説明

変調装置、復調装置、情報伝達システム、変調方法および復調方法

【課題】簡易な処理によって雑音を大幅に低減することができるとともに、通信時の制限の少ない変調装置、復調装置、情報伝達システム、変調方法および復調方法を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態に係る情報伝達システムは、変調装置において、入力されるオーディオ信号Saの成分を除去し、除去した周波数帯域に、残存する周波数帯域の一部の周波数帯域の成分を伝送情報に係る符号化情報に応じたシフト量で周波数シフトして重畳することにより変調した変調オーディオ信号Seを放音することができる。そのため、情報の伝達の際に放音される変調オーディオ信号Seを聞いたとしても、変調に係る聴感上の違和感を低減することができる。このとき、周波数シフトされたオーディオ信号Sdの出力レベルの調整を行って、元のオーディオ信号Saの周波数分布に近いものとしているから、聴感上の違和感をさらに低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ信号に符号情報を重畳して伝達する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
符号情報を無線で伝達する通信方法としては、電波を用いた通信の他、楽音などの音波に変調を施すことにより符号化情報を重畳する技術が検討されている。このように音波に変調を施すことにより符号化情報を重畳する場合、一般的なスピーカ、マイクロフォンを用いて通信するためには、可聴域の音波を用いる必要があるが、符号化情報を重畳するための変調により、もともとの楽音に対して不快な雑音が混ざることを防ぐために様々な検討がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【特許文献1】特開2007−104598号公報
【特許文献2】特開2006−251676号公報
【特許文献3】特開2006−195061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記各特許文献に開示された技術のように、変調時に発生する雑音が低減されるようになってきたが、その低減量が不十分、処理負荷が大きい、通信時における通信位置の制限があるなどの問題が残っていた。
【0004】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、簡易な処理によって変調時に発生する雑音を大幅に低減することができるとともに、通信時の制限の少ない変調装置、復調装置、情報伝達システム、変調方法および復調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明は、オーディオ信号を入力する入力手段と、符号化された符号化情報を取得する取得手段と、前記入力手段によって入力されたオーディオ信号の所定の周波数未満の周波数帯域成分のうち、一部の周波数帯域成分を有するオーディオ信号を抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出されたオーディオ信号の周波数帯域成分を、前記取得手段によって取得された符号化情報に応じたシフト量で前記所定の周波数以上の高周波数帯域にシフトさせる周波数シフト手段と、前記周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを調整するレベル調整手段と、前記レベル調整手段によって出力レベルが調整されたオーディオ信号を、前記入力手段によって入力されたオーディオ信号に重畳する重畳手段とを具備することを特徴とする変調装置を提供する。
【0006】
また、別の好ましい態様において、前記レベル調整手段は、前記周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを低減させるように調整することを特徴とする。
【0007】
また、別の好ましい態様において、前記入力手段によって入力されたオーディオ信号の所定の周波数帯域の出力レベルと前記周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルとを測定するレベル測定手段をさらに具備し、前記レベル調整手段は、前記レベル測定手段によって測定された双方のオーディオ信号の出力レベルの比に応じて、前記周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを調整することを特徴とする。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記レベル調整手段は、前記周波数シフト手段による周波数のシフト量が大きいほど、当該周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを少なくするように調整することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、オーディオ信号を入力する入力手段と、前記入力手段によって入力されたオーディオ信号の周波数帯域の一部の周波数帯域の成分と、当該一部の周波数帯域から予め設定された複数のシフト量の周波数をシフトさせた複数の周波数帯域における成分の各々とについて、それぞれ出力レベル比を調整した後に加算することによって生じるオーディオ信号の振幅のうねりにより相関関係を検出して、検出結果に応じて前記複数のシフト量のいずれかを選択する検出手段と、前記検出手段によって選択されたシフト量に応じて符号化された符号化情報を生成する符号化情報生成手段とを具備することを特徴とする復調装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記記載の変調装置と、上記記載の復調装置と、前記変調装置の重畳手段によって重畳されたオーディオ信号を放音する放音手段と、前記放音手段によって放音されたオーディオ信号を収音する収音手段とを具備し、前記復調装置の入力手段は、前記収音手段によって収音したオーディオ信号を入力し、前記復調装置の検出手段において予め設定されるシフト量は、前記変調装置の周波数シフト手段によりシフトし得る周波数のシフト量であることを特徴とする情報伝達システムを提供する。
【0011】
また、本発明は、オーディオ信号を入力する入力過程と、符号化された符号化情報を取得する取得過程と、前記入力過程において入力されたオーディオ信号の所定の周波数未満の周波数帯域成分のうち、一部の周波数帯域成分を有するオーディオ信号を抽出する抽出過程と、前記抽出過程において抽出されたオーディオ信号の周波数帯域成分を、前記取得過程において取得された符号化情報に応じたシフト量で前記所定の周波数以上の高周波数帯域にシフトさせる周波数シフト過程と、前記周波数シフト過程において周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを調整するレベル調整過程と、前記レベル調整過程において出力レベルが調整されたオーディオ信号を、前記入力過程において入力されたオーディオ信号に重畳する重畳過程とを備えることを特徴とする変調方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、オーディオ信号を入力する入力過程と、前記入力過程において入力されたオーディオ信号の周波数帯域の一部の周波数帯域の成分と、当該一部の周波数帯域から予め設定された複数のシフト量の周波数をシフトさせた複数の周波数帯域における成分の各々とについて、それぞれ出力レベル比を調整した後に加算することによって生じるオーディオ信号の振幅のうねりにより相関関係を検出して、検出結果に応じて前記複数のシフト量のいずれかを選択する検出過程と、前記検出過程において選択されたシフト量に応じて符号化された符号化情報を生成する符号化情報生成過程とを備えることを特徴とする復調方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な処理によって変調時に発生する雑音を大幅に低減することができるとともに、通信時の制限の少ない変調装置、復調装置、情報伝達システム、変調方法および復調方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
