説明

外用剤用の低刺激性溶解助剤

【課題】有機溶媒には難溶な化合物も多く、これを外用剤として製剤化する場合には、製剤化が困難であり、経皮吸収性もよくないことが多かった。これまで、種々の製剤手法によりこれを改良するための多くの可溶化のための溶剤、溶解助剤の検討がなされてきた。しかし、可溶化に成功しても皮膚に対する刺激性が増すなどの問題が生じており、新たな低刺激性の溶剤が要請されていた。
【解決手段】ブレンステッド型のイオン性液体を利用して、これを溶剤あるいは溶解助剤として使用し、有機溶媒に難溶な化合物の可溶化を図ることができた。更にこのイオン性液体は皮膚に対して低刺激性であり、外用剤用の溶剤あるいは溶解助剤として有効に使用できることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒に難溶な薬効成分を溶解させるために使用される溶剤あるいは溶解助剤であって、外用剤として使用可能な低刺激性の溶剤あるいは溶解助剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの分野において、これまで用いられてきた水や有機溶媒に代わる新しい溶媒として「イオン性液体」に関する注目が集まっている。このイオン性液体とは、常温で液体となっている塩(酸と塩基の反応により形成される塩)を言い、特にリチウム電池の電解質等に幅広く用いられて来ている。
一般には、非特許文献1に示されるように、現在のところ、イオン性液体を形成するイオン種に、特にアニオンにハロゲンを含有するものが大半である(p25−34)。また、カチオンについても、イミダゾリウムカチオンを使用することが多く、大きくイオン種を変えることが行われて来なかった。
その理由として、非特許文献1では、「根本的な問題は、イオン性液体を得るために含ハロゲンアニオンを使用せざるを得ないという状況にある。これは、ハロゲンの強い電子吸引効果により負電荷が非局在化すると、局所的なイオン結合が弱まり、系の融点が下がるためである。」と述べられている(p169)。
【0003】
そして、ハロゲンフリーなイオン性液体の例として、エチルアミンと硝酸の塩によるイオン性液体が示されている(p170表1)。しかしながら、「いずれにせよ、多くの系を組み合わせ、検討する以外に目的の特性を持った塩を見出すことができないのが現状である。新しいカチオンを利用したハロゲンフリーなイオン性液体の合成も試みられているが、システマティックな展開には至っていない。」(p170)と記載されており、今後の研究進展が強く望まれていた。
【0004】
また、非特許文献2には、典型的なイオン液体の陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)の組合せが開示されており、「カチオンは、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウム、ホスホニウムイオン等がある。第4級窒素や第4級リン原子が陽電荷の中心となり、アルキル鎖やグリコール鎖が結合しているものが多い。アニオンには、硝酸イオン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、金属元素を含むAlCl4―イオン等がある。」(p2)と記載されている。
【0005】
これまでのイオン性液体に関する報告は、上記の非特許文献1や2に示されるように、ルイス酸、ルイス塩基の反応による塩をイオン性液体として研究・利用することがほとんどであった。それ故、非特許文献1に記載されるように、ハロゲンフリーなイオン性液体の合成例はあまり見出せず、エチルアミンと硝酸の塩によるイオン性液体(ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の反応による塩)の例が数少ないものであった。
【0006】
本発明者らはこれまでイオン性液体研究の主流であった、イミダゾリウムカチオンを中心とする、ルイス酸−ルイス塩基系のイオン性液体ではなく、ブレンステッド酸−ブレンステッド塩基系のイオン性液体に関する研究を進めてきた。
しかし、特許文献1をはじめとして、これまでの先行文献には、薬効成分のイオン液体化について報告されているが、外用剤に使用可能な、薬効成分を効率よく溶かすための溶剤あるいは溶解助剤として、イオン性液体を使用することは全く報告されていなかった。しかも、どのようなイオン液体が低刺激性の溶剤または溶解助剤として使用可能であるのかについては、全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−82512
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「イオン性液体−開発の最前線と未来―」大野弘幸監修、2003年刊、シーエムシー出版)
【非特許文献2】「イオン性液体・常温溶融塩の最新応用」2005年刊、住ベ・筒中テクノ株式会社)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、低刺激性で、外用剤に使用可能な、薬効成分を効率よく溶かすための溶剤あるいは溶解助剤としてのイオン性液体を提供することを目的とする。更には、ブレンステッド型の新規なイオン性液体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、ブレンステッド酸−ブレンステッド塩基系のイオン性液体の中でも、カルボキシル基を有する有機酸と脂肪族有機アミンとの1:1の塩からなるブレンステッド型のイオン性液体を検討し、以下の組成a)、b)、c)の溶媒が低刺激性で、且つ薬効成分を効率よく溶解するのに有効であることを見出した。
a)レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、グリシンの中から選択される酸性化合物と、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、1−エチル−3−メチル−イミダゾール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールの中から選択される有機アミン化合物を等モル反応させて得られるブレンステッド型のイオン性液体、
b)塩化ベンザルコニウム、ベタインの中から選択される4級アンモニウム塩化合物と、レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸の中から選択されるカルボン酸化合物を等モル混合物、
c)1−エチル−3−メチル−1H−イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート塩、(BMI)Brの中から選択されるルイス型のイオン性液体、
なお、これらa)〜c)の組成の溶媒は、目的に応じて、それぞれ単独でも、組み合わせても使用できる。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)以下の組成a)、b)又はc)であることを特長とする、外用剤用の薬効成分溶解用の低刺激性溶剤、
a)レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、グリシンの中から選択されるカルボン酸化合物と、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、1−エチル−3−メチル−イミダゾール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールの中から選択される有機アミン化合物を等モル反応させて得られるブレンステッド型のイオン性液体、
b)塩化ベンザルコニウム、ベタインの中から選択される4級アンモニウム塩化合物と、レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸の中から選択されるカルボン酸化合物を等モル混合物、
c)1−エチル−3−メチル−1H−イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート塩、(BMI)Brの中から選択されるルイス型のイオン性液体。
(2)ブレンステッド型のイオン性液体が、レブリン酸ジエタノールアミン塩、レブリン酸トリエタノールアミン塩、レブリン酸トリイソプロパノール塩、グリオキシル酸2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール塩、グリオキシル酸2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩、グリコール酸ジエタノールアミン塩、グリコール酸トリエタノールアミン塩、グリコール酸トリイソプロパノール塩、乳酸ジエタノールアミン塩、乳酸トリエタノールアミン塩、乳酸トリイソプロパノール塩、リンゴ酸ジエタノールアミン塩、クエン酸ジエタノールアミン塩、クエン酸トリエタノールアミン塩、安息香酸ジエタノールアミン塩、サリチル酸ジエタノールアミン塩、サリチル酸トリエタノールアミン塩、1−エチル−3−メチル−イミダゾールのグリシン塩である上記(1)記載の溶剤。
(3)4級アンモニウム塩化合物とカルボン酸化合物を等モル混合物が、塩化ベンザルコニウムとレブリン酸の混合物、塩化ベンザルコニウムと乳酸の混合物、塩化ベンザルコニウムとリンゴ酸の混合物、塩化ベンザルコニウムとクエン酸の混合物、塩化ベンザルコニウムと安息香酸の混合物、塩化ベンザルコニウムとサリチル酸、ベタインとグリオキシル酸の混合物、ベタインとグリコール酸の混合物である上記(1)に記載の溶剤。
(4)薬効成分が核酸誘導体である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の溶剤。
(5)核酸誘導体がベクター、ポリヌクレオチドである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の溶剤。
【0012】
(6)有機溶媒に難溶な薬効成分を溶解させるために、以下の組成a)、b)、c)の一つ又は複数を選択して使用することを特徴とする、難溶な薬効成分の溶解方法、
a)レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、グリシンの中から選択される酸性化合物と、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、1−エチル−3−メチル−イミダゾール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールの中から選択される有機アミン化合物を等モル反応させて得られるブレンステッド型のイオン性液体、
b)塩化ベンザルコニウム、ベタインの中から選択される4級アンモニウム塩化合物と、レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸の中から選択されるカルボン酸化合物を等モル混合物、
c)1−エチル−3−メチル−1H−イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート塩、(BMI)Brの中から選択されるルイス型のイオン性液体。
(7)ブレンステッド型のイオン性液体が、レブリン酸ジエタノールアミン塩、レブリン酸トリエタノールアミン塩、レブリン酸トリイソプロパノール塩、グリオキシル酸2-アミノ−2−メチル−1−プロパノール塩、グリオキシル酸2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩、グリコール酸ジエタノールアミン塩、グリコール酸トリエタノールアミン塩、グリコール酸トリイソプロパノール塩、乳酸ジエタノールアミン塩、乳酸トリエタノールアミン塩、乳酸トリイソプロパノール塩、リンゴ酸ジエタノールアミン塩、クエン酸ジエタノールアミン塩、クエン酸トリエタノールアミン塩、安息香酸ジエタノールアミン塩、サリチル酸ジエタノールアミン塩、サリチル酸トリエタノールアミン塩、1−エチル−3−メチル−イミダゾールのグリシン塩である上記(6)記載の溶解方法。
(8)4級アンモニウム塩化合物とカルボン酸化合物を等モル混合物が、塩化ベンザルコニウムとレブリン酸の混合物、塩化ベンザルコニウムと乳酸の混合物、塩化ベンザルコニウムとリンゴ酸の混合物、塩化ベンザルコニウムとクエン酸の混合物、塩化ベンザルコニウムと安息香酸の混合物、塩化ベンザルコニウムとサリチル酸、ベタインとグリオキシル酸の混合物、ベタインとグリコール酸の混合物である上記(6)又は(7)に記載の溶解方法。
(9)難溶な薬効成分が核酸誘導体である、上記(6)〜(8)のいずれかに記載の溶解方法。
(10)核酸誘導体がベクター、ポリヌクレオチドである、上記(6)〜(9)のいずれかに記載の溶解方法。
【0013】
(7)ブレンステッド型の酸と塩基が等モル反応して得られる塩である、レブリン酸ジエタノールアミン塩、レブリン酸トリエタノールアミン塩、レブリン酸トリイソプロパノール塩、グリオキシル酸2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール塩、グリオキシル酸2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩、グリコール酸ジエタノールアミン塩、グリコール酸トリエタノールアミン塩、グリコール酸トリイソプロパノール塩、乳酸ジエタノールアミン塩、乳酸トリエタノールアミン塩、乳酸トリイソプロパノール塩、リンゴ酸ジエタノールアミン塩、クエン酸ジエタノールアミン塩、クエン酸トリエタノールアミン塩、安息香酸ジエタノールアミン塩、サリチル酸ジエタノールアミン塩又はサリチル酸トリエタノールアミン塩であるイオン性液体。
【発明の効果】
【0014】
本発明のイオン性液体からなる溶剤あるいは溶解助剤は、有機溶媒には難溶な薬効成分を溶解させることができる。更に、本発明の溶剤あるいは溶解助剤は、薬効成分を高濃度で有機溶媒に溶解させることができるが、そのもの自体、低刺激性であるため、外用剤用の溶剤または溶解助剤として有効に使用することができる。
また、本発明のイオン性液体からなる溶剤あるいは溶解助剤は、塩であるにも関わらず親油性を示すことが多い。このことから、様々な薬剤を溶解することができるものである。そこで経皮吸収製剤を考えた場合、皮膚バリアーというものが親水性と疎水性の層をなす存在であるが、その皮膚バリアーに本発明のイオン性液体は、その性質故に浸透溶解しやすく、同時に溶解している薬剤を浸透させるという経皮吸収促進剤としての役割を担うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で言う「イオン性液体」とは、ブレンステッド型のカルボン酸化合物と塩基性化合物が等モル反応して得られる塩の中で、常温(25℃)で液体である塩のことを言う。カルボン酸化合物としては、レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、グリシンが用いられる。化学便覧等より、それぞれのpKaを求めると、以下の表1にまとめられることが分かった。
【0016】
【表1】

【0017】
一方、塩基性化合物として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、グリシン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールが挙げられるが、好ましいものとしては、有機アミン化合物である、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールを挙げることができる。また、化学便覧等より、それぞれのpKaを求めると、以下の表2にまとめられることが分かった。
【0018】
【表2】


従って、本発明のイオン性液体が作製できるためには、pKa値の差が、酸性化合物と塩基性化合物の間で、約3以上必要であることが示されている。また、本発明のイオン性液体の溶剤適用として好ましいものは、約3以上のpKa値の差と共に、カルボン酸化合物と塩基性化合物の親水性/疎水性のバランス(logP)が取れたものである。即ち、難溶性の薬効成分が親水性の高いものである場合には、親水性が高いカルボン酸化合物と塩基性化合物から得られるイオン性液体を使用し、疎水性が高い薬効成分の場合には、疎水性の高いカルボン酸化合物と塩基性化合物から得られるイオン性液体を使用する、と言うように溶質の物性(塩基性、酸性、親水性、疎水性等)に合わせて、適切なイオン性液体の選択が可能となる。
【0019】
本発明で言う「低刺激性」とは、本発明のイオン性液体を含有する10%軟膏製剤をウサギの平常皮膚に24時間塗布した後に生じる、「紅斑および痂皮の形成」と「浮腫の形成」を指標にして、目視的にこれらの現象がほとんど見られないか、あるいはかろうじて識別できる程度のものを言う。
【0020】
本発明で言う「有機溶媒に難溶な薬効成分」とは、製剤作成に通常使用される有機溶剤に薬効成分が難溶であるものを言う。薬効成分としては特に限定はないが、ペプチド、タンパク質、核酸誘導体、難溶性有機低分子化合物等を挙げることができる。
例えば、核酸誘導体の場合、溶解度が0.2w/w%以下(溶媒100g中に溶解する溶質の量が0.2g以下)のものを可溶化させることができる。
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0022】
(実施例1)レブリン酸と有機アミンによるイオン性液体の合成

レブリン酸に以下の有機アミン(等モル)を添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。この結果を以下の表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
(実施例2)グリオキシル酸と有機アミンによるイオン性液体の合成

実施例1と同様にグリオキシル酸に以下の有機アミン(等モル)を添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。この結果を以下の表4に示す。
【0025】
【表4】

【0026】
(実施例3)乳酸と有機アミンによるイオン性液体の合成

実施例1と同様に乳酸に以下の有機アミン(等モル)を添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。この結果を以下の表5に示す。
【0027】
【表5】

【0028】
(実施例4)グリコール酸と有機アミンによるイオン性液体の合成

実施例1と同様にグリコール酸に以下の有機アミン(等モル)を添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。この結果を以下の表6に示す。
【0029】
【表6】

【0030】
(実施例5)リンゴ酸と有機アミンによるイオン性液体の合成

実施例1と同様にリンゴ酸に以下の有機アミン(等モル)を添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。この結果を以下の表7に示す。
【0031】
【表7】

【0032】
(実施例6)クエン酸と有機アミンによるイオン性液体の合成

実施例1と同様にクエン酸に以下の有機アミン(等モル)を添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。この結果を以下の表8に示す。
【0033】
【表8】

【0034】
(実施例7)安息香酸と有機アミンによるイオン性液体の合成

実施例1と同様に安息香酸に以下の有機アミン(等モル)を添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。この結果を以下の表9に示す。
【0035】
【表9】

【0036】
(実施例8)サリチル酸と有機アミンによるイオン性液体の合成

実施例1と同様にサリチル酸に以下の有機アミン(等モル)を添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。この結果を以下の表10に示す。
【0037】
【表10】

【0038】
(実施例10)塩化ベンザルコニウムとカルボン酸化合物との等モル混合物の合成

塩化ベンザルコニウムに以下の表のカルボン酸化合物を等モル添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定し、カルボン酸の特性吸収位置の変化を確認した。この結果を以下の表11に示す。
【0039】
【表11】

【0040】
(実施例11)ベタインとカルボン酸化合物との等モル混合物の合成

ベタインに以下の表のカルボン酸化合物を等モル添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定し、カルボン酸の特性吸収位置の変化を確認した。この結果を以下の表12に示す。
【0041】
【表12】

【0042】
(試験例1)子牛胸腺DNAの溶解度評価

溶質として、子牛胸腺DNAを使用した。なお、子牛胸腺DNAはヘキサンによる液相抽出や透析により精製したものを使用した。
溶媒として、作製した以下の表13と表14のイオン性液体を使用し、そのイオン性液体に子牛胸腺DNAを秤取して添加した。
その後、80℃で1時間加温し、攪拌した。
室温に放冷後、目視で溶解状態を確認し、それぞれのイオン性液体の溶解度を測定した。
その結果を以下の表に示す。
(レブリン酸系イオン性液体への溶解度)
【0043】
【表13】

