変異Soxタンパク質および多能性を誘導する方法
部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞において多能性を誘導する能力を獲得したかまたは該能力が亢進した変異Sox2タンパク質、変異Sox7タンパク質、および変異Sox17タンパク質が、本発明において提供される。Sox7およびSox17がSox2に一部類似するよう変異しているか、またはSox2がSox7もしくはSox17に一部類似するよう変異している。一つの局面において、Sox7またはSox17のOct4接触界面が変異している。別の局面において、Sox2の高移動度群(high mobility group)(HMG)が、Sox7またはSox17のC末端活性化ドメインに融合される。変異Sox2タンパク質、変異Sox7タンパク質、または変異Sox17タンパク質を使用した多能性の誘導に関する方法も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照により本明細書に内容が組み入れられる、2009年11月4日出願の米国仮特許出願第61/272,793号に基づく恩典および優先権を主張する。
【0002】
発明の領域
本発明は、変異Soxタンパク質、ならびに細胞において多能性を誘導するための方法およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
遺伝子発現の調節は、細胞の分化および形態形成において重大な役割を果たす。遺伝子調節は、シス調節モジュール(CRM)における転写因子(TF)の組み合わせの会合を含む、複数の調節イベントを必要とする。多能性細胞は、部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞とは異なる遺伝子発現プロファイルを有し、従って、多能性細胞内では異なる調節イベントが起こっている可能性が高い。細胞の部分的な分化または完全な分化と比較して多能性を決定する調節イベントの解明は、分化細胞からの多能性細胞の作製を可能にするかもしれない。従って、多能性の指示に関与している「調節暗号」および細胞内の差次的な遺伝子発現プロファイルの解読は、精力的な研究の対象となっている。
【0004】
多能性調節イベントを遂行するためにTF結合部位(TFBS)の正確な配置が必要か否かは不明である(Segal,E.and Widom,J.Trends Genet.(2009)25(8):335-43(非特許文献1))。TFBSの配置が制限されているという仮説を支持して、コア調節ユニットとしてSox2/Oct4ヘテロ二量体を多能性CRMへ動員する複合モチーフが同定された(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117(非特許文献2);Boyer,L.A.et al.,Cell(2005)122:947-952(非特許文献3);Loh,Y.H.et al.,Nat.Genetics(2006)38:431-40(非特許文献4))。様々な細胞型において、細胞分化のレベルおよび型が様々であるため、調節複合体のコアを構築する異なるSox/Oct対が、異なる構成の複合モチーフによって動員される可能性がある。
【0005】
転写因子のSoxファミリーおよびPOU(Oct)ファミリーは、それぞれ20および14のメンバーからなり、脊椎動物の発生において相乗的に作用することが多い(Bowles,J.et al.,Dev.Biol.(2000)227:239-55(非特許文献5);Ryan,A.K.& Rosenfield,M.G.Genes & Dev.(1997)11:1207-25(非特許文献6);Wegner,M.Nucleic Acid Res(1999)27:1409-20(非特許文献7)に概説)。多様な生物学的役割にも関わらず、DNAエレメントに対するSoxタンパク質の特異性はほとんど区別ができず、特異的なDNA接触に関与するアミノ酸は高度に保存されている(Badis,G.et al.Science(2009)324(5935):1720-3(非特許文献8))。従って、単一の転写因子が特異的であるのではなく、選択的なヘテロ二量体化の結果として、転写制御における特異性が達成されるのかもしれない。実際、いくつかの別個のSox/POU対が、細胞運命の重大な調節因子として関連付けられている:Sox2/Oct4は、(ES)細胞における必須因子であり(Boyer,L.A.et al.,Cell(2005)122:947-952(非特許文献3);Loh,Y.H.et al.,Nat.Genetics(2006)38:431-40(非特許文献9);Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7(非特許文献10));Sox2/Brn2は、神経発生において重要であることが見出され(Tanaka,S.et al.Mol Cell Biol(2004)24:8834-46(非特許文献11));Sox11/Brn1対は、膠細胞を調節し(Kuhlbrodt,K.et al.J Biol Chem(1998)273:16050-7(非特許文献12));Sox17は、中内胚葉形成においてOct4と協力することが示されている(Stefanovic,S.et al.J Cell Biol(2009)186:665-73(非特許文献13))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Segal,E.and Widom,J.Trends Genet.(2009)25(8):335-43
【非特許文献2】Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117
【非特許文献3】Boyer,L.A.et al.,Cell(2005)122:947-952
【非特許文献4】Loh,Y.H.et al.,Nat.Genetics(2006)38:431-40
【非特許文献5】Bowles,J.et al.,Dev.Biol.(2000)227:239-55
【非特許文献6】Ryan,A.K.& Rosenfield,M.G.Genes & Dev.(1997)11:1207-25
【非特許文献7】Wegner,M.Nucleic Acid Res(1999)27:1409-20
【非特許文献8】Badis,G.et al.Science(2009)324(5935):1720-3
【非特許文献9】Loh,Y.H.et al.,Nat.Genetics(2006)38:431-40
【非特許文献10】Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7
【非特許文献11】Tanaka,S.et al.Mol Cell Biol(2004)24:8834-46
【非特許文献12】Kuhlbrodt,K.et al.J Biol Chem(1998)273:16050-7
【非特許文献13】Stefanovic,S.et al.J Cell Biol(2009)186:665-73
【発明の概要】
【0007】
分化細胞を人工多能性幹(iPS)細胞へと転換する再プログラム因子を検索するため、徹底的な努力がなされている。しかし、この偉業をなすことができるタンパク質はほんの少数であり、それらの生化学的独自性は未だ説明されていない。例えば、Sox2はiPS細胞を誘導することができるが、Sox17は、類似のDNA配列に結合するにも関わらず、iPS細胞を誘導することができない。
【0008】
本発明は、部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞において多能性を誘導する能力を獲得したかまたは該能力が亢進した変異型Soxタンパク質を含む。Sox7およびSox17がSox2に一部類似するよう変異しているか、またはSox2がSox7もしくはSox17に一部類似するよう変異している。
【0009】
これらの機構的な違いを理解するため、マウス胚性幹細胞において、新規の圧縮型sox/octモチーフを含む、異型sox/oct DNAモチーフを同定した。Sox2およびSox17は、基準モチーフと圧縮型モチーフとでは、Oct4との会合について逆の優先性を示すことが発見された。本発明は、Oct4に結合するタンパク質接触界面内のアミノ酸残基を変異させることにより、Sox2およびSox17の優先性を入れ替え得ることの発見に関する。これらの結果はSox7にも拡張された。この変異誘発は、圧縮型モチーフにおけるOct4/Sox17複合体の形成を防止し、基準モチーフにおける協同的相互作用を増強する。著しいことに、再操作されたSox7およびSox17は、再プログラムを促進し、細胞を人工多能性細胞へと変換することができるが、これは、Oct4と共に形成された二量体の多能性エンハンサーエレメントへの導入によるものである可能性が高い。ある種の態様において、Sox7またはSox17の単一の酸性残基の変異ですら、様々なDNAモチーフに対する優先性の変化をもたらし、部分的にまたは完全に分化した細胞において多能性を誘導する能力を、これらの組換えタンパク質に与える。
【0010】
従って、Sox7およびSox17は、適切なDNAモチーフに結合するよう変異した後、多能性を誘導し得るようになる。変異型のSox7およびSox17は、野生型Sox2により観察されるものより大きな多能性誘導効率を示し得ることが観察された。従って、Sox7またはSox17のC末端活性化ドメインと共にSox2の高移動度群(high mobility group)ドメインを使用して作出されたSox2の変異体は、Sox2の多能性誘導効率の増加をもたらすことが見出された。従って、本発明は、Sox2のC末端活性化ドメインを、Sox7またはSox17のものに交換することにより、Sox2の多能性誘導効率が増加することの発見にも関する。
【0011】
部分的にまたは完全に分化し、従って、多能性を失った細胞において、多能性を誘導するために、本発明の変異型Soxタンパク質が使用され得る。従って、本発明は、細胞において多能性を誘導する方法、およびそのための変異Soxタンパク質の使用にも関する。
【0012】
従って、一つの局面において、本発明は、Sox7タンパク質のアミノ酸88〜108またはSox17タンパク質のアミノ酸111〜131のいずれかに変異を含み、非多能性細胞を多能性細胞へと変換することができる、変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質を提供する。
【0013】
別の局面において、本発明は、Sox7タンパク質またはSox17タンパク質のOct4タンパク質接触界面をコードするアミノ酸配列の変異を含み、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導することができる、変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質を提供する。
【0014】
変異Soxタンパク質は、一つの態様において、変異Sox7タンパク質であり、別の態様において、変異Sox17タンパク質である。
【0015】
変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質において、配列
内の任意のアミノ酸残基が、異なるアミノ酸に置換され得る。いくつかの態様において、Sox7タンパク質のアミノ酸99またはSox17タンパク質のアミノ酸122に位置するグルタミン酸が変異している。いくつかの態様において、Sox7タンパク質のアミノ酸99またはSox17タンパク質のアミノ酸122に位置するグルタミン酸が、リジンに置換される。
【0016】
変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質は、ヒトSox7タンパク質またはヒトSox17タンパク質である。
【0017】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載される変異Soxタンパク質をコードする核酸分子を提供する。
【0018】
別の局面において、本発明は、Sox2タンパク質の高移動度群ドメインとSox7タンパク質またはSox17タンパク質のC末端活性化ドメインとをコードするアミノ酸配列を含む変異Soxタンパク質を提供する。
【0019】
C末端活性化ドメインは、Sox7タンパク質のC末端活性化ドメインであってもよいし、またはSox17タンパク質のC末端活性化ドメインであってもよい。
【0020】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載される変異Soxタンパク質を発現する細胞を提供する。
【0021】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載される変異Soxタンパク質をコードする核酸を含む細胞を提供する。
【0022】
別の局面において、本発明は、
(i)本明細書に記載される変異Soxタンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
の存在下で、胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法を提供する。
【0023】
別の局面において、本発明は、一つまたは複数の発現ベクターから
(i)本明細書に記載される変異Soxタンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
を、非多能性細胞において共発現させる工程、ならびに胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法を提供する。
【0024】
非多能性細胞は繊維芽細胞または間葉系幹細胞であり得る。一つの態様において、非多能性細胞は胚繊維芽細胞である。一つの態様において、非多能性細胞は脂肪組織由来間葉系幹細胞である。
【0025】
非多能性細胞はヒト細胞であり得る。
【0026】
非多能性細胞は、部分的に分化した細胞であってもよいし、または完全に分化した細胞であってもよい。
【0027】
本発明のその他の局面および特徴は、添付の図面と共に、本発明の具体的な態様の以下の説明を参照することにより、当業者に明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
単なる例として本発明の態様を例示する図面は、以下の通りである。
【0029】
【図1】Sox7、Sox2HMGs、およびスペーサーヌクレオチドを評価するためのEMSA。
【図2】Sox2、Sox2KE、またはSox17EKに由来するiPSクローンにおけるレトロウイルス形質導入の確認。
【図3】基準Soxf_0bp_octfモチーフについての閾値の同定。
【図4】真のモチーフの検索において使用された拡大された検索ウィンドウ。
【図5】モチーフへの偏りのない塩基の挿入は、配列を発見するモチーフの能力に有意に影響を与えない。
【図6】Sox2/Oct4 ChIP-seq結果に対してスキャンされた異型モチーフの完全な表。
【図7】sox/oct異型モチーフのインシリコ発見。
【図8】一連の異なるモチーフ構成における、Sox2HMGおよびOct4POU(A)ならびにSox17HMGおよびOct4(E)の異なる会合。
【図9】(A)圧縮型要素および基準要素におけるSox2/Oct4およびSox17/Oct4の異なる会合。(B)基準要素および圧縮型要素におけるSox2/Oct4およびSox17/Oct4の異なる会合を要約するモデル。
【図10】(A)全てのマウスSoxタンパク質のアミノ酸配列のアラインメント。(B)DNA上のSox17およびSox2/Oct1についての構造座標を使用することによりpymolを使用して作成された構造モデル。(C)Sox/Oct4界面における点変異は、基準要素と圧縮型要素とにおけるSox2およびSox17の異なる会合挙動を入れ替える。
【図11】Sox17EKにより再プログラムされたiPSクローンの特徴決定。A.単離されたiPSコロニーの明視野写真および蛍光写真の組み合わせが提示される。B.示されるように、Sox2、Sox17EK、またはSox2KEにより再プログラムされたiPSクローンによる多能性遺伝子の発現を決定するため、Q-RT-PCRが実施された。C.iPSクローンにおけるSSEA-1およびSox2の均一な発現。
【図12】OCKのみを使用するか、またはSox2、またはSox4、Sox5、Sox13、もしくはSox7の変異体と共にOCKを使用して誘導された多能性の結果。
【図13】Sox7EKにより誘導された多能性コロニー。
【図14】多能性の誘導の効率。
【図15】キメラSox2タンパク質およびキメラSox17タンパク質、ならびに多能性の誘導。
【図16】ヒト脂肪組織由来MSCを使用したヒトiPS細胞の生成の概要。
【図17】Oct4+c-Myc+Klf4+Sox17EKを使用して誘導されたヒトiPSコロニー。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
多能性でない細胞を多能性になるよう誘導するために使用され得る、組換え操作されたSox2タンパク質、Sox7タンパク質、およびSox17タンパク質が、本発明において記載される。
【0031】
組換え操作されたタンパク質は、Sox2由来の特徴と、Sox7またはSox17由来の特徴とを保有する。Sox2、Sox7、またはSox17が基本の配列として使用され、次いで、その配列が、(出発配列がSox2である場合)Sox7もしくはSox17由来の特徴を含むよう、または(出発配列がSox7もしくはSox17である場合)Sox2由来の特徴を含むよう、適合化される。
【0032】
Sox2、Sox7、およびSox17の各々は、タンパク質の高度に保存されたファミリーをさす。本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用されるSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質との言及には、Oct4と相互作用してSox2、Sox7、およびSox17の特定の機能を指示する能力、例えば、多能性の誘導もしくは維持についてのSox2の機能、または内胚葉分化におけるSox7もしくはSox17の発生的役割を指示する能力を保持している任意のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質の言及が含まれる。Sox2、Sox7、またはSox17の出発配列は、場合に応じて、天然型もしくは野生型のSox2、Sox7、もしくはSox17であってもよいし、またはSox2、Sox7、もしくはSox17の天然活性を保持している任意の断片、ホモログ、もしくは変異体であってもよい。本明細書に記載される変異の前のSox2、Sox7、またはSox17の出発配列は、Soxタンパク質の天然活性が維持される限り、1個、2個、3個、4個、5個、10個、またはそれ以上のアミノ酸の挿入、置換(保存的アミノ酸置換を含む)、または欠失を有していてもよい。
【0033】
出発配列として使用されるSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質は、例えば、多能性幹細胞から発生する任意の真核生物に由来する任意のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質であり得、例えば、昆虫、植物、または哺乳動物のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質であり得、マウスタンパク質またはヒトタンパク質を含む。Sox2、Sox7、またはSox17は、多能性が誘導される細胞と同一の種に由来してもよいし、または、Sox2タンパク質ファミリー、Sox7タンパク質ファミリー、およびSox17タンパク質ファミリーの各々における高度の相同性のため、関連Soxタンパク質がその細胞種においてネイティブ内在性タンパク質として機能し得る限り、異なる種に由来してもよい。
【0034】
いくつかの態様において、本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用されるSox2配列は、以下の配列のうちの一つを含むか、以下の配列のうちの一つから本質的になるか、もしくは以下の配列のうちの一つからなるか、または以下の配列のうちの一つとの80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の配列同一性を有するタンパク質である。
マウス由来:
ヒト由来:
【0035】
いくつかの態様において、本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用されるSox7配列は、以下の配列のうちの一つを含むか、以下の配列のうちの一つから本質的になるか、もしくは以下の配列のうちの一つからなるか、または以下の配列のうちの一つとの80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の配列同一性を有するタンパク質である。
マウス由来:
ヒト由来:
【0036】
いくつかの態様において、本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用されるSox17配列は、以下の配列のうちの一つを含むか、以下の配列のうちの一つから本質的になるか、もしくは以下の配列のうちの一つからなるか、または以下の配列のうちの一つとの80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の配列同一性を有するタンパク質である。
マウス由来:
ヒト由来:
【0037】
本明細書において使用されるように、「から本質的になる(consists essentially of)」または「から本質的になる(consisting essentially of)」とは、本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用される関連Soxタンパク質(Sox2、Sox7、またはSox17)が、ペプチドの一方または両方の末端に、1個または複数個のアミノ酸を含んでいるが、それらの付加的なアミノ酸がSoxタンパク質の機能に実質的に影響を与えないことを意味する。例えば、Soxタンパク質は、多能性の誘導もしくは維持におけるSox2の機能、または内胚葉分化におけるSox7およびSox17の機能のような関連Soxタンパク質の本来の機能を保有している限り、本明細書に記載される配列の一方または両方の末端に、1個、2個、3個、4個、5個、10個、15個、または20個のアミノ酸を有していてもよい。
【0038】
Sox17の推定Oct4相互作用表面は、Sox17のOct4と相互作用する能力に影響を与える可能性がある、Sox2のものと比較して明らかに異なる静電気的界面を示す(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)。Sox2と本質的に同一の特徴によりDNAに結合するにも関わらず、Sox7およびSox17は、発生において基本的に異なる効果をもたらす。Sox2は、外胚葉(Avilion,A.A.et al.Genes Dev(2003)17:126-40)、神経系統(Zappone,M.V.et al.Development(2000)127:2367-82)、およびその他の多くの発生過程(Que,J.Development(2009)136:1899-1907;Que,J.Development(2007)134:2521-31;Okubo,T.Genes Dev(2006)20:2654-59)の発生のために必要とされ、Sox17は、胚の胚体外系列および胚体内胚葉(definitive endoderm)系列に見出されている(Kanai-Azuma,M.et al.Development(2002)129:2367-79)。Sox17は、マウスおよびヒトのES細胞において強制発現された時、内胚葉様の細胞運命へと細胞を方向付け(Seguin C.A.,et al.Cell Stem Cell(2008)3:182-95;Shimoda,M.et al.J.Cell Sci.(2007)120:3859-69)、重要なことには、Sox17は、繊維芽細胞の人工多能性幹細胞(iPS)への変換においてSox2に取って代わることができない(Nakagawa,M.et al.Nat Biotechnol(2008)26:01-6)。これは、類似のDNA配列モチーフに結合するにも関わらず、Sox2およびSox17が発生において大きく異なる能力を有することを証明している。Sox7は、Sox17と同様に、マウスおよびヒトのES細胞の内胚葉分化に関与する(Seguin C.A.,et al.Cell Stem Cell(2008)3:182-95)。
【0039】