<実施形態>
本発明の実施形態に係る情報伝達システム10は、図1に示すように、外部装置などから送信すべき伝送情報が入力されるとともに、外部装置などからオーディオ信号Saが入力され、オーディオ信号Saを伝送情報に応じて変調した信号(以下、変調オーディオ信号Seという)を出力する変調装置1、変調装置1から出力される変調オーディオ信号Seを放音するスピーカ2、スピーカ2によって放音された変調オーディオ信号Seを収音するマイクロフォン3、マイクロフォン3によって収音された変調オーディオ信号Seを復調することにより伝送情報を受信する復調装置4を有する。以下、変調装置1、復調装置4の構成について順に説明する。
【0016】
まず、変調装置1の構成について、図2を用いて説明する。以下に説明する構成については、ハードウエアにより実現してもよいし、図示しないコンピュータのCPU(Central Processing Unit)が制御プログラムを実行して、以下に説明する機能の一部または全部を実現するようにしてもよい。
【0017】
LPF110は、オーディオ信号Saが入力され、予め設定されたカットオフ周波数以上の高周波数帯域を減衰させることにより、高周波数帯域の成分を除去して出力する低域通過フィルタである。この高周波数帯域の一部が、後述するように、変調した信号が重畳される周波数帯域となるものであり、この例においては、カットオフ周波数は10kHzに設定されている。以下、LPF110から出力される高周波数帯域の成分が除去されたオーディオ信号をオーディオ信号Sbという。
【0018】
HPF120は、LPF110からオーディオ信号Sbが入力され、予め設定されたカットオフ周波数以下の低周波数帯域を減衰させて出力する高域通過フィルタである。この例においては、カットオフ周波数は6kHzに設定されている。したがって、HPF120から出力されるオーディオ信号(以下、オーディオ信号Scという)は、オーディオ信号Saの周波数帯域のうち、概ね6kHzから10kHzの周波数帯域の成分を有するオーディオ信号として抽出されたものである。
【0019】
符号化器130は、伝送情報が入力され、この伝送情報を符号化した符号化情報を切替器150に出力する。この例においては、符号化情報は、伝送情報を「0」、「1」の1ビット2値のシンボルに符号化した情報である。なお、この符号化においては、インターリーブ、誤り訂正符号の付加などの処理を行なってもよい。ここで、1ビットあたりの時間は予め設定された時間であり、すなわち予め定められたビットレートの符号化情報が生成される。
【0020】
キャリア周波数発生部140は、キャリア周波数発生器A141とキャリア周波数発生器B142とを有し、それぞれ、テーブル、関数演算などを行うことにより、予め設定された異なる周波数の正弦波のキャリア信号fa、fbを生成し、切替器150に出力する。そして、切替器150は、符号化器130から出力される符号化情報を取得し、その符号化情報に応じて、入力されるキャリア信号fa、fbのいずれかを選択し、切り替えて出力する。この例においては、符号化情報が示すシンボルが「0」である場合には、キャリア信号faを出力し、シンボルが「1」である場合には、キャリア信号fbを出力する。
【0021】
ここで、キャリア信号faとキャリア信号fbとが切り替わるときの切替器150からの出力波形の不連続点が発生しないように、切り替え時点において切り替え前後のキャリア信号fa、fb双方の位相が一致するように周波数を設定してもよい。ここで、符号化情報の伝送符号1ビットあたりの時間は決まっているから、切り替わるタイミングはその時間の整数倍の時間に固定されている。例えば、サンプリングレートが44.1kHzであるときに、1ビットあたりの時間が88サンプルとして設定されているものとする。
【0022】
このとき、キャリア信号faの1周期を11サンプル(周波数は概ね4kHz、以下、省略して4kHzとする)とし、キャリア信号fbの1周期を8サンプル(周波数は概ね5.5kHz、以下、省略して5.5kHzとする)とすると、1ビットあたりキャリア信号faはちょうど8周期、キャリア信号fbはちょうど11周期となり、切り替わるときには位相が一致するため、波形の連続性を保つことができる。このように設定されたキャリア信号fa、fbを、符号化情報「010101」により88サンプルごとに切り替えた場合の切替器150からの出力信号を図3に示す。
【0023】
キャリア周波数発生器A141、キャリア周波数発生器B142に、上述のようにして決定される周波数を設定しておくことにより、切替器150における切替時の波形の連続性を保つことができるから、後述するように出力される変調オーディオ信号Seについて、切替器150におけるキャリア信号fa、fbの切替時にノイズが発生する可能性を抑えることができ、聴感上望ましい。この例においては、キャリア周波数発生器A141には、周波数として4kHzが設定され、キャリア周波数発生器B142には、周波数として5.5kHzが設定されているものとする。したがって、キャリア信号faの周波数は4kHz、キャリア信号fbの周波数は5.5kHzとなっている。
【0024】
乗算器160は、HPF120から出力されるオーディオ信号Scと切替器150から出力されるキャリア信号faまたはキャリア信号fbと乗算する。これにより、乗算器160は、オーディオ信号Scの周波数帯域の成分を、乗算されるキャリア信号の周波数だけ上側の周波数帯域にシフトさせるとともに、下側の周波数帯域にもシフトさせる。具体的には、キャリア信号faと乗算された場合には、キャリア信号faの周波数は4kHzであるから、オーディオ信号Scの周波数帯域の成分は、6kHz〜10kHzの周波数帯域から、2kHz〜6kHzの周波数帯域および10kHzから14kHzの周波数帯域の2つの周波数帯域にシフトする。一方、キャリア信号fbと乗算された場合には、キャリア信号faの周波数は5.5kHzであるから、オーディオ信号Scの周波数帯域の成分は、6kHz〜10kHzの周波数帯域から、0.5kHz〜4.5kHzの周波数帯域および11.5kHzから15.5kHzの周波数帯域の2つの周波数帯域にシフトする。ここで、上側にシフトされる周波数帯域については、LPF110において成分が除去される周波数帯域になるように、LPF110に設定されるカットオフ周波数、キャリア周波数発生器A141およびキャリア周波数発生器B142に設定される周波数が、それぞれ定められている。
【0025】
