説明

墜落防止装置

【課題】下方向の荷重に対しても安全器が下方に移動することを抑制する。
【解決手段】墜落防止装置1は、剛性レール90と安全器10とを備える。安全器10は、連結部材12とローラー部材13とブレーキ部材11とを備える。連結部材12は、上向きの引き上げ力がなくなると下方向に移動する。ブレーキ部材11は、連結部材12の移動に連動して、ブレーキ部材11が剛性レール90を押圧する押圧位置に回動して安全器10の走行を停止させる。ブレーキ部材11には、下向きの荷重が加わると剛性レール90に食い込む第1の尖端部11Aと、更なる下向きの荷重が加わると第1の尖端部11Aよりも下側で剛性レール90に食い込む第2の尖端部11Gと、第2の尖端部11Gが剛性レール90に食い込むときに第2の尖端部11Gよりも下側で剛性レール90に接触する面接触部11B(接触部)とが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墜落防止装置に関する。詳しくは、作業者が装備した安全帯を取り付けることによって、作業者の高層建造物からの墜落を防止する墜落防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した墜落防止装置としては、例えば特許文献1に開示されているものが従来から知られている。この墜落防止装置は、高層建造物の高さ方向に連続して長尺に設けられた剛性レールに、作業者の安全帯を取り付けた安全器を上下方向に走行可能に結合させている。そして、作業者の落下衝撃力が安全器に加わると、安全器のブレーキ部材とローラーとが剛性レールを挟圧し、ブレーキ部材に設けられた尖端部を剛性レールに食い込ませて、安全器を停止させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平05−042845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術では、安全器が停止しているときに下向きに更なる荷重が加わると、安全器が下方に移動してしまうという問題があった。
本発明は、上記した問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、安全器が下向きの荷重を受け止める力を大きくして、大きな下向きの荷重に対しても安全器が下方に移動することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の墜落防止装置は次の手段をとる。
まず、第1の発明は、作業者が装備した安全帯を取り付けることによって、作業者の高層建造物からの墜落を防止する墜落防止装置である。この墜落防止装置は、高層建造物にこの高層建造物の高さ方向に連続して長尺に設けられ、作業者の体重を支えることができる剛性を備えた剛性レールと、剛性レールに結合され、この剛性レールを上下方向に走行することができる安全器と、を備えている。安全器は、安全帯を取り付けるための連結部材と、剛性レールを走行するためのローラー部材と、上記走行を停止させるためのブレーキ部材と、を備えている。連結部材は、この連結部材を上向きに引き上げる力がなくなったときに、下方向に所定量移動する構成とされている。ブレーキ部材は、連結部材の上記移動に連動して、ブレーキ部材が剛性レールを押圧する押圧位置に回動することで、安全器の走行を停止させる構成とされている。ブレーキ部材には、このブレーキ部材が上記押圧位置に位置して連結部材に下向きの荷重が加わったときに剛性レールに食い込むように当接する尖端を備えた第1の尖端部と、上記連結部材に更なる下向きの荷重が加わってブレーキ部材が回動すると第1の尖端部よりも下側で剛性レールに食い込むように当接する尖端を備えた第2の尖端部と、第2の尖端部が剛性レールに食い込むときに第2の尖端部よりも下側で剛性レールに接触する接触部と、が設けられている。
この第1の発明によれば、ブレーキ部材は、作業者の滑落に伴う下向きの荷重に対して、第1の尖端部の食い込みによる剛性レールの変形を利用して安全器の下方への移動を停止させる。また、連結部材にさらに大きな下向きの荷重がかかってブレーキ部材が回動すると、第2の尖端部が剛性レールに食い込み、接触部が剛性レールに当接して安全器の下方への移動を引き止める力が増大し、安全器の下方への移動を抑制することができる。このとき、第2の尖端部および接触部は剛性レールに上下方向に離間した箇所で接触する。これにより、第2の尖端部の食い込み箇所および接触部の接触箇所が、剛性レールの上下に離間して分散し、上記下向きの荷重に対して安全器の下方への移動を引き止める力の総和を大きい状態に維持することができる。
