説明

変化領域特定装置および変化領域特定プログラム。

【課題】植生域や水域などを除いた変化領域(例えば、被災地域)を1枚のコヒーレンス画像から検出できるようにする。
【解決手段】コヒーレンス画像生成部110は、第1のSAR撮像データ191と第2のSAR撮像データ192とに基づいて、観測地域のコヒーレンスを示すコヒーレンス画像193を生成する。マスク領域除外部120は、土地被覆分類図181、植生指標図182またはエントロピーアルファ分類図183に基づいて観測地域に含まれる植生域および水域をマスク領域として特定する。変化領域特定部130は、コヒーレンス画像193に基づいて、観測地域(マスク領域を除く)内でコヒーレンスがコヒーレンス閾値より小さい領域を変化領域として特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リモートセンシングに用いる変化領域特定装置および変化領域特定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
SARデータ(SAR:Synthetic Aperture Radar)を用いて変化領域を検出するCCD(Coherence Change Detection)という技術がある。
CCDは、観測時期の異なる2つのSARデータからコヒーレンス(複素相関)を算出し、コヒーレンスの低い領域を変化領域とみなす技術である。
例えば、CCDは、災害によって状態が変化した被災地域を検出するために用いられる。
しかし、植生域や水域などはコヒーレンスが常に低いため、CCDはこれらの領域を変化領域として検出してしまう。このため、被災地域を誤って検出してしまう可能性があった。
【0003】
この課題を解決する技術として特許文献1が存在する。
特許文献1が開示する技術は、コヒーレンス画像を2枚以上使用することにより、コヒーレンスが常に低い領域(植生域、水域など)を除外できる。
しかし、この技術は、コヒーレンス画像を2枚以上生成するため3枚以上のSAR画像が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−289111号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山口芳雄著、「レーダポーラリメトリの基礎と応用」、電子情報通信学会、平成19年12月25日発行、p.120〜p.124
【非特許文献2】佐藤源之、「8 散乱行列の固有分解」、[online]、[平成22年3月16日検索]、インターネット<URL:http://cobalt.cneas.tohoku.ac.jp/users/sato/8%20Eigen%20decomposition.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、例えば、植生域や水域などを除いた変化領域(例えば、被災地域)を1枚のコヒーレンス画像から検出できるようにすることを目的とする。
これにより、変化領域を検出する技術の利便性や即時性を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の変化領域特定装置は、
特定の観測地域を観測して得られる第1の画像データと、前記第1の画像データの観測時刻と異なる観測時刻に前記観測地域を観測して得られる第2の画像データとを記憶する画像データ記憶部と、
前記観測地域内で時刻によって状態が変化する領域をマスク領域として特定するマスク領域特定データを記憶するマスク領域特定データ記憶部と、
前記画像データ記憶部に記憶される第1の画像データと第2の画像データとに基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データとのコヒーレンスを画素毎に算出するコヒーレンス算出部と、
前記観測地域内の前記マスク領域以外の領域であってコヒーレンスが所定のコヒーレンス閾値より小さい画素に映る部分を変化領域として特定する変化領域特定部とを備える。
【0008】
前記画像データ記憶部は、振動方向の異なる複数の電磁波を用いて前記観測地域を観測して得られるポラリメトリ画像データを記憶し、
前記変化領域特定装置は、さらに、
前記ポラリメトリ画像データのエントロピーと前記ポラリメトリ画像データのアルファ角とを画素毎に算出するエントロピーアルファ算出部と、