HPF170は、乗算器160によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号に対して、下側の周波数帯域の成分を除去し、上側の周波数帯域の成分だけを通過させる高域通過フィルタである。このように、下側の周波数帯域の成分だけを除去できればよいから、カットオフ周波数は、6kHzから10kHzの間、例えば8kHzとしておけばよい。このようにして下側の周波数帯域の成分が除去され、上側にシフトした周波数帯域の成分だけを有するオーディオ信号(以下、オーディオ信号Sdという)を出力する。
【0026】
BPF101は、オーディオ信号Saが入力され、あらかじめ設定された中心周波数とバンド幅に応じた所定の周波数帯域を通過させ、所定の周波数帯域成分を有するオーディオ信号(以下、オーディオ信号Stという)を出力する帯域通過フィルタである。この例においては、通過させる所定の周波数帯域は、LPF110におけるカットオフ周波数近傍の9kHzから10kHzである。なお、この上限周波数をLPF110におけるカットオフ周波数と同じにするときには、このBPF101は、LPF110から出力されるオーディオ信号Sbが入力されてもよく、この場合は、BPF101は、カットオフ周波数が9kHzである高域通過フィルタにより代用することも可能である。
【0027】
遅延回路102は、BPF101から出力されるオーディオ信号Stに対して、予め設定された遅延時間の遅延処理を行って出力する。この遅延時間は、LPF110、HPF120、乗算器160およびHPF170における処理時間の合計からBPF101における処理時間を引いた時間として設定されている。このように遅延させることにより、後述するレベル検出器103に入力されるオーディオ信号Sdとオーディオ信号Stについて、オーディオ信号Saが入力されてからの各処理時間のずれを調整して、時間的なずれが無いものとすることができる。
【0028】
レベル検出器103は、オーディオ信号Sdとオーディオ信号Stとが入力され、それぞれの出力レベルを絶対値処理、二乗演算などによって測定し、これらの出力レベル比(この例においては、オーディオ信号Sdの出力レベルに対するオーディオ信号Stの出力レベルの比)を算出する。そして、レベル検出器103は、算出した出力レベル比を示すレベル比データを出力する。
【0029】
遅延回路104は、HPF170から出力されるオーディオ信号Sdに対して、予め設定された遅延時間の遅延処理を行って出力する。この遅延時間は、レベル検出器103における処理時間として設定されている。このように遅延させることにより、HPF170から出力されるオーディオ信号Sdがレベル検出器103に出力されてからレベル比データが出力されるまでの処理時間を調整し、後述するレベル調整器105に入力されるオーディオ信号Sdと、レベル検出器103から出力されるレベル比データが示す出力レベル比の算出に用いられるオーディオ信号Sdとの時間的なずれが無いものとすることができる。
【0030】
レベル調整器105は、遅延回路104によって遅延処理がなされたオーディオ信号Sdが入力され、レベル検出器103から出力されるレベル比データが示す出力レベル比に応じて、オーディオ信号Sdの出力レベルを調整し、出力レベルを調整したオーディオ信号(以下、オーディオ信号Suという)を出力する。
【0031】
この例においては、レベル調整器105は、入力されたレベル比データが示す出力レベル比が大きいほど、すなわち、オーディオ信号Sdの出力レベルがオーディオ信号Stの出力レベルに比べて大きくなるほど、オーディオ信号Sdの出力レベルを低減するように調整する。
【0032】
遅延回路180は、LPF110から出力されるオーディオ信号Sbに対して、予め設定された遅延時間の遅延処理を行って出力する。この遅延時間は、HPF120、乗算器160、HPF170、遅延回路104およびレベル調整器105における処理時間を合計した時間として設定されている。このように遅延させることにより、オーディオ信号Sbに対して上記の周波数をシフトさせる処理が行われてオーディオ信号Suが出力されるまでの処理時間のずれを調整して、オーディオ信号Sbとオーディオ信号Suとの時間的なずれが無いものとすることができる。
【0033】
加算器190は、遅延回路180において遅延されたオーディオ信号Sbと、レベル調整器105から出力されたオーディオ信号Suとを加算することによって重畳したオーディオ信号(以下、変調オーディオ信号Seという)を出力する。このようにして加算器190から出力された変調オーディオ信号Seは、必要に応じてD/A変換、増幅処理などが施されスピーカ2に出力される。そして、スピーカ2から変調オーディオ信号Seが放音される。
【0034】
このとき、レベル調整器105において、上側にシフトした周波数帯域の成分だけを有するオーディオ信号Sdの出力レベルが調整されているから、その周波数帯域成分の出力レベルは、オーディオ信号Saにおけるその周波数帯域成分の出力レベルと近いものとなる。したがって、変調オーディオ信号Seとオーディオ信号Saとの周波数分布が近いものとなり、聴感上の違和感を低減することができる。以上が変調装置1の構成についての説明である。
【0035】
次に、変調装置1の動作について、入力されるオーディオ信号Saが変調オーディオ信号Seとして放音されるまでの周波数分布の変化を示す図4を用いて説明する。
【0036】
オーディオ信号Saは、図4(a)に示す周波数分布であるとする。このオーディオ信号Saは、LPF110によって、10kHz以上の周波数帯域の成分が除去されるから、LPF110から出力されるオーディオ信号Sbは、図4(b)に示すような周波数分布となる。次に、オーディオ信号Sbは、HPF120によって、6kHz以下の周波数帯域の成分が除去されるから、HPF120から出力されるオーディオ信号Scは、図4(c)に示すような6kHzから10kHzの周波数帯域の成分を有する周波数分布となる。
【0037】
そして、入力される伝送情報は符号化器130によって符号化された符号化情報として出力され、その内容に応じてキャリア信号faまたはキャリア信号fbが切り替えられながら乗算器160に出力される。これにより、乗算器160において、オーディオ信号Scの6kHzから10kHzの周波数帯域の成分が上下側にシフトされ、HPF170において、下側にシフトされた周波数帯域の成分が除去される。このようにしてHPF170から出力されるオーディオ信号Sdは図4(d)に示すような周波数分布となる。ここで、オーディオ信号Sd(0)、Sd(1)とは、それぞれキャリア信号fa、fbにより周波数帯域の成分がシフトされたオーディオ信号Sdを示し、破線で示した周波数分布については、HPF170において除去された周波数帯域の成分を示している。
【0038】
一方、オーディオ信号Saは、BPF101によって9kHzから10kHzの周波数帯域以外の成分が除去されるから、BPF101から出力されるオーディオ信号Stは、図4(f)に示すような周波数分布となる。そして、レベル検出器103は、オーディオ信号Sdとオーディオ信号Stとの出力レベル比を算出する。レベル調整器105は、この出力レベル比に応じて、オーディオ信号Sd(0)、Sd(1)の出力レベルを調整したオーディオ信号Su(0)、Su(1)を出力する。
【0039】
