説明

変性ジエン系ゴム、ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを向上する。
【解決手段】天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるジエン系ゴムを変性してなるものであって、前記ジエン系ゴムの主鎖における二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基と、前記ジエン系ゴムの主鎖に結合した式:−A−NHR(Aは炭素数1〜9の2価の基、nは0又は1、Rは水素又はアルキル基)で表されるアミノ基含有基とを含有し、エポキシ基の含有量がイソプレンユニットに対して5〜25モル%であり、アミノ基含有基の含有量がイソプレンユニットに対して0.5〜10モル%であり、エポキシ基に対するアミノ基含有基の比率(アミノ基含有基/エポキシ基)がモル比で0.05〜0.5である変性ジエン系ゴム。該変性ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対してシリカを10〜120質量部含有するゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ジエン系ゴム、及びそれを配合したゴム組成物、更には、該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいては、低燃費性に寄与する転がり抵抗性能とともに、湿潤路面におけるグリップ性能であるウェット性能を向上することが求められている。しかしながら、一般に両性能は二律背反の関係にあり、転がり抵抗性とウェット性能の2つの特性を同時に満足させることは困難であることから、これを解消するべく従来様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとのブレンド系にシリカを配合する場合にエポキシ化天然ゴムを加えることが提案されており、また、下記特許文献2には、分子主鎖をアミン変性処理した乳化重合スチレンブタジエンゴムを特定のカーボンブラックとともに用いることが提案されている。また、下記特許文献3には、分子末端をアルコキシシラン化合物で変性したブタジエンゴムと、分子末端にエポキシ基、水酸基、3級アミノ基等の官能基を導入したスチレンブタジエンゴムとをブレンドさせて用いることが提案されている。更に、下記特許文献4には、同一分子内にエポキシ基と窒素含有基とを有する末端変性スチレンブタジエンゴムを用いることが提案されている。また、下記特許文献5には、ジエン系ゴム及びシリカとともに配合する相溶化剤としてエポキシ基とアミノ基を同時に有する化合物を用いることが提案されている。
【0004】
一方、変性した天然ゴムを用いる技術として、下記特許文献6には、エポキシ基を持つエポキシ化天然ゴムの分子主鎖に水酸基を結合させた改質天然ゴムを加硫剤とともに配合したゴム組成物が提案されている。また、下記特許文献7には、天然ゴムラテックスに、アミノ基やエポキシ基、水酸基等の極性基を持つ単量体をグラフト重合することにより得られた変性天然ゴムを、カーボンブラックやシリカとともに配合したゴム組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−090123号公報
【特許文献2】特開2002−003650号公報
【特許文献3】特開2010−209256号公報
【特許文献4】特許第4027094号公報
【特許文献5】特開2001−106830号公報
【特許文献6】特開2010−106250号公報
【特許文献7】特開2004−359716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来様々な技術が提案されているが、天然ゴムの主鎖にエポキシ基とともにアミノ基を導入したものは知られていなかった。上記従来技術のように、ジエン系ゴムを単一の官能基のみで変性したものでは、転がり抵抗性能の改善効果が不十分である。また、同一の分子内に複数の官能基を導入したジエン系ゴムとして、上記従来の変性スチレンブタジエンゴムでは、これらの官能基が分子末端に導入されているため、転がり抵抗性能の改善効果が不十分である。一方、上記のようにグラフト重合によりエポキシ基等の官能基を導入する方法もあるが、グラフト重合による場合、分子運動による発熱度が上昇するため、転がり抵抗性能に対しては必ずしも好ましいとは言えない。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを向上することができる変性ジエン系ゴム、及びそれを用いたゴム組成物並びに空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る変性ジエン系ゴムは、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるジエン系ゴムを変性してなるものであって、前記ジエン系ゴムの主鎖における二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基と、前記ジエン系ゴムの主鎖に結合した下記式(1)で表されるアミノ基含有基とを含有し、前記エポキシ基の含有量がイソプレンユニットに対して5〜25モル%であり、前記アミノ基含有基の含有量がイソプレンユニットに対して0.5〜10モル%であり、前記エポキシ基に対する前記アミノ基含有基の比率(アミノ基含有基/エポキシ基)がモル比で0.05〜0.5であることを特徴とする。
