説明

外科用処置具

【課題】骨手術具のロック状態とアンロック状態の切替操作を簡易化する。
【解決手段】術者が手Aで把持するグリップ1と、この手の指aを掛けるグリップに枢軸3によって枢支されたハンドル2と、固定刃6aを先端に有するガイド軸6と、先端の可動刃7aが固定刃に当たる前進位置と固定刃から離れた後退位置との間をハンドルの回動に伴いガイド軸上でスライドするスライド軸7と、後退位置でスライド軸をガイド軸上から解放し、スライド軸が前進位置へと前進する間はスライド軸をガイド軸上に拘束するガイド手段と、スライド軸の後退位置への復帰を阻止するロック状態と許容するアンロック状態との間で切り替え可能なロック手段とを具備する。ロック手段がハンドルの指を掛ける箇所に枢支されたレバー13を有し、このレバーがハンドル上で前後方向に回されることによってロック手段がロック状態とアンロック状態との間で切り替えられるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば椎骨間から軟骨を除去する手術に用いることができる骨手術具等の外科用処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術で人体等の骨や軟骨を切除する際に用いられる骨手術具として、特許文献1,2に記載されるものが知られている。
【0003】
この骨手術具は、術者が手で把持するグリップを有し、このグリップの前側には手の指を掛けるハンドルが枢支され、グリップの上側にはハンドルの前方に突出するガイド軸がグリップと一体的に設けられる。このガイド軸の先端には、固定刃が設けられる。
【0004】
また、ガイド軸上には、スライド軸が乗せられる。スライド軸の先端には上記固定刃と共に軟骨等を挟んで切断するための可動刃が設けられる。スライド軸はハンドルの回動に伴いガイド軸上を前後にスライド可能である。ハンドル操作によってスライド軸が前進位置へと前進すると、可動刃が固定刃に当たって軟骨等を切除する。
【0005】
ガイド軸とスライド軸との間には、スライド軸が後退位置にある時にスライド軸をガイド軸上から解放し、スライド軸が前進位置へと前進する間はスライド軸をガイド軸上に拘束するガイド手段が設けられる。
【0006】
また、スライド軸の上記後退位置への復帰を阻止するロック状態と許容するアンロック状態との間で切り替えるためのロック手段が設けられる。
【0007】
ロック手段がロック状態とされているときに、ハンドルを引き操作すると、スライド軸がガイド軸上をガイド手段による規制を受けつつ前進し、その可動刃をガイド軸の固定刃に押し付けて軟骨等を切断する。ハンドルを逆操作すると、スライド軸がガイド手段による規制を受けながらガイド軸上を後進し、その可動刃が固定刃から離れる。
【0008】
ロック手段がアンロック状態とされているときは、スライド軸は後退位置への後退が許容される。これにより、スライド軸は後退位置へとガイド軸上をスライドすることによってガイド軸から離反可能となり、離反操作されたうえで洗浄、殺菌処理に付される。
【0009】
【特許文献1】特開2003−164460号公報
【特許文献2】特開2004−298636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の骨手術具におけるロック手段は、スライド軸にスライドレバーを取り付け、スライド軸上でスライドレバーを一方にスライドさせることによってロック状態とし、逆向きにスライドさせることによってアンロック状態とするようになっている。そのため、術者はスライドレバーを目視したり、指で触れたりしてスライドレバーがロック状態にあることを確認したうえでグリップを把持し、ハンドルに指を掛けなければならない。ところが、スライドレバーのスライド量は比較的小さいので、スライドレバーがアンロック状態にあるにもかかわらずロック状態にあるものと誤認することがある。スライドレバーがアンロック状態にあるままでグリップを握り手術を始めようとすると、スライド軸がガイド軸上から脱落し手術に支障を来たすおそれがある。
【0011】
また、従来の骨手術具におけるスライド軸はガイド軸から完全に分離するようになっているので、手術後の洗浄処理等の際にスライド軸を紛失したりするおそれがある。
【0012】
本発明は上記問題点を解決することができる骨手術具等の外科用処置具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用する。
【0014】
