説明

変調後方散乱システムにおける範囲拡大用RFIDリピータ

タグ回路を有するタグと、タグにコマンド信号を送信するリーダーとを含む後方散乱タグシステムは、タグを活性化するために、及びタグ回路を動作させるエネルギーと、タグによって後方散乱信号を放射するエネルギーとを提供するためにタグにエネルギー信号を送信する給電ノードを含む。給電ノードは、受信コマンド信号を提供するためにリーダーからコマンド信号を受信する給電レシーバと、受信コマンド信号をリーダーからタグに送信する給電トランスミッタとを含む。給電ノードは、エネルギー信号と受信コマンド信号の両方をタグに送信する。給電トランスミッタは、正弦波信号、周波数ホッピング信号、スペクトル拡散信号、または周波数シフト信号をタグに送信することができる。後方散乱タグ回路はプロセッサを含みうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後方散乱タグの分野に関し、特に、後方散乱タグと通信するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本PCT出願は、米国特許法第120条に基づいて、「変調後方散乱システムにおける範囲拡大用RFIDリピータ(RFID REPEATER FOR RANGE EXTENSION IN MODULATED BACKSCATTER SYSTEMS)」と題する2009年8月27日に出願された特許出願第12/548,993号の利益を主張するものであり、この明細書は、さらに、米国特許法第119条(e)に基づいて、やはり「変調後方散乱システムにおける範囲拡大用RFIDリピータ(RFID REPEATER FOR RANGE EXTENSION IN MODULATED BACKSCATTER SYSTEMS)」と題する2008年9月3日に出願された仮出願第61/190,791号の利益を主張するものであって、これらの開示全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0003】
変調後方散乱を用いるRFIDシステムでは、リーダーが無線周波数(RF)信号を送信し、タグがRF信号を電子的に反射する。バッテリレスタグ、すなわち、受動タグは、タグ回路を起動するのに必要なエネルギーをリーダーからの受信RF信号から受け取るが、バッテリ駆動タグ、すなわち、半受動タグは、バッテリを使用してタグ回路を活性化することができる。タグがリーダーによって放射される信号から給電される受動タグの場合、タグの出力を上げるのに要する受信電力閾値に限界があるために、リーダーからタグへのダウンリンクは典型的にリンクバジェットにおける障害である。タグ回路への給電にバッテリを使用することによって、半受動タグはこのダウンリンク障害を緩和して範囲を大幅に拡大する。変調後方散乱システムでは、受動タグ、または半受動タグのいずれか、またはこれらの組合せを用いてもよい。
【0004】
いずれにしても、変調後方散乱ベースのRFIDシステムでは、タグはリーダーから受信した信号を電子的に反射すると同時に後方散乱信号をタグに格納されたデータで変調する。さらに、変調後方散乱を他の散乱体からのリーダー信号の非変調反射から分離するために、タグは反射信号の周波数をシフトしてもよい。さらに、処理過程(business process)のある段階でリーダーは新しいデータをタグに書き込んでもよく、新しいデータは処理過程の後の段階でリーダーによって読み出されてもよい。
【0005】
リーダーからタグへのダウンリンクは、RFIDシステムの障害となることが多い。したがって、受動タグの場合、受信信号はタグを活性化するほど十分に強力でなければならない。半受動タグ(または、長期間エネルギーを蓄えることができる受動タグ)は、タグレシーバ回路を活性化するためにリーダーからの受信信号を使用しなくてもよい。しかし、タグがリーダーによって変調後方散乱を実施するよう命令されたときにのみこれを実施する標準RFIDプロトコルの場合、受信信号強度はリーダーのコマンドの確実な復調に必要な閾値をやはり超えなければならない。
【0006】
従来のRFIDシステムでは、受信信号強度がリーダーのコマンドの確実な復調に必要な閾値を超えることが困難な状況が多い。たとえば、湿気(たとえば、低温流通体系用途での生産用)、液体(たとえば、薬学的用途)、または金属(たとえば、倉庫用途)の存在がリンクの障害となる近距離の用途では困難である。また、遠距離の屋外用途(たとえば、操車場のトレーラーあるいは自動車販売特約店の乗用車の位置追尾)でも困難である。
【0007】
