説明

塵埃集塵装置

【課題】ランニングコストに優れた塵埃集塵装置とする。
【解決手段】エアAに含まれる塵埃を捕捉するフィルターが備えられた塵埃集塵装置1であって、フィルターの少なくとも1つとして、直径2〜20μmの合成繊維が熱圧着されて形成されたメインフィルター30が備えられ、このメインフィルター30を通過するエアAの通気速度が0.1〜0.2m/minとなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延加工や絞り加工、切削加工等において発生する油煙や油滴等の塵埃を、集塵する塵埃集塵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧延加工や絞り加工、切削加工等に際しては、切削油や潤滑剤、離型剤等の液体由来の油煙や油滴等の粘性を有する塵埃が空気中に飛散し、作業環境が悪化するとの問題がある。そこで、現在では、当該塵埃を捕捉(捕集)するための各種集塵装置が提案されており、例えば、塵埃の捕捉に静電気クーロン力を利用した電気集塵装置や、塵埃の捕捉にフィルターを利用したフィルター集塵装置等が存在する。
【0003】
しかしながら、電気集塵装置は、白煙等の微粒子を効率よく捕捉できるとの利点を有するものの、スパークによって着火・爆発するおそれがあるとのリスクを有している。また、電気集塵装置は、絶縁碍子の汚損により捕捉効率が低下するため、結局、プレフィルターやアフターフィルター等のフィルターが必要になる(例えば、特許文献1(符号6、符号20)参照。)。具体的には、例えば、導電性であるディーゼルカーボン等の浮遊粉塵が空気中に含まれていると、汚損による捕捉効率の低下が著しく、一定期間(通常、約0.5〜2ヶ月)毎の洗浄・点検が必要になる。また、フィルターが備わると、装置コストが増加するのはもちろん、フィルターの交換やメンテナンスのためのランニングコストも増加し、特に、フィルターの交換に際して、集塵装置を休止する必要があるとの問題を生じる。
【0004】
一方、フィルター集塵装置も、フィルターに油膜が形成され、あるいは浮遊粉塵が蓄積することにより、通気性が阻害され捕捉効率が低下する。特に、捕捉性能を向上させるために、例えば、超微粒子用のフィルターであるHEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルター(Ultra Low Penetration Air Filter)を使用した場合は、使用不能になるのが早い。しかも、これらのフィルターは、高価であるが強度が弱く洗浄等に適さないので、消耗品とされ、ランニングコストが著しく増加する。
【0005】
また、このようなフィルターの交換に伴う不利益を軽減するために、プリコート剤等と呼ばれる人工ゼオライト等からなる粉体に、油煙等の塵埃を、フィルター表面で吸着させ、この油煙等が吸着した粉体を回収することにより、フィルターの通気性低下を抑えた装置も提案されている(例えば、特許文献2(図1)参照。)。しかしながら、この装置によっても、粉体が消費されるため、ランニングコストが増加する。また、粉体供給手段や粉体回収手段が必要になるため、装置コストが増加し、しかも油煙等の塵埃を吸着した粉体は産業廃棄物となるため、これを処理するためのコストが必要になり、結局、ランニングコストが増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001‐293394号公報
【特許文献2】特開平10‐296026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする主たる課題は、ランニングコストに優れた塵埃集塵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
エアに含まれる塵埃を捕捉するフィルターが備えられた塵埃集塵装置であって、
前記フィルターの少なくとも1つとして、直径2〜20μmの合成繊維が熱圧着されて形成されたメインフィルターが備えられ、
このメインフィルターを通過する前記エアの通気速度が0.1〜0.2m/minとなるように構成されている、
ことを特徴とする塵埃集塵装置。
【0009】
〔請求項2記載の発明〕
前記メインフィルターは、
凹凸エンボスを有するシートがプリーツ折りされ、このプリーツ折りが繰り返されることで円筒状とされており、
かつ、前記プリーツ折り線が上下に延びるように配置されている、
請求項1記載の塵埃集塵装置。
【0010】