−A−NHR …(1)
(式中、Aは炭素数1〜9の2価の基、nは0又は1、Rは水素又はアルキル基である。)
【0009】
本発明に係るゴム組成物は、上記変性ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対してシリカを10〜120質量部含有するものである。また、本発明に係る空気入りタイヤは、該ゴム組成物を用いてなるトレッドを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジエン系ゴムの主鎖にエポキシ基とアミノ基を導入し、これらの比率を上記の通り設定することにより、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを向上することができる変性ジエン系ゴムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係る変性ジエン系ゴムは、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるジエン系ゴムを変性してなるものであり、即ち、ポリイソプレン系のジエン系ゴムの変性ポリマーである。該変性ジエン系ゴムは、その分子主鎖にエポキシ基とアミノ基を導入してなるものであり、詳細には、上記ジエン系ゴムの主鎖における二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基と、上記ジエン系ゴムの主鎖に結合した上記式(1)で表されるアミノ基含有基とを含有するものである。主鎖に導入されたエポキシ基は、シリカとの相互作用力(分子間力)が適度にあり、ゴム組成物中でのシリカの分散性を向上させる効果がある。また、主鎖に導入されたアミノ基は、シリカと強い相互作用(水素結合力)があり、ゴムとシリカとの結合力を高め、シリカの分散性に優れたゴム配合となる。このようにシリカと適度な分子間力を持つエポキシ基と、より強い結合力を持つアミノ基とを、同一分子内に含有させることにより、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを向上することができる。なお、水酸基がほぼ中性であるのに対し、アミノ基は塩基性である。一方、シリカ粒子表面のシラノール基は弱酸性を示すので、アミノ基とは酸・塩基の相互作用があり、そのため、アミノ基は、水酸基に比べてシリカに対してより強い結合力を示すものと考えられる。このことから、上記特許文献6のようにエポキシ基と水酸基を導入した場合に比べて、エポキシ基とアミノ基を導入した場合、転がり抵抗性能とウェット性能においてより優れた効果が奏される。
【0013】
前記変性ジエン系ゴムにおいて、エポキシ基の含有量(エポキシ化率)は、イソプレンユニットに対して5〜25モル%である。エポキシ基の含有量が少なすぎると、上記シリカとの適度な分子間力による分散性向上効果が不十分となるだけでなく、変性ジエン系ゴムのガラス転移温度が下がり、ウェット性能の低下を招く。逆に、エポキシ基の含有量が多すぎると、変性ジエン系ゴムのガラス転移温度が上がり、転がり抵抗性能が悪化する。エポキシ基の含有量は、下限が10モル%以上であることが好ましく、上限が20モル%以下であることが好ましい。ここで、エポキシ基の含有量は、イソプレンユニットのモル数に対するエポキシ基のモル数の比率であり、従って、変性ジエン系ゴムの全イソプレンユニット数を100個としたとき、導入されたエポキシ基の数が5〜25個であることを意味する。
【0014】
前記変性ジエン系ゴムにおいて、アミノ基含有基の含有量は、イソプレンユニットに対して0.5〜10モル%である。アミノ基含有基の含有量が少なすぎると、上記シリカとの強い結合力による分散性向上効果が不十分となる。逆に、アミノ基含有基の含有量が多すぎると、変性ジエン系ゴムのガラス転移温度が上がって、転がり抵抗性能が悪化する。アミノ基含有基の含有量は、下限が1モル%以上であることが好ましく、上限が5モル%以下であることが好ましい。ここで、アミノ基含有基の含有量(アミノ基の含有量と同じ。)は、イソプレンユニットのモル数に対するアミノ基含有基のモル数の比率であり、従って、変性ジエン系ゴムの全イソプレンユニット数を100個としたとき、導入されたアミノ基含有基の数が0.5〜10個であることを意味する。
【0015】