[注記]
目視確認不可とは、イオン性液体の着色(黒色化)により、DNAの溶解状況を目視で確認することができなかった。

この結果に示されるように、子牛胸腺DNAはレブリン酸には、ほとんど溶解しなかった(0.1%未満)が、レブリン酸とトリエタノールアミンのイオン性液体には非常に良く溶けること(0.37%以上)が分かった。一方、レブリン酸とトリイソプロパノールアミンのイオン性液体では、ほとんど溶解していなかった(0.1%未満)。
このことは、子牛胸腺DNAの親水性が高いものであるため、トリエタノールアミンよりも疎水性が高いトリイソプロパノールアミンを使ったイオン性液体の場合には、トリエタノールアミンのイオン性液体を使用した場合と比べて、溶解度が落ちることになったと考えられる。
このことからも、溶質に使用される化合物の物性(親水性あるいは疎水性)によって、その溶質に適切なイオン性液体を適宜選択し、溶剤として使用することができることが分かった。
また、子牛胸腺DNAは、レブリン酸と2−アミノエタノール以外の有機アミンにはいずれも不溶であること(0.1%未満)が分かる。しかし、これらから作製されたレブリン酸のイオン性液体は、トリエタノールアミン塩では0.37%以上の溶解度を示し、ジイソプロパノールアミン塩では0.10%の溶解度を示す。
なお、それ以外の有機アミンのイオン性液体では、溶解度を向上させることができなかった。これらの結果から、親水性の高い核酸誘導体を溶解させる溶剤としては、水酸基を数多く持つ有機アミン塩であるイオン性液体の方が、より親水性が高くなり、核酸誘導体を溶解しやすくなっていると考えられる。
(メトキシ酢酸系イオン性液体への溶解度)
【0044】
【表14】


この結果から、メトキシ酢酸と、2−アミノエタノール以外の有機アミンは、いずれも子牛胸腺DNAが不溶である(0.1%未満)。しかし、不溶のメトキシ酢酸と不溶の有機アミンから作製されたメトキシ酢酸のイオン性液体は、トリエタノールアミン塩、N,N−ジエチルエタノールアミン塩、メトキシエチルアミン塩で、溶解性が向上していることが分かった。
このように、表14の場合と同一の溶質を使用しているに係らず、カルボン酸化合物が変わると、それに対応して好適な有機アミンの組合せも変化することが示された。
従って、溶質の物性に応じて、カルボン酸化合物と有機アミン化合物の物性を適宜選択して、溶質を最も適切に溶解することのできる、バランスの取れたイオン性液体を選択することができる。
【0045】
(試験例2)ウサギ皮膚一次刺激性試験

(1)ブレンステッド型のイオン性液体の刺激性評価試験
薬効成分を溶解させる溶媒として外用剤に使用可能かどうか検証するため、以下の表のイオン性液体(酸と塩基が1:1の塩)を前述のように作製し、軟膏製剤を作成した。
なお、グリシンの1−エチル−3−メチル−イミダゾール塩は、市販のものを購入した。
a)イオン性液体含有の軟膏製剤の作成:
以下の表15のイオン性液体を1.0g秤取して、プラスチベース9.0gを混合し、イオン性液体10%の含有軟膏製剤を作製した。
b)ウサギ皮膚刺激性試験:
9週令のウサギの背部皮膚を剪毛し、その中心に対して上下、左右対称(正中線を挟んで)となる6ヶ所に投与した。投与部位は健常皮膚と23Gの注射針(テルモ株式会社)で角質層に井型の傷を付けた損傷皮膚を設ける。正常皮膚に上記で作製したイオン性液体含有軟膏を0.3g塗布し、不織布粘着性包帯(メッシュポア、ニチバン株式会社)で固定し、投与部位全体をガーゼで被い、粘着性布伸縮包帯(エラストポア、ニチバン株式会社)を巻いて固定する。24時間放置した後、該軟膏を除去する。除去後、投与部位に残存する物質を微温湯で湿らせた脱脂綿で軽く拭き取る。1時間目、24時間目、48時間目、72時間目のウサギの正常皮膚の投与部位の変化を観察した。該軟膏の塗布した箇所の紅斑や浮腫の有無や程度を評価した。皮膚反応の評価は、Draize et al.の基準(J. Pharmacol. Exp. Ther., 82,377〜390(1944))による。
皮膚反応試験の結果を以下の表16に示す。
【0046】
【表15】

【0047】
【表16】

[注記]
(紅斑および痂皮の形成)
スコア0:紅斑なし
スコア1:非常に軽度な紅斑(かろうじて識別できる)
スコア2:はっきりした紅斑
スコア3:中等度ないし高度な紅斑
スコア4:紅斑の等級付けを妨げる痂皮の形成
(浮腫の形成)
スコア0:浮腫なし
スコア1:非常に軽度な浮腫(かろうじて識別できる)
スコア2:軽度浮腫(はっきりした膨隆による明確な縁が識別できる)
スコア3:中等度浮腫(約1mmの膨隆)
スコア4:高度浮腫(1mm以上の膨隆と投与範囲を超えた広がり)

