増強された抗菌PDT
本発明は、血液、血清およびその他の体液のような複合環境中の病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞のような望ましくない体液種(body fluid species)を除去する、減少させる、破壊するおよび/または阻害するための増強された方法および改良された装置を提供する。好適な実施形態では、本発明は、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌の両方を効果的に不活性化する、減少させるおよび/または破壊する抗菌PDT治療および装置を提供する。好適な装置の実施形態は、別々にまたは順番に並べられた誘導流路と少なくとも1つの電磁放射線源とを含む。好ましくは、レーザ装置またはLEDパネルを用いて電磁放射線を照射して、光増感剤を活性化する。電磁放射線を治療パラメータに基づくパルス幅で、断続的に照射することが好ましい。サフラニンOに基づく好適な光増感剤組成物とともに使用する場合、好適なレーザ照射波長は500〜580nmの範囲にある。さらに本発明は、有害な宿主炎症性応答の原因となる病原微生物断片の生物学的活性を中和すること、ならびにそのような病原微生物断片を減少させるおよび/または除去することにより、有害な宿主の炎症性応答を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願情報
本願では、2010年1月19日に出願された、Volker Albrecht、Gerhard Wieland、Burkhard GitterおよびWolfgang Neubergerの「Enhanced Anti−Microbial PDT」と題する米国特許仮出願第61/296,084号の利益および優先権を主張し、この出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ヒトおよび動物の感染症の原因となる病原微生物のような望ましくない体液種(body fluid species)を除去する、殺すまたは阻害することを目的とした新規な治療法の分野に関する。より具体的には、本発明は、全血、血清ならびにその他のヒトおよび動物の体液のような複合環境中の細菌などの望ましくない体液種(body fluid species)を除去または破壊することができる、増強された光線力学療法に関する。
【背景技術】
【0003】
光線力学療法(PDT)は、光増感剤またはPDT剤と呼ばれる外部の化学物質の光による活性化を利用した癌およびその他の疾患の有望な治療法として現れた。光増感剤を全身または局所に投与する。投与から一定期間後に、光増感剤は、健常細胞での濃度に比べて、治療するべき組織に優先的に保持された状態となる。次いで、治療部位に特定波長の光を照射する。PDT剤は光を吸収して励起状態になり、局所の酸素と反応して活性酸素種を発生させ、この活性酸素種が高濃度の光増感剤を保持している細胞を破壊することができるが、このとき周囲の健常細胞へのダメージは最小限に抑えられる。さらに、PDTには二重選択性という利点があり、これは目的とする細胞または組織に対して光増感剤を標的化することができることに加え、目的病変部位を空間的に直接狙って照射を行うこともできるということである。
【0004】
PDTは、癌に対するその選択性および有効性という点で効果的な治療法であることが示されていることに加え、すべてではないが多くの病原菌により引き起こされる感染症の治療に有効であることも示されている。さらに近年、抗生物質の頻繁な投与に対して耐性をもちつつある細菌株に関する報告が数多く見られることから、PDTは従来の抗菌法に代わる魅力的な方法であると思われる。
【0005】
PDTが有望な治療法としての可能性を秘めているにもかかわらず、様々な体液におけるその抗菌効果に関して解決すべき問題点がまだいくつかある。抗菌PDTは水溶液環境中では十分に作用することが示されているが、血液中ではその有効性が低下する。さらに、複合培地(例えば、全血、血漿、血清)中の細菌細胞は、光増感剤の活性を低下させるアルブミンのような血液成分のブロッキング作用により、通常の光増感剤に対する感受性が低いということがわかっている。血清中に存在するアルブミンが、通常の光増感剤に付着することにより細菌と競合し、アルブミンの血清中濃度の方が高いと、不釣合いな量の光増感剤を捕捉して、通常のPDT治療を無効にすると推測される。半分の血清中濃度で十分な殺菌率が得られる光増感剤もあるが、血清で完全に満たされた環境中で細菌を効果的に殺す取り組みでは通常、満足のゆく結果が得られない。したがって、血清成分と通常の光増感剤化合物との間の競合作用に対処することができる方法は、PDT治療の増強に有利であろう。
【0006】
さらに、既知の光増感剤およびそのコンジュゲートはいずれも、活性が光増感剤の化学構造にいくらか左右されるのが現状であり、すべての細菌に対して有効であるというわけではない。さらにグラム(−)細菌細胞は、二重層の外膜により保護され多くの抗菌療法に対して耐性であるため、一般に不活性化するのが最も困難である。
【0007】
血清のような複合培地中のグラム(+)およびグラム(−)細菌を含めた細菌を効果的に破壊する試みとして、450〜600nmで吸収する赤色色素のサフラニンOおよび電磁放射線を用いた方法および組成物が国際公開第2005/021094号および米国特許出願公開第2005/0049228号で開示されている。ここでは、複合体培地中で、グラム(+)細菌では非常に良好な殺菌作用が、また一部のグラム(−)細菌で十分な殺菌作用が得られるということが述べられているが、先行技術で得られるものより効果的な破壊および殺菌作用を複合培地中で得ることが望まれる。
【0008】
また、PDT療法で広域スペクトルの抗菌活性を得ることを目的として、国際公開第2006/093891A2号には、機能化フラーレン分子に基づいた、抗菌療法および光増感剤化合物を得るための方法が開示されている。この方法には、投与したフラーレン種に光を当てて細胞傷害種を生成させ、微生物細胞を殺すことが含まれる。この発明は、グラム(−)およびグラム(+)細菌の両方の殺作用を扱っているが、PBSおよび血清においてのみ有効であることがわかっており、血清、ヒト血漿またはヒト血液で満たされた環境中でのフラーレン光増感剤化合物の有効性については言及されていない。これらの複合的な体液には、光増感剤と結合しやすいタンパク質が含まれているため、細菌と結合するために利用される有効濃度が減少する。
【0009】
したがって、実際の患者治療環境に一般的に存在する飽和血清、全血およびその他の複合的な体液中で、耐性の強いグラム(−)細菌細胞を含めた感染症の原因となる多種多様な微生物を殺す、破壊するまたは不活性化することを目的とした、先行技術の抗菌PDT治療の有効性を増強する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、望ましくない体液種(body fluid species)、例えば悪化したもしくは悪性の細胞および/または感染症の原因となる病原微生物などを効果的に減少させる、除去する、破壊するおよび/または不活性化するための方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、望ましくない体液種(body fluid species)、例えば悪化したもしくは悪性の細胞および/または感染症の原因となる病原微生物などの一部または全部を減少させる、除去する、破壊するおよび/または不活性化するための方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、グラム(−)およびグラム(+)細菌の両方を不活性化する、減少させるおよび/または破壊するための増強された抗菌PDT法を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、全血、血清およびその他の体液のような複合環境中の悪化したおよび/または悪性の細胞を除去する、不活性化する、減少させるおよび/または破壊するための増強された抗菌PDT法を提供することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、全血、血清およびその他の体液のような複合環境中の細菌を除去する、不活性化する、減少させるおよび/または破壊するための増強された抗菌PDT法を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、治療するべき体液に添加された光増感剤を逐次的に活性化して、望ましくない体液種(body fluid species)の一部または全部を減少させる、除去する、破壊するおよび/または不活性化するために、連続的または断続的な光照射により電磁放射線を放射することができる、改良されたPDT装置を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、宿主の炎症性応答、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度敗血症および敗血症性ショックなどを引き起こし得る病原微生物断片の生物学的活性を中和および/または不活性化するための、ならびにこのような病原微生物断片を減少させるおよび/または除去するための方法ならびに装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
簡潔に述べれば、本発明は、血液、血清およびその他の体液のような複合環境中の病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞のような望ましくない体液種(body fluid species)を除去する、減少させる、破壊するおよび/または阻害するための増強された方法および改良された装置を提供する。好適な実施形態では、本発明は、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌の両方を効果的に不活性化する、減少させるおよび/または破壊する抗菌PDT治療法および装置を提供する。好適な装置の実施形態は、別々にまたは順番に並べられた誘導流路と少なくとも1つの電磁放射線源とを含む。好ましくは、レーザ装置またはLEDパネルを用いて電磁放射線を照射して、光増感剤を活性化する。電磁放射線を治療パラメータに基づくパルス幅で断続的に照射することが好ましい。サフラニン0に基づく好適な光増感剤組成物とともに使用する場合、好適なレーザ照射波長は500〜580nmの範囲にある。さらに本発明では、有害な宿主炎症性応答の原因となる病原微生物断片の生物学的活性を中和すること、ならびにこのような病原微生物断片を減少させるおよび/または除去することにより、有害な宿主炎症性応答を低減する。