該アミノ基含有基を表す上記式(1)において、Aは、上記のように炭素数1〜9の2価の基であり、酸素や窒素等のヘテロ原子を含んでもよい。具体的には、例えば、炭素数1〜9(より好ましくは炭素数1〜5)のアルキレン基等が挙げられる。nは、0又は1であり、従って、上記Aがなく、アミノ基(−NHR)が上記ジエン系ゴムの主鎖に直接結合してもよい。アミノ基は、第1級アミノ基または第2級アミノ基であり、これにより、シリカのシラノール基(Si−OH)との間で水素結合を形成することができる。上記Rは、水素、又は炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。
【0016】
前記変性ジエン系ゴムにおいて、エポキシ基に対するアミノ基含有基の比率(アミノ基含有基/エポキシ基)は、モル比で0.05〜0.5であり、エポキシ基の方が多くなるように設定されている。このように両者の比率を規定することにより、ウェット性能と転がり抵抗性能のバランスを顕著に改善することができる。上記比率が0.5を超えると、ゴム組成物の加工性が悪化し、逆に、該比率が0.05未満では、転がり抵抗性能の改善効果が不十分となる。該比率は、下限が0.1以上であることが好ましく、また、上限が0.3以下であることが好ましい。
【0017】
前記変性ジエン系ゴムは、通常のイソプレンユニットに加えて、下記式(2)で表される構成単位と、下記式(3)及び/又は(4)で表される構成単位とを有することが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
(式(2)中、X及びYはそれぞれ前記アミノ基含有基又は水素であり、かつ少なくとも一方は前記アミノ基含有基である。また、式(3)中、X、Y及びZはそれぞれ前記アミノ基含有基又は水素であり、かつ少なくとも1つは前記アミノ基含有基である。)
【0020】
式(2)で表される構成単位がエポキシ基の導入された構成単位であり、式(3)及び(4)で表される構成単位がアミノ基含有基の導入された構成単位である。アミノ基含有基の導入された構成単位は、より詳細には、式(3)に対応する下記式(31)〜(33)と、式(4)に対応する下記式(41)〜(44)との7通りであり、これらのいずれか1以上からなる。
【0021】
【化2】

【0022】
式中のA、n及びRは、上記式(1)と同じである。但し、式(44)については、イソプレンユニットのメチル基にアミノ基が導入されたものであるため、当該メチル基と一体になって前記式(1)で表されるアミノ基含有基となる。そのため、A’は、炭素数1〜8の2価の基(好ましくはアルキレン基)である(n及びRは式(1)と同じ)。上記式(4)のZについても同様である。
【0023】
前記式(3)及び(4)で表されるアミノ基含有基が導入された構成単位においては、アミノ基がジエン系ゴムの主鎖に直接結合されていることが好ましい(即ち、式(1)中、n=0の場合である。)。例えば、下記式(5)〜(7)で表される構成単位が挙げられ、これらの少なくとも1つの構成単位を含む態様が挙げられる。
【0024】
【化3】

【0025】
式中、Rは上記式(1)と同じである。
【0026】
また、これら構成単位とともに、特には上記式(6)及び/又は(7)とともに、イソプレンユニットのメチル基にアミノ基が直接導入された下記式(8)で表される構成単位を含んでもよい。
【化4】

【0027】
上記変性ジエン系ゴムの合成方法は、特に限定されないが、例えば、次のようにして合成することができる。
【0028】
まず、天然ゴムや合成イソプレンゴムの主鎖にエポキシ基を導入する(エポキシ化)。変性対象となる天然ゴムとしては、RSS3号やTSR20などが挙げられる。合成イソプレンゴムとしては、天然ゴムの代替として一般に用いられている1,4−シス−ポリイソプレン(即ち、シス1,4−結合が90%以上のポリイソプレン)を用いることができる。なお、以下、天然ゴムについて説明するが、合成イソプレンゴムについても同様である。
【0029】
エポキシ化の方法としては、特に限定されず、例えば、クロルヒドリン方法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシ法、過酸法などの公知の種々の方法を用いて行うことができる。一例として、天然ゴムラテックスに蟻酸および過酸化水素水を加え、50℃、24時間攪拌した後、エタノールを加え、ゴムを凝固・乾燥させることによりエポキシ化天然ゴムが得られる。ここで、エポキシ化率は蟻酸/過酸化水素の量によりコントロールすることができる。また、市販のエポキシ化天然ゴムを用いてもよい。
【0030】
次いで、エポキシ化した天然ゴムに対し、臭素等のハロゲンを付加した後、該ハロゲン基をアミノ化することにより、アミノ基を導入する。上記ハロゲンの付加としては、(a)二重結合へのハロゲン付加と、(b)アリル位へのハロゲン付加が挙げられる。
【0031】
