説明

填料の前処理方法および前処理された填料を含有する紙

【課題】填料歩留りが高く、かつ紙力の良好な紙を提供する。
【解決手段】アルギン酸類を混合することにより前処理した填料を含有する紙料を抄紙することで、填料の歩留りが高く、紙力の良好な紙を得ることができる。アルギン酸類は、好ましくは、アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸エステルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、填料の前処理方法および前処理された填料を含有する紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対応、省資源などの観点から紙の軽量化、低坪量化が要望され、これに伴って紙の白色度、不透明性、印刷適性を維持あるいは向上させるために、炭酸カルシウムなどの各種填料を高含有率で内添する、いわゆる高灰分化が行われている。
【0003】
しかしながら、填料を多く内添させた紙では、相対的にパルプ配合量が低下し、紙力発現の主要因であるパルプ繊維間の水素結合を填料が阻害するため、紙力が急激に低下する。紙力には、一般に、引張強さ等の強度および曲げこわさ等の剛度がある。これら紙力の低下は、紙の製造時や印刷時の断紙を引き起こし、操業効率の悪化や、印刷時の紙粉発生など作業性の悪化をもたらす。紙力を高めるために、パルプなど使用原料を増加(増目)すると、資源の消費につながる。
【0004】
そこで、この紙力を維持あるいは向上させるために、一般的にデンプンやポリアクリルアミド(以下、PAMという)等の紙力向上剤などの薬品が使用されている。これらの紙力向上剤は、それらが有する官能基(例えばデンプンでは水酸基、PAMではカルバモイル基)が、パルプ繊維の水酸基と水素結合し、パルプ繊維同士の結合を補強することにより強度発現に寄与している。しかしながら、これらの紙力向上剤を用いて十分な紙力向上効果を得るためには薬品の添加量を増やす必要がある。
【0005】
また、高灰分条件下においては、紙力向上剤がパルプよりも填料に吸着されやすくなるため、本来の目的であるパルプ繊維同士を結合させる作用が阻害され、所望の紙力が得られない。所望の紙力を確保するには、さらに薬品の添加量を増やす必要がある。また、高灰分かつ高薬品の条件下では、抄紙時における歩留り低下、抄紙系内の汚れ、製品のサイズ性の低下などの問題が発生し、操業上の障害となる。
【0006】
これまで、填料を高配合する際の紙力低下の抑制等を目的として、填料として軽質炭酸カルシウムを特定分子量の分岐状両性PAMで被覆処理した複合粒子を用いて湿式抄紙することで、高填料内添紙を製造することが開示されている(特許文献1)。
【0007】
また、アニオン性多糖類と、カチオン性及び/又は両性アクリルアミド系共重合体とからなる複合化アクリルアミド系共重合体(複合化PAM)で填料を被覆処理し、パルプスラリーに内添することで紙力向上を図る技術も開示されている(特許文献2)。
【0008】
さらに、炭酸カルシウムを填料とし、歩留まりを高めるために、カチオン化澱粉、カチオン化グアーガム、架橋型カチオン化澱粉で凝集させる技術(特許文献3、4、5)、製紙スラッジ等から回収した無機物由来の再生填料を使用し、カチオン化澱粉やカチオン化グアーガムで予め凝集させる技術(特許文献6)が提案されている。
【0009】
また、填料を紙中に効率良く歩留らせることを目的として、填料をジアリルジメチルアンモニウムポリマー(凝結剤)で前処理する技術が提案されている(特許文献7)。
さらには、印刷時のインキセット性やインキ着肉性、色ずれなどの印刷適性を改良するために、アルキル基又はアルケニル基と親水性基とがアミド結合、エステル結合及びエーテル結合した化合物により、填料としての炭酸カルシウム及び水和珪酸を前処理する技術も提案されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−18323号公報
【特許文献2】特開2006−257606号公報
【特許文献3】特開平10−060794号公報
【特許文献4】特開2005−194656号公報
【特許文献5】特許第4179167号
【特許文献6】特開2003−119692号公報
【特許文献7】特許第4324073号
【特許文献8】特開2009−221640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1で使用する処理剤の分岐状両性PAMは、主鎖が柔軟であり、填料へ吸着するとコンパクトな形態となるため、紙力を向上させる作用としては充分とは言えない。
【0012】
特許文献2の複合化PAMを用いた場合には、填料の歩留りが十分ではなく、高い紙中灰分を達成しようとして填料を多く添加すると、高コストとなったり、抄紙系内の汚れにつながるといった問題があった。また、複合化PAM自体が複雑な工程を経て調製された処理剤であるため、高コストであった。
