説明

外回転手技トレーニング用モデル

【課題】外回転手技をトレーニングするためのモデルの提供
【構成】少なくとも模擬胎児、模擬子宮、模擬羊水からなる外回転手技トレーニング用モデルであって、模擬子宮内に模擬羊水が満たされ、その中に回転可能な模擬胎児が存在していることを特徴とする外回転手技トレーニング用モデルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は骨盤位膣分娩の周産期死亡率の低減並びに骨盤位帝王切開の減少を目的に行われる、外回転手技を習得するためのトレーニング用モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
骨盤位とは妊娠、分娩時における胎児の頭部よりも骨盤部が下に来る場合、いわゆる逆子と呼ばれている場合であって、骨盤位経膣分娩の周産期死亡率は、頭位分娩と比較すると有意に高く、また周産期障害の発生率も高いことが指摘されている。そこで骨盤位経膣分娩を避け帝王切開が行われることが多いのが現状である。
1991年、米国では骨盤位のために約113,000例の帝王切開が行われ、骨盤位経膣分娩は約10%と推定されている。骨盤位の経膣分娩の危険性については多くの分娩統計が報告されているが、1992年の英国における満期、単胎骨盤位3,447分娩の統計によると、経膣分娩は27.9%(961例)で、1,457例(42.3%)は陣痛発来前に、1,029例(29.9%)は分娩途中から緊急帝切となっている。その結果、分娩前胎児死亡と先天奇形による死産を除外した児死亡は、経膣群8例(分娩中4例、新生児期4例)(0.83%)、帝切時1例、(新生児死亡)(0.03%)で、この間、満期、単胎、骨盤位以外で経膣分娩した群の分娩中および新生児期の児死亡率0.08% (77/93,602)で経膣群の予後の悪さが顕著である。また、新生児予後は予定帝切群と経膣分娩群、分娩中の緊急帝切群を比較すると、新生児特別管理室収容には有意差が見られなかったがアプガースコアー低値や挿管例は経膣分娩、緊急帝切群は予定帝切群の2倍であったという。
同様の結果がカナダのChengらも報告している。(Obstet. Gynecol., 82:605,1993)これらの報告を元に、骨盤位を予定帝切とする考えが確実に根付きつつあるのが現状である。
しかしながら骨盤位の帝王切開を減少させるためには、骨盤位そのものを無くする努力のほうがはるかに効率の良い選択肢であると考え、そのために外回転手技が考案されている。外回転手技とは子宮内の胎児をイメージしながら手によるマッサージで胎児を回転させる手技であるが、外回転手技で生じると予測されるさまざまなトラブルを懸念して外回転手技は普及していない。
【0003】
Russelらは、1985年〜1992年の統計で妊娠36週以降陣発までの間に外回転を行いその成功率は51% (174例/464例中)であったと述べているが(Am. J. Obst. Gynec.,172:1916,1995)、意外にも外回転手技に成功した174例中54例(31%)が帝王切開となり、満期、単胎分娩全体の帝王切開率15%を大きく上回っていたと報告されている。これは骨盤位矯正により臍帯巻絡が生じる可能性の増加等、危険性の増加が予想されるためである。外回転手技はその危険性だけが強調されるあまり実際に行っていることは少ないのが現実ではあるが、麻酔事故、おもわぬ大量出血、手技後の感染、血栓形成、その血栓が肺に流れていくことによって起こる肺梗塞などの母体合併症や、帝王切開で産まれた児に特有な呼吸障害などの潜在的な危険性を持つ骨盤位帝王切開を減少させる目的で、安全に効果的に外回転手技を施行するためには外回転手技の習得が重要となる。
産科を介助するためのトレーニングモデルとしては特許文献1がある。この文献では模擬胎児を含む模擬子宮のモデルで、出産等のトレーニングを目的としたモデルではあるが、外回転手技を習得するためのトレーニング用モデルではなく、外回転手技を習得するための適正なトレーニング用モデルは存在しなかった。
【特許文献1】WO 02/01536 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで発明者らは外回転手技をトレーニングするためのモデルを開発すべく研究を行った結果、本発明を完成したもので、本発明の目的は外回転手技をトレーニングするためのモデルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、少なくとも模擬胎児、模擬子宮、模擬羊水からなる外回転手技トレーニング用モデルであって、模擬子宮内に模擬羊水が満たされ、その中に回転可能な模擬胎児が内在していることを特徴とする外回転手技トレーニング用モデルである。
そして、外回転手技トレーニング中模擬胎児の位置や状態を超音波によって観察することが出来るようにすることが好ましく、また、模擬胎児は月齢に応じてその大きさの異なる模擬胎児に交換できるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては模擬羊水中に回転可能な模擬胎児が内在しているため、外部より子宮内の胎児をイメージしながら腹部を掌でマッサージすることによって模擬胎児を回転させることができるので、これによって外回転手技がトレーニングできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下の本発明を詳細に説明する。