〔請求項3記載の発明〕
前記メインフィルターに外接する円筒状のプレフィルターが備えられている、
請求項2記載の塵埃集塵装置。
【0011】
〔請求項4記載の発明〕
前記メインフィルターが、少なくとも前記エアの流通方向に直交する方向に複数並べられ、
この複数のメインフィルターの前段側に、平板状の金属フィルターが、前記直交方向に連続するように複数並べられ、
この複数の金属フィルターは、いずれも前記直交方向と平行にならず、かつ相互に隣接する金属フィルター同士が同一方向を向かないように、配置されている、
請求項2又は請求項3記載の塵埃集塵装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ランニングコストに優れた塵埃集塵装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本形態の塵埃集塵装置の平面図である。
【図2】本形態の塵埃集塵装置の正面図である。
【図3】2次フィルター及び3次フィルターの形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
〔装置概要〕
図1及び図2に示すように、本形態の塵埃集塵装置1は、1次フィルター10、2次フィルター20、3次フィルター30及び4次フィルター40からなる塵埃を捕捉する多段フィルターと、この多段フィルターが内空部に設置される密閉構造の本体(ケーシング)4と、この本体4にエアAを吹き込むブロワ等の通気手段3と、を主に有する。
【0015】
〔処理の対象〕
本体4に吹き込まれるエアAは、圧延加工や絞り加工、切削加工、バイオディーゼル精製等に際して飛散した油煙や油滴等の塵埃を含む空気(エア)であり、本形態の塵埃集塵装置1は、このようなエアAに含まれる塵埃を捕捉するものである。
【0016】
この捕捉の対象となる塵埃には、例えば、ダイスオイルミストやタービンオイルミスト、コンプレッサーオイルミスト、油拡散真空ポンプ排気油煙、食品フライヤーヒューム、油焼入れ・熱処理煙、メッキヒュームなどと呼ばれる塵埃が含まれる。つまり、この捕捉の対象となる塵埃は、その発生場所や由来等が特に限定されず、例えば、切削油(水溶性切削油、鉱物油切削油等)や潤滑剤・離型剤(高温プレス用等)などの液体由来の塵埃を例示することができる。
【0017】
このような塵埃を構成する粒子は、エアA中において微粒子化されており、粒子径が0.05μm〜数10μmの幅広い分布となっている場合もある。そして、このような塵埃は、少なくとも凝集して再液化すると付着性・粘性(粘着性)を発現し、この付着性・粘着性が原因となって、多段フィルター等に付着し、また、ディーゼルカーボン等の他の塵埃を吸着する。
【0018】
〔本体〕
本体4は、その内部に設置された多段フィルターに塵埃が含まれるエアAを通過させるためのものである。したがって、本体4の素材は、特に限定されず、例えば、金属、プラスチック、FRP等を例示することができる。
【0019】
また、本体4の形状も、エアAが各フィルター10,20,30,40を通過する形状となっていれば足り、特に限定されるものではない。ただし、本形態では、各フィルター10,20,30,40の機能及び形状との関係で、本体4をこれに適した形状としている。この点については、各フィルター10,20,30,40の説明とともに説明する。
【0020】
なお、本形態においては、本体4に吹込み口4X及び放風口4Yが設けられており、吹込み口4Xから本体4内に吹き込まれたエアAは、各フィルター10,20,30,40をこの順に通過した後、放風口4Yから、例えば、大気中に放風される。
【0021】
〔通気手段〕
本体4にエアAを流通させる方法としては、本体4にエアAを吹き込む「押込み方式」、本体4からエアAを吸引する「吸引方式」のいずれをも採用することができる。ただし、本形態では、ブロワ等の通気手段3によって吹込み口4Xから本体4内にエアAを吹き込む押込み方式を採用する。
【0022】
この押込み方式によると、本体4内が、例えば、200〜1000Paの正圧となるため、後述する油ドレンの排出が容易となる。また、放風口4Yは、例えば、作業空間以外の外部に面し、あるいは外部と連通するため、放風口4Y側に吸引方式の通気手段を設けると騒音の問題が生じる。しかしながら、本形態の集塵装置1において押込み方式を採用すると、通気手段3を原因とする騒音が各フィルター10,20,30,40によって吸音されるため、かかる騒音の問題が生じなくなる。さらに、油煙や油滴等の塵埃を含むエアAは、通常、ブロワの羽根を損傷させたり、腐食させたりする塵埃を含まないため、本形態の集塵装置1において、押込み方式を採用することは、特に有用である。
