説明

変速装置

【課題】高剛性のインプットシャフトを備えた変速装置を提供する。
【解決手段】ピニオンシャフト53が内包されるインプットシャフト51は、偏心ディスク52の内歯車とピニオンシャフト53のピニオンギア53aとが噛み合わせ可能となる開口部51eを有し、当該開口部51eの位相をずらし且つ軸方向に沿って配置された複数の偏心部51bと、この偏心部51bの軸方向の両側に形成された拡張部51c,51dとを有する。また、偏心ディスク52は、軸受57を介して拡張部51c,51dに支持され、インプットシャフト51は、軸受56を介してピニオンシャフト53に支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機構を備えた変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピニオンギアの回転により、内接ギアを有する偏心ディスクが、三日月状のカムの外径を中心に回転することで、入力軸回転中心に対する偏心量を無段階に変化させ、コンロッドのストロークを自在に変換する機構を備えた変速装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2009 039 993A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のように、断面三日月形状のカムを軸方向に連ねた構造のシャフト(インプットシャフト)では、カムの切欠き部分が位相をずらしながら配置されるため、このとき切欠き部分同士が軸方向において重ねて配置されることになり、曲げ荷重に対する剛性が低くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するものであり、高剛性のインプットシャフトを備えた変速装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、駆動源からの動力が伝達される略中空管形状のインプットシャフト、前記インプットシャフトの外周に配置される偏心ディスク、および前記インプットシャフトに内包されるピニオンシャフトを有し、前記偏心ディスクの回転中心と前記インプットシャフトの回転中心との間の距離を可変する回転半径可変機構と、前記偏心ディスクの回転運動を揺動運動に変換し、前記揺動運動をワンウェイクラッチに伝達する揺動変換手段と、を備え、前記インプットシャフトは、前記偏心ディスクの内接ギアと前記ピニオンシャフトのピニオンギアとが噛み合わせ可能となる開口部を有し、当該開口部の位相をずらし且つ軸方向に沿って配置された複数の偏心部と、前記偏心部の軸方向の少なくとも片側に形成された環状部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
これによれば、隣り合う開口部が形成された偏心部間に環状部(完全な筒状部)を備えるようにしたので、従来のように三日月形状の切欠き部分が軸方向に連続して形成されている場合よりもインプットシャフトの曲げ荷重に対する剛性を高くすることが可能になる。すなわち、環状の拡張部とすることで、完全な筒状の閉空間となるので、剛性を高めることが可能になる。
【0008】
また、前記環状部は、それぞれの前記偏心部の両側に円筒状に形成された拡張部を有し、前記偏心ディスクは、前記拡張部に対して第1軸受を介して支持されていることを特徴とする。
【0009】
これによれば、インプットシャフトの拡張部(環状部)つまり剛性の高い部分において偏心ディスクの荷重を受け持つことが可能になるため、インプットシャフトの撓みを低減することが可能になる。
【0010】
また、前記拡張部に対応する位置での外径は、前記開口部に対応する位置での外径よりも長く形成されていることを特徴とする。
【0011】
これによれば、開口部が形成された偏心部間の拡張部の断面を大きく確保できるので、インプットシャフトの剛性を高めることが可能になる。しかも、隣り合う偏心部間の拡張部同士の対向面積を拡大することができるので、インプットシャフトの剛性を高めることが可能になる。
【0012】
また、前記ピニオンシャフトは、前記拡張部と対応する位置において前記インプットシャフトに対して第2軸受を介して支持されていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、拡張部に入力された偏心ディスクの荷重をピニオンシャフト側でも受け持つことができるため、ピニオンシャフトを剛性部材として使用することが可能となり、インプットシャフトの撓みを低減することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高剛性のインプットシャフトを備えた変速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る変速装置を備えた駆動システムを示す構成図である。