なお、発明の理解を容易にするために実施の形態の説明で用いる参照符号を括弧書きで付するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
すなわち、請求項1に係る発明は、術者が手(A)で把持するグリップ(1)と、この手(A)の指(a)を掛ける上記グリップ(1)に枢軸(3)によって枢支されたハンドル(2)と、固定刃(6a)を先端に有する上記グリップ(1)と一体のガイド軸(6)と、先端の可動刃(7a)が上記固定刃(6a)に当たる前進位置と上記固定刃(6a)から離れた後退位置との間を上記ハンドル(2)の回動に伴い上記ガイド軸(6)上でスライドするスライド軸(7)と、上記後退位置で上記スライド軸(7)を上記ガイド軸(6)上から解放し、上記スライド軸(7)が上記前進位置へと前進する間は上記スライド軸(7)を上記ガイド軸(6)上に拘束するガイド手段と、上記スライド軸(7)の上記後退位置への復帰を阻止するロック状態と許容するアンロック状態との間で切り替え可能なロック手段とを具備した外科用処置具において、上記ロック手段が上記ハンドル(2)の指(a)を掛ける箇所に枢支されたレバー(13)を有し、このレバー(13)が上記ハンドル(2)上で前後方向に回されることによって上記ロック手段がロック状態とアンロック状態との間で切り替えられるようにした構成を採用する。
【0016】
請求項2に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記レバー(13)の回動によって上記ハンドル(2)と上記グリップ(1)との間の隙間に出入可能な干渉片(15)が上記レバー(13)に設けられ、上記レバー(13)が一方向に回されて上記干渉片(15)が上記隙間に入れられると上記ロック手段がロック状態とされ、上記レバー(13)が逆方向に回されて上記干渉片(15)が上記隙間から引き出されると上記ロック手段がアンロック状態とされるようにしたものとすることができる。
【0017】
請求項3に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ロック手段がロック状態の時に上記レバー(13)の前縁(13b)が上記ハンドル(2)の前面内に収まり、上記ロック手段がアンロック状態の時に上記レバー(13)の前縁(13b)が上記ハンドル(2)の前面から前方へと突出するように、上記レバー(13)が上記ハンドル(2)に枢着されたものとすることができる。
【0018】
請求項4に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ロック手段がロック状態の時に上記レバー(13)を上記ハンドル(2)に拘束するクリック機構(16)が設けられたものとすることができる。このクリック機構としてはボールプランジャを用いることができる。
【0019】
請求項5に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ハンドル(2)から上記枢軸(3)を越えて上記ガイド軸(6)側に伸びるアーム(2a)が設けられ、このアーム(2a)に上記スライド軸(7)が連結軸(8)を介し回動可能に連結されたものとすることができる。
【0020】
請求項6に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ハンドル(2)を介し上記スライド軸(7)を上記後退位置へと付勢する弾性体(4a,4b)が設けられ、上記ロック手段がロック状態の時にこの弾性体(4a,4b)が弾性変形するように上記ハンドル(2)を引くと、上記スライド軸(7)が上記前進位置へと前進可能であり、上記ロック手段がアンロック状態の時にこの弾性体(4a,4b)の弾性変形が解消するように上記ハンドル(2)を解放すると、上記スライド軸(7)が上記後退位置へと後退可能であるものとすることができる。
【0021】
