説明

外側コアの製造方法、外側コア、およびリアクトル

【課題】リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる外側コアの製造方法を提供する。
【解決手段】リアクトルに具わる外側コアを平面視した場合、外側コアの平面形状が、外側コアの内側コアとの対向側よりも、その反対側の方が、対向面に沿った幅方向の寸法が小さい形状の加圧成形体である。この外側コアを製造するための製造方法であって、準備工程と、成形工程とを具える。準備工程では、外側コアの原料粉末として、軟磁性粒子に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用意する。成形工程では、相対的に移動可能な柱状の下パンチ12と筒状のダイ10Aとで作られる成形空間31に、被覆軟磁性粉末を充填し、下パンチ12と柱状の上パンチ11とにより成形空間31内の被覆軟磁性粉末を加圧成形する。その際、外側コアにおける対向面を上パンチ11で加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルと環状のコアとを具えるリアクトルの構成部品のうち、コイルから露出してコアの一部を構成する外側コアを製造する外側コアの製造方法、その製造方法により製造される外側コア、および、その外側コアを具えるリアクトルに関するものである。特に、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車などは、モータへの電力供給系統に昇圧回路を備えている。この昇圧回路の一部品として、リアクトルが利用されている。このリアクトルとして、例えば、特許文献1に示すものがある。
【0003】
特許文献1のリアクトルは、図7に示すように、コイル105と、コイル105内に配される内側コア101cと、コイル105から露出して配される外側コア101eとを具える。より具体的には、図8に示すように、コイル105は、巻線105wを螺旋状に巻回した一対のコイル素子105a、105bを互いに並列状態で接続してなる。内側コア101cは、矩形断面を有する柱状体で、各コイル素子105a、105bの内側に配される。外側コア101eは、コイル105から露出し、略台形(台形状)の上下面を有する柱状体で、両内側コア101cの端面と対向して環状のコアを形成する。これら構成部材は、図8の紙面左右方向から一体に組み合わされて、図7に示すリアクトル100が形成されている。
【0004】
外側コア101eは、軟磁性粒子に絶縁被膜を被覆した被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を原料粉末とし、この原料粉末を加圧成形してなる。その加圧は、一般的に、相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状のダイとでつくられる成形空間に被覆軟磁性粉末を充填し、第一パンチと柱状の第二パンチとにより成形空間内の被覆軟磁性粉末を圧縮することで行われる。その際、第一パンチと第二パンチが外側コアの上下面を形成するように被覆軟磁性粉末が圧縮される。これは、圧粉成形体の成形は、加圧方向と直交する方向を切断面とした成形体の断面が均一となるように原料粉末を圧縮することが一般的だからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−272772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようにして製造された外側コアは、ダイに囲まれる外側面、つまり、加圧される方向と平行な面(磁束方向と垂直な面)において、この加圧成形時の圧力や、成形体の脱型時における金型との摺接により被覆軟磁性粒子の絶縁被膜が損傷する虞がある。絶縁被膜が損傷すると、軟磁性粒子が露出し展延することがあり、その結果、圧粉成形体における軟磁性粒子同士が導通して、略膜状の導通部を形成してしまい、渦電流損の増大を招いて、外側コアの磁気特性が低下する虞がある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる外側コアの製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明のもう一つの目的は、上記本発明の製造方法により製造された外側コアを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、低損失なリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、外側コアを加圧成形する際に、加圧方向を特定する、つまり圧粉成形体の特定の面を加圧することで、上記目的を達成する。具体的には、加圧方向と直交する方向を切断面とした成形体の断面が不均一となる方向に被覆軟磁性粉末の圧縮を行う。
【0011】
本発明の外側コアの製造方法は、以下のリアクトルに具わる外側コアを加圧成形により製造する方法である。そのリアクトルとは、コイルと内側コアと外側コアとを具える。より具体的には、上記コイルは、巻線を螺旋状に巻回した一対のコイル素子を互いに並列状態で接続してなる。内側コアは、一対あって、上記各コイル素子の内側に配される。上記外側コアは、一対あって、上記コイルから露出し、各内側コアと連結して当該内側コアと環状のコアを形成する。また、上記内側コアとの連結面を含むと共に、上記内側コアを挟んで他方の外側コアと対面する対向面を有する。そして、上記外側コアを上記環状のコアの軸方向から平面視した場合、上記外側コアの平面形状は、上記外側コアの上記内側コアとの対向側よりも、その反対側の方が、上記対向面に沿った幅方向の寸法が小さい形状である。上記製造方法は、この外側コアを製造するための製造方法であって、準備工程と、成形工程とを具える。準備工程では、上記外側コアの原料粉末として、軟磁性粒子に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用意する。成形工程では、相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状ダイとで作られる成形空間に、上記被覆軟磁性粉末を充填し、上記第一パンチと当該第一パンチに対向配置された柱状の第二パンチとにより上記成形空間内の被覆軟磁性粉末を加圧成形する。その際、上記外側コアにおける上記対向面を上記第二パンチで加圧する。
【0012】
本発明の製造方法によれば、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる。成形工程において、上記対向面となる面を加圧することで、その面は、加圧の際、あるいは、脱型時に金型と摺接しない。そのため、対向面における被覆軟磁性粉末の絶縁被膜は損傷し難く、軟磁性粒子同士が導通する導通部を形成し難い。対向面は、内側コアと連結される連結面を含んでおり、リアクトルを組み立ててコイルを励磁すると、この連結面は磁束が略直交して通過する鎖交面となる。つまり、導通部が対向面に形成され難いことで、連結面の表面に渦電流が発生し難いので、渦電流損を低減できる。
【0013】
本発明の製造方法の一形態として、上記軟磁性粒子が、純鉄であることを特徴とすることが挙げられる。
【0014】
上記の方法によれば、軟磁性粒子が純鉄であっても、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる。純鉄は、柔らかいため加圧成形すると変形し易く、被覆軟磁性粉末の加圧時、あるいは成形体の脱型時において金型との摺接により絶縁被膜が損傷し易い。そのため、上記導通部が形成され易く損失が増大し易い。しかし、上記対向面となる面を加圧することで、対向面に導通部が形成され難く、そのため、対向面の表面に渦電流は発生し難い。その結果、軟磁性粒子が純鉄であっても、損失を低減できる外側コアを製造できる。
【0015】
本発明の製造方法一形態として、上記外側コアの平面形状が、下記(A)〜(C)のいずれかであることが挙げられる。
(A)外側コアの内側コアとの対向側を弦、その反対側を弧とする弓形状。
