説明

塩水精製装置及び塩水精製方法

【課題】塩素を含む食塩水などの塩水に対して電気分解を行うことにより、塩素ガスを生成させるにあたり、この塩水に不純物を混入させることなく、塩水中に極微量含まれている臭化物イオンを簡単に減らすこと。
【解決手段】反応塔の上方から反応塔内に塩水を下側に向けて供給し、この塩水の流れに対向するように、反応塔の下側から酸化ガスと脱離用ガスとを上側に通流させて、塩水中の臭化物イオンを塩素ガスによって臭素ガスに酸化して、この臭素ガスを脱離用ガスおよび余剰の酸化ガスと共に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩水中に含まれる臭化物イオンを低減する精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水には、病原菌などを殺菌するために、塩素ガスや次亜塩素酸ソーダ及びサラシ粉などの薬剤を注入している。薬剤注入量は、水道水出口において有効塩素濃度がある値以上になるように管理されている。一方で、臭素については、飲料水中の臭素酸濃度で0.01mg/L以下にするように定められており、薬剤についても規制されている。
【0003】
この水道水に注入される塩素ガスは、海水から得られた比較的純度の低い食塩を水に溶解させて食塩水を調整して、電気分解することにより製造されている。一般に海水塩には、臭素が100〜150ppm程度含まれているので、例えば26%程度の食塩水に調整すると、臭化物イオンが25〜35ppm程含まれてしまう。そのため、食塩水をそのまま電気分解すると、塩素ガス中に臭素ガスが混入してしまうので、製造工程内で、臭素を除去する必要がある。ただし臭素を除去するために薬液や酸化剤などを使用すると、それらの薬剤や酸化剤などが電気分解により塩素ガス中に不純物として取り込まれてしまうことから、不純物の混入のおそれの少ない薬剤による処理方法が検討されている。
【0004】
例えば特許文献1に記載されているように、放射塔の上部から食塩水と酸化剤である次亜塩素酸ソーダ(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)とからなる混合液を導入して臭化物イオンを酸化し、この混合液の流れに対向するように、不活性ガスなどを放射塔の下方側から導入し、この不活性ガスと共に臭素ガスとして臭素を放射塔の上部から排出する方法が知られている。
【0005】
この臭素は、常温では液体状となっているので、蒸気圧(温度)に応じて気体と液体との平衡状態となり、気体状の臭素ガスが不活性ガスと共に上昇していくため、食塩水から除去されることとなる。ただし、臭素ガスとして除去するためには、食塩水を強酸性にする必要があり、中性やアルカリ性だと臭素酸などに変化し、除去することが困難となる。
【0006】
上記の次亜塩素酸ソーダは、液体状を呈しているので、取り扱いが容易であり、また高純度の塩素ガスを原料として製造できるため、不純物の混入のおそれが少ないというメリットがあるが、次亜塩素酸ソーダが液体であるために、混合液の液量が増えてしまうので、食塩水が希釈されて時間あたりの処理量が減ってしまうデメリットがある。また、以下に説明するように、分解しやすいといった問題もある。
【0007】
次亜塩素酸ソーダは、アルカリ性の液体である。次亜塩素酸ソーダを食塩水に注入すると、食塩水を酸性に調整しているため、酸解離平衡によって次亜塩素酸(HClO)及び遊離塩素(Cl)に変化する。このうち、次亜塩素酸は非常に分解しやすく、分解して塩素酸(HClO)や酸素(O)などの副生成物を生成し易い。この塩素酸は臭化物イオンの酸化力が極めて低く、また酸素は不純物の混入の原因となることに加えて、これらの副生成物の生成により、酸化剤として機能するはずの塩素が塩酸となり、期待していた酸化力が得られなくなってしまう。そこで、例えば混合液のpHを例えば1.0程度の強酸性にすることによって、塩素酸の生成源である次亜塩素酸の量を少なくすることによって、副生成物の生成を抑えている。混合液のpHを調整するためには、不純物の混入を避けるために、例えば高純度の(臭素濃度の低い)塩酸を用いる必要があるが、このような塩酸は高価なので、コストが嵩んでしまうし、液体である塩酸を混合すると混合液の量が更に増えるため、時間あたりの処理量が減り、スループットが低下してしまう。また、混合液のpHを下げすぎると、塩素ガスの溶解度が少なくなってしまうし、更にまた、臭素が除去された食塩水の電解を行う時に、pHをアルカリで調整する必要があり、使用する中和剤の量についても多くなってしまい、コストアップに繋がる。
