外科用ハイドロゲル
本発明は、創傷治癒用に適し、特に手術後の癒着を減らすためのハイドロゲルを提供するものである。このハイドロゲルは、キトサンおよびデキストランポリマーの架橋された誘導体を含む。このハイドロゲルは、ポリマーの溶液を組み合わせたときに生じる。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
癒着の形成は、多くの外科手術で頻繁に生じる不快な結果である。癒着とは、通常は離れている創傷表面同士をつなぐ線維帯である。癒着は特に、ヘルニア修復、婦人科手術、結腸直腸手術などの腹部手術や骨盤手術後に普通にみられる。
【0002】
外科手術時の処置と乾燥によって組織に外傷が生じると、線維性の滲出液が放出される。この滲出液は、吸収または溶解されなければ腹膜腔または骨盤腔に貯留し、そこで癒着に変化する場合がある。滲出液は線維芽細胞とともに内殖し、コラーゲンが堆積して血管が形成されはじめ、癒着の組織化が起こり得る状態になる。
【0003】
癒着が形成されると、小腸閉塞、女性の不妊症、慢性疼痛などの重篤な合併症につながる可能性がある。患者はさらに外科手術を受けて癒着を切開しなければならないこともあるが、その場合も新たな癒着が形成されない保証はどこにもない。
【0004】
癒着形成を抑えるための技術として、腹膜腔の洗浄、薬理作用物質の投与、組織の機械的な分離がある。出血を止める生理的プロセスである術後止血によって、癒着形成の危険性が低下すると同時に他の利点も得られる可能性がある。
【0005】
残念なことに、癒着を低減および/または止血を達成するための現行の手順は、とりたてて有効ではなく、患者にとって嫌なこともある。また、状況によっては止血を目的とした処置によって、癒着形成の危険性が増すこともある。
【0006】
たとえば、慢性副鼻腔炎の治療に用いられている内視鏡的副鼻腔手術(ESS)の後、出血を抑えるために患者は不快な鼻タンポンの挿入を我慢しなければならない。しかしながら、鼻タンポンを取り除くと粘膜が傷付くことがあり、これによって癒着が形成される尤度が高くなる。トロンビン、フィブリン、フィブリノゲン、コラーゲンなどの周知の局所用止血薬を取り入れたドレッシングですら、癒着の形成を有意に増加させる可能性がある(たとえば、Chandra R. K., Kern R. C., Advantages and disadvantages of topical packing in endoscopic sinus surgery, Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg 2004, 12, 21-26を参照のこと)。さらに外科手術を必要とする癒着形成は、ESSを受けた患者の10〜30%に発生する。
【0007】
従来、ポリマー溶液およびゲルを標的部分に適用して癒着を抑えている。たとえば、ゲルを用いて外科的に露出した組織を覆った上で、手術部位を閉じるようにしている。ポリマーを溶液中にてin situで患者に付けた後、化学反応させてポリマーネットワークが形成されるよう共有結合による架橋形成を可能にしている手法もある。たとえば、SprayGel(商標)は、組織に適用すると組織の癒着バリアを形成するPEGベースの材料である。
【0008】
キトサンなどの多糖ポリマーもゲル形成薬剤として周知である。キトサンは、創傷治癒特性を有することが認められている。たとえば、米国特許第5,836,970号には、繊維、粉末、フィルム、フォームまたは水膨潤性ハイドロコロイドとして調製できるキトサンおよびアルギン酸塩の創傷被覆材が開示されている。米国特許第5,599,916号には創傷被覆材で使用可能な水膨潤性・水不溶性キトサン塩が開示されており、米国特許第6,444,797号には創傷被覆材またはスキンコーティングとして使用可能なキトサンのマイクロフレークが開示されている。
【0009】
また、キトサンには、ラットで腹膜癒着の予防効果があることが分かっている(Preventive effects of chitosan on peritoneal adhesion in rats, Zhang, Zhi-Liang et al., World J Gastroenterol, 2006, 12(28) 4572-4577。
【0010】
キトサンの誘導体についても、創傷治癒と癒着予防に対する効果の調査がなされている。たとえば、PCT国際公開第96/35433号パンフレットには、外科癒着の予防にN,O−カルボキシメチルキトサンを用いることが記載されている。N,O−カルボキシメチルキトサンは、以下の文献にも記載されている。
(i)Kennedy R et al., Prevention of experimental postoperative adhesions by N,O-carboxymethyl chitosan, Surgery, 1996, 120, 866-70;
(ii)Costain DJ et al., Prevention of postsurgical adhesions with N,O-carboxymethylchitosan: Examination of the most efficacious preparation and the effect of N,O-carboxymethyl chitosan on postsurgical healing, Surgery, 1997; 121, 314-9;
(iii)Krause TJ et al., Prevention of pericardial adhesions with N,O-carboxymethylchitosan in the Rat Model, Journal of Investigative Surgery, 2001 ,14,93-97;
(iv)Diamond, Michael P. et al., Reduction of postoperative adhesions by N,O-carboxymethylchitosan: a pilot study, Fertil Steril 2003, 80, 631-636;
(v)Diamond Michael P et al., Reduction of post operative adhesions by N,O-carboxymethylchitosan: A Pilot Study, The Journal of the American Association of Gynecologic Laparoscopists, 2004, 11(1), 127;
(vii)Lee, Timothy D. G et al., Reduction in postoperative adhesion formation and re-formation after an abdominal operation with the use of N,O-carboxymethyl chitosan, Surgery, 2004, 135, 307-312。
【0011】
PCT国際公開第98/22114号パンフレットには、硫酸化単糖、二糖またはオリゴ糖とキトサンとを併用して、コラーゲン含有組織での創傷治癒性を高めることが論じられている。PCT国際公開第96/02260号パンフレットには、ヘパリン、ヘパリン硫酸またはデキストラン硫酸との併用でのキトサンが記載されている。この組み合わせは、皮膚の創傷治癒を促進すると言われている。
【0012】
PCT国際公開第04/006961号パンフレットには、中性のキトサンと二価多価アルデヒドまたはアルデヒド処理ヒドロキシル含有ポリマーとの架橋によって形成された細胞を固定化して封入するためのゲルが記載されている。
【0013】
こうして尽力されているにもかかわらず、癒着形成は多くの外科手術分野で依然としてごく普通に発生する。このため、外科手術の成果を改善するのに用いることが可能な、止血と癒着予防に医学的な効力のある新たなポリマー材料に依然として大きな需要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、創傷に適用して創傷治癒を助ける、あるいは人々に有用な選択肢を与えることが可能なハイドロゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の開示
本発明は、術創および他の創傷に適用可能なハイドロゲルに関する。このハイドロゲルは、混合時に架橋してポリマーネットワークを形成する2種類のポリマーの水溶液を組み合わせることで製造可能である。架橋が生じたら、得られるポリマーネットワークが水溶液にてハイドロゲルを生じる。このハイドロゲルは、たとえば、ポリマー溶液を標的部分に噴霧する、吹き掛ける、あるいは注ぐことによって、in situで形成可能である。あるいは、このハイドロゲルを事前に形成した上で標的部分に適用しても構わない。別の実施形態では、ポリマー成分を取り入れた創傷被覆材が湿っているときに、ハイドロゲルを形成できる。
【0016】
本発明のハイドロゲルは創傷治癒を助け、癒着が形成されやすい状態の損傷を受けた隣接組織間に生じる癒着の予防を助けることもある。また、本発明のハイドロゲルは、創傷の出血を抑えるまたは止めることで、止血に影響することもある。このハイドロゲルは外科手術条件下で生分解性であり、数日または数週間の時間をかけて徐々に分解される。
【0017】
一態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0018】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーからなるポリマーネットワークを提供するものである。
【0019】
上記の態様の一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアミン基およびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基を介してアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋される。
【0020】
上記の態様の一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンポリマーである。
【0021】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含む、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0022】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンからなるポリマーネットワークを提供するものである。
【0023】
上記の態様の一実施形態では、N−スクシニルキトサンが、N−スクシニルキトサンのアミン基およびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基によってアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋される。
【0024】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液で混合して約1秒から約5分以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワーク提供するものである。
【0025】
別の態様では、本発明は、ポリマーネットワークが、N−スクシニルキトサンとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液で混合して約1秒から約5分以内にハイドロゲルを形成する、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワークを提供するものである。
【0026】
一実施形態では、ハイドロゲルが約1秒から約30秒以内、好ましくは約1秒から約20秒以内、一層好ましくは約1秒から約10秒以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが、約30秒から約5分以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが約5秒から約1分以内に生じる。
【0027】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約5分から約20分以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0028】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、N−スクシニルキトサンとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約5分から約20分以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0029】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約5分から約10分以内に生じる。
【0030】
別の実施形態では、ハイドロゲルが、約10分から約20分以内に生じる。
【0031】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約20分から約2時間以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0032】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、N−スクシニルキトサンとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約20分から約2時間以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0033】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約20分から約2時間以内、好ましくは約30分から約1時間以内に生じる。
【0034】
一態様では、本発明は、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中に含む、創傷治癒組成物を提供するものである。
【0035】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体がN−スクシニルキトサンである。
【0036】
一実施形態では、組成物が約2%から10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。一実施形態では、組成物が約2%から10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0037】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを水溶液中に含む、ハイドロゲルを提供するものである。
【0038】
一実施形態では、ハイドロゲルが約2%から10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。一実施形態では、ハイドロゲルが約2%から10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0039】
好ましくは、ハイドロゲルが、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約2%から約6%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。最も好ましくは、ハイドロゲルが約5%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。
【0040】
好ましくは、ハイドロゲルが、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約2%から約6%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。最も好ましくは、ハイドロゲルが約5%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0041】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである。
【0042】
一実施形態では、水溶液が、水、生理食塩水、緩衝液、これらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、水溶液が約0.9%w/vの生理食塩溶液である。
【0043】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークの製造方法であって、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを混合することを含む方法を提供するものである。
【0044】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約2%から約10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。好ましくは、水溶液が、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。
【0045】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液のpHが約6から8である。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液のpHが約6.5から7.5である。
【0046】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。
【0047】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液が、約2%から約10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。好ましくは、水溶液が、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0048】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液のpHが約6から8である。好ましくは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液のpHが約6.5から7.5である。
【0049】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーが、50〜100%アルデヒド誘導体化、好ましくは70〜100%アルデヒド誘導体化、一層好ましくは80〜100%アルデヒド誘導体化されている。
【0050】
一実施形態では、この方法が、等容量の(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを混合することを含む。
【0051】
一実施形態では、ポリマーネットワークおよび水溶液が一緒にハイドロゲルを含む。
【0052】
一実施形態では、溶液同士を一緒に攪拌してポリマーの水溶液を混合する。別の実施形態では、溶液を標的部分に同時に噴霧する、吹き掛ける、あるいは注ぐなどして、標的部分に適用する際に、ポリマーの水溶液を混合する。
【0053】
一実施形態では、水溶液が、水、生理食塩水、緩衝液、これらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、水溶液が約0.9%w/v生理食塩溶液である。
【0054】
一実施形態では、ポリマーの水溶液が、1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含有するものであってもよい。
【0055】
一態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むハイドロゲルであって、1種以上の生物学的活性剤を含む、ハイドロゲルを提供するものである。
【0056】
一実施形態では、1種以上の生物学的活性剤が、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生物質、防腐剤、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、局所麻酔薬、成長因子、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、細胞増殖阻害剤からなる群から選択される。
【0057】
一態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むハイドロゲルであって、1種以上の非生物学的活性剤(non-biologically active agent)を含む、ハイドロゲルを提供するものである。
【0058】
一実施形態では、1種以上の非生物学的活性剤が、増粘剤および染料からなる群から選択される。
【0059】
一態様では、本発明は、癒着形成しやすい組織の癒着を予防または低減する方法であって、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む方法を提供するものである。
【0060】
一実施形態では、癒着が手術後の癒着である。
【0061】
一実施形態では、この方法は、組織に本発明のハイドロゲルを適用することを含む。好ましくは、ハイドロゲルの層を組織表面に塗り広げる。
【0062】
一実施形態では、この方法は、(a)および(b)の組み合わせで創傷表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを組織に適用することを含む。
【0063】
一実施形態では、(a)と(b)とを組織に同時に適用する。
【0064】
一実施形態では、(a)と(b)とを組織に同時に噴霧する。一実施形態では、(a)と(b)とを組織に同時に吹き掛ける。別の実施形態では、(a)と(b)とを組織に同時に注ぐ。
【0065】
別の態様では、本発明は、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、癒着形成しやすい組織の手術後の癒着を予防または低減する方法であって、(a)および(b)の組み合わせで組織表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを組織に適用することを含む方法を提供するものである。
【0066】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法を提供するものである。
【0067】
一実施形態では、この方法は、創傷に本発明のハイドロゲルを適用することを含む。好ましくは、ハイドロゲルの層を創傷表面に塗り広げる。
【0068】
一実施形態では、この方法は、(a)および(b)の組み合わせでハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを創傷に適用することを含む。
【0069】
一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に適用する。
【0070】
一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に噴霧する。一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に吹き掛ける。別の実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に注ぐ。
【0071】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法であって、(a)および(b)の組み合わせで創傷表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを創傷に適用することを含む方法を提供するものである。
【0072】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法を提供するものである。
【0073】
一実施形態では、この方法は、創傷に本発明のハイドロゲルを適用することを含む。好ましくは、ハイドロゲルの層を創傷表面に塗り広げる。
【0074】
一実施形態では、この方法は、(a)および(b)の組み合わせでハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを創傷に適用することを含む。
【0075】
一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に適用する。
【0076】
一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に噴霧する。一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に吹き掛ける。別の実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に注ぐ。
【0077】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法であって、(a)および(b)の組み合わせで創傷表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを創傷に適用することを含む方法を提供するものである。
【0078】
別の態様では、本発明は、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、組織に1種以上の生物学的活性剤を送達する方法であって、ハイドロゲルが、1種以上の生物学的活性剤を含む方法を提供するものである。
【0079】
一実施形態では、この方法は、組織に本発明のハイドロゲルを適用することを含み、ハイドロゲルが、1種以上の生物学的活性剤を含む。好ましくは、ハイドロゲルの層を組織表面に塗り広げる。
【0080】
一実施形態では、この方法は、(a)および(b)の組み合わせで組織表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化(dicarboxy-derivatised)キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを組織に適用することを含み、(a)および(b)の一方または両方が1種以上の生物学的活性剤を含む。
【0081】
一態様では、本発明は、癒着形成しやすい組織の手術後の癒着を予防または低減するための薬物の製造における本発明のハイドロゲルの使用法を提供するものである。
【0082】
別の態様では、本発明は、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを、癒着形成しやすい組織の癒着を予防または低減するための薬物の製造に用いる使用法であって、(a)および(b)の組み合わせで本発明のハイドロゲルを形成する使用法を提供するものである。
【0083】
別の態様では、本発明は、創傷治癒を加速または促進するための薬物の製造における本発明のハイドロゲルの使用法を提供するものである。
【0084】
別の態様では、本発明は、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを、創傷治癒を加速または促進するための薬物の製造に用いる使用法であって、(a)および(b)の組み合わせで本発明のハイドロゲルを形成する使用法を提供するものである。
【0085】
別の態様では、本発明は、創傷の出血を抑えるまたは止めるための薬物の製造における本発明のハイドロゲルの使用法を提供するものである。
【0086】
別の態様では、本発明は、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを、創傷の出血を抑えるまたは止めるための薬物の製造に用いる使用法であって、(a)および(b)の組み合わせで本発明のハイドロゲルを形成する使用法を提供するものである。
【0087】
別の態様では、本発明は、1種以上の生物学的活性剤を組織に送達するための薬物の製造における本発明のハイドロゲルの使用法であって、薬物が、1種以上の生物学的活性剤を含む、使用法を提供するものである。
【0088】
別の態様では、本発明は、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを、1種以上の生物学的活性剤を組織に送達するための薬物の製造に用いる使用法であって、(a)および(b)の組み合わせで本発明のハイドロゲルを形成し、(a)および(b)の一方または両方が1種以上の生物学的活性剤を含む、使用法を提供するものである。
【0089】
上述した本発明の方法および使用法において:
一実施形態では、ハイドロゲルが、(a)と(b)とを組み合わせて約1秒から約5分以内に生じて薬物を生成する。
【0090】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約1秒から約30秒以内、好ましくは約1秒から約20秒以内、一層好ましくは約1秒から約10秒以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが約30秒から約5分以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが約5秒から約1分以内に生じる。
【0091】
一実施形態では、ハイドロゲルが、(a)と(b)とを組み合わせて約5分から約20分以内に生じて薬物を生成する。
【0092】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約5分から約10分以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが、約10分から約20分以内に生じる。
【0093】
一実施形態では、ハイドロゲルが、(a)と(b)とを組み合わせて約20分から約2時間以内に生じて薬物を生成する。