上記(a)としては、二重結合への臭素化が挙げられ、例えば、ハロゲン分子の付加反応として、CClに溶解させたエポキシ化天然ゴムに臭素を加えることにより、臭素化エポキシ化天然ゴムが得られる。この場合、1つのイソプレンユニットに対して2つの臭素基(ハロゲン基)が付加した2モル付加ユニットとなる。あるいはまた、二重結合に対してハロゲン化水素を付加させてもよく、この場合、1つのイソプレンユニットに対して1つのハロゲン基が付加した1モル付加ユニットとなる。
【0032】
上記(b)としては、アリル位への臭素付加が挙げられ、例えば、「第5版 実験化学講座13 有機化合物の合成I 炭化水素・ハロゲン化物」(日本化学会編・丸善株式会社)第376頁に記載された、N−ブロモスクシンイミドを用いたウォール・チーグラー反応により行うことができ、N−ブロモスクシンイミドの量により導入される臭素量を制御することができる。この場合、1つのイソプレンユニットに対して1つのハロゲン基が付加した1モル付加ユニットとなる。
【0033】
上記ハロゲン基のアミノ化は、例えば、「第5版 実験化学講座14 有機化合物の合成II アルコール・アミン」(日本化学会編・丸善株式会社)第360頁に記載されたガブリエル反応により行うことができ、エポキシ化天然ゴムの主鎖に導入されたハロゲン基をアミノ基に置換することができる。
【0034】
上記(a)のハロゲン化を経てアミノ化された場合、上記式(3)で表される構成単位となり、(a)において、二重結合に対し2個のハロゲンが付加することにより式(31)で示される2個のアミノ基が結合した構成単位(但し、アミノ基含有基については、式(1)中、n=0)となり、また、二重結合に対し1個のハロゲンが付加することによって式(32)及び(33)で示されるような1個のアミノ基が結合した構成単位(但し、アミノ基含有基については、式(1)中、n=0)となる。
【0035】
上記(b)のハロゲン化を経てアミノ化された場合、上記式(4)で表される構成単位となり、(b)において、主鎖の2つのアリル位にそれぞれハロゲンが付加することによって式(41)で示される2個のアミノ基が結合した構成単位(但し、アミノ基含有基についてはn=0)となり、また、いずれか1つのアリル位にハロゲンが付加することによって式(42)、(43)及び(44)で示されるような1個のアミノ基が結合した構成単位(但し、アミノ基含有基についてはn=0)となる。なお、上記N−ブロモスクシンイミドを用いたハロゲン化を経た場合、上記式(6)及び/又は(7)で表される構成単位が主として形成され、式(8)で表される構成単位も若干量形成されるが、このような態様でもよい。
【0036】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記変性ジエン系ゴムを含むゴム成分にシリカを配合してなるものである。
【0037】
ゴム成分としては、上記変性ジエン系ゴム単独でもよく、また他のジエン系ゴムとブレンドして用いてもよい。ブレンドする他のジエン系ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、未変性の天然ゴム(NR)、未変性の合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM)などが挙げられ、これらはいずれか1種、又は2種以上組み合わせてもよい。他のジエン系ゴムとブレンドする場合、ゴム成分は、上記変性ジエン系ゴムを5質量%以上含むことが好ましく、従って、ゴム成分100質量部は、上記変性ジエン系ゴムを5〜100質量部含有するものであることが好ましい。より好ましくは、ゴム成分は、上記変性ジエン系ゴムを30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上含むことである。
【0038】
該ゴム成分に配合するシリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性としては特に限定されないが、例えば、窒素吸着比表面積(BET)が100〜300m/gであることが好ましい。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に記載の方法に準拠し測定される。シリカの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して10〜120質量部であることが好ましく、より好ましくは下限が20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上であり、また、上限が100質量部以下である。
【0039】
本実施形態に係るゴム組成物には、充填剤として、シリカの他に、カーボンブラック、酸化チタン、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどを配合してもよい。シリカと他の充填剤を併用する場合、カーボンブラックとの併用が好ましい。カーボンブラックの配合量は特に限定されないが、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは30質量部以下である。
【0040】
