説明

変色建材及び変色建材の製造方法

【課題】気泡や濃淡差の欠点の無い均一な透明状態又は不透明状態に基づく良好な変色性能を実現でき、感温性高分子が外部に漏出しないことによる環境保全性を有し、かつ製造コストを低廉可能な変色建材を提供する。
【解決手段】変色建材9は、無機ガラス製の第1透明基板1と、第1透明基板1の表面に化学結合され、温度変化により変色する感温性高分子のゲルからなる変色層3と、変色層3側で第1透明基板1と対面しつつ、変色層3の温度を変更するための流体を流通させる変色室6を形成する第2透明基板2とを備える。また、この変色建材9において、変色室6には流体を取り入れるインレットポート7及び流体を吐出するアウトレットポート8が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変色建材及び変色建材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の変色建材が開示されている。従来の変色建材100は、図4に示すように、2枚の透明基板101、102が間隔を空けて対面状態とされ、かつ周囲を枠104で封止されたものである。少なくとも一方の透明基板101には、透明基板105と枠104とが組み合わされて空間が形成されており、その空間内には温度に応じて透明状態又は不透明状態に変わる感温性高分子の溶液103が貯留されている。そして、この変色建材100は、2枚の透明基板105、106間に変色室106が形成され、変色室106は流体を取り入れるインレットポート107と流体を吐出するアウトレットポート108とに連通されている。
【0003】
この変色建材100は、インレットポート107から流体としての温水を変色室106内に入れることにより、感温性高分子の溶液103の温度が一定の変色温度を過ぎ、不透明状態になる。このため、この変色建材100を例えば浴室等の仕切り壁に用いた場合、プライバシーの確保と開放感とを必要に応じて供与できる。
【0004】
【特許文献1】実開平7−38324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の変色建材100では、気泡や濃淡差の欠点の無い均一な透明状態又は不透明状態を実現しようとする場合、感温性高分子に起因する不具合が問題となる。
【0006】
すなわち、その一つは、感温性高分子の溶液103を変色建材100に封入する工程において、溶液103と透明基板101、105の表面との間に気泡が混入したり、溶液103中に溶存した気体が気圧や温度の変化により透明基板101、105の表面に気泡となって出現したりすることに基づく不具合である。その場合、その変色建材100は、透明状態又は不透明状態において、気泡が生じ、良好な変色性能を実現することができない。
【0007】
他の一つは、透明基板101、105で挟まれた空間内に貯留された溶液103が自重によって下降することに基づく不具合である。その場合、溶液103を挟んだ透明基板101、105の下部の間隔が上部の間隔よりも拡がり、透明基板101、105で挟持された溶液103の厚みが上部と下部とで異なったり、溶液103自体が相分離したりし、変色建材100は、透明状態又は不透明状態において、濃淡差が生じ、やはり良好な変色性能を実現することができないのである。
【0008】
また、従来の変色建材100では、別の不具合として、感温性高分子の溶液103を貯留する透明基板101、105と枠104とからなる封止部において、経時劣化又は取り扱い時のひずみ若しくは変形等によって、亀裂、穴開き、又は破損等の損傷が仮に生じた場合、溶液103が変色建材100の外部に漏出し、周辺の環境を損なうという不具合もあり得る。この場合、環境保全性が問題となる。
【0009】