【0006】
ついで、第2の発明は、上述した第1の発明において、接触部は、各尖端部と同様に剛性レールに食い込むように当接するものである。
この第2の発明によれば、ブレーキ部材は、安全器が停止しているときに加わる下向きの荷重を、第2の尖端部および接触部の両方を剛性レールに食い込ませることで受け止めて安全器の下方への移動を停止させる。これにより、安全器の下方への移動を引き止める力をより大きくすることができる。
【0007】
さらに、第3の発明は、上述した第1または第2の発明において、ブレーキ部材は、連結部材を挟み込むようにこの連結部材の両側にそれぞれ設けられ、各尖端部および接触部は、剛性レールの長手方向に交わる向きに並んだ複数箇所でこの剛性レールに当接するものである。
この第3の発明によれば、各尖端部および接触部は、上記下向きの荷重を、剛性レールに上下方向および水平方向に広範囲に分散した複数箇所で当接して受け止める。このため、上記下向きの荷重を受け止めているときにかかる水平方向の荷重により安全器が回動して、各尖端部および接触部の剛性レールへの当接箇所のうち安全器の回動方向とは反対側の当接箇所が浮き上がっても、安全器の少なくとも回動方向側の複数の当接箇所により剛性レールの保持状態を維持して安全器の下方への移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る墜落防止装置の使用状態を表した説明図である。
【図2】本考案の第1の実施形態に係る墜落防止装置を表した側面図であり、安全器が停止している状態を剛性レールの一部を破断して表す。
【図3】図2と同様の側面図であり、安全器が剛性レールに沿って引き上げられている状態を表す。
【図4】図2の矢印IV方向の拡大矢視図であり、ランヤードを省略して表す。
【図5】図2と同様の側面図であり、安全器が作業者の墜落を阻止している状態を表す。
【図6】図2と同様の側面図であり、複数個の安全器が上下方向に並んでいる状態を表す。
【図7】本考案の第2の実施形態に係る墜落防止装置を表した側面図であり、安全器が停止している状態を剛性レールの一部を破断して表す。
【図8】図7と同様の側面図であり、安全器が剛性レールに沿って引き上げられている状態を表す。
【図9】図7と同様の側面図であり、安全器が作業者の墜落を阻止している状態を表す。
【図10】図7の矢印X方向の拡大矢視図であり、ランヤードを省略して表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
〈第1の実施形態〉
始めに、第1の実施形態に係る墜落防止装置1の構成について、図1ないし図6を用いて説明する。この墜落防止装置1は、図1に示すように、作業者Hが装備した安全帯H1を取り付けることによって、作業者Hの高層建造物Bからの墜落を防止するためのものである。
墜落防止装置1は、高層建造物Bにこの高層建造物Bの高さ方向(すなわち上下方向)に連続して長尺に設けられた剛性レール90と、この剛性レール90に嵌合し、安全帯H1が取り付けられた状態で剛性レール90を上下方向に走行する複数個の安全器10と、を備えている。剛性レール90および各安全器10は、作業者Hを支えることができる剛性および強度を備えるように形成されている。そして、墜落防止装置1は、安全器10を上向きに引き上げる力がなくなると、安全器10の走行を停止させる。これにより、墜落防止装置1は、作業者Hが高層建造物Bから滑落した際に作業者Hの墜落を阻止するようになっている。
【0010】
剛性レール90は、図1および図4に示すように、アルミニウムなどの金属により長尺に形成された複数の角筒(図4参照)をレールジョイント95(図1参照)によりその長手方向に連結した構成とされている。これにより、剛性レール90が破損した際に、その破損が生じた部分の角筒のみを交換することで、剛性レール90を簡単に修理することができる。
【0011】
各安全器10は、図1に示すように、一本の剛性レール90に、それぞれ独立して走行するように結合されている。このため、一本の剛性レール90により複数人の作業者Hの墜落を防止することができる。安全器10は、図2ないし図6に示すように、その本体部14に、安全帯H1を取り付けるための連結部材12と、剛性レール90を走行するための複数対(本実施形態では2対)のローラー部材13と、上記走行を停止させるためのブレーキ部材11と、を取り付けた構成とされている。
安全器10は、その各ローラー部材13を剛性レール90の裏面92に内接させ、その本体部14を剛性レール90に形成された溝部93(図4参照)から剛性レール90の角筒の外側に向けて突出させた構成となっている。これにより、安全器10は、剛性レール90に嵌合した状態で剛性レール90に沿って(すなわち、上下方向に)走行するようになる。
【0012】
各ローラー部材13は、図2ないし図6に示すように、硬化プラスチックなどの合成樹脂により形成されて、金属製の車軸13Aを介して本体部14に取り付けられている。これにより、各ローラー部材13は、剛性レール90に対して安全器10を滑らかに走行させるようになっている。また、各ローラー部材13は、図4に示すように、剛性レール90の溝部93に臨む位置にこの剛性レール90の角筒の内側に向けて突出した一対の案内部94に案内されている。これにより、各ローラー部材13は、剛性レール90に対して安全器10の走行位置を安定させている。
なお、本体部14には、図4に示すように、複数個(本実施形態では2個)の滑車14Bが嵌め込まれて、本体部14と各案内部94との間の摩擦が低減されている。
【0013】
連結部材12は、図2ないし図5に示すように、ステンレス等の強度の高い金属により板形状に形成されて、その板厚方向(図4で見て左右方向)に貫通して長孔12Aと、貫通孔12Cと、軸受け孔12E(図4参照)と、が形成されている。
上記長孔12Aは、図2および図3に示すように、上下方向に長尺に形成されて、その内部に本体部14に固定された摺動軸14Aが位置するように構成されている。これにより、連結部材12は、連結部材12を上向きに引き上げる力がかかったときには上方向に、連結部材12を上向きに引き上げる力がなくなったときには下方向に、本体部14に対して相対的に摺動するようになっている。
ここで、上記摺動軸14Aは、ステンレス等の強度の高い金属に覆われた構成とされて、連結部材12の上記摺動に対する耐久性が高められている。
上記軸受け孔12Eは、ブレーキ部材11のジョイント11Dを介して連結部材12とブレーキ部材11とを連結している。これにより、上記連結部材12の上下方向の摺動をブレーキ部材11に伝えて、ブレーキ部材11を連結部材12の摺動と連動して作動させることができる。
【0014】
上記貫通孔12Cは、図2および図3に示すように、安全帯H1のランヤードH2が挿通されることで、連結部材12と安全帯H1とを連結する構成となっている。これにより、作業者Hから受ける引張力は、ランヤードH2を介して連結部材12に伝えられ、連結部材12の摺動を介してブレーキ部材11を作動させるようになっている。
貫通孔12Cには、上述した剛性レール90から離間する側かつ上側(図2および図3で見て右上側)の縁に隅部12Dが形成されている。隅部12Dは、上記ランヤードH2が当接した状態で収まる形状の曲面として形成されている。ここで、隅部12Dに対して下側に位置する隣接面は、上側を向いて傾いた(図2の鉛直線Vを参照。)平面状に形成されることが望ましい。
隅部12Dは、図3に示すように、安全帯H1および安全帯H1に連結された安全器10が上方に引き上げられる際に、安全器10のランヤードH2が安定して位置するように形成されている。これにより、隅部12Dは、安全帯H1および安全器10を上方に引き上げる際に、意に反して安全帯H1のランヤードH2が貫通孔12C内で位置ずれしてその連結部材12を引き上げる力が弱められることを抑制するようになっている。すなわち、貫通孔12Cに隅部12Dが形成されることにより、意に反して連結部材12が本体部14に対して摺動し、ブレーキ部材11が誤作動してしまうことを抑制することができる。
【0015】
ところで、連結部材12の長孔12Aは、図2および図3に示すように、連結部材12の摺動軸14Aとの間に隙間ができるように形成されて、この隙間により連結部材12の摺動を可能としている。そして、上記隙間に異物が入り込むと、その異物がメンテナンス等により取り除かれるまで連結部材12の摺動が阻害され、連結部材12に連結されたブレーキ部材11の作動が阻害されることになる。
ここで、上述した長孔12Aおよび摺動軸14Aは、図2ないし図5に示すように、連結部材12に設けられたカバー12Bに覆われている。これにより、長孔12Aの上記隙間への異物の侵入を抑制して、ブレーキ部材11の作動が妨げられることを抑制することができる。
上記カバー12Bは、図4に示すように、連結部材12に複数(本実施形態では2つ、図2参照)のビス12Gおよびビス孔12Fを介して着脱可能に取り付けられている。これにより、カバー12Bを取り外して上述した摺動軸14Aのメンテナンスを行うことができる。
【0016】
ブレーキ部材11は、図4に示すように、ステンレス等の剛性レール90よりも硬度が大きな素材により安全器10にその幅方向(図示左右方向)に対称に設けられている。また、ブレーキ部材11は、図2ないし図4に示すように、回動軸11Cを介して本体部14にこの本体部14を挟み込むように取り付けられ(図4参照)、ジョイント11Dを介して連結部材12にこの連結部材12を挟み込んだ状態で連結されている。これにより、ブレーキ部材11は、上述した連結部材12の摺動と連動して、回動軸11Cを中心に回動するようになっている。また、ブレーキ部材11は、バネ11E(図4参照)の弾発力および連結部材12から受ける荷重により、回動軸11Cを中心として図2で見て時計回りに付勢されている。
ブレーキ部材11には、面接触部11Bと、第1の尖端部11Aと、第2の尖端部11Gとがそれぞれ1対ずつ突出して形成されている。ここで、面接触部11Bが本発明における「接触部」に相当する。
【0017】
上記各第1の尖端部11Aおよび上記各第2の尖端部11Gは、図2ないし図5に示すように、剛性レール90の長手方向(すなわち上下方向)に、第1の尖端部11Aを上側に、第2の尖端部11Gを下側とするように並んでいる。また、第1の尖端部11Aおよび第2の尖端部11Gは、それぞれ線状の尖端を剛性レール90の表面91側(図4で見て下側)に向けた構成となっている。
ブレーキ部材11は、図2に示すように、連結部材12を上向きに引き上げる力がなくなったときに、上記各第1の尖端部11Aがその尖端で剛性レール90を押圧する押圧位置に回動するようになっている。すなわち、各第1の尖端部11Aは、ブレーキ部材11にかかる上述した付勢力により、剛性レール90の表面91をこの剛性レール90の長手方向に直交する向き(図4で見て左右方向)で線状に押圧するようになっている。言い換えると、上述した各第1の尖端部11Aは、上述した連結部材12の摺動に連動して、剛性レール90の表面91に食い込むように当接するようになっている。これにより、ブレーキ部材11は、連結部材12を上向きに引き上げる力がなくなったときに、安全器10の走行を停止させるようになっている。
【0018】
ブレーキ部材11は、安全帯H1のランヤードH2が連結部材12を引き上げる力により、回動軸11Cを中心としてブレーキ部材11にかかる付勢力に抗する向きに(図2で見て反時計回りに)回動するようになっている。これにより、安全帯H1のランヤードH2を引いて安全器10を上方に引き上げると、図3に示すように、ブレーキ部材11がその各第1の尖端部11Aを剛性レール90から離すように回動し、安全器10の走行が許容されるようになっている。
なお、ブレーキ部材11は、図2および図3に示すように、上述した各状態においてその各面接触部11Bおよび各第2の尖端部11Gを剛性レール90に接触させないようになっている。
【0019】
本実施形態の墜落防止装置1が作業者H(図1参照)の墜落を阻止する際の作用について説明する。まず、作業者Hの滑落により安全帯H1のランヤードH2が連結部材12を引き上げる力が緩むと、図2に示すように、連結部材12が下方向に所定量摺動する。そして、この摺動に連動して、ブレーキ部材11が押圧位置に回動してその各第1の尖端部11Aが剛性レール90を押圧し、安全器10の走行を停止させる。
続いて、安全帯H1のランヤードH2から連結部材12に作業者Hの落下による大きな下向きの荷重が伝えられると、図5に示すように、この下向きの荷重により連結部材12がさらに下方向に摺動する。この摺動により、上記押圧位置(図2参照)に位置したブレーキ部材11は、その回動軸11Cを中心としてその各尖端部11A、11Gおよび各面接触部11Bを上向きに動かす向き(図5で見て時計回り)に回動し、各第1の尖端部11Aを剛性レール90の表面91に対して強く押圧させる。
ここで、各第1の尖端部11Aは、剛性レール90よりも硬度が大きくなるように形成されて、上記押圧に対して剛性レール90にその長手方向に直交する向き(図4で見て左右方向)に線状に食い込むようになっている。これにより、各第1の尖端部11Aは、作業者Hの落下による下向きの荷重により剛性レール90の表面91をわずかに切削するようになっている。すなわち、ブレーキ部材11は、作業者Hの落下による荷重に対して、各第1の尖端部11Aによる剛性レール90の切削を用いて安全器10の下方への移動を停止させるようになっている。
【0020】
このとき、安全器10全体も図5で見て時計回りに回動するが、この回動は上述した複数のローラー部材13が剛性レール90に対してつかえることで停止される。すなわち、上記各ローラー部材13のうち上側の各ローラー部材13は、剛性レール90の裏面92のうち下側を向いて傾斜している面に当接する。一方、上述した各ローラー部材13のうち下側の各ローラー部材13は、上記裏面92のうち上側を向いて傾斜している面に当接する。これにより、安全器10全体の上記時計回りの回動が停止される。また、上述した各尖端部11Aの押圧に対する反作用が剛性レール90に当接した各ローラー部材13により受け止められるようになる。