【0008】
ところで臭化物イオンを酸化するための気体状の酸化剤として、フッ素ガス(F)、塩素ガス(Cl)、亜塩素酸ガス(ClO)、オゾンガス(O)、二酸化窒素(NO)などが知られている。この中で、塩素ガスは70℃〜80℃程度の加熱によっても分解せず、また不純物の影響をあまり考えなくても良いので、上記の次亜塩素酸ソーダの代替品として非常に好ましい。しかし、塩素ガスを酸化剤として用いるための実際の装置については、現在のところあまり検討されておらず、例えば食塩水中に塩素ガスをバブリングさせるような方法では、反応効率が低いので、実用的ではない。
【0009】
また、上記の特許文献1の放射塔における次亜塩素酸ソーダの代わりに塩素ガスを導入した場合には、反応効率が若干向上するものの、次亜塩素酸ソーダなどの液体により希釈されずに、ほぼ飽和状態の食塩水が放射塔内を通流するので、例えば放射塔の下側から供給される不活性ガスにより食塩水の水分が蒸発した場合には、後述の実施例にも示すように、例えば不活性ガスの導入口において食塩が析出してしまう。この食塩の析出により、不活性ガスの流路が閉塞して、不活性ガスが流れなくなり、連続運転できなくなるおそれがある。そのため、この特許文献1の放射塔を用いて、酸化剤として塩素ガスを用いて臭化物イオンを除去するためには、食塩が析出しないように、食塩水を例えば大量の水により希釈する必要があり、時間あたりの食塩水の処理量が極めて少なくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−167570(段落0008〜0013、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、塩水中に含まれる臭化物イオンの濃度を低減させる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の塩水精製装置は、
塩水中に含まれる臭素を除去する塩水精製装置において、
塩水中の臭素を除去するための反応塔と、
前記反応塔の上部に接続され、前記塩水を導入するための塩水導入路と、
前記反応塔の下部に形成され、前記反応塔内を下降した前記塩水を排出するための塩水排出口と、
前記反応塔の下部に接続され、前記塩水に向流接触させて当該塩水に含まれる臭化物イオンを酸化するために前記反応塔内に酸化ガスを供給する酸化ガス供給路と、
前記反応塔の下部に接続され、前記塩水と向流接触させて当該塩水から臭素ガスを脱離させるために前記反応塔内に脱離用ガスを供給する脱離用ガス供給路と、
前記反応塔の上部に接続され、前記反応塔内のガスを排気するための排気路と、を備えたことを特徴とする。
前記脱離用ガス供給路と前記酸化ガス供給路とには、水を供給して、内部に析出した析出物を除去するための水吐出口が形成されていることが好ましい。
前記酸化ガスは、塩素ガスであることが好ましい。
【0013】
本発明の塩水精製方法は、
塩水中に含まれる臭素を除去する塩水精製方法において、
塩水を上部から反応塔内に導入する工程と、
前記塩水に含まれる臭化物イオンを酸化するための酸化ガスと、前記塩水から臭素ガスを脱離させるための脱離用ガスと、を前記反応塔内において前記塩水と向流接触するように、前記反応塔の下部から各々供給する工程と、
前記反応塔内のガスを上部から排気する工程と、
前記臭化物イオンの脱離した前記塩水を前記反応塔の下部から排出する工程と、を含むことを特徴とする。