以上の結果から、本発明のイオン性液体は皮膚刺激性がほとんどなく、外用剤として使用可能な溶媒であることが示された。
【0048】
(2)4級アンモニウム塩化合物とカルボン酸化合物を等モル混合物の刺激性評価試験
薬効成分を溶解させる溶媒として外用剤に使用可能かどうか検証するため、以下の表17の4級アンモニウム塩化合物とカルボン酸化合物(等モル混合物)を前述の如く作製し、前項と同様にして、10%軟膏製剤を作製した。前項と同様にウサギの正常皮膚を用いて該混合物の刺激性評価試験を行った。なお、塩化ベンザルコニウム、ベタインは市販のものを購入した。
その結果を表18に示す。
【0049】
【表17】

【0050】
【表18】

[注記]
(紅斑および痂皮の形成)と(浮腫の形成)については、前項のスコアと同じ意味を表す。

塩化ベンザルコニウムとの混合物では、レブリン酸との混合物が低刺激性であったが、それ以外は、刺激性が強かった。
ベタインとの混合物においては、いずれも低刺激性であることが示された。
【0051】
(3)1−エチル−3−メチル−1H−イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート塩と(BMI)Br塩の刺激性評価試験
薬効成分を溶解させる溶媒として外用剤に使用可能かどうか検証するため、1−エチル−3−メチル−1H−イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート塩と(BMI)Br塩の10%軟膏製剤を作製した。前項と同様にウサギの正常皮膚を用いて該混合物の刺激性評価試験を行った。なお、上記の2つの試剤は市販のものを購入した。
この結果を以下の表19に示す。
【0052】
【表19】

[注記]
(紅斑および痂皮の形成)と(浮腫の形成)については、前項のスコアと同じ意味を表す。

以上の結果から、1−エチル−3−メチル−1H−イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート塩と(BMI)Br塩は低刺激性であり、薬効成分を溶解させる溶媒として外用剤に使用可能であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒に難溶な薬効成分を溶解させるために、以下の組成a)、b)、c)の一つ又は複数を選択して使用することを特徴とする、難溶な薬効成分の溶解方法、
a)レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、グリシンの中から選択される酸性化合物と、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンの中から選択される有機アミン化合物を等モル反応させて得られるブレンステッド型のイオン性液体、
b)塩化ベンザルコニウム、ベタインの中から選択される4級アンモニウム塩化合物と、レブリン酸、グリオキシル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸の中から選択されるカルボン酸化合物を等モル混合物、
c)1−エチル−3−メチル−1H−イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート塩、(BMI)Brの中から選択されるルイス型のイオン性液体。
【請求項2】
上記ブレンステッド型のイオン性液体が、レブリン酸ジエタノールアミン塩、レブリン酸トリエタノールアミン塩、レブリン酸トリイソプロパノール塩、グリコール酸ジエタノールアミン塩、グリコール酸トリエタノールアミン塩、グリコール酸トリイソプロパノール塩、乳酸ジエタノールアミン塩、乳酸トリエタノールアミン塩、乳酸トリイソプロパノール塩、リンゴ酸ジエタノールアミン塩、クエン酸ジエタノールアミン塩、クエン酸トリエタノールアミン塩、安息香酸ジエタノールアミン塩、サリチル酸ジエタノールアミン塩、サリチル酸トリエタノールアミン塩である請求項2記載の溶解方法。
【請求項3】
上記ブレンステッド型のイオン性液体が、レブリン酸ジエタノールアミン塩またはレブリン酸トリエタノールアミン塩である請求項1または2に記載の溶解方法。
【請求項4】
難溶な薬効成分が核酸誘導体である、請求項1〜3のいずれかに記載の溶解方法。
【請求項5】
核酸誘導体がベクター、ポリヌクレオチドである、請求項1〜4のいずれかに記載の溶解方法。

【公開番号】特開2012−233016(P2012−233016A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195584(P2012−195584)
【出願日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【分割の表示】特願2007−18004(P2007−18004)の分割
【原出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(302005628)株式会社 メドレックス (35)
【Fターム(参考)】