多くの既存のRFID通信プロトコルは、一度にリーダーと通信するタグを1つしかサポートすることができない。リーダーの通信範囲内で複数のタグからの同時送信は、典型的に、後方散乱信号の衝突をもたらす。衝突は、衝突解決アルゴリズムまたは多元接続性アルゴリズムを用いて解決されなければならず、その典型的な目的はタグが最終的に1つずつリーダーに確実に送信することである。受動タグを用いるRFIDシステムの範囲は、典型的に、タグを活性化可能なリーダーからタグへのダウンリンクによって決定される。
【0008】
しかし、RFエネルギーまたは他のエネルギー源から集められるエネルギーのいずれかを蓄えることができる受動タグを使用するときは、リーダーからのダウンリンク信号がリーダーとタグとの通信中にタグに給電するためだけのエネルギー源でない可能性がある。この場合、通信システムの障害はアップリンクになりうる。アップリンクのリンクバジェットは、リーダーからタグまでの往復の伝播損失から成るはずである。自由空間では、この損失は、1/Rに比例し、ここで、Rはリーダーとタグの間の距離を示す。同様に、半受動タグの場合、ダウンリンクのリンクバジェットではタグ回路がリーダー信号を検出できればよいだけでタグは給電される必要がないので、アップリンクが障害になりうる。
【0009】
誘導系システムでは電力を伝送することが広く知られている。たとえば、パートビィ(Partovi)によって2008年5月7日に出願された米国特許公開第2009/0096413号には、誘導充電システムにおける可変電力伝送に関するシステムが開示されている。パートビィのシステムでは、タグ、携帯電話、MP3プレイヤー、ラジオ、およびその他の種類の携帯機器を再充電するために複数のレシーバ/給電コイルが使用されている。さらに、RFIDリーダーは従来方式でRFIDタグを検出する。しかし、パートビィはリピータとしての給電の2つの用途を開示していない。
【0010】
ベイリー(Bailey)によって2007年9月27日に出願された米国特許公開第2008/0082360号には、在庫モニタリングおよび制御システムが開示されており、ここでは調剤済みの製品在庫量を決定するために調剤前後の品目の重量が測定される。ベイリーによって教示されるシステムでは、給電コイルがリーダーによって後で読み出されるRFIDタグを活性化する。しかし、ベイリーの給電コイルもリピータとして動作しない。
【0011】
ユング(Jung)によって2006年4月28日に出願された米国特許公開第2007/0224938号には、RFIDタグを活性化して読み出す給電器、復調器、および復号回路を含むリーダー/給電器を有する車両制御システムが教示されている。
【0012】
さらに、フリッペン(Flippen)によって2005年11月25日に出願された米国特許公開第2007/0120683号には、埋め込み型医療用電子機器が開示されている。Flippenによって開示された埋め込み型機器では、埋め込み型医療用電子機器内のトランスポンダは誘導回路を含む。誘導回路は遠隔ハンド・ヘルド・リーダーによって活性化される。それゆえ、フリッペンによって教示された埋め込み型機器は、リーダー/給電装置によって活性化と読み出しの両方が行われてもよい。
【0013】
ベーグル(Beigel)に付与された米国特許第4,333,072号には、RFIDタグへの電力が交番磁界から得られる誘導結合されたRFIDシステムが記載されている。磁界は、タグアンテナに誘導結合されたリーダー/給電器で発生し、アンテナ内の整流器によって整流される。得られる直流電荷はタグ内のコンデンサに蓄えられる。
【0014】
タルティー(Talty)によって2006年8月31に出願された米国特許第7,551,070号には、所定領域に複数の給電器を含む無線検出システムが開示されている。給電器は、タグを再充電するためにRFエネルギーをタグに送る。さらに、給電器/リーダーはタグに問い合わせる。また、米国特許第6,172,609号、米国特許第7,018,361号および米国特許第7,348,884号では、先行技術の給電器/リーダーも教示されている。
【0015】
しかし、前述の参考文献のいずれも給電器がリピータとしての機能も果たすことのできるタグシステムを開示していない。
本明細書で引用されるすべての参考文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
コマンド信号を少なくとも1つのタグに送信するタグ回路およびリーダーを有する少なくとも1つのタグを含む後方散乱タグシステムが、少なくとも1つのタグを活性化し、タグ回路を動作させて少なくとも1つのタグによって後方散乱信号を放射するエネルギーを提供するために、少なくとも1つのタグにエネルギー信号を送信する給電ノードを含む。給電ノードは、受信コマンド信号を提供するためにリーダーからコマンド信号を受信する給電レシーバと、リーダーから少なくとも1つのタグに受信コマンド信号を送信するための給電トランスミッタとを含む。給電ノードは、エネルギー信号および受信コマンド信号の両方を少なくとも1つのタグに送信する。給電トランスミッタは、正弦波信号、周波数ホッピング信号、スペクトル拡散信号、または周波数シフト信号を少なくとも1つのタグに送信することができる。後方散乱タグ回路はプロセッサを含みうる。