前記酸化ガスは、塩素ガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、反応塔の上方から臭化物イオンを含む塩水を供給して、この塩水の流れに対向するように、反応塔の下方側から塩素ガスと脱離用ガスとを供給しているので、臭化物イオンを酸化するための十分な量の塩素ガスを反応塔内に通流させることができ、塩水中の臭化物イオンを速やかに酸化できる。また、酸化ガス供給路と脱離用ガス供給路とには、水を供給するための水吐出口が形成されているので、これらの供給路内に析出物が析出しても、供給路内に水を通流させて析出物を取り除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の塩素ガス製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の塩水精製装置の一例を示す縦断面図である。
【図3】上記の塩水精製装置における脱離用ガス供給路の拡大図を示す縦断面図である。
【図4】上記の塩水精製装置における反応機構を示す概略図である。
【図5】上記の塩水精製装置における臭化物イオンの低減される様子を示す塩水精製装置の縦断面図である。
【図6】上記の脱離用ガス供給路における付着物の除去の様子を示す縦断面図である。
【図7】本発明の実験例における脱離用ガス供給路の他の構成例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態である塩水精製装置1の一例について、図1〜図3を参照して説明する。図1は、塩水精製装置1が適用された塩素ガス製造装置2の概略を示している。この塩素ガス製造装置2は、食塩水など(以下、「塩水」という)から、電気分解により高純度の塩素ガスを得るための装置であり、塩水中の臭化物イオンを低減させるための後述の塩水精製装置1、塩水のpHを調整するためのpH調整浴3及び電気分解により高純度の塩素ガスを得るための電気分解槽4を備えている。
【0017】
この塩水中には、例えば食塩などの溶質がほぼ飽和状態となるまで高濃度に溶解しており、また不純物として、例えば臭化物イオンが極僅かに例えば30ppm程度溶解している。そこで、この塩素ガス製造装置2では、電気分解槽4において電気分解を行う前に、塩水中の臭化物イオンの濃度を塩水精製装置1において酸化反応により例えば5ppm程度まで減らすように構成されている。尚、臭化物イオンの酸化反応は、塩水精製装置1に塩水を供給する前に、酸例えば塩酸により、pHが9程度の中性の塩水をpHが1.5程度の酸性に調整して行われる。臭化物イオンが酸化されると臭素(Br)と次亜臭素酸(HBrO)が生成するが、この次亜臭素酸は不安定であり、熱分解して蒸気圧の極めて低い臭素酸(HBrO3)が生成してしまい、その場合にはこの化合物をガス化できず、臭素の除去が困難になってしまうので、pHを酸性にしている。この程度のpHであれば、上記の臭素酸が生成しても、塩酸と熱により速やかに分解して元の臭化物イオンとなる。
また、その後塩水を中性に戻して電気分解を行うために、pH調整浴3において中和剤例えば水酸化ナトリウム水溶液により塩水を中和するように構成されている。図1中、5、6、7、10は、それぞれ塩酸源、酸化ガス源、中和剤源、塩水源である。
【0018】
次に、本発明の要部である塩水精製装置1について説明する。塩水精製装置1は、例えばFRPなどの樹脂からなる縦長の反応塔11を備えており、この反応塔11の上部には、塩水を反応塔11内を下方側に向けて吹き付けるためのノズル12が設けられている。このノズル12には、熱交換器13aが介設された塩水導入路13が接続されており、この塩水導入路13の上流側には、塩水源10が流量制御部とバルブとからなる流量調整部10aを介して接続されている。熱交換器13aは、水蒸気により塩水を加熱するためのものである。尚、この例では熱交換器13aにより塩水を加熱しているが、後述の脱離用ガスである空気に加熱した水蒸気を混入して塩水を加熱するようにしても良い。
