説明

変異体水疱性口内炎ウイルスおよびそれらの使用

【課題】感染細胞においてmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した、インビボで弱毒化された変異体ウイルスを提供すること。
【解決手段】感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスであって、該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、変異体ラブドウイルスが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ウイルス分野に関し、特にウイルスベクターおよびワクチンとして有用な変異体ウイルスに関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
弱毒化ウイルスまたは複製能力を減少したウイルスが、例えばワクチンもしくはワクチンベクターとして、または遺伝子治療ベクターとして、多くの治療応用のために広く使用されている。弱毒化ウイルスの産生は、代表的には、不自然な宿主を通して野生型ウイルスを繰返し継代することによる偶然の変異の単離を含む。組換えDNA技術および遺伝子工学技術の進歩は、治療剤および予防剤としてウイルスをよりよく開発する道具を提供している。組換え技術は、特異的な変異をウイルスゲノムの選択された領域に導入することを可能にし、そして変異体ウイルスの野生型への復帰を最小化する。
【0003】
多くのウイルスの体液性免疫および細胞媒介性免疫の両方を刺激する能力は、それらのウイルスを理想的なワクチンベクターにし、そして多くのウイルスが、その結果、HIV、HCVおよびガンを含む広い範囲の疾患についてのワクチンベクターとして開発された。ウイルスはまた、遺伝子治療ベクターとしての用途にも適している。遺伝子治療(即ち機能的な遺伝子の体細胞への一時的または永久的な転移による遺伝子発現の改変)は、疾患を予防および処置する新規なアプローチとして、集中的に開発されている。外因性核酸を真核細胞に導入するための種々の物理的方法および化学的方法が公知であるが、ウイルスは、この目的のためには、ずっと効率的であることが一般的に分かっている。パルボウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルスおよびポックスウイルスのような数種のウイルスが、可能な遺伝子治療ベクターとして調査された(例えば、特許文献1;特許文献2および特許文献3を参照のこと)。
【0004】
特定の性質を有する組換えウイルスを産生する多くのウイルスの工学技術が、記載されている。例えば、特許文献4は、パラミクソウイルスSV5株のFタンパク質を発現する組換えラブドウイルスを記載している。この組換えウイルスにおいて、上記Fタンパク質は、ラブドウイルスGタンパク質の部分との融合タンパク質として発現される。特許文献5および特許文献6は、非コード配列またはウイルスの非構造(NS)遺伝子のコード配列の変異を含む、操作された弱毒化ウイルスを記載している。改変されたウイルスタンパク質またはキメラウイルスタンパク質を発現するキメラ弱毒化ウイルスもまた、記載されている。特許文献6は、感染細胞でインターフェロン産生を誘導し得る生弱毒化インフルエンザウイルスを、さらに記載している。
【0005】
操作されたウイルスはまた、腫瘍崩壊剤として記載されており、それらは腫瘍性細胞における複製して腫瘍性細胞を崩壊させるが、非腫瘍性細胞において複製してそれを崩壊することはない、腫瘍細胞に特異的な遺伝子欠陥を利用する。例えば、特許文献7および特許文献8は、腫瘍細胞の増殖を阻害する変異体単純ヘルペスウイルス (HSV−1716)を開示し、特許文献9は、p53陰性腫瘍細胞において優先的に複製すると考えられている変異アデノウイルスを記載し、特許文献10は、Ras媒介性腫瘍の処置のためのレオウイルスの使用を教示し、そして特許文献11は、薬物感受性遺伝子と補助的効果を産生することができる第2遺伝子(例えば、インターフェロン遺伝子または腫瘍抑制遺伝子)とを有する組換えアデノ随伴ウイルスベクターを記載している。
【0006】
ウイルスを遺伝子的に操作することの代替法として、非病原性ウイルスが使用され得、例えば、特許文献12が、ラブドウイルスの使用、特に水疱性口内炎ウイルス(VSV)を、PKR(二本鎖RNA依存性キナーゼ)活性の低いレベルかまたはPKR活性が無いことにより特徴づけられた腫瘍細胞に対する選択的な腫瘍崩壊剤として記載している。特許文献12はまた、インターフェロンに対して感受性の4種の変異体VSVの同定および腫瘍崩壊剤としてそれらの変異体VSVの使用を記載している。
【0007】
この背景情報は、出願人により本発明と関連する可能性があると考えられる情報を示す目的で提供される。必ずしも承認を意図するものでもなく、上記情報のいずれも、本発明に対する先行技術を構成するものと解釈されるべきでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,440,422号明細書
【特許文献2】米国特許第6,531,123号明細書
【特許文献3】米国特許第6,451,323号明細書
【特許文献4】米国特許第6,497,873号明細書
【特許文献5】米国特許第6,022,726号明細書
【特許文献6】米国特許第6,468,544号明細書
【特許文献7】国際公開第97/26904号パンフレット
【特許文献8】国際公開第96/03997号パンフレット
【特許文献9】米国特許第6,296,845号明細書
【特許文献10】米国特許第6,110,461号明細書
【特許文献11】米国特許第6,531,456号明細書
【特許文献12】国際公開第01/19380号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
(項目1)
感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスであって、該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、変異体ラブドウイルス。
(項目2)
前記一以上の変異が基質(M)タンパク質をコードする遺伝子に存在する、項目1に記載の変異体ラブドウイルス。
(項目3)
変異体水疱性口内炎ウイルス(VSV)である、項目2に記載の変異体ラブドウイルス。
(項目4)
前記一以上の変異が、M51R、M51A、M51〜54A、ΔM51、ΔM51〜54、ΔM51〜M57、V221F、S226R、ΔV221〜S226,M51X,V221X、S226X、またはそれらの組合せである、項目3に記載の変異体VSV。
(項目5)
前記一以上の変異が、M51R/V221F;M51A/V221F;M51〜54A/V221F;ΔM51/V221F;ΔM51〜54/V221F;ΔM51〜57/V221F;M51R/S226R;M51A/S226R;M51〜54A/S226R;ΔM51/S226R;ΔM51〜54/S226R:およびΔM51〜57/S226Rの群から選択される二重の変異である、項目3に記載の変異体VSV。
(項目6)
前記一以上の変異が、M51R/V221F/S226R;M51A/V221F/S226R;M51〜54A/V221F/S226R;ΔM51/V221F/S226R;ΔM51〜54/V221F/S226R;およびΔM51〜57/V221F/S226Rの群から選択される三重の変異である、項目3に記載の変異体VSV。
(項目7)
前記一以上の変異が、さらに宿主細胞のミトコンドリアとMタンパク質の相互作用を調節する結果となる、項目1、2または3のいずれか1項に記載の変異体ラブドウイルス。
(項目8)
前記変異体ラブドウイルスが、感染細胞における一以上のサイトカインの産生を誘発することができる、項目1、2または3のいずれか1項に記載の変異体ラブドウイルス。
(項目9)
感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスを含有するウイルスベクターであって、該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、ウイルスベクター。
(項目10)
異種の核酸をさらに含む、項目5に記載のウイルスベクター。
(項目11)
感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子および一以上の抗原をコードする異種の核酸に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスを含むワクチンベクターであって、該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、ワクチンベクター。
(項目12)
感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスおよび、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリアを含有するワクチンアジュバンドであって、該変異体ラブドウイルスが、感染細胞で一以上のサイトカインの産生を誘発することができ、該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、ワクチンアジュバンド。
(項目13)
感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスおよび、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリアを含有する選択的腫瘍崩壊剤であって該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、選択的腫瘍崩壊剤。
(項目14)
感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスおよび薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物であって、該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、薬学的組成物。
(項目15)
感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスおよび、薬学的に受容可能なキャリアを含有する免疫原性組成物であって、該変異体ラブドウイルスが、感染細胞で一以上のサイトカインの産生を誘発することができ、該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、免疫原性組成物。
(項目16)
該調製物から生じる有害の復帰変異体から保護するためのウイルスの薬学的調製物用の添加剤としての、項目8に記載の変異体ラブドウイルスの使用。
(項目17)
サイトカインの放出により軽減され得る、疾患または障害の処置における、項目8に記載の変異体ラブドウイルスの使用。
(項目18)
前記疾患または障害が、癌、細菌感染、ウイルス感染、または真菌感染である、項目17に記載の使用。
(項目19)
前記異種核酸が必要な被験体に、該異種核酸を送達するための項目10に記載のウイルスベクターの使用。
(項目20)
一以上の容器ならびに感染細胞においてmRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスを備えるキットであって、該一以上の変異が、野生型ウイルスと比較して、mRNAもしくはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる、キット。
本発明の目的は、変異体ウイルスおよびそれらの使用を提供することである。本発明の局面に従って、感染細胞においてmRNAおよびタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する、変異体ラブドウイルスが提供される。ここで上記変異は、野生型と比較して、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる。
【0010】
本発明の別の局面に従って、感染細胞におけるmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスを含有するウイルスベクターが提供される。ここで上記変異は、野生型と比較して、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる。
【0011】
本発明の別の局面に従って、感染細胞におけるmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスと、一以上の抗原をコードする異種核酸とを含有する、ワクチンベクターが提供される。ここで上記変異は、野生型と比較して、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる。
【0012】
本発明のさらなる局面に従って、感染細胞におけるmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスと、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、ワクチンアジュバンドが提供される。ここで上記変異体ラブドウイルスは、感染細胞において一以上のサイトカインの産生を誘発することができ、上記変異は、野生型と比較して、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる。
【0013】
本発明の別の局面に従って、感染細胞におけるmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスと、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、選択的腫瘍崩壊剤が提供される。ここで上記変異は、野生型と比較して、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる。
【0014】
本発明のさらなる局面に従って、感染細胞におけるmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスと、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、薬学的組成物が提供される。ここで上記変異は、野生型と比較して、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる。
【0015】
本発明の別の局面に従って、感染細胞におけるmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスと、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、免疫原性組成物が提供される。ここで上記変異体ラブドウイルスは、感染細胞において一以上のサイトカインの産生を誘発することができ、上記変異は、野生型と比較して、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる。