請求項7に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ガイド手段が、上記ガイド軸(6)又は上記スライド軸(7)に設けられるアリ(11a,12a)と、上記スライド軸(7)又はガイド軸(6)に設けられるアリ溝(11b,12b)及びこのアリ溝(11b,12b)に連続する上記アリ(11a,12a)の離脱溝(11c,12c)とを具備し、上記ハンドル(2)が上記グリップ(1)側に回動すると、上記アリ(11a,12a)が上記アリ溝(11b,12b)内に入って上記スライド軸(7)が上記ガイド軸(6)上で上記前進位置へとスライド可能となり、上記ロック手段がアンロック状態にある時に上記ハンドル(2)が上記グリップ(1)と反対側に回動すると、上記スライド軸(7)が上記後退位置へと後退し上記アリ(11a,12a)が上記離脱溝(11c,12c)内に入って上記スライド軸(7)の上記ガイド軸(6)からの離反を可能にするようにしたものとすることができる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明によれば、術者が手(A)で把持するグリップ(1)と、この手(A)の指(a)を掛ける上記グリップ(1)に枢軸(3)によって枢支されたハンドル(2)と、固定刃(6a)を先端に有する上記グリップ(1)と一体のガイド軸(6)と、先端の可動刃(7a)が上記固定刃(6a)に当たる前進位置と上記固定刃(6a)から離れた後退位置との間を上記ハンドル(2)の回動に伴い上記ガイド軸(6)上でスライドするスライド軸(7)と、上記後退位置で上記スライド軸(7)を上記ガイド軸(6)上から解放し、上記スライド軸(7)が上記前進位置へと前進する間は上記スライド軸(7)を上記ガイド軸(6)上に拘束するガイド手段と、上記スライド軸(7)の上記後退位置への復帰を阻止するロック状態と許容するアンロック状態との間で切り替え可能なロック手段とを具備した外科用処置具において、上記ロック手段が上記ハンドル(2)の指(a)を掛ける箇所に枢支されたレバー(13)を有し、このレバー(13)が上記ハンドル(2)上で前後方向に回されることによって上記ロック手段がロック状態とアンロック状態との間で切り替えられるようにしたものであるから、レバー(13)の回動位置を見ることでロック手段がロック状態とアンロック状態のいずれであるかを容易に視認することができ、スライド軸(7)の脱落を未然に防止することができる。また、術者が手(A)でグリップ(1)を握り、指(a)をハンドル(2)に掛けるだけでロック手段がロック状態とアンロック状態のいずれにあるかを直ちに識別することができ、スライド軸(7)の脱落を確実に防止することができる。
【0023】
請求項2に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記レバー(13)の回動によって上記ハンドル(2)と上記グリップ(1)との間の隙間に出入可能な干渉片(15)が上記レバー(13)に設けられ、上記レバー(13)が一方向に回されて上記干渉片(15)が上記隙間に入れられると上記ロック手段がロック状態とされ、上記レバー(13)が逆方向に回されて上記干渉片(15)が上記隙間から引き出されると上記ロック手段がアンロック状態とされるようにした場合には、ロック時において干渉片(15)をハンドル(2)と上記グリップ(1)との間の隙間に入れて外部への突出を防止することができるので、手術の際に支障を来たさない。
【0024】
請求項3に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ロック手段がロック状態の時に上記レバー(13)の前縁(13b)が上記ハンドル(2)の前面内に収まり、上記ロック手段がアンロック状態の時に上記レバー(13)の前縁(13b)が上記ハンドル(2)の前面から前方へと突出するように、上記レバー(13)が上記ハンドル(2)に枢着されたものとした場合には、術者はその指(a)の感触によってロック手段がロック状態にあるかアンロック状態にあるかを簡易かつ正確に判別することができる。
【0025】
請求項4に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ロック手段がロック状態の時に上記レバー(13)を上記ハンドル(2)に拘束するクリック機構(16)が設けられたものとする場合には、レバー(13)がロック位置にあることを正確に認識することができ、また、レバー(13)をロック位置に正確に拘束することができる。
【0026】
請求項5に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ハンドル(2)から上記枢軸(3)を越えて上記ガイド軸(6)側に伸びるアーム(2a)が設けられ、このアーム(2a)に上記スライド軸(7)が連結軸(8)を介し回動可能に連結されたものとする場合には、ロック手段をアンロック状態にした場合であっても、連結軸(8)によってスライド軸(7)をハンドル(2)に連結することができる。したがって、スライド軸(7)の紛失等を防止することができる。
