説明

変圧器

【課題】動吸振器を設けることで、変圧器の騒音レベルを低減できるが、温度変化により、変圧器の固有周波数が変化し、騒音が増大することには対応できない。
【解決手段】タンクと、このタンク内に保持された鉄心と巻線と、このタンクに設けられたコンサベータを備えた変圧器において、油量調整装置を設けた。コンサベータの油量を調整することで、温度変化により変圧器の固有周波数が変動しても騒音の卓越周波数に一致しないように変圧器の固有周波数を調整可能となり、騒音増大を抑制可能な変圧器を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁誘導の作用により交流電流の電圧を変える変圧器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器は、住宅地内あるいは住宅地に隣接する場所に設置されることもあり、変圧器から発生する騒音が問題となっていた。
変圧器は、電磁誘導作用を利用するため、鉄心に巻装された巻線に交流電圧を印加し、交流電流が励起された時に騒音が発生し、従来から、鋼板やコンクリートなどにより構成された防音構造物の設置などの対策が考えられていた。しかし、防音構造物の設置では、設置面積の確保や工期の延長などの問題がある。
一方、この変圧器の騒音の原因は複数考えられるが、鉄心材である電磁鋼板の磁気歪みによる振動が主原因であり、その他各部位に働く電磁力による振動他、様々な要因による振動等の要因について、それぞれの要因ごとに対策することで、大型の防音構造物に依存しない騒音対策がなされてきた(例えば、特許文献1)。
【0003】
例えば、従来は、鉄心構造に動吸振器を設置して振動および騒音を低減していた(例えば特許文献1)。
遮音板構造に動吸振器を設置して振動および騒音を低減しているものもある(例えば特許文献2)。
また、ブッシングに動吸振器を設け、ブッシングの振動を低減させ、周辺機器との相対変位を低減しているものもある(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−45751号公報(〔0005〕〜〔0009〕、〔0020〕、図1)
【特許文献2】特開昭59−169119号公報(2頁右上10行〜左下10行、図4〜6)
【特許文献3】特開平5−121246号公報(〔0009〕〜〔0011〕、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような変圧器の騒音抑制のための振動対策にあっては、重量体とばね要素からなる動吸振器を取り付ける必要があったため、取り付け部位の確保、コストの増加など制約があった。また、温度変化により、変圧器の固有周波数が変化し、変圧器の固有周波数が変圧器騒音の卓越周波数に近接することで、騒音が増大することがある。従来の動吸振器を設けたとしても、変圧器の固有周波数変動に対応することができず、結果的に騒音低減を図ることができないという問題があった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、温度変化により変圧器の固有周波数に変化があっても有効に騒音を低減できる変圧器を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る変圧器は、タンクと、該タンク内の油中に保持され巻線の巻回された鉄心と、前記タンクに設けられたコンサベータと、該コンサベータの油量を調整する油量調整装置とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、変圧器内の油量を調整・制御することで、変圧器全体の固有周波数を制御し、温度変化により、変圧器の固有周波数が変圧器騒音の卓越周波数に近接することを抑制することで、変圧器の騒音を低減可能となるという従来にない顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1による変圧器を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1による連成振動系のモデルを表す図である。
【図3】本発明の実施の形態1によるタンクの振動の伝達関数である。
【図4】本発明の実施の形態1による別の変圧器を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1によるさらに別の変圧器を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2による変圧器を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3による変圧器を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態4による変圧器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による変圧器を示す断面図である。
図において、冷却及び絶縁のための油5が封入されたタンク1内に鉄心2と巻線3が保持されている。油入変圧器では、タンク1の油補充のために通常コンサベータ4が設けられている。変圧器の負荷変化により、油5の温度が上昇すると、油5の密度が低くなり膨張し、コンサベータ4へ流入し、コンサベータの油面が上昇する。油5の温度が降下すると、油面が下がり、油5の密度が高くなり収縮し、油5はタンク1へ流入する。コンサベータ4には、ポンプ7と油量調整タンク8を備えた油量調整装置6が設けられ、コンサベータの油の量を調整することができる。また、温度センサ9により測定したタンク1の温度情報を、図中点線で示すように油量調整装置6に与えて、コンサベータ4の油量を調整することができる。
以下に詳細を述べるが、油量調整装置6によりコンサベータ4の油量を調整することで、変圧器の固有周波数を変更可能となる。
【0011】
図1における構成は、タンク1と鉄心2と巻線3とコンサベータ4と油5からなる連成多振動系で考えることができる。温度の変化により油が移動すると、コンサベータ重量が変化するので、タンク1の固有周波数が変化する。温度環境の変化により変圧器の固有周波数が変化し騒音が増大した場合に、コンサベータ4の油量調整によりタンク1およびコンサベータ4の固有周波数を変更することが可能となり、変圧器の振動、騒音を低減することができる。
【0012】
図2は、変圧器騒音の卓越周波数freq1(励磁周波数の偶数倍、例えば東日本の最低次成分で100Hz、西日本で120Hz)近傍に共振を持つタンク1の自由度とコンサベータ4の自由度との2自由度系について、モード座標系で表した図である。
図において、タンク1の自由度を系1、コンサベータ4の自由度を系2とする。系1の質量をm1、ばね定数をk1、変位をx1、系1に加わる外力をF1とし、系2の質量をm2、ばね定数をk2、変位をx2、系2に加わる外力をF2とする。ここで、減衰は無視できるとする。油の温度がT1の時の運動方程式を式(1)で定義する。
【0013】
【数1】