【0016】
本発明のさらなる局面に従って、調製物中に副生する有毒な復帰変異体に対して防御するウイルスの薬学的調製物のための添加剤としての、上述のような変異体ラブドウイルスの使用が提供される。
【0017】
本発明の別の局面に従って、サイトカイン放出により緩和され得る疾患および障害の処置における、上述のような上記変異体ラブドウイルスの使用が提供される。
【0018】
本発明のさらに別の局面に従って、上記異種核酸を、それらが必要な被験体に送達するためのウイルスベクターとしての、上述のような変異体ラブドウイルスの使用が提供される。
【0019】
本発明の別の局面に従って、一以上の容器と、感染細胞においてmRNAおよびタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する変異体ラブドウイルスとを含有する、キットが提供される。ここで上記変異は、野生型と比較して、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する能力の低下した変異体ラブドウイルスを生じる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1−1】図1は、変異体VSVウイルス AV1および変異体VSVウイルス AV2のインビボでの低下した毒性がインターフェロンにより媒介されることを示している。(A)ヒト前立腺癌細胞(PC3)およびヒト腎臓癌細胞(CAKI−1)が、モック感染されたか、または野生型(WT)、VSV AV1株 もしくはVSV A2株で感染されたかのいずれかであった。培養培地が、感染後18時間で、ヒトIFN−α産生を検出するためにELISAでアッセイされた。(B)経路およびマウス種によるWT 対 変異体VSV株のインビボ毒性。IN=鼻腔内;IV=静脈内;nd=分析されず。(C)AV2は、致死的なWT VSV感染に対してトランスでマウスを防御し得る。PKR−/−マウスが、種々の用量でWT、AV2または両株の組合せのいずれかで鼻腔内感染され、罹患率または死亡率についてモニターされた。数値は、感染の徴候を示す各群のマウスの数(罹患率)または感染で死んだ各群のマウスの数(死亡率)を示す。
【図1−2】図1は、変異体VSVウイルス AV1および変異体VSVウイルス AV2のインビボの低下した毒性がインターフェロンにより媒介されることを示している。(D)Balb/CマウスおよびBalb/C IFNR−/−マウスが、WT VSV、AV1ウイルスまたはAV2ウイルスで鼻腔内から感染され、罹患率についてモニターされた。
【図2−1】図2は、2次転写応答がWT VSV で阻害されるが、AV1またはAV2では、阻害されないことを示している。(A)ウイルス感染に対する1次応答は、IRF−3、cJUN/ATF−2およびNFκBにより媒介される(IFN−βプロモーターでのエンハンソソーム(enhansosome)複合体の形成部分がここに示されている)。マイクロアレイデータは、WTウイルス感染細胞および変異体ウイルス感染細胞の両方において、強固にアップレギュレートされた1次転写応答遺伝子を示している(a:ISG15が、完全誘導のためにISGF3を必要とすることは公知である)。数値は、モック感染に対する誘導倍率を示す。(B)IFN−βは、その後、翻訳され、そして上記核の中で、2次転写応答の遺伝子の誘導を媒介するISGF3複合体を形成するようにJAK/STATシグナル伝達をオートクリン式に刺激するために分泌される。AV1またはAV2に感染された細胞が、これらの遺伝子の強固なアップレギュレーションを示す一方、WT感染細胞は、全く発現を示さない(A=無し)。(C)WT VSVで感染された細胞において、IRF−7が結果的に発現することが無い場合は、殆ど全てのIFN−α遺伝子を含む、第3次転写波は発生し得ない(b:IFN−α7は、WTサンプルのアレイによって、僅かに検出される)。反対にAV1およびAV2に感染された細胞は、IFN−α遺伝子の発現を効率的に誘導する。
【図2−2】図2は、2次転写応答がWT VSV で阻害されるが、AV1またはAV2では、阻害されないことを示している。(D)A549細胞の感染後4時間目のRT−PCRデータは、WT VSVおよび変異体VSVで感染された細胞において同様のレベルに誘導された1次応答遺伝子のRANTESならびにIFN−βを示したが、一方、MX1のアップレギュレーション(2次応答)は、WT感染細胞で減少した。(E)ウェスタンブロット分析は、WT VSVと変異体VSVの間でIRF−3活性化の類似した動態を示したが、しかしながら、ISG56(1次応答)タンパク質発現は、WT感染細胞において著しく減少した。IRF−7タンパク質は、AV1感染細胞およびAV2感染細胞においてのみ検出される。IRF−7Δは、内因性IRF−7の発現を誘導することができると思われる。
【図3】図3は、IFN−β mRNAが、定量的RT−PCRにより決定されるように、WT VSV感染細胞からの細胞質画分にて著しく欠失されていることを示している。(A)WT VSV、AV1 VSVまたはAV2 VSVで感染された細胞からの核(N)の全RNA画分および細胞質(C)の全RNA画分が、IFN−β mRNAについてアッセイされた;同じサンプルからのHPRT mRNAに対して正規化した。*は、IFN−β mRNAが検出されなかったことを示した。(B)WT VSV株または変異体VSV株のいずれかで感染された細胞が、IFN−β産生についてELISAによりアッセイされた。AV1感染細胞およびAV2感染細胞は、検出し得る分泌IFN−βを示したが、WT VSV 感染細胞では、示さなかった。
【図4−1】図4は、上記変異体VSVが、種々の腫瘍モデルにおいて、インビボ効力を実証することを示している。(A)変異体VSVは、異種移植ヒト卵巣腹水腫瘍を腹腔内処置により処置することにおいて効果的である。ヒトES−2卵巣癌細胞が、腹水腫瘍を樹立するためにCD−1ヌードマウスの腹腔内窩に注入された。1× 10のES−2細胞の注入12日間後、動物は、AV2 VSV または紫外線不活性化AV2 VSVいずれかで隔日(全3用量)に処置された。各用量(1×10pfu)が腹腔内窩に投与された。動物は、罹患率および死亡率について評価され、中程度の腹水形成の出現後に安楽死させた。「n」は、各群の動物の数を示している。(B)免疫能力のある動物における皮下腫瘍の全身系処置。皮下腫瘍は、Balb/Cマウスにおいて、後脇腹領域に1×10のCT26結腸癌細胞を注入して樹立された。腫瘍がおよそ10mmになった時に、マウスは隔日に、10日間(全6用量)、5×10pfuの上記ウイルスの静脈内注入で処置された。「Trojan」とは、MOI=20でAV1 VSVで感染された3×10のCT26細胞の注入をいう。コントロールマウスは、6用量の5×10pfu当量の紫外線不活性化AV2 VSVを受けた。腫瘍は、毎日腫瘍体積を計算するために測定された。動物は、それらの腫瘍負荷が過剰(およそ750mm)と思われた時点で安楽死させた。(C)処置前3日間と処置後11日目まで、各群について毎日測定されたマウスの体重変化を示す。誤差棒は、標準誤差を示す。
【図4−2】図4は、上記変異体ウイルスが、種々の腫瘍モデルにおいて、インビボ効力を実証することを示している。(D)免疫能力のあるマウスモデルにおける播種性肺腫瘍の処置。肺腫瘍は、Balb/Cマウスの尾静脈に3×10のCT26細胞を注入して樹立される。12日目にマウスは、以下のように処置された:UV AV2IV=1用量(5×10pfu当量)を静脈内に、AV2IV=1用量(5×10pfu)の変異体3 VSVを静脈内に、AV2IN=1用量(5×10pfu)のAV2 VSVを鼻腔内(intransally)に、AV2 IVおよびIN=1用量(5×10pfu)のAV2 VSVを静脈内におよび1用量の(5×10pfu)のAV2 VSVを鼻腔内に処置された。処置後4日目に、全ての動物を殺し、それらの肺が除去された(心臓は、見える大きさ)。矢印は、残存する腫瘍である。(E)肺腫瘍は、上述のように樹立された、12日目に、マウスは、示されたように鼻腔内滴下により送達された5×10pfuで、隔日に2週間(全6用量)処置される。罹患率および死亡率について毎日モニターされ、呼吸窮迫の徴候を示すマウスが、安楽死させられ、腫瘍負荷について試験される。[n]は、処置群のマウスの数を示す。
【図5】図5は、変異体VSV株が、いかに混合集団からの有毒なWT株の出現を防止することができ得るかを、描いているモデルを示している。(A)WT VSVは、感染細胞からのIFN分泌を遮断し得、隣接細胞を無防備にし、新生ウイルス粒子に対して感受性にし、それがウイルス拡散を生じる。(B)IFNの「サイトカイン雲」および、恐らく他のサイトカインは、核/細胞質輸送を遮断することができないMタンパク質をコードするVSV株で感染された後に誘導される。上記隣接細胞は、変異体VSVおよび上記集団から出現しようとしている任意の推定上の復帰変異体株による感染から保護される。
【図6】図6は、VSVの上記Mタンパク質をコードする遺伝子において本発明に従って作られ得る変異の例を示している。
【図7】図7は、レスキューされた変異体XNDG M4およびXNDG M5の上記VSV Mタンパク質の関連部分の配列を示している。
【図8】図8は、上記レスキューされた変異体VSV XNDG M4およびXNDG M5が、上記Mut2変異体VSVと同様なプラークサイズを有することを示している。
【図9】図9A、BおよびCは、GFP(WT+72−GFP−N1、緑)およびOCT−DsRed2(ミトコンドリアマーカー、赤)と融合したVSVのアミノ末端の72アミノ酸でトランスフェクトされた細胞を示している。M−GFPおよびOCT−DsRed2の同時局在を示す併合画像。D、EおよびF。WT+72−GFP−N1でトランスフェクトされMitotracker Redで染色された細胞。矢印は、一面に小斑点のある(punctuate)ミトコンドリアおよび減少したMitotracker染色を示す、代表的なトランスフェクトされた細胞を示している。アステリスクは、WT+72−GFP−N1の同時局在および減少したMitotracker染色を示す網様(正常)ミトコンドリアを有するトランスフェクトされた細胞を示している(併合画像F)。GおよびH。WT+72−GFP−N1でトランスフェクトされ、そしてMitotracker Redで染色された細胞。トランスフェクトされた細胞は、一面に小斑点のあるミトコンドリアおよび減少したMitotracker染色(矢印)を有する。
【図10】図10A、B、およびCは、GFP(WT+72−GFP−N1、緑)およびOCT−DsRed2(ミトコンドリアマーカー、赤)と融合したVSV Mのアミノ末端の72アミノ酸で同時トランスフェクトされた、生きた細胞の画像を示す。併合画像は、同時局在およびこの細胞がこの毒性のタンパク質により死んでいくにつれ、この細胞における初期には網様のミトコンドリアの進行性の断片化を示している。D 上記の同時トランスフェクトされた生きた細胞。再び、これは、VSV M−GFP融合タンパク質の相対的な濃度でのWT+72−GFP−N1およびOCT−DsRed2の上記同時局在ならびにミトコンドリア(緑)の隆起および接合部を示している。
【図11−1】図11は、上記VSV変異体AV1のゲノムの核酸配列(配列番号1)を示している。
【図11−2】図11は、上記VSV変異体AV1のゲノムの核酸配列(配列番号1)を示している。
【図11−3】図11は、上記VSV変異体AV1のゲノムの核酸配列(配列番号1)を示している。
【図11−4】図11は、上記VSV変異体AV1のゲノムの核酸配列(配列番号1)を示している。
【図11−5】図11は、上記VSV変異体AV1のゲノムの核酸配列(配列番号1)を示している。
【図12】図12は、上記VSV変異体AV1の変異体Mタンパク質遺伝子の核酸配列(配列番号2)を示している。
【図13】図13は、上記VSV変異体AV1の変異体Mタンパク質遺伝子のアミノ酸配列(配列番号3)を示している。
【図14−1】図14は、上記VSV変異体AV2のゲノムの核酸配列(配列番号4)を示している。
【図14−2】図14は、上記VSV変異体AV2のゲノムの核酸配列(配列番号4)を示している。
【図14−3】図14は、上記VSV変異体AV2のゲノムの核酸配列(配列番号4)を示している。
【図14−4】図14は、上記VSV変異体AV2のゲノムの核酸配列(配列番号4)を示している。
【図14−5】図14は、上記VSV変異体AV2のゲノムの核酸配列(配列番号4)を示している。
【図15】図15は、上記VSV変異体AV2の変異体Mタンパク質遺伝子の核酸配列(配列番号5)を示している。
【図16】図16は、上記VSV変異体AV2の変異体Mタンパク質遺伝子のアミノ酸配列(配列番号6)を示している。
【図17】図17AおよびBは、本発明の一つの実施形態に従う変異体VSVの保護効果を図で示しており、図17Aは、VSVの致死的頭蓋内用量の投与後のマウスの生存%を示している;そして17Bは、VSVの致死的頭蓋内用量の投与後の経時的なマウス体重変化を示している。
【図18】図18は、WT VSVまたは変異体VSV(AV1もしくはAV2)に感染し、OVCAR4細胞、CAKI−1細胞およびHOP62細胞における、相対的β−IFN産生を図に示している。
【図19】図19AおよびBは、樹立されたCT26腫瘍を有するWT VSV処置マウスおよびΔM51 VSV処置マウスから得られた脾臓細胞からの抗CT26細胞傷害性Tリンパ球活性(図19A)を図で示し、ならびにWT VSVおよびΔM51 VSVで処置された非担癌マウスから得られた脾臓細胞によるNK依存性およびNK非依存性のCT26細胞崩壊(図19B)を、図で示している。
【図20】図20は、皮下CT26腫瘍を持っている、Δ51M VSV GFP処置マウスからのCT26腫瘍の免疫化学的染色切片を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明は、感染細胞においてmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することを担うタンパク質をコードする遺伝子に一以上の変異を有する、変異体ウイルスを提供する。従って、上記変異体ウイルスは、野生型ウイルスと比較して核への輸送を遮断する能力が低下しており、インビボで弱毒化される。上記変異体ウイルスは、正常な宿主細胞の抗ウイルス系を、これらの系の効果に対する感受性を残しながら、誘発することができ得る。上記変異体ウイルスは、限定されないが、ワクチンおよびアジュバントとして、ウイルスベクターとして、ならびに悪性細胞または感染細胞の選択的溶解のための細胞溶解剤および細胞傷害剤として、癌および慢性感染の処置のための治療剤を含む広範囲の応用に適切である。
【0022】
(定義)