【0021】
また、ブレーキ部材11は、その回動によって各第1の尖端部11Aを剛性レール90の表面91に食い込ませる際に、同時に上記表面91に各面接触部11Bを面接触させ、各第2の尖端部11Gを剛性レール90の長手方向に直交する向き(図4で見て左右方向)に線状に当接させるようになっている。このため、各第2の尖端部11Gが剛性レール90に食い込み、各面接触部11Bによりブレーキ部材11の回動が停止され、各面接触部11Bと剛性レール90との間に摩擦力が作用することで、安全器10の下方への移動を引き止める力が増大される。これにより、安全器10の下方への移動を抑制することができる。
各面接触部11Bは、図5に示すように、剛性レール90の表面91に各第2の尖端部11Gよりも下側で面接触するように構成されている。これにより、各面接触部11Bは、各尖端部11Aによる剛性レール90の変形の影響を受けることなく、剛性レール90の表面91に面接触することができる。さらに、各第2の尖端部11Gの食い込み箇所および各面接触部11Bの接触箇所が、剛性レール90の上下に離間して分散し、上述した下向きの荷重に対して安全器10の下方への移動を引き止める力の総和を大きい状態に維持することができる。
なお、各面接触部11Bから上述した回動軸11Cの中心までの最短の距離Lは、各尖端部11A、11Gの各尖端から回動軸11Cの中心までの距離W1、W2よりも長く設定されている。
【0022】
各尖端部11A、11Gおよび各面接触部11Bは、剛性レール90の長手方向に交わる向きに並んで安全器10の幅方向(図4で見て左右方向)に対称に配設されている(図示省略)。そして、各尖端部11A、11Gおよび各面接触部11Bは、上述した下向きの荷重を、剛性レール90に上下方向および水平方向に広範囲に分散した複数箇所で当接して受け止めるようになっている。これにより、上記下向きの荷重を受け止めているときにかかる水平方向の荷重により安全器10が回動して、各尖端部11A、11Gおよび各面接触部11Bの剛性レール90への当接箇所のうち安全器10の回動方向とは反対側の当接箇所が浮き上がっても、安全器10の少なくとも回動方向側の複数の当接箇所により剛性レール90の保持状態を維持して安全器10の下方への移動を抑制することができる。
【0023】
ところで、本実施形態の墜落防止装置1においては、図1に示すように、一本の剛性レール90に複数個の安全器10がそれぞれ独立して走行するように結合されている。このため、安全器10の連結部材12は、この連結部材90が設けられている安全器10よりも下側に位置する安全器10の連結部材12と干渉すると、上方向に摺動して押圧位置に位置したブレーキ部材11をその押圧位置から回動させる(図3参照)ようになっている。
ここで、ブレーキ部材11には、図2ないし図6に示すように、その回動軸11Cとジョイント11Dとの間にストッパー11Fが上側に突出して設けられている。このストッパー11Fは、その上端部が平板状に形成されて(図4参照)その板面を本体部14の底面に沿う向き(図5で見て右上方向)に向けており、上側に隣接した安全器10の本体部14に下側から当接して、この安全器10を受け止めるようになっている(図5参照)。これにより、図5に示すように、複数個の安全器10が上下に並んだ場合に、上側の安全器10の連結部材12が下側の安全器10の連結部材12によって押し上げられないようにして、上側の安全器10の停止状態が下側の安全器10により解除されることを抑制することができる。
【0024】
ここで、ブレーキ部材11において上記ストッパー11Fが形成される部分(すなわち、回動軸11Cとジョイント11Dとの間)は、図2および図3に示すように、ブレーキ部材11が押圧位置に回動する際に下方に移動するようになっている。このため、下側の安全器10のストッパー11Fが上側の安全器10の本体部14を受け止めると、その荷重により下側の安全器10のブレーキ部材11に押圧位置に向けて回動する向きの力が加わる。これにより、下側の安全器10が上側の安全器10を受け止めた際に、下側の安全器10が剛性レール90を保持する力を向上させることができる。
【0025】
〈第2の実施形態〉
続いて、第2の実施形態に係る墜落防止装置2の構成について、図7ないし図10を用いて説明する。第2の実施形態の墜落防止装置2は、第1の実施形態における安全器10の代わりに安全器20を用いたものである。したがって、上記第1の実施形態に係る安全器10の各構成と共通する構成については、その各構成に付した符号においてその十の位の数字を「2」に置き換えた符号を付して対応させ、その詳細な説明を省略する。また、第2の実施形態における剛性レールの各構成は、第1の実施形態における剛性レール90の各構成と共通しているので、この剛性レール90の各構成と同じ符号を付して対応させ、その詳細な説明を省略する。
【0026】
上記安全器20は、図7ないし図10に示すように、安全器10のブレーキ部材11をブレーキ部材21に、安全器10の連結部材12を連結部材22に、それぞれ置き換えたものである。この連結部材22には、その板厚方向(図10で見て左右方向)に貫通して第2貫通孔22Hが形成されている。この第2貫通孔22Hは、図7ないし図9に示すように、作業者Hの安全帯H1(図1参照)に装着された補助用のランヤードH3を挿通することで連結部材22と安全帯H1とを連結することができるように構成されている。これにより、作業者Hの高層建造物Bでの作業(図1参照)の安全性をさらに向上させることができる。
【0027】
上記ブレーキ部材21には、図7ないし図9に示すように、上述した一対の面接触部11Bの代わりに一対の接触爪21Bが設けられている。この各接触爪21Bは、剛性レール90よりも硬度が大となる爪形状に形成されている。また、各接触爪21Bは、ブレーキ部材21からそれぞれ剛性レール90の表面91側に向かって突出している。なお、各接触爪21Bは、安全器20の走行が許容されているとき(図8参照)およびブレーキ部材21が押圧位置に回動して安全器20の走行が停止されているとき(図7参照)には上記表面91に当接しないようになっている。ここで、上記各接触爪21Bが本発明における「接触部」に相当する。
ここで、図9に示すように、各接触爪21Bの尖端からブレーキ部材21の回動軸21Cの中心までの距離lは、各尖端部21A、21Gの各尖端から回動軸21Cの中心までの距離W1、W2よりも長く設定されている。また、ブレーキ部材21は、作業者Hの落下による下向きの荷重により各尖端部21Aを剛性レール90の表面91に食い込ませる際に、同時に上記表面91に上述した各接触爪21Bおよび1対の第2の尖端部21Gを強く押圧させるようになっている。このため、各接触爪21Bおよび各第2の尖端部21Gは、上記押圧により剛性レール90にその長手方向に直交する向き(図10で見て左右方向)に線状に食い込むようになっている。すなわち、ブレーキ部材21は、安全器20が停止しているときに加わる下向きの荷重を、各第2の尖端部21Gおよび各接触爪21Bの両方を剛性レール90に追加して食い込ませることで受け止めて安全器20の下方への移動を停止させる。これにより、安全器20の下方への移動を引き止める力をより大きくすることができる。
【0028】
各接触爪21Bは、図9に示すように、剛性レール90の表面91に各第2の尖端部21Gよりも下側で食い込むように構成されている。これにより、各第2の尖端部21Gの食い込み箇所および各接触爪21Bの接触箇所が、剛性レール90の上下に離間して分散し、上述した下向きの荷重に対して安全器20の下方への移動を引き止める力の総和を大きい状態に維持することができる。
また、各尖端部21A、21Gおよび各接触爪21Bは、剛性レール90の長手方向に交わる向きに並んで安全器20の幅方向(図4で見て左右方向)に対称に配設されている(図示省略)。そして、各尖端部21A、21Gおよび各接触爪21Bは、上述した下向きの荷重を、剛性レール90に上下方向および水平方向に広範囲に分散した複数箇所で当接して受け止めるようになっている。これにより、上記下向きの荷重を受け止めているときにかかる水平方向の荷重により安全器20が回動して、各尖端部21A、21Gおよび各接触爪21Bの剛性レール90への当接箇所のうち安全器20の回動方向とは反対側の当接箇所が浮き上がっても、安全器20の少なくとも回動方向側の複数の当接箇所により剛性レール90の保持状態を維持して安全器20の下方への移動を抑制することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態を第1および第2の実施形態を用いて説明したが、本発明は上記各実施形態のほか各種の形態で実施できるものである。例えば、各尖端部は剛性レールを線状に押圧する構成である必要はなく、例えば各尖端部が剛性レールを1つまたは複数の尖端を剛性レールに点接触させて押圧する構成を用いることもできる。また、カバーは上記実施形態の構成に限定されず、例えばカバーを本体部に取り付けた構成を用いることができる。また、カバーがブレーキ部材と連結部材との間にできる隙間またはブレーキ部材と本体部との間にできる隙間を覆う構成を用いることもできる。ここで、カバーの着脱可能性および具体的な取り付け構造は適宜設定することができる。