【0018】
本発明の上記およびその他の目的、特徴ならびに利点は、添付図面と併せて以下の説明を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を表す図であり、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような細菌に対する殺菌作用を増強するための抗菌PDT装置を示している。
【図2】本発明の別の実施形態を表す図であり、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような微生物に対して抗菌PDTを行うための装置を示している。
【図3A】好適な一実施形態を表す図であり、複合的な体液中の望ましくない体液種(body fluid species)の一部または全部を除去することを目的とするPDT療法を行うためのレーザ装置を示している。
【図3B】別の好適な実施形態を表す図であり、複合的な体液中の望ましくない体液種(body fluid species)の一部または全部を除去することを目的とするPDT療法を行うためのLEDパネル装置を示している。
【図4A】好適な一実施形態を表す図であり、連続血漿ろ過吸着療法と組み合わせた、増強された抗菌PDT治療のための装置を示しいている。
【図4B】光増感剤送達システムを有し、連続血漿ろ過吸着療法と組み合わせた、増強された抗菌PDT治療のための装置の別の好適な一実施形態を表す図である。
【図5】好適な一実施形態を表す図であり、静脈−静脈血液透析システムと組み合わせた、増強された抗菌PDT治療のための装置を示している。
【図6A】大容量血液ろ過と抗菌PDT装置とを組み合わせた好適な実施形態を表す図である。
【図6B】大容量血液ろ過と、抗菌PDT装置と、光増感剤送達システムとを組み合わせた別の好適な実施形態を表す図である。
【図7】断続的なレーザ放射線を適用した場合の細菌における耐性グラム(−)二重層および照射効果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、有害な細菌、病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞に対して効果的に照射を行うことにより、抗菌PDT療法を改良し、PDTによる望ましくない体液種(body fluid species)の除去、還元および/または不活性化を増強するための装置および方法を提供する。本発明により提供される装置および方法は、血清、全血およびその他の複合的な体液中の微生物を効果的に殺す、減少させるおよび/または破壊することができるため、先行技術の抗菌PDT療法を増強する。「複合的な体液」は、全血、血清、血液製剤、唾液、血清、リンパ液、羊水、房水、尿、脳脊髄液およびその他の既知の体液を非限定的に包含する。「血液製剤」は、ヒト新鮮凍結血漿、血小板濃縮液、赤血球(RBC)、血液凝固因子(V、VII、IX、XおよびXIII)などを含む。
【0021】
さらに、殺す、減少させるおよび/または破壊することができる微生物としては、ウイルスならびに耐性グラム(−)およびグラム(+)細菌が挙げられる。さらに、本発明は増強された抗菌PDT治療として有効であるため、患者の死亡率および罹患率の主因である敗血症を治療するのに有利な治療法を提供する。敗血症は病原微生物断片により引き起こされる血液感染の拡張を特徴とするため、現在達成されていないより効果的な治療法が本発明により提供される。
【0022】
希釈したもしくは未希釈の血清、または血液もしくは血液化合物を含有する溶液のような複合的な体液中の望ましくない体液種(body fluid species)を効果的に殺す、減少させるおよび/または破壊するために、好適な実施形態は、複合的な体液のための少なくとも1つの流路と、少なくとも1つの電磁放射線源とを含む、増強された光線力学療法のための装置からなる。好ましくは、複合的な体液が流れる流路の一部は円筒状またはらせん状であり、上記流路の1つ以上の区画が、電磁放射線の一部または全部を透過させる材料でできている。好ましくは、電磁放射線源は、レーザ放射線源、発光ダイオード源、ランプ放射線源およびこれらの組合せからなる群より選択される、干渉性または非干渉性の放射線源であり得る。光線力学療法に使用されるためには、電磁放射線源は、外部から投与された少なくとも1つの光増感剤、光増感剤組成物または光増感剤前駆体を活性化するかまたはこれらに吸収される波長を有する、少なくとも1つの電磁放射線を放射する。電磁放射線は、事前に選択されたパターンでレーザまたはLED源により断続的に放射されることが好ましい。照射時には、望ましくない体液種(body fluid species)が破壊され、照射間の中断時には、望ましくない体液種(body fluid species)とその付近での新たな平衡状態の確立および光増感剤の補充が可能となる。好適な実施形態では、少なくとも1つの電磁放射線源が、約500nm〜580nmの範囲から事前に選択された波長の電磁放射線を放射する。光増感剤が、サフラニンOとして知られる暗褐色を示す色素を含むことが好ましい場合、好適なレーザ照射波長は500〜580nmの範囲、好ましくは約530nm付近である。しかし、その他の光増感剤および光増感剤組成物の使用ではこれに限定されるわけではなく、好適な放射波長は選択される光増感剤の吸収スペクトルによって異なる。別の実施形態では、光ファイバ、光ファイバアレイ、円筒状の拡散チップを有する光ファイバおよびこれらの組合せからなる群より選択される導波管を用いて電磁放射線エネルギーを照射し得る。本発明はさらに、治療体液中に存在する余分なまたは活性化されていない光増感剤を、電磁放射線の照射パターンを調節することにより、電磁放射線を複数回照射することにより、光増感剤吸収体を使用することにより、または当該技術分野で公知の他の任意の手段により、除去または不活性化するための手段を提供する。内毒素、病原微生物断片、死細胞および病原微生物を、好ましくは、連続血漿ろ過吸着療法、連続静脈−静脈血液透析システム、大容量血液ろ過およびこれらの組合せからなる群より選択される体外血液精製技術と本発明の装置とを組み合わせることにより、効果的に除去、中和または不活性化するためのさらなる手段も本発明に含まれる。別の実施形態では、フィルタを用いて中和、不活性化および/または除去を行う。さらに、抗体、ペプチド、スカベンジャー受容体システインリッチスーパーファミリーのメンバーなどの投与を含めた、内毒素および病原微生物断片を中和および/または不活性化するために使用される当該技術分野で公知の他の方法および装置を使用し得る。内毒素および病原微生物断片を中和および/または不活性化した後、フィルタを用いてこれらを除去し得る。
【0023】
好適な一実施形態は、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような望ましくない体液種(body fluid species)を効果的に殺す、減少させるおよび/または破壊するための図1に示される装置100を含み、この装置は電磁放射線、好ましくはレーザ放射線を放射することが可能ならせん状流路102と円筒状ディフューザ104とを含む。円筒状ディフューザ104の軸は、らせん状流路102の内部軸を通過する。光増感剤または光増感剤前駆体の投与からの滞留時間後に、細菌に汚染されたヒト血漿のような汚染された培地106がらせん状流路102の中を流れ、その間に円筒状ディフューザ104が、選択された光増感剤の活性化波長に合わせた電磁放射線を放射する。レーザ放射線源、発光ダイオード源およびランプ放射線源(白熱ランプ、キセノンアークランプおよび金属ハロゲン化物ランプを含む)のような干渉性および非干渉性の放射線源を含めた、任意の電磁放射線源により光増感剤または光増感剤前駆体を活性化し得る。ランプ、および拡散チップを有するまたは有さない光ファイバのような導波管から、電磁放射線を照射し得る。この実施形態では、レーザ放射線が好ましく、必要に応じてディフューザまたはその他の装置、好ましくは円筒状の拡散チップを有する光ファイバを含む光ファイバ装置または光ファイバアレイを用いてレーザ放射線を照射し得る。抗菌PDT治療を増強するためには、らせん状流路102の中を汚染された培地106が流れる間、レーザ放射線を断続的に放射することが好ましい。
【0024】
別の好適な実施形態では、図2に示される装置200は、外部の円筒状流路202と、レーザ放射線を放射することが可能な円筒状ディフューザ204を含む内部流路208とを含む。最初に、感染した対象に光増感剤を投与し、滞留時間の後、汚染された培地206が内部流路208の周りを流れ、この間に円筒状ディフューザ204が、選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザ放射線を放射する。好ましくは、汚染された培地206が円筒状流路202の中を流れる間、レーザ放射線を断続的に放射する。外部の円筒状流路202、および円筒状ディフューザ204を含む内部流路208は、ガラス製であることが好ましいが、これに限定されるわけではない。外部の円筒状流路202は、直径が5〜50mmの間、好ましくは10〜15mmの間であり、長さが30〜300mmの範囲、好ましくは90〜110mmの間である。円筒状ディフューザ204を含む内部流路208は、内径が0.5〜5mmの間、好ましくは1.5〜2mmの間である。しかし、外部の円筒状流路202および内部流路208の正確な寸法は、外部の円筒状流路202の中を通過するときの汚染された培地206の所望の流動パラメータおよび抗菌PDT療法を行うときの所望の効果によって決まる。同様に、この実施形態により、効果的な抗菌作用、つまり複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような望ましくない体液種(body fluid species)を殺す、減少させるおよび/または破壊することが可能となる。
【0025】