外回転手技は、先に述べたように、子宮内の胎児をイメージしながら手によるマッサージで胎児を回転させ胎児の頭部が骨盤部の下に来るようにする手技であるが、その外回転の途中を度々超音波によって胎児の位置、状態を確認することが行われる。
そこで本発明にかかるトレーニングモデルにおいても外回転手技をトレーニングできるよう、羊水に胎児が入っている状態で、外回転手技を施工することで実際の外回転手技と同じ感触、強さで胎児を回転できるモデルであることが重要である。更に超音波による観察ができるモデルであることが好ましい。本モデルは全身モデルであっても腹部のみの部分モデルのいずれであっても良く、全身モデルで外回転手技以外の部分は特に生体を模した外形を持てばよい。そして、この人体モデルの腹部に模擬子宮を内在させる。
【0008】
模擬子宮としては容積約5Lの袋状体で、模擬子宮内部に胎児を模した模擬胎児を内在させておく。模擬胎児の大きさ並びに模擬子宮の大きさは外回転手技が施行される月齢に合わせた大きさにすれば良い。
模擬子宮内には羊水を模した液体を充填するが、種々検討の結果、模擬羊水として潤滑性を持つ液体を使うことで模擬胎児を回転させることが可能であった。具体的には液体洗剤等の界面活性剤、グリセリン水溶液等が可能であった。液体洗剤については家庭用洗剤をそのまま、または希釈して使用することができ、その希釈倍率は1倍から10倍の範囲で用いることができる。またグリセリン水溶液についてはグリセリンの混合率が0.1%〜100%の範囲で用いることができる。模擬子宮は生体と類似した物性を持つ材料を使い製造することができ、具体的にはシリコーン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等を用いることが出来る。また、模擬胎児も生体と類似した物性を持つ材料を使い製造することができ、具体的にはシリコーン、等を用いることが出来る。模擬胎児には臍帯類似物を具備することも可能である。臍帯類似物を具備することで臍帯巻絡を予防するトレーニングも含めより実体に近いトレーニングが可能となる。
模擬子宮には注入口を備えていることが望ましい。具体的には模擬子宮の頭部側等トレーニングに問題のない場所に注入口を設ける。注入口は模擬羊水を注入するための開口部であって、必要に応じて模擬羊水を注入し、それ以外の時には模擬羊水が漏出することを防ぐための密栓ができる必要がある。また本注入口が有ることで模擬羊水の調節可能となる。具体的には界面活性剤、グリセリンの濃度を調製することが可能となり、より生体の状態と近い状態でのトレーニングを行うことができる。
また超音波による観察が可能になるためには模擬胎児、模擬子宮をシリコーンで作成し、模擬羊水としてグリセリン及びその水溶液を用いることで観察は可能となる。
【実施例】
【0009】
実施例として図面をもって本発明をより詳細に説明する。
図1は模擬子宮の説明図である。シリコーンフィルムよりなる袋状体の模擬子宮1の一部に模擬羊水2を注入するための注入口3を設ける。そして、この模擬羊水4が存在する中に模擬胎児4を内在させる。模擬胎児4の大きさは外回転手技が施行される月齢に合わせた大きさにすれば良いのであるが、具体的には2000g〜3000gで、月齢に合わせて交換する。模擬胎児4は模擬羊水中で模擬胎児の頭部の位置が変えられるように内在させる。そして、この模擬子宮1を人体モデルの腹部に入れ、その外部より子宮内の胎児をイメージしながら手によるマッサージで、模擬胎児の頭部が骨盤部の下に来るようにする。その状態を図2に示す。
模擬羊水2中の模擬胎児の状態及び位置を超音波によって観察が出来るようにするため模擬胎児をシリコーンで構成する。
【産業上の利用可能性】
【0010】
以上述べたように本発明に係るモデルによって外回転手技を習得し、骨盤位経膣分娩や帝王切開を避け、頭位分娩とすることによって骨盤位経膣分娩や帝王切開に基づく弊害を解消することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】模擬子宮の説明図
【図2】外回転手技の説明図
【符号の説明】
【0012】
1 模擬子宮 2 模擬羊水 3 注出口 4 模擬胎児
5 人体モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも模擬胎児、模擬子宮、模擬羊水からなる外回転手技トレーニング用モデルであって、模擬子宮内に模擬羊水が満たされ、その中に回転可能な模擬胎児が内在していることを特徴とする外回転手技トレーニング用モデル。
【請求項2】
超音波によって模擬胎児の観察が可能なことを特徴とする請求項1記載の外回転手技トレーニング用モデル。
【請求項3】
模擬羊水は界面活性剤あるいはグリセリンの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の外回転手技トレーニング用モデル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−156202(P2007−156202A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352822(P2005−352822)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)
【Fターム(参考)】