本実施形態にかかるゴム組成物には、シランカップリング剤を更に配合することが好ましい。シランカップリング剤としては、公知の種々のシランカップリング剤を用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランなどが挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2〜25質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜15質量部である。
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0042】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。このようにして得られるゴム組成物は、例えば、トレッドやサイドウォール、ベルトやプライのトッピングゴム、ビードフィラー、リムストリップ等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種用途に用いることができるが、好ましくは、空気入りタイヤに用いることである。特には、空気入りタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜200℃で加硫成形することにより、トレッド部を形成することができる。空気入りタイヤのトレッド部には、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、好ましい態様として接地面を構成するゴムに用いる場合、単層構造のものであれば、トレッド部の全体が上記ゴム組成物からなることが好ましく、また2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[変性ジエン系ゴムの合成]
・合成例1:エポキシ化天然ゴム(比較例)
天然ゴムラテックス(株式会社レジテックス製「LAラテックス」、固形分濃度=60質量%)200gに対し、蟻酸20g及び過酸化水素水(35質量%水溶液)90gを加え、50℃、24時間攪拌した後、エタノールを加えてゴムを凝固・乾燥させることにより、エポキシ化天然ゴムを得た。得られたエポキシ化天然ゴムのエポキシ基の含有量は25モル%であった。
【0045】
・合成例2:エポキシアミン変性天然ゴムA(比較例)
蟻酸の添加量を25.6gとし、過酸化水素水(35質量%水溶液)の添加量を115gとし、その他は合成例1と同様にしてエポキシ化天然ゴムを得た。得られたエポキシ化天然ゴム100gを1000mlのCClに溶解させた後、臭素を13g加えることにより、臭素化エポキシ化天然ゴムを得た。得られた臭素化エポキシ化天然ゴム80gを、1200mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた後、8.8gのフタルイミドアルカリ塩(カリウム塩)を加えて反応時間90℃、15時間でフタルイミド化した。得られたゴム60gを、1000mlのTHF/エタノール(=10/1)の溶媒中にて、4.5gのヒドラジン1水和物を加えて1時間還流し、その後、酸として濃塩酸20mlを加え、更に2N水酸化ナトリウム水溶液500mlを加え塩基性とした。これにより、上記臭素化エポキシ化天然ゴムの臭素基を全てアミノ基(−NH)で置換してなるエポキシアミン変性天然ゴムAを得た(臭素基が残存していないことはC−NMRにて確認した。)。得られた変性天然ゴムAは、上記式(2)と式(5)で表される構成単位を持つものであり、エポキシ基含有量は30モル%であり、アミノ基含有量は2モル%であった。
【0046】
・合成例3:エポキシアミン変性天然ゴムB(実施例)
エポキシ化における蟻酸の添加量を21.6gとし、過酸化水素水(35質量%水溶液)の添加量を97.2gとし、その他は合成例2と同様にしてエポキシアミン変性天然ゴムBを得た。得られた変性天然ゴムBのエポキシ基含有量は25モル%であり、アミノ基含有量は2モル%であった。
【0047】
・合成例4:エポキシアミン変性天然ゴムC(実施例)
エポキシ化における蟻酸の添加量を13.6gとし、過酸化水素水(35質量%水溶液)の添加量を61.2gとし、その他は合成例2と同様にしてエポキシアミン変性天然ゴムCを得た。得られた変性天然ゴムCのエポキシ基含有量は15モル%であり、アミノ基含有量は2モル%であった。
【0048】
・合成例5:エポキシアミン変性天然ゴムD(実施例)
エポキシ化における蟻酸の添加量を9.6gとし、過酸化水素水(35質量%水溶液)の添加量を43.2gとし、その他は合成例2と同様にしてエポキシアミン変性天然ゴムDを得た。得られた変性天然ゴムDのエポキシ基含有量は10モル%であり、アミノ基含有量は2モル%であった。
【0049】
・合成例6:エポキシアミン変性天然ゴムE(実施例)