【0027】
請求項6に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ハンドル(2)を介し上記スライド軸(7)を上記後退位置へと付勢する弾性体(4a,4b)が設けられ、上記ロック手段がロック状態の時にこの弾性体(4a,4b)が弾性変形するように上記ハンドル(2)を引くと、上記スライド軸(7)が上記前進位置へと前進可能であり、上記ロック手段がアンロック状態の時にこの弾性体(4a,4b)の弾性変形が解消するように上記ハンドル(2)を解放すると、上記スライド軸(7)が上記後退位置へと後退可能であるものとする場合は、弾性体(4a,4b)の付勢力に抗するようにハンドル(2)を引くと可動刃(7)を固定刃(6a)へと移動させて両刃(6a,7a)間で軟骨等を切除することができ、ハンドル(2)を解放すると弾性体(4a,4b)の弾性力によって可動刃(7)を固定刃(6a)から離反させることができる。従って、軟骨等を切除操作が簡易化される。また、アンロック状態では弾性体(4a,4b)の弾性力によって、スライド軸(7)を後退位置へと後退させることができるので、スライド軸(7)をガイド軸(6)から簡易かつ迅速に引き離すことができる。
【0028】
請求項7に記載されるように、請求項1に記載の外科用処置具において、上記ガイド手段が、上記ガイド軸(6)又は上記スライド軸(7)に設けられるアリ(11a,12a)と、上記スライド軸(7)又はガイド軸(6)に設けられるアリ溝(11b,12b)及びこのアリ溝(11b,12b)に連続する上記アリ(11a,12a)の離脱溝(11c,12c)とを具備し、上記ハンドル(2)が上記グリップ(1)側に回動すると、上記アリ(11a,12a)が上記アリ溝(11b,12b)内に入って上記スライド軸(7)が上記ガイド軸(6)上で上記前進位置へとスライド可能となり、上記ロック手段がアンロック状態にある時に上記ハンドル(2)が上記グリップ(1)と反対側に回動すると、上記スライド軸(7)が上記後退位置へと後退し上記アリ(11a,12a)が上記離脱溝(11c,12c)内に入って上記スライド軸(7)の上記ガイド軸(6)からの離反を可能にするようにした場合は、アリ(11a,12a)とアリ溝(11b,12b)との係合によりスライド軸(7)をガイド軸(6)上で円滑にスライドさせることができ、また、ロック状態でスライド軸(7)がガイド軸(6)から容易に分離しないようにすることができ、逆にアンロック状態でスライド軸(7)をガイド軸(6)から簡易に分離させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0030】
図1乃至図7に示すように、この外科用処置具である骨手術具は、術者が手Aで把持するグリップ1と、このグリップ1を握った手Aの指aを掛けるハンドル2とを具備する。グリップ1及びハンドル2は例えばステンレス鋼によって形成される。
【0031】
ハンドル2は、上記グリップ1に枢軸3によって枢支され、図1中矢印x,yで示すように、枢軸3を支点にしてグリップ1の前方で前後方向に回動可能である。
【0032】
ハンドル2とグリップ1との間には弾性体が介装される。弾性体は、二片の板バネ4a,4bがハンドル2とグリップ1に夫々固定され、それらの自由端同士が関節部5を介して連結されることによって構成される。弾性体である板バネ4a,4bの付勢力によって、ハンドル2は常に前方に付勢され、板バネ4a,4bの付勢力に抗するように術者が指aでハンドル2を引くと、ハンドル2が枢軸3を支点にして後方に回動する。
【0033】
グリップ1の上端からは、ガイド軸6が前方へ突出する。ガイド軸6はグリップ1と一体化される。ガイド軸6は細長い棒であり、その先端には固定刃6aが設けられる。また、ガイド軸6の上面には、スライド軸7を案内する平坦な案内面6bが形成される。案内面6bはガイド軸6の後端から固定刃6aの付け根まで延びている。
【0034】
ガイド軸6の案内面6b上には、スライド軸7が乗せられる。スライド軸7の先端にはガイド軸6の先端の固定刃6aとの間で軟骨等を切除するための可動刃7aが設けられる。可動刃7aと固定刃6aには、相対向する箇所に切除すべき軟骨等が入る凹部が形成される。スライド軸7の下側にはガイド軸6の案内面6bに当接するスライド面7bが形成される。スライド軸7のスライド面7bがガイド軸6の案内面6bに摺接することによって、スライド軸7はガイド軸6上を前後方向に滑らかにスライド可能である。
【0035】