【0094】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約30分から約2時間以内、好ましくは約30分から約1時間以内に生じる。
【0095】
一実施形態では、(a)が、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを約2%から10%w/v、好ましくは約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/v含む。一実施形態では、(b)が、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを約2%から10%w/v、好ましくは約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/v含む。
【0096】
一実施形態では、(a)のpHが約6から8、好ましくは約6.5から7.5である。
【0097】
一実施形態では、(b)のpHが約6から8、好ましくは約6.5から7.5である。
【0098】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。
【0099】
別の態様では、本発明は、湿っているときに本発明のハイドロゲルを放出できる創傷被覆材を提供するものである。
【0100】
一実施形態では、創傷被覆材が、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む。一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである。
【0101】
一実施形態では、創傷被覆材が、絆創膏、ストリップ、パッド、ガーゼ、フィルム、ストッキング、テープからなる群から選択される。
【0102】
別の態様では、本発明は、本発明の方法で用いられるキットであって、
(a)ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーと、
(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと、を含む、キットを提供するものである。
【0103】
一実施形態では、キットが、(a)および(b)を溶解させて、架橋を起こさせることが可能である水溶液も含む。別の実施形態では、キットが、(a)および(b)のいずれか一方または両方の水溶液を含む。
【0104】
別の態様では、本発明は、本発明の方法に用いられるキットであって、
(a)ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーと、
(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと、を別々の容器に含む、キットを提供するものである。
【0105】
一実施形態では、キットが、(a)および(b)を溶解させて、架橋を起こさせることが可能である水溶液も含む。別の実施形態では、キットが、(a)および(b)のいずれか一方または両方の水溶液を含む。
【0106】
上述した本発明のキットにおいて:
一実施形態では、本発明のキットは、癒着形成しやすい組織の手術後の癒着を予防または低減する方法における使用説明書も含む。
【0107】
一実施形態では、本発明のキットは、創傷治癒を加速または促進する方法における使用説明書も含む。
【0108】
一実施形態では、本発明のキットは、創傷の出血を抑えるまたは止める方法における使用説明書も含む。
【0109】
一実施形態では、本発明のキットにて提供されるジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーが、凍結乾燥されたものである。一実施形態では、このキットは、ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを溶解させるための水溶液も含む。
【0110】
一実施形態では、ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの少なくとも一方、好ましくは両方が別々に、水溶液に提供される。一実施形態では、水溶液が冷凍されている。
【0111】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が、約2%から約10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。好ましくは、水溶液が、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。
【0112】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液のpHが約6から8である。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化ポリマーの水溶液のpHが約6.5から7.5である。
【0113】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。
【0114】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液が、約2%から約10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。好ましくは、水溶液が、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0115】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液のpHが約6から8である。好ましくは、アルデヒド誘導体化デキストランの水溶液のpHが約6.5から7.5である。
【0116】
任意に、水溶液のいずれか一方または両方が、1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含むものであってもよい。
【0117】
一実施形態では、水溶液が、水、生理食塩水、緩衝液、これらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、水溶液が約0.9%w/vの生理食塩溶液である。
【0118】
一実施形態では、水溶液のいずれか一方または両方が、1種以上の生物学的活性剤および/または1種以上の非生物学的活性剤を含むものであってもよい。
【0119】
一実施形態では、(a)および(b)のうちの1つ以上で、1種以上の生理学的活性剤も取り入れている。
【0120】
本明細書に開示の一定範囲の数字(たとえば1から10)を参照する場合、その範囲内のすべての有理数(たとえば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9、10)ならびに、その範囲内の一定範囲の有理数(たとえば、2から8、1.5から5.5、3.1から4.7)も援用し、よって、本明細書に明示的に開示する全範囲のすべての部分範囲を明示的に開示したものと同等の内容を意図している。これらは、具体的に何を意図しているかを示す単なる例にすぎず、列挙した最小値から最大値までの考えられるかぎりの数値の組み合わせも、同様にして本出願に明示的に言及されたものとみなされる。
【0121】
特許明細書、他の外部文書または他の情報源を参照する本明細書では、これは主に本発明の特徴について説明するための文脈を提供することを目的とするものである。特に明記しないかぎり、このような外部文書の引用は、いかなる司法権においても、当該文書または当該情報源が従来技術であると認めたこととはみなされず、従来技術における一般的な常識の一部をなすものでもない。
【0122】
また、本発明は広義には、本出願の本明細書で個々にまたは総称として参照または言及している部分、要素、特徴の2つ以上の任意の組み合わせで前記部分、要素または特徴からなるとも言ってもよく、本発明が関連する技術分野において周知の等価物である具体的な整数を本明細書で言及している場合、このような周知の等価物もそれを個々に説明したのと同等に本明細書に援用されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】処置後に鼻の外壁に癒着のある、実施例6で説明する治験各群のヒツジの比率を示すグラフである。
【図2】鼻の外壁での癒着の平均グレード(実施例6)を示すグラフである。
【図3】篩骨癒着のある各群におけるヒツジの比率(実施例6)を示すグラフである。
【図4】マッチド対照群と比較した全処置での平均篩骨癒着グレード(実施例6)を示すグラフである。
【図5】上皮の高さを経時的に光学顕微鏡法で比較した結果(実施例6)を示すグラフである。
【図6】再上皮化の比率を光学顕微鏡法で比較した結果(実施例6)を示すグラフである。
【図7】再線毛化した表面積の比率を走査型電子顕微鏡法で比較した結果(実施例6)を示すグラフである。
【図8】線毛グレードを走査型電子顕微鏡法で比較した結果(実施例6)を示すグラフである。
【図9】各群の平均線毛運動周波数(CBF)(実施例6)を示すグラフである。
【図10】Boezaart評価尺度を用いる活性vs偽薬の術野グレードスコア(実施例7)を示すグラフである。
【図11】Wormald評価尺度を用いる活性vs偽薬の術野評価尺度(実施例7)を示すグラフである。
【図12】Wormald評価尺度を用いる活性vs対照群の術野の評価スコア(実施例8)を示すグラフである。
【図13】活性vs対照群の完全な止血までの時間(実施例8)を示すグラフである。
【図14】活性vs対照群での経時的な痂皮スコアを比較した(実施例8)グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0124】
発明の詳細な説明
1. 定義
本明細書で使用する場合、「キトサン」という用語は、ランダムに分散されたβ−(1,4)結合したD−グルコサミンおよびN−アセチル−D−グルコサミンからなる直鎖型の多糖を意味する。キトサンはキチンを脱アセチル化して生成可能なものである。α−キトサンとβ−キトサンのどちらも本発明で使用するのに適している。脱アセチル化度(%DA)はキトサンの溶解性や他の特性に影響する。市販のキトサンは一般に、脱アセチル化度が約50から100%である。完全に脱アセチル化したキトサンのモノマー単位を以下の式Iに示す。
【化1】
【0125】
本明細書で使用する場合、「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」という用語は、環状無水物とキトサンポリマーのD−グルコサミン残基のアミン基との反応によって誘導体化されたキトサンポリマーを意味する。ジカルボキシ基の例としては、N−スクシニル、N−マロイル、N−フタロイルがあげられる。N−スクシニルが好ましい。
【0126】
「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」は、他の官能基で部分的に誘導体化されたものであってもよい。この二次誘導体化は、ジカルボキシ基で誘導体化されなかったアミン位置あるいは、D−グルコサミン残基のヒドロキシ基のいずれかで起こり得る。たとえば、環状無水物とキトサンのOH基とが反応すると、アミド置換基の代わりに、あるいはアミド置換基に加えてエステル基を含有するモノマーが得られることがある。
【0127】
二次誘導体化がジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアミン位置に存在する場合、ポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとの架橋を形成できるだけの十分な遊離アミン基を保持しなければならない。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、環状無水物とD−グルコサミン残基のアミン基との反応によってのみ誘導体化される。
【0128】
本明細書で使用する場合、「N−スクシニルキトサンポリマー」という用語は、キトサンポリマーのD−グルコサミン残基のアミン基にN−スクシニル基を加えることで誘導体化されたキトサンを意味する。N−スクシニルキトサンポリマーのモノマー単位を以下の式IIに示す。
【化2】
【0129】
スクシニル化度は可変である。一般に、約30から70%であるが、N−スクシニルキトサンポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランとの架橋を形成できるだけの十分な遊離アミン基を保持しなければならない。N−スクシニルキトサンポリマーは、「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」(上記)で述べたような二次誘導体化を含むものであってもよい。
【0130】
「N−スクシニルキトサン」という用語は、本明細書で使用する場合、アミン位置でN−スクシニル基によってのみ誘導体化され、他の官能基との二次誘導体化を含まない、N−スクシニルキトサンポリマーを意味する。
【0131】
本明細書で使用する場合、「デキストラン」という用語は、短いα−(1,3)側鎖を有するα−(1,6)グリコシド結合で構成されるグルコース多糖を意味する。デキストランのモノマー単位を以下の式IIIに示す。
【化3】
【0132】
デキストランは、スクロース含有媒質をロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides) B512Fで発酵させて得られるものである。分子量1KDaから2000KDaのデキストランが市販されている。
【0133】
本明細書で使用する場合、「アルデヒド誘導体化デキストランポリマー」という用語は、隣接する第2級アルコール基が酸化されて反応性ビスアルデヒド官能基となったデキストランポリマーを意味する。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、他の位置で他の官能基によって誘導体化されていてもよい。好ましくは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、隣接する第2級アルコール基でのみ誘導体化される。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの代表的なモノマー単位を以下の式IVにあげておく。
【化4】
【0134】
本明細書で使用する場合、「徐放」という用語は、生物学的活性剤の徐放との関連で、拡散のみに基づいて想定される送達と比較して、生物学的活性剤の想定される送達よりも長いことを意味する。
【0135】
本明細書で使用する場合、「ハイドロゲル」という用語は、巨大分子間の隙間を埋めるポリマー鎖および水の三次元ネットワークからなる二成分系または多成分系である。
【0136】
本明細書で使用する場合、「組織」という用語は、形態学的に類似の細胞が関連の細胞間物質と一緒に凝集したもの(これらが一緒になってヒトを含む生命体の体で1つ以上の特定の機能を果たすよう作用する)を意味する。組織の例として、筋肉、上皮、神経、結合組織があげられるが、これに限定されるものではない。
【0137】
また、「組織」という用語は、大動脈、心臓、胸膜腔、気管、肺、心膜、囲心腔などの胸部組織;胃、小腸および大腸、肝臓、膵臓、胆嚢、腎臓、副腎などの腹部および後腹膜組織;男性および女性の生殖器および泌尿器の組織をはじめとする骨盤腔組織;脊柱および神経、硬膜および末梢神経などの中枢神経系および末梢神経系の組織;骨格筋、腱、骨、軟骨などの筋骨格系組織;眼、耳、首、喉頭、鼻、副鼻腔などの頭部および頸部組織などであるが、これに限定されるものではない、1つ以上の組織型を含む臓器も包含する。
【0138】
本明細書で使用する場合、「癒着」という用語は、外科手術などの炎症性刺激の後に生じる、組織間または臓器間あるいは、組織とインプラントとの間の異常な結合を意味する。
【0139】
癒着形成しやすい組織は、炎症性刺激に曝露された組織である。たとえば、内視鏡的副鼻腔手術、腹部手術、婦人科手術、筋骨格手術、眼手術、整形外科手術、心血管手術などであるが、これに限定されるものではない、外科的処置に関与した組織。組織は、機械的損傷、骨盤の炎症性疾患などの疾患、放射線治療、外科用インプラントなどの異物の存在といった他のイベントの後にも癒着形成しやすいことがある。
【0140】
本明細書で使用する場合、「創傷」という用語は、ヒト生物体をはじめとする生きた生物体での組織の傷害を意味する。組織は、内臓などの内部組織であってもよいし、皮膚などの外部組織であってもよい。傷害は、外科的切開によることもあれば、組織に意図しない力が加わることによることもある。創傷には、擦過創、挫創、刺創などの機械的損傷によって生じる傷害ならびに、火傷や化学的損傷によって生じる傷害を含む。また、傷害は、潰瘍、病変、腫物または感染において生じるものなど、徐々に発生することもある。創傷の例としては、挫傷創、切創、貫通創、穿孔創、穿刺創、皮下創があげられるが、これに限定されるものではない。
【0141】
本明細書で使用する場合、「含む(comprising)」という用語は、「少なくとも一部をなす」ことを意味する。「含む」という用語を含む本明細書の各文を解釈すると、この用語で示した以外の特徴が存在してもよい。「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」などの関連の用語も同様に解釈される。
【0142】
2. ポリマーネットワーク
本発明は、2種類の周知のポリマーであるキトサンとデキストランの誘導体化および架橋によって形成される新規なポリマーネットワークに関する。このポリマーは、水溶液中でハイドロゲルを生成しながらすみやかに三次元ポリマーネットワークを形成する。ハイドロゲルの特性については、2種類のポリマー成分の誘導体化と架橋を変更することで、特定の用途に合わせて微調整が可能である。
【0143】
もっとも広義の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンを含むポリマーネットワークを提供するものである。
【0144】
2.1 キトサン成分
キトサンは広く利用でき、Sigma-Aldrich(www.sigma-aldrich.com)などのさまざまな提供元から業務入手可能である。
【0145】
あるいは、キチンを脱アセチル化してキトサンを調製することも可能である。多くの脱アセチル化方法が従来技術において周知であり、たとえば、加熱しながら濃水酸化ナトリウム溶液中でキチンを加水分解した後、濾過によりキトサンを回収して水で洗浄する。キチンは、グルコサミン単位間の結合がαであるかβであるかによって、α−キチンまたはβ−キチンのいずれかで存在する。キチンは、甲殻類、昆虫、菌類、藻類、酵母に見られ、α−キチンがロブスターやカニ、エビなどの甲殻類の殻から多く得られるのに対し、β−キチンはイカの甲から誘導される。どちらのタイプのキチンも、本発明で使用するジカルボキシ誘導体化キトサンの調製に使用可能である。
【0146】
通常、市販のキトサンの平均分子量(MWav)は約1から1000kDaである。低分子量のキトサンは、MWavが約1から50kDaである。高分子量のキトサンは、MWavが約250から800kDaである。どのようなMWavのキトサンでも本発明で使用可能である。
【0147】
キチンの脱アセチル化は、得られるキトサンが遊離第1級アミン基の大部分をそのポリマー骨格とともに有することを意味する。キトサンの脱アシル化度は、本発明のポリマーネットワークの特性に影響することがある。誘導体化または架橋に利用できるのは、脱アセチル化されたグルコサミン単位のみであることがその理由である。また、キトサンの溶解性も脱アシル化度に左右される。
【0148】
本発明で使用するのに最も適したキトサンポリマーは、脱アセチル化度が約40%から100%である。好ましくは、脱アシル化度が約60%から95%、一層好ましくは約70%から95%である。
【0149】
本発明で使用するキトサンは、キチンの脱アセチル化によって遊離状態にされたアミンでジカルボキシ誘導体化されている。ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーについては、キトサンと環状酸無水物とを反応させることで生成可能である。本発明で使用するのに適した環状酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、グルタル酸無水物、シトラコン酸無水物、メチルグルタコン酸無水物、メチルコハク酸無水物などがあげられる。
【0150】
好ましくは、無水スクシニル、無水フタル酸またはグルタル酸無水物のうちの1つ以上とキトサンとの反応によってジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを生成する。一層好ましくは、キトサンと無水スクシニルとの反応によってジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを生成する。
【0151】
誘導体化を達成するには、従来技術において周知のどのような方法を使用してもよい。たとえば、環状無水物をDMFに入れた溶液中で固体キトサンを加熱するか、固体キトサンをメタノール/水混合物に可溶化した後に無水物と反応させることが可能である。この誘導体化プロセスで使用するのに適した他の溶媒としては、ジメチルアセトアミドがあげられる。乳酸、HClまたは酢酸などの酸を加えれば、キトサンの溶解性を改善することが可能である。NaOHなどの塩基は一般に、アセチル化アミンの一部を脱アセチル化する目的で添加される。
【0152】
一般的な方法を実施例1にあげておく。使用する方法は、使用する環状無水物および/またはキトサンの平均分子量に応じて選択可能である。キトサンと環状無水物のどちらも、使用する溶媒に対して十分に溶解または使用する溶媒中で十分に膨潤できるものとする。
【0153】
好ましい実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。N−スクシニルキトサンを調製する方法については、従来技術において周知である。たとえば、“Preparation of N-succinyl chitosan and their physical-chemical properties”, J Pharm Pharmacol. 2006, 58, 1177-1181を参照のこと。
【0154】
環状無水物とキトサンとの反応によって、遊離アミン位置の一部がジカルボキシ基でアシル化される。たとえば、使用する環状無水物が無水コハク酸の場合、アミン基の一部がN−スクシニル化される。N−スクシニル化後にNaOH処理することで、アシル基の一部がキトサンのアミン基から除去される。NaOH処理の温度を高めると、実施例4で示すように、存在する遊離アミン基の比率が高くなる。
【0155】
アシル化度については、生成物におけるC:Nの比で示される。また、アシル化度を‘H nmrで判断することも可能である。N−スクシニルキトサンポリマーを以下に示す。式Vは、ポリマー中に存在する3つのタイプのD−グルコサミン単位すなわち、N−スクシニル化−D−グルコサミン、遊離D−グルコサミン、N−アセチル−D−グルコサミンを示す。
【化5】
【0156】
一実施形態では、xが約60から80%であり、yが約1から15%、zが約10から25%である。
【0157】
別の実施形態では、xが約60から80%、yが約1から30%、zが約2から25%である。
【0158】
無水物置換の度合いが高ければジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの溶解性は高まるが、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとの架橋の妨げになる場合がある。
【0159】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約20%から80%ジカルボキシ誘導体化されている。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約30%から60%ジカルボキシ誘導体化されている。一層好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約45%から50%ジカルボキシ誘導体化されている。
【0160】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約50%から90%ジカルボキシ誘導体化されている。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約60%から80%ジカルボキシ誘導体化されている。
【0161】
2.2 デキストラン成分
デキストランは、主にα−1,6リンケージで結合されたD−グルコース単位で構成される多糖である。ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroies)をスクロースで成長させて、高分子量の粗デキストランを業務入手する。得られる多糖を加水分解して、低分子量のデキストランを得る。
【0162】
デキストランをジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーに架橋可能にする前に、これを活性化しなければならない。デキストランで隣接する第2級アルコール基から酸化によって反応性のビスアルデヒド官能基を生成可能である。一般的な方法を実施例2にあげておく。次に、得られたアルデヒド誘導体化デキストランポリマーをジカルボキシ誘導体化キトサンの第1級アミン基に還元的にカップリングし、本発明の架橋ポリマーネットワークを形成することが可能である。
【0163】
一実施形態では、酸化剤が過ヨウ素酸ナトリウムである。他の好適な酸化剤に、過ヨウ素酸カリウムなどがある。
【0164】
酸化生成物であるアルデヒド誘導体化デキストランポリマーは実際に、少量の遊離アルデヒド基を含有するのみである。アルデヒド基の大半はアセタールおよびヘミアセタールとしてマスクされ、デキストランの遊離アルデヒド形態と平衡状態にある。遊離アルデヒド基の一部が反応することで、アセタールおよびヘミアセタール形態から遊離したアルデヒド基のより多い形態に平衡がシフトする。
【0165】
酸化度は、使用する酸化剤のモル比に影響されることがある。酸化度が高くなればなるほど、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの多くの部位を架橋に利用できるようになる。しかしながら、酸化度が低めのほうがアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの可溶性が高くなる。過ヨウ素酸反応でもデキストランポリマーの分子量が劇的に低下する。
【0166】
一実施形態では、酸化度が、約30%から約100%、一層好ましくは約50%から約100%である。最も好ましくは、酸化度が約80から約100%である。
【0167】
実施例5では、アルデヒド誘導体化(または酸化)度の異なるアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを用いて調製した本発明のポリマーネットワークのゲル化時間を比較する。溶液中でN−スクシニルキトサンの溶液と組み合わせると、高度にアルデヒド誘導体化したデキストランポリマーほど分子量が小さく、短時間でゲルを形成する。
【0168】
誘導体化度は、ヒドロキシルアミン塩酸塩と拡大反応を実施した後、遊離プロトンを滴定して測定可能である(Zhao, Huiru, Heindel, Ned D, “Determination of degree of substitution of formyl groups in polyaldehyde dextran by the hydroxylamine hydrochloride method,” Pharmaceutical Research (1991), 8, page 400-401)。
【0169】
2.3 デキストラン成分によるキトサン成分の架橋
本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、ポリマーネットワークを提供するものである。一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーがN−スクシニルキトサンポリマーである。一実施形態では、N−スクシニルキトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンポリマーのアミン基およびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基によってアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋している。好ましくは、N−スクシニルキトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである。
【0170】
また、本発明は、上述したようなポリマーネットワークを生成する方法も提供するものである。
【0171】
本発明のポリマーネットワークを製造するには、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーをアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋させる。これは、2種類のポリマーの水溶液を混合することで達成可能である。たとえば、実施例3を参照のこと。
【0172】
一度生成してしまえば、各ポリマー成分の水溶液は、溶液状のまま保っても構わないし、凍結乾燥などによって乾燥させて固体生成物とすることも可能である。この場合は、一緒に混合して本発明のハイドロゲルを形成する前に、固体のポリマー成分を水溶液に再溶解させればよい。
【0173】
一実施形態では、ポリマーマトリクス形態のpHが約6から8、好ましくは約6.5から7.5の水溶液が望ましい。これは、2種類の溶液を混合する前に、ポリマー成分ごとの水溶液のpHを上記の範囲内に調整して達成可能である。あるいは、個々のポリマー成分の水溶液のpHを、透析後かつ凍結乾燥前に調整することも可能である。pHについては、好適な塩基または酸を用いて調整可能である。通常、pHの調整にはNaOHを使用する。
【0174】
一実施形態では、水溶液のいずれか一方または両方が独立に、1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含有してもよい。一実施形態では、水溶液が独立にNaClを含有してもよい。好ましくは、NaClの濃度が約0.5から5%w/vである。一層好ましくは、NaClの濃度が約0.5%から2%w/vであり、最も好ましくは約0.9%w/vである。
【0175】
一実施形態では、水溶液は、Na2HPO4などのリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、乳酸緩衝液、クエン酸緩衝液、重炭酸緩衝液などであるが、これに限定されるものではない、1種以上の緩衝液を独立に含有するものであってもよい。
【0176】
2.4 本発明のハイドロゲル
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと反応し、三次元架橋ポリマーネットワークを生成する。このポリマーネットワークは、これが形成される水溶液との間でハイドロゲルを形成する。本発明のハイドロゲルは、自らを医療用途で、特に創傷治癒、手術による癒着の予防、出血の低減(止血)で使用するのに適したものとする特性を有する。
【0177】
理論に拘泥することなく、本発明のハイドロゲルを創傷表面に適用すると、この隙間内でのフィブリンおよび血塊の形成が防止され、それによって以後の癒着の形成が防止されると思われる。
【0178】
ハイドロゲルの特性については、2種類のポリマーの誘導体化と架橋を変更することで、特定の用途に合わせて微調整が可能である。
【0179】
本発明のポリマーネットワークでは、キトサンのD−グルコサミン残基のアミン基が、
(a)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋されてもよいし、
(b)ジカルボキシ基との間でアシル化されてもよく、あるいは、
(c)アセチル化(元のキチン材料から)されてもよい。
【0180】
アセチル化度および/またはジカルボキシアシル化度が高いと、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋する遊離アミン基があまり残らない。結果として、2種類のポリマーの水溶液を混合すると、生じる重合量がジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアシル化およびアセチル化のパターンに影響されることになる。これは、仮にそうであれば、いかに短時間でハイドロゲルが形成されるかに影響する。ポリマーの希溶液中で極めてわずかな重合が生じる場合、ハイドロゲルは形成されない。
【0181】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液は、各成分を約2%から約10%w/vずつ含む。
【0182】
通常、2種類のポリマーの水溶液を等濃度で混合して、本発明のハイドロゲルを形成する。しかしながら、2種類のポリマーの特性が、混合時に架橋して本発明のハイドロゲルを形成するようなものになるのであれば、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとに異なる比を用いることも可能である。
【0183】
当業者であれば、混合時に成分のポリマー溶液がすみやかに架橋してハイドロゲルを形成するように、
(a)キトサンの脱アセチル化度、
(b)キトサンのジカルボキシ誘導体化度、
(c)アルデヒド誘導体化デキストランの酸化度、
(d)水溶液中の濃度
のパラメータを操作することが可能である。
【0184】
あるいは、当業者であれば、これらのパラメータを必要に応じて操作して、ゆっくりとまたは特定の時間内にハイドロゲルが生じるようにすることができる。
【0185】
ポリマーの二次誘導体化、水溶液の性質、生物学的に活性なまたは非生物学的活性剤の添加などの要因も考慮すべきである。たとえば、混合ポリマー成分を含む水溶液のpHが約6から8の場合、本発明のハイドロゲルをさらに短時間で形成できることがある。
【0186】
上述したパラメータを操作することで、本明細書に記載の方法を使用して、本発明者らは混合して数秒程度もすれば生じる本発明のハイドロゲルを生成した。本発明の他のハイドロゲルは、2種類の溶液を混合してから、数分から数時間かけて生じる。
【0187】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー溶液およびアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を使用前に滅菌して、組織への適用で組織に微生物が導入されないようにしてもよい。あるいは、凍結乾燥させた固体のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを滅菌した上で、滅菌水溶液に溶解することも可能である。
【0188】
溶液を滅菌するには、従来技術において周知のどのような技術を用いてもよい。たとえば、放射性同位元素源(通常はコバルト−60)からのγ線または電子ビームあるいはx線の照射を用いる放射線滅菌による。
【0189】
放射線への曝露によって、ジカルボキシ誘導体化キトサンおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの機能性に影響しかねない化学変化が生じることがある。たとえば、遊離アミン基が酸化された場合、ポリマー成分間の架橋にあまり利用できなくなり、ゲルが形成されるまでの時間が長くなることもある。また、放射線を用いるとポリマー成分の分子量が低下する場合がある。溶液中で一緒に混合したときに特定の時間枠でハイドロゲルを生じることを意図したジカルボキシ誘導体化キトサン成分とアルデヒド誘導体化デキストラン成分を調製する際には、これらの要因について考慮すべきである。
【0190】
また、本発明のハイドロゲルは、1種以上の生物学的活性剤および/または1種以上の非生物学的活性剤を含有することが可能である。
【0191】
一実施形態では、1種以上の生物学的活性剤が、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生物質、防腐剤、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、成長因子、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、細胞増殖阻害剤からなる群から選択される。
【0192】
ハイドロゲルマトリクスに取り込まれる生物学的活性剤は、ハイドロゲルが崩壊する際に放出される。このようにして、本発明のハイドロゲルを用いて生物学的活性剤を標的部分に送達することが可能である。
【0193】
また、非生物学的活性剤をハイドロゲルマトリクスに取り込むことも可能である。たとえば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガムなどの多糖類増粘剤、ポリアクリル酸などのポリマー増粘剤ならびにコポリマー、ポリアクリルアミド、コポリマー、アルコール、無水マレイン酸コポリマーなどを加えて、さらに剛性の高いハイドロゲルを生成することが可能である。
【0194】
また、ポリマー成分の水溶液に多糖類増粘剤を加えて、溶液が適用するのに好適な粘度になるようにしてもよい。たとえば、ハイドロゲルをin situで創傷または組織などの標的部分に形成する場合、ポリマー成分の水溶液は、架橋が起こり得る前に流れ落ちてしまわないように十分に粘性のものとする。したがって、使用する特定のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよび/またはアルデヒド誘導体化デキストランポリマーが、極めて非粘性の水溶液を形成する場合、増粘剤を用いて粘度を高めてもよい。他の実施形態では、増粘剤を添加しなくてもポリマー成分の水溶液が十分に粘性のものとなる。
【0195】
同様に、適用するハイドロゲルの正確な場所と量を確定できるように、フルオレセインおよびメチレンブルーなどの染料をハイドロゲルマトリクスに取り込むことも可能である。
【0196】
これらの別の作用剤(agent)は、従来技術において周知のどのような方法でハイドロゲルに取り込んでもよい。たとえば、作用剤が固体物質の場合、一方の乾燥ポリマー成分とブレンドすることが可能である。こうして組み合わせた乾燥材料を水溶液に溶解し、これを第2のポリマー成分の水溶液と混合する。
【0197】
取り込む作用剤が液体の場合、水性ポリマー溶液の一方と直接に組み合わせ、保管用に凍結乾燥させることが可能である。あるいは、溶液を混合して本発明のハイドロゲルを形成する前に、水性ポリマー溶液の混合物に直接に加えることも可能である。
【0198】
また、作用剤を共有結合的にポリマー成分のひとつと反応させることも可能である。大量の作用剤が存在し、作用剤がN−スクシニルキトサンの遊離アミン基と反応する場合、得られるハイドロゲルは形成に時間がかかる場合がある。しかしながら、作用剤とポリマー成分との共有結合反応は、ハイドロゲルが生じ得ないほどの架橋を防ぐものでなければならない。
【0199】
ハイドロゲルが分解すると、ポリマーから作用剤が加水分解される。
【0200】
3 本発明のハイドロゲルの使用
一態様では、本発明は、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、癒着形成しやすい組織の癒着を予防または低減する方法を提供するものである。
【0201】
一実施形態では、癒着が手術後の癒着である。
【0202】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法を提供するものである。
【0203】
一態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法を提供するものである。
【0204】
上述した本発明の方法で:
一実施形態では、本発明のハイドロゲルをin situで生成する。たとえば、溶液を標的部分に噴霧する、吹き掛ける、あるいは注ぐことによって、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液を同時に適用することが可能である。標的部分は、創傷(特に術創)であってもよいし、組織であってもよい。
【0205】
2種類の成分が出会って、空気中あるいは創傷表面または組織で混ざり、反応して架橋ポリマーネットワークが生成される。水溶液中でのポリマーネットワークの形成によって、ハイドロゲルが得られる。
【0206】
溶液については、従来技術において周知のどのような手段を用いてでも、標的部分に噴霧する、吹き掛ける、あるいは注ぐことが可能である。噴霧する場合、別々の容器から水溶液を同時に分散液滴の塊の形で放出する。容器を加圧してもよい。たとえば、PCT国際公開第00/09199号パンフレットには、2種類の重合可能な流体の噴霧を可能にする装置について記載されている。この装置は、流体が噴霧時にのみ混ざるように、別々のチャンバに保存された流体を噴霧する。
【0207】
吹き掛ける場合、液体流の状態でポリマー含有水溶液を別々の容器から同時に押し出す。たとえば、別々の注射器と、溶液を標的部分に適用する際に、これをその先端で混合できるようにするアプリケータとを用いて、水溶液を標的部分に吹き掛けることが可能である。あるいは、溶液を単に標的部分に注ぐことも可能である。
【0208】
2つのポリマー溶液を同時に適用すべきであるが、ハイドロゲルを形成できるだけの十分な架橋が生じるのであれば、各々が標的部分に厳密に同じ量かつ厳密に同時に到達する必要はない。
【0209】
他の接着剤またはシーラント系用に開発されたin situゲル化のためのさまざまな方法論および装置を用いて、ポリマーの水溶液を適用して本発明のハイドロゲルを形成すればよい。
【0210】
別の実施形態では、まずはジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーをアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと混合して水溶液中でポリマーネットワークを形成した後、生じるハイドロゲルを治療対象部分に適用して、本発明のハイドロゲルを用いる。ポリマーの混合とハイドロゲルの適用との間の時間は、ゲルの形成速度に左右される。従来技術において周知のどのような方法を用いて、ハイドロゲルを標的部分に適用してもよい。たとえば、広口径注射器を用いてハイドロゲルを適用することが可能である。
【0211】
一実施形態では、ハイドロゲルの使用量を、(a)治療部分での癒着数の低減または最小化、(b)これを適用する創傷の治癒の加速または促進、あるいは、(c)これを適用する創傷の出血の低減または停止のために十分なものとすべきである。
【0212】
本発明のハイドロゲルを使用すれば、癒着形成イベントによって引き起こされる組織の癒着を低減または最小化できるが、これらのハイドロゲルは、手術後の癒着を予防または低減するのに特に有用である。
【0213】
本発明の方法は、どのような生物体の治療にも適用可能である。一実施形態では、この方法をヒトに適用する。
【0214】
ハイドロゲルが出血と癒着の両方を低減する機能によって、これらのハイドロゲルが事実上どのような外科的処置でも価値のあるツールになる。本発明のハイドロゲルを使用可能な外科的処置の例として、腸の外科手術などの腹部の処置、胸部の処置、頭蓋間および脊髄外科手術をはじめとする神経外科的処置、神経放出処置および脳の表層での処置、卵巣嚢腫摘出および子宮摘出などの骨盤処置、洞手術、眼処置、耳鼻科の処置、声帯および索の処置などの頸部および咽頭部の処置、屈筋腱および伸筋腱の癒着の分離などの整形外科処置、火傷の処置があげられるが、これに限定されるものではない。
【0215】
本発明のハイドロゲルは、耳、鼻、喉の外科手術で使用するのに特に適している。洞でのゲル形成が弱いのは、粘液線毛クリアランスがゆっくりとゲルを洞表面から取り除くような場合である。鼻粘膜粘液線毛輸送系の線毛拍動は、鼻粘膜上皮を覆う粘液層を鼻咽頭まで運ぶよう機能する。それをするにあたって、洞表面に適用されるどのような物質も同様に放出される。本発明のハイドロゲルは、適用後すぐに極めてしっかりとしたものとなるため、鼻粘膜粘液線毛輸送系によって取り除かれることはない。
【0216】
一旦適用すると、本発明のハイドロゲルは、内部組織間の物理的なバリアを維持し、癒着を予防する。組織表面が治癒するにつれて、ハイドロゲルが分解してその部位から取り除かれる。
【0217】
また、本発明のハイドロゲルを、直接に、あるいはハイドロゲルを取り入れた創傷被覆材を用いて、皮膚科学的創傷および皮膚創傷に適用することも可能である。
【0218】
3.1 本発明のハイドロゲルを用いる生物学的活性剤の送達
本発明のハイドロゲルを、生物学的活性剤の部位特異的徐放キャリアとして用いることが可能である。したがって、一態様本発明は、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、1種以上の生物学的活性剤を組織まで送達する方法であって、ハイドロゲルが1種以上の生物学的活性剤を含有する方法を提供するものである。
【0219】
生物学的活性剤の部位特異的送達によって、従来の全身投与に関連した副作用を低減でき、治療有効量の生物学的活性剤を確実に患部まで到達される。たとえば、本発明のポリマーネットワークを用いて、慢性の静脈不全および脚部の潰瘍を治療することが可能である。ポリマーネットワークに取り込まれる血管新生促進因子および上皮成長因子が、潰瘍の治癒を助けることができる。本発明のポリマーネットワークは、ゲルとして創傷に対して直接に適用してもよいし、創傷に適用される創傷治癒被覆材に取り込んでもよい。
【0220】
本発明のポリマーネットワークに取り入れることが可能な生物学的活性剤としては、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生物質、防腐剤、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、成長因子、麻酔、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、細胞増殖阻害剤があげられるが、これに限定されるものではない。
【0221】
生物学的活性剤は、本発明のポリマーと併せて創傷治癒の一助となるよう作用することがある。たとえば、テトラサイクリン、シプロフロキサシンなどの抗生物質;線維芽細胞成長因子をはじめとするヘパリン結合成長因子などの成長因子;血小板由来の成長因子、インスリン結合成長因子−1、インスリン結合成長因子−2、上皮成長因子、形質転換成長因子−α、形質転換成長因子−β、血小板因子4、ヘパリン結合因子1および2はいずれも、本発明のポリマーネットワークに取り入れることが可能である。
【0222】
使用可能な他の生物学的活性剤としては、ナイスタチン、ジフルカン、ケトコナゾールなどの抗真菌薬;ガングシクロビル、ジドブジン、アマンチジン、ビダラビン、リバラビン、トリフルリジン、アシクロビル、ジデオキシウリジンなどの抗ウイルス薬;α1抗トリプシン、α1抗キモトリプシンなどの抗炎症薬;5−フルオロウラシル、タキソール、タキソテール、アクチノマイシンD、アンドリアマイシン、アザリビン、ブレオマイシン、ブスルファン、酪酸、カルムスチン、クロランブシル、cis−プラチン、シタラビン、シタラビン、ダカルバジン、エストロゲン、ロムスチン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシンC、プレドニシロン、プレドニゾン、プロカルバジン、ストレプトゾトシン、チオグアニン、チオテパ、トリブチリン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ゲンタマイシン、カルボプラチン、シクロホスファミド、イホスファミド、マホスファミド、レチノイン酸、リシン、ジフテリア毒素、毒液などの細胞毒または細胞増殖阻害剤;エストロゲン、テストステロン、インスリンなどのホルモン;ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタソン、フルチカゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、メメタソン(memetasone)、プレドニゾン/プレドニゾロン、トリアムシノロンなどのステロイド;アルブミンなどの血漿タンパク質;免疫グロブリンA、MおよびGをはじめとする免疫グロブリン;フィブリノゲン;因子II、VII、VIII、IX、XおよびXIIIをはじめとする凝固因子;プラスミノーゲン;タンパク質C;タンパク質S;抗トロンビンIII、α1抗トリプシン、α2マクログロブリン、C1エステラーゼ阻害剤をはじめとする血漿プロテイナーゼ阻害剤;α1酸糖タンパク質;セルロプラスミン;ハプトグロビン;トランシフェリング;相補成分C1〜C9l C4b結合タンパク質;インターαトリプシン阻害剤;A−1、A−11、B、C、Eをはじめとするアポリポタンパク質;フィブロネクチンおよびアンジオスタチンがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0223】
また、本発明のハイドロゲルは、ペプチド、タンパク質、単炭水化物、複合炭水化物、脂質、糖脂質、糖タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養補助剤を含むものであってもよい。
【0224】
生物学的活性剤をハイドロゲルに取り込むと、作用剤の部位特異的送達が可能になる。また、ハイドロゲルの分解速度を微調整して放出速度を制御することが可能である。
【0225】
本発明のハイドロゲルに生物学的活性剤を加えるには、従来技術において周知のどのような手段を用いてもよい。たとえば、作用剤を混合前に一方のポリマー成分溶液に加え、溶液同士を一緒にしてもよい。取り込み手段は生物学的活性剤の性質に左右される。
【0226】
添加対象となる生物学的活性剤の濃度は、作用剤の性質、これを適用する部位、ハイドロゲルの物理的な特徴によって左右されることになる。濃度は、治療有効量の生物学的活性剤が標的部位に送達されるような十分なものとする。一実施形態では、生物学的活性剤の濃度が、ハイドロゲル約1ng/mlから約1mg/mlである。好ましくは、生物学的活性剤の濃度が、ハイドロゲル約1ug/mlから約100ug/mlである。添加対象となる生物学的活性剤の適切な量については、当業者であれば、さまざまな濃度の生物学的活性剤を含有するハイドロゲルを試験して、特定の目的に最も有効なハイドロゲルを選択することで、計算で求めることが可能である。
【0227】
本発明のハイドロゲルの物性によって、これが適用された場所と実質的に同じ場所に保持され、体液によってすぐに流されてしまったり、重力によって沈んでしまったりすることもない。ハイドロゲルは、それ自体が適用する組織に密着し、組織の表面全体と接触するようになっている。
【0228】
4. キット
別の態様では、本発明は、
(a)ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーと、
(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと、を含む、本発明の方法で用いるキットを提供するものである。
【0229】
本発明のキットは、架橋して水溶液中で本発明のハイドロゲルを形成するポリマー成分を適宜提供する。
【0230】
一実施形態では、本発明のキットは、ポリマー(a)および(b)を溶解させて架橋し、ハイドロゲルを形成可能な水溶液も含む。あるいは、本発明のキットは、(a)および/または(b)を、第2のポリマー成分と混合できる状態で水溶液に事前に溶解して提供するものである。この水溶液は、液体状であっても冷凍したものであってもよい。
【0231】
一実施形態では、本発明のキットは、ポリマー成分(a)および(b)を凍結乾燥粉末として提供するものである。本発明のキットを使用するには、凍結乾燥させたポリマーを好適な水溶液に溶解した後、混合することを含む。あるいは、(a)および(b)の両方を好適な水溶液に加え、溶解して架橋するまで混合してもよい。一実施形態では、水溶液が、水、生理食塩水、緩衝液、これらの混合物からなる群から選択される。
【0232】
一実施形態では、本発明のキットが、1種以上の生物学的活性剤をさらに含むものであってもよい。たとえば、1種以上の生物学的活性剤を、ポリマー成分(a)および(b)のうちの一方または両方に取り入れることが可能である。あるいは、1種以上の生物学的活性剤が水溶液中に存在してもよく、そこに(a)および/または(b)を溶解させる。
【0233】
5. 創傷被覆材
また、本発明は、湿ると本発明のハイドロゲルを放出できる創傷被覆材も提供するものである。創傷被覆材は、従来技術において周知の好適なドレッシングであればどのようなものであってもよい。一例として、絆創膏、ストリップ、パッド、ガーゼ、フィルム、ストッキング、テープがあげられる。
【0234】
一態様では、創傷被覆材が、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。
【0235】
本発明の創傷被覆材を調製するために、乾燥固体ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーをドレッシングの構造にブレンドする。あるいは、創傷被覆材を一方のポリマーの水溶液に含浸させた後に乾燥させ、さらにマットとして第2のポリマーを導入することも可能である。マットは水溶性糊などの第3の成分で一緒に保持することが可能である。別の例として、2種類のポリマーを乾燥させて混合した後、創傷治癒被覆材の構造の一部として極めて多孔性の高い組織からなる2つの小片間に配置することも可能である。
【0236】
創傷被覆材が湿ると、2種類のポリマー成分が架橋して、創傷被覆材の水性成分中でハイドロゲルが生じる。創傷被覆材については、体外の流体で湿らせてもよいし、体内の流体で湿らせてもよい。たとえば、創傷の上にのせると、創傷被覆材は、創傷からの血液または創傷滲出液と接触して湿ることがある。創傷が十分に湿っていなければ、水または生理食塩溶液などの生理学的に許容される好適な液体と接触させて創傷被覆材を湿らせることも可能である。
【0237】
成分ポリマーを変えることで、ハイドロゲルが生じる速度を変えることが可能である。創傷被覆材の用途が異なれば、必要なハイドロゲル形成の速度も異なることがある。
【0238】
創傷被覆材に印加する圧力によってハイドロゲルの形成を助けてもよい。
【0239】
創傷被覆材は、消毒薬ならびに、上述したような他の生物学的活性剤などの別の作用剤を含有するものであってもよい。これらの作用剤は、従来技術において周知の標準的な方法を用いてドレッシング材料に取り込むことが可能なものであり、あるいは、ドレッシングの構造とブレンドされるポリマー溶液に取り込んでもよい。
【0240】
本発明のさまざまな態様について、以下の実施例を参照して非限定的な方法で示す。
【実施例】
【0241】
実施例1
N−スクシニルキトサンポリマー(DMF法)
バッチA.無水コハク酸(2.15g、0.0215mol)を100mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中でキトサン(1.5g、0.007mol)に加えた。この混合物を窒素下で3時間、150℃まで加熱した。
【0242】
冷却時、混合物から固体を回収し、メタノールで洗浄した後、アセトンで洗浄した。乾燥後の固体を水酸化ナトリウム(400ml、2M)に溶解し、溶液を一晩攪拌した。すべての固体が溶解したわけではなかった。未溶解の固体を濾過し、溶液を蒸発させて約30〜50mlにした。
【0243】
この溶液を、3L容のビーカーで透析袋によって水を定期的に交換しながら48〜60時間透析した。次に、溶液を濃縮し、凍結乾燥させた。N−スクシニルキトサン生成物をワタ状の固体として得た。
【0244】
バッチB.キトサン(イカの甲由来)(30g)および無水コハク酸(42g)をDMF(500ml)に入れたものを20時間で140℃まで加熱した。得られたN−スクシニルキトサンを濾過により回収し、エタノールで洗浄した後、ジエチルエーテルで洗浄し、ポンプで乾燥させた。乾燥後の固体を水酸化ナトリウム溶液(水800mlに10g)に加え、一晩攪拌した。次に、この溶液をセライトで濾過し、12時間ごとに水を交換しながら3日間透析した。凍結乾燥によって、14gのN−スクシニルキトサン(分析C39.2%、H5.9%、N5.1%)が得られた。
【0245】
バッチC.キトサン(30g、実用グレードAldrich、中分子量)および無水コハク酸(42g)をDMF(1L)中にて3時間、130℃まで加熱した。キトサンは膨潤したが溶解されなかった。冷却時、キトサンを濾別し、フィルタにてメタノールで洗浄した。次に、NaOH溶液(水1.5Lに50g)にキトサンを加え、均質になるまで(通常は30分間)高速オーバーヘッドスターラーで混合した。ときにはキトサンが全部可溶というわけではなく、そのような場合はセライトで濾過して残りのゲルを除去する。この溶液を14時間かけて50℃まで加熱し、蒸留水(50Lを4回交換)でセルロース管材にて3日間透析した。少量の水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整した。次に、この溶液を回転蒸発器の減圧下にて容量約700mLまで減らし、極めて濃い溶液を得た。続いて、これを凍結乾燥させて約35gの生成物を得た。
【0246】
N−スクシニルキトサン(メタノール法)
3時間攪拌しながらキトサン(Aldrich、実用グレード)(20g)を乳酸(20ml)および水(650ml)に溶解した。メタノール(650ml)を加え、混合物を35℃まで温めた。無水コハク酸(29g)を加え、混合物を35℃で4時間強く攪拌した。無水コハク酸は溶解するのに数時間を要した。水酸化ナトリウム溶液(水300mlに35g)を加え、混合物を1時間強く攪拌した。こうして得られた、部分的にゲル化した曇った混合物を1日間透析してメタノールを除去し、続いて強く攪拌して残っている最終ゲルを破砕し、蒸留水にて(12時間ごとに水を交換しながら)さらに3日間透析し、濾過した。凍結乾燥によって生成物(16.5g)を得た。
【0247】
実施例2
アルデヒド誘導体化デキストラン
バッチA.デキストラン(1g、MW60,000〜90,000)を20mlの蒸留水に溶解した。過ヨウ素酸ナトリウム(2g)を溶液に加え、これを室温にて3時間攪拌した。この溶液を3L容のビーカーで水を定期的に交換しながら一晩透析した。次に、この溶液を濃縮し、凍結乾燥させて、アルデヒド誘導体化デキストランを白色粉末として得た。
【0248】
バッチB.デキストラン(20g、Aldrich、Mn21,500、MW142,000)を水(200ml)に溶解した後、過ヨウ素酸ナトリウム(200ml中40g)の攪拌混合物に加えた。外部冷却によって発熱反応の温度を35℃未満に保ち、反応を窒素下で実施した。3時間後、溶液を3日間透析(12時間ごとに水を交換)し、濾過し、凍結乾燥させてアルデヒド誘導体化デキストランを白色粉末として得た(14.7g、実測C39.8%、H5.9%)。最終分子量はMn2570、MW4700であった。
【0249】
バッチC.デキストラン(36g、Aldrich食品グレード、mw80,000)を水(800mL)中にて強く攪拌しながら、固体の過ヨウ素酸ナトリウム(50g)を加えた。温度が30℃未満にとどまるように、外部冷却によって発熱反応を制御した。2時間後、溶液を濾過し、セルロース管材にて3日間透析した(蒸留水50Lを4回交換)。少量の水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整し、この溶液を減圧下にて容量約300mLまで減らし、凍結乾燥させた。収率は約30gであった。
【0250】
実施例3
水溶液中にアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワーク
実施例1のN−スクシニルキトサン(30mg)を0.6mlの蒸留水に溶解させ、5%w/vの水溶液(溶液A)を生成した。アルデヒド誘導体化デキストランポリマー(30mg)を0.6mlの蒸留水に溶解して、5%w/v水溶液(溶液B)を生成した。
【0251】
溶液Aと溶液Bとをハイドロゲルが生じるまで(約2分間)一緒に混合した。ハイドロゲルは、水溶液中でアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワークである。
【0252】
実施例4
N−スクシニルキトサンの官能基レベルとハイドロゲルのゲル時間に対する塩基処理の効果
実施例1(DMF法−バッチC)に基づいてN−スクシニルキトサンを調製したが、キトサンとNaOHの溶液については以下の表1に示す温度で14時間加熱した。表1から、温度が高くなればなるほど脱アシル化度が大きくなり、結果として遊離アミン基の割合も多くなることが分かる。アセチルおよびN−スクシニル基に対する遊離アミン基の相対特性を‘Η nmrで求めた。
【0253】
実施例3に基づいてN−スクシニルキトサンおよびアルデヒド誘導体化デキストランの架橋によって調製したハイドロゲルのほうが、N−スクシニルキトサンの遊離アミンの割合が多く、短時間で形成された。
【0254】
【表1】
【0255】
実施例5
デキストランのアルデヒド誘導体化とハイドロゲルのゲル形成時間に対するmol%過ヨウ素酸塩の効果
実施例2に基づいてアルデヒド誘導体化デキストランを調製したが、ここでは異なるmol%の過ヨウ素酸塩を用いた。反応を室温にて2時間実施した。表2に、得られたアルデヒド誘導体化デキストランの分子量、アルデヒド基のmol%、アルデヒド誘導体化デキストランの溶液をN−スクシニルキトサンの溶液と混合した際にハイドロゲルが形成されるまでの時間を示す。
【0256】
【表2】
【0257】
キトサン残基1つあたりに存在するアルデヒド基の理論最大mol%は200であり、これは過ヨウ素酸塩の各molが1つのキトサン残基と反応すれば達成される。200というmol%は100%酸化(または100%アルデヒド誘導体化)を示す。
【0258】
実施例6
ヒツジにおける内視鏡的副鼻腔手術後の癒着に対するハイドロゲルの効果
20頭のヒツジ(merino cross wethers)で、十分に確立された内視鏡的副鼻腔手術創傷治癒プロトコールを用いて、標準化全層粘膜創傷を得た。各ヒツジの鼻の外壁に2つの傷を作り、それぞれの側に篩骨損傷を1つ作った。損傷を受けた領域を4つの処理群に無作為化し、(a)対照、(処理なし)、(b)SprayGel(商標)、(c)組換え組織因子、d)本発明のハイドロゲルのうちの1つで処理した。
【0259】
群(b)、(c)、d)では、粘膜噴霧装置を用いて活性剤5mlを創傷表面に噴霧した。SprayGel(商標)および本発明のハイドロゲルについては各々、2つの別々の液体成分として噴霧し、これが噴霧直後に組み合わさって粘膜接着ゲルが形成された。
【0260】
28日目、56日目、84日目、112日目にヒツジを評価した。検討するごとに、キシラジン4mgを筋肉内注射してヒツジを適度に落ち着かせた。4週ごとの訪問時に毎回、癒着の有無、記録された場所、各癒着のグレードについて、独立した観察者(動物実験技士)が既刊のグレーディングスキームに基づいて(表3)鼻腔を調べた。
【0261】
【表3】
【0262】
各ヒツジの4つの領域で、cytobrush plus細胞収集器(MedscandMedical、Sweden)を用いて、局所麻酔はせずに生検試料から遠い部位を内視鏡で目視確認しながら線毛細胞の擦過診を集めた。擦過部位を慎重に順序付け、触れていない部分を試料採取するために16週間にわたって記録した。
【0263】
併用麻酔薬の4つのスプレーと鬱血除去薬のスプレー(co-phenylcaine−ENT技術)を、鼻外壁の損傷部位の生検試料前に各鼻腔に適用した。切開を作り、鋭利なFreerエレベーターと、パンチ生検試料鉗子を用いて各損傷部位から得た2つの生検試料標本とで、小さなフラップを隆起させた。触れられていない部分を試料採取するために、4週間おきに生検試料を得て、生検試料部位を慎重に順序付け、16週間にわたって記録した。最終生検試料後、ペントバルビタールナトリウム(>100mg/kg)を静脈注射して安楽死させた。
【0264】
光学顕微鏡法の標本を4時間ホルマリン固定した後、70%エタノールに入れて処理した。標本をパラフィンブロックに埋包し、厚さ4μmに切片化し、6〜8切片を2枚のスライドガラスにのせて各生検試料標本とした。次に、これをヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色した。画像捕捉用のソフトウェア(Image Master Pro)を用いて、各標本を光学顕微鏡法で調べた。固有層のある鼻粘膜表面部分の長さと、被蓋上皮のある表面の長さを測定して、再上皮化の比率を求めた。4つの無作為な切片を各生検試料標本ごとに測定した。これらの同じデジタル画像を用いて上皮の高さも測定した。また、基底膜および上皮の頂端膜側をマーカーとして、1切片からの上皮の4つの無作為部分を各標本について測定した。
【0265】
走査型電子顕微鏡法(SEM)の標本をリン酸緩衝生理食塩水に入れ、超音波洗浄器を用いて20分間洗浄して、血塊、粘膜、壊死組織片、生物膜を除去した。次に、4%パラホルムアルデヒド/1.25%グルタルアルデヒドをリン酸緩衝生理食塩水+4%スクロースに入れたpH7.2の溶液で標本を固定し、処理するまで4℃で保管した。処理では、四酸化オスミウムを用いて標本を漸進的に脱水した後、さらに高速処理するためのマイクロ波技術(PELCO Bio Wave(登録商標))を用いてエタノールの濃度を高めた(70%、90%、95%、100% & 100%)。この後、二酸化炭素臨界点乾燥装置を用いて標本を乾燥させ、続いてEMスタブに載せた。最後に、標本に金と炭素をコーティングした。各標本をSEM(Phillips XL30 Field Emission走査型電子顕微鏡)で調べ、倍率500×で4つの表面画像を取得した。既刊の評価尺度に基づいて標本をグレード評価した。明確化が必要であれば、標本を2000×と5000×のさらに高い倍率で調べた)。各標本について4枚の写真(倍率500×)を用いて、画像解析ソフトウェアと、すでに検証済みの技術(Macintosh D, Cowin A, Adams D, Wormald PJ, Am. J. Rhinol. 2005, 19(6), 557-81)とを用いて、線毛で覆われている表面積の比率を求めた。
【0266】
擦過で得られた細胞を1mlのダルベッコ培養液に懸濁させ、攪拌して細胞を培養液に放出させた。これをCBF解析実施まで36.5℃に保った。各標本20μlを36.5℃まで温めた顕微鏡のスライドガラスに載せ、位相差顕微鏡法を用いた。1標本あたり細胞10個を個々に分析し、これらの平均をCBFとして得た。
【0267】
この研究に用いたヒツジの状態(well being)を、ヒツジの扱いに関する経験豊富なアニマルハウスの獣医スタッフが監視した。作用剤の適用後2日間は、体温、心拍数、運動性、経口摂取についてヒツジを1日4回監視した。その後、残りの研究期間では運動性と経口摂取について、ヒツジを毎日2回監視した。
【0268】
統計解析
Bonferroni補正した事後試験を用いる二元配置ANOVAを実施して、上皮の高さ、再上皮化、再線毛化、線毛グレードおよび鼻の外壁の癒着の比率とグレードを分析した。ウィルコクソン符号順位検定を用いて、篩骨癒着率のマッチドペアを解析した。統計的有意性についてはp<0.05に設定した。
【0269】
結果を図1〜5にあげておく。
【0270】
結果
鼻の外壁に経時的な癒着のある各群におけるヒツジの比率を図1に示す。全層損傷法を使用すると、対照群の癒着率が15%、組織因子群の癒着率が25%であったのに対し、SprayGel(商標)群の率は10%であった。ハイドロゲル群は癒着率が10%であったが、しかしながらこれは56日目に5%まで落ち、研究の最後までそのレベルに保たれた。ハイドロゲル群は、56日目、84日目、112日目に組織因子群よりも癒着の比率が有意に低かった(5%vs25%、p<0.05)。
【0271】
癒着の平均グレードは、SprayGel(商標)群ではそれほど重篤ではない傾向にあり、ハイドロゲル群ではなお一層重篤ではないが、しかしながらこれらの差異は有意ではなかった(図2)。
【0272】
各群の経時的な篩骨癒着率を図3に示す。上述した方法を用いると、対照群で篩骨癒着形成率40%となった。これは組織因子群では50%まで増加した。SprayGel(商標)群は癒着率が14%と低かったが、しかしながら、ハイドロゲル群では篩骨癒着がまったく認められなかった。このマッチドペア研究では少数ではあるが、組織因子群よりもハイドロゲル群のほうが癒着は有意に少なかった(0%vs50%、p<0.05)。図4参照。
【0273】
上皮の高さを経時的に光学顕微鏡法で解析したところ、4つの群間で有意な差異は認められなかった(図5)。
【0274】
各群での再上皮化した粘膜の比率が図6から明らかである。ハイドロゲル群は、28日目に組織因子群と比して再上皮化の比率が有意に高かった(70%vs33%、p<0.001)。また、SprayGel(商標)群は、84日目に組織因子群よりも再上皮化の比率が有意に高かった(89%vs61%、p<0.05)。
【0275】
図7は、4つの群それぞれについて、経時的に再線毛化された表面積の比率(平均±標準偏差)を示す。28日目に、ハイドロゲル群は、線毛化が対照群(62%vs31%、p<0.01)および組織因子(62%vs23%、p<0.001)よりも有意に多かったのに対し、SprayGel(商標)群も組織因子より有意に線毛化した面積が多かった(47%vs23%、p<0.05)。56日目に、ハイドロゲル群は組織因子群よりも線毛化が有意に多いままであった(67%vs40%、p<0.05)。全体として、ハイドロゲル群の再線毛化が改善される傾向にあったが、これはどの時点でも有意ではなかった。
【0276】
それぞれの時点で各群平均1〜2個の標本が使用できず、グレード5となった。以下の表4に、ヒツジ鼻線毛の走査型電子顕微鏡法(SEM)画像での評価尺度を示す。
【0277】
【表4】
【0278】
二元配置ANOVAによって、使用できない標本数には、どの時点でも各群とも有意な差異がないことが明らかになったため、これらを以後の解析から除外した(データ図示せず)。図8に、各群の各時点での平均±SD線毛グレードを示す。84日目に、SprayGel(商標)の平均線毛グレードが組織因子よりも有意に良好であり(1.8vs2.6、p<0.05)、112日目にハイドロゲルの平均グレードが対照群より有意に良好であった(1.9vs2.7、p<0.05)。
【0279】
平均CBFは、4つの群のいずれにおいても経時的に有意に異なっていなかった(図9)。ハイドロゲル群は、線毛機能がすべての時点で改善される傾向にあったが、しかしながら、これは有意ではなかった。
【0280】
重要なことに、どのヒツジにも研究中に有害イベントが起こらなかった。発熱、頻拍症、運動不良または経口摂取不良の報告も研究中をとおしてなかった。
【0281】
考察
SprayGel(商標)と本発明のハイドロゲルはいずれも、癒着予防特性を呈した。特に、ハイドロゲルは鼻の外壁と前篩骨の両方で組織因子に比して癒着形成を有意に低下させた。
【0282】
創傷治癒に関しては、対照群と比較して、特に組織因子との比較で、再上皮化率、再線毛化率、線毛グレードが改善されたハイドロゲルとSprayGel(商標)の両方で結果が同じパターンをたどった。創傷治癒の最も顕著な特徴は、ハイドロゲル群の上皮における短時間での回復であるが、これは28日目に再線毛化した表面積の比率と再上皮化率が有意に高いことを反映していた。研究開始から間もない頃、4群すべての線毛グレードは有意に異なっていなかったが、しかしながら、研究の後半では、ハイドロゲル群の線毛グレードが組織因子および対照群に比して有意に改善された。
【0283】
実施例7 ヒトでの治験
前向きランダム化比較パイロット試験を実施した。フルハウスの内視鏡的副鼻腔手術を受けた6名の患者に対して無作為にハイドロゲル20mlを与え、対側には何の処置もほどこさなかった。それぞれの側で手術の終わりに内視鏡下で観察しながら溶液を噴霧して適用した。適用後の出血については、標準的な動画内視鏡法で記録し、事前に検証した2つの尺度で2分ごとに最大10分まで評価した。
【0284】
結果
ハイドロゲルでは、適用後4分、6分、8分、10分の時点で術野に臨床的に有意な改善が認められた(表5および図10および図11を参照のこと)。
【0285】
【表5】
【0286】
さらに、本発明のハイドロゲルは、6症例のうち5例で外科医が偽薬よりも有効であるとみなしており、1症例では差異なしとなった。平均動脈圧、心拍数、呼気終末CO2などの止血に影響することが知られている他のパラメータも、偽薬と活性側とで有意に違わなかった。
【0287】
実施例8
ヒツジにおける内視鏡的副鼻腔手術後の止血に対するハイドロゲルの効果
この研究では、ヒツジバエ(Oestrus ovus)を外寄生させた21頭のヒツジ(merino cross wethers)を用いた。経鼻内視鏡でヒツジバエ感染を目視確認し、リーシュマン染色した鼻用のスワブで好酸球性副鼻腔炎を記録した。頸静脈にチオペントンナトリウムを注射(体重kgあたり19mg)して全身麻酔を導入した。次に、1.5〜2.0%ハロタンの吸入により麻酔を維持したまま気管内挿管した。マイクロデブリッダーを用いて前篩骨複合体と鼻腔壁との間に標準的な粘膜損傷を作る前に中鼻甲介を取り除いた(Medtronic ENT、Jacksonville、Florida)。ストップウォッチを用いて両側での損傷実施時間を30秒間で区切った。粘膜損傷直後に、Boezaart術野評価尺度(Boezaart AP、Van Der Merne J、Coetzee A、Comparison on sodium nitroprusside and esmolol induced controlled hypertension for functional endoscopic sinus surgery. (Can J Anaesth 1995, 42, page 373-376)(表6)を用いて独立した観察者によって基線術野グレードを求めた。
【0288】
【表6】
【0289】
各鼻腔をコンピュータで無作為化して、処置なし(対照群)と、術野グレードの計算直後に篩骨領域に本発明のハイドロゲル5ml適用とに分けた。本発明のハイドロゲルをフルオレセインで染色して可視化を補助した。出血が止まるか最大で10分間観察するまで、基線評価後の2分ごとに各側について術野グレードを求めた。
【0290】
ヒツジから抜管し、個々の小屋に返した。食餌の無処置(intact)、鼻汁、観察温度などの変数について、ヒツジを毎日3回監視した。術後2週間にわたって、出血が止まらず鼻汁に血液が混じっているのを訓練された動物飼育員が記録した。術後毎日、ヒツジを落ち着かせ、動画内視鏡検査を実施して、創傷部位の痂皮/ゲルの有無を記録した。次に、これを3点目盛りスケールで0〜2まで評価した(表7)。術後14日間にわたって、毎日の観察を継続した。
【0291】
【表7】
【0292】
結果
GraphPad PrismおよびSPSS 11.0を用いて術野グレードスコアを解析した。データが正規分布していないため、ウィルコクソン符号順位検定を用いる非母数データ用の一対比較試験を使用して、それぞれの側での手術グレードの差異を解析した。複数回の試験でのBonferroni補正を手術グレードのすべての解析に適用し、統計的有意性をp<0.05に設定した。スチューデントのT−検定を用いて、完全な止血に至るまでの時間の平均を比較した。
【0293】
対照群vs本発明のハイドロゲルでの経時的な止血の比較
本研究のこの段階では、21頭のヒツジ(merino cross wethers)を用いた。基線出血時間に対照群vsハイドロゲルで有意な差異は認められなかった(2.4±0.67vs2.4±0.74)。ハイドロゲル側のほうが、適用後2分、4分、6分の時点で有意に止血された。対照群vsハイドロゲルの平均評価スコアと95%信頼区間は、2分−1.6(±0.92)vs0.9(±0.53)、4分−1.0(±0.66)vs0.24(±0.43)、6分−0.4(±0.59)vs0.048(±0.21)(p<0.05)(図12)であった。
【0294】
完全な止血までの時間
ハイドロゲル側はすべて、6分までに完全に止血された。止血までの平均時間は、ハイドロゲル側で4.09(±1.61)vs対照群側で6.57(±2.20)(p=0.049)(図13)と、有意に改善された。対照群側で続いている出血は、8分の時点で3つの側、10分の時点で1つの側にあった。これに対し、ハイドロゲル側では6分を過ぎてからは出血は認められなかった。
【0295】
術後5日目に1頭のヒツジが死んだ。検死の結果、これは胃内容物の誤嚥が原因であることが分かった。このヒツジにも出血の証拠はなかった。残りのヒツジでは、術後1日を過ぎると鼻汁に血液が混じることはなくなり、どのヒツジも介入が必要なほど過剰な出血が続くことはなかった。
【0296】
痂皮/ハイドロゲル溶解スコア
本研究のこの段階では、20頭のヒツジを用いた。術後1日目、31日目、71日目、141日目に、対照群側の平均痂皮とハイドロゲル溶解スコアに有意な差異は認められなかった。対照群vsハイドロゲルの平均痂皮/ハイドロゲル溶解スコアならびに95%信頼区間は、1日目−2.0(±0.00)vs1.9(±0.31)、3日目−1.6(±0.60)vs1.65(±0.59)、7日目−0.47(±0.61)vs0.53(±0.70)、14日目−0.00(±0.00)vs0.05(±0.22)(図14)であった。
【0297】
結論
ヒツジの慢性副鼻腔炎モデルでは、本発明のハイドロゲルは、粘膜損傷の2分、4分、6分後に対照群に比して止血を有意に改善する。また、対照群と比較すると、同様の痂皮溶解特性を呈する。有意な止血作用のある創傷治癒に対する周知の好ましい効果と組み合わせて、本発明のハイドロゲルは、ESSを受けている患者におけるESS後の術後創傷被覆材として大きな可能性を秘めている。
【産業上の利用可能性】
【0298】
産業上の利用可能性
本発明は、創傷治癒と癒着の予防を助けるために創傷に適用可能な水ベースの生分解性ハイドロゲルを提供するものである。このハイドロゲルは、止血に対しても好ましい効果があり、絆創膏やフィールドドレッシングに適用して、出血性の外傷創傷および術後の出血を止める助けとすることが可能である。
【0299】
本発明のハイドロゲルは、外科的処置時の用途に適している。これを用いることで、外科手術を受けている患者の予後を改善可能である。
【0300】
本発明のハイドロゲルは、医療訓練を受けていない人でも容易に調製可能であり、被害者が医療機関に搬送されるまでの間に被害者の血液が過剰に失われてしまうのを防ぐ目的で、緊急時に使用することも可能である。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
癒着の形成は、多くの外科手術で頻繁に生じる不快な結果である。癒着とは、通常は離れている創傷表面同士をつなぐ線維帯である。癒着は特に、ヘルニア修復、婦人科手術、結腸直腸手術などの腹部手術や骨盤手術後に普通にみられる。
【0002】
外科手術時の処置と乾燥によって組織に外傷が生じると、線維性の滲出液が放出される。この滲出液は、吸収または溶解されなければ腹膜腔または骨盤腔に貯留し、そこで癒着に変化する場合がある。滲出液は線維芽細胞とともに内殖し、コラーゲンが堆積して血管が形成されはじめ、癒着の組織化が起こり得る状態になる。
【0003】
癒着が形成されると、小腸閉塞、女性の不妊症、慢性疼痛などの重篤な合併症につながる可能性がある。患者はさらに外科手術を受けて癒着を切開しなければならないこともあるが、その場合も新たな癒着が形成されない保証はどこにもない。
【0004】
癒着形成を抑えるための技術として、腹膜腔の洗浄、薬理作用物質の投与、組織の機械的な分離がある。出血を止める生理的プロセスである術後止血によって、癒着形成の危険性が低下すると同時に他の利点も得られる可能性がある。
【0005】
残念なことに、癒着を低減および/または止血を達成するための現行の手順は、とりたてて有効ではなく、患者にとって嫌なこともある。また、状況によっては止血を目的とした処置によって、癒着形成の危険性が増すこともある。
【0006】
たとえば、慢性副鼻腔炎の治療に用いられている内視鏡的副鼻腔手術(ESS)の後、出血を抑えるために患者は不快な鼻タンポンの挿入を我慢しなければならない。しかしながら、鼻タンポンを取り除くと粘膜が傷付くことがあり、これによって癒着が形成される尤度が高くなる。トロンビン、フィブリン、フィブリノゲン、コラーゲンなどの周知の局所用止血薬を取り入れたドレッシングですら、癒着の形成を有意に増加させる可能性がある(たとえば、Chandra R. K., Kern R. C., Advantages and disadvantages of topical packing in endoscopic sinus surgery, Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg 2004, 12, 21-26を参照のこと)。さらに外科手術を必要とする癒着形成は、ESSを受けた患者の10〜30%に発生する。
【0007】
従来、ポリマー溶液およびゲルを標的部分に適用して癒着を抑えている。たとえば、ゲルを用いて外科的に露出した組織を覆った上で、手術部位を閉じるようにしている。ポリマーを溶液中にてin situで患者に付けた後、化学反応させてポリマーネットワークが形成されるよう共有結合による架橋形成を可能にしている手法もある。たとえば、SprayGel(商標)は、組織に適用すると組織の癒着バリアを形成するPEGベースの材料である。
【0008】
キトサンなどの多糖ポリマーもゲル形成薬剤として周知である。キトサンは、創傷治癒特性を有することが認められている。たとえば、米国特許第5,836,970号には、繊維、粉末、フィルム、フォームまたは水膨潤性ハイドロコロイドとして調製できるキトサンおよびアルギン酸塩の創傷被覆材が開示されている。米国特許第5,599,916号には創傷被覆材で使用可能な水膨潤性・水不溶性キトサン塩が開示されており、米国特許第6,444,797号には創傷被覆材またはスキンコーティングとして使用可能なキトサンのマイクロフレークが開示されている。
【0009】
また、キトサンには、ラットで腹膜癒着の予防効果があることが分かっている(Preventive effects of chitosan on peritoneal adhesion in rats, Zhang, Zhi-Liang et al., World J Gastroenterol, 2006, 12(28) 4572-4577。
【0010】
キトサンの誘導体についても、創傷治癒と癒着予防に対する効果の調査がなされている。たとえば、PCT国際公開第96/35433号パンフレットには、外科癒着の予防にN,O−カルボキシメチルキトサンを用いることが記載されている。N,O−カルボキシメチルキトサンは、以下の文献にも記載されている。
(i)Kennedy R et al., Prevention of experimental postoperative adhesions by N,O-carboxymethyl chitosan, Surgery, 1996, 120, 866-70;
(ii)Costain DJ et al., Prevention of postsurgical adhesions with N,O-carboxymethylchitosan: Examination of the most efficacious preparation and the effect of N,O-carboxymethyl chitosan on postsurgical healing, Surgery, 1997; 121, 314-9;
(iii)Krause TJ et al., Prevention of pericardial adhesions with N,O-carboxymethylchitosan in the Rat Model, Journal of Investigative Surgery, 2001 ,14,93-97;
(iv)Diamond, Michael P. et al., Reduction of postoperative adhesions by N,O-carboxymethylchitosan: a pilot study, Fertil Steril 2003, 80, 631-636;
(v)Diamond Michael P et al., Reduction of post operative adhesions by N,O-carboxymethylchitosan: A Pilot Study, The Journal of the American Association of Gynecologic Laparoscopists, 2004, 11(1), 127;
(vii)Lee, Timothy D. G et al., Reduction in postoperative adhesion formation and re-formation after an abdominal operation with the use of N,O-carboxymethyl chitosan, Surgery, 2004, 135, 307-312。
【0011】
PCT国際公開第98/22114号パンフレットには、硫酸化単糖、二糖またはオリゴ糖とキトサンとを併用して、コラーゲン含有組織での創傷治癒性を高めることが論じられている。PCT国際公開第96/02260号パンフレットには、ヘパリン、ヘパリン硫酸またはデキストラン硫酸との併用でのキトサンが記載されている。この組み合わせは、皮膚の創傷治癒を促進すると言われている。
【0012】
PCT国際公開第04/006961号パンフレットには、中性のキトサンと二価多価アルデヒドまたはアルデヒド処理ヒドロキシル含有ポリマーとの架橋によって形成された細胞を固定化して封入するためのゲルが記載されている。
【0013】
こうして尽力されているにもかかわらず、癒着形成は多くの外科手術分野で依然としてごく普通に発生する。このため、外科手術の成果を改善するのに用いることが可能な、止血と癒着予防に医学的な効力のある新たなポリマー材料に依然として大きな需要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、創傷に適用して創傷治癒を助ける、あるいは人々に有用な選択肢を与えることが可能なハイドロゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の開示
本発明は、術創および他の創傷に適用可能なハイドロゲルに関する。このハイドロゲルは、混合時に架橋してポリマーネットワークを形成する2種類のポリマーの水溶液を組み合わせることで製造可能である。架橋が生じたら、得られるポリマーネットワークが水溶液にてハイドロゲルを生じる。このハイドロゲルは、たとえば、ポリマー溶液を標的部分に噴霧する、吹き掛ける、あるいは注ぐことによって、in situで形成可能である。あるいは、このハイドロゲルを事前に形成した上で標的部分に適用しても構わない。別の実施形態では、ポリマー成分を取り入れた創傷被覆材が湿っているときに、ハイドロゲルを形成できる。
【0016】
本発明のハイドロゲルは創傷治癒を助け、癒着が形成されやすい状態の損傷を受けた隣接組織間に生じる癒着の予防を助けることもある。また、本発明のハイドロゲルは、創傷の出血を抑えるまたは止めることで、止血に影響することもある。このハイドロゲルは外科手術条件下で生分解性であり、数日または数週間の時間をかけて徐々に分解される。
【0017】
一態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0018】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーからなるポリマーネットワークを提供するものである。
【0019】
上記の態様の一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアミン基およびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基を介してアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋される。
【0020】
上記の態様の一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンポリマーである。
【0021】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含む、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0022】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンからなるポリマーネットワークを提供するものである。
【0023】
上記の態様の一実施形態では、N−スクシニルキトサンが、N−スクシニルキトサンのアミン基およびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基によってアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋される。
【0024】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液で混合して約1秒から約5分以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワーク提供するものである。
【0025】
別の態様では、本発明は、ポリマーネットワークが、N−スクシニルキトサンとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液で混合して約1秒から約5分以内にハイドロゲルを形成する、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワークを提供するものである。
【0026】
一実施形態では、ハイドロゲルが約1秒から約30秒以内、好ましくは約1秒から約20秒以内、一層好ましくは約1秒から約10秒以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが、約30秒から約5分以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが約5秒から約1分以内に生じる。
【0027】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約5分から約20分以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0028】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、N−スクシニルキトサンとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約5分から約20分以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0029】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約5分から約10分以内に生じる。
【0030】
別の実施形態では、ハイドロゲルが、約10分から約20分以内に生じる。
【0031】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約20分から約2時間以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0032】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、N−スクシニルキトサンとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約20分から約2時間以内にハイドロゲルを形成する、ポリマーネットワークを提供するものである。
【0033】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約20分から約2時間以内、好ましくは約30分から約1時間以内に生じる。
【0034】
一態様では、本発明は、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中に含む、創傷治癒組成物を提供するものである。
【0035】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体がN−スクシニルキトサンである。
【0036】
一実施形態では、組成物が約2%から10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。一実施形態では、組成物が約2%から10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0037】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを水溶液中に含む、ハイドロゲルを提供するものである。
【0038】
一実施形態では、ハイドロゲルが約2%から10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。一実施形態では、ハイドロゲルが約2%から10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0039】
好ましくは、ハイドロゲルが、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約2%から約6%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。最も好ましくは、ハイドロゲルが約5%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。
【0040】
好ましくは、ハイドロゲルが、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約2%から約6%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。最も好ましくは、ハイドロゲルが約5%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0041】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである。
【0042】
一実施形態では、水溶液が、水、生理食塩水、緩衝液、これらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、水溶液が約0.9%w/vの生理食塩溶液である。
【0043】
別の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークの製造方法であって、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを混合することを含む方法を提供するものである。
【0044】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約2%から約10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。好ましくは、水溶液が、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。
【0045】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液のpHが約6から8である。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液のpHが約6.5から7.5である。
【0046】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。
【0047】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液が、約2%から約10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。好ましくは、水溶液が、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0048】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液のpHが約6から8である。好ましくは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液のpHが約6.5から7.5である。
【0049】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーが、50〜100%アルデヒド誘導体化、好ましくは70〜100%アルデヒド誘導体化、一層好ましくは80〜100%アルデヒド誘導体化されている。
【0050】
一実施形態では、この方法が、等容量の(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを混合することを含む。
【0051】
一実施形態では、ポリマーネットワークおよび水溶液が一緒にハイドロゲルを含む。
【0052】
一実施形態では、溶液同士を一緒に攪拌してポリマーの水溶液を混合する。別の実施形態では、溶液を標的部分に同時に噴霧する、吹き掛ける、あるいは注ぐなどして、標的部分に適用する際に、ポリマーの水溶液を混合する。
【0053】
一実施形態では、水溶液が、水、生理食塩水、緩衝液、これらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、水溶液が約0.9%w/v生理食塩溶液である。
【0054】
一実施形態では、ポリマーの水溶液が、1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含有するものであってもよい。
【0055】
一態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むハイドロゲルであって、1種以上の生物学的活性剤を含む、ハイドロゲルを提供するものである。
【0056】
一実施形態では、1種以上の生物学的活性剤が、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生物質、防腐剤、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、局所麻酔薬、成長因子、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、細胞増殖阻害剤からなる群から選択される。
【0057】
一態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むハイドロゲルであって、1種以上の非生物学的活性剤(non-biologically active agent)を含む、ハイドロゲルを提供するものである。
【0058】
一実施形態では、1種以上の非生物学的活性剤が、増粘剤および染料からなる群から選択される。
【0059】
一態様では、本発明は、癒着形成しやすい組織の癒着を予防または低減する方法であって、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む方法を提供するものである。
【0060】
一実施形態では、癒着が手術後の癒着である。
【0061】
一実施形態では、この方法は、組織に本発明のハイドロゲルを適用することを含む。好ましくは、ハイドロゲルの層を組織表面に塗り広げる。
【0062】
一実施形態では、この方法は、(a)および(b)の組み合わせで創傷表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを組織に適用することを含む。
【0063】
一実施形態では、(a)と(b)とを組織に同時に適用する。
【0064】
一実施形態では、(a)と(b)とを組織に同時に噴霧する。一実施形態では、(a)と(b)とを組織に同時に吹き掛ける。別の実施形態では、(a)と(b)とを組織に同時に注ぐ。
【0065】
別の態様では、本発明は、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、癒着形成しやすい組織の手術後の癒着を予防または低減する方法であって、(a)および(b)の組み合わせで組織表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを組織に適用することを含む方法を提供するものである。
【0066】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法を提供するものである。
【0067】
一実施形態では、この方法は、創傷に本発明のハイドロゲルを適用することを含む。好ましくは、ハイドロゲルの層を創傷表面に塗り広げる。
【0068】
一実施形態では、この方法は、(a)および(b)の組み合わせでハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを創傷に適用することを含む。
【0069】
一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に適用する。
【0070】
一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に噴霧する。一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に吹き掛ける。別の実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に注ぐ。
【0071】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法であって、(a)および(b)の組み合わせで創傷表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを創傷に適用することを含む方法を提供するものである。
【0072】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法を提供するものである。
【0073】
一実施形態では、この方法は、創傷に本発明のハイドロゲルを適用することを含む。好ましくは、ハイドロゲルの層を創傷表面に塗り広げる。
【0074】
一実施形態では、この方法は、(a)および(b)の組み合わせでハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを創傷に適用することを含む。
【0075】
一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に適用する。
【0076】
一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に噴霧する。一実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に吹き掛ける。別の実施形態では、(a)と(b)とを創傷に同時に注ぐ。
【0077】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法であって、(a)および(b)の組み合わせで創傷表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを創傷に適用することを含む方法を提供するものである。
【0078】
別の態様では、本発明は、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、組織に1種以上の生物学的活性剤を送達する方法であって、ハイドロゲルが、1種以上の生物学的活性剤を含む方法を提供するものである。
【0079】
一実施形態では、この方法は、組織に本発明のハイドロゲルを適用することを含み、ハイドロゲルが、1種以上の生物学的活性剤を含む。好ましくは、ハイドロゲルの層を組織表面に塗り広げる。
【0080】
一実施形態では、この方法は、(a)および(b)の組み合わせで組織表面にハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化(dicarboxy-derivatised)キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを組織に適用することを含み、(a)および(b)の一方または両方が1種以上の生物学的活性剤を含む。
【0081】
一態様では、本発明は、癒着形成しやすい組織の手術後の癒着を予防または低減するための薬物の製造における本発明のハイドロゲルの使用法を提供するものである。
【0082】
別の態様では、本発明は、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを、癒着形成しやすい組織の癒着を予防または低減するための薬物の製造に用いる使用法であって、(a)および(b)の組み合わせで本発明のハイドロゲルを形成する使用法を提供するものである。
【0083】
別の態様では、本発明は、創傷治癒を加速または促進するための薬物の製造における本発明のハイドロゲルの使用法を提供するものである。
【0084】
別の態様では、本発明は、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを、創傷治癒を加速または促進するための薬物の製造に用いる使用法であって、(a)および(b)の組み合わせで本発明のハイドロゲルを形成する使用法を提供するものである。
【0085】
別の態様では、本発明は、創傷の出血を抑えるまたは止めるための薬物の製造における本発明のハイドロゲルの使用法を提供するものである。
【0086】
別の態様では、本発明は、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを、創傷の出血を抑えるまたは止めるための薬物の製造に用いる使用法であって、(a)および(b)の組み合わせで本発明のハイドロゲルを形成する使用法を提供するものである。
【0087】
別の態様では、本発明は、1種以上の生物学的活性剤を組織に送達するための薬物の製造における本発明のハイドロゲルの使用法であって、薬物が、1種以上の生物学的活性剤を含む、使用法を提供するものである。
【0088】
別の態様では、本発明は、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを、1種以上の生物学的活性剤を組織に送達するための薬物の製造に用いる使用法であって、(a)および(b)の組み合わせで本発明のハイドロゲルを形成し、(a)および(b)の一方または両方が1種以上の生物学的活性剤を含む、使用法を提供するものである。
【0089】
上述した本発明の方法および使用法において:
一実施形態では、ハイドロゲルが、(a)と(b)とを組み合わせて約1秒から約5分以内に生じて薬物を生成する。
【0090】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約1秒から約30秒以内、好ましくは約1秒から約20秒以内、一層好ましくは約1秒から約10秒以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが約30秒から約5分以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが約5秒から約1分以内に生じる。
【0091】
一実施形態では、ハイドロゲルが、(a)と(b)とを組み合わせて約5分から約20分以内に生じて薬物を生成する。
【0092】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約5分から約10分以内に生じる。別の実施形態では、ハイドロゲルが、約10分から約20分以内に生じる。
【0093】
一実施形態では、ハイドロゲルが、(a)と(b)とを組み合わせて約20分から約2時間以内に生じて薬物を生成する。
【0094】
一実施形態では、ハイドロゲルが、約30分から約2時間以内、好ましくは約30分から約1時間以内に生じる。
【0095】
一実施形態では、(a)が、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを約2%から10%w/v、好ましくは約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/v含む。一実施形態では、(b)が、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを約2%から10%w/v、好ましくは約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/v含む。
【0096】
一実施形態では、(a)のpHが約6から8、好ましくは約6.5から7.5である。
【0097】
一実施形態では、(b)のpHが約6から8、好ましくは約6.5から7.5である。
【0098】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。
【0099】
別の態様では、本発明は、湿っているときに本発明のハイドロゲルを放出できる創傷被覆材を提供するものである。
【0100】
一実施形態では、創傷被覆材が、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む。一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである。
【0101】
一実施形態では、創傷被覆材が、絆創膏、ストリップ、パッド、ガーゼ、フィルム、ストッキング、テープからなる群から選択される。
【0102】
別の態様では、本発明は、本発明の方法で用いられるキットであって、
(a)ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーと、
(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと、を含む、キットを提供するものである。
【0103】
一実施形態では、キットが、(a)および(b)を溶解させて、架橋を起こさせることが可能である水溶液も含む。別の実施形態では、キットが、(a)および(b)のいずれか一方または両方の水溶液を含む。
【0104】
別の態様では、本発明は、本発明の方法に用いられるキットであって、
(a)ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーと、
(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと、を別々の容器に含む、キットを提供するものである。
【0105】
一実施形態では、キットが、(a)および(b)を溶解させて、架橋を起こさせることが可能である水溶液も含む。別の実施形態では、キットが、(a)および(b)のいずれか一方または両方の水溶液を含む。
【0106】
上述した本発明のキットにおいて:
一実施形態では、本発明のキットは、癒着形成しやすい組織の手術後の癒着を予防または低減する方法における使用説明書も含む。
【0107】
一実施形態では、本発明のキットは、創傷治癒を加速または促進する方法における使用説明書も含む。
【0108】
一実施形態では、本発明のキットは、創傷の出血を抑えるまたは止める方法における使用説明書も含む。
【0109】
一実施形態では、本発明のキットにて提供されるジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーが、凍結乾燥されたものである。一実施形態では、このキットは、ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを溶解させるための水溶液も含む。
【0110】
一実施形態では、ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの少なくとも一方、好ましくは両方が別々に、水溶液に提供される。一実施形態では、水溶液が冷凍されている。
【0111】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が、約2%から約10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。好ましくは、水溶液が、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。
【0112】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液のpHが約6から8である。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化ポリマーの水溶液のpHが約6.5から7.5である。
【0113】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。
【0114】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液が、約2%から約10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。好ましくは、水溶液が、約2%から約8%w/v、一層好ましくは約5%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0115】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液のpHが約6から8である。好ましくは、アルデヒド誘導体化デキストランの水溶液のpHが約6.5から7.5である。
【0116】
任意に、水溶液のいずれか一方または両方が、1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含むものであってもよい。
【0117】
一実施形態では、水溶液が、水、生理食塩水、緩衝液、これらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、水溶液が約0.9%w/vの生理食塩溶液である。
【0118】
一実施形態では、水溶液のいずれか一方または両方が、1種以上の生物学的活性剤および/または1種以上の非生物学的活性剤を含むものであってもよい。
【0119】
一実施形態では、(a)および(b)のうちの1つ以上で、1種以上の生理学的活性剤も取り入れている。
【0120】
本明細書に開示の一定範囲の数字(たとえば1から10)を参照する場合、その範囲内のすべての有理数(たとえば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9、10)ならびに、その範囲内の一定範囲の有理数(たとえば、2から8、1.5から5.5、3.1から4.7)も援用し、よって、本明細書に明示的に開示する全範囲のすべての部分範囲を明示的に開示したものと同等の内容を意図している。これらは、具体的に何を意図しているかを示す単なる例にすぎず、列挙した最小値から最大値までの考えられるかぎりの数値の組み合わせも、同様にして本出願に明示的に言及されたものとみなされる。
【0121】
特許明細書、他の外部文書または他の情報源を参照する本明細書では、これは主に本発明の特徴について説明するための文脈を提供することを目的とするものである。特に明記しないかぎり、このような外部文書の引用は、いかなる司法権においても、当該文書または当該情報源が従来技術であると認めたこととはみなされず、従来技術における一般的な常識の一部をなすものでもない。
【0122】
また、本発明は広義には、本出願の本明細書で個々にまたは総称として参照または言及している部分、要素、特徴の2つ以上の任意の組み合わせで前記部分、要素または特徴からなるとも言ってもよく、本発明が関連する技術分野において周知の等価物である具体的な整数を本明細書で言及している場合、このような周知の等価物もそれを個々に説明したのと同等に本明細書に援用されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】処置後に鼻の外壁に癒着のある、実施例6で説明する治験各群のヒツジの比率を示すグラフである。
【図2】鼻の外壁での癒着の平均グレード(実施例6)を示すグラフである。
【図3】篩骨癒着のある各群におけるヒツジの比率(実施例6)を示すグラフである。
【図4】マッチド対照群と比較した全処置での平均篩骨癒着グレード(実施例6)を示すグラフである。
【図5】上皮の高さを経時的に光学顕微鏡法で比較した結果(実施例6)を示すグラフである。
【図6】再上皮化の比率を光学顕微鏡法で比較した結果(実施例6)を示すグラフである。
【図7】再線毛化した表面積の比率を走査型電子顕微鏡法で比較した結果(実施例6)を示すグラフである。
【図8】線毛グレードを走査型電子顕微鏡法で比較した結果(実施例6)を示すグラフである。
【図9】各群の平均線毛運動周波数(CBF)(実施例6)を示すグラフである。
【図10】Boezaart評価尺度を用いる活性vs偽薬の術野グレードスコア(実施例7)を示すグラフである。
【図11】Wormald評価尺度を用いる活性vs偽薬の術野評価尺度(実施例7)を示すグラフである。
【図12】Wormald評価尺度を用いる活性vs対照群の術野の評価スコア(実施例8)を示すグラフである。
【図13】活性vs対照群の完全な止血までの時間(実施例8)を示すグラフである。
【図14】活性vs対照群での経時的な痂皮スコアを比較した(実施例8)グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0124】
発明の詳細な説明
1. 定義
本明細書で使用する場合、「キトサン」という用語は、ランダムに分散されたβ−(1,4)結合したD−グルコサミンおよびN−アセチル−D−グルコサミンからなる直鎖型の多糖を意味する。キトサンはキチンを脱アセチル化して生成可能なものである。α−キトサンとβ−キトサンのどちらも本発明で使用するのに適している。脱アセチル化度(%DA)はキトサンの溶解性や他の特性に影響する。市販のキトサンは一般に、脱アセチル化度が約50から100%である。完全に脱アセチル化したキトサンのモノマー単位を以下の式Iに示す。
【化1】
【0125】
本明細書で使用する場合、「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」という用語は、環状無水物とキトサンポリマーのD−グルコサミン残基のアミン基との反応によって誘導体化されたキトサンポリマーを意味する。ジカルボキシ基の例としては、N−スクシニル、N−マロイル、N−フタロイルがあげられる。N−スクシニルが好ましい。
【0126】
「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」は、他の官能基で部分的に誘導体化されたものであってもよい。この二次誘導体化は、ジカルボキシ基で誘導体化されなかったアミン位置あるいは、D−グルコサミン残基のヒドロキシ基のいずれかで起こり得る。たとえば、環状無水物とキトサンのOH基とが反応すると、アミド置換基の代わりに、あるいはアミド置換基に加えてエステル基を含有するモノマーが得られることがある。
【0127】
二次誘導体化がジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアミン位置に存在する場合、ポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとの架橋を形成できるだけの十分な遊離アミン基を保持しなければならない。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、環状無水物とD−グルコサミン残基のアミン基との反応によってのみ誘導体化される。
【0128】
本明細書で使用する場合、「N−スクシニルキトサンポリマー」という用語は、キトサンポリマーのD−グルコサミン残基のアミン基にN−スクシニル基を加えることで誘導体化されたキトサンを意味する。N−スクシニルキトサンポリマーのモノマー単位を以下の式IIに示す。
【化2】
【0129】
スクシニル化度は可変である。一般に、約30から70%であるが、N−スクシニルキトサンポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランとの架橋を形成できるだけの十分な遊離アミン基を保持しなければならない。N−スクシニルキトサンポリマーは、「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」(上記)で述べたような二次誘導体化を含むものであってもよい。
【0130】
「N−スクシニルキトサン」という用語は、本明細書で使用する場合、アミン位置でN−スクシニル基によってのみ誘導体化され、他の官能基との二次誘導体化を含まない、N−スクシニルキトサンポリマーを意味する。
【0131】
本明細書で使用する場合、「デキストラン」という用語は、短いα−(1,3)側鎖を有するα−(1,6)グリコシド結合で構成されるグルコース多糖を意味する。デキストランのモノマー単位を以下の式IIIに示す。
【化3】
【0132】
デキストランは、スクロース含有媒質をロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides) B512Fで発酵させて得られるものである。分子量1KDaから2000KDaのデキストランが市販されている。
【0133】
本明細書で使用する場合、「アルデヒド誘導体化デキストランポリマー」という用語は、隣接する第2級アルコール基が酸化されて反応性ビスアルデヒド官能基となったデキストランポリマーを意味する。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、他の位置で他の官能基によって誘導体化されていてもよい。好ましくは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、隣接する第2級アルコール基でのみ誘導体化される。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの代表的なモノマー単位を以下の式IVにあげておく。
【化4】
【0134】
本明細書で使用する場合、「徐放」という用語は、生物学的活性剤の徐放との関連で、拡散のみに基づいて想定される送達と比較して、生物学的活性剤の想定される送達よりも長いことを意味する。
【0135】
本明細書で使用する場合、「ハイドロゲル」という用語は、巨大分子間の隙間を埋めるポリマー鎖および水の三次元ネットワークからなる二成分系または多成分系である。
【0136】
本明細書で使用する場合、「組織」という用語は、形態学的に類似の細胞が関連の細胞間物質と一緒に凝集したもの(これらが一緒になってヒトを含む生命体の体で1つ以上の特定の機能を果たすよう作用する)を意味する。組織の例として、筋肉、上皮、神経、結合組織があげられるが、これに限定されるものではない。
【0137】
また、「組織」という用語は、大動脈、心臓、胸膜腔、気管、肺、心膜、囲心腔などの胸部組織;胃、小腸および大腸、肝臓、膵臓、胆嚢、腎臓、副腎などの腹部および後腹膜組織;男性および女性の生殖器および泌尿器の組織をはじめとする骨盤腔組織;脊柱および神経、硬膜および末梢神経などの中枢神経系および末梢神経系の組織;骨格筋、腱、骨、軟骨などの筋骨格系組織;眼、耳、首、喉頭、鼻、副鼻腔などの頭部および頸部組織などであるが、これに限定されるものではない、1つ以上の組織型を含む臓器も包含する。
【0138】
本明細書で使用する場合、「癒着」という用語は、外科手術などの炎症性刺激の後に生じる、組織間または臓器間あるいは、組織とインプラントとの間の異常な結合を意味する。
【0139】
癒着形成しやすい組織は、炎症性刺激に曝露された組織である。たとえば、内視鏡的副鼻腔手術、腹部手術、婦人科手術、筋骨格手術、眼手術、整形外科手術、心血管手術などであるが、これに限定されるものではない、外科的処置に関与した組織。組織は、機械的損傷、骨盤の炎症性疾患などの疾患、放射線治療、外科用インプラントなどの異物の存在といった他のイベントの後にも癒着形成しやすいことがある。
【0140】
本明細書で使用する場合、「創傷」という用語は、ヒト生物体をはじめとする生きた生物体での組織の傷害を意味する。組織は、内臓などの内部組織であってもよいし、皮膚などの外部組織であってもよい。傷害は、外科的切開によることもあれば、組織に意図しない力が加わることによることもある。創傷には、擦過創、挫創、刺創などの機械的損傷によって生じる傷害ならびに、火傷や化学的損傷によって生じる傷害を含む。また、傷害は、潰瘍、病変、腫物または感染において生じるものなど、徐々に発生することもある。創傷の例としては、挫傷創、切創、貫通創、穿孔創、穿刺創、皮下創があげられるが、これに限定されるものではない。
【0141】
本明細書で使用する場合、「含む(comprising)」という用語は、「少なくとも一部をなす」ことを意味する。「含む」という用語を含む本明細書の各文を解釈すると、この用語で示した以外の特徴が存在してもよい。「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」などの関連の用語も同様に解釈される。
【0142】
2. ポリマーネットワーク
本発明は、2種類の周知のポリマーであるキトサンとデキストランの誘導体化および架橋によって形成される新規なポリマーネットワークに関する。このポリマーは、水溶液中でハイドロゲルを生成しながらすみやかに三次元ポリマーネットワークを形成する。ハイドロゲルの特性については、2種類のポリマー成分の誘導体化と架橋を変更することで、特定の用途に合わせて微調整が可能である。
【0143】
もっとも広義の態様では、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンを含むポリマーネットワークを提供するものである。
【0144】
2.1 キトサン成分
キトサンは広く利用でき、Sigma-Aldrich(www.sigma-aldrich.com)などのさまざまな提供元から業務入手可能である。
【0145】
あるいは、キチンを脱アセチル化してキトサンを調製することも可能である。多くの脱アセチル化方法が従来技術において周知であり、たとえば、加熱しながら濃水酸化ナトリウム溶液中でキチンを加水分解した後、濾過によりキトサンを回収して水で洗浄する。キチンは、グルコサミン単位間の結合がαであるかβであるかによって、α−キチンまたはβ−キチンのいずれかで存在する。キチンは、甲殻類、昆虫、菌類、藻類、酵母に見られ、α−キチンがロブスターやカニ、エビなどの甲殻類の殻から多く得られるのに対し、β−キチンはイカの甲から誘導される。どちらのタイプのキチンも、本発明で使用するジカルボキシ誘導体化キトサンの調製に使用可能である。
【0146】
通常、市販のキトサンの平均分子量(MWav)は約1から1000kDaである。低分子量のキトサンは、MWavが約1から50kDaである。高分子量のキトサンは、MWavが約250から800kDaである。どのようなMWavのキトサンでも本発明で使用可能である。
【0147】
キチンの脱アセチル化は、得られるキトサンが遊離第1級アミン基の大部分をそのポリマー骨格とともに有することを意味する。キトサンの脱アシル化度は、本発明のポリマーネットワークの特性に影響することがある。誘導体化または架橋に利用できるのは、脱アセチル化されたグルコサミン単位のみであることがその理由である。また、キトサンの溶解性も脱アシル化度に左右される。
【0148】
本発明で使用するのに最も適したキトサンポリマーは、脱アセチル化度が約40%から100%である。好ましくは、脱アシル化度が約60%から95%、一層好ましくは約70%から95%である。
【0149】
本発明で使用するキトサンは、キチンの脱アセチル化によって遊離状態にされたアミンでジカルボキシ誘導体化されている。ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーについては、キトサンと環状酸無水物とを反応させることで生成可能である。本発明で使用するのに適した環状酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、グルタル酸無水物、シトラコン酸無水物、メチルグルタコン酸無水物、メチルコハク酸無水物などがあげられる。
【0150】
好ましくは、無水スクシニル、無水フタル酸またはグルタル酸無水物のうちの1つ以上とキトサンとの反応によってジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを生成する。一層好ましくは、キトサンと無水スクシニルとの反応によってジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを生成する。
【0151】
誘導体化を達成するには、従来技術において周知のどのような方法を使用してもよい。たとえば、環状無水物をDMFに入れた溶液中で固体キトサンを加熱するか、固体キトサンをメタノール/水混合物に可溶化した後に無水物と反応させることが可能である。この誘導体化プロセスで使用するのに適した他の溶媒としては、ジメチルアセトアミドがあげられる。乳酸、HClまたは酢酸などの酸を加えれば、キトサンの溶解性を改善することが可能である。NaOHなどの塩基は一般に、アセチル化アミンの一部を脱アセチル化する目的で添加される。
【0152】
一般的な方法を実施例1にあげておく。使用する方法は、使用する環状無水物および/またはキトサンの平均分子量に応じて選択可能である。キトサンと環状無水物のどちらも、使用する溶媒に対して十分に溶解または使用する溶媒中で十分に膨潤できるものとする。
【0153】
好ましい実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。N−スクシニルキトサンを調製する方法については、従来技術において周知である。たとえば、“Preparation of N-succinyl chitosan and their physical-chemical properties”, J Pharm Pharmacol. 2006, 58, 1177-1181を参照のこと。
【0154】
環状無水物とキトサンとの反応によって、遊離アミン位置の一部がジカルボキシ基でアシル化される。たとえば、使用する環状無水物が無水コハク酸の場合、アミン基の一部がN−スクシニル化される。N−スクシニル化後にNaOH処理することで、アシル基の一部がキトサンのアミン基から除去される。NaOH処理の温度を高めると、実施例4で示すように、存在する遊離アミン基の比率が高くなる。
【0155】
アシル化度については、生成物におけるC:Nの比で示される。また、アシル化度を‘H nmrで判断することも可能である。N−スクシニルキトサンポリマーを以下に示す。式Vは、ポリマー中に存在する3つのタイプのD−グルコサミン単位すなわち、N−スクシニル化−D−グルコサミン、遊離D−グルコサミン、N−アセチル−D−グルコサミンを示す。
【化5】
【0156】
一実施形態では、xが約60から80%であり、yが約1から15%、zが約10から25%である。
【0157】
別の実施形態では、xが約60から80%、yが約1から30%、zが約2から25%である。
【0158】
無水物置換の度合いが高ければジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの溶解性は高まるが、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとの架橋の妨げになる場合がある。
【0159】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約20%から80%ジカルボキシ誘導体化されている。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約30%から60%ジカルボキシ誘導体化されている。一層好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約45%から50%ジカルボキシ誘導体化されている。
【0160】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約50%から90%ジカルボキシ誘導体化されている。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、約60%から80%ジカルボキシ誘導体化されている。
【0161】
2.2 デキストラン成分
デキストランは、主にα−1,6リンケージで結合されたD−グルコース単位で構成される多糖である。ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroies)をスクロースで成長させて、高分子量の粗デキストランを業務入手する。得られる多糖を加水分解して、低分子量のデキストランを得る。
【0162】
デキストランをジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーに架橋可能にする前に、これを活性化しなければならない。デキストランで隣接する第2級アルコール基から酸化によって反応性のビスアルデヒド官能基を生成可能である。一般的な方法を実施例2にあげておく。次に、得られたアルデヒド誘導体化デキストランポリマーをジカルボキシ誘導体化キトサンの第1級アミン基に還元的にカップリングし、本発明の架橋ポリマーネットワークを形成することが可能である。
【0163】
一実施形態では、酸化剤が過ヨウ素酸ナトリウムである。他の好適な酸化剤に、過ヨウ素酸カリウムなどがある。
【0164】
酸化生成物であるアルデヒド誘導体化デキストランポリマーは実際に、少量の遊離アルデヒド基を含有するのみである。アルデヒド基の大半はアセタールおよびヘミアセタールとしてマスクされ、デキストランの遊離アルデヒド形態と平衡状態にある。遊離アルデヒド基の一部が反応することで、アセタールおよびヘミアセタール形態から遊離したアルデヒド基のより多い形態に平衡がシフトする。
【0165】
酸化度は、使用する酸化剤のモル比に影響されることがある。酸化度が高くなればなるほど、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの多くの部位を架橋に利用できるようになる。しかしながら、酸化度が低めのほうがアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの可溶性が高くなる。過ヨウ素酸反応でもデキストランポリマーの分子量が劇的に低下する。
【0166】
一実施形態では、酸化度が、約30%から約100%、一層好ましくは約50%から約100%である。最も好ましくは、酸化度が約80から約100%である。
【0167】
実施例5では、アルデヒド誘導体化(または酸化)度の異なるアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを用いて調製した本発明のポリマーネットワークのゲル化時間を比較する。溶液中でN−スクシニルキトサンの溶液と組み合わせると、高度にアルデヒド誘導体化したデキストランポリマーほど分子量が小さく、短時間でゲルを形成する。
【0168】
誘導体化度は、ヒドロキシルアミン塩酸塩と拡大反応を実施した後、遊離プロトンを滴定して測定可能である(Zhao, Huiru, Heindel, Ned D, “Determination of degree of substitution of formyl groups in polyaldehyde dextran by the hydroxylamine hydrochloride method,” Pharmaceutical Research (1991), 8, page 400-401)。
【0169】
2.3 デキストラン成分によるキトサン成分の架橋
本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、ポリマーネットワークを提供するものである。一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーがN−スクシニルキトサンポリマーである。一実施形態では、N−スクシニルキトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンポリマーのアミン基およびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基によってアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋している。好ましくは、N−スクシニルキトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである。
【0170】
また、本発明は、上述したようなポリマーネットワークを生成する方法も提供するものである。
【0171】
本発明のポリマーネットワークを製造するには、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーをアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋させる。これは、2種類のポリマーの水溶液を混合することで達成可能である。たとえば、実施例3を参照のこと。
【0172】
一度生成してしまえば、各ポリマー成分の水溶液は、溶液状のまま保っても構わないし、凍結乾燥などによって乾燥させて固体生成物とすることも可能である。この場合は、一緒に混合して本発明のハイドロゲルを形成する前に、固体のポリマー成分を水溶液に再溶解させればよい。
【0173】
一実施形態では、ポリマーマトリクス形態のpHが約6から8、好ましくは約6.5から7.5の水溶液が望ましい。これは、2種類の溶液を混合する前に、ポリマー成分ごとの水溶液のpHを上記の範囲内に調整して達成可能である。あるいは、個々のポリマー成分の水溶液のpHを、透析後かつ凍結乾燥前に調整することも可能である。pHについては、好適な塩基または酸を用いて調整可能である。通常、pHの調整にはNaOHを使用する。
【0174】
一実施形態では、水溶液のいずれか一方または両方が独立に、1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含有してもよい。一実施形態では、水溶液が独立にNaClを含有してもよい。好ましくは、NaClの濃度が約0.5から5%w/vである。一層好ましくは、NaClの濃度が約0.5%から2%w/vであり、最も好ましくは約0.9%w/vである。
【0175】
一実施形態では、水溶液は、Na2HPO4などのリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、乳酸緩衝液、クエン酸緩衝液、重炭酸緩衝液などであるが、これに限定されるものではない、1種以上の緩衝液を独立に含有するものであってもよい。
【0176】
2.4 本発明のハイドロゲル
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと反応し、三次元架橋ポリマーネットワークを生成する。このポリマーネットワークは、これが形成される水溶液との間でハイドロゲルを形成する。本発明のハイドロゲルは、自らを医療用途で、特に創傷治癒、手術による癒着の予防、出血の低減(止血)で使用するのに適したものとする特性を有する。
【0177】
理論に拘泥することなく、本発明のハイドロゲルを創傷表面に適用すると、この隙間内でのフィブリンおよび血塊の形成が防止され、それによって以後の癒着の形成が防止されると思われる。
【0178】
ハイドロゲルの特性については、2種類のポリマーの誘導体化と架橋を変更することで、特定の用途に合わせて微調整が可能である。
【0179】
本発明のポリマーネットワークでは、キトサンのD−グルコサミン残基のアミン基が、
(a)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋されてもよいし、
(b)ジカルボキシ基との間でアシル化されてもよく、あるいは、
(c)アセチル化(元のキチン材料から)されてもよい。
【0180】
アセチル化度および/またはジカルボキシアシル化度が高いと、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋する遊離アミン基があまり残らない。結果として、2種類のポリマーの水溶液を混合すると、生じる重合量がジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアシル化およびアセチル化のパターンに影響されることになる。これは、仮にそうであれば、いかに短時間でハイドロゲルが形成されるかに影響する。ポリマーの希溶液中で極めてわずかな重合が生じる場合、ハイドロゲルは形成されない。
【0181】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液は、各成分を約2%から約10%w/vずつ含む。
【0182】
通常、2種類のポリマーの水溶液を等濃度で混合して、本発明のハイドロゲルを形成する。しかしながら、2種類のポリマーの特性が、混合時に架橋して本発明のハイドロゲルを形成するようなものになるのであれば、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとに異なる比を用いることも可能である。
【0183】
当業者であれば、混合時に成分のポリマー溶液がすみやかに架橋してハイドロゲルを形成するように、
(a)キトサンの脱アセチル化度、
(b)キトサンのジカルボキシ誘導体化度、
(c)アルデヒド誘導体化デキストランの酸化度、
(d)水溶液中の濃度
のパラメータを操作することが可能である。
【0184】
あるいは、当業者であれば、これらのパラメータを必要に応じて操作して、ゆっくりとまたは特定の時間内にハイドロゲルが生じるようにすることができる。
【0185】
ポリマーの二次誘導体化、水溶液の性質、生物学的に活性なまたは非生物学的活性剤の添加などの要因も考慮すべきである。たとえば、混合ポリマー成分を含む水溶液のpHが約6から8の場合、本発明のハイドロゲルをさらに短時間で形成できることがある。
【0186】
上述したパラメータを操作することで、本明細書に記載の方法を使用して、本発明者らは混合して数秒程度もすれば生じる本発明のハイドロゲルを生成した。本発明の他のハイドロゲルは、2種類の溶液を混合してから、数分から数時間かけて生じる。
【0187】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー溶液およびアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を使用前に滅菌して、組織への適用で組織に微生物が導入されないようにしてもよい。あるいは、凍結乾燥させた固体のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを滅菌した上で、滅菌水溶液に溶解することも可能である。
【0188】
溶液を滅菌するには、従来技術において周知のどのような技術を用いてもよい。たとえば、放射性同位元素源(通常はコバルト−60)からのγ線または電子ビームあるいはx線の照射を用いる放射線滅菌による。
【0189】
放射線への曝露によって、ジカルボキシ誘導体化キトサンおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの機能性に影響しかねない化学変化が生じることがある。たとえば、遊離アミン基が酸化された場合、ポリマー成分間の架橋にあまり利用できなくなり、ゲルが形成されるまでの時間が長くなることもある。また、放射線を用いるとポリマー成分の分子量が低下する場合がある。溶液中で一緒に混合したときに特定の時間枠でハイドロゲルを生じることを意図したジカルボキシ誘導体化キトサン成分とアルデヒド誘導体化デキストラン成分を調製する際には、これらの要因について考慮すべきである。
【0190】
また、本発明のハイドロゲルは、1種以上の生物学的活性剤および/または1種以上の非生物学的活性剤を含有することが可能である。
【0191】
一実施形態では、1種以上の生物学的活性剤が、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生物質、防腐剤、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、成長因子、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、細胞増殖阻害剤からなる群から選択される。
【0192】
ハイドロゲルマトリクスに取り込まれる生物学的活性剤は、ハイドロゲルが崩壊する際に放出される。このようにして、本発明のハイドロゲルを用いて生物学的活性剤を標的部分に送達することが可能である。
【0193】
また、非生物学的活性剤をハイドロゲルマトリクスに取り込むことも可能である。たとえば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガムなどの多糖類増粘剤、ポリアクリル酸などのポリマー増粘剤ならびにコポリマー、ポリアクリルアミド、コポリマー、アルコール、無水マレイン酸コポリマーなどを加えて、さらに剛性の高いハイドロゲルを生成することが可能である。
【0194】
また、ポリマー成分の水溶液に多糖類増粘剤を加えて、溶液が適用するのに好適な粘度になるようにしてもよい。たとえば、ハイドロゲルをin situで創傷または組織などの標的部分に形成する場合、ポリマー成分の水溶液は、架橋が起こり得る前に流れ落ちてしまわないように十分に粘性のものとする。したがって、使用する特定のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよび/またはアルデヒド誘導体化デキストランポリマーが、極めて非粘性の水溶液を形成する場合、増粘剤を用いて粘度を高めてもよい。他の実施形態では、増粘剤を添加しなくてもポリマー成分の水溶液が十分に粘性のものとなる。
【0195】
同様に、適用するハイドロゲルの正確な場所と量を確定できるように、フルオレセインおよびメチレンブルーなどの染料をハイドロゲルマトリクスに取り込むことも可能である。
【0196】
これらの別の作用剤(agent)は、従来技術において周知のどのような方法でハイドロゲルに取り込んでもよい。たとえば、作用剤が固体物質の場合、一方の乾燥ポリマー成分とブレンドすることが可能である。こうして組み合わせた乾燥材料を水溶液に溶解し、これを第2のポリマー成分の水溶液と混合する。
【0197】
取り込む作用剤が液体の場合、水性ポリマー溶液の一方と直接に組み合わせ、保管用に凍結乾燥させることが可能である。あるいは、溶液を混合して本発明のハイドロゲルを形成する前に、水性ポリマー溶液の混合物に直接に加えることも可能である。
【0198】
また、作用剤を共有結合的にポリマー成分のひとつと反応させることも可能である。大量の作用剤が存在し、作用剤がN−スクシニルキトサンの遊離アミン基と反応する場合、得られるハイドロゲルは形成に時間がかかる場合がある。しかしながら、作用剤とポリマー成分との共有結合反応は、ハイドロゲルが生じ得ないほどの架橋を防ぐものでなければならない。
【0199】
ハイドロゲルが分解すると、ポリマーから作用剤が加水分解される。
【0200】
3 本発明のハイドロゲルの使用
一態様では、本発明は、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、癒着形成しやすい組織の癒着を予防または低減する方法を提供するものである。
【0201】
一実施形態では、癒着が手術後の癒着である。
【0202】
別の態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法を提供するものである。
【0203】
一態様では、本発明は、創傷を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法を提供するものである。
【0204】
上述した本発明の方法で:
一実施形態では、本発明のハイドロゲルをin situで生成する。たとえば、溶液を標的部分に噴霧する、吹き掛ける、あるいは注ぐことによって、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液を同時に適用することが可能である。標的部分は、創傷(特に術創)であってもよいし、組織であってもよい。
【0205】
2種類の成分が出会って、空気中あるいは創傷表面または組織で混ざり、反応して架橋ポリマーネットワークが生成される。水溶液中でのポリマーネットワークの形成によって、ハイドロゲルが得られる。
【0206】
溶液については、従来技術において周知のどのような手段を用いてでも、標的部分に噴霧する、吹き掛ける、あるいは注ぐことが可能である。噴霧する場合、別々の容器から水溶液を同時に分散液滴の塊の形で放出する。容器を加圧してもよい。たとえば、PCT国際公開第00/09199号パンフレットには、2種類の重合可能な流体の噴霧を可能にする装置について記載されている。この装置は、流体が噴霧時にのみ混ざるように、別々のチャンバに保存された流体を噴霧する。
【0207】
吹き掛ける場合、液体流の状態でポリマー含有水溶液を別々の容器から同時に押し出す。たとえば、別々の注射器と、溶液を標的部分に適用する際に、これをその先端で混合できるようにするアプリケータとを用いて、水溶液を標的部分に吹き掛けることが可能である。あるいは、溶液を単に標的部分に注ぐことも可能である。
【0208】
2つのポリマー溶液を同時に適用すべきであるが、ハイドロゲルを形成できるだけの十分な架橋が生じるのであれば、各々が標的部分に厳密に同じ量かつ厳密に同時に到達する必要はない。
【0209】
他の接着剤またはシーラント系用に開発されたin situゲル化のためのさまざまな方法論および装置を用いて、ポリマーの水溶液を適用して本発明のハイドロゲルを形成すればよい。
【0210】
別の実施形態では、まずはジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーをアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと混合して水溶液中でポリマーネットワークを形成した後、生じるハイドロゲルを治療対象部分に適用して、本発明のハイドロゲルを用いる。ポリマーの混合とハイドロゲルの適用との間の時間は、ゲルの形成速度に左右される。従来技術において周知のどのような方法を用いて、ハイドロゲルを標的部分に適用してもよい。たとえば、広口径注射器を用いてハイドロゲルを適用することが可能である。
【0211】
一実施形態では、ハイドロゲルの使用量を、(a)治療部分での癒着数の低減または最小化、(b)これを適用する創傷の治癒の加速または促進、あるいは、(c)これを適用する創傷の出血の低減または停止のために十分なものとすべきである。
【0212】
本発明のハイドロゲルを使用すれば、癒着形成イベントによって引き起こされる組織の癒着を低減または最小化できるが、これらのハイドロゲルは、手術後の癒着を予防または低減するのに特に有用である。
【0213】
本発明の方法は、どのような生物体の治療にも適用可能である。一実施形態では、この方法をヒトに適用する。
【0214】
ハイドロゲルが出血と癒着の両方を低減する機能によって、これらのハイドロゲルが事実上どのような外科的処置でも価値のあるツールになる。本発明のハイドロゲルを使用可能な外科的処置の例として、腸の外科手術などの腹部の処置、胸部の処置、頭蓋間および脊髄外科手術をはじめとする神経外科的処置、神経放出処置および脳の表層での処置、卵巣嚢腫摘出および子宮摘出などの骨盤処置、洞手術、眼処置、耳鼻科の処置、声帯および索の処置などの頸部および咽頭部の処置、屈筋腱および伸筋腱の癒着の分離などの整形外科処置、火傷の処置があげられるが、これに限定されるものではない。
【0215】
本発明のハイドロゲルは、耳、鼻、喉の外科手術で使用するのに特に適している。洞でのゲル形成が弱いのは、粘液線毛クリアランスがゆっくりとゲルを洞表面から取り除くような場合である。鼻粘膜粘液線毛輸送系の線毛拍動は、鼻粘膜上皮を覆う粘液層を鼻咽頭まで運ぶよう機能する。それをするにあたって、洞表面に適用されるどのような物質も同様に放出される。本発明のハイドロゲルは、適用後すぐに極めてしっかりとしたものとなるため、鼻粘膜粘液線毛輸送系によって取り除かれることはない。
【0216】
一旦適用すると、本発明のハイドロゲルは、内部組織間の物理的なバリアを維持し、癒着を予防する。組織表面が治癒するにつれて、ハイドロゲルが分解してその部位から取り除かれる。
【0217】
また、本発明のハイドロゲルを、直接に、あるいはハイドロゲルを取り入れた創傷被覆材を用いて、皮膚科学的創傷および皮膚創傷に適用することも可能である。
【0218】
3.1 本発明のハイドロゲルを用いる生物学的活性剤の送達
本発明のハイドロゲルを、生物学的活性剤の部位特異的徐放キャリアとして用いることが可能である。したがって、一態様本発明は、組織を本発明のハイドロゲルで治療することを含む、1種以上の生物学的活性剤を組織まで送達する方法であって、ハイドロゲルが1種以上の生物学的活性剤を含有する方法を提供するものである。
【0219】
生物学的活性剤の部位特異的送達によって、従来の全身投与に関連した副作用を低減でき、治療有効量の生物学的活性剤を確実に患部まで到達される。たとえば、本発明のポリマーネットワークを用いて、慢性の静脈不全および脚部の潰瘍を治療することが可能である。ポリマーネットワークに取り込まれる血管新生促進因子および上皮成長因子が、潰瘍の治癒を助けることができる。本発明のポリマーネットワークは、ゲルとして創傷に対して直接に適用してもよいし、創傷に適用される創傷治癒被覆材に取り込んでもよい。
【0220】
本発明のポリマーネットワークに取り入れることが可能な生物学的活性剤としては、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生物質、防腐剤、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、成長因子、麻酔、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、細胞増殖阻害剤があげられるが、これに限定されるものではない。
【0221】
生物学的活性剤は、本発明のポリマーと併せて創傷治癒の一助となるよう作用することがある。たとえば、テトラサイクリン、シプロフロキサシンなどの抗生物質;線維芽細胞成長因子をはじめとするヘパリン結合成長因子などの成長因子;血小板由来の成長因子、インスリン結合成長因子−1、インスリン結合成長因子−2、上皮成長因子、形質転換成長因子−α、形質転換成長因子−β、血小板因子4、ヘパリン結合因子1および2はいずれも、本発明のポリマーネットワークに取り入れることが可能である。
【0222】
使用可能な他の生物学的活性剤としては、ナイスタチン、ジフルカン、ケトコナゾールなどの抗真菌薬;ガングシクロビル、ジドブジン、アマンチジン、ビダラビン、リバラビン、トリフルリジン、アシクロビル、ジデオキシウリジンなどの抗ウイルス薬;α1抗トリプシン、α1抗キモトリプシンなどの抗炎症薬;5−フルオロウラシル、タキソール、タキソテール、アクチノマイシンD、アンドリアマイシン、アザリビン、ブレオマイシン、ブスルファン、酪酸、カルムスチン、クロランブシル、cis−プラチン、シタラビン、シタラビン、ダカルバジン、エストロゲン、ロムスチン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシンC、プレドニシロン、プレドニゾン、プロカルバジン、ストレプトゾトシン、チオグアニン、チオテパ、トリブチリン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ゲンタマイシン、カルボプラチン、シクロホスファミド、イホスファミド、マホスファミド、レチノイン酸、リシン、ジフテリア毒素、毒液などの細胞毒または細胞増殖阻害剤;エストロゲン、テストステロン、インスリンなどのホルモン;ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタソン、フルチカゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、メメタソン(memetasone)、プレドニゾン/プレドニゾロン、トリアムシノロンなどのステロイド;アルブミンなどの血漿タンパク質;免疫グロブリンA、MおよびGをはじめとする免疫グロブリン;フィブリノゲン;因子II、VII、VIII、IX、XおよびXIIIをはじめとする凝固因子;プラスミノーゲン;タンパク質C;タンパク質S;抗トロンビンIII、α1抗トリプシン、α2マクログロブリン、C1エステラーゼ阻害剤をはじめとする血漿プロテイナーゼ阻害剤;α1酸糖タンパク質;セルロプラスミン;ハプトグロビン;トランシフェリング;相補成分C1〜C9l C4b結合タンパク質;インターαトリプシン阻害剤;A−1、A−11、B、C、Eをはじめとするアポリポタンパク質;フィブロネクチンおよびアンジオスタチンがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0223】
また、本発明のハイドロゲルは、ペプチド、タンパク質、単炭水化物、複合炭水化物、脂質、糖脂質、糖タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養補助剤を含むものであってもよい。
【0224】
生物学的活性剤をハイドロゲルに取り込むと、作用剤の部位特異的送達が可能になる。また、ハイドロゲルの分解速度を微調整して放出速度を制御することが可能である。
【0225】
本発明のハイドロゲルに生物学的活性剤を加えるには、従来技術において周知のどのような手段を用いてもよい。たとえば、作用剤を混合前に一方のポリマー成分溶液に加え、溶液同士を一緒にしてもよい。取り込み手段は生物学的活性剤の性質に左右される。
【0226】
添加対象となる生物学的活性剤の濃度は、作用剤の性質、これを適用する部位、ハイドロゲルの物理的な特徴によって左右されることになる。濃度は、治療有効量の生物学的活性剤が標的部位に送達されるような十分なものとする。一実施形態では、生物学的活性剤の濃度が、ハイドロゲル約1ng/mlから約1mg/mlである。好ましくは、生物学的活性剤の濃度が、ハイドロゲル約1ug/mlから約100ug/mlである。添加対象となる生物学的活性剤の適切な量については、当業者であれば、さまざまな濃度の生物学的活性剤を含有するハイドロゲルを試験して、特定の目的に最も有効なハイドロゲルを選択することで、計算で求めることが可能である。
【0227】
本発明のハイドロゲルの物性によって、これが適用された場所と実質的に同じ場所に保持され、体液によってすぐに流されてしまったり、重力によって沈んでしまったりすることもない。ハイドロゲルは、それ自体が適用する組織に密着し、組織の表面全体と接触するようになっている。
【0228】
4. キット
別の態様では、本発明は、
(a)ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーと、
(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと、を含む、本発明の方法で用いるキットを提供するものである。
【0229】
本発明のキットは、架橋して水溶液中で本発明のハイドロゲルを形成するポリマー成分を適宜提供する。
【0230】
一実施形態では、本発明のキットは、ポリマー(a)および(b)を溶解させて架橋し、ハイドロゲルを形成可能な水溶液も含む。あるいは、本発明のキットは、(a)および/または(b)を、第2のポリマー成分と混合できる状態で水溶液に事前に溶解して提供するものである。この水溶液は、液体状であっても冷凍したものであってもよい。
【0231】
一実施形態では、本発明のキットは、ポリマー成分(a)および(b)を凍結乾燥粉末として提供するものである。本発明のキットを使用するには、凍結乾燥させたポリマーを好適な水溶液に溶解した後、混合することを含む。あるいは、(a)および(b)の両方を好適な水溶液に加え、溶解して架橋するまで混合してもよい。一実施形態では、水溶液が、水、生理食塩水、緩衝液、これらの混合物からなる群から選択される。
【0232】
一実施形態では、本発明のキットが、1種以上の生物学的活性剤をさらに含むものであってもよい。たとえば、1種以上の生物学的活性剤を、ポリマー成分(a)および(b)のうちの一方または両方に取り入れることが可能である。あるいは、1種以上の生物学的活性剤が水溶液中に存在してもよく、そこに(a)および/または(b)を溶解させる。
【0233】
5. 創傷被覆材
また、本発明は、湿ると本発明のハイドロゲルを放出できる創傷被覆材も提供するものである。創傷被覆材は、従来技術において周知の好適なドレッシングであればどのようなものであってもよい。一例として、絆創膏、ストリップ、パッド、ガーゼ、フィルム、ストッキング、テープがあげられる。
【0234】
一態様では、創傷被覆材が、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンがN−スクシニルキトサンである。
【0235】
本発明の創傷被覆材を調製するために、乾燥固体ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーおよびアルデヒド誘導体化デキストランポリマーをドレッシングの構造にブレンドする。あるいは、創傷被覆材を一方のポリマーの水溶液に含浸させた後に乾燥させ、さらにマットとして第2のポリマーを導入することも可能である。マットは水溶性糊などの第3の成分で一緒に保持することが可能である。別の例として、2種類のポリマーを乾燥させて混合した後、創傷治癒被覆材の構造の一部として極めて多孔性の高い組織からなる2つの小片間に配置することも可能である。
【0236】
創傷被覆材が湿ると、2種類のポリマー成分が架橋して、創傷被覆材の水性成分中でハイドロゲルが生じる。創傷被覆材については、体外の流体で湿らせてもよいし、体内の流体で湿らせてもよい。たとえば、創傷の上にのせると、創傷被覆材は、創傷からの血液または創傷滲出液と接触して湿ることがある。創傷が十分に湿っていなければ、水または生理食塩溶液などの生理学的に許容される好適な液体と接触させて創傷被覆材を湿らせることも可能である。
【0237】
成分ポリマーを変えることで、ハイドロゲルが生じる速度を変えることが可能である。創傷被覆材の用途が異なれば、必要なハイドロゲル形成の速度も異なることがある。
【0238】
創傷被覆材に印加する圧力によってハイドロゲルの形成を助けてもよい。
【0239】
創傷被覆材は、消毒薬ならびに、上述したような他の生物学的活性剤などの別の作用剤を含有するものであってもよい。これらの作用剤は、従来技術において周知の標準的な方法を用いてドレッシング材料に取り込むことが可能なものであり、あるいは、ドレッシングの構造とブレンドされるポリマー溶液に取り込んでもよい。
【0240】
本発明のさまざまな態様について、以下の実施例を参照して非限定的な方法で示す。
【実施例】
【0241】
実施例1
N−スクシニルキトサンポリマー(DMF法)
バッチA.無水コハク酸(2.15g、0.0215mol)を100mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中でキトサン(1.5g、0.007mol)に加えた。この混合物を窒素下で3時間、150℃まで加熱した。
【0242】
冷却時、混合物から固体を回収し、メタノールで洗浄した後、アセトンで洗浄した。乾燥後の固体を水酸化ナトリウム(400ml、2M)に溶解し、溶液を一晩攪拌した。すべての固体が溶解したわけではなかった。未溶解の固体を濾過し、溶液を蒸発させて約30〜50mlにした。
【0243】
この溶液を、3L容のビーカーで透析袋によって水を定期的に交換しながら48〜60時間透析した。次に、溶液を濃縮し、凍結乾燥させた。N−スクシニルキトサン生成物をワタ状の固体として得た。
【0244】
バッチB.キトサン(イカの甲由来)(30g)および無水コハク酸(42g)をDMF(500ml)に入れたものを20時間で140℃まで加熱した。得られたN−スクシニルキトサンを濾過により回収し、エタノールで洗浄した後、ジエチルエーテルで洗浄し、ポンプで乾燥させた。乾燥後の固体を水酸化ナトリウム溶液(水800mlに10g)に加え、一晩攪拌した。次に、この溶液をセライトで濾過し、12時間ごとに水を交換しながら3日間透析した。凍結乾燥によって、14gのN−スクシニルキトサン(分析C39.2%、H5.9%、N5.1%)が得られた。
【0245】
バッチC.キトサン(30g、実用グレードAldrich、中分子量)および無水コハク酸(42g)をDMF(1L)中にて3時間、130℃まで加熱した。キトサンは膨潤したが溶解されなかった。冷却時、キトサンを濾別し、フィルタにてメタノールで洗浄した。次に、NaOH溶液(水1.5Lに50g)にキトサンを加え、均質になるまで(通常は30分間)高速オーバーヘッドスターラーで混合した。ときにはキトサンが全部可溶というわけではなく、そのような場合はセライトで濾過して残りのゲルを除去する。この溶液を14時間かけて50℃まで加熱し、蒸留水(50Lを4回交換)でセルロース管材にて3日間透析した。少量の水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整した。次に、この溶液を回転蒸発器の減圧下にて容量約700mLまで減らし、極めて濃い溶液を得た。続いて、これを凍結乾燥させて約35gの生成物を得た。
【0246】
N−スクシニルキトサン(メタノール法)
3時間攪拌しながらキトサン(Aldrich、実用グレード)(20g)を乳酸(20ml)および水(650ml)に溶解した。メタノール(650ml)を加え、混合物を35℃まで温めた。無水コハク酸(29g)を加え、混合物を35℃で4時間強く攪拌した。無水コハク酸は溶解するのに数時間を要した。水酸化ナトリウム溶液(水300mlに35g)を加え、混合物を1時間強く攪拌した。こうして得られた、部分的にゲル化した曇った混合物を1日間透析してメタノールを除去し、続いて強く攪拌して残っている最終ゲルを破砕し、蒸留水にて(12時間ごとに水を交換しながら)さらに3日間透析し、濾過した。凍結乾燥によって生成物(16.5g)を得た。
【0247】
実施例2
アルデヒド誘導体化デキストラン
バッチA.デキストラン(1g、MW60,000〜90,000)を20mlの蒸留水に溶解した。過ヨウ素酸ナトリウム(2g)を溶液に加え、これを室温にて3時間攪拌した。この溶液を3L容のビーカーで水を定期的に交換しながら一晩透析した。次に、この溶液を濃縮し、凍結乾燥させて、アルデヒド誘導体化デキストランを白色粉末として得た。
【0248】
バッチB.デキストラン(20g、Aldrich、Mn21,500、MW142,000)を水(200ml)に溶解した後、過ヨウ素酸ナトリウム(200ml中40g)の攪拌混合物に加えた。外部冷却によって発熱反応の温度を35℃未満に保ち、反応を窒素下で実施した。3時間後、溶液を3日間透析(12時間ごとに水を交換)し、濾過し、凍結乾燥させてアルデヒド誘導体化デキストランを白色粉末として得た(14.7g、実測C39.8%、H5.9%)。最終分子量はMn2570、MW4700であった。
【0249】
バッチC.デキストラン(36g、Aldrich食品グレード、mw80,000)を水(800mL)中にて強く攪拌しながら、固体の過ヨウ素酸ナトリウム(50g)を加えた。温度が30℃未満にとどまるように、外部冷却によって発熱反応を制御した。2時間後、溶液を濾過し、セルロース管材にて3日間透析した(蒸留水50Lを4回交換)。少量の水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整し、この溶液を減圧下にて容量約300mLまで減らし、凍結乾燥させた。収率は約30gであった。
【0250】
実施例3
水溶液中にアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワーク
実施例1のN−スクシニルキトサン(30mg)を0.6mlの蒸留水に溶解させ、5%w/vの水溶液(溶液A)を生成した。アルデヒド誘導体化デキストランポリマー(30mg)を0.6mlの蒸留水に溶解して、5%w/v水溶液(溶液B)を生成した。
【0251】
溶液Aと溶液Bとをハイドロゲルが生じるまで(約2分間)一緒に混合した。ハイドロゲルは、水溶液中でアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したN−スクシニルキトサンを含むポリマーネットワークである。
【0252】
実施例4
N−スクシニルキトサンの官能基レベルとハイドロゲルのゲル時間に対する塩基処理の効果
実施例1(DMF法−バッチC)に基づいてN−スクシニルキトサンを調製したが、キトサンとNaOHの溶液については以下の表1に示す温度で14時間加熱した。表1から、温度が高くなればなるほど脱アシル化度が大きくなり、結果として遊離アミン基の割合も多くなることが分かる。アセチルおよびN−スクシニル基に対する遊離アミン基の相対特性を‘Η nmrで求めた。
【0253】
実施例3に基づいてN−スクシニルキトサンおよびアルデヒド誘導体化デキストランの架橋によって調製したハイドロゲルのほうが、N−スクシニルキトサンの遊離アミンの割合が多く、短時間で形成された。
【0254】
【表1】
【0255】
実施例5
デキストランのアルデヒド誘導体化とハイドロゲルのゲル形成時間に対するmol%過ヨウ素酸塩の効果
実施例2に基づいてアルデヒド誘導体化デキストランを調製したが、ここでは異なるmol%の過ヨウ素酸塩を用いた。反応を室温にて2時間実施した。表2に、得られたアルデヒド誘導体化デキストランの分子量、アルデヒド基のmol%、アルデヒド誘導体化デキストランの溶液をN−スクシニルキトサンの溶液と混合した際にハイドロゲルが形成されるまでの時間を示す。
【0256】
【表2】
【0257】
キトサン残基1つあたりに存在するアルデヒド基の理論最大mol%は200であり、これは過ヨウ素酸塩の各molが1つのキトサン残基と反応すれば達成される。200というmol%は100%酸化(または100%アルデヒド誘導体化)を示す。
【0258】
実施例6
ヒツジにおける内視鏡的副鼻腔手術後の癒着に対するハイドロゲルの効果
20頭のヒツジ(merino cross wethers)で、十分に確立された内視鏡的副鼻腔手術創傷治癒プロトコールを用いて、標準化全層粘膜創傷を得た。各ヒツジの鼻の外壁に2つの傷を作り、それぞれの側に篩骨損傷を1つ作った。損傷を受けた領域を4つの処理群に無作為化し、(a)対照、(処理なし)、(b)SprayGel(商標)、(c)組換え組織因子、d)本発明のハイドロゲルのうちの1つで処理した。
【0259】
群(b)、(c)、d)では、粘膜噴霧装置を用いて活性剤5mlを創傷表面に噴霧した。SprayGel(商標)および本発明のハイドロゲルについては各々、2つの別々の液体成分として噴霧し、これが噴霧直後に組み合わさって粘膜接着ゲルが形成された。
【0260】
28日目、56日目、84日目、112日目にヒツジを評価した。検討するごとに、キシラジン4mgを筋肉内注射してヒツジを適度に落ち着かせた。4週ごとの訪問時に毎回、癒着の有無、記録された場所、各癒着のグレードについて、独立した観察者(動物実験技士)が既刊のグレーディングスキームに基づいて(表3)鼻腔を調べた。
【0261】
【表3】
【0262】
各ヒツジの4つの領域で、cytobrush plus細胞収集器(MedscandMedical、Sweden)を用いて、局所麻酔はせずに生検試料から遠い部位を内視鏡で目視確認しながら線毛細胞の擦過診を集めた。擦過部位を慎重に順序付け、触れていない部分を試料採取するために16週間にわたって記録した。
【0263】
併用麻酔薬の4つのスプレーと鬱血除去薬のスプレー(co-phenylcaine−ENT技術)を、鼻外壁の損傷部位の生検試料前に各鼻腔に適用した。切開を作り、鋭利なFreerエレベーターと、パンチ生検試料鉗子を用いて各損傷部位から得た2つの生検試料標本とで、小さなフラップを隆起させた。触れられていない部分を試料採取するために、4週間おきに生検試料を得て、生検試料部位を慎重に順序付け、16週間にわたって記録した。最終生検試料後、ペントバルビタールナトリウム(>100mg/kg)を静脈注射して安楽死させた。
【0264】
光学顕微鏡法の標本を4時間ホルマリン固定した後、70%エタノールに入れて処理した。標本をパラフィンブロックに埋包し、厚さ4μmに切片化し、6〜8切片を2枚のスライドガラスにのせて各生検試料標本とした。次に、これをヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色した。画像捕捉用のソフトウェア(Image Master Pro)を用いて、各標本を光学顕微鏡法で調べた。固有層のある鼻粘膜表面部分の長さと、被蓋上皮のある表面の長さを測定して、再上皮化の比率を求めた。4つの無作為な切片を各生検試料標本ごとに測定した。これらの同じデジタル画像を用いて上皮の高さも測定した。また、基底膜および上皮の頂端膜側をマーカーとして、1切片からの上皮の4つの無作為部分を各標本について測定した。
【0265】
走査型電子顕微鏡法(SEM)の標本をリン酸緩衝生理食塩水に入れ、超音波洗浄器を用いて20分間洗浄して、血塊、粘膜、壊死組織片、生物膜を除去した。次に、4%パラホルムアルデヒド/1.25%グルタルアルデヒドをリン酸緩衝生理食塩水+4%スクロースに入れたpH7.2の溶液で標本を固定し、処理するまで4℃で保管した。処理では、四酸化オスミウムを用いて標本を漸進的に脱水した後、さらに高速処理するためのマイクロ波技術(PELCO Bio Wave(登録商標))を用いてエタノールの濃度を高めた(70%、90%、95%、100% & 100%)。この後、二酸化炭素臨界点乾燥装置を用いて標本を乾燥させ、続いてEMスタブに載せた。最後に、標本に金と炭素をコーティングした。各標本をSEM(Phillips XL30 Field Emission走査型電子顕微鏡)で調べ、倍率500×で4つの表面画像を取得した。既刊の評価尺度に基づいて標本をグレード評価した。明確化が必要であれば、標本を2000×と5000×のさらに高い倍率で調べた)。各標本について4枚の写真(倍率500×)を用いて、画像解析ソフトウェアと、すでに検証済みの技術(Macintosh D, Cowin A, Adams D, Wormald PJ, Am. J. Rhinol. 2005, 19(6), 557-81)とを用いて、線毛で覆われている表面積の比率を求めた。
【0266】
擦過で得られた細胞を1mlのダルベッコ培養液に懸濁させ、攪拌して細胞を培養液に放出させた。これをCBF解析実施まで36.5℃に保った。各標本20μlを36.5℃まで温めた顕微鏡のスライドガラスに載せ、位相差顕微鏡法を用いた。1標本あたり細胞10個を個々に分析し、これらの平均をCBFとして得た。
【0267】
この研究に用いたヒツジの状態(well being)を、ヒツジの扱いに関する経験豊富なアニマルハウスの獣医スタッフが監視した。作用剤の適用後2日間は、体温、心拍数、運動性、経口摂取についてヒツジを1日4回監視した。その後、残りの研究期間では運動性と経口摂取について、ヒツジを毎日2回監視した。
【0268】
統計解析
Bonferroni補正した事後試験を用いる二元配置ANOVAを実施して、上皮の高さ、再上皮化、再線毛化、線毛グレードおよび鼻の外壁の癒着の比率とグレードを分析した。ウィルコクソン符号順位検定を用いて、篩骨癒着率のマッチドペアを解析した。統計的有意性についてはp<0.05に設定した。
【0269】
結果を図1〜5にあげておく。
【0270】
結果
鼻の外壁に経時的な癒着のある各群におけるヒツジの比率を図1に示す。全層損傷法を使用すると、対照群の癒着率が15%、組織因子群の癒着率が25%であったのに対し、SprayGel(商標)群の率は10%であった。ハイドロゲル群は癒着率が10%であったが、しかしながらこれは56日目に5%まで落ち、研究の最後までそのレベルに保たれた。ハイドロゲル群は、56日目、84日目、112日目に組織因子群よりも癒着の比率が有意に低かった(5%vs25%、p<0.05)。
【0271】
癒着の平均グレードは、SprayGel(商標)群ではそれほど重篤ではない傾向にあり、ハイドロゲル群ではなお一層重篤ではないが、しかしながらこれらの差異は有意ではなかった(図2)。
【0272】
各群の経時的な篩骨癒着率を図3に示す。上述した方法を用いると、対照群で篩骨癒着形成率40%となった。これは組織因子群では50%まで増加した。SprayGel(商標)群は癒着率が14%と低かったが、しかしながら、ハイドロゲル群では篩骨癒着がまったく認められなかった。このマッチドペア研究では少数ではあるが、組織因子群よりもハイドロゲル群のほうが癒着は有意に少なかった(0%vs50%、p<0.05)。図4参照。
【0273】
上皮の高さを経時的に光学顕微鏡法で解析したところ、4つの群間で有意な差異は認められなかった(図5)。
【0274】
各群での再上皮化した粘膜の比率が図6から明らかである。ハイドロゲル群は、28日目に組織因子群と比して再上皮化の比率が有意に高かった(70%vs33%、p<0.001)。また、SprayGel(商標)群は、84日目に組織因子群よりも再上皮化の比率が有意に高かった(89%vs61%、p<0.05)。
【0275】
図7は、4つの群それぞれについて、経時的に再線毛化された表面積の比率(平均±標準偏差)を示す。28日目に、ハイドロゲル群は、線毛化が対照群(62%vs31%、p<0.01)および組織因子(62%vs23%、p<0.001)よりも有意に多かったのに対し、SprayGel(商標)群も組織因子より有意に線毛化した面積が多かった(47%vs23%、p<0.05)。56日目に、ハイドロゲル群は組織因子群よりも線毛化が有意に多いままであった(67%vs40%、p<0.05)。全体として、ハイドロゲル群の再線毛化が改善される傾向にあったが、これはどの時点でも有意ではなかった。
【0276】
それぞれの時点で各群平均1〜2個の標本が使用できず、グレード5となった。以下の表4に、ヒツジ鼻線毛の走査型電子顕微鏡法(SEM)画像での評価尺度を示す。
【0277】
【表4】
【0278】
二元配置ANOVAによって、使用できない標本数には、どの時点でも各群とも有意な差異がないことが明らかになったため、これらを以後の解析から除外した(データ図示せず)。図8に、各群の各時点での平均±SD線毛グレードを示す。84日目に、SprayGel(商標)の平均線毛グレードが組織因子よりも有意に良好であり(1.8vs2.6、p<0.05)、112日目にハイドロゲルの平均グレードが対照群より有意に良好であった(1.9vs2.7、p<0.05)。
【0279】
平均CBFは、4つの群のいずれにおいても経時的に有意に異なっていなかった(図9)。ハイドロゲル群は、線毛機能がすべての時点で改善される傾向にあったが、しかしながら、これは有意ではなかった。
【0280】
重要なことに、どのヒツジにも研究中に有害イベントが起こらなかった。発熱、頻拍症、運動不良または経口摂取不良の報告も研究中をとおしてなかった。
【0281】
考察
SprayGel(商標)と本発明のハイドロゲルはいずれも、癒着予防特性を呈した。特に、ハイドロゲルは鼻の外壁と前篩骨の両方で組織因子に比して癒着形成を有意に低下させた。
【0282】
創傷治癒に関しては、対照群と比較して、特に組織因子との比較で、再上皮化率、再線毛化率、線毛グレードが改善されたハイドロゲルとSprayGel(商標)の両方で結果が同じパターンをたどった。創傷治癒の最も顕著な特徴は、ハイドロゲル群の上皮における短時間での回復であるが、これは28日目に再線毛化した表面積の比率と再上皮化率が有意に高いことを反映していた。研究開始から間もない頃、4群すべての線毛グレードは有意に異なっていなかったが、しかしながら、研究の後半では、ハイドロゲル群の線毛グレードが組織因子および対照群に比して有意に改善された。
【0283】
実施例7 ヒトでの治験
前向きランダム化比較パイロット試験を実施した。フルハウスの内視鏡的副鼻腔手術を受けた6名の患者に対して無作為にハイドロゲル20mlを与え、対側には何の処置もほどこさなかった。それぞれの側で手術の終わりに内視鏡下で観察しながら溶液を噴霧して適用した。適用後の出血については、標準的な動画内視鏡法で記録し、事前に検証した2つの尺度で2分ごとに最大10分まで評価した。
【0284】
結果
ハイドロゲルでは、適用後4分、6分、8分、10分の時点で術野に臨床的に有意な改善が認められた(表5および図10および図11を参照のこと)。
【0285】
【表5】
【0286】
さらに、本発明のハイドロゲルは、6症例のうち5例で外科医が偽薬よりも有効であるとみなしており、1症例では差異なしとなった。平均動脈圧、心拍数、呼気終末CO2などの止血に影響することが知られている他のパラメータも、偽薬と活性側とで有意に違わなかった。
【0287】
実施例8
ヒツジにおける内視鏡的副鼻腔手術後の止血に対するハイドロゲルの効果
この研究では、ヒツジバエ(Oestrus ovus)を外寄生させた21頭のヒツジ(merino cross wethers)を用いた。経鼻内視鏡でヒツジバエ感染を目視確認し、リーシュマン染色した鼻用のスワブで好酸球性副鼻腔炎を記録した。頸静脈にチオペントンナトリウムを注射(体重kgあたり19mg)して全身麻酔を導入した。次に、1.5〜2.0%ハロタンの吸入により麻酔を維持したまま気管内挿管した。マイクロデブリッダーを用いて前篩骨複合体と鼻腔壁との間に標準的な粘膜損傷を作る前に中鼻甲介を取り除いた(Medtronic ENT、Jacksonville、Florida)。ストップウォッチを用いて両側での損傷実施時間を30秒間で区切った。粘膜損傷直後に、Boezaart術野評価尺度(Boezaart AP、Van Der Merne J、Coetzee A、Comparison on sodium nitroprusside and esmolol induced controlled hypertension for functional endoscopic sinus surgery. (Can J Anaesth 1995, 42, page 373-376)(表6)を用いて独立した観察者によって基線術野グレードを求めた。
【0288】
【表6】
【0289】
各鼻腔をコンピュータで無作為化して、処置なし(対照群)と、術野グレードの計算直後に篩骨領域に本発明のハイドロゲル5ml適用とに分けた。本発明のハイドロゲルをフルオレセインで染色して可視化を補助した。出血が止まるか最大で10分間観察するまで、基線評価後の2分ごとに各側について術野グレードを求めた。
【0290】
ヒツジから抜管し、個々の小屋に返した。食餌の無処置(intact)、鼻汁、観察温度などの変数について、ヒツジを毎日3回監視した。術後2週間にわたって、出血が止まらず鼻汁に血液が混じっているのを訓練された動物飼育員が記録した。術後毎日、ヒツジを落ち着かせ、動画内視鏡検査を実施して、創傷部位の痂皮/ゲルの有無を記録した。次に、これを3点目盛りスケールで0〜2まで評価した(表7)。術後14日間にわたって、毎日の観察を継続した。
【0291】
【表7】
【0292】
結果
GraphPad PrismおよびSPSS 11.0を用いて術野グレードスコアを解析した。データが正規分布していないため、ウィルコクソン符号順位検定を用いる非母数データ用の一対比較試験を使用して、それぞれの側での手術グレードの差異を解析した。複数回の試験でのBonferroni補正を手術グレードのすべての解析に適用し、統計的有意性をp<0.05に設定した。スチューデントのT−検定を用いて、完全な止血に至るまでの時間の平均を比較した。
【0293】
対照群vs本発明のハイドロゲルでの経時的な止血の比較
本研究のこの段階では、21頭のヒツジ(merino cross wethers)を用いた。基線出血時間に対照群vsハイドロゲルで有意な差異は認められなかった(2.4±0.67vs2.4±0.74)。ハイドロゲル側のほうが、適用後2分、4分、6分の時点で有意に止血された。対照群vsハイドロゲルの平均評価スコアと95%信頼区間は、2分−1.6(±0.92)vs0.9(±0.53)、4分−1.0(±0.66)vs0.24(±0.43)、6分−0.4(±0.59)vs0.048(±0.21)(p<0.05)(図12)であった。
【0294】
完全な止血までの時間
ハイドロゲル側はすべて、6分までに完全に止血された。止血までの平均時間は、ハイドロゲル側で4.09(±1.61)vs対照群側で6.57(±2.20)(p=0.049)(図13)と、有意に改善された。対照群側で続いている出血は、8分の時点で3つの側、10分の時点で1つの側にあった。これに対し、ハイドロゲル側では6分を過ぎてからは出血は認められなかった。
【0295】
術後5日目に1頭のヒツジが死んだ。検死の結果、これは胃内容物の誤嚥が原因であることが分かった。このヒツジにも出血の証拠はなかった。残りのヒツジでは、術後1日を過ぎると鼻汁に血液が混じることはなくなり、どのヒツジも介入が必要なほど過剰な出血が続くことはなかった。
【0296】
痂皮/ハイドロゲル溶解スコア
本研究のこの段階では、20頭のヒツジを用いた。術後1日目、31日目、71日目、141日目に、対照群側の平均痂皮とハイドロゲル溶解スコアに有意な差異は認められなかった。対照群vsハイドロゲルの平均痂皮/ハイドロゲル溶解スコアならびに95%信頼区間は、1日目−2.0(±0.00)vs1.9(±0.31)、3日目−1.6(±0.60)vs1.65(±0.59)、7日目−0.47(±0.61)vs0.53(±0.70)、14日目−0.00(±0.00)vs0.05(±0.22)(図14)であった。
【0297】
結論
ヒツジの慢性副鼻腔炎モデルでは、本発明のハイドロゲルは、粘膜損傷の2分、4分、6分後に対照群に比して止血を有意に改善する。また、対照群と比較すると、同様の痂皮溶解特性を呈する。有意な止血作用のある創傷治癒に対する周知の好ましい効果と組み合わせて、本発明のハイドロゲルは、ESSを受けている患者におけるESS後の術後創傷被覆材として大きな可能性を秘めている。
【産業上の利用可能性】
【0298】
産業上の利用可能性
本発明は、創傷治癒と癒着の予防を助けるために創傷に適用可能な水ベースの生分解性ハイドロゲルを提供するものである。このハイドロゲルは、止血に対しても好ましい効果があり、絆創膏やフィールドドレッシングに適用して、出血性の外傷創傷および術後の出血を止める助けとすることが可能である。
【0299】
本発明のハイドロゲルは、外科的処置時の用途に適している。これを用いることで、外科手術を受けている患者の予後を改善可能である。
【0300】
本発明のハイドロゲルは、医療訓練を受けていない人でも容易に調製可能であり、被害者が医療機関に搬送されるまでの間に被害者の血液が過剰に失われてしまうのを防ぐ目的で、緊急時に使用することも可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、ポリマーネットワーク。
【請求項2】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアミン基および前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基を介して前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋される、請求項1に記載のポリマーネットワーク。
【請求項3】
前記ポリマーネットワークが、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約1秒から約5分以内にハイドロゲルを形成する、請求項1または請求項2に記載のポリマーネットワーク。
【請求項4】
前記ポリマーネットワークが、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約1秒から約30秒以内にハイドロゲルを形成する、請求項3に記載のポリマーネットワーク。
【請求項5】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマーネットワーク。
【請求項6】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中に含む、創傷治癒組成物。
【請求項7】
前記組成物が、約2%から10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと約2%から10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む、請求項6に記載の創傷治癒組成物。
【請求項8】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項6または請求項7に記載の創傷治癒組成物。
【請求項9】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを水溶液中に含む、ハイドロゲル。
【請求項10】
前記ハイドロゲルが、約2%から約10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと約2%から約10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む、請求項9に記載のハイドロゲル。
【請求項11】
前記ハイドロゲルが、約2%から約8%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと約2%から約8%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む、請求項10に記載のハイドロゲル。
【請求項12】
前記ハイドロゲルが約5%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと約5%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む、請求項10に記載のハイドロゲル。
【請求項13】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項9〜12のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項14】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを混合することを含む、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、ポリマーネットワークの製造方法。
【請求項15】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約2%から約10%w/vであり、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約2%から約10%w/vである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約5%w/vであり、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約5%w/vである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、等容量の前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを混合することを含む、請求項14〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
各水溶液のpHが約6から8である、請求項14〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
各水溶液のpHが約6.5から7.5である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項14〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むハイドロゲルであって、1種以上の生物学的活性剤を含む、ハイドロゲル。
【請求項22】
前記1種以上の生物学的活性剤が、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生物質、防腐剤、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、成長因子、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、および細胞増殖阻害剤を含む群から選択される、請求項21に記載のハイドロゲル。
【請求項23】
癒着形成の影響を受けやすい組織の癒着を予防または低減する方法であって、前記組織を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、方法。
【請求項24】
前記癒着が手術後の癒着である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記創傷を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法。
【請求項26】
前記創傷を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法。
【請求項27】
前記創傷が術創である、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、前記ハイドロゲルの層を前記組織または創傷表面に塗り広げることを含む、請求項23〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組織を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、癒着形成しやすい組織の癒着を予防または低減する方法であって、(a)および(b)の組み合わせで前記創傷表面に前記ハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを前記組織に適用することを含む、方法。
【請求項30】
前記創傷を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法であって、(a)および(b)の組み合わせで前記創傷表面に前記ハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを前記創傷に適用することを含む、方法。
【請求項31】
前記創傷を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法であって、(a)および(b)の組み合わせで前記創傷表面に前記ハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを前記創傷に適用することを含む、方法。
【請求項32】
(a)と(b)とを前記創傷または組織に同時に噴霧する、請求項29〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
(a)と(b)とを前記創傷または組織に同時に吹き掛ける、請求項29〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
(a)と(b)とを前記創傷または組織に同時に注ぐ、請求項29〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
(a)と(b)とを組み合わせて約1秒から約5分以内に前記ハイドロゲルが生じる、請求項29〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
(a)と(b)とを組み合わせて約1秒から約30秒以内に前記ハイドロゲルが生じる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項23〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルを放出できる、創傷被覆材。
【請求項39】
(a)ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーと、
(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと
を含む、キット。
【請求項40】
(a)と(b)とが凍結乾燥されている、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
(a)および(b)のいずれか一方または両方が別々の水溶液で提供される、請求項39に記載のキット。
【請求項42】
(a)の前記水溶液が約2%から約10%w/vであり、(b)の前記水溶液が約2%から約10%w/vである、請求項39〜41のいずれか一項に記載のキット。
【請求項43】
前記水溶液が約0.1%から約2%w/vのNaClを含む、請求項39〜42のいずれか一項に記載のキット。
【請求項44】
(a)および(b)を溶解させて、架橋を起こさせることが可能である水溶液をさらに含む、請求項39または40に記載のキット。
【請求項45】
(a)がN−スクシニルキトサンである、請求項39〜45のいずれか一項に記載のキット。
【請求項1】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、ポリマーネットワーク。
【請求項2】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアミン基および前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基を介して前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋される、請求項1に記載のポリマーネットワーク。
【請求項3】
前記ポリマーネットワークが、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約1秒から約5分以内にハイドロゲルを形成する、請求項1または請求項2に記載のポリマーネットワーク。
【請求項4】
前記ポリマーネットワークが、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中で混合して約1秒から約30秒以内にハイドロゲルを形成する、請求項3に記載のポリマーネットワーク。
【請求項5】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマーネットワーク。
【請求項6】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを水溶液中に含む、創傷治癒組成物。
【請求項7】
前記組成物が、約2%から10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと約2%から10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む、請求項6に記載の創傷治癒組成物。
【請求項8】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項6または請求項7に記載の創傷治癒組成物。
【請求項9】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを水溶液中に含む、ハイドロゲル。
【請求項10】
前記ハイドロゲルが、約2%から約10%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと約2%から約10%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む、請求項9に記載のハイドロゲル。
【請求項11】
前記ハイドロゲルが、約2%から約8%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと約2%から約8%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む、請求項10に記載のハイドロゲル。
【請求項12】
前記ハイドロゲルが約5%w/vのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーと約5%w/vのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとを含む、請求項10に記載のハイドロゲル。
【請求項13】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項9〜12のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項14】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを混合することを含む、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、ポリマーネットワークの製造方法。
【請求項15】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約2%から約10%w/vであり、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約2%から約10%w/vである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約5%w/vであり、前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液が約5%w/vである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、等容量の前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを混合することを含む、請求項14〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
各水溶液のpHが約6から8である、請求項14〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
各水溶液のpHが約6.5から7.5である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項14〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋したジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むハイドロゲルであって、1種以上の生物学的活性剤を含む、ハイドロゲル。
【請求項22】
前記1種以上の生物学的活性剤が、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生物質、防腐剤、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、成長因子、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、および細胞増殖阻害剤を含む群から選択される、請求項21に記載のハイドロゲル。
【請求項23】
癒着形成の影響を受けやすい組織の癒着を予防または低減する方法であって、前記組織を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、方法。
【請求項24】
前記癒着が手術後の癒着である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記創傷を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法。
【請求項26】
前記創傷を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法。
【請求項27】
前記創傷が術創である、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、前記ハイドロゲルの層を前記組織または創傷表面に塗り広げることを含む、請求項23〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組織を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、癒着形成しやすい組織の癒着を予防または低減する方法であって、(a)および(b)の組み合わせで前記創傷表面に前記ハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを前記組織に適用することを含む、方法。
【請求項30】
前記創傷を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、創傷治癒を加速または促進する方法であって、(a)および(b)の組み合わせで前記創傷表面に前記ハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを前記創傷に適用することを含む、方法。
【請求項31】
前記創傷を請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルで治療することを含む、創傷の出血を抑えるまたは止める方法であって、(a)および(b)の組み合わせで前記創傷表面に前記ハイドロゲルが形成されるように、(a)ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液と、(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液とを前記創傷に適用することを含む、方法。
【請求項32】
(a)と(b)とを前記創傷または組織に同時に噴霧する、請求項29〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
(a)と(b)とを前記創傷または組織に同時に吹き掛ける、請求項29〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
(a)と(b)とを前記創傷または組織に同時に注ぐ、請求項29〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
(a)と(b)とを組み合わせて約1秒から約5分以内に前記ハイドロゲルが生じる、請求項29〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
(a)と(b)とを組み合わせて約1秒から約30秒以内に前記ハイドロゲルが生じる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、N−スクシニルキトサンである、請求項23〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
請求項9〜13のいずれか一項に記載のハイドロゲルを放出できる、創傷被覆材。
【請求項39】
(a)ジカルボキシル誘導体化キトサンポリマーと、
(b)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと
を含む、キット。
【請求項40】
(a)と(b)とが凍結乾燥されている、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
(a)および(b)のいずれか一方または両方が別々の水溶液で提供される、請求項39に記載のキット。
【請求項42】
(a)の前記水溶液が約2%から約10%w/vであり、(b)の前記水溶液が約2%から約10%w/vである、請求項39〜41のいずれか一項に記載のキット。
【請求項43】
前記水溶液が約0.1%から約2%w/vのNaClを含む、請求項39〜42のいずれか一項に記載のキット。
【請求項44】
(a)および(b)を溶解させて、架橋を起こさせることが可能である水溶液をさらに含む、請求項39または40に記載のキット。
【請求項45】
(a)がN−スクシニルキトサンである、請求項39〜45のいずれか一項に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2010−537711(P2010−537711A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522848(P2010−522848)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【国際出願番号】PCT/NZ2008/000219
【国際公開番号】WO2009/028965
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510055965)
【出願人】(510055976)
【出願人】(510055987)
【出願人】(510055998)
【出願人】(510056009)
【出願人】(510056010)
【出願人】(510056021)
【出願人】(510056032)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【国際出願番号】PCT/NZ2008/000219
【国際公開番号】WO2009/028965
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510055965)
【出願人】(510055976)
【出願人】(510055987)
【出願人】(510055998)
【出願人】(510056009)
【出願人】(510056010)
【出願人】(510056021)
【出願人】(510056032)
【Fターム(参考)】
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