【0013】
また、特許文献3〜6は、カチオン化澱粉やグアーガムを凝集剤として使用するものであるが、填料歩留まり、紙力の面でも改善の余地がある。
さらに、上記特許文献7のように、填料に凝結剤を混合する前処理方法では、薬品使用量の増加や紙の密度が上昇する点で問題がある。
【0014】
また、特許文献8の方法では、紙力が低下する傾向があり、特に高灰分下では十分な紙力が得られにくい。その上、特許文献2の複合化PAM同様、填料処理剤である化合物の調製が複雑であり高コストとなる。
【0015】
このように、従来の技術では、填料を効率良く歩留らせると同時に良好な紙力を得ることを、比較的安価に両立することは困難であった。
そこで、本発明は、比較的シンプルな処理にも関わらず、填料歩留りが高く、高灰分で、かつ、紙力の良好な紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、歩留りを向上させながら高い紙力を得る手段として、填料の前処理方法について鋭意検討し、アルギン酸類を混合することにより填料を前処理し、この前処理した填料を紙料に添加して紙を製造することで、紙力を向上させることができることを見出した。詳しくは、本発明は、抄紙用填料にアルギン酸類を混合することにより該填料を前処理する、填料の前処理方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアルギン酸類で前処理した填料を添加して抄紙することで、填料の歩留りが高く、高灰分で、紙力の良好な紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(アルギン酸類)
本発明で用いるアルギン酸類は、多糖類の一種であり、アルギン酸、その塩類及びエステル、ならびにそれらの混合物をいう。アルギン酸の塩類としては、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、またはマグネシウム塩等が挙げられる。アルギン酸のエステルとしては、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸エチレングリコールエステル、アルギン酸グリセロールエステル等が挙げられる。本発明で用いるアルギン酸類としては、中でも、陽イオンとの特異的な反応性があることから、アルギン酸ナトリウムと、アルギン酸エステルが好ましい。
【0019】
また、アルギン酸類は分子量が大きく粘度が高いと、填料の被覆性が高まり、紙力剤の繊維への定着が良化するため望ましい。分子量は、重量平均分子量1万〜150万が好適である。粘度は、濃度1%水溶液の20℃におけるB型粘度が10〜1100mPa・s、好ましくは30〜600mPa・s、さらに好ましくは100〜600mPa・sである。
【0020】
(填料)
本発明の填料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、クレー、焼成カオリン、デラミカオリン、ホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、炭酸カルシウム/シリカ複合体、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化亜鉛などの無機填料や、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂及び微小中空微粒子等の有機填料、古紙を再生する工程や紙を製造する工程で発生したスラッジを焼却して得られる再生填料および再生填料の表面を炭酸カルシウムやシリカ、水酸化アルミニウムなどで被覆した填料等の公知の填料を単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、カルシウムを含む無機粒子や有機無機複合体が好ましく、炭酸カルシウムを含む無機粒子や有機無機複合体が好ましい。
【0021】
また、炭酸カルシウムの中でも軽質炭酸カルシウムが好ましく、軽質炭酸カルシウムの結晶形態はカルサイト、アラゴナイトのいずれでもよく、形状についても、針状、柱状、紡錘状、球状、立方体状、ロゼッタ型のいずれでもよい。この中でも特に、ロゼッタ型のカルサイト系の軽質炭酸カルシウムが好ましい。ロゼッタ型とは、紡錘状の軽質炭酸カルシウム一次粒子がいがくり状に凝集した形状を指し、高い比表面積と吸油性を示す特徴がある。炭酸カルシウムの平均粒子径は、0.1〜20μm程度であり、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは1〜5μmである。大きすぎると填料が繊維の結合を阻害し、紙力低下につながりやすく、小さすぎると歩留りが下がり紙中灰分を上げにくくなる。なお、平均粒子径は、レーザー回折法の粒径分布測定装置により測定した体積平均粒子径をいう。BET比表面積は3〜20m/g、好ましくは5〜12m/gである。