エポキシ化における蟻酸の添加量を13.6gとし、過酸化水素水(35質量%水溶液)の添加量を61.2gとし、臭素化における臭素の添加量を33gとし、臭素基のアミノ化におけるフタルイミドカリウム塩の添加量を22gとし、ヒドラジン1水和物の添加量を11.3gとし、その他は合成例2と同様にしてエポキシアミン変性天然ゴムEを得た。得られた変性天然ゴムEのエポキシ基含有量は12モル%であり、アミノ基含有量は5モル%であった。
【0050】
・合成例7:エポキシアミン変性天然ゴムF(比較例)
エポキシ化における蟻酸の添加量を16gとし、過酸化水素水(35質量%水溶液)の添加量を72gとし、臭素化における臭素の添加量を65gとし、臭素基のアミノ化におけるフタルイミドカリウム塩の添加量を44gとし、ヒドラジン1水和物の添加量を22.5gとし、その他は合成例2と同様にしてエポキシアミン変性天然ゴムFを得た。得られた変性天然ゴムFのエポキシ基含有量は10モル%であり、アミノ基含有量は10モル%であった。
【0051】
・合成例8:エポキシアミン変性天然ゴムG(実施例)
蟻酸の添加量を20gとし、過酸化水素水(35質量%水溶液)の添加量を90gとし、その他は合成例1と同様にしてエポキシ化天然ゴムを得た。得られたエポキシ化天然ゴム80gに対して、窒素雰囲気下、N−ブロモスクシンイミド(Mw178)13g、過酸化ベンゾイル0.1gおよびCCl1000mlの混合物を2時間還流し、エタノールでゴムを凝固させることにより、アリル位を臭素化してなる臭素化エポキシ化天然ゴムを得た。得られた臭素化エポキシ化天然ゴム60gを、1000mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた後、8.8gのフタルイミドカリウム塩を加えて反応時間90℃、15時間でフタルイミド化した。得られたゴム60gを、1000mlのTHF/エタノール(=10/1)の溶媒中にて、4.5gのヒドラジン1水和物を加えて1時間還流し、その後、酸として濃塩酸20mlを加え、これに2N水酸化ナトリウム水溶液500mlを加え塩基性とした。これにより、上記臭素化エポキシ化天然ゴムの臭素基を全てアミノ基(−NH)で置換してなるエポキシアミン変性天然ゴムGを得た。得られた変性天然ゴムGは、上記式(2)と、式(6)及び/又は(7)で表される構成単位(式(8)で表される構成単位も少量含まれる)を持つものであり、エポキシ基含有量は25モル%であり、アミノ基含有量は2モル%であった。
【0052】
・合成例9:エポキシアミン変性天然ゴムH(実施例)
エポキシ化における蟻酸の添加量を12gとし、過酸化水素水(35質量%水溶液)の添加量を54gとし、臭素化におけるN−ブロモスクシンイミドの添加量を8gとし、臭素基のアミノ化におけるフタルイミドカリウム塩の添加量を8.8gとし、ヒドラジン1水和物の添加量を4.5gとし、その他は合成例8と同様にしてエポキシアミン変性天然ゴムHを得た。得られた変性天然ゴムHのエポキシ基含有量は15モル%であり、アミノ基含有量は2モル%であった。
【0053】
[エポキシ基及びアミノ基の含有量の測定]
合成して得られたゴムをCDCl(重クロロホルム)に溶解させ、H−NMR測定により、二重結合シグナル(5.20ppm)と、エポキシ基のシグナル(2.51ppm)と、アミノ基のシグナル(2.0ppm)の各面積強度から、エポキシ基とアミノ基の含有量を算出した。
【0054】
【表1】

【0055】
[ゴム組成物の調製]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、常法に従いタイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。上記ゴムを除く、表2中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0056】
・NR:RSS#3
・SBR:JSR(株)製「SBR1502」
・BR:宇部興産(株)製「BR150B」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET=200m/g)
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si75」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH」(N339、HAF)
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油入微粉末硫黄」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0057】
各ゴム組成物について、加工性を評価するとともに、該ゴム組成物をトレッドゴムに用いて、常法に従い、185/65R14の空気入りラジアルタイヤを製造し、転がり抵抗性能とウェット性能(制動性)を評価した。結果を表2に示す。なお、評価方法は以下の通りである。
【0058】
・加工性:混練後のバンバリーミキサーからの排出性を評価し、比較例1をコントロールとして、排出性が比較例1と同等以上であるものを「○」(良好)し、比較例1に比べて排出性が明らかに劣るものを「×」(不良)と評価した。