【0017】
少なくとも1つのタグは、リーダーからのコマンド信号とは独立に後方散乱信号を放射する開ループモードで動作しうる。少なくとも1つのタグは、リーダーからのコマンドに従って後方散乱信号を放射する閉ループモードで動作しうる。少なくとも1つのタグは、所定のリーダープロトコルに従ってリーダーに応答しうる。給電レシーバおよび給電トランスミッタは、異なる周波数帯で動作しうる。給電ノードはバッテリを含みうる。
【0018】
後方散乱タグシステムは、後方散乱信号間に確定性間隔を有する複数の後方散乱信号を含みうる。後方散乱タグシステムは、後方散乱信号間にランダム間隔を有する複数の後方散乱信号を含みうる。少なくとも1つのタグはマルチモードタグでありうるし、マルチモードタグはリーダーからのコマンド信号に従ってあるモードから別のモードに変化しうる。あるモードから別のモードに変化するためのマルチモードタグに対するリーダーからのコマンド信号は、給電ノードを経由してリーダーからマルチモードタグに送信されうる。リーダーからのコマンド信号は、その動作周波数を変更するためのマルチモードタグに対するコマンドでありうる。少なくとも1つのノードはオンモードおよびオフモードを含みうるし、リーダーからのコマンド信号はマルチモードタグをオフにするためのコマンドを含みうる。
【0019】
後方散乱タグシステムは、それぞれの給電ノード周波数で動作する複数のタグおよび複数の給電ノードを含むことができ、複数のタグの干渉を制御するためにリーダーはそれぞれの給電ノード周波数の周波数を同期させる。後方散乱タグシステムは、それぞれの給電ノード・タイミングを有する複数のタグおよび複数の給電ノードを含むことができ、複数のタグの干渉を制御するためにリーダーは複数の給電ノードのタイミングを同期させる。
【0020】
変調後方散乱を用いるRFIDシステムの範囲は、リーダーがタグを活性化する必要があるために、あるいはタグが応答前にリーダーからのコマンドを復号することができなければならないために、リーダーからタグへのダウンリンクによって制限されることが多い。本発明は、このダウンリンク障害を克服して、このようなシステムの動作範囲を拡大する方法を含む。開ループのアプローチにおいて、タグは、標準動作に加えて、あるいは標準動作に代わるモードとして動作しうる。タグがこのモードで動作するとき、タグはリーダーからの明確なコマンドを復号せずに変調後方散乱を間欠的に使用することができる。
【0021】
後方散乱される無線周波数(Radio Frequency:RF)信号は、従来のリーダーにて生成してもよく、リーダーの機能よりも実質的に簡単でありうる機能を有する給電ノードにて生成してもよい。給電ノードは、タグに給電するために、正弦波トーンを場合によっては周波数ホッピングで送信してもよい。このように使用される給電器は励振器とも呼ばれうる。タグは、リーダーノードまたは給電ノード、および/またはバッテリによって放射されるRF信号からその回路を動作させるエネルギーを受け取るかもしれず、タグは受信RF信号から受け取られたエネルギーを蓄える機能を有するかもしれず、あるいは有しないかもしれない。このような給電ノードによって活性化されるタグ内の回路は、当業者に公知のいかなるタグ回路でもありうる。
【0022】
変調後方散乱信号間の間隔は、確定的または(疑似)ランダムであってもよく、変調後方散乱信号間のランダム間隔は、タグが開ループモードで動作するときに起りうる複数タグ間の衝突を抑制することができる。また、多元接続性を強化すること、およびシステムの範囲を拡大することの少なくとも1方のために、タグには、後方散乱と同時に直接系列や周波数ホッピングなどのスペクトル拡散技術が使用されてもよい。
【0023】
タグはマルチモードタグであってもよい。マルチモードタグの例は、プロトコルに従ってリーダーコマンドに応答する標準モードと開ループモードとを切り替えることができるタグである。たとえば、開ループモードは、リンクバジェットが標準プロトコルを実施するのに十分でないときに開始されてもよい。閉ループのアプローチにおいて、給電ノードは、ある周波数帯でリーダーから信号を受信して、RFID帯などの別の周波数帯で該信号を再送信することができる。それゆえ、給電器は、リーダー信号を繰り返すリピータとして動作する一方で、タグを活性化する給電器または励振器としても動作しうる。このような二重目的の給電器は、給電器/リピータまたは励振器/リピータとも呼ばれうる。信号が給電器/リピータによって送信された時点で、給電器/リピータはタグに給電し続けるために正弦波を送信し続けることができる。タグからの後方散乱信号は、リーダーによって復号されうる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のシステムおよび方法での使用に適した閉ループ・給電ノード・アーキテクチャを示す。