前記エントロピーアルファ算出部により算出されたエントロピーとアルファ角とに基づいて所定の組み合わせのエントロピーとアルファ角とを有する画素に映る部分を前記マスク領域として特定し、特定したマスク領域を示すデータを前記マスク領域特定データとして生成するマスク領域特定データ生成部とを備える。
【0009】
前記画像データ記憶部は前記第1の画像データと前記第2の画像データとの少なくともいずれかを前記ポラリメトリ画像データとして記憶する。
【0010】
前記マスク領域特定データ記憶部は、前記観測地域を領域毎に分類する領域分類データを前記マスク領域特定データとして記憶し、
前記変化領域特定部は、前記領域分類データに基づいて所定の種類に分類される領域を前記マスク領域として変化領域から除外する。
【0011】
前記マスク領域特定データ記憶部は、前記観測地域内の植生領域を特定する植生指標データを前記マスク領域特定データとして記憶し、
前記変化領域特定部は、前記植生指標データに基づいて植生領域を前記マスク領域として変化領域から除外する。
【0012】
前記マスク領域特定データは植生域と水域との少なくともいずれかの領域をマスク領域として特定する。
【0013】
本発明の変化領域特定プログラムは、
特定の観測地域を観測して得られる第1の画像データと、前記第1の画像データの観測時刻と異なる観測時刻に前記観測地域を観測して得られる第2の画像データとを記憶する画像データ記憶部と、前記観測地域内で時刻によって状態が変化する領域をマスク領域として特定するマスク領域特定データを記憶するマスク領域特定データ記憶部とを備える変化領域特定装置の変化領域特定プログラムであって、
前記画像データ記憶部に記憶される第1の画像データと第2の画像データとに基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データとのコヒーレンスを画素毎に算出するコヒーレンス算出処理と、
前記観測地域内の前記マスク領域以外の領域であってコヒーレンスが所定のコヒーレンス閾値より小さい画素に映る部分を変化領域として特定する変化領域特定処理とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、植生域や水域などを除いた変化領域(例えば、被災地域)を1枚のコヒーレンス画像から検出することができる。
これにより、変化領域を検出する技術の利便性や即時性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1における変化領域検出装置100の機能構成図。
【図2】実施の形態1における観測地域の観測方法を示す図。
【図3】実施の形態1における変化領域検出装置100の変化領域検出方法を示すフローチャート。
【図4】実施の形態1における第1のSAR画像191aと第2のSAR画像192aとの一例を示す図。
【図5】実施の形態1におけるコヒーレンス画像193の一例を示す図。
【図6】実施の形態1における土地被覆分類図181を表した概略図。
【図7】実施の形態1における植生指標図182を表した概略図。
【図8】実施の形態1におけるエントロピーアルファ分類表184の概要図。
【図9】実施の形態1におけるコヒーレンスマスク画像194の一例を示す図。実施の形態1において変化領域を特定したコヒーレンスマスク画像194の一例を示す図。
【図10】実施の形態1における変化領域検出装置100の変化領域検出方法を示すフローチャートの別例を示す図。
【図11】実施の形態1における変化領域検出装置100のハードウェア資源の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
植生域や水域などを除いた変化領域(例えば、被災地域)を1枚のコヒーレンス画像から検出する形態について説明する。
【0017】
図1は、実施の形態1における変化領域検出装置100の機能構成図である。
実施の形態1における変化領域検出装置100の機能構成について、図1に基づいて以下に説明する。
【0018】
変化領域検出装置100(変化領域特定装置の一例)は、コヒーレンス画像生成部110、マスク領域除外部120、変化領域特定部130、補助データ記憶部180およびSAR撮像データ記憶部190を備える。
【0019】
SAR撮像データ記憶部190(画像データ記憶部の一例)は、特定の観測地域を観測して得られる第1の画像データと、第1の画像データの観測時刻と異なる観測時刻に観測地域を観測して得られる第2の画像データとを記憶する。
SAR撮像データ記憶部190は、振動方向の異なる複数の電磁波を用いて観測地域を観測して得られるポラリメトリ画像データ(後述するポラリメトリ観測データ199)を記憶する。
