番号】特表2011−522785(P2011−522785A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506754(P2011−506754)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050778
【国際公開番号】WO2009/141547
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】