【図2】本発明のシステムおよび方法での使用に適した複数の給電ノードを含むマルチ・給電ノード・アーキテクチャを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
タグからの変調後方散乱用開ループモード
タグは、リーダーに対するコマンドを復号せずに開ループで動作してもよい。タグは、たとえば、その送信アンテナのインピーダンスを切り替えて変調後方散乱を実施することによって、その同一性、それに取り付けられたセンサーの読取り値、またはその他の関連情報などのタグの情報を間欠的に送信することができる。後方散乱事象間の時間は、後方散乱事象タイマーに基づいて選定されてもよく、タグ回路(あるいは、むしろタグ回路の大部分)は一連の後方散乱事象間で休止されてもよい。後方散乱事象間の時間は、等しくてもよく、または無作為に選定されてもよい。
【0026】
一実施形態において、タグは、タグに作用するRF信号があるかどうかを知っている必要はない。タグに作用するRF信号がなければ、後方散乱事象はタグからのRF信号の放射につながらない可能性がある。タグは、その後方散乱事象タイマーに基づいて変調後方散乱を試みるためにそのインピーダンスを簡単に切り替えることができ、その成功はタグに作用するRF信号が実際にあるか否かによって決まる。別の実施形態において、後方散乱事象タイマーが切れると、タグレシーバ回路が変調後方散乱を試みる前にRF信号の存在を検出しようとする可能性がある。この場合、RF信号が検出されなければ、タグは後方散乱事象タイマーをリセットした後で休止状態に戻る可能性がある。
【0027】
マルチモードタグ動作
タグは、その動作環境またはリーダーからのコマンドに応じて複数のモードで動作してもよく、リーダーからタグへのその動作モードの変更指示は直接リーダーからタグに、あるいは給電器/リピータノードを経由してリーダーからタグに送信されうる。たとえば、タグは、リーダーからの信号を復調することができる場合、リーダーとの双方向通信に頼る従来のRFIDプロトコルを実施してもよい。しかし、タグがリーダーからの信号に応じなければ、タグは前述の開ループモードで動作することができる。これは、リーダーからの受信信号強度がリーダーによって送信されたコマンドをタグが復号するのに必要な閾値を超えない限り、送信しているリーダーが近くにあるときでも起きることがある。
【0028】
リーダーとの双方向通信が実行可能であるとき、リーダーはタグを再プログラムしてその動作モードを変更してもよい。たとえば、リーダーは、開ループまたは閉ループのいずれかのモードで動作させるために、開ループモードのオン/オフを切り替えてもよい。さらに、リーダーは、後方散乱事象タイマーの特性を変更してもよい。たとえば、リーダーは、後方散乱事象間の平均時間を増減してもよく、これを一定時間間隔から可変またはランダム時間間隔に切り替えてもよい。
【0029】
周波数のタグ多元接続性
タグのデータを後方散乱信号で変調することに加えて、変調後方散乱を実施するタグはまた、タグに作用するRF信号の周波数シフトを実施してもよい。これは、たとえば、周波数が所望の周波数シフトに等しいより急速に変化している方形波を後方散乱されているベースバンドデータに乗じることによって達成されうる。開ループモードにおいて、タグは周波数シフトを無作為に選定してもよい。たとえば、タグは、そのIDまたはデータの疑似ランダム数発生器、または確定関数を使用してもよい。これによって複数タグからの後方散乱信号間の衝突確率が低くなり、このことはタグが開ループモード(この場合、リーダーによる仲介を衝突解決の実現のために使用することができない)で動作しているときに特に有益である。タグによって実施される周波数シフトは、タグの様々な後方散乱事象によって変化してもよい。また、周波数シフトは、周波数ホップシステムを実現するための単一後方散乱事象の期間中に変化してもよい。代替実施形態において、周波数シフトは、直接または給電器/リピータノード経由のいずれかでリーダーによって制御されうる。
【0030】
給電器ノード−開ループ