別の好適な実施形態は、図3Aおよび3Bに図示される照射ユニット/装置300である。図3Aは多数の外部の円筒状流路302からなる実施形態を示すものであり、円筒状流路302は上の実施形態に例示したものと同様のものであり、汚染された培地306が全流路の中を順に流れることができるように互いに連結されている。円筒状流路302は、それぞれが外側の円筒状ディフューザ304と内部流路308とを有する。一連の外部の円筒状流路302は、冷却システムを備えた容器316の中に収納されている。光増感剤を含有する汚染された培地306が一連の外部の円筒状流路302の中を通過するとき、レーザ装置310が作動して、事前に選択されたパターンでレーザ放射線312を断続的に放射する。レーザ装置310と外部の円筒状流路302との間には、レーザ放射線312を各円筒状流路302に向けるビームスプリッタ314がある。図3Bは別の好適な実施形態を示すものであり、この実施形態では、LEDパネル318が放射線を放射して、一連の円筒状流路302の中を流れる汚染された培地306に添加された光増感剤を活性化する。LEDパネル318および一連の円筒状流路302は、冷却システムを備えた容器316の中に収納されている。
【0026】
感染により引き起こされる全身性炎症反応症候群である敗血症を効果的に治療するために、抗菌PDT治療増強のための上記装置を体外血液精製技術と組み合わせる。敗血症症候群は炎症促進性メディエータと抗炎症性メディエータの不均衡を反映するものであり、発病を引き起こすのはこれらの物質の異常なピークレベルであるということが提唱されている。重篤な状態では、敗血症は多臓器機能不全、低灌流、低血圧症へと進行し、最終的には死に至る。病原体としては、細菌、特に溶解時に内毒素を分泌するグラム陰性細菌が挙げられる。これはグラム陰性細胞壁に含まれるリポ多糖(LPS)に起因するものであり、リポ多糖が血流中に放出されると敗血症性ショックが誘発され、細胞、メディエータおよびサイトカインに関連した事象の複雑な炎症カスケードを誘発し得る。したがって、病原体破壊後に放出されるLPSおよび存在する病原性断片を中和または除去することが重要である。体外血液精製技術と抗菌PDT療法との優れた組み合わせにより、広域スペクトルの病原性分子の殺滅および除去と組み合わさった炎症性メディエータの効果的な除去による敗血症に対する強力な治療がもたらされる。図4〜6は、敗血症治療のための本発明の好適な実施形態を示している。図4Aは、上に記載した照射ユニット/装置300と組み合わせた連続血漿ろ過吸着療法の構成要素を示す。光増感剤を含有する汚染された培地406が血漿フィルタ420の中を流れる。血漿フィルタ420が全血424から血漿422を分離する。全血424は流れ続けて、静脈帰還流426になる。光増感剤を含有する汚染された血漿422は照射ユニット/装置300を通過し、そこでは選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線が事前に選択されたパターンで断続的に放射されて、すべてまたは一部の感染細菌が殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去される。次いで、治療済みの汚染された血漿が吸着体/フィルタ428を通過し、そこで異なる分子量の物質が捕捉される。吸着体/フィルタ428は、その設計によっては、死んだ細菌細胞、病原微生物断片、内毒素、余分なもしくは活性化されなかった光増感剤分子、または他の任意の望ましくない粒子を除去する。治療済みの血漿430は全血424に加わり、静脈帰還流426の構成要素となる。図4Bは別の好適な実施形態を示すものであり、ここでは、汚染された培地406が血漿フィルタ420を流れる。血漿フィルタ420が全血424から血漿422を分離する。全血424は流れ続けて、静脈帰還流426になる。汚染された血漿422は光増感剤送達システム432まで進み、そこで光増感剤または光増感剤前駆体が汚染された血漿422に加えられる。光増感剤を含有する汚染された血漿422は照射ユニット/装置300の中を流れ、そこでは選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線が事前に選択されたパターンで断続的に放射されて、すべてまたは一部の感染細菌が殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去される。次いで、治療済みの汚染された血漿が吸着体/フィルタ428の中を流れ、そこで異なる分子量の物質、例えば死んだ細菌細胞、病原微生物断片、内毒素、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などが捕捉される。治療済みの血漿430は全血424と一緒になり、静脈帰還流426の構成要素となる。
【0027】
図5に示される好適な実施形態では、抗菌PDT装置を連続静脈−静脈血液透析システムと組み合わせる。光増感剤を含有する汚染された培地506が、照射ユニット/装置300とフィルタ534とを含むシステムの中を流れる。装置300では、選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線および事前に選択されたパターンでの断続的な放射により、すべてまたは一部の感染細菌が殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去される。フィルタ534では、分子が半透膜を通過して拡散することにより異なる分子量の物質が除去され、また透析物536が、汚染された培地506と反対方向に流れる。フィルタ534は、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子を除去するための光増感剤吸着体と、内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物などを中和および/または除去するための区画とを有する。治療済みの培地は静脈帰還流526の構成要素となる。
【0028】
図6Aおよび6Bは、大容量血液ろ過と抗菌PDT装置とを組み合わせる好適な実施形態を示している。図6Aに図示されている実施形態は、光増感剤を含有する汚染された培地606が照射ユニット/装置300の中を流れ、そこでは選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線および事前に選択されたパターンでの断続的な放射により、すべてまたは一部の感染細菌が殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去されることを示している。抗菌PDT治療の後、治療済みの培地はフィルタ634の中を流れ、そこで水ならびに高分子量および低分子量の物質、例えば内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などのような廃棄物638が、正の静水圧により排出される。液量および電解質を補うために等張補液640が加えられる。抗菌PDT治療済みの培地および等張補液640は静脈帰還流626の構成要素となる。図6Bは、大容量血液ろ過と抗菌PDT装置と組み合わせた別の実施形態を示すものであり、この実施形態では、汚染された培地606が光増感剤送達システム632まで進み、そこでは汚染された培地606に光増感剤または光増感剤前駆体が加えられる。光増感剤を含有する培地606は照射ユニット/装置300の中を流れ、そこですべてまたは一部の感染細菌が、レーザまたはLED放射線により殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去される。放射線は選択された光増感剤の活性化波長に合わせられており、事前に選択されたパターンで断続的に放射される。抗菌PDT治療の後、治療済み培地はフィルタ634の中を流れ、そこでは廃棄物638、例えば内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などが、正の静水圧により排出される。液量および電解質を補うために等張補液640が加えられる。抗菌PDT治療済みの培地および等張補液640は静脈帰還流626の構成要素となる。
【0029】
好適な実施形態では、複合的な体液中の病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞のような望ましくない体液種(body fluid species)を殺す、減少させるおよび/または破壊することを目的としてPDT作用を増強する方法は、以下の段階を含む:
1)光増感剤または光増感剤の組成物もしくは前駆体と、治療する複合的な体液または前述複合的な体液の抽出物とを混合する段階;
2)滞留時間後に、選択された光増感剤の活性化波長に合わせた電磁放射線を、光増感剤と混合した汚染された複合的な体液に放射する段階;
3)内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などを除去、中和または不活性化する段階;および
4)治療済みの複合的な体液を、必要に応じて対応する身体部位に戻す段階。
【0030】
光増感剤、光増感剤組成物または光増感剤前駆体を、治療する複合的な体液と、生存生物体内で、例えば光増感剤の静脈内投与により混合してもよく、また前述生存生物体の外で、例えば無菌コンテナバッグバッグ中で混合してもよい。好ましくは、光増感剤と混合した複合的な体液を治療する、および/または上記の装置実施形態に図示されている特定の流路の中で混合する。
【0031】
治療済みの複合的な体液を患者の対応する身体に戻す前に、すべてまたは一部の光増感剤を除去または不活性化しておくべきである。治療済み血液中に存在する余分なまたは活性化されなかった光増感剤の除去または不活性化を、電磁放射線の照射パターンを調節することにより、電磁放射線を何度も照射することにより、光増感剤吸収体を使用することにより、または他の任意の手段により行い得る。
【0032】
段階3で述べられているように、内毒素(例えば、LPS)、病原微生物断片および死細胞を中和、不活性化および/または除去するために数多くの方法を用い得る。好ましくは、中和、不活性化および/または除去をフィルタを利用して行う。さらに、抗体、ペプチド、スカベンジャー受容体システインリッチスーパーファミリーのメンバーなどの投与を含めた、内毒素および病原微生物断片を中和および/または不活性化するために使用される当該技術分野で公知の他の方法を用いてもよい。内毒素および病原微生物断片を中和および/または不活性化した後に、フィルタを用いてこれらを除去してもよい。いずれの場合も、内毒素および病原断片が生存生物の血流に達した場合に進行し得る炎症過程を低減するために、こうした内毒素および病原断片を中和または不活性化する併用療法を用いることが目的である。