(B)外側コアの内側コアとの対向側を長辺とする台形状。
(C)外側コアの内側コアとの対向側が開口部となるU字状。
【0016】
上記の方法によれば、外側コアの平面形状が上記のいずれであっても、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる。ここで言う上記弓形状には、弦と弧だけで形成される弓形以外に、弦と弧を有する略弓形を含む。具体的には、弧の一部を弦と平行に切り欠いた形状、弧の一部から上記反対側方向に突出する突出部を有する形状などが挙げられる。上記台形状、およびU字状も同様である。つまり、上記台形状には、長辺とその反対側の短辺とで形成される台形以外に、長辺と短辺とを有する略台形を含む。具体的には、台形の短辺側に突出する突出部を有する形状が挙げられる。上記U字状には、対向側が開口部となるU字形以外に、開口部を有する略U字形を含む。具体的には、開口部の反対側の一部を上記連結面と平行に切り欠いた形状、その反対側の一部から当該反対側方向に突出する突出部を有する形状などを含む。上記の各突出部は、上記反対側方向に一様な形状でもよいし、上記対向側から上記反対側方向に向かって幅が狭くなる形状でもよい。例えば、矩形などの多角形状の他、弓形状、半円状などが挙げられる。
【0017】
本発明の製造方法の一形態として、上記外側コアの平面形状が、さらに、下記(D)と(E)の少なくとも一方を具えることが挙げられる。
(D)上記対向面における上記第二パンチの加圧面と平行な面を長辺とする対向面側矩形状面。
(E)上記対向面の反対側の面で当該対向面と平行な面を長辺とする反対側矩形状面。
【0018】
上記の方法によれば、上記対向面側矩形状面を具える外側コアを製造する場合、加圧時にダイの内周面における第二パンチの加圧面と非直交な面と第二パンチとの間に、成形される対向面側矩形状面の厚さ分の距離が形成されるため、上記非直交な面と第二パンチとが衝突することを防止でき、ダイ及び第二パンチの損傷を防止できる。また、上記対向面側矩形状面を具えない場合に比べて、被覆軟磁性粉末に圧力を十分に付加でき、高密度な外側コアを製造し易い。さらに、外側コアの対向面の幅方向両端に欠け易い鋭角な角部の形成を防止できる。
【0019】
一方、上記反対側矩形状面を具える外側コアを製造する場合は、加圧時に第一パンチとダイとの間に、成形される反対側矩形状面の厚さ分の距離が形成されるため、相対的に第一パンチが所定の位置よりもダイ内部側(第二パンチ側)に入りこむことを防止できる。そのため、第一パンチがダイ内部側(第二パンチ側)に入りこむことで外側コアの対向面の反対側における幅方向両端に欠け易い鋭角な角部が形成されるのを防止できる。
【0020】
本発明の製造方法の一形態として、少なくとも上記対向面側矩形状面を具える場合、当該対向面側矩形状面の厚さが、0.3mm以上2.0mm以下であることが挙げられる。
【0021】
上記の方法によれば、対向面側矩形状面の厚さが0.3mm以上となるように製造すれば、加圧時に、ダイの内周面における第二パンチの加圧面と非直交な面と第二パンチとが衝突することを十分に防止できる。一方、対向面側矩形状面の厚さを2.0mm以下となるように製造することで、加圧または脱型時に、リアクトルを構築した際コイル近傍に配置される対向面側の被覆軟磁性粉末とダイとが摺接する領域を少なくできる。そのため、絶縁被膜の損傷を抑制でき、渦電流損を低減できる。
【0022】
本発明の製造方法の一形態として、少なくとも上記反対側矩形状面を具える場合、外側コアの対向面から当該対向面の反対側の面までの厚さをtとするとき、当該反対側矩形状面の厚さが、0.5mm以上t/2以下であることを特徴とすることが挙げられる。
【0023】
上記の方法によれば、反対側矩形状面の厚さが0.5mm以上となるように製造すれば、加圧時に、相対的に第一パンチがダイ内部側(第二パンチ側)に入りすぎることを十分に防止できる。一方、反対側矩形状面の厚さをt/2以下とすることで、外側コア全体に対する反対側矩形状面が多くなりすぎない。
【0024】
本発明の製造方法の一形態として、上記外側コアの平面形状が、上記対向面側矩形状面と上記反対側矩形状面の両方を具える場合、上記対向面側矩形状面の厚さが、上記反対側矩形状面の厚さよりも薄いことが挙げられる。
【0025】
上記の構成によれば、対向面側矩形状面の厚さを薄くすることで、ダイとの摺接領域を少なくし、対向面側矩形状面の周方向に生じる渦電流の発生を抑制できるので、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる。
【0026】
本発明の外側コアは、上記本発明の外側コアの製造方法により製造される。
【0027】
本発明の外側コアによれば、上記対向面の表面に渦電流が発生し難いので、リアクトルに好適に利用できる。というのも、本発明の外側コアによれば、リアクトルを組み立てた際、上記導通部が形成されていない対向面の少なくとも一部が内側コアの端面と連結されるため、対向面の表面に渦電流が発生し難いので、リアクトルの損失低減に効果的だからである。
【0028】
本発明のリアクトルは、コイルと内側コアと外側コアを具える。上記コイルは、巻線を螺旋状に巻回した一対のコイル素子を互いに並列状態で接続してなる。上記内側コアは、上記両コイル素子の内側に配される。上記外側コアは、上記コイルから露出し、上記各内側コアと対向する側に面する対向面を有して当該内側コアと環状のコアを形成する。そして、上記外側コアは、上記本発明の外側コアである。
【0029】
本発明のリアクトルによれば、内側コアと対向する側に面する対向面に渦電流が生じ難い外側コアを具えることで、低損失なものとできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の外側コアの製造方法は、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる。
【0031】
本発明の外側コアは、低損失なリアクトルを構築できる。
【0032】
本発明のリアクトルは、低損失なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態1に係る外側コアの製造方法における手順の一例を示す工程説明図である。
【図2】変形例1に係る外側コアの製造方法における手順の一例の概略を示す工程説明図である。
【図3】変形例2に係る外側コアの製造方法における手順の一例の概略を示す工程説明図である。
【図4】変形例3に係る外側コアの製造方法における手順の一例の概略を示す工程説明図である。
【図5】変形例4に係る外側コアの製造方法における手順の一例の概略を示す工程説明図である。
【図6】変形例5に係る外側コアの製造方法における手順の一例の概略を示す工程説明図である。
【図7】実施形態2に係るリアクトルの概略を示す斜視図である。
【図8】実施形態2に係るリアクトルの各構成の概略を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を説明する。まず、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる外側コアの製造方法について説明し、その後、その外側コアを具えるリアクトルの一例を説明する。
【0035】
《実施形態1》
〔外側コアの製造方法〕
本発明の外側コアの製造方法は、リアクトルに具わる外側コアを加圧成形により製造する方法である。そのリアクトルは、詳しくは後述するが、図7に示すように、コイル105と内側コア101cと外側コア101eとを具える。具体的には、コイル105は、巻線105wを螺旋状に巻回した一対のコイル素子105a、105bを互いに並列状態で接続してなる。内側コア101cは、両コイル素子105a、105bの内側に配される。外側コア101eは、コイル105から露出し、各内側コア101cと連結して当該内側コア101cと環状のコア101を形成する。その上、内側コア101cとの連結面を含むと共に、他方の外側コア101eと対面する対向面を有する。連結面の各々は、平面で構成され、互いに面一に配置されている。また、両連結面を含む対向面も平面である。そして、外側コア101eを環状のコア101の軸方向から平面視した場合、外側コア101eの平面形状は、外側コア101eの内側コア101cとの対向側よりも、その反対側の方が、上記対向面に沿った幅方向の寸法が小さい形状である。この外側コア101eの具体的な製造方法として、準備工程と、成形工程とを具える。以下、製造に使用する成形用金型を説明してから、各工程を順に説明する。