上記ハンドル2からは、枢軸3を越えてガイド軸6側へとアーム2aが伸び、このアーム2aにスライド軸7が連結軸8を介し回動可能に連結される。これにより、ハンドル2を引き操作して後方へ回動させると、スライド軸7がガイド軸6上を前進し、逆にハンドル2を解放して上記弾性体である板バネ4a,4bの作用により前方へ復帰させると、スライド軸7がガイド軸6上を後進する。
【0036】
上記アーム2aはハンドル2よりも薄く形成され、グリップ1の基端部に形成されたスロット状の貫通穴1aをガイド軸6の後端側へと貫通する。アーム2aの上記ガイド軸6側へと突出した箇所には長孔9が形成される。一方、上記スライド軸7の後部には凹溝7cが形成され、この凹溝7c内に上記アーム2aが入り込む。上記連結軸8はアーム2aの長孔9を貫通してスライド軸7に軸支される。これにより、スライド軸7は連結軸8を支点にしてガイド軸6上で上下に回動可能となる。また、スライド軸7は連結軸8と長孔9との係合によってガイド軸6からの完全な分離が阻止されるので、スライド軸7の紛失が防止される。
【0037】
上記ハンドル2の枢軸3は、グリップ1の上記貫通孔1aが貫通した基端部と上記アーム2aの付け根との重畳部分を貫通するように設けられる。図2及び図6に示すように、この枢軸3の前方において、グリップ1とハンドル2とに互いに接離可能な対向部10a,10bがそれぞれ形成される。ハンドル2を引いたり解放したりすることにより、対向部10a,10b間が図7に示すように開いたり、図6に示すように閉じたりすることが可能である。
【0038】
上記スライド軸7は、その先端の可動刃7aが上記ガイド軸6の先端の固定刃6aに当たって両刃7a,6a間で軟骨等を切除しうる前進位置と、その先端の可動刃7aが固定刃6aから離れた図5及び図6に示す後退位置との間を、上記ハンドル2の回動に伴い上記ガイド軸6上でスライド可能である。このスライド軸7とガイド軸6との間に、上記後退位置でスライド軸7をガイド軸6上から解放し、スライド軸7が上記前進位置へと前進する間はスライド軸7をガイド軸6上に拘束するガイド手段が設けられる。
【0039】
ガイド手段は、図2、図6及び図7に示すように、ガイド軸6とスライド軸7にそれぞれ設けられるアリ11a,12aと、スライド軸7とガイド軸6にそれぞれ設けられるアリ溝11b,12b及び各アリ溝11b,12bに連続するアリ11a,12aの離脱溝11c,12cとによって構成される。
【0040】
アリ11a,12a、アリ溝11b,12b及び離脱溝11c,12cはガイド軸6及びスライド軸7の前部と後部に夫々設けられる。アリ11a,12a、アリ溝11b,12b及び離脱溝11c,12cの組はこの実施の形態では二組設けられるが、一組であってもよいし、三組以上であってもよい。また、ガイド軸6及びスライド軸7の前後部に設けられるが、前後部の何れかに設けてもよいし、中間部に設けてもよい。
【0041】
ガイド軸6及びスライド軸7の後部では、アリ11aがガイド軸6のガイド面6bに設けられ、アリ溝11b及び離脱溝11cがスライド軸7のスライド面7bに設けられる。そして、離脱溝11cがアリ溝11bよりも前側に設けられる。
【0042】
また、ガイド軸6及びスライド軸7の前部では、アリ12aがスライド軸7のスライド面7bに設けられ、アリ溝12b及び離脱溝12cがガイド軸6のガイド面6bに設けられる。そして、離脱溝12cがアリ溝12bよりも後側に設けられる。
【0043】
なお、アリ11a,12aとアリ溝11b,12b及び離脱溝11c,12cとをガイド軸6とスライド軸7のいずれに設けるかは適宜変更可能である。また、アリ11a,12a及びアリ溝11b,12bは、この実施の形態ではT字型断面形状とされるが、ダブテイル型断面形状その他所望の断面形状のものとすることができる。離脱溝11c,12cは、スライド軸7のスライドに伴い、アリ11a,12aがアリ溝11b,12bとの間で出入り自在であり、また、図7に示すように、スライド軸7の連結軸8を支点にした回動に伴い、アリ11a,12aが離脱溝11c,12cに対し容易に出入りすることが出来るような形状及び大きさに形成される。
【0044】
これにより、ハンドル2の引き操作によりハンドル2がグリップ1側に回動すると、図2に示すように、アリ11a,12aがアリ溝11b,12b内に入ってスライド軸7がガイド軸6上で上記前進位置へとスライド可能となる。また、ハンドル2が板バネ4a,4bの弾性力によってグリップ1と反対側に回動すると、図6に示すように、スライド軸7が上記後退位置へと後退し、アリ11a,12aが離脱溝11c,12c内に入る。その結果、図7に示すように、スライド軸7はガイド軸6から離反可能になる。