他で定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的用語および化学的用語は、本発明が関する当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。標準的なアミノ酸の3文字表記および1文字表記が、本明細書で交互に使用される。
【0023】
本明細書で特定のウイルスに関連して使用される、用語「異種核酸配列」とは、上記特定のウイルス以外の源に起源する核酸配列をいう。
【0024】
本明細書で使用される、用語「変異」とは、欠失、異種核酸の挿入、逆位または置換をいう。
【0025】
本明細書で使用される、用語「遺伝子」とは、コード配列の上流もしくは下流に位置し得、プロモーター、オペレーター、ターミネーターなどのような関連制御領域と一緒に個別のタンパク質またはRNAをコードする核酸の断片(「コード配列」もしくは「コード領域」ともいう)をいう。
【0026】
本明細書で使用される、用語「変異体ウイルス」とは、限定されないが、欠失、異種核酸の挿入、逆位、置換またはそれらの組合せを含む、ゲノムにおける一以上の変異を含むウイルスをいう。
【0027】
本明細書でウイルスに関連して使用される、用語「天然に存在する」とは、上記ウイルスが自然状態で見出し得ること、即ち自然の源から単離され得、そして実験室でヒトにより意図的に改変されていないことを示す。
【0028】
本明細書で使用される、用語「野生型ウイルス」とは、自然に見出される最も頻度の多い遺伝子型のウイルスをいい、このウイルスに対して変異体が定義されている。
【0029】
本明細書で使用される、用語「抗ウイルス系」とは、ウイルス感染に対する細胞応答の成分をいい、例えばインターフェロンおよび他のサイトカイン、一酸化窒素合成酵素、2本鎖RNA依存キナーゼ(PKR)、オリゴアデニル酸シンテターゼ(OAS),Mx A GTPアーゼおよびMx B GTPアーゼなどを含む。
【0030】
本明細書で使用される、用語「抗ウイルス応答」とは、ウイルス感染に対する細胞応答をいい、例えばインターフェロンの産生、サイトカイン放出、ケモカインの産生、リンホカインの産生またはそれらの組合せを含む。
【0031】
本明細書で使用される、用語「正常宿主細胞」とは、完全な抗ウイルス応答を有する、非癌性の非感染細胞をいう。
【0032】
本明細書で使用される、用語「ワクチン」とは、疾患を誘発しないで、動物において免疫応答を刺激することができる物質の調製物をいう。
【0033】
本明細書で使用される、用語「腫瘍崩壊剤」とは、腫瘍細胞の増殖を阻害することができ、かつ/または腫瘍細胞を殺すことができる薬剤をいう。
【0034】
本明細書で使用される、用語「アジュバント」とは、ワクチンに添加された場合、被験体においてそのワクチンにより刺激される免疫応答を昂進することができる物質をいう。
【0035】
(変異体ウイルス)
本発明は、感染された宿主細胞においてmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子の中に、一以上の変異を有する変異体ウイルスを提供する。結果として、上記変異体ウイルスは、核への輸送を遮断する能力が低下し、そしてインビボで弱毒化される。mRNAまたはタンパク質の核への搬出を遮断することは、上記感染細胞内の上記抗ウイルス系を無力にし、かつ、感染細胞が、周辺の細胞を感染から保護し得る機構(即ち、早期警告系)を無力にし、そして最終的には細胞溶解を生じる。本発明の一つの実施形態では、従って、上記変異体ウイルスは、その野生型と比較して低下した細胞溶解性の性質を有する。
【0036】
上記変異体ウイルスは、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することができないので、上記変異体ウイルスによる正常宿主細胞の感染は、上記細胞の抗ウイルス系を誘発する結果となり得、それは、野生型ウイルスにより通常は遮断または迂回される。本発明の別の実施形態に従って、従って、上記変異ウイルスは、正常宿主細胞の上記抗ウイルス系を誘発することができ、その抗ウイルス系に対して感受性である。
【0037】
複製サイクルの一部として、感染細胞においてmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する、種々のウイルスは、公知であり、従って、本発明に従って変異体ウイルスを産生するための変異に適切である。上記ウイルスとしては、DNAウイルス、(+)鎖RNAウイルスまたは(−)鎖RNAであり得る。適切なDNAウイルスの例としては、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス、パポーバウイルス、イリドウイルス、ヘパドナウイルス(hepadenavirus)、ポックスウイルス、ムンプスウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、または風疹ウイルスが挙げられる。適切な(+)鎖RNAウイルスの例としては、トガウイルス、フラビウイルス、ピコルナウイルス、またはコロナウイルスが挙げられる。適切な(−)鎖RNAウイルスの例としては、オルトミクソウイルス科、ラブドウイルス科およびパラミクソウイルス科ファミリーからのウイルスが挙げられる。
【0038】
本発明の一つの実施形態では、上記ウイルスは、ポックスウイルス科、ピコルナウイルス科、オルトミクソウイルス科またはラブドウイルス科のファミリーから選択され、例えば、上記ウイルスは、ワクチニアウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、水疱性口炎ウイルス、ニューカッスル病ウイルスまたはベシキュロウイルスであり得る。
【0039】
本発明の別の実施形態では、上記ウイルスは、ラブドウイルス科のメンバーである。ラブドウイルスは、それらが通常のヒト病原体ではないので、治療用途には、特に適している。治療薬剤として使用されるものに類似するウイルス株に対する既存の免疫応答は、治療薬剤としての上記変異体ウイルスの効果を、弱体化し得、従って、望ましくない。さらに、ラブドウイルスは、細胞質で全ライフサイクルを過ごすRNAウイルスであり、従って、患者のゲノムへの望ましくない組込みの危険を最小化する。
【0040】
本発明の別の実施形態では、上記ラブドウイルスはベシキュロウイルスである。適切なベシキュロウイルスの例としては、限定されないが、ピリ−ウイルス、チャンディプラウイルスおよび水疱性口炎ウイルス(VSV)が挙げられる。
【0041】
VSVは、治療的潜在力を実証してきたベシキュロウイルス科のメンバーである。ヒトにおけるVSV感染は、無症候または緩和な「フルー」として顕性のうちのいずれかである。VSV感染したヒトの間で重篤な病気や死亡の報告症例は無かった。VSVの他の有用な特性は、それは複製が早く、容易に高力価に濃縮され得、それはたった5つの遺伝子からなる単純ウイルスで、従って、容易に遺伝子操作を受け入れやすく、そして広い宿主範囲を有し、ヒト細胞の殆どのタイプに感染することができるという事実を含む。本発明の1つの実施形態では、上記変異体ウイルスは、変異体VSVである。多くの異なるVSV株が当該分野で公知であり、本発明における使用に適している。例としては、限定されないがインディアナ株とニュージャージー株が挙げられる。当業者は、VSVの新株が、本発明の使用にもまた適切で、将来出現するおよび/または発見されるであろうことを理解する。そのような株はまた、本発明の範囲に入ると考えられる。
【0042】
(1.変異体ウイルスの調製)
本発明に従って、上記変異体ウイルスは、天然に存在する変異体であり得、またはそれらは、遺伝子操作された変異体であり得る。上記変異体ウイルスは、従って、定義された増殖条件または淘汰圧を使用して選択で得られ得、またはそれらは、当該分野で公知の遺伝子工学技術を使用して、特異的に操作された組換えウイルスであり得る。
【0043】
例えば、感染細胞において抗ウイルス系を誘発し、抗ウイルス系に感受性を残しているそれらの変異体ウイルスの選択のために、上記ウイルスの集団は、野生型ウイルスによる感染に正常に感受性がある細胞上で増殖し得、これらの細胞上で増殖を殆どしない(より小さいプラーク形成をする)ウイルスが単離される。これらの単離されたウイルスは候補変異体ウイルスである。VSV(感染細胞においてインターフェロン応答を正常に遮断する)のようなウイルスのためのそのような選択技術の例として、上皮細胞株のようなインターフェロン応答性細胞上で、野生型と比較して、貧増殖の選択である。これらの候補変異体が、インターフェロン非応答性細胞(例えば腫瘍細胞)上で増殖する場合の大きなプラーク形成は、上記貧増殖がインターフェロン応答に起因することを確証した(例えば国際特許出願WO 01/19380)。
【0044】
一度、天然に存在する変異体ウイルスが同定され、単離されると、そのウイルスゲノムの変異の位置を標準的な技術、例えば配列決定技術、制限分析、ハイブリダイゼーション技術、マイクロアレイ分析またはこれらの技術の組合せを使用して決定され得る。組換え変異体ウイルスが、上記ゲノムの同じ領域で、同一変異のまたは類似の変異のいずれかを含有する標準的な技術(以下を参照のこと)を使用して、遺伝子的に操作され得る。欠失変異または挿入変異を含有するように遺伝子操作されたウイルス(即ち、組換えウイルス)は、代表的には、天然に存在する変異体より、より低い復帰率を有し、従って治療目的に、特に適している。
【0045】
あるいは、候補遺伝子は、既にウイルスの中で同定されている場合は、組換え変異体ウイルスは、当該分野で周知の技術を使用して遺伝子的に操作され得る(例えば,Sambrookら、1989、 A Laboratory Manual.New York:Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと)。この点に関する候補遺伝子は、感染細胞においてmRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードすることが推測される遺伝子である。本発明の一つの実施形態は、上記変異体ウイルスが組換え変異体ウイルスである。
【0046】
例えば,DNAウイルス(例えば、ワクチニアウイルス、アデノウイルス、バキュロウイルス)および(+)鎖RNAウイルス(例えばポリオウイルス)は、米国特許第4,769,330号;同第4,215,051号およびRacanielloら、(1981、Science214:916〜919)に記載されているように、組換えDNA技術を使用して操作され得る。(−)鎖RNAウイルス(例えば、インフルエンザウイルスおよびVSV)は、VSVのために確立された逆遺伝子系のような十分に確立された「逆遺伝子」技術を使用して遺伝子的に操作され得る(Roberts A.およびJ.K.Rose、Virology、1998、247:1〜6)。
【0047】
上述のような、遺伝子技術は、従って、候補遺伝子において一以上の変異を操作するのに使用され得る。当業者は、上記遺伝子が、使用される特定のウイルスに依存するが、構造タンパク質または非構造タンパク質をコードし得ることを理解する。上記変異は、ヌクレオチド欠失、ヌクレオチド挿入、ヌクレオチド逆位もしくは一以上のヌクレオチドの置換、または異種核酸の挿入またはそれらの組合せであり得る。当該分野で公知のように、変異体ウイルスは、導入された変異の修正により、時々、野生型への復帰が可能である。欠失および/またはヌクレオチド多重変異のような修正が難しい変異は、従って、復帰を最小限にするための変異体ウイルスを作製する時に使用され得る。本発明の一つの実施形態では、導入変異は欠失である。別の実施形態では、上記導入変異は、2,3またはそれ以上のヌクレオチドの関わる変異である。タンパク質発現が遺伝子のコード領域またはそれと関連する調節領域のいずれかでの変異により影響され得ることは、当該分野で周知のことである。候補遺伝子の非コード領域もしくはコード領域またはそれらの組合せにおける変異は、本発明に包含される。一つの実施形態では、一以上の変異は、遺伝子のコード領域に操作される。別の実施形態では、一以上の変異は、非構造タンパク質をコードする遺伝子のコード領域に操作される。
【0048】
非構造タンパク質をコードする適切な遺伝子の例としては、ラブドウイルスのマトリックスタンパク質またはMタンパク質をコードする遺伝子である。VSV由来の上記Mタンパク質は、よく研究されており、以下を含むいくつかの主要なウイルス機能に必要な多機能タンパク質であることが示されている:出芽(Jayakarら、2000、J Virol、74(21):9818〜27)、ウイルス粒子集合(Newcombら、1982、J Virol、41(3):1055〜62)、細胞変性効果(Blondelら、1990、J Virol、64(4):1716〜25)および宿主遺伝子発現の阻害(Lylesら、1996、Virology 225(1):172〜80)。後者の性質は、本明細書で、mRNAおよびタンパク質の両方の宿主の核の中へのおよび中からの核輸送の阻害に起因することが示されている。VSV Mタンパク質をコードする遺伝子において作製され得る適切な変異の例としては、限定されないが、異種核酸のコード領域への挿入、コード領域における一以上のヌクレオチド欠失またはMタンパク質の33、51、52、53、54、221、226位の一以上のアミノ酸残基の置換もしくは欠失を生じる変異またはこれらの組合せが挙げられる。
【0049】
VSV Mタンパク質の上記アミノ末端は、上記タンパク質の標的をミトコンドリアとすることが示され、上記タンパク質の細胞傷害性に寄与し得る。上記タンパク質のこの領域へ導入された変異は、従って、ウイルスの毒性の増減を生じ得る。上記タンパク質のN末端をコードするMタンパク質遺伝子の上記領域において作製される適切な変異の例としては、限定されないが上記タンパク質の最初の(N末端から)72のアミノ酸における、一以上の欠失、挿入または置換を生じる変異が挙げられる。
【0050】
上記アミノ酸の数は、VSVのインディアナ株のMタンパク質の上述の位置をいう。他のVSV株およびラブドウイルス科由来のMタンパク質のアミノ酸配列は、インディアナ株VSV Mタンパク質のアミノ酸配列とは、いくつかのアミノ酸の存在、不存在に起因して僅かに異なり得、対応するアミノ酸の僅かに異なる番号付けになることは、当業者には、容易に分かる。本明細書で記載されているそれらに対応する変異のための適切なアミノ酸を同定するために、上記関連タンパク質配列とインディアナ株VSV Mタンパク質配列とのアラインメントは、標準的な技術およびソフトウエアを使用して当業者に容易に実施できる(例えば、ウェブサイトのNational Center for Biotechnology Informationで入手できるBLASTXプログラム)。このように同定されるアミノ酸は、本発明に従う変異の候補である。
【0051】