また、塩水導入路13における流量調整部10aの下流側には、流量制御部とバルブとからなる流量調整部5aが介設された塩酸供給路14が接続されており、この塩酸供給路14の上流側には、塩酸源5が接続されている。
【0019】
反応塔11のノズル12の下方側の領域である反応領域には、ノズル12により反応塔11内に吹きつけられた塩水が内部を伝い落ちることにより、後述の塩素ガスなどとの接触量(接触面積)を増やすために、例えば樹脂を成形した充填材が充填層15として設けられている。この充填層15の下方側における反応塔11の側面部には、反応塔11内を下降して臭化物イオンの濃度が低減された塩水を反応塔11から取り出すための塩水排出路16が接続されており、この塩水排出路16の下流側には、既述のpH調整浴3が接続されている。
【0020】
また、充填層15と塩水排出路16との間における反応塔11の側面には、脱離用ガス供給路17が接続されている。この脱離用ガス供給路17は、反応塔11の床面に塩水が溜まった場合に、その塩水の液面の高さ位置よりも上側となるように反応塔11に接続されているが、反応塔11の床面に溜まった塩水内にガスを吹き込むようにしても良い。脱離用ガス供給路17の上流側には、流量制御部とバルブとからなる流量調整部18aを介して脱離用ガス例えば空気が貯留された脱離用ガス源18が接続されている。尚、脱離用ガスとしては、空気の他に、窒素ガスやアルゴンガスなどであっても良い。
また、脱離用ガス供給路17には、図3にも示すように、流量調整部18aの下流側に酸化ガス供給路19が接続されており、この酸化ガス供給路19の上流側には、流量制御部とバルブとからなる流量調整部6aを介して、臭化物イオンの酸化ガス源6が接続されている。
【0021】
酸化ガス供給路19と流量調整部18aとの間における脱離用ガス供給路17には、水吐出口としてイオン交換水吐出口20が形成されており、このイオン交換水吐出口20には、イオン交換水供給路21が接続されている。イオン交換水供給路21の上流側には、流量制御部とバルブとからなる流量調整部22aを介してイオン交換水源22が接続されており、このイオン交換水源22に貯留されたイオン交換水や純水などの水は、脱離用ガス供給路17内に入り込んだ塩水が析出することにより脱離用ガス供給路17の内壁に付着する例えば食塩などの付着物30を洗い流すためのものである。尚、この例では、脱離用ガス供給路17に酸化ガス供給路19を接続して両ガス流路を共通化しているが、それぞれ別々に反応塔11に接続するようにしても良い。その場合には、脱離用ガス供給路17と酸化ガス供給路19とには、内面にイオン交換水を供給するためのイオン交換水吐出口20をそれぞれ形成するようにしても良い。
既述の充填層15の上方側における反応塔11の側面には、反応塔11内を通流するガスを排気するための排気路23の一端側が接続されており、この排気路23の他端側には、余剰の酸化ガスや臭素ガスを除害するための図示しない除害装置などが接続されている。
【0022】
次いで、この塩水精製装置1の作用について、酸化ガスとして塩素ガス、脱離ガスとして空気を使用した場合について、図4〜図7を参照して説明する。
先ず、空気を所定の流量で脱離用ガス供給路17から反応塔11内に供給し、反応塔11内を下側から上側に向けて空気を充填層15を介して通流させて、排気路23から排気する。続いて熱交換器13aにおいて所定の温度例えば75℃に加熱された塩水を所定の圧力及び所定の流量で反応塔11内にノズル12から吹き付けると共に、酸化ガス源6から所定の圧力及び流量で酸化ガス供給路19及び脱離用ガス供給路17を介して反応塔11内に塩素ガスを供給する。ノズル12から吐出された塩水は、反応塔11内に円錐状に広がり、充填層15の内部(充填材の表面)を伝わりながら下方へ流れ落ちていく。一方、塩素ガスと空気とは、反応塔11内を下側から上側に向けて上昇していき、充填層15において塩水と接触し、塩水中の臭化物イオンを臭素に酸化する。既述のように、塩水(反応塔11内)が臭素の沸点付近の温度に設定されているので、臭素は、図4(a)に示すように、一部液体状となり、また塩水の温度に応じた蒸気圧となるように、所定の量の臭素ガスが蒸発して、気体と液体との平衡状態となる。