このようにしてレベル調整器105から出力されたオーディオ信号Suは、遅延回路180において遅延処理されたオーディオ信号Sbと加算器190において加算されるから、加算器190から出力される変調オーディオ信号Seは、図4(e)に示すような周波数分布となる。ここで、変調オーディオ信号Se(0)、Se(1)とは、それぞれオーディオ信号Su(0)、Su(1)とオーディオ信号Sbとを加算した変調オーディオ信号Seを示す。また、破線については、オーディオ信号Sd(0)、Sd(1)の出力レベルが調整されていない場合を示している。このように、オーディオ信号Sbに加算されるオーディオ信号Suは、オーディオ信号Sdの出力レベルを低減する調整が行われたものであり、この例においては、10kHzにおけるオーディオ信号Sbの出力レベルとオーディオ信号Su(0)の出力レベルとが概ね同じになるように調整されている。
【0040】
このようにして、入力されたオーディオ信号Saは、符号化器130によって出力される符号化情報の「0」、「1」に対応して、変調オーディオ信号Se(0)、Se(1)に変調されることになる。すなわち、オーディオ信号Saの6kHzから10kHzの周波数帯域の成分を、符号化情報の「0」「1」に応じたシフト量で高周波数帯域へシフトさせて、その出力レベルを調整して重畳する変調を行う。また、オーディオ信号Sdの出力レベルを、オーディオ信号Sdとオーディオ信号Stとの出力レベル比に応じて調整することにより、変調オーディオ信号Seの聴感上の違和感を少なくすることができる。以上が変調装置1の動作についての説明である。
【0041】
次に、復調装置4の構成について、図5を用いて説明する。以下に説明する構成については、ハードウエアにより実現してもよいし、図示しないコンピュータのCPUが制御プログラムを実行して、以下に説明する機能の一部または全部を実現するようにしてもよい。
【0042】
再変調器410は、マイクロフォン3において収音された変調オーディオ信号Seが入力される。再変調器410は、図6に示すような構成であり、以下、その構成について説明する。
【0043】
再変調器410は、BPF411、412、413、加算器414、415、レベル検出器416、417、レベル調整器418、419および遅延回路4110、4120、4130を有する。BPF411、412、413は、それぞれ異なる中心周波数が予め設定された帯域通過フィルタである。そして、BPF411、412、413は、変調オーディオ信号Seが入力され、変調オーディオ信号Seの周波数帯域のうち、それぞれに設定された中心周波数近傍の周波数帯域以外の周波数帯域を除去した信号を出力する。
【0044】
BPF411は、変調装置1に係るオーディオ信号Scの周波数帯域(6kHzから10kHz)のいずれかの周波数(この例においては、6.5kH)が中心周波数として設定される。BPF412は、BPF411に設定される中心周波数に変調装置1に係るキャリア信号faの周波数を加算した周波数、すなわち、この例においては、10.5kHzが中心周波数として設定される。また、BPF413は、BPF411に設定される中心周波数に変調装置1に係るキャリア信号fbの周波数を加算してシフトさせた周波数、すなわち、この例においては、12kHzが中心周波数として設定される。なお、BPF411、412、413それぞれのバンド幅は適宜設定すればよいが、すべて同じバンド幅であることが望ましい。
【0045】
レベル検出器416は、BPF411から出力された信号およびBPF412から出力された信号の出力レベルを測定し、その出力レベル比を算出する。この例においては、レベル検出器416は、BPF411から出力された信号の出力レベルに対するBPF412から出力された信号の出力レベルの出力レベル比を算出し、算出した出力レベル比を示すレベル比データを出力する。
【0046】
レベル検出器417は、BPF411から出力された信号とBPF413から出力された信号との出力レベルを測定し、その出力レベル比を算出する。この例においては、レベル検出器417は、BPF411から出力された信号の出力レベルに対するBPF413から出力された信号の出力レベルを示す出力レベル比を算出し、算出した出力レベル比を示すレベル比データを出力する。
【0047】
遅延回路4120は、BPF412から出力される信号に対して、予め設定された遅延時間の遅延処理を行って出力する。この遅延時間は、レベル検出器416における処理時間として設定されている。このように遅延させることにより、BPF412から出力される信号がレベル検出器416に出力されてからレベル比データが出力されるまでの処理時間を調整し、後述するレベル調整器418に入力されるBPF412からの信号と、レベル検出器416から出力されるレベル比データが示す出力レベル比の算出に用いられるBPF412からの信号との時間的なずれが無いものとすることができる。
【0048】
遅延回路4130は、BPF413から出力される信号に対して、予め設定された遅延時間の遅延処理を行ってレベル調整器419に出力すること以外は、遅延回路4120と同様であるため説明を省略する。
【0049】
レベル調整器418は、遅延回路4120によって遅延処理がなされた信号が入力され、レベル検出器416から出力されるレベル比データが示す出力レベル比に応じて、遅延回路4120からの信号の出力レベルを調整して出力する。例えば、出力レベル比が小さい、すなわちBPF412からの信号の出力レベルがBPF411からの信号の出力レベルに比べて小さいほど、遅延回路4120からの信号の出力レベルを大きくするように調整する。
【0050】
また、レベル調整器419は、遅延回路4130によって遅延処理がなされた信号が入力され、レベル検出器417から出力されるレベル比データが示す出力レベル比に応じて、遅延回路4130からの信号の出力レベルを調整して出力する。調整の態様は、レベル調整器418と同様にすればよい。このようにして、レベル調整器418、419において出力レベルが調整されることにより、BPF411から出力される信号の出力レベルと、BPF412、413から出力される信号の出力レベルとを、概ね一致させることができる。
【0051】
遅延回路4110は、BPF411から出力される信号に対して、予め設定された遅延時間の遅延処理を行って出力する。この遅延時間は、BPF412、遅延回路4120およびレベル調整器418における処理時間を合計した時間からBPF411における処理時間を引いた時間として設定されている。このように遅延させることにより、変調オーディオ信号Seが入力されてから、BPF411において処理されて加算器414に出力されるまでの処理時間と、BPF412において処理されて加算器414に出力されるまでの処理時間とを調整し、BPF411からの信号とBPF412からの信号との時間的なずれが無いものとすることができる。ここで、BPF412、遅延回路4120およびレベル調整器418における処理時間の合計と、BPF413、遅延回路4130およびレベル調整器419における処理時間の合計とは同じ時間であるものとする。なお、双方の処理時間が異なる場合には、処理時間が長い方を基準として、短い方の処理経路に遅延回路を設けることで、処理時間を合わせるようにすればよい。
【0052】