【0022】
(填料とアルギン酸類の混合による填料の前処理)
本発明では、填料の水分散液に、アルギン酸類を添加して混合することにより、填料を前処理する。なお、本発明における「前処理」とは、填料を紙料に添加する前に行なう処理のことをいう。
【0023】
前処理時の填料の水分散液の固形分濃度は、十分に混合できる濃度であれば良く、特に限定はないが、1〜50%程度であり、好ましくは3〜40%である。1%より低い濃度では混合の効率が悪くなる傾向があり、50%より高い濃度では分散性が悪くなる傾向がある。アルギン酸類の添加量は、填料固形分に対し、アルギン酸類の固形分として0.1〜10質量%であり、好ましくは0.3〜7質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。填料に対しアルギン酸類が多すぎると、アルギン酸類の凝集が生じ易く、均一な前処理ができない。填料に対しアルギン酸類が少なすぎると、填料を充分に被覆できず、紙力向上効果を発揮できない。
【0024】
混合に用いる装置は、混合を十分に行える装置であれば良く、特に限定はないが、例えば、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼などを有する一般的な撹拌機、ディスパーザーなどの高速回転遠心放射型撹拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、ウルトラミキサーなどの高速回転剪断型撹拌機、コロイドミル、プラネタリーミキサーなどの乳化機などが挙げられる。填料とアルギン酸類との混合を行った分散液は、タンクなどの設備に一時貯えた後に紙料へ添加しても良いが、混合後、直ちに紙料へ添加するほうが好ましい。
【0025】
填料にアルギン酸類を混合することにより、填料とアルギン酸類とを接触させ、アルギン酸類を填料に絡みつかせたり、また、填料同士を緩やかに凝集させる。こうして前処理した填料の平均粒子径は、未処理填料の平均粒子径の1〜10倍程度であり、2〜7倍が好ましく、2〜5倍がより好ましい。大きすぎると填料歩留り向上の効果には問題はないが、填料が大きな凝集体となって紙層内に存在することになるために、不透明度や白色度が低下しやすい上、紙力低下を引き起こす。また、前処理した填料のBET比表面積は、5〜20m/g程度であり、7〜15m/gが好ましい。
【0026】
また、本発明の前処理填料による歩留り向上および紙力向上効果は、特にカルシウムの存在化で大きくなる。填料分散液のカルシウムイオン濃度の調整方法としては、カルシウムを含む無機粒子、好ましくは炭酸カルシウムを含む無機粒子に対して酸性物質を添加することにより、カルシウムを解離させて、カルシウムイオン濃度を上昇させることが効果的である。酸性物質としては、硫酸や塩酸、硝酸などを用いることができるが、紙パルプ分野で一般的に用いられている硫酸バンドを用いることが経済的にも好ましい。酸の添加方法については、特に限定は無いが、酸を添加してカルシウムイオン濃度を上昇させた後にアルギン酸類を添加したほうが、カルシウムイオンを介した凝集促進効果が大きくなる。なお、酸の一部を分割してアルギン酸類の添加後に添加しても良い。酸の添加量は、特に限定されないが、例えば硫酸バンドを用いた場合、硫酸バンドの添加量は、酸化アルミニウム(Al23)換算で、填料固形分に対し、0.01〜3%程度が好ましい。
【0027】
(前処理填料を含有する紙)
本発明のアルギン酸類で前処理した填料を紙料に添加して抄紙することにより、紙力が良好で灰分が均一に分布した紙を得ることができる。紙の製造に用いることができるパルプ成分としては、化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)、機械パルプ(グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等)、脱墨パルプ(DIP)等の再生パルプを単独または任意の割合で混合して使用してもよい。特に本発明では、炭酸カルシウムなどの含カルシウム無機物質を多く含む雑誌古紙を原料の一部とした再生パルプを配合している場合に好適である。
【0028】
アルギン酸類で前処理した填料の紙料への添加量は、所望の灰分となるように添加すれば良く、特に限定されないが、パルプ固形分に対して1〜50質量部、好ましくは10〜40質量部である。紙の灰分としては、特に制限されないが、5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%であることが好ましい。本発明において灰分は、JIS P 8251に規定される紙および板紙の灰分試験方法に準拠し、燃焼温度を525±25℃に設定した方法で測定される。なお、後述する顔料およびバインダーを含有する塗料を塗工した場合には、塗工層も含めて灰分が測定される。
【0029】