【図2】本実施形態に係る変速装置の外観を示す一部省略斜視図である。
【図3】インプットシャフトを示す外観斜視図である。
【図4】(a)は図3のA−A線断面図、(b)は図3のB−B線断面図である。
【図5】(a)は偏心ディスクを示す平面図、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【図6】インプットシャフトの内部構造を示す斜視断面図である。
【図7】変速装置をピニオンシャフトの軸中心で切断したときの一部省略断面図である。
【図8】インプットシャフトの摺動位置を示す側面図である。
【図9】トランスミッションおよびワンウェイクラッチの側面図である。
【図10】トランスミッションおよびワンウェイクラッチの側面図であり、(a)は回転半径r1が最大、(b)は回転半径r1が中間、(c)は回転半径r1が0、の状態を示している。
【図11】回転半径r1が「最大」の状態における回転運動および揺動運動を示す動作説明図である。
【図12】回転半径r1が「中間」の状態における回転運動および揺動運動を示す動作説明図である。
【図13】回転半径r1が「0」の状態における回転運動および揺動運動を示す動作説明図である。
【図14】インプットシャフトの回転角度θ1と外リング(揺動部)の角速度ω2との関係を示すグラフである。
【図15】インプットシャフトの回転角度θ1と外リング(揺動部)の摺動速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について、図1ないし図15を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るトランスミッション30(変速装置)は、例えば、図示しないハイブリッド車(車両、移動体)などの駆動システム1に搭載されるものである。なお、車両の種類はこれに限定されず、ガソリン車でもよい。また、四輪車に限定されず、二輪車、三輪車でもよい。また、車両に限定されず、船舶や航空機でもよい。
【0017】
駆動システム1は、内燃機関10(駆動源)と、トランスミッション30と、複数(ここでは6つ)のワンウェイクラッチ60を有するワンウェイクラッチ装置と、車両の前進時に一体となって正方向(一方向)で回転する出力軸70と、システムを電子制御するECU100(Electronic Control Unit、電子制御装置)と、を備えている。
【0018】
内燃機関10は、例えば直列4気筒型(3気筒以下であってもよく、5気筒以上であってもよい)で駆動可能に構成されたレシプロエンジンである。また、「正方向」は車両の前進方向に対応する方向であり、「逆方向」は車両の後退方向に対応する方向である。
【0019】
トランスミッション30は、揺動変換手段40と、回転半径可変機構(偏心量可変機構)50と、を備えている。
【0020】
図2は、本実施形態に係る変速装置の外観を示す一部省略斜視図である。
図2に示すように、揺動変換手段40は、後記するインプットシャフト51の回転運動が入力される回転部41と、回転部41と一体であり、その揺動運動をワンウェイクラッチ60に伝達する揺動部42と、軸受43と、を有している。この回転部41と揺動部42とでコンロッドを構成している。なお、図2では、6本のコンロッドのうち4本のコンロッドの図示を省略し、またワンウェイクラッチ60については6個の外リング62(後記する)のみを図示している。
【0021】
コンロッドの回転部41は、軸受43を介して、後記する偏心ディスク52に外嵌するように設けられている。また、コンロッドの揺動部42は、ピン44を介して、ワンウェイクラッチ60の外リング62に回動自在に連結されている。
【0022】
これにより、回転部41と偏心ディスク52とは、相対的に回動自在となっている。したがって、回転部41は、入力中心軸線O1(図9参照)を中心として回転半径(偏心量)r1で回転する偏心ディスク52に同期して回転するものの、回転部41は偏心ディスク52に対して相対的に回動するので、コンロッド全体は回転せず、コンロッドはその姿勢を略維持したままとなる。そして、回転部41が一回転すると、回転半径r1の大小に関わらず、揺動部42が円弧状で一往復揺動運動し、外リング62も円弧状で一往復揺動運動するようになっている。
【0023】
回転半径可変機構50は、略中空管形状のインプットシャフト51と、6枚の偏心ディスク52と、インプットシャフト51に内包されるピニオンシャフト53と、ピニオンシャフト53を回動させるDCモータ54と、減速機構55と、を備えている。
【0024】
図3は、インプットシャフトを示す外観斜視図である。