【0045】
上記スライド軸7が上記後退位置へと不意にスライドすると、スライド軸7がガイド軸6から離れて切断操作をすることができなくなり、手術に支障を来たす。そこで、スライド軸7の上記後退位置への復帰を阻止するロック状態と復帰を許容するアンロック状態との間で切り替えるロック手段が設けられる。
【0046】
このロック手段は、図1乃至図7に示すように、ハンドル2の指を掛ける箇所に枢支されたレバー13を有する。符号14はレバー13をハンドル2に軸支するための支軸を示す。このレバー13がハンドル2上で前後方向に回されることによって上記ロック手段がロック状態とアンロック状態との間で切り替えられるようになっている。
【0047】
図1乃至図4は、ロック手段がロック状態にあるときのレバー13の位置を示し、図5及び図6は、ロック手段がアンロック状態にあるときのレバー13の位置を示す。したがって、術者等はレバー13の回動位置を見ることでロック手段がロック状態とアンロック状態のいずれであるかを容易に視認することができ、ガイド軸6からのスライド軸7の脱落を未然に防止することができる。また、術者が手Aでグリップ1を握り、指aをハンドル2に掛けるだけでロック手段がロック状態とアンロック状態のいずれにあるかを直ちに識別することができ、スライド軸7の脱落を確実に防止することができる。
【0048】
レバー13は、図1及び図2に示すように、ロック手段がロック状態の時にレバー13の前縁13bがハンドル2の前面内に収まり、図5及び図6に示すように、ロック手段がアンロック状態の時にレバー13の前縁13bがハンドル2の前面から前方へと突出するようにハンドル2に枢着される。
【0049】
これにより、術者はその指aの感触によってロック手段がロック状態にあるかアンロック状態にあるかを簡易かつ正確に判別することができる。
【0050】
レバー13には、ハンドル2とグリップ1との間の隙間に出入可能な干渉片15が設けられる。図3及び図4に示すように、レバー13は略U字形に形成され、その中央部分が干渉片15とされる。レバー13は、干渉片15が上側に来るように二枚のレバー片13aがハンドル2の左右面にスライド可能に当てられ、二枚のレバー片13aの下部に上記支軸14が通されることによりハンドル2に枢着される。
【0051】
上記干渉片15が出入りする上記ハンドル2とグリップ1との間の隙間は、上述したグリップ1とハンドル2とに互いに接離可能に設けられる対向部10a,10b間に形成される。ハンドル2を引くことにより、図7に示すように、対向部10a,10b間に隙間が形成され、ハンドル2を解放することにより、板バネ4a,4bの付勢力によって対向部10a,10b間が図5及び図6に示すように閉じる。
【0052】
ハンドル2を引いて対向部10a,10b間に隙間が形成された時にレバー13を後方に回して干渉片15を対向部10a,10b間に挿入し、ハンドル2を解放すると、図1乃至図4に示すように、干渉片15が対向部10a,10b間に拘束され、ロック手段がロック状態とされる。このロック状態では、図2に示すように、スライド軸7が後退位置からやや前進し、後退位置への復帰を阻止され、アリ11a,12aはアリ溝11b,12b内に侵入した状態に保持される。これにより、ガイド軸6からのスライド軸7の離反が阻止される。
【0053】
一方、ハンドル2を少し引いて上記対向部10a,10b間に隙間を形成し、レバー13を前方に回して干渉片15を対向部10a,10b間から引き出し、ハンドル2を解放すると、図5及び図6に示すように、ロック手段がアンロック状態とされる。このアンロック状態では、図5及び図6に示すように、スライド軸7が後退位置へ後退可能になり、アリ11a,12aはアリ溝11b,12bから離脱溝11c,12c内へと入り込む。これにより、図7に示すように、スライド軸7はガイド軸6から離反可能となる。
【0054】
図3乃至図6に示すように、上記ロック手段がロック状態の時にレバー13をハンドル2に拘束するクリック機構が設けられる。
【0055】
すなわち、ハンドル2における上記レバー片13aが接する箇所にはボールプランジャ16が埋設される。また、レバー片13aにはボールプランジャ16のボール16aが入る穴17が形成される。
【0056】