さらに、従来の変色建材100では、製造コストの低廉化を実現する上で構成部材を削減することが困難であった。具体的には、その変色建材100では、流動性のある溶液103を用いていたため、その溶液103を貯留して保持するために、透明基板101、105と枠104とからなる空間が必須となっていた。その結果、従来の変色建材100では、変色室106を形成する構成部材の一つである透明基板102と併せて、少なくとも3枚の透明基板101、105、102が必要とされ、構成部材を削減することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、気泡や濃淡差の欠点の無い均一な透明状態又は不透明状態に基づく良好な変色性能を実現でき、感温性高分子が外部に漏出しないことによる環境保全性を有し、かつ製造コストを低廉可能な変色建材を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の変色建材は、無機ガラス製の第1透明基板と、該第1透明基板の表面に化学結合され、温度変化により変色する感温性高分子からなる変色層と、該変色層側で該第1透明基板と対面しつつ、該変色層の温度を変更するための流体を流通させる変色室を形成する第2透明基板とを備え、該変色室には該流体を取り入れるインレットポート及び該流体を吐出するアウトレットポートが形成されていることを特徴とする。
【0012】
第1発明の変色建材では、温度変化により変色する感温性高分子からなる変色層が無機ガラス製の第1透明基板の表面に化学結合されている。この化学結合は共重合や架橋等の微視的レベルのものである。このため、感温性高分子からなる変色層と第1透明基板との間に気泡が混入することがない。また、変色層には気体が溶存することがないため、気圧や温度の変化により第1透明基板の表面に気泡が出現することもない。このため、第1発明の変色建材は、感温性高分子の溶液が単に空間内に貯留されている場合と比較して、透明状態又は不透明状態において、気泡のない良好な変色性能を実現することができる。
【0013】
また、第1発明の変色建材では、感温性高分子からなる変色層が第1透明基板の表面に化学結合されているため、変色層が自重によって下降することがない。このため、第1透明基板に化学結合された変色層の厚みが上部と下部とで異なったり、変色層が相分離したりすることがない。このため、この変色建材は、感温性高分子の溶液が単に空間内に貯留されている場合と比較して、透明状態又は不透明状態において、濃淡差のない良好な変色性能を実現することができる。
【0014】
さらに、第1発明の変色建材では、感温性高分子からなる変色層が第1透明基板の表面に化学結合されているため、亀裂、穴開き、又は破損等の損傷が仮に生じた場合でも、変色層が変色建材の外部に漏出して周辺の環境を損なうことがない。このため、環境保全性を有する。
【0015】
その上、第1発明の変色建材では、感温性高分子からなる変色層が第1透明基板の表面に化学結合されているため、感温性高分子を貯留して保持するための空間が不要となっている。このため、従来の変色建材では必須であった感温性高分子の溶液を貯留する空間を構成するための部材の一つである透明基板を削減することが可能となる。
【0016】
したがって、第1発明の変色建材は、気泡や濃淡差の欠点の無い均一な透明状態又は不透明状態に基づく良好な変色性能を実現でき、感温性高分子が外部に漏出しないことによる環境保全性を有し、かつ製造コストを低廉可能である。
【0017】
第2発明の変色建材は、無機ガラス製の第1透明基板と、該第1透明基板と対面し、流体を流通させるための変色室を該第1透明基板とともに形成する無機ガラス製の第2透明基板と、該第1透明基板の該第2透明基板側の表面及び該第2透明基板の該第1透明基板側の表面に化学結合され、該流体の温度に基づく温度変化により変色する感温性高分子からなる変色層とを備え、該変色室には該流体を取り入れるインレットポート及び該流体を吐出するアウトレットポートが形成されていることを特徴とする。
【0018】
第2発明の変色建材では、温度変化により変色する感温性高分子からなる変色層が無機ガラス製の第1透明基板の第2透明基板側の表面及び無機ガラス製の第2透明基板の第1透明基板側の表面に化学結合されている。この化学結合は共重合や架橋等の微視的レベルのものである。
【0019】
したがって、第2発明の変色建材は、第1発明の変色建材と同様の理由により、気泡や濃淡差の欠点の無い均一な透明状態又は不透明状態に基づく良好な変色性能を実現でき、感温性高分子が外部に漏出しないことによる環境保全性を有し、かつ製造コストを低廉可能である。
【0020】
その上、第2発明の変色建材は、第1発明の変色建材と違って、変色室が感温性高分子からなる変色層で挟まれた構成となっているので、変色建材のどちら側から見ても同じ外観を呈する不透明状態となる変色性能を実現できる。
【0021】