従って、一つの局面において、1個または複数個のアミノ酸が、Sox7タンパク質もしくはSox17タンパク質、またはSox2タンパク質由来の1個または複数個の対応するアミノ酸に交換された、Sox2タンパク質、またはSox7タンパク質もしくはSox17タンパク質を含み、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導することができる変異タンパク質が提供される。あるアミノ酸の別のタンパク質由来の対応するアミノ酸への交換とは、所定のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質に由来する所定のアミノ酸の、別のSox7タンパク質、Sox17タンパク質、またはSox2タンパク質に由来するアミノ酸またはアミノ酸の配列により定義されるドメインへの交換をさす。ここで、交換されるアミノ酸は、配列アラインメントならびに配列の同一性および相同性に基づき対応する位置にあるか、または対応する機能を保有し、例えば、活性化ドメインである。
【0040】
変異Sox2タンパク質、変異Sox7タンパク質、または変異Sox17タンパク質は、多能性を誘導することができるか、または誘導する。即ち、Sox2変異体、Sox7変異体、またはSox17変異体がOct4、Klf4、およびc-Mycのような多能性の誘導および維持に関与する付加的なタンパク質因子を有する非多能性細胞において発現された(または添加された)時、非多能性細胞は適当な増殖条件の下で多能性細胞へと変換される。そのような多能性変換は、公知の多能性マーカー、例えば、Eras、Nanog、Oct4、Sox2、Zfp206、またはZic3を同定するための標準的な技術を使用して確認され得る。下記実施例は、非多能性細胞の多能性細胞への変換を確認するために使用され得る技術を記載する。
【0041】
変異タンパク質とは、操作された組換えタンパク質である。変異タンパク質は、単離されたタンパク質であってもよいし、または細胞における発現のため、変異タンパク質をコードする核酸分子による細胞のトランスフェクション、形質導入、もしくは形質転換を含む、分子クローニング技術および組換え技術を使用して、細胞へ導入されていてもよい。変異Sox2タンパク質、変異Sox7タンパク質、または変異Sox17タンパク質は、任意のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質であり得、例えば、昆虫、植物、哺乳動物のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質であり得、マウスタンパク質またはヒトタンパク質を含む。
【0042】
変異タンパク質は、Oct4タンパク質接触界面を形成する残基のうちの1個または複数個において改変された変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質であり得る。改変には、変異タンパク質において改変される1個もしくは複数個の残基または領域を、改変されるSox7またはSox17の残基に対応するかまたは類似しているSox2のアミノ酸残基または領域に変えるための、挿入、欠失、または置換が含まれる。即ち、改変後、改変されたSox7またはSox17のOct4タンパク質接触界面の特定の配列は、Sox2のOct4タンパク質接触界面に由来する、対応するかまたは類似している特定の残基の配列を有するようになる。
【0043】
例えば、操作された変異Sox7は、配列
内の1個もしくは複数個の残基において改変されたヒトもしくはマウスのSox7、または残基88〜108の1個もしくは複数個の残基において改変されたヒトもしくはマウスのSox7であり得る。変異Sox7は、塩基性残基(例えば、KまたはR)へと変化したE99を有し得る。一つの態様において、変異Sox7は変異E99Kを有する。
【0044】
例えば、操作された変異Sox17は、配列
内の1個もしくは複数個の残基において改変されたヒトもしくはマウスのSox17、または残基111〜131の1個もしくは複数個の残基において改変されたヒトもしくはマウスのSox17であり得る。変異Sox7は、塩基性残基(例えば、KまたはR)へと変化したE122を有し得る。一つの態様において、変異Sox7は変異E122Kを有する。
【0045】
一つの特定の態様において、変異タンパク質はSox7E99Kである。別の特定の態様において、変異タンパク質はSox17E122Kである。
【0046】
あるいは、変異タンパク質は、C末端活性化ドメインを形成する残基のうちの1個または複数個において改変された変異Sox2タンパク質であり得る。改変には、変異タンパク質において改変される1個もしくは複数個の残基または配列を、改変されるSox2の残基に対応するかまたは類似しているSox7またはSox17の配列へと変化させるための、挿入、欠失、または置換が含まれる。即ち、改変後、改変されたSox2のC末端活性化ドメインの特定の配列は、Sox7またはSox17のC末端活性化ドメインに由来する、対応するかまたは類似している特定の残基の配列を有するようになる。
【0047】
いくつかの態様において、Sox2のC末端活性化ドメイン全体が、Sox7またはSox17の活性化ドメイン全体に交換される。例えば、マウスSox2のアミノ酸122〜320が、マウスSox17のアミノ酸残基147〜420、またはマウスSox7に由来する対応する残基へと交換され得る。ヒト配列に基づく類似の改変もなされ得る。
【0048】
Sox2、Sox7、およびSox17の配列は、野生型または非変異型の配列を含め、マウスおよびヒトのSox2タンパク質、Sox7タンパク質、およびSox17タンパク質を含め、公知である。同様に、Oct4タンパク質接触界面およびC末端活性化ドメインとして機能する、Sox2およびSox7およびSox17の領域も公知である。従って、本明細書に記載される変異タンパク質の配列は、当技術分野における標準的な知識を使用して容易に設計され得る。
【0049】
変異Sox2タンパク質、変異Sox7タンパク質、または変異Sox17タンパク質は、標準的な分子工学およびクローニングの技術を使用して作製され得る。例えば、変異タンパク質をコードするよう適当な核酸残基の変化を含有しているプライマーを含む、プライマー伸長、PCR、およびクローニングの技術を含む、1個または複数個のアミノ酸残基における変異を有する変異タンパク質を作製するための技術は、公知である。
【0050】
従って、本明細書に記載される変異タンパク質をコードする核酸分子も企図される。上述のように、変異タンパク質のタンパク質配列は、当技術分野における知識および技術を使用して、容易に同定され得る。同様に、遺伝暗号および暗号縮重の知識を使用すれば、本明細書に記載される変異タンパク質をコードする核酸分子は、標準的な分子クローニング技術を使用して容易に設計され合成され得る。認識されるように、核酸分子は、付加的な要素、例えば、変異タンパク質をコードする配列に機能的に連結されたプロモーター領域をさらに含んでいてもよく、例えば、プロモーターは胚性幹細胞において発現されるプロモーターである。
【0051】
インビトロの細胞を含む、本明細書に記載される変異Soxタンパク質、またはそのような変異Soxタンパク質をコードする核酸分子を発現する細胞も、企図される。
【0052】
本明細書に記載される変異タンパク質、およびそのような変異タンパク質をコードする核酸分子は、例えば、インビトロの方法において、非多能性細胞を多能性細胞へと変換することにより多能性を誘導するために使用され得る。
【0053】
多能性を誘導する方法は、例えば、Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676に記載されるように、公知である。簡単に説明すると、多能性タンパク質因子Sox2、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方を、多能性になるよう誘導される細胞と接触させるか、またはそのような細胞において共発現させ、その細胞を、胚性幹細胞の増殖にとって適当であり、胚性幹細胞の増殖を促進する条件の下で増殖させる。
【0054】
本発明の方法において、Sox2は本明細書に記載される変異タンパク質に交換される。多能性が誘導される細胞は、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方のような、Sox2以外の多能性因子のうちの1種または複数種を既に発現していてもよい。あるいは、細胞は、例えば、トランスフェクションまたは形質転換により、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方を発現するよう改変されてもよい。下記の方法において、部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞は、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方の添加を必要とするが、これらの因子のうちの一つまたは複数が、細胞により既に発現されていてもよいことが認識されるであろう。
【0055】
従って、本明細書に記載される変異タンパク質と、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の少なくとも一方との存在下で、胚性幹細胞の増殖にとって適当な条件の下で、非多能性細胞を培養することを含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法が提供される。本法は、インビトロの方法として実施され得る。
【0056】
細胞は、任意の非多能性細胞、例えば、インビトロの細胞、培養物中の細胞、対象から外植された細胞を含む、部分的に分化したまたは完全に分化した任意の細胞であり得る。非多能性細胞は、例えば、昆虫細胞、植物細胞、または哺乳動物細胞を含み、マウス細胞またはヒト細胞を含む、多能性細胞から発生する任意の多細胞真核生物に由来し得る。細胞は、例えば、ヒトもしくはマウスの胚繊維芽細胞のような胚繊維芽細胞、または、例えば、ヒトもしくはマウスの脂肪組織由来間葉系幹細胞のような間葉系幹細胞を含む、任意の型の部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞であり得る。
【0057】
本明細書において使用されるように、細胞(cell)という用語は、特記しない限り、情況が許容する場合には、単一の細胞、複数の細胞、または細胞の集団を指し、かつ含む。同様に、細胞(cells)との言及も、特記しない限り、情況が許容する場合には、単一の細胞の言及を含む。
【0058】
変異Sox2、変異Sox7、または変異Sox17と、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方との情況における細胞の培養には、多能性タンパク質因子が細胞に取り込まれるよう、様々な多能性タンパク質因子と細胞を接触させることのみならず、様々な多能性タンパク質因子をコードする核酸により細胞をトランスフェクトするかまたは形質導入し、多能性タンパク質因子を共発現させることも含まれる。本明細書において使用されるように、多能性タンパク質因子とは、本明細書に記載される変異型Soxタンパク質、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方をさす。
【0059】
認識されるように、多能性タンパク質因子の共発現は、特定の多能性タンパク質因子のコーディング領域に機能的に連結された適当なプロモーターからの発現を含むであろう。配列が機能的関係に置かれている時、第一の核酸配列は第二の核酸配列に機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコーディング配列の転写を活性化する場合、そのコーディング配列はそのプロモーターに機能的に連結されている。
【0060】
細胞を多能性タンパク質因子と接触させた後、または多能性タンパク質因子の各々をコードする核酸分子により細胞をトランスフェクトするかもしくは形質導入し、細胞を共発現のための条件に曝した後、細胞を、胚性幹細胞の増殖にとって適当な条件の下で培養することができる。胚性幹細胞の培地は公知であり、市販されている。いくつかの環境において、標準的な胚性幹細胞培養技術と一致して、培養物中の幹細胞増殖を促進するため、フィーダー細胞を使用することが望ましいかもしれない。
【0061】
好ましい場合には、人工多能性細胞の個々のコロニーを選択し、次いで、人工多能性細胞のクローン集団を入手するため、標準的な細胞培養技術に従って、増殖させることができる。
【0062】
本発明の方法および使用を、以下の非限定的な実施例により、さらに例示する。
【実施例】
【0063】
実施例1
多能性の誘導因子としてのSox2/Oct4対の役割は、よく確立されており(Nichols,Cell(1998)95:379-91;Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7)、Sox17およびOct4が内胚葉分化において機能的に協力するという証拠が存在する(Reim,G.,et al.Dev Cell(2004)6:91-101;Stefanovic,S.et al.J Cell Biol(2009)186:665-73)。
【0064】
従って、別個のシス調節モチーフを特徴とする特異的なゲノム領域において、Sox2およびSox17がOct4について競合し、安定的な複合体を形成し得ることが、想像できる。
【0065】
これを試験するため、マウスES細胞においてSox2およびOct4により占有されるゲノム領域における異型sox/octモチーフ構成を同定するための実験が設計され(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)、その実験の結果から、新規の圧縮型要素が同定された。しかしながら、基準部位においてはSox2/Oct4複合体が支配的であるが、この要素にSox17/Oct4は共結合することができるがSox2/Oct4は共結合し得ないことが、インビトロヘテロ二量体化アッセイにより明らかにされた。構造モデルを使用して変異を設計することにより、Sox2およびSox17のヘテロ二量体化優先性を入れ替える点変異を生成した。著しいことに、Sox17/Oct4二量体化の能力のこの変化は、Sox17を強力な再プログラム因子に変えた。
【0066】
実験手順
コンピュータ分析:異なるsox/octモチーフ構成を探索するため、Oct4/Sox2 ChIP-seqデータ(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)に由来するモチーフを使用し、このモチーフの存在についてFASTA配列のセットをスキャンするため、位置重み行列(position-weight matrix)(pwm)探索ツールを適用した。
【0067】
異なる構成のsox/octモチーフを構築するため、sox/octモチーフ内もしくはsox/octモチーフ間へ偏りのない塩基対を挿入することにより、またはそれぞれのモチーフの逆相補鎖バージョンを作成することにより、モチーフの異型を生成した。これは、基準(soxf_0bp_octf)からの、sox/octモチーフの種々の仮説的構成、順序型(octf_0bp_soxf)、集束型(soxf_0bp_octr;fおよびrはモチーフ要素の鎖を意味する)、および発散型(octr_0bp_soxf)の構築を可能にした。モチーフのsox部分とoct部分との間にスペーサー塩基対が挿入されたpwm(soxf_0bp_octf、soxf_1bp_octf ... soxf_10bp_octf)も構築し、間の1塩基対を排除することにより「圧縮型」pwm(soxf_-1bp_octf、octf_-1bp_soxf等と表記される)も構築した。
【0068】
対数オッズ塩基位置重み行列の所見および実行:Markov(O)モデルとして、Ben-Gal,I.et al,Bioinformatics(2005)21:2657-2666に本質的に記載されたようにして、単純位置重み行列スコアリングツールとして、モチーフ発見ツールを実行した。アルゴリズムはある程度のバックグラウンド補正を含む。この型のアルゴリズムは一般的に対数オッズモデルと呼ばれ、転写因子の結合および発見のより洗練されたモデルが利用可能である(van Loo,P.and Marynen,P.Briefings in Bioinformatics(2009)10:509-524に概説)。対数オッズモデルの利点は、現代のコンピューターハードウェアにおける実行の容易さおよび迅速なスキャニングスピードである。
【0069】
以下の式を使用して、位置頻度行列(pfm)を位置重み行列(pwm)に変換した:
式中、wは、各ヌクレオチドnについての行列内の各位置pにおける特定のヌクレオチドの重みである。fは、位置pにおける各ヌクレオチドnの存在数であり、Nは、この位置pにおけるA、C、G、およびTヌクレオチドの総存在数である。bは、等しい、即ち[0.25、0.25、0.25、0.25]であると仮定される、このヌクレオチドnについての予想されるバックグラウンドである。これは、ヒトおよびマウスにおいて、A、C、T、Gが各々およそ25%であるプロモーター領域(ここでは、転写開始部位の-10kbと見なされる)については、合理的な仮定であるが、CGリッチになる傾向があるプロモーター領域の遠位では、この仮定は当てはまらない。バックグラウンド変動についてのさらなる補正は行わなかった。
【0070】
DNA配列のセクションをスキャンするため、モチーフについて可能性のある各位置におけるスコアを決定するため、以下の式を使用した:
式中、s=0〜1のノーマライズされたスコアであり、wは位置pにおける実際のヌクレオチドnについての重みであり、Mはpwmについての最大の可能性のあるスコアであり、かつmはpwmについての最低の可能性のあるスコアである(pwm行列内の各列におけるpwmについての最低値または最大値の全てを合計することにより計算された)。
【0071】
単純対数オッズモチーフ発見ツール(通称:PMF)を、Python(バージョン>2.5<3.0)において実行した。
【0072】
閾値推定およびChip-seq配列ウィンドウサイズ:pwmによる検索は、それより上で特定のモチーフが受理され、それ未満ではモチーフが棄却される任意の閾値の設定に頼る。(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)からのSox/Oct ChIP-seqリストにモチーフが濃縮されていることが公知であり、従って、ChIP-seqリストを使用し、陰性対照として、抗GFP ChIP-seq結果に由来する単一マッピングリード(single mapped reads)のリストであるシングルトン-GFPリスト(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)を使用した。シングルトン-GFPリストは、配列決定のために利用可能なゲノムの割合を表していると考えられ、従って、可能性のある配列決定バイアスを既に含んでいるが、それ以外は「配列決定可能ゲノム」中にランダムに分布する。
【0073】
Sox/Oct ChIP-seqに由来するFASTA配列のリスト、または10,000シングルトン-GFP部位の無作為抽出されたリストに対して、基準sox/octモチーフ(soxf_0bp_octf)をスキャンした。座標の中心点をとり、ウィンドウを各方向に100bpだけ拡大した。最適のモチーフ発見閾値を確立するため、閾値を0.8から1.0まで変動させ、次いで、Sox2/Oct4リストおよびシングルトン-GFPリストをスキャンした。0.82のモチーフ閾値で、同数のSox2/Oct4結合配列において見出されたものと比較して、モチーフの5%がシングルトン-GFPリストにおいて見出された(図3)。
【0074】
次に、モチーフの発見に対するFASTAウィンドウのサイズの影響を調査した。Sox2/Oct4 ChIP-seqからのピークは、本当の結合部位を正確に特定する分解能をしておらず、可能性の高い部位の過半数は、ChIP-seq部位の中心の極めて近く(およそ25bpの範囲内)にあるようである(図4)。回収されるモチーフの数に対する配列ウィンドウのサイズの効果を評価するため、ChIP-seqピークの中心の両側750bpという極めて大きなウィンドウを使用した。次いで、モチーフのサイズを低下させ、ChIP-seqの中心の±750bp以内の全てのモチーフに対する割合として、モチーフをスコア化した(図4)。±100bpのウィンドウサイズは、±1kb以内の全ての可能性のあるsox/octモチーフの50%超を含み、単なる偶然によって発見されるモチーフの数を最小化するため、本発明者らは±100bpのウィンドウサイズを選んだ。
【0075】
モチーフの収集および改変:本研究において使用されたモチーフは、Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117から採用され、Oct4 Chip-seq実験に新規に由来した。行列は以下の通りである(Python暗号で表される)。
【0076】
行列へ偏りのない塩基対を挿入するため、単一の偏りのないヌクレオチド:[1,1,1,1]を行列へ挿入した。このpfmのpwmへの変換は、その塩基対について以下のpwm行列:[0,0,0,0]をもたらすであろう。これは、特定のpwmについての最低スコアまたは最大スコアに影響を与えないため、このアプローチは、ゲノム内の特定の配列を見出す行列の能力に対して最小限のバイアスしか及ぼさないはずである。soxf_10bp_octf行列は、Pythonではこのように表される。
【0077】
次に、基準soxf_0bp_octfモチーフの有意な濃縮は予想されないため、(ここでは、抗GFP免疫沈降からの「シングルトン」の無作為選択から生成された)ランダムリストが有用であろうとの推論により、これらの偏りのない塩基対の挿入が、ランダムリストに対するマッチの頻度に影響を与えるか否かを試験した(図5)。図5は、偏りのない塩基対の挿入が、5bpまたは10bpのスペーサー型(それぞれ、soxf_5bp_octf、soxf_10bp_octf)と比較して、基準モチーフ(soxf_0bp_octf)を使用して、同一のランダムリストにおいて発見されるモチーフの数に有意に影響を与えないことを示す。Sox/Octリストに対するpwmスキャンの完全な結果は、図6に提示される。
【0078】
基準モチーフおよび圧縮型モチーフについてのPWMは異なる配列を取得することの証拠:選ばれた0.82の閾値で、基準pwmおよび圧縮型pwmがマッチする全ての15残基配列および14残基配列を取得した。二つのpwmとデータに含有されていた回文構造要素との間で共通の配列を同定した。基準モチーフは、1,073,741,824の可能性のある15残基のうちの106,630の15残基とマッチし、圧縮型pwmは、可能性のある268,435,456のうちの39,138の14残基配列とマッチした。二つの配列のセットをオーバーラップさせると、9216の配列が共通である、即ち、9216の15残基配列が基準モチーフおよび圧縮型モチーフの両方によって検出され得ることが見出された。しかしながら、圧縮型モチーフまたは基準モチーフのいずれかにマッチした15残基配列の数は、はるかに大きい(それぞれ、97,414および29,922の配列)。これは、圧縮型モチーフと基準モチーフとの間には、両方が同一のDNA配列を同定し得るオーバーラップが存在するが、実際には、それらは別個の実体であることを強調している。
【0079】
組換えSoxタンパク質:マウスのSox2、Sox7、およびSox17のHMGドメインを、他に記載された(Palasingam,P.et al.J.Mol Biol(2009)388:619-30)ようにしてクローニングし、異種発現させ、均質になるまで精製した。Sox2HMGの延長型(Sox2HMGlと表記される。全長タンパク質のアミノ酸33〜141に及ぶ。スイスプロットid P48432)を、TOPOテクノロジーを使用してクローニングし、続いて、GATEWAY(商標)LRテクノロジーを使用してpETG20A発現プラスミドへ移し、確立された手順(Ng et al.,2008)を使用して精製した。
【0080】
組換えOct4タンパク質の作製:マウスOct4のPOUドメイン(全長タンパク質の残基126〜289、スイスプロットid P20263)を、以下のようにして作製した。Oct4-POUを方向性TOPOクローニングによりpENTR/TEV/D-TOPOベクターへ導入し、pETG40A発現プラスミドへ移した。37℃で、OD600が約0.6〜0.8になるまで、0.2%グルコースおよび100μg/mlアンピシリンが補足されたLuria Bertani(LB)培地で増殖させた後、25℃、5時間での誘導のために0.5mMイソプロピル-β-チオガラクトシド(IPTG)を添加し、N末端MBPタグを含有している融合タンパク質をBL21(DE3)細胞に発現させた。細胞ペレットを緩衝液A(20mM HEPES pH7.0;200mM NaCl;1mM EDTA;10mM βメルカプトエタノール)に再懸濁させ、4℃で15分間、2秒オン/4秒オフによる35の振幅での超音波処理により破砕した。MBP融合タンパク質をまずアミロースビーズを使用して精製し、次いで、MBPタグを除去するため、4℃で一夜、タバコエッチ病ウイルス(tobacco etch virus)(TEV)プロテアーゼを使用して切断した。切断されたタンパク質を、Resource-S(GE Healthcare)カラムを使用してさらに精製し、10カラム容量で直線NaCl勾配により溶出させた。切断されたOct4-POUタンパク質のみを含有している画分をプールし、PD-10(GE Heathcare)を使用して、保存緩衝液(10mM HEPES pH7.0;100mM NaCl)へと交換し、VIVASPIN 3MWCOカラム(Sartorius)を使用して濃縮した。
【0081】
部位特異的変異誘発:QuikChange-XL部位特異的変異誘発キット(Stratagene)および表1にリスト化されたDNAオリゴによるGATEWAYエントリークローンを使用して、アミノ酸置換を導入した。アミノ酸変化の成功を確証するため、配列決定を実施した。上記の野生型構築物について記載されたようにして、組換え変異タンパク質を発現させ精製した。
【0082】
(表1)DNAオリゴマー
【0083】
電気泳動移動度シフトアッセイ:全てのEMSAを、二本鎖5'Cy5標識DNAを使用して実施した(Sigma Proligo、表1参照)(Jauch,R.,et al.J.Mol.Biol.(2008)376(3):758-70)。結合緩衝液は、20mMトリス-HCl pH8.0、50μM ZnCl2、100mM KCl、10%グリセロール、2mM βメルカプトエタノール、0.1mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)、および0.1%(v/v)Igepal CA-630を含有している。250nM dsDNAプローブを、単独で、または組み合わせて、結合緩衝液中でアナライトタンパク質と混合し、暗所で4℃で1時間インキュベートした。結合したプローブおよび未結合プローブの異なる種を分離するため、1×TG(25mMトリス、pH8.3;192mMグリシン)緩衝液でプレランされた12%(w/v)1×トリス-グリシンポリアクリルアミドゲルにロードした。Typhoon 9140 PhosphorImager(Amersham Biosciences)を使用して、蛍光を検出した。
【0084】
iPSの生成:Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676から改変された手順を使用して、iPSアッセイを実施した。マウス胚繊維芽細胞(MEF)を、確立されたプロトコル(Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676)に従い、転写因子をレトロウイルスで形質導入することにより、iPS細胞へと再プログラムした。緑色蛍光タンパク質(GFP)がOct4プロモーターにより駆動されているMEFを、C57B16マウス(Jackson Laboratory)から単離した。レトロウイルス作製のため、Oct4、Klf4、c-Myc、Sox2、Sox17、Sox17EK、Sox2EK、またはSox2α17を発現するpMXプラスミドを、Fugeneトランスフェクション試薬(Roche)により、PLAT-Eウイルスパッケージング細胞(Cell Biolabs)へと個々にトランスフェクトし、ウイルス含有培地を2日後に収集した。新鮮に調製されたレトロウイルス+4μg/mlポリブレンによる感染を、267,000個のOct4-GFP MEFおよび800,000個の不活化されたフィーダー繊維芽細胞が播種された6cmプレートで実施した。Oct4、Klf4、およびc-Mycについてのレトロウイルス含有培地を、等しい容量で、Sox2、Sox17、Sox17EK、Sox2KE、またはSox2α17と混合した。DMEM High Glucose、10%FBS、および1%L-グルタミンを含有している新鮮な培地(Gibco)を、2日後に供給した。細胞培養条件を3日目にES細胞培地に切り替えた。Oct4-GFP+iPSコロニーを3週間後に計数し、代表的なクローンを単離した。選択されたコロニーを、PBSを含有している96穴プレートへ移し、続いて、5分間トリプシン処理し、次いで、不活化された繊維芽細胞フィーダーを含む48穴ディッシュへ単一細胞懸濁物を移した。選出されたiPS細胞を、さらに、ES細胞培養条件下で6cmおよび10cmのディッシュにおいてフィーダー上で増殖させた。
【0085】
定量的リアルタイムPCR(Q-RT-PCR):iPSクローンによるマーカー遺伝子の発現を、Q-RT-PCRにより実施した。ゲノムDNA汚染を最小化するため、RNAをTriZol試薬(Invitrogen)により抽出し、RNeasyミニキット(Qiagen)によりさらに精製した。High Capacity cDNA Archiveキット(Applied Biosystems)を使用して、1.0gの全RNAを用いてcDNAを合成した。各Q-PCR反応のため、20μlの最終容量で、水で10倍希釈されたcDNA試料を、TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix試薬(Applied Biosystems)10ul、および以下のリストのうちの単一のTaqManプローブ(20×TaqMan(登録商標)Gene Expression Assay試薬;Applied Biosystems)1μlと混合した:Eras、Zic3、Oct4、Nanog、Sox2、およびZfp206。Q-RT-PCR分析は、ABI Prism 7900装置上で、96穴透明光学反応プレート(Applied Biosystems)において実施された。
【0086】
免疫染色:多能性マーカーSSEA-1およびSox2の発現について試験するため、48穴プレートにてフィーダー細胞なしで培養されたiPSクローンに対して免疫染色を実施した。iPS細胞を4%パラホルムアルデヒドにより固定し、0.5% Triton X-100により透過化した。SSEA-1(10ug/ml)およびSox2(10ug/ml)に対する一次抗体(Millipore)を、室温で2時間、固定された細胞と共にインキュベートし、その後、暗所にて室温で1時間、Alexa Fluor 594標識二次抗体(Molecular probes)(4ug/ml)により染色した。ZEISS Axioobservor DI倒立蛍光顕微鏡(Carl Zeiss International)を使用して画像を取り込んだ。
【0087】
図面の説明
図1:Sox7、Sox2HMGs、およびスペーサーヌクレオチドを評価するためのEMSA。Sox2/Sox17構築物の長さの違いにより引き起こされる可能性のあるアーティファクトを排除するため、(Sox2HMGsと名付けられた)コアSox2HMGドメインの異なる会合を試験した。そのドメインは、Sox17構築物の同一のアミノ酸範囲に及ぶ。Sox17との顕著な配列類似性を有する別のF群Soxタンパク質であるSox7の異なる会合も試験した。Sox7およびSox17は、基準要素においては比較的弱いOct4ヘテロ二量体化を有していたが、圧縮型要素においては協同的結合が観察された。第三に、残りの3個の可能性のあるヌクレオチドにおいて基準要素のスペーサーヌクレオチドを変動させた
。スペーサーヌクレオチドの同一性は、様々なSoxタンパク質のOct4との全体的な二量体化プロファイルに明白な影響を及ぼさないことが見出された。50nMのSox2HMGs、Sox7HMG、およびSox17HMGを、250nM Oct4POUの非存在下(レーン1〜3)または存在下(レーン4〜6)で、Soxモチーフの7位に異なる塩基対を含有している基準要素(C1A2T3T4G5T6(A/T/C/G)7;A〜D)、および圧縮型要素(E)と共にインキュベートした。
【0088】
図2:Sox2、Sox2KE、またはSox17EKに由来するiPSクローンにおけるレトロウイルス形質導入の確認。A.示されたiPSクローンに由来するゲノムDNAのPCR増幅を、ベクター特異的プライマー、ならびにc-myc、Klf4、Oct4、Sox2、およびSox17についての遺伝子特異的プライマー(表1)を用いて実施した(それぞれ、レーン1〜5)。正確な断片サイズの特異的増幅により、形質導入された遺伝子のレトロウイルス組み込みが存在することを確認した。B.Sox2およびSox17についてのPCRプライマーは、これらの二つの遺伝子の代替的な対立遺伝子を区別せず、従って、Sox17EKクローンから増幅された断片のDNA配列決定を実施し、EからKへの変異の存在を確認した。
【0089】
図3:基準Soxf_0bp_octfモチーフについての閾値の正当化。
【0090】
図4:検索ウィンドウの拡大は、真のモチーフの発見を大きくは助けない。ChIP-seq結果を使用し、検索ウィンドウを50bpから1400bpまで増加させ、次いで、モチーフの数を計数し、ウィンドウが最も広い時に発見されたモチーフの数に対する割合として表した。A.ウィンドウが拡大するにつれ、モチーフが偶然に単独で見出される確率も増加する。B.ランダムリストにおいて、同一の計数を実施することにより生成された。
【0091】
図5:モチーフへの偏りのない塩基の挿入は、配列を発見するモチーフの能力に有意に影響を与えない。全ての閾値で、偏りのない塩基対の挿入は、FASTA配列(10,000)の同一ランダムリストにおいて発見されるモチーフの数を有意に改変しなかった。
【0092】
図6:Sox2/Oct4 ChIP-seq結果に対してスキャンされた異型モチーフの完全な表。
【0093】
図7:sox/oct異型モチーフのインシリコ発見。(A)本研究において生成された異型モチーフの模式図。モチーフのsox部分とoct部分との間に0〜10bpのスペーサーを含む全ての組み合わせを調査し、soxモチーフとoctモチーフとの間の塩基対を欠失させることにより「圧縮型」モチーフも作出した。(B)-1、1〜10bpのスペーサーを有する基準異型モチーフについて返されたヒット数の頻度。ここで、モチーフの頻度は、ゲノム座標のランダムリストを超える増加率として表されている。第二の独立に生成されたランダムリストが、比較のため含まれている。(C)pwmマッチングツールにより発見された、返されたモチーフのWebLogo。(D)Chen,X.et al,Cell(2008)133:1106-1117に由来する異なるChIP-seqリストに対するモチーフのバックグラウンドを超えた増加率。「Oct4/Sox2」は、オーバーラップするOct4/Sox2結合部位の全てを含有しているオーバーラップリストである。「Oct4」リストおよび「Sox2」リストは、それぞれ、Oct4結合部位およびSox2結合部位の全てを含有している。
【0094】
図8:一連の異なるモチーフ構成におけるSox2HMGおよびOct4POU(A)ならびにSox17HMGおよびOct4(E)の異なる会合。GCリッチ配列が隣接している、同一のSoxコンセンサス配列(CATTGTC)およびOct4コンセンサス配列(ATGCAAAT)を含有している30bp DNAエレメントを使用して、図1Aに概説されるように、モチーフ構成を系統的に設計した。周囲またはスペーサー領域内の潜在的要素による結合異常を最小化するため、本発明者らは、理想化されたモチーフ(soxについてはCATTGTC、octについてはATGCAAAT)を使用し、スペーサーヌクレオチドおよび境界ヌクレオチドとしてGおよびCを導入した。各DNAエレメントを個々の転写因子タンパク質と混合し、Sox2 DBDおよびOct4 DBDの両方の組み合わせとも混合した(補足情報を参照のこと)。250nMの全てのcy5標識DNAエレメントを、50nM Sox2HMGl/Sox17HMGおよび250nM Oct4POUタンパク質と共に、単独で、そして組み合わせてインキュベートし、続いて、三成分Sox/Oct4/DNA複合体の形成を評価するためにPAGEを行った。様々なタンパク質DNA複合体の位置が矢印によりマークされている。スペーサー塩基対の数はゲルの上下に示されている。X=-1は圧縮型要素を意味し、X=0は基準要素を意味する。マウス胚性幹細胞におけるSox2およびOct4が共結合するゲノム領域内の基準モチーフおよび圧縮型モチーフの共存在は、(B)に図示される。無作為に生成されたリストと比較したオーバーラップの有意性は、二項検定を使用して確立された。(C)は、共有されるゲノム座標と共にモチーフの部分を示す。
【0095】
図9:(A)圧縮型要素および基準要素における、Sox2/Oct4およびSox17/Oct4の異なる会合。レーンの上に示された順序で、タンパク質を250nM DNAエレメントに添加した。Sox2およびSox17により引き起こされるシフトを区別するため、N末端およびC末端が延長されたSox2-HMG(Sox2HMGl)ドメインを、これらの実験において使用した。結果として、Sox2/DNA複合体およびSox2/Oct4/DNA複合体は、両方とも、対応するSox17複合体より遅く移動し、従って、Sox2/Oct4 DNA複合体およびSox17/Oct4 DNA複合体を同一ゲル上で可視化することができた。次のタンパク質成分が添加される前に、タンパク質-DNA混合物を10分間インキュベートした。Sox2およびSox17は50nM、Oct4POUは250nMの最終濃度で維持された。Sox2/Oct4/DNA複合体は、実線の青色四角によりマークされ、Sox17/Oct4/DNAは緑色四角によりマークされる。Sox2(青色)またはSox17(緑色)の三成分複合体が予想されるが、存在しないかまたは存在量が少ない位置は、点線の四角によりマークされる。二成分タンパク質/DNA複合体は、矢印(赤色:Oct4、青色:Sox2、緑色:Sox17)によりマークされる。(B)基準要素と圧縮型要素とにおけるSox2/Oct4およびSox17/Oct4の異なる会合を要約するモデル。三成分複合体の形成が二成分複合体の形成より有利である時(即ち、Soxタンパク質が存在する場合に、Oct4を含有しているDNA複合体が完全にスーパーシフトされる場合)、協同的結合が結論付けられる。
【0096】
図10:(A)全てのマウスSoxタンパク質のアミノ酸配列のアラインメント。Soxサブファミリー(Bowles,J.et al.,Dev.Biol.(2000)227:239-55)は、右に示される。番号付けはSox17配列に相当する。αヘリックスは赤色のバーによりマークされる。FMウェッジはアラインメント下のオレンジのバーにより示され、さらなるDNA相互作用残基は、黒丸によりマークされる。高度に保存された配列および類似している配列は、黒色または灰色の陰付きである。Sox17およびSox2を区別するグルタミン酸残基およびリジン残基の位置は、矢印によりマークされる。Sox2α17タンパク質を構築するため、Sox17に見出される対応する対応アミノ酸に交換された、Sox2のヘリックス3の8アミノ酸は、赤色である。(B)DNA上のSox17およびSox2/Oct1についての構造座標を使用することにより、pymolを使用して作成された構造モデル。Sox2/Oct1構造に由来するDNAのファンデルワールス表面は、薄い灰色で示される。Sox17(青色)をSox2(灰色)に重ね合わせた。Oct1は黒色で示される。POU特異的ドメインとPOUホメオドメインとを接続するリンカー領域は、構造障害のため、NMRに由来するモデルには存在しないことに注意すること。変異したグルタミン酸(Sox17)およびリジン(Sox2)は、ボール&スティックとして示される。リジンは、NMRモデルにおいて、二つの代替的なコンフォメーションで存在することに注意すること。(C)Sox/Oct4界面における点変異は、基準要素と圧縮型要素とにおけるSox2およびSox17の異なる会合挙動を入れ替える。Nanogエンハンサー内の機能的なsox/oct要素に由来するDNAエレメントを使用した(Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7)。2はSox2HMGsを意味し、17はSox17HMG、2KEはSox2KE、17EKはSox17EK、2α17は、Sox2における、対応するSox17の残基とは異なるヘリックス3の全ての残基を、Sox17の対応残基に交換したものを意味する。Soxタンパク質を、個々に、そしてOct4と組み合わせて、DNAと共にインキュベートした。二成分Sox/DNAおよびOct4/DNAのみならず、三成分Sox/Oct4/DNA複合体の位置も示される。
【0097】
図11:Sox17EKにより再プログラムされたiPSクローンの特徴決定。A.単離されたiPSコロニーの明視野写真および蛍光写真の組み合わせが提示される。Oct4、c-myc、Klf4+Sox2(aおよびb)またはSox17EK(cおよびb)により形質導入されたMEFに由来するiPS細胞の代表的なクローンが示される。MEF細胞は、Oct4プロモーターから駆動されるGFPレポーターを含有しており、従って、iPS生成は、GFP陽性コロニーの出現によりスコア化された。個々のOct4-GFP+iPSコロニーを単離し、レトロウイルス形質導入の21日後、不活化された繊維芽細胞のフィーダー層上で継代した。スケールバーは100umである。B.示されるように、Sox2、Sox17EK、またはSox2KEにより再プログラムされたiPSクローンによる多能性遺伝子の発現を決定するため、Q-RT-PCRを実施した。トリプリケートウェルからの6種の示された多能性マーカーの(非形質導入MEFに対して相対的な)遺伝子発現レベルが、平均値±信頼区間として提示される。比較のため、マウスES細胞株(E14)およびMEFにおける多能性マーカーの発現レベルも提示される。C.iPSクローンにおけるSSEA-1およびSox2の均一な発現。OCK+Sox17EKによりMEFから誘導された3つの単一iPSクローン(C15、C5、およびC6)を、多能性マーカーSSEA-1(a、e、およびi)ならびにSox2(c、g、およびk)の発現について免疫染色した。同一視野についてのOct4-GFP発現も提示される(b、d、f、h、j、およびl)。スケールバーは100um(e、f、i、j)ならびに200um(a〜d、g、h、k、およびl)である。
【0098】
結果
マウスESCにおけるsox/octモチーフ構成の分析:Sox2/Oct4複合モチーフの異なる構成の存在を定量化するために、位置重み行列(PWM)スキャニングツールを考案した。Sox2モチーフとOct4モチーフとの間の間隔を、順序およびモチーフの方向を含め、系統的に評価した(図7A)。モチーフスキャンのため、胚性幹細胞においてSox2およびOct4により占有されることがChIPにより示されている(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)マウスゲノムの200bpウィンドウについて調べた。基準方向の異なる間隔のsox/oct(soxf_nbp_octf、fは順方向を意味し、rは逆相補鎖を意味し、nはスペーサー塩基対の数を意味する)についてのモチーフ頻度は、図7Bに詳細に示される(完全なリストについては図6を参照のこと)。予想通り、基準sox/octモチーフは最も強く濃縮されていた(バックグラウンドに対して370%)。スペーサーヌクレオチドが挿入されたその他のモチーフの多くは、中程度にのみ濃縮されていることが見出された。
【0099】
Sox2/Oct4データセットにおいて検出された2番めに豊富なモチーフは、新規の「圧縮型」モチーフであった(ここで、soxf_-1bp_octfとして表記される。図7C。バックグラウンドに対して54%の増加)。圧縮型モチーフは、基準モチーフにおいて弱くしか指定されていない基準sox/oct複合モチーフの7位の単一ヌクレオチドの欠失により、基準モチーフと異なる(図7C)。この代替モチーフにより同定された配列を回収し、PWMを圧縮し、新たに同定された圧縮型モチーフのweblogo表記を生成した(図7C)。
【0100】
次に、Sox2またはOct4が単独で結合するゲノム領域におけるモチーフ頻度を、Sox2およびOct4が共結合する領域と比較した(図7D)。予測通り、共結合部位と比較して、個々のTFにより占有される部位においては、基準複合モチーフおよび圧縮型複合モチーフは、検出される頻度が低かった。
【0101】
異なる構成のモチーフへのSox/Oct4の結合のプロファイリング:インビトロで異なる構成のsox/octモチーフにおいて物理的に会合するSox2およびOct4の優先性を評価するため、Sox2およびOct4の精製されたDNA結合ドメイン(DBD)を使用して、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を実施した。Sox2/Oct4 DBD対のヘテロ二量体化の可能性を、系統的に改変されたsox/oct複合モチーフのパネルにおいてスクリーニングした(図7A)。基準要素においては、Sox2およびOct4の強力な協同的相互作用が観察された(x=0、図8A、レーン5〜7)。しかしながら、1塩基対または2塩基対のスペーサーが導入された場合、二量体化の可能性は顕著に減弱した(図8A、レーン8〜13)。3〜10ヌクレオチドのスペーサー長を有する要素においては、基準要素と比較すると効率が低下しているとはいえ、ヘテロ二量体化が可能であり、従って、相加的なまたは弱く競合的な結合モードが示唆された(図8A、レーン15〜39)。モチーフの配置が改変された場合(図7A、82A、レーン41〜49)、モチーフ順序変化型(octf_0bp_soxf)については二量体形成が抑止され、収束型モチーフ(soxf_0bp_octr)については顕著に減弱し、発散方向型(soxr_0bp_octf)については低下する。予想外に、新たに同定された圧縮型モチーフは、個々のタンパク質は高い親和性で結合したが、ヘテロ二量体形成を可能にしなかった(図8A、レーン2〜4)。
【0102】
圧縮型モチーフが、この配列情況においてSox2およびOct4はヘテロ二量体化し得ないにも関わらず、この二つのタンパク質により共に標的とされるゲノム領域に多量に存在することは、三つのシナリオにより説明され得る。第一に、圧縮型モチーフの過剰な出現は、この部位に単独で結合したSox2またはOct4の独立のChIP濃縮により引き起こされた可能性がある。細胞の大集団における平均化は、両方のタンパク質の共存在の概念を作出する。第二に、圧縮型モチーフは、機能的なSox2/Oct4ヘテロ二量体を動員する基準モチーフの近位に位置する可能性がある。後者のシナリオにおいては、圧縮型モチーフがChIP実験において共精製されるが、実際の結合イベントは近くの基準モチーフにおいて起こるのであろう。第三の可能性は、圧縮型モチーフの見かけの濃縮が、基準モチーフとの類似性により膨張するというものである。
【0103】
最後の二つの問題をさらに探究するため、基準モチーフと圧縮型モチーフとの間の関係を、Sox2/Oct4結合領域における両モチーフの共存在を測定することにより調査した。1784箇所のSox2/Oct4結合領域が存在し、基準モチーフは、これらの位置のうちの995箇所に少なくとも1回存在するが、圧縮型モチーフは548回存在する。425箇所の領域が圧縮型モチーフおよび基準モチーフの両方を含有しており、それは統計的に有意な共存在であった(p=8.6e-13)(図8B)。圧縮型モチーフが、基準バージョンから離れた真正モチーフを構成し、基準モチーフ内に隠された潜在的モチーフではないことを立証するため、マウスゲノムにおけるモチーフの正確な位置を再確認し、ゲノム座標の共通部分を分析した(図8C)。135箇所の圧縮型/基準モチーフが、相互の座標中心の1bp以内にゲノム座標を共有しており(反対鎖上の部位を含む)、モチーフのオーバーラップが示された(図8C)。しかしながら、圧縮型モチーフの大多数(528箇所)が、基準モチーフとは位置的に別個のものであり、従って、圧縮型モチーフが真正モチーフ異型を構成することが示唆される。第三の可能性を探求するため、圧縮型モチーフが実際は基準モチーフのサブセットであるか否かを調査した。pwm、およびpwmとマッチする配列の分析を実施したところ、圧縮型モチーフおよび基準モチーフについてのpwmにより回収された配列の大部分が別個のものであることが見出された。
【0104】
Sox2およびF群Soxタンパク質Sox17のsoxモチーフへの結合親和性が識別不能であることは以前に示された(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)。Sox2およびSox17のヘテロ二量体化特性を比較するため、Sox2およびOct4について先に試験したのと同一のパネルのsox/octモチーフ構成に対するSox17 DBDおよびOct4 DBDの異なる会合を評価した。大部分のモチーフ構成におけるヘテロ二量体化の全体的なパターンは、Sox2/Oct4対についてなされた観察を再現する(図8D、レーン5〜49)。しかしながら、Sox2およびOct4が、圧縮型モチーフにおいて共会合し得ないのとは全く対照的に、Sox17およびOct4は、この要素において協同的結合モードを示した(図8D、レーン2〜4)。この所見は、シス調節性DNAにおけるSox2/Oct4ヘテロ二量体とSox17/Oct4ヘテロ二量体との定性的な結合の違いを示しており、それは、哺乳動物の発生におけるそれらの別個の役割の生化学的基礎を構成し得る。
【0105】
別個のSox/Oct4対の会合はシス調節情況に依存する:異なるシス調節情況におけるSox2/Oct4対とSox17/Oct4対との異なる会合をさらに精査するため、基準要素および圧縮型要素において競合結合実験を実施した。図9Aレーン3〜5は、個々に添加される実験条件では、全ての結合パートナーが等量のDNAを遅らせたことを示す。タンパク質成分の添加の順序がヘテロ二量体化効率に影響を与えるか否かを評価するため、標識されたDNAプローブを、まずSox2もしくはSox17またはOct4結合パートナーのいずれかと予じめ混合した後、残りのタンパク質を反応物に添加した。レーン7〜8および10〜11は、Sox17/Oct4ヘテロ二量体のみが、圧縮型sox/oct要素において会合することができ、Sox2およびOct4の共結合は妨害されたことを裏付けている。圧縮型要素におけるSox17およびOct4のヘテロ二量体化は、Sox2の存在下で排除されず(レーン16〜19)、成分添加の順序は複合体形成に対して極わずかな効果しか有さなかった。基準sox/octモチーフにおける会合挙動を研究するため、類似の実験を実施した(図9B)。Sox2およびOct4は、Sox2が存在する場合のOct4/DNA複合体の完全なスーパーシフトにより示されるように、この要素における協同的結合モードを示した(レーン7〜8)。しかしながら、Sox17およびOct4を基準要素と共にインキュベートした場合、Oct4/DNA複合体のスーパーシフトは不完全であり、このことから、相加的な、またはごく弱い協同的結合モードが示唆された。さらに、三つの因子を共にインキュベートした場合、スーパーシフトしたOct4の大多数が、Sox2/Oct4/DNA複合体として移動し、Sox17/Oct4/DNA複合体の存在量は明らかに少なかった。Sox17タンパク質の大部分は、単独でDNAに結合したままであった。Soxタンパク質の添加の順序は、実験成果に有意に影響を与えなかった。これらの結果は、基準sox/oct要素においてはSox17よりもSox2が優勢であることを可能にする、Oct4結合界面における生化学的特性を、Sox2が示すことを示している。総合すると、Sox17/Oct4結合は基準要素においては立体的に可能であったが(レーン10〜11)、Sox17/Oct4対についての複合体形成は、圧縮型要素において強く増強された(3Aレーン10/11)。反対に、Sox2/Oct4二量体化は、おそらく立体障害のため、圧縮型モチーフにおいては妨げられた(図9C)。
【0106】
これらの所見の意義を立証するために一連の対照実験を実施し、別のF群Soxタンパク質であるSox7、HMGドメインのコアに制限されたSox2タンパク質のより短いバージョンを試験し、基準モチーフのスペーサー残基を改変した(図1)。要約すると、圧縮型要素においてOct4と会合する優先性は、F群Soxタンパク質であるSox7およびSox17の強い特性のようであるが、Sox2/Oct4二量体化はこのモチーフにおいては損なわれる。さらに、わずかに異なるモチーフ異型に対して差別的に会合する能力を、研究下のSoxタンパク質に与える構造要素は、HMGドメインのコア内に存在するに違いない。
【0107】
Oct4相互作用表面における点変異は、Sox2およびSox17のDNA依存性二量体化の可能性を入れ替える:Sox17(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)およびSox2(Remenyi,A.,Genes Dev.(2003)17(16):2048-59;Williams,D.C.,J.Biol.Chem.(2004)279(2):1449-57)に関する構造研究は、DNA塩基接触も、タンパク質により誘導されるDNAの変形も、両方のタンパク質について事実上同一であることを明らかにした。しかしながら、異なる静電気的表面電位が、推定Oct4接触界面を構成するヘリックス3(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)を中心とする領域において観察された。全体として、B1群およびF群のSoxタンパク質は、注目すべき配列保存を示すが、Oct4接触界面にある残基122(Sox17についての番号付け)はサブグループ特異的なパターンを示す(図10A)。B群Soxタンパク質はこの位置に塩基性リジンを含有しているが、それが、F群Soxタンパク質においては酸性グルタミン酸に交換されており、このことが、両タンパク質の静電気的特性を改変するようである(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)。この残基がSox2およびSox17のOct4との異なる会合を引き起こすか否かを試験するため、Sox2のリジン95をグルタミン酸へ変異させ(Sox2KE)、Sox17のグルタミン酸122をリジンに変換した(Sox17EK、図10B)。さらに、推定Oct4接触界面の近位にあるヘリックス3の全8残基を、Sox17に見出だされる対応する対応残基に変換した、Sox2構築物を生成した(Sox2α17と表記される、図10B)。次に、Nanog(Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7)の上流の調節領域に由来する基準要素および圧縮型要素における、Oct4との共会合についての変異型Soxタンパク質の可能性を評価した。野生型のSox2タンパク質およびSox17タンパク質は、以前に記載された理想化された要素と同様に、Nanogプロモーターに由来する要素に結合する(図10C、レーン3〜6;15〜18)。しかしながら、Oct4界面の変異は、Sox2およびSox17の結合プロファイルを入れ替えた。変異型Sox2構築物であるSox2KEおよびSox2α17の、基準モチーフにおいてOct4と二量体化する能力は、実質的に弱くなった(図10レーン4、8、および12を比較すること)。反対に、Sox17EKは、基準要素において、WT Sox17より強くOct4と協同した(レーン6および10)。一貫して、圧縮型要素における変異型Sox構築物のOct4への結合の試験は、逆のパターンを示した。Sox2HMGのSox2KEへの変異は、この構築物が圧縮型要素においてOct4と会合する能力を与えたが、野生型ドメインではそうでなかった(レーン16、20、24)。反対に、Sox17EK変異は、圧縮型要素においてOct4と共会合するために必要な重大な特徴を排除した(レーン18、22)。これらの結果は、Oct4接触界面における単一のアミノ酸が、モチーフ異型におけるSox2/Oct4転写因子対とSox17/Oct4転写因子対との定性的な結合の違いについての重要な決定因子を構成することを示している。
【0108】
合理的に操作されたSox17構築物を使用した人工多能性幹細胞の生成:Sox2およびSox17は、iPS細胞を生成する能力について異なっている(Nakagawa,M.et al.Nat Biotechnol(2008)26:01-6)。Oct4、Klf4、およびc-mycと組み合わせられたSox2は、体細胞を再プログラムすることができるが、Sox17はできない。設計された組換えSox異型の、多能性を誘導する能力を評価するため、iPS細胞生成を使用した。
【0109】
コトランスフェクトされた4種の転写因子Oct4、c-Myc、Klf4(OCK)、およびSox2が、マウスiPS細胞を生成するために必要とされる(Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676)。再プログラムアッセイにおいて、OCK+Sox2により平均68個のiPSクローンが生成され、Sox2が省略された時には、コロニーは出現しなかった(表2)。OCK+Sox17は、以前に記載されたように(Nakagawa,M.et al.Nat Biotechnol(2008)26:01-6)、iPSコロニーを生成しなかった。次に、Sox17EKが、iPS細胞の生成においてSox2に取って代わることができることを確認した(図11Aおよび表2)。三つの独立の実験において、MEFのプレート1枚当たり平均295個のiPSコロニーが生成された。コロニーの形態学、およびSox17EKにより再プログラムされた細胞におけるOct4-GFP発現のレベルは、Sox2により生成されたものと識別不能であった(図11A)。
【0110】
三つの別々の実験(実験A、B、およびC)における、Sox2およびSox17の野生型および変異バージョンにより生成されたiPSコロニーの数が、表2に示される。示されたSox要素のバージョンを、レトロウイルスベクターにより、Oct4、c-myc、およびKlf4(OCK)と共に、MEF細胞へ形質導入した。トリプリケートに実施された各プレートに出現したOct4-GFP+コロニー(平均値±S.D.)を、感染から3週間後に計数した。三つの実験において生成されたコロニーの全体平均(平均)数は、最後のカラムに示される。
【0111】
(表2)Soxの代替的な型に由来するiPSコロニーの概要
【0112】
Sox17EKにより生成されたiPS細胞が本当のiPS細胞であることを確認するため、再プログラムされた多能性細胞において発現され、MEFには見出されないマーカーセットについてスクリーニングを実施した。生成されたiPSコロニーのいくつかを増殖させ、選択されたマーカー遺伝子の遺伝子発現を定量的RT-PCRにより測定した(図11B)。多能性マーカーEras、Nanog、Oct4、Sox2、Zfp206、およびZic3の全てが、正常ES細胞およびOCK Sox2 iPS細胞と同等のレベルを示したが、元のMEFは低い発現を有していた(図11B)。また、本発明者らは、Sox17EK iPS株のうちの三つを、Sox2および多能性マーカーSSEA-1について免疫染色した(図11C)。調査されたSox17EK iPSクローンは、全て、細胞表面マーカーSSEA-1および核局在転写因子Sox2を均一に発現していた。また、本発明者らは、導入遺伝子のトランスフェクションについて、iPSクローンに由来するその挿入断片のサイズおよびヌクレオチド配列を確認した(図2)。まとめると、これらのデータは、Sox17EKがOCKと協力して多能性を誘導することを証明している。
【0113】
生化学的データは、Sox2KE変異体およびSox2α17変異体が、Sox17について観察されたのと同様に、基準要素におけるSox2のOct4とのヘテロ二量体化の可能性を弱くすることを示す。Sox2KEをOCKと組み合わせて試験すると;Sox2KEは、iPS細胞を生成することができたため、野生型Sox2活性を保持していることが見出された(表2)。しかしながら、Oct4接触界面に付加的な変異を有するSox2α17は、同一のアッセイにおいて多能性を誘導することができなかった(表2および図11)。これらの結果の一つの解釈は、インビトロ測定に比べて、インビボ設定においては、Sox2α17がSox2KEより強くOct4相互作用に干渉するということである。あるいは、インビトロでは基準要素においてOct4とヘテロ二量体化する可能性と、iPS誘導特性との間に、単純な1対1の関係は存在しないということもあり得る。もしそうであるならば、Sox2KE変異体とSox2α17変異体とで異なる影響を受ける可能性のあるプロセスの候補には、第三の因子との相互作用、細胞内局在、タンパク質安定性、および翻訳後修飾が含まれる。
【0114】
本研究は、新規の圧縮型モチーフのインシリコ同定、このDNAモチーフがその基準対応モチーフと比べて異なるSox/Oct対を動員し得ることの生化学的証明、および構造モデルの分析による異なる会合挙動のリバース・エンジニアリングを含んでいた。最終的に、インビトロのOct4相互作用に劇的な影響を与える部位において導入された単一の点変異が、Sox17をiPS再プログラム因子へと転換するのに十分であることが証明された。
【0115】
実施例2
Sox7EK変異体を作製するため、実施例1に記載されたSox17と類似の様式で、Sox7を、対応するGlu残基において変異させた。Sox7EKは、Sox4、Sox5、およびSox13の類似の変異型とは対照的に、多能性を誘導することができた(図12A、12B)。コロニーは、早くも14日目に、少なくとも可視となった(図13)。Sox17と同様に、野生型Sox7は多能性コロニーを誘導しなかったが、Sox7EKは多能性コロニーの作製においてSox2(野生型)より効率的であった(図14A、14B)。
【0116】
図12:OCKのみを使用するか、またはSox2、またはSox4、Sox5、Sox13、もしくはSox7の変異体と共にOCKを使用して誘導された多能性の結果。A.GFP蛍光。B.アルカリホスファターゼ染色。
【0117】
図13:Sox7EKにより誘導された多能性コロニー。コロニーは早くも14日目に可視となった。
【0118】
図14:多能性の誘導効率。A.野生型Sox2およびSox7EKは、多能性を誘導することができたが、Sox2KEおよびSox7野生型は誘導しなかった。B.Sox17EKと同様に、Sox7EKは、Sox2と比較して、多能性の誘導においてより効率的である。
【0119】
他の3種の因子(Oct4、Klf4、cMyc)と共に使用されるSox2(Yamanaka因子)をSox17EK変異体に交換した場合、より高いiPS生成を与え得ることが示された先の研究を拡張して、Sox7EK変異体が、iPSコロニーの形成においてSox17EKと同様に作用し、これらの変異体の両方がSox2より少なくとも4倍効率的であることが示された。
【0120】
同様に、より高いiPS生成効率を与えるのは、Sox17のC末端「活性化」ドメインであることが実験により示された。Sox2HMGドメイン(アミノ酸1〜121)と、Sox17のC末端活性化ドメイン(アミノ酸147〜420)とからなるキメラは、増加した効率を示した(図16)。
【0121】
図15:キメラSox2タンパク質およびキメラSox17タンパク質、ならびに多能性の誘導。A.Sox2およびSox17の構築物。B.様々なキメラSoxタンパク質構築物を使用して誘導された多能性コロニー。
【0122】
実施例3
ヒト転写因子とマウス転写因子との間には高い相同性が存在する。HMGドメインは、2種間で100%保存されている。
【0123】
ヒト人工多能性幹(iPS)細胞は、4種の「Yamanaka因子」:OCT4、SOX2、KLF4、およびc-MYC(Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676)による、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hAd-MSC)(Sun,N.et al.,Proc Natl Acad Sci USA(2009)106:15720-725)のウイルス形質導入により生成され得る。詳細なプロトコルは以下の通りである。
【0124】
ウイルス作製のため、Oct4、c-Myc、Klf4、Sox2、Sox2KE、Sox7、Sox7EK、Sox17、およびSox17EKのcDNA配列がクローニングされているpMXsレトロウイルスベクターを使用する。ウイルス産生293GP2細胞20×106個を、15cmディッシュに播種し、翌日、Fugene6トランスフェクション試薬を使用することによりトランスフェクトする。Fugene 112.5μlを、5分間、DMEM 750μlと混合する。次いで、pMXsベクター22.5μgおよびVSV-Gベクター22.5μgを、滴下にて添加する。15分後、混合物を293GP2細胞に移し、一夜インキュベートする。翌日(図16、d-1)、293GP2細胞の培地を、新鮮な培地20mlに交換し、hAd-MSC細胞380000個を、標準的なhAd-MSC培地でヒトES最適マトリゲル(BD Biosciences)によりコーティングされた三つの異なる6cmディッシュに播種する。翌日、製造業者(Millipore)の説明に従ってAmicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Unitsを使用することにより、ウイルスを収集し、濃縮し、Oct4、c-Myc、Klf4、および対応するSox因子の細胞への1回目の感染を行う。翌日、2回目の感染のため、新鮮な培地20mlを293GP2細胞に再び添加する。翌日、hAd-MSC培地をhES培地:Stem Cell Technologies製のmTESR1培地に交換する。次いで、hES様コロニーの出現まで、20日から25日まで連日培地を交換する。次いで、コロニーを多能性マーカーSSEA4について生細胞染色し、蛍光顕微鏡下で計数する。次いで、個々の増幅およびさらなる特徴決定のため、陽性コロニーを選出して、24穴フォーマットプレートに入れる。結果は図17に示される。
【0125】
図16:ヒト脂肪組織由来MSCを使用したヒトiPS細胞の生成の概要。
【0126】
図17:Oct4+c-Myc+Klf4+Sox17EKを使用して誘導されたヒトiPSコロニー。
【0127】
本明細書に引用された全ての刊行物および特許出願は、あたかも個々の刊行物または特許出願が各々参照により組み入れられると具体的に個々に示されたかのごとく、参照により本明細書に組み入れられる。刊行物の引用は、出願日より前のその開示のためであり、本発明が、先行発明のためそのような刊行物に先行している資格を有しないことの承認として解釈されるべきではない。
【0128】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」には、情況が明白にそうでないことを示さない限り、複数の参照が含まれる。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」という用語、およびこれらの用語のその他の形は、非限定的で非排他的な意味で意図され、即ち、他の要素または成分を排除することなく、特定の記述された要素または成分を含むものとする。他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同一の意味を有する。
【0129】
本明細書において提供された全てのリストまたは範囲には、記述されたリストまたは範囲に内含されるサブリストまたはより狭い範囲が含まれるものとする。
【0130】
上記の発明は、理解の明瞭のため、例示および実施例によりある程度詳細に記載されたが、添付の特許請求の範囲の本旨または範囲から逸脱することなく、ある種の変形および改変がそれらに対してなされ得ることは、本発明の教示を考慮すれば、当業者には容易に明白である。
【0131】
参照
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照により本明細書に内容が組み入れられる、2009年11月4日出願の米国仮特許出願第61/272,793号に基づく恩典および優先権を主張する。
【0002】
発明の領域
本発明は、変異Soxタンパク質、ならびに細胞において多能性を誘導するための方法およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
遺伝子発現の調節は、細胞の分化および形態形成において重大な役割を果たす。遺伝子調節は、シス調節モジュール(CRM)における転写因子(TF)の組み合わせの会合を含む、複数の調節イベントを必要とする。多能性細胞は、部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞とは異なる遺伝子発現プロファイルを有し、従って、多能性細胞内では異なる調節イベントが起こっている可能性が高い。細胞の部分的な分化または完全な分化と比較して多能性を決定する調節イベントの解明は、分化細胞からの多能性細胞の作製を可能にするかもしれない。従って、多能性の指示に関与している「調節暗号」および細胞内の差次的な遺伝子発現プロファイルの解読は、精力的な研究の対象となっている。
【0004】
多能性調節イベントを遂行するためにTF結合部位(TFBS)の正確な配置が必要か否かは不明である(Segal,E.and Widom,J.Trends Genet.(2009)25(8):335-43(非特許文献1))。TFBSの配置が制限されているという仮説を支持して、コア調節ユニットとしてSox2/Oct4ヘテロ二量体を多能性CRMへ動員する複合モチーフが同定された(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117(非特許文献2);Boyer,L.A.et al.,Cell(2005)122:947-952(非特許文献3);Loh,Y.H.et al.,Nat.Genetics(2006)38:431-40(非特許文献4))。様々な細胞型において、細胞分化のレベルおよび型が様々であるため、調節複合体のコアを構築する異なるSox/Oct対が、異なる構成の複合モチーフによって動員される可能性がある。
【0005】
転写因子のSoxファミリーおよびPOU(Oct)ファミリーは、それぞれ20および14のメンバーからなり、脊椎動物の発生において相乗的に作用することが多い(Bowles,J.et al.,Dev.Biol.(2000)227:239-55(非特許文献5);Ryan,A.K.& Rosenfield,M.G.Genes & Dev.(1997)11:1207-25(非特許文献6);Wegner,M.Nucleic Acid Res(1999)27:1409-20(非特許文献7)に概説)。多様な生物学的役割にも関わらず、DNAエレメントに対するSoxタンパク質の特異性はほとんど区別ができず、特異的なDNA接触に関与するアミノ酸は高度に保存されている(Badis,G.et al.Science(2009)324(5935):1720-3(非特許文献8))。従って、単一の転写因子が特異的であるのではなく、選択的なヘテロ二量体化の結果として、転写制御における特異性が達成されるのかもしれない。実際、いくつかの別個のSox/POU対が、細胞運命の重大な調節因子として関連付けられている:Sox2/Oct4は、(ES)細胞における必須因子であり(Boyer,L.A.et al.,Cell(2005)122:947-952(非特許文献3);Loh,Y.H.et al.,Nat.Genetics(2006)38:431-40(非特許文献9);Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7(非特許文献10));Sox2/Brn2は、神経発生において重要であることが見出され(Tanaka,S.et al.Mol Cell Biol(2004)24:8834-46(非特許文献11));Sox11/Brn1対は、膠細胞を調節し(Kuhlbrodt,K.et al.J Biol Chem(1998)273:16050-7(非特許文献12));Sox17は、中内胚葉形成においてOct4と協力することが示されている(Stefanovic,S.et al.J Cell Biol(2009)186:665-73(非特許文献13))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Segal,E.and Widom,J.Trends Genet.(2009)25(8):335-43
【非特許文献2】Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117
【非特許文献3】Boyer,L.A.et al.,Cell(2005)122:947-952
【非特許文献4】Loh,Y.H.et al.,Nat.Genetics(2006)38:431-40
【非特許文献5】Bowles,J.et al.,Dev.Biol.(2000)227:239-55
【非特許文献6】Ryan,A.K.& Rosenfield,M.G.Genes & Dev.(1997)11:1207-25
【非特許文献7】Wegner,M.Nucleic Acid Res(1999)27:1409-20
【非特許文献8】Badis,G.et al.Science(2009)324(5935):1720-3
【非特許文献9】Loh,Y.H.et al.,Nat.Genetics(2006)38:431-40
【非特許文献10】Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7
【非特許文献11】Tanaka,S.et al.Mol Cell Biol(2004)24:8834-46
【非特許文献12】Kuhlbrodt,K.et al.J Biol Chem(1998)273:16050-7
【非特許文献13】Stefanovic,S.et al.J Cell Biol(2009)186:665-73
【発明の概要】
【0007】
分化細胞を人工多能性幹(iPS)細胞へと転換する再プログラム因子を検索するため、徹底的な努力がなされている。しかし、この偉業をなすことができるタンパク質はほんの少数であり、それらの生化学的独自性は未だ説明されていない。例えば、Sox2はiPS細胞を誘導することができるが、Sox17は、類似のDNA配列に結合するにも関わらず、iPS細胞を誘導することができない。
【0008】