図1乃至図4に示すように、レバー13がハンドル2に重なり、干渉片15が上記対向部10a,10b間の隙間内に入ると、ボール16aが穴17に嵌り込み、レバー13がその位置に拘束される。したがって、ロック手段がロック状態に適正に保持される。
【0057】
次に、上記構成の骨手術具の作用について説明する。
【0058】
(1)外科手術に際し、図1に示すように、術者がグリップ1を手Aで握り、指aをハンドル2に掛ける。
【0059】
レバー13が図1乃至図4に示す位置にあると、ロック手段はロック状態にあり、術者はレバー13の位置を見ることでロック手段がロック状態とアンロック状態のいずれであるかを容易に視認することができ、したがってスライド軸7のガイド軸6からの離反を未然に防止することができる。
【0060】
また、レバー13が図1乃至図4に示す位置にあると、レバー13の前縁13bがハンドル2の前面内に収まるので、術者は指aの感触により、ロック手段がロック状態にあることを容易に認識することができ、したがってスライド軸7がガイド軸に拘束されているかどうか或いは後退位置から離脱しているかどうかを未然に防止することができる。
【0061】
ロック手段がロック状態にあることが分かったところで、術者が弾性体である板バネ4a,4bの付勢力に抗してハンドル2を引き操作すると、アーム2aが枢軸3の回りを反時計方向に回動し、スライド軸7がガイド軸6上を前方にスライドする。そして、ハンドル2をグリップ1の近くまで引くと、スライド軸7の先端の可動刃7aがガイド軸6の先端の固定刃6aに当たり、両刃7a,6a間に挟まれた図示しない例えば患者の軟骨が切除される。
【0062】
(2)軟骨を切除した後、ハンドル2に加える力を緩めると、板バネ4a,4bの弾性力によって、ハンドル2が前方へ復帰し、スライド軸7が後退し、図1乃至図4に示すように、干渉片15がグリップ1の対向部10aに当たったところでハンドル2の前方への回動及びスライド軸7の後進が停止する。これにより、スライド軸7の後退位置へのスライドが阻止され、図2に示すようにアリ11a,12aはアリ溝11b,12b内に留まったまま或いは係合したままで停止し、スライド軸7のガイド軸6からの離反が阻止される。
【0063】
(3)以後、上記(1)(2)の操作が繰り返され、手術が続行される。
【0064】
(4)手術後、この骨手術具は洗浄、殺菌の各種処理に付される。その際、図5及び図6に示すように、レバー13がハンドル2の前方へと回され、干渉片15が対向部10a,10b間の隙間から引き出される。これにより、ロック手段はロック状態からアンロック状態に切り替えられる。
【0065】
(5)その結果、ハンドル2は板バネ4a,4bの付勢力によって枢軸3の回りを時計方向xへ少しばかり回動し、図6に示すように、スライド軸7がガイド軸6上を後方に少しばかりスライドし、後退位置へと移動する。
【0066】
後退位置においてはアリ11a,12aが離脱溝11c,12c内に入るので、図7に示すように、スライド軸7はガイド軸6の上方へと離反可能である。これにより、スライド軸7とガイド軸6との間、アリ溝11b,12b内、アリ11a,12a等に入り込んだり、絡み付いたりした体液、骨片等が除去される。また、熱水、殺菌剤等による殺菌効果も向上する。
【0067】
洗浄、殺菌等の処理の際、スライド軸7は連結軸8によってアーム2aに連結されているので、その紛失が防止される。
【0068】
(6)洗浄、殺菌等の処理後、骨手術具を元通り組み立てる作業が行われる。
【0069】
まず、スライド軸7がガイド軸6上へと回され、アリ11a,12aが離脱溝11c,12c内に挿入される。これにより、スライド面7bがガイド面6bに当たる。
【0070】
ハンドル2が少し引かれると、グリップ1とハンドル2の対向部10a,10b間に隙間が空く。そこで、レバー13がハンドル2側に回されると、この隙間内にレバー13の干渉片15が入り込む。
【0071】
これにより、ロック手段がアンロック状態からロック状態に切り替えられ、図1乃至図4に示す如く骨手術具の組立が完了する。
【0072】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では骨手術具として説明したが、本発明は骨手術具以外の外科用鉗子等他の外科用処置具に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る骨手術具のロック状態における正面図である。
【図2】図1中、要部の部分断面図である。
【図3】図1に示す骨手術具のロック状態における左側面図である。
【図4】図3中、要部の部分断面図である。