【0033】
別の好適な実施形態では、複合的な体液中の病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞のような望ましくない体液種(body fluid species)を殺す、減少させるおよび/または破壊することを目的としてPDT作用を増強する方法は、以下の段階を含む:
1)生存生物体から汚染された体液を採取し、上記の装置実施形態で図示されている特定の管内を進ませる段階;
2)光増感剤または光増感剤の組成物もしくは前駆体を、体液のような汚染された培地または前述体液の抽出物に投与する段階;
3)汚染された培地が管内を流れる間に、選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線を事前に選択されたパターンで断続的に放射する段階;
4)治療済み培地を対応する身体部位に戻す段階。
【0034】
別の好適な実施形態では、上記方法は、それらがグラム(−)およびグラム(+)細菌のような微生物を殺す、減少させるおよび/または破壊する能力により、抗菌PDT作用を増強する。
【0035】
照射時には細菌が破壊され、照射間の中断時には、細菌表面とその付近での新たな平衡状態の確立および光増感剤の補充が可能となる。
【0036】
好適な実施形態では、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような微生物に対する抗菌PDT作用を増強する方法は、断続的な放射線照射を含む。パルス幅は、PDT治療に影響する様々なパラメータ、例えば汚染度、細菌に汚染された液体の流れ、光増感剤の投与量、ならびに出力、エネルギーおよび時間を含めたその他の電磁放射線パラメータなどによって決まる。適当な波長のレーザ放射線704により、グラム(−)細菌二重層膜744とその付近の光増感剤分子742を一重項状態まで励起する。この励起した一重項状態からエネルギーが低下して三重項状態になり、次いでこれが酸素を必要とする2つの既知の光過程により反応する。これによりラジカルイオンが生成され、次いでこれが酸素と反応して細胞傷害種を生成し得るか、または励起状態の一重項酸素746が生成されて、これがグラム(−)細菌二重層膜744を通って拡散し、生物学的分子を酸化して細胞傷害を生じる。アルブミンのような血清タンパク質分子748により捕捉された一部の光増感剤分子742は、アルブミン部位の酸素分子が相対的に不足しているため、大部分が退色したままである。したがって、続く照射の前のオフ時間の間に、グラム(−)細菌二重層膜744とその付近で、血清タンパク質分子748により捕捉された光増感剤分子742が放出されて新たな平衡状態が確立され、光増感剤が補充される。多数のサイクルの照射を行って、複合的な体液中の細菌でも効果的に殺す、破壊するおよび/または不活性化することができる。
【0037】
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、それにより本発明が限定されわけではない。
【実施例】
【0038】
実施例1:
別々の試験において、創傷の細菌叢の一般的な構成要素である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(グラム(+)菌)を含有する仔ウシ血清(100%の血清)溶液に、サフラニンOを含む組成物を加えて、サフラニンOの最終濃度を99%仔ウシ血清中20μMとした。図3Bに対応する流動システムにおいて、532nmで作動しているCeralas G2(Biolitec AG、Germany)レーザから30mW/cm2のフルエンス率で、光ファイバを介して放射線を照射した。この流動システム内で10ml/分の流速で3回通過させて連続的に照射した後、観察された殺菌のパーセンテージは約99.9%であった。
【0039】
本発明の好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明はこれらの詳細な実施形態に限定されないこと、また添付の特許請求の範囲で定められる本発明の範囲または精神を逸脱することなく、それらの実施形態に各種の変更および修正が当業者により施され得ることを理解するべきである。
【技術分野】
【0001】
関連出願情報
本願では、2010年1月19日に出願された、Volker Albrecht、Gerhard Wieland、Burkhard GitterおよびWolfgang Neubergerの「Enhanced Anti−Microbial PDT」と題する米国特許仮出願第61/296,084号の利益および優先権を主張し、この出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ヒトおよび動物の感染症の原因となる病原微生物のような望ましくない体液種(body fluid species)を除去する、殺すまたは阻害することを目的とした新規な治療法の分野に関する。より具体的には、本発明は、全血、血清ならびにその他のヒトおよび動物の体液のような複合環境中の細菌などの望ましくない体液種(body fluid species)を除去または破壊することができる、増強された光線力学療法に関する。
【背景技術】
【0003】
光線力学療法(PDT)は、光増感剤またはPDT剤と呼ばれる外部の化学物質の光による活性化を利用した癌およびその他の疾患の有望な治療法として現れた。光増感剤を全身または局所に投与する。投与から一定期間後に、光増感剤は、健常細胞での濃度に比べて、治療するべき組織に優先的に保持された状態となる。次いで、治療部位に特定波長の光を照射する。PDT剤は光を吸収して励起状態になり、局所の酸素と反応して活性酸素種を発生させ、この活性酸素種が高濃度の光増感剤を保持している細胞を破壊することができるが、このとき周囲の健常細胞へのダメージは最小限に抑えられる。さらに、PDTには二重選択性という利点があり、これは目的とする細胞または組織に対して光増感剤を標的化することができることに加え、目的病変部位を空間的に直接狙って照射を行うこともできるということである。
【0004】
PDTは、癌に対するその選択性および有効性という点で効果的な治療法であることが示されていることに加え、すべてではないが多くの病原菌により引き起こされる感染症の治療に有効であることも示されている。さらに近年、抗生物質の頻繁な投与に対して耐性をもちつつある細菌株に関する報告が数多く見られることから、PDTは従来の抗菌法に代わる魅力的な方法であると思われる。
【0005】
PDTが有望な治療法としての可能性を秘めているにもかかわらず、様々な体液におけるその抗菌効果に関して解決すべき問題点がまだいくつかある。抗菌PDTは水溶液環境中では十分に作用することが示されているが、血液中ではその有効性が低下する。さらに、複合培地(例えば、全血、血漿、血清)中の細菌細胞は、光増感剤の活性を低下させるアルブミンのような血液成分のブロッキング作用により、通常の光増感剤に対する感受性が低いということがわかっている。血清中に存在するアルブミンが、通常の光増感剤に付着することにより細菌と競合し、アルブミンの血清中濃度の方が高いと、不釣合いな量の光増感剤を捕捉して、通常のPDT治療を無効にすると推測される。半分の血清中濃度で十分な殺菌率が得られる光増感剤もあるが、血清で完全に満たされた環境中で細菌を効果的に殺す取り組みでは通常、満足のゆく結果が得られない。したがって、血清成分と通常の光増感剤化合物との間の競合作用に対処することができる方法は、PDT治療の増強に有利であろう。
【0006】
さらに、既知の光増感剤およびそのコンジュゲートはいずれも、活性が光増感剤の化学構造にいくらか左右されるのが現状であり、すべての細菌に対して有効であるというわけではない。さらにグラム(−)細菌細胞は、二重層の外膜により保護され多くの抗菌療法に対して耐性であるため、一般に不活性化するのが最も困難である。
【0007】
血清のような複合培地中のグラム(+)およびグラム(−)細菌を含めた細菌を効果的に破壊する試みとして、450〜600nmで吸収する赤色色素のサフラニンOおよび電磁放射線を用いた方法および組成物が国際公開第2005/021094号および米国特許出願公開第2005/0049228号で開示されている。ここでは、複合体培地中で、グラム(+)細菌では非常に良好な殺菌作用が、また一部のグラム(−)細菌で十分な殺菌作用が得られるということが述べられているが、先行技術で得られるものより効果的な破壊および殺菌作用を複合培地中で得ることが望まれる。
【0008】
また、PDT療法で広域スペクトルの抗菌活性を得ることを目的として、国際公開第2006/093891A2号には、機能化フラーレン分子に基づいた、抗菌療法および光増感剤化合物を得るための方法が開示されている。この方法には、投与したフラーレン種に光を当てて細胞傷害種を生成させ、微生物細胞を殺すことが含まれる。この発明は、グラム(−)およびグラム(+)細菌の両方の殺作用を扱っているが、PBSおよび血清においてのみ有効であることがわかっており、血清、ヒト血漿またはヒト血液で満たされた環境中でのフラーレン光増感剤化合物の有効性については言及されていない。これらの複合的な体液には、光増感剤と結合しやすいタンパク質が含まれているため、細菌と結合するために利用される有効濃度が減少する。
【0009】