そして臭素が平衡状態となった反応塔11内に空気を通流させると、例えば極めて小さな気泡となった臭素ガスは、表面張力により空気の気泡に引き寄せられて、空気の気泡内に拡散して大きな気泡となり、空気と共に上昇していく。また、図4(b)に示すように、気体である臭素が除去されるので、平衡関係が保たれるように、液体の臭素の蒸発量が多くなる。そのために、反応塔11内を下側に向けて通流するに従い、臭素ガスが除去されていくので、液体状の臭素及び塩水中の臭化物イオン濃度が徐々に低くなっていく。
【0023】
尚、臭素ガスは、空気と共に上昇するにあたって、再度塩水と接触することにより、気液の平衡関係から再凝縮する場合もあるが、液体である臭素(塩水)が反応塔11内を下側に通流する速度よりも空気が上昇する速度の方が速いので、また塩水の温度が臭素の沸点に近く、臭素の蒸気圧が高くなっていることからも、相対的に上方側へ流れていき、反応塔11から排出されることとなる。
【0024】
一方、塩素ガスは、既述のように臭化物イオンの酸化により塩化物イオンとなり、濃度が減少する。よって、反応塔11内を上側に向かうにつれて、塩素ガス濃度が減少するが、上記のように、臭化物イオンの当量以上の塩素ガスを反応塔11内に下側から通流させて、更に塩水と塩素ガスとの接触面積が充填層15において大きくなるようにしているので、充填層15において、塩水中には臭化物イオンを酸化するための十分な量の塩素ガスが行き渡り、塩水中に溶けている臭化物イオンの濃度がごく僅かであっても、臭化物イオンと塩素ガスとの接触確率が高まり、また臭化物イオンと塩素ガスとの反応時間についても十分得られるので、臭化物イオンは、塩素ガスにより速やかに酸化されて、塩水から空気と共に臭素ガスとして抜け出ていく。この臭素ガスは、空気や余剰の塩素ガスと共に、排気路23から排気されて、図示しない除害装置などにおいて、分離や精製などが行われる。
そして、臭化物イオン濃度が例えば5ppm程度まで低減された塩水は、図5に示すように、充填層15の下側から流れ落ちていき、反応塔11の下側において液溜まりをなし、既述の塩水排出路16からpH調整浴3に排出されていく。
【0025】
この時、充填層15から下側に向けて流れ落ちていく塩水は、既述のように、溶解している食塩などがほぼ飽和状態となっているため、その一部が脱離用ガス供給路17内に入り込むと、図6(a)に示すように、例えば空気により水分を奪われて乾燥して、例えば食塩が付着物30として脱離用ガス供給路17の内面に析出する。この付着物30を放置すると、徐々にこの付着物30が大きくなり、脱離用ガス供給路17が閉塞するおそれがあるので、定期的に例えば数時間程度毎に所定の流量のイオン交換水をイオン交換水供給路21から吐出圧力を例えば2kPa程度まで高めて勢いよく吐出させる。脱離用ガス供給路17の内面に付着していた付着物30は、イオン交換水に溶けていくと共に、図6(b)に示すように、イオン交換水の吐出圧力により脱離用ガス供給路17の内面から剥がれ落ちる。この付着物30は、その後反応塔11の下側に滞留する塩水に溶けて、この塩水と共に排出される。
【0026】
その後、臭化物イオンの低減された塩水に対して、pH調整浴3において中和剤例えば水酸化ナトリウム水溶液を供給して、塩水を中性例えばpHが9程度となるまで中和して、その後塩水を電気分解槽4において電気分解することにより、臭素が例えば30ppm程度まで低減された塩素ガスが得られる。
【0027】
上述の実施の形態によれば、臭化物イオンを酸化するための酸化剤として、液体状ではなく、気体状の塩素ガスを用いているので、酸化剤混合後の塩水の液量がほとんど増えないため、時間あたりの塩水の処理量を減らすことなく、スループットを高めることができる。また、既述の次亜塩素酸ソーダが強酸性下で分解しやすい一方、塩素ガスは、分解しにくく、pHが1.5程度の比較的穏和なpH条件においても特に弊害を生じることなく臭化物イオンの酸化反応が進んでいく。また、例えば塩素酸などの生成により不足した塩素ガス分を補充しなくても良いので、塩素ガスの使用量を抑えることができると共に、塩水のpHを酸性にするための塩酸の使用量を減らすことができ、更にpH調整浴3で中和のために塩水に加える中和剤の使用量についても減らすことができる。更にまた、後述するように、酸化剤として気体の塩素ガスを用いることにより、対向流方式を採用できるといったメリットもある。