加算器414は、遅延回路4110およびレベル調整器418から出力された信号を加算し、加算した出力信号Sf1を出力する。これにより、双方の信号の相関関係を検出することができる。すなわち、BPF411、412に設定された中心周波数は、キャリア信号faの周波数の4kHzずれた関係にある。ここで、変調オーディオ信号Seのうち、符号化情報「0」に対応する変調オーディオ信号Se(0)については、上述したように、その6kHzから10kHzの周波数帯域の成分が4kHz上側にシフトさせた10kHzから14kHzの周波数帯域に重畳されている。したがって、変調オーディオ信号Se(0)が再変調器410に入力されている間は、変調オーディオ信号Se(0)のうち6.5kHz近傍の周波数帯域の信号と、さらに4kHz上側の10.5kHz近傍の周波数帯域の信号とは、周波数帯域がシフトされただけの関係であり強い相関関係をもつから、これらの信号を加算した出力信号Sf1は、4kHzの強い振幅のうねりを持った信号となる。ここで、上述したように、レベル調整器418において、BPF412からの信号の出力レベルが調整されているから、出力信号Sf1は、振幅のうねりがはっきりした信号となる。
【0053】
一方、変調オーディオ信号Seのうち、符号化情報「1」に対応する変調オーディオ信号Se(1)については、上述したように、その6kHzから10kHzの周波数帯域の成分が5.5kHz上側にシフトさせた11.5kHzから15.5kHzの周波数帯域に重畳されている。したがって、変調オーディオ信号Se(1)が再変調器410に入力されている間は、変調オーディオ信号Se(1)のうち6.5kHz近傍の周波数帯域の信号と、さらに4kHz上側の10.5kHz近傍の周波数帯域の信号とは、周波数帯域がシフトされた関係ではなく(5.5kHzではない)、強い相関を持たないから、これらの信号を加算した出力信号Sf1は、強い振幅のうねりを持たない信号となる。
【0054】
加算器415は、遅延回路4110およびレベル調整器419から出力された信号を加算し、加算した出力信号Sf2を出力する。BPF411、413に設定された中心周波数は、キャリア信号fbの周波数の5.5kHzずれた関係にある。したがって、上述の理由と同様に、変調オーディオ信号Se(0)が再変調器410に入力されている間は、出力信号Sf2は、強い振幅のうねりを持たない信号となる一方、変調オーディオ信号Se(1)が再変調器410に入力されている間は、出力信号Sf2は、5.5kHzの強い振幅のうねりを持った信号となる。
【0055】
このようにして再変調器410から出力される出力信号Sf1、Sf2について図7に示す。この図7においては、再変調器410に入力される変調オーディオ信号Seは、符号化情報が「01010101」に対応したもの、すなわち変調オーディオ信号Se(0)、Se(1)が交互に入力されているものとしている。また、図7(a)は出力信号Sf1を示し、図7(b)は出力信号Sf2を示している。以上が、再変調器410の構成の説明である。
【0056】
キャリア成分検出器420は、出力信号Sf1、Sf2が入力される。キャリア成分検出器420は、入力される出力信号Sf1、Sf2の振幅のうねりから、キャリア周波数成分を検波するものであり、図8に示すような構成である。以下、その構成について説明する。
【0057】
キャリア成分検出器420は、整流器421、422、BPF423、424を有している。整流器421、422は、それぞれ出力信号Sf1、Sf2が入力され、絶対値処理、二乗演算などにより整流を行って、BPF423、424に出力する。
【0058】
BPF423、424は、帯域通過フィルタであり、中心周波数は、それぞれキャリア信号faの周波数4kHz、キャリア周波数fbの周波数5.5kHzとして予め設定されている。したがって、BPF423、424から出力される出力信号Sg1、Sg2は、出力信号Sf1、Sf2のキャリア周波数成分(Sf1に対しては4kHz、Sf2に対しては5.5kHz)を抽出した信号となる。このようにして、キャリア成分検出器420は、再変調器410から入力される出力信号Sf1,Sf2からキャリア周波数成分を抽出した出力信号Sg1、Sg2を出力する。
【0059】
図9は、図7に示すような出力信号Sf1、Sf2がキャリア成分検出器420に入力され、キャリア成分検出器420から出力される出力信号Sg1、Sg2を示している。ここで、図9(a)は出力信号Sg1、図9(b)は出力信号Sg2を示している。以上が、キャリア成分検出器420の構成の説明である。
【0060】
レベル検出器430は、出力信号Sg1、Sg2が入力される。レベル検出器430は、入力される出力信号Sg1、Sg2のエンベロープを検出し、レベル値として出力するものであり、図10に示すような構成である。以下、その構成について説明する。
【0061】
レベル検出器430は、整流器431、432、LPF433、434を有している。整流器431、432は、それぞれ出力信号Sg1、Sg2が入力され、絶対値処理、二乗演算などにより整流を行って、LPF433、434に出力する。LPF433、434は、予めカットオフ周波数が設定された低域通過フィルタであり、それぞれ整流器431、432から入力される信号を平滑化して、レベル値を示す出力信号Sh1、Sh2を出力する。予め設定されたカットオフ周波数は、平滑化を目的としているから、伝送符号1ビットあたりの時間に応じて符号化された伝送情報が消失しない程度に設定すればよい。なお、レベル検出器430は、交流信号からレベル値を算出できる方法であれば、これ以外の構成、例えばピーク検出とディケイ演算による構成などを用いてもよい。
【0062】
図11は、図9に示すような出力信号Sg1、Sg2がレベル検出器430に入力され、レベル検出器430から出力される出力信号Sh1、Sh2を示している。ここで、実線は出力信号Sh1、破線は出力信号Sh2を示している。以上が、レベル検出器430の構成の説明である。
【0063】
加算器440は、出力信号Sh1、Sh2が入力され、出力信号Sh1と出力信号Sh2との差分を示す出力信号Siを出力する。図12は、図11に示すような出力信号Sh1、Sh2が加算器440に入力され、加算器440から出力される出力信号Si(破線)を示している。
【0064】
移動平均算出器450は、出力信号Siが入力され、出力信号Siの移動平均を算出する。移動平均算出器450は、例えばFIR(Finite impulse response)フィルタで構成され、フィルタのタップ長は伝送符号1ビットあたりの時間に相当するようにし、中心から前後方向に平均をとるように構成される。これによって、キャリア周波数成分のレベル値の差分である出力信号Siは、伝送符号1ビットあたりの時間で平均化されて出力される。
【0065】
DCカットフィルタ460は、移動平均算出器450において平均化された出力信号Siが入力され、直流成分、またはそれに近い不要な低域変動成分を除去した出力信号Sj(図12参照:一点鎖線)を出力する。これは、例えば、高域通過フィルタによって構成され、カットオフ周波数は、伝送符号1ビットあたりの時間などに応じて、符号化された伝送情報が消失しないように設定されればよい。
【0066】
正負符号判定器470は、出力信号Sjが入力され、出力信号Sjが正の場合には「+1」、負の場合には「−1」に対応するレベルの出力信号Sk(図12参照:実線)を出力する。
【0067】
復号化器480は、出力信号Skが入力され、適宜決定される基準タイミング(この例においては、最初に出力信号Skのレベルが変化したことを認識したタイミング)からの伝送符号1ビットあたりの時間で累積加算して、その時間毎に正負を判定する。そして、その結果が正であれば、変調オーディオ信号Seに対応する符号が「0」すなわち変調オーディオ信号Se(0)を受信したものとして認識し、負であれば、変調オーディオ信号Seに対応する符号が「1」すなわち変調オーディオ信号Se(1)を受信したものとして認識する。すなわち、再変調器410における信号の相関関係の検出結果に応じて、オーディオ信号Scの周波数帯域の成分の周波数帯域のシフト量が4kHzであったか5.5kHzであったかを認識して、いずれかを選択することができる。このようにしてシフト量を選択した結果、変調装置1から送信された伝送情報に係る符号化情報は、図13に示すような「01010101」を示す符号化情報として復調される。