【0023】
なお、通気手段3は、例えば、金属製、プラスチック製とされたダクト2と接続されており、ダクト2内を流通するエアAが当該通気手段3によって本体4内に吹き込まれる。
【0024】
〔防火ダンパー〕
通気手段3のエア吹出口は、本体4の吹込み口4Xに接続されており、この吹込み口4Xには、この吹込み口4Xを開閉する防火ダンパー5が備えられている。この防火ダンパー5は、吹込み口4Xの上側にヒンジ5Aを軸に回転自在に取り付けられている。したがって、通気手段3を駆動して吹込み口4Xから本体4内にエアAを吹き込むと、防火ダンパー5は、エアAの吹込み圧によってヒンジ5Aを軸に上方へ回転し、もって吹込み口4Xを開く。他方、通気手段3の駆動を停止して吹込み口4XからエアAを吹き込むのを止めると、防火ダンパー5は、重力によってヒンジ5Aを軸に下方へ回転し、もって吹込み口4Xを閉じる(覆う)(機械的開閉機構)。
【0025】
この点、本体4内には、火粉等の高温の塵埃が吹き込まれることがあり、また、2次フィルター20や3次フィルター30には油膜が貼り付いているため、これらの油膜やフィルター自体に引火するおそれがある。そして、仮にこれらに引火した場合は、通気手段3の羽根やダクト2内壁にも油膜が貼り付いているため、これらの油膜に延焼するおそれがある。しかしながら、本形態の集塵装置1においては、直ちに通気手段3の駆動を停止すれば、防火ダンバー5がヒンジ5Aを軸に下方へ回転し、もって吹込み口4Xが閉じられるため、通気手段3やダクト2等に貼り付く油膜に延焼するのが防止される。
【0026】
〔多段フィルター〕
次に、本体4内に配置された多段フィルターについて説明する。なお、以下では、説明の都合上、3次フィルター30、2次フィルター20、1次フィルター10、4次フィルター40の順に説明する。
【0027】
(3次フィルター(メインフィルター))
3次フィルター30は、油煙や油滴等の塵埃を捕捉するための、主たる(メイン)フィルターであり、さまざまな特徴を有する。
すなわち、現在、超微粒子を捕捉するための一般的な原理・形態は、ブラウン運動及び分子間引力が支配的な「拡散吸着」原理に依存する微細繊維を利用した形態であり、0.4μm前後のマイクログラスウールをフェルト状に成形したHEPAフィルターやULPAフィルター等が知られている。
【0028】
「一般的なULPAフィルターの仕様」
繊維 :直径0.4μm前後のマイクログラスウール
シート成形 :バインダーによる接着
目付量 :100g/m2
1セル面積 :17m2
処理風量 :34m3/min
通気速度 :2m/min
捕捉(集)性能 :0.1μm ×99.99%
【0029】
しかしながら、この従来のフィルターは、前述したように使用不能になるのが早いとの問題を有している。
すなわち、フィルターの繊維間距離(間隙)は、通常、繊維径に比例する。また、フィルターの構成繊維には油膜が貼り付き(油成分の付着)、この油膜が成長することによって、あるいはこの油膜にディーゼルカーボン等の他の塵埃が付着することによって、フィルターの間隙が詰まり、通気抵抗が増す。したがって、直径0.4μm前後の微細繊維を利用する従来のフィルターは、間隙が狭いため、すぐにこの間隙が詰まってしまい、使用不能になるのが早いとの問題を生ずる。しかも、従来のフィルターは、微細繊維をバインダーで成形しているため、間隙がいっそう狭くなり、使用不能になるのがよりいっそう早くなる。さらに、従来のフィルターは、微細繊維の利用により、成形強度が弱くなっているため、洗浄等に適さず、消耗品とされ、ランニングコストが嵩む。
【0030】
そこで、本発明者は、これらの問題を解決するために、さまざまな検討を行い、結果、2〜20μm、好ましくは5〜10μm、より好ましくは6μmの太い繊維を利用したフィルターで、超微粒子の捕捉が可能な形態を開発するに至った。
【0031】
従来、このような太い繊維を利用して、0.05μm程度の超微粒子を、拡散吸着原理に依存して捕捉するのは不可能であると考えられていた。しかしながら、当該太い繊維を合成繊維とし、かつ熱圧着して成形するとともに、通気速度を0.1〜0.2m/min、好ましくは0.1〜0.15m/minとすると、5μm以上の太い繊維を利用しても超微粒子を捕捉することができるのである。
【0032】