本発明は、部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞において多能性を誘導する能力を獲得したかまたは該能力が亢進した変異型Soxタンパク質を含む。Sox7およびSox17がSox2に一部類似するよう変異しているか、またはSox2がSox7もしくはSox17に一部類似するよう変異している。
【0009】
これらの機構的な違いを理解するため、マウス胚性幹細胞において、新規の圧縮型sox/octモチーフを含む、異型sox/oct DNAモチーフを同定した。Sox2およびSox17は、基準モチーフと圧縮型モチーフとでは、Oct4との会合について逆の優先性を示すことが発見された。本発明は、Oct4に結合するタンパク質接触界面内のアミノ酸残基を変異させることにより、Sox2およびSox17の優先性を入れ替え得ることの発見に関する。これらの結果はSox7にも拡張された。この変異誘発は、圧縮型モチーフにおけるOct4/Sox17複合体の形成を防止し、基準モチーフにおける協同的相互作用を増強する。著しいことに、再操作されたSox7およびSox17は、再プログラムを促進し、細胞を人工多能性細胞へと変換することができるが、これは、Oct4と共に形成された二量体の多能性エンハンサーエレメントへの導入によるものである可能性が高い。ある種の態様において、Sox7またはSox17の単一の酸性残基の変異ですら、様々なDNAモチーフに対する優先性の変化をもたらし、部分的にまたは完全に分化した細胞において多能性を誘導する能力を、これらの組換えタンパク質に与える。
【0010】
従って、Sox7およびSox17は、適切なDNAモチーフに結合するよう変異した後、多能性を誘導し得るようになる。変異型のSox7およびSox17は、野生型Sox2により観察されるものより大きな多能性誘導効率を示し得ることが観察された。従って、Sox7またはSox17のC末端活性化ドメインと共にSox2の高移動度群(high mobility group)ドメインを使用して作出されたSox2の変異体は、Sox2の多能性誘導効率の増加をもたらすことが見出された。従って、本発明は、Sox2のC末端活性化ドメインを、Sox7またはSox17のものに交換することにより、Sox2の多能性誘導効率が増加することの発見にも関する。
【0011】
部分的にまたは完全に分化し、従って、多能性を失った細胞において、多能性を誘導するために、本発明の変異型Soxタンパク質が使用され得る。従って、本発明は、細胞において多能性を誘導する方法、およびそのための変異Soxタンパク質の使用にも関する。
【0012】
従って、一つの局面において、本発明は、Sox7タンパク質のアミノ酸88〜108またはSox17タンパク質のアミノ酸111〜131のいずれかに変異を含み、非多能性細胞を多能性細胞へと変換することができる、変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質を提供する。
【0013】
別の局面において、本発明は、Sox7タンパク質またはSox17タンパク質のOct4タンパク質接触界面をコードするアミノ酸配列の変異を含み、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導することができる、変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質を提供する。
【0014】
変異Soxタンパク質は、一つの態様において、変異Sox7タンパク質であり、別の態様において、変異Sox17タンパク質である。
【0015】
変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質において、配列
内の任意のアミノ酸残基が、異なるアミノ酸に置換され得る。いくつかの態様において、Sox7タンパク質のアミノ酸99またはSox17タンパク質のアミノ酸122に位置するグルタミン酸が変異している。いくつかの態様において、Sox7タンパク質のアミノ酸99またはSox17タンパク質のアミノ酸122に位置するグルタミン酸が、リジンに置換される。
【0016】
変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質は、ヒトSox7タンパク質またはヒトSox17タンパク質である。
【0017】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載される変異Soxタンパク質をコードする核酸分子を提供する。
【0018】
別の局面において、本発明は、Sox2タンパク質の高移動度群ドメインとSox7タンパク質またはSox17タンパク質のC末端活性化ドメインとをコードするアミノ酸配列を含む変異Soxタンパク質を提供する。
【0019】
C末端活性化ドメインは、Sox7タンパク質のC末端活性化ドメインであってもよいし、またはSox17タンパク質のC末端活性化ドメインであってもよい。
【0020】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載される変異Soxタンパク質を発現する細胞を提供する。
【0021】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載される変異Soxタンパク質をコードする核酸を含む細胞を提供する。
【0022】
別の局面において、本発明は、
(i)本明細書に記載される変異Soxタンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
の存在下で、胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法を提供する。
【0023】
別の局面において、本発明は、一つまたは複数の発現ベクターから
(i)本明細書に記載される変異Soxタンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
を、非多能性細胞において共発現させる工程、ならびに胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法を提供する。
【0024】
非多能性細胞は繊維芽細胞または間葉系幹細胞であり得る。一つの態様において、非多能性細胞は胚繊維芽細胞である。一つの態様において、非多能性細胞は脂肪組織由来間葉系幹細胞である。
【0025】
非多能性細胞はヒト細胞であり得る。
【0026】
非多能性細胞は、部分的に分化した細胞であってもよいし、または完全に分化した細胞であってもよい。
【0027】
本発明のその他の局面および特徴は、添付の図面と共に、本発明の具体的な態様の以下の説明を参照することにより、当業者に明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
単なる例として本発明の態様を例示する図面は、以下の通りである。
【0029】
【図1】Sox7、Sox2HMGs、およびスペーサーヌクレオチドを評価するためのEMSA。
【図2】Sox2、Sox2KE、またはSox17EKに由来するiPSクローンにおけるレトロウイルス形質導入の確認。
【図3】基準Soxf_0bp_octfモチーフについての閾値の同定。
【図4】真のモチーフの検索において使用された拡大された検索ウィンドウ。
【図5】モチーフへの偏りのない塩基の挿入は、配列を発見するモチーフの能力に有意に影響を与えない。
【図6】Sox2/Oct4 ChIP-seq結果に対してスキャンされた異型モチーフの完全な表。
【図7】sox/oct異型モチーフのインシリコ発見。
【図8】一連の異なるモチーフ構成における、Sox2HMGおよびOct4POU(A)ならびにSox17HMGおよびOct4(E)の異なる会合。
【図9】(A)圧縮型要素および基準要素におけるSox2/Oct4およびSox17/Oct4の異なる会合。(B)基準要素および圧縮型要素におけるSox2/Oct4およびSox17/Oct4の異なる会合を要約するモデル。
【図10】(A)全てのマウスSoxタンパク質のアミノ酸配列のアラインメント。(B)DNA上のSox17およびSox2/Oct1についての構造座標を使用することによりpymolを使用して作成された構造モデル。(C)Sox/Oct4界面における点変異は、基準要素と圧縮型要素とにおけるSox2およびSox17の異なる会合挙動を入れ替える。
【図11】Sox17EKにより再プログラムされたiPSクローンの特徴決定。A.単離されたiPSコロニーの明視野写真および蛍光写真の組み合わせが提示される。B.示されるように、Sox2、Sox17EK、またはSox2KEにより再プログラムされたiPSクローンによる多能性遺伝子の発現を決定するため、Q-RT-PCRが実施された。C.iPSクローンにおけるSSEA-1およびSox2の均一な発現。
【図12】OCKのみを使用するか、またはSox2、またはSox4、Sox5、Sox13、もしくはSox7の変異体と共にOCKを使用して誘導された多能性の結果。
【図13】Sox7EKにより誘導された多能性コロニー。
【図14】多能性の誘導の効率。
【図15】キメラSox2タンパク質およびキメラSox17タンパク質、ならびに多能性の誘導。
【図16】ヒト脂肪組織由来MSCを使用したヒトiPS細胞の生成の概要。
【図17】Oct4+c-Myc+Klf4+Sox17EKを使用して誘導されたヒトiPSコロニー。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
多能性でない細胞を多能性になるよう誘導するために使用され得る、組換え操作されたSox2タンパク質、Sox7タンパク質、およびSox17タンパク質が、本発明において記載される。
【0031】
組換え操作されたタンパク質は、Sox2由来の特徴と、Sox7またはSox17由来の特徴とを保有する。Sox2、Sox7、またはSox17が基本の配列として使用され、次いで、その配列が、(出発配列がSox2である場合)Sox7もしくはSox17由来の特徴を含むよう、または(出発配列がSox7もしくはSox17である場合)Sox2由来の特徴を含むよう、適合化される。
【0032】
Sox2、Sox7、およびSox17の各々は、タンパク質の高度に保存されたファミリーをさす。本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用されるSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質との言及には、Oct4と相互作用してSox2、Sox7、およびSox17の特定の機能を指示する能力、例えば、多能性の誘導もしくは維持についてのSox2の機能、または内胚葉分化におけるSox7もしくはSox17の発生的役割を指示する能力を保持している任意のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質の言及が含まれる。Sox2、Sox7、またはSox17の出発配列は、場合に応じて、天然型もしくは野生型のSox2、Sox7、もしくはSox17であってもよいし、またはSox2、Sox7、もしくはSox17の天然活性を保持している任意の断片、ホモログ、もしくは変異体であってもよい。本明細書に記載される変異の前のSox2、Sox7、またはSox17の出発配列は、Soxタンパク質の天然活性が維持される限り、1個、2個、3個、4個、5個、10個、またはそれ以上のアミノ酸の挿入、置換(保存的アミノ酸置換を含む)、または欠失を有していてもよい。
【0033】
出発配列として使用されるSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質は、例えば、多能性幹細胞から発生する任意の真核生物に由来する任意のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質であり得、例えば、昆虫、植物、または哺乳動物のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質であり得、マウスタンパク質またはヒトタンパク質を含む。Sox2、Sox7、またはSox17は、多能性が誘導される細胞と同一の種に由来してもよいし、または、Sox2タンパク質ファミリー、Sox7タンパク質ファミリー、およびSox17タンパク質ファミリーの各々における高度の相同性のため、関連Soxタンパク質がその細胞種においてネイティブ内在性タンパク質として機能し得る限り、異なる種に由来してもよい。
【0034】
いくつかの態様において、本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用されるSox2配列は、以下の配列のうちの一つを含むか、以下の配列のうちの一つから本質的になるか、もしくは以下の配列のうちの一つからなるか、または以下の配列のうちの一つとの80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の配列同一性を有するタンパク質である。
マウス由来:
ヒト由来:
【0035】
いくつかの態様において、本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用されるSox7配列は、以下の配列のうちの一つを含むか、以下の配列のうちの一つから本質的になるか、もしくは以下の配列のうちの一つからなるか、または以下の配列のうちの一つとの80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の配列同一性を有するタンパク質である。
マウス由来:
ヒト由来:
【0036】
いくつかの態様において、本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用されるSox17配列は、以下の配列のうちの一つを含むか、以下の配列のうちの一つから本質的になるか、もしくは以下の配列のうちの一つからなるか、または以下の配列のうちの一つとの80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の配列同一性を有するタンパク質である。
マウス由来:
ヒト由来:
【0037】
本明細書において使用されるように、「から本質的になる(consists essentially of)」または「から本質的になる(consisting essentially of)」とは、本明細書に記載される変異を施す前の出発配列として使用される関連Soxタンパク質(Sox2、Sox7、またはSox17)が、ペプチドの一方または両方の末端に、1個または複数個のアミノ酸を含んでいるが、それらの付加的なアミノ酸がSoxタンパク質の機能に実質的に影響を与えないことを意味する。例えば、Soxタンパク質は、多能性の誘導もしくは維持におけるSox2の機能、または内胚葉分化におけるSox7およびSox17の機能のような関連Soxタンパク質の本来の機能を保有している限り、本明細書に記載される配列の一方または両方の末端に、1個、2個、3個、4個、5個、10個、15個、または20個のアミノ酸を有していてもよい。
【0038】
Sox17の推定Oct4相互作用表面は、Sox17のOct4と相互作用する能力に影響を与える可能性がある、Sox2のものと比較して明らかに異なる静電気的界面を示す(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)。Sox2と本質的に同一の特徴によりDNAに結合するにも関わらず、Sox7およびSox17は、発生において基本的に異なる効果をもたらす。Sox2は、外胚葉(Avilion,A.A.et al.Genes Dev(2003)17:126-40)、神経系統(Zappone,M.V.et al.Development(2000)127:2367-82)、およびその他の多くの発生過程(Que,J.Development(2009)136:1899-1907;Que,J.Development(2007)134:2521-31;Okubo,T.Genes Dev(2006)20:2654-59)の発生のために必要とされ、Sox17は、胚の胚体外系列および胚体内胚葉(definitive endoderm)系列に見出されている(Kanai-Azuma,M.et al.Development(2002)129:2367-79)。Sox17は、マウスおよびヒトのES細胞において強制発現された時、内胚葉様の細胞運命へと細胞を方向付け(Seguin C.A.,et al.Cell Stem Cell(2008)3:182-95;Shimoda,M.et al.J.Cell Sci.(2007)120:3859-69)、重要なことには、Sox17は、繊維芽細胞の人工多能性幹細胞(iPS)への変換においてSox2に取って代わることができない(Nakagawa,M.et al.Nat Biotechnol(2008)26:01-6)。これは、類似のDNA配列モチーフに結合するにも関わらず、Sox2およびSox17が発生において大きく異なる能力を有することを証明している。Sox7は、Sox17と同様に、マウスおよびヒトのES細胞の内胚葉分化に関与する(Seguin C.A.,et al.Cell Stem Cell(2008)3:182-95)。
【0039】
従って、一つの局面において、1個または複数個のアミノ酸が、Sox7タンパク質もしくはSox17タンパク質、またはSox2タンパク質由来の1個または複数個の対応するアミノ酸に交換された、Sox2タンパク質、またはSox7タンパク質もしくはSox17タンパク質を含み、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導することができる変異タンパク質が提供される。あるアミノ酸の別のタンパク質由来の対応するアミノ酸への交換とは、所定のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質に由来する所定のアミノ酸の、別のSox7タンパク質、Sox17タンパク質、またはSox2タンパク質に由来するアミノ酸またはアミノ酸の配列により定義されるドメインへの交換をさす。ここで、交換されるアミノ酸は、配列アラインメントならびに配列の同一性および相同性に基づき対応する位置にあるか、または対応する機能を保有し、例えば、活性化ドメインである。
【0040】
変異Sox2タンパク質、変異Sox7タンパク質、または変異Sox17タンパク質は、多能性を誘導することができるか、または誘導する。即ち、Sox2変異体、Sox7変異体、またはSox17変異体がOct4、Klf4、およびc-Mycのような多能性の誘導および維持に関与する付加的なタンパク質因子を有する非多能性細胞において発現された(または添加された)時、非多能性細胞は適当な増殖条件の下で多能性細胞へと変換される。そのような多能性変換は、公知の多能性マーカー、例えば、Eras、Nanog、Oct4、Sox2、Zfp206、またはZic3を同定するための標準的な技術を使用して確認され得る。下記実施例は、非多能性細胞の多能性細胞への変換を確認するために使用され得る技術を記載する。
【0041】
変異タンパク質とは、操作された組換えタンパク質である。変異タンパク質は、単離されたタンパク質であってもよいし、または細胞における発現のため、変異タンパク質をコードする核酸分子による細胞のトランスフェクション、形質導入、もしくは形質転換を含む、分子クローニング技術および組換え技術を使用して、細胞へ導入されていてもよい。変異Sox2タンパク質、変異Sox7タンパク質、または変異Sox17タンパク質は、任意のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質であり得、例えば、昆虫、植物、哺乳動物のSox2タンパク質、Sox7タンパク質、またはSox17タンパク質であり得、マウスタンパク質またはヒトタンパク質を含む。
【0042】
変異タンパク質は、Oct4タンパク質接触界面を形成する残基のうちの1個または複数個において改変された変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質であり得る。改変には、変異タンパク質において改変される1個もしくは複数個の残基または領域を、改変されるSox7またはSox17の残基に対応するかまたは類似しているSox2のアミノ酸残基または領域に変えるための、挿入、欠失、または置換が含まれる。即ち、改変後、改変されたSox7またはSox17のOct4タンパク質接触界面の特定の配列は、Sox2のOct4タンパク質接触界面に由来する、対応するかまたは類似している特定の残基の配列を有するようになる。
【0043】
例えば、操作された変異Sox7は、配列
内の1個もしくは複数個の残基において改変されたヒトもしくはマウスのSox7、または残基88〜108の1個もしくは複数個の残基において改変されたヒトもしくはマウスのSox7であり得る。変異Sox7は、塩基性残基(例えば、KまたはR)へと変化したE99を有し得る。一つの態様において、変異Sox7は変異E99Kを有する。
【0044】
例えば、操作された変異Sox17は、配列
内の1個もしくは複数個の残基において改変されたヒトもしくはマウスのSox17、または残基111〜131の1個もしくは複数個の残基において改変されたヒトもしくはマウスのSox17であり得る。変異Sox7は、塩基性残基(例えば、KまたはR)へと変化したE122を有し得る。一つの態様において、変異Sox7は変異E122Kを有する。
【0045】
一つの特定の態様において、変異タンパク質はSox7E99Kである。別の特定の態様において、変異タンパク質はSox17E122Kである。
【0046】
あるいは、変異タンパク質は、C末端活性化ドメインを形成する残基のうちの1個または複数個において改変された変異Sox2タンパク質であり得る。改変には、変異タンパク質において改変される1個もしくは複数個の残基または配列を、改変されるSox2の残基に対応するかまたは類似しているSox7またはSox17の配列へと変化させるための、挿入、欠失、または置換が含まれる。即ち、改変後、改変されたSox2のC末端活性化ドメインの特定の配列は、Sox7またはSox17のC末端活性化ドメインに由来する、対応するかまたは類似している特定の残基の配列を有するようになる。
【0047】
いくつかの態様において、Sox2のC末端活性化ドメイン全体が、Sox7またはSox17の活性化ドメイン全体に交換される。例えば、マウスSox2のアミノ酸122〜320が、マウスSox17のアミノ酸残基147〜420、またはマウスSox7に由来する対応する残基へと交換され得る。ヒト配列に基づく類似の改変もなされ得る。
【0048】
Sox2、Sox7、およびSox17の配列は、野生型または非変異型の配列を含め、マウスおよびヒトのSox2タンパク質、Sox7タンパク質、およびSox17タンパク質を含め、公知である。同様に、Oct4タンパク質接触界面およびC末端活性化ドメインとして機能する、Sox2およびSox7およびSox17の領域も公知である。従って、本明細書に記載される変異タンパク質の配列は、当技術分野における標準的な知識を使用して容易に設計され得る。
【0049】
変異Sox2タンパク質、変異Sox7タンパク質、または変異Sox17タンパク質は、標準的な分子工学およびクローニングの技術を使用して作製され得る。例えば、変異タンパク質をコードするよう適当な核酸残基の変化を含有しているプライマーを含む、プライマー伸長、PCR、およびクローニングの技術を含む、1個または複数個のアミノ酸残基における変異を有する変異タンパク質を作製するための技術は、公知である。
【0050】
従って、本明細書に記載される変異タンパク質をコードする核酸分子も企図される。上述のように、変異タンパク質のタンパク質配列は、当技術分野における知識および技術を使用して、容易に同定され得る。同様に、遺伝暗号および暗号縮重の知識を使用すれば、本明細書に記載される変異タンパク質をコードする核酸分子は、標準的な分子クローニング技術を使用して容易に設計され合成され得る。認識されるように、核酸分子は、付加的な要素、例えば、変異タンパク質をコードする配列に機能的に連結されたプロモーター領域をさらに含んでいてもよく、例えば、プロモーターは胚性幹細胞において発現されるプロモーターである。
【0051】
インビトロの細胞を含む、本明細書に記載される変異Soxタンパク質、またはそのような変異Soxタンパク質をコードする核酸分子を発現する細胞も、企図される。
【0052】
本明細書に記載される変異タンパク質、およびそのような変異タンパク質をコードする核酸分子は、例えば、インビトロの方法において、非多能性細胞を多能性細胞へと変換することにより多能性を誘導するために使用され得る。
【0053】
多能性を誘導する方法は、例えば、Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676に記載されるように、公知である。簡単に説明すると、多能性タンパク質因子Sox2、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方を、多能性になるよう誘導される細胞と接触させるか、またはそのような細胞において共発現させ、その細胞を、胚性幹細胞の増殖にとって適当であり、胚性幹細胞の増殖を促進する条件の下で増殖させる。