【0068】
そして、復号化器480は、復調された符号化情報を復号化した受信情報を出力する。なお、変調装置1において、インターリーブ、誤り訂正などの処理がなされているときには、その処理に応じた復号化を行なえばよい。以上が、復調装置4の構成についての説明である。
【0069】
このように、本発明の実施形態に係る情報伝達システム10は、変調装置1において、入力されるオーディオ信号Saの高周波数帯域の成分を除去し、除去した周波数帯域に、残存する周波数帯域の一部の周波数帯域の成分を伝送情報に係る符号化情報に応じたシフト量で周波数シフトして重畳することにより変調した変調オーディオ信号Seを放音することができる。一方、復調装置4においては、収音した変調オーディオ信号Seから周波数のシフト量を認識して符号化情報に復調することができる。
【0070】
そのため、情報の伝達の際に放音される変調オーディオ信号Seを聞いたとしても、変調に係る聴感上の違和感を低減することができる。このとき、周波数シフトされたオーディオ信号Sdについて、出力レベルの調整を行って、元のオーディオ信号Saの周波数分布に近いものとしているから、調整を行わない場合よりも聴感上の違和感をさらに低減することができる。また、入力されるオーディオ信号Saがもともと高周波数帯域の成分を含まないものであれば、変調による帯域拡張処理で、周波数特性が高周波数帯域へも広がったような聴感改善効果も得られる。さらに、キャリア信号fa、fbの切替時に位相を一致させることにより、切替時における雑音の発生を抑えることもできる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
【0072】
<変形例1>
上述した実施形態における変調装置1の変調処理、また復調装置4の復調処理については、別の態様の処理により行ってもよい。例えば、FFT(Fast Fourier transform)処理を用いればよい。この場合には、変調装置1は図14のような構成とし、復調装置4については図15のような構成とすればよい。以下、それぞれの構成について順に説明する。
【0073】
まず、本変形例に係る変調装置1について図14を用いて説明する。FFT部1010は、入力されるオーディオ信号SaについてFFT処理を施し、周波数領域のスペクトルSpに変換する。符号化器1020については、実施形態における符号化器130と同様に、入力される伝送情報を符号化情報に変換する。
【0074】
複製部1030は、FFT部1010から入力されるスペクトルSpの高周波数帯域の成分を除去し、残存する周波数帯域の一部の周波数帯域の成分を、符号化情報に応じたシフト量で周波数シフトさせて、除去した高周波数帯域に重畳する。例えば、10kHz以上の周波数帯域の成分を除去し、残存する周波数帯域の一部の周波数帯域である6kHzから10kHzの周波数帯域の成分を10kHz以上の周波数帯域に周波数シフトさせて重畳する。このときの周波数のシフト量は、入力される符号化情報が「0」である場合には+4kHz、「1」である場合には+5.5kHzとする。そして、このようにして処理されたスペクトルSqを出力する。なお、除去する周波数帯域は、重畳する部分のみとしてもよい。すなわち、重畳する際に元のスペクトルと置き換えるようにすればよい。
【0075】
ここで、高周波数帯域に重畳するときには、元のスペクトルSpにおいて、除去する前の高周波数帯域成分の出力レベルを記憶しておき、その出力レベルに概ね一致するように重畳する周波数帯域成分の出力レベルを調整する。この調整は、各周波数における出力レベルを調整することにより、スペクトルの形状を一致させるような調整であってもよいし、周波数シフトさせる周波数帯域の出力レベルを全体として増減させるような調整としてもよい。このようにすると、スペクトルSqとスペクトルSpとは除去されている周波数帯域を除いて出力レベルが概ね一致したものとなる。
【0076】
逆FFT部1040は、複製部1030から入力されるスペクトルSqに対して逆FFT処理を施すことにより、変調オーディオ信号Seに変換して出力する。このような構成によっても、実施形態と同様な変調オーディオ信号Seを出力することができる。以上が、本変形例における変調装置1の構成の説明である。
【0077】
次に、本変形例に係る復調装置4について図15を用いて説明する。FFT部4010は、変調オーディオ信号Seが入力され、FFT処理を施して周波数領域のスペクトルSrに変換して出力する。
【0078】
判定部4020は、FFT部4010から入力されるスペクトルSrのうち、6kHz〜10kHzの周波数帯域のスペクトル(以下、スペクトルAという)と、10kHz〜14kHzの周波数帯域のスペクトル(以下、スペクトルBという)または11.5kHz〜15.5kHzの周波数帯域のスペクトル(以下、スペクトルCという)とを比較して、スペクトルBとスペクトルCのどちらがスペクトルAに近いスペクトル形状であるかを判定する。このとき、スペクトルAの出力レベルとスペクトルB、Cの出力レベルの比を調整してから判定してもよい。この判定は、スペクトル形状の類似度などの相関関係から判定すればよい。そして、スペクトルBと判定された期間においては「+1」、スペクトルCと判定された期間においては「−1」に対応する出力信号Skを出力する。この出力信号Skは、実施形態における出力信号Skと同様な信号である。
【0079】
復号化器4030は、実施形態における復号化器480と同様に、入力される出力信号Skから符号化情報に復調し、符号化情報を復号化した受信情報を出力する。以上が、本変形例における復調装置4の構成の説明である。
【0080】
このように、変調装置1は、入力されるオーディオ信号Saの高周波数帯域の成分を除去し、除去した周波数帯域に、残存する周波数帯域の一部の周波数帯域の成分を伝送情報に係る符号化情報に応じたシフト量で周波数シフトして重畳することにより変調した変調オーディオ信号Seを放音することができれば、どのような構成であってもよい。また、復調装置4においては、収音した変調オーディオ信号Seから周波数のシフト量を認識して符号化情報に復調することができれば、どのような構成としてもよい。なお、変調装置1と復調装置4の双方が本変形例の構成として、情報伝達システム10を構成するだけでなく、変調装置1または復調装置4のいずれかが、本変形例の構成であり、他方が実施形態の構成として、情報伝達システム10を構成してもよい。
【0081】
<変形例2>
上述した実施形態においては、高周波数帯域に重畳するための残存する周波数帯域の一部の周波数帯域は、LPF110とHPF120との組み合わせにより、双方のカットオフ周波数の間の周波数帯域となっていた。したがって、その周波数帯域の上限周波数は、重畳のために除去される高周波数帯域の下限周波数と同じ周波数になっていたが、高周波数帯域に重畳するための残存する周波数帯域の一部の周波数帯域については、必ずしもこのような態様でなくてもよくてもよい。例えば、高周波数帯域に重畳するための残存する周波数帯域の一部の周波数帯域については、BPF(帯域通過フィルタ)などを用いて、6kHz〜9kHzの周波数帯域の成分を抽出するようにしてもよい。このように、残存する周波数帯域の一部であれば、どの周波数帯域を周波数シフトして、高周波数帯域に重畳するようにしてもよい。なお、周波数帯域の帯域幅についても、どのような帯域幅としてもよい。