【0036】
[成形用金型]
本発明の製造方法で使用される金型は、代表的には、貫通孔が設けられた筒状のダイと、ダイの貫通孔の各開口部からそれぞれ挿入可能な一対の柱状の第一パンチおよび第二パンチとを具える。この一対の第一パンチと第二パンチは、貫通孔内で対向して配置される。この金型では、一方のパンチの一面(他方のパンチとの対向する圧接面)とダイの内周面とで有底筒状の成形空間を形成する。この成形空間内に後述する原料粉末を充填し、両パンチで加圧・圧縮して、外側コアを製造する。両パンチの各対向面は、外側コアの各端面を形成し、ダイの内周面が外側コアの外周面を形成する。
【0037】
より具体的な成形用金型1は、例えば、図1に示すように貫通孔10bを具える筒状のダイ10Aと、貫通孔10bに挿脱される一対の柱状の上パンチ11・下パンチ12とを具えるものが挙げられる。なお、図1では、ダイ10A、下パンチ12は縦断面を示す。
【0038】
(ダイ)
ダイに設ける貫通孔の内周の縦断面形状は、上記外側コアを平面視した形状に対応した形状であればよい。例えば、ダイの一方のパンチ側よりも他方のパンチ側の方が、ダイの幅方向の寸法が小さくなる内周形状を具えていればよい。加えて、上記内周形状は、上記外側コアの上記内側コアとの対向面を一方のパンチで加圧できるような形状であれば特に問わない。具体的には、ダイに設ける貫通孔は、一方のパンチが挿通される大矩形孔と、他方のパンチが挿通される小矩形孔と、両矩形孔の間に大矩形孔から小矩形孔にかけて幅方向の寸法が小さくなり、いずれのパンチも挿通されないテーパー孔とで構成される。即ち、大矩形孔の内周面は、一方のパンチの側面と平行な平行領域で、小矩形孔の内周面は、他方のパンチの側面と平行な平行領域で、テーパー孔における内周面はいずれのパンチの側面とも平行しない非平行領域である。
【0039】
より具体的には、図1(A)に示すように、ダイ10Aの上パンチ11側に上パンチ11が挿通される大矩形孔10p(対向面側平行領域)と、下パンチ12側に下パンチ12が挿通される小矩形孔10r(反対側平行領域)と、両矩形孔の間にダイ10Aの上面10u(上パンチ11)側よりもダイ10Aの下方(下パンチ12)側の方が、ダイ10Aの幅方向(同図紙面左右方向)の寸法が小さくなるテーパー孔10c(非平行領域)とで構成される内周形状が挙げられる。ここでは、テーパー孔10cの内周形状は、その上面10u側、即ち大矩形孔10pの下端を弦、下パンチ12側、即ち小矩形孔10rの上端側を弧とし、当該弧の一部を上記弦と平行にした略弓形(弓形状)である。ここでいう、大矩形孔10pの下端とは、大矩形孔10pとテーパー孔10cとの境界をいい、小矩形孔10rの上端とは、小矩形孔10rとテーパー孔10cとの境界をいう。ダイ10Aの貫通孔10bの厚み(同図紙面上下方向)は、貫通孔10bの奥行方向(紙面垂直方向)に均一である。即ち、両矩形孔10p、10rの横断面形状は、両パンチ11、12の対向する方向に一様で、テーパー孔10cの横断面は、大矩形孔10p側から小矩形孔10r側にかけて減少している。
【0040】
(上パンチ及び下パンチ)
上パンチ11及び下パンチ12は、ダイの貫通孔に挿通することができる柱状体である。上パンチ11において下パンチ12と対向する下面11dは、ダイ10Aがつくる空間に適合した形状となっている。上パンチ11の下面11dの形状が、外側コアにおける内側コアとの対向面の形状を形成する。ここでは、上パンチ11の下面11dは矩形状の平面であり、上パンチ11の方が下パンチ12よりも幅(図1の左右方向の距離)が広い。この上パンチ11で加圧成形された成形体の上パンチ11に対応する面は矩形状の平面となる。上パンチ11及び下パンチ12の各々はいずれも、四角柱部材の一体成形物としている。
【0041】
上パンチ11の圧接面が、外側コアの対向面を形成し、下パンチ12の圧接面が、外側コアの対向面と反対側の端面を形成する。
【0042】
成形用金型1の構成材料には、従来、圧粉成形体(主として金属粉末から構成されるもの)の成形に利用されている適宜な高強度材料(高速度鋼など)が挙げられる。
【0043】
(移動機構)
一対のパンチの少なくとも一方とダイとは、相対的に移動可能である。図1に示す成形用金型1では、下パンチ12が図示しない本体装置に固定されて不動であり、ダイ10A及び上パンチ11が図示しない移動機構によりそれぞれ上下方向に移動可能な構成である。その他、ダイ10Aが固定されて両パンチ11、12が移動可能な構成、ダイ10A及び両パンチ11、12のいずれもが移動可能な構成とすることができる。一方のパンチ(ここでは下パンチ12)を固定することで、移動機構が複雑にならず、移動操作を制御し易い。
【0044】
ダイは、相対的に移動可能に構成すると、圧粉成形体の脱型を容易に行える。
【0045】
〈その他〉
本発明製造方法では、成形用金型(特に、ダイの内周面)に潤滑剤を塗布することができる。潤滑剤は、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどの固体潤滑剤、固体潤滑剤を水などの液媒に分散させた分散液、液状潤滑剤などが挙げられる。但し、潤滑剤の使用量(塗布厚さ)が少ないほど、磁性成分の割合が高い圧粉成形体が得られる。
【0046】
ここでは、図1に示すように、上パンチ11、および下パンチ12がそれぞれ一体成形物で構成される場合を示しているが、上パンチ及び下パンチの少なくとも一方を複数の部材からなる構成としてもよい。その場合、各部材がそれぞれ独立して移動可能な構成とすることもできる。
【0047】
[準備工程]
準備工程では、上記外側コアの原料粉末である被覆軟磁性粉末を用意する。被覆軟磁性粉末は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える。
【0048】
{軟磁性粒子}
(組成)
軟磁性粒子は、鉄を50質量%以上含有するものが好ましく、鉄合金、例えば、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−N系合金、Fe−Ni系合金、Fe−C系合金、Fe−B系合金、Fe−Co系合金、Fe−P系合金、Fe−Ni−Co系合金、及びFe−Al−Si系合金から選択される少なくとも1種からなるものが利用できる。そうすれば、渦電流損を低減し易く、より損失低減できる。特に、透磁率及び磁束密度の点からみれば、99質量%以上がFeである純鉄が好ましい。
【0049】
(粒径)
軟磁性粒子の平均粒径は、圧粉成形体として低損失に寄与するサイズであればよい。つまり、特に限定することなく適宜選択することができるが、例えば、1μm以上150μm以下であれば好ましい。軟磁性粒子の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性粉末の流動性を落とすことがなく、軟磁性粉末を用いて製作された圧粉成形体の保磁力およびヒステリシス損の増加を抑制できる。逆に、軟磁性粒子の平均粒径を150μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。より好ましい軟磁性粒子の平均粒径は、40μm以上100μm以下である。この平均粒径の下限が40μm以上であれば、渦電流損の低減効果が得られると共に、被覆軟磁性粉末の取り扱いが容易になり、より高い密度の成形体とすることができる。なお、この平均粒径とは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径をいう。
【0050】
(形状)