本発明の一つの実施形態では、上記変異体ウイルスは、上記Mタンパク質(表記法は:野生型アミノ酸/アミノ酸位置/変異アミノ酸;記号Δは、欠失を、そしてXは任意のアミノ酸を示す)をコードする遺伝子に導入された一以上の以下の変異を有するVSVである:M51R、M51A、M51〜54A、ΔM51、ΔM51〜54、ΔM51〜M57、V221F、S226R、ΔV221〜S226,M51X,V221X、S226X、またはそれらの組合せ。別の実施形態では、上記変異体ウイルスは、上記Mタンパク質をコードする遺伝子に導入された変異の以下の組み合わせの一つを有するVSVである:二重変異−M51RおよびV221F;M51AおよびV221F;M51〜54AおよびV221F;ΔM51およびV221F;ΔM51〜54およびV221F;ΔM51〜57およびV221F;M51RおよびS226R;M51AおよびS226R;M51〜54AおよびS226R;ΔM51およびS226R;ΔM51〜54およびS226R:ならびにΔM51〜57およびS226R;三重変異−M51R、V221FおよびS226R;M51A、V221FおよびS226R;M51〜54A、V221FおよびS226R;ΔM51、V221FおよびS226R;ΔM51〜54、V221FおよびS226R;ならびにΔM51〜57、V221FおよびS226R。変異体Mタンパク質の例は図6に示されている。
【0052】
本発明はまた、上記変異体ウイルスの配列、またはその断片およびそれに対して相補的な配列を有する単離された核酸分子(DNAまたはRNA)に関する。そのような配列は、組換え変異体ウイルスの産生に、またはプライマーもしくはプローブとして有用である。一つの実施形態では、変異体VSVの配列、その断片およびそれに対して相補的な配列を有する単離された核酸配列が提供される。別の実施形態では、上記Mタンパク質の一以上の変異を有するVSV配列、それらの断片およびそれに対する相補的な配列を有する単離された核酸分子が、提供される。
【0053】
(2.変異体ウイルスの試験)
本発明に従って、上記変異体ウイルスは、野生型ウイルスと比較した場合、mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断する低下した能力に特徴づけられる。この能力の損失は、低下した細胞溶解活性を示す上記変異体ウイルスおよび/または上記細胞の抗ウイルス系(野生型ウイルスにより通常遮断されている)を誘発する上記変異体ウイルスを生じ得る。
【0054】
(2.1 インビトロ試験)
候補変異体ウイルスは、mRNAもしくはタンパク質の核輸送を遮断する能力の低下または損失についてインビトロでスクリーニングされ得る。例えば、適切な細胞株を候補変異体ウイルスに感染させ得、上記細胞を、収集し得、そして核画分および細胞質画分を、単離し得る。mRNAは、当該分野で周知の技術、例えばRT−PCR、ノーザンブロットまたはマイクロアレイ分析を使用して、これらの画分のそれぞれから単離され、そしてアッセイされ得る。上記核画分および細胞質画分のmRNA含量は、その後、野生型ウイルスおよび/またはモック感染された細胞に関し類似した画分のmRNA含量のような、適切なコントロールと比較され得る。
【0055】
あるいは、インサイチュハイブリダイゼーションアッセイは、候補変異体ウイルスの試験に使用され得る。そのようなアッセイは、元来のまたは遺伝子操作され得るの、いずれかで短い半減期を有する一以上の標的mRNAを使用して、セットアップされ得る。インサイチュハイブリダイゼーションは、その後、候補変異体ウイルスに予め感染された細胞のこれらの標的mRNAを検出するために使用される。感染後の細胞質の上記標的mRNAの検出は、未感染コントロールおよび/または野生型ウイルスに感染されたコントロールと比較する場合、核からのmRNAの搬出を遮断する候補ウイルスの減退した能力を示している。このタイプのアッセイは、当業者により、ハイスループットスクリーニングに、容易に適用され得る。
【0056】
同様に、候補変異体を試験するアッセイは、短い半減期を有するmRNAによりコードされている蛍光タンパク質を発現するように、標準的技術により操作された細胞株を使用して、セットアップされ得る。次いで、この操作された細胞株からの細胞は、野生型ウイルスおよび候補変異体ウイルスに別々に感染され、確立した技術を使用して蛍光がモニターされる。野生型ウイルスに感染されたそれらの細胞において、蛍光タンパク質をコードする新生mRNAの核細胞質輸送のウイルスによる遮断に起因して蛍光は消失する。mRNA輸送を遮断する能力の低下した変異体ウイルスは、一方、長期間蛍光を発する。このタイプのアッセイはまた、当業者によりハイスループットスクリーニングに、容易に適用され得る。
【0057】
変異体ウイルスに感染された細胞において、特定の参考mRNAは、野生型ウイルスで感染された細胞の細胞質で検出されるより、より多くその細胞質で検出され得る。本発明に従って、変異体ウイルスによる細胞の感染は、野生型ウイルスに感染された細胞の細胞質中の量と比較して、上記細胞の細胞質中の参考mRNAの量が少なくとも20倍の増加を生じた。
【0058】
一つの実施形態では、変異体ウイルスによる細胞の感染は、上記細胞の細胞質中の参考mRNAの量の少なくとも50倍の増加を生じる。他の実施形態では、上記増加は、100倍、250倍、500倍または少なくとも1000倍である。
【0059】
上に示されるように、上記変異体ウイルスは、野生型ウイルスにより通常は遮断されているまたは回避されている感染細胞において抗ウイルス系を誘発し得る。候補変異体ウイルスはまた、従って、野生型ウイルスと比較する場合、インタクトな抗ウイルス系を有する細胞上での貧増殖を基礎にしてスクリーニングされ得る。上記変異体ウイルスは、野生型ウイルスと同様に、抗ウイルス応答の一以上の構成成分が欠乏している細胞上で増殖可能なはずである。例えば上記インターフェロン系を誘発する変異体ウイルスは、インターフェロン応答性細胞上では貧増殖であるが、腫瘍細胞のようにインターフェロン応答が損なわれている細胞では野生型ウイルスと同じように増殖する。細胞における抗ウイルス系を誘発する上記変異体ウイルスの能力はまた、感染細胞における抗ウイルス応答構成成分をコードするそれらの遺伝子の発現を、標準的な技術、例えばウェスタンブロットもしくはノーザン分析またはマイクロアレイ分析を使用して分析し、および適切なコントロールに対する発現のレベルを比較して決定され得る。
【0060】
抗ウイルス応答を誘発する変異体ウイルスはまた、野生型ウイルスによる感染に対して隣接する細胞を保護することができ得る。この能力は、上記野生型ウイルスによる感染に正常に感受性のある細胞と上記変異体ウイルスおよび野生型ウイルスとを使用した共感染実験ならびに共感染細胞上での野生型ウイルスの増殖を決定して、試験され得る。共感染実験を行う方法は、当該分野で公知である。
【0061】
(2.2 インビボ試験)
一度、適切な変異体ウイルスが同定されれば、適切な動物モデルは、当該分野で公知の標準的な技術を使用して上記変異体ウイルスの効力および毒性を評価するために使用され得る。
【0062】
例えば、毒性はLD50試験を実施して決定され得る。本発明の一つの実施形態では、上記変異体ウイルスは、上記野生型のLD50より、約10倍と約10000倍との間のより大きいLD50を有する。あるいは、適切な動物モデルは、異なる濃度の上記変異体ウイルスで処置され得、上記ウイルスの毒作用は、その後適切な期間、動物の身体全体の健康状態および体重をモニターして評価され得る。評価期間終了後、上記動物は屠殺され、関連器官の外観および重量が測定され得る。適切な動物モデルの例としては、限定されないがBalb/CマウスおよびCD−1マウスが挙げられる。他の適切な動物モデルとしては、上記抗ウイルス応答の構成成分に欠陥のあるモデルのような野生型ウイルスによる感染に特に感受性のあるモデルが挙げられる。例として、PKR−/−マウスがあり、これはVSV感染に極めて感受性であることが示されている。
【0063】
上記変異体ウイルスの抗ウイルス応答を誘発する能力は、標準的な技術を使用してインビボで試験され得る。例えば、動物は、上記変異体ウイルスで処置され得、引き続いて野生型ウイルスまたは第2ウイルスにチャレンジされ得る。これらの動物の生存率は、上記変異体ウイルスで前処置を受けていないコントロール群と比較され得る。
【0064】
上に示すように、免疫応答を誘発する変異体ウイルスはまた、野生型ウイルスによる同時共感染に対して、被験体を保護することができ得る。上記変異体ウイルスのこの保護効果を評価するために、抗ウイルス応答および毒性プロフィールが、野生型ウイルスと変異体ウイルスに共感染した動物について決定され得、野生型単独で感染した動物と比較され得る。
【0065】
(使用)
本発明の変異体ウイルスは、広い範囲の応用に有用であることは当業者に容易に分かり得る。限定するわけではない実施例が、以下に提供される。
【0066】
(1.ウイルスベクター)
本発明は、本発明の変異体ウイルスのウイルスベクターとしての使用を提供する。ウイルスベクターとして使用される場合、上記変異体ウイルスは、治療的に活性な分子をコードする少なくとも一つの異種核酸配列を取り込むために操作される。上記ウイルスベクターは、細胞を感染するのに使用され得、次いで、異種核酸配列でコードされた治療的に活性な分子を発現する。ウイルスベクターは、治療的に活性な分子をインビボで発現するために、上記異種核酸を被験体の細胞に送達するために使用され得る。
【0067】
上記ウイルスベクターに取り込まれた上記異種核酸配列は、例えば、標準的なクローニング技術および/または核酸増幅技術の使用により、ゲノムDNA、cDNA、またはRNAから取り出され得、または当該分野で公知の方法により化学的に合成され得る。上記核酸配列は、上記ウイルスのゲノムの非必須領域もしくは遺伝子またはmRNAもしくはタンパク質の核輸送を遮断することに関連するタンパク質をコードする遺伝子に、当該分野で公知の方法および本明細書および他で記載されている方法を使用して、挿入され得る。
【0068】
本発明の目的のために、異種核酸配列によりコードされる上記治療的に活性な分子は、例えば、細胞内で発現される場合、上記細胞内に欠乏している活性を補充または供給するタンパク質であり得、従って、上記細胞を病的状態と戦うことができるようにする。そのようなタンパク質としては、限定されないが、酵素、血液誘導体、ホルモン、リンホカイン、成長因子、神経伝達物質、栄養因子、アポリポタンパク質、および腫瘍抑制遺伝子、ウイルス特異抗原もしくは腫瘍特異抗原、抗原性エピトープ、免疫調節因子、インターフェロン調節因子、サイトカインおよび自殺遺伝子が挙げられる。当業者は、上記挿入された異種DNA/RNAとしては、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、ポリアデニルシグナル、IRESおよび上記DNAまたはRNAによりコードされる遺伝子の効率的な発現に必要な他の調節要素を、さらに挙げられ得ることを理解する。あるいは、上記異種核酸の発現は、全体にまたは一部分、上記ウイルスベクターの内因性調節配列に依存し得る。
【0069】
本発明はまた、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムまたはsiRNAをコードする異種核酸配列も意図している。標的細胞におけるこれらの配列の発現は、細胞性遺伝子の発現および/または細胞性mRNAの転写を調節されることを可能にする。
【0070】
本発明の一つの実施形態では、ウイルスベクターとしての使用のための上記変異体ウイルスは、変異体ラブドウイルスである。別の実施形態では、上記変異体ウイルスは、上記Mタンパク質に1以上の変異を有するラブドウイルスである。別の実施形態では、上記変異体ウイルスは上記Mタンパク質に一以上の変異を含むVSVである。
【0071】
ウイルスベクターとして使用される場合、本発明の変異体ウイルスは、エキソビボでドナー細胞を操作するのに使用され得、その操作された細胞は、その後ドナーか、他の患者に戻され、または本発明の上記変異体ウイルスは、インビボで患者細胞を操作するのに使用され得る。そのような方法は、当該分野で周知である。
【0072】
本発明の一つの実施形態では、上記ウイルスベクターはタンパク質をコードする異種核酸の被験体への送達のために「遺伝子治療ベクター」として使用され、上記タンパク質はその被験体の細胞で発現されると、そうでなければ、上記細胞に欠乏する活性を補充または供給する。
【0073】
本発明の別の実施形態では、上記ウイルスベクターは一以上の抗原をコードする異種核酸配列を保有するワクチンベクターとして使用され、そして疾患および/または感染に対して、個体を免疫するために使用される。上記抗原は、例えば腫瘍抗原、ウイルス抗原または細菌抗原であり得る。「多価の」ワクチンベクターとしての上記ウイルスベクターの使用はまた、上記ベクターが異なる生体に対する抗原を含み、従って、1より多い疾患に対する免疫および1より多い生体による感染に対する免疫を提供する。
【0074】
種々のサイトカインの産生のように、宿主細胞の上記抗ウイルス系を誘発する変異体ウイルスは、特にワクチンベクターとして有用である。サイトカインの誘導は、体液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方の刺激を引き起こし、従って、ワクチンベクターの効力を改善し得る。
【0075】
ワクチンベクターとして使用される場合に被験体に投与される、本発明の上記変異体ウイルスの有効量は、コードされている抗原、被験体の年齢、体重および性別ならびに投与の様態に依存して変化する。当業者は、特定の被験体の免疫に必要な投薬量を当該分野で周知の標準的技術を使用して決定し得る。
【0076】
ワクチンベクターとしての本発明の上記変異体ウイルスの効力を評価するために、チャレンジ研究が実施され得る。そのようなチャレンジ研究は、代表的に実験動物を使用して実施され、種々の技術、例えば鼻腔内、筋肉内により変異体ウイルスを動物の群に接種することを含む。上記変異体ウイルスの効果が比較され得るコントロール群は、平行してセットアップされるべきである。コントロール群は、非接種動物および、例えば、市販の代替ワクチンを接種された動物を含み得る。接種後の適切な時間後に、動物は、病原性因子でチャレンジされる(すなわち微生物、ウイルスまたは腫瘍細胞)。
【0077】
チャレンジ後と同様に、接種前後に動物から血サンプルが収集され、その後、病原性薬剤に対する抗体応答が分析される。抗体応答の適切な試験としては、限定されないが、ウェスタンブロット分析、固相酵素免疫測定法(ELISA)が挙げられる。あるいは、上記動物は腫瘍細胞でチャレンジされる場合、上記腫瘍細胞の増殖が、例えば、腫瘍のサイズまたは重量の増加をモニターすることによって、モニターされる。
【0078】
細胞性免疫応答はまた、細胞性免疫(Tリンパ球)の誘導をモニターするリンパ球幼若化反応、サイトカイン誘導をモニターするインターフェロン放出などの技術により評価され得る。
【0079】
(2.腫瘍崩壊剤)