【0059】
・転がり抵抗性能:各タイヤを一軸ドラム試験機で速度80km/h、空気圧196kPa、荷重3.9kN、室温23℃の条件にて転がり抵抗を測定し、転がり抵抗の逆数を比較例1の値を100として指数表示した。数値が大きいほど、転がり抵抗が小さく、従って、低燃費性に優れ、良好であることを表す。
【0060】
・ウェット性能:各タイヤをトレーラーに装着し、湿潤路面(2〜3mmの水深で水をまいた路面)上において、64.4km/hにてタイヤをロックさせてブレーキングフォースを記録し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど良好である。
【0061】
【表2】

【0062】
結果は表2に示す通りであり、未変性の天然ゴムに代えてエポキシ化天然ゴムを用いた比較例2では、ウェット性能は大幅に向上したものの、転がり抵抗性能が悪化しており、両性能のバランスが不十分であった。比較例3では、エポキシアミン変性天然ゴムを用いたものの、エポキシ基の含有量が多すぎたため、転がり抵抗性能が更に悪化していた。また、比較例4では、エポキシアミン変性天然ゴムを用いたものの、アミノ基/エポキシ基の比率が1.00と大きすぎたため、ゴム組成物の加工性が悪化しており、また、転がり抵抗性能にも劣っていた。
【0063】
これに対し、エポキシアミン変性天然ゴムを用い、かつそのエポキシ基及びアミノ基の含有量を所定範囲内に設定した実施例1〜6であると、加工性を損なうことなく、比較例1に対してウェット性能が大幅に向上し、かつ、比較例2に対して転がり抵抗性能が大幅に向上しており、よって、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスが顕著に向上していた。また、エポキシアミン変性天然ゴムと他のジエン系ゴムであるSBRやBRとを併用した実施例7,8でも、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスに優れていた。更に、シリカとともに、他の充填剤としてカーボンブラックを併用した実施例9においても、規定内のエポキシアミン変性天然ゴムを用いることにより、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスに優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る変性ジエン系ゴムは、空気入りタイヤ用のゴム組成物に配合するものとして好適に用いることができ、より詳細には、空気入りタイヤのトレッドゴムを構成するゴム組成物に特に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるジエン系ゴムを変性してなる変性ジエン系ゴムであって、前記ジエン系ゴムの主鎖における二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基と、前記ジエン系ゴムの主鎖に結合した下記式(1)で表されるアミノ基含有基とを含有し、前記エポキシ基の含有量がイソプレンユニットに対して5〜25モル%であり、前記アミノ基含有基の含有量がイソプレンユニットに対して0.5〜10モル%であり、前記エポキシ基に対する前記アミノ基含有基の比率(アミノ基含有基/エポキシ基)がモル比で0.05〜0.5であることを特徴とする変性ジエン系ゴム。
−A−NHR …(1)
(式中、Aは炭素数1〜9の2価の基、nは0又は1、Rは水素又はアルキル基である。)
【請求項2】
下記式(2)で表されるエポキシ基を含む構成単位と、下記式(3)及び(4)で表されるアミノ基含有基を含む構成単位の少なくとも一方と、を有する請求項1記載の変性ジエン系ゴム。
【化1】

(式(2)中、X及びYはそれぞれ前記アミノ基含有基又は水素であり、かつ少なくとも一方は前記アミノ基含有基である。また、式(3)中、X、Y及びZはそれぞれ前記アミノ基含有基又は水素であり、かつ少なくとも1つは前記アミノ基含有基である。)
【請求項3】
前記アミノ基含有基は、前記式(1)中のnが0であることを特徴とする請求項1又は2記載の変性ジエン系ゴム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対してシリカを10〜120質量部含有するゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のゴム組成物を用いてなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−255106(P2012−255106A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129370(P2011−129370)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】