軟磁性粒子の形状は、アスペクト比が1.2〜1.8となるようにすると好ましい。このアスペクト比とは、粒子の最大径と最小径との比とする。上記範囲のアスペクト比を有する軟磁性粒子は、アスペクト比が小さな(1.0に近い)ものに比べて、圧粉成形体にしたときに反磁界係数を大きくでき、磁気特性に優れた圧粉成形体とすることができる。その上、圧粉成形体の強度を向上させることができる。
【0051】
(製法)
軟磁性粒子は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法などのアトマイズ法で製造されたものが好ましい。水アトマイズ法で製造された軟磁性粒子は、粒子表面に凹凸が多いため、その凹凸の噛合により高強度の成形体を得やすい。一方、ガスアトマイズ法で製造された軟磁性粒子は、その粒子形状がほぼ球形のため、絶縁被膜を突き破るような凹凸が少なくて好ましい。軟磁性粒子の表面には、自然酸化膜が形成されていても良い。
【0052】
{絶縁被膜}
絶縁被膜は、隣接する軟磁性粒子同士を絶縁するために、軟磁性粒子に被覆される。軟磁性粒子を絶縁被膜で覆うことによって、軟磁性粒子同士の接触を抑制し、成形体の比透磁率を抑えることができる。その上、絶縁被膜の存在により、軟磁性粒子間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉成形体の渦電流損を低減させることができる。
【0053】
(組成)
絶縁被膜は、軟磁性粒子同士の絶縁を確保できる程度の絶縁性に優れるものであれば特に限定されない。例えば、絶縁被膜の材料は、リン酸塩、チタン酸塩、シリコーン樹脂、リン酸塩とシリコーン樹脂の2層からなるものなどが挙げられる。
【0054】
特に、リン酸塩からなる絶縁被膜は変形性に優れるので、軟磁性材料を加圧して圧粉成形体を作製する際に軟磁性粒子が変形しても、この変形に追従して変形することができる。また、リン酸塩被膜は鉄系の軟磁性粒子に対する密着性が高く、軟磁性粒子表面から脱落し難い。リン酸塩としては、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなどのリン酸金属塩化合物を利用することができる。
【0055】
シリコーン樹脂からなる絶縁被膜の場合は、耐熱性に優れるので、後述する熱処理工程で分解し難く、圧粉成形体の完成までの間、軟磁性粒子同士の絶縁を良好に維持することができる。
【0056】
絶縁被膜が上記リン酸塩とシリコーン樹脂の2層構造からなる場合、リン酸塩を上記軟磁性粒子側に、シリコーン樹脂をリン酸塩の直上に被覆することが好ましい。リン酸塩の直上にシリコーン樹脂を被膜しているので、上述したリン酸塩およびシリコーン樹脂の両方の特性を具えることができる。
【0057】
(膜厚)
絶縁被膜の平均厚さは、隣接する軟磁性粒子同士を絶縁することができる程度の厚みであればよい。例えば、10nm以上1μm以下であることが好ましい。絶縁被膜の厚みを10nm以上とすることによって、軟磁性粒子同士の接触の抑制や渦電流によるエネルギー損失を効果的に抑制することができる。一方、絶縁被膜の厚みを1μm以下とすることによって、被覆軟磁性粒子に占める絶縁被膜の割合が大きくなりすぎず、被覆軟磁性粒子の磁束密度が著しく低下することを防止できる。
【0058】
上記絶縁被膜の厚さは、以下のようにして調べることができる。まず、組成分析(TEM−EDX:transmission electron microscope energy dispersive X−ray spectroscopy)によって得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS:inductively coupled plasma−mass spectrometry)によって得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出する。そして、TEM写真により直接、被膜を観察し、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。
【0059】
(被覆方法)
軟磁性粒子に絶縁被膜を被覆する方法としては、適宜選択するとよい。例えば、加水分解・縮重合反応などにより被膜することが挙げられる。軟磁性粒子と絶縁被膜を構成する原料とを配合して、その配合体を、加熱した状態で混合する。そうすることで、軟磁性粒子を被膜原料に十分に分散でき、個々の軟磁性粒子の外側に絶縁被膜を被覆することができる。
【0060】
上記加熱温度および混合時間は適宜選択するとよい。加熱温度及び混合機の回転数を選択することで、軟磁性粒子をより十分に分散させることができ、個々の粒子に絶縁被膜を被覆することが容易となる。
【0061】
[成形工程]
成形工程では、上述した成形用金型1を用いて被覆軟磁性粉末の加圧成形を行う。この工程では、金型1のうち下パンチ12と筒状ダイ10Aとで作られる成形空間31に上記外側コアの原料粉末Pである被覆軟磁性粉末を充填し、上パンチ11と下パンチ12とにより上記成形空間31内の被覆軟磁性粉末を加圧成形する。
【0062】
{成形手順}
(充填工程)
まず、図1(A)に示すように、上パンチ11をダイ10Aにおける貫通孔10bの上方の所定の待機位置に移動する。また、ダイ10Aを上方に移動して、下パンチ12の上面12uと、ダイ10Aの貫通孔10bとで所定の成形空間31を形成する。その際、次の加圧工程において、加圧した際にダイ10Aが下降する距離の分を考慮して下パンチ12を配置すればよい。ここでは、下パンチ12の上面12uが、ダイ10Aの小矩形孔10rにおいて、加圧の際におけるダイ10Aの下降分だけ小矩形孔10rの上端からダイ10Aの下開口部側に位置するように下パンチ12を配置する。
【0063】
原料粉末として、上述した被覆軟磁性粉末を用意する。そして、図1(B)に示すように、ダイ10Aと下パンチ12とで形成した成形空間31内に図示しない給粉装置により、用意した原料粉末Pを充填する。
【0064】
(加圧工程)
図1(C)に示すように、上パンチ11を下方に移動してダイ10Aの貫通孔10bの大矩形孔10pに挿入して、両パンチ11,12により、原料粉末Pを加圧・圧縮する。
【0065】
加圧する圧力は、適宜選択することができるが、例えば、リアクトル用コアとなる圧粉成形体を製造するのであれば、490〜1470MPa、特に、588〜1079MPa程度とすることが好ましい。490MPa以上とすることで、原料粉末Pを十分に圧縮でき、外側コアの相対密度を高められ、1470MPa以下とすることで、原料粉末Pを構成する被覆軟磁性粒子同士の接触による絶縁被膜の損傷を抑制できる。
【0066】
加圧の際にダイ10Aを下降させ、加圧完了時には、下パンチ12の上面12uの位置が、ダイ10Aの小矩形孔10rの上端に位置する。
【0067】
(取出工程)
所定の加圧を行った後、図1(D)に示すように、成形体41に対して、ダイ10Aを相対的に移動させる。ここでは、成形体41を移動せず、ダイ10Aのみを下方に移動する。このとき、成形体41の外周面のうち、ダイ10Aとの接触領域は、ダイ10Aからの反力によりダイ10Aの貫通孔10bに摺接する。
【0068】
ダイ10Aの上面10uと下パンチ12の上面12uとが面一となる、或いは、下パンチ12の上面12uがダイ10Aの上面10uよりも上方に位置するまでダイ10Aを移動する。成形体41がダイ10Aから完全に露出されたら、図1(E)に示すように上パンチ11を上方に移動する。ここでは、上パンチ11の下面11dと下パンチ12の上面12uとで成形体41を挟持した状態でダイ10Aを移動し、上パンチ11を後工程で移動する形態としたが、ダイ10Aの移動と同時に上パンチ11を上方に移動したり、上パンチ11をダイ10Aより先に移動してもよい。
【0069】
上パンチ11を移動することで、成形体41は、脱型可能であるため、例えば、マニュピレータなどにより、成形体41を取り出すことができる。
【0070】
連続的に成形を行う場合、成形体41を脱型して成形用金型1から取り除いたら、次の成形体を形成するにあたり、上述したように成形空間の形成→成形空間への原料粉末の充填→加圧→取出を繰り返し行うとよい。