本発明の紙を製造する際には、さらに、必要に応じて、紙料に、硫酸バンドや、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウムアルミナゾル等のアルミニウム化合物;硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の多価金属化合物;及びシリカゾル等の内添助剤、AKD(アルキルケテンダイマー)、ASA(アルケニル無水コハク酸)、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤など各種内添サイズ剤、紙力向上剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、紫外線防止剤、退色防止剤、各種澱粉類、着色剤、染料、消泡剤、嵩高剤、ポリアクリルアミド、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドポリアミン樹脂、ポリアミン、ポリエチエンイミン、植物ガム、ポリビニルアルコール、ラテックス、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー粒子分散物、及びこれらの誘導体あるいは変性物等の各種化合物等を添加してもよい。また、蛍光増白剤、消泡剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等を必要に応じて適宜添加することもできる。
【0030】
抄紙時のpHは、5〜10が好ましく、6〜9がより好ましい。pHの調整方法としては、硫酸などの鉱酸や硫酸バンド、炭酸ガスの吹き込みなどを用いることができる。また、必要に応じて上記のpH範囲となるように水酸化ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどといったアルカリを添加することができる。
【0031】
本発明の紙は、公知の抄紙機にて製造されるが、その抄紙条件は特に規定されるものではない。抄紙機としては、長網型、オントップツインワイヤー型、ギャップフォーマー型、円網型、多層型などが挙げられる。
【0032】
(紙の表面処理)
本発明のアルギン酸類で前処理した填料を含有する紙には、表面処理剤を塗工してもよい。表面処理剤としては、表面強度向上の観点から、カチオン化デンプンやヒドロキシエチル化デンプンなどの水溶性高分子を主成分とする表面処理剤が望ましいが、これらに限定されるものではない。またサイズ性向上の観点から、サイズ剤を単独、または他の表面処理剤と組み合わせて塗工することもできる。サイズ剤としては、スチレン系、オレフィン系、アクリル酸エステル系、ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤などが一般的だが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明ではまた、表面処理剤を塗工または塗工しない紙の上に、炭酸カルシウムやカオリン、二酸化チタンなどの顔料およびバインダーを含有する塗料を塗工しても良い。
(紙の用途)
本発明のアルギン酸類で前処理した填料を含有する紙の種類、坪量等には制限はなく、上質紙、印刷用紙、新聞用紙、情報用紙、包装用紙、板紙、各種原紙など様々な用途に使用することができ、特に、再生パルプ由来の灰分や炭酸カルシウムなどの填料の歩留を向上することができる。
【0034】
(作用)
本発明のアルギン酸類で前処理した填料が、填料の歩留りの向上と良好な紙力の保持を両立できる理由は明白ではないが、例えば以下のように考えられる。
【0035】
通常、紙力を向上させるため、デンプンやPAMなどの紙力向上剤が用いられる。パルプスラリーはアニオン性であるため、紙力向上剤はパルプにより良く定着させる目的でその多くは通常カチオン性である。一方、一般的な填料はパルプスラリーに添加された状態ではアニオン性である。また、紙の内添填料として多く用いられる炭酸カルシウムは、紡錘状、針状、毬栗状などの形態をとっており、多孔構造をとっている。
【0036】
このような填料を含む系に一般的なカチオン性の紙力向上剤を添加すると、紙力向上剤は、パルプだけではなく、パルプと同様にアニオン性であり、かつ多孔構造である填料にも多く定着してしまい、紙力向上剤の本来の目的であるパルプ繊維同士を結合させる効果が低減する。
【0037】
それに対し、本願発明では、予め填料とアルギン酸類とを混合することにより、アルギン酸類を填料の表面に緩やかに被覆させ、填料を緩やかに凝集させる。アルギン酸類が填料表面に存在すると、後に紙力向上剤を添加した場合であっても、紙力向上剤が填料の細孔内部へと定着するのを防ぐことができ、紙力向上剤のパルプへの定着率を向上させ、紙力を向上させることができると考えられる。
【0038】