これは、まず、前述したように、フィルターの間隙は繊維径におおよそ比例するため、太い繊維を利用したフィルターの間隙は広く、また、バインダーによる成形を避け、熱圧着による成形を行うと、当該間隙は広いままとなる。そして、フィルターの間隙が広いままでは超微粒子を拡散吸着原理に依存して捕捉することはできないが、当該太い繊維にも油膜が貼り付くため、この油膜の貼り付きにより当該太い繊維はいわゆる太った状態となり、実際には、間隙が狭くなる。したがって、超微粒子を拡散吸着原理に依存して捕捉することができる(ただし、通気速度が速すぎると、拡散吸着原理に依存した捕捉がなされなくなる。)。しかも、油煙や油滴等の塵埃は、繊維に貼り付いて凝集すると再液化して流れ落ちるため(セルフクリーニング性能)、間隙が詰まってしまうまで繊維が太ることはない。この点、従来の微細繊維を利用したフィルターにおいては、塵埃が再液化して流れる前に間隙が詰まってしまうのとは異なる。つまり、本形態の太い繊維を利用したフィルターによると、たえず超微粒子を捕捉するのに好適な間隙が維持されることになり、長期間の連続使用が可能なメンテナンスフリーのフィルターとなる。しかも、このフィルターは、強度のある太い繊維を利用しているため、成形強度も強く、洗浄等のメンテナンスが可能となり、消耗品にする必要がなくなる。
【0033】
本発明者は、以下に示す仕様のフィルターを使用して試験を行った。結果、このフィルターは、一般的なULPAフィルターと比べて、繊維の太さが約14倍であるにも関わらず(通気速度は約1/14倍)、一般的なULPAフィルターと同等の拡散吸着効果が得られることが分かった。
【0034】
「仕様」
繊維 :直径6μm前後のポリエステル長繊維
シート成形 :熱圧着
目付量 :260g/m2
1セル面積 :105m2
処理風量 :15m3/min
通気速度 :0.14m/min
【0035】
以上のような太い繊維を利用したフィルターを採用したのが本形態の3次フィルター(メインフィルター)30であり、以上で述べたメリットを有し、ランニングコストに極めて優れる。
【0036】
この3次フィルター30に利用する繊維の原材料としては、バインダーによる接着成形を不要とし、熱圧着による成形を可能とする合成繊維を使用する。この合成繊維は、熱圧着が可能であれば特に限定されず、例えば、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタン等を使用することができる。
【0037】
本形態の3次フィルター30においては、通気速度を遅くするために、通気手段3の風量や本体4の大きさ等を調節することもできるが、風量を確保しつつ通気速度を遅くするために、フィルター面積を広くするのが好ましい。そこで、本形態においては、3次フィルター30を、図3の(a)及び図3の(b)に示すように、凹凸エンボス31cを有するシート(本形態の太い繊維を利用したフィルター)31をプリーツ折りし、このプリーツ折りを繰り返すことで円筒状としている。図3に示す例では、山折り型のプリーツ折り(山プリーツ折り)31a及び谷折り型のプリーツ折り(谷プリーツ折り)31bを順に繰り返すことで円筒状としている。
【0038】
このようにプリーツ折り31a,31b…を繰り返すと、フィルター面積が広くなる。もっとも、従来のフィルターのように微細繊維を利用すると、フィルター30(シート31)の強度が弱いため、相互に隣接するひだ30X間に、この間隙を確保・保持するためのセパレーターを介在させる必要がある。そして、このようにセパレーターを介在させると、相互に隣接するひだ30Xの間隔が広がるため、円筒状にする場合は、プリーツ折り31a,31b…の数(プリーツの本数)が減ってフィルター面積が十分に広くならない(又は、フィルター30を大きくする必要が生じる。)。しかしながら、本形態の3次フィルター30(シート31)は、太い繊維が利用されているために強度が強く、しかも凹凸エンボス31cによって相互に隣接するひだ30Xの最低限の間隔が確保・保持されるため、セパレーターが不要である。結果、円筒状にする場合においても、プリーツ折り31a,31b…の数を減らす必要がなく、3次フィルター30(シート31)の面積を十分に広いものとすることができる。
なお、ひだ30Xとは、シート31の相互に隣接するプリーツ折り31a,31bで挟まれた部分を意味する。
【0039】
本形態において、プリーツ折り31a,31bの形態は、特に限定されない。例えば、図3の(a)に示すように、ほぼ鋭角に折り返すことや、図3の(b)に示すように、丸みを持たせて折り返すことなどができる。