当該分野で公知のように、特定のウイルスは、選択的腫瘍崩壊剤として作用する能力がある。例としては、VSV、ニューカッスル病ウイルス、パルボウイルスH−1およびONYX−015ヒトアデノウイルス(例えば、国際PCT出願WO 01/19380およびWO 00/62735ならびにBell、JC、Lichty BDおよびStojdl D.2003 Cancer Cell 4:7〜11を参照のこと)のような特定の操作されたウイルスが挙げられる。腫瘍細胞増殖を抑制する腫瘍崩壊性ウイルスの効力は、正常細胞と比較して、ウイルス感染に対する腫瘍細胞の特異な感受性に、ある程度、存在する。腫瘍細胞は、増殖阻害またはアポトーシス経路において変異を獲得することにより、正常な対応物より、生存の優位性を得ている。腫瘍の進化の過程で、しばしば選択される一つの欠陥は、インターフェロン(IFN)応答の喪失である。インターフェロンはまた、個体の細胞の抗ウイルス応答の主要な伝達物質であり、このようにインターフェロン媒介性増殖制御プログラムからの逸脱を可能にする変異を獲得した腫瘍細胞は、同時にそれらの生得的な抗ウイルス応答を損なう。
【0080】
そのような細胞において、上記生得的な抗ウイルス応答が弱体化される場合、mRNAまたはタンパク質の核への搬出を遮断する上記変異体ウイルスの無能力は、上記細胞の中での複製能力には影響しない。本発明の変異体ウイルスは、それらの抗ウイルス系に対して感受性であるままで、感染細胞において抗ウイルス系を誘発する能力があり、このように腫瘍細胞において選択的に複製し、腫瘍細胞の増殖を阻害し、または腫瘍細胞を殺す能力があるが、正常細胞では複製する能力が無い。従って、本発明は、変異体ウイルスの改善された腫瘍崩壊剤としての使用を提供する。mRNAまたはタンパク質の核への輸送を遮断することに関連するウイルスタンパク質がまた、感染細胞に対して他の効果を有し得ることが理解される。例えば、上記VSV Mタンパク質は、感染細胞のミトコンドリアに上記タンパク質を標的化して、細胞傷害効果を導くために重要であることが示されてきている。上記Mタンパク質はまた、宿主タンパク質TSG101と相互作用して、感染細胞からの子孫ビリオンの効率的な発芽を促進することが示されている。
【0081】
本発明は、従って、変異体ウイルスの核への輸送を遮断する能力を低下させるだけでなく、Mタンパク質の宿主細胞のミトコンドリアとの相互作用をも変化させる上記Mタンパク質の一以上の変異を有する、組換え変異体ラブドウイルスを提供する。VSV Mタンパク質のN末端は、感染細胞のミトコンドリアにこのタンパク質を標的化するために重要であることが示されている。この局在化を昂進または抑制する上記タンパク質のこの領域の変異は、ウイルスベクターの細胞傷害性を、このように調節する。導入される変異に依存して、上記変異体ウイルスの細胞傷害性は増加または減少し得る。増加した細胞傷害性が生じるようにMタンパク質に一以上の変異を有するように操作された、変異体ウイルスは、特に有効な腫瘍崩壊剤である。
【0082】
本発明は、ウイルスの宿主タンパク質TSG101との相互作用を改変する、Mタンパク質の一以上の変異を有する組換えラブドウイルスの使用を、さらに意図している。TSG101は、腫瘍抑制タンパク質で、その発現および機能は悪性細胞において、しばしば変化されている。この相互作用に干渉する上記Mタンパク質への変異の導入は、腫瘍細胞でより効率的に複製し、より効果的な腫瘍崩壊剤になる組換えウイルスを生じ得る。
【0083】
本発明の変異体ウイルスの腫瘍崩壊活性は、ヒト腫瘍が免疫構成動物に移植される、標準的な異種移植腫瘍モデルを使用して決定され得る。ヒト癌の異種移植モデルの例としては、限定されないが、皮下注入により移植され、そして腫瘍増殖アッセイに使用される、マウスにおけるヒト固形腫瘍異種移植;脂肪パッド注入により移植され、腫瘍増殖アッセイに使用される、マウスにおけるヒト固形腫瘍同系移植;マウスにおける生存率アッセイに使用される、マウスにおけるリンパ腫および白血病の実験モデルならびに肺転移の実験モデルが挙げられる。
【0084】
変異体ウイルスの腫瘍崩壊活性は、変異体ウイルスで処置された異種移植動物および未処置コントロールにおける、腫瘍増殖を比較して決定され得る。上記野生型腫瘍崩壊ウイルスで感染されたコントロール動物もまた、使用され得る。上記変異体ウイルスは、直接腫瘍にもしくは全身系に投与され得、またはそれらは、エキソビボで細胞を感染し、引き続き、その細胞を使用して上記動物に投与されることに使用され得る。腫瘍が皮下に、または静脈内注入(肺腫瘍を形成する)で樹立された同系マウスモデル系もまた、上記変異体ウイルスの腫瘍崩壊活性を試験するのに使用され得る。
【0085】
(3.ワクチンアジュバント)
宿主細胞における抗ウイルス系を誘発することができる本発明の変異体ウイルスは、ワクチンアジュバントの理想的な候補である。当該分野で公知のように、多くの抗原が、強くない免疫原性であり、ワクチンとして使用される場合、被験体における強い免疫応答を刺激するためにアジュバントの添加が要求される。本発明は、宿主の抗ウイルス応答を誘発することにより、上記ワクチンの免疫原性を高めるワクチンアジュバントとしての変異体ウイルスの使用を意図している。本発明の一つの実施形態において、上記変異体ウイルスがインターフェロンあるいは他のサイトカインの産生を刺激することにより、ワクチンアジュバントとして作用する。
【0086】
(4.薬学的調製物中の保護剤)
上記に示されるように、感染した細胞の抗ウイルス系を誘発する本発明の変異体ウイルスは、野生型のウイルスおよび隣接する細胞に感染しようとする他のウイルスの複製を抑制し得る。これらの変異体ウイルスによる細胞の感染は、従って、自己制限的であるだけではなく、復帰変異体の出現に対しても保護する。上記変異体ウイルスは、このように、生産の間または被験体への投与後のいずれかで、調製物中に生じる有毒な復帰変異体に対して防御するウイルスの薬学的調製物の添加剤として使用され得る。
【0087】
(5.他の治療応用)
上述のように、本発明の変異体ウイルスによる上記宿主細胞の抗ウイルス系の誘発は、種々のサイトカインの産生を生じる。これらの変異体ウイルスは、従って、サイトカイン放出により緩和され得る疾患または障害、例えば癌、自己免疫疾患ならびに細菌、ウイルスおよび真菌感染の処置に使用され得る。
【0088】
(6.他の細胞溶解性応用)
当該分野で公知のように、HIVおよびHCVのような多くのウイルスは、感染細胞の抗ウイルス系をダウンレギュレートする。ポックスウイルス、BVDV、ブニヤウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルスおよびHPVのような他のウイルスは、それらの複製サイクルの部分として、宿主細胞の上記抗ウイルス系応答を遮断する。結果として、これらのウイルスのうちの一つで感染された細胞は、本発明の変異体ウイルスによる感染に対して増加した感受性を有し得る。上に示すように、抗ウイルス応答を弱体化された細胞において、上記変異体ウイルスはまだ複製可能である。従って、本発明の上記変異体ウイルスは、そのような感染細胞において選択的に複製し、そしてその感染細胞を殺し得る細胞溶解剤として、使用され得る。
【0089】
(薬学的組成物)
本発明は、本発明のウイルスおよび薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物を、さらに提供する。
【0090】
上記薬学的組成物は、上記変異体ウイルスと、適切な賦形剤(限定されないが、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムのような懸濁剤;例えばレシチンのような天然に存在するホスファチドのような分散剤または湿潤剤が挙げられる)との混和物を含有する、水性懸濁剤の形態であり得る。上記水性懸濁剤はまた、例えば、安息香酸エチルまたはp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピルのような保存剤を、1種以上含有し得る。上記薬学的組成物は、滅菌注射用懸濁剤の形態であり得る。この懸濁剤は、上述のような適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用しる当該分野で公知の技術に従って処方され得る。上記滅菌注射用調製物はまた、滅菌注射用溶液または非毒性で非経口投与に受容可能な希釈剤もしくは溶剤に入った懸濁剤であり得る。使用することができる受容可能なビークルおよび溶剤としては、限定されないが、水、リンガー溶液、乳酸加リンガー溶液、および等張性塩化ナトリウム溶液が挙げられる。
【0091】
他の薬学的組成物および薬学的組成物を調製する方法は、当該分野で公知であり、例えば、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」(以前は「Remingtons Pharmaceutical Sciences」);Gennaro、A.、Lippincott、Williams & Wilkins、Philidelphia、PA(2000)に記載されている。
【0092】
(キット)
本発明は、免疫処置における使用のための本発明の変異体ウイルスを含有するキット、および被験体への異種の遺伝子の送達のためのベクターとしての使用のための一以上の異種遺伝子を保有する、本発明の変異体ウイルスを含有するキットを提供する。上記変異体ウイルスは、薬学的組成物の形態でキットの中に提供され得る。上記キットの個別の構成成分は、分離した容器または共通の容器に包装され、製薬もしくは生物学的産物の製造、使用もしくは販売を、規制している行政機関により処方される形態での注意書きが、そのような容器と関連し得、その注意書きは、動物もしくはヒトへの投与のための製造、使用もしくは販売の上記機関による認可を反映しうる。
【0093】
上記キットの構成成分はまた、乾燥形態または凍結乾燥形態で供給され得、そのキットは、凍結乾燥された構成成分の再構築のための適切な溶媒を、さらに含み得る。容器の数もしくはタイプに関係なく、本発明のキットはまた、被験体への組成物の投与を補助する用具も含み得る。そのような用具としては、吸入器、シリンジ、ピペット、目薬の容器または同様な医療に認可された送達媒体であり得る。
【実施例】
【0094】
(実施例)
実施例1:IFN−βシグナル伝達停止における欠陥を有する腫瘍崩壊性VSV株
(材料および方法)
(ウイルス)
VSVの上記インディアナ血清型を、この研究のいたるところで使用し、L929細胞で増殖した。本明細書でAV1(またはMut2)およびAV2(またはMut3)とそれぞれいうT1026R(Desforgesら、2001、Virus Research 76(1):87〜102)、およびTP3(Desforgesら、2001、同書)は、この研究で、そして他でも野生型VSVのインディアナのHR株(Francoeurら、1987、Virology 160(1):236〜45)のIFN誘導変異体であることが示されている。
【0095】
(IFN産生ELISA)
インターフェロン−αレベルを、Human Interferon−Alpha ELISAキット(PBL Biomedical)を使用して、製造業者の指示に従って細胞培養培地中で測定した。簡単にいうと、100μlの培養培地を感染後48時間で収集し、96ウェルマイクロタイタープレートに、製造業者から供給されたブランクおよび標準と一緒にインキュベートした。サンプルを、製造業者の使用説明書に従って処理をし、次いでDYNEXTMプレートリーダー上、450nmで読取った。
【0096】
(VSV変異体ウイルスのインビボ毒性の決定)
8〜10週齢の雌性マウス(示されている種)を、5群にわけ、1×1010pfu〜1×10pfuまで(ウイルスとマウスの種に依存する)の1対数または1/2対数希釈のウイルスで、示された経路で感染させた。体重減少、脱水症状、立毛、群居行動、呼吸窮迫および後肢麻痺について、動物をモニターした。中程度から重篤な罹患を示すマウスをCCASに記載されている医薬品安全性試験実施基準に従って安楽死させた。LD50値をKarber−Spearman法により計算した。
【0097】
4週齢のBalb/CマウスまたはBalb/Cインターフェロンαレセプターノックアウトマウス(IFNAR−/−)(Steinhoffら、1995、J.Virol.、69:2153〜2158)を、鼻腔内から、10pfuのWT VSV、AV1またはAV2のいずれかで感染させた。マウスを罹患の徴候についてモニターし、重篤な呼吸窮迫の徴候時に安楽死させた。
【0098】
(野生型VSV株および変異体VSV株の混合サンプルのインビボ毒性の決定) Balb/C PKR−/−マウスは、およそ10pfuのLD100であるWT VSVによる鼻腔内感染に、非常に感受性が高いことが、以前に決定されている(Stojdlら、2000、J.Virol.79:9580〜9585)。3群のマウスを、WT,AV2またはそれらの株の混合物で、鼻腔内点滴により感染させた。マウスを罹患の徴候についてモニターし、重篤な呼吸窮迫または後肢麻痺の徴候時に安楽死させた。
【0099】
(無胸腺症マウスにおける卵巣異系移植癌モデル)
およそ1×10ES−2ヒト卵巣癌細胞をCD−1無胸腺マウスの腹腔窩に注入した。腹水の進展が、細胞注入後15日までに一般に観察される。12日、14日、16日にマウスを、1×10AV2ウイルスまたは1×10pfu当量のUV不活化AV2 VSVを腹腔内注入により処置した。マウスを病的状態についてモニターし、腹水の進展時に安楽死させた。
【0100】
(皮下腫瘍モデル)
皮下腫瘍を樹立するために、8〜10週齢のBalb/c雌性マウスの右側腹部を剃毛し、Balb/cマウスと同系の1×10CT26結腸癌細胞(Kashtanら、1992、Surg Oncol 1(3):251〜6)を注入した。これらの腫瘍をそれらがおよそ10mmに到達する(その時にウイルス処置が開始された)まで進展させた。群の動物に、1、6および12用量の示されたウイルスを隔日に投与した。5×10pfuの各用量を尾静脈注入により投与した。腫瘍を毎日測定し、体積を式1/2(L×W×H)を使用して計算した。マウスの体重を毎日測定し、体重減少、脱水症状、立毛、群居行動、呼吸窮迫、後肢麻痺についてモニターした。動物を、それらの腫瘍負荷が最終点(750mm)に到達すると安楽死させた。
【0101】
(肺モデル)
8〜10週齢のBalb/c雌性マウスに、3×10CT26細胞(Spechtら、1997、J Exp Med 186(8):1213〜21)を尾静脈注入し、肺腫瘍を樹立した。10日目、12日目、14日目、17日目、19日目、および21日目に、他で記載(Stojdlら、2000、Journal of Virology 74(20):9580〜5)されているように、マウスの群に鼻腔内点滴により5×10pfuの示されたウイルスを投与した。マウスの体重を毎日測定し、体重減少、脱水症状、立毛、群居行動、呼吸窮迫および後肢麻痺についてモニターした。動物を呼吸窮迫の発症の際に安楽死させ、そしてそれらの肺を、腫瘍進展を確認するために試験した。
【0102】
(MTSアッセイ)
各実験において、上記試験細胞株を、96ウェルプレートに、増殖培地(10%FBSを加えたDMEM−F12−HAM)中で、3×10細胞/ウェルで播種した。一晩インキュベート(37℃、5%CO)した後、培地を吸引して除去し、各ウェルに20μlのウイルス含有培地(α−MEM、無血清)を、10倍の増分で、3×10pfu/ウェル〜3pfu/ウェルまでの範囲で、またはウイルスを含有しない陰性コントロール培地を添加した。試験された各ウイルス用量は、6連で行った。ウイルスを付着させるために60分インキュベートした後に、80μlの増殖培地を各ウェルに添加し、そのプレートをさらに48時間インキュベートした。細胞生存率をCellTitre96TM AQueous MTS試薬(Promega Corp.)(テトラゾリウム化合物(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、内部塩;MTS)および電子カプリング試薬(フェナジンメトスルファート;PMS)の溶液を利用している)を使用して測定した。MTSは、細胞により、組織培養培地に溶解性のホルマザン生成物に生物還元される。ホルマザン生成物の490nmでの吸光度は、96ウェルアッセイプレートから直接測定され得る。ホルマザン生成物の量は、490nmでの吸光度から決定されるように、培養液中の生存細胞の数と直接的に比例する。
【0103】
IFN欠損をアッセイするために、細胞株を5単位/mlのIFN−αまたはIFN−βで、12時間前処置し、その後上述のWT VSVの範囲の用量でチャレンジした。標準MTSアッセイを実施し、その結果を、前処置なしの細胞からの結果と比較した。
【0104】
(マイクロアレイ)
野生型(WT)VSV株および変異体VSV株でモック処置または感染のいずれかをされたOVCAR4細胞をPBS中に収集し、ペレット化し、そして250μlの再懸濁緩衝液(10 mM Tris pH7.4、15 mM NaCl,12.5mg MgCl)に再懸濁した。600μlの溶解緩衝液(25 mM Tris pH7.4、15mM NaCl、12.5mg MgCl 5% ショ糖および1% NP−40)を添加し、溶解物を4℃10分間、時折ボルテックスしながらインキュベートした。核を、1000×gで3分間の遠心分離により収集した。その上清(細胞質画分)を収集し、−80℃で凍結させ、一方上記ペレット(核画分)を、一度、250μlの溶解緩衝液で洗浄し、そして凍結乾燥した。全RNAを、Qiagen RNeasyTMキット(製造業者の使用説明書に従って;Qiagen、 Mississauga、Canada)を使用して、核画分および細胞質画分の両方から単離し、引き続きLiCl沈降により各サンプルを濃縮した。20μgの各RNAサンプルを製造業者の標準プロトコル(Affymetrix;Santa Clara CA、USA)に従って処理をし、そしてAffymetrix GeneChipTMHuman Genome U133A Array(HG U133A チップ)とハイブリダイズした。各チップは、1500まで目盛をつけられ、各HG U133Aチップ上に存在する100正規化コントロール遺伝子に対して正規化し、それから全ての核サンプルを、各遺伝子基準でモック核サンプルに対して正規化し、そして上記細胞質画分を、対応するモック細胞質サンプルに対して正規化した。データをGenespringTMソフトウエア(Silicon Genetics;Redwood City CA、USA)を使用して分析した。
【0105】
(ウェスタンブロッティング)
OVCAR4細胞を10%胎児ウシ血清(Wisent)を補充したRPMI(Wisent)で増殖した。1.0×10細胞を感染の前日に10cmディッシュにプレートした。感染時に、上記培地を除去し、VSVウイルス株あたり5×10pfuの添加の前に、RPMI単独に置き換えた。ウイルス添加後1時間で、培地を除去し、そして実験の残りの期間、10%FBSを補充したRPMI培地に置き換えた。細胞を標準NP−40溶解緩衝液中で溶解し、75μgの全細胞抽出物をSDS−ポリアクリロアミドゲル上で泳動し、示されるように以下の抗体:IRF−7(sc−9083)、IRF−3(sc−9082)、ISG56(Genes Senからの贈り物)、VSV−N(全長インディアナNタンパク質に対するポリクローナル)およびアクチン(sc−8432)でブロッティングをした。
【0106】
(構築物およびウイルスレスキュー)
本質的に活性なIRF−7Δ(IRF−7Δ247〜467)の作製は、以前に他で記載されている(Linら、2000、J.Biol.Chem.、275:34320〜34327)。IRF−7Δ247〜467を付加的5’VSVキャップシグナルおよびXho1リンカーを有するFlagエピトープに対する順方向プライマー:5’−ATCGCTCGAGAACAGATGACTACAAAGACGATGACGACAAG−3’(配列番号7)およびVSVポリAシグナルおよびNhe1リンカーを有する特異的IRF−7逆方向プライマー−:5’−ATCGGCTAGCAGTTTTTTTCAGGGATCCAGCTCTAGGTGGGCTGC−3’(配列番号8)とを一緒に使用して、PCRで増幅した。
【0107】
上記PCRフラグメントを、それからrVSVレプリコンベクターpVSV−XN2(John Rose提供)の上記Xho1部位およびNhe1部位にクロ−にングした。rVSVの回収は、以前に記載されている(Lawsonら、1995、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.92:4477〜4481)。
【0108】
(インターフェロンβmRNAの定量的PCR)
感染OVCAR4細胞またはモック感染OVCAR4細胞からの核全RNAおよび細胞質全RNAを、製造業者の使用説明書(RNeasy;Qiagen、Mississauga、Canada)に従って単離した。4μgの全RNAをDNAaseで処理し、そして逆方向転写した。Roche LightcyclerTM(Roche Diagnostics、Laval、Canada)技術を使用して、定量的PCRを、各々からIFN−βおよびヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)標的を増幅するために3連で実施した。各標的アンプリコンに対して作成された標準曲線を基礎にして、交差点を絶対量に変換した。HPRTレベルが、これらの感染の経過期間中変わらないので、IFN−βシグナルを、引き続いてHPRTに対して正規化した。データは示されていない。IFN−βを増幅するために使用したプライマーは以下の通りであった:センス5’−TTGTGCTTCTCCACTACAGC−3’(配列番号9);アンチセンス5’−CTGTAAGTCTGTTAATGAAG−3’(配列番号10)およびHPRTプライマー: センス5’−TGACACTGGCAAAACAATGCA−3’(配列番号11);アンチセンス5’−GGTCCTTTTCACCAGCAAGCT−3’(配列番号12)。
【0109】
(インターフェロンαおよびインターフェロン刺激遺伝子のRT−PCR)
10%FBSを補充したF12K培地中で培養したA549細胞を、WT VSV株または変異体VSV株(MOI 10、ここでMOIとは感染多重度をいい、感染性ウイルス粒子の細胞に対する比である)で感染した。製造業者の使用説明書に従って、感染後4時間でトリゾール(Invitrogen)を使用してRNAを抽出した。1μgのRNAをオリゴdTプライマーで逆方向転写し、そして5%のRTをTaq PCRで、テンプレートとして使用した。用いたプライマーは以下の通りであった:Mx順方向プライマー5’−ATGGTTGTTTCCGAAGTGGAC−3’(配列番号13);Mx逆方向プライマー5’−TTTCTTCAGTTTCAGCACCAG−3’(配列番号14);VSV N 順方向プライマー5’−ATGTCTGTTACAGTCAAGAGAATC−3’(配列番号15);VSV N逆方向プライマー5’−TCATTTGTCAAATTCTGACTTAGCATA−3’(配列番号16);RANTES順方向プライマー5’−TACACCAGTGGCAAGTGCTCCAACCCAG−3’(配列番号17);RANTES逆方向プライマー5’−GTCTCGAACTCCTGACCTCAAGTGATCC−3’(配列番号18);βアクチン順方向プライマー5’−ACAATGAGCTGCTGGTGGCT−3’(配列番号19)およびβアクチン逆方向プライマー5’−GATGGGCACAGTGTGGGTGA−3’(配列番号20)。
【0110】
(結果)
インビボでのVSVの弱毒化は、インタクトなインターフェロン経路に依存する。
【0111】
インターフェロン応答性細胞に、小さいプラークを産生する(本明細書でAV1およびAV2という)二種のVSVの改変体は、上皮細胞株の感染後、野生型(WT)のVSVの20〜50倍のインターフェロンα(IFN−α)を誘発することがわかった(図1A)。上記変異体の完全なゲノム配列決定は、Mタンパク質においてAV1(M51R)の場合は、一つのみのアミノ酸置換、そしてAV2では、二つのアミノ酸置換(V221FおよびS226R)で、野生型株と異なることを明らかにした。Balb/Cマウスに鼻腔内に送達された場合のAV1およびAV2のLD50は、同じ経路で送達されたWT VSVより10,000倍大きいことが決定された(図1B)。同様な結果が、CD−1マウスで見られた(WT=1×10;AV1=2×10 pfu)。重要なことに,AV1とAV2は、インビボでのAV1およびAV2の増殖の減弱がインタクトなインターフェロン系に依存することを示すインターフェロンレセプターをノックアウトした動物を感染するために使用される場合、野生型ウイルスと同じ程、有毒である(図1C)。さらに、WT VSVとの組合せで使用された場合、上記変異体株AV2は、WT VSVから高感受性マウス(PKR−/−)を保護することがわかった(図1D)。事実、マウスが,AV2およびWT VSVを同時に投与された場合、WT VSVのLD100より100倍多い用量でさえ、罹患の徴候(脱水、立毛、倦怠、低下した活動度、呼吸窮迫、後肢麻痺)を示さなかった。これらの変異体が、感染後にIFNが産生されることを可能にした知見と合わせて、このデータは、VSVの変異体株AV1または変異体株AV2による感染が、その宿主にインターフェロン産生を誘発し、病的感染から上記宿主を保護する抗ウイルス状態を樹立するモデルと一致する。
【0112】
(野生型および弱毒化VSV変異体の両方が、生得性の抗ウイルス応答を誘発する)
感染の間のどの時点で、野生型ウイルスおよび弱毒化されたウイルスが、宿主細胞の抗ウイルス応答を誘導または不活化する能力を分出するかを決定するために、宿主細胞のVSV感染の間に起こる、早期シグナル伝達事象が、最初に樹立される必要があった。ウイルス感染過程の時間にわたるマイクロアレイ分析の使用は、抗ウイルス遺伝子の上記転写活性化に対して直接的に、または間接的につながる、VSV感染により誘発された早期のシグナル伝達事象の検出を可能にするはずである。上記マイクロアレイデータから、VSV感染は、特定の、連続した順で多くの遺伝子のアップレギュレーションを導く。遺伝子は、従って、以下を基礎にして群分けされる:(1)時間経過のアップレギュレーションのそれらの動態および(2)WT感染 対 変異体VSV感染に応答するそれらの誘導パターン。遺伝子のこれらのコホートは、3種の分離した転写波(表1、ならびに図2A,図2Bおよび図2C)に対応するようである。これと一致して、IFN−βサブタイプ,IRF−7サブタイプおよびIFN−αサブタイプは、コホートを分けるために、各々を分離した。他のグループは、刺激の数に応じて、潜在的転写因子IRF−3、NFκBおよびc−JUN/ATF−2は、活性化され、発現を誘導するIFN−βプロモーター上でCBP/p300と一緒に会合することを確立した(Watheletら、1998、Mol.Cell 1:507〜518)。また、IFN−βは、IRF−7およびそれらのプロモーターのISRE要素を含有する他の遺伝子の誘導(Luら、2000、J.Biol.Chem.、275:31805〜31812;ZhangおよびPagano、1997、Mol.Cell Biol.、17:5748〜5757;ZhangおよびPagano、2001、J.Virol.、75:341〜350)を引き起こすISGF3転写複合体の活性化を誘導するよう、オートクリン様式で作用することが公知である。さらに、IRF−7の異所性発現は、ISGF3複合体を形成することができない細胞において、IFN−αの発現に臨界的であることが示された(Satoら、1998、FEBS Lett.、441:106〜110)。IFN−α誘導の帰せられたIRF−7依存性およびIRF−7発現の帰せられたIFN−β依存性は、上述のアレイの遺伝子の動態プロフィールを暗示させるものである。これらの知見に照らしてみて、一般モデルにおいて、IFN−β、IRF−7およびIFN−α1を原型遺伝子と仮定して、これらの遺伝子のコホートは、3種の分離した転写波に対応し得;各々は、その前の転写波に依存し、そして誘発されると思われる(表1、ならびに図2A,図2Bおよび図2C)。
【0113】
【表1】


(WT VSV Mタンパク質は、インターフェロンβシグナル伝達を遮断する一方、AV1およびAV2からのMタンパク質は遮断できない。)
VSV感染に対する早期転写応答のよりよい理解のために、上記WTと「IFN誘導株」間のこれらの応答における差異の理解が必要であった。ウェスタンブロットにより、WTウイルス、AV1ウイルスおよびAV2ウイルスは、同様な動態で、IRF−3リン酸化を誘発する(図2E)。さらに、転写因子IRF−3、NFκBおよびc−JUN/ATF−2により直接、調節された遺伝子のいくつかは、WTウイルス、AV1ウイルスおよびAV2ウイルスに感染した細胞において、同程度にアップレギュレートされていることがわかった(図2A)。例えば、1次応答遺伝子は、3種の全てのウイルスによる感染後、3〜6時間で、しっかりと誘導された(図2A、DおよびE)。一方、IFN−βの産生およびJAK/STAT経路のオートクリン活性化(図2B)を必要とする2次応答遺伝子は、野生型ウイルスおよび弱毒化ウイルスにより、差動的に誘導された(図2Bおよび2EのIRF−7を参照のこと)。WT VSV感染細胞における損なわれたIRF−7産生の結果として、INF−α転写物のように3次応答遺伝子産物は、AV1およびAV2感染細胞では強く発現されたが、野生型VSV感染細胞では誘導されなかった(図2C)。合わせて考えると、これらの結果は、野生型VSVが、そのMタンパク質により図2に示されるように、1次と2次の抗ウイルス転写応答の間の遮断に影響することを示唆している。以前のトランスフェクション実験では、VSV Mタンパク質が、IFN−βの転写を遮断するか(Ferran およびLucas−Lenard、1997、J.Virol.、71:371〜377)、mRNAの核からの搬出を阻害するか(Herら、1997、Science、276:1845〜1848;von Kobbeら、2000、Mol.Cell、6:1243〜1252)、またはJak/Statシグナル伝達に干渉する(Terstegenら、2001、J.Immunol.、167:5209〜5216)かのいずれかが示唆されている。本明細書で記載されている転写物のプロフィール化研究は、後2者のメカニズムのいずれかに一致するが、しかしながら、感染細胞の外因性のインターフェロンによる上記Jak/Stat経路の誘導における障害は、観察されなかった(データは示されていない)。一方、マイクロアレイ分析またはRT−PCR分析は、核画分および細胞質画分における転写物を比較および対比するために使用された場合、野生型ウイルス感染細胞と弱毒化されたウイルス感染細胞との間に明確な差が見られた(図3)。重要なことに、IFN−β mRNAは、3つの全てのウイルスにより核画分に誘導されたが、野生型ウイルス感染細胞においてmRNAの細胞質プールには、著しい程度には見られなかった。
【0114】
全体として、これらの結果は、感染時に野生型VSVが1次抗ウイルス応答を誘発するが、ウイルス遺伝子産物の対等な発現を通して、臨界的抗ウイルスmRNAの核からの搬出を遮断することにより2次応答および3次応答を、弱めるという考え方に一致する。このモデルを支持して、構成的に活性型のIRF−7を発現する野生型VSVが、構築された。予想されたように、このウイルスは、弱毒化表現型であり、野生型VSV Mタンパク質の存在下でさえも、感染後4時間以内にIFN−α遺伝子の発現を誘導することができる(図2D;IFN−αは、AV1感染およびAV2感染の場合に、感染後12時間まで発現されない:表1)。
【0115】
(弱毒化ウイルスAV1およびAV2は、腫瘍細胞を殺す能力を保持する)
上記弱毒化VSV株の腫瘍崩壊的性質を評価するために、NCIヒト腫瘍細胞パネル(悪性度のスペクトルからの60細胞株)をWTウイルス、AV1ウイルスまたはAV2ウイルスのいずれかでチャレンジし、材料および方法に記載されているように48時間後の代謝的細胞死をアッセイした。WT VSVが、広い範囲の異なる癌細胞型に感染し、そして殺すことができることは、表2Aから、明らかである。さらに、本発明者らの以前の研究(Stojdl DF、Lichty B、Knowles S、Marius R、Atkins H、Soneberg N、Bell JC 2000 Nature Medicine 6:821〜5)が示すように、試験された癌細胞株の大多数(およそ80%)は、IFN−αまたはIFN−βのいずれかに対する、損なわれた応答を実証している(表2B)。従って、驚くべきことでは無いが、AV1およびAV2は、WT VSVと同じように、おそらく、これらの細胞におけるIFNシグナル伝達の欠陥に起因して、これらの腫瘍細胞株を殺すことに有効であった(表2AおよびB)。
【0116】
【表2A】

【0117】
【表2B】


(AV1およびAV2のインビボ腫瘍崩壊性活性)
以前に、ヌードマウスにおける異系皮下移植腫瘍のWT VSVによる成功的な処置が報告された(Stojdlら 2000、Nature Medicine 6(7):821〜5)、しかしながら、これらの実験では、外因性のインターフェロンが、上記ウイルス処置から、免疫不全の動物を保護するのに必要であった。上に記載されている結果は、AV1およびAV2が、外因性に投与されたインターフェロンがない場合でさえ、ヌードマウスモデルにおいて、ほとんど毒性なしで、効率的に腫瘍細胞を殺すはずであることを示唆する。ヒト卵巣癌細胞をCD−1マウスの腹腔窩に注入し、12日間増殖をさせた。UV不活化ウイルスを受けた殆どのマウス(14/15)は、処置後15日で、腹水が貯留した(このコホートの残りのマウスは、39日の終点まで到達した)。反対に、腹腔窩に送達した3用量AV2は、マウスの70%の持続性の治癒を提供した(図4A)。注目すべきことに、単回のWT VSVの腹腔内用量が、一様にヌードマウスに致死的であるが、3用量のAV2で処置された動物の一匹も、ウイルス感染の徴候(倦怠、体重減、脱水症状)さえも示さなかった。
【0118】
(AV1およびAV2による皮下腫瘍の全身系処置)
上記AV1株およびAV2株を、腫瘍を播種した最初の部位に注入した場合には有効であるが、全身系に送達された弱毒化株の治療効力を決定する必要がある。この目標に向かって、皮下腫瘍を、CT26結腸癌細胞を同系Balb/Cマウスの側腹後方に注入することにより樹立した。腫瘍が触知可能(およそ10mm)になった後、ウイルスを尾静脈注入により投与した。処置後12日でUV不活化VSVを受けたマウスは、平均腫瘍サイズが750mmで終点に到達した。反対に、AV2による単回処置は顕著な効力を示し、終点までの時間を殆ど3倍(34日)遅延させた。この処置群の8動物のうちの7匹が、部分応答者であると考えられ、一匹のマウスのみが処置に応答しなかった(表3)。多用量のAV1またはAV2を静脈内に投与した場合、処置の効力は顕著に増加した(図4Bおよび表3)。1動物の例外を除いては、全ての腫瘍は、AV1処置に応答し、3/6のマウスは腫瘍の完全な後退を示した。これらのマウスのうち2匹は、感染後それぞれ8日目および9日目と早期に、完全後退を示した。残りの動物のうちの2匹は、部分応答を示し、コントロールと比較して、腫瘍の進展の殆ど2倍の遅延を示した。全8匹のAV2感染マウスが、処置によく応答し、8匹のうち5匹は、持続的な腫瘍後退であった。事実、処置後7ヶ月でさえも、腫瘍の再増殖の徴候は無かったことは明らかであった。さらに、これらのマウスは処置後7ヶ月に、CT26細胞で再チャレンジした場合、微量のウイルスも検出できず(データは示されていない)、腫瘍が発生せず、これはおそらく腫瘍に対する宿主媒介性の免疫が進展したことを示している。
【0119】
担癌(tumour bearing)動物に投与するウイルス用量の数を倍にしても、持続的な後退の数は増加せず(表3)これは、処置の過程の間に生じる抗ウイルス免疫が、結果に影響し得ることを示唆している。腫瘍崩壊性HSV(Lambrightら、1999、Ann.Thorac.Surg.、68:1756〜1760および1761〜1772)に関して以前に記載されたアプローチにおいてもまた、ウイルス単独の代わりに、ウイルス感染細胞の注入の有用性を、治療様式として試験した。感染細胞が、ウイルスが血管系にいる間ウイルスを隠す「トロイの木馬」として、そして腫瘍新生血管にいるときにはウイルスの送達を容易にするよう機能をし得ることと判断した。この目的のために、AV2で2時間、インビトロで感染されたCT26細胞を、担癌マウスの尾静脈内に注入した。これらの実験で、感染されたCT26細胞は、精製ウイルスを使用するときと同じく、効果的なウイルスを腫瘍部位に送達する方法であるように考えられる(3匹の完全後退および1匹の部分応答;図4B)。
【0120】
静脈内処置の全ての形態は、マウスにより耐えられ、死亡は無くかつ罹患の徴候も最小であった。感染マウスは、初期の処置後、軽度から中程度の立毛、軽度の脱水症状およびいくらかの一時的体重減少があった(図4C)。これらの徴候は、上記初期の感染後にのみ観察され、全ての後の用量は、感染の徴候が現れなかった。
【0121】
【表3】


(播種性疾患に対するAV1およびAV2の全身系投与は有効である)
CT26細胞は、尾静脈に注入した時に、肺の内側が優勢であったが、マウスのいたるところで腫瘍が散在し、3〜4週間で死に到る。4匹のマウスの肺を、腫瘍細胞注入後16日およびUV不活化ウイルスで、処置後4日で試験した(図4)。これらの肺は、腫瘍負荷により通常の大きさの3倍、肺表面の結節として明らかであった。反対に、屠殺時の4日前にAV2の単回の静脈内用量を受けた担癌同腹子は、通常の肺の大きさを有し、明らかな腫瘍結節が殆どなかった。鼻腔内滴注によるAV2投与はまた、静脈内投与および鼻腔内投与の組合せが、最適のように見えるが、顕著な効力を示した(図4D)。
【0122】
図4Eは、肺腫瘍を播種し、その後UV不活化ウイルス,AV1またはAV2いずれかで鼻腔内処置したマウスの生存率の図を示す。UV不活化ウイルスで処置された動物の死に到るまでの平均時間(MTD)は、約20日であった。しかしながら、AV1またはAV2で処置されたマウスは完全に保護された。この実験は,競合的で、播種性の、免疫能のある腫瘍モデルにおけるAV1およびAV2の持続的治癒を産生する顕著な能力を実証した。
【0123】
(議論)
これらの弱毒化ウイルスと以前に報告されたVSVの腫瘍崩壊性バージョンとの主な差異は、感染細胞における変異Mタンパク質のインターフェロン産生を遮断する能力のなさである。VSV Mは、以下を含むいくつかの主要なウイルス機能に必要な多機能タンパク質であることが示されている:出芽(Jayakarら、2000、J.Virol、74:9818〜9827)、ウイルス粒子集合(Newcombら、1982、J.Virol、41:1055〜1062)、細胞変性効果(Blondelら、1990、J.Virol、64:1716〜1725)および宿主遺伝子発現の阻害(Lylesら、1996、Virology 225:172〜180)。後者の性質は、Mが宿主RNAポリメラーゼ活性を遮断(Yuanら、2001、J.Virol、75:4453〜4458)またはタンパク質およびmRNAの両方の宿主の核の中へおよび中からの核輸送を阻害(Herら、1997、同上;von Kobbeら、2000、同上)する能力に起因するとされている。ウイルス感染を使用して本明細書で示されている結果は、核輸送の遮断が主要な機序であり、この機序により野生型VSV株が、宿主の抗ウイルス応答を軽減してしまうということと一致する。感染細胞の転写物の本分析は、宿主細胞転写の阻害におけるMタンパク質の役割を支持する証拠は殆ど提供せず、しかしVSV感染は、むしろ抗ウイルス遺伝子のIRF−3媒介性の刺激、引き続き感染細胞の核からの1次応答転写物輸送のMタンパク質媒介性の遮断を誘発することを示す。この研究と特に関係するのは、Dahlbergのグループの研究(Petersenら、2000、Mol.Cell.Biol.、20:8590〜8601)およびトランスフェクション研究で、Mタンパク質が核孔タンパク質と関連し得、mRNA搬出を遮断させ得ることを示した他の研究(von Kobbeら、2000、同書)である。
【0124】
理論に拘束される意図は無いが、宿主細胞の抗ウイルスプログラムが、潜在的転写因子NFκB、c−JUN/ATF−2およびIRF−3の活性化により開始されることが明らかになった。上記宿主細胞にウイルスが侵入するときに、上記転写因子c−JUNおよびIRF−3は、それぞれ、JNKによりリン酸化され、そして最近同定されたウイルスにより活性化されるキナーゼ(John Hiscott、私信)である一方、NFκBは、上流IKKの作用を通してインヒビターIkBから放出される(DiDonatoら、1997、Nature、388:548〜554)。上記活性化転写因子は、上記核に転座し、IFN−βのプロモーターのところで、エンハンソソーム複合体を協調的に形成し;IFN−β誘導に導く(Watheletら、1998、同書)。これは、本明細書でウイルス感染に対する1次転写応答としていわれる。2次転写波は、IFN−β依存性の種々のインターフェロン刺激遺伝子の誘導により誘発されると推定されている。野生型Mタンパク質に関して本明細書で示されるデータは、これらの1次転写事象と2次転写事象の間の区別を描写し、いくつかの新規なウイルス応答遺伝子(GADD34,PUMA)を同定する支援をする。変異体Mタンパク質を有するウイルスによる感染後、IFN−βによるJAK/STATシグナル伝達経路のオートクリン刺激は、順々に、IFN−αの3次誘導に臨界的なIRF−7のような2次応答遺伝子の産生を引き起こすことが明らかとなった(Morinら、2002、J.Mol.Biol.、316:1009〜1022)。実際は、Mタンパク質の2次および3次転写物の遮断は、野生型Mタンパク質が存在する場合でさえも、構成的に活性なバージョンのIRF−7(ウイルスプロモーターから)を発現することにより、克服され得る。
【0125】
腫瘍崩壊性治療の限界の一つは、ヒトの集団に存在する既存の抗体によるウイルスの中和であり得る(Ikedaら、1999、Nature Medicine、5:881〜887)。ヒト集団に固有ではない、VSVのような腫瘍崩壊性ウイルスを使用することは、重要な治療的有利点を提供するはずである。ある時点での腫瘍崩壊活性に対する用量依存性(6回の処置は1回の処置より優れる)が、本研究でわかったが、おそらく中和抗体が発生するので、さらなる用量は、治療的利益を提供しないであろう。これらの結果は、奏効するウイルス治療に対する臨界的な決定因子の一つは、抗ウイルス免疫応答が進展する前に、効率的な腫瘍部位への送達であることを示唆する。臨床的には、宿主媒介性抗ウイルス応答の進展の前に、できるだけ頻度多く最大耐性ウイルス用量を送達することが重要そうである。個別の患者に必要な正確な用量の決定は、当該分野で働く臨床医の能力の十分な範囲内で、従って、特定の投薬量を本明細書で議論する必要はない。
【0126】
ウイルス治療に先立つ患者の免疫抑制に関わる戦略は、原則的には有用であるが、しかしながら、ウイルスの腫瘍崩壊治療の重要な構成成分は、腫瘍細胞表面上でのウイルスタンパク質の発現により開始される抗腫瘍応答であることが分かっている(データは示されていないおよびTodoら、1999、Human Gene Therapy、10:2741〜2755)。
【0127】
本明細書で示されているウイルス感染細胞の注入またはポリマーでのウイルス調製物の被覆(Fischerら、2001、Gene Ther.、8:341〜348)のような、他の戦略は、おそらく、価値ある宿主の免疫応答を損なわずに、治療剤を腫瘍部位に送達する機会を提供する。本明細書で示されているデータは、NCIパネルの細胞株の大多数が傷害された応答を伴う、インターフェロンシグナル伝達の欠陥が、腫瘍の進展の間、頻繁に発生することを示している。増え続けるデータは、インターフェロンが、細胞増殖、アポトーシスおよび抗ウイルス経路を協調的に調節し得る多機能サイトカインであることを示している。おそらく腫瘍の進展の間に、容赦のない増殖およびアポトーシスの損失の選択が、抗ウイルス活性の時折の必要性を凌駕する。
【0128】
理想的には、腫瘍崩壊性ウイルスは、悪性細胞において優先的に複製し、原発性腫瘍から転移部位への伝播する能力を有し、最終的には宿主により一掃される。上記弱毒化ウイルスAV1およびAV2が、これらの特質の全てを具体化し、正常細胞において抗ウイルス応答を誘発するそれらの能力の故に、インビボで例外的に安全であり得る証拠が、本明細書で示されている。実際に、インターフェロンの抗ウイルス効果に耐性のVSV変異体(Novellaら、1996、J.Virol.、70:6414〜6417)を選択することは、今まで不可能であると証明されており、そしてWT VSVによる感染に対して宿主をトランスで保護する変異体を誘導するこれらのIFNの能力が示されている(図1D)。従って、粒子の大多数が、強力なインターフェロン誘発因子であるウイルスの集団において、優勢に発生する野生型変種の可能性は、殆どないという可能性がある。IFN誘発ウイルスによる感染で生じる「サイトカイン雲」は、宿主をより有毒なWT株から保護する(図5を参照のこと)。これらの細胞は、そのような「サイトカイン雲」に、応答するのに欠陥があることが示されているので、腫瘍を殺すことには、影響されない。