【0028】
また、反応塔11の上方から臭化物イオンを含む塩水を供給して、この塩水の流れに対向するように、反応塔11の下方側から、酸化剤を供給しているので、臭化物イオンを酸化するための十分な量の塩素ガスを反応塔11内に通流させることができるため、塩水中の臭化物イオンを速やかに酸化できる。
【0029】
酸化ガスを塩水と併流させる方式で供給すると、一度ノズル12の手前側において供給された塩素ガスは、反応塔11に吐出された後に塩水の圧力が減少して溶解度が減少し、塩水から大部分が抜け出てしまい、排気路23から排気されてしまう。そのため、充填層15内に通流する塩素ガスは、塩水に溶け残っていた僅かな量だけになってしまい、既述のように、充填層15において塩水中の塩素ガスが不足した場合であっても、補充されずに、結果として臭化物イオンを十分に酸化できなくなってしまう。しかし、上記のように、塩素ガスを下方側から反応塔11内に導入することにより、過剰な量の塩素ガスを反応塔11の上部まで通流させて、不足した塩水中の塩素ガスを補っているので、臭化物イオンの濃度を極めて低くすることができる。
【0030】
上記の例のように、ほぼ飽和状態の塩水を用いた場合には、僅かでも塩水中の水分が蒸発すると、過飽和となり、液体の触れにくい部分例えば脱離用ガス供給路17内において付着物30が析出することにより、塩素分が反応塔11内に取り残されて、電気分解槽4における塩素ガスの生成量が減少してしまい、更にこの付着物30により脱離用ガス供給路17が閉塞してしまうおそれがあるが、既述のように、脱離用ガス供給路17内にイオン交換水吐出口20を形成し、イオン交換水を吐出するようにしているので、脱離用ガス供給路17内に付着物30が析出したとしても、後述の実施例にも示すように、この付着物30をイオン交換水により溶かすと共に、イオン交換水の吐出圧力により付着物30を押し流すことにより、塩素ガスの生成量の減少と脱離用ガス供給路17の閉塞とを防止することができる。
尚、上記の例では、酸化ガスとして塩素ガスを用いたが、フッ素ガス、亜塩素酸ガス、オゾンガス、二酸化窒素を酸化ガスとして使用しても良いが、残存する不純物の影響と臭素の過剰酸化の影響を加味しなければならない。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の塩水精製装置1の効果を確かめるために行った実験について説明する。実験は、以下の基本条件において行った。また、各実験の内容に応じて、反応塔11の出口における臭素濃度やpHを測定した。
(基本条件)
塩水供給量 :0.8m3/h
塩水濃度 :310g/L
塩酸供給量 :3kg/h
塩酸濃度 :36重量%
イオン交換水供給量:3kg/h
中和剤 :25重量%水酸化ナトリウム
中和剤供給量 :3.7kg/h
空気流量 :28Nm3/h
空気温度 :10℃〜25℃(外気温)
(実施例1)
臭化物イオンを酸化するための酸化剤として、塩素ガスと次亜塩素酸ソーダとの違いを確認し、また対向流方式と併流方式との差異を確認するために実験を行った。
(実験例1)
既述の塩水精製装置1において、酸化剤として塩素ガスを用いて、流量を3l/min、1l/minと変えて実験を行った。尚、塩素ガスは、50kgボンベを用いて、供給圧力を0.5MPaとした。
(比較例1−1)
既述の塩水精製装置1において、塩素ガスの導入方式が併流方式となるように、塩酸供給路14と塩水源10との間の塩水導入路13に酸化ガス供給路19を接続した以外は、実験例1と同じ条件で実験を行った。
(比較例1−2)