【0040】
また、ひだ30Xの幅(相互に隣接するプリーツ折り31a,31b間の距離)等も特に限定されない。例えば、個々のひだ30Xの幅がそれぞれ異なる形態にすること等も考えることができる。
【0041】
ただし、円筒状とされた3次フィルター30の内径(円筒中心から谷プリーツ折り31bまでの距離×2)L1を200〜300mm、好ましくは250mmとし、かつ、3次フィルター30の外径(円筒中心から山プリーツ折り31aまでの距離×2)L2を400〜600mm、好ましくは550mmとし、さらに、相互に隣接する山プリーツ折り31a,31a間の距離L3(プリーツピッチ。図3の(b)参照)を3.5〜7.0mm、好ましくは4.0mmにすると、円筒状とされた3次フィルター30が十分な強度をもち、かつ十分な捕捉性能を発揮するようになる。
【0042】
このほか、凹凸エンボス31cの大きさ、突出長等も特に限定されない。ただし、前記したように山プリーツ折り31a,31a間の距離(プリーツピッチ)L3を3.5〜4.0mmにする場合は、凹凸エンボス31cの大きさ(面積)を4〜8mm2、好ましくは4〜5mm2とし、突出長を1.5〜3.0mm、好ましくは1.5〜2.0mmとすれば、相互に隣接するひだ30Xの間隔が確実に確保・保持されるという点で好適である。
【0043】
本形態において、凹凸エンボス31cの形成方法は、特に限定されず、公知の方法によることができ、例えば、相互に嵌り合う凹凸を有する一対の凹凸エンボスロール間にシート31を通して形成する方法等によることができる。
【0044】
なお、例えば、外径L2を550mm、内径L1を250mm(ひだ30Xの幅を150mm)、プリーツピッチL3を4mm、フィルター31の上下方向に関する高さを2000mmとした場合は、山プリーツ折り31aが、「550π/4=432(山)」となり、3次フィルター30の一本当たりの面積は、432(山)×0.15m×2×2m≒259m2となる。
【0045】
本形態において、円筒状の3次フィルター30は、プリーツ折り31a,31bによって形成される線(プリーツ折り線)が上下に延びるように配置されている。この配置形態においては、油煙や油滴等の塵埃が凝集し、再液化すると、重力によって下方に流れ落ちる。そこで、本体4の底部に図示しないドレンパン等を配置し、このドレンパン等に集まった油ドレンをポンプ等によって、例えば、図2に示すように、油排出口8から排出することで、再利用に供することなどができる。この油ドレンの排出は、前述したように本体4内が正圧になっているため、容易である。また、本形態においては、シート31自体の強度が強く、たわみ等が生じにくいため、再液化した油ドレンは円滑に下方に流れ落ちる。結果、繊維が部分的に太り過ぎるおそれはなく、捕捉性能が3次フィルター30全体として均等に発揮される。
【0046】
さらに、本形態においては、シート31自体の強度が強いことに加えて、山プリーツ折りの数を増やすことによって3次フィルター30全体としての強度をも強くすることができること、更には通気速度が極めて遅く設定されていることによってシート31に加わる圧力が小さくなっていることにより、円筒に内接する(谷プリーツ折り31bに接する)パンチプレート等からなる骨材を備える必要がないため、設備コストを削減することができる。
【0047】
ところで、本形態においては、図1及び図2に示すように、本体4が、直方体状の前段部4Aと、この前端部4Aよりも背の高い後段部4Bとで形成されており、前段部4Aに吹き込まれたエアAが後段部4Bに向かって流れるようになっている。そして、3次フィルター30は、後段部4Bに複数本、図示例では12本配置されており、具体的には、流通方向(前段部4Aから後段部4Bに向かう方向)に複数本、図示例では4本、幅方向(流通方向に直交する方向)に複数本、図示例では3本が並ぶように配置されている。
【0048】
このように3次フィルター30を複数本配置した場合、従来のようにエアAの通気速度が2m/min程度にされていると、前段部4A側の3次フィルター30にのみ集中的に通気が行われてしまうおそれがある。しかしながら、本形態においては、通気速度が0.1〜0.2m/minと極めて遅く設定されているため、直方体状の後段部4B内において局所的に大きな通気速度の違いを生じるおそれがなく、したがって、3次フィルター30を、流通方向及び幅方向に並べて配置した場合においても、前段部4A側の3次フィルター30にのみ集中的にエアAが当たるおそれはなく、しかも、図3の(a)に示すように、各3次フィルター30に対して、四方から均等にエアAが当たるようになるため、極めて捕捉効率に優れる。