【0071】
以上の工程を経て製造された成形体41の形状は、ダイ10Aの内周形状と、上パンチ11の下面11dおよび下パンチ12の上面12uの形状が転写された形状となる。つまり、図1(F)に示すように、同図の紙面上側を弦、その反対側(同図の紙面下側)を弧とし、当該弧の一部を上記弦と平行に切り欠いた略弓形(弓形状)の柱状体である。この成形体41が、リアクトルに具わる外側コアとなる。この成形体41において、上パンチ11により加圧された対向面は、加圧の際、あるいは、脱型時に金型と摺接しないため、軟磁性粒子同士が導通する導通部を形成し難い。
【0072】
〈その他の工程〉
その他の工程として、上記成形工程後、成形体に対して成形工程で軟磁性粒子に導入された歪を除去するために加熱する熱処理工程を施すことが好ましい。
【0073】
熱処理工程で施される熱処理の温度が高いほど、歪の除去を十分に行うことができることから、熱処理温度は、300℃以上、特に400℃以上が好ましい。軟磁性粒子に被覆された絶縁被膜の熱分解抑制の観点から、熱処理温度の上限は約800℃程度とする。このような熱処理温度であれば、加圧時に軟磁性粒子に導入される歪を除去でき、成形体のヒステリシス損を効果的に低減することができる。
【0074】
熱処理を施す時間は、成形工程で軟磁性粒子に導入された歪を十分に除去するように、上記熱処理温度および成形体の体積に合わせて適宜選択すればよい。例えば、上記の温度範囲の場合、10分〜1時間であることが好ましい。
【0075】
この熱処理を施す際の雰囲気は、大気中でも良いが、不活性ガス雰囲気内で施すと特に好ましい。それにより、大気中の酸素によって被覆軟磁性粒子が酸化されるのを抑制することができる。
【0076】
《作用効果》
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0077】
(1)上述の製造方法によれば、成形工程において、リアクトルを組み立てた際、外側コアにおける内側コアとの対向面を上パンチで加圧することで、その対向面は、加圧の際、あるいは、脱型時にダイと摺接しない。そのため、対向面における被覆軟磁性粉末の絶縁被膜は損傷し難く、軟磁性粒子同士が導通する導通部を形成し難い。つまり、導通部が対向面に形成され難いことで、対向面が磁束方向と垂直となるようにリアクトルを組み立ててコイルを励磁した際、対向面の表面に渦電流が発生し難いので、渦電流損を低減できる。したがって、リアクトルの損失低減に効果的な外側コアを製造できる。
【0078】
(2)上述の製造方法により製造された外側コアは、リアクトルの損失低減に効果的であるため、低損失なリアクトルを構築できる。
【0079】
《変形例》
以下、実施形態1に係る製造方法の変形例を説明する。上述した製造方法における成形用金型1は、外側コアの平面形状が、上記外側コアの上記内側コアとの対向側よりも、その反対側の方が、対向面側に沿った幅方向の寸法が小さい形状である外側コアを成形できれば、上パンチ11、下パンチ12、ダイ10Aのいずれの形状も適宜選択することができる。以下の変形例では、実施形態1とは、成形用金型の一部の形状等が異なる例を説明する。
【0080】
〔変形例1〕
変形例1では、図2(A)に示すように、外側コアを成形するための成形用金型1のうち、上パンチ11の形状が実施形態1と相違する。但し、ダイ10Aと下パンチ12の形状は実施形態1と同様である。以下、実施形態1と相違する点について説明する。
【0081】
(上パンチ)
本例では、成形用金型1の上パンチ11に、図2(A)に示すように、上パンチ11の下面11pにおける幅方向(同図の紙面左右方向)の中央部が、奥行方向(同図の紙面垂直方向)に亘って、下パンチ12側に突出する凸部を有している上パンチ11を使用する。
【0082】
上記の形状を有する上パンチを用いて、実施形態1と同様の成形工程を経て成形体42を成形する。そして、図2(E)に示すように上パンチ11を上方に移動して、成形体42を取り出す。
【0083】
こうして製造された成形体42の形状は、図2(F)に示すように、同図の紙面上方向が開口部で、その反対側の一部を開口部側の平面と平行に切り欠いた略U字形(U字状)の柱状体である。この成形体42が、リアクトルに具わる外側コアとなる。この成形体42でリアクトルを構築する際、成形体42の開口部側の平面を内側コアと連結するように配置する。その場合、成形体42(外側コア)の連結面近傍が周方向にコイルにより覆われていることを許容する。
【0084】
〔変形例2〕
変形例2では、図3に示すように、外側コアを形成するための成形用金型1のうち、ダイ10Aに設ける貫通孔10hの内周形状が実施形態1と相違する。但し、上下のパンチ11、12の形状は実施形態1と同様である。以下、実施形態1と相違する点について説明する。
【0085】
(ダイ)
本例では、成形用金型1のダイ10Aに、ダイ10A(テーパー孔10c)の内周形状が、ダイ10Aの上面10u側(大矩形孔10pの下端)を長辺、下パンチ12側(小矩形孔の10rの上端)を短辺とする台形(台形状)であるダイ10Aを使用する。
【0086】
上記の形状を有するダイ10Aを用いて、実施形態1と同様の成形工程を経て成形体43を成形する。そして、図3(E)に示すように上パンチ11を上方に移動して、成形体43を取り出す。
【0087】
こうして製造された成形体43の形状は、図3(F)に示すように、同図の紙面上方向が長辺、同図の紙面下方向が短辺で両辺が平行の台形(台形状)の柱状体である。この成形体43が、リアクトルに具わる外側コアとなる。この成形体43でリアクトルを構築する際は、成形体43における長辺側をリアクトルに具わる内側コア側に配置する。成形体43の長辺側の対向面には、各内側コアの端面が同図の左右に分かれて対面される。
【0088】
〔変形例3〕
変形例3では、実施形態1の外側コア(図1)に対して、さらに対向面を長辺とする対向面側矩形状面と、対向面の反対側の平行面を長辺とする反対側矩形状面の少なくとも一方を具える外側コアの製造方法を説明する。本例では、図4(A)に示すように、外側コアを成形するための成形用金型1のうち、ダイ10Aの形状と、ダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置が実施形態1と相違する。但し、上パンチ11の形状および下パンチ12の形状、及び成形される成形体全体の厚さは実施形態1と同様である。以下、実施形態1と相違する点について説明する。ここでは、説明の便宜上、図4のダイ10A、成形体44の全体厚さ、及び各矩形状面の厚さは誇張して示す。
【0089】
(ダイ)
本例では、ダイ10Aとして、図4(A)に示すように、大矩形孔10qの厚さ(同図の紙面上下方向)が、実施形態1よりも厚いものを使用する。ダイ10Aに対する上パンチ11の下面11dの位置は、大矩形孔10qの厚さを厚くしたため、加圧完了時において、大矩形孔10qの下端まで達しない。そのため、大矩形孔10qの厚くした厚さ分、即ち、上パンチ11の下面11dと大矩形孔10qの下端との間の厚さ分、対向面を長辺とする対向面側矩形状面44fが、成形体44に形成される。つまり、対向面側矩形状面44f(同図F)の厚さは、大矩形孔10qの厚さ、より具体的には、上パンチ11の下面11dと大矩形孔10qの下端との間の距離によって適宜調節可能である。そのため、大矩形孔10qの厚さ(深さ)は、対向面側矩形状面44fの所望の厚さに応じて適宜選択すればよい。例えば、ダイ10Aの大矩形孔10qの厚さを厚くして、上パンチ11の下面11dと大矩形孔10qの下端との距離を長くするほど対向面側矩形状面44fを厚くできる。そうして、対向面側矩形状面44fの厚さが、0.3mm以上2.0mm以下となるように、大矩形孔10qの厚さを選択することが好ましく、特に、0.5mm以上1.5mm以下となるように選択することが好ましい。対向面側矩形状面44fの厚さが0.3mm以上となるように製造すれば、上パンチ11がダイ10Aの内周面におけるテーパー孔10tに衝突することを十分に防止できる。また、対向面側矩形状面44fの厚さを2.0mm以下となるように製造することで、対向面側の被覆軟磁性粉末が、加圧また脱型時に、ダイと摺接する領域を少なくすることができ、絶縁被膜の損傷を抑制できる。