図3に示すように、インプットシャフト51は、6個の偏心部51bと、各偏心部51bの軸方向の両側に形成される拡張部51c,51dと、偏心部51bの並び方向の一端面から軸方向に延びる連結軸51fと、を備え、例えば金型成形により一体に形成されている。なお、インプットシャフト51は、一体ものに限定されず、複数に分割されて組立てられるものであってもよい。
【0025】
また、インプットシャフト51内には、各偏心部51bおよび各拡張部51c,51dが軸方向に連なって配置されることで、ピニオンシャフト53が挿入される直線状の中空部51aが形成されている。なお、インプットシャフト51の一端の連結軸51fは、内燃機関10のクランク軸12と連結され、クランク軸12(図1参照)の回転動力がインプットシャフト51に伝達されるようになっている。
【0026】
また、インプットシャフト51は、並んで配置された6個の偏心部51bの軸方向の両端に支持部51s,51sを備えている。一方(図3の右側)の支持部51sには、中空部51aと連通する貫通孔が形成されている。これら支持部51s,51sは、図示しないミッションケースの壁部に、図示しない軸受を介して、回転自在に支持されている。なお、インプットシャフト51の入力中心軸線O1と、クランク軸12(図1参照)の回転軸線とは一致している。
【0027】
中空部51aは、その入力中心軸線O1上に、ピニオンシャフト53(図2参照)が回転自在に挿入されるように構成されている。また、各偏心部51bは、周方向に沿って部分的に切り欠かれて、径方向外側に開口した開口部51eを有している。開口部51eは、各偏心部51bに形成され、60°毎に位相をずらしながら形成されている。インプットシャフト51内にピニオンシャフト53が挿入されることにより、各開口部51eからピニオンシャフト53に形成されたピニオンギア53aが露出し(図2参照)、後記する偏心ディスク52の内歯車52b(内接ギア)と噛合するようになっている。
【0028】
また、隣り合う開口部51e間に形成される拡張部51c,51dは、それぞれ軸方向に向けられた面同士が若干ずれて接合されている。また、拡張部51c,51dは、偏心部51bよりも大径に形成されている。このように、対向する拡張部51cと拡張部51dとが広い面積で接合されることになり、従来のような拡張部を備えないインプットシャフトと比べてインプットシャフト51の剛性を高めることが可能になる。
【0029】
図4は、(a)は図3のA−A線断面図、(b)は図3のB−B線断面図である。
図4(a)に示すように、偏心部51bは、入力中心軸線O1に対して一定の偏心距離で偏倚した軸方向視(輪切り断面視)で略三日月形状に形成されている。本実施形態での6つの偏心部51bは、インプットシャフト51の軸方向(入力中心軸線O1)において等間隔で配置されると共に、周方向において等間隔(60°間隔)で配置されている。
【0030】
拡張部51c,51dは、それぞれ円筒状(円盤状)に形成され、偏心部51bの両側縁部に沿って一体に形成されている。すなわち、図4(b)に示すように、拡張部51c,51dの外径D2は、偏心部51bの外径D1(図4(a)参照)よりも長く形成されるとともに輪切り断面視で円筒状に形成されている。これにより、拡張部51c,51dは、中空部51aの周囲がすべて壁面で覆われた形状を有するようになっている。よって、隣り合う偏心部51b間は、完全な筒形状(環状)の拡張部51cと拡張部51dとが面同士で接して配置されるようになっている。このように、拡張部51c,51dによって、閉空間(閉じた中空部51a)が形成されることによりインプットシャフト51の剛性を高めることができる。
【0031】
図5(a)に示すように、各偏心ディスク52は、軸方向視において略円盤状に形成され、インプットシャフト51の偏心部51bにそれぞれ設けられている。また、偏心ディスク52は、その中心である第1支点O3に対して偏心した位置に、円形の偏心孔52aが形成され、この偏心孔52aには偏心部51bが回転可能に内嵌している。なお、偏心ディスク52は、例えば二分割して構成され、偏心部51bに嵌合するように取り付けられる。
【0032】
また、偏心孔52aの内周面には内歯車52b(内接ギア)が周方向に沿って360°形成されており、内歯車52bがインプットシャフト51の開口部51eから露出したピニオンギア53a(図2参照)と噛合するようになっている。
【0033】
図5(a),(b)に示すように、各偏心ディスク52の両側面(軸方向に向いている面)には、偏心孔52aの周囲に円筒状の鍔部52cが突出して形成されている。この鍔部52cは、偏心ディスク52の直径よりも小径に形成され、偏心ディスク52の外周面52mと、鍔部52cの外周面52nとが一部において面一となるように構成されている。
【0034】