上記の比較例1−1において、酸化剤として塩素ガスを用いる代わりに、次亜塩素酸ソーダを用いた。次亜塩素酸ソーダの注入量は、3kg/hとした。尚、次亜塩素酸ソーダは、有効塩素換算で塩素ガスの供給量3l/minとほぼ当量となるように、次亜塩素酸ソーダの供給量を設定した。
【0032】
(実験結果)
実験結果を表1に示す。
(表1)

この結果、併流方式では、酸化剤として塩素ガスを用いた場合でも、次亜塩素酸ソーダを用いた場合でも、対向流方式(向流)と比較して、反応塔11の出口における臭素濃度が高くなっていた。このことから、対向流方式では、併流方式よりも塩素ガスと臭化物イオンとの反応時間が長くなっており、臭化物イオンを十分酸化できていると考えられる。
また、臭素濃度に対する塩素ガスの流量の影響は確認できなかった。対向流方式では、塩素ガスの流量が1l/minでも反応が十分起こるが、併流方式では、塩素ガスを3l/minまで増やしても、反応が十分に起こっていないと考えられる。
【0033】
(実施例2)
酸化剤として塩素ガスを用いた場合に、塩水のpHが反応量にどの程度影響するかを確認するために、対向流方式として塩素ガスの流量を1l/minに固定し、以下の表2に示すように塩酸の流量を変えて実験を行った。
(表2)

その結果、塩酸の流量を減らすことにより、反応塔11の出口におけるpHが増加していったが、臭素濃度については問題ないレベルであった。このことから、塩酸の流量を従来(pH=1.0)の時と比べて、約2/3程度(pH=1.5〜2.0)まで減らせることが分かった。また、塩酸の流量を減らせることから、既述のように、電気分解の前において、塩水の中和に必要な水酸化ナトリウム水溶液についても減らせることが分かった。
【0034】
(実施例3)
塩酸の流量を2kg/hに固定して、対向流方式における塩素ガスの流量を変えて実験を行った。その結果を表3に示す。
(表3)

塩素ガスの流量を1l/minから0.3l/minまで減らしても、臭素濃度は目標値まで低減されていた。このことから、この塩水を上記の基本条件で処理するために、従来の向流方式において必要であった塩素ガスの流量(3l/min)を1/10程度にまで減らすことができることが分かり、また排気ガスの処理の負担についても、大幅に軽減されることが分かった。
【0035】
(実施例4)
塩酸の流量を2kg/hに固定して、塩素ガスの流量と空気の流量とを以下の表4のように変えて実験を行った。
(表4)

空気の流量を変えても、ほとんど臭素濃度に影響がなかったが、塩素ガスの流量を0.3l/minから0.1l/minまで減らすと、臭素濃度が増加していた。この0.1l/minという流量は、塩水中に含まれる臭素濃度とほぼ等mol量であるが、臭化物イオンとほとんど反応していない(初期の臭化物イオン濃度:27ppm)ことから、塩素ガスの流量としては、0.3l/minが下限値だと考えられる。
【0036】
(実施例5)
次に、上記の塩水精製装置1を用いて、塩水の処理を72時間連続して行った。この時、以下の表5に示すように、数時間毎に、塩水の流量を変えて、反応塔11の出口における臭化物イオン濃度の変化を確認した。尚、塩酸の流量及び塩素ガスの流量については、塩水の流量に比例するように調整した。
(表5)

この結果、塩水の流量を増やすと、それに伴い、臭化物イオン濃度も増えていることが分かった。このことから、臭化物イオンの除去のためには、反応時間がある程度必要だと考えられる。尚、この実験結果は、ビーカー試験の結果と良好な対応となった。また、塩水精製装置1における反応を安定させるためには、およそ1〜2時間程度必要であることも分かった。
【0037】
(実施例6)
脱離用ガス供給路17における付着物30の除去のために、以下のように装置構成あるいはイオン交換水の供給方式を変えて実験を行った。
(実験例6)
既述の図3のようにイオン交換水供給路21を接続して、上記の実施例5と同じ実験を行い、その時にイオン交換水を2時間毎に一度、2lを速やかに供給した。
(比較例6−1)