【0090】
(下パンチ)
また、本例では、成形用金型1において、充填工程において成形空間31を形成する際、ダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置が、加圧の際におけるダイ10Aの下降分に加えて、製造する成形体44における反対側矩形状面44oの所望の厚さ分、小矩形孔10sの上端から下開口部側に位置するように下パンチ12を配置する。製造された成形体44の反対側矩形状面44o(同図F)の厚さは、小矩形孔10sに対する下パンチ12の上面12uの位置で適宜調節可能である。そのため、反対側矩形状面44oの所望の厚さに応じて、下パンチ12の上面12uの位置を適宜選択すればよい。例えば、ダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置を、小矩形孔10sの上端側に配置することで、反対側矩形状面44oの厚さを薄くでき、逆に小矩形孔10sの下端側(下開口部側)に配置することで、反対側矩形状面44oの厚さを厚くできる。そうして、反対側矩形状面44oの厚さが、0.5mm以上t/2以下となるように、下パンチ12の上面12uの位置を適宜選択することが好ましく、特に、1.0mm以上t/2以下となるように選択することが好ましい。ここでいう「t」とは、製造された成形体44の対向面からその反対側の端面までの厚さをいう。反対側矩形状面の厚さが0.5mm以上となるように製造すれば、加圧時に下パンチ12が小矩形孔10sよりもダイ10A内側に入りすぎることを十分に防止できる。反対側矩形状面44oの厚さがt/2以下となるように製造することで、外側コア全体に対する反対側矩形状面が大きくなり過ぎない。
【0091】
本例のように、対向面側矩形状面44fと反対側矩形状面44oの両方を具える成形体44を製造する場合、対向面側矩形状面44fの厚さが、反対側矩形状面44oの厚さよりも薄くなるように、大矩形孔10qの下端と上パンチ11の下面11dとの距離、及び小矩形孔10qの上端と下パンチ12の上面12uとの距離を適宜選択して成形することが好ましい。対向面側矩形状面44fの厚みが薄いと、リアクトルと構築した際、コイル近傍に配置される対向面側が、加圧時や脱型時において、ダイ10Aとの摺接領域を少なくすることができ、成形体を構成する絶縁被膜の損傷を抑制できる。その結果、渦電流損を低減できる。
【0092】
上記の成形用金型1を用いて、実施形態1と同様の成形工程を経て成形体44を成形する。加圧完了時には、ダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置が、成形体44の反対側矩形状面44oの厚さ分、小矩形孔10sの上端から下開口部側に位置する。そして、図4(E)に示すように上パンチ11を上方に移動して、成形体44を取り出す。
【0093】
こうして製造された成形体44の形状は、図4(F)に示すように、同図の紙面上方向側からその反対側(同図の紙面下方向側)に向かって、幅方向を長辺とする矩形で構成される対向面側矩形状面44fと、その矩形の長辺を弦、その反対側を弧とし、当該弧の一部を上記弦と平行に切り欠いた略弓形と、当該弧を切り欠いてできた辺を一辺とする矩形で構成される反対側矩形状面44oとで構成される柱状体である。この成形体44が、リアクトルに具わる外側コアとなる。この成形体44において、上パンチ11により加圧された面が対向面となるようにリアクトルを構築する。
【0094】
〔変形例4〕
変形例4では、図5(A)に示すように、変形例1で示した成形用金型1において、大矩形孔10qの厚さと、ダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置は変形例3と同様とし、上パンチ11の一部の形状が変形例1と相違する。即ち、大矩形孔10qの厚さを実施形態1及び変形例1よりも厚くし、充填工程において成形空間31を形成する際、下パンチ12の上面12uの位置が、加圧の際におけるダイ10Aの下降分に加えて、製造する成形体45における反対側矩形状面45oの所望の厚さ分、小矩形孔10sの上端から下開口部側に位置するように下パンチ12を配置する。以下、変形例1と相違する点について説明する。
【0095】
(上パンチ)
本例では、変形例1と同様に下パンチ12側に突出する凸部を有する上パンチ11を使用する。この凸部の形状は、図5に示すように、上パンチ11の下面11pから下パンチ12側に延びる一様な矩形状面11qと、矩形状面11qからさらに下パンチ12側に向かって形成される弓形状とで構成され、その弓形状は、矩形状面11q側を弦、下パンチ12側を弧とする。この凸部において矩形状面11qの厚さ(同図の紙面上下方向)が、製造された成形体45(同図(F))の開口部における直線領域45lを形成する。そのため、直線領域45lの長さは、上記矩形状面11qの厚さにより適宜選択することができる。
【0096】
上記の形状を有する上パンチ11を用いて、実施形態1と同様の成形工程を経て成形体45を成形する。加圧完了時には、ダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置が、成形体45の反対側矩形状面45oの厚さ分、小矩形孔10sの上端から下開口部側に位置する。そして、図5(E)に示すように上パンチ11を上方に移動して、成形体45を取り出す。
【0097】
こうして製造された成形体45の形状は、図5(F)に示すように、同図の紙面上方向が開口部で上記直線領域45lを有する矩形で構成される対向面側矩形状面45fと、その反対側の一部を開口部側の平面と平行に切り欠いた略U字形と、その切り欠いてできる一辺から反対側方向に一様に突出する矩形で構成される反対側矩形状面45oとで構成される柱状体である。この成形体45が、リアクトルに具わる外側コアとなる。この成形体45でリアクトルを構築する際、成形体45の開口部側の平面(連結面)を内側コアと連結するように配置する。その場合、変形例1と同様に成形体45(外側コア)の対向面側矩形状面45fの連結面近傍が周方向にコイルにより覆われていることを許容する。
【0098】
〔変形例5〕
変形例5では、図6(A)に示すように、変形例2で示した成形用金型1において、大矩形孔10qの厚さと、ダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置を変形例3と同様にした。即ち、大矩形孔10qの厚さを変形例2よりも厚くし、充填工程において成形空間32を形成する際、下パンチ12の上面12uの位置が、加圧の際におけるダイ10Aの下降分に加えて、製造する成形体46における反対側矩形状面46oの所望の厚さ分、小矩形孔10sの上端から下開口部側に位置するように下パンチ12を配置する。
【0099】
実施形態1と同様の成形工程を経て成形体46を成形する。加圧完了時には、ダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置が、成形体46の反対側矩形状面46oの厚さ分、小矩形孔10sの上端から下開口部側に位置する。そして、図6(E)に示すように上パンチ11を上方に移動して、成形体46を取り出す。
【0100】
こうして製造された成形体46の形状は、図6(F)に示すように、同図の紙面上方向側からその反対側(同図の紙面下方向側)に向かって、対向面を長辺とする対向面側矩形状面46fと、その矩形の一辺を長辺とする台形と、台形の短辺を一辺(長辺)とする反対側矩形状面46oとで構成される柱状体である。この成形体46が、リアクトルに具わる外側コアとなる。この成形体46でリアクトルを構築する際は、変形例2と同様に成形体46における長辺側をリアクトルに具わる内側コア側に配置する。即ち、成形体46の長辺側の対向面には、各内側コアの端面が同図の左右に分かれて対面される。
【0101】
《作用効果》