なお、鍔部52cの突出寸法Lは、前記した拡張部51c,51dの軸方向への厚み寸法D(図3参照)と略同じに設定され、鍔部52c,52c内に拡張部51c,51dが配置されるように構成されている。また、各鍔部52cの内周面52dは、完全な円形状を呈している。
【0035】
また、各偏心ディスク52の側面には、鍔部52cの周囲に三日月形状の肉抜き部52e,52eが形成されている。これにより、偏心ディスク52の軽量化が図られている。
【0036】
図6は、インプットシャフトの内部構造を示す斜視断面図である。なお、図6では、偏心ディスク52の図示を省略している。
図6に示すように、ピニオンシャフト53は、ピニオンギア53aと、軸部53bと、動力入力部53c(図2参照)と、を備え、インプットシャフト51の軸方向一端に形成された挿入穴51t(図2参照)から中空部51a内に挿入される。
【0037】
ピニオンギア53aは、軸方向に等間隔に、かつ、偏心ディスク52の内歯車52b(図5、図7参照)と対応する位置(本実施形態では6箇所)に配置されている。よって、ピニオンギア53aは、インプットシャフト51の開口部51eから露出して偏心ディスク52の内歯車52bと噛合している。ピニオンギア53aが回転することで、偏心ディスク52の回転中心(第1支点O3、図5(a)参照)とインプットシャフト51の回転中心(入力中心軸線O1)との距離(偏心量)を可変できるようになっている。なお、回転半径可変機構50の詳細については後記する。
【0038】
軸部53bは、ピニオンシャフト53の軸方向の一端に形成され、インプットシャフト51内に形成された軸穴51g内に軸受53eを介して支持されている。
【0039】
動力入力部53c(図2参照)は、ピニオンシャフト53の軸方向の他端に形成され、後記する減速機構55(図2参照)とギアを介して連結されている。なお、図2では、ギアの図示を省略している。
【0040】
このようなピニオンシャフト53は、(1)偏心部51bと偏心ディスク52(図5参照)とをロック(相対位置を保持)し、回転半径(偏心量)r1(図9参照)を保持する機能と、(2)偏心部51bと偏心ディスク52とを相対回転させ、回転半径r1を可変する機能と、を備えている。
【0041】
また、ピニオンシャフト53が、偏心部51b(インプットシャフト51)と同期して回転すると、つまり、ピニオンシャフト53が、偏心部51b(インプットシャフト51、クランク軸12)と同一の回転速度で回転すると、偏心部51bと偏心ディスク52との相対位置が保持され、つまり、偏心部51bと偏心ディスク52とが一体化して回転し、回転半径r1が保持されるようになっている。
【0042】
一方、ピニオンシャフト53が、偏心部51bと異なる回転速度(上回る回転速度/下回る回転速度)で回転すると、ピニオンシャフト53に内歯車52bで噛合する偏心ディスク52が偏心部51bの周りに相対回転し、その結果、回転半径r1が可変するようになっている。
【0043】
また、ピニオンギア53aとピニオンギア53aとの間には、一体に形成された拡張部51c,51dと対応する位置に軸受56(第2軸受)が設けられている。この軸受56は、例えば周方向に等間隔で配置された複数のコロ、各コロを保持する保持器などで構成されたコロ軸受で構成され、コロがインプットシャフト51の中空部51aの周壁に摺動可能に構成されている。これにより、ピニオンシャフト53がインプットシャフト51内において軸受56を介して支持されている。
【0044】
図7は、変速装置をピニオンシャフトの軸中心に沿って切断したときの一部省略断面図である。なお、図7では、図示左下側の内歯車52bがピニオンギア53aと噛合している。
【0045】
図7に示すように、インプットシャフト51の偏心部51bの外周に偏心ディスク52の内歯車52bが配置されるが、このとき、偏心ディスク52の鍔部52c,52cが拡張部51c,51dの外周面に軸受57,57を介して支持される。これにより、偏心ディスク52からの荷重をインプットシャフト51の拡張部51c,51dにおいて受けることができる。なお、本実施形態では、軸受57がコロ軸受であるが、玉軸受であってもよい。
【0046】
また、偏心ディスク52の外周には、コンロッドの回転部41が軸受43を介して取り付けられる。これにより、コンロッドの回転部41が偏心ディスク52に対して回動自在に支持される。なお、本実施形態では、軸受43がコロ軸受である場合を図示しているが、玉軸受を適用するようにしてもよい。
【0047】
図8は、インプットシャフトの摺動位置を示す側面図である。なお、図8は、ひとつの偏心ディスク52に対応する拡張部51c(51d)、ピニオンギア53a、軸受56,57を図示している。
【0048】
図8に示すように、インプットシャフト51とピニオンシャフト53とが同期して回転している場合、偏心ディスク52がコンロッドとともに回転運動するとき、偏心ディスク52からインプットシャフト51に加わる荷重(応力)F1を、軸受57を介して拡張部51c(51d)で受けることができ、さらに、拡張部51c(51d)に加わる荷重(応力)F2を、軸受56を介してピニオンシャフト53でも受けることができる。
【0049】
DCモータ54(図2参照)は、ECU100の指令に従って回転し、減速機構(遊星歯車機構)55(図2参照)を介して、ピニオンシャフト53を適宜な回転速度にて回動させるものである(図1参照)。
【0050】
減速機構55は、ピニオンシャフト53の動力入力部53cと噛合しており、DCモータ54の出力が120:1程度に減速されて、ピニオンシャフト53に入力されるようになっている。
【0051】
このような回転半径可変機構50により、インプットシャフト51(クランク軸12)の回転運動によって回転する各コンロッドの回転部41の回転半径(偏心量)r1が無段階で可変されるので、各コンロッドの揺動部42の角速度ω2(揺動速度:図9参照)および揺動角度θ2(揺動振幅:図9参照)が可変し、変速比i(レシオ)を、無限無段階で変速できるようになっている。
【0052】
図9は、トランスミッションおよびワンウェイクラッチの側面図である。
なお、回転半径r1(偏心量)は、図9に示すように、入力中心軸線O1と偏心ディスク52の中心である第1支点O3との距離である。ちなみに、揺動部42の揺動中心は、出力軸70の出力中心軸線O2で固定であり、揺動半径r2(第2支点O4と出力中心軸線O2の距離)も固定である。
【0053】
ワンウェイクラッチ装置は、6つのワンウェイクラッチ60を有している。各ワンウェイクラッチ60は、コンロッドの揺動部42の正方向のみの動力を、出力軸70に伝達させるものである。
【0054】
各ワンウェイクラッチ60は、出力軸70の外周面に一体に固定され出力軸70と一体で回転する内リング61(クラッチインナ)と、内リング61に外嵌するように設けられた外リング62(クラッチアウタ)と、内リング61と外リング62との間で周方向に複数設けられたローラ63と、各ローラ63を付勢するコイルばね64(付勢部材)と、を備えている。
【0055】
外リング62は、コンロッドの揺動部42と回動自在に連結されており、外リング62は揺動部42の揺動運動に連動して、正方向(矢印A1参照)/逆方向(矢印A2参照)に揺動運動する。
【0056】
ローラ63は、内リング61と外リング62とを互いにロック状態/非ロック状態とするものであり、各コイルばね64は、ローラ63を前記ロック状態となる方向に付勢している。
【0057】
なお、出力軸70は、円筒状を呈しており、図示しないミッションケースに、軸受(不図示)を介して、出力中心軸線O2(図9参照)を中心として、回転自在に支持されている。
【0058】
これにより、6つのワンウェイクラッチ60の6つの外リング62(リング)の揺動運動の位相が等間隔(60°間隔)でずれることになり、その結果、位相がずれて揺動運動する6つの外リング62から内リング61に、6つの外リング62の揺動運動の正方向における動力が連続的に伝達されるようになっている。
【0059】
次に、図10を参照して回転半径(偏心量)r1が可変する機構を説明し、図11〜図15を参照して、異なる3パターンの回転半径r1における偏心ディスク52(回転部41)の回転運動と、揺動部42の揺動運動について詳述する。
【0060】
図10(a)に示すように、第1支点O3(偏心ディスク52の中心)と入力中心軸線O1(ピニオンシャフト53の中心)とが最も遠ざかると、回転半径r1が「最大」となるように構成されている。
【0061】
そして、ピニオンシャフト53が偏心部51bと異なる回転速度で回転し、偏心部51bと偏心ディスク52とが相対回転すると、図10(b)に示すように、第1支点O3と入力中心軸線O1とが近づき、回転半径r1が「中」となるように構成されている。
【0062】
さらに、偏心部51bと偏心ディスク52とが相対回転すると、図10(c)に示すように、第1支点O3と入力中心軸線O1とが重なり、回転半径r1が「0」となるように構成されている。
【0063】
このように、回転半径r1は、「最大」と「0」との間で、無段階で制御可能となっている。
【0064】
次に、図10(a)に示す回転半径r1が「最大」の状態において、偏心部51bとピニオンシャフト53とを同期して回転させると、図11(a)〜図11(d)に示すように、偏心部51b、偏心ディスク52およびピニオンシャフト53は一体化して、回転半径r1を「最大」で保持したまま回転する。
【0065】
また、図10(b)に示す回転半径r1が「中」の状態において、偏心部51bとピニオンシャフト53とを同期して回転させると、図12(a)〜図12(d)に示すように、偏心部51b、偏心ディスク52およびピニオンシャフト53は一体化して、回転半径r1を「中」で保持したまま回転する。
【0066】
また、図10(c)に示す回転半径r1が「0」の状態において、偏心部51bとピニオンシャフト53とを同期して回転させると、図13(a)〜図13(d)に示すように、偏心部51b、偏心ディスク52およびピニオンシャフト53は一体化して、回転半径r1を「0」で保持したまま回転するようになっている。つまり、偏心部51b、偏心ディスク52およびピニオンシャフト53が、回転部41内で空転し、コンロッド(回転部41)が動作しないことになる。
【0067】
図14は、インプットシャフトの回転角度θ1と外リング(揺動部)の角速度ω2との関係を示すグラフである。図15は、インプットシャフトの回転角度θ1と外リング(揺動部)の摺動速度との関係を示すグラフである。
【0068】
図14に示すように、回転半径r1が「最大」の場合、揺動部42(外リング62)の角速度ω2および揺動角度θ2が「最大」となる。また、「変速比i=インプットシャフト51の回転速度/出力軸70の回転速度」であり、「外リング62の揺動速度=外リング62の半径(固定値)×角速度ω2」であるから、変速比iは「小」となる。
【0069】
また、回転半径r1が「中」の場合、揺動部42(外リング62)の角速度ω2および揺動角度θ2が「中」となる。そして、変速比iは「中」となる。また、外リング62の揺動角度は、「中」となる。
【0070】
また、回転半径r1が「0」の場合、揺動部42(外リング62)の角速度ω2および揺動角度θ2が「0」となる。そして、変速比iは「∞(無限大)」となる。また、外リング62の揺動角度は、ゼロとなる。
【0071】
このようにして、回転半径r1が保持された状態(偏心部51bとピニオンシャフト53とが同期回転する状態)では、回転半径r1の大小に関わらず、インプットシャフト51の回転周期と、揺動部42および外リング62の揺動周期とは、同期(回転半径r1=0の場合を除く)することになる。
【0072】
すなわち、本実施形態では、揺動変換手段40、回転半径可変機構50およびワンウェイクラッチ60によって、入力中心軸線O1、出力中心軸線O2、第1支点O3、第2支点O4の4つの節を回動点とする四節リンク機構が構成されている。
【0073】
そして、入力中心軸線O1を中心とする第1支点O3の回転運動によって、第2支点O4が出力中心軸線O2を揺動中心として揺動運動するようになっている。また、回転半径可変機構50により、回転半径r1を可変することで、第2支点O4の角速度ω2および揺動角度θ2が可変されるようになっている。
【0074】
そして、図15に示すように、外リング62の正方向の揺動速度が、内リング61(出力軸70)の正方向の回転速度を超えた場合、ローラ63によって外リング62と出力軸70とがロック状態(動力伝達状態)となる。これにより、コンロッドの揺動部42の正方向の動力が、ワンウェイクラッチ60を介して、出力軸70に伝達され、出力軸70が回転駆動するようになっている。
【0075】
なお、図15では、外リング62から内リング61に動力が伝達する状態を太線で示している。また、図15に示すように、外リング62の正方向の揺動速度が内リング61の回転速度以下となっても、所定区間は、ローラ63がコイルばね64の弾性力により、外リング62から内リング61に動力が伝達するようになっている。
【0076】
図1に戻って、ECU100は、駆動システム1を電子制御する制御装置であり、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成されており、その内部に記憶されたプログラムに従って、各種機能を発揮し、各種機器を制御するようになっている。
【0077】
駆動システム1は、クラッチ91と、デフ装置92(ディファレンシャル装置)と、第1モータジェネレータ101と、第2モータジェネレータ102と、バッテリ103と、を備えている。さらに説明すると、出力軸70は、ECU100により制御されるクラッチ91を介して、デフ装置92を構成するデフケース93に連結されている。
【0078】
クラッチ91は、出力軸70とデフケース93との間において動力を伝達/遮断するものである。
【0079】
デフ装置92は、デフケース93内にサイドギアやピニオンギアを備えている。そして、右側のサイドギアは、右側の駆動輪94Aと一体に回転可能な第1駆動シャフト95Aと連結されており、左側のサイドギアは、左側の駆動輪94Bと一体に回転可能な第2駆動シャフト95Bと連結されている。これにより、第1駆動シャフト95A(駆動輪94A)と第2駆動シャフト95B(駆動輪94B)とは、デフ装置92を介して差動回転するようになっている。
【0080】
なお、車両の前進時、通常、クラッチ91は出力軸70とデフケース93とを連結するように制御される。これにより、車両の前進時、通常、出力軸70は、正方向(車両が前進する方向)で回転するようになっている。
【0081】
バッテリ103は、例えば、リチウムイオン型で充放電可能に構成され、第1モータジェネレータ101と、第2モータジェネレータ102との間で、電力を授受し、また前記したDCモータ54(図2参照)に電力を供給するようになっている。
【0082】
第1モータジェネレータ101の出力軸には第1ギア104が固定されており、第1ギア104はデフケース93に固定された第2ギア105と噛合している。これにより、第1モータジェネレータ101とデフケース93との間で動力が授受されるように構成され、第1モータジェネレータ101がモータまたはジェネレータ(発電機)として機能するようになっている。
【0083】
すなわち、モータとして機能する場合、第1モータジェネレータ101はバッテリ103を電源とし、ジェネレータとして機能する場合、第1モータジェネレータ101の発電電力はバッテリ103に充電されるようになっている。
【0084】
第2モータジェネレータ102の出力軸は内燃機関10のクランク軸12と連結されている。なお、第2モータジェネレータ102をモータとして機能させる場合、つまり、バッテリ103を電源として駆動させモータとして機能させる場合は、例えば、クランク軸12の回転をアシストする場合や、内燃機関10のスタータとして機能させる場合である。一方、第2モータジェネレータ102をジェネレータとして機能させる場合は、第2モータジェネレータ102の発電電力をバッテリ103に充電する場合である。
【0085】
以上説明したように、本実施形態に係るトランスミッション30(変速装置)では、偏心ディスク52の内歯車52bとピニオンシャフト53のピニオンギア53aとが噛み合わせ可能となる開口部51eを有し、当該開口部51eの位相をずらし且つ軸方向に沿って配置された複数の偏心部51bと、この偏心部51bの軸方向の両側に拡張部51c,51dと、を備えたので、インプットシャフト51の剛性を高めることが可能になる。ところで、従来技術では、開口部の切欠き部分同士が軸方向において一部で重なり(完全な円筒部が存在しないため)、荷重(曲げ荷重、応力)に対してインプットシャフトの剛性が低くなる。しかし、本実施形態では、開口部51eが形成された偏心部51b間に拡張部51c,51d(環状部)を設けて完全な円筒部を備えるように構成したため、拡張部51c,51dによって完全な閉空間となる部分が形成され、荷重(曲げ荷重)に対してインプットシャフト51の剛性を高くできる。
【0086】
ちなみに、インプットシャフト51が撓むと、偏心量が変化し、それによってレシオ(変速比i)が変化するおそれがあるが、本実施形態では、インプットシャフト51の剛性を高めて、インプットシャフト51の撓みを抑制することができるので、より理論値に近い(理想的な)4節リンク機構の位置関係(配置)を維持することができ、レシオ精度を向上することが可能になる。
【0087】
また、本実施形態では、拡張部51c,51dが円筒形状であり、偏心ディスク52が拡張部51c,51dに対して軸受57(第1軸受)を介して支持されているので、拡張部51c,51dの部分においてつまり剛性の高い部分において偏心ディスク52の荷重を受け持つことが可能になり、インプットシャフト51の撓みを低減することが可能になる。
【0088】
また、本実施形態では、拡張部51c,51dの外径D2が偏心部51bの外径D1よりも長く形成されているので、拡張部51cと拡張部51dとの接合面積を大きく確保でき、インプットシャフト51の剛性をさらに高めることが可能になる。よって、曲げ荷重に対するインプットシャフト51の剛性を従来よりも高めることが可能になる。
【0089】
また、本実施形態では、ピニオンシャフト53が拡張部51c,51dと対応する位置においてインプットシャフト51に対して軸受56(第2軸受)を介して支持されているので、拡張部51c,51dに入力された偏心ディスク52の荷重をピニオンシャフト51側でも受けることができるため、つまりピニオンシャフト51を剛性部材として利用することが可能となり、インプットシャフト51の撓みをさらに低減することが可能になる。
【0090】
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を変更しない範囲において種々変更できる。例えば、本実施形態では、拡張部51c,51dの外径D2が偏心部51bの外径D1よりも長い場合を例に挙げて説明したが、このような構成に限定されるものではなく、拡張部51c,51dの外径D2が偏心部51bの外径D1がよりも小さくなるように構成してもよい。なお、偏心部51bの外径D1は、インプットシャフト51の剛性を高めることができる範囲において設定することができる。拡張部51c,51dの輪切り断面を小さく形成したとしても、拡張部51c,51dを環状(完全な円筒状)に形成することで、インプットシャフト51の剛性を従来よりも向上できる。