第1、2発明の変色建材においては、感温性高分子はポリN−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)を用いたものとし得る。PNIPAAmは、第1透明基板又は第1透明基板及び第2透明基板の両方に化学結合されることにより、ゲル状態で固定化される。また、PNIPAAmのゲルの変色温度(転移温度)は約32°Cであるため、給湯器等の一般的な温水設備や水道設備等の一般的な冷水設備を用いて、変色建材を透明状態又は不透明状態に変更することが容易に実施できることから、設置コストやランニングコストを低廉化することが可能となる。
【0022】
また、PNIPAAmのゲルは、温度が変色温度より低い場合には、無色透明な状態を呈し、温度が変色温度より高い場合には、白濁して美感のよい白色状態を呈する。このため、第1、2発明の変色建材において、PNIPAAmを用いたものとすることにより、変色建材を無色透明状態にしたり、美感のよい白色状態にしたりすることを容易に実現できる。
【0023】
第1発明の変色建材は、第1透明基板とPNIPAAmとをビニル基、アミノ基又はチオール基をもつシランカップリング剤を介して化学結合することにより、製造され得る。この場合、無機ガラスである第1透明基板の表面において、シランカップリング剤のシラノール基が第1透明基板表面のOH基と酸塩基反応で化学結合するとともに、自己縮合によって高分子化する。一方、シランカップリング剤の官能基であるビニル基、アミノ基又はチオール基は、PNIPAAmと化学結合(共重合や架橋等)して強固に結合する。このため、第1透明基板とPNIPAAmとがシランカップリング剤を介して強固に化学結合することとなる。こうして得られた第1発明の変色建材は第1発明の作用効果をより確実に奏する。
【0024】
具体的には、第1発明の変色建材は、第1透明基板の表面をビニル基、アミノ基又はチオール基をもつシランカップリング剤によって表面処理し、処理済み第1透明基板とする第1工程と、N−イソプロピルアクリルアミドを含むモノマー溶液を処理済み第1透明基板の表面に介在させ、第1透明基板とPNIPAAmとを化学結合する第2工程とを備えた製造方法によって製造され得る。
【0025】
この場合、第1工程において、第1透明基板の表面に塗布されたシランカップリング剤のシラノール基が第1透明基板表面のOH基と酸塩基反応で化学結合するとともに、自己縮合によって高分子化する。その結果、第1透明基板は、表面がビニル基、アミノ基又はチオール基で修飾された処理済み第1透明基板とされる。
【0026】
次に、第2工程において、N−イソプロピルアクリルアミドを含むモノマー溶液は、処理済み第1透明基板の表面に介在することによって、処理済み第1透明基板と重合反応する。その際、処理済み第1透明基板の表面を修飾する官能基であるビニル基、アミノ基又はチオール基は、PNIPAAmと化学結合(共重合や架橋等)して強固に結合する。その結果、第1透明基板とPNIPAAmとがシランカップリング剤を介して強固に化学結合することとなる。モノマー溶液を処理済み第1透明基板の表面に介在する方法としては、処理済み第1透明基板の表面にモノマー溶液を塗布すること等を採用することができる。こうして得られた第1発明の変色建材は第1発明の作用効果をより確実に奏することとなる。
【0027】
第2発明の変色建材は、第1透明基板及び第2透明基板とPNIPAAmとをビニル基、アミノ基又はチオール基をもつシランカップリング剤を介して化学結合することにより、製造され得る。この場合、上述した第1発明の変色建材の製造方法との違いは第2透明基板にもPNIPAAmが化学結合されることだけであるので、第1発明の変色建材の製造方法と同様の理由により、第1透明基板及び第2透明基板とPNIPAAmとがシランカップリング剤を介して強固に化学結合することとなる。こうして得られた第2発明の変色建材は第2発明の作用効果をより確実に奏する。
【0028】
具体的には、第2発明の変色建材は、第1透明基板及び第2透明基板の表面をビニル基、アミノ基又はチオール基をもつシランカップリング剤によって表面処理し、処理済み第1透明基板及び処理済み第2透明基板とする第1工程と、N−イソプロピルアクリルアミドを含むモノマー溶液を処理済み第1透明基板と処理済み第2透明基板との間に介在させ、第1透明基板及び第2透明基板とPNIPAAmとを化学結合する第2工程とを備えた製造方法によって製造され得る。
【0029】