本格的なリーダーの使用に加えて、開ループモードにおけるタグの動作は、比較的簡単な給電器ノードによってサポートまたは制御されうる。比較的簡単な給電器ノードは、その範囲内でタグを活性化するRF信号を提供しうる。このような給電器ノードは、フェーディングに対するロバスト性を備え、かつスペクトル利用の規制ガイドライン適合するように、タグを活性化する非変調正弦波搬送波、場合によっては周波数ホッピング信号を活性化する非変調正弦波搬送波を放射するだけでよい。給電ノードは、その機能が非常に簡単であることを考えれば、かかる費用が従来のリーダーよりも格段に安くなりうる。このような状況の下で、給電ノードは、タグ通信システム内のリーダーよりも密に配置されうる。したがって、給電ノードは、より複雑でかつ高価なリーダーを用いてできる以上に、より多くのタグのより近くに設置されうる。給電ノードをタグの近くに配置することによって、給電ノードからタグまでの伝播損失を小さくすることができ、これによって、システムのリンクバジェット全体が大幅に改善される。
【0031】
給電ノードによって活性化されるタグからの後方散乱信号は、リーダーノードまたはタグシステムに追加または結合されるアップリケ(appliques)によって復調されうる。給電ザノードは、これらに一部または全部のアップリケまたはリーダー機能が組み込まれていてもよく、あるいは組み込まれていなくてもよい。複数の協調性のない給電ノードが同時に動作している場合、変調後方散乱を実施するタグは、後方散乱信号を複数の周波数で反射する可能性がある。後方散乱信号を受信するレシーバは、タグによって送信される格納データのより適正な推定値を得るために種々の周波数の信号を結合することができる。
【0032】
給電ノードは、リーダーノードなどのより有能なノードによって連携されうる。たとえば、リーダーは、給電ノードをオンまたはオフにするコマンドを出してもよい。従来のRFIDプロトコルが実施されている場合にタグおよびリーダーレシーバでの干渉を回避するために、たとえば、給電ノードをオフにすることが好都合でありうる。あるいは、リーダーは、種々のホッピングパターンを給電ノードに割り当てることによって給電ノードに様々な周波数で動作するよう指示してもよい。従来のリーダーと給電器の間の低コストの通信手段は、タグを給電ノードに付与すること、またはタグ機能を給電ノードの中に組み込むことである。従来のリーダーは、この後、従来のPFIDプロトコルで提供されるコマンドを利用することによって給電ノードを制御することができる。
【0033】
また、リーダーから給電ノードへの通信は、給電ノードを同期させるために使用されてもよい。たとえば、リーダーは、一定周波数において、一定周波数ホッピングパターンで、一定時間に送信を開始するよう給電ノードのグループに命令してもよい。このように同期された給電ノードからの信号は、種々のタグで時を異にして建設的もしくは破壊的に干渉しうる。しかし、このように生成された最終的な搬送波信号は、単一給電ノードによって生成される信号よりも平均電力が強力でありうる。
【0034】
給電ノード−閉ループ
閉ループ動作において、タグは、後方散乱信号に対応する前にリーダーからのコマンドを待つことができる。しかし、開ループ動作で用いられうる給電ノードの概念は、閉ループ動作においても使用されうる。閉ループ動作において、給電器は、リーダーコマンドを受信してこのリーダーコマンドをタグに再送信することができる。このリピータ機能を実現するために、リーダーの帯域とは別のリーダーからリピータ/励振器通信制御までの帯域が使用されうる。たとえば、2.4GHz帯などの帯域は、リーダーからリピータ/励振器通信制御までの帯域に使用されうる。コマンドは、この後、たとえば、RFID帯で再送信されうる。閉ループ給電器/リピータ・ノード・アーキテクチャ10の可能な実施形態のブロック図が図1に示される。
【0035】
図1に示される閉ループ給電/リピータ・ノード・アーキテクチャ10は、リーダーまたは別の給電器または給電/リピータノードからリーダー制御信号を受信する2.4GHzアンテナ12を含む。閉ループ給電/リピータ・ノード・アーキテクチャ10内のアンテナ12は、リーダーから受信された信号を2.4GHzレシーバ14に印加することができる。レシーバ14からの信号は、処理のために給電/リピータ・ノード・アーキテクチャ10のプロセッサ20に印加されうる。プロセッサ20からの信号は、900MHzトランスミッタ16または別のタイプのトランスミッタに印加されうる。それゆえ、プロセッサ20は、活性化信号だけでなく給電/リピータ・ノード・アーキテクチャ10によって、再送信用の信号を提供することができる。900MHzトランスミッタ16の出力は、アンプ18によって増幅される。アンプ18の出力は、900MHzアンテナ22によってタグに再送信されうる。バッテリ24は、任意的に給電/リピータ・ノード・アーキテクチャ10内にある。
【0036】
図2は、マルチ・給電・ノード・システム・アーキテクチャ30のブロック図を表したものを示す。マルチ・給電・ノード・システム・アーキテクチャ30は、本発明のシステムおよび方法に従って、リーダー34およびアップリケ36、給電ノード38a〜iまたは励振器ノード38a〜i、ならびに任意数のタグ44を含みうる。マルチ・給電・ノード・システム・アーキテクチャ30は、簡単にするために、図には各々の1つのみが示されているが、任意数のリーダー34またはアップリケ36を含みうることは理解されよう。