【0091】
また、本実施形態では、偏心部51bの両側に拡張部51c,51dを備える場合を例に挙げて説明したが、両側に限定されるものではなく、偏心部51bの片側のみであってもよい。偏心部51bの片側のみでも環状部を備えることになるので、インプットシャフト51の剛性を高めることが可能になる。
【0092】
また、本実施形態では、軸受56,57を備えた場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、軸受56を不要にしてもよく、軸受57を不要にしてもよく、または軸受56および軸受57を不要にしてもよい。また、拡張部51c,51dが円筒形状の場合を例に挙げて説明したが、軸受57を備えない場合に拡張部51c,51dの形状を非円筒状に形成してもよい。
【0093】
また、本実施形態では、1つのトランスミッション30を備える動力伝達装置を例に挙げて説明したが、これに限定されず、2つの内燃機関(第1内燃機関、第2内燃機関)と、2つのトランスミッション30(第1トランスミッション、第2トランスミッション)を備える構成であってもよい。また、内燃機関とトランスミッションを3つ以上備える構成であってもよい。
【0094】
前記した実施形態では、内燃機関10がレシプロエンジンである構成を例示したが、その他に例えば、ロータリエンジン、ガスタービンエンジン等でもよく、また、これらを組み合わせてもよい。
また、駆動力発生装置が内燃機関10である構成を例示したが、その他に例えば、電動モータ、油圧モータでもよく、さらに、電動モータ等と内燃機関とを組み合わせてもよい。
【0095】
前記した実施形態では、内燃機関10がガソリンを燃焼させるガソリンエンジンである構成を例示したが、その他に例えば、軽油を燃焼させるディーゼルエンジン、水素を燃焼
させる水素エンジン等でもよく、また、これらを組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 駆動システム
10 内燃機関(駆動源)
12 クランク軸
30 トランスミッション(変速装置)
40 揺動変換手段
41 回転部(揺動変換手段)
42 揺動部(揺動変換手段)
43 軸受(揺動変換手段)
50 回転半径可変機構
51 インプットシャフト(回転半径可変機構)
51a 中空部
51b 偏心部
51c,51d 拡張部(環状部)
51e 開口部
52 偏心ディスク(回転半径可変機構)
52a 偏心孔
52b 内歯車(内接ギア)
52c 鍔部
52d 内周面
52e 肉抜き部
53 ピニオンシャフト(回転半径可変機構)
53a ピニオンギア
54 DCモータ(回転半径可変機構)
55 減速機構(回転半径可変機構)
56 軸受(第2軸受)
57 軸受(第1軸受)
60 ワンウェイクラッチ
61 内リング
62 外リング
70 出力軸
100 ECU(制御手段)
O1 入力中心軸線
O2 出力中心軸線
O3 第1支点
O4 第2支点
D1,D2 外径
r1 回転半径
r2 揺動半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力が伝達される略中空管形状のインプットシャフト、前記インプットシャフトの外周に配置される偏心ディスク、および前記インプットシャフトに内包されるピニオンシャフトを有し、前記偏心ディスクの回転中心と前記インプットシャフトの回転中心との間の距離を可変する回転半径可変機構と、
前記偏心ディスクの回転運動を揺動運動に変換し、前記揺動運動をワンウェイクラッチに伝達する揺動変換手段と、を備え、
前記インプットシャフトは、
前記偏心ディスクの内接ギアと前記ピニオンシャフトのピニオンギアとが噛み合わせ可能となる開口部を有し、当該開口部の位相をずらし且つ軸方向に沿って配置された複数の偏心部と、
前記偏心部の軸方向の少なくとも片側に形成された環状部と、を備えることを特徴とする変速装置。
【請求項2】
前記環状部は、それぞれの前記偏心部の両側に円筒状に形成された拡張部を有し、
前記偏心ディスクは、前記拡張部に対して第1軸受を介して支持されていることを特徴とする請求項1に記載の変速装置。
【請求項3】
前記拡張部に対応する位置での外径は、前記開口部に対応する位置での外径よりも長く形成されていることを特徴とする請求項2に記載の変速装置。
【請求項4】
前記ピニオンシャフトは、前記拡張部と対応する位置において前記インプットシャフトに対して第2軸受を介して支持されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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