説明

外来性遺伝子発現を調節するプロモーター

【課題】
トランスジェニック生物、より具体的にはトランスジェニック植物における外来性遺伝子の発現を調節するプロモーターを提供すること。
【解決手段】トランスジェニック生物における外来性遺伝子の発現を調節するプロモーターであって、配列番号1又は2に記載の配列および機能的断片またはその誘導体からなる群より選択される配列を有するプロモーターと同一の特徴を有するプロモーターを含み、前記プロモーターは前記遺伝子の発現が操作可能であるように前記外来性遺伝子に位置付けられているプロモーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジェニック生物において、より具体的にはトランスジェニック植物にいて、葉−特異的な外来性遺伝子発現を調節するプロモーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物の遺伝子形質転換は、有用な組換え分子を生産するために15年以上もの間利用されており、医薬品産業、化粧品産業、皮膚薬産業における利用が現在も開発され続けている。この一般的な概念を複雑な真核生物に対し適合させるために必要とされる技術の開発により、この技術はこの10年間で微生物から植物および動物へと拡大された。基本的には、有益なタンパク質をコードする遺伝子、または有益な分子に導く代謝経路の修飾に係る酵素をコードする遺伝子は、cis-およびトランス-作用の調節配列に適切な様式にて結合され、標的細胞に転移され、その分子機構に(一時的または安定な様式にて)取込まれる。次いで、トランスジェニック細胞、またはトランスジェニック細胞から再生された組織または器官は、導入遺伝子の転写および翻訳を実行し、したがって有益なタンパク質を蓄積でき、または有益な酵素活性により新しい代謝反応を実行できる。
【0003】
台頭しつつある分子農業産業(動物または穀物における組換え分子の生産)は、今世紀最も有望な産業の1つである。安全かつ再生可能な分子工場を提供することはその産業の将来性を保証する。現在開発されている応用の中には、治療用および診断用の低価格モノクローナル抗体の生産、無限量のホルモン類、サイトカイン類、およびその他の慢性または致死的疾病治療用の生物活性分子の生産、種々の血液成分に替わる生体安全代替物の生産、食品およびパルプ産業に関する無限量の加工酵素の生産、廃棄物処理用の低コスト酵素の生産、化粧品産業に係る安全な生体活性分子の生産がある。
【0004】
この技術の適用に対する限界は、多くはトランスジェニック生物が十分量の組換え産物を蓄積できないことに起因し、それは転写率の低さ、メッセンジャーの不適当なスプライシング、外来性RNAの不安定性、翻訳率の低さ、組換えタンパク質の内因性プロテアーゼの作用に対する過敏性または組換え生物の外来性タンパク質に対する過敏性の結果から生じ、これらは不適当で限定された発育、または最悪の場合には宿主生物に対する強い有害作用を引き起こす結果なる。利ざやが狭い場合、または残留物の処理および/または廃棄が生物安全性問題または環境問題を引き起こす場合、生産レベルの不十分さが応用開発に直接的影響を与える。このように、所望の組換え製品の蓄積レベルの改善は、分子農業の多くの応用分野における商業化を保証する重要な要因の1つと思われる。
【0005】
光合成は、生物界において最も重要な代謝反応であり、ほとんどの陸生植物および藻類、およびある種の細菌により行なわれている。この総合反応は、葉細胞の葉緑体内に位置するチラコイド膜系内に空間的に整列した電子伝達タンパク質の複雑な集合体と関連する。この電子伝達鎖は、光合成アンテナの一端では、全ての光合成有機体に共通する分子であるクロロフィルなど種々の巨大分子と結合しており、他の一端では、NADPHとATP合成に関与する酵素に、そしてNADPHおよびATPから有機分子へのエネルギー放出をガス状二酸化炭素の固定に結合させることに関与するカルビンサイクルに結合している。総合的な光合成反応に関与するタンパク質の中の1つであるリブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)は、地球上で最も豊富なタンパク質である。
【0006】
このように、光合成をもっぱら行なっているのは葉細胞であり、植物バイオテクノロジー適用に強力な葉特異的発現カセットを構築する際、このような卓越した組織特異的代謝活性に関与する遺伝子プロモーターの使用は明らかに興味がある。
【0007】
光合成装置のペプチド構成体の多くは、葉緑体ゲノムに存在する遺伝子にコードされている。一例として、CO2固定のための触媒部位を有するRubiscoの重サブユニットは葉緑体遺伝子にコードされている。しかし、この酵素の小サブユニットは核遺伝子にコードされていることから、Rubisco全タンパク質は、2つの異なるゲノムにコードされたサブユニットから作られる。明らかな理由で、トランスジェニック植物の葉の中に導入遺伝子の転写を制御するRubiscoプロモーターを使用する試みには大きな興味がもたれている。このプロモーターは、広汎に特性化され、発現ベクターにおけるその使用は、米国特許第4,962.028号により保護されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,962.028号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
トランスジェニック生物、より具体的にはトランスジェニック植物における外来性遺伝子の発現を調節するプロモーターを提供することが大いに望まれている。
【0010】
本発明の目的の1つは、トランスジェニック生物、より具体的にはトランスジェニック植物における外来性遺伝子の発現を調節するプロモーターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの実施形態によれば、トランスジェニック生物における外来性遺伝子の発現を調節するプロモーターであって、配列番号1から3に記載の配列および機能的断片またはその誘導体からなる群より選択される配列を有するプロモーターと同一の特徴を有するプロモーターを含み、前記プロモーターは前記遺伝子の発現が操作可能であるように前記外来性遺伝子に位置付けられているプロモーターが提供される。