この場合、第1工程において、第1発明の変色建材の具体的な製造方法と同様の理由により、第1透明基板及び第2透明基板は、表面がビニル基、アミノ基又はチオール基で修飾された処理済み第1透明基板及び処理済み第2透明基板とされる。
【0030】
次に、第2工程において、第1発明の変色建材の具体的な製造方法と同様の理由により、第1透明基板及び第2透明基板とPNIPAAmとがシランカップリング剤を介して強固に化学結合することとなる。モノマー溶液を処理済み第1、2透明基板の表面に介在する方法としては、処理済み第1、2透明基板の表面にモノマー溶液を塗布すること、既に組み付けた処理済み第1、2透明基板間にモノマー溶液を充填すること等を採用することができる。こうして得られた第2発明の変色建材は第2発明の作用効果をより確実に奏することとなる。
【0031】
シランカップリング剤としては、次の一般式で表されるものを使用することができる(Xはハロゲン、Rは炭素を主体とするアルキル基である。)。
【0032】
(1)ビニル基を持つもの
・CH2=CH−R−Si−OCn2n+1(1≦n≦5)
・CH2=CH−R−Si−X
【0033】
(2)アミノ基をもつもの
・NH2−R−Si−OCn2n+1(1≦n≦5)
・NH2−R−Si−X
【0034】
(3)チオール基をもつもの
・HS−R−Si−OCn2n+1(1≦n≦5)
・HS−R−Si−X
【0035】
具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、pスチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γアミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γアミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γアミノプロピルトリエトキシシラン、γアミノプロピルトリメトキシシラン、γアミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0037】
実施例1の変色建材9では、図1(a)及び(b)に示すように、第1透明基板1と、第2透明基板2とが間隔を空けて対面状態とされ、かつ周囲を枠4で封止されている。第1透明基板1は無機ガラス製のものである。第2透明基板2は、変色建材9の機能を果たすのに支障がない材料からなるものであれば何でも良く、無機ガラス製のものに限定されない。
【0038】
第1透明基板1の第2透明基板2側の表面には、PNIPAAmのゲルからなる変色層3が化学結合されている。第1透明基板1の表面とPNIPAAmとを化学結合させる具体的方法については後述する。
【0039】
第1透明基板1と第2透明基板2との間の空間は、流体を流通させるための変色室6とされている。ここで、第1透明基板1の第2透明基板2側の表面に変色層3が化学結合されているので、変色室6の第1透明基板1側において、変色室6内を流通する流体が直接変色層3に接触する構成となっているが、変色層3は変色室6を流通する水や気体等の流体に溶け出すことはない。
【0040】
枠4には、変色室6と連通して、流体を取り入れるインレットポート7及び流体を吐出するアウトレットポート8が形成されている。
【0041】
次に、この変色建材9の製造方法について説明する。まず、以下の第1工程を行う。
【0042】
(1)図2(a)に示すように、第1透明基板1の表面1aはまだ何も処理されておらず、表面に付着物99がある状態である。この第1透明基板1の表面1aが水酸化ナトリウム(NaOH)溶液Dを用いて洗浄され、付着物99がすすぎ落とされる。その結果、図2(b)に示すように、第1透明基板1の表面1aは付着物がなく、OH基Aが反応可能な状態となる。
【0043】
(2)図2(b)に示す第1透明基板1の表面1aにシランカップリング剤Sとしてビニルエトキシシラン(CH2=CH−Si(OC253)が塗布される。その結果、図2(c)に示すように、ビニルメトキシシランSのシラノール基が第1透明基板1の表面1aのOH基Aと酸塩基反応で化学結合して化学結合部Bが形成されるとともに、自己縮合によって高分子化する。このため、第1透明基板1は、表面1aがビニル基Cで修飾された処理済み第1透明基板111とされる。
【0044】