したがって、実際の患者治療環境に一般的に存在する飽和血清、全血およびその他の複合的な体液中で、耐性の強いグラム(−)細菌細胞を含めた感染症の原因となる多種多様な微生物を殺す、破壊するまたは不活性化することを目的とした、先行技術の抗菌PDT治療の有効性を増強する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、望ましくない体液種(body fluid species)、例えば悪化したもしくは悪性の細胞および/または感染症の原因となる病原微生物などを効果的に減少させる、除去する、破壊するおよび/または不活性化するための方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、望ましくない体液種(body fluid species)、例えば悪化したもしくは悪性の細胞および/または感染症の原因となる病原微生物などの一部または全部を減少させる、除去する、破壊するおよび/または不活性化するための方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、グラム(−)およびグラム(+)細菌の両方を不活性化する、減少させるおよび/または破壊するための増強された抗菌PDT法を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、全血、血清およびその他の体液のような複合環境中の悪化したおよび/または悪性の細胞を除去する、不活性化する、減少させるおよび/または破壊するための増強された抗菌PDT法を提供することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、全血、血清およびその他の体液のような複合環境中の細菌を除去する、不活性化する、減少させるおよび/または破壊するための増強された抗菌PDT法を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、治療するべき体液に添加された光増感剤を逐次的に活性化して、望ましくない体液種(body fluid species)の一部または全部を減少させる、除去する、破壊するおよび/または不活性化するために、連続的または断続的な光照射により電磁放射線を放射することができる、改良されたPDT装置を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、宿主の炎症性応答、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度敗血症および敗血症性ショックなどを引き起こし得る病原微生物断片の生物学的活性を中和および/または不活性化するための、ならびにこのような病原微生物断片を減少させるおよび/または除去するための方法ならびに装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
簡潔に述べれば、本発明は、血液、血清およびその他の体液のような複合環境中の病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞のような望ましくない体液種(body fluid species)を除去する、減少させる、破壊するおよび/または阻害するための増強された方法および改良された装置を提供する。好適な実施形態では、本発明は、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌の両方を効果的に不活性化する、減少させるおよび/または破壊する抗菌PDT治療法および装置を提供する。好適な装置の実施形態は、別々にまたは順番に並べられた誘導流路と少なくとも1つの電磁放射線源とを含む。好ましくは、レーザ装置またはLEDパネルを用いて電磁放射線を照射して、光増感剤を活性化する。電磁放射線を治療パラメータに基づくパルス幅で断続的に照射することが好ましい。サフラニン0に基づく好適な光増感剤組成物とともに使用する場合、好適なレーザ照射波長は500〜580nmの範囲にある。さらに本発明では、有害な宿主炎症性応答の原因となる病原微生物断片の生物学的活性を中和すること、ならびにこのような病原微生物断片を減少させるおよび/または除去することにより、有害な宿主炎症性応答を低減する。
【0018】
本発明の上記およびその他の目的、特徴ならびに利点は、添付図面と併せて以下の説明を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を表す図であり、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような細菌に対する殺菌作用を増強するための抗菌PDT装置を示している。
【図2】本発明の別の実施形態を表す図であり、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような微生物に対して抗菌PDTを行うための装置を示している。
【図3A】好適な一実施形態を表す図であり、複合的な体液中の望ましくない体液種(body fluid species)の一部または全部を除去することを目的とするPDT療法を行うためのレーザ装置を示している。
【図3B】別の好適な実施形態を表す図であり、複合的な体液中の望ましくない体液種(body fluid species)の一部または全部を除去することを目的とするPDT療法を行うためのLEDパネル装置を示している。
【図4A】好適な一実施形態を表す図であり、連続血漿ろ過吸着療法と組み合わせた、増強された抗菌PDT治療のための装置を示しいている。
【図4B】光増感剤送達システムを有し、連続血漿ろ過吸着療法と組み合わせた、増強された抗菌PDT治療のための装置の別の好適な一実施形態を表す図である。
【図5】好適な一実施形態を表す図であり、静脈−静脈血液透析システムと組み合わせた、増強された抗菌PDT治療のための装置を示している。
【図6A】大容量血液ろ過と抗菌PDT装置とを組み合わせた好適な実施形態を表す図である。
【図6B】大容量血液ろ過と、抗菌PDT装置と、光増感剤送達システムとを組み合わせた別の好適な実施形態を表す図である。
【図7】断続的なレーザ放射線を適用した場合の細菌における耐性グラム(−)二重層および照射効果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、有害な細菌、病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞に対して効果的に照射を行うことにより、抗菌PDT療法を改良し、PDTによる望ましくない体液種(body fluid species)の除去、還元および/または不活性化を増強するための装置および方法を提供する。本発明により提供される装置および方法は、血清、全血およびその他の複合的な体液中の微生物を効果的に殺す、減少させるおよび/または破壊することができるため、先行技術の抗菌PDT療法を増強する。「複合的な体液」は、全血、血清、血液製剤、唾液、血清、リンパ液、羊水、房水、尿、脳脊髄液およびその他の既知の体液を非限定的に包含する。「血液製剤」は、ヒト新鮮凍結血漿、血小板濃縮液、赤血球(RBC)、血液凝固因子(V、VII、IX、XおよびXIII)などを含む。
【0021】
さらに、殺す、減少させるおよび/または破壊することができる微生物としては、ウイルスならびに耐性グラム(−)およびグラム(+)細菌が挙げられる。さらに、本発明は増強された抗菌PDT治療として有効であるため、患者の死亡率および罹患率の主因である敗血症を治療するのに有利な治療法を提供する。敗血症は病原微生物断片により引き起こされる血液感染の拡張を特徴とするため、現在達成されていないより効果的な治療法が本発明により提供される。
【0022】
希釈したもしくは未希釈の血清、または血液もしくは血液化合物を含有する溶液のような複合的な体液中の望ましくない体液種(body fluid species)を効果的に殺す、減少させるおよび/または破壊するために、好適な実施形態は、複合的な体液のための少なくとも1つの流路と、少なくとも1つの電磁放射線源とを含む、増強された光線力学療法のための装置からなる。好ましくは、複合的な体液が流れる流路の一部は円筒状またはらせん状であり、上記流路の1つ以上の区画が、電磁放射線の一部または全部を透過させる材料でできている。好ましくは、電磁放射線源は、レーザ放射線源、発光ダイオード源、ランプ放射線源およびこれらの組合せからなる群より選択される、干渉性または非干渉性の放射線源であり得る。光線力学療法に使用されるためには、電磁放射線源は、外部から投与された少なくとも1つの光増感剤、光増感剤組成物または光増感剤前駆体を活性化するかまたはこれらに吸収される波長を有する、少なくとも1つの電磁放射線を放射する。電磁放射線は、事前に選択されたパターンでレーザまたはLED源により断続的に放射されることが好ましい。照射時には、望ましくない体液種(body fluid species)が破壊され、照射間の中断時には、望ましくない体液種(body fluid species)とその付近での新たな平衡状態の確立および光増感剤の補充が可能となる。好適な実施形態では、少なくとも1つの電磁放射線源が、約500nm〜580nmの範囲から事前に選択された波長の電磁放射線を放射する。光増感剤が、サフラニンOとして知られる暗褐色を示す色素を含むことが好ましい場合、好適なレーザ照射波長は500〜580nmの範囲、好ましくは約530nm付近である。しかし、その他の光増感剤および光増感剤組成物の使用ではこれに限定されるわけではなく、好適な放射波長は選択される光増感剤の吸収スペクトルによって異なる。別の実施形態では、光ファイバ、光ファイバアレイ、円筒状の拡散チップを有する光ファイバおよびこれらの組合せからなる群より選択される導波管を用いて電磁放射線エネルギーを照射し得る。本発明はさらに、治療体液中に存在する余分なまたは活性化されていない光増感剤を、電磁放射線の照射パターンを調節することにより、電磁放射線を複数回照射することにより、光増感剤吸収体を使用することにより、または当該技術分野で公知の他の任意の手段により、除去または不活性化するための手段を提供する。内毒素、病原微生物断片、死細胞および病原微生物を、好ましくは、連続血漿ろ過吸着療法、連続静脈−静脈血液透析システム、大容量血液ろ過およびこれらの組合せからなる群より選択される体外血液精製技術と本発明の装置とを組み合わせることにより、効果的に除去、中和または不活性化するためのさらなる手段も本発明に含まれる。別の実施形態では、フィルタを用いて中和、不活性化および/または除去を行う。さらに、抗体、ペプチド、スカベンジャー受容体システインリッチスーパーファミリーのメンバーなどの投与を含めた、内毒素および病原微生物断片を中和および/または不活性化するために使用される当該技術分野で公知の他の方法および装置を使用し得る。内毒素および病原微生物断片を中和および/または不活性化した後、フィルタを用いてこれらを除去し得る。
【0023】
好適な一実施形態は、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような望ましくない体液種(body fluid species)を効果的に殺す、減少させるおよび/または破壊するための図1に示される装置100を含み、この装置は電磁放射線、好ましくはレーザ放射線を放射することが可能ならせん状流路102と円筒状ディフューザ104とを含む。円筒状ディフューザ104の軸は、らせん状流路102の内部軸を通過する。光増感剤または光増感剤前駆体の投与からの滞留時間後に、細菌に汚染されたヒト血漿のような汚染された培地106がらせん状流路102の中を流れ、その間に円筒状ディフューザ104が、選択された光増感剤の活性化波長に合わせた電磁放射線を放射する。レーザ放射線源、発光ダイオード源およびランプ放射線源(白熱ランプ、キセノンアークランプおよび金属ハロゲン化物ランプを含む)のような干渉性および非干渉性の放射線源を含めた、任意の電磁放射線源により光増感剤または光増感剤前駆体を活性化し得る。ランプ、および拡散チップを有するまたは有さない光ファイバのような導波管から、電磁放射線を照射し得る。この実施形態では、レーザ放射線が好ましく、必要に応じてディフューザまたはその他の装置、好ましくは円筒状の拡散チップを有する光ファイバを含む光ファイバ装置または光ファイバアレイを用いてレーザ放射線を照射し得る。抗菌PDT治療を増強するためには、らせん状流路102の中を汚染された培地106が流れる間、レーザ放射線を断続的に放射することが好ましい。
【0024】
別の好適な実施形態では、図2に示される装置200は、外部の円筒状流路202と、レーザ放射線を放射することが可能な円筒状ディフューザ204を含む内部流路208とを含む。最初に、感染した対象に光増感剤を投与し、滞留時間の後、汚染された培地206が内部流路208の周りを流れ、この間に円筒状ディフューザ204が、選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザ放射線を放射する。好ましくは、汚染された培地206が円筒状流路202の中を流れる間、レーザ放射線を断続的に放射する。外部の円筒状流路202、および円筒状ディフューザ204を含む内部流路208は、ガラス製であることが好ましいが、これに限定されるわけではない。外部の円筒状流路202は、直径が5〜50mmの間、好ましくは10〜15mmの間であり、長さが30〜300mmの範囲、好ましくは90〜110mmの間である。円筒状ディフューザ204を含む内部流路208は、内径が0.5〜5mmの間、好ましくは1.5〜2mmの間である。しかし、外部の円筒状流路202および内部流路208の正確な寸法は、外部の円筒状流路202の中を通過するときの汚染された培地206の所望の流動パラメータおよび抗菌PDT療法を行うときの所望の効果によって決まる。同様に、この実施形態により、効果的な抗菌作用、つまり複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような望ましくない体液種(body fluid species)を殺す、減少させるおよび/または破壊することが可能となる。
【0025】
別の好適な実施形態は、図3Aおよび3Bに図示される照射ユニット/装置300である。図3Aは多数の外部の円筒状流路302からなる実施形態を示すものであり、円筒状流路302は上の実施形態に例示したものと同様のものであり、汚染された培地306が全流路の中を順に流れることができるように互いに連結されている。円筒状流路302は、それぞれが外側の円筒状ディフューザ304と内部流路308とを有する。一連の外部の円筒状流路302は、冷却システムを備えた容器316の中に収納されている。光増感剤を含有する汚染された培地306が一連の外部の円筒状流路302の中を通過するとき、レーザ装置310が作動して、事前に選択されたパターンでレーザ放射線312を断続的に放射する。レーザ装置310と外部の円筒状流路302との間には、レーザ放射線312を各円筒状流路302に向けるビームスプリッタ314がある。図3Bは別の好適な実施形態を示すものであり、この実施形態では、LEDパネル318が放射線を放射して、一連の円筒状流路302の中を流れる汚染された培地306に添加された光増感剤を活性化する。LEDパネル318および一連の円筒状流路302は、冷却システムを備えた容器316の中に収納されている。
【0026】
感染により引き起こされる全身性炎症反応症候群である敗血症を効果的に治療するために、抗菌PDT治療増強のための上記装置を体外血液精製技術と組み合わせる。敗血症症候群は炎症促進性メディエータと抗炎症性メディエータの不均衡を反映するものであり、発病を引き起こすのはこれらの物質の異常なピークレベルであるということが提唱されている。重篤な状態では、敗血症は多臓器機能不全、低灌流、低血圧症へと進行し、最終的には死に至る。病原体としては、細菌、特に溶解時に内毒素を分泌するグラム陰性細菌が挙げられる。これはグラム陰性細胞壁に含まれるリポ多糖(LPS)に起因するものであり、リポ多糖が血流中に放出されると敗血症性ショックが誘発され、細胞、メディエータおよびサイトカインに関連した事象の複雑な炎症カスケードを誘発し得る。したがって、病原体破壊後に放出されるLPSおよび存在する病原性断片を中和または除去することが重要である。体外血液精製技術と抗菌PDT療法との優れた組み合わせにより、広域スペクトルの病原性分子の殺滅および除去と組み合わさった炎症性メディエータの効果的な除去による敗血症に対する強力な治療がもたらされる。図4〜6は、敗血症治療のための本発明の好適な実施形態を示している。図4Aは、上に記載した照射ユニット/装置300と組み合わせた連続血漿ろ過吸着療法の構成要素を示す。光増感剤を含有する汚染された培地406が血漿フィルタ420の中を流れる。血漿フィルタ420が全血424から血漿422を分離する。全血424は流れ続けて、静脈帰還流426になる。光増感剤を含有する汚染された血漿422は照射ユニット/装置300を通過し、そこでは選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線が事前に選択されたパターンで断続的に放射されて、すべてまたは一部の感染細菌が殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去される。次いで、治療済みの汚染された血漿が吸着体/フィルタ428を通過し、そこで異なる分子量の物質が捕捉される。吸着体/フィルタ428は、その設計によっては、死んだ細菌細胞、病原微生物断片、内毒素、余分なもしくは活性化されなかった光増感剤分子、または他の任意の望ましくない粒子を除去する。治療済みの血漿430は全血424に加わり、静脈帰還流426の構成要素となる。図4Bは別の好適な実施形態を示すものであり、ここでは、汚染された培地406が血漿フィルタ420を流れる。血漿フィルタ420が全血424から血漿422を分離する。全血424は流れ続けて、静脈帰還流426になる。汚染された血漿422は光増感剤送達システム432まで進み、そこで光増感剤または光増感剤前駆体が汚染された血漿422に加えられる。光増感剤を含有する汚染された血漿422は照射ユニット/装置300の中を流れ、そこでは選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線が事前に選択されたパターンで断続的に放射されて、すべてまたは一部の感染細菌が殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去される。次いで、治療済みの汚染された血漿が吸着体/フィルタ428の中を流れ、そこで異なる分子量の物質、例えば死んだ細菌細胞、病原微生物断片、内毒素、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などが捕捉される。治療済みの血漿430は全血424と一緒になり、静脈帰還流426の構成要素となる。
【0027】
図5に示される好適な実施形態では、抗菌PDT装置を連続静脈−静脈血液透析システムと組み合わせる。光増感剤を含有する汚染された培地506が、照射ユニット/装置300とフィルタ534とを含むシステムの中を流れる。装置300では、選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線および事前に選択されたパターンでの断続的な放射により、すべてまたは一部の感染細菌が殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去される。フィルタ534では、分子が半透膜を通過して拡散することにより異なる分子量の物質が除去され、また透析物536が、汚染された培地506と反対方向に流れる。フィルタ534は、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子を除去するための光増感剤吸着体と、内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物などを中和および/または除去するための区画とを有する。治療済みの培地は静脈帰還流526の構成要素となる。
【0028】
図6Aおよび6Bは、大容量血液ろ過と抗菌PDT装置とを組み合わせる好適な実施形態を示している。図6Aに図示されている実施形態は、光増感剤を含有する汚染された培地606が照射ユニット/装置300の中を流れ、そこでは選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線および事前に選択されたパターンでの断続的な放射により、すべてまたは一部の感染細菌が殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去されることを示している。抗菌PDT治療の後、治療済みの培地はフィルタ634の中を流れ、そこで水ならびに高分子量および低分子量の物質、例えば内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などのような廃棄物638が、正の静水圧により排出される。液量および電解質を補うために等張補液640が加えられる。抗菌PDT治療済みの培地および等張補液640は静脈帰還流626の構成要素となる。図6Bは、大容量血液ろ過と抗菌PDT装置と組み合わせた別の実施形態を示すものであり、この実施形態では、汚染された培地606が光増感剤送達システム632まで進み、そこでは汚染された培地606に光増感剤または光増感剤前駆体が加えられる。光増感剤を含有する培地606は照射ユニット/装置300の中を流れ、そこですべてまたは一部の感染細菌が、レーザまたはLED放射線により殺される、減少する、破壊されるおよび/または除去される。放射線は選択された光増感剤の活性化波長に合わせられており、事前に選択されたパターンで断続的に放射される。抗菌PDT治療の後、治療済み培地はフィルタ634の中を流れ、そこでは廃棄物638、例えば内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などが、正の静水圧により排出される。液量および電解質を補うために等張補液640が加えられる。抗菌PDT治療済みの培地および等張補液640は静脈帰還流626の構成要素となる。
【0029】
好適な実施形態では、複合的な体液中の病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞のような望ましくない体液種(body fluid species)を殺す、減少させるおよび/または破壊することを目的としてPDT作用を増強する方法は、以下の段階を含む:
1)光増感剤または光増感剤の組成物もしくは前駆体と、治療する複合的な体液または前述複合的な体液の抽出物とを混合する段階;
2)滞留時間後に、選択された光増感剤の活性化波長に合わせた電磁放射線を、光増感剤と混合した汚染された複合的な体液に放射する段階;
3)内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などを除去、中和または不活性化する段階;および
4)治療済みの複合的な体液を、必要に応じて対応する身体部位に戻す段階。
【0030】
光増感剤、光増感剤組成物または光増感剤前駆体を、治療する複合的な体液と、生存生物体内で、例えば光増感剤の静脈内投与により混合してもよく、また前述生存生物体の外で、例えば無菌コンテナバッグバッグ中で混合してもよい。好ましくは、光増感剤と混合した複合的な体液を治療する、および/または上記の装置実施形態に図示されている特定の流路の中で混合する。
【0031】
治療済みの複合的な体液を患者の対応する身体に戻す前に、すべてまたは一部の光増感剤を除去または不活性化しておくべきである。治療済み血液中に存在する余分なまたは活性化されなかった光増感剤の除去または不活性化を、電磁放射線の照射パターンを調節することにより、電磁放射線を何度も照射することにより、光増感剤吸収体を使用することにより、または他の任意の手段により行い得る。
【0032】
段階3で述べられているように、内毒素(例えば、LPS)、病原微生物断片および死細胞を中和、不活性化および/または除去するために数多くの方法を用い得る。好ましくは、中和、不活性化および/または除去をフィルタを利用して行う。さらに、抗体、ペプチド、スカベンジャー受容体システインリッチスーパーファミリーのメンバーなどの投与を含めた、内毒素および病原微生物断片を中和および/または不活性化するために使用される当該技術分野で公知の他の方法を用いてもよい。内毒素および病原微生物断片を中和および/または不活性化した後に、フィルタを用いてこれらを除去してもよい。いずれの場合も、内毒素および病原断片が生存生物の血流に達した場合に進行し得る炎症過程を低減するために、こうした内毒素および病原断片を中和または不活性化する併用療法を用いることが目的である。
【0033】
別の好適な実施形態では、複合的な体液中の病原微生物および悪化したまたは悪性の細胞のような望ましくない体液種(body fluid species)を殺す、減少させるおよび/または破壊することを目的としてPDT作用を増強する方法は、以下の段階を含む:
1)生存生物体から汚染された体液を採取し、上記の装置実施形態で図示されている特定の管内を進ませる段階;
2)光増感剤または光増感剤の組成物もしくは前駆体を、体液のような汚染された培地または前述体液の抽出物に投与する段階;
3)汚染された培地が管内を流れる間に、選択された光増感剤の活性化波長に合わせたレーザまたはLED放射線を事前に選択されたパターンで断続的に放射する段階;
4)治療済み培地を対応する身体部位に戻す段階。
【0034】
別の好適な実施形態では、上記方法は、それらがグラム(−)およびグラム(+)細菌のような微生物を殺す、減少させるおよび/または破壊する能力により、抗菌PDT作用を増強する。
【0035】
照射時には細菌が破壊され、照射間の中断時には、細菌表面とその付近での新たな平衡状態の確立および光増感剤の補充が可能となる。
【0036】
好適な実施形態では、複合的な体液中のグラム(−)およびグラム(+)細菌のような微生物に対する抗菌PDT作用を増強する方法は、断続的な放射線照射を含む。パルス幅は、PDT治療に影響する様々なパラメータ、例えば汚染度、細菌に汚染された液体の流れ、光増感剤の投与量、ならびに出力、エネルギーおよび時間を含めたその他の電磁放射線パラメータなどによって決まる。適当な波長のレーザ放射線704により、グラム(−)細菌二重層膜744とその付近の光増感剤分子742を一重項状態まで励起する。この励起した一重項状態からエネルギーが低下して三重項状態になり、次いでこれが酸素を必要とする2つの既知の光過程により反応する。これによりラジカルイオンが生成され、次いでこれが酸素と反応して細胞傷害種を生成し得るか、または励起状態の一重項酸素746が生成されて、これがグラム(−)細菌二重層膜744を通って拡散し、生物学的分子を酸化して細胞傷害を生じる。アルブミンのような血清タンパク質分子748により捕捉された一部の光増感剤分子742は、アルブミン部位の酸素分子が相対的に不足しているため、大部分が退色したままである。したがって、続く照射の前のオフ時間の間に、グラム(−)細菌二重層膜744とその付近で、血清タンパク質分子748により捕捉された光増感剤分子742が放出されて新たな平衡状態が確立され、光増感剤が補充される。多数のサイクルの照射を行って、複合的な体液中の細菌でも効果的に殺す、破壊するおよび/または不活性化することができる。
【0037】
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、それにより本発明が限定されわけではない。
【実施例】
【0038】
実施例1:
別々の試験において、創傷の細菌叢の一般的な構成要素である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(グラム(+)菌)を含有する仔ウシ血清(100%の血清)溶液に、サフラニンOを含む組成物を加えて、サフラニンOの最終濃度を99%仔ウシ血清中20μMとした。図3Bに対応する流動システムにおいて、532nmで作動しているCeralas G2(Biolitec AG、Germany)レーザから30mW/cm2のフルエンス率で、光ファイバを介して放射線を照射した。この流動システム内で10ml/分の流速で3回通過させて連続的に照射した後、観察された殺菌のパーセンテージは約99.9%であった。
【0039】
本発明の好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明はこれらの詳細な実施形態に限定されないこと、また添付の特許請求の範囲で定められる本発明の範囲または精神を逸脱することなく、それらの実施形態に各種の変更および修正が当業者により施され得ることを理解するべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈されたまたは未希釈の血清または血液もしくは血液化合物を含有する溶液中の望ましくない体液種(body fluid species)を減少させる、殺すまたは除去することを目的とした光線力学療法を増強するための装置であって、
a)複合的な体液のための少なくとも1つの流路と、
b)少なくとも1つの電磁放射線源と
を含む装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの電磁放射線源が、外部から投与された少なくとも1つの光増感剤を活性化するかまたはそれにより吸収される波長である、少なくとも1つの電磁放射線放射する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光増感剤が、光増感剤、光増感剤組成物および光増感剤前駆体からなる群より選択される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記光増感剤がサフラニンOである、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電磁放射線源が、約500nm〜580nmの範囲から事前に選択された少なくとも1つの電磁放射線波長放射する電磁放射線源である、請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記電磁放射線波長を断続的なパターンで照射する手段をさらに含む、請求項2に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの電磁放射線源が、レーザ放射線源、発光ダイオード源、ランプ放射線源およびこれらの組み合わせからなる群より選択される干渉性または非干渉性の放射線源を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記複合的な体液が、全血、血清、その他の体液およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記望ましくない体液種(body fluid species)が、細菌およびウイルスを含めた病原微生物を表す、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記細菌がグラム(+)細菌およびグラム(−)細菌を包含する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記望ましくない体液種(body fluid species)が、癌細胞のような悪化したまたは悪性の細胞を表す、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記流路の少なくとも一部分が、円筒状流路、らせん状流路およびこれらの組み合わせからなる群より選択される形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記流路の少なくとも1つ以上の部分をさらに含み、前記流路の材料が一部または全部の電磁放射線を透過させる、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記電磁放射線源から放射線を送るための少なくとも1つの導波管をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記導波管が、光ファイバ、光ファイバアレイ、円筒状の拡散チップを有する光ファイバおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