【0037】
さらに、システム・アーキテクチャ30は、任意数の給電ノード38a〜i、任意数のタグ44、またはタグ後方散乱通信システムの当業者によって公知の他のデバイスを含みうる。任意数の給電ノード38a〜iは、閉ループ給電/リピータ・ノード・アーキテクチャ10と実質的に同等でありうる。残るノード38i〜nのいずれも、当業者に公知の他のタイプの給電ノード・アーキテクチャまたは励振器ノード・アーキテクチャでありうる。給電ノード38a〜iはマルチ・給電ノード・システム・アーキテクチャ30の好ましい実施形態においてタグ44の母集団の近くに設置されるが、システム・アーキテクチャ30の素子は都合の良い任意の位置に配置されうる。
【0038】
タグ44は、マルチ・給電ノード・システム・アーキテクチャ30が開ループモードで動作しているとき給電ノード38a〜iによって放射される信号を反射しうる。たとえば、励振器ノード38dから信号経路42dを経由して送信される正弦波は、信号経路42c,eを経由してタグ44によって変調後方散乱信号としてリーダー34またはアップリケ36に反射されうる。さらに、デバイス34、36は、給電/リピータノード38a〜iを経由せずに、たとえば、信号経路42bによって示されるように、タグ44と直接通信しうる。
【0039】
このようにタグ44によって送信される変調後方散乱信号は、リーダー34またはアップリケ36によって、あるいは他の任意のリーダーノードまたはアップリケノードによって復調されうる。さらに、復調信号は、タグ44の識別およびタグ44に付与されてもよい任意の資源の状態などの情報を得るためだけでなく、タグ44の位置を推定するために使用されてもよい。たとえば、タグ44からの変調後方散乱信号に含まれる情報は、低温流通体系用途における温度センサーなど、温度センサーからの読み出し情報を含みうる。別の実施形態において、変調後方散乱信号内の情報は、生産用途における一部の状態を表わしうる。
【0040】
直接系列拡散スペクトル
システム・アーキテクチャ30内のタグ44によって送信される変調後方散乱信号は、良好な自己相関特性を有するように、すなわち、それ自体のシフトと小さい正規化相関を有するように選択されたシンボル系列でありうる。さらに、システム・アーキテクチャ30内の種々のタグ44によって送信されるシンボル系列は、互いに良好な相互相関特性を有するように、すなわち、互いに小さい正規化相関を有するように選定されうる。
【0041】
タグ44のタグ識別番号は、当業者に公知の何らかの方法でシンボル系列に符号化されてもよい。たとえば、シンボル系列は、直接系列スペクトル拡散波形の形を取るように選定されてもよく、直接系列スペクトル拡散波形の形では、良好な自己相関および相互相関特性を有するチップ系列、または拡散系列が情報を伝達するデータ系列によって比較的遅い速度で変調される。タグ識別は、タグ44からリーダー34などのリーダーに送られる他の情報と同様に、拡散系列の選定において符号化されてもよい。あるいは、タグ識別は、データ変調、拡散系列、またはこれらの組合せで符号化されてもよい。
【0042】
後方散乱信号の拡散系列の時間がデータ記号の時間と一致する場合、この拡散系列は短い拡散系列と呼ばれる。拡散系列が非周期的であるか、またはデータ記号の時間よりも著しく大きい時間を有する場合、この拡散系列は長い拡散系列と呼ばれる。単一データ記号の時間に対応する記号、またはチップの数は、処理利得と呼ばれる。
【0043】
範囲拡大
リーダーノード34、またはアップリケノード36は、システム・アーキテクチャ30内でタグ44によって使用される可能性のある拡散系列に対してタグ44から受信された信号と相互に関連付けることができる。拡散系列全体にわたって積分すると、受信信号の信号対ノイズ比が増加してデータ復調の信頼性が向上する。それゆえ、処理利得を十分に大きく選定することによって、リーダーとタグの間の信頼性の高い通信の範囲を広げることが可能である。1/Rの伝播損失を仮定すると、たとえば、256の処理利得は、範囲Rに4倍の増加をもたらすことができる。1/Rの伝播損失を仮定すると、256の処理利得は、範囲Rに16倍の増加をもたらすことができる。
【0044】
符号分割多元接続性(Code Division Multiple Access:CDMA)