【0049】
(2次フィルター(プレフィルター))
次に、2次フィルター20について、説明する。
本形態の2次フィルター20は、図3の(a)に示すように、各3次フィルター(メインフィルター)30に外接する円筒状のフィルターである。この2次フィルター20においては、3次フィルター30による捕捉に先立って、例えば、10〜20μmの比較的大きな粒径の塵埃が捕捉されるため、3次フィルター30の目詰まりが防止される。
【0050】
この2次フィルター20において、塵埃を捕捉する原理は特に限定されず、例えば、拡散吸着原理を利用することもできる。ただし、好ましくは、拡散吸着原理を利用した前記大きな粒径の塵埃の捕捉処理であり、この形態によると、自己フラッシング性が確保される。
【0051】
2次フィルター20としては、公知のフィルターを用いることができ、例えば、ウレタン製のフィルター、金属製のフィルター、化学繊維、天然繊維などを用いることができ、また、グラスウールやポリエステル製の繊維で構成されたフィルターを用いることもできる。
【0052】
また、この2次フィルター20の厚さM(図3の(b)参照)も、特に限定されず、通常10〜30mm、好ましくは15mmとされる。もっとも、2次フィルター20は、この程度の厚さであると、たわむおそれがある。しかしながら、本形態においては、2次フィルター20が、強度のある円筒状の3次フィルター30に外接するように配置され、3次フィルター30によって形状が保持されるため、骨材等を用いて当該たわみを防止する必要はない。
【0053】
(1次フィルター)
次に、1次フィルター10について、説明する。
前段部4Aの周壁に形成された吹込み口4Xから吹き込まれたエアAは、まず、前段部4A内に配置された1次フィルター10を通過する。この1次フィルター10においては、繊維状の浮遊粉塵等の、例えば、10〜1000μmの大きな塵埃が捕捉される。
【0054】
この1次フィルター10としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅、アルミ等の金属で網状、多孔質状に形成された公知の金属フィルターを用いることができる。1次フィルター10として金属フィルターが用いることにより、1次フィルター10自体の引火が防止され、また、この1次フィルターで火粉等の高温の塵埃等が捕捉されることにより、2次フィルター20や3次フィルター30の引火が防止される。
【0055】
この1次フィルター10は、前段部4AにおいてエアAの流通を遮るように設けられており、例えば、前段部4Aの下端(床面)から上端(天面)にわたり、かつ幅方向(流通方向に直交する方向)全長にわたる1枚の金属フィルターで構成することなどができる。ただし、2次フィルター20や3次フィルター30が、エアAの流通方向に直交する方向(幅方向)に複数並べられている本形態では、次に示す形態を推奨する。
【0056】
すなわち、図1に示すように、複数の2次フィルター20及び3次フィルター30の前段側に、本形態では前段部4A内に、平板状の金属フィルターを、幅方向(直交方向)に連続するように複数、図示例では4枚並べ、この複数の金属フィルター11,12,13,14が、いずれも幅方向と平行にならず、かつ相互に隣接する金属フィルター同士、本形態では金属フィルター11と金属フィルター12、金属フィルター12と金属フィルター13、金属フィルター13と金属フィルター14が同一方向を向かないように、配置する。
【0057】
この点、吹込み口4Xから吹き込まれたエアAの全体としての流通方向は、1次フィルター10から2次フィルター20や3次フィルター30へ向かう方向(図1において、「流通方向」として示す方向)であるが、1次フィルター11,12,13,14を通過する際のエアAの流通方向は、通過する1次フィルター11,12,13,14に直交する方向(1次フィルター11,12,13,14のフィルター面が向く方向)である。したがって、本形態のように各1次フィルター11,12,13,14の配置方向を限定すると、例えば、両側端に位置する1次フィルター11及び14を通過した高温の塵埃は、前段部4Aの周壁に向かい、当該周壁に衝突して落下等するため、2次フィルター20や3次フィルター30等の後段フィルターに向かい、当該後段フィルターに捕捉されることがなく、引火のおそれがより一層減少する。また、中央に位置する1次フィルター12及び13を通過した高温の塵埃も、互いのフィルター12若しくは13に向かい、又は後段フィルターまでの距離が長くなるため、引火のおそれがより一層減少する。