例えば、SAR撮像データ記憶部190は、第1の画像データと第2の画像データとの少なくともいずれかをポラリメトリ画像データとして記憶する。
【0020】
補助データ記憶部180(マスク領域特定データ記憶部の一例)は、観測地域内で時刻によって状態が変化する領域をマスク領域として特定するマスク領域特定データを記憶する。
例えば、補助データ記憶部180は、観測地域を領域毎に分類する領域分類データをマスク領域特定データとして記憶する。
例えば、補助データ記憶部180は、観測地域内の植生領域を特定する植生指標データをマスク領域特定データとして記憶する。
例えば、マスク領域特定データは植生域と水域との少なくともいずれかの領域をマスク領域として特定する。
【0021】
コヒーレンス画像生成部110(コヒーレンス算出部の一例)は、SAR撮像データ記憶部190に記憶される第1の画像データと第2の画像データとに基づいて第1の画像データと第2の画像データとのコヒーレンスを画素毎に算出する。
【0022】
マスク領域除外部120(エントロピーアルファ算出部、マスク領域特定データ生成部の一例)は、マスク領域特定データに基づいて観測地域内のマスク領域を特定する。
例えば、マスク領域除外部120は、ポラリメトリ画像データのエントロピーとポラリメトリ画像データのアルファ角とを画素毎に算出する。マスク領域除外部120は、算出したエントロピーとアルファ角とに基づいて所定の組み合わせのエントロピーとアルファ角とを有する画素に映る領域をマスク領域として特定する。マスク領域除外部120は、特定したマスク領域を示すデータをマスク領域特定データとして生成する。
【0023】
変化領域特定部130(変化領域特定部の一例)は、観測地域内のマスク領域以外の領域であってコヒーレンスが所定のコヒーレンス閾値より小さい画素に映る部分を変化領域として特定する。
例えば、変化領域特定部130は、領域分類データに基づいて所定の種類に分類される領域をマスク領域として変化領域から除外する。
例えば、変化領域特定部130は、植生指標データに基づいて植生領域をマスク領域として変化領域から除外する。
【0024】
後述する第1のSAR撮像データ191は第1の画像データの一例であり、後述する第2のSAR撮像データ192は第2の画像データの一例である。
マスク領域は、コヒーレンスがいつも低い領域(例えば、植生域や水域)に相当する。
後述する土地被覆分類図181、植生指標図182、エントロピーアルファ分類図183はマスク領域特定データの一例である。土地被覆分類図181は観測領域分類データの一例であり、植生指標図182は植生指標データの一例である。
【0025】
図2は、実施の形態1における観測地域の観測方法を示す図である。
実施の形態1における観測地域の観測方法について、図2に基づいて以下に説明する。
【0026】
合成開口レーダ200(SAR:Synthetic Aperture Radar)は、航空機、人工衛星その他の移動体(飛行体)に搭載され、上空を飛行する。
合成開口レーダ200はアンテナを備え、アクティブ方式によって観測地域を観測する。アクティブ方式において、合成開口レーダ200は所定の波形を有する電磁波を観測信号としてアンテナから発信し、観測地域で反射して後方散乱した観測信号をアンテナで受信する。
合成開口レーダ200の進行方向を「アジマス方向」といい、観測信号の進行方向を「レンジ方向」という。
また、観測信号の受信方向と垂直方向とが成す角度θを「観測角(または入射角、オフナディア角)」という。
【0027】
合成開口レーダ200によって受信された観測信号を表す波形データ(観測データ)に対してレンジ圧縮、レンジマイグレーション補正およびアジマス圧縮などの処理を行うことにより、SAR画像データが生成される。
【0028】
合成開口レーダ200は異なる観測日T1・T2に同じ観測地域を観測したものとする。
以下、観測日T1のSAR画像データを「第1のSAR撮像データ191」といい、観測日T2のSAR画像データを「第2のSAR撮像データ192」という。
また、観測日T1における合成開口レーダ200の観測位置と観測日T2における合成開口レーダ200の観測位置との距離(基線長)は、十分に短いものとする。基線長が長いと観測方向が大きく異なるため観測信号の波形が大きく変化し、状態が変化していない領域を変化領域として検出してしまう可能性があるからである。
【0029】