実験例6と同様に塩水の処理を行った。その時、図7(a)に示すように、先端面が閉じた脱離用ガス供給路17aを反応塔11に接続し、この脱離用ガス供給路17aの先端を反応塔11内に突出させると共に、この脱離用ガス供給路17aの突出部における下方側を開口させて、空気及び塩素ガスがこの開口部から反応塔11内に供給され、塩水が脱離用ガス供給路17a内に入り込まないようにした。尚、この時イオン交換水を供給せずに実験を行った。
(比較例6−2)
比較例6−1と同様に実験を行った。また、図7(b)に示すように、イオン交換水供給路21aを脱離用ガス供給路17の出口(反応塔11との接続部付近)に設けて、イオン交換水吐出口20aが脱離用ガス供給路17の開口面の中央付近において反応塔11内に向くようにして、イオン交換水を連続的に30ml/minの流量で供給した。
(実験結果)
その結果、実験例6では、脱離用ガス供給口17内に付着物30の析出が見られなかったが、比較例6−1及び比較例6−2では、付着物30が析出していた。このことから、反応塔11を下方側に向かって通流してきた塩水は、反応塔11の壁面を伝って広がり、脱離用ガス供給路17などの塩水が接触しにくい部位に付着物30が析出することがわかった。また、付着物30を除去するためには、付着物30を溶かすためにイオン交換水を連続的に流すだけでは不十分であり、溶かしながら物理的に付着物30を押し流すために、間欠的に勢いよく流す必要のあることが分かった。
【符号の説明】
【0038】
1 塩水精製装置
2 塩素ガス製造装置
6 酸化ガス源
10 塩水源
11 反応塔
17 脱離用ガス供給路
19 酸化ガス供給路
21 イオン交換水供給路
23 排気路
30 付着物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩水中に含まれる臭素を除去する塩水精製装置において、
食塩水中の臭素を除去するための反応塔と、
前記反応塔の上部に接続され、ほぼ飽和状態で且つpHが2.0以下の食塩水を導入するための塩水導入路と、
前記反応塔の下部に形成され、前記反応塔内を下降した食塩水を排出するための塩水排出口と、
前記反応塔の下部に接続され、食塩水に向流接触させて食塩水に含まれる臭化物イオンを酸化するために前記反応塔内に塩素ガスを供給する酸化ガス供給路と、
前記反応塔の下部に接続され、食塩水と向流接触させて食塩水から臭素ガスを脱離させるために前記反応塔内に空気を供給する脱離用ガス供給路と、
前記反応塔の上部に接続され、前記反応塔内のガスを排気するための排気路と、を備えたことを特徴とする塩水精製装置。
【請求項2】
前記脱離用ガス供給路と前記酸化ガス供給路とには、水を供給して、内部に析出した析出物を除去するための水吐出口が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の塩水精製装置。
【請求項3】
食塩水中に含まれる臭素を除去する塩水精製方法において、
ほぼ飽和状態で且つpHが2.0以下の食塩水を上部から反応塔内に導入する工程と、
食塩水に含まれる臭化物イオンを酸化するための塩素ガスと、食塩水から臭素ガスを脱離させるための空気と、を前記反応塔内において食塩水と向流接触するように、前記反応塔の下部から各々供給する工程と、
前記反応塔内のガスを上部から排気する工程と、
前記臭化物イオンの脱離した食塩水を前記反応塔の下部から排出する工程と、を含むことを特徴とする塩水精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−245484(P2011−245484A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173306(P2011−173306)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【分割の表示】特願2007−156632(P2007−156632)の分割
【原出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000215615)鶴見曹達株式会社 (49)
【Fターム(参考)】