【0054】
本発明の方法において、Sox2は本明細書に記載される変異タンパク質に交換される。多能性が誘導される細胞は、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方のような、Sox2以外の多能性因子のうちの1種または複数種を既に発現していてもよい。あるいは、細胞は、例えば、トランスフェクションまたは形質転換により、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方を発現するよう改変されてもよい。下記の方法において、部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞は、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方の添加を必要とするが、これらの因子のうちの一つまたは複数が、細胞により既に発現されていてもよいことが認識されるであろう。
【0055】
従って、本明細書に記載される変異タンパク質と、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の少なくとも一方との存在下で、胚性幹細胞の増殖にとって適当な条件の下で、非多能性細胞を培養することを含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法が提供される。本法は、インビトロの方法として実施され得る。
【0056】
細胞は、任意の非多能性細胞、例えば、インビトロの細胞、培養物中の細胞、対象から外植された細胞を含む、部分的に分化したまたは完全に分化した任意の細胞であり得る。非多能性細胞は、例えば、昆虫細胞、植物細胞、または哺乳動物細胞を含み、マウス細胞またはヒト細胞を含む、多能性細胞から発生する任意の多細胞真核生物に由来し得る。細胞は、例えば、ヒトもしくはマウスの胚繊維芽細胞のような胚繊維芽細胞、または、例えば、ヒトもしくはマウスの脂肪組織由来間葉系幹細胞のような間葉系幹細胞を含む、任意の型の部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞であり得る。
【0057】
本明細書において使用されるように、細胞(cell)という用語は、特記しない限り、情況が許容する場合には、単一の細胞、複数の細胞、または細胞の集団を指し、かつ含む。同様に、細胞(cells)との言及も、特記しない限り、情況が許容する場合には、単一の細胞の言及を含む。
【0058】
変異Sox2、変異Sox7、または変異Sox17と、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方との情況における細胞の培養には、多能性タンパク質因子が細胞に取り込まれるよう、様々な多能性タンパク質因子と細胞を接触させることのみならず、様々な多能性タンパク質因子をコードする核酸により細胞をトランスフェクトするかまたは形質導入し、多能性タンパク質因子を共発現させることも含まれる。本明細書において使用されるように、多能性タンパク質因子とは、本明細書に記載される変異型Soxタンパク質、Oct4、ならびにc-MycおよびKlf4の一方または両方をさす。
【0059】
認識されるように、多能性タンパク質因子の共発現は、特定の多能性タンパク質因子のコーディング領域に機能的に連結された適当なプロモーターからの発現を含むであろう。配列が機能的関係に置かれている時、第一の核酸配列は第二の核酸配列に機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコーディング配列の転写を活性化する場合、そのコーディング配列はそのプロモーターに機能的に連結されている。
【0060】
細胞を多能性タンパク質因子と接触させた後、または多能性タンパク質因子の各々をコードする核酸分子により細胞をトランスフェクトするかもしくは形質導入し、細胞を共発現のための条件に曝した後、細胞を、胚性幹細胞の増殖にとって適当な条件の下で培養することができる。胚性幹細胞の培地は公知であり、市販されている。いくつかの環境において、標準的な胚性幹細胞培養技術と一致して、培養物中の幹細胞増殖を促進するため、フィーダー細胞を使用することが望ましいかもしれない。
【0061】
好ましい場合には、人工多能性細胞の個々のコロニーを選択し、次いで、人工多能性細胞のクローン集団を入手するため、標準的な細胞培養技術に従って、増殖させることができる。
【0062】
本発明の方法および使用を、以下の非限定的な実施例により、さらに例示する。
【実施例】
【0063】
実施例1
多能性の誘導因子としてのSox2/Oct4対の役割は、よく確立されており(Nichols,Cell(1998)95:379-91;Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7)、Sox17およびOct4が内胚葉分化において機能的に協力するという証拠が存在する(Reim,G.,et al.Dev Cell(2004)6:91-101;Stefanovic,S.et al.J Cell Biol(2009)186:665-73)。
【0064】
従って、別個のシス調節モチーフを特徴とする特異的なゲノム領域において、Sox2およびSox17がOct4について競合し、安定的な複合体を形成し得ることが、想像できる。
【0065】
これを試験するため、マウスES細胞においてSox2およびOct4により占有されるゲノム領域における異型sox/octモチーフ構成を同定するための実験が設計され(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)、その実験の結果から、新規の圧縮型要素が同定された。しかしながら、基準部位においてはSox2/Oct4複合体が支配的であるが、この要素にSox17/Oct4は共結合することができるがSox2/Oct4は共結合し得ないことが、インビトロヘテロ二量体化アッセイにより明らかにされた。構造モデルを使用して変異を設計することにより、Sox2およびSox17のヘテロ二量体化優先性を入れ替える点変異を生成した。著しいことに、Sox17/Oct4二量体化の能力のこの変化は、Sox17を強力な再プログラム因子に変えた。
【0066】
実験手順
コンピュータ分析:異なるsox/octモチーフ構成を探索するため、Oct4/Sox2 ChIP-seqデータ(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)に由来するモチーフを使用し、このモチーフの存在についてFASTA配列のセットをスキャンするため、位置重み行列(position-weight matrix)(pwm)探索ツールを適用した。
【0067】
異なる構成のsox/octモチーフを構築するため、sox/octモチーフ内もしくはsox/octモチーフ間へ偏りのない塩基対を挿入することにより、またはそれぞれのモチーフの逆相補鎖バージョンを作成することにより、モチーフの異型を生成した。これは、基準(soxf_0bp_octf)からの、sox/octモチーフの種々の仮説的構成、順序型(octf_0bp_soxf)、集束型(soxf_0bp_octr;fおよびrはモチーフ要素の鎖を意味する)、および発散型(octr_0bp_soxf)の構築を可能にした。モチーフのsox部分とoct部分との間にスペーサー塩基対が挿入されたpwm(soxf_0bp_octf、soxf_1bp_octf ... soxf_10bp_octf)も構築し、間の1塩基対を排除することにより「圧縮型」pwm(soxf_-1bp_octf、octf_-1bp_soxf等と表記される)も構築した。
【0068】
対数オッズ塩基位置重み行列の所見および実行:Markov(O)モデルとして、Ben-Gal,I.et al,Bioinformatics(2005)21:2657-2666に本質的に記載されたようにして、単純位置重み行列スコアリングツールとして、モチーフ発見ツールを実行した。アルゴリズムはある程度のバックグラウンド補正を含む。この型のアルゴリズムは一般的に対数オッズモデルと呼ばれ、転写因子の結合および発見のより洗練されたモデルが利用可能である(van Loo,P.and Marynen,P.Briefings in Bioinformatics(2009)10:509-524に概説)。対数オッズモデルの利点は、現代のコンピューターハードウェアにおける実行の容易さおよび迅速なスキャニングスピードである。
【0069】
以下の式を使用して、位置頻度行列(pfm)を位置重み行列(pwm)に変換した:
式中、wは、各ヌクレオチドnについての行列内の各位置pにおける特定のヌクレオチドの重みである。fは、位置pにおける各ヌクレオチドnの存在数であり、Nは、この位置pにおけるA、C、G、およびTヌクレオチドの総存在数である。bは、等しい、即ち[0.25、0.25、0.25、0.25]であると仮定される、このヌクレオチドnについての予想されるバックグラウンドである。これは、ヒトおよびマウスにおいて、A、C、T、Gが各々およそ25%であるプロモーター領域(ここでは、転写開始部位の-10kbと見なされる)については、合理的な仮定であるが、CGリッチになる傾向があるプロモーター領域の遠位では、この仮定は当てはまらない。バックグラウンド変動についてのさらなる補正は行わなかった。
【0070】
DNA配列のセクションをスキャンするため、モチーフについて可能性のある各位置におけるスコアを決定するため、以下の式を使用した:
式中、s=0〜1のノーマライズされたスコアであり、wは位置pにおける実際のヌクレオチドnについての重みであり、Mはpwmについての最大の可能性のあるスコアであり、かつmはpwmについての最低の可能性のあるスコアである(pwm行列内の各列におけるpwmについての最低値または最大値の全てを合計することにより計算された)。
【0071】
単純対数オッズモチーフ発見ツール(通称:PMF)を、Python(バージョン>2.5<3.0)において実行した。
【0072】
閾値推定およびChip-seq配列ウィンドウサイズ:pwmによる検索は、それより上で特定のモチーフが受理され、それ未満ではモチーフが棄却される任意の閾値の設定に頼る。(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)からのSox/Oct ChIP-seqリストにモチーフが濃縮されていることが公知であり、従って、ChIP-seqリストを使用し、陰性対照として、抗GFP ChIP-seq結果に由来する単一マッピングリード(single mapped reads)のリストであるシングルトン-GFPリスト(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)を使用した。シングルトン-GFPリストは、配列決定のために利用可能なゲノムの割合を表していると考えられ、従って、可能性のある配列決定バイアスを既に含んでいるが、それ以外は「配列決定可能ゲノム」中にランダムに分布する。
【0073】
Sox/Oct ChIP-seqに由来するFASTA配列のリスト、または10,000シングルトン-GFP部位の無作為抽出されたリストに対して、基準sox/octモチーフ(soxf_0bp_octf)をスキャンした。座標の中心点をとり、ウィンドウを各方向に100bpだけ拡大した。最適のモチーフ発見閾値を確立するため、閾値を0.8から1.0まで変動させ、次いで、Sox2/Oct4リストおよびシングルトン-GFPリストをスキャンした。0.82のモチーフ閾値で、同数のSox2/Oct4結合配列において見出されたものと比較して、モチーフの5%がシングルトン-GFPリストにおいて見出された(図3)。
【0074】
次に、モチーフの発見に対するFASTAウィンドウのサイズの影響を調査した。Sox2/Oct4 ChIP-seqからのピークは、本当の結合部位を正確に特定する分解能をしておらず、可能性の高い部位の過半数は、ChIP-seq部位の中心の極めて近く(およそ25bpの範囲内)にあるようである(図4)。回収されるモチーフの数に対する配列ウィンドウのサイズの効果を評価するため、ChIP-seqピークの中心の両側750bpという極めて大きなウィンドウを使用した。次いで、モチーフのサイズを低下させ、ChIP-seqの中心の±750bp以内の全てのモチーフに対する割合として、モチーフをスコア化した(図4)。±100bpのウィンドウサイズは、±1kb以内の全ての可能性のあるsox/octモチーフの50%超を含み、単なる偶然によって発見されるモチーフの数を最小化するため、本発明者らは±100bpのウィンドウサイズを選んだ。
【0075】
モチーフの収集および改変:本研究において使用されたモチーフは、Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117から採用され、Oct4 Chip-seq実験に新規に由来した。行列は以下の通りである(Python暗号で表される)。
【0076】
行列へ偏りのない塩基対を挿入するため、単一の偏りのないヌクレオチド:[1,1,1,1]を行列へ挿入した。このpfmのpwmへの変換は、その塩基対について以下のpwm行列:[0,0,0,0]をもたらすであろう。これは、特定のpwmについての最低スコアまたは最大スコアに影響を与えないため、このアプローチは、ゲノム内の特定の配列を見出す行列の能力に対して最小限のバイアスしか及ぼさないはずである。soxf_10bp_octf行列は、Pythonではこのように表される。
【0077】
次に、基準soxf_0bp_octfモチーフの有意な濃縮は予想されないため、(ここでは、抗GFP免疫沈降からの「シングルトン」の無作為選択から生成された)ランダムリストが有用であろうとの推論により、これらの偏りのない塩基対の挿入が、ランダムリストに対するマッチの頻度に影響を与えるか否かを試験した(図5)。図5は、偏りのない塩基対の挿入が、5bpまたは10bpのスペーサー型(それぞれ、soxf_5bp_octf、soxf_10bp_octf)と比較して、基準モチーフ(soxf_0bp_octf)を使用して、同一のランダムリストにおいて発見されるモチーフの数に有意に影響を与えないことを示す。Sox/Octリストに対するpwmスキャンの完全な結果は、図6に提示される。
【0078】
基準モチーフおよび圧縮型モチーフについてのPWMは異なる配列を取得することの証拠:選ばれた0.82の閾値で、基準pwmおよび圧縮型pwmがマッチする全ての15残基配列および14残基配列を取得した。二つのpwmとデータに含有されていた回文構造要素との間で共通の配列を同定した。基準モチーフは、1,073,741,824の可能性のある15残基のうちの106,630の15残基とマッチし、圧縮型pwmは、可能性のある268,435,456のうちの39,138の14残基配列とマッチした。二つの配列のセットをオーバーラップさせると、9216の配列が共通である、即ち、9216の15残基配列が基準モチーフおよび圧縮型モチーフの両方によって検出され得ることが見出された。しかしながら、圧縮型モチーフまたは基準モチーフのいずれかにマッチした15残基配列の数は、はるかに大きい(それぞれ、97,414および29,922の配列)。これは、圧縮型モチーフと基準モチーフとの間には、両方が同一のDNA配列を同定し得るオーバーラップが存在するが、実際には、それらは別個の実体であることを強調している。
【0079】
組換えSoxタンパク質:マウスのSox2、Sox7、およびSox17のHMGドメインを、他に記載された(Palasingam,P.et al.J.Mol Biol(2009)388:619-30)ようにしてクローニングし、異種発現させ、均質になるまで精製した。Sox2HMGの延長型(Sox2HMGlと表記される。全長タンパク質のアミノ酸33〜141に及ぶ。スイスプロットid P48432)を、TOPOテクノロジーを使用してクローニングし、続いて、GATEWAY(商標)LRテクノロジーを使用してpETG20A発現プラスミドへ移し、確立された手順(Ng et al.,2008)を使用して精製した。
【0080】
組換えOct4タンパク質の作製:マウスOct4のPOUドメイン(全長タンパク質の残基126〜289、スイスプロットid P20263)を、以下のようにして作製した。Oct4-POUを方向性TOPOクローニングによりpENTR/TEV/D-TOPOベクターへ導入し、pETG40A発現プラスミドへ移した。37℃で、OD600が約0.6〜0.8になるまで、0.2%グルコースおよび100μg/mlアンピシリンが補足されたLuria Bertani(LB)培地で増殖させた後、25℃、5時間での誘導のために0.5mMイソプロピル-β-チオガラクトシド(IPTG)を添加し、N末端MBPタグを含有している融合タンパク質をBL21(DE3)細胞に発現させた。細胞ペレットを緩衝液A(20mM HEPES pH7.0;200mM NaCl;1mM EDTA;10mM βメルカプトエタノール)に再懸濁させ、4℃で15分間、2秒オン/4秒オフによる35の振幅での超音波処理により破砕した。MBP融合タンパク質をまずアミロースビーズを使用して精製し、次いで、MBPタグを除去するため、4℃で一夜、タバコエッチ病ウイルス(tobacco etch virus)(TEV)プロテアーゼを使用して切断した。切断されたタンパク質を、Resource-S(GE Healthcare)カラムを使用してさらに精製し、10カラム容量で直線NaCl勾配により溶出させた。切断されたOct4-POUタンパク質のみを含有している画分をプールし、PD-10(GE Heathcare)を使用して、保存緩衝液(10mM HEPES pH7.0;100mM NaCl)へと交換し、VIVASPIN 3MWCOカラム(Sartorius)を使用して濃縮した。
【0081】
部位特異的変異誘発:QuikChange-XL部位特異的変異誘発キット(Stratagene)および表1にリスト化されたDNAオリゴによるGATEWAYエントリークローンを使用して、アミノ酸置換を導入した。アミノ酸変化の成功を確証するため、配列決定を実施した。上記の野生型構築物について記載されたようにして、組換え変異タンパク質を発現させ精製した。
【0082】
(表1)DNAオリゴマー
【0083】
電気泳動移動度シフトアッセイ:全てのEMSAを、二本鎖5'Cy5標識DNAを使用して実施した(Sigma Proligo、表1参照)(Jauch,R.,et al.J.Mol.Biol.(2008)376(3):758-70)。結合緩衝液は、20mMトリス-HCl pH8.0、50μM ZnCl2、100mM KCl、10%グリセロール、2mM βメルカプトエタノール、0.1mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)、および0.1%(v/v)Igepal CA-630を含有している。250nM dsDNAプローブを、単独で、または組み合わせて、結合緩衝液中でアナライトタンパク質と混合し、暗所で4℃で1時間インキュベートした。結合したプローブおよび未結合プローブの異なる種を分離するため、1×TG(25mMトリス、pH8.3;192mMグリシン)緩衝液でプレランされた12%(w/v)1×トリス-グリシンポリアクリルアミドゲルにロードした。Typhoon 9140 PhosphorImager(Amersham Biosciences)を使用して、蛍光を検出した。
【0084】
iPSの生成:Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676から改変された手順を使用して、iPSアッセイを実施した。マウス胚繊維芽細胞(MEF)を、確立されたプロトコル(Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676)に従い、転写因子をレトロウイルスで形質導入することにより、iPS細胞へと再プログラムした。緑色蛍光タンパク質(GFP)がOct4プロモーターにより駆動されているMEFを、C57B16マウス(Jackson Laboratory)から単離した。レトロウイルス作製のため、Oct4、Klf4、c-Myc、Sox2、Sox17、Sox17EK、Sox2EK、またはSox2α17を発現するpMXプラスミドを、Fugeneトランスフェクション試薬(Roche)により、PLAT-Eウイルスパッケージング細胞(Cell Biolabs)へと個々にトランスフェクトし、ウイルス含有培地を2日後に収集した。新鮮に調製されたレトロウイルス+4μg/mlポリブレンによる感染を、267,000個のOct4-GFP MEFおよび800,000個の不活化されたフィーダー繊維芽細胞が播種された6cmプレートで実施した。Oct4、Klf4、およびc-Mycについてのレトロウイルス含有培地を、等しい容量で、Sox2、Sox17、Sox17EK、Sox2KE、またはSox2α17と混合した。DMEM High Glucose、10%FBS、および1%L-グルタミンを含有している新鮮な培地(Gibco)を、2日後に供給した。細胞培養条件を3日目にES細胞培地に切り替えた。Oct4-GFP+iPSコロニーを3週間後に計数し、代表的なクローンを単離した。選択されたコロニーを、PBSを含有している96穴プレートへ移し、続いて、5分間トリプシン処理し、次いで、不活化された繊維芽細胞フィーダーを含む48穴ディッシュへ単一細胞懸濁物を移した。選出されたiPS細胞を、さらに、ES細胞培養条件下で6cmおよび10cmのディッシュにおいてフィーダー上で増殖させた。
【0085】
定量的リアルタイムPCR(Q-RT-PCR):iPSクローンによるマーカー遺伝子の発現を、Q-RT-PCRにより実施した。ゲノムDNA汚染を最小化するため、RNAをTriZol試薬(Invitrogen)により抽出し、RNeasyミニキット(Qiagen)によりさらに精製した。High Capacity cDNA Archiveキット(Applied Biosystems)を使用して、1.0gの全RNAを用いてcDNAを合成した。各Q-PCR反応のため、20μlの最終容量で、水で10倍希釈されたcDNA試料を、TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix試薬(Applied Biosystems)10ul、および以下のリストのうちの単一のTaqManプローブ(20×TaqMan(登録商標)Gene Expression Assay試薬;Applied Biosystems)1μlと混合した:Eras、Zic3、Oct4、Nanog、Sox2、およびZfp206。Q-RT-PCR分析は、ABI Prism 7900装置上で、96穴透明光学反応プレート(Applied Biosystems)において実施された。
【0086】
免疫染色:多能性マーカーSSEA-1およびSox2の発現について試験するため、48穴プレートにてフィーダー細胞なしで培養されたiPSクローンに対して免疫染色を実施した。iPS細胞を4%パラホルムアルデヒドにより固定し、0.5% Triton X-100により透過化した。SSEA-1(10ug/ml)およびSox2(10ug/ml)に対する一次抗体(Millipore)を、室温で2時間、固定された細胞と共にインキュベートし、その後、暗所にて室温で1時間、Alexa Fluor 594標識二次抗体(Molecular probes)(4ug/ml)により染色した。ZEISS Axioobservor DI倒立蛍光顕微鏡(Carl Zeiss International)を使用して画像を取り込んだ。
【0087】
図面の説明
図1:Sox7、Sox2HMGs、およびスペーサーヌクレオチドを評価するためのEMSA。Sox2/Sox17構築物の長さの違いにより引き起こされる可能性のあるアーティファクトを排除するため、(Sox2HMGsと名付けられた)コアSox2HMGドメインの異なる会合を試験した。そのドメインは、Sox17構築物の同一のアミノ酸範囲に及ぶ。Sox17との顕著な配列類似性を有する別のF群Soxタンパク質であるSox7の異なる会合も試験した。Sox7およびSox17は、基準要素においては比較的弱いOct4ヘテロ二量体化を有していたが、圧縮型要素においては協同的結合が観察された。第三に、残りの3個の可能性のあるヌクレオチドにおいて基準要素のスペーサーヌクレオチドを変動させた
。スペーサーヌクレオチドの同一性は、様々なSoxタンパク質のOct4との全体的な二量体化プロファイルに明白な影響を及ぼさないことが見出された。50nMのSox2HMGs、Sox7HMG、およびSox17HMGを、250nM Oct4POUの非存在下(レーン1〜3)または存在下(レーン4〜6)で、Soxモチーフの7位に異なる塩基対を含有している基準要素(C1A2T3T4G5T6(A/T/C/G)7;A〜D)、および圧縮型要素(E)と共にインキュベートした。
【0088】