【0082】
また、入力されるオーディオ信号Saの周波数帯域のうち、重畳すべき周波数帯域の成分が無い場合はLPF110を用いず、所定の周波数以上の周波数帯域の成分を除去しなくてもよい。この場合には、本変形例のようにしてBPFを用いて、所定の周波数以上の周波数帯域に重畳すべき成分を抽出するようにすればよい。
【0083】
<変形例3>
上述した実施形態においては、キャリア周波数発生部140については、キャリア周波数が異なる2つのキャリア周波数発生器A141とキャリア周波数発生器B142とを有していたが、さらに多くのキャリア周波数発生器を有するようにしてもよい。そして、生成するキャリア信号の周波数がそれぞれ異なるようにし、それぞれの周波数を実施形態において説明したように、キャリア信号が切り替わるときの切替器150からの出力波形について不連続点が発生しないように、切り替え時においてキャリア信号fa、fb双方の位相が一致するように設定してもよい。
【0084】
このようにすると、符号化情報は、そのシンボルが「0」「1」だけでなく、さらに多値化することができ、キャリア周波数発生器が4つあれば、「00」「01」「10」「11」と、同時に2ビットずつ送信することができる。
【0085】
この場合、復調装置4における各構成については、キャリア周波数発生器の数(この例においては4つ)に対応して、変更するようにすればよい。具体的には、再変調器410は、BPF411に設定された中心周波数に各キャリア信号の周波数を加算した周波数を中心周波数として設定したBPF412、413、414、415(図示略)を設け、それぞれの出力をBPF411の出力と加算した出力信号Sf1、Sf2、Sf3、Sf4を出力するようにする。そして、キャリア成分検出器420、レベル検出器430において各出力信号を実施形態と同様な処理を施し、出力信号Sh1、Sh2、Sh3、Sh4が出力される。
【0086】
そして、実施形態における加算器440、移動平均算出器450、DCカットフィルタ460、正負符号判定器470、復号化器480における処理に対応して、出力信号Sh1、Sh2、Sh3、Sh4のうち、最大のレベルの出力信号を検出すればよい。そして、検出した出力信号が出力信号Sh1であれば、変調装置1における周波数のシフト量が、BPF412に設定された中心周波数の、BPF411に設定された中心周波数に対するシフト量であるものとして選択することができる。したがって、その検出している期間は、符号化情報が、選択されたシフト量に対応するシンボル、例えば「00」であるものとすることができる。このようにすれば、符号化器130から出力される符号化情報のビットレートを向上させることができる。
【0087】
<変形例4>
上述した実施形態においては、変調装置1と復調装置4との間の伝送情報の通信は、変調オーディオ信号Seを空間中に放音することにより行っていたが、変調オーディオ信号Seを有線で伝送してもよい。
【0088】
<変形例5>
上述した実施形態においては、変調装置1と復調装置4との間の伝送情報の通信は、可聴域の周波数帯域の成分を有する変調オーディオ信号Seを空間中に放音することにより行っていたが、非可聴域の周波数帯域を用いてもよい。この場合には、スピーカ2の構成について、使用する非可聴域の周波数帯域まで放音可能なものとし、マイクロフォン3の構成について、使用する非可聴域の周波数帯域まで収音可能なものとすればよい。また、変調装置1、復調装置4の各構成においても、使用する非可聴域の周波数帯域まで処理可能な構成としておけばよい。
【0089】
<変形例6>
上述した実施形態においては、BPF101において抽出される周波数帯域は、LPF110におけるカットオフ周波数近傍の9kHzから10kHzであるものとし、その周波数帯域成分の出力レベルを出力レベル比算出時の分母としていたが、この周波数帯域に限らず、様々な周波数帯域を用いることができる。例えば、周波数シフト先の周波数帯域(10kHz〜15.5kHz)の一部を含む周波数帯域であってもよいし、シフト先の複数の周波数帯域のうち重複する周波数帯域(11.5kHz〜14kHz)であってもよい。また、もっと低い周波数帯域を用いて高周波数帯域成分の出力レベルを推定してもよい。すなわち、オーディオ信号Saについて、周波数シフト先の周波数帯域における出力レベルを推定できるものであれば、どのような周波数帯域成分の出力レベルを抽出してもよい。
【0090】
<変形例7>
上述した実施形態においては、レベル調整器105においてレベル検出器103から出力されるレベル比データに応じて、オーディオ信号Sdの出力レベルを調整していたが、レベル比データにかかわらず、この調整量は一定であるものとしてもよい。一定の調整量とする場合には、レベル調整器105は、オーディオ信号Sdの出力レベルを所定の割合で低減させるように調整すればよい。一般的に高周波数帯域における出力レベルは、低周波数帯域における出力レベルに比べて相対的に低いものであるから、このように調整するだけでも聴感上の違和感を低減することができる。
【0091】
なお、レベル調整器105は、入力されるオーディオ信号Sdについて、オーディオ信号Sd(0)、Sd(1)のどちらであるかを判別して、周波数シフト量が大きいオーディオ信号Sd(1)である場合は、出力レベルの低減量を多く、オーディオ信号Sd(0)である場合は、出力レベルの低減量より少なくする調整をしてもよい。ここで、オーディオ信号Sd(0)、Sd(1)の判別は、入力されるオーディオ信号Sdの周波数分布を解析して判別してもよいし、切替器150から出力されるキャリア信号の周波数の測定結果に応じて判別してもよい。
【0092】
また、オーディオ信号Sd(0)とオーディオ信号Sd(1)とで出力レベルの調整量を変えることについては、実施形態のように、レベル検出器103から出力されるレベル比データに応じて出力レベルを調整する場合にも適用することができる。すなわち、実施形態において、レベル調整器105に入力されるオーディオ信号Sdがオーディオ信号Sd(1)である場合には、オーディオ信号Sd(0)である場合よりもレベル比データに応じて調整する出力レベルの低減量を大きくすればよい。
【0093】
<変形例8>
上述した実施形態における変調装置1、復調装置4によって実行される制御プログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスクなど)、光記録媒体(光ディスクなど)、光磁気記録媒体、半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶した状態で提供し得る。この場合には、これらの記録媒体を読み取る読み取り手段を設ければよい。また、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施形態に係る情報伝達システムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る変調装置の構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る切替器から出力されるキャリア信号の一例を示す説明図である。