例えば、観測衛星「だいち」に搭載されているPALSAR(Phased Array type L−band SAR)で観測する場合、基線長が1キロメートル以下であることが望ましい。
観測衛星「だいち」は基線長が500メートル程度となるように軌道制御されているため、観測衛星「だいち」の観測によって得られたSAR撮像データを本実施の形態で利用することが可能である。
【0030】
変化領域検出装置100(図1参照)のSAR撮像データ記憶部190には、第1のSAR撮像データ191および第2のSAR撮像データ192が予め記憶されるものとする。
但し、第1のSAR撮像データ191および第2のSAR撮像データ192は合成開口レーダ200の観測によって得られたデータでなくても構わない。例えば、逆合成開口レーダ(ISAR:Inverse SAR)やその他の観測装置の観測によって得られたデータであっても構わない。
【0031】
図3は、実施の形態1における変化領域検出装置100の変化領域検出方法を示すフローチャートである。
実施の形態1における変化領域検出装置100の変化領域検出方法について、図3に基づいて以下に説明する。
【0032】
まず、変化領域検出方法(変化領域特定方法の一例)の概要について説明する。
【0033】
コヒーレンス画像生成部110は、第1のSAR撮像データ191と第2のSAR撮像データ192とに基づいて観測地域のコヒーレンスを算出し、コヒーレンス画像193を生成する(S110)。
マスク領域除外部120は、土地被覆分類図181、植生指標図182またはエントロピーアルファ分類図183に基づいて観測地域に含まれる植生域および水域をマスク領域として特定する(S120)。
変化領域特定部130は、コヒーレンス画像193に基づいて、観測地域(マスク領域を除く)内でコヒーレンスがコヒーレンス閾値より小さい領域を変化流域として特定する(S130)。
【0034】
図4は、実施の形態1における第1のSAR画像191aと第2のSAR画像192aとの一例を示す図である。
第1のSAR撮像データ191を再生した画像を第1のSAR画像191aとし、第2のSAR撮像データ192を再生した画像を第2のSAR画像192aとする。
【0035】
第1のSAR画像191aは浸水前の観測地域を映し、第2のSAR画像192aは市街地の一部が浸水した浸水後の観測地域を映している。
説明のため第1のSAR画像191aと第2のSAR画像192aとは変化領域(浸水地域)を明確に示しているが、観測信号の信号強度を解析して変化領域を明確に抽出することは困難であることが知られている。
【0036】
以下に、第2のSAR画像192aに示す浸水地域を検出する場合を例にして、変化領域検出方法(図3参照)の詳細について説明する。
【0037】
S110において、コヒーレンス画像生成部110は、第1のSAR撮像データ191と第2のSAR撮像データ192とのコヒーレンスを第1のSAR撮像データ191(または第2のSAR撮像データ192)から得られるSAR画像の画素毎に算出する。
【0038】
コヒーレンスとは、複素関数として表される2つの波形データ(第1のSAR撮像データ191、第2のSAR撮像データ192)の相関をとった値である。
コヒーレンスは「0」から「1」の値を持ち、2つの波形データが似ているほど「1」に近い値になり、2つの波形データが異なるほど「0」に近い値になる。
つまり、コヒーレンスが「1」に近い値であれば、1回目の観測で得られた波形データと2回目の観測で得られた波形データとが似ているから、1回目の観測と2回目の観測とで観測地域の地表面が変化していないと考えられる。
逆に、コヒーレンスが「0」に近い値であれば、1回目の観測で得られた波形データと2回目の観測で得られた波形データとが異なるから、1回目の観測と2回目の観測とで観測地域の地表面が変化したと考えられる。
【0039】
例えば、植生(木の枝葉など)は風に揺れ又成長し、水面は風に揺れる。このため、植生領域や水域のように常に変化する領域はコヒーレンスが「0」に近い値になる。
また、浸水した地域や、新しく建物が建った地域はその前後で状態が変化しているため、コヒーレンスが「0」に近い値になる。
【0040】
コヒーレンスの算出方法については後述する。
【0041】
以下、S110で算出されたコヒーレンスを用いて表した画像を「コヒーレンス画像193」という。コヒーレンス画像193は観測地域を輝度(信号強度)ではなくコヒーレンスで表す。
【0042】
S110の後、S120に進む。