図2:Sox2、Sox2KE、またはSox17EKに由来するiPSクローンにおけるレトロウイルス形質導入の確認。A.示されたiPSクローンに由来するゲノムDNAのPCR増幅を、ベクター特異的プライマー、ならびにc-myc、Klf4、Oct4、Sox2、およびSox17についての遺伝子特異的プライマー(表1)を用いて実施した(それぞれ、レーン1〜5)。正確な断片サイズの特異的増幅により、形質導入された遺伝子のレトロウイルス組み込みが存在することを確認した。B.Sox2およびSox17についてのPCRプライマーは、これらの二つの遺伝子の代替的な対立遺伝子を区別せず、従って、Sox17EKクローンから増幅された断片のDNA配列決定を実施し、EからKへの変異の存在を確認した。
【0089】
図3:基準Soxf_0bp_octfモチーフについての閾値の正当化。
【0090】
図4:検索ウィンドウの拡大は、真のモチーフの発見を大きくは助けない。ChIP-seq結果を使用し、検索ウィンドウを50bpから1400bpまで増加させ、次いで、モチーフの数を計数し、ウィンドウが最も広い時に発見されたモチーフの数に対する割合として表した。A.ウィンドウが拡大するにつれ、モチーフが偶然に単独で見出される確率も増加する。B.ランダムリストにおいて、同一の計数を実施することにより生成された。
【0091】
図5:モチーフへの偏りのない塩基の挿入は、配列を発見するモチーフの能力に有意に影響を与えない。全ての閾値で、偏りのない塩基対の挿入は、FASTA配列(10,000)の同一ランダムリストにおいて発見されるモチーフの数を有意に改変しなかった。
【0092】
図6:Sox2/Oct4 ChIP-seq結果に対してスキャンされた異型モチーフの完全な表。
【0093】
図7:sox/oct異型モチーフのインシリコ発見。(A)本研究において生成された異型モチーフの模式図。モチーフのsox部分とoct部分との間に0〜10bpのスペーサーを含む全ての組み合わせを調査し、soxモチーフとoctモチーフとの間の塩基対を欠失させることにより「圧縮型」モチーフも作出した。(B)-1、1〜10bpのスペーサーを有する基準異型モチーフについて返されたヒット数の頻度。ここで、モチーフの頻度は、ゲノム座標のランダムリストを超える増加率として表されている。第二の独立に生成されたランダムリストが、比較のため含まれている。(C)pwmマッチングツールにより発見された、返されたモチーフのWebLogo。(D)Chen,X.et al,Cell(2008)133:1106-1117に由来する異なるChIP-seqリストに対するモチーフのバックグラウンドを超えた増加率。「Oct4/Sox2」は、オーバーラップするOct4/Sox2結合部位の全てを含有しているオーバーラップリストである。「Oct4」リストおよび「Sox2」リストは、それぞれ、Oct4結合部位およびSox2結合部位の全てを含有している。
【0094】
図8:一連の異なるモチーフ構成におけるSox2HMGおよびOct4POU(A)ならびにSox17HMGおよびOct4(E)の異なる会合。GCリッチ配列が隣接している、同一のSoxコンセンサス配列(CATTGTC)およびOct4コンセンサス配列(ATGCAAAT)を含有している30bp DNAエレメントを使用して、図1Aに概説されるように、モチーフ構成を系統的に設計した。周囲またはスペーサー領域内の潜在的要素による結合異常を最小化するため、本発明者らは、理想化されたモチーフ(soxについてはCATTGTC、octについてはATGCAAAT)を使用し、スペーサーヌクレオチドおよび境界ヌクレオチドとしてGおよびCを導入した。各DNAエレメントを個々の転写因子タンパク質と混合し、Sox2 DBDおよびOct4 DBDの両方の組み合わせとも混合した(補足情報を参照のこと)。250nMの全てのcy5標識DNAエレメントを、50nM Sox2HMGl/Sox17HMGおよび250nM Oct4POUタンパク質と共に、単独で、そして組み合わせてインキュベートし、続いて、三成分Sox/Oct4/DNA複合体の形成を評価するためにPAGEを行った。様々なタンパク質DNA複合体の位置が矢印によりマークされている。スペーサー塩基対の数はゲルの上下に示されている。X=-1は圧縮型要素を意味し、X=0は基準要素を意味する。マウス胚性幹細胞におけるSox2およびOct4が共結合するゲノム領域内の基準モチーフおよび圧縮型モチーフの共存在は、(B)に図示される。無作為に生成されたリストと比較したオーバーラップの有意性は、二項検定を使用して確立された。(C)は、共有されるゲノム座標と共にモチーフの部分を示す。
【0095】
図9:(A)圧縮型要素および基準要素における、Sox2/Oct4およびSox17/Oct4の異なる会合。レーンの上に示された順序で、タンパク質を250nM DNAエレメントに添加した。Sox2およびSox17により引き起こされるシフトを区別するため、N末端およびC末端が延長されたSox2-HMG(Sox2HMGl)ドメインを、これらの実験において使用した。結果として、Sox2/DNA複合体およびSox2/Oct4/DNA複合体は、両方とも、対応するSox17複合体より遅く移動し、従って、Sox2/Oct4 DNA複合体およびSox17/Oct4 DNA複合体を同一ゲル上で可視化することができた。次のタンパク質成分が添加される前に、タンパク質-DNA混合物を10分間インキュベートした。Sox2およびSox17は50nM、Oct4POUは250nMの最終濃度で維持された。Sox2/Oct4/DNA複合体は、実線の青色四角によりマークされ、Sox17/Oct4/DNAは緑色四角によりマークされる。Sox2(青色)またはSox17(緑色)の三成分複合体が予想されるが、存在しないかまたは存在量が少ない位置は、点線の四角によりマークされる。二成分タンパク質/DNA複合体は、矢印(赤色:Oct4、青色:Sox2、緑色:Sox17)によりマークされる。(B)基準要素と圧縮型要素とにおけるSox2/Oct4およびSox17/Oct4の異なる会合を要約するモデル。三成分複合体の形成が二成分複合体の形成より有利である時(即ち、Soxタンパク質が存在する場合に、Oct4を含有しているDNA複合体が完全にスーパーシフトされる場合)、協同的結合が結論付けられる。
【0096】
図10:(A)全てのマウスSoxタンパク質のアミノ酸配列のアラインメント。Soxサブファミリー(Bowles,J.et al.,Dev.Biol.(2000)227:239-55)は、右に示される。番号付けはSox17配列に相当する。αヘリックスは赤色のバーによりマークされる。FMウェッジはアラインメント下のオレンジのバーにより示され、さらなるDNA相互作用残基は、黒丸によりマークされる。高度に保存された配列および類似している配列は、黒色または灰色の陰付きである。Sox17およびSox2を区別するグルタミン酸残基およびリジン残基の位置は、矢印によりマークされる。Sox2α17タンパク質を構築するため、Sox17に見出される対応する対応アミノ酸に交換された、Sox2のヘリックス3の8アミノ酸は、赤色である。(B)DNA上のSox17およびSox2/Oct1についての構造座標を使用することにより、pymolを使用して作成された構造モデル。Sox2/Oct1構造に由来するDNAのファンデルワールス表面は、薄い灰色で示される。Sox17(青色)をSox2(灰色)に重ね合わせた。Oct1は黒色で示される。POU特異的ドメインとPOUホメオドメインとを接続するリンカー領域は、構造障害のため、NMRに由来するモデルには存在しないことに注意すること。変異したグルタミン酸(Sox17)およびリジン(Sox2)は、ボール&スティックとして示される。リジンは、NMRモデルにおいて、二つの代替的なコンフォメーションで存在することに注意すること。(C)Sox/Oct4界面における点変異は、基準要素と圧縮型要素とにおけるSox2およびSox17の異なる会合挙動を入れ替える。Nanogエンハンサー内の機能的なsox/oct要素に由来するDNAエレメントを使用した(Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7)。2はSox2HMGsを意味し、17はSox17HMG、2KEはSox2KE、17EKはSox17EK、2α17は、Sox2における、対応するSox17の残基とは異なるヘリックス3の全ての残基を、Sox17の対応残基に交換したものを意味する。Soxタンパク質を、個々に、そしてOct4と組み合わせて、DNAと共にインキュベートした。二成分Sox/DNAおよびOct4/DNAのみならず、三成分Sox/Oct4/DNA複合体の位置も示される。
【0097】
図11:Sox17EKにより再プログラムされたiPSクローンの特徴決定。A.単離されたiPSコロニーの明視野写真および蛍光写真の組み合わせが提示される。Oct4、c-myc、Klf4+Sox2(aおよびb)またはSox17EK(cおよびb)により形質導入されたMEFに由来するiPS細胞の代表的なクローンが示される。MEF細胞は、Oct4プロモーターから駆動されるGFPレポーターを含有しており、従って、iPS生成は、GFP陽性コロニーの出現によりスコア化された。個々のOct4-GFP+iPSコロニーを単離し、レトロウイルス形質導入の21日後、不活化された繊維芽細胞のフィーダー層上で継代した。スケールバーは100umである。B.示されるように、Sox2、Sox17EK、またはSox2KEにより再プログラムされたiPSクローンによる多能性遺伝子の発現を決定するため、Q-RT-PCRを実施した。トリプリケートウェルからの6種の示された多能性マーカーの(非形質導入MEFに対して相対的な)遺伝子発現レベルが、平均値±信頼区間として提示される。比較のため、マウスES細胞株(E14)およびMEFにおける多能性マーカーの発現レベルも提示される。C.iPSクローンにおけるSSEA-1およびSox2の均一な発現。OCK+Sox17EKによりMEFから誘導された3つの単一iPSクローン(C15、C5、およびC6)を、多能性マーカーSSEA-1(a、e、およびi)ならびにSox2(c、g、およびk)の発現について免疫染色した。同一視野についてのOct4-GFP発現も提示される(b、d、f、h、j、およびl)。スケールバーは100um(e、f、i、j)ならびに200um(a〜d、g、h、k、およびl)である。
【0098】
結果
マウスESCにおけるsox/octモチーフ構成の分析:Sox2/Oct4複合モチーフの異なる構成の存在を定量化するために、位置重み行列(PWM)スキャニングツールを考案した。Sox2モチーフとOct4モチーフとの間の間隔を、順序およびモチーフの方向を含め、系統的に評価した(図7A)。モチーフスキャンのため、胚性幹細胞においてSox2およびOct4により占有されることがChIPにより示されている(Chen,X.et al.,Cell(2008)133:1106-1117)マウスゲノムの200bpウィンドウについて調べた。基準方向の異なる間隔のsox/oct(soxf_nbp_octf、fは順方向を意味し、rは逆相補鎖を意味し、nはスペーサー塩基対の数を意味する)についてのモチーフ頻度は、図7Bに詳細に示される(完全なリストについては図6を参照のこと)。予想通り、基準sox/octモチーフは最も強く濃縮されていた(バックグラウンドに対して370%)。スペーサーヌクレオチドが挿入されたその他のモチーフの多くは、中程度にのみ濃縮されていることが見出された。
【0099】
Sox2/Oct4データセットにおいて検出された2番めに豊富なモチーフは、新規の「圧縮型」モチーフであった(ここで、soxf_-1bp_octfとして表記される。図7C。バックグラウンドに対して54%の増加)。圧縮型モチーフは、基準モチーフにおいて弱くしか指定されていない基準sox/oct複合モチーフの7位の単一ヌクレオチドの欠失により、基準モチーフと異なる(図7C)。この代替モチーフにより同定された配列を回収し、PWMを圧縮し、新たに同定された圧縮型モチーフのweblogo表記を生成した(図7C)。
【0100】
次に、Sox2またはOct4が単独で結合するゲノム領域におけるモチーフ頻度を、Sox2およびOct4が共結合する領域と比較した(図7D)。予測通り、共結合部位と比較して、個々のTFにより占有される部位においては、基準複合モチーフおよび圧縮型複合モチーフは、検出される頻度が低かった。
【0101】
異なる構成のモチーフへのSox/Oct4の結合のプロファイリング:インビトロで異なる構成のsox/octモチーフにおいて物理的に会合するSox2およびOct4の優先性を評価するため、Sox2およびOct4の精製されたDNA結合ドメイン(DBD)を使用して、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を実施した。Sox2/Oct4 DBD対のヘテロ二量体化の可能性を、系統的に改変されたsox/oct複合モチーフのパネルにおいてスクリーニングした(図7A)。基準要素においては、Sox2およびOct4の強力な協同的相互作用が観察された(x=0、図8A、レーン5〜7)。しかしながら、1塩基対または2塩基対のスペーサーが導入された場合、二量体化の可能性は顕著に減弱した(図8A、レーン8〜13)。3〜10ヌクレオチドのスペーサー長を有する要素においては、基準要素と比較すると効率が低下しているとはいえ、ヘテロ二量体化が可能であり、従って、相加的なまたは弱く競合的な結合モードが示唆された(図8A、レーン15〜39)。モチーフの配置が改変された場合(図7A、82A、レーン41〜49)、モチーフ順序変化型(octf_0bp_soxf)については二量体形成が抑止され、収束型モチーフ(soxf_0bp_octr)については顕著に減弱し、発散方向型(soxr_0bp_octf)については低下する。予想外に、新たに同定された圧縮型モチーフは、個々のタンパク質は高い親和性で結合したが、ヘテロ二量体形成を可能にしなかった(図8A、レーン2〜4)。
【0102】
圧縮型モチーフが、この配列情況においてSox2およびOct4はヘテロ二量体化し得ないにも関わらず、この二つのタンパク質により共に標的とされるゲノム領域に多量に存在することは、三つのシナリオにより説明され得る。第一に、圧縮型モチーフの過剰な出現は、この部位に単独で結合したSox2またはOct4の独立のChIP濃縮により引き起こされた可能性がある。細胞の大集団における平均化は、両方のタンパク質の共存在の概念を作出する。第二に、圧縮型モチーフは、機能的なSox2/Oct4ヘテロ二量体を動員する基準モチーフの近位に位置する可能性がある。後者のシナリオにおいては、圧縮型モチーフがChIP実験において共精製されるが、実際の結合イベントは近くの基準モチーフにおいて起こるのであろう。第三の可能性は、圧縮型モチーフの見かけの濃縮が、基準モチーフとの類似性により膨張するというものである。
【0103】
最後の二つの問題をさらに探究するため、基準モチーフと圧縮型モチーフとの間の関係を、Sox2/Oct4結合領域における両モチーフの共存在を測定することにより調査した。1784箇所のSox2/Oct4結合領域が存在し、基準モチーフは、これらの位置のうちの995箇所に少なくとも1回存在するが、圧縮型モチーフは548回存在する。425箇所の領域が圧縮型モチーフおよび基準モチーフの両方を含有しており、それは統計的に有意な共存在であった(p=8.6e-13)(図8B)。圧縮型モチーフが、基準バージョンから離れた真正モチーフを構成し、基準モチーフ内に隠された潜在的モチーフではないことを立証するため、マウスゲノムにおけるモチーフの正確な位置を再確認し、ゲノム座標の共通部分を分析した(図8C)。135箇所の圧縮型/基準モチーフが、相互の座標中心の1bp以内にゲノム座標を共有しており(反対鎖上の部位を含む)、モチーフのオーバーラップが示された(図8C)。しかしながら、圧縮型モチーフの大多数(528箇所)が、基準モチーフとは位置的に別個のものであり、従って、圧縮型モチーフが真正モチーフ異型を構成することが示唆される。第三の可能性を探求するため、圧縮型モチーフが実際は基準モチーフのサブセットであるか否かを調査した。pwm、およびpwmとマッチする配列の分析を実施したところ、圧縮型モチーフおよび基準モチーフについてのpwmにより回収された配列の大部分が別個のものであることが見出された。
【0104】
Sox2およびF群Soxタンパク質Sox17のsoxモチーフへの結合親和性が識別不能であることは以前に示された(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)。Sox2およびSox17のヘテロ二量体化特性を比較するため、Sox2およびOct4について先に試験したのと同一のパネルのsox/octモチーフ構成に対するSox17 DBDおよびOct4 DBDの異なる会合を評価した。大部分のモチーフ構成におけるヘテロ二量体化の全体的なパターンは、Sox2/Oct4対についてなされた観察を再現する(図8D、レーン5〜49)。しかしながら、Sox2およびOct4が、圧縮型モチーフにおいて共会合し得ないのとは全く対照的に、Sox17およびOct4は、この要素において協同的結合モードを示した(図8D、レーン2〜4)。この所見は、シス調節性DNAにおけるSox2/Oct4ヘテロ二量体とSox17/Oct4ヘテロ二量体との定性的な結合の違いを示しており、それは、哺乳動物の発生におけるそれらの別個の役割の生化学的基礎を構成し得る。
【0105】
別個のSox/Oct4対の会合はシス調節情況に依存する:異なるシス調節情況におけるSox2/Oct4対とSox17/Oct4対との異なる会合をさらに精査するため、基準要素および圧縮型要素において競合結合実験を実施した。図9Aレーン3〜5は、個々に添加される実験条件では、全ての結合パートナーが等量のDNAを遅らせたことを示す。タンパク質成分の添加の順序がヘテロ二量体化効率に影響を与えるか否かを評価するため、標識されたDNAプローブを、まずSox2もしくはSox17またはOct4結合パートナーのいずれかと予じめ混合した後、残りのタンパク質を反応物に添加した。レーン7〜8および10〜11は、Sox17/Oct4ヘテロ二量体のみが、圧縮型sox/oct要素において会合することができ、Sox2およびOct4の共結合は妨害されたことを裏付けている。圧縮型要素におけるSox17およびOct4のヘテロ二量体化は、Sox2の存在下で排除されず(レーン16〜19)、成分添加の順序は複合体形成に対して極わずかな効果しか有さなかった。基準sox/octモチーフにおける会合挙動を研究するため、類似の実験を実施した(図9B)。Sox2およびOct4は、Sox2が存在する場合のOct4/DNA複合体の完全なスーパーシフトにより示されるように、この要素における協同的結合モードを示した(レーン7〜8)。しかしながら、Sox17およびOct4を基準要素と共にインキュベートした場合、Oct4/DNA複合体のスーパーシフトは不完全であり、このことから、相加的な、またはごく弱い協同的結合モードが示唆された。さらに、三つの因子を共にインキュベートした場合、スーパーシフトしたOct4の大多数が、Sox2/Oct4/DNA複合体として移動し、Sox17/Oct4/DNA複合体の存在量は明らかに少なかった。Sox17タンパク質の大部分は、単独でDNAに結合したままであった。Soxタンパク質の添加の順序は、実験成果に有意に影響を与えなかった。これらの結果は、基準sox/oct要素においてはSox17よりもSox2が優勢であることを可能にする、Oct4結合界面における生化学的特性を、Sox2が示すことを示している。総合すると、Sox17/Oct4結合は基準要素においては立体的に可能であったが(レーン10〜11)、Sox17/Oct4対についての複合体形成は、圧縮型要素において強く増強された(3Aレーン10/11)。反対に、Sox2/Oct4二量体化は、おそらく立体障害のため、圧縮型モチーフにおいては妨げられた(図9C)。
【0106】
これらの所見の意義を立証するために一連の対照実験を実施し、別のF群Soxタンパク質であるSox7、HMGドメインのコアに制限されたSox2タンパク質のより短いバージョンを試験し、基準モチーフのスペーサー残基を改変した(図1)。要約すると、圧縮型要素においてOct4と会合する優先性は、F群Soxタンパク質であるSox7およびSox17の強い特性のようであるが、Sox2/Oct4二量体化はこのモチーフにおいては損なわれる。さらに、わずかに異なるモチーフ異型に対して差別的に会合する能力を、研究下のSoxタンパク質に与える構造要素は、HMGドメインのコア内に存在するに違いない。
【0107】
Oct4相互作用表面における点変異は、Sox2およびSox17のDNA依存性二量体化の可能性を入れ替える:Sox17(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)およびSox2(Remenyi,A.,Genes Dev.(2003)17(16):2048-59;Williams,D.C.,J.Biol.Chem.(2004)279(2):1449-57)に関する構造研究は、DNA塩基接触も、タンパク質により誘導されるDNAの変形も、両方のタンパク質について事実上同一であることを明らかにした。しかしながら、異なる静電気的表面電位が、推定Oct4接触界面を構成するヘリックス3(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)を中心とする領域において観察された。全体として、B1群およびF群のSoxタンパク質は、注目すべき配列保存を示すが、Oct4接触界面にある残基122(Sox17についての番号付け)はサブグループ特異的なパターンを示す(図10A)。B群Soxタンパク質はこの位置に塩基性リジンを含有しているが、それが、F群Soxタンパク質においては酸性グルタミン酸に交換されており、このことが、両タンパク質の静電気的特性を改変するようである(Palasingam,P.et al.J Mol Biol(2009)388:619-30)。この残基がSox2およびSox17のOct4との異なる会合を引き起こすか否かを試験するため、Sox2のリジン95をグルタミン酸へ変異させ(Sox2KE)、Sox17のグルタミン酸122をリジンに変換した(Sox17EK、図10B)。さらに、推定Oct4接触界面の近位にあるヘリックス3の全8残基を、Sox17に見出だされる対応する対応残基に変換した、Sox2構築物を生成した(Sox2α17と表記される、図10B)。次に、Nanog(Rodda,D.J.et al.J Biol Chem(2005)280:24731-7)の上流の調節領域に由来する基準要素および圧縮型要素における、Oct4との共会合についての変異型Soxタンパク質の可能性を評価した。野生型のSox2タンパク質およびSox17タンパク質は、以前に記載された理想化された要素と同様に、Nanogプロモーターに由来する要素に結合する(図10C、レーン3〜6;15〜18)。しかしながら、Oct4界面の変異は、Sox2およびSox17の結合プロファイルを入れ替えた。変異型Sox2構築物であるSox2KEおよびSox2α17の、基準モチーフにおいてOct4と二量体化する能力は、実質的に弱くなった(図10レーン4、8、および12を比較すること)。反対に、Sox17EKは、基準要素において、WT Sox17より強くOct4と協同した(レーン6および10)。一貫して、圧縮型要素における変異型Sox構築物のOct4への結合の試験は、逆のパターンを示した。Sox2HMGのSox2KEへの変異は、この構築物が圧縮型要素においてOct4と会合する能力を与えたが、野生型ドメインではそうでなかった(レーン16、20、24)。反対に、Sox17EK変異は、圧縮型要素においてOct4と共会合するために必要な重大な特徴を排除した(レーン18、22)。これらの結果は、Oct4接触界面における単一のアミノ酸が、モチーフ異型におけるSox2/Oct4転写因子対とSox17/Oct4転写因子対との定性的な結合の違いについての重要な決定因子を構成することを示している。
【0108】
合理的に操作されたSox17構築物を使用した人工多能性幹細胞の生成:Sox2およびSox17は、iPS細胞を生成する能力について異なっている(Nakagawa,M.et al.Nat Biotechnol(2008)26:01-6)。Oct4、Klf4、およびc-mycと組み合わせられたSox2は、体細胞を再プログラムすることができるが、Sox17はできない。設計された組換えSox異型の、多能性を誘導する能力を評価するため、iPS細胞生成を使用した。
【0109】
コトランスフェクトされた4種の転写因子Oct4、c-Myc、Klf4(OCK)、およびSox2が、マウスiPS細胞を生成するために必要とされる(Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676)。再プログラムアッセイにおいて、OCK+Sox2により平均68個のiPSクローンが生成され、Sox2が省略された時には、コロニーは出現しなかった(表2)。OCK+Sox17は、以前に記載されたように(Nakagawa,M.et al.Nat Biotechnol(2008)26:01-6)、iPSコロニーを生成しなかった。次に、Sox17EKが、iPS細胞の生成においてSox2に取って代わることができることを確認した(図11Aおよび表2)。三つの独立の実験において、MEFのプレート1枚当たり平均295個のiPSコロニーが生成された。コロニーの形態学、およびSox17EKにより再プログラムされた細胞におけるOct4-GFP発現のレベルは、Sox2により生成されたものと識別不能であった(図11A)。