次に、図1(a)及び(b)に示すように、第1工程で作製された処理済み済み第1透明基板111である第1透明基板1と、第2透明基板2とが間隔を空けて対面状態とされ、周囲を枠4で封止されて変色室6が形成される。そして、枠4には、変色室6と連通して、流体を取り入れるインレットポート7及び流体を吐出するアウトレットポート8が形成される。その結果、変色層3が第1透明基板1の表面にまだ形成されていない状態の変色建材9が作製される。
【0045】
この後、以下の第2工程を行う。
【0046】
(1)変色層3がまだ形成されていない状態の変色建材9において、変色室6内に第1水溶液が充填される。この第1水溶液は、水と、水1Lに対して50gの比率となる量のN−イソプロピルアクリルアミドNと、水1Lに対して0.1gの比率となる量のN,N’−メチレンビスアクリルアミドM0.1gとが調合されたものである。
【0047】
(2)第1水溶液1Lに対して1gの比率となる量のペルオキソニ硫酸アンモニウムPが第1水溶液に添加され、均一に分散される。こうして第2水溶液とされる。
【0048】
(3)さらに、第2水溶液1Lに対して0.5mlの比率となる量のN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンTが第2水溶液に添加され、均一に分散される。こうしてモノマー溶液とされる。
【0049】
(4)(3)の状態で約1時間放置すると、その間にN−イソプロピルアクリルアミドNを含むモノマー溶液が処理済み第1透明基板111の表面1aに介在した状態で、重合反応する。その結果、処理済み第1透明基板111の表面1aを修飾するビニル基Cと、PNIPAAmとが化学結合(共重合や架橋等)する。つまり、第1透明基板1と変色層3とがシランカップリング剤を介して強固に化学結合することとなる。こうして、第1透明基板1の表面1aに変色層3が約1mmの厚みで形成されることとなる。なお、(1)〜(4)においては、変色室6内に満たされたモノマー溶液中に気泡が残量しないように、注入、添加又は混合時に気泡を発生させないよう注意を払うことが望ましい。
【0050】
最後に、第2工程において重合反応が終わった後の余剰なモノマー溶液を変色室6内から除去する。この際、浄水を変色室6内に注入し、変色室6内を洗浄し、余剰なモノマー溶液をすすぎ落とす。こうして、第1透明基板1には化学結合した変色層3だけが残ることとなる。なお、変色室6を区画する他方側の第2透明基板2には、シランカップリング剤による処理がなされていないことから、変色層3が形成されない。
【0051】
その結果、この変色建材9は、図1(b)に示すように、第1透明基板1の第2透明基板2側の表面に変色層3が化学結合された変色建材9として完成することとなる。
【0052】
こうして製造された変色建材9は、インレットポート7から温水を変色室6内に入れることにより、変色層3の温度が変色温度(約32°C)を超える。このため、変色建材9は、PNIPPAmが凝集し、美感のよい白色の不透明状態に変わる。逆に、インレットポート7から冷水を変色室6内に入れることにより、変色層3の温度が変色温度(約32°C)を下回る。このため、変色建材9は、PNIPPAmの凝集が解け、透明状態に変わる。
【0053】
このため、この変色建材9を例えば浴室等の仕切り壁に用いた場合、プライバシーの確保と開放感とを必要に応じて供与できるのである。
【0054】
ここで、この変色建材9では、温度変化により変色する変色層3が無機ガラス製の第1透明基板1の表面1aに化学結合されている。この化学結合は共重合や架橋等の微視的レベルのものである。このため、変色層3と第1透明基板1の表面1aとの間に気泡が混入することがない。また、変色層3には気体が溶存することがないため、気圧や温度の変化により第1透明基板1の表面に気泡が出現することもない。このため、この変色建材9は、透明状態又は不透明状態において、気泡のない良好な変色性能を実現することができている。
【0055】
また、この変色建材9では、第1透明基板1の表面1aに変色層3が化学結合しているため、変色層3が自重によって落下することがない。このため、第1透明基板1に化学結合された変色層3の厚みが上部と下部とで異なったり、変色層3自体が相分離したりすることがない。このため、この変色建材9は、透明状態又は不透明状態において、濃淡差のない良好な変色性能を実現することができている。
【0056】