また、スペクトル拡散を使用すると、その時点で複数のタグ44をリーダー34と確実に通信させて、符号分割多元接続性(CDMA)システムを構成しうる。この場合、リーダー34は、標準CDMA受信技術を用いて複数のタグ44を復号できるレシーバを装備している。1つの標準CDMA技術は、システム・アーキテクチャ30内で復調されているタグ44のすべての可能な拡散系列に対して受信信号を関連付けることを含む。相関器の出力は、種々の拡散系列間の相互相関のためにある残留干渉を有する可能性がある。しかし、信号間の干渉は適切に設計された拡散系列では小さく、リーダー34のレシーバが複数のタグ44による多元接続性干渉の構造を無視するときでさえも、CDMAシステム・アーキテクチャ30は十分な性能を提供しうる。
【0045】
しかし、干渉構造を利用するマルチユーザー検出技術を使用することも可能である。マルチユーザー検出技術は、線形非相関、干渉除去、および最尤法を含むが、これらに限定されない。短い拡散系列では、干渉は適応マルチユーザー検出または干渉抑制技術によって利用されうる周期定常構造を有しうる。これらの技術は、最小二乗平均(Least Mean Squares:LMS)、再帰二乗平均(Recursive Least Squares:RLS)、またはブロック二乗平均などのアルゴリズムを用いて適応されうる線形最小平均二乗誤差(Linear Minimum Mean Squared Error:LMMSE)および判定帰還レシーバを含みうるが、これらに限定されない。レシーバが複数のアンテナアレイを有する場合、マルチユーザー検出は、たとえば、所与の時間間隔に対応するすべてのアンテナのサンプルのブロックに対してLMMSEベースの相関を使用することによって、時空間処理を用いて実施されうる。
【0046】
開ループモードにおけるタグ多元接続性
システム・アーキテクチャ30などのシステム・アーキテクチャ内の従来のRFIDプロトコルは、リーダー34とタグ44との双方向通信に基づく衝突解決プロトコルを有しうる。しかし、タグ44の開ループ動作では、多元接続性は、時分割、周波数分割、または符号分割、およびこれらの任意の組合せなどの技術によって実現されうる。時分割は、後方散乱事象間の時間を適切にランダム化することによって実現されてもよい。周波数分割は、後方散乱時に周波数オフセットを無作為に選定するタグ44によって実現される。符号分割は、周波数ホッピング法、直接系列拡散法、または当分野で公知の他の方法によって実現されうる。
【0047】
システム・アーキテクチャ30内における多元接続性および範囲拡大は、タグの電気製品コード(Electronic Product Code:EPC)符号体系間のマッピングを通じてさらに強化されうる。マッピングはダイナミックでありうる。また、多元接続性および範囲拡大は、適切な順方向誤り訂正(Forward Error Correction:FEC)符号から得られる「有効最小距離」コード名系列(ID)によって強化されうる。たとえば、64ビットEPCタグの場合、識別を必要とする空間領域(符号系列の空間的再利用も可能である)に約1000のタグがありうる。予想される64ビット列と予想されるタグ数(1000)の比が大きくなると、物理的ノイズまたは同期によるノイズに対して最大限の耐性を付与するために間隔を「遠く開けた」適切な系列をタグに割り当てる可能性がもたらされる。符号化理論の用語で言えば、これは低レート(n,k)符号であり、上記の例では(64,10)符号になる。これによる符号化利得は、たとえば、CDMA処理による性能向上ももたらすことができる。
【0048】
本発明をその具体例を参照して詳しく説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正が本発明においてなされうることは当業者にとって明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タグ回路を有する少なくとも1つのタグと、コマンド信号を前記少なくとも1つのタグに送信するリーダーとを含む後方散乱タグシステムであって、
前記少なくとも1つのタグを活性化するために、及び前記タグ回路を動作させるエネルギーと、前記少なくとも1つのタグによって後方散乱信号を放射するエネルギーとを提供するために、前記少なくとも1つのタグにエネルギー信号を送信する給電ノードを備え、
前記給電ノードは、
受信コマンド信号を提供するために、前記リーダーから前記コマンド信号を受信する給電レシーバと、
前記リーダーから前記少なくとも1つのタグに前記受信コマンド信号を送信するための給電トランスミッタと、
を備え、
それによって、前記給電ノードは前記エネルギー信号および前記受信コマンド信号の両方を前記少なくとも1つのタグに送信する、後方散乱タグシステム。
【請求項2】
前記給電トランスミッタは、正弦波信号を前記少なくとも1つのタグに送信する、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項3】
前記給電トランスミッタは、周波数ホッピング信号を前記少なくとも1つのタグに送信する、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項4】
前記給電トランスミッタは、スペクトル拡散信号を前記少なくとも1つのタグに送信する、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項5】
前記給電トランスミッタは、周波数シフト信号を前記少なくとも1つのタグに送信する、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項6】
前記タグ回路はプロセッサを備える、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つのタグは、開ループモードで動作し、前記リーダーからの前記コマンド信号とは独立に後方散乱信号を放射する、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つのタグは、閉ループモードで動作し、前記リーダーからの前記コマンドに従って後方散乱信号を放射する、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのタグは、所定のリーダープロトコルに従って前記リーダーに応答する、請求項8に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項10】
前記給電レシーバおよび前記給電トランスミッタは、異なる周波数帯で動作する、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項11】
前記給電ノードはバッテリを備える、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項12】
複数の後方散乱信号の後方散乱信号間に確定性間隔をさらに備える前記複数の後方散乱信号を含む、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項13】
複数の後方散乱信号の後方散乱信号間にランダム間隔をさらに備える前記複数の後方散乱信号を含む、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つのタグはマルチモードタグであり、該マルチモードタグは前記リーダーからの前記コマンド信号に従ってあるモードから別のモードに変化する、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項15】
前記マルチモードタグをあるモードから別のモードに変化させる前記リーダーからの前記コマンド信号は、前記給電ノードを経由して、前記リーダーから前記マルチモードタグに送信される、請求項14に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項16】
前記リーダーからの前記コマンド信号は、前記マルチモードタグの動作周波数を変化させる前記マルチモードタグのコマンドを備える、請求項14に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つのノードは、オンモードおよびオフモードを含み、前記リーダーからの前記コマンド信号はマルチモードタグをオフにするコマンドを備える、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項18】
各給電ノード周波数で動作する複数のタグおよび複数の給電ノードをさらに備え、前記リーダーは、前記複数のタグの干渉を制御するために前記各給電ノード周波数の周波数を同期させる、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。
【請求項19】
複数のタグと各給電ノード・タイミングを有する複数の給電ノードとをさらに備え、前記リーダーは、前記複数のタグの干渉を制御するために前記複数の給電ノードのタイミングを同期させる、請求項1に記載の後方散乱タグシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−502511(P2012−502511A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525285(P2011−525285)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/055624
【国際公開番号】WO2010/027980
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(396026846)チエツクポイント システムズ, インコーポレーテツド (47)
【Fターム(参考)】