【0110】
三つの別々の実験(実験A、B、およびC)における、Sox2およびSox17の野生型および変異バージョンにより生成されたiPSコロニーの数が、表2に示される。示されたSox要素のバージョンを、レトロウイルスベクターにより、Oct4、c-myc、およびKlf4(OCK)と共に、MEF細胞へ形質導入した。トリプリケートに実施された各プレートに出現したOct4-GFP+コロニー(平均値±S.D.)を、感染から3週間後に計数した。三つの実験において生成されたコロニーの全体平均(平均)数は、最後のカラムに示される。
【0111】
(表2)Soxの代替的な型に由来するiPSコロニーの概要
【0112】
Sox17EKにより生成されたiPS細胞が本当のiPS細胞であることを確認するため、再プログラムされた多能性細胞において発現され、MEFには見出されないマーカーセットについてスクリーニングを実施した。生成されたiPSコロニーのいくつかを増殖させ、選択されたマーカー遺伝子の遺伝子発現を定量的RT-PCRにより測定した(図11B)。多能性マーカーEras、Nanog、Oct4、Sox2、Zfp206、およびZic3の全てが、正常ES細胞およびOCK Sox2 iPS細胞と同等のレベルを示したが、元のMEFは低い発現を有していた(図11B)。また、本発明者らは、Sox17EK iPS株のうちの三つを、Sox2および多能性マーカーSSEA-1について免疫染色した(図11C)。調査されたSox17EK iPSクローンは、全て、細胞表面マーカーSSEA-1および核局在転写因子Sox2を均一に発現していた。また、本発明者らは、導入遺伝子のトランスフェクションについて、iPSクローンに由来するその挿入断片のサイズおよびヌクレオチド配列を確認した(図2)。まとめると、これらのデータは、Sox17EKがOCKと協力して多能性を誘導することを証明している。
【0113】
生化学的データは、Sox2KE変異体およびSox2α17変異体が、Sox17について観察されたのと同様に、基準要素におけるSox2のOct4とのヘテロ二量体化の可能性を弱くすることを示す。Sox2KEをOCKと組み合わせて試験すると;Sox2KEは、iPS細胞を生成することができたため、野生型Sox2活性を保持していることが見出された(表2)。しかしながら、Oct4接触界面に付加的な変異を有するSox2α17は、同一のアッセイにおいて多能性を誘導することができなかった(表2および図11)。これらの結果の一つの解釈は、インビトロ測定に比べて、インビボ設定においては、Sox2α17がSox2KEより強くOct4相互作用に干渉するということである。あるいは、インビトロでは基準要素においてOct4とヘテロ二量体化する可能性と、iPS誘導特性との間に、単純な1対1の関係は存在しないということもあり得る。もしそうであるならば、Sox2KE変異体とSox2α17変異体とで異なる影響を受ける可能性のあるプロセスの候補には、第三の因子との相互作用、細胞内局在、タンパク質安定性、および翻訳後修飾が含まれる。
【0114】
本研究は、新規の圧縮型モチーフのインシリコ同定、このDNAモチーフがその基準対応モチーフと比べて異なるSox/Oct対を動員し得ることの生化学的証明、および構造モデルの分析による異なる会合挙動のリバース・エンジニアリングを含んでいた。最終的に、インビトロのOct4相互作用に劇的な影響を与える部位において導入された単一の点変異が、Sox17をiPS再プログラム因子へと転換するのに十分であることが証明された。
【0115】
実施例2
Sox7EK変異体を作製するため、実施例1に記載されたSox17と類似の様式で、Sox7を、対応するGlu残基において変異させた。Sox7EKは、Sox4、Sox5、およびSox13の類似の変異型とは対照的に、多能性を誘導することができた(図12A、12B)。コロニーは、早くも14日目に、少なくとも可視となった(図13)。Sox17と同様に、野生型Sox7は多能性コロニーを誘導しなかったが、Sox7EKは多能性コロニーの作製においてSox2(野生型)より効率的であった(図14A、14B)。
【0116】
図12:OCKのみを使用するか、またはSox2、またはSox4、Sox5、Sox13、もしくはSox7の変異体と共にOCKを使用して誘導された多能性の結果。A.GFP蛍光。B.アルカリホスファターゼ染色。
【0117】
図13:Sox7EKにより誘導された多能性コロニー。コロニーは早くも14日目に可視となった。
【0118】
図14:多能性の誘導効率。A.野生型Sox2およびSox7EKは、多能性を誘導することができたが、Sox2KEおよびSox7野生型は誘導しなかった。B.Sox17EKと同様に、Sox7EKは、Sox2と比較して、多能性の誘導においてより効率的である。
【0119】
他の3種の因子(Oct4、Klf4、cMyc)と共に使用されるSox2(Yamanaka因子)をSox17EK変異体に交換した場合、より高いiPS生成を与え得ることが示された先の研究を拡張して、Sox7EK変異体が、iPSコロニーの形成においてSox17EKと同様に作用し、これらの変異体の両方がSox2より少なくとも4倍効率的であることが示された。
【0120】
同様に、より高いiPS生成効率を与えるのは、Sox17のC末端「活性化」ドメインであることが実験により示された。Sox2HMGドメイン(アミノ酸1〜121)と、Sox17のC末端活性化ドメイン(アミノ酸147〜420)とからなるキメラは、増加した効率を示した(図16)。
【0121】
図15:キメラSox2タンパク質およびキメラSox17タンパク質、ならびに多能性の誘導。A.Sox2およびSox17の構築物。B.様々なキメラSoxタンパク質構築物を使用して誘導された多能性コロニー。
【0122】
実施例3
ヒト転写因子とマウス転写因子との間には高い相同性が存在する。HMGドメインは、2種間で100%保存されている。
【0123】
ヒト人工多能性幹(iPS)細胞は、4種の「Yamanaka因子」:OCT4、SOX2、KLF4、およびc-MYC(Takahashi and Yamanaka(2006)Cell 126:663-676)による、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hAd-MSC)(Sun,N.et al.,Proc Natl Acad Sci USA(2009)106:15720-725)のウイルス形質導入により生成され得る。詳細なプロトコルは以下の通りである。
【0124】
ウイルス作製のため、Oct4、c-Myc、Klf4、Sox2、Sox2KE、Sox7、Sox7EK、Sox17、およびSox17EKのcDNA配列がクローニングされているpMXsレトロウイルスベクターを使用する。ウイルス産生293GP2細胞20×106個を、15cmディッシュに播種し、翌日、Fugene6トランスフェクション試薬を使用することによりトランスフェクトする。Fugene 112.5μlを、5分間、DMEM 750μlと混合する。次いで、pMXsベクター22.5μgおよびVSV-Gベクター22.5μgを、滴下にて添加する。15分後、混合物を293GP2細胞に移し、一夜インキュベートする。翌日(図16、d-1)、293GP2細胞の培地を、新鮮な培地20mlに交換し、hAd-MSC細胞380000個を、標準的なhAd-MSC培地でヒトES最適マトリゲル(BD Biosciences)によりコーティングされた三つの異なる6cmディッシュに播種する。翌日、製造業者(Millipore)の説明に従ってAmicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Unitsを使用することにより、ウイルスを収集し、濃縮し、Oct4、c-Myc、Klf4、および対応するSox因子の細胞への1回目の感染を行う。翌日、2回目の感染のため、新鮮な培地20mlを293GP2細胞に再び添加する。翌日、hAd-MSC培地をhES培地:Stem Cell Technologies製のmTESR1培地に交換する。次いで、hES様コロニーの出現まで、20日から25日まで連日培地を交換する。次いで、コロニーを多能性マーカーSSEA4について生細胞染色し、蛍光顕微鏡下で計数する。次いで、個々の増幅およびさらなる特徴決定のため、陽性コロニーを選出して、24穴フォーマットプレートに入れる。結果は図17に示される。
【0125】
図16:ヒト脂肪組織由来MSCを使用したヒトiPS細胞の生成の概要。
【0126】
図17:Oct4+c-Myc+Klf4+Sox17EKを使用して誘導されたヒトiPSコロニー。
【0127】
本明細書に引用された全ての刊行物および特許出願は、あたかも個々の刊行物または特許出願が各々参照により組み入れられると具体的に個々に示されたかのごとく、参照により本明細書に組み入れられる。刊行物の引用は、出願日より前のその開示のためであり、本発明が、先行発明のためそのような刊行物に先行している資格を有しないことの承認として解釈されるべきではない。
【0128】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」には、情況が明白にそうでないことを示さない限り、複数の参照が含まれる。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」という用語、およびこれらの用語のその他の形は、非限定的で非排他的な意味で意図され、即ち、他の要素または成分を排除することなく、特定の記述された要素または成分を含むものとする。他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同一の意味を有する。
【0129】
本明細書において提供された全てのリストまたは範囲には、記述されたリストまたは範囲に内含されるサブリストまたはより狭い範囲が含まれるものとする。
【0130】
上記の発明は、理解の明瞭のため、例示および実施例によりある程度詳細に記載されたが、添付の特許請求の範囲の本旨または範囲から逸脱することなく、ある種の変形および改変がそれらに対してなされ得ることは、本発明の教示を考慮すれば、当業者には容易に明白である。
【0131】
参照
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sox7タンパク質のアミノ酸88〜108またはSox17タンパク質のアミノ酸111〜131のいずれかに変異を含み、非多能性細胞の多能性細胞への変換を行うことができる、変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項2】
Sox7タンパク質またはSox17タンパク質のOct4タンパク質接触界面をコードするアミノ酸配列に変異を含み、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導することができる、変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項3】
配列LSQKRPYVDEAERLRLQHMQDまたはLAEKRPFVEEAERLRVQHMQD内の任意のアミノ酸残基が、異なるアミノ酸に置換されている、請求項2記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項4】
Sox7タンパク質のアミノ酸99またはSox17タンパク質のアミノ酸122に位置するグルタミン酸の変異を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項5】
Sox7タンパク質のアミノ酸99またはSox17タンパク質のアミノ酸122に位置するグルタミン酸の変異が、リジンへの置換である、請求項4記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項6】
変異Sox7タンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項7】
変異Sox17タンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項8】
ヒトSox7タンパク質またはヒトSox17タンパク質である、請求項1〜7のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質をコードする核酸分子。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質を発現する細胞。
【請求項11】
請求項9記載の核酸分子を含む細胞。
【請求項12】
(i)請求項1〜8のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
の存在下で、胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法。
【請求項13】
一つまたは複数の発現ベクターから
(i)請求項1〜8のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
を、非多能性細胞において共発現させる工程、ならびに胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法。
【請求項14】
非多能性細胞が繊維芽細胞または間葉系幹細胞である、請求項12または請求項13記載の方法。
【請求項15】
非多能性細胞がヒト細胞である、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
非多能性細胞が部分的に分化した細胞である、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
非多能性細胞が完全に分化した細胞である、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
非多能性細胞が胚繊維芽細胞である、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
非多能性細胞が脂肪組織由来間葉系幹細胞である、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
Sox2タンパク質の高移動度群(high mobility group)ドメインと、Sox7タンパク質またはSox17タンパク質のC末端活性化ドメインとをコードするアミノ酸配列を含む、変異Soxタンパク質。
【請求項21】
C末端活性化ドメインがSox7タンパク質のC末端活性化ドメインである、請求項20記載の変異Soxタンパク質。
【請求項22】
C末端活性化ドメインがSox17タンパク質のC末端活性化ドメインである、請求項20記載の変異Soxタンパク質。
【請求項23】
請求項20〜22のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質をコードする核酸分子。
【請求項24】
請求項20〜22のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質を発現する細胞。
【請求項25】
請求項23記載の核酸分子を含む細胞。
【請求項26】
(i)請求項20〜22のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
の存在下で、胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法。
【請求項27】
一つまたは複数の発現ベクターから
(i)請求項20〜22のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
を、非多能性細胞において共発現させる工程、ならびに胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法。
【請求項28】
非多能性細胞がヒト細胞である、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
非多能性細胞が繊維芽細胞または間葉系幹細胞である、請求項26〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
非多能性細胞が部分的に分化した細胞である、請求項26〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
非多能性細胞が完全に分化した細胞である、請求項26〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
非多能性細胞が胚繊維芽細胞である、請求項26または27記載の方法。
【請求項33】
非多能性細胞が脂肪組織由来間葉系幹細胞である、請求項26または27記載の方法。
【請求項1】
Sox7タンパク質のアミノ酸88〜108またはSox17タンパク質のアミノ酸111〜131のいずれかに変異を含み、非多能性細胞の多能性細胞への変換を行うことができる、変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項2】
Sox7タンパク質またはSox17タンパク質のOct4タンパク質接触界面をコードするアミノ酸配列に変異を含み、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導することができる、変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項3】
配列LSQKRPYVDEAERLRLQHMQDまたはLAEKRPFVEEAERLRVQHMQD内の任意のアミノ酸残基が、異なるアミノ酸に置換されている、請求項2記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項4】
Sox7タンパク質のアミノ酸99またはSox17タンパク質のアミノ酸122に位置するグルタミン酸の変異を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項5】
Sox7タンパク質のアミノ酸99またはSox17タンパク質のアミノ酸122に位置するグルタミン酸の変異が、リジンへの置換である、請求項4記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項6】
変異Sox7タンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項7】
変異Sox17タンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項8】
ヒトSox7タンパク質またはヒトSox17タンパク質である、請求項1〜7のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質をコードする核酸分子。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質を発現する細胞。
【請求項11】
請求項9記載の核酸分子を含む細胞。
【請求項12】
(i)請求項1〜8のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
の存在下で、胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法。
【請求項13】
一つまたは複数の発現ベクターから
(i)請求項1〜8のいずれか一項記載の変異Sox7タンパク質または変異Sox17タンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
を、非多能性細胞において共発現させる工程、ならびに胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法。
【請求項14】
非多能性細胞が繊維芽細胞または間葉系幹細胞である、請求項12または請求項13記載の方法。
【請求項15】
非多能性細胞がヒト細胞である、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
非多能性細胞が部分的に分化した細胞である、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
非多能性細胞が完全に分化した細胞である、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
非多能性細胞が胚繊維芽細胞である、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
非多能性細胞が脂肪組織由来間葉系幹細胞である、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
Sox2タンパク質の高移動度群(high mobility group)ドメインと、Sox7タンパク質またはSox17タンパク質のC末端活性化ドメインとをコードするアミノ酸配列を含む、変異Soxタンパク質。
【請求項21】
C末端活性化ドメインがSox7タンパク質のC末端活性化ドメインである、請求項20記載の変異Soxタンパク質。
【請求項22】
C末端活性化ドメインがSox17タンパク質のC末端活性化ドメインである、請求項20記載の変異Soxタンパク質。
【請求項23】
請求項20〜22のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質をコードする核酸分子。
【請求項24】
請求項20〜22のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質を発現する細胞。
【請求項25】
請求項23記載の核酸分子を含む細胞。
【請求項26】
(i)請求項20〜22のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
の存在下で、胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法。
【請求項27】
一つまたは複数の発現ベクターから
(i)請求項20〜22のいずれか一項記載の変異Soxタンパク質;
(ii)Oct4;ならびに
(iii)c-mycおよびKlf4の少なくとも一方
を、非多能性細胞において共発現させる工程、ならびに胚性幹細胞の増殖に適した条件の下で、非多能性細胞を培養する工程を含む、非多能性細胞の多能性細胞への変換を誘導する方法。
【請求項28】
非多能性細胞がヒト細胞である、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
非多能性細胞が繊維芽細胞または間葉系幹細胞である、請求項26〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
非多能性細胞が部分的に分化した細胞である、請求項26〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
非多能性細胞が完全に分化した細胞である、請求項26〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
非多能性細胞が胚繊維芽細胞である、請求項26または27記載の方法。
【請求項33】
非多能性細胞が脂肪組織由来間葉系幹細胞である、請求項26または27記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2013−509875(P2013−509875A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537843(P2012−537843)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000423
【国際公開番号】WO2011/056147
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(508305029)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (36)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000423
【国際公開番号】WO2011/056147
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(508305029)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (36)
【Fターム(参考)】
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