【0058】
なお、1次フィルター11,12,13,14にどの程度の方向づけをするか(直交方向に対する角度をどの程度とするか)は、3次フィルター30からの距離やエアAの風速、1次フィルター11,12,13,14の幅等に基づいて、適宜決定することができる。
【0059】
(4次フィルター(チェックフィルター))
次に、4次フィルター40について、説明する。
本形態の集塵装置1においては、各3次フィルター30の上方に4次フィルター40が配置されており、1次フィルター10、2次フィルター20、3次フィルター30の順に通過したエアAは、最後にこの4次フィルター40を通過する。
【0060】
この4次フィルター40は、例えば、集塵装置1を導入後はじめて稼働する場合や3次フィルター30を洗浄・交換等した場合などにおいて、主に機能する。これらの場合においては、3次フィルター30の構成繊維に油膜が貼り付いておらず(いわゆる濡れた状態になっていない)、繊維間距離が広いため、油煙や油滴等の塵埃が3次フィルター30を通過してしまうおそれがある。そこで、この段階における塵埃の集塵を図るのが4次フィルター40である。
【0061】
この4次フィルター40は、3次フィルター30が濡れた後は、油煙や油滴等の塵埃をほとんど捕捉しないため、4次フィルター40の捕捉効率低下は大きな問題とならず、例えば、HEPAフィルターやULPAフィルター等の高価なフィルターを使用することができる。
【0062】
本形態において、この4次フィルター40は、各3次フィルター30それぞれに対応するように設けられており、図示例では12個設けられている。ただし、この形態に限定する趣旨ではなく、例えば、各3次フィルター30を通過したエアを集めて、全体として1個、2個等の3次フィルター30よりも少ない数の4次フィルター40で処理することもできる。
【0063】
また、本形態においては、この4次フィルター40を、後段部4Bの上端部に配置しており、この配置のために後段部4Bを前段部4Aよりも高くしている。ただし、この形態に限定する趣旨ではなく、例えば、4次フィルター40を後端部4B外に配置し、3次フィルター30を通過したエアAが適宜の管路等を通して4次フィルター40に導かれる形態などを採用することもできる。
【0064】
ただし、本形態のように一体化された前段部4A及び後段部4Bからなる本体4内に全てのフィルター10,20,30,40を配置すると、この4段階のフィルター10,20,30,40による吸音効果が最も効果的に発揮されるため、通気手段3の騒音防止性能に優れる。
【0065】
〔その他〕
以上のように各フィルター10,20,30,40を順に通過し、放風口4Yから放風されるエアAは、高清浄空気にリフレッシュされているため、例えば、工場内等に再循環することができる。そして、このように再循環すると、空調エネルギーロスが少なくなり、大幅な省エネルギー化が図られる。
【0066】
また、以上のように4段階のフィルター10,20,30,40で塵埃を捕捉することにより、通風負荷が軽減され、例えば、圧力損失を1kPa以下とすることができるため、通気手段3の動力を低く抑えることができ、動力コストを削減することができる。
【0067】
さらに、本形態の集塵装置1によると、通気手段3及びフィルター10,20,30,40だけのシンプルな構造となるため、運用性にも優れる。
【0068】
本形態においては、多段フィルターを4段としているが、それ以上の複数段とすることもできる。
【実施例1】
【0069】
次に、本発明の実施例を説明する。
まず、太い繊維を利用したフィルターであっても、通気速度(通気度)を制御すれば、超微粒子を捕捉できることを明らかにするための試験を行った。
【0070】
(試験方法)
まず、300〜400℃に加熱したホットプレートに潤滑油(タービン油#32)を滴下し、大量の油煙(白煙)を発生させた。そして、この油煙を含むエアを吸引フードから吸引し、下記に示す仕様のテストフィルターに通気させた。この通気は、吸引ブロワを用いて行い、また、表1に示すように、所定時間ごとに速度を変化させた。なお、テストフィルターは、いったん潤滑油に浸漬し、1時間経過した状態で使用した。
【0071】
「設計仕様」
繊維 :直径6μm前後のポリエステル長繊維
シート成形 :熱圧着
目付量 :260g/m2