【図4】実施形態に係るオーディオ信号の周波数帯域の変化を示す説明図である。
【図5】実施形態に係る復調装置の構成を示すブロック図である。
【図6】実施形態に係る再変調器の構成を示すブロック図である。
【図7】実施形態に係る再変調器からの出力信号の一例を示す説明図である。
【図8】実施形態に係るキャリア成分検出器の構成を示すブロック図である
【図9】実施形態に係るキャリア成分検出器からの出力信号の一例を示す説明図である。
【図10】実施形態に係るレベル検出器の構成を示すブロック図である。
【図11】実施形態に係るレベル検出器からの出力信号の一例を示す説明図である。
【図12】実施形態に係る加算器、DCカットフィルタ、正負符号判定器からの出力信号の一例を示す説明図である。
【図13】実施形態に係る復号化器に係る符号化情報の一例を示す説明図である。
【図14】変形例1に係る変調装置の構成を示すブロック図である。
【図15】変形例1に係る復調装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0095】
1…変調装置、2…スピーカ、3…マイクロフォン、4…復調装置、10…情報伝達システム、101…BPF、102,104…遅延回路、103…レベル検出器、105…レベル調整器、110…LPF、120,170…HPF、130…符号化器、140…キャリア周波数発生部、141,142…キャリア周波数発生器、150…切替器、160…乗算器、180…遅延回路、190…加算器、410…再変調器、411,412,413,423,424…BPF、414,415…加算器、416,417…レベル検出器、418,419…レベル調整器、4110,4120,4130…遅延回路、420…キャリア成分検出器、421,422,431,432…整流器、430…レベル検出器、433,434…LPF、440…加算器、450…移動平均算出器、460…DCカットフィルタ、470…正負符号判定器、480…復号化器、1010,4010…FFT部、1020…符号化器、1030…複製部、1040…逆FFT部、4020…判定部、4030…復号化器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ信号を入力する入力手段と、
符号化された符号化情報を取得する取得手段と、
前記入力手段によって入力されたオーディオ信号の所定の周波数未満の周波数帯域成分のうち、一部の周波数帯域成分を有するオーディオ信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出されたオーディオ信号の周波数帯域成分を、前記取得手段によって取得された符号化情報に応じたシフト量で前記所定の周波数以上の高周波数帯域にシフトさせる周波数シフト手段と、
前記周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを調整するレベル調整手段と、
前記レベル調整手段によって出力レベルが調整されたオーディオ信号を、前記入力手段によって入力されたオーディオ信号に重畳する重畳手段と
を具備することを特徴とする変調装置。
【請求項2】
前記レベル調整手段は、前記周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを低減させるように調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の変調装置。
【請求項3】
前記入力手段によって入力されたオーディオ信号の所定の周波数帯域の出力レベルと前記周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルとを測定するレベル測定手段
をさらに具備し、
前記レベル調整手段は、前記レベル測定手段によって測定された双方のオーディオ信号の出力レベルの比に応じて、前記周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを調整する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変調装置。
【請求項4】
前記レベル調整手段は、前記周波数シフト手段による周波数のシフト量が大きいほど、当該周波数シフト手段によって周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを少なくするように調整する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の変調装置。
【請求項5】
オーディオ信号を入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力されたオーディオ信号の周波数帯域の一部の周波数帯域の成分と、当該一部の周波数帯域から予め設定された複数のシフト量の周波数をシフトさせた複数の周波数帯域における成分の各々とについて、それぞれ出力レベル比を調整した後に加算することによって生じるオーディオ信号の振幅のうねりにより相関関係を検出して、検出結果に応じて前記複数のシフト量のいずれかを選択する検出手段と、
前記検出手段によって選択されたシフト量に応じて符号化された符号化情報を生成する符号化情報生成手段と
を具備することを特徴とする復調装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の変調装置と、
請求項5に記載の復調装置と、
前記変調装置の重畳手段によって重畳されたオーディオ信号を放音する放音手段と、
前記放音手段によって放音されたオーディオ信号を収音する収音手段と
を具備し、
前記復調装置の入力手段は、前記収音手段によって収音したオーディオ信号を入力し、
前記復調装置の検出手段において予め設定されるシフト量は、前記変調装置の周波数シフト手段によりシフトし得る周波数のシフト量である
ことを特徴とする情報伝達システム。
【請求項7】
オーディオ信号を入力する入力過程と、
符号化された符号化情報を取得する取得過程と、
前記入力過程において入力されたオーディオ信号の所定の周波数未満の周波数帯域成分のうち、一部の周波数帯域成分を有するオーディオ信号を抽出する抽出過程と、
前記抽出過程において抽出されたオーディオ信号の周波数帯域成分を、前記取得過程において取得された符号化情報に応じたシフト量で前記所定の周波数以上の高周波数帯域にシフトさせる周波数シフト過程と、
前記周波数シフト過程において周波数帯域がシフトされたオーディオ信号の出力レベルを調整するレベル調整過程と、
前記レベル調整過程において出力レベルが調整されたオーディオ信号を、前記入力過程において入力されたオーディオ信号に重畳する重畳過程と
を備えることを特徴とする変調方法。
【請求項8】
オーディオ信号を入力する入力過程と、
前記入力過程において入力されたオーディオ信号の周波数帯域の一部の周波数帯域の成分と、当該一部の周波数帯域から予め設定された複数のシフト量の周波数をシフトさせた複数の周波数帯域における成分の各々とについて、それぞれ出力レベル比を調整した後に加算することによって生じるオーディオ信号の振幅のうねりにより相関関係を検出して、検出結果に応じて前記複数のシフト量のいずれかを選択する検出過程と、
前記検出過程において選択されたシフト量に応じて符号化された符号化情報を生成する符号化情報生成過程と
を備えることを特徴とする復調方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate