説明

増幅阻害物質の除去方法および装置

【課題】試料からの核酸精製と増幅検出を行う核酸分析装置において、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質の影響を防止して、信頼性の高い核酸分析を可能とする。
【解決手段】核酸増幅液に、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質に反応し、より増幅阻害の少ない物質に変換する酵素等を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の試料から核酸を精製し、増幅検出する分析手法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野などで行われている核酸検査では、血液等の試料から核酸を精製し、核酸の増幅反応を行い、増幅した核酸を蛍光等を用いて測定することにより、核酸検査を行うのが一般的である。
【0003】
特表2001‐527220号には、こうした遺伝子検査を一貫して行うための一体型カートリッジおよび分析装置が既に報告されているが(特許文献1)、この装置によれば、試料から核酸を精製し、増幅試薬と混合し、検出するまでを一つの装置内で、各検体につき一つのカートリッジで行うことが可能である。この一体型カートリッジは、内部にタンパクの溶解液や洗浄液、核酸溶出液、核酸増幅液等の試薬、および核酸を吸着する核酸捕捉担体を備えている。核酸分析装置はこの一体型カートリッジ内の液体を遠心力により移動させ、試料や各々の試薬を核酸捕捉担体または検出容器へと流すものである。検出容器内で核酸の増幅および蛍光検出が行われ、検体中の核酸の有無を知ることができる。
【0004】
ところで、核酸の増幅反応液に試料あるいは核酸精製のための試薬が混入すると、増幅が阻害されることが知られている。増幅阻害を引き起こす物質としては、抗凝固剤として採血管に封入されているヘパリン、タンパク可溶化剤として用いられるグアニジン、Triton X-100などの界面活性剤、夾雑物の洗浄のために用いられるアルコール類などが知られている。
【0005】
従来の自動分析装置によらない核酸精製の工程中では、これらの阻害物質を低減するために、洗浄回数を増加させる(特許文献2参照)、遠心により目的の核酸のみ沈殿させて取り出す、乾燥させる(特許文献3参照)、遠心の高速回転により混入物質を分離する、固相膜に吸着させる(特許文献4参照)、夾雑する多糖類を糖質分解酵素で分解する(特許文献5参照)などの方法が行われていた。
【0006】
【特許文献1】特表2001−527220号公報
【特許文献2】特開2003−116550号公報
【特許文献3】特開2003−235555号公報
【特許文献4】特開2005−137298号公報
【特許文献5】特開2001−333774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の一体型カートリッジおよび分析装置では、一体型カートリッジに備わっている核酸捕捉担体上に核酸が吸着されるが、この核酸捕捉担体上に残った微量の液体に増幅阻害物質が含まれることがある。これにより増幅が阻害されると核酸検査結果が得られないため、核酸捕捉担体上の増幅阻害物質を低減しなければならないが、従来法のように遠心の高速回転により核酸捕捉担体上から分離するのは、装置と一体型カートリッジの構成上困難が伴う。つまり、この一体型カートリッジはコンタミネーションを防ぐために通液のための空気孔以外は密閉された構造となっているため乾燥させることは難しい。また、洗浄工程後の溶出液や増幅試薬などもカートリッジ上に搭載されているため、高速回転を行うと、強い遠心力によりこれらの溶液が流出してしまう可能性があるため実行することは難しいばかりか、高速回転を行うようなシステム構成は、装置のコストを上昇させるという問題もある。よって、閉鎖系に適用可能で、なおかつ高速回転等の物理的な手段を用いずにエタノールを減少させるような手段が望まれていた。本発明は、エタノール等の不純物を減少させ、信頼性の高い核酸分析を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、一連の核酸精製工程後に、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質に反応し、より増幅阻害の少ない物質に変換する酵素等を用いて、増幅阻害物質の処理を行うことで、核酸増幅液に混入した物質による核酸増幅阻害の問題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、試料から核酸を精製し、増幅検出を行う系において、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質に反応し、より増幅阻害の少ない物質に変換する酵素で核酸精製液を処理してから、核酸増幅反応を行うことを特徴とする、核酸分析方法および装置を提供する。
【0010】
前記方法や装置においては、必要に応じて、補酵素やpH調整液も同時に添加して、酵素反応を行わせたり、酵素やその他酵素反応に必要な物質を核酸溶出液に予め添加し、固相からの核酸溶出時に阻害物質の処理を行う方法も有効である。また、添加する酵素は一種類に限らず、数種類の酵素を同時に添加して、酵素処理を行うこともできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質の影響を除去し、核酸検査の精度や信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、試料からの核酸精製と増幅検出を行う核酸分析方法において、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質に反応し、より増幅阻害の少ない物質に変換する酵素で核酸精製液を処理して、核酸増幅反応を行うことを特徴とする核酸分析方法に関する。
【0013】
本発明はまた、試料からの核酸精製と増幅検出を行う核酸分析装置であって、試料から核酸を精製する手段と、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質に反応し、より増幅阻害の少ない物質に変換する酵素で核酸精製液を処理する手段と、核酸増幅反応を行う手段と、増幅された核酸を検出する手段とを有することを特徴とする核酸分析装置に関する。
【0014】
前記増幅阻害物質としては、抗凝固剤として採血管に封入されているヘパリン、タンパク可溶化剤として用いられるグアニジン、Triton X-100などの界面活性剤、夾雑物の洗浄のために用いられるアルコール類などを挙げることができる。
【0015】
本発明の実施例では、特に前記増幅阻害物質としてアルコール(エタノール)を分解除去する方法と装置について、その具体例を示す。アルコールの分解除去には、アルコール分解酵素と補酵素NADを用いることができるが、アルコール分解酵素では十分な効果が得られない場合には、アルデヒド分解酵素も併せて用いることが好ましい。このほか、前記酵素反応を最適条件で行なうために、Tris、MES等のpH調整剤や酵素反応に必要な物質を適宜用いてもよい。
【0016】
核酸の精製はガラスフィルターやシリカビーズ等の核酸捕捉担体を用いた固相吸着により行なうことができる。酵素による増幅阻害物質の処理は、前記固相(核酸捕捉担体)からの核酸の溶出後に前記酵素を導入して行うか、あるいは核酸溶出液に前記酵素を予め添加しておいて、前記固相からの核酸溶出時に行うことができる。
【0017】
固相吸着を利用した試料からの核酸抽出や精製は、常法に従い、遠心操作を利用して実施できるが、圧力差を利用した吸引・吐出によりシリンジ等に固定した核酸捕捉抗体に試料を通液する吸引吐出方式により実施してもよい。
【0018】
本発明はまた、本発明の方法や装置に使用するための核酸分析用試薬キットも提供する。前記キットは、グアニジン等の膜タンパク質溶解剤を含む核酸抽出試薬(例えば、カオトロピックイオン、界面活性剤)、核酸捕捉担体の洗浄や該担体からの核酸溶出液を含む核酸精製試薬(例えば、アルコール)、DNAポリメラーゼや基質ヌクレオチド、DMSO等の変性試薬を含む核酸増幅試薬(例えば、増幅酵素や基質)、およびアルコール分解酵素と補酵素あるいはアルコール分解酵素とアルデヒド分解酵素と補酵素を含む増幅阻害物質分解試薬を含む。キットには、上記の構成要素に加えて、適宜本発明の核酸分析方法にしたがって、核酸分析を行うための手順を記載した説明書等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
まず、一体型カートリッジと核酸分析装置を使用し、血液を試料として被験者のC型肝炎ウィルス感染有無を検査する核酸検査において、核酸増幅阻害物質として混入しうるエタノールを除去する場合の実施例を以下に示す。
【0021】
この検査は、(1)被験者の血液をカートリッジに導入し、(2)ウィルスの膜タンパクを溶解して核酸を遊離させ、(3)核酸をカートリッジの核酸捕捉担体に吸着させ、(4)核酸捕捉担体の夾雑物を洗浄し、(5)精製された核酸捕捉担体上の核酸を溶出し、(6)アルコール分解酵素により溶出液中のエタノールを処理し、(7)溶出した核酸を増幅し、(8)増幅の有無により感染有無を判定する工程を含む。
【0022】
(1) 被験者の血液を導入する方法としては次の2つの方法が利用可能である。
A. 市販の採血管と採血針を用い被験者から採血し、メカニカルピペットやシリンジ等を用いてカートリッジの試料容器に分注する方法。この時に用いる採血管の抗凝固剤は、ヘパリンなどの増幅阻害を起こす物質を用いることは望ましくなく、EDTA・2Kなどの抗凝固剤が望ましい。
B. 採血機能を持つ一体型カートリッジにより被験者から採血する方法。ここで用いられる一体型カートリッジの試料注入部は減圧状態に保たれており、採血針のアダプタと接続可能なシリコンキャップを持つ。被験者の静脈に刺した採血針とこの一体型カートリッジを連結することにより、被験者の血液を直接カートリッジに導入することができる。
【0023】
(2) ウィルスの核酸を遊離させるために、血液試料と試薬R1を混合し、一定時間反応させる。試薬の組成を表1に示す。ウィルスの膜タンパクは試薬R1により溶解し、ウィルスの核酸が混合液中に遊離されることになる。
【0024】
【表1】

【0025】
(3) 核酸をカートリッジの核酸捕捉担体に吸着させるために、(2)の混合液を核酸捕捉担体に通液する。核酸捕捉担体は核酸を吸着する部材であり、ここではガラスフィルタを一体型カートリッジに封入して使用したが、石英やガラスの多孔質材や繊維フィルタ等の核酸を吸着する性質を持った物質で代替することも可能である。
【0026】
(4) 核酸捕捉担体に捕捉された核酸以外の夾雑物を洗浄するために、試薬R2、試薬R3を核酸捕捉担体に通液する。
【0027】
(5) 以上の操作により核酸捕捉担体上で精製された核酸を溶出するために試薬R5を核酸捕捉担体に通液する。この時の試薬R5には核酸増幅用のプライマと蛍光標識オリゴが添加されている。精製した核酸を増幅する方法として、ここではNASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法を適用した。NASBA法は恒温条件下で核酸を増幅し、増幅した核酸に相補的な配列を持つ蛍光標識オリゴにより増幅した核酸を検出する方法である。ここで用いるプライマおよび蛍光標識オリゴの配列を以下に示す。
【0028】
Forward primer: 5’-aat tct aat acg act cac tat agg gag aag gag cac cct atc agg cag tac c-3’(配列番号1)
Reverse primer: 5’-cta gcc atg gcg tta gta tg-3’(配列番号2)
蛍光標識オリゴ: 5’-FAM-gca cgc agt agt gtt ggg tcg cga aag ggc gtg c-BHQ1-3’ (配列番号3)
蛍光標識オリゴ: 5’-ROX-cga cgt ggg aaa tct cgt gta gta tgg gac gtc g- BHQ2-3’ (配列番号4)
* FAMTM: 蛍光色素
* ROXTM: 蛍光色素
* BHQ (Black Hole Quencher): 消光体
【0029】
(6) 得られた核酸抽出液にアルコール分解酵素(Alcohol Dehydrogenase , Yeast;コスモ・バイオ# 02400504)と補酵素NADを添加し、R5に混入したR3中のエタノールを分解する。この反応は室温で行えるが、反応時間短縮のために加温しても良い。
【0030】
(7) NASBA法により、得られた核酸を増幅する。NASBA法用の試薬キット(Basic Kit、日本ビオメリュー社)は、ヌクレオチドやバッファ類が含まれる増幅試薬と、増幅のための酵素で構成されている。増幅試薬には、分析用のインターナルコントロールを添加することが望ましい。インターナルコントロールとは、プライマ領域を肝炎ウィルスと共通の配列とし、蛍光標識オリゴの結合する領域を肝炎ウィルスとは異なる配列となるようデザインしたRNAである。
【0031】
核酸が増幅すれば蛍光色素が増幅した核酸に結合し、蛍光を発するようになる。蛍光を検出し、蛍光強度の増大が観察されれば核酸が増幅したものと判定される。ここでは蛍光標識オリゴを2種類用意し、1種類は肝炎ウィルスの増幅領域の配列に相補的になるような配列、もう1種類はインターナルコントロールに相補的な配列となるようにする。肝炎ウィルスと相補的な配列を持つオリゴはFAMTMで修飾し、インターナルコントロールに相補的な配列を持つオリゴをROXTMで修飾した。つまり、ここでROXTMの蛍光強度の増大が観察されれば、一体型カートリッジによる核酸分析が正常に終了したことが確認できることになる。FAMTMの蛍光色素は検体の核酸有無の指標となる。
(8) 以上の操作により核酸の増幅が検出された被験者は肝炎ウィルスに感染しているものと判定され、増幅がみられなかった被験者は感染無しと判定されることになる。
【0032】
以上の測定を、一体型カートリッジを用いて行う時の操作を、図面を用いて以下に詳述する。
【0033】
図1は一体型カートリッジ13を用いる核酸分析装置11の全体構成図であり、Aが上面図、Bが装置断面図である。核酸分析装置11は、モーター17により回転可能に支持されたターンテーブル14と、ターンテーブル上に最大6個まで設置された一体型カートリッジ13と、液体の流動を制御するための穿孔機15と、温度調整および蛍光検出装置16を備えている。ターンテーブルには、光学検出用の検出窓18が備わっており、カートリッジの認識および光学検出の位置決め装置を兼ねる。
【0034】
図2は一体型カートリッジ13の構成図である。カートリッジは試料容器20と試薬容器21・22・23・24・32・35、反応容器34、核酸捕捉担体25、流路26・29・30・その他黒線、廃液保持部27、蛍光検出部28、血漿分離容器33、ネジ穴40から構成されている。
【0035】
この図2はカートリッジ上部からの位置関係を模式的に示した図であり、カートリッジ上部は成型するために開口している。カートリッジは樹脂加工品であり、その材料は蛍光検出のために自家蛍光の少ない透明樹脂であることが望ましいが、蛍光検出部とそれ以外のカートリッジが別材料で成型されていてもよい。このカートリッジ上部にフィルムを貼付することで試薬容器は密閉され、また通液のための流路が形成される。フィルムはカートリッジと同材料であれば溶着するのが望ましいが、シール状のフィルムを貼付しても良い。
【0036】
それぞれの容器に注入される試薬は次の通りである。
試料容器20:被験者の血液
試薬容器21:試薬R5(核酸溶出液)・NASBA増幅用プライマ
試薬容器22:試薬R3(第二洗浄液)
試薬容器23:試薬R2(第一洗浄液)
試薬容器24:NASBA増幅用酵素
試薬容器32:試薬R1(膜溶解試薬)
試薬容器35:アルコール分解酵素・補酵素NAD・pH調整バッファ
【0037】
試薬は上面フィルムを貼付する前にそれぞれの試薬容器に分注され、上面フィルムによりシールされる。また、採血管にて採取された試料は、上面フィルム貼付後に試料容器20上のフィルムに穿孔し、メカニカルピペット等で分注する。分注後は遠心による通液制御のために、注入口をシールしなければならない。また試料容器20を減圧し、被験者の静脈から直接試料を注入する場合は、シリコンゴムが溶着され、気密を保っている試料注入口1に穿刺することにより被験者と連結させ、試料を注入することになる。
【0038】
このようにして準備した遠心カートリッジを、核酸分析装置中のターンテーブル上に固定する。固定は遠心カートリッジのネジ穴40とターンテーブルを皿ネジ等で固定することによる。
【0039】
核酸分析装置では、初めに穿孔機15にて試料容器20上の上面フィルムに空気孔を開け、モーターによりターンテーブルを回転させる。遠心力により試料容器20にあった血液はその下流の血漿分離容器33に移動する。更に遠心操作を行うことにより、血漿分離容器中で血液は血球と血漿に分離される。なお、この操作や以後の遠心操作において、フィルムに空気孔のない試薬容器中の溶液が試薬容器から流出することはない。詳細は特開2004-212050号公報を参照されたい。
【0040】
所定の時間回転させ血漿分離動作が終了するとカートリッジは停止し、血漿分離容器中の血漿の一部は流路29内部に表面張力により毛細管流動し、流路を満たす。
【0041】
次に膜溶解試薬R1を保持している試薬容器32上に穿孔機で孔を開ける。カートリッジを回転させると遠心力により試薬R1は反応容器34に移動するが、この時に流路29と血漿分離容器33上部に溜まっていた血漿も同時に移動することになる。
【0042】
反応容器34への血漿とR1の混合液は、所定時間後に核酸捕捉担体25上に通液、核酸捕捉担体に核酸を吸着させる。通液後の不要となった混合液は、検出容器(蛍光検出部)28を通って廃液保持部27に移動し、一連の核酸検査終了まで廃液保持部27中に保持される。
【0043】
次に、洗浄液R2が保持されている試薬容器23上の上面フィルムを穿孔機にて穿孔し、遠心操作を行う。これにより洗浄液R2は核酸捕捉担体25上を通過し、核酸捕捉担体上の夾雑物を洗い流す。通液後の不要となった洗浄液は、混合液と同様に検出容器28を通って廃液保持部27に移動し、保持される。
【0044】
同様の操作を洗浄液R3でも行う。洗浄液R3が保持されている試薬容器22上の上面フィルムを穿孔機にて穿孔し、遠心操作を行う。これにより洗浄液R3は核酸捕捉担体25上を通過することになり、核酸捕捉担体上の夾雑物を洗い流す。通液後の洗浄液は廃液保持部に移動する。
【0045】
続いて、試薬容器21上を穿孔し、核酸溶出液R5を核酸捕捉担体25上に通液させる。溶出液R5とその後に追加する酵素や増幅試薬の総液量は、検出容器28の容積と同等であるため、折り返し流路30から流出することはない。よって、核酸溶出液R5は核酸捕捉担体に捕捉されていた核酸を溶出しながら検出容器に移動し、容器内に留まる。
【0046】
ここで得られた溶出液には、直前の洗浄工程で使用され、核酸捕捉担体25上に残ったR3が多く含まれている。このR3には核酸増幅を阻害するエタノールが多く含まれているため、この溶出液で次工程の増幅を行うことはできない。溶出液中のエタノールを分解させるために、試薬容器35を穿孔し、アルコール分解酵素と補酵素であるNADを検出容器内に導入する。試薬容器35内の溶液には他に、pHを制御するためのバッファ類が含まれている。
【0047】
アルコール分解酵素によるエタノールの分解を室温で行った後、核酸の増幅反応を行う。まず、核酸とプライマのアニーリングの為に、温調および検出装置16により検出容器を65℃に温調する。所定時間後、41℃まで冷却し、増幅用の酵素を試薬容器24から検出容器28に移動させるため、試薬容器24上を穿孔する。次の遠心操作で増幅酵素は検出容器28に移動する。その後、核酸分析装置の温調および検出装置16により41℃の増幅温度に保たれた検出容器内で核酸増幅反応が起きる。温調および検出装置16は検出容器内の傾向強度をモニタリングする。
【0048】
以上の操作により得られる結果の一例が図3である。図3のグラフはカートリッジによる核酸増幅反応時の蛍光強度の時間変化を表している。縦軸が蛍光強度、横軸が時間であり、1つのグラフは1つのカートリッジの結果を示している。1つのカートリッジ内では試料とインターナルコントロールの核酸増幅反応が行われており、太線が試料である検体の核酸増幅結果、細線がインターナルコントロールの結果である。
【0049】
図3の左列、カートリッジ#1〜#3では工程(6)におけるアルコール分解酵素の添加を行わず、図3の右列、カートリッジ#4〜#6にはアルコール分解酵素を添加した時の蛍光強度の変化を示している。この結果によると、カートリッジ#1と#3ではインターナルコントロールの増幅も見られず、エタノールの混入により増幅が阻害されたことがわかる。エタノールを分解したカートリッジ#2・#4〜#6ではインターナルコントロールは正常に増幅されており、この検査結果の信頼性を保証している。そしてこの結果から、カートリッジ#2および#5にアプライされた検体は肝炎ウィルス陰性であり、カートリッジ#4・#6の検体は陽性であることがわかる。
【0050】
なお、この実施例では遠心分離により核酸を抽出精製する方法を用いたが、核酸の抽出精製は、圧力差を利用した吸引吐出式抽出システム(WO2002/078846 核酸の回収器具および方法)を用いてもよい。