流路のセットのための冷却システムをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記装置と、連続血漿ろ過吸着療法、連続静脈−静脈血液透析システム、大容量血液ろ過およびこれらの組み合わせからなる群より選択される技術を支援する体外血液ろ過装置との組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記望ましくない体液種(body fluid species)が、内毒素、病原微生物断片、死細胞および病原微生物をさらに含む、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
内毒素および病原微生物断片を中和および不活性化するために使用されることが既知であり、抗体、ペプチド、スカベンジャー受容体システインリッチスーパーファミリーのメンバー、フィルタおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される装置をさらに含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
治療済みの体液中に存在する余分なまたは活性化されなかった光増感剤を、電磁放射線の照射パターンを調節することにより、電磁放射線を複数回照射することにより、光増感剤吸収体を使用することにより、または他の任意の手段により、除去/不活性化する手段をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
希釈されたまたは未希釈の血清または血液もしくは血液化合物を含有する溶液中の望ましくない体液種(body fluid species)を減少させる、殺すまたは除去することを目的とした光線力学療法を増強するための方法であって、
a)光増感剤と、治療する複合的な体液または前記複合的な体液の抽出物とを混合する段階と、
b)前記光増感剤と治療する前記複合的な体液の望ましくない体液種(body fluid species)とを結合させるために、事前に選択された時間の間中断する段階と、
d)前記処置済みの溶液に、選択された光増感剤の活性化波長に合わせた電磁放射線源を照射する段階と、
e)内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などの種を除去、中和または不活性化する段階と、
f)前記治療済みの培地を、必要に応じてその対応する身体部位に戻す段階と
を含む方法。
【請求項1】
希釈されたまたは未希釈の血清または血液もしくは血液化合物を含有する溶液中の望ましくない体液種(body fluid species)を減少させる、殺すまたは除去することを目的とした光線力学療法を増強するための装置であって、
a)複合的な体液のための少なくとも1つの流路と、
b)少なくとも1つの電磁放射線源と
を含む装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの電磁放射線源が、外部から投与された少なくとも1つの光増感剤を活性化するかまたはそれにより吸収される波長である、少なくとも1つの電磁放射線放射する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光増感剤が、光増感剤、光増感剤組成物および光増感剤前駆体からなる群より選択される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記光増感剤がサフラニンOである、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電磁放射線源が、約500nm〜580nmの範囲から事前に選択された少なくとも1つの電磁放射線波長放射する電磁放射線源である、請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記電磁放射線波長を断続的なパターンで照射する手段をさらに含む、請求項2に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの電磁放射線源が、レーザ放射線源、発光ダイオード源、ランプ放射線源およびこれらの組み合わせからなる群より選択される干渉性または非干渉性の放射線源を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記複合的な体液が、全血、血清、その他の体液およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記望ましくない体液種(body fluid species)が、細菌およびウイルスを含めた病原微生物を表す、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記細菌がグラム(+)細菌およびグラム(−)細菌を包含する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記望ましくない体液種(body fluid species)が、癌細胞のような悪化したまたは悪性の細胞を表す、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記流路の少なくとも一部分が、円筒状流路、らせん状流路およびこれらの組み合わせからなる群より選択される形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記流路の少なくとも1つ以上の部分をさらに含み、前記流路の材料が一部または全部の電磁放射線を透過させる、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記電磁放射線源から放射線を送るための少なくとも1つの導波管をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記導波管が、光ファイバ、光ファイバアレイ、円筒状の拡散チップを有する光ファイバおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
流路のセットのための冷却システムをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記装置と、連続血漿ろ過吸着療法、連続静脈−静脈血液透析システム、大容量血液ろ過およびこれらの組み合わせからなる群より選択される技術を支援する体外血液ろ過装置との組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記望ましくない体液種(body fluid species)が、内毒素、病原微生物断片、死細胞および病原微生物をさらに含む、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
内毒素および病原微生物断片を中和および不活性化するために使用されることが既知であり、抗体、ペプチド、スカベンジャー受容体システインリッチスーパーファミリーのメンバー、フィルタおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される装置をさらに含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
治療済みの体液中に存在する余分なまたは活性化されなかった光増感剤を、電磁放射線の照射パターンを調節することにより、電磁放射線を複数回照射することにより、光増感剤吸収体を使用することにより、または他の任意の手段により、除去/不活性化する手段をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
希釈されたまたは未希釈の血清または血液もしくは血液化合物を含有する溶液中の望ましくない体液種(body fluid species)を減少させる、殺すまたは除去することを目的とした光線力学療法を増強するための方法であって、
a)光増感剤と、治療する複合的な体液または前記複合的な体液の抽出物とを混合する段階と、
b)前記光増感剤と治療する前記複合的な体液の望ましくない体液種(body fluid species)とを結合させるために、事前に選択された時間の間中断する段階と、
d)前記処置済みの溶液に、選択された光増感剤の活性化波長に合わせた電磁放射線源を照射する段階と、
e)内毒素、病原微生物断片、死細胞、病原微生物、余分なまたは活性化されなかった光増感剤分子などの種を除去、中和または不活性化する段階と、
f)前記治療済みの培地を、必要に応じてその対応する身体部位に戻す段階と
を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【公表番号】特表2013−517093(P2013−517093A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550038(P2012−550038)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2011/021179
【国際公開番号】WO2011/090885
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(511133381)セラモプテック インダストリーズ,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2011/021179
【国際公開番号】WO2011/090885
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(511133381)セラモプテック インダストリーズ,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
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