【0043】
図5は、実施の形態1におけるコヒーレンス画像193の一例を示す図である。
第1のSAR画像191a(図4、浸水前)と第2のSAR画像192a(図4、浸水後)とに対して図5に示すようなコヒーレンス画像193が得られる。
コヒーレンス画像193は、山、湖および浸水地域を「0」に近い値(コヒーレンス)で表している。このため、コヒーレンス画像193から浸水地域を特定することができない。
【0044】
図3に戻り、変化領域検出方法の説明を続ける。
【0045】
S120において、マスク領域除外部120は、土地被覆分類図181、植生指標図182またはエントロピーアルファ分類図183に基づいて、観測地域に含まれる植生領域および水域をマスク領域として特定する。
以下に、土地被覆分類図181、植生指標図182およびエントロピーアルファ分類図183について説明する。
【0046】
図6は、実施の形態1における土地被覆分類図181を表した概略図である。
土地被覆分類図181は、地域を市街地、水田、畑地、芝地、広葉樹林、針葉樹林、砂地、裸地、水域などの領域に分けて示した地図データである。
マスク領域除外部120は、土地被覆分類図181に基づいて観測地域内の水田、畑地、芝地、広葉樹林、針葉樹林、砂地、裸地、水域などをマスク領域として特定する。
【0047】
図7は、実施の形態1における植生指標図182を表した概略図である。
植生指標図182は、植生の分布状況を表す地図データであり、植物から放射される近赤外線を植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)にして生成される。
図7では、植生が活性している地域(植生領域)を濃い網掛けで示している。
マスク領域除外部120は、植生指標図182に基づいて観測地域内の植生領域をマスク領域として特定する。
【0048】
図8は、実施の形態1におけるエントロピーアルファ分類表184の概要図である。
エントロピーアルファ分類図183は、図8に示すようなエントロピーアルファ分類表184に基づいて生成される。
【0049】
エントロピーアルファ分類表184は、エントロピーとアルファ角と観測対象の分類とを対応付けた表データである。エントロピーは観測信号の散乱の複雑さを表し、アルファ角は散乱メカニズムを表す。
エントロピーとアルファ角とに基づいて観測対象を分類できることが知られている(非特許文献1参照)。
【0050】
エントロピーとアルファ角は、合成開口レーダ200からポラリメトリ観測して得られた観測データから求まる。ポラリメトリ観測とは、振動方向の異なる複数の電磁波(多偏波)を観測信号として用いる観測方法である。
以下、ポラリメトリ観測して得られた観測データを「ポラリメトリ観測データ199」という。ポラリメトリ観測データ199はSAR撮像データの一種である。
【0051】
マスク領域除外部120は、観測地域を観測して得られたポラリメトリ観測データ199を用いてエントロピーとアルファ角とをSAR画像の画素毎に算出する。エントロピーとアルファ角との算出式については説明を省略する(例えば、非特許文献2参照)。
ポラリメトリ観測データ199は、SAR撮像データ記憶部190に記憶されているものとする。
但し、第1のSAR撮像データ191と第2のSAR撮像データ192との少なくともいずれかがポラリメトリ観測データである場合、別のポラリメトリ観測データ199を用意する必要はない。マスク領域除外部120は第1のSAR撮像データ191または第2のSAR撮像データ192を用いてエントロピーとアルファ角とを算出する。
【0052】
マスク領域除外部120は、エントロピーアルファ分類表184を参照してエントロピーとアルファ角とに対応する分類を画素毎に特定し、植生に分類されるSAR画像内の範囲を植生領域として特定する。
マスク領域除外部120は、特定した植生領域を示す地図データとしてエントロピーアルファ分類図183を生成し、生成したエントロピーアルファ分類図183を補助データ記憶部180に記憶する。エントロピーアルファ分類図183は土地被覆分類図181や植生指標図182と同様に植生領域の分布を表す。
【0053】
図3に戻り、変化領域検出方法の説明を続ける。
【0054】
S120において、マスク領域除外部120は、土地被覆分類図181、植生指標図182またはエントロピーアルファ分類図183に示される観測地域内の植生領域および水域をマスク領域として特定する。
マスク領域除外部120は、検出する変化領域(例えば、浸水地域)からマスク領域を除外するため、コヒーレンス画像193内のマスク領域をマスクする。例えば、マスク領域除外部120は、コヒーレンス画像193内のマスク領域の各画素にマスク領域であることを示す所定のマスク値を設定する。また例えば、マスク領域除外部120は、コヒーレンス画像193に対応する画像であってマスク領域にマスク値を設定したマスク画像を生成する。コヒーレンス画像193とマスク画像と対比することにより、コヒーレンス画像193に対してマスク領域とマスク領域以外の領域とを区別することができる。
以下、S120でマスクしたコヒーレンス画像193を「コヒーレンスマスク画像194」という。
S120の後、S130に進む。
【0055】
図9は、実施の形態1におけるコヒーレンスマスク画像194の一例を示す図である。
コヒーレンス画像193(図5参照)内の山および湖をマスク領域としてマスクすると、図9に示すようなコヒーレンスマスク画像194が得られる。
【0056】
図3に戻り、変化領域検出方法の説明を続ける。
【0057】
S130において、変化領域特定部130は、コヒーレンスマスク画像194に示されるコヒーレンスを所定のコヒーレンス閾値(「0」に近い値)と画素毎に比較する。コヒーレンスマスク画像194に示されるコヒーレンスとは、マスク領域以外の画素のコヒーレンスのことである。
変化領域特定部130は、コヒーレンスマスク画像194内でコヒーレンスがコヒーレンス閾値より小さい部分を変化画素領域として特定する。
変化領域特定部130は、変化画素領域に映る領域を変化領域として特定する。例えば、変化領域特定部130は、合成開口レーダ200の観測位置、アンテナの観測角、観測信号の伝播時間(発信から受信までの時間)などの情報に基づいて変化画素領域内の画素に対応する緯度、経度を算出し、変化領域の緯度、経度の範囲を特定する。
【0058】
例えば、変化領域特定部130は、コヒーレンスマスク画像194(図9参照)を閾値処理することにより、浸水地域だけを変化領域として特定することができる。
S130により、変化流域検出方法は終了する。
【0059】
図10は、実施の形態1における変化領域検出装置100の変化領域検出方法を示すフローチャートの別例を示す図である。
上記の変化領域検出方法(図3参照)では、コヒーレンス画像193を生成(S110)した後にマスク領域を特定し(S120)、コヒーレンスマスク画像194に基づいてマスク領域以外の領域から変化領域を特定している(S130)。
但し、図10に示すように、コヒーレンス画像193の生成(S220)とマスク領域の特定(S210)との順序を変えてもよい。
【0060】
S210において、マスク領域除外部120は、土地被覆分類図181、植生指標図182またはエントロピーアルファ分類図183に基づいて観測地域に含まれる植生域および水域をマスク領域として特定する。
S220において、コヒーレンス画像生成部110は、第1のSAR撮像データ191と第2のSAR撮像データ192とに基づいて観測地域(マスク領域を除く)のコヒーレンスを算出し、コヒーレンス画像193を生成する。このコヒーレンス画像193は上記のコヒーレンスマスク画像194に相当する。
S230において、変化領域特定部130は、コヒーレンス画像193に基づいて、観測地域(マスク領域を除く)内でコヒーレンスがコヒーレンス閾値より小さい領域を変化流域として特定する。
【0061】
図10の処理順序であれば、S220でマスク領域内の画素に対してコヒーレンスを算出しないため、処理時間を短縮することができる。
【0062】
次に、コヒーレンスの算出方法について説明する。
【0063】
コヒーレンスγ(0≦γ≦1)は、SAR複素データS1(第1のSAR撮像データ191)とSAR複素データS2(第2のSAR撮像データ192)とを用いて、以下の式(1)で算出される。
「<>」は平均値を示し、「*」は複素共役を示す。
【0064】
【数1】

【0065】
但し、(i,j)画素のコヒーレンスγ(i,j)は、(i,j)画素を含む画素領域のSAR複素データS1・S2に基づいて算出する。(i,j)画素は、SAR画像内の座標(i,j)に位置する画素を意味する。
(i,j)画素のSAR複素データSは、以下の式(2)のように表される。「a」は振幅(実部)を示し、「e」は複素数(虚部)を示す。
【0066】
【数2】

【0067】
例えば、コヒーレンスγ(i,j)は、(i,j)画素を含む「2×2」ピクセルの画素領域または(i,j)画素を中心とする「3×3」ピクセルの画素領域のSAR複素データS1・S2に基づいて算出される。
【0068】
上記式(1)を展開した式(3)を以下に示す。
(i’,j’)は対象とする画素領域内の画素の座標を示す。
【0069】
【数3】

【0070】
対象とする画素領域を大きくするほどサンプリング量が増え、観測信号の波形を詳細に表すことができるため、コヒーレンスγ(i,j)の精度が高まる。但し、画素領域を大きくするほど、コヒーレンスγ(i,j)の算出に要する計算量は増える。
画素領域の大きさは、コヒーレンスγ(i,j)の精度と計算量とを考慮して設定するとよい。
【0071】
図11は、実施の形態1における変化領域検出装置100のハードウェア資源の一例を示す図である。
図11において、変化領域検出装置100は、CPU911(Central・Processing・Unit)(マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータともいう)を備えている。CPU911は、バス912を介してROM913、RAM914、通信ボード915、表示装置901、キーボード902、マウス903、ドライブ装置904、磁気ディスク装置920と接続され、これらのハードウェアデバイスを制御する。ドライブ装置904は、FD(Flexible・Disk・Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital・Versatile・Disc)などの記憶媒体を読み書きする装置である。
【0072】
通信ボード915は、有線または無線で、LAN(Local Area Network)、インターネット、電話回線などの通信網に接続している。
【0073】
磁気ディスク装置920には、OS921(オペレーティングシステム)、ウィンドウシステム922、プログラム群923、ファイル群924が記憶されている。
【0074】
プログラム群923には、実施の形態において「〜部」として説明する機能を実行するプログラムが含まれる。プログラムは、CPU911により読み出され実行される。すなわち、プログラムは、「〜部」としてコンピュータを機能させるものであり、また「〜部」の手順や方法をコンピュータに実行させるものである。
【0075】
ファイル群924には、実施の形態において説明する「〜部」で使用される各種データ(入力、出力、判定結果、計算結果、処理結果など)が含まれる。
【0076】
実施の形態において構成図およびフローチャートに含まれている矢印は主としてデータや信号の入出力を示す。
【0077】
実施の形態において「〜部」として説明するものは「〜回路」、「〜装置」、「〜機器」であってもよく、また「〜ステップ」、「〜手順」、「〜処理」であってもよい。すなわち、「〜部」として説明するものは、ファームウェア、ソフトウェア、ハードウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで実装されても構わない。
【0078】
変化領域検出装置100は、植生領域や水域など常に変化している流域を除いて変化領域(例えば、浸水地域)を検出することができる。また、検出できる変化領域は浸水地域に限られず、火災や地震などによって倒壊した建物や亀裂の生じた道路を検出することもできる。さらに、変化領域検出装置100は、災害が発生した場合でなく、新しく建造された建物を検出する場合などにも利用することができる。
変化領域検出装置100は、2枚のSAR画像から生成される1枚のコヒーレンス画像を用いて変化領域を検出することができる。このため、変化領域検出装置100は、観測時期の異なる3枚のSAR画像が入手できない場合や3枚目のSAR画像の観測を待たず早急に災害地域を特定したい場合などにも使用することができる。
【符号の説明】
【0079】
100 変化領域検出装置、110 コヒーレンス画像生成部、120 マスク領域除外部、130 変化領域特定部、180 補助データ記憶部、181 土地被覆分類図、182 植生指標図、183 エントロピーアルファ分類図、184 エントロピーアルファ分類表、190 SAR撮像データ記憶部、191 第1のSAR撮像データ、191a 第1のSAR画像、192 第2のSAR撮像データ、192a 第2のSAR画像、193 コヒーレンス画像、194 コヒーレンスマスク画像、199 ポラリメトリ観測データ、200 合成開口レーダ、901 表示装置、902 キーボード、903 マウス、904 ドライブ装置、911 CPU、912 バス、913 ROM、914 RAM、915 通信ボード、920 磁気ディスク装置、921 OS、922 ウィンドウシステム、923 プログラム群、924 ファイル群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の観測地域を観測して得られる第1の画像データと、前記第1の画像データの観測時刻と異なる観測時刻に前記観測地域を観測して得られる第2の画像データとを記憶する画像データ記憶部と、
