説明

変圧器の内部異常診断方法

【課題】従来よりも高精度で安価に変圧器内部の異常診断を行うことのできる変圧器の内部異常診断方法を提供する。
【解決手段】電流センサ4の検出信号が商用電源電圧6と同期し、かつ電流センサ4の検出信号とAEセンサ2の検出信号との信号発生時間差Δtが同一となる場合が一定時間内に所定数以上(閾値数以上)ある場合に、部分放電と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の経年劣化等によって変圧器内部で発生する部分放電(内部異常)を検出するための変圧器の内部異常診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、変圧器の内部異常診断方法としては、変圧器の絶縁油に含まれるガスの成分を分析(油中ガス分析)する方法、変圧器内部の部分放電によって生じる弾性波(超音波等)をアコースティックエミッションセンサ(AEセンサ、超音波センサ)で検出する方法、部分放電発生時に接地線を流れる放電パルス信号を電流センサで検出する方法、前記のAEセンサによる信号と電流センサによる信号の時間差が同一のケースが連続した場合に放電と判定する方法(例えば、特許文献1参照)等が実用化されている。
【特許文献1】特開平4−194762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の変圧器の内部異常診断方法については、以下のような問題点があった。
【0004】
まず、油中ガス分析で内部異常を診断する方法は、診断コストが高いため(例えば、診断コストは15千円/台)、診断頻度が上げられないという問題があり、診断周期が長期化していた(例えば、2年周期で診断)。
【0005】
また、AEセンサによる方法は、簡便な方法ではあるもののノイズの問題があり、内部の異常によって生じた信号かノイズかの判定が困難で普及には至っていない。
【0006】
また、電流センサによる方法も、変圧器外部のコロナ放電によるパルス信号を拾ってしまうなどノイズの影響があり、やはり普及には至っていない。
【0007】
さらに、前記特許文献1のように、AEセンサと電流センサを両方用いて信号検出を行い、両センサからの信号の時間差が同一となる信号検出が複数回続いた場合に部分放電と判定する方法は、偶然連続してノイズを拾ってしまう誤検出を判別できないという問題と、連続して放電しない初期放電を検出できないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、従来よりも高精度で安価に変圧器内部の異常診断を行うことのできる変圧器の内部異常診断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の特徴を有する。
【0010】
[1]変圧器の内部異常である部分放電を検出する変圧器の内部異常診断方法であって、部分放電によって生じる弾性波を検出するアコースティックエミッションセンサと、接地線に流れる電流を検出する電流センサを設け、前記電流センサの検出信号が変圧器への印加電圧と同期し、かつ前記電流センサの検出信号と前記アコースティックエミッションセンサの検出信号との時間差が同一となる場合が一定時間内に所定数以上ある場合に、部分放電と判定することを特徴とする変圧器の内部異常診断方法。
【0011】
[2]前記アコースティックエミッションセンサからの信号と前記電流センサからの信号を、商用電源電圧が瞬時値0Vの時点から0.5サイクル分ごとに区切り、0.5サイクルごとに、それぞれの検出信号とその発生時間を記録することにより、前記アコースティックエミッションセンサの検出信号と前記電流センサの検出信号が当該変圧器への印加電圧の波高値と同期するか否かを確認することを特徴とする前記[1]に記載の変圧器の内部異常診断方法。
【0012】
[3]前記アコースティックエミッションセンサからの信号と前記電流センサからの信号を、商用電源電圧が瞬時値0Vの時点から0.5サイクル分毎に区切り、0.5サイクル毎に得られる、前記アコースティックエミッションセンサによる検出信号の大きさPAEと、前記電流センサによる検出信号の大きさPCTを用いてノイズを除去した後、前記アコースティックエミッションセンサによる検出信号の発生時間TAEと、前記電流センサによる検出信号の発生時間TCTを用いてグラフを描画し、そのグラフに基づいて部分放電を判定することを特徴とする前記[1]または[2]に記載の変圧器の内部異常診断方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、変圧器内の部分放電による内部異常を、高コストであった従来のガス分析による診断方法よりも安価に、また精度の面で問題のあった従来の部分放電診断方法よりも高精度に診断を行うことができる。その結果、変圧器内の部分放電による内部異常を日常点検によって的確に検知することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態において用いる変圧器の内部異常診断システムを示すものである。