上述した変形例によれば、上述の形状を有するパンチやダイを使用して製造された成形体は、リアクトルの損失低減に効果的であるため、リアクトルの外側コアに好適に利用することができる。また、成形体が対向面側矩形状面を具えるように製造することで、加圧の際、上パンチとダイの内周面におけるテーパー孔との衝突を防止できる。そのため、成形用金型が損傷し難く、成形用金型の寿命が低下し難い。加えて、加圧の際、圧力を成形体に付加し易く、高密度な成形体を製造することができる。反対側矩形状面を具えないように製造する場合、下パンチの上面が小矩形孔よりもダイ内部側(上パンチ側)に入りこまないように、加圧工程における加圧完了時、下パンチの上面を小矩形孔の上端に厳密に位置合わせする必要がある。一方、反対側矩形状面を具えるように製造する場合、加圧完了時、下パンチの上面を小矩形孔の途中に位置させるため、相対的に下パンチが小矩形孔よりもダイ内部側(上パンチ側)に入ることを十分に防止できる。そのため、反対側矩形状面を具えるように製造する場合、具えないように製造する場合ほど、下パンチの上面の位置を常時厳密に位置決めしなくても、外側コアの対向面の反対側の幅方向両端に欠け易い鋭角な角部の形成を防止できる。つまり、連続成形する際などに成形速度を速くでき、生産性に優れる。
【0102】
《実施形態2》
実施形態2では、上述の製造方法により製造される外側コアを具えるリアクトルの一例を説明する。つまり、本発明のリアクトルは、リアクトルに具わる外側コアに上述の製造方法により製造された外側コアを用いる点に特徴がある。それ以外の構成は、図7、8を用いて説明した従来のリアクトルと同様であるが、ここでは、従来のリアクトルと同様の構成も含めて以下に説明する。外側コアは、実施形態1で説明した製造方法により製造された外側コアを具えるリアクトルを例に説明する。
【0103】
〔リアクトル〕
リアクトル100は、図7に示すように、コイル105と、コイル105の内側に配される内側コア101cと、コイル105から露出する外側コア101eとを主要構成部材とする。ここで言う露出とは、外側コア101eの全部が露出している場合と、上述した外側コアがU字状である場合のように、極一部がターンに囲まれている場合とを含む。
【0104】
[コイル]
コイル105は、1本の連続する巻線105wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子105a、105bを有する。両コイル素子105a、105bは、各軸方向が並列するように横並びに配置される。また、コイル105の軸方向一端側に巻線端部を位置させ、他端側において巻線を屈曲させて巻返し部105r(図8)を設けることで、両コイル素子105a、105bを一本の巻線で形成している。そして、巻線には、銅製の平角線に絶縁のためのエナメル被覆を施した被覆平角線を利用している。各コイル素子105a、105bは、被覆平角線をエッジワイズ巻きにして形成される。平角線以外に、断面が円形状、多角形状などの種々の巻線を利用できる。一対のコイル素子105a、105bを別々に作製し、両コイル素子105a、105bの巻線の端部を溶接などで接続してもよい。
【0105】
[コア]
コア101は、内側コア101cと外側コア101eとで構成される環状の部材である。
【0106】
内側コア101cは、その外周にコイルが配置される箇所で、磁性体のコア片101mと、インダクタンスの調整のためにコア片101mの間に設けられるギャップ部gとで構成される。各ギャップ部gに配されるギャップ材は、アルミナなどの非磁性材料からなる板状材が利用できる。内側コア101cは、コア片101mとギャップ部gとを交互に積層し、接着剤などで接合し構成される。本例では一対の内側コア101cを並列に配置している。コア片101mには、鉄を含有する被覆軟磁性粉末を加圧成形した圧粉成形体や、複数の電磁鋼板を積層した積層体が利用できる。
【0107】
外側コア101eは、被覆軟磁性粉末を加圧成形した成形体で上述の製造方法により得られる成形体である。その平面視した形状は、弦と弧を有する略弓形(弓形状)である。その略弓形(弓形状)の外側コア101eにおいて、弦側を内側コア101c側に配する。そして、リアクトルの構成部材における冷却ベースと対向する面をベース面(図7、8では下面)とするとき、外側コア101eのベース面がコイル素子105a、105bのベース面とほぼ同じ位置になるように、外側コア101eのベース面を内側コア101cのベース面に対して下側(冷却ベース側)に突出させている。
【0108】
コア101を構成するには、一対の内側コア101cと、一対の外側コア101eとを連結することで環状としている。連結には接着剤などが利用でき、両コア101c、101eを直接連結してもよいし、ギャップ部gと同様のギャップ材を介して間接的に連結してもよい。本例では、内側コア101cとして四つのコア片101mと三つのギャップ部gを用いたが、コア101の分割数やギャップ部gの個数は適宜選択することができる。
【0109】
〈インシュレータ〉
インシュレータ107は、コア101とコイル105との間の絶縁を確保する部材で、必要に応じて用いられる。インシュレータ107は、コア101の内側コア101cの外周を覆う筒状部107bと、コイルの端面に当接される一対の鍔部107fとを備える。筒状部107bは、半割れの角筒片同士を接合することで内側コア101cの外周を容易に覆うことができる。鍔部107fは、並列状態に一体化された一対の矩形枠で構成され、筒状部107bの一端部に配置される部材である。そして、インシュレータ107には、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの絶縁性樹脂が利用できる。
【0110】
《作用効果》
上述した実施形態に係るリアクトルは、内側コアと対向する側に面する対向面に渦電流が生じ難い外側コアを具えているため、コイルが高周波の交流で励磁される場合でも鉄損を低減できる。
【0111】
《試験例》
試験例として、以下の試料1〜4を作製し、それら各試料の磁気特性について後述する試験を行った。
【0112】
[試料1]
水アトマイズ法により作製された、純度が99.8%以上である鉄粉を軟磁性粒子として用意した。この軟磁性粒子の平均粒径が50μmで、そのアスペクト比は1.2であった。この平均粒径は、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径により求めた。そして、この金属粒子の表面にリン酸塩化成処理を施して、リン酸鉄からなる絶縁被膜を形成し、被覆軟磁性粒子を作製した。絶縁被膜は、軟磁性粒子の表面全体を実質的に覆い、その平均厚さは、20nmであった。被覆軟磁性粒子の集合体が、成形体の構成材料の被覆軟磁性粉末である。
【0113】
上記被覆軟磁性粉末にステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤を含有量が0.6質量%となるように含有させて混合物を作製し、その混合物を実施形態1に示した所定の形状の金型(図1)内に注入し、588MPaの圧力をかけて加圧成形することで図1に示す形状の成形体41を作製した。
【0114】
[試料2]
試料2は、試料1とは、成形体の平面形状が異なる。即ち、試料1とは異なる成型用金型を用いて成形する。ここでは、変形例3に示した所定の形状の金型(図4)を用いて、同図(F)に示す成形体44と同様の形状の成形体を作製した。成形した成形体の厚さを測定したところ、この成形体44全体の厚さは24mmで、対向面側矩形状面44fの厚さが1.5mm、反対側矩形状面44oの厚さが10mmであった。
【0115】
[試料3]
試料3は、試料2と同様の形状の金型を用いるが、成形体44における対向面側矩形状面44fと反対側矩形状面44oのそれぞれの厚さが試料2と異なる。即ち、大矩形孔10qの厚さ、及びダイ10Aに対する下パンチ12の上面12uの位置が試料2と異なる成形用金型1を用いて作製した。成形した成形体44の厚さを測定したところ、この成形体44全体の厚さは24mmで、対向面側矩形状面44fの厚さが5mm、反対側矩形状面44oの厚さが1mmであった。
【0116】
[試料4]