【0012】
本発明の好ましいプロモーターは、配列番号1から3に記載の配列からなる群より選択される配列を有する。
【0013】
生物は植物であることが好ましい。
【0014】
本発明のプロモーターは、光の有無により調節し得ることが好ましい。
【0015】
好ましい植物は、双子葉植物、単子葉植物または裸子植物である。
【0016】
本発明の他の実施形態によれば、トランスジェニック生物における外来性遺伝子の発現を調節する方法であって、以下のステップ:a) 少なくとも請求項1のプロモーターおよび遺伝子ORFからなる発現コンストラクトであって、前記プロモーターは前記遺伝子の発現が操作可能であるように前記遺伝子に位置付けられている発現コンストラクトを用いてトランスジェニック生物を調製すること、を含む方法が提供される。
【0017】
本発明の目的のために、以下の用語が下記に定義される。
【0018】
「機能的断片またはその誘導体」という表現は、外来性遺伝子の発現レベルを配列番号1から3に記載される本発明のプロモーターと等しくできる配列番号1から3の任意の誘導体または断片を意味している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下は、レポーター遺伝子の発現において調節され得るトランスジェニックアルファルファ系統を作成するため用いられる方法の詳細な説明である。
【0020】
この実施形態において、配列番号1から3に記載される配列を有するプロモーターを、レポーター遺伝子およびターミネーターに連結し、次いでこのコンストラクトを、アルファルファ葉へのDNAボンバードメント、およびDesgagnesら(1995, Plant Cell Tissue Organ Cult. 42:129-140)に記載されたアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介性DNA転移のために好適な植物発現ベクターに挿入した。これら2つのDNA転移法は、レポーター遺伝子の発現が光により調節できることを証明するために用いられた。
材料および方法DNA塩基配列決定: DNA塩基配列決定は、Sangerら(1977, P.N.A.S. USA, 74:6543-5647)に記載されているとおりに実施した。
【0021】
その結果得られた本発明のプロモーターは配列番号1から3に記載の配列を有する。
発現カセットおよびベクターの構築: GUSレポーター遺伝子を用いて発現分析用カセットを以下のとおりに構築した。プロモーターの無いGUSカセットは、pBI101をHindIIIおよびEcoRIで消化し、pUC19のポリクローニング部位のHindIIIおよびEcoRI部位に挿入した。得られたプラスミドをpBI201と命名し、次のコンストラクト構築のために使用した。pGPlas3-2の種々の欠失断片を、pBI201のGUSレポーター遺伝子の5'端に転写的および移行的に融合し、DNAボンバードメントを用いた一時的発現試験に使用した。適切な欠失断片を同定し、pBI101(Clonetech社)などのバイナリー植物発現ベクターにサブクローニングした。これらの組換えプラスミドを、下記のA.ツメファシエンス(A. tumefaciens)感染により安定な組み込みのために用いた。
【0022】
アグロバクテリウム媒介性DNA導入およびトランスジェニック系統の再生 組換えプラスミドを、Khoudiら(1999, Biotechnol. Bioeng., 64:135-143)に記載されたエレクトロポーレーションにより、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)株LBA4404に導入した。次いで、選択したアグロバクテリウム株を、選択圧(カナマイシン)の不在下、遺伝子型C5-1からのリーフディスクと共に4日間共培養した。この培養期間後、リーフディスクを洗浄し増殖させ、次いでB5H培地上にカルスを形成させた。次にカルスを、胚誘導用のSH培地上に20日間移し換え、胚発生用のBOi2Y上で28日間培養した。魚雷型胚をBOi2Yから除いて再生用のMS培地に入れた。カナマイシンは、共培養時を除いて全培養培地およびMS上の再生時に添加した。この方法は、Desgagnesら(1995, Plant Cell Tissue Organ Cult. 42:129-140)に詳細に記載されている。根づいた植物を、温室で完全に発育させた。
【0023】
本発明は、その具体的な実施形態に関連させて記載したが、さらなる改変が可能であることは理解されよう。また、本出願は、一般に、本発明の原理に従う変化、利用または改造を含むことを意図し、本発明が関係する技術内で知られた、または通例の実施内で生じるような前記の本質的な特徴に適用でき、また添付の特許請求の範囲内に従って本発明の開示からの逸脱を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から3に記載の配列よりなる群から選択される配列を有する、単離されたプロモーターであって、該プロモーターは該外来性遺伝子の発現が操作可能であるように該遺伝子に位置付けられている、前記プロモーター。
【請求項2】
請求項1記載のプロモーターを含む発現ベクター。
【請求項3】
請求項2記載の発現ベクターで遺伝子形質転換された植物細胞又は植物。

【公開番号】特開2012−95653(P2012−95653A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−275692(P2011−275692)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【分割の表示】特願2011−103541(P2011−103541)の分割
【原出願日】平成12年10月2日(2000.10.2)
【出願人】(502121395)メディカゴ インコーポレイテッド (13)
【Fターム(参考)】