また、アルギン酸類は、パルプの主成分であるセルロースと類似構造であり、パルプとの相互作用が強く、填料をパルプに定着させる力が比較的高いと考えられる。従ってアルギン酸類を表面に有する填料は、パルプに定着しやすく、填料の歩留りが向上すると考えられる。また、填料表面のアルギン酸類とパルプのセルロースとの間に働く水素結合も、紙力の向上に寄与すると考えられる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例にて本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
各評価項目については、下記方法に従い行った。評価結果を表1に示す。
【0040】
[評価測定方法]
・平均粒子径;マルバーン(Malvern Instruments)社製マスターサイザーマイクロを使用し、レーザー回折法により測定した。
・BET比表面積:マイクロメリティックス・ジェミニ2360(島津製作所製)を用い、窒素吸着により算出した。
・坪量:JIS P 8124:1998に従った。
・紙厚、密度:JIS P 8118:1998に従った。
・紙中灰分:JIS P 8251:2003に従った。
・強度(引張強さ、裂断長、引張弾性率、引張破断伸び、引張エネルギー吸収量(TEA)):JIS P 8113:1998に従った。
・剛度(曲げこわさ):ISO−2493に準じて、L&W Bending Tester Code 160(Lorentzen & Wettre社製)を用いて曲げ角度が15°の曲げこわさを測定した。
【0041】
[実施例1]
(填料の前処理)
軽質炭酸カルシウム(填料;ロゼッタ型、平均粒子径2.9μm、BET比表面積9.6m/g、固形分濃度19.1%)の水分散液に対し、アルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ製 アルギテックスH、粘度500〜600mPa・s<1%水溶液20℃時>)1%水溶液を、固形分換算で1%(対軽質炭酸カルシウム)となるように添加し、スリーワン・モーターにて300rpmの速度で混合して、前処理した軽質炭酸カルシウム分散液を得た。
【0042】
(紙の製造)
新聞古紙パルプ(N-DIP、CSF(カナダ標準フリーネス)185ml)のスラリーに、スリーワン・モーターにて500rpmの速度で攪拌しながら、パルプ固形分質量に基づいて、上記の前処理した軽質炭酸カルシウムを15.0質量%添加し、さらにカチオン系紙力向上剤(ハリマ化成株式会社製 EX239)を0.1固形分質量%、硫酸バンドを1.0固形分質量%、歩留向上剤(ソマール株式会社製、R-300)を100ppmとなるように添加・混合し紙料を調製した。次に、JIS P 8209:1994に基づいて手抄シート5枚を作製し、それぞれ上記の評価測定を行った。結果は5枚の平均値で示した。
【0043】
[実施例2]
軽質炭酸カルシウムの水分散液に対し、アルギン酸ナトリウム0.1%水溶液を固形分換算で2%(対軽質炭酸カルシウム)となるように混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0044】
[実施例3]
軽質炭酸カルシウムの水分散液に対し、硫酸バンドを固形分換算で0.5%(対軽質炭酸カルシウム)添加した後、アルギン酸ナトリウムを混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0045】
[実施例4]
アルギン酸ナトリウムに代えて、アルギン酸エステル(株式会社キミカ製 キミロイドHV 粘度150〜250mPa・s<1%水溶液20℃時>)1%水溶液を固形分換算で1%(対軽質炭酸カルシウム)となるように添加しして混合し、前処理した軽質炭酸カルシウムを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0046】
[実施例5]
軽質炭酸カルシウムの水分散液に対し、アルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ製 アルギテックスLL 粘度30〜60mPa・s<1%水溶液20℃時>)0.1%水溶液を固形分換算で1%(対軽質炭酸カルシウム)となるように混合した以外は、実施例1と同様にした。
【0047】
[比較例1]
前処理した軽質炭酸カルシウムに代えて、未処理(アルギン酸ナトリウムと混合していない)軽質炭酸カルシウムを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0048】
[比較例2]
(複合化PAMの合成)
水670部、50%アクリルアミド水溶液262部、60%メタクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド18.6部、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド9.2部、イタコン酸3.9部、メチレンビスアクリルアミド0.1部、アリルスルホン酸ナトリウム0.5部の混合物を10%硫酸を用いてpH3に調整した。次いで、温度を60℃に昇温し、2%過硫酸アンモニウム水溶液16部、2%亜硫酸ソーダ水溶液4部を添加して、温度60〜85℃で3時間反応させ、両性PAMを得た。
【0049】
次に、カルボキシメチルセルロース(アニオン性多糖類)と上記両性PAMとを、それぞれ1%溶液として15:85の重量比で水系で混合し、複合化PAMを得た。
(填料の前処理)
軽質炭酸カルシウム(填料;ロゼッタ型、平均粒子径2.9μm、固形分濃度19.1%)の水分散液に対し、上記複合化PAMを固形分換算で1%(対軽質炭酸カルシウム)となるように添加し、スリーワン・モーターにて300rpmの速度で混合して、前処理した軽質炭酸カルシウム分散液を得た。
【0050】
(紙の製造)
前処理した軽質炭酸カルシウムとして、パルプ固形分質量に基づいて、上記の複合化PAMで前処理した軽質炭酸カルシウムを15.0質量%添加した以外は、実施例1と同様にした。
【0051】
[比較例3]
アルギン酸ナトリウムに代えて、カチオン化タピオカ澱粉(日本エヌエスシー株式会社製 CATO304)を、固形分換算で1%(対軽質炭酸カルシウム)となるように添加して混合し、前処理した軽質炭酸カルシウムを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0052】
[比較例4]
アルギン酸ナトリウムに代えて、両性グアーガム(三晶株式会社製 メイプロイドK)1%水溶液を、固形分換算で1%(対軽質炭酸カルシウム)となるように添加して混合し、前処理した軽質炭酸カルシウムを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果から以下のことがわかる。
1)アルギン酸ナトリウムを混合することにより前処理した軽質炭酸カルシウムを用いた実施例1は、未処理(前処理しない軽質炭酸カルシウム)の比較例1に比べて、紙中灰分が高く灰分歩留まりが良好であり、強度および剛度の紙力も向上した。
【0055】
2)アルギン酸ナトリウムの混合量が多い実施例2では、さらに灰分歩留まりが向上し、紙力も良好であった。
3)軽質炭酸カルシウムの水分散液に硫酸バンドを添加した後、アルギン酸ナトリウムを混合した実施例3では、灰分歩留りは未処理の比較例1とほぼ同等であるが、引張強さ、裂断長および引張弾性率といった強度が高く、剛度は顕著に向上した。
【0056】
4)アルギン酸エステルにより前処理した実施例4は、実施例1と同様に、未処理の比較例1に比べて、灰分歩留まり、紙力が向上した。
5)粘度が低い(分子量が低い)アルギン酸ナトリウムにより前処理した実施例5は、粘度が高い(分子量が高い)アルギン酸ナトリウムにより処理した実施例1に比べると紙力がやや劣るものの、未処理の比較例1よりも、灰分歩留まり、紙力ともに高かった。
【0057】
6)複合化PAMにより前処理した比較例2では、未処理の比較例1に比べて、紙力は良好であるが、灰分歩留まりが劣っていた。
7)カチオン化澱粉、グアーガムによりそれぞれ前処理した比較例3、4では、未処理の比較例1よりも灰分歩留まりは向上するが、紙力の向上効果は殆ど見られなかった。
【0058】
8)実施例1〜5では、未処理の比較例1に比べて紙の密度を上昇させることなく、所望の坪量、紙厚を有する紙を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸、アルギン酸の塩、アルギン酸エステル、またはその混合物から選択されるアルギン酸類を、抄紙用填料に混合することにより該填料を前処理する、填料の前処理方法。
【請求項2】
前記アルギン酸類が、アルギン酸ナトリウム、またはアルギン酸エステルである請求項1記載の前処理方法。
【請求項3】
前記填料が炭酸カルシウムを含む請求項1又は2に記載の前処理方法。
【請求項4】
酸を添加することをさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の前処理方法。
【請求項5】
酸が硫酸バンドである請求項4記載の前処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の前処理方法により処理された填料を紙料に添加して抄紙することを含む、紙の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の前処理方法により処理された填料を含有する紙料を抄紙することにより得られる紙。

【公開番号】特開2011−106075(P2011−106075A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264763(P2009−264763)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】