この診断システムは、診断対象変圧器1内に対して、変圧器1内の部分放電によって生じる弾性波(超音波)信号を検出するアコースティックエミッションセンサ(AEセンサ、超音波センサ)2およびその増幅器(AEプリアンプ)3と、部分放電発生時に接地線を流れる放電パルス信号を検出する電流センサ4と、商用電源6の電圧を検出する電圧検出端子7と、それらの検出データに基づいて演算・画像表示をして部分放電の判定を行う演算・表示装置5から構成されている。ここで、商用電源電圧を検出しているのは、変圧器1への印加電圧は商用電源電圧と同じ位相であるので、印加電圧の検出を商用電源電圧の検出で代用するためである。
【0016】
なお、図2は、AEセンサ2、電流センサ4、電圧検出端子7から演算・表示装置5に送られてくる信号の一例を示したものである。
【0017】
そして、この実施形態においては、電流センサ4の検出信号が商用電源電圧(変圧器1への印加電圧)と同期し、かつ電流センサ4の検出信号とAEセンサ2の検出信号との信号発生時間差Δtが同一となる場合が一定時間内に所定数以上(閾値数以上)ある場合に、部分放電と判定するようにしている。
【0018】
具体的には、商用電源電圧の瞬時値0Vを起点として、0.5サイクル(例えば、60サイクルの場合は1/120(S))毎に区切り、0.5サイクル毎に得られる、AEセンサ2による検出信号の大きさPAEと、電流センサ4による検出信号の大きさPCTを用いてノイズを除去した後、AEセンサ2による検出信号の発生時間TAEと、電流センサ4による検出信号の発生時間TCTを用いて、図3に示すような、電流センサ4による検出信号の発生時間TCTと前述の信号発生時間差Δt(=TAE−TCT)をベクトル表示したグラフを描画し、そのグラフを網目に区切った区域内の点密度が閾値以上の区域が、電圧放電判定範囲(商用電源電圧の波高値と同期する範囲)にあるとき、部分放電と判定するようにしている。
【0019】
以下に、図3に示すグラフの描画とそのグラフに基づく部分放電の判定の手順について説明する。
【0020】
まず、ノイズ除去のために、電流センサ4による検出信号の大きさPCTとAEセンサ2による検出信号の大きさPAEの積がある閾値以上(またはある範囲内)であるような信号を取り出す。これは、変圧器1の内部放電により得られる信号の大きさと、変電所単位で発生する大きなノイズ、小さなノイズとを区別することで、大雑把にノイズを取り除くためである。
【0021】
続いて、残った信号から信号発生時間差Δt(=TAE−TCT)が負である信号を取り除く。これは、変圧器1内の部分放電によって生じる弾性波(超音波)信号の伝播速度は、部分放電によって接地線を流れる放電パルス信号の伝達速度に比べて遅いので、放電パルス信号を検出する電流センサ4の方が弾性波(超音波)信号を検出するAEセンサ2よりも早く信号検出することを利用したノイズ除去である。すなわち、信号発生時間差Δtが負である信号は、部分放電による信号ではないからである。
【0022】
上記のようにしておおまかなノイズを除いた信号から、電流信号発生時間TCTと信号発生時間差Δtを用いて、図3に示すような、ベクトル表示によるグラフを描画する。
【0023】
このベクトル表示によるグラフは、図3(a)に示すように、電流信号発生時間TCTを原点Oからの距離で表し、信号発生時間差Δtを縦軸から円周方向への回転角度で表したものである。
【0024】
これにより、電流信号発生時間がTCT1で、信号発生時間差がΔtである信号は、図3(a)中のA点(TCT1、Δt)の位置に表示され、電流信号発生時間がTCT2で、信号発生時間差がΔtである信号は、図3(a)中のB点(TCT2、Δt)の位置に表示される。
【0025】
そして、上記のようにして描画されたグラフにおいては、変圧器1内で部分放電現象がある場合は、
(ア)部分放電の発生は印加電圧の波高値と同期する。
(イ)放電点が同一の場合、信号発生時間差Δtが同一の信号が得られる。
という特性から、描画される点が図3(b)に示すように偏在することになる。
【0026】
そこで、この偏在具合について、図3(b)に示すように、グラフをグリッド状(網目状)に区切った区域内の点数として検出し、点数の多い(密度の高い)区域が印加電圧(商用電源電圧)の波高値と同期している場合は、部分放電であると判定する。
【0027】
これに対して、ノイズの場合は、信号発生時間差Δtが一定でないため、グラフ上に全面的に分布することとなり、図3(b)に示すような偏在は生じない。
【0028】
このようにして、この実施形態では、AEセンサおよび電流センサによる診断方法が本質的にノイズを拾い易いという点を克服することができる。
【0029】