面積 :18m2
【0072】
テストフィルターを通過し、吸引ブロワから排出されたエアについて、白煙の残り方を捕捉性能として評価することにした。結果は、表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、通気速度0.33m/minの場合は白煙が残ったが、通気速度0.2m/min、0.14m/minの場合は白煙が消えた。このことから、太い繊維を利用したフィルターであっても、通気速度(通気度)を制御すれば、0.05μmクラスの超微粒子を捕捉できることが分かる。
【実施例2】
【0075】
次に、太い繊維を利用したフィルターによると、セルフクリーニング性能が発揮されることを明らかにするための試験を行った。
【0076】
(試験方法)
下記に示す仕様のテストフィルター表面に、黒鉛パウダー80%を含んだカーボンオイル(スラリー状)を吹き付け、このカーボンオイルを吹き付けたテストフィルターに吸引ブロワ(富士電機製ブロワ VFC084P、風量MAX0.35m3/min)を用いてエアを通気させる試験を行った。
【0077】
「設計仕様」
繊維 :直径6μm前後のポリエステル長繊維
シート成形 :熱圧着
目付量 :260g/m2
面積 :0.25m2
【0078】
表2に示すように、カーボンオイルの吹付けを10分間行い、その後30分間は吹付けを行わず単にブロワを回した状態(インターバル)とした。この吹付け・インターバルを連続して3回繰り返した。
また、黒鉛パウダーの目詰まりの度合によって差圧が変化することから、テストフィルターの排気側に差圧計を取り付け、この差圧計で差圧の変化を測定することにより、セルフクリーニング性能を評価することにした。また、テストフィルターは、いったん潤滑油(タービン油#32)をプレコーティングし、1時間経過した状態で使用した。なお、表2中の風量は、ブロワ排気側(直径25mm)の風量である。
【0079】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、圧延加工や絞り加工、切削加工等において発生する油煙や油滴等の塵埃を、集塵する塵埃集塵装置として適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
3…通気手段、4…本体、4A…前段部、4B…後段部、4X…吹込み口、4Y…放風口、5…防火ダンパー、5A…ヒンジ、8…油排出口、10…1次フィルター、20…2次フィルター、30…3次フィルター、31…シート、31a,31b…プリーツ折り、31c…凹凸エンボス、40…4次フィルター、A…エア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアに含まれる塵埃を捕捉するフィルターが備えられた塵埃集塵装置であって、
前記フィルターの少なくとも1つとして、直径2〜20μmの合成繊維が熱圧着されて形成されたメインフィルターが備えられ、
このメインフィルターを通過する前記エアの通気速度が0.1〜0.2m/minとなるように構成されている、
ことを特徴とする塵埃集塵装置。
【請求項2】
前記メインフィルターは、
凹凸エンボスを有するシートがプリーツ折りされ、このプリーツ折りが繰り返されることで円筒状とされており、
かつ、前記プリーツ折り線が上下に延びるように配置されている、
請求項1記載の塵埃集塵装置。
【請求項3】
前記メインフィルターに外接する円筒状のプレフィルターが備えられている、
請求項2記載の塵埃集塵装置。
【請求項4】
前記メインフィルターが、少なくとも前記エアの流通方向に直交する方向に複数並べられ、
この複数のメインフィルターの前段側に、平板状の金属フィルターが、前記直交方向に連続するように複数並べられ、
この複数の金属フィルターは、いずれも前記直交方向と平行にならず、かつ相互に隣接する金属フィルター同士が同一方向を向かないように、配置されている、
請求項2又は請求項3記載の塵埃集塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−201329(P2010−201329A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49037(P2009−49037)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(391061646)株式会社流機エンジニアリング (20)
【Fターム(参考)】