前記観測地域内で時刻によって状態が変化する領域をマスク領域として特定するマスク領域特定データを記憶するマスク領域特定データ記憶部と、
前記画像データ記憶部に記憶される第1の画像データと第2の画像データとに基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データとのコヒーレンスを画素毎に算出するコヒーレンス算出部と、
前記観測地域内の前記マスク領域以外の領域であってコヒーレンスが所定のコヒーレンス閾値より小さい画素に映る部分を変化領域として特定する変化領域特定部と
を備えたことを特徴とする変化領域特定装置。
【請求項2】
前記画像データ記憶部は、振動方向の異なる複数の電磁波を用いて前記観測地域を観測して得られるポラリメトリ画像データを記憶し、
前記変化領域特定装置は、さらに、
前記ポラリメトリ画像データのエントロピーと前記ポラリメトリ画像データのアルファ角とを画素毎に算出するエントロピーアルファ算出部と、
前記エントロピーアルファ算出部により算出されたエントロピーとアルファ角とに基づいて所定の組み合わせのエントロピーとアルファ角とを有する画素に映る部分を前記マスク領域として特定し、特定したマスク領域を示すデータを前記マスク領域特定データとして生成するマスク領域特定データ生成部とを備える
ことを特徴とする請求項1記載の変化領域特定装置。
【請求項3】
前記画像データ記憶部は前記第1の画像データと前記第2の画像データとの少なくともいずれかを前記ポラリメトリ画像データとして記憶することを特徴とする請求項2記載の変化領域特定装置。
【請求項4】
前記マスク領域特定データ記憶部は、前記観測地域を領域毎に分類する領域分類データを前記マスク領域特定データとして記憶し、
前記変化領域特定部は、前記領域分類データに基づいて所定の種類に分類される領域を前記マスク領域として変化領域から除外する
ことを特徴とする請求項1記載の変化領域特定装置。
【請求項5】
前記マスク領域特定データ記憶部は、前記観測地域内の植生領域を特定する植生指標データを前記マスク領域特定データとして記憶し、
前記変化領域特定部は、前記植生指標データに基づいて植生領域を前記マスク領域として変化領域から除外する
ことを特徴とする請求項1記載の変化領域特定装置。
【請求項6】
前記マスク領域特定データは植生域と水域との少なくともいずれかの領域をマスク領域として特定することを特徴とする請求項1〜請求項5いずれかに記載の変化領域特定装置。
【請求項7】
特定の観測地域を観測して得られる第1の画像データと、前記第1の画像データの観測時刻と異なる観測時刻に前記観測地域を観測して得られる第2の画像データとを記憶する画像データ記憶部と、前記観測地域内で時刻によって状態が変化する領域をマスク領域として特定するマスク領域特定データを記憶するマスク領域特定データ記憶部とを備える変化領域特定装置の変化領域特定プログラムにおいて、
前記画像データ記憶部に記憶される第1の画像データと第2の画像データとに基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データとのコヒーレンスを画素毎に算出するコヒーレンス算出処理と、
前記観測地域内の前記マスク領域以外の領域であってコヒーレンスが所定のコヒーレンス閾値より小さい画素に映る部分を変化領域として特定する変化領域特定処理と
をコンピュータに実行させる変化領域特定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−209780(P2011−209780A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74047(P2010−74047)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(591102095)三菱スペース・ソフトウエア株式会社 (148)
【Fターム(参考)】