それ故、上記治療指標は増加し、腫瘍崩壊性ウイルスの癌治療剤としての潜在力をさらに改善する。
【0129】
(実施例2:レスキューされた変異体VSV)
一連の組換えウイルスを、インターフェロン誘発変異体の産生に有用な変異体の範囲を試験するために、構築した。この目的のために、プラスミドpXN−1(Schnell MJ、Buonocore L、Whitt MAおよびRose JK(1996)J.Virology 4、2318〜2323)からN遺伝子,G遺伝子およびL遺伝子ならびにAV1からのP遺伝子およびM遺伝子を含有するキメラウイルス骨格を作った。それらのM遺伝子のみが異なる一連のウイルスを作製した後、添付図(図6および図7)に示すように、M遺伝子改変体を順に置換して産生した。例えば、XNDG M4は、pXN−1からの上記N遺伝子,G遺伝子およびL遺伝子、AV1からのP遺伝子ならびにメチオニン51が欠失しているM遺伝子を含有している。XNDG M5は、メチオニン51、アスパラギン酸52、スレオニン53およびヒスチジン54と4つのアミノ酸の欠失を有するM遺伝子(図7)を有する。表4(以下)に本発明者らが示すように、これらの2種の変異体は、メチオニン51がアルギニンに変換された(すなわちM51R)天然に存在する変異体(Mut2もしくはAV1)として、3種の腫瘍形成性のヒト細胞株を殺すことに等しく有効である。XNDG M4およびXNDG M5は、欠失変異体であるので、これらの組換えウイルスが、本来のメチオニン51の遺伝子型に復帰するのは、ずっと難しい。さらに、操作された上記ウイルスは、依然、効果的に腫瘍細胞を殺すことができるが、それらはインターフェロン応答性細胞上で小さいプラークを形成し、これらのウイルスがインターフェロンに応答し得る細胞での増殖のために弱毒化されていることを示している(図8)。
【0130】
プラークアッセイを実施するために、Vero細胞を、直径60mmの組織培養ディッシュで、10%ウシ血清を補充したaMEM培地に集密的に播種し、通常の組織培養条件下で、少なくとも3時間、付着するよう放置した。上記サンプルウイルス懸濁液を、無血清αMEMで、1/2対数ごとに(例えば、10−4、10−4 1/2、10−5、10−51/2、・・・等)連続希釈した。培地を60mmディッシュから吸い取り、各ディッシュに、100μlのウイルス懸濁液を加え、通常の組織培養条件下で45分間インキュベートした。45分のインキュベーションに続き、上記ディッシュを42℃で、1%アガロースと(20%胎児ウシ血清を補充した2×MEM)の3mlの1:1の混合物を重層した。上記ディッシュを、その後一晩インキュベートし、翌朝プラークを計数した。
【0131】
OVCAR(ヒト卵巣癌細胞株)、293T(SV−40からのラージT抗原により形質転換されたヒト腎臓細胞株)およびU2OS(ヒト骨肉腫細胞株)細胞株を、AV1(Mut2)、XNDG M4ウイルスおよびXNDG M5ウイルスに感染させ、時間経過後、上述の如くMTSアッセイを使用して、細胞生存率を決定した。表4に提供されるデータは、レスキューされた変異体VSVが、AV1と比較して類似の殺傷特性を有することを実証する。
【0132】
【表4】


(実施例3:GFP−Mタンパク質融合タンパク質 緑色蛍光タンパク質(GFP)のアミノ末端と融合する場合、VSVマトリックス(M)タンパク質のアミノ末端(アミノM+72−GFP−N1)は、この融合タンパク質をミトコンドリアに標的化する(図9および図10)。VSVインディアナ株のMの最初の72のアミノ酸は、GFPを標的化することができる。メチオニン33(M33)で開始する融合タンパク質はまた、GFPをミトコンドリアに標的化することができるが、最初の50アミノ酸のみではできない。メチオニン51(M51)は、必要ではない。GFPのC末端で融合する場合、これらの配列は、上記融合タンパク質をミトコンドリアに標的化せず、従って、これらの配列は、この標的化を達成するために組換えタンパク質のアミノ末端でなければならない。
【0133】
図9および図10に示されるように、アミノ末端72アミノ酸とGFP(アミノM+72−GFP−N1)との間の融合タンパク質が、培養細胞で一時的に発現する場合:1)上記融合タンパク質は、ミトコンドリアに標的化される、2)上記ミトコンドリアは、通常の網様管状組織を失い、小斑点のある核周囲構造に崩壊し、3)上記膜電位を失う。これらは、死細胞の証明である。
【0134】
VSVマトリックスタンパク質は、上記ウイルスの細胞傷害性において役割を担っている毒性タンパク質として、認識されている。Mタンパク質の転写は、3者(M1、M33、およびM51)択一のATGコドンで開始し、より短いアイソフォームを産生し得ないM33およびM51で変異したウイルスは、著しく細胞傷害性が、減少していた。もはやミトコンドリアに標的化されない変異体VSV Mタンパク質を有するウイルスは、より細胞傷害性が低い。
【0135】
(実施例4.VSVで誘発される罹患に対する保護)
本研究は、全身投与された変異体VSV(ΔM51)が、VSVの致死的頭蓋内投与に対して保護し得ることを実証する。
【0136】
8週齢の雌性Balb/Cマウスの群にPBS、WT GFP VSV(1e8 pfu)またはΔM51 GFP VSV(1e8 pfu)のいずれかを静脈内に注入した(感作した)。24時間後、全てのマウスに2e7 pfuのΔM51 VSV(5μlのPBSで)頭蓋内に接種し、罹患の徴候および麻痺をモニターした。
【0137】
結果を図17Aおよび17Bに示す。図17Aは、ΔM51で感作したマウスの100%が生存し、一方WTで感作したマウスおよびPBSコントロールで感作したマウスの全てが、後肢麻痺を進展させ、安楽死させたことを実証するKaplan Meyer生存率プロットを提供する。図17Bは、静脈内処置後の経時的なマウスの体重のプロットである。ΔM51で感作したマウスは、体重減少はなかったが、一方WTで感作したマウスおよびPBSコントロールで感作したマウスは、安楽死の前に、極端な体重減少を示した。
【0138】
(実施例5:VSV感染後のインターフェロン産生)
本研究で示されたデータは、変異体VSVに感染された細胞が、IFN−αおよびIFN−βを分泌し、WT VSVに感染されたそれらの細胞は、IFN−αおよびIFN−βを分泌しないか、または産生しても非常に僅かな量であったことを実証する。
【0139】
(βインターフェロン)
OVCAR4細胞、CAKI−1細胞およびHOP62細胞をWT VSV株または変異体VSV株のいずれかに感染(MOI 10 pfu)させた。感染後10時間で、その感染細胞についてELISAでIFN−βの産生をアッセイした。AV1感染細胞およびAV2感染細胞は、分泌IFN−βを産生するが、WT VSV感染細胞は産生しなかった。上記ELISAを、市販のヒトIFN−β検出キット(TFB INC;東京 日本)を使用して実施した。本研究の結果を、図18に図示する。
【0140】
本研究で使用された細胞株は、市販で、例えばNCIの新薬開発プログラムから入手可能である。上記3種の細胞株は、それらが、いくらかインターフェロン応答性である癌の20%の中に入っているので、本研究のために選択した、全てヒト癌である。OVCARは、卵巣癌細胞であり、HOP62は、肺癌細胞であり、そしてCAKI−1は、腎臓癌である。各症例において上記細胞を、MTSアッセイで記載したように感染させた(実施例1を参照のこと)。
【0141】
(αインターフェロン)
マウスInterferon−Alpha ELISAキット(PBL Biomedical)を使用して、マウス血清のIFN−βレベルをアッセイした。雌性Balb/C(10週齢;Charles River)をPBSまたはPBSで希釈した1×10 pfuのWT GFPもしくは1×10 pfuのAV3 GFP(ここで、AV3は、メチオニン51が完全に欠失している、VSVの操作されたバージョンである)を静脈内に、注入した。感染後示された時間に、血液を各マウスの伏在静脈からヘパリン化した試験管に収集し、遠心分離をして、血清を得た。各サンプルについて、5μlの血清を95μlのPBSに希釈して製造業者の使用説明書に従ってアッセイした。下の表5に提供した上記結果は、ΔM51変異体に感染させたマウスは、WT VSVに感染させたマウスよりも早く、かつ多くの量のIFN−αを産生したことを実証する。上記未処置のマウスは検出できる量のIFN−αを産生しなかった。
【0142】
【表5】


(実施例6)
ΔM51−VSVによるマウスのインビボ処置は、担癌VSV未処置マウスからの脾臓細胞による溶解と比較して、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)媒介性のCT26腫瘍細胞標的の溶解を、劇的に増強することが分かった。
【0143】
樹立したCT26皮下腫瘍を持つBalb/cマウスを5×10 pfu ΔM51 VSVでまたは無しで静脈内に処置した。7日後、脾臓細胞を収集し、そして照射されたCT26腫瘍細胞と5:1の比で培養した。インビトロ刺激の7日後、脾臓細胞の抗CT26CTL活性についてアッセイした。本研究の結果を、図19Aに図示する。そこにはエフェクター脾臓細胞の非存在下でCT26標的腫瘍細胞の自然発症的な溶解のバックグラウンドより上の腫瘍特異的溶解%を、エフェクター:標的比(標的細胞は、腫瘍細胞で,脾臓細胞はエフェクター細胞またはキラー細胞である)に対してプロットした。
【0144】
WTウイルスまたはΔM51ウイルスにより誘発される免疫応答にもまた、定性的な差異を観察した。Balb/cマウスを5×10 pfuの野生型VSVまたはΔ51−VSVで、静脈内より処置し、7日後に脾臓細胞を収集して、照射されたCT26腫瘍細胞と共培養した。培養7日後、抗体結合磁性ビーズによるNK細胞の事前の除去をする場合としない場合の脾臓細胞について、CT26細胞に対する溶解アッセイをした。野生型VSVおよびΔM51−VSVでのマウスの処置により、ウイルス感染の間にそれらの腫瘍抗原に、以前のインビボ曝露なしで、インビトロでのCT26腫瘍抗原に対する強力な1次免疫応答発生のために脾臓細胞を感作した。これは、VSV治療が、新規抗原に対してインビトロで引き続き1次応答発生のため、インビボで脾臓細胞を感作していることを示している。野生型VSV治療後のCT26細胞に対する上記溶解活性は、NK依存性であった。ΔM51−VSV治療後のCT26細胞に対する上記溶解活性は、CTL媒介性であった。これは、WT VSVによる治療後に対してΔM51 VSV治療後の定性的に異なる免疫学的感作事象を示している。これらの結果を、図19Bに示す。このデータはまた、CT26細胞に対して、主に生得的なNK細胞が媒介するエフェクターメカニズムを発生させる野生型感染とは対照的に、保護的な免疫学的記憶の進展の潜在力を有し、効力のある適応免疫(CD8+T細胞が媒介する溶解)を誘発する、ΔM51 VSVの優れた能力を示唆している。
【0145】
本研究は、上記変異体ウイルスが、野生型ウイルスとは定性的に異なる応答を誘導することを示している。このアッセイにおいてCTL細胞の誘導は、上記変異体ウイルスの場合にのみ見られる。NK応答は記憶を有しないが、上記CTL応答は、長期保護応答である。この異なる応答の誘導は、上記変異体ウイルスのサイトカイン誘導に起因するようである。
【0146】
(実施例7:変異体VSV処置された腫瘍の免疫組織化学染色)
変異体VSVの腫瘍に対する効果を研究するために、皮下CT26腫瘍を持つBalb/cマウスを、静脈内にΔM51 VSV GFPで処置した。2、5または8日後、上記マウスを安楽死させ、腫瘍を素早く凍結し、後で切片(5μm)を作製し、VSV、活性カスパーゼ3および全白血球マーカーであるCD45のための免疫組織化学染色を行った。標準的技術を、本研究で使用した。上記染色切片の写真を図20に示す。陽性染色は褐色で、一方、全ての核をヘマトキシリンで青に対比染色した。H&E染色は、腫瘍の形態を示している(H&E染色は、その腫瘍の全体的な構造を示す非特異的染色である)。
【0147】
上記変異体VSV処置腫瘍の免疫組織化学染色は、大量のアポトーシスおよび白血球蓄積を明らかにした。本研究は、変異体VSVが優れた腫瘍崩壊剤であることを実証する。なぜなら、感染していない腫瘍細胞の死を誘導するからである(即ち、アポトーシスを耐えたカスパーゼ3+細胞)。理論に拘束される意図はないが、再び上記ウイルスが、感染ウイルスに先んじて腫瘍細胞を殺す細胞傷害性のサイトカインの産生を誘導するので、このことはもっともらしい。さらに、上記変異体ウイルスは、上記腫瘍を浸潤し得、そして攻撃し得る白血球(CD45+細胞)を漸増させる。上記CD45+細胞は、上記変異体ウイルスが細胞を感染させた後、腫瘍細胞のウイルス感染により誘導されるサイトカインに応答する。
【0148】
本明細書で言及されている全ての刊行物、特許および特許出願は、本発明が属する分野の当業者の技術レベルを示し、そして本明細書に、個別の刊行物、特許または特許出願が参考として援用されているように具体的におよび個別に示されたのと同じ程度に、参考として援用されている。
【0149】
本発明の実施形態がこのように記載されると、それらの実施形態が、様々に変化され得ることは明白である。そのようなバリエーションは、本発明の精神と範囲から逸脱するものとは見なされるべきではなく、全てのそのような改変は、当業者には特許請求の範囲内に包含されるよう意図していることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図11−4】
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【図11−5】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図14−4】
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【図14−5】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−103897(P2011−103897A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40938(P2011−40938)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【分割の表示】特願2007−86050(P2007−86050)の分割
【原出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【出願人】(505357317)オタワ ホスピタル リサーチ インスティチュート (6)
【出願人】(504397480)ウェルスタット バイオロジクス コーポレイション (13)
【Fターム(参考)】