また、ブレーキ部材の構成は上記実施形態の構成に限定されず、例えば各尖端部および接触部を追加して設けることができる。また、剛性レールおよびローラー部材の構成は上記実施形態の構成に限定されず、安全器を走行させるための構成およびその具体的な形状は適宜設定することができる。また、墜落防止装置の構成は上記実施形態の構成に限定されず、安全器の各部材を連結および連動させる構成および剛性レールの具体的な取り付け構造は適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 墜落防止装置
10 安全器
11 ブレーキ部材
11A 第1の尖端部
11B 面接触部(接触部)
11C 回動軸
11D ジョイント
11E バネ
11F ストッパー
11G 第2の尖端部
12 連結部材
12A 長孔
12B カバー
12C 貫通孔
12D 隅部
12E 軸受け孔
12F ビス孔
12G ビス
13 ローラー部材
13A 車軸
14 本体部
14A 摺動軸
14B 滑車
2 墜落防止装置
20 安全器
21 ブレーキ部材
21A 第1の尖端部
21B 接触爪(接触部)
21C 回動軸
21D ジョイント
21E バネ
21F ストッパー
21G 第2の尖端部
22 連結部材
22A 長孔
22B カバー
22C 貫通孔
22D 隅部
22E 軸受け孔
22F ビス孔
22G ビス
22H 第2貫通孔
23 ローラー部材
23A 車軸
24 本体部
24A 摺動軸
24B 滑車
90 剛性レール
91 表面
92 裏面
93 溝部
94 案内部
95 レールジョイント
B 高層建造物
H 作業者
H1 安全帯
H2 ランヤード
H3 ランヤード
L 距離
l 距離
V 鉛直線
W1 距離
W2 距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者が装備した安全帯を取り付けることによって、前記作業者の高層建造物からの墜落を防止する墜落防止装置であって、
前記高層建造物に当該高層建造物の高さ方向に連続して長尺に設けられ、前記作業者の体重を支えることができる剛性を備えた剛性レールと、
前記剛性レールに結合され、当該剛性レールを上下方向に走行することができる安全器と、を備え、
前記安全器は、前記安全帯を取り付けるための連結部材と、前記剛性レールを走行するためのローラー部材と、前記走行を停止させるためのブレーキ部材と、を備え、
前記連結部材は、当該連結部材を上向きに引き上げる力がなくなったときに、下方向に所定量移動する構成とされ、
前記ブレーキ部材は、前記連結部材の前記移動に連動して、前記ブレーキ部材が前記剛性レールを押圧する押圧位置に回動することで、前記安全器の前記走行を停止させる構成とされ、
前記ブレーキ部材には、当該ブレーキ部材が前記押圧位置に位置して前記連結部材に下向きの荷重が加わったときに前記剛性レールに食い込むように当接する尖端を備えた第1の尖端部と、前記連結部材に更なる下向きの荷重が加わって前記ブレーキ部材が回動すると前記第1の尖端部よりも下側で前記剛性レールに食い込むように当接する尖端を備えた第2の尖端部と、当該第2の尖端部が前記剛性レールに食い込むときに前記第2の尖端部よりも下側で前記剛性レールに接触する接触部と、が設けられていることを特徴とする墜落防止装置。
【請求項2】
請求項1に記載の墜落防止装置であって、
前記接触部は、前記各尖端部と同様に前記剛性レールに食い込むように当接することを特徴とする墜落防止装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の墜落防止装置であって、
前記ブレーキ部材は、前記連結部材を挟み込むように当該連結部材の両側にそれぞれ設けられ、前記各尖端部および前記接触部は、前記剛性レールの長手方向に交わる向きに並んだ複数箇所で当該剛性レールに当接することを特徴とする墜落防止装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−27462(P2013−27462A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164105(P2011−164105)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(500308303)エス・デー・ケイ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】