【0014】
系1の固有周波数f11及び系2の固有周波数f21は、式(2)となる。
【0015】
【数2】

【0016】
図3は、図2に示された連成振動系におけるタンク1の振動の伝達関数(応答速度/力)を示す図である。図において、実線(a)は油の温度がT1のタンクの伝達関数である。この場合、伝達関数の左側のピーク位置である、タンク1の系の固有周波数は変圧器騒音の卓越周波数freq1からずれているため、これらが近接することに起因する騒音発生は抑制されている。右側のピーク位置であるコンサベータ4の系の固有周波数もずれている。しかし、油の温度が上昇すると、油は、密度が低くなり体積が膨張し、コンサベータ4へと流入する。タンク1内の油の質量は減少し、コンサベータ4に油が流入し、コンサベータ4とコンサベータ4内の油をあわせた質量は増加する。それにより、系1及び系2に変化する質量をΔm1、Δm2とする。タンク1の剛性が油の剛性よりも十分大きいとみなすことができるので、ばね定数の変化は微小であり無視することができる。運動方程式は式(3)となる。ここで、
Δm1>0、Δm2>0、m3=m1−Δm1、m4=m2+Δm2
である。
【0017】
【数3】

【0018】
系1の固有周波数f12及び系2の固有周波数f22は式(4)となる。
【0019】
【数4】

【0020】
従って、油の温度の上昇に伴い、タンク1の固有周波数がfreq1に近づいていき、図の点線(b)のように近接または一致すると、振動、騒音が増大してしまう。ここで、この温度変化の情報T1→T2を温度センサ9から入手し、油量調整装置6のポンプ7を動作させて、コンサベータ4内の油を減少させた場合、系1及び系2の質量はそれぞれΔm3、Δm4だけ減少する。したがって、運動方程式は式(5)となる。ここで、
Δm3>0、Δm4>0、m5=m1−Δm1−Δm3、m6=m2+Δm2−Δm4
である。
【0021】
【数5】