さらに、この変色建材9では、変色層3が第1透明基板1の表面1aに化学結合されているため、枠4等に損傷が仮に生じた場合でも、変色層3が変色建材9の外部に漏出して周辺の環境を損なうことがない。このため、環境保全性を有している。
【0057】
その上、この変色建材9では、変色層3が第1透明基板1の表面に化学結合されているため、PNIPPAmを貯留して保持するための空間が不要となっている。このため、従来の変色建材100では必須であった空間を構成するための部材の一つである透明基板(図4の105)を削減することが可能となっている。
【0058】
したがって、この変色建材9は、気泡や濃淡差の欠点の無い均一な透明状態又は不透明状態に基づく良好な変色性能を実現でき、PNIPPAmのゲルが外部に漏出しないことによる環境保全性を有し、かつ製造コストを低廉可能となっているのである。
【0059】
また、この変色建材9においては、感温性高分子がPNIPAAmであるため、給湯器等の一般的な温水設備や水道設備等の一般的な冷水設備を用いて、透明状態又は不透明状態に変更することが容易に実施できる。このため、設置コストやランニングコストを低廉化することが可能となっている。
【0060】
また、PNIPAAmのゲルは、温度に応じて無色透明な状態と美感のよい白色状態とを呈するため、この変色建材9は、無色透明状態にしたり、美感のよい白色状態にしたりすることを容易に実現できている。
【0061】
なお、実施例1では、第1工程と第2工程の間において、変色建材9を先に組み立てているが、この手順に制約されるものではない。例えば、第1透明基板1単独で第1工程及び第2工程を実施した後、変色建材9を組み立てる手順としてもかまわない。
【0062】
また、この変色建材9によって実現できている気泡のない良好な変色性能を十分に機能させるためには、変色室6に取り入れる水に気泡が混入して変色室6に気泡が残留することがないよう、変色室6への水の取り入れ方法を適正に実施することが望ましい。
【実施例2】
【0063】
実施例2の変色建材91では、図3(a)及び(b)に示すように、第1透明基板11と、第2透明基板21とが間隔を空けて対面状態とされ、かつ周囲を枠41で封止されている。第1透明基板11及び第2透明基板21は無機ガラス製である。
【0064】
第1透明基板11の第2透明基板2側の表面には、PNIPPAmのゲルからなる変色層31aが化学結合されている。また、第2透明基板21の第1透明基板11側の表面にもPNIPPAmのゲルからなる変色層31bが化学結合されている。変色室61、インレットポート71、アウトレットポート81等の上記以外の構成については、実施例1と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0065】
次に、この変色建材91の製造方法について説明する。実施例1で説明した製造方法との違いは、第2透明基板21についても第1透明基板11と同様の処理を実施し、第2透明基板21とPNIPAAmとを化学結合させることである。そのため、第1透明基板11と変色層31aとがシランカップリング剤を介して強固に化学結合するとともに、第2透明基板21と変色層31bとがシランカップリング剤を介して強固に化学結合することとなる。こうして、第1透明基板11及び第2透明基板21のそれぞれの表面に変色層31a、31bが約1mmの厚みで形成されることとなる。
【0066】
こうして製造された変色建材91は、実施例1に対して、第2透明基板21にも感温性高分子が化学結合されている点が違っているだけなので、当然に実施例1と同様の作用効果を奏することができる。その上、変色建材91は、変色室61が変色層31a、31bで挟まれた構成となっているので、どちら側から見ても同じ外観を呈する不透明状態となる変色性能を実現できているのである。
【0067】
なお、実施例1、2の変色建材1、91は、面域の全面が透明状態又は不透明状態に変わることが必須ではない。例えば、変色室9、61を部分的に又はパターン状に配置することによって、変色建材9、91の一部が透明と不透明状態とに切り替わるようにすることができる他、模様や文字が浮かび上がるようにすることも可能である。
【0068】
また、実施例1、2の変色建材1、91はPNIPAAmを用いたものであるが、温度に応じて透明状態又は不透明状態に変わる感温性の変色材料であって、無機ガラス表面に化学結合させることができるものであれば、どのようなものを用いてもかまわない。