試料4は、試料1とは、パンチで加圧する面が異なる。つまり、試料2は、加圧成形の際、磁束と略垂直となる面(図8の白抜き矢印方向)を上下のパンチで加圧成形して成形体を作製した。
【0117】
〔評価〕
以上の工程を経て作製した試料1〜4と、同試料と同様の材料で、同様の条件により作製した直方体の複数の圧粉成形体とを、窒素雰囲気下で400℃×30分、熱処理して熱処理材を得た。得られた各試料の熱処理材と圧粉成形体の熱処理材とを環状に組み合わせて試験用磁心を作製し、以下の磁気特性値を測定した。その際、試料1〜3では、成形体の加圧面が直方体と対向するように環状に組み合わせた。
【0118】
[磁気特性試験]
各試験用磁心に巻線で構成したコイル(いずれの試料も同様の仕様のもの)を配置して磁気特性を測定するための測定部材を作製した。この測定部材について、AC−BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:5kHzにおける試料の渦電流損We(W)を求めた。その結果を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
〔結果〕
試料1〜3は試料4よりも渦電流損が小さかった。これは、試料1〜3を作製する際、磁束が略直交して通過する面を加圧することで、その加圧面は、加圧の際、あるいは、脱型時にダイと摺接しない。そのため、この面における構成材料の被覆軟磁性粉末の絶縁被膜が損傷せず、軟磁性粒子同士が導通する導通部を形成し難い。したがって、加圧面に渦電流が発生し難いので、渦電流損を低減できたと考えられる。また、試料1、2は試料3よりも渦電流損が小さく、試料1と試料2は同等の渦電流損であった。これは、試料1は、対向面側矩形状面を具えていないため、また、試料2は試料3よりも対向面側矩形状面の厚さが薄いため、試料1と試料2は、試料3と比較すると、成形の際、特に脱型時において対向面側で金型と摺接する箇所がほとんどなかった、または少なかった。即ち、コイル近傍に配される対向面側における絶縁被膜の損傷を低減でき、試料1、2ではさらに周方向に生じる渦電流の発生を試料3よりも抑制できたからであると考えられる。
【0121】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、変形例3〜5では、対向面側矩形状面と反対側矩形状面の両方を具える形態としたが、いずれか一方を具える形態としてもよい。また、変形例4における成形体45の開口部は、直線領域45lが形成されず曲線領域だけで構成されてもよい。その場合、変形例2と同様の凸部(図2)のように、上パンチ11の下面11dの一部を弦、下パンチ12側を弧とする弓形状で構成される凸部を有する上パンチ11を使用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明外側コアは、ハイブリッド自動車などの昇圧回路や、発電・変電設備に用いられるリアクトルに好適に利用できる。また、本発明外側コアの製造方法は、リアクトルの外側コアの製造に好適に利用できる。本発明リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車といった車両に搭載されるDC−DCコンバータといった電力変換装置の構成部品などに利用できる。
【符号の説明】
【0123】
1 成形用金型
10A ダイ 10b、10h 貫通孔 10u 上面
10p、10q 大矩形孔 10r、10s 小矩形孔
10c、10t テーパー孔
11 上パンチ 11d、11p 下面 11q 矩形状面
12 下パンチ 12u 上面
31、32 成形空間
41、42、43、44、45、46 成形体
44f、45f、46f 対向面側矩形状面
44o、45o、46o 反対側矩形状面
45l 直線領域
P 原料粉末
100 リアクトル
101 コア
101c 内側コア
101e 外側コア 101m コア片 g ギャップ部
105 コイル
105a,105b コイル素子 105w 巻線 105r 巻返し部
107 インシュレータ
107b 筒状部 107f 鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を螺旋状に巻回した一対のコイル素子を互いに並列状態で接続したコイルと、前記各コイル素子の内側に配される一対の内側コアと、前記コイルから露出し、各内側コアと連結して当該内側コアと環状のコアを形成する一対の外側コアとを具えるリアクトルにおける外側コアを加圧成形により製造する外側コアの製造方法であって、
前記外側コアは、前記内側コアとの連結面を含むと共に、前記内側コアを挟んで他方の外側コアと対面する対向面を有し、
前記外側コアを前記環状のコアの軸方向から平面視した場合、前記外側コアの平面形状は、前記外側コアの前記内側コアとの対向側よりも、その反対側の方が、前記対向面に沿った幅方向の寸法が小さい形状であり、
前記外側コアの原料粉末として、軟磁性粒子に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用意する準備工程と、
相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状ダイとで作られる成形空間に、前記被覆軟磁性粉末を充填し、前記第一パンチと当該第一パンチと対向配置された柱状の第二パンチとにより前記成形空間内の被覆軟磁性粉末を加圧成形する成形工程とを具え、
前記成形工程では、前記外側コアにおける前記対向面を前記第二パンチで加圧することを特徴とする外側コアの製造方法。
【請求項2】
前記軟磁性粒子が、純鉄であることを特徴とする請求項1に記載の外側コアの製造方法。
【請求項3】
前記外側コアの平面形状が、下記(A)〜(C)のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の外側コアの製造方法。
(A)前記外側コアの前記内側コアとの対向側を弦、その反対側を弧とする弓形状。
(B)前記外側コアの前記内側コアとの対向側を長辺とする台形状。
(C)前記外側コアの前記内側コアとの対向側が開口部となるU字状。
【請求項4】
前記外側コアの平面形状が、さらに、下記(D)と(E)の少なくとも一方を具えることを特徴とする請求項3に記載の外側コアの製造方法。
(D)前記対向面における前記第二パンチの加圧面と平行な面を長辺とする対向面側矩形状面。
(E)前記対向面の反対側の面で当該対向面と平行な面を長辺とする反対側矩形状面。
【請求項5】
前記対向面側矩形状面の厚さが、0.3mm以上2.0mm以下であることを特徴とする請求項4に記載の外側コアの製造方法。
【請求項6】
前記外側コアの対向面から当該対向面の反対側の面までの厚さをtとするとき、
前記反対側矩形状面の厚さが、0.5mm以上t/2以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の外側コアの製造方法。
【請求項7】
前記対向面側矩形状面の厚さが、前記反対側矩形状面の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の外側コアの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の外側コアの製造方法により製造されたことを特徴とする外側コア。
【請求項9】
巻線を螺旋状に巻回した一対のコイル素子を互いに並列状態で接続したコイルと、
前記両コイル素子の内側に配される内側コアと、
前記コイルから露出し、前記各内側コアと対向する側に面する対向面を有して当該内側コアと環状のコアを形成する外側コアとを具え、
前記外側コアは、請求項8に記載の外側コアであることを特徴とするリアクトル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−216746(P2012−216746A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181631(P2011−181631)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)