【0022】
系1の固有周波数f13及び系2の固有周波数f23は式(6)となる。
【0023】
【数6】

【0024】
この結果、図3中に破線(c)で示すように、固有周波数が高周波数側へシフトし、変圧器の騒音卓越周波数freq1と一致することを回避し、振動及び騒音を低減することができる。
【0025】
油の体積をV、油の熱膨張係数をαとし、油以外のその他機器の熱膨張係数より油の熱膨張係数が十分大きい場合、温度変化量ΔTに伴う油の体積変化量ΔVは式(7)で表せる。
【0026】
ΔV=α・V・ΔT ・・・(7)
【0027】
油の体積変化量ΔVと温度変化量ΔTは線形関係にあることがわかる。したがって、タンク1や鉄心2や巻線3の寸法等の設計情報や、油5の流入時の温度および体積を予め計測しておけば、本実施の形態のように油温度をモニタリングし温度変化量から、コンサベータ4へ流入出する油量を把握することができ、油量調整装置6によって調整する油量を決定することができる。
温度と油調整量との関係を把握していれば、油調整量をフィードフォワード制御することができる。そうでなければ、フィードバック制御にて油量を調整することができる。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態1による別の変圧器を示す断面図である。
上記実施の形態ではタンク1の温度を計測するようにしていたが、図4に示すように、コンサベータ4の温度を計測するようにしてもよい。温度変化に起因する変圧器の固有周波数の変動は長周期的なものであり、秒単位で温度計測し、油量を調整するようなものではない。タンク1とコンサベータ4の油は連動するため、温度計測であればタンク側でもコンサベータ側でもいずれでもよい。
油の温度の変動において、外気温度の変動が支配的な場合は、外気温度の計測で代替してもよい。一日の気温の変化や日々の変化であり、秒の単位で温度計測し、油量を調整するようなものではない。
【0029】
また、図5は、本発明の実施の形態1によるさらに別の変圧器を示す断面図である。
図5には騒音計測用のマイク10を配置した変圧器の構成例を示すが、このように、直接騒音を計測してもよい。また、加速度センサなどを用いて振動を計測してもよい。その場合、図3の伝達関数の温度による移動量を予め入手しておき、温度、伝達関数の移動量、騒音または振動の変化量から、コンサベータ4の調整すべき油量を決定するようにすればよい。
【0030】
さらに、コンサベータ4に設けられている、油面計やコンサベータ4内に密封された窒素等の圧力を計測することで、温度計測の代替とすることもできる。例えば、油の温度の上昇により油温度が上昇し、膨張することで、油面は上昇、また、圧力も上昇することは言うまでもない。
【0031】
コンサベータ4はそもそも、タンク1の油補充が主たる役割であり、本発明のようにそれにさらに油補充を行うという発想は従来になく、また、コンサベータには油劣化抑制のために、油抜き口としての排油弁が設けられることはあってもこれは油量調整を目的とするものではない。
【0032】
動吸振器は騒音全体のレベル低下には寄与するが、従来の課題で説明したように、温度変化により変圧器の固有周波数が移動し、卓越周波数に近接して発生する騒音まで追従して抑制できるものではない。
上述のとおり、本実施の形態では、温度変化によって、変圧器の固有周波数が変動(移動)しても、それが卓越周波数と近接しないように周波数を制御可能なパラメータの制御機能として、油量調整装置を設けたので、騒音発生を抑制できる。すなわち、温度変化量を簡便な、温度センサ、騒音測定器、油面計、振動測定装置等を用いて、変圧器の騒音変化量、変圧器の振動変化量、コンサベータの油温度の変化量、コンサベータの油面の高さ変化量、コンサベータ内の圧力変化量、あるいはタンクの温度変化量等のいずれかの物理量で計測し、その物理量を元に油量調整を行うようにしたので、簡便な方法で騒音低減、騒音発生の抑制が可能となる。
また、初期に調整された変圧器の騒音が増大することのない、優れた変圧器を提供することができる。
【0033】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2による変圧器を示す断面図である。
実施の形態1においては、油量調整装置6をコンサベータ4に取り付けていたが、図6のようにタンクに接続しても良い。
【0034】
この構成によれば、タンク1を介してコンサベータ4の油量を調整することにより、変圧器の騒音を低減することができる。
設置場所、配管などの制約がある場合など、実施の形態1,2のいずれかの配置にて油量調整装置を設けて、コンサベータ4の油量を調整すればよい。
なお、本実施の形態2においては、実施の形態1で説明した温度センサや騒音測定器等を省略して記載しているが、同様に用いることができることは明白である。
本実施の形態2においても、実施の形態1と同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0035】
実施の形態3.
図7は、本発明の実施の形態3による変圧器を示す断面図である。
上記実施の形態、例えば図1においては、コンサベータ4をタンク1の上面に取り付けていたが、図7のようにタンク1の側面に取り付けても良い。
騒音発生で問題と考えているのは、タンクの面外振動であり、面内振動は、隣接面の面外振動に強く影響が出る。そのため、本実施の形態のように、タンク側面の面外振動に起因する騒音の低減に関してはコンサベータをタンクの上面に取り付けるより側面に取り付け、油量調整でこの側面の振動も含めて調整するのが有利である。
【0036】
この構成によれば、上記実施の形態1、2の効果だけでなく、油量調整装置でコンサベータの油量を調整することで、さらにタンク1の側面の振動を低減し、側面の振動の共振に起因する騒音を低減することが容易になるという効果も奏する。
【0037】
実施の形態4.
図8は、本発明の実施の形態4による変圧器を示す断面図である。
上記実施の形態、例えば図1においては、コンサベータ4をタンク1に一個だけ取り付けていたが、図8のようにタンク1に複数個取り付けても良い。
また、図ではタンクの上面と側面とにコンサベータを2個設けた例を示したが、2個に限ることもなく、側面に複数設けてもよい。
この構成によれば、上記実施の形態1、2の効果だけでなく、さらにタンク1の複数面の振動を低減し、複数面の振動に起因する騒音を低減することが容易になる。
【0038】
上記実施の形態1〜4においては、温度変化に起因する長周期的な変圧器の固有周波数を調整することについて説明したが、温度変化以外の要因で固有周波数が変動した、ずれた場合でもコンサベータの油量を調整することで、固有周波数と騒音卓越周波数との一致、または近接を避けるように調整することが可能である。
【0039】
上記実施の形態1〜4においては、動吸振器を設けることについて説明しなかったが上述したとおり、動吸振器は騒音全体のレベル低下には寄与するため、本発明のものと組み合わせて用いれば、全体の騒音レベルが下がることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
1 タンク、2 鉄心、3 巻線、4 コンサベータ、5 油、6 油量調整装置、7 ポンプ、8 油量調整タンク、9 温度センサ、 10 騒音測定器(マイク)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクと、
該タンク内の油中に保持され巻線の巻回された鉄心と、
前記タンクに設けられたコンサベータと、
該コンサベータの油量を調整する油量調整装置と
を備えたことを特徴とする変圧器。
【請求項2】
油量調整装置は、油温度変化に応じて調整されることを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項3】
油量調整装置は、油温度変化に応じて変化する、少なくとも、変圧器の騒音変化量、変圧器の振動変化量、コンサベータの油温度の変化量、コンサベータの油面の高さ変化量、コンサベータ内の圧力変化量、あるいはタンクの温度変化量のいずれかの物理量により調整されることを特徴とする請求項2に記載の変圧器。
【請求項4】
油量調整装置をタンクに設けたことを特徴とする請求項1記載の変圧器。
【請求項5】
少なくとも1のコンサベータをタンク側面に設けたことを特徴とする請求項1記載の変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−35303(P2011−35303A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182476(P2009−182476)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】