【図5】本発明に係る骨手術具のアンロック状態における正面図である。
【図6】図5中、要部の部分断面図である。
【図7】スライド軸をガイド軸から離した状態を示す骨手術具の正面図である。
【符号の説明】
【0074】
A…手
a…指
1…グリップ
2…ハンドル
2a…アーム
3…枢軸
4a,4b…板バネ
6…ガイド軸
6a…固定刃
7…スライド軸
7a…可動刃
8…連結軸
11a,12a…アリ
11b,12b…アリ溝
11c,12c…離脱溝
13…レバー
13b…レバーの前縁
15…干渉片
16…ボールプランジャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
術者が手で把持するグリップと、この手の指を掛ける上記グリップに枢軸によって枢支されたハンドルと、固定刃を先端に有する上記グリップと一体のガイド軸と、先端の可動刃が上記固定刃に当たる前進位置と上記固定刃から離れた後退位置との間を上記ハンドルの回動に伴い上記ガイド軸上でスライドするスライド軸と、上記後退位置で上記スライド軸を上記ガイド軸上から解放し、上記スライド軸が上記前進位置へと前進する間は上記スライド軸を上記ガイド軸上に拘束するガイド手段と、上記スライド軸の上記後退位置への復帰を阻止するロック状態と許容するアンロック状態との間で切り替え可能なロック手段とを具備した外科用処置具において、上記ロック手段が上記ハンドルの指を掛ける箇所に枢支されたレバーを有し、このレバーが上記ハンドル上で前後方向に回されることによって上記ロック手段がロック状態とアンロック状態との間で切り替えられるようにしたことを特徴とする外科用処置具。
【請求項2】
請求項1に記載の外科用処置具において、上記レバーの回動によって上記ハンドルと上記グリップとの間の隙間に出入可能な干渉片が上記レバーに設けられ、上記レバーが一方向に回されて上記干渉片が上記隙間に入れられると上記ロック手段がロック状態とされ、上記レバーが逆方向に回されて上記干渉片が上記隙間から引き出されると上記ロック手段がアンロック状態とされるようにしたことを特徴とする外科用処置具。
【請求項3】
請求項1に記載の外科用処置具において、上記ロック手段がロック状態の時に上記レバーの前縁が上記ハンドルの前面内に収まり、上記ロック手段がアンロック状態の時に上記レバーの前縁が上記ハンドルの前面から前方へと突出するように、上記レバーが上記ハンドルに枢着されたことを特徴とする外科用処置具。
【請求項4】
請求項1に記載の外科用処置具において、上記ロック手段がロック状態の時に上記レバーを上記ハンドルに拘束するクリック機構が設けられたことを特徴とする外科用処置具。
【請求項5】
請求項1に記載の外科用処置具において、上記ハンドルから上記枢軸を越えて上記ガイド軸側に伸びるアームが設けられ、このアームに上記スライド軸が連結軸を介し回動可能に連結されたことを特徴とする外科用処置具。
【請求項6】
請求項1に記載の外科用処置具において、上記ハンドルを介し上記スライド軸を上記後退位置へと付勢する弾性体が設けられ、上記ロック手段がロック状態の時にこの弾性体が弾性変形するように上記ハンドルを引くと、上記スライド軸が上記前進位置へと前進可能であり、上記ロック手段がアンロック状態の時にこの弾性体の弾性変形が解消するように上記ハンドルを解放すると、上記スライド軸が上記後退位置へと後退可能であることを特徴とする外科用処置具。
【請求項7】
請求項1に記載の外科用処置具において、上記ガイド手段が、上記ガイド軸又は上記スライド軸に設けられるアリと、上記スライド軸又はガイド軸に設けられるアリ溝及びこのアリ溝に連続する上記アリの離脱溝とを具備し、上記ハンドルが上記グリップ側に回動すると、上記アリが上記アリ溝内に入って上記スライド軸が上記ガイド軸上で上記前進位置へとスライド可能となり、上記ロック手段がアンロック状態にある時に上記ハンドルが上記グリップと反対側に回動すると、上記スライド軸が上記後退位置へと後退し上記アリが上記離脱溝内に入って上記スライド軸の上記ガイド軸からの離反を可能にすることを特徴とする外科用処置具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−46114(P2010−46114A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210439(P2008−210439)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】