また、前記特許文献1に記載の診断方法の問題点である、偶然連続してノイズを拾ってしまう誤検出を判別できないという問題や連続して放電しない初期放電を検出できないという問題についても、この実施形態では、検出信号の全体的傾向から部分放電を判定しているうえ、印加電圧波高値と同期する検出信号を重視することで更なるノイズ除去が可能となっており、より高精度で部分放電を検知することができる。
【0030】
さらに、検出信号を図3に示したようなグラフに描画することにより、演算・表示装置5による判定結果を作業者が視覚的に最終確認することができる。
【0031】
したがって、この実施形態においては、変圧器1内の部分放電による内部異常を、高コストであった従来のガス分析による診断方法よりも安価に、また精度の面で問題のあった従来の部分放電診断方法よりも高精度に診断を行うことができる。その結果、変圧器1内の部分放電による内部異常を日常点検によって的確に検知することが可能となる。
【実施例1】
【0032】
本発明の実施例として、上記の実施形態に基づいて、変圧器の内部異常(部分放電)の診断を行った例を示す。
【0033】
なお、その際に使用した各診断機器の諸元は、
AEセンサ 周波数帯域:300kHz〜2.2MHz
AEプリアンプ 周波数帯域:100Hz〜20MHz
AEテスタ 最大入力電圧:50mVp−p
周波数特性:100kHz〜2MHz(−3dB)
検出感度:50μV〜5mV
電流センサ 周波数特性:20kHz〜30MHz
である。
【0034】
そして、その診断結果を図4、図5に示す。それぞれの図において、(a)が各センサからの信号であり、(b)が電流信号発生時間TCTと信号発生時間差Δtをベクトル表示で描画したグラフである。
【0035】
図4については、図4(b)に示すように、描画された点が偏在しており、その偏在した区域が商用電源電圧の波高値と同期していることから、部分放電であると判定された。
【0036】
これに対して、図5については、図5(b)に示すように、描画された点がグラフ上に散らばって存在しており、部分放電ではないと判定された。
【0037】
このようにして、変圧器の内部異常診断を的確に行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態における内部異常診断システムを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における各センサからの信号の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるベクトル表示グラフを示す図である。
【図4】本発明の実施例における診断結果を示す図である(内部放電あり)。
【図5】本発明の実施例における診断結果を示す図である(内部放電なし)。
【符号の説明】
【0039】
1 変圧器
2 AEセンサ
3 AEプリアンプ
4 電流センサ
5 演算・表示装置
6 商用電源
7 電圧検出端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の内部異常である部分放電を検出する変圧器の内部異常診断方法であって、部分放電によって生じる弾性波を検出するアコースティックエミッションセンサと、接地線に流れる電流を検出する電流センサを設け、前記電流センサの検出信号が変圧器への印加電圧と同期し、かつ前記電流センサの検出信号と前記アコースティックエミッションセンサの検出信号との時間差が同一となる場合が一定時間内に所定数以上ある場合に、部分放電と判定することを特徴とする変圧器の内部異常診断方法。
【請求項2】
前記アコースティックエミッションセンサからの信号と前記電流センサからの信号を、商用電源電圧が瞬時値0Vの時点から0.5サイクル分ごとに区切り、0.5サイクルごとに、それぞれの検出信号とその発生時間を記録することにより、前記アコースティックエミッションセンサの検出信号と前記電流センサの検出信号が当該変圧器への印加電圧の波高値と同期するか否かを確認することを特徴とする請求項1に記載の変圧器の内部異常診断方法。
【請求項3】
前記アコースティックエミッションセンサからの信号と前記電流センサからの信号を、商用電源電圧が瞬時値0Vの時点から0.5サイクル分毎に区切り、0.5サイクル毎に得られる、前記アコースティックエミッションセンサによる検出信号の大きさPAEと、前記電流センサによる検出信号の大きさPCTを用いてノイズを除去した後、前記アコースティックエミッションセンサによる検出信号の発生時間TAEと、前記電流センサによる検出信号の発生時間TCTを用いてグラフを描画し、そのグラフに基づいて部分放電を判定することを特徴とする請求項1または2に記載の変圧器の内部異常診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−180681(P2008−180681A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16240(P2007−16240)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】