【0051】
[実施例2]
実施例1では核酸捕捉担体からR5で核酸の溶出を行い、その後アルコール分解酵素を導入してエタノールの分解を行い、増幅反応に供した。しかしこの方法ではアルコール分解酵素を添加するため工程増となる。工程数を減らすため、ここでは溶出液にアルコール分解酵素を予め混合しておき、溶出の工程内でアルコールの分解を行う方法を示す。この方法により、カートリッジ準備および核酸抽出工程の簡略化・および時間短縮が図られる。
【0052】
実施例1と同様の一体型カートリッジ13を用いるが、カートリッジには以下のように試薬を分注する。
試料容器20:被験者の血液
試薬容器21:試薬R5(核酸溶出液)・NASBA増幅用プライマ・アルコール分解酵素、補酵素、pH調整用バッファ
試薬容器22:試薬R3(第二洗浄液)
試薬容器23:試薬R2(第一洗浄液)
試薬容器24:NASBA増幅用酵素
試薬容器32:R1(膜溶解試薬)
試薬容器35:使用せず
【0053】
試薬容器22・23・24・32に分注される試薬は実施例1と同様である。試薬容器35はここでは使用しないが、特別な処理を必要としない。試薬容器21の試薬は実施例1と異なり、R5に加えてアルコール分解酵素や補酵素であるNAD、酵素安定化のためのバッファなどが含まれている。
【0054】
一体型カートリッジを用いて核酸を精製するにあたって、(1)試料の注入から(4)核酸捕捉担体の洗浄までの工程は実施例1と同じように行われる。(5)の核酸捕捉担体から核酸を溶出するにあたっては、アルコール分解酵素の含まれた試薬容器21中の溶液を用いることになる。アルコール分解は室温で行われるため、特別な操作を必要としないが、試薬容器21中の混合液による溶出は低回転数の遠心条件下で比較的ゆっくり行った方が良い。エタノールの分解はこの溶出工程中にほぼ完了することになるが、溶出終了後に検出容器内でアルコールを分解させるため、室温または温調装置によって温められた状態で反応時間をおいても良い。
【0055】
実施例1にある、溶出工程以後の(6)アルコール分解酵素による反応の工程は不要となるが、以後の増幅工程および結果は実施例1と同様であるため記載を省略する。
【0056】
[実施例3]
実施例1および2において、アルコール分解酵素のみでは増幅阻害を妨げられない場合が考えられる。このような例においては、アルデヒド分解酵素を同時に添加することが有効な場合がある。アルデヒド分解酵素(アルデヒド脱水素酵素;コスモ・バイオ126925)を同時に添加した時の実施例を以下に記載する。
【0057】
実施例1と同様の一体型カートリッジ13を用いるが、それぞれの容器に注入される試薬は次の通りである。
試料容器20:被験者の血液
試薬容器21:試薬R5(核酸溶出液)・NASBA増幅用プライマ
試薬容器22:試薬R3(第二洗浄液)
試薬容器23:試薬R2(第一洗浄液)
試薬容器24:NASBA増幅用酵素
試薬容器32:試薬R1(膜溶解試薬)
試薬容器35:アルコール分解酵素・アルデヒド分解酵素・補酵素NAD・pH調整バッファ
【0058】
以上の試薬を注入した一体型カートリッジを準備し、実施例1と同様の操作を行う。
また、実施例2のように試薬容器35を使わない一体型カートリッジを用意して、実施例2と同様の操作を行うことも出来る。その場合の一体型カートリッジは以下のように準備する。
試料容器20:被験者の血液
試薬容器21:試薬R5(核酸溶出液)・NASBA増幅用プライマ・アルコール分解酵素・アルデヒド分解酵素
試薬容器22:試薬R3(第二洗浄液)
試薬容器23:試薬R2(第一洗浄液)
試薬容器24:NASBA増幅用酵素
試薬容器32:R1(膜溶解試薬)
試薬容器35:使用せず
【0059】
以上の試薬を注入した一体型カートリッジを準備し、実施例1と同様の操作を行う。これにより、エタノールの影響を除去して、精度の高い検出が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、例えば、核酸の精製と増幅検出を行う装置において、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質の影響を除去して、血液等の微量試料に含まれる核酸を高精度に検出することができる。よって、医療分野における遺伝子検査や研究分野における微量核酸分析に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、一体型カートリッジを用いる核酸分析装置の全体構成図(A:核酸分析装置の上面図、B:核酸分析装置の装置断面図)である。
【図2】図2は、一体型カートリッジの構成図である。
【図3】図3は、一体型カートリッジを用いた核酸検査結果を示す。
【符号の説明】
【0062】
核酸分析装置11,一体型カートリッジ13,ターンテーブル14,穿孔機15,温度調整および蛍光検出装置16,モーター17,光学検出用の検出窓18,試料容器20,試薬容器21・22・23・24・32・35,核酸捕捉担体25,流路26・29・30,廃液保持部27,蛍光検出部(検出容器)28,血漿分離容器33,反応容器34,ネジ穴40
【配列表フリーテキスト】
【0063】
配列番号1−人工配列の説明:プライマ
配列番号2−人工配列の説明:プライマ
配列番号3−人工配列の説明:蛍光標識オリゴ
配列番号4−人工配列の説明:蛍光標識オリゴ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からの核酸精製と増幅検出を行う核酸分析方法において、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質に反応し、より増幅阻害の少ない物質に変換する酵素で核酸精製液を処理して、核酸増幅反応を行うことを特徴とする、核酸分析方法。
【請求項2】
前記増幅阻害物質がアルコールである、請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項3】
前記酵素として、アルコール分解酵素と補酵素、あるいはアルコール分解酵素とアルデヒド分解酵素と補酵素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項4】
前記核酸精製が核酸捕捉担体を用いた固相吸着によるものであり、前記固相からの核酸の溶出後に前記酵素を導入して核酸精製液の処理を行うか、あるいは核酸溶出液に前記酵素を予め添加して前記固相からの核酸溶出時に酵素精製液の処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項5】
試料からの核酸精製と増幅検出を行う核酸分析装置であって、試料から核酸を精製する手段と、試料中あるいは核酸精製試薬中に含まれる増幅阻害物質に反応し、より増幅阻害の少ない物質に変換する酵素で核酸精製液を処理する手段と、核酸増幅反応を行う手段と、増幅された核酸を検出する手段とを有することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項6】
前記増幅阻害物質がアルコールである、請求項5に記載の核酸分析装置。
【請求項7】
前記酵素として、アルコール分解酵素と補酵素、あるいはアルコール分解酵素とアルデヒド分解酵素と補酵素を含むことを特徴とする、請求項5に記載の核酸分析装置。
【請求項8】
前記核酸精製が核酸捕捉担体を用いた固相吸着によるものであり、前記固相からの核酸の溶出後に前記酵素を導入して核酸精製液の処理を行うか、あるいは核酸溶出液に前記酵素を予め添加して前記固相からの核酸溶出時に酵素精製液の処理を行うことを特徴とする、請求項5に記載の核酸分析装置。
【請求項9】
核酸抽出試薬、核酸精製試薬、核酸増幅試薬、およびアルコール分解酵素と補酵素あるいはアルコール分解酵素とアルデヒド分解酵素と補酵素を含む増幅阻害物質分解試薬を含むことを特徴とする、核酸分析用試薬キット。
【請求項10】
前記核酸抽出試薬がカオトロピックイオンと界面活性剤を含み、前記核酸精製試薬がアルコールを含み、前記核酸増幅試薬が増幅酵素と基質を含むことを特徴とする、請求項9記載の核酸分析試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−325568(P2007−325568A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161389(P2006−161389)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】