【0069】
さらに、本発明においては、実施例1、2の変色建材9、91によって示された単なる平板形状だけでなく、曲面や立体形状等様々な形状を取り得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は変色建材、例えば浴室等の仕切り壁に用いられる変色建材に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1の変色建材に係り、(a)はその斜視図であり、(b)はその断面図である。
【図2】実施例1の変色建材に係り、(a)〜(d)はその製造工程の一工程を示す構造図である。
【図3】実施例2の変色建材に係り、(a)はその斜視図であり、(b)はその断面図である
【図4】従来の変色建材に係り、(a)はその斜視図であり、(b)はその断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1、11…第1透明基板
2、21…第2透明基板
3、31a、31b…変色層
6、61…変色室
7、71…インレットポート
8、81…アウトレットポート
9、91…変色建材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ガラス製の第1透明基板と、
該第1透明基板の表面に化学結合され、温度変化により変色する感温性高分子からなる変色層と、
該変色層側で該第1透明基板と対面しつつ、該変色層の温度を変更するための流体を流通させる変色室を形成する第2透明基板とを備え、
該変色室には該流体を取り入れるインレットポート及び該流体を吐出するアウトレットポートが形成されていることを特徴とする変色建材。
【請求項2】
無機ガラス製の第1透明基板と、
該第1透明基板と対面し、流体を流通させるための変色室を該第1透明基板とともに形成する無機ガラス製の第2透明基板と、
該第1透明基板の該第2透明基板側の表面及び該第2透明基板の該第1透明基板側の表面に化学結合され、該流体の温度に基づく温度変化により変色する感温性高分子からなる変色層とを備え、
該変色室には該流体を取り入れるインレットポート及び該流体を吐出するアウトレットポートが形成されていることを特徴とする変色建材。
【請求項3】
前記感温性高分子はポリN−イソプロピルアクリルアミドであることを特徴とする請求項1又は2記載の変色建材。
【請求項4】
前記第1透明基板とポリN−イソプロピルアクリルアミドとをビニル基、アミノ基又はチオール基をもつシランカップリング剤を介して化学結合し、請求項1記載の変色建材を製造することを特徴とする変色建材の製造方法。
【請求項5】
前記第1透明基板の表面をビニル基、アミノ基又はチオール基をもつシランカップリング剤によって表面処理し、処理済み第1透明基板とする第1工程と、
N−イソプロピルアクリルアミドを含むモノマー溶液を該処理済み第1透明基板の表面に介在させ、該第1透明基板とポリN−イソプロピルアクリルアミドとを化学結合する第2工程とを備えていることを特徴とする請求項4記載の変色建材の製造方法。
【請求項6】
前記第1透明基板及び前記第2透明基板とポリN−イソプロピルアクリルアミドとをビニル基、アミノ基又はチオール基をもつシランカップリング剤を介して化学結合し、請求項2記載の変色建材を製造することを特徴とする変色建材の製造方法。
【請求項7】
前記第1透明基板及び前記第2透明基板の表面をビニル基、アミノ基又はチオール基をもつシランカップリング剤によって表面処理し、処理済み第1透明基板及び処理済み第2透明基板とする第1工程と、
N−イソプロピルアクリルアミドを含むモノマー溶液を該処理済み第1透明基板と該処理済み第2透明基板との間に介在させ、該第1透明基板及び該第2透明基板とポリN−イソプロピルアクリルアミドとを化学結合する第2工程とを備えていることを特徴とする請求項6記載の変色建材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−57293(P2006−57293A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238862(P2004−238862)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】